説明

車両用挙動制御装置

【課題】本発明は、車両用挙動制御装置に関し、各車輪の摩擦制動トルクを独立して制御する油圧制御機構を設けることなく、車載バッテリの満充電時にも各車輪に設けられた電気モータを用いて適切に車両の挙動を制御することにある。
【解決手段】車両挙動に基づいて、各車輪それぞれに発生させるべき要求トルクを演算し、その演算される各車輪の要求トルクに対して、摩擦制動手段により車輪に発生させる摩擦制動トルクとして各車輪均一のトルク値を、かつ、各車輪の電気モータごとに車輪に発生させる駆動トルク又は回生制動トルクとしてそれぞれ独立したトルク値を、それぞれ設定する。この際、車載バッテリの電池残量を測定し、その測定される電池残量に応じて、設定される摩擦制動手段による摩擦制動トルクと電気モータによる駆動トルク又は回生制動トルクとの配分を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用挙動制御装置に係り、特に、電力を充放電可能な車載バッテリと、複数の車輪それぞれに設けられ、車載バッテリから電力が供給されることにより対応の車輪に駆動トルクを付与し、また、対応の車輪に回生制動トルクを発生させることにより車載バッテリに回生電力を供給する電気モータと、車輪に摩擦制動トルクを発生させる摩擦制動手段と、を備える車両の挙動を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緊急ブレーキ操作時に通常ブレーキ装置時よりも大きな制動力を発生させるブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このブレーキ装置は、車輪に摩擦制動力を発生させる制動手段と、車輪に回生制動力を発生させる電気モータと、を備えている。車輪に回生制動力が発生する際に電気モータで生ずる回生電力は、バッテリに回収される。また、この電気モータは、バッテリから電力が供給されることにより車輪を駆動させる車両動力として作用する。
【0003】
上記したブレーキ装置においては、まず、バッテリの充電状態が検知される。そして、その検知されたバッテリの充電状態に基づいて、モータで発生可能な回生制動力の大きさが算出され、その算出された回生制動力の大きさに応じて、緊急ブレーキ操作時の摩擦制動力のパターンが変化される。具体的には、算出された回生制動力が小さいほど、緊急ブレーキ操作時の摩擦制動力の立ち上がり速度が大きくされ或いはその最大制動力が大きくされる。従って、かかるブレーキ装置によれば、モータで発生可能な回生制動力が小さいときに、緊急ブレーキ操作時における制動の応答性が低下するのを防止することが可能となる。
【特許文献1】特開2007−50751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、制動時に車輪のロックを防ぐABS(Antilock Brake System)や、加速時に車輪の空転を防ぐTCS(Traction Control System)、車両の旋回挙動を安定化させるVSC(Vehicle Stability Control)など、各車輪ごとに制動力や駆動力を異ならせることで成立する車両挙動制御システムが存在する。かかるシステムにおいては、各車輪ごとに発生させる制動力や駆動力を互いに異ならせることが可能な仕組みが必要である。
【0005】
ここで、上記した特許文献1記載の如く車輪を駆動可能な電気モータが車両に唯一つ搭載されている車両とは異なり、車輪ごとに電気モータが設けられ、各車輪が対応の電気モータで駆動される車両では、各車輪の電気モータがそれぞれ、異なる駆動力で車輪を駆動させることが可能であると共に、制動時に異なる回生制動力を車輪に発生させてその回生電力をバッテリに回収させることが可能であるので、各車輪の電気モータを用いて上記したABSやVSCなどの車両挙動制御システムを実現することは可能である。従って、かかる車両においては、車両挙動制御システムを実現するのに、車輪ごとに増圧弁や減圧弁を配設するなどして各車輪の摩擦制動力を互いに異ならせることが可能な油圧制御機構を設けることは不要となる可能性がある。
【0006】
しかし、バッテリが満充電状態或いは満充電に近い状態にあるときは、そのバッテリに回生電力を供給することはできず或いは供給可能な回生電力は少量となる。この点、バッテリの充電量を考慮して車輪に回生制動力を発生させず或いは発生する回生制動力を制限するものとすると、その分だけ車輪に要求される制動力に対して摩擦制動力を増やすことが必要となるので、その結果、各車輪に互いに異なる制動力を発生させることが必要な上記した車両挙動制御システムを実現しようとすれば、従来どおり上記の油圧制御機構を搭載せざるを得なくなってしまう。或いは、かかる油圧制御機構を設けないシステムでは、バッテリが満充電状態或いは満充電に近い状態にあるときに、車両挙動制御システムの作動を中止せざるを得なくなってしまう。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、各車輪の摩擦制動力を独立して制御する油圧制御機構を設けることなく、バッテリの満充電時にも各車輪に設けられた電気モータを用いて適切に車両の挙動を制御することが可能な車両用挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、電力を充放電可能な車載バッテリと、複数の車輪それぞれに設けられ、前記車載バッテリから電力が供給されることにより対応の車輪に駆動トルクを付与し、また、対応の車輪に回生制動トルクを発生させることにより前記車載バッテリに回生電力を供給する電気モータと、車輪に摩擦制動トルクを発生させる摩擦制動手段と、を備える車両の挙動を制御する装置であって、車両挙動に基づいて、各車輪それぞれに発生させるべき要求トルクを演算する要求トルク演算手段と、前記要求トルク演算手段により演算される各車輪の要求トルクに対して、前記摩擦制動手段により車輪に発生させる摩擦制動トルクとして各車輪均一のトルク値を、かつ、各車輪の前記電気モータごとに車輪に発生させる駆動トルク又は回生制動トルクとしてそれぞれ独立したトルク値を、それぞれ設定するトルク値設定手段と、を備える車両用挙動制御装置により達成される。
【0009】
この態様の発明においては、車両挙動に基づいて、各車輪それぞれに発生させるべき要求トルクが演算される。そして、その各車輪の要求トルクに対して、摩擦制動手段による摩擦制動トルクとして各車輪均一のトルク値が設定されると共に、各車輪の電気モータごとに駆動トルク又は回生制動トルクとしてそれぞれ独立したトルク値が設定される。かかる構成においては、各車輪に摩擦制動トルクを均一にした状態で適切に要求トルクを付与することができるので、各車輪の摩擦制動トルクを互いに異ならせることが可能な油圧制御機構を設けることは不要となる。従って、各車輪の摩擦制動トルクを独立して制御する油圧制御機構を設けることなく、各車輪に設けられた電気モータを用いて適切に車両の挙動を制御することができる。
【0010】
尚、上記した車両用挙動制御装置において、前記トルク値設定手段は、前記車載バッテリの電池残量を測定する電池残量測定手段と、前記電池残量測定手段により測定される前記電池残量に応じて、前記要求トルク演算手段により演算される各車輪の要求トルクに対して設定される前記摩擦制動手段による摩擦制動トルクと前記電気モータによる駆動トルク又は回生制動トルクとの配分を変更するトルク配分変更手段と、を有することとすればよい。
【0011】
この態様の発明においては、車載バッテリの電池残量に応じて、各車輪の要求トルクに対して設定される摩擦制動手段による摩擦制動トルクと電気モータによる駆動トルク又は回生制動トルクとの配分が変更される。同じ要求トルクに対して摩擦制動手段による摩擦制動トルクの配分を多くすると、電気モータによる駆動トルクの配分を多くし或いは回生制動トルクの配分を少なくする必要があるので、電気モータにより消費される電力を大きくし或いはバッテリへ回収される回生電力を小さくすることが可能となる。この点、車載バッテリの電池残量が比較的多いときに、摩擦制動手段により発生させる各車輪均一の摩擦制動トルクの配分を多くすれば、各車輪の電気モータによるトルクの配分を電力回生側に少なくし電力消費側に増やすことが可能となる。従って、各車輪の摩擦制動トルクを独立して制御する油圧制御機構を設けることなく、車載バッテリの満充電時にも各車輪に設けられた電気モータを用いて適切に車両の挙動を制御することができる。
【0012】
また、上記した車両用挙動制御装置において、前記トルク配分変更手段は、前記電池残量測定手段により測定される前記電池残量が多いほど、設定される前記摩擦制動手段による摩擦制動トルクの配分を増やし、かつ、設定される前記電気モータによる駆動トルクの配分を増やし或いは回生制動トルクの配分を減らすこととすればよい。
【0013】
この態様の発明においては、車載バッテリの電池残量が比較的多いときほど、摩擦制動手段により発生させる各車輪均一の摩擦制動トルクの配分を多くすれば、各車輪の電気モータによるトルクの配分を電力回生側に少なくし電力消費側に増やすことが可能となる。従って、各車輪の摩擦制動トルクを独立して制御する油圧制御機構を設けることなく、車載バッテリの満充電時にも各車輪に設けられた電気モータを用いて適切に車両の挙動を制御することができる。
【0014】
また、上記した車両用挙動制御装置において、前記トルク配分変更手段は、前記電池残量測定手段により測定される前記電池残量が少なくとも満充電状態にあるときは、各車輪の前記電気モータに対して設定されるトルク値を合算した総トルク値が駆動トルク側となるように、前記摩擦制動手段による摩擦制動トルクと前記電気モータによる駆動トルク又は回生制動トルクとの配分を変更することとすればよい。
【0015】
この態様の発明においては、バッテリの電池残量が少なくとも満充電状態にあるとき、各車輪の電気モータに対して設定されるトルク値を合算した総トルク値が駆動トルク側となるので、総じて電気モータを駆動させてバッテリの電力を消費することができる。従って、各車輪の摩擦制動トルクを独立して制御する油圧制御機構を設けることなく、車載バッテリの満充電時にも各車輪に設けられた電気モータを用いて適切に車両の挙動を制御することができる。
【0016】
ところで、上記した車両用挙動制御装置において、前記摩擦制動手段は、少なくとも2つの車輪に同時に均一の摩擦制動トルクを付与する摩擦制動機構であることとすればよい。
【0017】
この態様の発明においては、少なくとも2つの車輪に同時に均一の摩擦制動トルクを付与することができるので、これらの車輪に摩擦制動トルクを互いに異ならせることが可能な油圧制御機構を設けることは不要となる。
【0018】
この場合、前記摩擦制動機構は、ブレーキ操作手段に接続するマスタシリンダと、各車輪ごとに設けられ、前記マスタシリンダに連通路を介して連通して車輪に摩擦制動トルクを付与するホイルシリンダと、高圧のブレーキフルードを吐出可能なポンプと、前記ポンプの吐出側から供給されかつリザーバタンクへ排出される前記ホイルシリンダのブレーキフルード圧を調整するリニアバルブと、を有することとしてもよい。
【0019】
更に、上記した車両用挙動制御装置において、前記要求トルク演算手段は、車両の目標ヨーレートと実ヨーレートとの差に基づいて、車両の旋回挙動を安定化すべく各車輪それぞれに発生させるべき要求トルクを演算することとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、各車輪の摩擦制動トルクを独立して制御する油圧制御機構を設けることなく、車載バッテリの満充電時にも各車輪に設けられた電気モータを用いて適切に車両の挙動を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を用いて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施例である車両用挙動制御装置を備える車両に搭載される制駆動システム10の構成図を示す。本実施例において、車両は、各車輪を駆動する駆動装置として車輪ごとに電気モータを配設したいわゆるインホイルモータを搭載する車両である。尚、以下では、車両の有する4つの車輪がすべて電気モータにより駆動される4輪駆動車両について説明する。
【0023】
本実施例の制駆動システム10は、車輪FR,FL,RR,RLごとに電気モータ12を備えている。各電気モータ12はそれぞれ、対応する車輪FR,FL,RR,RLに減速機などを介して連結されている。また、各電気モータ12は、車両の有する車載バッテリ14に電気的に接続されており、車載バッテリ14と互いに電力を授受することが可能である。
【0024】
各電気モータ12には、車両用挙動制御装置の備える電子制御ユニット(ECU)16が電気的に接続されている。各電気モータ12はそれぞれ、ECU16から駆動信号が供給されることによって車載バッテリ14から電力が供給されて対応の車輪FR,FL,RR,RLにその車輪を駆動する駆動トルクを付与することが可能であると共に、また、制動時には発電機として作用することが可能であり、対応の車輪FR,FL,RR,RLに回生制動トルクを発生させることにより車載バッテリ14に回生電力を供給することが可能である。
【0025】
ECU16には、車載バッテリ14の端子間電圧や充放電電流,バッテリ温度などの状態を検知するバッテリ状態センサ17が電気的に接続されている。ECU16は、バッテリ状態センサ17の出力に基づいて車載バッテリ14の各種状態を測定し、その電池残量を測定する。
【0026】
また、制駆動システム10は、電気モータ12による回生制動トルクとは別に、車輪FR,FL,RR,RLにブレーキフルードの圧力(液圧)の作用による摩擦制動トルクを発生させる摩擦制動機構18を備えている。摩擦制動機構18は、車両運転者の操作可能なブレーキペダル20と、ブレーキペダル20にブースタ22を介して接続されるマスタシリンダ24と、マスタシリンダ24に連通し得る各車輪FR,FL,RR,RLのホイルシリンダ26と、を有している。
【0027】
ブースタ22は、上記したECU16に電気的に接続されている。ブースタ22は、ECU16からの指令により、ブレーキペダル20が踏み込まれた場合にブレーキペダル20からの入力を所定の比率で倍力するアシスト力を発生する。また、マスタシリンダ24は、ブレーキペダル20の踏み込み力を所定の比率で倍力してブレーキフルードの液圧に変換する。
【0028】
マスタシリンダ24の液圧室には、ブレーキフルードを貯留するリザーバタンク32が接続されている。マスタシリンダ24の液圧室には、また、第1連通路34が接続されている。第1連通路34には、マスタカットバルブ36を介して高圧通路38が連通されている。マスタカットバルブ36は、ECU16に電気的に接続される常開型の電磁弁であり、ECU16から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる。
【0029】
高圧通路38は、各車輪FR,FL,RR,RLの数(具体的には4つ)の分岐路38FR,38FL,38RR,38RLに分岐されており、各分岐路38は、各車輪FR,FL,RR,RLのホイルシリンダ26の液圧室に接続している。すなわち、マスタカットバルブ36は、マスタシリンダ24とホイルシリンダ26との第1連通路34を介した連通を導通・遮断させる機能を有している。マスタシリンダ24で発生した液圧は、マスタカットバルブ36が開弁しているときは、そのマスタカットバルブ36を通じて各ホイルシリンダ26に供給される一方、マスタカットバルブ36が閉弁しているときは、そのマスタカットバルブ36を通じては各ホイルシリンダ26に供給されない。
【0030】
マスタシリンダ24の液圧室には、また、第2連通路40が接続されている。第2連通路40には、増圧用リニアバルブ42を介して上記の高圧通路38が連通されている。増圧用リニアバルブ42は、ECU16に電気的に接続される常閉型の弁であり、ECU16から供給される駆動信号に応じて開度調整されるリニア弁であって、第2連通路40側から高圧通路38側へ供給するブレーキフルードの液圧(ホイルシリンダ圧)を増圧調整する機能を有している。
【0031】
摩擦制動機構18は、また、ポンプ44と、アキュムレータ46と、を有している。ポンプ44は、その上流側がリザーバタンク32に接続され、かつその下流側が第2連通路40に接続されている。ポンプ44は、ECU16に電気的に接続されるポンプモータ48に接続されており、ポンプモータ48の駆動により作動される。ポンプモータ48は、ECU16から駆動信号が供給されることにより駆動される。ポンプ44は、ポンプモータ48の駆動によってリザーバタンク32からブレーキフルードを汲み上げ、その汲み上げたブレーキフルードを高圧で増圧用リニアバルブ42の上流側の第2連通路40に吐出する。
【0032】
アキュムレータ46は、第2連通路40すなわちポンプ44の吐出側に接続されている。アキュムレータ46は、ブレーキペダル20の踏み込みによって発生した或いはポンプ44の駆動によって増圧された高圧のブレーキフルードの液圧を蓄圧する機能を有している。尚、アキュムレータ46のブレーキフルードの液圧(アキュムレータ圧)が所定圧(例えば30MPa)に達したとき、図示しないリリーフバルブが開弁され、その高圧のブレーキフルードがリザーバタンク32へ逃がされることとするのがよい。また、ポンプ44の吐出側から第2連通路40を介してマスタシリンダ24へ高圧のブレーキフルードが逆流するのを防止すべく、第2連通路40の、ポンプ44の吐出側が接続する接続点の上流側に逆止弁を設けることとするのがよい。
【0033】
高圧通路38は、減圧用リニアバルブ50を介して上記のリザーバタンク32に連通されている。減圧用リニアバルブ50は、ECU16に電気的に接続される常閉型の弁であり、ECU16から供給される駆動信号に応じて開度調整されるリニア弁であって、高圧通路38内のブレーキフルードの液圧(ホイルシリンダ圧)を減圧調整する機能を有している。
【0034】
各車輪FR,FL,RR,RLのホイルシリンダ26はそれぞれ、高圧通路38に供給されたブレーキフルードの液圧で、キャリパ52の有するブレーキパッドを対応の車輪FR,FL,RR,RLと一体に回転するブレーキディスク54に押圧する。すなわち、各車輪FR,FL,RR,RLには、ホイルシリンダ26の作動によりその液圧に応じた摩擦制動トルクが発生する。
【0035】
また、上記したECU16には、また、車輪速センサ60、ヨーレートセンサ62、加速度センサ64、及びステアリングセンサ66がそれぞれ電気的に接続されている。車輪速センサ60は、各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれに配設されており、対応の車輪の速度に応じた信号をECU16へ供給する。ヨーレートセンサ62は、車体のヨーレートに応じた信号をECU16へ供給する。加速度センサ64は、車体の前後左右の加速度に応じた信号をECU16へ供給する。また、ステアリングセンサ66は、運転者の操作するステアリングの操舵角及び操舵方向に応じた信号をECU16へ供給する。
【0036】
ECU16は、車輪速センサ60の出力に基づいて各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれの速度を検出すると共に、車体速度も検出する。また、ヨーレートセンサ62の出力に基づいて実際の車体のヨーレートを検出し、加速度センサ64の出力に基づいて車体前後左右の加速度を検出し、そして、ステアリングセンサ66の出力に基づいてステアリングの操舵角及び操舵方向を検出する。
【0037】
次に、本実施例の制駆動システムの動作について説明する。
【0038】
本実施例の制駆動システムにおいて、ECU16は、車両走行時、アクセルペダルの踏み込み操作などに基づいて各車輪FR,FL,RR,RLを駆動すべき駆動トルクを演算し、その駆動トルクが得られるように各車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12を駆動させる。この場合には、車載バッテリ14から各車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12へ電力が供給されることにより、各車輪FR,FL,RR,RLに駆動トルクが付与される。従って、車両の各車輪FR,FL,RR,RLは、電気モータ12を動力にして駆動されることができる。
【0039】
また、ECU16は、上記の如く演算された駆動トルクの付与によって各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれにスリップが生じているか否かを判別して、そのスリップが生じている場合にそのスリップの抑制を図る制御(TCS制御)を行う。具体的には、駆動トルクの付与によって何れかの車輪FR,FL,RR,RLにスリップが生じている場合には、そのスリップが抑制されるように、その車輪FR,FL,RR,RLに付与される電気モータ12による駆動トルクを減らす。電気モータ12による駆動トルクが減ると、その電気モータ12に対応する車輪FR,FL,RR,RLだけがスリップを抑制するように駆動されることとなる。従って、車両の何れかの車輪FR,FL,RR,RLに電気モータ12による駆動トルクの付与に起因してスリップが生じても、その車輪に付与される駆動トルクのみを減らすことによってそのスリップを解消させることができる。
【0040】
また、ECU16は、車両制動時、通常は、マスタカットバルブ36を開弁させると共に、増圧用リニアバルブ42及び減圧用リニアバルブ50を共に閉弁させる(図1に示す状態)。この場合、各車輪FR,FL,RR,RLのホイルシリンダ26は第1連通路34を通じてマスタシリンダ24に連通するので、各ホイルシリンダ26にはそれぞれマスタシリンダ24圧と等しいホイルシリンダ圧が導かれる。従って、車両の通常制動時は、摩擦制動機構18により各車輪FR,FL,RR,RLにブレーキペダル20の踏み込みに応じた摩擦制動トルクを発生させることができる。尚、この際、各車輪FR,FL,RR,RLのホイルシリンダ圧は互いに等しくなる。
【0041】
また、ECU16は、ブレーキペダル20の踏み込み操作速度などに基づいて運転者の緊急制動の意志を推定し、その意志が推定されるときにはブースタ22の発生する倍力比を増加させる。この場合、各ホイルシリンダ26には、通常時よりも大きなホイルシリンダ圧が導かれる。従って、車両の緊急制動時は、摩擦制動機構18により各車輪FR,FL,RR,RLにブレーキペダル20の踏み込みとアシスト力とに応じた大きな摩擦制動トルクを発生させることができる。尚、この際、各車輪FR,FL,RR,RLのホイルシリンダ圧は互いに等しくなる。
【0042】
また、ECU16は、上記の如き摩擦制動機構18による摩擦制動トルクの付与によって各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれにスリップが生じているか否かを判別して、そのスリップが生じている場合にそのスリップの抑制を図る制御(ABS制御)を行う。具体的には、均一の摩擦制動トルクの付与によって何れかの車輪FR,FL,RR,RLにスリップが生じている場合には、そのスリップが抑制されるようにその車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12を駆動させる。この場合には、車載バッテリ14からその電気モータ12へ電力が供給されて車載バッテリ14の電力が消費されることにより、その車輪FR,FL,RR,RLに駆動トルクが付与される。従って、車両の何れかの車輪FR,FL,RR,RLに摩擦制動機構18による均一の摩擦制動トルクの付与に起因してスリップが生じても、その車輪FR,FL,RR,RLに電気モータ12による駆動トルクを付与することによってそのスリップを解消させることができる。
【0043】
図2は、本実施例の車両用挙動制御装置においてECU16がVSC制御を行うべく実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図3は、VSC制御実行時に車輪FR,FL,RR,RLに要求される要求トルクに対して設定される摩擦制動機構18による摩擦制動トルクが2段階に切り替わるものとした場合にその切り替わりに応じて電気モータ12による駆動トルク又は回生制動トルクが変化されて設定される様子を表した図を示す。また、図4は、本実施例の車両用挙動制御装置において、VSC制御実行時に車輪FR,FL,RR,RLに要求される要求トルクに対して設定される摩擦制動機構18による摩擦制動トルクと電気モータ12による駆動トルク又は回生制動トルクとの配分が車載バッテリ14の電池残量に応じて変更されることを説明するための図を示す。尚、図4には、前輪FR,FLについてのみ表している。
【0044】
本実施例の車両用挙動制御装置において、ECU16は、更に、車輪速センサ60、ヨーレートセンサ62、加速度センサ64、及びステアリングセンサ66の各出力を用いて車両挙動(旋回挙動や直進制動時の不安定な傾向)を判定して、その車両挙動が不安定にある場合にその安定化を図る制御(VSC制御)を行う。
【0045】
具体的には、まず、例えばヨーレートセンサ62による実ヨーレートと加速度センサ64による前後左右の加速度とに基づいて車体のスリップ角及びスリップ角速度とを演算し、それらの値に基づいて車体の後輪横滑り傾向の発生有無を判定し、また、ステアリングセンサ66によるステアリング操舵角と車輪速センサ60による車体速度とに基づいて目標となる車体のヨーレートを演算し、その目標ヨーレートとヨーレートセンサ62による実ヨーレートとに基づいて車体の前輪横滑り傾向の発生有無を判定することにより、VSC制御の実行条件が成立するか否かを判別する(ステップ100)。そして、車体のスリップ角が大きくかつスリップ角速度が大きいときは、車体が後輪横滑り傾向にあると判定し、又は、実ヨーレートが目標ヨーレートよりも小さいときは、車体が前輪横滑り傾向にあると判定して、VSC制御の実行条件が成立すると判定する。
【0046】
そして、VSC制御の実行条件が成立すると判定すると、まず、その不安定な車両挙動の傾向に基づいて、その不安定を解消させるのに各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれに発生させるべき要求トルクを演算する(ステップ102)。例えば、車体が後輪横滑り傾向にあると判定した場合は、車体スリップ角及び車体スリップ角速度に基づいて、その傾向の程度に応じて車両重心回りにその後輪横滑り傾向を抑制するモーメントを作用させるべく旋回外側の前後輪に発生させるべき要求制動トルクを演算する。また、車体が前輪横滑り傾向にあると判定した場合は、目標ヨーレートと実ヨーレートとの差に基づいて、その傾向の程度に応じて車両重心回りにその前輪横滑り傾向を抑制するモーメントを作用させるべく前後輪に発生させるべき要求トルク(要求制動トルクや要求駆動トルク)を演算する。
【0047】
ここで、本実施例の制駆動システムにおいて、車輪FR,FL,RR,RLの制動トルクは各車輪で均一の摩擦制動トルクを発生させることが可能な摩擦制動機構18と各車輪で独立した回生制動トルクを発生させることが可能な電気モータ12との何れか一方を用いて発生させることができ、また、車輪FR,FL,RR,RLの駆動トルクは電気モータ12を用いて発生させることができる。従って、各車輪FR,FL,RR,RLに上記の如く演算された要求トルクを発生させるうえでは、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクと電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクとの配分を設定することが必要となる。
【0048】
仮にVSC制御実行時に摩擦制動機構18により車輪FR,FL,RR,RLに発生させる摩擦制動トルクが常に一定であり或いはリニアバルブ42,50による調圧に従って変化されるものとすると、リニアバルブ42,50の調圧可能な速度を超えて時々刻々と変化し得る要求トルクに対して設定される電気モータ12による回生制動トルクが比較的大きくなるときがある。車載バッテリ14の電池残量が少ないときは、大きな回生制動トルクが発生されても、その回生電力は車載バッテリ14に回収されることができるので、不都合は生じないが、しかし、車載バッテリ14の電池残量が多い或いはそのバッテリ14が満充電状態にあるときは、大きな回生制動トルクが発生されると、その回生電力を車載バッテリ14が回収することができない不都合が生じる。
【0049】
かかる不都合を解消させるためには、各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれに互いに異なる摩擦制動トルクを発生させることが可能な摩擦制動機構を設け、或いは、かかる摩擦制動機構を設けないシステムでは、車載バッテリ14が満充電状態或いは満充電に近い状態にあるときにはVSC制御の実行を中止することが考えられる。しかし、かかる手法では、制駆動システムにおける各車輪FR,FL,RR,RLごとの構成が肥大化・複雑化し、或いは、VSC制御の実行が車載バッテリ14の電池残量が多いときに制限される事態が生じてしまう。
【0050】
これに対して、図3に示す如く、各車輪FR,FL,RR,RLに発生させるべき要求トルクに対して、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクの配分が比較的少ないとき(二点鎖線で示す状態)は、電気モータ12による回生制動トルクの配分が比較的多くなり或いはその駆動トルクの配分が少なくなるので、車載バッテリ14へ回収する回生電力が多くなり或いは車載バッテリ14から消費する電力が少なくなる。一方、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクの配分が比較的多いとき(一点鎖線で示す状態)は、電気モータ12による回生制動トルクの配分が比較的少なくなり或いはその駆動トルクの配分が比較的多くなるので、車載バッテリ14へ回収する回生電力が少なくなり或いは車載バッテリ14から消費する電力が多くなる。
【0051】
そして、各車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12による回生制動トルクの配分が比較的少なくされ或いはその駆動トルクの配分が比較的多くされたうえで、それぞれの車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12に対してそれぞれ設定される回生制動トルク又は駆動トルクを合算した総トルク値が駆動トルク側(電力を消費する側)であれば、車載バッテリ14から電気モータ12へ供給されて消費される電力が、電気モータ12から車載バッテリ14へ回収される回生電力よりも多くなるので、車載バッテリ14と各電気モータ12との間におけるトータルの電力授受量Wが電力消費側となる(次式(1)参照)。
【0052】
W=2π∫TFR・ωFRdt+2π∫TFL・ωFLdt
+2π∫TRR・ωRRdt+2π∫TRL・ωRLdt ・・・(1)
但し、Wは電力回生量であり、電力回生側が+であり、電力消費側が−である。また、Tは制動トルクであり、制動トルク側が+であり、駆動トルク側が−である。更に、ωは各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれの回転数である。
【0053】
従って、車載バッテリ14の電池残量に応じて、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクと電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクとの配分を変更することとすれば、各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれに互いに異なる摩擦制動トルクを発生させる摩擦制動機構を設けることは不要になると共に、車載バッテリ14の満充電状態や満充電に近い状態のときにも適切にVSC制御を実行することが可能となる。
【0054】
本実施例において、ECU16は、VSC制御の実行により各車輪FR,FL,RR,RLの要求トルクを演算すると、次に、バッテリ状態センサ17の出力に基づいて車載バッテリ14の電池残量を測定する(ステップ104)。そして、その測定した車載バッテリ14の電池残量に応じて、各車輪FR,FL,RR,RLについて演算された要求トルクに対して設定する、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクと電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクとの配分を変更する(ステップ106)。
【0055】
具体的には、各車輪FR,FL,RR,RLについて演算された要求トルクに対して、車載バッテリ14の電池残量が少ないほど、図4(A)に示す如く、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクの配分を減らし、かつ、電気モータ12による回生制動トルクの配分を増やし或いは駆動トルクの配分を減らす。すなわち、車載バッテリ14の電池残量が多いほど、図4(B)に示す如く、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクの配分を増やし、かつ、電気モータ12による回生制動トルクの配分を減らし或いは駆動トルクの配分を増やす。
【0056】
尚、車載バッテリ14の電池残量が少なくとも満充電状態にあるときは、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクと電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクとの配分を、各車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12に対してそれぞれ設定されるトルク値を合算した総トルク値が駆動トルク側(電力を消費する側)となるように、すなわち、少なくとも一輪の電気モータ12が当該車輪に駆動トルクを発生させるように設定する。
【0057】
そして、ECU16は、各車輪FR,FL,RR,RLに、設定された配分で摩擦制動トルクと回生制動トルク又は駆動トルクとをそれぞれ発生させる(ステップ108)。具体的には、設定された摩擦制動トルクが各車輪FR,FL,RR,RL均一に付与されるように、マスタカットバルブを閉弁させると共に、ポンプモータ48を駆動させ、かつ、増圧用リニアバルブ42又は減圧用リニアバルブ50を開弁させる。この場合には、ポンプ44及びリニアバルブ42,50の作動により調圧された摩擦制動トルクが、各車輪FR,FL,RR,RL均一に付与される。また、各車輪FR,FL,RR,RLごとに、設定された回生制動トルクを電気モータ12により発生させ或いは設定された駆動トルクが付与されるように電気モータ12を駆動させる。この場合には、電気モータ12が車輪FR,FL,RR,RLに設定に係る回生制動トルクを発生させることにより電気モータ12から車載バッテリ14へ回生電力が供給され、或いは、車載バッテリ14からその電気モータ12へ電力が供給されることにより車輪FR,FL,RR,RLに設定に係る駆動トルクが付与される。
【0058】
このように本実施例の車両用挙動制御装置においては、VSC制御の実行に必要な各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれに独立して異なる制動トルクを発生させ得る構成を、各車輪に均一に作用させることができる摩擦制動機構16による摩擦制動トルクと、各車輪ごとにそれぞれ独立して作用させることができる電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクとをそれぞれ適当な配分に設定することにより実現させることができる。
【0059】
すなわち、VSC制御時に各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれに発生させるべき各要求トルクに対して、摩擦制動機構16による摩擦制動トルクとして各車輪均一のトルク値が設定されると共に、各車輪の電気モータ12ごとに回生制動トルク又は駆動トルクとしてそれぞれ独立したトルク値が設定される。
【0060】
かかる構成においては、各車輪FR,FL,RR,RLに均一の摩擦制動トルクを付与しつつ個別に電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクを付与することができるので、各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれに適切に要求トルクを付与することが可能となる。このため、本実施例によれば、各車輪FR,FL,RR,RLに均一の摩擦制動トルクを付与できる摩擦制動機構18を設けることとすれば十分であり、各車輪FR,FL,RR,RLに発生させる摩擦制動トルクを互いに異ならせることを可能とした摩擦制動機構を設けることは不要である。
【0061】
また、本実施例の車両用挙動制御装置においては、VSC制御の実行時、車載バッテリ14の電池残量に応じて、各車輪FR,FL,RR,RLの要求トルクに対して設定される、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクと電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクとの配分が変更される。具体的には、その電池残量が多いほど、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクの配分が増え、かつ、電気モータ12による回生制動トルクの配分が減らされ或いは駆動トルクの配分が増える。そして、特に車載バッテリ14の少なくとも満充電時には、それらの配分が、各車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12によるトルク値を合算した総トルク値が駆動トルク側となるように設定される。
【0062】
かかる構成においては、車載バッテリ14が満充電状態又は満充電に近い状態にあっても、各車輪FR,FL,RR,RLそれぞれに要求される要求トルクを付与しつつ、すべての車輪FR,FL,RR,RLのトータルとして電気モータ12を電力消費側で駆動させることができる。この場合、車載バッテリ14に回生電力が回収される事態が生じることはなく、その車載バッテリ14の電力を消費させることができるので、車載バッテリ14の電池残量が多いときにも、各車輪FR,FL,RR,RLに設けられた電気モータ12を用いて適切にそれらの車輪FR,FL,RR,RLに要求トルクを付与することができる。
【0063】
従って、本実施例の車両用挙動制御装置によれば、各車輪FR,FL,RR,RLに発生させる摩擦制動トルクを互いに異ならせることを可能とした摩擦制動機構を設けることなく、車載バッテリ14の満充電時にも各車輪FR,FL,RR,RLに設けられた電気モータ12を用いて適切にそれらの車輪FR,FL,RR,RLに要求トルクを付与することができ、適切にVSC制御を実行することが可能となっている。すなわち、適切にVSC制御を実行するのに、各車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12をそれぞれ独立して制御することとすれば十分であって、各車輪FR,FL,RR,RLに発生させる摩擦制動トルクを互いに異ならせることを可能とした摩擦制動機構を設けることは不要であり、更に、その電気モータ12を用いたVSC制御を車載バッテリ14の満充電時に中止することなく確実に実行することが可能となっている。
【0064】
尚、上記の実施例においては、増圧用リニアバルブ42及び減圧用リニアバルブ50が特許請求の範囲に記載した「リニアバルブ」に相当していると共に、ECU16が、図2に示すルーチン中ステップ102の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「要求トルク演算手段」が、ステップ104,106の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「トルク値設定手段」が、ステップ104の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「電池残量測定手段」が、ステップ106の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「トルク配分変更手段」が、それぞれ実現されている。
【0065】
ところで、上記の実施例においては、車両の有するすべての車輪FR,FL,RR,RLがそれぞれ電気モータ12により駆動されかつ制動されるものとしているが、前輪FR,FLのみ或いは後輪RR,RLのみが電気モータ12により駆動されかつ制動されるものとしてもよい。かかる構成においては、前輪のみ或いは後輪のみ摩擦制動トルクを互いに異ならせることを可能とした摩擦制動機構を設けることは不要となる。
【0066】
また、上記の実施例においては、VSC制御の実行時、車載バッテリ14の電池残量に応じて、各車輪FR,FL,RR,RLの要求トルクに対して設定される、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクと電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクとの配分を変更することとし、その電池残量が多いほど、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクの配分を増やし、かつ、電気モータ12による回生制動トルクの配分を減らし或いは駆動トルクの配分を増やすこととしているが、本発明はこのようにリニアに変更するものに限定されるものではなく、少なくとも2段階で、電池残量に応じて上記の配分を変更することとしてもよい。但し、この場合にも、車載バッテリ14の電池残量が少なくとも満充電状態にあるときは、摩擦制動機構18による摩擦制動トルクと電気モータ12による回生制動トルク又は駆動トルクとの配分を、各車輪FR,FL,RR,RLの電気モータ12に対してそれぞれ設定されるトルク値を合算した総トルク値が駆動トルク側(電力を消費する側)となるように設定する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施例である車両用挙動制御装置を備える車両に搭載される制駆動システムの構成図である。
【図2】本実施例の車両用挙動制御装置においてVSC制御を行うべく実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図3】VSC制御実行時に車輪FR,FL,RR,RLに要求される要求トルクに対して設定される摩擦制動機構による摩擦制動トルクが2段階に切り替わるものとした場合にその切り替わりに応じて電気モータによる駆動トルク又は回生制動トルクが変化されて設定される様子を表した図である。
【図4】本実施例の車両用挙動制御装置において、VSC制御実行時に車輪に要求される要求トルクに対して設定される摩擦制動機構による摩擦制動トルクと電気モータによる駆動トルク又は回生制動トルクとの配分が車載バッテリの電池残量に応じて変更されることを説明するための図である。
【符号の説明】
【0068】
10 車両用挙動制御装置
12 電気モータ
14 車載バッテリ
16 電子制御ユニット(ECU)
17 バッテリ状態センサ
18 摩擦制動機構
20 ブレーキペダル
24 マスタシリンダ
26 ホイルシリンダ
42 増圧用リニアバルブ
44 ポンプ
46 アキュムレータ
50 減圧用リニアバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を充放電可能な車載バッテリと、複数の車輪それぞれに設けられ、前記車載バッテリから電力が供給されることにより対応の車輪に駆動トルクを付与し、また、対応の車輪に回生制動トルクを発生させることにより前記車載バッテリに回生電力を供給する電気モータと、車輪に摩擦制動トルクを発生させる摩擦制動手段と、を備える車両の挙動を制御する装置であって、
車両挙動に基づいて、各車輪それぞれに発生させるべき要求トルクを演算する要求トルク演算手段と、
前記要求トルク演算手段により演算される各車輪の要求トルクに対して、前記摩擦制動手段により車輪に発生させる摩擦制動トルクとして各車輪均一のトルク値を、かつ、各車輪の前記電気モータごとに車輪に発生させる駆動トルク又は回生制動トルクとしてそれぞれ独立したトルク値を、それぞれ設定するトルク値設定手段と、
を備えることを特徴とする車両用挙動制御装置。
【請求項2】
前記トルク値設定手段は、
前記車載バッテリの電池残量を測定する電池残量測定手段と、
前記電池残量測定手段により測定される前記電池残量に応じて、前記要求トルク演算手段により演算される各車輪の要求トルクに対して設定される前記摩擦制動手段による摩擦制動トルクと前記電気モータによる駆動トルク又は回生制動トルクとの配分を変更するトルク配分変更手段と、
を有することを特徴とする請求項1記載の車両用挙動制御装置。
【請求項3】
前記トルク配分変更手段は、前記電池残量測定手段により測定される前記電池残量が多いほど、設定される前記摩擦制動手段による摩擦制動トルクの配分を増やし、かつ、設定される前記電気モータによる駆動トルクの配分を増やし或いは回生制動トルクの配分を減らすことを特徴とする請求項2記載の車両用挙動制御装置。
【請求項4】
前記トルク配分変更手段は、前記電池残量測定手段により測定される前記電池残量が少なくとも満充電状態にあるときは、各車輪の前記電気モータに対して設定されるトルク値を合算した総トルク値が駆動トルク側となるように、前記摩擦制動手段による摩擦制動トルクと前記電気モータによる駆動トルク又は回生制動トルクとの配分を変更することを特徴とする請求項2又は3記載の車両用挙動制御装置。
【請求項5】
前記摩擦制動手段は、少なくとも2つの車輪に同時に均一の摩擦制動トルクを付与する摩擦制動機構であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の車両用挙動制御装置。
【請求項6】
前記摩擦制動機構は、ブレーキ操作手段に接続するマスタシリンダと、各車輪ごとに設けられ、前記マスタシリンダに連通路を介して連通して車輪に摩擦制動トルクを付与するホイルシリンダと、高圧のブレーキフルードを吐出可能なポンプと、前記ポンプの吐出側から供給されかつリザーバタンクへ排出される前記ホイルシリンダのブレーキフルード圧を調整するリニアバルブと、を有することを特徴とする請求項5記載の車両用挙動制御装置。
【請求項7】
前記要求トルク演算手段は、車両の目標ヨーレートと実ヨーレートとの差に基づいて、車両の旋回挙動を安定化すべく各車輪それぞれに発生させるべき要求トルクを演算することを特徴とする請求項1記載の車両用挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−143432(P2009−143432A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323543(P2007−323543)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】