説明

車両、その制御装置および車両の異常検出方法

【課題】車速検出系の異常の早期検出を可能にする。
【解決手段】自動二輪車1は、駆動輪としての後輪3と、回転力を発生させる駆動源としてのエンジン10と、無段変速装置20と、車速検出系42と、ECU7と、を備えている。無段変速装置20は、入力軸21dと、出力軸22dと、を有する。入力軸21dは、エンジン10に接続されている。出力軸22dは、後輪3に接続されている。無段変速装置20では、入力軸21dと出力軸22dとの間の変速比が電子的に制御される。車速検出系42は、車速信号を出力する。ECU7は、エンジン10の回転速度、入力軸21dの回転速度および出力軸22dの回転速度のうちの少なくともひとつと、車速検出系42から出力される車速信号と、に基づいて、車速検出系42の異常を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、その制御装置および車両の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車速センサの異常を検出する方法として、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、スロットル開度と、車速センサにより検出される車速とによって車速センサの異常を検出する方法が開示されている。
【0003】
具体的に、特許文献1に記載の車速センサの異常検出方法では、図8に示すように、まず、ステップ101において、エンジンの回転速度センサやスロットル開度センサが正常であるかどうかが確認される。スロットル開度センサ等が正常であると判断された場合、ステップ102に進み、シフトレバーが走行レンジに入ったかどうか、およびスロットル開度が一定の開度以上であるかどうかが判断される。シフトレバーが走行レンジに入り、スロットル開度が一定の開度以上であると判断された場合、ステップ103に進み、車速センサにより検出される車速が0km/hであるかどうかが判断される。車速センサにより検出される車速が0km/hである場合は、ステップ104に進み、エンジンの回転速度が所定の降下率で低下したかどうかが判断される。そして、エンジン回転速度が所定の降下率で低下していると判断された場合は、ステップ105に進み、スロットル開度が一定であるか否かが判断される。その結果、スロットル開度が一定であると判断された場合は、車速センサおよび車速センサに接続された配線の故障と判定される。
【0004】
上記方法によれば、車速検出系の故障を的確に判定できる、と特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平10−18896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、以前より、電子制御式の無段変速装置(以下、「ECVT(Electronically-controlled Continuously Variable Transmission)」とする。)を搭載した車両が知られている。ECVTを搭載した車両では、一般的に、車速とスロットル開度とに基づいて変速比が制御される。このため、車速を検出する車速検出系に異常が発生すると、好適な変速比が選択されなくなる虞がある。その結果、車両の好適な走行が困難になる虞がある。したがって、ECVTを搭載した車両においては、車速検出系の異常を早期に検出する必要性が高い。
【0006】
しかしながら、図8に示す特許文献1に記載の異常検出方法では、スロットル開度が一定の開度以上でなければ車速検出系の異常が検出されない。このため、車速検出系の異常を十分に早期に検出することができない。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ECVTを搭載した車両において、車速検出系の異常を早期に検出可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第1の車両は、駆動輪と、回転力を発生させる駆動源と、無段変速装置と、車速検出系と、制御部と、を備えている。無段変速装置は、入力軸と、出力軸と、を有する。入力軸は、駆動源に接続されている。出力軸は、駆動輪に接続されている。無段変速装置では、入力軸と出力軸との間の変速比が電子的に制御される。車速検出系は、車速信号を出力する。制御部は、駆動源の回転速度、入力軸の回転速度および出力軸の回転速度のうちの少なくともひとつと、車速検出系から出力される車速信号と、に基づいて、車速検出系の異常を検出する。
【0009】
本発明に係る第2の車両は、駆動輪と、回転力を発生させる駆動源と、無段変速装置と、車速検出系と、回転速度センサと、制御部と、を備えている。無段変速装置は、駆動源に接続された入力軸と、駆動輪に接続された出力軸と、を有する。無段変速装置では、入力軸と出力軸との間の変速比が電子的に制御される。車速検出系は、車速信号を出力する。回転速度センサは、駆動源の回転速度、入力軸の回転速度または出力軸の回転速度を検出する。制御部は、回転速度センサによって検出される回転速度が所定の回転速度以上であると共に、車速検出系から車速信号が実質的に出力されない状態が、所定の期間にわたって続いたときに車速検出系の異常を検出する。
【0010】
本発明に係る第3の車両は、駆動輪と、回転力を発生させる駆動源と、無段変速装置と、車速検出系と、回転速度センサと、制御部と、を備えている。無段変速装置は、駆動源に接続された入力軸と、駆動輪に接続された出力軸と、を有する。無段変速装置では、入力軸と出力軸との間の変速比が電子的に制御される。車速検出系は、車速を検出する。車速検出系は、検出した車速を車速信号として出力する。回転速度センサは、駆動源の回転速度、入力軸の回転速度または出力軸の回転速度を検出する。制御部は、車速を回転速度センサによって検出される回転速度で除算した値が所定値以下である状態が、所定の期間にわたって続いたときに車速検出系の異常を検出する。
【0011】
本発明に係る制御装置は、駆動輪と、回転力を発生させる駆動源と、無段変速装置と、車速信号を出力する車速検出系と、を備えた車両の制御装置である。無段変速装置は、駆動源に接続された入力軸と、駆動輪に接続された出力軸と、を有する。無段変速装置では、入力軸と出力軸との間の変速比が電子的に制御される。
【0012】
本発明に係る制御装置は、駆動源の回転速度、入力軸の回転速度および出力軸の回転速度のうちの少なくともひとつと、車速検出系から出力される車速信号と、に基づいて、車速検出系の異常を検出する。
【0013】
本発明に係る車両の異常検出方法は、駆動輪と、回転力を発生させる駆動源と、無段変速装置と、車速信号を出力する車速検出系と、を備えた車両の異常を検出する方法である。無段変速装置は、駆動源に接続された入力軸と、駆動輪に接続された出力軸と、を有する。無段変速装置では、入力軸と出力軸との間の変速比が電子的に制御される。
【0014】
本発明に係る車両の異常検出方法では、駆動源の回転速度、入力軸の回転速度および出力軸の回転速度のうちの少なくともひとつと、車速検出系から出力される車速信号と、に基づいて、車速検出系の異常を検出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車速検出系の異常を早期に検出可能なECVT搭載車両を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
《実施形態1》
<本実施形態の概要>
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来の異常検出方法では、ECVTを搭載した車両において、車速検出系の異常を十分に早期に検出することが困難であることを見出した。そして、本発明者らは、さらに鋭意研究した結果、車速検出系の異常を十分に早期に検出することが困難である原因が、スロットル開度を車速検出系の異常検出の条件としていることにあることを見出し、本実施形態をなすに至った。
【0017】
本実施形態における車速検出系の異常検出方法は、駆動源の回転速度、入力軸の回転速度および出力軸の回転速度のうちの少なくともひとつと、車速検出系から出力される車速信号と、に基づいて車速検出系の異常を検出することを特徴とする。具体的には、駆動源の回転速度、入力軸の回転速度および出力軸の回転速度のうちの少なくともひとつが所定の回転速度以上であり、かつ車速検出系から車速信号が実質的に出力されない状態が所定の期間にわたって続いたときに、車速検出系の異常が検出される。
【0018】
この方法によれば、スロットル開度にかかわらず車速検出系の異常を検出することができる。したがって、車速検出系の異常を早期に検出することができる。
【0019】
なお、本明細書において、「車速が実質的にゼロ」であるときとは、車両が実質的に静止状態にあると判断されるような車速であるときをいう。言い換えれば、「車速が実質的にゼロ」であるときとは、車両が実質的に走行状態にないと判断されるような車速であるときをいう。具体的に、「車速が実質的にゼロ」であると判断される車速の上限は、10km/h以下の速度範囲において、適宜設定することができる。例えば、「車速が実質的にゼロ」であるときを、車速検出系によって検出される車速が5km/h以下であるときと設定してもよい。また、例えば、「車速が実質的にゼロ」であるときを、車速検出系によって検出される車速が2km/h以下であるときと設定してもよい。
【0020】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について、図1に示す自動二輪車1を例に挙げて詳細に説明する。なお、本実施形態では、所謂スクータータイプの自動二輪車1を例に挙げて説明するが、本発明の車両は、所謂スクータータイプの自動二輪車に限定されない。本発明の車両は、例えば、スクータータイプ以外の自動二輪車であってもよい。具体的には、本発明の車両は、オフロードタイプ、モータサイクルタイプ、スクータータイプ、または所謂モペットタイプの自動二輪車であってもよい。また、本発明の車両は、自動二輪車以外の鞍乗型車両であってもよい。具体的には、本発明の車両は、例えば、ATV(All Terrain Vehicle)等であってもよい。さらには、本発明の車両は、四輪自動車等の鞍乗型車両以外の車両であってもよい。
【0021】
<本実施形態に係る自動二輪車1の詳細説明>
(自動二輪車1の概略構成)
図1に自動二輪車1の側面図を示す。自動二輪車1は、車体フレーム(図示せず)を備えている。車体フレームには、エンジンユニット2が懸架されている。エンジンユニット2の後端部には、後輪3が配置されている。本実施形態において、この後輪3は、エンジンユニット2の動力で駆動する駆動輪を構成している。
【0022】
車体フレームは、操向ハンドル4から下方に延びるヘッドパイプ(図示せず)を有する。ヘッドパイプの下端には、フロントフォーク5が連結されている。フロントフォーク5の下端部には、前輪6が回転自在に取り付けられている。この前輪6は、エンジンユニット2には接続されておらず、従動輪を構成している。
【0023】
車体フレームには、駆動輪としての後輪3を浮かせた状態で自動二輪車1を保持するためのセンタースタンド9が取り付けられている。
【0024】
また、自動二輪車1に着座したライダーから視認可能な位置にコーションランプ50が配置されている。具体的には、自動二輪車1のフロントパネルにコーションランプ50が配置されている。
【0025】
(エンジンユニット2の構成)
次に、図2および図3を参照しながら、エンジンユニット2の構成について説明する。
【0026】
−エンジン10の構成−
図2および図3に示すように、エンジンユニット2は、回転力を発生させるエンジン(内燃機関)10と、無段変速装置20とを備えている。本実施形態では、エンジン10は、強制空冷式の4サイクルエンジンとして説明する。しかしながら、エンジン10は、他の形式のエンジンであってもよい。例えば、エンジン10は、水冷エンジンであってもよい。エンジン10は、2サイクルエンジンであってもよい。また、エンジン10に替えて、電動モータ等の他の駆動源を用いてもよい。
【0027】
図3に示すように、エンジン10は、クランク軸11を備えている。クランク軸11の外周には、スリーブ12がスプライン係合されている。スリーブ12は、軸受13を介してハウジング14に回転自在に軸支されている。スリーブ12の外周には、モータ30に接続された一方向クラッチ31が取り付けられている。
【0028】
−無段変速装置20の構成−
無段変速装置20は、変速機構20aと、その変速機構20aを制御する制御部としてのECU7と、駆動回路8とにより構成されている。なお、本実施形態では、変速機構20aがベルト式のECVTである例について説明する。しかし、変速機構20aは、ベルト式のECVTに限定されない。変速機構20aは、例えば、トロイダル式のECVTであってもよい。
【0029】
変速機構20aは、プライマリシーブ21と、セカンダリシーブ22と、Vベルト23と、を備えている。Vベルト23は、プライマリシーブ21とセカンダリシーブ22とに巻き掛けられている。Vベルト23は、断面略V字状に形成されている。Vベルト23の種類は特に限定されず、ゴムベルト、樹脂ブロックベルト等であってもよい。
【0030】
プライマリシーブ21は、入力軸21dとしてのクランク軸11に接続されている。プライマリシーブ21は、クランク軸11と一体に回転する。プライマリシーブ21は、固定シーブ体21aと、可動シーブ体21bとを備えている。固定シーブ体21aは、クランク軸11の一端に固定されている。可動シーブ体21bは、固定シーブ体21aに対向して配置されている。可動シーブ体21bは、クランク軸11の軸方向に移動可能である。固定シーブ体21aと可動シーブ体21bとの各対向面によって、Vベルト23が巻き掛けられるベルト溝21cが形成されている。ベルト溝21cは、プライマリシーブ21の径方向外側に向かって幅広となっている。
【0031】
図3に示すように、可動シーブ体21bは、クランク軸11が貫通する円筒状のボス部21eを有している。このボス部21eの内側に、円筒状のスライダ24が固定されている。このスライダ24と一体の可動シーブ体21bは、クランク軸11の軸方向に移動可能である。このため、ベルト溝21cの溝幅は可変である。
【0032】
プライマリシーブ21のベルト溝21cの溝幅は、モータ30によって、可動シーブ体21bがクランク軸11の軸方向に駆動されることによって変更される。すなわち、無段変速装置20は、変速比が電子的に制御されるECVTである。なお、本実施形態では、モータ30を、パルス幅変調駆動(PWM(Pulse Width Modulation)駆動)されるものとする。ただし、モータ30の駆動方式は、特に限定されるものではない。例えば、モータ30は、パルス振幅変調(pulse-amplitude modulation)駆動されるものであってもよい。また、モータ30は、ステップモータ等であってもよい。
【0033】
セカンダリシーブ22は、プライマリシーブ21の後方に配置されている。セカンダリシーブ22は、従動軸27に対して、遠心クラッチ25を介して取り付けられている。詳細に、セカンダリシーブ22は、固定シーブ体22aと、可動シーブ体22bとを備えている。可動シーブ体22bは、固定シーブ体22aと対向している。固定シーブ体22aは筒状部22a1を備えている。本実施形態では、この筒状部22a1が無段変速装置20の出力軸22dを構成している。固定シーブ体22aは、従動軸27に遠心クラッチ25を介して連結されている。可動シーブ体22bは、従動軸27の軸方向に移動可能である。これら固定シーブ体22aと可動シーブ体22bとの各対向面によって、Vベルト23が巻き掛けられるベルト溝22cが形成されている。ベルト溝22cは、セカンダリシーブ22の径方向外側に向かって幅広となっている。
【0034】
可動シーブ体22bは、スプリング26によって、ベルト溝22cの溝幅を減じる方向に付勢されている。このことから、モータ30が駆動され、プライマリシーブ21のベルト溝21cの溝幅が小さくなり、プライマリシーブ21に対するVベルト23の巻き掛け径が大きくなると、セカンダリシーブ22側においては、Vベルト23が径方向内側に引かれる。このため、可動シーブ体22bがスプリング26の付勢力に抗してベルト溝22cを広げる方向に移動する。このため、セカンダリシーブ22に対するVベルト23の巻き掛け径が小さくなる。その結果、変速機構20aの変速比が変わる。
【0035】
遠心クラッチ25は、固定シーブ体22aに含まれる出力軸22dとしての筒状部22a1の回転速度に応じて断続される。すなわち、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度未満である場合は、遠心クラッチ25がつながっていない。このため、固定シーブ体22aの回転は従動軸27に伝達しない。一方、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度以上である場合は、遠心クラッチ25がつながる。このため、固定シーブ体22aの回転が従動軸27に伝達する。
【0036】
−遠心クラッチ25の構成−
図3に示すように、遠心クラッチ25は、遠心プレート25aと、遠心ウエイト25bと、クラッチハウジング25cと、を備えている。遠心プレート25aは、固定シーブ体22aと一体に回転する。つまり、遠心プレート25aは、出力軸22dと共に回転する。遠心ウエイト25bは、遠心プレート25aに、遠心プレート25aの径方向に変位可能に支持されている。クラッチハウジング25cは、従動軸27の一端に固定されている。従動軸27には、減速機構28が連結されている。従動軸27は、この減速機構28を介して車軸29に連結されている。車軸29には、後輪3が取り付けられている。このように、クラッチハウジング25cは、従動軸27、減速機構28および車軸29を介して駆動輪としての後輪3に接続されている。
【0037】
クラッチハウジング25cは、出力軸22dの回転速度に応じて遠心プレート25aと係脱する。具体的には、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度以上になると、遠心力により遠心ウエイト25bが遠心プレート25aの径方向外側に移動して、クラッチハウジング25cに接触する。これにより、遠心プレート25aとクラッチハウジング25cとが係合する。遠心プレート25aとクラッチハウジング25cとが係合すると、出力軸22dの回転は、クラッチハウジング25c、従動軸27、減速機構28および車軸29を介して駆動輪としての後輪3に伝達される。一方、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度未満となると、遠心ウエイト25bに加わる遠心力が低下し、遠心ウエイト25bがクラッチハウジング25cから離れる。よって、出力軸22dの回転は、クラッチハウジング25cに伝達されない。その結果、後輪3は回転しない。
【0038】
(自動二輪車1の制御システム)
次に、自動二輪車1の制御システムについて、図4を参照しながら詳細に説明する。
【0039】
−自動二輪車1の制御システムの概略−
図4に示すように、ECU7には、シーブ位置センサ40が接続されている。シーブ位置センサ40は、固定シーブ体21aに対する、プライマリシーブ21の可動シーブ体21bの位置を検出する。言い換えれば、クランク軸11の軸方向において、固定シーブ体21aと可動シーブ体21bとの間の距離(l)を検出する。シーブ位置センサ40は、検出された距離(l)をシーブ位置検出信号としてECU7に出力する。なお、シーブ位置センサ40は、例えば、ポテンショメータ等によって構成することができる。
【0040】
また、ECU7には、プライマリシーブ回転センサ43と、セカンダリシーブ回転センサ41と、車速センサ42aとが接続されている。プライマリシーブ回転センサ43は、プライマリシーブ21の回転速度を検出し、ECU7に出力する。本実施形態では、プライマリシーブ21の回転速度は、無段変速装置20の入力軸21dの回転速度と等しい。また、プライマリシーブ21の回転速度は、駆動源としてのエンジン10の回転速度とも等しい。したがって、本実施形態では、プライマリシーブ回転センサ43によって、エンジン10の回転速度と入力軸21dの回転速度とも検出される。
【0041】
セカンダリシーブ回転センサ41は、セカンダリシーブ22の回転速度を検出する。セカンダリシーブ回転センサ41は、検出したセカンダリシーブ22の回転速度を、シーブ回転速度信号としてECU7に出力する。なお、本実施形態では、セカンダリシーブ22の回転速度は、出力軸22dの回転速度と等しい。よって、本実施形態では、出力軸22dの回転速度は、セカンダリシーブ回転センサ41によって検出される。
【0042】
車速センサ42aは、後輪3の回転速度を検出する。車速センサ42aは、検出した回転速度に基づいて車速信号をECU7に出力する。本実施形態では、この車速センサ42aおよび車速センサ42aとECU7とを接続する配線等により車速検出系42が構成されている。
【0043】
ECU7には、操向ハンドル4に取り付けられたハンドルスイッチに接続されている。ハンドルスイッチは、ハンドルスイッチがライダーにより操作された際に、ハンドルSW信号を出力する。
【0044】
また、上述のように、スロットル開度センサ18aは、スロットル開度信号をECU7に対して出力する。
【0045】
−変速機構20aの制御−
ECU7は、車速信号等に基づいてプライマリシーブ21の可動シーブ体21bのシーブ位置をフィードバック制御する。言い換えれば、ECU7は、車速信号等に基づいて距離(l)をフィードバック制御する。
【0046】
具体的には、図5に示すように、ECU7において、スロットル開度と車速とから目標変速比が決定される。ECU7は、決定された目標変速比からシーブ目標位置を算出する。すなわち、ECU7は、決定された目標変速比から可動シーブ体21bと固定シーブ体21aとの間の目標距離lを算出する。ECU7は、このシーブ目標位置に可動シーブ体21bを変位させるために、現在の可動シーブ体21bの位置とシーブ目標位置とに応じたパルス幅変調信号(PWM(Pulse-Width Modulation)信号)を、駆動回路8に対して出力する。駆動回路8は、そのパルス幅変調信号に応じたパルス電圧をモータ30に対して印加する。これにより可動シーブ体21bが駆動され、変速比が調節される。
【0047】
−車速検出系42の異常判断−
次に、図6を参照しながら本実施形態における車速検出系42の異常判断方法について説明する。図6に示すように、本実施形態では、出力軸22dの回転速度と、車速検出系42から出力される車速信号とに基づいて車速検出系42の異常の検出が行われる。具体的には、セカンダリシーブ回転センサ41によって検出される出力軸22dの回転速度と、車速検出系42から出力される車速信号とに基づいて車速検出系42の異常の検出が行われる。
【0048】
より具体的には、ステップS1において、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度R以上であり、かつ車速検出系42から出力される車速信号が所定の速度r以下である状態が所定期間以上続くか否かが判断される。言い換えれば、出力軸22dがある程度以上の速度で回転しており、車速信号が出力されるはずであるにもかかわらず車速検出系42から車速が実質的に出力されない状態が所定期間以上続くか否かが判断される。
【0049】
そして、ステップS1において、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度R以上であり、かつ車速検出系42から出力される車速信号が所定の速度r以下である状態が所定期間以上続いたと判断された場合は、ステップS2において、車速検出系42に異常があるものと判断され、コーションランプ50が点灯される。
【0050】
以上の通り、ステップS1において、「出力軸22dの回転速度が所定の回転速度R以上」という条件は、出力軸22dの回転速度が車速検出系42に異常がなければ車速信号が出力されるような回転速度以上であるか否かを判断するための条件である。所定の回転速度Rは、自動二輪車1の車種等に応じて適宜設定することができる。本実施形態の場合は、出力軸22dと駆動輪としての後輪3との間に遠心クラッチ25が配置されているため、所定の回転速度Rは、遠心クラッチ25がつながるような回転速度以上に設定することが好ましい。
【0051】
一方、所定の速度rは、車速検出系42から実質的に車速が出力されないと判断されるような速度である。言い換えれば、自動二輪車1が実質的に停止状態にあると判断されるような車速である。所定の速度rは、例えば、時速1〜5kmとすることができる。
【0052】
ステップS1を判断する「所定期間」は、自動二輪車1の種類等に応じて適宜設定することができる。ステップS1を判断する「所定期間」は、例えば、1〜10秒程度に設定することができる。
【0053】
ステップS2に続いて、ステップS3が行われる。具体的に、ステップS3では、車速検出系42により検出される車速が所定の車速r以上である期間が所定期間以上続くか否かが判断される。言い換えると、車速検出系42から車速信号が出力されるようになったか否かが判断される。ステップS3において、車速検出系42により検出される車速が所定の車速r以上である期間が所定期間以上続いたと判断された場合は、車速検出系42が正常になったものとして、ステップS4に進み、コーションランプ50が消灯される。一方、ステップS3において、車速検出系42により検出される車速が所定の車速r以上である期間が所定期間以上続かなかったと判断された場合は、車速検出系42が依然として異常であるとして、ステップS3に再び戻る。
【0054】
なお、ステップS3における所定の速度rは、車速検出系42から車速信号が出力されていると判断できるような値である。所定の速度rは、ステップS1における所定の速度rと実質的に等しくてもよいが、異なっていてもよい。また、ステップS3を判断する所定の期間は、ステップS1を判断する所定の期間と同様に、自動二輪車1の車種等に応じて適宜設定することができる。例えば、ステップS3を判断する「所定期間」は、例えば、1〜10秒程度に設定することができる。
【0055】
ステップS1において、出力軸22dの回転速度が所定の回転速度R以上であり、かつ車速検出系42から出力される車速信号が所定の速度r以下である状態が所定期間以上続いたと判断されなかった場合は、車速検出系42は正常であるとして、ステップS11に進む。
【0056】
ステップS11では、スロットル開度が所定の開度Th以上であり、かつ車速検出系42により検出される車速が所定の速度r以下である状態が所定の期間以上続くか否かが判断される。詳細には、ステップS11では、スロットル開度が所定の開度Th以上であり、車速が所定の速度rより大きくなるはずであるにもかかわらず、車速検出系42により検出される車速が所定の速度r以下である状態が所定の期間以上続くか否かが判断される。つまり、ステップS11では、何らかの原因で、遠心クラッチ25がスリップしており、エンジン10の動力が駆動輪としての後輪3に伝達されていない状態にあるか否かが判断される。ステップS11において、遠心クラッチ25がスリップ状態にあると判断された場合は、ステップS12に進み、全ストールリミット制御が行われる。一方、ステップS11において、遠心クラッチ25がスリップ状態ではないと判断された場合は、ステップS1に戻る。
【0057】
ここで、「全ストールリミット制御」とは、例えば、ライダーによりスロットルが開けられているにもかかわらず、後輪3に対してブレーキがかけられているような状態で、遠心クラッチ25がスリップ状態にあり続けることを抑制する制御である。特に、遠心クラッチ25の遠心ウエイト25bとクラッチハウジング25cとが強い摩擦力で摺動し、遠心ウエイト25bとクラッチハウジング25cとが摩耗することを抑制するための制御である。
【0058】
なお、ステップS11における所定の速度rは、上記ステップS1の所定の速度rと同じである。所定の開度Thは、自動二輪車1の車種に応じて適宜設定することができる。ステップS11を判断する所定の期間も、ステップS1を判断する所定の期間と同様に、自動二輪車1の車種等に応じて適宜設定することができる。例えば、ステップS11を判断する「所定期間」は、例えば、1〜10秒程度に設定することができる。
【0059】
具体的に、ステップS12では、まず、ステップS12aにおいて、エンジン10の出力を低下させる。例えば、エンジン10を停止させてもよい。エンジン10の出力を低下させる方法は、特に限定されない。例えば、エンジン10に供給する燃料の量を低減したり、エンジン10の点火時期を遅角させたりすることでエンジン10の出力を低下させることができる。
【0060】
ステップS12aに続いて、ステップS12bが行われる。具体的には、ステップS12bにおいて、スロットル開度がTh以下または車速が所定の車速rより大きい状態が所定の期間以上続くか否かが判断される。そして、ステップS12bにおいて、スロットル開度がTh以下または車速が所定の車速rより大きい状態が所定の期間以上続かなかったと判断されれば、ステップS12bに再び戻る。すなわち、ステップS12により、スロットル開度が所定の開度Th以下になるか、車速が所定の車速rより大きくなるまでエンジン10の出力を低下させた状態が続けられる。言い換えれば、遠心クラッチ25がスリップ状態から脱するまで、エンジン10の出力を低下させた状態が続けられる。そして、ステップS12bにおいて、スロットル開度がTh以下または車速が所定の車速rより大きい状態が所定の期間以上続いたと判断された場合は、ステップS12cに進み、エンジン10の出力が、ステップS12aのエンジン10の出力低下前にまで回復される。
【0061】
なお、ステップS12bにおける所定の開度Thは、ステップS11における所定の開度Thと等しくてもよいが、異なっていてもよい。また、ステップS12bにおける所定の速度rは、ステップS1における所定の速度rと等しくてもよいが、異なっていてもよい。ステップS12bを判断する所定の期間は、ステップS1を判断する所定の期間と同様に、自動二輪車1の車種等に応じて適宜設定することができる。例えば、ステップS12bを判断する「所定期間」は、例えば、1〜10秒程度に設定することができる。
【0062】
<作用および効果>
以上説明したように、本実施形態における車速検出系42の異常検出方法では、スロットル開度やエンジン10の回転速度の変化率が車速検出系42の異常検出の条件に含まれていない。具体的に、本実施形態では、セカンダリシーブ回転センサ41により検出される出力軸22dの回転速度(=セカンダリシーブ22の回転速度)が所定の回転速度R以上であり、かつ車速検出系42により検出される車速が所定の速度r以下である状態が所定の期間以上続くときに車速検出系42の異常が検出される。言い換えれば、セカンダリシーブ回転センサ41により検出される出力軸22dの回転速度が所定の回転速度R以上であり、かつ車速検出系42から車速が実質的に出力されない状態が所定の期間以上続くときに車速検出系42の異常が検出される。このため、車速検出系42の異常を比較的早期に検出することができる。
【0063】
本実施形態では、駆動輪としての後輪3の回転速度から車速を検出している。このため、例えば、従動輪としての前輪6の回転速度から車速を検出する場合よりも、正確に車速を検出することができる。このため、無段変速装置20のより的確な制御が可能となる。
【0064】
また、駆動輪としての後輪3の回転速度から車速を検出するようにすることで、例えば、センタースタンド9を使用した状態においても、車速検出系42の異常検出が可能となる。例えば、センタースタンド9を使用しているときは常に前輪6が回転しないので、従動輪としての前輪6に対して車速センサ42aが取り付けられている場合は、車速検出系42の異常を検出することができない。それに対して、後輪3は、センタースタンド9を使用しているときでも、エンジン10の回転速度に応じて回転するため、車速検出系42の異常検出が可能となる。
【0065】
無段変速装置20では、入力軸21dの回転速度にかかわらず変速比を変更することができる。このため、エンジン10の回転速度や入力軸21dの回転速度が高いときでも、出力軸22dの回転速度が遠心クラッチ25がつながるほどは高くないことがあり得る。このような場合、エンジン10の回転速度や入力軸21dの回転速度によって車速検出系42の異常を検出したのでは、車速検出系42に異常がないにもかかわらず、遠心クラッチ25がつながっていないために車速検出系42の異常が検出されてしまう可能性がある。エンジン10の回転速度や入力軸21dの回転速度と共に、無段変速装置20の変速比をモニタすることにより車速検出系42の異常の誤検出を防止することも考えられるが、それでは制御に必要なセンサの数量が多くなる。また、制御が複雑になる。その結果、コストが上昇する。
【0066】
それに対して、本実施形態では、ステップS1における車速検出系42の異常検出の条件として、遠心クラッチ25の断続を決める出力軸22dの回転速度が回転速度R以上であることが定められている。そして、回転速度Rは、遠心クラッチ25がつながるときの回転速度以上に設定されている。このため、遠心クラッチ25がつながっておらず、後輪3が実質的に駆動されないときには車速検出系42の異常が検出されないようになっている。よって、遠心クラッチ25がつながってないことのみによって車速検出系42の異常が誤検出されることがない。その結果、より的確に車速検出系42の異常を検出することができる。
【0067】
つまり、エンジン10の回転速度や、入力軸21dの回転速度に基づいて車速検出系42の異常を検出する場合は、車速検出系42の異常検出に際して、無段変速装置20の変速比を考慮する必要がある。しかし、出力軸22dの回転速度に基づいて車速検出系42の異常を検出する場合は、車速検出系42の異常検出に際して、無段変速装置20の変速比を考慮せずとも、的確に車速検出系42の異常を検出することができる。
【0068】
なお、車速検出系42の異常の誤検出を抑制する観点からは、回転速度Rが遠心クラッチ25がつながるときの回転速度以上であれば、特にどのような値であってもよい。しかし、車速検出系42の異常を確実且つ早期に検出するという観点からは、回転速度Rが遠心クラッチ25がつながるときの回転速度と等しいことが好ましい。そうすることで、遠心クラッチ25がつながる回転速度にまで出力軸22dの回転速度が達すれば、すぐに車速検出系42の異常検出が可能になる。
【0069】
本実施形態では、車速検出系42の異常が検出されると、コーションランプ50が点灯する。このため、ライダーに対して車速検出系42の異常を早期に報知することができる。例えば、ライダーがより気づきやすくするために、コーションランプ50を点滅させるようにしてもよい。
【0070】
ところで、車速検出系42の異常には、車速センサ42aとECU7とを接続する配線の接触不良等、一時的な異常も考えられる。ここで、本実施形態では、車速検出系42の異常が検出された後に、ステップS3において、車速検出系42が正常状態に回復したと判断されると、コーションランプ50が消灯する。このため、車速検出系42が一時的な異常状態から正常状態に回復すると、遅滞なくライダーにその旨が報知される。
【0071】
本実施形態では、ステップS1において、車速検出系42が正常であると判断された後に、ステップS11に規定の所定の条件を満たせば、ステップS12において、全ストールリミット制御が行われる。このため、遠心クラッチ25の摩耗が抑制される。具体的には、クラッチハウジング25cと遠心ウエイト25bとが相互に摺動することによる、クラッチハウジング25cと遠心ウエイト25bとの摩耗が抑制される。その結果、遠心ウエイト25bの寿命を長くすることができる。
【0072】
また、本実施形態では、ステップS12の全ストールリミット制御は、ステップS1において、車速検出系42が正常であると判断された後に行われる。このため、好適な全ストールリミット制御が行われる。
【0073】
また、ステップS12bおよびステップS12cにより、遠心クラッチ25がスリップ状態から脱した際には、エンジン10の出力が回復され、通常通りの走行が可能となる。
【0074】
例えば、ステップS1を行わずに、ステップS11によって、遠心クラッチ25のスリップの検出と共に、車速検出系42の異常を検出することも考えられる。すなわち、ステップS1を行わず、ステップS11において、スロットル開度が所定の開度Th以上であり、車速検出系42により検出される車速が所定の車速r以下であると判断される場合に、遠心クラッチ25のスリップの検出と共に、車速検出系42の異常を検出するようにすることも考えられる。しかしながら、この場合は、遠心クラッチ25のスリップと、車速検出系42の異常とが同時に検出されてしまうため、ライダーには、エンジン10の出力が低下した原因が車速検出系42の異常にあるのか、遠心クラッチ25のスリップにあるのかが明確に分からない。
【0075】
それに対して、本実施形態では、まずステップS1において車速検出系42の異常が判断された後に、ステップS11が行われる。すなわち、遠心クラッチ25のスリップと、車速検出系42の異常とが別工程で検出される。このため、ライダーは、車速検出系42の異常を確実に判断することができる。
【0076】
《実施形態2》
図7は、実施形態2に係る自動二輪車の制御システムを表すブロック図である。実施形態2においても、変速装置260はベルト式のECVTである。ただし、実施形態2に係る変速装置260のベルトは、いわゆる金属ベルト264である。
【0077】
実施形態1では、ECVTのアクチュエータは、電動機30であった。しかし、ECVTのアクチュエータは電動機30に限定されるわけではない。以下に説明する実施形態2では、ECVTのアクチュエータは油圧アクチュエータである。
【0078】
また、実施形態1では、クラッチは、変速装置20の出力軸22dと後輪(すなわち駆動輪)3との間に配置され、出力軸22dの回転速度に応じて機械的に断続される遠心クラッチ25であった。しかし、実施形態2に係るクラッチは、エンジン10と変速装置260の入力軸271との間に配置され、エンジン10の回転速度に応じて断続制御されるクラッチである。具体的には、実施形態2では、クラッチとして、電子制御される多板式摩擦クラッチ265が用いられている。
【0079】
図7に示すように、実施形態2に係る自動二輪車は、電子制御される多板式摩擦クラッチ265と、ECVTからなる変速装置260とを備えている。変速装置260は、プライマリシーブ262と、セカンダリシーブ263と、プライマリシーブ262とセカンダリシーブ263とに巻き掛けられた金属ベルト264とを備えている。プライマリシーブ262は、固定シーブ体262Aと可動シーブ体262Bとから構成されている。セカンダリシーブ263は、固定シーブ体263Aと可動シーブ体263Bとから構成されている。
【0080】
プライマリシーブ262には、プライマリシーブ回転数センサ43が設けられている。セカンダリシーブ263には、セカンダリシーブ回転数センサ41が設けられている。
【0081】
自動二輪車は、油圧アクチュエータとして、油圧シリンダ267Aと、油圧シリンダ267Bと、油圧シリンダ267A,267Bに接続された油圧制御弁267Cとを備えている。油圧シリンダ267Aは、プライマリシーブ262の可動シーブ体262Bを駆動することにより、プライマリシーブ262の溝幅を調整する。油圧シリンダ267Bは、セカンダリシーブ263の可動シーブ体263Bを駆動することにより、セカンダリシーブ263の溝幅を調整する。油圧制御弁267Cは、油圧シリンダ267A,267Bに付与する油圧を調整する弁である。油圧制御弁267Cは、両油圧シリンダ267A,267Bのうち、いずれか一方の油圧を高くするときには、他方の油圧が低くなるように制御を行う。この油圧制御弁267Cは、ECU7によって制御される。
【0082】
多板式摩擦クラッチ265は、エンジン10と変速装置260の入力軸271との間に設けられており、エンジン10の回転速度(以下、エンジン回転速度という)に応じて断続制御される。例えば、多板式摩擦クラッチ265は、エンジン回転速度が所定値以上になると接続され、逆に、エンジン回転速度が所定値未満になると切断されるように制御される。
【0083】
実施形態2においても、実施形態1と同様の制御が行われる。また、実施形態2においても、実施形態1とほぼ同様の異常判断が行われる。実施形態1では、車速検出系42の異常判断において、出力軸22dの所定の回転速度R(図6のステップS1参照)は、例えば、遠心クラッチ25がつながるような回転速度以上に設定されていた。同様に、実施形態2では、上記所定回転速度Rを、クラッチ265がつながるような回転速度以上に設定することが好ましい。また、実施形態2においても、ステップS11においてクラッチ265がスリップ状態にあるか否かを判断し、スリップ状態にある場合にはステップS12に進み、全ストールリミット制御を行うことが好ましい。
【0084】
実施形態2においても、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0085】
《その他の変形例》
本発明の車両は、所謂スクータータイプの自動二輪車に限定されない。本発明の車両は、例えば、スクータータイプ以外の自動二輪車であってもよい。具体的には、本発明の車両は、オフロードタイプ、モータサイクルタイプ、スクータータイプ、または所謂モペットタイプの自動二輪車であってもよい。また、本発明の車両は、自動二輪車以外の鞍乗型車両であってもよい。具体的には、本発明の車両は、例えば、ATV(All Terrain Vehicle)等であってもよい。さらには、本発明の車両は、四輪自動車等の鞍乗型車両以外の車両であってもよい。
【0086】
変速機構20aは、ベルト式のECVTに限定されない。変速機構20aは、例えば、トロイダル式のECVTであってもよい。また、変速機構20aは、ECVT以外の電子制御式の変速機構であってもよい。
【0087】
無段変速装置20の入力軸21dは、上記実施形態1のように駆動源としてのエンジン10に直接接続されていてもよい。また、無段変速装置20の入力軸21dは、他の部材を介してエンジン10に間接的に接続されていてもよい。
【0088】
無段変速装置20の出力軸22dは、上記実施形態1のように、従動軸27、減速機構28および車軸29等を介して、駆動輪としての後輪3に間接的に接続されていてもよい。また、無段変速装置20の出力軸22dは、駆動輪としての後輪3に直接接続されていてもよい。
【0089】
上記実施形態では、セカンダリシーブ回転センサ41によって検出されるセカンダリシーブ22の回転速度と、車速検出系42から出力される車速信号とに基づいて車速検出系42の異常の検出が行われる例について説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、セカンダリシーブ22の回転速度の替わりに、エンジン10の回転速度や入力軸の回転速度を車速検出系42の異常検出の判断基準として用いてもよい。また、エンジン10の回転速度、入力軸の回転速度および出力軸の回転速度のうちの2つ以上を車速検出系42の異常検出の判断基準として用いてもよい。また、例えば、エンジン10の回転速度や入力軸の回転速度に変速比を乗じることにより出力軸の回転速度を算出するようにしてもよい。
【0090】
また、上記実施形態1では、ステップS1において、セカンダリシーブ22の回転速度が所定の回転速度R以上であり、かつ車速がr以下である状態が所定期間以上続くか否かが判断される例について説明した。ただし、上記条件に替えて、エンジン10の回転速度、入力軸21dの回転速度および出力軸22dの回転速度のうちのいずれかを車速で除算して得られる値が所定値以下であるという条件を採用してもよい。具体的には、セカンダリシーブ22の回転速度を車速で除算して得られる値が所定値以下であるという条件を採用してもよい。
【0091】
上記実施形態では、車速検出系42の異常が検出されると、コーションランプ50が点灯する例について説明したが、車速検出系42の異常が検出された場合に、コーションランプ50を点滅させるようにしてもよい。
【0092】
本発明において、駆動源は、エンジンに限定されない。駆動源は、例えば、電動モータであってもよい。
【0093】
上記実施形態では、ステップS12aにおけるエンジン10の出力低下後、ステップS12cにおいて、エンジン10の出力を回復させるようにしているが、ステップS12aにおいて、エンジン10を停止させ、ステップS12bおよびS12cを行わないようにしてもよい。
【0094】
上記実施形態では、ステップS11およびS12bにおいて、スロットル開度および車速で遠心クラッチ25のスリップ状態を検出する構成としたが、例えば、スロットル開度が所定の開度Th以上という条件に替えて、エンジン10に対する燃料供給量が所定の供給量以上であるという条件を設定してもよい。また、スロットル開度が所定の開度Th以上という条件に替えて、エンジン10の点火時期が所定の点火時期よりも進角であるという条件に替えてもよい。
【0095】
遠心クラッチ25に替えて、エンジン10の回転速度の検出値に応じてアクチュエータ等により断続が調整されるクラッチを配置してもよい。
【0096】
《本明細書における用語等の定義》
「車速が実質的にゼロ」であるときとは、車両が実質的に静止状態にあると判断されるような車速であるときをいう。言い換えれば、「車速が実質的にゼロ」であるときとは、車両が実質的に走行状態にないと判断されるような車速であるときをいう。具体的に、「車速が実質的にゼロ」であると判断される車速の上限は、10km/h以下の速度範囲において、適宜設定することができる。例えば、「車速が実質的にゼロ」であるときを、車速検出系によって検出される車速が5km/h以下であるときと設定してもよい。また、例えば、「車速が実質的にゼロ」であるときを、車速検出系によって検出される車速が2km/h以下であるときと設定してもよい。
【0097】
「接続された」とは、直接接続された場合と、他の部材等を介して間接的に接続された場合との両方を含む。
【0098】
「車速検出系」とは、車速を検出するための機構全体を指す。具体的に、上記実施形態では、「車速検出系」は、車速を検出する車速センサ42aと、ECU7と、車速センサ42aとECU7とを接続する配線(図示せず)等により構成されている。
【0099】
「エンジンの出力を低下させる」とは、エンジンを停止させることも含む。
【0100】
「遠心クラッチのスリップ状態」とは、断続される2つのクラッチ部材が摺動している状態をいう。具体的には、上記実施形態では、クラッチハウジング25cと遠心ウエイト25bとが摺動している状態をいう。
【0101】
「遠心クラッチがつながっている」状態は、本発明を適用する車両に応じて、半クラッチ状態を含めてもよいし、半クラッチ状態を含めないようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、ECVTを搭載した車両に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明を実施した自動二輪車の側面図である。
【図2】エンジンユニットの断面図である。
【図3】ECVTの構成を表す部分断面図である。
【図4】自動二輪車の制御システムを表すブロック図である。
【図5】シーブ位置制御を表すブロック図である。
【図6】車速検出系の異常判断方法および全ストールリミット制御を表すフローチャートである。
【図7】実施形態2に係る制御システムを表すブロック図である。
【図8】特許文献1に記載の車速センサの異常検出方法を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0104】
1 自動二輪車
2 エンジンユニット
3 後輪(駆動輪)
7 ECU(制御部)
9 センタースタンド
10 エンジン
11 クランク軸
18a スロットル開度センサ
20 無段変速装置
21 プライマリシーブ
21d 入力軸
22 セカンダリシーブ
22d 出力軸
23 Vベルト
25 遠心クラッチ
40 シーブ位置センサ
41 セカンダリシーブ回転センサ
42 車速検出系
42a 車速センサ
43 プライマリシーブ回転センサ
50 コーションランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪と、
回転力を発生させる駆動源と、
前記駆動源に接続された入力軸と、前記駆動輪に接続された出力軸と、を有し、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比が電子的に制御される無段変速装置と、
車速信号を出力する車速検出系と、
前記駆動源の回転速度、前記入力軸の回転速度および前記出力軸の回転速度のうちの少なくともひとつと、前記車速検出系から出力される車速信号と、に基づいて、前記車速検出系の異常を検出する制御部と、
を備えた車両。
【請求項2】
駆動輪と、
回転力を発生させる駆動源と、
前記駆動源に接続された入力軸と、前記駆動輪に接続された出力軸と、を有し、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比が電子的に制御される無段変速装置と、
車速信号を出力する車速検出系と、
前記駆動源の回転速度、前記入力軸の回転速度または前記出力軸の回転速度を検出する回転速度センサと、
前記回転速度センサによって検出される回転速度が所定の回転速度以上であると共に、前記車速検出系から車速信号が実質的に出力されない状態が、所定の期間にわたって続いたときに前記車速検出系の異常を検出する制御部と、
を備えた車両。
【請求項3】
駆動輪と、
回転力を発生させる駆動源と、
前記駆動源に接続された入力軸と、前記駆動輪に接続された出力軸と、を有し、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比が電子的に制御される無段変速装置と、
車速を検出し、前記車速を車速信号として出力する車速検出系と、
前記駆動源の回転速度、前記入力軸の回転速度または前記出力軸の回転速度を検出する回転速度センサと、
前記車速を前記回転速度センサによって検出される回転速度で除算した値が所定値以下である状態が、所定の期間にわたって続いたときに前記車速検出系の異常を検出する制御部と、
を備えた車両。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された車両において、
前記車速検出系は、前記駆動輪の回転速度を検出する車速センサを有し、前記車速センサにより検出される前記駆動輪の回転速度に応じた車速信号を出力する車両。
【請求項5】
請求項4に記載された車両において、
前記駆動輪を浮かせるスタンドをさらに備えた車両。
【請求項6】
請求項2または3に記載された車両において、
前記出力軸と前記駆動輪との間に配置され、前記出力軸の回転速度に応じて断続されるクラッチをさらに備え、
前記回転速度センサは、前記出力軸の回転速度を検出し、
前記所定の回転速度は、前記クラッチがつながるときの回転速度である車両。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された車両において、
コーションランプをさらに備え、
前記制御部は、前記車速検出系の異常を検出したときに前記コーションランプを点灯または点滅させる車両。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された車両において、
前記制御部は、前記車速検出系の異常を検出した後に、前記車速検出系から出力される車速信号に基づいて、前記車速検出系が正常になったことを検出する車両。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された車両において、
前記出力軸と前記駆動輪との間に配置されたクラッチをさらに備え、
前記制御部は、前記車速検出系の異常を検出した後において、前記クラッチのスリップが検出された際に前記駆動源の出力を低下させる車両。
【請求項10】
請求項9に記載された車両において、
前記クラッチは、前記出力軸の回転速度に応じて断続され、
前記制御部は、前記出力軸の回転速度が前記クラッチがつながるときの回転速度以上であるときにのみ前記駆動源の出力を低下させる車両。
【請求項11】
請求項9に記載された車両において、
前記駆動源の出力を調整するスロットルをさらに備え、
前記制御部は、前記車速が所定の車速以下であり、前記スロットルの開度が所定の開度以上である状態が所定の期間にわたって続いたときに前記クラッチのスリップを検出する車両。
【請求項12】
請求項9に記載された車両において、
前記駆動源の出力を調整するスロットルをさらに備え、
前記制御部は、前記クラッチのスリップを検出した後に、前記スロットルの開度が所定の開度以下となるか、若しくは前記車速が前記所定の車速より大きい状態になったときに、前記駆動源の出力を回復させる車両。
【請求項13】
請求項2または3に記載された車両において、
前記駆動源と前記入力軸との間に配置され、前記駆動源の回転速度に応じて断続されるクラッチをさらに備え、
前記回転速度センサは、前記出力軸の回転速度を検出し、
前記所定の回転速度は、前記クラッチがつながるときの回転速度である車両。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された車両において、
前記駆動源と前記入力軸との間に配置されたクラッチをさらに備え、
前記制御部は、前記車速検出系の異常を検出した後において、前記クラッチのスリップが検出された際に前記駆動源の出力を低下させる車両。
【請求項15】
請求項14に記載された車両において、
前記クラッチは、前記駆動源の回転速度に応じて断続され、
前記制御部は、前記駆動源の回転速度が前記クラッチがつながるときの回転速度以上であるときにのみ前記駆動源の出力を低下させる車両。
【請求項16】
請求項14に記載された車両において、
前記駆動源の出力を調整するスロットルをさらに備え、
前記制御部は、前記車速が所定の車速以下であり、前記スロットルの開度が所定の開度以上である状態が所定の期間にわたって続いたときに前記クラッチのスリップを検出する車両。
【請求項17】
請求項14に記載された車両において、
前記駆動源の出力を調整するスロットルをさらに備え、
前記制御部は、前記クラッチのスリップを検出した後に、前記スロットルの開度が所定の開度以下となるか、若しくは前記車速が前記所定の車速より大きい状態になったときに、前記駆動源の出力を回復させる車両。
【請求項18】
駆動輪と、
回転力を発生させる駆動源と、
前記駆動源に接続された入力軸と、前記駆動輪に接続された出力軸と、を有し、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比が電子的に制御される無段変速装置と、
車速信号を出力する車速検出系と、
を備えた車両の制御装置であって、
前記駆動源の回転速度、前記入力軸の回転速度および前記出力軸の回転速度のうちの少なくともひとつと、前記車速検出系から出力される車速信号と、に基づいて、前記車速検出系の異常を検出する制御装置。
【請求項19】
駆動輪と、
回転力を発生させる駆動源と、
前記駆動源に接続された入力軸と、前記駆動輪に接続された出力軸と、を有し、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比が電子的に制御される無段変速装置と、
車速信号を出力する車速検出系と、
を備えた車両の異常検出方法であって、
前記駆動源の回転速度、前記入力軸の回転速度および前記出力軸の回転速度のうちの少なくともひとつと、前記車速検出系から出力される車速信号と、に基づいて、前記車速検出系の異常を検出する車両の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−208988(P2008−208988A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302501(P2007−302501)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】