説明

車両の走行制御装置

【課題】ドライバのフィーリングに合致した加速制御を行うことができる車両の走行制御装置を提供する。
【解決手段】走行制御ユニット5は、自車両1が走行中の車線が追越車線であるか否かを判定し、追越車線を走行中であると判定した場合には、自車速Vの加速側への応答性が、追越車線以外の車線(走行車線)を走行中のときよりも相対的に高くなるよう目標加速度aを設定する。これにより、ドライバのフィーリングに合致した加速制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行車の検出状態に応じて、先行車との車間距離を保持する追従走行制御、或いは、ドライバにより設定されたセット車速を保持する定速走行制御の何れかを選択的に実行する車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波レーダ、赤外線レーザレーダ、ステレオカメラや単眼カメラ等を用いて車両前方の車外環境を認識し、認識した車外環境に基づいて自車両の走行制御等を行う走行制御装置について様々な提案がなされている。このような走行制御の機能の一つとして、自車両の前方で先行車を検出(補足)したとき、検出した先行車に対する追従走行制御を行う機能が広く知られている。
【0003】
一般に、この追従走行制御は車間距離制御付クルーズコントロール(ACC:Adaptive Cruise Control)制御の一環として広く実用化されており、このACC制御では、自車両の前方に先行車を検出している状態では追従制御が行われ、先行車を検出していない状態ではドライバが設定したセット車速での定速走行制御が行われる。
【0004】
この種の走行制御装置において、ドライバの意図を反映させた加速制御を行うための技術として、例えば、特許文献1には、先行車に対する追従制御時の目標車間距離を「長」、「中」、「短」の何れかに選択的に設定可能な車両の走行制御装置において、運転者が設定する目標車間距離が短いほど、また運転者による目標車間距離の変化量が大きいほど、また運転者による目標車間距離の変更時間間隔が短いほど、先行車追従制御における応答性を早くする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−335496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術は、単にドライバの設定状態に応じて加速特性を変更するものであり、実際の道路環境等を加速特性に反映したものではないため、必ずしもドライバのフィーリングに合致した加速制御になるとは限らない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ドライバのフィーリングに合致した加速制御を行うことができる車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、先行車を検出する先行車検出手段を備え、当該先行車検出手段による先行車の検出状態に応じて、先行車との車間距離を保持する追従走行制御、或いは、ドライバにより設定されたセット車速を保持する定速走行制御の何れかの走行制御を選択的に実行する車両の走行制御装置であって、前記先行車との関係或いは前記セット車速に基づいて前記走行制御のための目標加速度を設定する目標加速度設定手段と、自車両が走行中の車線が追越車線であるか否かを判定する車線判定手段と、を備え、前記目標加速度設定手段は、前記追越車線を走行中であると判定したときの前記走行制御における自車速度の加速側への応答性が、前記追越車線以外の車線を走行中のときよりも相対的に高くなるよう前記目標加速度を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両の走行制御装置によれば、ドライバのフィーリングに合致した加速制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】車両に搭載した走行制御装置の概略構成図
【図2】目標加速度設定ルーチンを示すフローチャート
【図3】車線種別判定サブルーチンを示すフローチャート
【図4】セット車速に基づく目標加速度演算サブルーチンを示すフローチャート
【図5】先行車に基づく目標加速度演算サブルーチンを示すフローチャート
【図6】各種道路上での走行車線と追越車線とを示す説明図
【図7】相対速度と相対距離とに基づく目標加速度設定用のマップを示す説明図
【図8】走行車線及び追越車線走行時における加速側への応答特性を比較して示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は車両に搭載した走行制御装置の概略構成図、図2は目標加速度設定ルーチンを示すフローチャート、図3は車線種別判定サブルーチンを示すフローチャート、図4はセット車速に基づく目標加速度演算サブルーチンを示すフローチャート、図5は先行車に基づく目標加速度演算サブルーチンを示すフローチャート、図6は各種道路上での走行車線と追越車線とを示す説明図、図7は相対速度と相対距離とに基づく目標加速度設定用のマップを示す説明図、図8は走行車線及び追越車線走行時における加速側への応答特性を比較して示す説明図である。
【0012】
図1において、符号1は自動車等の車両(自車両)を示し、この車両1には、走行制御機能の一つとして車間距離制御機能付クルーズコントロール(ACC:Adaptive Cruise Control)機能を備えた走行制御装置2が搭載されている。
【0013】
この走行制御装置2は、例えば、ステレオカメラ3と、ステレオ画像認識装置4と、走行制御ユニット5と、を一体的に備えたステレオカメラアセンブリ2aを中心として主要部が構成されている。そして、このステレオカメラアセンブリ2aの走行制御ユニット5には、エンジン制御ユニット(E/G_ECU)7、ブレーキ制御ユニット(BRK_ECU)8、トランスミッション制御ユニット(T/M_ECU)9等の各種車載制御ユニットが相互通信可能に接続されている。
【0014】
ステレオカメラ3は、ステレオ光学系として例えば電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた左右1組のCCDカメラで構成されている。これら1組のCCDカメラは、それぞれ車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、撮像した画像情報をステレオ画像認識装置4に出力する。
【0015】
ステレオ画像認識装置4には、ステレオカメラ3からの画像情報が入力されるとともに、例えば、T/M_ECU9から自車速V等が入力される。このステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3からの画像情報に基づいて自車両1前方の立体物データや白線データ等の前方情報を認識し、これら認識情報等に基づいて自車走行路を推定する。さらに、ステレオ画像認識装置4は、認識した立体物データ等に基づいて自車走行路上の先行車検出を行う。
【0016】
ここで、ステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3からの画像情報の処理を、例えば以下のように行う。先ず、ステレオカメラ3で自車進行方向を撮像した1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成する。そして、この距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め記憶しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較することにより、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データ等を抽出する。さらに、ステレオ画像認識装置4は、白線データや側壁データ等に基づいて自車走行路を推定し、自車走行路上に存在する立体物であって、自車両1と略同じ方向に所定の速度(例えば、0Km/h以上)で移動するものを先行車として抽出(検出)する。そして、先行車を検出した場合には、その先行車情報として、先行車距離D(=車間距離)、先行車速度Vf(=(車間距離Dの変化の割合)+(自車速V))、先行車加速度af(=先行車速Vfの微分値)等を演算する。なお、先行車の中で、特に、速度Vfが所定値以下(例えば、4Km/h以下)で、且つ、加速していないものは、停止状態の先行車として認識される。このように、本実施形態において、ステレオ画像認識装置4は、ステレオカメラ3とともに、先行車検出手段としての機能を実現する。
【0017】
ここで、ステレオ画像認識装置4で認識される白線とは、道路上に走行車線を規定するために敷設された境界線(斜線区画線)を意味し、実線、破線を問わず、さらに、黄線等をも含む広義のものを意味する。そして、本実施形態において、ステレオ画像認識装置4は、少なくとも、実線あるいは破線等の種別を含めて白線を認識する。
【0018】
走行制御ユニット5には、例えば、ステレオ画像認識装置4らか車外前方に関する各種認識情報が入力されるとともに、T/M_ECU9から自車速V等が入力される。
【0019】
また、走行制御ユニット5には、例えば、クルーズコントロール用スイッチ15を通じて設定されるドライバの各種設定情報が、E/G_ECU7を介して入力される。本実施形態において、クルーズコントロール用スイッチ15は、例えば、ステアリングに配置されたプッシュスイッチ及びトグルスイッチ等からなる操作スイッチであり、ACCの作動をON/OFFするメインスイッチであるクルーズスイッチ「CRUISE」、ACCを解除するためのキャンセルスイッチ「CANCEL」、その時の自車両の速度をセット車速Vsetとして設定するためのセットスイッチ「SET/−」、先行車と自車両との車間距離のモードを設定するための車間距離設定スイッチ、前回の記憶してあるセット車速Vsetを再セットするためのリジュームスイッチ「RES/+」を有している。なお、本実施形態において、車間距離のモードとしては「長」、「中」、「短」の何れかが設定され、走行制御ユニット5は、例えば、自車速Vに応じて、モード毎に異なる追従目標距離Dtrgを設定する。
【0020】
そして、クルーズコントロール用スイッチ15のクルーズスイッチがオンされ、セットスイッチ等を通じてドライバが希望するセット車速Vsetが設定されるとともに、車間距離設定スイッチを通じて追従目標距離Dtrgの設定のためのモードが設定されると、走行制御ユニット5は、ACCを実行する。
【0021】
このACCとして、走行制御ユニット5は、ステレオ画像認識装置4で先行車が検出されていない場合には、E/G_ECU7及びBRK_ECU8を通じた車速制御により、自車速Vをセット車速Vsetに収束させる定速走行制御を行う。すなわち、走行制御ユニット5は、自車速Vをセット車速Vsetに収束させるための目標加速度a1を演算する。そして、走行制御ユニット5は、基本的には目標加速度a1を最終的な目標加速度aとして設定し、E/G_ECU7を通じて電子制御スロットル弁17の開度制御(エンジンの出力制御)を行うことにより、目標加速度aに応じた加速度を発生させ、自車速Vをセット車速Vsetに収束させる。さらに、走行制御ユニット5は、エンジンの出力制御のみでは十分な加速度(減速度)が得られないと判断した場合に、BRK_ECU8を通じてブレーキブースタ18からの出力液圧制御(ブレーキの自動介入制御)を行うことにより、自車速Vをセット車速Vsetに収束させる。
【0022】
また、定速走行制御中にステレオ画像認識装置4にて先行車を認識した場合、走行制御ユニット5は、追従走行制御へと移行する。すなわち、追従走行制御に移行すると、走行制御ユニット5は、上述の目標加速度a1に加え、車間距離Dを追従目標距離Dtrgに収束させるための目標加速度a2を演算する。そして、走行制御ユニット5は、基本的には目標加速度a1或いはa2のうち何れか小値を最終的な目標加速度aとして設定し、エンジンの出力制御やブレーキの自動介入制御を通じて目標加速度aに応じた加速度を発生させることにより、車間距離Dを追従目標距離Dtrgに収束させる。
【0023】
なお、定速走行制御或いは追従走行制御中において、例えば、自車両1がカーブに浸入した場合やコースト走行を行っている場合等には、上述の目標加速度a1,a2の他にそれぞれ別途の目標加速度を演算することも可能であり、この場合、これらを含めた目標加速度のうち最小値を最終的な目標加速度aとして設定してもよい。
【0024】
ここで、走行制御ユニット5は、ステレオ画像認識装置4からの認識情報に基づいて自車両1が走行中の車線が追越車線であるか否かを判定する。そして、走行制御ユニット5は、自車両1が追越車線を走行中であると判定した場合には自車速Vの加速側への応答性が追越車線以外(走行車線)の車線を走行中のときよりも相対的に高くなるよう目標加速度a(目標加速度a1,a2)を設定する。具体的には、走行制御ユニット5は、例えば、走行車線を走行時の目標加速度a1,a2を基準とし、追越車線を走行時の目標加速度a1,a2の正値(加速側の値)が走行車線を走行時のものよりも相対的に高くなるよう設定する。
【0025】
このように本実施形態において、走行制御ユニット5は、目標加速度設定手段、及び、車線判定手段としての各機能を実現する。
【0026】
次に、ACC中に走行制御ユニット5において実行される目標加速度の設定処理について、図2に示す目標加速度設定ルーチンのフローチャートに従って説明する。
【0027】
このルーチンは、設定時間毎に繰り返し実行されるもので、ルーチンがスタートすると、走行制御ユニット5は、先ず、ステップS101において、自車両1が現在走行中の車線の種別判定を行う。
【0028】
この車線の種別判定は、例えば、図3に示す車線種別判定サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、サブルーチンがスタートすると、走行制御ユニット5は、ステップS201において、自車両1が自車走行路の変更(車線変更)を行った直後であるか否かを調べる。すなわち、走行制御ユニット5は、例えば、ステレオ画像認識装置4からの認識情報に基づいて、自車両1が白線を横切ったか否かを調べることにより、車線変更が行われたか否かを判定する。
【0029】
そして、ステップS201において、自車両1が車線変更を行った直後であると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS202に進み、ステレオ画像認識装置4からの認識情報に基づき、新たに自車走行路となった車線の左側の白線が実線であるか否かを調べる。
【0030】
そして、ステップS202において、自車走行路左側の白線が実線であると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS204に進む。
【0031】
一方、ステップS202において、自車走行路左側の白線が実線でないと判定した場合(すなわち、白線が破線であると判定した場合)、走行制御ユニット5は、ステップS203に進み、自車走行路右側の白線が実線であるか否かを調べる。
【0032】
そして、ステップS203において、自車走行路右側の白線が実線でないと判定した場合(すなわち、白線が破線であると判定した場合)、走行制御ユニット5は、ステップS204に進む。
【0033】
そして、ステップS202、或いは、ステップS203からステップS204に進むと、走行制御ユニット5は、自車両1が現在走行中の車線の種別が走行車線であると判定した後、サブルーチンを抜ける。
【0034】
すなわち、例えば、図6(a)〜(c)に示すように、道路が片側1〜3車線の何れの場合にも、道路上の最も左側に位置する走行車線の左側の白線は、分岐路等がない限りにおいて実線であることが一般的である。従って、ステップS202において左側の白線が実線であると判定された場合、現在自車両1が走行中の車線の種別は走行車線であると判断することができる。また、例えば、図6(c)に示すように、道路が片側3車線である場合、道路上の中央に位置する走行車線の左右の白線は、車線変更が禁止されている区域等を除き、何れも破線であることが一般的である。従って、ステップS202,S203において、左右の白線が破線であると判定された場合、現在自車両1が走行中の車線の種別は走行車線であると判断することができる。
【0035】
一方、ステップS203において、自車走行路右側の白線が実線であると判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS206に進み、自車両1が現在走行中の車線の種別が追越車線であると判定した後、サブルーチンを抜ける。
【0036】
すなわち、例えば、図6(b),(c)に示すように、追越車線は片側2車線以上の道路の右側に存在し、このような追越車線では、分岐路や車線変更が禁止されている区域等を除き、左側の白線が破線であり、右側の白線が実線であることが一般的である。従って、ステップS202で左側の白線が破線と判定され、且つ、ステップS203で右側の白線が実線と判定された場合、現在自車両1が走行中の車線の種別は追越車線であると判断することができる。
【0037】
また、ステップS201において、自車両1が車線変更を行った直後でないと判定した場合、走行制御ユニット5は、ステップS207に進み、現在判定されている車線の種別を維持したまま、サブルーチンを抜ける。すなわち、上述のように、走行車線と追越車線との区別は基本的には左右の白線の状態に基づいて判断することができるが、分岐路や車線変更が禁止されている区域等においては、例外的に誤った判断がされる場合がある。そこで、走行制御ユニット5は、車線変更直後に判定した車線の区別を維持することにより、誤判断を防止する。
【0038】
なお、例えば、図1中に破線で示すように、ナビゲーション装置20及び自車後方を撮像するカメラ21を搭載している車両においては、ナビゲーション情報に基づいて自車両1が現在走行している道路の車線数等の情報を取得し、カメラ21の画像等に基づいて白線を横切ったか否かを判定することで、自車両1が現在道路上のどの車線を走行中であるかを判定することも可能である。
【0039】
図2のメインルーチンにおいて、ステップS101からステップS102に進むと、走行制御ユニット5は、セット車速Vsetに基づく目標加速度a1の演算を行う。
【0040】
この目標加速度a1の演算は、例えば、図4に示す目標加速度演算サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、サブルーチンがスタートすると、走行制御ユニット5は、ステップS301において、自車速Vとセット車速Vsetとの車速偏差Vsrel(=Vset−V)を演算する。
【0041】
続くステップS302において、走行制御ユニット5は、上述のステップS101での判定結果に基づき、自車両1が追越車線を走行中であるか否かを調べる。そして、走行制御ユニット5は、自車両1が追越車線を走行中でない(すなわち、走行車線を走行中である)と判定されている場合にはステップS303に進み、追越車線を走行中であると判定されている場合にはステップS304に進む。
【0042】
そして、ステップS302からステップS303に進むと、走行制御ユニット5は、例えば、車速偏差Vsrelと自車速Vとをパラメータとして目標加速度a1を演算した後、サブルーチンを抜ける。すなわち、走行制御ユニット5には、例えば、車速偏差Vsrelと自車速Vとをパラメータとする走行車線走行時用のマップが予め設定されて格納されており、走行制御ユニット5は、このマップを参照して目標加速度a1を演算する。ここで、目標加速度a1は、例えば、車速偏差Vsrelが正値である場合には、自車速Vに応じて予め設定された上限値の範囲内において、車速偏差Vsrelが大きくなるほど大きな値が設定される。一方、目標加速度a1は、車速偏差Vsrelが負値である場合には、自車速Vに応じて予め設定された下限値の範囲内において、車速偏差Vsrelが小さくなるほど小さな値が設定される(車速偏差sVrelが負側に大きくなるほど減速側に大きな値が設定される)。
【0043】
また、ステップS302からステップS303に進むと、走行制御ユニット5は、例えば、車速偏差Vsrelと自車速Vとをパラメータとして目標加速度a1を設定した後、サブルーチンを抜ける。すなわち、走行制御ユニット5には、例えば、車速偏差Vsrelと自車速Vとをパラメータとする追越車線走行時用のマップが予め設定されて格納されており、走行制御ユニット5は、このマップを参照して目標加速度a1を演算する。ここで、目標加速度a1は、例えば、車速偏差Vsrelが正値である場合には、自車速Vに応じて予め設定された上限値の範囲内において、車速偏差Vsrelが大きくなるほど大きな値が設定されるものであるが、当該目標加速度a1は、走行車線走行時用のマップにおいて対応する値よりも相対的に大きな値に設定される。なお、車速偏差Vsrelが負値である場合の目標加速度a1は、走行車線走行時用のマップに基づくものと同様の値に設定されるものであっても良い。
【0044】
図2のメインルーチンにおいて、ステップS102からステップS103に進むと、走行制御ユニット5は、自車走行路前方に先行車が検出されているか否かを調べ、自車走行路前方に先行車が検出されていないと判定した場合には、ステップS105に進む。
【0045】
一方、ステップS103において、自車走行路前方に先行車が検出されている場合、走行制御ユニット5は、ステップS104に進み、先行車に基づく目標加速度a2を演算した後、ステップS105に進む。
【0046】
この目標加速度a2の演算は、例えば、図5に示す目標加速度演算サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、サブルーチンがスタートすると、走行制御ユニット5は、ステップS401において、現在設定されている車間距離のモードに応じた追従目標距離Dtrgを設定する。すなわち、走行制御ユニット5には、例えば、モード「短」が設定されている場合に、自車速Vをパラメータとして追従目標距離Dtrgを設定するためのマップと、モード「長」が設定されている場合に、自車速Vをパラメータとして追従目標距離Dtrgを設定するためのマップと、が予め設定されて格納されている。ここで、各マップは、自車速Vが大きくなるほど追従目標距離Dtrgを長距離とし、且つ、同一の自車速Vである場合にはモード「長」のときの追従目標距離Dtrgを「短」のときの追従目標距離Dtrgよりも相対的に長距離とするよう設定されている。そして、走行制御ユニット5は、モードが「短」或いは「長」である場合には該当するマップを用いて自車速Vに応じた追従目標距離Dtrgを設定し、モードが「中」の場合にはモードが「短」及び「長」のときに自車速Vに応じてそれぞれ演算される各追従目標距離Dtrgの中間値を追従目標距離Dtrgとして設定する。
【0047】
続くステップS402において、走行制御ユニット5は、追従目標距離Dtrgと車間距離Dとの距離偏差ΔD(=Dtrg−D)を演算する。
【0048】
そして、ステップS402からステップS403に進むと、走行制御ユニット5は、先行車速度Vfと自車速Vとの相対速度Vrel(=Vf−V)を演算した後、ステップS404に進む。
【0049】
ステップS404において、走行制御ユニット5は、自車両1が追越車線を走行中であるか否かを調べる。そして、走行制御ユニット5は、自車両1が追越車線を走行中でない(すなわち、走行車線を走行中である)と判定されている場合にはステップS405に進み、追越車線を走行中であると判定されている場合にはステップS406に進む。
【0050】
そして、ステップS404からステップS405に進むと、走行制御ユニット5は、例えば、距離偏差ΔDと相対速度Vrelとをパラメータとして目標加速度a2を演算した後、ステップS407に進む。すなわち、走行制御ユニット5には、例えば、距離偏差ΔDと相対速度Vrelとをパラメータとする各格子点上に目標加速度a2が設定された走行車線走行時用のマップが格納されており(図7参照)、走行制御ユニット5は、このマップを参照して目標加速度a2を演算する。ここで、図7に示すように、走行車線走行時用のマップ上には、相対速度Vrelと距離偏差ΔDとに応じて、目標加速度a2を加速側の値(正値)とする加速領域と、目標加速度a2を減速側の値(負値)とする減速領域とが設定されている。そして、加速領域において、目標加速度a2は、相対速度Vrelが大きく且つ距離偏差ΔDが大きくなるほど大きな値(加速側に大きな値)が設定される。一方、減速領域において、目標加速度a2は、相対速度Vrelが小さく(相対速度Vrelが負側に大きく)且つ距離偏差ΔDが小さくなるほど小さな値(減速側に大きな値)が設定される。
【0051】
また、ステップS404からステップS406に進むと、走行制御ユニット5は、例えば、距離偏差ΔDと相対速度Vrelとをパラメータとして目標加速度a2を設定した後、ステップS407に進む。すなわち、走行制御ユニット5には、例えば、距離偏差ΔDと相対速度Vrelとをパラメータとする各格子点上に目標加速度a2が設定された追越車線走行時用のマップが格納されており(図7参照)、走行制御ユニット5は、このマップを参照して目標加速度a2を演算する。ここで、追越車線走行時用のマップには、走行車線走行時用のマップと同様、相対速度Vrelと距離偏差ΔDとに応じて、目標加速度a2を加速側の値とする加速領域と、目標加速度a2を減速側の値とする減速領域とが設定されている。そして、加速領域において、目標加速度a2は、相対速度Vrelが大きく且つ距離偏差ΔDが大きくなるほど大きな値(加速側に大きな値)が設定される。一方、負値領域において、目標加速度a2は、相対速度Vrelが小さく(相対速度Vrelが負側に大きく)且つ距離偏差ΔDが小さくなるほど小さな値(減速側に大きな値)が設定される。但し、追越車線走行時用のマップにおいて、加速領域で設定される目標加速度a2は、走行車線走行時用のマップにおいて対応する値よりも相対的に大きな値が設定される。
【0052】
ステップS405或いはステップS406からステップS407に進むと、走行制御ユニット5は、例えば、先行車加速度afと自車速Vとをパラメータとして、目標加速度a2がとり得る上限値a2maxを演算した後、ステップS408に進む。すなわち、走行制御ユニット5には、例えば、先行車加速度afと自車速Vをパラメータとする上限値設定用のマップが予め設定されて格納されており、走行制御ユニット5は、このマップを参照して上限値a2maxを演算する。
【0053】
そして、ステップS407からステップS408に進むと、走行制御ユニット5は、ステップ405或いはステップS406で演算した目標加速度a2に対して、上限値a2maxを用いた上限値処理(クリップ処理)を行った後、サブルーチンを抜ける。
【0054】
図2のメインルーチンにおいて、ステップS103或いはステップS104からステップS105に進むと、走行制御ユニット5は、目標加速度a1,a2に基づいて最終的な目標加速度aを設定した後、ルーチンを抜ける。すなわち、先行車が検出されていない定速走行制御時においては、先行車に基づく目標加速度a2が設定されないため、走行制御ユニット5は、セット車速に基づく目標加速度a1を、そのまま、最終的な目標加速度aとして設定する。一方、先行車が検出されている追従走行制御時においては、走行制御ユニット5は、セット車速に基づく目標加速度a1或いは先行車に基づく目標加速度a2のうち何れか小値を最終的な目標加速度として設定する。なお、本ルーチンでは、説明を省略したが、例えば、自車両1がカーブに浸入した場合やコースト走行を行っている場合等において、上述の目標加速度a1,a2の他に別途の目標加速度が演算されている場合には、これらを含めた目標加速度のうち最小値を最終的な目標加速度aとして設定してもよい。
【0055】
このような実施形態によれば、自車両1が走行中の車線が追越車線であるか否かを判定し、追越車線を走行中であると判定した場合には、自車速Vの加速側への応答性が、追越車線以外の車線(走行車線)を走行中のときよりも相対的に高くなるよう目標加速度aを設定することにより、ドライバのフィーリングに合致した加速制御を行うことができる。
【0056】
すなわち、走行車線走行時における目標加速度aの特性を基準とし、自車両1が追越車線へと車線変更した際には、自車速Vの加速側への速度変化の応答性が相対的に高くなるよう目標加速度aを設定することにより、実際の走行場面に対応した走行制御を実現することができる。具体的には、例えば、走行車線上で追従走行中の自車両1が追越車線へと車線変更を行うことにより先行車の離脱を判定して追従走行から定速走行へと移行する場合等においては、走行車線走行時よりも相対的に短時間でセット車速まで加速することができる。また、例えば、自車両1が走行車線から追越車線へと車線変更を行った際に当該追越車線において先行車を検出した場合にも、走行車線走行時よりも相対的に短時間で車間距離Dを追従目標距離Dtrgまで収束させることができる。従って、走行車線においては過剰な加速によるドライバへの違和感を抑制しつつ、追越車線においては応答性の高い加速性を発揮して他の車両等の流れに適合した走行を実現することができる(図8参照)。
【0057】
ここで、上述の実施形態においては、目標加速度a1,a2の設定に際し、それぞれ特性の異なる2つのマップを用いた一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、走行車線走行時に設定される目標加速度a1,a2に対し、所定のゲイン(>1)を乗算することにより、追越車線走行時の目標加速度a1,a2を設定するよう構成することも可能である。
【0058】
また、特に追従走行制御時における走行車線と追越車線とで速度変化の応答性を異ならせるための構成としては、例えば、走行制御ユニット5において、追越車線を走行中であると判定したときの目標車間距離が、追越車線以外の車線(走行車線等)を走行中のときよりも相対的に短くなるよう設定する構成を採用することも可能である。
【0059】
また、例えば、片側3車線以上を有する道路のように、走行車線が2車線以上存在する道路においては、走行車線における目標加速度a1,a2についても、段階的な差異を設けることも可能である。すなわち、道路上最も左側に位置する走行車線の目標加速度a1,a2を基準として、追越車線側に近い走行車線ほど、加速時の目標加速度a1,a2が大きい値となるよう設定してもよい。
【0060】
なお、上述の実施形態は、法規上左側走行の道路を走行する場合の走行制御装置の一例について説明するものであり、法規上右側走行の道路に適用する場合には、左右の設定等が適宜逆に設定され得ることは云うまでもない。
【0061】
また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。例えば、先行車検出手段については、ステレオカメラを用いた上述の構成に限定されるものではなく、ミリ波レーダ、赤外線レーザレーダ、単眼カメラ等を適宜用いて構成することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 … 車両(自車両)
2 … 走行制御装置
2a … ステレオカメラアセンブリ
3 … ステレオカメラ(先行車検出手段)
4 … ステレオ画像認識装置(先行車検出手段)
5 … 走行制御ユニット(目標加速度設定手段、車線判定手段、目標車間距離設定手段)
15 … クルーズコントロール用スイッチ
17 … 電子制御スロットル弁
18 … ブレーキブースタ
20 … ナビゲーション装置
21 … カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行車を検出する先行車検出手段を備え、当該先行車検出手段による先行車の検出状態に応じて、先行車との車間距離を保持する追従走行制御、或いは、ドライバにより設定されたセット車速を保持する定速走行制御の何れかの走行制御を選択的に実行する車両の走行制御装置であって、
前記先行車との関係或いは前記セット車速に基づいて前記走行制御のための目標加速度を設定する目標加速度設定手段と、
自車両が走行中の車線が追越車線であるか否かを判定する車線判定手段と、を備え、
前記目標加速度設定手段は、前記追越車線を走行中であると判定したときの前記走行制御における自車速度の加速側への応答性が、前記追越車線以外の車線を走行中のときよりも相対的に高くなるよう前記目標加速度を設定することを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記車線判定手段は、自車両が走行中の車線の左右に敷設された白線の形態に基づいて自車両が走行中の車線の種別を判定することを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記追従走行制御時の目標車間距離を設定する目標車間距離設定手段を有し、
前記目標車間距離設定手段は、前記追越車線を走行中であると判定したときの前記目標車間距離が、追越車線以外の車線を走行中のときよりも相対的に短くなるよう設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−66758(P2012−66758A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214856(P2010−214856)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】