車両の制御装置
【課題】車両の走行環境や運転指向をより的確に反映した走行特性とすることによりドライバビリティを向上させる。
【解決手段】走行している車両の状態に基づいてパラメータ(指標)を求め、前記車両に搭載されているアクチュエータの制御量をそのパラメータに基づいて決定する車両の制御装置において、前記パラメータに対する前記制御量を複数のアクチュエータ毎に予め設定しておき、前記パラメータが求められた場合にその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量を求める(ステップS31,S32,S33)とともにその制御量に基づいて各アクチュエータを制御するように構成されている。
【解決手段】走行している車両の状態に基づいてパラメータ(指標)を求め、前記車両に搭載されているアクチュエータの制御量をそのパラメータに基づいて決定する車両の制御装置において、前記パラメータに対する前記制御量を複数のアクチュエータ毎に予め設定しておき、前記パラメータが求められた場合にその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量を求める(ステップS31,S32,S33)とともにその制御量に基づいて各アクチュエータを制御するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクセル操作量に対する駆動力源の出力や変速比などとの等の相互関係である駆動力特性、あるいは操舵操作に対する車両の回頭性やコーナーでの外輪側の沈み込みあるいはバンプ・リバウンドの程度もしくはバンプ・リバウンドの生じやすさなどの懸架特性あるいはシャシー特性(以下、これらをまとめて走行特性と記すことがある。)を、運転者の嗜好や車両の走行環境などに適合させるように構成された制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両におけるアクセル操作やブレーキ操作あるいはステアリングホイールの操作などに基づく挙動の変化の程度は、それらの機構の構成や制御装置でのデータの設定などによって決まる。このような操作量やタイヤから入力される外力などに対する車体の挙動の変化の程度である走行特性は、多くの車両では、その用途や想定される使用者などを考慮して、需要者が最も受け入れやすいと思われる特性に設定されている。
【0003】
車種に応じて設定されるこのような走行特性は、あくまでも、設計上想定した条件を満たすように設定されるのに対して、実際の運転者の好み(指向)などは多様であり、また車両が実際に走行する市街地や高速道路、ワインディング路、登坂路や降坂路などの走行環境は様々である。そのため、車両に要求される特性は、運転者毎に、あるいは走行環境毎に異なっているのが実情である。従来、このようないわゆる運転指向と車両の特性との齟齬もしくは差異を可及的に少なくする技術が開発されており、その例が以下の特許文献に開示されている。
【0004】
特許文献1には、運転指向を車両の挙動制御に反映するよう構成された装置が記載されている。この特許文献1に記載された装置は、ニューロコンピュータを使用する駆動力制御装置であって、アクセルストロークおよび車速に対する加速度の関係を要求加速度モデルとして学習し、そのモデルと走りの指向を反映した第2の基準加速度モデルとの偏差、および第2の基準加速度モデルと標準的な第1の基準加速度モデルとの偏差に基づいてスロットル開度を演算するように構成されている。
【0005】
また、特許文献2には、スポーツモードスイッチと、スノーモードスイッチと、エコモードスイッチとの複数の運転モードの切替を行うスイッチを備えた車両制御装置であって、これらのスイッチで運転モードを選択した場合にその運転モードを含む制御指令信号をエンジンECUとサスペンションECUとに出力して、アクチュエータがその運転モードに応じて動作するように構成された制御装置が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、横加速度を運転者が選択することができるように構成された車両用走行制御装置が記載されており、この特許文献3に記載された装置によれば、自動変速機のスポーツモードまたはノーマルモードの設定状態に応じて横加速度を切り替えるように構成でき、あるいはサスペンション装置のスポーツモードまたはノーマルモードの設定状態に応じて横加速度を切り替えるように構成でき、そのような切替を行うことにより、ゆったりとした走行やキビキビとした走行を行うことができる、とされている。
【0007】
そして、特許文献4に記載された装置は、車両の加速度を表すデータに基づいて運転者の運転スタイルを評価し、その評価された運転スタイルに従ってサブシステムの動作状態を設定するように構成されている。そのサブシステムは、特許文献4の記載によれば、エンジン制御装置、変速機制御装置、ステアリング制御装置、ブレーキ制御装置、及び空気サスペンション制御装置などである、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−249007号公報
【特許文献2】特開2008−132876号公報
【特許文献3】特開2008−74229号公報
【特許文献4】特表2009−530166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、上述したように、車両の加速度や運転者によるスイッチ操作に基づいて、スロットルバルブの制御量やサスペンション装置の制御量あるいは変速機の制御量などを変更もしくは設定し、車両の加速性や懸架性能をその時点の加減速状態や運転者の好み(運転指向)に合致させる技術が開発されている。しかしながら、車両の加速性や回頭性あるいは乗り心地などの性能に影響を及ぼす要因は多様であり、従来では、車両の駆動力特性やシャシー特性などの走行特性に影響を及ぼすいずれかの制御特性を、加速度やスイッチ操作によって変更できるものの、所期どおりの走行特性を十分には得ることができていないのが実情である。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、運転者の運転指向あるいは走行操作の癖を走行特性により良く反映してドライバビリティを向上させることのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、走行している車両の状態に基づいてパラメータを求め、前記車両に搭載されているアクチュエータの制御量をそのパラメータに基づいて決定する車両の制御装置において、前記パラメータに対する前記制御量を複数のアクチュエータ毎に予め設定しておき、前記パラメータが求められた場合にその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量を求めるとともにその制御量に基づいて各アクチュエータを制御するように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記パラメータは、前記車両に搭載されているセンサによって検出された実測加速度もしくは前記車両に加速度を生じさせる操作機構の操作量から算出される推定加速度に基づいて求められたパラメータを含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記パラメータは、前記車両の前後方向の加速度と横方向の加速度とを合成した合成加速度に基づいて求められたパラメータを含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記複数のアクチュエータは、前記車両の駆動力源の出力を変化させる出力制御用アクチュエータと、前記車両に搭載されている変速機の変速比を変化させる変速用アクチュエータと、前記車両に搭載されている操舵機構のアクチュエータと、前記車両に搭載されているサスペンション機構における懸架用アクチュエータと、車両に搭載されている演出用アクチュエータとの少なくともいずれか二つを含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記複数のアクチュエータは、指令信号に対する動作量の関係である動作特性が予め定められており、前記制御量は、その動作特性を変更する制御量を含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記制御量は、前記アクチュエータが動作するタイミングと動作量との少なくともいずれか一方を変更するように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれかの発明において、前記単一のパラメータに基づいて求められる前記制御量を手動操作によって変更する調整機構を更に備えていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1ないし7のいずれかの発明において、前記車両の走行モードを、自動モードと、エコノミーモードもしくはスポーツモードあるいはスノーモードまたはノーマルモードとのいずれかに切り替える切替手段を更に備え、その切替手段によって前記自動モードが選択されている場合に、前記パラメータが求められるとともにその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量が求められかつその制御量に基づいて各アクチュエータが制御されるように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【発明の効果】
【0019】
この発明で対象とする車両は、動作することにより車両の挙動もしくはその挙動の変化の傾向を変更するアクチュエータを備え、走行状態に基づいてパラメータが求められると、その単一のパラメータに基づいて各アクチュエータ毎の制御量が求められる。すなわち、複数のアクチュエータが車両の走行状態に基づいて統一的に制御される。その結果、各アクチュエータが統一した走行状態に適合した動作を行い、車両の挙動もしくはその特性などの走行特性がその時点の走行状態に適したものとなり、その時点の走行状態に運転者の運転指向などが反映されていることを考慮すれば、車両の走行特性が運転者の期待もしくは予想するものとなってドライバビリティを向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係る制御装置で実行される、より具体的な制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明で対象とすることのできる車両を模式的に示す図である。
【図3】前後加速度および横加速度の検出値をタイヤ摩擦円上にプロットして示す図である。
【図4】瞬時スポーツ度に基づく指示スポーツ度の変化の一例を示す図である。
【図5】瞬時スポーツ度と指示スポーツ度との偏差の時間積分とその積分値のリセットの状況を説明するための図である。
【図6】変速特性の補正の一例として、変速線図における一つのアップシフト線とこれを高車速側および低車速側に補正した線とを示す説明図である。
【図7】ダンパー特性の補正量の一例を示す図である。
【図8】EPS特性の補正の一例を示す図である。
【図9】エンジンの出力特性の補正の一例として、アクセル開度とスロットル開度との関係を示す基本特性線とこれを補正した後の特性線とを示す図である。
【図10】走行モードを切り替えるためのシステムの一例を模式的に示すブロック図である。
【図11】サスペンション機構によるモードを切り替えるためのシステムの一例を模式的に示すブロック図である。
【図12】走行特性の補正量を微調整するためのシステムの一例を模式的に示すブロック図である。
【図13】走行特性の補正を、条件の成立を待って実行するように構成した制御例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎにこの発明をより具体的に説明する。この発明の制御装置が対象とする車両は、エンジンやモータなどの駆動力源の出力側に、有段式もしくは無段式の変速機が連結され、その変速機から出力されたトルクを駆動輪に伝達して走行し、また前輪を操舵機構によって転舵することにより旋回走行し、さらに各車輪にブレーキが配置され、そして車体をサスペンション機構によって支持した一般的な構成の車両である。この発明に係る制御装置は、エンジンや変速機による駆動力の制御内容、操舵機構による操舵の制御内容、ブレーキによる制動制御の内容、サスペンション機構による車体の支持制御の内容を、車両の走行状態に基づいて変更するように構成されている。これらエンジンや変速機あるいは上記の各機構は車両の挙動を変化させるように動作するものであるから、結局、この発明に係る制御装置は、車両の走行特性を車両の走行状態に基づいて変更するように構成されている。したがって、この発明における走行特性には、駆動力源や変速機あるいはブレーキによる駆動力特性、操舵機構による操舵特性もしくは回頭性あるいはパワーアシスト特性、サスペンション機構による懸架特性もしくはダンパー特性などが含まれ、以下の説明で「走行特性」とはこれらの特性の総称を意味することがある。
【0022】
また、この発明に係る制御装置では、走行状態からパラメータを求める。その走行状態とは、前後方向あるいは横方向の加速度、これらの加速度を合成した合成加速度、アクセル操作量、ブレーキ操作量、ステアリングホイール操作量、ヨーイングの程度、ヨーレートなどを含み、また加速度には、センサで検出された実測加速度や、アクセル操作量もしくはブレーキ操作量から算出される推定加速度が含まれる。以下に説明する具体例は、加速度から求まるパラメータを使用する例である。
【0023】
先ず、この発明で対象とする車両の一例を説明すると、この発明で対象とする車両は、運転者の操作によって加減速し、また旋回する車両であり、その典型的な例が、内燃機関やモータを駆動力源とした自動車である。その一例を図2にブロック図で示してある。ここに示す車両1は、操舵輪である二つの前輪2と、駆動輪である二つの後輪3との四輪を備えた車両であり、これらの四輪2,3のそれぞれは懸架装置4によって車体(図示せず)に取り付けられている。この懸架装置4は、一般に知られているものと同様に、スプリングとショックアブソーバー(ダンパー)とを主体として構成されており、図2にはそのショックアブソーバー5を示してある。ここに示すショックアブソーバー5は、気体や液体などの流体の流動抵抗を利用して緩衝作用を生じさせるように構成され、モータ6などのアクチュエータによってその流動抵抗を大小に変更できるように構成されている。すなわち、流動抵抗を大きくした場合には、車体が沈み込みにくく、いわゆる堅い感じとなり、車両の挙動としては、コンフォートな感じが少なくなって、スポーティ感が増大する。なお、これらのショックアブソーバー5に加圧気体を給排することによって車高の調整を行うように構成することもできる。
【0024】
前後輪2,3のそれぞれには、図示しないブレーキ装置が設けられており、運転席に配置されているブレーキペダル7を踏み込むことによりブレーキ装置が動作して前後輪2,3に制動力を与えるように構成されている。
【0025】
車両1の駆動力源は、内燃機関やモータあるいはこれらを組み合わせた機構など、従来知られている構成の駆動力源であり、図2には内燃機関(エンジン)8を搭載している例を示してあり、このエンジン8の吸気管9には、吸気量を制御するためのスロットルバルブ10が配置されている。このスロットルバルブ10は、電子スロットルバルブと称される構成のものであって、モータなどの電気的に制御されるアクチュエータ11によって開閉動作させられ、かつ開度が調整されるように構成されている。そして、このアクチュエータ11は、運転席に配置されているアクセルペダル12の踏み込み量すなわちアクセル開度に応じて動作してスロットルバルブ10を所定の開度(スロットル開度)に調整するように構成されている。
【0026】
そのアクセル開度とスロットル開度との関係は適宜に設定でき、両者の関係が一対一に近いほど、いわゆるダイレクト感が強くなって車両の走行特性は、スポーティな感じになる。これとは反対にアクセル開度に対してスロットル開度が相対的に小さくなるように特性を設定すれば、車両の走行特性はいわゆるマイルドな感じになる。なお、駆動力源としてモータを使用した場合には、スロットルバルブ10に替えてインバータあるいはコンバータなどの電流制御器を設け、アクセル開度に応じてその電流を調整するとともに、アクセル開度に対する電流値の関係すなわち走行特性を適宜に変更するように構成する。
【0027】
エンジン8の出力側に変速機13が連結されている。この変速機13は、入力回転数と出力回転数との比率すなわち変速比を適宜に変更するように構成されており、例えば従来知られている有段式の自動変速機やベルト式無段変速機あるいはトロイダル型無段変速機などの変速機である。したがって、変速機13は、図示しないアクチュエータを備え、そのアクチュエータを適宜に制御することにより変速比をステップ的(段階的)に変化させ、あるいは連続的に変化させるように構成されている。具体的には、運転者のアクセル操作に基づくアクセル開度や車速などの車両の状態に対応させて変速比を決めた変速マップを予め用意し、その変速マップに従って変速制御を実行し、あるいは車速やアクセル開度などの車両の状態に基づいて目標出力を算出し、その目標出力と最適燃費線などから目標エンジン回転数を求め、その目標エンジン回転数となるように変速制御を実行する。
【0028】
このような変速制御は燃費優先の制御や駆動力を増大させる制御を選択できるようにも構成されている。燃費を優先する制御は、アップシフトを相対的に低車速で実行する制御もしくは相対的に高速側変速比を低車速側で使用する制御であり、また駆動力もしくは加速特性を向上させる制御は、アップシフトを相対的に高車速で実行する制御もしくは相対的に低速側変速比を高車速側で使用する制御である。このような制御は、変速マップを切り替えたり、駆動要求量を補正したり、あるいは算出された変速比を補正したりして行うことができる。なお、エンジン8と変速機13との間に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータなどの伝動機構を、必要に応じて設けることができる。そして、変速機13の出力軸が終減速機であるデファレンシャルギヤ14を介して後輪(駆動輪)3に連結されている。
【0029】
前輪2を転舵する操舵機構15について説明すると、ステアリングホイール16の回転動作を左右の前輪2に伝達するステアリングリンケージ17が設けられ、またステアリングホイール16の操舵角度もしくは操舵力をアシストするアシスト機構18が設けられている。このアシスト機構18は、図示しないアクチュエータを備え、そのアクチュエータによるアシスト量を適宜調整できるように構成されている。
【0030】
なお、特には図示しないが、上記の車両1には挙動あるいは姿勢を安定化させるためのシステムとして、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)やトラクションコントロールシステム、これらのシステムを統合して制御するビークルスタビリティコントロールシステム(VSC)などが設けられている。これらのシステムは従来知られているものであって、車体速度と車輪速度との偏差に基づいて車輪2,3に掛かる制動力を低下させ、あるいは制動力を付与し、さらにはこれらと併せてエンジントルクを制御することにより、車輪2,3のロックやスリップを防止もしくは抑制して車両の挙動を安定させるように構成されている。また、走行路や走行予定路に関するデータ(すなわち走行環境)を得ることのできるナビゲーションシステムや、スポーツモードとノーマルモードおよび低燃費モード(エコモード)となどの走行モードを手動操作で選択するためのスイッチを設けてあってもよく、さらには登坂性能や加速性能あるいは回頭性などの走行特性を変化させることのできる四輪駆動機構(4WD)を備えていてもよい。
【0031】
上記のエンジン8や変速機13あるいは懸架装置4のショックアブソーバー5、前記アシスト機構18、上述した図示しない各システムなどを制御するためのデータを得る各種のセンサが設けられている。その例を挙げると、前後輪2,3の回転速度を検出する車輪速センサ19、アクセル開度センサ20、スロットル開度センサ21、エンジン回転数センサ22、変速機13の出力回転数を検出する出力回転数センサ23、操舵角センサ24、前後加速度(Gx)を検出する前後加速度センサ25、横方向(左右方向)の加速度(横加速度Gy)を検出する横加速度センサ26、ヨーレートセンサ27などが設けられている。なお、各加速度センサ25,26は、上記のアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)やビークルスタビリティコントロールシステム(VSC)などの車両挙動制御で用いられている加速度センサと共用することができ、あるいはエアバッグを搭載している車両では、その展開制御のために設けられている加速度センサと共用することができる。さらに、前後左右の加速度Gx,Gyは、水平面上で、車両の前後方向に対して所定角度(例えば45°)傾斜させて配置した加速度センサで検出した検出値を、前後加速度および横加速度に分解して得ることとしてもよい。またさらに、前後左右の加速度Gx,Gyはセンサーによって検出することに替えて、アクセル開度や車速、ロードロード、操舵角度などに基づいて演算して求めてもよい。これらのセンサ19,〜27は、電子制御装置(ECU)28に検出信号(データ)を伝送するように構成されており、また電子制御装置28はそれらのデータおよび予め記憶しているデータならびにプログラムに従って演算を行い、その演算結果を制御指令信号として上述した各システムあるいはそれらのアクチュエータに出力するように構成されている。なお、合成加速度は、車両の前後方向の加速度成分と、車幅方向(横方向)の加速度成分とを含む加速度等の複数の方向の加速度成分を含む加速度に限らず、車両前後方向のみ等、いずれか一の方向の加速度を用いてもよい。
【0032】
この発明に係る制御装置は、車両の走行状態に基づいて運転者の運転指向を車両の挙動制御(すなわち走行特性の制御)に反映させるように構成されている。ここで車両の走行状態とは、前後加速度や横加速度あるいはヨーイングやローリングの加速度、もしくはこれら複数方向の加速度を合成した加速度で表される状態である。すなわち、車両を目標とする速度で走行させたり、目標とする方向に進行させたりすることにより、あるいは路面などの走行環境の影響を受けて車両の挙動を元の状態に戻したりする場合に、複数方向の加速度が生じるのが通常であることを考慮すると、車両の走行状態は走行環境や運転指向をある程度反映していると考えられる。このような背景に基づきこの発明では、車両の走行状態に基づいて運転者の運転指向もしくは走行環境を車両の走行特性の制御に反映させるように構成されている。
【0033】
前述したように、車両の挙動には、加速性や回頭性(旋回性)、懸架装置4による支持剛性(すなわちバンプ・リバウンドの程度や生じやすさ)、ローリングやピッチングの程度などが含まれ、この発明に係る制御装置では、これらの走行特性の変更の要因の一つとして上記の走行状態を含んでいる。その場合、上記の走行状態の一例であるいずれかの方向の加速度もしくは合成加速度の値をそのまま使用して走行特性を変更してもよいが、より違和感を減らすため、それらの値を補正した指標を用いてもよい。
【0034】
その指標の一例としてスポーツ度(SPI:Sports Index)について説明する。ここで、スポーツ度とは、運転者の意図または車両の走行状態を示す指標である。この発明で採用することのできるスポーツ度は、複数方向の加速度(特にその絶対値)を合成して得られる指標であり、走行方向に対する挙動に大きく関係する加速度として前後加速度Gxと横加速度Gyとを合成した加速度がその例である。例えば、
瞬時スポーツ度Iin=(Gx2+Gy2)1/2
で算出される。ここで、加速度はセンサで検出された加速度に限らず、アクセル開度や操舵角、ブレーキ踏力もしくはブレーキペダルの踏み込み量などの運転者による操作に基づいて演算もしくは推定されたものであってもよい。また、「瞬時スポーツ度Iin」とは、車両の走行中における各瞬間毎に、各方向の加速度が求められ、その加速度に基づいて算出される指標という意味であり、いわゆる物理量である。なお、「各瞬間毎」とは、加速度の検出およびそれに基づく瞬時スポーツ度Iinの算出が所定のサイクルタイムで繰り返し実行される場合には、その繰り返しの都度を意味する。
【0035】
また、上記の演算式に用いられる前後加速度Gxのうち、加速側の加速度もしくは減速側(制動側)の加速度(すなわち減速度)の少なくともいずれか一方は、正規化処理されたもの、あるいは重み付け処理したものを用いてもよい。すなわち、一般的な車両では、加速側の加速度に対して減速側の加速度の方が大きいが、その相違は運転者にはほとんど体感もしくは認識されず、多くの場合、加速側および減速側の加速度がほぼ同等に生じていると認識されている。正規化処理とは、このような実際の値と運転者が抱く感覚との相違を是正するための処理であり、前後加速度Gxについては、加速側の加速度を大きくし、あるいは減速側の加速度(すなわち減速度)を小さくする処理である。より具体的には、それぞれの加速度の最大値の比率を求め、その比率を加速側あるいは減速側の加速度に掛ける処理である。もしくは横加速度に対する減速側の加速度を補正する重み付け処理である。要は、タイヤで生じさせることのできる前後駆動力および横力がタイヤ摩擦円で表されるのと同様に、各方向の最大加速度が所定半径の円周上に位置するように、前後の少なくともいずれか一方を重み付けするなどの補正を行う処理である。したがって、このような正規化処理と重み付け処理とを行うことにより、加速側の加速度と減速側の加速度との走行特性に対する反映の程度が異なることになる。そこで重み付け処理の一例として、車両の前後の減速方向の加速度と、車両の前後の加速方向の加速度とのうち、加速方向の加速度の影響度が、減速方向の加速度の影響に対して相対的に大きくなるよう、減速方向の加速度と、加速方向の加速度とを重み付け処理してもよい。なお、横加速度は加速側加速度より大きく現れることがあるので、横加速度についても正規化処理を行ってもよい。
【0036】
このように、加速度の実際値と運転者が抱く感覚とには、加速度の方向によって相違がある。例えばヨーイング方向やローリング方向での加速度と前後加速度とには、そのような相違があることが考えられる。そこでこの発明では、方向が異なる加速度ごとの走行特性に対する反映の程度、言い換えれば、いずれかの方向の加速度に基づく走行特性の変化の程度を、他の方向の加速度に基づく走行特性の変化の程度とは異ならせるように構成することができる。
【0037】
横加速度Gyのセンサ値および上記の正規化処理と重み付け処理とを行った前後加速度Gxをタイヤ摩擦円上にプロットした例を図3に示してある。これは、一般道を模擬したテストコースを走行した場合の例であり、大きく減速する場合に横加速度Gyも大きくなる頻度は多く、タイヤ摩擦円に沿って前後加速度Gxと横加速度Gyとが生じるのは一般的な傾向であることが看て取れる。
【0038】
この発明では、上記の瞬時スポーツ度Iinから指示スポーツ度Iout が求められる。この指示スポーツ度Iout は、走行特性を変更する制御に用いられる指標であり、その算出の元になる前記瞬時スポーツ度Iinの増大に対しては直ちに増大し、瞬時スポーツ度Iinの低下に対して遅れて低下するように構成した指標である。特に、所定の条件の成立を要因として指示スポーツ度Iout を低下させるように構成されている。図4には、瞬時スポーツ度Iinの変化に基づいて求められた指示スポーツ度Iout の変化を示してある。ここに示す例では、瞬時スポーツ度Iinは上記の図3にプロットしてある値で示し、これに対して、指示スポーツ度Iout は、瞬時スポーツ度Iinの極大値に設定され、所定の条件が成立するまで、従前の値を維持するように構成されている。すなわち、指示スポーツ度Iout は、増大側には迅速に変化し、低下側には相対的に遅く変化する指標として構成されている。
【0039】
具体的に説明すると、図4における制御の開始からT1 の時間帯では、例えば車両が制動旋回した場合など、その加速度の変化によって得られる瞬時スポーツ度Iinが増減するが、前回の極大値を上回る瞬時スポーツ度Iinが、前述した所定の条件の成立に先行して生じるので、指示スポーツ度Iout が段階的に増大し、保持する。これに対してt2 時点あるいはt3 時点では、例えば車両が旋回加速から直線加速に移行した場合など、低下のための条件が成立したことにより指示スポーツ度Iout が低下する。このように指示スポーツ度Iout を低下させる条件は、要は、指示スポーツ度Iout を従前の大きい値に保持することが運転者の意図と合わないと考えられる状態が成立することであり、この発明では時間の経過を要因として成立するように構成されている。
【0040】
すなわち、指示スポーツ度Iout を従前の大きい値に保持することが運転者の意図と合わないと考えられる状態は、保持されている指示スポーツ度Iout とその間に生じている瞬時スポーツ度Iinとの乖離が相対的に大きく、かつその状態が継続している状態である。したがって、旋回加速コントロールした場合など、運転者によってアクセルペダル12を一時的に緩めるなどの操作に起因する瞬時スポーツ度Iinによっては指示スポーツ度Iout を低下させずに、緩やかに減速に移行した場合など、運転者によってアクセルペダル12を連続的に緩めるなどの操作に起因する瞬時スポーツ度Iinが、保持されている指示スポーツ度Iout を下回っている状態が所定時間継続した場合に、指示スポーツ度Iout を低下させる条件が成立した、とするように構成されている。このように指示スポーツ度Iout の低下開始条件は、瞬時スポーツ度Iinが指示スポーツ度Iout を下回っている状態の継続時間とすることができ、また実際の走行状態をより的確に指示スポーツ度Iout に反映させるために、保持されている指示スポーツ度Iout と瞬時スポーツ度Iinとの偏差の時間積分値(あるいは累積値)が予め定めたしきい値に達することを指示スポーツ度Iout の低下開始条件とすることができる。なお、そのしきい値は、運転者の意図に合った走行実験やシミュレーションあるいは実車での体験に基づくアンケートの結果などに基づいて適宜に設定できる。後者の偏差の時間積分値を用いるとすれば、指示スポーツ度Iout と瞬時スポーツ度Iinとの偏差および時間を加味して指示スポーツ度Iout を低下させることになるので、実際の走行状態あるいは挙動をより的確に反映した走行特性の変更制御が可能になる。
【0041】
なお、図4に示す例では、上記のt2 時点に到るまでの指示スポーツ度Iout の保持時間が、t3 時点に到るまでの指示スポーツ度Iout の保持時間より長くなっているが、これは以下の制御を行うように構成されているためである。すなわち、前述したT1 の時間帯の終期に指示スポーツ度Iout が所定値に増大させられて保持され、その後、前述した低下開始条件が成立する前のt1 時点に瞬時スポーツ度Iinが増大して、保持されている指示スポーツ度Iout との偏差積分値が予め定めた所定値以下となっている。なお、その所定値は、運転者の意図に合った走行実験やシミュレーションを行って、あるいは瞬時スポーツ度Iinの算出誤差を考慮して適宜に設定できる。このように瞬時スポーツ度Iinが保持されている指示スポーツ度Iout に近くなったということは、その時点の走行状態が、保持されている指示スポーツ度Iout の元になった瞬時スポーツ度Iinを生じさせた加減速状態および/または旋回状態もしくはそれに近い状態になっていることを意味している。すなわち指示スポーツ度Iout を保持されている値に増大させた時点からある程度時間が経過しているとしても、走行状態はその時間が経過する前の時点の走行状態と近似しているので、瞬時スポーツ度Iinが保持されている指示スポーツ度Iout を下回る状態であっても、前述した低下開始条件の成立を遅延させ、指示スポーツ度Iout を従前の値に保持させることとしたのである。その遅延のための制御もしくは処理は、前述した経過時間の積算値(累積値)や偏差の積分値をリセットして、経過時間の積算や前記偏差の積分を再開したり、あるいはその積算値もしくは積分値を所定量減じたり、さらには積算もしくは積分を一定時間中断したりして行えばよい。
【0042】
図5は前述した偏差の積分とそのリセットとを説明するための模式図であり、図5にハッチングを施してある部分の面積が偏差積分値に相当する。その過程で、瞬時スポーツ度Iinと指示スポーツ度Iout との差が所定値Δd以下になったt11時点に積分値がリセットされ、再度、前記偏差の積分が開始される。すなわち、求められた瞬時スポーツ度Iinの値と保持されている指示スポーツ度Iout の値との差が、閾値以下の有無に基づいて、前記積分値がリセットされる。その低下開始条件が成立しないので、指示スポーツ度Iout は従前の値に維持される。そして、積分を再開した後、瞬時スポーツ度Iinが直前の保持されている指示スポーツ度Iout より大きい値になると、指示スポーツ度Iout が瞬時スポーツ度Iinに応じた大きい値に更新され、かつ保持され、前記の積分値がリセットされる。
【0043】
ところで、この発明に係る制御装置では、加速度に基づいて指標を求め、その指標に応じて走行特性を設定するように構成されている。その加速度は、センサによって得られたいわゆる実加速度であってよいが、これに替えて駆動要求量や車速あるいは制動操作量、さらには操舵角度などから演算して求められた推定加速度(あるいは目標加速度)であってもよい。また、実加速度と目標加速度とを併用することとしてもよい。実加速度と目標加速度とを併用する場合、それぞれの加速度に応じて指標(第1の指標および第2の指標)を求め、それらの指標を比較していわゆるスポーツ度が高くなる指標を採用してもよい。例えば、実加速度に基づいていわゆる実瞬時スポーツ度Iinおよびそれに基づく実指示スポーツ度Iout を求める一方、目標加速度に基づいていわゆる目標瞬時スポーツ度Iinおよびそれに基づく目標指示スポーツ度Iout を求め、これら実指示スポーツ度Iout と目標指示スポーツ度Iout とのうち大きい値を採用し、その採用された指示スポーツ度Iout に応じて走行特性を設定してもよい。
【0044】
上述したいわゆる実加速度あるいは推定加速度に基づいて瞬時スポーツ度Iinが算出され、その瞬時スポーツ度Iinから決まる上記の指示スポーツ度Iout は、路面勾配やコーナの有無あるいはその曲率などの走行環境、さらに運転者の運転指向を含んだものとなっている。走行路の状態によって車両の加速度が変化するとともに、走行路の状態によって運転者による加減速操作が行われ、さらにはその加減速操作によって加速度が変化するからである。この発明に係る制御装置は、その指示スポーツ度Iout を車両の走行特性の制御に利用するように構成されている。この発明における走行特性には、加速特性や操舵特性、サスペンション特性、音特性などが含まれ、これらの特性は、前述したスロットルバルブ10の制御特性、変速機13の変速特性、懸架装置4におけるショックアブソーバー5による減衰特性、アシスト機構18のアシスト特性などをそれぞれに設けられているアクチュエータによって変化させることにより適宜に設定される。その走行特性の変化の一般的な傾向は、指示スポーツ度Iout が大きいほど、いわゆるスポーティな走行が可能になる特性の変化である。
【0045】
この発明に係る制御装置は、特に、走行特性を変化させる複数のアクチュエータの制御もしくは制御量を、算出された単一の指標(パラメータ)によって統一的に設定するように構成されている。その例を図1に簡略化したフローチャートによって示してある。ここに示す制御例では、先ず、その時点の走行状態に基づく指標が演算される(ステップS1)。その指標は、一例として前述した瞬時スポーツ度Iin(例えば合成加速度:合成G)であり、したがってその時点における運転者の運転指向や、道路勾配あるいは曲線路などの道路環境などを反映したものとなっている。ついで、走行特性を変更する元データとなる指示スポーツ度Iout が演算される(ステップS2)。なお、これら瞬時スポーツ度Iinおよび指示スポーツ度Iout の演算の仕方は前述したとおりである。
【0046】
この指示スポーツ度Iout に基づいて走行特性が設定される。この指示スポーツ度Iout は、スポーティな走行の要求の度合いを表しているから、その要求に沿うように先ずは、変速特性が補正され(ステップS31)、これに加えてサスペンション機構におけるダンパー特性が補正され(ステップS32)、さらには電動ステアリング機構(EPS)の特性が適時補正される(ステップS33)。これらの補正の仕方もしくは内容の一例を説明すると、自動変速機での基本変速制御は、アクセル開度などで表される駆動要求量(加速要求)とその時点の車速とに基づいて目標変速比もしくは目標入力回転数を求め、その目標値を達成するように所定のアクチュエータを動作させることにより実行される。これらの駆動要求量と車速と目標変速比もしくは目標入力回転数との関係は、車両の設計段階に基本特性として設定されている。ステップS31での補正は、その基本特性を補正するためのものであり、したがって上記の駆動要求量(例えばアクセル開度)と車速と目標変速比もしくは目標入力回転数とのいずれかの値を数値処理して変更すれば、変速制御の内容を変更することができる。例えば基本変速特性で求められる変速比を増大補正し、あるいは車速を減少補正すれば、相対的に大きい変速比(低車速側の変速比)を使用して走行することになり、大きい駆動力あるいは加速性を得て、いわゆるスポーティな走行を行う特性となる。これとは反対に、基本特性で求められる変速比を減少補正し、あるいは車速を増大補正すれば、相対的に小さい変速比(高車速側の変速比)を使用して走行することになり、駆動力あるいは加速性を抑えて、いわゆるマイルドなゆったりとした走行を行う特性となる。
【0047】
このようにして変速特性の補正の内容もしくは補正量が求められた後、変速特性が演算される(ステップS41)。例えば自動変速機を対象とする場合には、その変速線が変更される。図6には、このような補正を有段変速機について行った場合のアップシフト線の変化を模式的に示してあり、実線で示す基本特性で定まるアップシフト線が、指示スポーツ度Iout が大きい場合には、図6の左側に移動させられ、これとは反対に指示スポーツ度Iout が小さい場合には、図6の右側に移動させられる。なお、有段変速機を対象とする場合、アップシフト線に限らず、ダウンシフト線をアップシフト線と同様に変化させてもよい。すなわち、指示スポーツ度Iout が大きい場合には、相対的に大きい変速比を使用するように変速特性を補正する。
【0048】
また一方、ダンパーは、サスペンション機構に設けられて緩衝を行う装置であって、その一例としてシリンダの内部に封入した流体(オイル)の粘性に基づく流動抵抗を利用して緩衝を行うように構成された装置が知られており、この種の装置では、流体が通過する流路の断面積を変更することによりその特性を変化させるように構成されている。すなわち、流路を絞ることによりいわゆる硬い特性となり、反対に流路を広くすることによりいわゆる軟らかい特性となり、従来ではこの特性を連続的に変化させる構成のものや十段階程度に変化させる構成のものが知られている。そして、そのダンパーの特性は、車両の設計段階で予め決められており、その基本特性を補正する補正量が、ステップS32で求められる。具体的には、指示スポーツ度Iout の値が大きいほど、いわゆるスポーティな走行が要求されているものと考えられるので、車体の沈み込みが生じにくくなるように、より硬い特性となる補正量が設定される。反対に、指示スポーツ度Iout の値が小さいほど、いわゆるマイルドな衝撃力の少ない走行が要求されていることになるので、より軟らかい特性となる補正量が設定される。そして、その補正量に基づいてダンパー特性が演算される(ステップS42)。その補正量と指示スポーツ度Iout との関係の一例を模式的に示せば、図7のとおりである。
【0049】
さらに、EPS特性の補正について説明すると、電動ステアリング機構(EPS)は電気的なアシストを行って操舵を滑らかに行うように構成された機構であり、車速や操舵量もしくは操舵速度などに応じて操舵操作に対するアシストを行うことにより、操舵を容易にするように構成されている。そのアシスト量あるいはアシストの内容は、車種毎に予め決められており、ステップS33ではその基本特性を変更する補正量もしくは補正の内容が求められる。その補正量に基づいてEPS特性が演算される(ステップS43)。その補正量と指示スポーツ度Iout との関係の一例を模式的に示せば、図8のとおりである。
【0050】
なお、参考としてエンジン8の出力特性を変更する例について説明すると、図9はアクセル開度Accと電子スロットルバルブ10におけるアクチュエータ11の動作量(すなわちスロットル開度)θthとの関係を示す特性線図であり、実線の曲線が基本特性を示している。アクセル開度Accとスロットル開度θthとが一対一の関係にあれば、図9に直線で示すように、その場合の特性は45°の角度に傾斜した直線で表され、これに対して基本特性は、下側に向けて撓んだ曲線で表される。すなわち、アクセル開度に対してスロットル開度が相対的に小さくなる特性に設定される。こうすることによりアクセル開度が小さい状態では、エンジン出力トルクが相対的に小さくなり、滑らかな発進あるいは加速が可能になる。これに対して、指示スポーツ度Iout が大きく、スポーティな走行が要求されている場合には、アクセル開度Accに対するスロットル開度θthの値が増大補正され、45°に傾斜した直線に近い曲線で示される特性が設定される。これとは反対に指示スポーツ度Iout の値が小さい場合には、アクセル開度Accに対するスロットル開度θthの値が減少補正され、45°に傾斜した直線からより大きく下側に離れた曲線で示される特性が設定される。
【0051】
上述した変速特性の補正やダンパー特性の補正およびEPS特性の補正、さらには電子スロットルバルブ10におけるアクチュエータ11の制御特性の補正などは、上述したようにその時点で設定され、あるいは演算されている単一の指示スポーツ度Iout に応じて実行され、その補正量や補正の内容は、基準となるドライバーによる走行実験やシミュレーションなどに基づいて予め設定することができる。したがって、各特性の補正は、単一の指示スポーツ度Iout に基づいているものの、補正の内容やタイミングあるいは補正の程度などは各特性毎に異なる場合があるが、単一の指示スポーツ度Iout に統合適合したものとなっている。その結果、変速特性およびダンパー特性ならびにEPS特性さらにはエンジンの出力特性のいずれもが、その時点の指示スポーツ度Iout として表されている運転者の運転指向や走行環境に適したものとなり、ひいては車両の全体としての走行特性が、運転者の運転指向や走行環境に適したものとなってドライバビリティが向上する。
【0052】
なお、上述したように、車両の走行状態に基づくパラメータ(指標)によって走行特性を補正すると、走行特性が変化することにより変速特性の変化が生じたり、あるいは駆動トルク特性が変化し、または回頭性や車体の振動特性が変化したりする。このような挙動の変化は運転者の操作によらずに自動的に生じる。一方、車両によっては走行モードをスイッチの手動操作によって選択する機能を備えており、またサスペンション機構による振動の減衰特性や車高をスイッチを手動操作することによって選択する機能を備えている。ここで、走行モードとして変速比の設定の仕方の種類であって、各走行モード毎に加速性あるいは動力性能が異なる。その変速のモードとしては、変速比を車速およびアクセル開度などの走行状態に基づいて自動的に設定し、かつその変速比が最も一般的なオートモード(もしくはノーマルモード)、変速比を手動操作によって選択するマニュアルモード、燃費がよくなる変速比を優先的にかつ自動的に設定するエコモード、発進時の変速比を最大変速比より小さい変速比に制限するスノーモード、車速毎の変速比を他の走行モードに比較して相対的に大きくするパワーモード(スポーツモード)などがある。その一例を図10にブロック図で示してあり、上記の各モードを選択する切替スイッチ30が設けられており、この切替スイッチ30は、変速機用電子制御装置(ECT−ECU)31に電気的に接続され、選択された各モードに対応した信号を変速機用電子制御装置31に入力するように構成されている。
【0053】
また、サスペンション機構でのモードとしては、減衰特性や車高を最も一般的な状態に設定し、かつ車速や振動の状況に応じて減衰特性や車高を自動的に変化させるオートモード(もしくはノーマルモード)、減衰特性を車体の沈み込みが少ない硬い特性とし、かつ車高を低くするスポーツモード、これとは反対に減衰特性を軟らかい特性とし、かつ車高を高くするソフトモードなどがある。このようなモードの選択もしくは切替をおこなうための装置に一例を図11にブロック図で示してあり、上記の各モードを選択する切替スイッチ40が設けられており、この切替スイッチ40は、サスペンション用電子制御装置(SUS−ECU)41に電気的に接続され、選択された各モードに対応した信号をサスペンション用電子制御装置41に入力するように構成されている。
【0054】
これらの各モードは、スイッチ操作によって変更できるものの、所期どおりの走行特性を十分に得ることができず、運転者の意図と合わないシーンがある。そこで、この発明の制御装置は、変速特性やダンパー特性あるいはEPS特性などの走行特性に関わる特性をスイッチ操作などの人為的操作で選択している場合には、前記オートモードが選択されている場合に指示スポーツ度Iout などの走行状態に基づく指標により走行特性を変更するように構成してもよい。
【0055】
また、走行状態を示すパラメータ(指標)もしくは走行状態に基づいて求められたパラメータ(指標)によって走行特性を前述したように統一的(統合的)に補正する場合、変速特性やダンパー特性などの各特性毎の補正量は、前述したように実験やシミュレーションなどによって予め定めることになる。その意味では、補正量あるいは走行特性の補正の内容が固定的もしくは一律になり、個人差のある運転指向との間に僅かな齟齬が生じる可能性がある。そこで、この発明に係る制御装置では、上記の各特性毎の補正量あるいは各特性を人的操作によって微調整できるように構成してもよい。例えば、図12に示すように、ロータリースイッチやスライドスイッチなどのいわゆるボリューム調整機構50を設けるとともに、そのボリューム調整機構50を走行特性制御用の電子制御装置(SPI−ECU)51に電気的に接続し、そのボリューム調整機構50を運転者が操作することにより、上記の補正量もしくは各特性を調整できるように構成してもよい。
【0056】
上述したように、加速度などの車両の走行状態を示す指標もしくは走行状態から求められる指標に基づいて統一的(統合的)に走行状態を変更し、あるいは設定するように構成されているこの発明に係る制御装置によれば、ジャーク(加速度の時間微分値もしくは単位時間あたりの変化量)が予め定めた閾値より小さい場合に、自動的な走行特性の変更を行うように構成してもよい。具体的に説明すると、図13はその制御の一例を説明するためのフローチャートを示しており、ここに示すルーチンは、前述した加速度に基づいて指示スポーツ度Iout が求められるとともに、その指示スポーツ度Iout に応じて所定の走行特性が設定されている状態で、所定の短時間毎に繰り返し実行される。先ず、指示スポーツ度Iout に基づく走行特性の補正が演算される(ステップS101)。なお、この補正には、前述した図10ないし図12に示す機構を手動操作することによる微調整分の補正も含まれる。
【0057】
その補正の対象とされる走行特性には、いわゆるシャシー特性や駆動力特性が含まれ、またそのシャシー特性には、サスペンション機構によるいわゆる懸架特性やパワーステアリング装置による旋回特性などが含まれ、さらに駆動力特性には、エンジンの出力特性や変速機の変速特性などが含まれる。また、このステップS101での補正は、各機構について予め設定されている基本特性を、車両の走行状態を示すパラメータもしくは走行状態から求められるパラメータに応じて補正する処理であり、その例は前述したとおりである。
【0058】
上記のステップS101に続けて、補正実行の条件が成立しているか否かが判断される。ここで説明している走行特性の補正は、車両が走行している状態で、その加速性や回頭性などを手動操作によって変化させることに伴う補正であり、車両が走行しているために、その時点で車両に加減速や旋回が生じている場合である。ここで、運転者の操作変化中に、走行特性の変更とが重畳すると、運転者が意図していない挙動の変化となり、違和感を生じる場合がある。上記の補正実行の条件は、そのような違和感を生じさせることのない条件もしくは違和感を抑制する条件である。図13に示す制御例では、車両が加減速域(加速域および制動域)に入っているか否かが判断される(ステップS102)。その加減速域とは、図3に示すタイヤ摩擦円上に設定した領域であって、合成加速度(瞬時スポーツ度Iin)を決めている加速度のうち、前後加速度Gxの成分割合が横加速度Gyに比べて相対的に大きい領域であり、例えば図3におけるGxの線を中心にして左右に45°±5°に開いた線で囲まれる領域である。なお、この領域は加速側の加速領域として設定されるだけでなく減速側に制動領域として設定される。タイヤ摩擦円上における加減速域以外の領域が旋回領域であり、したがってその旋回領域における横加速度Gyの成分は、加減速域における横加速度Gyの成分より相対的に大きくなっている。
【0059】
車両の走行状態が上記の加減速域に入っていることによりステップS102で肯定的に判断された場合には、その時点のジャーク(加速度の時間微分値もしくは単位時間当たりの変化量)が予め定めた判断基準値α以下か否かが判断される(ステップS103)。このステップS103は車両に生じている時間微分の加速度が安定しているか否かを判断するためのものであり、したがって上記の判断基準値は「0」に近い値であり、「0」の判断に替わる判断として通常行われている判断と同様である。
【0060】
一方、ステップS102で否定的に判断された場合には、指示スポーツ度Iout が大きいか否か(すなわち予め定めた基準値β以上か否か)が判断され(ステップS102−1)、その判断の結果が否定的であれば、上記のステップS103に進み、これとは反対に肯定的であれば、駆動力に関する特性の補正が禁止される(ステップS104)。ステップS102で否定的に判断される場合は、車両の走行状態は前述した旋回領域に入っていることになり、その状態でエンジン出力や変速比などの走行特性変更が大きい場合、運転者に違和感を与えることになるので、駆動力特性の補正を禁止してもよい。つまり、走行特性の変更が、弱いエンジン出力や変速比の場合には、補正は許可される。
【0061】
ステップS103で否定的に判断された場合には、上記のステップS102に戻る。すなわち、ステップS102で肯定的に判断されたように車両が直線走行に近い走行を行っているとしても、ステップS103で否定的に判断されたように、運転者の操作変化中に伴う前後加速度が時間変化している状態では、走行特性の補正の実行に伴って生じる車両の特性変化が、運転者の操作変化に影響した状態になって運転者が違和感を抱く場合がある。そのため、ステップS103で否定的に判断された場合には、ステップS102に戻ることとして、走行特性の補正を実行しないこととしたのである。
【0062】
したがって、前記ジャークが判断基準値α以下であることによりステップS103で肯定的に判断された場合には、走行特性の補正が実行される(ステップS105)。これは、前述したステップS101で演算された補正値に基づいて、エンジンの駆動力や変速機の変速比、サスペンション機構やパワーステアリング装置の特性を決めている基本特性を変更する制御である。その結果、運転者の走行意図が、駆動特性や変速特性あるいは懸架特性などの走行特性に反映される。したがって、その運転者がその車両を運転している間は、運転者が意図し、あるいは期待している走行性能あるいは挙動が得られるので、ドライバビリティが良好なものとなる。
【0063】
さらに、走行特性の補正が保持される(ステップS106)。その走行特性の補正保持は、指示スポーツ度Iout の低下が生じた場合には、解消してもよい。その例を図13に示してあり、ステップS106に続けて指示スポーツ度Iout が低下したか否かが判断される(ステップS107)。指示スポーツ度Iout の低下もしくは減少について、図4を参照して説明したとおりである。このステップS107で否定的に判断された場合にはリターンして、走行特性の補正保持を継続する。これとは反対に、指示スポーツ度Iout が低下もしくは減少してステップS107で肯定的に判断された場合には、走行特性の補正保持を解消し(ステップS108)、その後にリターンする。すなわち、指示スポーツ度Iout に対応する走行特性に設定される。なお、車両のメインスイッチが切られた場合には、その補正をリセットすることが好ましい。
【0064】
この発明の具体例として挙げた上記の制御装置は、走行状態に基づいてパラメータを求め、その単一パラメータによって、車両の挙動に関連する複数のアクチュエータの制御量を統合的もしくは統一的に求めるので、駆動力特性やシャシー特性などで決まる走行特性が、運転者の運転指向に、より適したものとなる。言い換えれば、走行特性を決める複数の制御要因を統合的に求めるので、全体としての走行特性が良好なものとなる。また、そのような走行特性の補正あるいは設定は、駆動力特性を調整するスイッチやシャシー特性を調整するスイッチなど、個別に設けられている複数のスイッチを操作することなく、統合的もしくは統一的におこなうことができるので、運転者が複数のスイッチを操作し、またそれぞれの操作量を相互に関連させて調整するなどの煩わしさを回避もしくは抑制することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…車両、 2…前輪、 3…後輪、 4…懸架装置、 5…ショックアブソーバー、 6…モータ、 7…ブレーキペダル、 8…内燃機関(エンジン)、 10…スロットルバルブ、 11…アクチュエータ、 12…アクセルペダル、 13…変速機、 15…操舵機構、 16…ステアリングホイール、 17…ステアリングリンケージ、 18…アシスト機構、 19…車輪速センサ、 20…アクセル開度センサ、 21…スロットル開度センサ、 22…エンジン回転数センサ、 23…出力回転数センサ、 24…操舵角センサ、 25…前後加速度センサ、 26…横加速度センサ、 27…ヨーレートセンサ、 28…電子制御装置(ECU)、 30…切替スイッチ、 31…変速機用電子制御装置(ECT−ECU)、 40…切替スイッチ、 41…サスペンション用電子制御装置(SUS−ECU)、 50…ボリューム調整機構、 51…走行特性制御用の電子制御装置(SPI−ECU)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクセル操作量に対する駆動力源の出力や変速比などとの等の相互関係である駆動力特性、あるいは操舵操作に対する車両の回頭性やコーナーでの外輪側の沈み込みあるいはバンプ・リバウンドの程度もしくはバンプ・リバウンドの生じやすさなどの懸架特性あるいはシャシー特性(以下、これらをまとめて走行特性と記すことがある。)を、運転者の嗜好や車両の走行環境などに適合させるように構成された制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両におけるアクセル操作やブレーキ操作あるいはステアリングホイールの操作などに基づく挙動の変化の程度は、それらの機構の構成や制御装置でのデータの設定などによって決まる。このような操作量やタイヤから入力される外力などに対する車体の挙動の変化の程度である走行特性は、多くの車両では、その用途や想定される使用者などを考慮して、需要者が最も受け入れやすいと思われる特性に設定されている。
【0003】
車種に応じて設定されるこのような走行特性は、あくまでも、設計上想定した条件を満たすように設定されるのに対して、実際の運転者の好み(指向)などは多様であり、また車両が実際に走行する市街地や高速道路、ワインディング路、登坂路や降坂路などの走行環境は様々である。そのため、車両に要求される特性は、運転者毎に、あるいは走行環境毎に異なっているのが実情である。従来、このようないわゆる運転指向と車両の特性との齟齬もしくは差異を可及的に少なくする技術が開発されており、その例が以下の特許文献に開示されている。
【0004】
特許文献1には、運転指向を車両の挙動制御に反映するよう構成された装置が記載されている。この特許文献1に記載された装置は、ニューロコンピュータを使用する駆動力制御装置であって、アクセルストロークおよび車速に対する加速度の関係を要求加速度モデルとして学習し、そのモデルと走りの指向を反映した第2の基準加速度モデルとの偏差、および第2の基準加速度モデルと標準的な第1の基準加速度モデルとの偏差に基づいてスロットル開度を演算するように構成されている。
【0005】
また、特許文献2には、スポーツモードスイッチと、スノーモードスイッチと、エコモードスイッチとの複数の運転モードの切替を行うスイッチを備えた車両制御装置であって、これらのスイッチで運転モードを選択した場合にその運転モードを含む制御指令信号をエンジンECUとサスペンションECUとに出力して、アクチュエータがその運転モードに応じて動作するように構成された制御装置が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、横加速度を運転者が選択することができるように構成された車両用走行制御装置が記載されており、この特許文献3に記載された装置によれば、自動変速機のスポーツモードまたはノーマルモードの設定状態に応じて横加速度を切り替えるように構成でき、あるいはサスペンション装置のスポーツモードまたはノーマルモードの設定状態に応じて横加速度を切り替えるように構成でき、そのような切替を行うことにより、ゆったりとした走行やキビキビとした走行を行うことができる、とされている。
【0007】
そして、特許文献4に記載された装置は、車両の加速度を表すデータに基づいて運転者の運転スタイルを評価し、その評価された運転スタイルに従ってサブシステムの動作状態を設定するように構成されている。そのサブシステムは、特許文献4の記載によれば、エンジン制御装置、変速機制御装置、ステアリング制御装置、ブレーキ制御装置、及び空気サスペンション制御装置などである、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−249007号公報
【特許文献2】特開2008−132876号公報
【特許文献3】特開2008−74229号公報
【特許文献4】特表2009−530166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、上述したように、車両の加速度や運転者によるスイッチ操作に基づいて、スロットルバルブの制御量やサスペンション装置の制御量あるいは変速機の制御量などを変更もしくは設定し、車両の加速性や懸架性能をその時点の加減速状態や運転者の好み(運転指向)に合致させる技術が開発されている。しかしながら、車両の加速性や回頭性あるいは乗り心地などの性能に影響を及ぼす要因は多様であり、従来では、車両の駆動力特性やシャシー特性などの走行特性に影響を及ぼすいずれかの制御特性を、加速度やスイッチ操作によって変更できるものの、所期どおりの走行特性を十分には得ることができていないのが実情である。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、運転者の運転指向あるいは走行操作の癖を走行特性により良く反映してドライバビリティを向上させることのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、走行している車両の状態に基づいてパラメータを求め、前記車両に搭載されているアクチュエータの制御量をそのパラメータに基づいて決定する車両の制御装置において、前記パラメータに対する前記制御量を複数のアクチュエータ毎に予め設定しておき、前記パラメータが求められた場合にその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量を求めるとともにその制御量に基づいて各アクチュエータを制御するように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記パラメータは、前記車両に搭載されているセンサによって検出された実測加速度もしくは前記車両に加速度を生じさせる操作機構の操作量から算出される推定加速度に基づいて求められたパラメータを含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記パラメータは、前記車両の前後方向の加速度と横方向の加速度とを合成した合成加速度に基づいて求められたパラメータを含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記複数のアクチュエータは、前記車両の駆動力源の出力を変化させる出力制御用アクチュエータと、前記車両に搭載されている変速機の変速比を変化させる変速用アクチュエータと、前記車両に搭載されている操舵機構のアクチュエータと、前記車両に搭載されているサスペンション機構における懸架用アクチュエータと、車両に搭載されている演出用アクチュエータとの少なくともいずれか二つを含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記複数のアクチュエータは、指令信号に対する動作量の関係である動作特性が予め定められており、前記制御量は、その動作特性を変更する制御量を含むことを特徴とする車両の制御装置である。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記制御量は、前記アクチュエータが動作するタイミングと動作量との少なくともいずれか一方を変更するように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれかの発明において、前記単一のパラメータに基づいて求められる前記制御量を手動操作によって変更する調整機構を更に備えていることを特徴とする車両の制御装置である。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1ないし7のいずれかの発明において、前記車両の走行モードを、自動モードと、エコノミーモードもしくはスポーツモードあるいはスノーモードまたはノーマルモードとのいずれかに切り替える切替手段を更に備え、その切替手段によって前記自動モードが選択されている場合に、前記パラメータが求められるとともにその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量が求められかつその制御量に基づいて各アクチュエータが制御されるように構成されていることを特徴とする車両の制御装置である。
【発明の効果】
【0019】
この発明で対象とする車両は、動作することにより車両の挙動もしくはその挙動の変化の傾向を変更するアクチュエータを備え、走行状態に基づいてパラメータが求められると、その単一のパラメータに基づいて各アクチュエータ毎の制御量が求められる。すなわち、複数のアクチュエータが車両の走行状態に基づいて統一的に制御される。その結果、各アクチュエータが統一した走行状態に適合した動作を行い、車両の挙動もしくはその特性などの走行特性がその時点の走行状態に適したものとなり、その時点の走行状態に運転者の運転指向などが反映されていることを考慮すれば、車両の走行特性が運転者の期待もしくは予想するものとなってドライバビリティを向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係る制御装置で実行される、より具体的な制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明で対象とすることのできる車両を模式的に示す図である。
【図3】前後加速度および横加速度の検出値をタイヤ摩擦円上にプロットして示す図である。
【図4】瞬時スポーツ度に基づく指示スポーツ度の変化の一例を示す図である。
【図5】瞬時スポーツ度と指示スポーツ度との偏差の時間積分とその積分値のリセットの状況を説明するための図である。
【図6】変速特性の補正の一例として、変速線図における一つのアップシフト線とこれを高車速側および低車速側に補正した線とを示す説明図である。
【図7】ダンパー特性の補正量の一例を示す図である。
【図8】EPS特性の補正の一例を示す図である。
【図9】エンジンの出力特性の補正の一例として、アクセル開度とスロットル開度との関係を示す基本特性線とこれを補正した後の特性線とを示す図である。
【図10】走行モードを切り替えるためのシステムの一例を模式的に示すブロック図である。
【図11】サスペンション機構によるモードを切り替えるためのシステムの一例を模式的に示すブロック図である。
【図12】走行特性の補正量を微調整するためのシステムの一例を模式的に示すブロック図である。
【図13】走行特性の補正を、条件の成立を待って実行するように構成した制御例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎにこの発明をより具体的に説明する。この発明の制御装置が対象とする車両は、エンジンやモータなどの駆動力源の出力側に、有段式もしくは無段式の変速機が連結され、その変速機から出力されたトルクを駆動輪に伝達して走行し、また前輪を操舵機構によって転舵することにより旋回走行し、さらに各車輪にブレーキが配置され、そして車体をサスペンション機構によって支持した一般的な構成の車両である。この発明に係る制御装置は、エンジンや変速機による駆動力の制御内容、操舵機構による操舵の制御内容、ブレーキによる制動制御の内容、サスペンション機構による車体の支持制御の内容を、車両の走行状態に基づいて変更するように構成されている。これらエンジンや変速機あるいは上記の各機構は車両の挙動を変化させるように動作するものであるから、結局、この発明に係る制御装置は、車両の走行特性を車両の走行状態に基づいて変更するように構成されている。したがって、この発明における走行特性には、駆動力源や変速機あるいはブレーキによる駆動力特性、操舵機構による操舵特性もしくは回頭性あるいはパワーアシスト特性、サスペンション機構による懸架特性もしくはダンパー特性などが含まれ、以下の説明で「走行特性」とはこれらの特性の総称を意味することがある。
【0022】
また、この発明に係る制御装置では、走行状態からパラメータを求める。その走行状態とは、前後方向あるいは横方向の加速度、これらの加速度を合成した合成加速度、アクセル操作量、ブレーキ操作量、ステアリングホイール操作量、ヨーイングの程度、ヨーレートなどを含み、また加速度には、センサで検出された実測加速度や、アクセル操作量もしくはブレーキ操作量から算出される推定加速度が含まれる。以下に説明する具体例は、加速度から求まるパラメータを使用する例である。
【0023】
先ず、この発明で対象とする車両の一例を説明すると、この発明で対象とする車両は、運転者の操作によって加減速し、また旋回する車両であり、その典型的な例が、内燃機関やモータを駆動力源とした自動車である。その一例を図2にブロック図で示してある。ここに示す車両1は、操舵輪である二つの前輪2と、駆動輪である二つの後輪3との四輪を備えた車両であり、これらの四輪2,3のそれぞれは懸架装置4によって車体(図示せず)に取り付けられている。この懸架装置4は、一般に知られているものと同様に、スプリングとショックアブソーバー(ダンパー)とを主体として構成されており、図2にはそのショックアブソーバー5を示してある。ここに示すショックアブソーバー5は、気体や液体などの流体の流動抵抗を利用して緩衝作用を生じさせるように構成され、モータ6などのアクチュエータによってその流動抵抗を大小に変更できるように構成されている。すなわち、流動抵抗を大きくした場合には、車体が沈み込みにくく、いわゆる堅い感じとなり、車両の挙動としては、コンフォートな感じが少なくなって、スポーティ感が増大する。なお、これらのショックアブソーバー5に加圧気体を給排することによって車高の調整を行うように構成することもできる。
【0024】
前後輪2,3のそれぞれには、図示しないブレーキ装置が設けられており、運転席に配置されているブレーキペダル7を踏み込むことによりブレーキ装置が動作して前後輪2,3に制動力を与えるように構成されている。
【0025】
車両1の駆動力源は、内燃機関やモータあるいはこれらを組み合わせた機構など、従来知られている構成の駆動力源であり、図2には内燃機関(エンジン)8を搭載している例を示してあり、このエンジン8の吸気管9には、吸気量を制御するためのスロットルバルブ10が配置されている。このスロットルバルブ10は、電子スロットルバルブと称される構成のものであって、モータなどの電気的に制御されるアクチュエータ11によって開閉動作させられ、かつ開度が調整されるように構成されている。そして、このアクチュエータ11は、運転席に配置されているアクセルペダル12の踏み込み量すなわちアクセル開度に応じて動作してスロットルバルブ10を所定の開度(スロットル開度)に調整するように構成されている。
【0026】
そのアクセル開度とスロットル開度との関係は適宜に設定でき、両者の関係が一対一に近いほど、いわゆるダイレクト感が強くなって車両の走行特性は、スポーティな感じになる。これとは反対にアクセル開度に対してスロットル開度が相対的に小さくなるように特性を設定すれば、車両の走行特性はいわゆるマイルドな感じになる。なお、駆動力源としてモータを使用した場合には、スロットルバルブ10に替えてインバータあるいはコンバータなどの電流制御器を設け、アクセル開度に応じてその電流を調整するとともに、アクセル開度に対する電流値の関係すなわち走行特性を適宜に変更するように構成する。
【0027】
エンジン8の出力側に変速機13が連結されている。この変速機13は、入力回転数と出力回転数との比率すなわち変速比を適宜に変更するように構成されており、例えば従来知られている有段式の自動変速機やベルト式無段変速機あるいはトロイダル型無段変速機などの変速機である。したがって、変速機13は、図示しないアクチュエータを備え、そのアクチュエータを適宜に制御することにより変速比をステップ的(段階的)に変化させ、あるいは連続的に変化させるように構成されている。具体的には、運転者のアクセル操作に基づくアクセル開度や車速などの車両の状態に対応させて変速比を決めた変速マップを予め用意し、その変速マップに従って変速制御を実行し、あるいは車速やアクセル開度などの車両の状態に基づいて目標出力を算出し、その目標出力と最適燃費線などから目標エンジン回転数を求め、その目標エンジン回転数となるように変速制御を実行する。
【0028】
このような変速制御は燃費優先の制御や駆動力を増大させる制御を選択できるようにも構成されている。燃費を優先する制御は、アップシフトを相対的に低車速で実行する制御もしくは相対的に高速側変速比を低車速側で使用する制御であり、また駆動力もしくは加速特性を向上させる制御は、アップシフトを相対的に高車速で実行する制御もしくは相対的に低速側変速比を高車速側で使用する制御である。このような制御は、変速マップを切り替えたり、駆動要求量を補正したり、あるいは算出された変速比を補正したりして行うことができる。なお、エンジン8と変速機13との間に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータなどの伝動機構を、必要に応じて設けることができる。そして、変速機13の出力軸が終減速機であるデファレンシャルギヤ14を介して後輪(駆動輪)3に連結されている。
【0029】
前輪2を転舵する操舵機構15について説明すると、ステアリングホイール16の回転動作を左右の前輪2に伝達するステアリングリンケージ17が設けられ、またステアリングホイール16の操舵角度もしくは操舵力をアシストするアシスト機構18が設けられている。このアシスト機構18は、図示しないアクチュエータを備え、そのアクチュエータによるアシスト量を適宜調整できるように構成されている。
【0030】
なお、特には図示しないが、上記の車両1には挙動あるいは姿勢を安定化させるためのシステムとして、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)やトラクションコントロールシステム、これらのシステムを統合して制御するビークルスタビリティコントロールシステム(VSC)などが設けられている。これらのシステムは従来知られているものであって、車体速度と車輪速度との偏差に基づいて車輪2,3に掛かる制動力を低下させ、あるいは制動力を付与し、さらにはこれらと併せてエンジントルクを制御することにより、車輪2,3のロックやスリップを防止もしくは抑制して車両の挙動を安定させるように構成されている。また、走行路や走行予定路に関するデータ(すなわち走行環境)を得ることのできるナビゲーションシステムや、スポーツモードとノーマルモードおよび低燃費モード(エコモード)となどの走行モードを手動操作で選択するためのスイッチを設けてあってもよく、さらには登坂性能や加速性能あるいは回頭性などの走行特性を変化させることのできる四輪駆動機構(4WD)を備えていてもよい。
【0031】
上記のエンジン8や変速機13あるいは懸架装置4のショックアブソーバー5、前記アシスト機構18、上述した図示しない各システムなどを制御するためのデータを得る各種のセンサが設けられている。その例を挙げると、前後輪2,3の回転速度を検出する車輪速センサ19、アクセル開度センサ20、スロットル開度センサ21、エンジン回転数センサ22、変速機13の出力回転数を検出する出力回転数センサ23、操舵角センサ24、前後加速度(Gx)を検出する前後加速度センサ25、横方向(左右方向)の加速度(横加速度Gy)を検出する横加速度センサ26、ヨーレートセンサ27などが設けられている。なお、各加速度センサ25,26は、上記のアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)やビークルスタビリティコントロールシステム(VSC)などの車両挙動制御で用いられている加速度センサと共用することができ、あるいはエアバッグを搭載している車両では、その展開制御のために設けられている加速度センサと共用することができる。さらに、前後左右の加速度Gx,Gyは、水平面上で、車両の前後方向に対して所定角度(例えば45°)傾斜させて配置した加速度センサで検出した検出値を、前後加速度および横加速度に分解して得ることとしてもよい。またさらに、前後左右の加速度Gx,Gyはセンサーによって検出することに替えて、アクセル開度や車速、ロードロード、操舵角度などに基づいて演算して求めてもよい。これらのセンサ19,〜27は、電子制御装置(ECU)28に検出信号(データ)を伝送するように構成されており、また電子制御装置28はそれらのデータおよび予め記憶しているデータならびにプログラムに従って演算を行い、その演算結果を制御指令信号として上述した各システムあるいはそれらのアクチュエータに出力するように構成されている。なお、合成加速度は、車両の前後方向の加速度成分と、車幅方向(横方向)の加速度成分とを含む加速度等の複数の方向の加速度成分を含む加速度に限らず、車両前後方向のみ等、いずれか一の方向の加速度を用いてもよい。
【0032】
この発明に係る制御装置は、車両の走行状態に基づいて運転者の運転指向を車両の挙動制御(すなわち走行特性の制御)に反映させるように構成されている。ここで車両の走行状態とは、前後加速度や横加速度あるいはヨーイングやローリングの加速度、もしくはこれら複数方向の加速度を合成した加速度で表される状態である。すなわち、車両を目標とする速度で走行させたり、目標とする方向に進行させたりすることにより、あるいは路面などの走行環境の影響を受けて車両の挙動を元の状態に戻したりする場合に、複数方向の加速度が生じるのが通常であることを考慮すると、車両の走行状態は走行環境や運転指向をある程度反映していると考えられる。このような背景に基づきこの発明では、車両の走行状態に基づいて運転者の運転指向もしくは走行環境を車両の走行特性の制御に反映させるように構成されている。
【0033】
前述したように、車両の挙動には、加速性や回頭性(旋回性)、懸架装置4による支持剛性(すなわちバンプ・リバウンドの程度や生じやすさ)、ローリングやピッチングの程度などが含まれ、この発明に係る制御装置では、これらの走行特性の変更の要因の一つとして上記の走行状態を含んでいる。その場合、上記の走行状態の一例であるいずれかの方向の加速度もしくは合成加速度の値をそのまま使用して走行特性を変更してもよいが、より違和感を減らすため、それらの値を補正した指標を用いてもよい。
【0034】
その指標の一例としてスポーツ度(SPI:Sports Index)について説明する。ここで、スポーツ度とは、運転者の意図または車両の走行状態を示す指標である。この発明で採用することのできるスポーツ度は、複数方向の加速度(特にその絶対値)を合成して得られる指標であり、走行方向に対する挙動に大きく関係する加速度として前後加速度Gxと横加速度Gyとを合成した加速度がその例である。例えば、
瞬時スポーツ度Iin=(Gx2+Gy2)1/2
で算出される。ここで、加速度はセンサで検出された加速度に限らず、アクセル開度や操舵角、ブレーキ踏力もしくはブレーキペダルの踏み込み量などの運転者による操作に基づいて演算もしくは推定されたものであってもよい。また、「瞬時スポーツ度Iin」とは、車両の走行中における各瞬間毎に、各方向の加速度が求められ、その加速度に基づいて算出される指標という意味であり、いわゆる物理量である。なお、「各瞬間毎」とは、加速度の検出およびそれに基づく瞬時スポーツ度Iinの算出が所定のサイクルタイムで繰り返し実行される場合には、その繰り返しの都度を意味する。
【0035】
また、上記の演算式に用いられる前後加速度Gxのうち、加速側の加速度もしくは減速側(制動側)の加速度(すなわち減速度)の少なくともいずれか一方は、正規化処理されたもの、あるいは重み付け処理したものを用いてもよい。すなわち、一般的な車両では、加速側の加速度に対して減速側の加速度の方が大きいが、その相違は運転者にはほとんど体感もしくは認識されず、多くの場合、加速側および減速側の加速度がほぼ同等に生じていると認識されている。正規化処理とは、このような実際の値と運転者が抱く感覚との相違を是正するための処理であり、前後加速度Gxについては、加速側の加速度を大きくし、あるいは減速側の加速度(すなわち減速度)を小さくする処理である。より具体的には、それぞれの加速度の最大値の比率を求め、その比率を加速側あるいは減速側の加速度に掛ける処理である。もしくは横加速度に対する減速側の加速度を補正する重み付け処理である。要は、タイヤで生じさせることのできる前後駆動力および横力がタイヤ摩擦円で表されるのと同様に、各方向の最大加速度が所定半径の円周上に位置するように、前後の少なくともいずれか一方を重み付けするなどの補正を行う処理である。したがって、このような正規化処理と重み付け処理とを行うことにより、加速側の加速度と減速側の加速度との走行特性に対する反映の程度が異なることになる。そこで重み付け処理の一例として、車両の前後の減速方向の加速度と、車両の前後の加速方向の加速度とのうち、加速方向の加速度の影響度が、減速方向の加速度の影響に対して相対的に大きくなるよう、減速方向の加速度と、加速方向の加速度とを重み付け処理してもよい。なお、横加速度は加速側加速度より大きく現れることがあるので、横加速度についても正規化処理を行ってもよい。
【0036】
このように、加速度の実際値と運転者が抱く感覚とには、加速度の方向によって相違がある。例えばヨーイング方向やローリング方向での加速度と前後加速度とには、そのような相違があることが考えられる。そこでこの発明では、方向が異なる加速度ごとの走行特性に対する反映の程度、言い換えれば、いずれかの方向の加速度に基づく走行特性の変化の程度を、他の方向の加速度に基づく走行特性の変化の程度とは異ならせるように構成することができる。
【0037】
横加速度Gyのセンサ値および上記の正規化処理と重み付け処理とを行った前後加速度Gxをタイヤ摩擦円上にプロットした例を図3に示してある。これは、一般道を模擬したテストコースを走行した場合の例であり、大きく減速する場合に横加速度Gyも大きくなる頻度は多く、タイヤ摩擦円に沿って前後加速度Gxと横加速度Gyとが生じるのは一般的な傾向であることが看て取れる。
【0038】
この発明では、上記の瞬時スポーツ度Iinから指示スポーツ度Iout が求められる。この指示スポーツ度Iout は、走行特性を変更する制御に用いられる指標であり、その算出の元になる前記瞬時スポーツ度Iinの増大に対しては直ちに増大し、瞬時スポーツ度Iinの低下に対して遅れて低下するように構成した指標である。特に、所定の条件の成立を要因として指示スポーツ度Iout を低下させるように構成されている。図4には、瞬時スポーツ度Iinの変化に基づいて求められた指示スポーツ度Iout の変化を示してある。ここに示す例では、瞬時スポーツ度Iinは上記の図3にプロットしてある値で示し、これに対して、指示スポーツ度Iout は、瞬時スポーツ度Iinの極大値に設定され、所定の条件が成立するまで、従前の値を維持するように構成されている。すなわち、指示スポーツ度Iout は、増大側には迅速に変化し、低下側には相対的に遅く変化する指標として構成されている。
【0039】
具体的に説明すると、図4における制御の開始からT1 の時間帯では、例えば車両が制動旋回した場合など、その加速度の変化によって得られる瞬時スポーツ度Iinが増減するが、前回の極大値を上回る瞬時スポーツ度Iinが、前述した所定の条件の成立に先行して生じるので、指示スポーツ度Iout が段階的に増大し、保持する。これに対してt2 時点あるいはt3 時点では、例えば車両が旋回加速から直線加速に移行した場合など、低下のための条件が成立したことにより指示スポーツ度Iout が低下する。このように指示スポーツ度Iout を低下させる条件は、要は、指示スポーツ度Iout を従前の大きい値に保持することが運転者の意図と合わないと考えられる状態が成立することであり、この発明では時間の経過を要因として成立するように構成されている。
【0040】
すなわち、指示スポーツ度Iout を従前の大きい値に保持することが運転者の意図と合わないと考えられる状態は、保持されている指示スポーツ度Iout とその間に生じている瞬時スポーツ度Iinとの乖離が相対的に大きく、かつその状態が継続している状態である。したがって、旋回加速コントロールした場合など、運転者によってアクセルペダル12を一時的に緩めるなどの操作に起因する瞬時スポーツ度Iinによっては指示スポーツ度Iout を低下させずに、緩やかに減速に移行した場合など、運転者によってアクセルペダル12を連続的に緩めるなどの操作に起因する瞬時スポーツ度Iinが、保持されている指示スポーツ度Iout を下回っている状態が所定時間継続した場合に、指示スポーツ度Iout を低下させる条件が成立した、とするように構成されている。このように指示スポーツ度Iout の低下開始条件は、瞬時スポーツ度Iinが指示スポーツ度Iout を下回っている状態の継続時間とすることができ、また実際の走行状態をより的確に指示スポーツ度Iout に反映させるために、保持されている指示スポーツ度Iout と瞬時スポーツ度Iinとの偏差の時間積分値(あるいは累積値)が予め定めたしきい値に達することを指示スポーツ度Iout の低下開始条件とすることができる。なお、そのしきい値は、運転者の意図に合った走行実験やシミュレーションあるいは実車での体験に基づくアンケートの結果などに基づいて適宜に設定できる。後者の偏差の時間積分値を用いるとすれば、指示スポーツ度Iout と瞬時スポーツ度Iinとの偏差および時間を加味して指示スポーツ度Iout を低下させることになるので、実際の走行状態あるいは挙動をより的確に反映した走行特性の変更制御が可能になる。
【0041】
なお、図4に示す例では、上記のt2 時点に到るまでの指示スポーツ度Iout の保持時間が、t3 時点に到るまでの指示スポーツ度Iout の保持時間より長くなっているが、これは以下の制御を行うように構成されているためである。すなわち、前述したT1 の時間帯の終期に指示スポーツ度Iout が所定値に増大させられて保持され、その後、前述した低下開始条件が成立する前のt1 時点に瞬時スポーツ度Iinが増大して、保持されている指示スポーツ度Iout との偏差積分値が予め定めた所定値以下となっている。なお、その所定値は、運転者の意図に合った走行実験やシミュレーションを行って、あるいは瞬時スポーツ度Iinの算出誤差を考慮して適宜に設定できる。このように瞬時スポーツ度Iinが保持されている指示スポーツ度Iout に近くなったということは、その時点の走行状態が、保持されている指示スポーツ度Iout の元になった瞬時スポーツ度Iinを生じさせた加減速状態および/または旋回状態もしくはそれに近い状態になっていることを意味している。すなわち指示スポーツ度Iout を保持されている値に増大させた時点からある程度時間が経過しているとしても、走行状態はその時間が経過する前の時点の走行状態と近似しているので、瞬時スポーツ度Iinが保持されている指示スポーツ度Iout を下回る状態であっても、前述した低下開始条件の成立を遅延させ、指示スポーツ度Iout を従前の値に保持させることとしたのである。その遅延のための制御もしくは処理は、前述した経過時間の積算値(累積値)や偏差の積分値をリセットして、経過時間の積算や前記偏差の積分を再開したり、あるいはその積算値もしくは積分値を所定量減じたり、さらには積算もしくは積分を一定時間中断したりして行えばよい。
【0042】
図5は前述した偏差の積分とそのリセットとを説明するための模式図であり、図5にハッチングを施してある部分の面積が偏差積分値に相当する。その過程で、瞬時スポーツ度Iinと指示スポーツ度Iout との差が所定値Δd以下になったt11時点に積分値がリセットされ、再度、前記偏差の積分が開始される。すなわち、求められた瞬時スポーツ度Iinの値と保持されている指示スポーツ度Iout の値との差が、閾値以下の有無に基づいて、前記積分値がリセットされる。その低下開始条件が成立しないので、指示スポーツ度Iout は従前の値に維持される。そして、積分を再開した後、瞬時スポーツ度Iinが直前の保持されている指示スポーツ度Iout より大きい値になると、指示スポーツ度Iout が瞬時スポーツ度Iinに応じた大きい値に更新され、かつ保持され、前記の積分値がリセットされる。
【0043】
ところで、この発明に係る制御装置では、加速度に基づいて指標を求め、その指標に応じて走行特性を設定するように構成されている。その加速度は、センサによって得られたいわゆる実加速度であってよいが、これに替えて駆動要求量や車速あるいは制動操作量、さらには操舵角度などから演算して求められた推定加速度(あるいは目標加速度)であってもよい。また、実加速度と目標加速度とを併用することとしてもよい。実加速度と目標加速度とを併用する場合、それぞれの加速度に応じて指標(第1の指標および第2の指標)を求め、それらの指標を比較していわゆるスポーツ度が高くなる指標を採用してもよい。例えば、実加速度に基づいていわゆる実瞬時スポーツ度Iinおよびそれに基づく実指示スポーツ度Iout を求める一方、目標加速度に基づいていわゆる目標瞬時スポーツ度Iinおよびそれに基づく目標指示スポーツ度Iout を求め、これら実指示スポーツ度Iout と目標指示スポーツ度Iout とのうち大きい値を採用し、その採用された指示スポーツ度Iout に応じて走行特性を設定してもよい。
【0044】
上述したいわゆる実加速度あるいは推定加速度に基づいて瞬時スポーツ度Iinが算出され、その瞬時スポーツ度Iinから決まる上記の指示スポーツ度Iout は、路面勾配やコーナの有無あるいはその曲率などの走行環境、さらに運転者の運転指向を含んだものとなっている。走行路の状態によって車両の加速度が変化するとともに、走行路の状態によって運転者による加減速操作が行われ、さらにはその加減速操作によって加速度が変化するからである。この発明に係る制御装置は、その指示スポーツ度Iout を車両の走行特性の制御に利用するように構成されている。この発明における走行特性には、加速特性や操舵特性、サスペンション特性、音特性などが含まれ、これらの特性は、前述したスロットルバルブ10の制御特性、変速機13の変速特性、懸架装置4におけるショックアブソーバー5による減衰特性、アシスト機構18のアシスト特性などをそれぞれに設けられているアクチュエータによって変化させることにより適宜に設定される。その走行特性の変化の一般的な傾向は、指示スポーツ度Iout が大きいほど、いわゆるスポーティな走行が可能になる特性の変化である。
【0045】
この発明に係る制御装置は、特に、走行特性を変化させる複数のアクチュエータの制御もしくは制御量を、算出された単一の指標(パラメータ)によって統一的に設定するように構成されている。その例を図1に簡略化したフローチャートによって示してある。ここに示す制御例では、先ず、その時点の走行状態に基づく指標が演算される(ステップS1)。その指標は、一例として前述した瞬時スポーツ度Iin(例えば合成加速度:合成G)であり、したがってその時点における運転者の運転指向や、道路勾配あるいは曲線路などの道路環境などを反映したものとなっている。ついで、走行特性を変更する元データとなる指示スポーツ度Iout が演算される(ステップS2)。なお、これら瞬時スポーツ度Iinおよび指示スポーツ度Iout の演算の仕方は前述したとおりである。
【0046】
この指示スポーツ度Iout に基づいて走行特性が設定される。この指示スポーツ度Iout は、スポーティな走行の要求の度合いを表しているから、その要求に沿うように先ずは、変速特性が補正され(ステップS31)、これに加えてサスペンション機構におけるダンパー特性が補正され(ステップS32)、さらには電動ステアリング機構(EPS)の特性が適時補正される(ステップS33)。これらの補正の仕方もしくは内容の一例を説明すると、自動変速機での基本変速制御は、アクセル開度などで表される駆動要求量(加速要求)とその時点の車速とに基づいて目標変速比もしくは目標入力回転数を求め、その目標値を達成するように所定のアクチュエータを動作させることにより実行される。これらの駆動要求量と車速と目標変速比もしくは目標入力回転数との関係は、車両の設計段階に基本特性として設定されている。ステップS31での補正は、その基本特性を補正するためのものであり、したがって上記の駆動要求量(例えばアクセル開度)と車速と目標変速比もしくは目標入力回転数とのいずれかの値を数値処理して変更すれば、変速制御の内容を変更することができる。例えば基本変速特性で求められる変速比を増大補正し、あるいは車速を減少補正すれば、相対的に大きい変速比(低車速側の変速比)を使用して走行することになり、大きい駆動力あるいは加速性を得て、いわゆるスポーティな走行を行う特性となる。これとは反対に、基本特性で求められる変速比を減少補正し、あるいは車速を増大補正すれば、相対的に小さい変速比(高車速側の変速比)を使用して走行することになり、駆動力あるいは加速性を抑えて、いわゆるマイルドなゆったりとした走行を行う特性となる。
【0047】
このようにして変速特性の補正の内容もしくは補正量が求められた後、変速特性が演算される(ステップS41)。例えば自動変速機を対象とする場合には、その変速線が変更される。図6には、このような補正を有段変速機について行った場合のアップシフト線の変化を模式的に示してあり、実線で示す基本特性で定まるアップシフト線が、指示スポーツ度Iout が大きい場合には、図6の左側に移動させられ、これとは反対に指示スポーツ度Iout が小さい場合には、図6の右側に移動させられる。なお、有段変速機を対象とする場合、アップシフト線に限らず、ダウンシフト線をアップシフト線と同様に変化させてもよい。すなわち、指示スポーツ度Iout が大きい場合には、相対的に大きい変速比を使用するように変速特性を補正する。
【0048】
また一方、ダンパーは、サスペンション機構に設けられて緩衝を行う装置であって、その一例としてシリンダの内部に封入した流体(オイル)の粘性に基づく流動抵抗を利用して緩衝を行うように構成された装置が知られており、この種の装置では、流体が通過する流路の断面積を変更することによりその特性を変化させるように構成されている。すなわち、流路を絞ることによりいわゆる硬い特性となり、反対に流路を広くすることによりいわゆる軟らかい特性となり、従来ではこの特性を連続的に変化させる構成のものや十段階程度に変化させる構成のものが知られている。そして、そのダンパーの特性は、車両の設計段階で予め決められており、その基本特性を補正する補正量が、ステップS32で求められる。具体的には、指示スポーツ度Iout の値が大きいほど、いわゆるスポーティな走行が要求されているものと考えられるので、車体の沈み込みが生じにくくなるように、より硬い特性となる補正量が設定される。反対に、指示スポーツ度Iout の値が小さいほど、いわゆるマイルドな衝撃力の少ない走行が要求されていることになるので、より軟らかい特性となる補正量が設定される。そして、その補正量に基づいてダンパー特性が演算される(ステップS42)。その補正量と指示スポーツ度Iout との関係の一例を模式的に示せば、図7のとおりである。
【0049】
さらに、EPS特性の補正について説明すると、電動ステアリング機構(EPS)は電気的なアシストを行って操舵を滑らかに行うように構成された機構であり、車速や操舵量もしくは操舵速度などに応じて操舵操作に対するアシストを行うことにより、操舵を容易にするように構成されている。そのアシスト量あるいはアシストの内容は、車種毎に予め決められており、ステップS33ではその基本特性を変更する補正量もしくは補正の内容が求められる。その補正量に基づいてEPS特性が演算される(ステップS43)。その補正量と指示スポーツ度Iout との関係の一例を模式的に示せば、図8のとおりである。
【0050】
なお、参考としてエンジン8の出力特性を変更する例について説明すると、図9はアクセル開度Accと電子スロットルバルブ10におけるアクチュエータ11の動作量(すなわちスロットル開度)θthとの関係を示す特性線図であり、実線の曲線が基本特性を示している。アクセル開度Accとスロットル開度θthとが一対一の関係にあれば、図9に直線で示すように、その場合の特性は45°の角度に傾斜した直線で表され、これに対して基本特性は、下側に向けて撓んだ曲線で表される。すなわち、アクセル開度に対してスロットル開度が相対的に小さくなる特性に設定される。こうすることによりアクセル開度が小さい状態では、エンジン出力トルクが相対的に小さくなり、滑らかな発進あるいは加速が可能になる。これに対して、指示スポーツ度Iout が大きく、スポーティな走行が要求されている場合には、アクセル開度Accに対するスロットル開度θthの値が増大補正され、45°に傾斜した直線に近い曲線で示される特性が設定される。これとは反対に指示スポーツ度Iout の値が小さい場合には、アクセル開度Accに対するスロットル開度θthの値が減少補正され、45°に傾斜した直線からより大きく下側に離れた曲線で示される特性が設定される。
【0051】
上述した変速特性の補正やダンパー特性の補正およびEPS特性の補正、さらには電子スロットルバルブ10におけるアクチュエータ11の制御特性の補正などは、上述したようにその時点で設定され、あるいは演算されている単一の指示スポーツ度Iout に応じて実行され、その補正量や補正の内容は、基準となるドライバーによる走行実験やシミュレーションなどに基づいて予め設定することができる。したがって、各特性の補正は、単一の指示スポーツ度Iout に基づいているものの、補正の内容やタイミングあるいは補正の程度などは各特性毎に異なる場合があるが、単一の指示スポーツ度Iout に統合適合したものとなっている。その結果、変速特性およびダンパー特性ならびにEPS特性さらにはエンジンの出力特性のいずれもが、その時点の指示スポーツ度Iout として表されている運転者の運転指向や走行環境に適したものとなり、ひいては車両の全体としての走行特性が、運転者の運転指向や走行環境に適したものとなってドライバビリティが向上する。
【0052】
なお、上述したように、車両の走行状態に基づくパラメータ(指標)によって走行特性を補正すると、走行特性が変化することにより変速特性の変化が生じたり、あるいは駆動トルク特性が変化し、または回頭性や車体の振動特性が変化したりする。このような挙動の変化は運転者の操作によらずに自動的に生じる。一方、車両によっては走行モードをスイッチの手動操作によって選択する機能を備えており、またサスペンション機構による振動の減衰特性や車高をスイッチを手動操作することによって選択する機能を備えている。ここで、走行モードとして変速比の設定の仕方の種類であって、各走行モード毎に加速性あるいは動力性能が異なる。その変速のモードとしては、変速比を車速およびアクセル開度などの走行状態に基づいて自動的に設定し、かつその変速比が最も一般的なオートモード(もしくはノーマルモード)、変速比を手動操作によって選択するマニュアルモード、燃費がよくなる変速比を優先的にかつ自動的に設定するエコモード、発進時の変速比を最大変速比より小さい変速比に制限するスノーモード、車速毎の変速比を他の走行モードに比較して相対的に大きくするパワーモード(スポーツモード)などがある。その一例を図10にブロック図で示してあり、上記の各モードを選択する切替スイッチ30が設けられており、この切替スイッチ30は、変速機用電子制御装置(ECT−ECU)31に電気的に接続され、選択された各モードに対応した信号を変速機用電子制御装置31に入力するように構成されている。
【0053】
また、サスペンション機構でのモードとしては、減衰特性や車高を最も一般的な状態に設定し、かつ車速や振動の状況に応じて減衰特性や車高を自動的に変化させるオートモード(もしくはノーマルモード)、減衰特性を車体の沈み込みが少ない硬い特性とし、かつ車高を低くするスポーツモード、これとは反対に減衰特性を軟らかい特性とし、かつ車高を高くするソフトモードなどがある。このようなモードの選択もしくは切替をおこなうための装置に一例を図11にブロック図で示してあり、上記の各モードを選択する切替スイッチ40が設けられており、この切替スイッチ40は、サスペンション用電子制御装置(SUS−ECU)41に電気的に接続され、選択された各モードに対応した信号をサスペンション用電子制御装置41に入力するように構成されている。
【0054】
これらの各モードは、スイッチ操作によって変更できるものの、所期どおりの走行特性を十分に得ることができず、運転者の意図と合わないシーンがある。そこで、この発明の制御装置は、変速特性やダンパー特性あるいはEPS特性などの走行特性に関わる特性をスイッチ操作などの人為的操作で選択している場合には、前記オートモードが選択されている場合に指示スポーツ度Iout などの走行状態に基づく指標により走行特性を変更するように構成してもよい。
【0055】
また、走行状態を示すパラメータ(指標)もしくは走行状態に基づいて求められたパラメータ(指標)によって走行特性を前述したように統一的(統合的)に補正する場合、変速特性やダンパー特性などの各特性毎の補正量は、前述したように実験やシミュレーションなどによって予め定めることになる。その意味では、補正量あるいは走行特性の補正の内容が固定的もしくは一律になり、個人差のある運転指向との間に僅かな齟齬が生じる可能性がある。そこで、この発明に係る制御装置では、上記の各特性毎の補正量あるいは各特性を人的操作によって微調整できるように構成してもよい。例えば、図12に示すように、ロータリースイッチやスライドスイッチなどのいわゆるボリューム調整機構50を設けるとともに、そのボリューム調整機構50を走行特性制御用の電子制御装置(SPI−ECU)51に電気的に接続し、そのボリューム調整機構50を運転者が操作することにより、上記の補正量もしくは各特性を調整できるように構成してもよい。
【0056】
上述したように、加速度などの車両の走行状態を示す指標もしくは走行状態から求められる指標に基づいて統一的(統合的)に走行状態を変更し、あるいは設定するように構成されているこの発明に係る制御装置によれば、ジャーク(加速度の時間微分値もしくは単位時間あたりの変化量)が予め定めた閾値より小さい場合に、自動的な走行特性の変更を行うように構成してもよい。具体的に説明すると、図13はその制御の一例を説明するためのフローチャートを示しており、ここに示すルーチンは、前述した加速度に基づいて指示スポーツ度Iout が求められるとともに、その指示スポーツ度Iout に応じて所定の走行特性が設定されている状態で、所定の短時間毎に繰り返し実行される。先ず、指示スポーツ度Iout に基づく走行特性の補正が演算される(ステップS101)。なお、この補正には、前述した図10ないし図12に示す機構を手動操作することによる微調整分の補正も含まれる。
【0057】
その補正の対象とされる走行特性には、いわゆるシャシー特性や駆動力特性が含まれ、またそのシャシー特性には、サスペンション機構によるいわゆる懸架特性やパワーステアリング装置による旋回特性などが含まれ、さらに駆動力特性には、エンジンの出力特性や変速機の変速特性などが含まれる。また、このステップS101での補正は、各機構について予め設定されている基本特性を、車両の走行状態を示すパラメータもしくは走行状態から求められるパラメータに応じて補正する処理であり、その例は前述したとおりである。
【0058】
上記のステップS101に続けて、補正実行の条件が成立しているか否かが判断される。ここで説明している走行特性の補正は、車両が走行している状態で、その加速性や回頭性などを手動操作によって変化させることに伴う補正であり、車両が走行しているために、その時点で車両に加減速や旋回が生じている場合である。ここで、運転者の操作変化中に、走行特性の変更とが重畳すると、運転者が意図していない挙動の変化となり、違和感を生じる場合がある。上記の補正実行の条件は、そのような違和感を生じさせることのない条件もしくは違和感を抑制する条件である。図13に示す制御例では、車両が加減速域(加速域および制動域)に入っているか否かが判断される(ステップS102)。その加減速域とは、図3に示すタイヤ摩擦円上に設定した領域であって、合成加速度(瞬時スポーツ度Iin)を決めている加速度のうち、前後加速度Gxの成分割合が横加速度Gyに比べて相対的に大きい領域であり、例えば図3におけるGxの線を中心にして左右に45°±5°に開いた線で囲まれる領域である。なお、この領域は加速側の加速領域として設定されるだけでなく減速側に制動領域として設定される。タイヤ摩擦円上における加減速域以外の領域が旋回領域であり、したがってその旋回領域における横加速度Gyの成分は、加減速域における横加速度Gyの成分より相対的に大きくなっている。
【0059】
車両の走行状態が上記の加減速域に入っていることによりステップS102で肯定的に判断された場合には、その時点のジャーク(加速度の時間微分値もしくは単位時間当たりの変化量)が予め定めた判断基準値α以下か否かが判断される(ステップS103)。このステップS103は車両に生じている時間微分の加速度が安定しているか否かを判断するためのものであり、したがって上記の判断基準値は「0」に近い値であり、「0」の判断に替わる判断として通常行われている判断と同様である。
【0060】
一方、ステップS102で否定的に判断された場合には、指示スポーツ度Iout が大きいか否か(すなわち予め定めた基準値β以上か否か)が判断され(ステップS102−1)、その判断の結果が否定的であれば、上記のステップS103に進み、これとは反対に肯定的であれば、駆動力に関する特性の補正が禁止される(ステップS104)。ステップS102で否定的に判断される場合は、車両の走行状態は前述した旋回領域に入っていることになり、その状態でエンジン出力や変速比などの走行特性変更が大きい場合、運転者に違和感を与えることになるので、駆動力特性の補正を禁止してもよい。つまり、走行特性の変更が、弱いエンジン出力や変速比の場合には、補正は許可される。
【0061】
ステップS103で否定的に判断された場合には、上記のステップS102に戻る。すなわち、ステップS102で肯定的に判断されたように車両が直線走行に近い走行を行っているとしても、ステップS103で否定的に判断されたように、運転者の操作変化中に伴う前後加速度が時間変化している状態では、走行特性の補正の実行に伴って生じる車両の特性変化が、運転者の操作変化に影響した状態になって運転者が違和感を抱く場合がある。そのため、ステップS103で否定的に判断された場合には、ステップS102に戻ることとして、走行特性の補正を実行しないこととしたのである。
【0062】
したがって、前記ジャークが判断基準値α以下であることによりステップS103で肯定的に判断された場合には、走行特性の補正が実行される(ステップS105)。これは、前述したステップS101で演算された補正値に基づいて、エンジンの駆動力や変速機の変速比、サスペンション機構やパワーステアリング装置の特性を決めている基本特性を変更する制御である。その結果、運転者の走行意図が、駆動特性や変速特性あるいは懸架特性などの走行特性に反映される。したがって、その運転者がその車両を運転している間は、運転者が意図し、あるいは期待している走行性能あるいは挙動が得られるので、ドライバビリティが良好なものとなる。
【0063】
さらに、走行特性の補正が保持される(ステップS106)。その走行特性の補正保持は、指示スポーツ度Iout の低下が生じた場合には、解消してもよい。その例を図13に示してあり、ステップS106に続けて指示スポーツ度Iout が低下したか否かが判断される(ステップS107)。指示スポーツ度Iout の低下もしくは減少について、図4を参照して説明したとおりである。このステップS107で否定的に判断された場合にはリターンして、走行特性の補正保持を継続する。これとは反対に、指示スポーツ度Iout が低下もしくは減少してステップS107で肯定的に判断された場合には、走行特性の補正保持を解消し(ステップS108)、その後にリターンする。すなわち、指示スポーツ度Iout に対応する走行特性に設定される。なお、車両のメインスイッチが切られた場合には、その補正をリセットすることが好ましい。
【0064】
この発明の具体例として挙げた上記の制御装置は、走行状態に基づいてパラメータを求め、その単一パラメータによって、車両の挙動に関連する複数のアクチュエータの制御量を統合的もしくは統一的に求めるので、駆動力特性やシャシー特性などで決まる走行特性が、運転者の運転指向に、より適したものとなる。言い換えれば、走行特性を決める複数の制御要因を統合的に求めるので、全体としての走行特性が良好なものとなる。また、そのような走行特性の補正あるいは設定は、駆動力特性を調整するスイッチやシャシー特性を調整するスイッチなど、個別に設けられている複数のスイッチを操作することなく、統合的もしくは統一的におこなうことができるので、運転者が複数のスイッチを操作し、またそれぞれの操作量を相互に関連させて調整するなどの煩わしさを回避もしくは抑制することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…車両、 2…前輪、 3…後輪、 4…懸架装置、 5…ショックアブソーバー、 6…モータ、 7…ブレーキペダル、 8…内燃機関(エンジン)、 10…スロットルバルブ、 11…アクチュエータ、 12…アクセルペダル、 13…変速機、 15…操舵機構、 16…ステアリングホイール、 17…ステアリングリンケージ、 18…アシスト機構、 19…車輪速センサ、 20…アクセル開度センサ、 21…スロットル開度センサ、 22…エンジン回転数センサ、 23…出力回転数センサ、 24…操舵角センサ、 25…前後加速度センサ、 26…横加速度センサ、 27…ヨーレートセンサ、 28…電子制御装置(ECU)、 30…切替スイッチ、 31…変速機用電子制御装置(ECT−ECU)、 40…切替スイッチ、 41…サスペンション用電子制御装置(SUS−ECU)、 50…ボリューム調整機構、 51…走行特性制御用の電子制御装置(SPI−ECU)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行状態に基づいてパラメータを求め、前記車両に搭載されているアクチュエータの制御量をそのパラメータに基づいて決定する車両の制御装置において、
前記パラメータに対する前記制御量を複数のアクチュエータ毎に予め設定しておき、前記パラメータが求められた場合にその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量を求めるとともにその制御量に基づいて各アクチュエータを制御するように構成されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記パラメータは、前記車両に搭載されているセンサによって検出された実測加速度もしくは前記車両に加速度を生じさせる操作機構の操作量から算出される推定加速度に基づいて求められたパラメータを含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記パラメータは、前記車両の前後方向の加速度と横方向の加速度とを合成した合成加速度に基づいて求められたパラメータを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記複数のアクチュエータは、前記車両の駆動力源の出力を変化させる出力制御用アクチュエータと、前記車両に搭載されている変速機の変速比を変化させる変速用アクチュエータと、前記車両に搭載されている操舵機構のアクチュエータと、前記車両に搭載されているサスペンション機構における懸架用アクチュエータもしくは前記車両に搭載されている演出用アクチュエータとの少なくともいずれか二つを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記複数のアクチュエータは、指令信号に対する動作量の関係である動作特性が予め定められており、前記制御量は、その動作特性を変更する制御量を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御量は、前記アクチュエータが動作するタイミングと動作量との少なくともいずれか一方を変更するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記単一のパラメータに基づいて求められる前記制御量を手動操作によって変更する調整機構を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記車両の走行モードを、自動モードと、エコノミーモードもしくはスポーツモードあるいはスノーモードまたはノーマルモードとのいずれかに切り替える切替手段を更に備え、その切替手段によって前記自動モードが選択されている場合に、前記パラメータが求められるとともにその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量が求められかつその制御量に基づいて各アクチュエータが制御されるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項1】
車両の走行状態に基づいてパラメータを求め、前記車両に搭載されているアクチュエータの制御量をそのパラメータに基づいて決定する車両の制御装置において、
前記パラメータに対する前記制御量を複数のアクチュエータ毎に予め設定しておき、前記パラメータが求められた場合にその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量を求めるとともにその制御量に基づいて各アクチュエータを制御するように構成されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記パラメータは、前記車両に搭載されているセンサによって検出された実測加速度もしくは前記車両に加速度を生じさせる操作機構の操作量から算出される推定加速度に基づいて求められたパラメータを含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記パラメータは、前記車両の前後方向の加速度と横方向の加速度とを合成した合成加速度に基づいて求められたパラメータを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記複数のアクチュエータは、前記車両の駆動力源の出力を変化させる出力制御用アクチュエータと、前記車両に搭載されている変速機の変速比を変化させる変速用アクチュエータと、前記車両に搭載されている操舵機構のアクチュエータと、前記車両に搭載されているサスペンション機構における懸架用アクチュエータもしくは前記車両に搭載されている演出用アクチュエータとの少なくともいずれか二つを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記複数のアクチュエータは、指令信号に対する動作量の関係である動作特性が予め定められており、前記制御量は、その動作特性を変更する制御量を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御量は、前記アクチュエータが動作するタイミングと動作量との少なくともいずれか一方を変更するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記単一のパラメータに基づいて求められる前記制御量を手動操作によって変更する調整機構を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記車両の走行モードを、自動モードと、エコノミーモードもしくはスポーツモードあるいはスノーモードまたはノーマルモードとのいずれかに切り替える切替手段を更に備え、その切替手段によって前記自動モードが選択されている場合に、前記パラメータが求められるとともにその単一のパラメータに基づいて前記複数のアクチュエータ毎の制御量が求められかつその制御量に基づいて各アクチュエータが制御されるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−46148(P2012−46148A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192525(P2010−192525)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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