説明

車両の運転制御装置および運転制御方法

【課題】車両走行に影響する運転環境の変動に対しドライバの運転操作が急変しても即座に応答し得るような車両の運転制御装置および方法を提供する。
【解決手段】自車両の走行に影響を与える運転環境の状態を検出する環境状態検出部32と、環境状態検出部32の検出情報に基づいて、運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化を予測運転パターンとして予測するパターン選択部33と、予測された予測運転パターンに基づき、自車両の運転状態をドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適した運転状態に制御する制御部34とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転制御装置および運転制御方法、特に、燃費向上やドライバ(運転者)の負担軽減のための制御を行う車両の運転制御装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車等の車両においては、燃費向上やドライバの負荷軽減のための各種の制御を選択的に実行するものが多くなっている。例えば、燃費向上のために、自動変速機の前進走行レンジが選択されている状態で車両が停止したときに発進クラッチ等を解放させるニュートラル制御や、一時停車した場合など停車時間が数秒間を超えるとエンジンを停止させて燃料消費と排気ガス放出を抑えるアイドルストップ制御等がなされている。また、ドライバの負担軽減のため、例えば所定の設定速度に設定すると運転中にアクセルペダルを踏まなくても車速を自動的に設定速度に制御することができるクルーズコントロールや、自車両が他車両に接近した場合に自車両を減速させることで車間距離を所定距離に制御する車間距離制御、車線維持のための操舵力(ステアリングホイールの操作力)を補助する車線維持アシスト制御等がなされている。
【0003】
従来のこの種の車両の運転制御装置および方法としては、例えば2台以上の車両のうち先導車両のドライバが先導車両のみならず追従車両をも自動運転することができる牽引モードを設定し、追従車両を先導車両との相対位置情報や先導車両の操作情報に基づいて自動運転制御するようにしたもの(例えば、特許文献1参照)や、制御遅れを改善するために先後の車両の車間距離および相対加速度の差(偏差)に基づく減速制御を行うとともに、その相対加速度偏差の将来値(予測値)をも用いる判定処理を実行することで、必要時に減速制御を早期に開始することができるようにしたもの(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0004】
また、車間距離制御のための加速によって補助操舵トルクが不足して車線維持機能が低下するのを防止するべく、車間距離制御のための加速を車線維持可能な速度範囲内で実行するようにしたもの(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0005】
さらに、先行車両の計測情報を蓄積して各路面位置情報とその路面の状態を表わす情報とを関連付け、制御対象車両の前方の路面状態(路面の凹凸や勾配、摩擦係数等)を制御対象車に送信して自動変速機の変速タイミングやショックアブソーバのばね定数等を制御するもの(例えば、特許文献4参照)や、先行車両からの減速度データを後続車両側で受信し、その減速度データに基づいて自車両の減速度を先行車両に一致させるようにしたもの(例えば、特許文献5参照)も知られている。
【特許文献1】特開平07−200991号公報
【特許文献2】特開2001−310649号公報
【特許文献3】特開2003−48450号公報
【特許文献4】特開2004−151910号公報
【特許文献5】特開2005−297612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来の車両の運転制御装置および方法にあっては、例えばニュートラル制御中は、発進時の加速応答性を確保するために発進クラッチを実質的に半係合(半クラッチ状態に係合)させる必要があり、最大限の燃費改善効果を得ることが困難であった。また、ニュートラル制御を実行しない場合の発進と比較すると、加速応答性が悪化するばかりか、そのためにドライバによる加速要求(アクセルペダルの踏込み量)が増大し易く、クラッチやブレーキ等の摩擦係合要素の係合によるニュートラル制御解除時の変速ショックが大きくなり、それを抑制するための他の制御との多大な適合調整工程が必要になっていた。
【0007】
さらに、現在の車両の状況から適切なギヤ段を判断して変速制御を行っても、ドライバの操作が急変することで新たなギヤ段を選択する必要が生じるような場合に、変速制御の応答遅れによりギヤ段形成が遅れたりいわゆる変速ビジー状態に陥ってしまったりすることによって、ドライバビリティーが悪化してしまうという問題もあった。すなわち、自動変速機内のクラッチやブレーキ等の係合要素の制御は瞬時に完了させることができず、遅れを生じるため、ドライバの急操作に対応して電子制御ユニット側から信号出力される指示値が急変すると、係合要素の状態切替えがその変化に追従できず、特に複数の指示値の変更を伴うときには大きな遅れになり易いという問題があった。
【0008】
また、クルーズコントロールや車間距離制御のような特定の運転制御モードでは、運転支援を行うことである程度燃費改善やドライバの負担軽減を図ることができても、そのモードが解除されドライバの操作が主となる通常の運転制御状態においては、上述のようなドライバによる急操作に対して的確で迅速な制御を実行することが困難であった。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の未解決の課題に鑑みてなされたもので、各種の制御を必要時に的確なタイミングで実行させることができる運転制御方法を実現し、燃費改善やドライバの負担軽減を図りながらも、ドライバによる急操作に対して的確で迅速な運転制御を実行することのできる車両の運転制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両の運転制御装置は、上記目的達成のため、(1)自車両の走行に影響を与える運転環境の状態を検出する環境状態検出手段と、前記環境状態検出手段の検出情報に基づいて、前記運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化を予測する運転操作予測手段と、前記運転操作予測手段の予測結果に基づき、前記運転操作の変化に先立って該変化に適するよう自車両の運転状態を制御する制御手段と、を備えたものである。
【0011】
この構成により、走行に影響を与える運転環境の変動に対してドライバの運転操作が変化するとき、その変化が予測され、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態が制御される。したがって、運転環境の変動に対してドライバによる急操作がなされても、それに対し必要な運転制御が的確なタイミングで実行可能となり、的確で迅速な運転制御を実行することができる。なお、本発明にいう運転環境の変動は、主にドライバが視覚又は聴覚によって認識することのできる運転環境の変動情報であるが、車両の挙動として体感できる変動情報であってもよいし、ドライバが注意しないと気付かない路面情報や通信で得られるが未だドライバに認識できない他車両の操作の情報等であってもよい。
【0012】
上記構成を有する車両の運転制御装置においては、(2)前記運転操作予測手段が、前記運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化として予測される複数の予測運転パターンを記憶する予測運転パターン記憶手段と、前記環境状態検出手段の検出情報に基づいて、前記運転環境の変動が検出されたとき前記複数の予測運転パターンのうちいずれかを自車両の所定時間内の予測運転パターンとして選択するパターン選択手段と、によって構成されているのが好ましい。
【0013】
この構成により、運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化として予測される複数の予測運転パターンが予め記憶され、運転環境の状態の検出情報に基づいて複数の予測運転パターンのうちいずれかが自車両の所定時間毎の予測運転パターンとして選択され、その選択された予測運転パターンに基づいて、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態が制御される。したがって、ドライバによる急操作に対してもそれに必要な運転制御を的確かつ迅速に判定でき、的確で迅速な運転制御を実行することができる。なお、予測運転パターン記憶手段には、前記運転環境の変動に対する複数の予測運転パターンと併せて、前記運転環境の変動が生じないときのドライバの運転操作として予測される運転パターンを記憶させてもよく、前記運転環境の変動が生じないときにパターン選択手段がそのとき予測される運転パターンを選択するようにしてもよい。
【0014】
上記(2)の構成を有する車両の運転制御装置においては、(3)前記複数の予測運転パターンが、走行速度が互いに異なるパターンで変化する運転パターンとして設定されているのがよい。
【0015】
この構成により、運転環境の変動に対してなされるドライバの操作を、それによって要求される複数の走行速度の変化パターンとして容易にかつ的確にパターン化することができ、ドライバの急操作に対して的確に応答できる予測運転パターンとすることができる。
【0016】
さらに、上記(3)の構成を有する車両の運転制御装置においては、(4)前記複数の予測運転パターンが、自車両についての減速による走行停止、減速直後の加速、加速直後の減速、停止状態からの発進、発進直後の停止、および、発進直前のうちいずれかの運転状態を表わすように設定されているものであってもよい。
【0017】
この場合、運転環境の変動に対してドライバの急操作がなされても、運転環境の変動に対して予測される予測運転パターンが、自車両についての減速による走行停止、減速直後の加速、加速直後の減速、停止状態からの発進、発進直後の停止、および、発進直前のうちいずれかとして確実に予測可能となり、ドライバの急操作に対して的確に応答できる運転状態制御が可能となる。なお、予測運転パターン記憶手段に前記運転環境の変動が生じないときに予測される運転パターンを併せて記憶させる場合には、その予測される運転パターンとして自車両の加速の継続と停止の継続とを含めることができる。
【0018】
上記(2)〜(4)のいずれかの構成を有する車両の運転制御装置においては、(5)前記制御手段が、前記パターン選択手段により選択された予測運転パターンに対して、ニュートラル制御およびアイドルストップのうちいずれかの制御の要否を判定し、不必要と判定された制御を禁止するのが望ましい。
【0019】
この構成により、例えば運転環境の変動に対して発進がなされる直前に、ニュートラル制御を禁止して通常制御に復帰させたり、アイドルストップを解除してエンジンを再始動させたりすることができ、ドライバの発進操作に対して応答遅れが生じるのを未然に防止することができる。
【0020】
上記(2)〜(5)のいずれかの構成を有する車両の運転制御装置においては、また、(6)前記制御手段が、前記パターン選択手段により選択された予測運転パターンに対して、ニュートラル制御、アイドルストップ、自動変速機の変速タイミング制御、自動変速機内の油圧制御のうちいずれかの制御の要否を判定し、必要と判定された制御を前記ドライバの運転操作の変化に先立って早期に開始するのがよい。
【0021】
この場合、運転環境の変動に対し減速停止操作がなされる場合に、停止前にニュートラル制御に移行させたり、この減速停止操作の場合や減速直後に加速操作がなされる場合に早目のダウンシフトやそれを可能にするようダウンシフト側のクラッチ隙間を縮小させたりする油圧制御を行うといったことが可能になり、さらに、加速直後に減速操作がなされる直前や減速停止操作がなされる直前にアップシフトを禁止することで減速度を確保することができ、いわゆる変速ビジー状態に陥るのを防止することができる。また、停止が続く場合にニュートラル制御に係る発進クラッチを完全解放させたり、アイドルストップを実行したりすることができ、発進がなされる直前にニュートラル制御からの復帰やエンジン再始動に移行させることができる。
【0022】
上記(1)〜(6)のいずれかの構成を有する車両の運転制御装置においては、(7)前記環境状態検出手段が、自車両の走行速度に影響を与える運転環境の変動の情報を検出するのが好ましい。
【0023】
この構成により、運転環境の変動に対して減速や加速を要求する急な操作がされ易いが、そのような急操作に対して的確で迅速な運転制御が可能となる。
【0024】
上記(1)〜(7)のいずれかの構成を有する車両の運転制御装置においては、(8)前記環境状態検出手段が、自車両の周辺を走行する他車両との間の車間距離の縮小、自車両に先行する先行車両の減速操作、信号機の表示状態の変化、自車両の前方領域の路面状態の変化、自車両の前方領域への物体の進入のうちいずれかを検出するものであってもよい。
【0025】
この場合、ドライバによる急操作に結びつき易い運転環境の変動を的確に検出することができることになる。
【0026】
本発明に係る車両の運転制御方法は、上記目的達成のため、(9)自車両の走行に影響を与える運転環境の状態を検出する環境状態検出段階と、前記環境状態検出段階での検出情報に基づいて、前記運転環境の変動が検出されたときその直後のドライバの運転操作の変化を予測する運転操作予測段階と、前記運転操作予測手段の予測結果に基づき、前記運転操作の変化に先立って該変化に適するよう自車両の運転状態を制御する制御段階と、を含むものである。
【0027】
この方法では、走行に影響を与える運転環境の変動に対してドライバの運転操作が変化するとき、その変化を伴う運転パターンを予測して、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態を制御する。したがって、ドライバによる急操作に対してもそれに必要な運転制御を的確なタイミングで実行することができ、的確で迅速な運転制御を実行することができる。
【0028】
本発明に係る車両の運転制御方法は、また、(10)前記運転操作予測段階が、前記運転環境の変動に対するドライバの運転操作として予測されるパターンを複数の予測運転パターンとして記憶する予測運転パターン記憶段階と、前記環境状態検出段階での検出情報に基づいて、前記運転環境の変動が検出されたとき前記複数の予測運転パターンのうちいずれかを自車両の所定時間内の予測運転パターンとして選択するパターン選択段階と、を含むのが好ましい。
【0029】
この場合、運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化として予測される複数の予測運転パターンを予め記憶しておき、運転環境の状態を検出して、その検出情報に基づいて複数の予測運転パターンのうちいずれかを自車両の所定時間毎の予測運転パターンとして選択する。そして、その選択した予測運転パターンに基づいて、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態を制御する。したがって、ドライバによる急操作に対してもそれに必要な運転制御を的確かつ迅速に判定し、的確で迅速な運転制御を実行することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る車両の運転制御装置によれば、走行に影響を与える運転環境の変動に対してドライバの運転操作が変化するとき、その変化を伴う運転パターンが予測され、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態が制御されるので、運転環境の変動に対してドライバによる急操作がなされてもそれに対し必要な運転制御が的確なタイミングで実行可能となり、燃費改善やドライバの負担軽減を図りながらもドライバによる急操作に対して的確で迅速な運転制御を実行することができる。
【0031】
また、運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化として予測される複数の予測運転パターンが予め記憶され、運転環境の状態の検出情報に基づいて複数の予測運転パターンのうちいずれかが自車両の所定時間毎の予測運転パターンとして選択されるようにすれば、ドライバによる急操作に対してもそれに必要な運転制御を的確かつ迅速に判定し、的確で迅速な運転制御を実行することができる。
【0032】
本発明に係る車両の運転制御方法によれば、自車両の走行に影響を与える運転環境の変動に対してドライバの運転操作が変化するときの運転パターンを予測し、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態を制御するので、ドライバによる急操作に対してもそれに必要な運転制御を的確なタイミングで実行することができ、的確で迅速な運転制御を実行することができる。
【0033】
また、運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化として予測される複数の予測運転パターンを予め記憶しておき、運転環境の状態を検出し、その検出情報に基づいて複数の予測運転パターンのうちいずれかを自車両の所定時間毎の予測運転パターンとして選択するようにすれば、ドライバによる急操作に対してもそれに必要な運転制御をより的確かつ迅速に判定することができ、的確で迅速な運転制御を実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0035】
(第1の実施の形態)
図1から図5は本発明に係る車両の運転制御装置の一実施形態を示す図である。
【0036】
まず、その構成について説明すると、図1に示すように、本実施形態の車両(全体は図示していない自動車)は、原動機であるエンジン11と、このエンジン11からの動力を図示しない車輪(走行出力部)側に伝達する自動変速機12とを搭載しており、自動変速機12は、トルクコンバータ14、歯車変速機構15及び油圧制御部16によって構成されている。
【0037】
詳細は図示しないが、エンジン11には、公知の多気筒内燃機関と同様に、その各気筒にピストンで仕切られた燃焼室が形成されており、吸気弁と排気弁が所定のタイミングで開閉するよう装備されるとともに、燃焼室内に露出するよう点火プラグが配置されている。また、吸気マニホルドにより形成される吸気通路の上流側にはスロットルバルブが設けられ、この吸気通路から各気筒の燃焼室までの間に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)が設けられている。
【0038】
トルクコンバータ14は、シェルカバー14sを介してエンジン11の出力軸11aに連結されたポンプインペラ14a(入力側部材)と、このポンプインペラ14aに対向するとともに歯車変速機構15の変速機入力軸61に連結されたタービンランナ14b(出力側部材)と、ポンプインペラ14a及びタービンランナ14bの間に位置するステータ14cと、シェルカバー14s内に収容された作動油(図示していない)とを含んで構成されており、エンジン11の出力軸11aにより駆動される入力側のポンプインペラ14aの回転によって作動油の流れが生じるとき、タービンランナ14bがその流れの慣性力を受けて歯車変速機構15(ギヤトレーン)の変速機入力軸61を回転させる。また、ステータ14cによりタービンランナ14bからポンプインペラ14aに戻る作動油の流れを整流させることで、ステータ14cの反力によるトルク増幅作用を生じさせるようになっている。トルクコンバータ14には、また、入力側のポンプインペラ14a及びシェルカバー14sと出力側のタービンランナ14bとを選択的に相互に拘束可能なロックアップクラッチ14dが設けられており、機械式クラッチを併用することでトルク伝達効率を高めることができる。さらに、ステータ14cは、ワンウェイクラッチ14eを介して歯車変速機構15側に支持され、前記反力を受ける構造となっている。
【0039】
歯車変速機構15は、例えば図2に上半部をスケルトンで示すような遊星歯車式のギヤトレーンで構成されたもので、タービンランナ14bからの回転を入力する変速機入力軸61と、前進用クラッチC1(発進クラッチ)によりワンウェイクラッチf4を介して変速機入力軸61に選択的に連結されるとともに、前進用クラッチC4によりエンジンブレーキ時に変速機入力軸61に連結される第1回転軸62と、第1回転軸62の軸方向に隣り合うように配置された第1プラネタリギヤ51、第2プラネタリギヤ52および第3プラネタリギヤ53とを備えている。
【0040】
第1プラネタリギヤ51は、変速機入力軸61を取り囲む円筒状の第3回転軸64に固定されたサンギヤS1と、ブレーキB2の係合によって変速機ケース15hに係止され、ブレーキB2の解放時に回転可能となるリングギヤR1と、サンギヤS1およびリングギヤR1に噛合するダブルピニオンP1a、P1bと、ワンウェイクラッチf1を介して変速機ケース15hに一方向回転可能に支持されるとともにダブルピニオンP1a、P1bを回転自在に保持し、ブレーキB3の係合によって変速機ケース15hに係止されるキャリアCr1とによって構成されている。
【0041】
第2プラネタリギヤ52は、変速機入力軸61に固定されたサンギヤS2と、第1プラネタリギヤ51のリングギヤR1に固定され、ブレーキB2の係合時に変速機ケース15hに係止される一方、ブレーキB2の解放時には回転可能となるリングギヤR2と、サンギヤS2およびリングギヤR2に噛合するピニオンP2と、ワンウェイクラッチf3を介して変速機ケース15hに一方向回転可能に支持されるとともにピニオンP2を回転自在に保持し、ブレーキB4の係合によって変速機ケース15hに係止されるキャリアCr2とによって構成されている。また、キャリアCr2はクラッチC2を介して変速機入力軸61に選択的に連結される第2回転軸63に固定されており、第2回転軸63と一体回転するようになっている。
【0042】
第3プラネタリギヤ53は、変速機入力軸61に固定されたサンギヤS3と、第2プラネタリギヤ52のキャリアCr2に固定され、ブレーキB4の係合時に変速機ケース15hに係止される一方、ブレーキB4の解放時には回転可能となるリングギヤR3と、サンギヤS3およびリングギヤR3に噛合するピニオンP3と、ピニオンP3を回転自在に保持し、ピニオンP3の公転運動に伴って回転するキャリアCr3とによって構成されている。また、キャリアCr3は変速機出力軸65に固定されており、変速機出力軸65と一体回転するようになっている。
【0043】
ここで、クラッチC1、C2、C3およびC4とブレーキB1、B2、B3およびB4とは、歯車変速機構15で形成すべき変速段に応じて、油圧制御部16によりそれぞれの係合状態と解放状態とを切り換えられるようになっている。また、その変速段は主として車速とスロットル開度をパラメータとするシフトパターンに従って、TCC(トランスミッションコントロールコンピュータ)30により決定される。歯車変速機構15の変速機出力軸65の回転は、図示しないディファレンシャルギヤを介して車輪側に伝達される。
【0044】
油圧制御部16は、詳細を図示しないが、例えば、複数のソレノイドバルブ86、87および88と、リニアソレノイドバルブ(電磁比例バルブ)であるソレノイドバルブ86の出力圧に応じて前進用クラッチC1の作動油圧を制御するクラッチ圧力制御回路81と、始動スイッチがONとなるのに連動して励磁されるソレノイドバルブ87によって液圧操作され、クラッチC4を解放させる作動油圧を調圧するクラッチ解放制御回路82と、リニアソレノイドバルブ88によって(電磁比例バルブ)の出力圧に応じてB2ブレーキB2の作動油圧を制御するブレーキ圧力制御回路83等を含んで構成されている。
【0045】
ここで、ソレノイドバルブ86〜88および他の油圧作動式の摩擦係合要素を制御するソレノイドバルブ(以下、ソレノイドバルブ86〜88等という)は、それぞれ要求変速段に応じた所定の組合せで励磁駆動されるようになっており、TCC30によるそれらソレノイドバルブ86〜88等への駆動電流制御によって、歯車変速機構15内のクラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4が所定のシフトパターンに即した最適な変速段を形成するように制御される。
【0046】
一方、図1に示すように、エンジン11には、図示しないアクセルペダルの踏込み量を検知するアクセル開度センサ21と、図示しないスロットルバルブの開度TVOを検出するスロットル開度センサ22と、エンジン11の冷却水の温度を検出する水温センサ23と、エアフローメータ等の吸入空気量センサ24と、所定角度毎のクランク回転を検出可能なクランク角センサからなるエンジン回転数センサ25とが装着されている。
【0047】
また、図示しない車体側には、ブレーキペダルの踏込み量又はブレーキペダルに加えられる踏力を検出するブレーキペダルセンサ26と、車室内に設けられたシフトレバーのアップ・ダウン操作を検出するシフト位置センサ27とが装着されている。
【0048】
トルクコンバータ14の出力側にはタービンランナ14bの回転速度に相当する回転数Ntを検出するタービン回転数センサ28が設けられており、歯車変速機構15の出力側には変速機出力軸65の回転速度を検出する車速センサ29が設けられている。
【0049】
さらに、本実施形態の車両には、車体の水平姿勢からの前後方向への傾きを検出する勾配センサ41と、車両の加速度を検出する加速度センサ42と、レーダセンサ43と、前方カメラ44とが設けられている。ここで、前方カメラ44は、例えば車体前方側の左右にカメラを配置した公知のステレオカメラ方式のものであり、車両前方をそれぞれのカメラで撮像した画像データを所定の画像処理プログラムによって処理し、歩行者や路面の凹凸等の変化を立体的な画像として把握することができるようになっている。また、ドライバの視野領域についての撮像のみならず、その外側(左右両側や路面側、上方側、後方側)の領域についても撮像することで、ドライバによる運転環境の変動の視認に先立ってその変動(例えば信号の変化、車両前方領域への進入物)を検出できるようにその解像度や配置が設定されている。
【0050】
これらセンサ群21〜29および41〜44の検出情報はそれぞれ、エンジンコントロールコンピュータ(以下、ECCという)と一体に構成されたTCC30に取り込まれるようになっている。TCC30には、さらに、交通情報等の外部情報を取り込む通信ポートが設けられており、この通信ポートには、例えば先行車両から発進される先行車両の運転操作情報である減速操作情報や、通行規制を加える信号機の切換わりの開始情報、左右から自車両の前方に進入しようとする車両等から発せられる車両信号、前方領域の位置情報(例えばGPS(Global Positioning System);全地球測位システム)で検出される自車位置より進行方向側の一定範囲内)に対応する情報として外部から通信入力することができる路面変動位置や交通規制の信号設置位置等の注意情報等が取り込まれるようになっている。
【0051】
このTCC30は、具体的なハードウェア構成を図示しないが、CPU、ROM、RAM、B−RAM(バックアップRAM)、A/Dコンバータ、定電圧電源及び通信IC等を含んで構成されており、図外の他の電子制御システムのコントロールコンピュータからの信号等を取り込む。そして、TCC30は、油圧制御部16内の複数のソレノイドバルブ86〜88等のバルブ切換え位置を制御することにより、シフト位置、車速、スロットル開度及び車両の走行状態に応じて、歯車変速機構15の変速点制御やトルクコンバータ14のロックアップ制御、ロックアップクラッチ14dに微妙な滑りを生じさせるフレックスロックアップ制御等を実行するとともに、エンジン発生トルクに応じて最適なライン油圧になるよう自動変速機12のライン油圧制御を実行するようになっている。これらの自動変速のための制御自体は、公知のものと同様である。
【0052】
TCC30は、さらに新規な複数の機能部として、センサ群21〜29および41〜44と協働してセンサ情報や通信情報を基に自車両の走行に影響を与える運転環境の状態を検出する環境状態検出部32(環境状態検出手段)と、ROMやEEPROM等からなり、運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化として予測される複数の予測運転パターンを記憶する予測運転パターン記憶部31(予測運転パターン記憶手段)と、環境状態検出部32での検出情報に基づいて複数の予測運転パターンのうちいずれかを自車両の所定時間毎の予測運転パターンとして選択することで現時点の直後のドライバの運転操作を予測するパターン選択部33(パターン選択手段、運転状態予測手段)と、そのパターン選択手段により選択された予測運転パターンに基づき、運転環境の変動に対してドライバの運転操作が変化するのに先立ってその変化に適合するように自車両の運転状態を制御する制御部34(制御手段)と、を備えている。
【0053】
具体的には、TCC30の環境状態検出部32は、センサ群21〜29および41〜44からの情報を基に、自車両の走行速度に影響を与える運転環境の変動の有無を判定したりそのための演算を実行するようになっており、例えば自車両の周辺を走行する他車両との間の車間距離の縮小、自車両に先行する先行車両の減速操作、信号機(踏切の遮断機等を含む)の表示状態の変化、自車両の前方領域の路面状態(路面の凹凸、濡れた路面や雪道のような摩擦係数の異なる路面の出現等)の変化、自車両の前方領域への何らかの物体(人や動物であってもよい)の進入のうちいずれかを検出することができるようになっている。
【0054】
また、TCC30の予測運転パターン記憶部31に記憶格納された複数の予測運転パターンは、車両走行速度が互いに異なるパターンで変化する運転パターンとして設定されており、例えば図3に示すように番号付の矢線で示すように、自車両の減速による走行停止パターン(1)、自車両の減速直後の加速パターン(2)、自車両の加速直後の減速パターン(3)、自車両の減速・停止からの発進パターン(4)、発進直後の停止パターン(5)、加速の継続パターン(6)、停止状態の継続パターン(7)、発進直前パターン(8)のうちいずれかの運転状態を表わすように設定されている。
【0055】
さらに、TCC30の制御部34は、パターン選択部33により選択した予測運転パターンに対して、ニュートラル制御およびアイドルストップのうちいずれかの制御の要否を判定し、不必要と判定された制御を禁止するようになっている。
【0056】
また、TCC30の制御部34は、パターン選択部33により選択した予測運転パターンに対して、ニュートラル制御、アイドルストップ、自動変速機の変速タイミング制御、自動変速機内の油圧制御のうちいずれかの制御の要否を判定するようになっており、必要と判定された制御がドライバによる運転操作の変化に先立って早期に開始されるようにその制御プログラムが構成されている。
【0057】
より具体的には、例えば図4(a)および図4(b)に示すように、上述した予測運転パターン(1)〜(8)に対してそのときの制御部34での制御内容を対応付ける制御規則が、パターン選択部33の一部を構成するROM等に記憶されており、TCC30の制御部34を構成するCPUがこれを実行することになる。
【0058】
ここにいうニュートラル制御、アイドルストップ、自動変速機の変速タイミング制御および自動変速機内の油圧制御は、いずれも公知の制御と同様なものであるので、詳述しないが、ニュートラル制御は、自動変速機12の前進用クラッチC1、C4を解放または所定のスリップ状態にして、ニュートラルに近い状態にする制御で、自動変速機の前進走行レンジ(D)が選択されている状態で車両が所定条件(例えば、アクセルオフ、ブレーキオン、ブレーキマスタシリンダ圧が所定値以上、かつ、車速が所定値以下)で停止したときに実行される。また、アイドルストップ制御は、車両運転中に所定のストップ条件が成立するときにドライバの操作によらずエンジン11を燃料カット等により自動停止し、このエンジン11の自動停止中に所定の復帰条件が成立するとエンジン11を自動始動するものであり、例えば一時停車した場合などに停車時間が数秒間を超えるとエンジンを停止させて燃料消費と排気ガス放出を抑えるようになっている。
【0059】
自動変速機12の変速タイミング制御は、例えばクルーズコントロールにおいて、所定の設定速度に設定すると運転中にアクセルペダルを踏まなくても車速を自動的に設定速度に制御するようなものであるが、本実施形態では、クルーズコントロールのような特定の運転モードでのみ実施されるのではなく、通常の運転状態において、運転環境の変動に対応する予測運転パターンに基づいて短時間だけ予測される変速を先行させるタイミング制御である。例えば、変速や発進が必要な運転環境の変動に対して運転者の操作に先立ってそのアップシフトまたはダウンシフトを先行させるような変速制御である。
【0060】
また、自動変速機12の変速制御は自動変速機12内部の複数の摩擦係合要素であるクラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4等によってなされるが、各クラッチやブレーキにおいては、油圧多板クラッチのピストンが供給油圧に応じて所定のストローク範囲内でリターンスプリングの付勢力に抗して変位し、一方の要素にスプライン結合状態で支持された複数の摩擦板と他方の要素にスプライン結合状態で支持された複数の摩擦板とが互いに挟圧されることで締結・係合状態となる。また、油圧多板クラッチのピストンが供給油圧の低下または解放に伴ってリターンスプリングの付勢力により押し戻されると、一方の回転要素に支持された複数の摩擦板と他方の回転要素に支持された複数の摩擦板との挟圧状態が解けることで解放状態となる。
【0061】
本実施形態における自動変速機12内の油圧制御では、比例電磁型のソレノイドバルブを用いることで、前記クラッチまたはブレーキに供給する作動油圧を変化させ、それによって前記摩擦板間に摺動自在となる以上の実質的な隙間が生じる完全解放状態と、その摩擦板間の隙間がなく前記一方及び他方の要素間に実質的な滑り(相対回転)が生じない締結・係合状態までの間に、摩擦板間の隙間が前記所定値未満であって一方及び他方の要素間に一定の滑り(相対回転)が得られる半係合状態を設定できるようにしている。また、前記完全解放状態から半係合状態に至るまでの間に、例えばクラッチ又はブレーキの作動油圧を制御するソレノイドバルブの不感帯相当の範囲内で、そのクラッチ又はブレーキの
すなわち、作動油圧を制御することで、前記クラッチまたはブレーキの完全解放状態から半係合状態に近い滑り状態にまで前記隙間を詰める制御(以下、クラッチパック詰めという)が実行できるようになっている。
【0062】
次に、その作用と本発明の車両の運転制御方法の一実施形態について説明する。
【0063】
上述のように構成された本実施形態の運転制御装置では、TCC30のROM内に図5に概略の流れを示すような制御プログラムが格納されており、このプログラムに従って、車両の運転時に以下のような制御が実行される。
【0064】
まず、センサ群21〜29および41〜44からの情報を基に、自車両の走行に影響を与える運転環境の変動が生じているか否かの判定とそのための演算処理がなされ、通常のドライバの状況判断および操作に要する時間より短い所定時間毎にTCC30内で変動情報の有無がチェックされる。そして、車両の運転中にその運転環境の変動が生じると、その変動に対するドライバの運転操作に先立って、自車両の走行に影響を与えるその運転環境の変動が環境状態検出手段としてのTCC30内で検出される(ステップS11;変動情報検出段階)。
【0065】
次いで、運転環境の状態の検出情報に基づいて自車両の所定時間毎の予測運転パターンとなるかが判断され、現在時刻の直後の車両運転状態として複数の予測運転パターン(1)〜(8)のうちいずれの予測運転パターンが選択され(ステップS12;予測運転パターン選択段階;運転操作予測段階)、その選択された予測運転パターンに基づいて、ドライバによる運転操作の変化に先立つに足る短時間のうちに、その変化に適するよう不必要な制御の禁止と必要な制御の早期実施を可能にする制御信号が生成されて出力される(ステップS13;制御段階)。すなわち、予測運転パターンの選択という形で運転環境の変動に対するドライバの運転操作の急な変化が的確に推定され、低燃費でありながらも応答性に優れ、かつ安全な制御が実行される。
【0066】
具体的には、予測運転パターン(1)〜(8)に対し図4(a)および図4(b)に示す制御規則で対応付けられた制御が実行される。
【0067】
例えば、前方を走行していた先行車両が停止したり、前方所定距離範囲内において信号機が停止信号(例えば赤信号)に変化したり歩行者が前方の路面上を横断していたりすると、減速停止パターン(1)と判定され、図4(a)に示すように、クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4のうち、現在のギヤ段からのダウンシフトに要するいずれかに対して前記クラッチパック詰めが実行され、ドライバによるダウンシフト要求操作時には即座に応答できるようにする制御がなされ、ドライバによるダウンシフト要求操作時には早目にダウンシフトさせることで減速度が確保される。また、停止前からニュートラル制御(同図中では便宜的にN制御とも記している)が開始されて駆動輪側への動力伝達が制限され、さらにドライバによる制動操作によって停車後にローギヤ側にダウンシフトすることで、変速ビジー状態となることが防止される。
【0068】
また、例えば一定の車間距離を保って走行している場合に、先行車両が加速し、かつ、自車両が未加速の状態になるか、前方の信号機が停止又は減速を要する信号表示から進行を許容する信号表示に変化するか、あるいは、前方の路面上を横断していた歩行者が横断を終了しているといった状態になると、すぐに加速する運転パターンである加速パターン(2)と判定され、クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4のうち、現在のギヤ段からのダウンシフトに要するいずれかに対して前記クラッチパック詰めが実行され、ドライバによりアクセルペダルが踏み込まれて加速要求が出されたときに、その操作に即座に応答してダウンシフトできるようにする制御がなされる。これにより加速応答性が向上する。
【0069】
また、一定の車間距離を保って走行している場合に、先行車両が減速操作(ブレーキランプ表示がなされるか、先行車両からの制動操作信号が出るか)するか、先行車両との間の車間距離が縮まってしまったとき、あるいは、前方の路面上に歩行者もしくは何らかの物体が飛び出したといったようなときには、すぐに減速する運転パターンである減速パターン(3)と判定され、アップシフトが禁止されることによって減速度が確保され、減速直後で変速ビジーとなるような事態が未然に防止される。
【0070】
また、自車両が停止直前の減速中か停止直後に先行車両が発進又は加速したり、信号機が進行を許容する信号表示に切り換わったりすると、一旦停止してもすぐに発進する運転パターンである発進パターン(4)と判定され、ニュートラル制御が禁止されるとともに、アイドルストップが禁止される。これにより、発進要求操作時の応答性が向上する。
【0071】
自車両が発進・加速した直後に、先行車両が停止したり、信号機が停止信号に切り換わったり、歩行者が前方の路面上を横断したりすると、すぐに減速・停止する運転パターンである停止パターン(5)と判定される。このときには、アップシフトが禁止されることによって減速度が確保され、加速直後の減速で変速ビジーとなる事態が未然に防止される。
【0072】
また、自車両が発進した直後で先行車両が加速しているような状態、あるいは信号機が進行可能を表わす信号表示(例えば青信号)のままで加速している状態等であれば、加速が続く運転パターンである加速継続パターン(6)と判定され、この場合には、通常の加速時の制御と同様な制御がなされる。
【0073】
一方、信号機の停止信号が続いている状態や先行車両が停止している状態、歩行者が前方路面上を横断している状態、踏切の遮断状態等であって、自車両の停止を継続する必要がある場合は、図4(b)に示すように、停止が続く運転パターンである停止継続パターン(7)と判定される。このとき、発進クラッチである前進用クラッチC1、C4が完全に解放されるとともに、アイドルストップのための燃料カット等が実行される。したがって、燃費を向上させることができる。
【0074】
また、停止状態で発進クラッチ解放やアイドルストップがなされた状態で信号機が停止信号から通過を許容する信号に変化したり、歩行者が前方路面上を横断し終わって先行車両が発進したりして、自車両の停止継続が不必要となったような場合には、発進する直前の運転パターンである発進直前パターン(8)と判定される。このとき、アイドルストップ状態が解除されてエンジン11が再始動されるとともに、発進クラッチである前進用クラッチC1、C4が完全解放状態のニュートラル制御状態から復帰される。したがって、運転者がアクセルペダル操作等により発進操作を開始するときには、即座に応答可能となり、ペダル操作時等にエンジンを再始動するような従来方式に比べて応答性が向上するとともに、応答性の悪さによってアクセルペダル操作が大きくなることがなく、発進時の自動変速機12のショックが有効に抑制される。
【0075】
このように、本実施形態においては、自車両の走行に影響を与える運転環境の変動に対するドライバの運転操作として予測されるパターンを複数の予測運転パターン(1)〜(8)としてTCC30のROM等に記憶する予測運転パターン記憶段階と、センサ群21〜29および41〜44からの情報を基に運転環境の状態を検出する環境状態検出段階と、その環境状態検出段階での検出情報に基づいて複数の予測運転パターン(1)〜(8)のうちいずれかを自車両の所定時間毎の予測運転パターンとして選択するパターン選択段階と、そのパターン選択段階で選択された予測運転パターンに基づいて、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態を制御する制御段階とを含む車両の運転制御方法が実行され、パターン選択段階で運転環境の変動直後のドライバの運転操作の変化を伴う運転パターンを推定する処理が実行される。
【0076】
したがって、この方法では、運転環境の変動に対応して選択した予測運転パターンに基づいて、運転環境の変動直後のドライバの運転操作の変化を的確に把握し、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態を制御することによって、ドライバによる急操作に対してもそれに必要な運転制御を的確なタイミングで実行することができ、的確で迅速な運転制御を実行することができる。
【0077】
すなわち、この方法を使用する本実施形態の車両の運転制御装置では、運転環境の変動を基に予測運転パターンを判定し、それに必要な運転制御が的確なタイミングで事前に実行されることから、運転環境の変動に対するドライバの急な操作がなされても、それに対して的確で迅速な運転制御を実行することができる。また、運転環境の変動に対して減速や加速を要求する急な操作がされ易いが、そのような急操作に対しても、上述のように的確で迅速な運転制御が可能となる。
【0078】
しかも、予測運転パターンは例えば1秒程度の短時間の経過後に予測される運転パターンであり、ドライバによる急操作に結びつき易い運転環境の変動を各種センサ情報や通信情報を基に的確に検出することができるので、的確な制御が実行可能となる。
【0079】
また、運転環境の変動に対してなされるドライバの操作を、それによって要求される複数の走行速度の変化パターンとしてパターン化することから、ドライバの急操作に対して的確に応答できる予測運転パターンとすることができる。
【0080】
特に、運転環境の変動に対して予測される予測運転パターンとして、自車両の減速による走行停止パターン(1)、自車両の減速直後の加速パターン(2)、自車両の加速直後の減速パターン(3)、自車両の停止状態からの発進パターン(4)、発進直後の停止パターン(5)、加速の継続パターン(6)、停止状態の継続パターン(7)および発進直前パターン(8)のうちいずれかとして確実に予測可能となり、ドライバの急操作に対して的確に応答でき、かつ他の操作状態についても燃費面から好ましい運転状態制御が実行できることとなる。
【0081】
また、運転環境の変動に対して発進がなされる直前にニュートラル制御からの復帰を実行したりアイドルストップの解除を実行したりすることで、ドライバの発進操作に対して応答遅れが生じるのを未然に防止することができる。さらに、運転環境の変動に対し減速停止操作がなされる場合に、停止前にニュートラル制御に移行させたり、その減速停止操作の場合や減速直後に加速操作がなされる場合に、早目のダウンシフトやそれを可能にするようダウンシフト側のクラッチ隙間(不感帯分の締め代等)を縮小したりする油圧制御を行うといったことで、応答性を高めることができる。
【0082】
さらに、加速直後に減速操作がなされる直前や減速停止操作がなされる直前にアップシフトを禁止することで減速度を確保することができ、いわゆる変速ビジー状態に陥るのを防止することができる。また、停止が続く場合にニュートラル制御に係る発進クラッチを完全解放させたり、アイドルストップを実行したりすることができ、発進がなされる直前には、ニュートラル制御からの復帰やエンジン再始動に移行させることができ、発進時の応答性向上と発進クラッチ係合時のショック軽減を図ることができる。
【0083】
なお、上述の実施形態においては、外部からの情報の多くを前方カメラの画像データから把握するものとしたが、例えば先行車両や横断車両からのクラクションの音波をセンサで検出したときにも減速停止パターン(1)と判定し予測運転パターンを選択するといったこともできる。また、通信情報として、通路規制中の信号機の表示切換えの情報を取り込んだり、GPS検知可能な地点毎にその地点に関連付けて外部情報源に蓄積された各地点情報や路面状態情報、信号機や遮断機等の敷設機器の作動情報等をより多く取り込んだりすることで、現在時刻から数秒以内の短時間の操作状態の予測に留まらない予測を実行することも考えられる。例えば、トンネルや大型の地下駐車場の出入り口のように運転環境が急変することが予想される地点での路面状態等の運転環境の変動を天候情報や時刻情報その他通信情報に基づいて予測しておき、その地点に達した際に予測されるドライバの運転操作の予測に反映させることで、予測パターンを補正するようなことも考えられる。
【0084】
以上説明したように、本発明に係る車両の運転制御装置および方法は、運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化として予測される複数の予測運転パターンを予め記憶しておくことで、運転環境の状態の検出情報に基づいて複数の予測運転パターンのうちいずれかを自車両の所定時間毎の予測運転パターンとして選択し、その選択された予測運転パターンに基づいて、ドライバの運転操作の変化に先立ってその変化に適するよう自車両の運転状態を制御するようにしているので、ドライバによる急操作に対してもそれに必要な運転制御を的確なタイミングで実行することができ、的確で迅速な運転制御を実行することができ、車両の経済的かつ安全な運転を可能にすることができるという効果を奏するものであり、燃費向上やドライバ負担軽減のための制御を行う車両の運転制御装置や運転制御方法の全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の運転制御装置を示すその概略ブロック構成図である。
【図2】一実施形態における自動変速機とその油圧制御装置の概略構成図である。
【図3】一実施形態における複数の予測運転パターンを説明する説明図である。
【図4】一実施形態における複数の予測運転パターンとそれに対応する制御の概要を表形式で説明する図である。
【図5】一実施形態における運転制御プログラムのフローチャートである。
【符号の説明】
【0086】
11 エンジン
11a 出力軸
12 自動変速機
14 トルクコンバータ
14a ポンプインペラ
14b タービンランナ
14c ステータ
14d ロックアップクラッチ
14e ワンウェイクラッチ
14s シェルカバー
15 歯車変速機構
15h 変速機ケース
16 油圧制御部
21 アクセル開度センサ
22 スロットル開度センサ
23 水温センサ
24 吸入空気量センサ
25 エンジン回転数センサ
26 ブレーキペダルセンサ
27 シフト位置センサ
28 タービン回転数センサ
29 車速センサ
30 TCC
31 予測運転パターン記憶部(予測運転パターン記憶手段、運転操作予測手段)
32 環境状態検出部(環境状態検出手段)
33 パターン選択部(パターン選択手段、運転操作予測手段)
34 制御部(制御手段)
41 勾配センサ
42 加速度センサ
43 レーダセンサ
44 前方カメラ(ステレオカメラ)
51 第1プラネタリギヤ
52 第2プラネタリギヤ
53 第3プラネタリギヤ
61 変速機入力軸
62 第1回転軸
63 第2回転軸
64 第3回転軸
65 変速機出力軸
81 クラッチ圧力制御回路
82 クラッチ解放制御回路
83 ブレーキ圧力制御回路
86、87、88 ソレノイドバルブ
B1、B2、B3、B4 ブレーキ(摩擦係合要素)
C1 前進用クラッチ(発進クラッチ;摩擦係合要素)
C2、C3 クラッチ(摩擦係合要素)
C4 前進用クラッチ(摩擦係合要素)
Cr1、Cr2、Cr3 キャリア
f1、f2、f3、f4 ワンウェイクラッチ
P1a、P1b ダブルピニオン
R1、R2、R3 リングギヤ
S1、S2、S3 サンギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行に影響を与える運転環境の状態を検出する環境状態検出手段と、
前記環境状態検出手段の検出情報に基づいて、前記運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化を予測する運転操作予測手段と、
前記運転操作予測手段の予測結果に基づき、前記運転操作の変化に先立って該変化に適するよう自車両の運転状態を制御する制御手段と、を備えた車両の運転制御装置。
【請求項2】
前記運転操作予測手段が、
前記運転環境の変動に対するドライバの運転操作の変化として予測される複数の予測運転パターンを記憶する予測運転パターン記憶手段と、
前記環境状態検出手段の検出情報に基づいて、前記運転環境の変動が検出されたとき前記複数の予測運転パターンのうちいずれかを自車両の所定時間内の予測運転パターンとして選択するパターン選択手段と、によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の運転制御装置。
【請求項3】
前記複数の予測運転パターンが、走行速度が互いに異なるパターンで変化する運転パターンとして設定されていることを特徴とする請求項2に記載の車両の運転制御装置。
【請求項4】
前記複数の予測運転パターンが、自車両についての減速による走行停止、減速直後の加速、加速直後の減速、停止状態からの発進、発進直後の停止、および、発進直前のうちいずれかの運転状態を表わすように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の車両の運転制御装置。
【請求項5】
前記制御手段が、前記パターン選択手段により選択された予測運転パターンに対して、ニュートラル制御およびアイドルストップのうちいずれかの制御の要否を判定し、不必要と判定された制御を禁止することを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の車両の運転制御装置。
【請求項6】
前記制御手段が、前記パターン選択手段により選択された予測運転パターンに対して、ニュートラル制御、アイドルストップ、自動変速機の変速タイミング制御、自動変速機内の油圧制御のうちいずれかの制御の要否を判定し、必要と判定された制御を前記ドライバの運転操作の変化に先立って早期に開始することを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1項に記載の車両の運転制御装置。
【請求項7】
前記環境状態検出手段が、自車両の走行速度に影響を与える運転環境の変動の情報を検出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の車両の運転制御装置。
【請求項8】
前記環境状態検出手段が、自車両の周辺を走行する他車両との間の車間距離の縮小、自車両に先行する先行車両の減速操作、信号機の表示状態の変化、自車両の前方領域の路面状態の変化、自車両の前方領域への物体の進入のうちいずれかを検出することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の車両の運転制御装置。
【請求項9】
自車両の走行に影響を与える運転環境の状態を検出する環境状態検出段階と、
前記環境状態検出段階での検出情報に基づいて、前記運転環境の変動が検出されたときその直後のドライバの運転操作の変化を予測する運転操作予測段階と、
前記運転操作予測手段の予測結果に基づき、前記運転操作の変化に先立って該変化に適するよう自車両の運転状態を制御する制御段階と、を含む車両の運転制御方法。
【請求項10】
前記運転操作予測段階が、
前記運転環境の変動に対するドライバの運転操作として予測されるパターンを複数の予測運転パターンとして記憶する予測運転パターン記憶段階と、
前記環境状態検出段階での検出情報に基づいて、前記運転環境の変動が検出されたとき前記複数の予測運転パターンのうちいずれかを自車両の所定時間内の予測運転パターンとして選択するパターン選択段階と、を含むことを特徴とする請求項9に記載の車両の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−213699(P2008−213699A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55217(P2007−55217)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】