説明

車両位置姿勢推測装置

【課題】最終的な計算精度を高めることができる車両位置姿勢推測装置を提供すること。
【解決手段】本発明による車両位置姿勢推測装置1は、車両の加速度を検出する車両挙動検出手段2cと、車両の車輪の車輪速を検出する車輪速検出手段2dと、GPS速度を検出するGPS速度検出手段2eと、車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定する判定手段2fと、判定手段2fが車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合に、加速度と車輪速に基づいて、車速を計算する計算手段2gを備えるとともに、判定手段2fが車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、計算手段2gが、加速度とGPS速度に基づいて車速を計算することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、トラック、バス等の車両に適用して好適な車両位置姿勢推測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両には、運転者が入力した目的地を含む探索条件と、GPS(Global Positioning System:全地球方位システム)により検出した又はINS(Inertial Navigation System)により計算した車両の位置とに基づいて走行予定経路を探索して運転者に案内して、利便性を高めるために運転補助を行うシステムとして、カーナビゲーションシステムが搭載される場合がある。
【0003】
このようなINSにおいては、加速度センサにより検出した加速度に基づいて、車速及び車両の移動距離が計算され、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレートにより車両の向きが計算された後、移動距離及び車両の向きにより車両の位置及び姿勢が計算されている。
【0004】
このような計算においては主に積分計算が行われており、各センサの検出値にはドリフトやオフセット等の誤差が含まれているため、INSとしての最終的な車両の位置及び姿勢の計算精度を高めるために、特許文献1に記載されているようなカルマンフィルタによりこの誤差を推測して検出値を正値に近づけることも行われているが誤差を完全に無くすことはできないため、加速度に基づいて計算された中間段階における車速については、車輪速センサにより検出した車輪速により補正することが行われている。
【特許文献1】特開平8−68654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このようなINSにおいては、中間段階の車速の補正に車輪速を用いているため、車両の車輪のいずれかにおいて、スリップ又はロックが発生した場合においては、補正の基準となる車輪速が、車両の実際の車速を正しく表す値ではなくなるため、INSとしての最終的な車両の位置及び姿勢の計算精度を高めることができないという問題が依然としてあった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、最終的な計算精度を高めることができる車両位置姿勢推測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するため、本発明に係る車両位置姿勢推測装置は、
車両の加速度を検出する車両挙動検出手段と、前記車両の車輪の車輪速を検出する車輪速検出手段と、GPS速度を検出するGPS速度検出手段と、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定する判定手段と、前記判定手段が前記車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合に、前記加速度と前記車輪速に基づいて、車速を計算する計算手段を備えるとともに、前記判定手段が前記車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、前記計算手段が、前記加速度と前記GPS速度に基づいて車速を計算することを特徴とする。
【0008】
なおここで、前記加速度とは、前記車両位置姿勢推測装置は、車両前後方向の加速度又は車幅方向の加速度である。また、前記GPS速度とは、前記GPSを構成するアンテナが受信した複数の衛星からの電波の波長の伸長に基づいて、GPSドップラと言われる手法により検出される車速である。
【0009】
ここで、前記車両位置姿勢推測装置において、
前記計算手段が、前記加速度の時間積分に基づいて車速を計算するとともに、前記判定手段が前記車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合に、前記車輪速を用いて前記車速を補正し、前記判定手段が前記車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、前記GPS速度を用いて前記車速を補正することが好ましい。
【0010】
これによれば、前記判定手段により前記車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定される場合においては、一般的に検出周期が短く検出の容易な項目である前記車輪速を用いて、前記計算手段が前記車速の補正を行い、前記判定手段により前記車輪のスリップ又はロックが発生していると判定される場合には、前記車輪速よりも正確である前記GPS速度を用いて、前記計算手段が前記車速の補正を行うことができる。
【0011】
さらに、前記車両位置姿勢推測装置において、
前記車両挙動検出手段が、前記車両の角速度を検出するとともに、前記補正された前記車速と前記角速度を用いて、車両の位置及び姿勢を推測する推測手段を備えることが好ましい。
【0012】
これによれば、補正された後のより正確な前記車速を用いて、前記推測手段が前記車両の位置及び姿勢を推測することができるので、前記推測手段による前記車両の位置及び姿勢の推測にあたっての精度を高めることができる。
【0013】
さらに、前記車両位置姿勢推測装置において、
前記判定手段が、前記GPS速度と前記車輪速の比較に基づいて、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定することが好ましい。
【0014】
これによれば、各車輪の前記車輪速の平均値を車速とみなして、平均値と前記車輪の前記車輪速との比較に基づいて、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定することに比べて、前記スリップ又はロック等の車両の挙動に影響を受けないいわゆる絶対情報である前記GPS速度を車速とみなして、前記GPS速度と前記車輪との比較に基づいて、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定することから、前記判定をより容易且つ確実に行うことができる。
【0015】
さらに、前記車両位置姿勢推測装置において、
前記車輪を駆動輪とすることが好ましい。
【0016】
これによれば、前記車両の各車輪のうちよりスリップ又はロックしやすい駆動輪の車輪速と、前記GPS速度との比較に基づいて、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定することにより以下の作用効果を得ることができる。
【0017】
すなわち、前記スリップ又はロックが発生した時点から、前記駆動輪の車輪速の前記GPS速度に対しての偏差が、前記判定に用いられる判定閾値よりも大きくなる時期が、前記駆動輪以外の車輪速の前記GPS速度に対しての偏差が前記判定閾値よりも、大きくなる時期よりも早いことに起因して、前記判定をより早期に行うことができる。
【0018】
また、前記スリップ又はロックの発生の程度が小さい又は発生時間が短い場合においては、前記駆動輪以外の車輪速の前記GPS速度に対する偏差が前記判定閾値よりも大きくならない場合も存在するので、前記駆動輪の車輪速を前記判定に用いることにより、前記判定の感度を高めることができるとともに、前記判定をより容易且つ確実に行うことができる。
【0019】
さらに、前記車両位置姿勢推測装置において、
前記判定手段が、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定する場合に、前記GPS速度検出手段の前記GPS速度の検出周期間において、前記計算手段が前記車速の補正に用いる前記GPS速度を補完する補完手段を備えることが好ましい。
【0020】
これによれば、前記GPS速度検出手段の前記GPS速度の検出周期間、すなわち所定のサンプリング周期における前記GPS速度検出手段による検出タイミングの間において、前記GPS速度の検出値がリアルタイムでは前記計算手段により取得できない状況においても、前記補完手段が、前記計算手段が前記車速の補正に用いる前記GPS速度を補完するので、これにより、前記計算手段が前記車速の補正を適宜行うことができる。
【0021】
さらに、前記車両位置姿勢推測装置において、
前記補完手段が、前記検出周期間において前記計算手段が前記車速の補正に用いる前記GPS速度を、前記検出周期間の前の検出タイミングにおいて前記GPS速度検出手段が検出した前記GPS速度とすることが好ましい。
【0022】
これによれば、前記判定手段が、前記車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合においては、前記車輪に対して路面から作用する力が前記スリップ又はロックが発生していない場合に比べて十分に小さく、前記車両の車速は変化していないとみなせることを利用して、前記補完手段による、前記計算手段が前記車速の補正に用いる前記GPS速度の補完をより簡易な手段にて行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、最終的な計算精度を高めることができる車両位置姿勢推測装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明に係わる車両位置姿勢推測装置の一実施形態を示す模式図である。車両位置姿勢推測装置1は、カーナビゲーションECU2(Car Navigation Electronic Control Unit)には、GPSアンテナ3(Global Positioning System:全地球測位システム)と、加速度センサ4と、ヨーレートセンサ5と、ステアリングセンサ6と、受信機7と、データベース8と、ディスプレイ9と、タッチパネル10とを備えて構成される。さらに、カーナビゲーションECU2には、ABS11(Anti-lock Brake System)がCAN(Controller Area Network)等の通信規格により接続される。
【0026】
ここで、カーナビゲーションECU2は、例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを相互に接続するデータバスと入出力インターフェースから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、以下に述べるそれぞれの制御を行う探索手段2a、表示手段2b、車両挙動検出手段2c、車輪速検出手段2d、GPS速度検出手段2e、判定手段2f、計算手段2g、補完手段2h、推測手段2iとして機能するものである。
【0027】
また、GPSアンテナ3は、地球上空に打ち上げられた複数の衛星からの電波を受信するものであって、加速度センサ4は車両の前後方向の加速度を検出するものであり、ヨーレートセンサ5は車両のヨーレートすなわち車両の鉛直軸周りの角速度を検出するものであり、さらに、ステアリングセンサ6は操舵装置の操舵角を検出するものであり、受信機7は光あるいは電波ビーコンに準拠したものであり、VICS(Vehicle Information & Communication System:道路交通情報システム)からの道路情報を受信する。加えて、データベース8はCD−ROMやDVD−ROM等の記憶媒体により構成され、表示用の地図情報と、探索用の地図情報を格納し記憶している。
【0028】
さらに、ディスプレイ9は、運転者により入力された目的地等の探索条件をもとにカーナビゲーションECU2の探索手段2aが探索用の地図情報に基づいて探索した走行予定経路を、カーナビゲーションECU2の表示手段2bの指令に基づき表示用の地図情報とともに表示するものである。なお。ディスプレイ9は、マルチインフォメーションディスプレイにより構成されるものであって、タッチパネル10すなわち運転者が目的地を含む探索条件及びその他の入力情報を入力する手段としても機能する。
【0029】
加えて、ABS11は、各車輪に対応して設けられた車輪速センサから各車輪速を検出し、それらの各車輪速の平均から車速を求め、車速に対して各車輪速のいずれかがロック用判定閾値よりも離隔して低下した場合に、該当する車輪を制動するブレーキの油圧を低下させて、制動時において車輪のロックを防止する装置であり、その制御に用いるための車輪速を図示しないCANに対して出力しており、カーナビゲーションECU2はその車輪速をABS11からCAN等の通信規格による送信により取得している。
【0030】
さらに、カーナビゲーションECU2の探索手段2aは、GPSアンテナ3の受信した複数の衛星からの電波をもとに、例えば三角測量の原理で車両の位置つまりは経度と緯度を測定する。加えて、カーナビゲーションECU2の車両挙動検出手段2cは加速度センサ4から車両の前後方向加速度を検出し、ヨーレートセンサ5から車両のヨーレートすなわち車両の鉛直軸周りの角速度を検出する。また、カーナビゲーションECU2の車輪速検出手段2dは、車両の各車輪の車輪速をABS11からCANを介して取得し、GPS速度検出手段2eは、GPSアンテナ3の受信した複数の衛星からの電波の波長の伸長に基づいて、GPSドップラと言われる手法により車両のGPS速度を検出している。
【0031】
また、カーナビゲーションECU2の判定手段2fは、車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定するものであって、GPS速度検出手段2eの検出したGPS速度と、ABS11から車輪速検出手段2dが取得した車輪速のうち駆動輪の車輪速との比較に基づいて、GPS速度と駆動輪の車輪速との偏差の絶対値が、スリップ及びロック用判定閾値より大きい場合には、車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する。
【0032】
さらに、カーナビゲーションECU2の計算手段2gは、車両挙動検出手段2cが加速度センサ4により検出した車両前後方向の加速度に基づいて積分計算を行い、車速を計算する。このような積分計算においては、加速度センサ4の検出値にはドリフトやオフセット等の誤差が含まれているため、推測手段2iが、車速を積分計算して車両の移動距離を計算して、さらに、車両挙動検出手段2cがヨーレートセンサ5により検出したヨーレートを積分計算して、車両の向きを計算した後、最終的な車両の位置及び姿勢を計算するにあたっての精度を高めるために、加速度に基づいて計算された中間段階における車速については、後述するように計算手段2gが、車輪速検出手段2dにより検出した車輪速又はGPS速度検出手段2eにより検出したGPS車速により適宜補正する。
【0033】
より具体的には、判定手段2fが車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合には、推測手段2iは、ヨーレート及び加速度と、車輪速とに基づいて、車両の位置及び姿勢を推測するとともに、判定手段2fが車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、推測手段2iは、ヨーレート及び加速度と、GPS速度に基づいて車両の位置及び姿勢を推測する。
【0034】
つまり、計算手段2gは、加速度の時間積分に基づいて車速を計算するとともに、判定手段2fが車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合に、車輪速を用いて車速を補正し、判定手段2fが車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、GPS速度を用いて車速を補正する。
【0035】
さらに、カーナビゲーションECU2の補完手段2hは、判定手段2fが、車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、GPS速度検出手段2eのGPS速度の検出周期間において、計算手段2gが車速の補正に用いるGPS速度を補完する。より具体的には、補完手段2hは、検出周期間において計算手段2gが車速の補正に用いるGPS速度を、検出周期間の前の検出タイミングにおいてGPS速度検出手段2eが検出したGPS速度とする。
【0036】
このように、カーナビゲーションECU2の推測手段2iは、GPSアンテナ3が衛星から電波を受信できない場合においては、車輪速と、加速度センサ4により検出した車両前後方向の加速度と、ヨーレートセンサ5により検出したヨーレートに、適宜、ステアリングセンサ6により検出した操舵装置の操舵角を加味して、車両の移動距離と方向を計算して車両の位置及び姿勢を推測するINSを構成する。
【0037】
すなわち、上述したGPSアンテナ3を用いたカーナビゲーションECU2の探索手段2aによる車両の位置する位置の測定においては、衛星からの電波を利用する特性上、高層ビルの谷間に車両が位置する場合やトンネル内を車両が走行している場合、あるいは、高架橋の下を車両が走行している場合などでは衛星からの電波をGPSアンテナ3が受信できないため、車両の位置が測定できないが、後者のINSによる推測により、これを補足している。
【0038】
カーナビゲーションECU2の探索手段2aは、このようにして測定した位置と、タッチパネル10すなわちディスプレイ9により運転者が入力した目的地とを結ぶ走行予定経路を、データベース8内の探索用の地図情報を用いてダイクストラ法等の手法により探索する。
【0039】
そして、カーナビゲーションECU2の表示手段2bは、データベース8内の表示用の地図情報と、上述した方法により測定した車両の位置する位置と、タッチパネル10すなわちディスプレイ9により入力された目的地と、探索手段2aにより探索された位置から目的地に到る走行予定経路とを併せてディスプレイ9に表示する。
【0040】
以下に以上述べた車両位置姿勢推測装置1の本発明に係わる部分の制御内容を、フローチャートと図を用いて説明する。図2は、本発明に係わる車両位置姿勢推測装置1の制御内容を示すフローチャートである。
【0041】
図2のS1に示すように、カーナビゲーションECU2の車両挙動検出手段2cは加速度センサ4から車両の前後方向加速度を検出し、カーナビゲーションECU2の車輪速検出手段2dは、車両の各車輪の車輪速をABS11からCANを介して取得する。つづいて、S2において、GPS速度検出手段2eは、GPSアンテナ3の受信した複数の衛星からの電波の波長の伸長に基づいて、GPSドップラと言われる手法により車両のGPS速度を検出する。
【0042】
S3において、カーナビゲーションECU2の判定手段2fは、S2においてGPS速度検出手段2eの検出したGPS速度と、S1において車輪速検出手段2dがABS11から取得した車輪速のうち駆動輪の車輪速との偏差を計算して、S4において、判定手段2fは、GPS速度と駆動輪の車輪速との偏差の絶対値が、スリップ及びロック用判定閾値より大きいかどうかを判定し、肯定である場合にはS5にすすみ、否定である場合にはS8にすすむ。
【0043】
S5においては、GPS速度と車輪速との偏差の絶対値が、スリップ及びロック用判定閾値より大きい場合であるので、判定手段2fはスリップ又はロックが発生していると判定し、S6において、カーナビゲーションECU2の補完手段2hは、GPS速度検出手段2eのGPS速度の検出周期間において、計算手段2gが車速の補正に用いるGPS速度を補完、すなわち、検出周期間において計算手段2gが車速の補正に用いるGPS速度を、検出周期間の前の検出タイミングにおいてGPS速度検出手段2eが検出したGPS速度とする。
【0044】
さらにS7において、カーナビゲーションECU2の計算手段2gは、車両挙動検出手段2cが加速度センサ4により検出した車両前後方向の加速度に基づいて積分計算を行い、車速を計算した上で、加速度に基づいて計算された中間段階における車速について、GPS速度検出手段2eにより検出したGPS車速により補正する。さらにS11において、カーナビゲーションECU2の推測手段2iは、計算手段2gの計算した車速とGPS速度にもとづいて、車両の移動距離を計算する。
【0045】
さらにS8においては、GPS速度と車輪速との偏差の絶対値が、スリップ及びロック用判定閾値より大きくない場合であるので、判定手段2fはスリップ又はロックが発生していないと判定し、S10において、カーナビゲーションECU2の計算手段2gは、車両挙動検出手段2cが加速度センサ4により検出した車両前後方向の加速度に基づいて積分計算を行い、車速を計算した上で、加速度に基づいて計算された中間段階における車速について、駆動輪の車輪速により補正する。さらにS11において、カーナビゲーションECU2の推測手段2iは、計算手段2gの計算した車速と車輪速にもとづいて、車両の移動距離を計算する。
【0046】
これらの制御内容により実現される本実施例の車両位置姿勢推測装置1によれば、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、計算手段2gが、加速度の時間積分に基づいて車速を計算するとともに、判定手段2fが車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合に、計算手段2gが車輪速を用いて計算した車速を補正し、判定手段2fが車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、計算手段2gが計算した車速を、GPS速度を用いて補正することにより、車輪速が有する利点とGPS速度が有する利点の双方を適宜利用して、中間段階の車速の補正を行うことができる。
【0047】
つまり、判定手段2fにより車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合においては、一般的に検出周期の短く検出の容易な車輪速を補正に用いることが有利であり、車輪速が車速を正確に表していると考えられるので、計算手段2gが車輪速を用いて車速の補正を行うことができる。これとともに、判定手段2fにより車輪のスリップ又はロックが発生していると判定される場合には、車輪速よりも車速を正確に表していると考えられるGPS速度を用いて、計算手段2gが車速の補正を行うことができる。
【0048】
これらのことにより、補正された後のより正確な車速を用いて周知の積分計算により、推測手段2iが車両の移動距離を計算して、車両の位置及び姿勢を推測することができるので、推測手段2iによる車両の位置及び姿勢の推測にあたっての精度を高めることができる。
【0049】
さらに、判定手段2fが、GPS速度と車輪速の比較に基づいて、車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定することにより、各車輪の車輪速の平均値を車速とみなして、平均値と各車輪の車輪速との比較に基づいて、車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定する一般的な構成に比べて以下のような作用効果を得ることができる。
【0050】
つまり、車輪のスリップ又はロック等の車両の挙動に影響を受けないいわゆる絶対情報であるGPS速度を車速とみなして、GPS速度と各車輪の車輪速との比較に基づいて、車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定するので、スリップ又はロックが発生しているか否かの判定をより容易に且つ確実に行うことができる。
【0051】
さらに、比較対象とする車輪速を駆動輪の車輪速とすることにより、スリップ又はロックが発生した時点から、駆動輪の車輪速のGPS速度に対しての偏差が、判定に用いられるスリップ又はロック判定閾値よりも大きくなる時期が、駆動輪以外の車輪速のGPS速度に対しての偏差が判定閾値よりも、大きくなる時期よりも早いという性質を利用して、スリップ又はロックが発生しているか否かの判定をより早期に行うことができる。
【0052】
また、スリップ又はロックの発生の程度が小さい又は発生時間が短い場合においては、駆動輪以外の車輪速のGPS速度に対する偏差がスリップ又はロック判定閾値よりも大きくならない場合も存在し、この場合に駆動輪以外の車輪速により判定を行うと、スリップ又はロックが発生していることを判定できないので、駆動輪の車輪速を判定に用いることにより、判定の感度を高めることができるとともに、判定をより容易且つ確実に行うことができる。
【0053】
さらに、判定手段2fが、車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定する場合に、GPS速度検出手段2eのGPS速度の検出周期間において、計算手段2gが車速の補正に用いるGPS速度を補完する補完手段2hを備えることにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0054】
つまり、GPS速度検出手段2eのGPS速度の検出周期間、すなわち所定のサンプリング周期におけるGPS速度検出手段2eによる前回及び今回の検出タイミングの間においては、GPS速度の検出値がリアルタイムではGPS速度検出手段2eにより検出できず、従って、計算手段2gによりリアルタイムのGPS速度の検出値が取得できない状況が発生する。ところが、本実施例によれば、補完手段2hが、計算手段2gが車速の補正に用いるGPS速度を補完するので、計算手段2gが車速の補正を検出周期間においても適宜行うことができる。
【0055】
さらに、補完手段2hが、検出周期間において計算手段2gが車速の補正に用いるGPS速度を、検出周期間の前のすなわち前回の検出タイミングにおいてGPS速度検出手段2eが検出したGPS速度とすることにより、判定手段2fが、車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合においては、通常走行時において車輪が路面に確実にグリップしている状態に比べて、車輪に対して路面から作用する力が十分小さいとみなせるので、車両の車速は変化していないとみなして、補完手段2hによる、計算手段2gが車速の補正に用いるGPS速度の補完をより簡易な手段にて行うことができる。
【0056】
さらに、従来のマップマッチングにおいては、GPSにより取得した車両の位置の誤差が大きい場合においては、例えば隣接する道路を混同して、車両の位置を補正してしまうおそれもあるが、本実施例のような車両位置姿勢推測装置によれば、車両の位置の精度そのものを高めることができるので、マップマッチングを用いる頻度を低くして、上述したような誤マップマッチングによる不具合を防止することができる。
【0057】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0058】
例えば、補完手段2hがGPS速度の補完を行うに当たって、本実施例においては、前回の検出タイミングにおいてGPS速度検出手段2eが検出した前回値をそのまま用いているが、車両挙動検出手段2cが加速度センサ4により検出する加速度と、前回の検出タイミングからの経過時間を用いて、前回値を補正した値を用いても良い。
【0059】
さらに、車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定するにあたって、本実施例においては車輪速とGPS速度の偏差の絶対値をスリップ及びロック用の共通の判定閾値と比較しているが、スリップ用の判定閾値と、ロック用の判定閾値を別個の値としてももちろん良い。
【0060】
さらに、本実施例においては、本発明に係わる車両位置姿勢推測装置がカーナビゲーションシステムにより実現されているが、VSC(Vehicle Stability Control)により実現されるシステムとしても良い。
【0061】
この場合において、VSCにおいては車両の位置及び姿勢を推測することに加えて又は換えて、実際に検出されたヨーレートと、操舵角と車速により求められたヨーレートとの比較により、実際に検出されたヨーレートが小さい場合においては、車両が旋回外側に横滑りするおそれがあると判定して、エンジンの出力を抑制してブレーキをかけて横滑りを防止する。
【0062】
さらに、VSCにおいては、実際の検出されたヨーレートが操舵角と車速により求められたヨーレートより大きい場合には、車両挙動が不安定となるおそれがあると判定して、旋回外側の前輪にブレーキをかける制御を行う。
【0063】
このようなVSCにおいて、本実施例のような車速についての補正を行うことにより、実際に検出されたヨーレートとの比較に用いられる操舵角と車速により求めたヨーレートの精度を高めて、上述した判定の精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、車両の位置や姿勢を推測する技術に関するものであって、新たな構成要素を追加することなく、比較的軽微なロジックの変更により、最終的な計算精度を高めることができる車両位置姿勢推測装置を提供することができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る車両位置姿勢推測装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る車両位置姿勢推測装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 車両位置姿勢推測装置
2 カーナビゲーションECU
2a 探索手段
2b 表示手段
2c 車両挙動検出手段
2d 車輪速検出手段
2e GPS速度検出手段
2f 判定手段
2g 計算手段
2h 補完手段
2i 推測手段
3 GPSアンテナ
4 加速度センサ
5 ヨーレートセンサ
6 ステアリングセンサ
7 受信機
8 データベース
9 ディスプレイ
10 タッチパネル
11 ABS

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の加速度を検出する車両挙動検出手段と、前記車両の車輪の車輪速を検出する車輪速検出手段と、GPS速度を検出するGPS速度検出手段と、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定する判定手段と、前記判定手段が前記車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合に、前記加速度と前記車輪速に基づいて、車速を計算する計算手段を備えるとともに、前記判定手段が前記車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、前記計算手段が、前記加速度と前記GPS速度に基づいて車速を計算することを特徴とする車両位置姿勢推測装置。
【請求項2】
前記計算手段が、前記加速度の時間積分に基づいて車速を計算するとともに、前記判定手段が前記車輪のスリップ又はロックが発生していないと判定する場合に、前記車輪速を用いて前記車速を補正し、前記判定手段が前記車輪のスリップ又はロックが発生していると判定する場合に、前記GPS速度を用いて前記車速を補正することを特徴とする請求項1に記載の車両位置姿勢推測装置。
【請求項3】
前記車両挙動検出手段が、前記車両の角速度を検出するとともに、前記補正された前記車速と前記角速度を用いて、車両の位置及び姿勢を推測する推測手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の車両位置姿勢推測装置。
【請求項4】
前記判定手段が、前記GPS速度と前記車輪速の比較に基づいて、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定することを特徴とする請求項3に記載の車両位置姿勢推測装置。
【請求項5】
前記車輪を駆動輪とすることを特徴とする請求項4に記載の車両位置姿勢推測装置。
【請求項6】
前記判定手段が、前記車輪のスリップ又はロックが発生しているか否かを判定する場合に、前記GPS速度検出手段の前記GPS速度の検出周期間において、前記計算手段が前記車速の補正に用いる前記GPS速度を補完する補完手段を備えることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の車両位置姿勢推測装置。
【請求項7】
前記補完手段が、前記検出周期間において前記計算手段が前記車速の補正に用いる前記GPS速度を、前記検出周期間の前の検出タイミングにおいて前記GPS速度検出手段が検出した前記GPS速度とすることを特徴とする請求項6に記載の車両位置姿勢推測装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−198185(P2009−198185A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36892(P2008−36892)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】