説明

車両制御システム

【課題】ステアリング制御装置の失陥時の操舵力補償制御時にてドライバーの操舵感を向上できる車両制御システムを提供する。
【解決手段】車両10の操舵角を制御するステアリング制御装置2と、車輪11FR、11FLの駆動力配分を制御する駆動力制御装置3とを備える。また、ステアリング制御装置2が失陥したときに、駆動力制御装置3が左右の車輪11FR、11FLの駆動力配分制御を行うことにより、操舵力補償制御が行われる。このとき、ステアリング制御装置2のステアリングホイール21の操舵トルクと車両状態量との関係に基づいて、操舵力補償制御が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両制御システムに関し、さらに詳しくは、ステアリング制御装置の失陥時の操舵力補償制御時にてドライバーの操舵感を向上できる車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両制御システムは、車両の操舵角を制御するステアリング制御装置と、車輪の駆動力配分を制御する駆動力制御装置とを備えている。そして、ステアリング制御装置が失陥したときに、駆動力制御装置が左右の車輪の駆動力配分制御を行うことにより、操舵力補償制御が行われている。かかる構成を採用する従来の車両制御システム(ステアリング制御装置)として、特許文献1に記載される技術が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−161191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ステアリング制御装置の失陥時には、ドライバーの操舵感を悪化させることなく操舵力補償制御が行われることが好ましい。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてされたものであって、ステアリング制御装置の失陥時の操舵力補償制御時にてドライバーの操舵感を向上できる車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる車両制御システムは、車両の操舵角を制御するステアリング制御装置と車輪の駆動力配分を制御する駆動力制御装置とを備えると共に、前記ステアリング制御装置が失陥したときに、前記駆動力制御装置が左右の車輪の駆動力配分制御を行うことにより、操舵力補償制御が行われる車両制御システムであって、
前記ステアリング制御装置のステアリングホイールの操舵トルクと車両状態量との関係に基づいて前記操舵力補償制御が行われることを特徴とする。
【0007】
この車両制御システムでは、ステアリング制御装置の失陥時にて、ステアリングホイールの操舵トルクと車両状態量(例えば、目標ヨーレート)との関係に基づいて操舵力補償制御が行われる。かかる構成では、例えば、ステアリング制御装置の失陥時にてステアリングホイールの操舵角と目標ヨーレートとの関係に基づいて操舵力補償制御が行われる構成と比較して、ドライバーの操舵感が向上する利点がある。すなわち、操舵トルクの位相は操舵角の位相よりも進むため、ドライバーのステアリング操作に合った操舵力補償制御が可能となり、ドライバーの操舵感が向上する。
【0008】
また、この発明にかかる車両制御システムは、前記車両状態量として前記ステアリングホイールの操舵トルクに対応した目標ヨーレートが用いられる。
【0009】
この車両制御システムでは、車両状態量センサ(ヨーレートセンサ)の出力値に対するノイズ・フィルタリングの負担が軽減される利点がある。
【0010】
また、この発明にかかる車両制御システムは、車速Vと所定の閾値VthとがV≦Vthの関係を有するときに、前記操舵力補償制御が行われる。
【0011】
この車両制御システムでは、大きな操舵角あるいは大きな操舵トルクを必要とする低速走行時にて適正な操舵力補償制御が行われるので、ドライバーの操舵感がさらに向上する利点がある。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる車両制御システムでは、ステアリング制御装置の失陥時にて、ステアリングホイールの操舵トルクと車両状態量(例えば、目標ヨーレート)との関係に基づいて操舵力補償制御が行われる。かかる構成では、例えば、ステアリング制御装置の失陥時にてステアリングホイールの操舵角と目標ヨーレートとの関係に基づいて操舵力補償制御が行われる構成と比較して、ドライバーの操舵感が向上する利点がある。すなわち、操舵トルクの位相は操舵角の位相よりも進むため、ドライバーのステアリング操作に合った操舵力補償制御が可能となり、ドライバーの操舵感が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施例に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【実施例】
【0014】
図1は、この発明の実施例にかかるステアリング制御装置を示す構成図である。図2〜図4は、図1に記載したステアリング制御装置の作用を示すフローチャート(図2)、制御ブロック図(図3)および説明図(図4)である。
【0015】
[車両制御システム]
この車両制御システム1は、ステアリング制御装置2と、駆動力制御装置3と、制御ユニット4とを有する(図1参照)。この車両制御システム1は、例えば、前輪11FR、11FLを左右独立したモータジェネレータで駆動する電気自動車(Electric Vehicle)に適用される。また、この車両制御システム1では、ステアリング制御装置2が失陥したときに、駆動力制御装置3が左右の車輪の駆動力配分制御を行うことにより、操舵力補償制御が行われる。
【0016】
ステアリング制御装置2は、車両10の操舵角を制御する装置であり、ステアリングホイール21と、操舵アクチュエータ22とを有する(図1参照)。ステアリングホイール21は、車両10の左右の前輪11FR、11FLに操舵角を与えるための操作端であり、ドライバーにより操作される。操舵アクチュエータ22は、タイロッド23に軸方向の変位を与えて前輪11FR、11FLに操舵角を付与する。この操舵アクチュエータ22は、ナックルアーム(図示省略)およびタイロッド23を介して前輪11FR、11FLに連結される。このステアリング制御装置2では、ステアリングホイール21が操作されると、その操作角に基づいて制御ユニット41が操舵アクチュエータ22を駆動する。そして、操舵アクチュエータ22がタイロッド23を変位させることにより、前輪11FR、11FLに操舵角が付与される(操舵制御)。
【0017】
駆動力制御装置3は、車両10の左右の車輪11FR、11FLの駆動力配分を制御する装置であり、蓄電部31と、左右一対のモータジェネレータ32、32と、インバータ33とを有する(図1参照)。蓄電部31は、充放電可能な直流電源であり、例えば、ニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池から成る。モータジェネレータ32は、例えば、三相交流同期電動機であり、車両10の左右の前輪11FR、11FLに対応してそれぞれ配置される。各モータジェネレータ32は、インバータ33を介して蓄電部31に接続される。また、各モータジェネレータ32の出力軸がリダクションギアを介して車両10の前輪11FR、11FLに連結される。この駆動力制御装置3では、蓄電部31の電力がインバータ33を介してモータジェネレータ32に供給される。そして、制御ユニット4によりインバータ33が駆動されると、インバータ33からの三相交流電力によりモータジェネレータ32が駆動されて、動力が各車輪11FR、11FLに伝達される。このとき、左右のモータジェネレータ32、32がそれぞれ独立して駆動されることにより、左右の車輪11FR、11FLのトルク配分が制御される(駆動力配分制御)。
【0018】
制御ユニット4は、ECU(Electronic Control Unit)41と、各種センサ42〜46とを有する(図1参照)。各種センサ42〜46には、例えば、モータジェネレータ32の回転数を検出する回転センサ42、前輪11FR、11FLの操舵角を検出する操舵角センサ43、ステアリングホイール21の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ44、車両10の走行速度(車速)Vを検出する車速センサ45、車両10のヨーレートを検出するヨーレートセンサ46などが含まれる。この制御ユニット4では、ECU41が各種センサ42〜46の出力値に基づいてステアリング制御装置2および駆動力制御装置3を駆動制御する。これにより、上記の操舵制御および駆動力配分制御、後述する操舵力補償制御などが行われる。
【0019】
なお、この実施例では、ステアリング制御装置2がステアリングホイール21と前輪11FR、11FLとを機構的に分離した方式(ステアバイワイヤ方式)を採用している。すなわち、ステアリングホイール21が操作されると、操舵トルクセンサ44の出力値に基づいてECU41が操舵アクチュエータ22を駆動する。なお、これに限らず、ステアリング制御装置2がEPS(Electronic Power Steering)方式を採用しても良い。
【0020】
また、ステアリング制御装置2の失陥検出手段(図示省略)が設けられている。かかる失陥検出手段には、公知のものが採用され得る。例えば、ステアリングホイール21の操作角と前輪11FR、11FLの操舵角とが比較されてステアリング制御装置2の失陥が検出されることにより、ステアリング制御装置2の失陥が検出される。
【0021】
[操舵力補償制御]
この車両制御システム1では、以下のように操舵力補償制御が行われる(図2参照)。まず、車両走行時には、車速V、ステアリングホイール21の操舵トルク、車両10の実ヨーレートなどが取得される(ST1)。これらは、制御ユニット4の各種センサ42〜46の出力値としてECU41により取得される。次に、ステアリング制御装置2が失陥しているか否かが判定される(失陥判定ステップST2)。
【0022】
次に、失陥判定ステップST2にて、ステアリング制御装置2が失陥していると判定された場合には、車速Vと所定の閾値VthとがV≦Vthの関係を有するか否かが判定される(車速判定ステップST3)。この閾値Vthは、大きな操舵角あるいは大きな操舵トルクを必要とする低速走行時を規定する閾値である。ECU41は、この閾値Vthに関するマップを有する。
【0023】
次に、車速判定ステップST3にて、車速Vと所定の閾値VthとがV≦Vthの関係を有すると判定された場合には、操舵力補償制御が行われる(操舵力補償ステップST4)(図3参照)。この操舵力補償ステップST4では、まず、ステップST1にて取得された操舵トルクに基づいて、ECU41が目標ヨーレートを算出する。このとき、操舵トルクと目標ヨーレートとの関係を予め規定したマップが用いられる。次に、この目標ヨーレートと車両10の実ヨーレートとの偏差(ヨーレート偏差)がECU41のフィードバックコントローラにて算出される。次に、このヨーレート偏差に基づいて駆動力配分左右差が算出される。この駆動力配分左右差は、駆動力制御装置3による駆動力配分制御にあたり、左右のモータジェネレータ32、32に配分されるトルクの左右差を規定する。また、駆動力配分左右差は、ECU41の駆動力配分コントローラにて算出される。そして、算出された駆動力配分左右差に基づいて駆動力配分制御が行われる(ST5)。
【0024】
例えば、車両10の左旋回時にてステアリング制御装置2が失陥したと判定(ST2)された場合には、車両10の左旋回方向への操舵力が補償される(ST4およびST5)。具体的には、取得された左旋回方向への操舵トルクに基づいて目標ヨーレートが算出され、この目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差に基づいて左前輪11FLのモータジェネレータ32のトルクが右前輪11FRのモータジェネレータ32のトルクよりも大きくなるように駆動力配分左右差が設定される。そして、この駆動力配分左右差に基づいて駆動力配分制御が行われる。これにより、車両10の左旋回方向への操舵力が補償される(図4参照)。
【0025】
一方、失陥判定ステップST2にてステアリング制御装置2が失陥していると判定されなかった場合、ならびに、車速判定ステップST3にて車速Vと所定の閾値VthとがV≦Vthの関係を有すると判定されなかった場合には、通常時の駆動力制御(ST6)および駆動力配分制御(ST5)が行われる。
【0026】
[効果]
以上説明したように、この車両制御システム1では、ステアリング制御装置2の失陥時にて、ステアリングホイール21の操舵トルクと車両状態量(例えば、目標ヨーレート)との関係に基づいて操舵力補償制御が行われる(図2および図3参照)。かかる構成では、例えば、ステアリング制御装置の失陥時にてステアリングホイールのステアリング角と目標ヨーレートとの関係に基づいて操舵力補償制御が行われる構成(図示省略)と比較して、ドライバーの操舵感が向上する利点がある。すなわち、操舵トルクの位相はステアリング角の位相よりも進むため、ドライバーのステアリング操作に合った操舵力補償制御が可能となり、ドライバーの操舵感が向上する。
【0027】
また、かかる構成では、例えば、ステアリング制御装置の失陥時にて操舵力が過大とならないようなハードウェア設計が行われる構成(図示省略)と比較して、システムの重量増加や大型化の問題がない。また、例えば、操舵トルクアシストのバックアップ装置を有する構成(図示省略)と比較して、バックアップ装置によりシステムがコストアップするという問題がない。
【0028】
なお、この実施例では、操舵力補償制御にあたり、車両状態量としてステアリングホイールの操舵トルクに対応した目標ヨーレートが用いられている(図3参照)。かかる構成では、車両状態量センサ(ヨーレートセンサ46)の出力値に対するノイズ・フィルタリングの負担が軽減される利点がある。しかし、これに限らず、車両状態量として、例えば、車両10の横加速度などが用いられても良い。
【0029】
また、この実施例では、車速Vと所定の閾値VthとがV≦Vthの関係を有するときに、操舵力補償制御が行われる(図2および図3参照)。かかる構成では、大きな操舵角あるいは大きな操舵トルクを必要とする低速走行時にて適正な操舵力補償制御が行われるので、ドライバーの操舵感がさらに向上する利点がある。また、かかる構成では、例えば、ステアリング制御装置の失陥時と通常時との性能差を小さくしてバックアップ負荷を軽減する構成(図示省略)と比較して、低速走行時におけるドライバーの操舵感が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、この発明にかかる車両制御システムは、ステアリング制御装置の失陥時の操舵力補償制御時にてドライバーの操舵感を向上できる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施例にかかるステアリング制御装置を示す構成図である。
【図2】図1に記載したステアリング制御装置の作用を示すフローチャートである。
【図3】図1に記載したステアリング制御装置の作用を示す制御ブロック図である。
【図4】図1に記載したステアリング制御装置の作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 車両制御システム
2 ステアリング制御装置
21 ステアリングホイール
22 操舵アクチュエータ
23 タイロッド
3 駆動力制御装置
31 蓄電部
32 モータジェネレータ
33 インバータ
4 制御ユニット
41 制御ユニット
42 回転センサ
43 操舵角センサ
44 操舵トルクセンサ
45 車速センサ
46 ヨーレートセンサ
10 車両
11FR、11FL 前輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵角を制御するステアリング制御装置と車輪の駆動力配分を制御する駆動力制御装置とを備えると共に、前記ステアリング制御装置が失陥したときに、前記駆動力制御装置が左右の車輪の駆動力配分制御を行うことにより、操舵力補償制御が行われる車両制御システムであって、
前記ステアリング制御装置のステアリングホイールの操舵トルクと車両状態量との関係に基づいて前記操舵力補償制御が行われることを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記車両状態量として前記ステアリングホイールの操舵トルクに対応した目標ヨーレートが用いられる請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
車速Vと所定の閾値VthとがV≦Vthの関係を有するときに、前記操舵力補償制御が行われる請求項1または2に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−132095(P2010−132095A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309062(P2008−309062)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】