説明

車両走行制御装置

【課題】エンジンと複数の変速段を有する変速機とを搭載した車両において、目標とする車両の走行状態を達成するため、燃料消費率を最適化するようにエンジンを制御するとともに、変速機の変速段をエンジンの作動状態に対応して適切に制御する。
【解決手段】車両走行制御装置5には、車間距離情報等から演算された目標駆動力によりエンジン1を制御するエンジン最適化演算装置5Bと、変速機2を制御する変速点補正演算装置5Cとが設けられる。エンジン最適化演算装置5Bは、最適燃料消費率マップを有する最適燃費点算出手段を備え、燃料消費率が最適となる最適エンジン回転数及びアクセル開度相当信号を算出する。最適エンジン回転数は変速点補正演算装置5Cに入力されて、ここで目標変速比と実変速比との偏差に基づくPID演算が行われ、車速補正量が算出される。変速機2の変速段は車速と車速補正量とを加算した信号により制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと複数の変速段を有する変速機とを搭載した車両において、目標とする車両の走行状態を実現するよう、エンジン及び変速機の変速段を自動的に制御する車両走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の車両では各種の装置が自動化される傾向にあり、自動変速機を搭載するいわゆるオートマ(AT)車の普及が進んでいる。AT車の自動変速機は、トルクコンバータと遊星歯車機構とを組み合わせた変速機であるが、運転の容易化のための自動的な車両用動力伝達装置の中には、いわゆるマニュアル(MT)車と同様な平行軸歯車機構式変速機を使用して、その変速段を自動的に切り替えるものがある。自動変速機のトルクコンバータは、大型化が困難で流体の利用に伴う動力伝達損失が存在し、燃料経済性の点で不利な面がある。そのため、積載重量が大きく燃料経済性を重視する大型トラックなどでは、電子制御装置を用いて、車両の走行状態に応じて自動的に変速段を切り替える平行軸歯車機構式変速機が用いられる場合が多い。
【0003】
自動化された車両走行制御装置の中には、走行安全性の向上を目的として、先行車との距離を一定に保持しながらこれに追従して走行する先行車追従制御(Adaptive Cruise Control)がある。この先行車追従制御では、レーダー等により先行車との距離を測定し、先行車との距離が離れたときはエンジンの出力を増大して車両を加速し、逆に、近づいたときはブレーキを作用させたりエンジンの出力を減少させて車両を減速する。したがって、先行車追従制御では、先行車との距離を一定に保つための目標加速度となるようエンジンの出力を制御しなければならない。エンジンの出力は、通常、運転者が操作するアクセルペダルにより制御されるけれども、先行車追従制御においては、車両走行制御装置がアクセルペダルの開度に相当する信号を演算し、このアクセル開度相当信号に応じてエンジンを制御する。運転者が操作するアクセルペダルと独立したアクセル開度相当信号に応じてエンジン出力を制御する方法は、走行時の車速を一定に保持するよう制御するオートクルーズ制御でも実施されている。
【0004】
ところで、車両では燃料経済性が常に要請され、エンジンをなるべく燃料消費量が少ない状態で作動させることが求められる。先行車追従制御においても、燃料消費量が少ないエンジン作動状態で、目標加速度を達成する出力を得るようにエンジンを制御することが望ましい。こうした事情から、先行車追従制御において、エンジンの燃料消費量を最適に保ちながら目標加速度を達成する車両走行制御装置が知られており、例えば特開2002−52951号公報に開示されている。
【0005】
この公報に示される先行車追従制御の構成を、図9の概略図によって説明する。図9の車両用動力伝達装置は、エンジン101、トルクコンバータ102及び無段変速機103を搭載しており、無段変速機103の出力軸は最終減速機(ファイナルギヤ)104を介して車両の駆動輪105に連結されている。車両走行制御装置は、エンジン制御装置106及び変速機制御装置107を備え、エンジン制御装置106は、運転者の操作するアクセル開度(スロットルバルブ108の開度)、エンジン回転数、車速(無段変速機103の出力軸回転数)等の信号に応じてエンジン101を制御し、一方、変速機制御装置107は、エンジン回転数及びアクセル開度、無段変速機の入力軸回転数、車速等の信号に応じてトルクコンバータ102及び無段変速機103を制御する。さらに、車両走行制御装置は、先行車追従制御を実行するため、車速コントローラ109と車間距離コントローラ110とからなる車両コントローラ111を備え、車両コントローラ111には、先行車との車間距離の信号及び道路勾配等前方道路環境に関する信号が入力される。
【0006】
一般的にエンジンの燃料消費率、つまり単位量の出力を発生するための燃料量は、エンジンの回転数と出力トルクによって決定されるが、この車両走行制御装置におけるエンジン制御装置106は、エンジン回転数と出力トルクとに対応して最適燃料消費率を決定する最適燃料消費率マップを有している。先行車追従制御においては、車両コントローラ111は、入力された先行車との車間距離の信号等によって車両の目標加速度を演算して、それをエンジン制御装置106及び変速機制御装置107に出力する。エンジン制御装置106では、最適の燃料消費率で目標加速度を達成するためのエンジンの作動点を、最適燃料消費率マップを利用して求め、運転者の操作するアクセル開度とは独立して、スロットルバルブ108の開度を設定する。また、変速機制御装置107では、最適の燃料消費率となるエンジンの作動点に対応したエンジン回転数となるよう、検出された車速信号を用いて無段変速機103の変速比を制御する。
【特許文献1】特開2002−52951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行車追従制御において、車両の目標加速度を達成するためエンジンを制御するに際し、特許文献1に示されるような最適燃料消費率マップを用いて最適作動点であるエンジン回転数と出力トルクを決定し、これをエンジンのアクセル開度相当信号としてスロットルバルブ等の燃料供給量調整装置を制御すると、燃料消費量の少ない先行車追従制御が実現でき、車両走行の燃料経済性が大幅に向上する。しかし、この先行車追従制御を実行する車両は、無段変速機を備え変速比を無段階に変更できる動力伝達装置を搭載していることを前提とする。つまり、最適作動点におけるエンジン回転数となるよう、そのときの車速に対する変速比が任意の値に設定可能であることが必要となる。
【0008】
無段変速機としては各種の機構を有するものが知られているけれども、変速比を無段階に変更するには機構が複雑となり、大型トラックなどの伝達動力や伝達トルクが大きい車両の動力伝達装置としては、事実上使用できない。大型トラックなどで使用される変速機は、いわば有段の平行軸歯車機構式変速機であって、複数の変速段を構成する常時噛み合い式の歯車列を有する。このような変速機を備えた車両でも、電子制御装置と変速アクチュエータにより、走行状態に応じて自動的に変速段を切り替えることはできるが、先行車追従制御の際に、上述のように、最適作動点におけるエンジン回転数と一致するよう、変速比を無段階の任意の値に設定するのは不可能である。
【0009】
一方、大型トラックなどの変速機は、例えば12段というように、乗用車等に比べ多数の変速段を備えている。そのため、先行車追従制御においては、エンジンをなるべく燃料消費量の少ない状態で作動するよう制御しながら変速段をきめ細かく切り替え、燃料経済性の面から最適な走行状態を実現することが望ましい。
本発明の課題は、エンジンと複数の変速段を有する変速機とを搭載した車両において、燃料消費率を最適化するようにエンジン及び変速機を制御し、走行状態の変動に伴う不安定現象を生じることなく、目標とする車両の走行を達成する車両走行制御装置を構成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明の車両走行制御装置は、目標とする車両の走行状態を達成するため、基本的には最適燃料消費率マップを用いてエンジン作動状態を制御し、エンジン作動状態に対応する変速段に適切に移行するよう、変速機を制御するものである。すなわち、本発明は、
「エンジンと複数の変速段を有する変速機とを備えた車両の車両走行制御装置であって、
前記エンジンは、前記車両走行制御装置が出力するアクセル開度相当信号に対応してエンジンを制御するエンジン制御装置を備え、
前記変速機は、車速を表す車速信号と前記アクセル開度相当信号とに対応して変速段を決定する変速段決定手段を有する変速機制御装置を備え、
前記車両走行制御装置は、最適燃料消費率となる前記エンジンの回転数と前記エンジンの出力トルクとの関係を示す最適燃料消費率マップを有する最適燃費点算出手段、前記最適燃費点算出手段の出力により前記アクセル開度相当信号を算出するアクセル開度算出手段、及び前記最適燃費点算出手段の出力により目標となる変速比を算出する目標変速比算出手段を備えており、
前記最適燃費点算出手段が、目標とする駆動力と車速とにより前記最適燃料消費率マップを用いて最適エンジン回転数及び最適エンジン出力トルクとを決定し、前記アクセル開度算出手段が前記アクセル開度相当信号を決定するとともに、目標変速比算出手段が、車速と前記最適エンジン回転数とに基づき目標変速比を決定し、さらに、
前記車両走行制御装置は、前記目標変速比と実際の変速比との変速比差を算出するとともに、前記変速比差を車速差に変換して前記変速比差に応じた車速補正量を算出し、かつ、車速と前記車速補正量とを加算した信号を、車速を表す車速信号として前記変速段決定手段に入力する」
ことを特徴とする車両走行制御装置となっている。
【0011】
請求項2に記載のように、前記変速比差に応じた車速補正量は、前記変速比差に比例する量と前記変速比差を時間積分した量とを含むものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明が適用される車両には、エンジン及びエンジン制御装置と、有段の変速機、つまり複数の変速段を有する変速機及び変速段決定手段とが装備されており、先行車追従制御を実行するときは、車両走行制御装置がエンジン制御装置と変速段決定手段とに対する指令を出力する。車両走行制御装置は、最適燃料消費率となるエンジン回転数と出力トルクとの関係を示す最適燃料消費率マップを有しており、車間距離等から必要な加速度及び目標駆動力を演算して、最適燃料消費率マップによって最適エンジン回転数及び最適エンジン出力トルクとを算出し、これによりアクセル開度相当信号を決定する。アクセル開度相当信号はエンジン制御装置に出力され、燃料供給量を定める基本的なパラメータとして使用される。
このように、本発明の車両走行制御装置による先行車追従制御では、最適燃料消費率マップにより、目標駆動力を得るため燃料消費量が最小となるエンジンの作動点が算出され、これに応じてエンジン制御が遂行される。したがって、先行車追従制御時の燃料経済性が大幅に向上する。
【0013】
車両走行制御装置により算出された最適エンジン回転数は、変速段を選択し決定するためにも用いられる。すなわち、車両走行制御装置の目標変速比算出手段が、車速と最適エンジン回転数とに基づき目標変速比を決定し、目標変速比と実際の変速比との変速比差を算出するとともに、この変速比差を車速差に変換して変速比差に応じた車速補正量を算出する。変速機の変速段決定手段は、車速信号とアクセル開度相当信号とに対応して変速段を選択し決定する制御を行うが、本発明の車両走行制御装置は、その車速信号として車速と車速補正量とを加算した信号を入力して変速段を決定する。本発明では、車速補正量が加算された信号を用いることによって、例えば車速信号とアクセル開度相当信号とに対応してマップの形で設定された変速段の切り替え点(変速点)が補正されることとなる。その結果、現在の変速段による実エンジン回転数が最適エンジン回転数よりも所定量相違する場合には、変速段が切り替わり、燃料消費量が小さいより適切な変速段に移行する。そして、変速点の補正は、別のマップを用意する等、変速機の変速段決定手段に変更を加えることなく実行できる。
【0014】
また、車速補正量は、車速差に相当する変速比差に応じた量として演算されるから、その演算方法を適切に設定することにより、変速機制御の制御過程等を最適化することができる。本発明の適用される車両の変速機は有段変速機であって、変速機の変速段を切り替えると変速比はステップ状に変化し、同時にエンジン回転数もステップ状に変動して制御の安定性が損なわれ易いが、変速比差に応じた量として車速補正量を適切に設定すると、変速機制御を安定化することが可能である。
【0015】
請求項2の発明は、変速比差に応じた車速補正量を、変速比差に比例する量と変速比差を時間積分した量を含むように演算するものであり、場合によっては、変速比差を時間微分した量を加えてもよい。このような演算による制御はPID制御と呼ばれ、変速比差に比例する量の比例定数、つまりゲイン等を調整することによって、変速比差に対する車速補正量の大きさが変わり、応答性や安定性が適切な制御動作に変更することができる。また、変速比差を時間積分した量を含ませることによって、制御系の定常偏差を除去することができる。
本発明の変速段の制御においては、変速機の変速段の切り替えが生じたときには、エンジン回転数がステップ状に変化する。これに伴い制御系が不安定となり、変速段の切り替えを繰り返すハンチングが発生したり、エンジン回転数の収束に時間的な遅れが発生する虞れがあるが、請求項2の発明では、PID制御のゲイン等を調整して不安定な制御動作の防止を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明を実施した車両走行制御装置について説明する。図1は、本発明の適用される車両に搭載された動力伝達装置の概要及び各機器を制御する制御装置の全体的な関連を示すものであり、図2は、変速機制御装置における変速段決定手段の作動特性(シフトスケジュール)を表すグラフである。
【0017】
図1に示すように、本発明の適用される車両には、エンジン1、変速機(T/M)2が搭載され、その中間にクラッチ3が配置してある。この実施例のエンジン1は、燃料噴射ポンプを備えたディーゼルエンジンであり、燃料噴射ポンプを制御して燃料供給量を変更するエンジン制御装置(エンジンECU)11を有している。また、変速機2は、自動的な操作が可能な平行軸歯車機構式の有段変速機であり、変速機制御装置(TMECU)21で制御され複数の変速段を切り替えるギヤシフトユニット22が設けられている。変速機2の出力軸は最終的には車輪に連結され、連結軸にはその回転数を検出する車速センサ4が設置される。変速機2の前方に配置されたクラッチ3は、変速段の切り替え時にクラッチを自動的に断接するクラッチアクチュエータ31を備えている。
【0018】
変速機制御装置21は、自動的な変速機の操作の際に使用される変速段決定手段を有しており、この変速段決定手段は、図2に示されるように12段の変速機の変速段を決定するものであり、基本的には車速信号とエンジンのアクセル開度信号に応じて変速段を決定し、車両の走行状態が変速段を切り替える変速点に到達すると、変速機制御装置21がギヤシフトユニット22に指令を出力して変速機2の変速段を変更する。そして、この実施例の動力伝達装置は、運転者の操作によるマニュアル運転も可能なように構成されており、運転者の操作に対応したアクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)、変速機チェンジレバー、クラッチペダル踏み込み量の信号が変速機制御装置21に入力され、マニュアル運転時には、これらの信号に応じて変速機制御装置21がエンジン制御装置11及びギヤシフトユニット22に指令を出力する。
【0019】
さらに、本発明の適用される車両においては、先行車追従運転などの自動的な運転を行う際に動力伝達装置を制御する、車両走行制御装置(車両制御ECU)5が設けられている。車両走行制御装置5には、先行車追従制御のため先行車との車間距離を検出する車間距離センサ6からの信号が入力されるとともに、車速センサ4からの車速信号及び変速機の変速段の信号が入力され、車両走行制御装置5は、これらの信号に基づいて目標アクセル開度等の指令値を算出し、これによって変速機制御装置21及びエンジン制御装置11を制御する。車両走行制御装置5のコンピュータでは、指令値算出のための演算が、例えば100msの短時間の周期で繰り返し実行される。
この車両には、自動的な運転とマニュアル運転を切り替える手動/自動スイッチが設置され、自動的な運転のときには、運転者が操作するアクセル開度と独立して車両走行制御装置5の演算したアクセル開度相当信号が、アクセル開度の代わりに変速機制御装置21及びエンジン制御装置11に入力されるようになる。なお、オートクルーズ制御の場合には、目標となる設定車速が車両走行制御装置5に入力される。
【0020】
本発明の車両走行制御装置5は図3に示す最適燃料消費率マップを有しており、これは、車両走行制御装置5の記憶装置の中にマップの形で格納されている。エンジンの燃料消費率は、エンジン回転数と出力トルク、つまりエンジンの作動点に対応して決定されるが、最適燃料消費率マップは、エンジンの一定の出力に対し最適燃料消費率となるエンジン回転数と出力トルクとの関係を示すもので、個々のエンジンに特有の、図3の破線の曲線で表される特性となっている。
【0021】
次いで、本発明の車両走行制御装置5において実行される先行車追従制御の概要について図4により説明する。車両走行制御装置5には、目標駆動力演算装置5A、エンジン最適化演算装置5B及び変速点補正演算装置5Cが設けられる。目標駆動力演算装置5Aは、車間距離センサ4からの車間距離情報により決定される目標加速度adesと車速Vとに基づき目標駆動力Fdesを算出する。エンジン最適化演算装置5Bは、後述(図5)するように、最適燃費点算出手段51及びアクセル開度算出手段52を有し、目標駆動力Fdesと車速Vとに基づきアクセル開度相当信号αdesを決定する。アクセル開度相当信号αdesはエンジン制御装置に入力され、エンジン1の燃料供給量を定めるパラメータとなる。また、エンジン最適化演算装置5Bの最適燃費点算出手段51で決定された最適エンジン回転数ωdesは、変速点補正演算装置5Cに入力される。
【0022】
変速点補正演算装置5Cは、後述(図5)するように、目標変速比算出手段53を有しており、最適エンジン回転数ωdesと車速Vとに基づき目標変速比Igdesを決定した後、目標変速比Igdesと実際の変速比Igとの変速比差から車速補正量ΔVを演算して、車速Vと車速補正量ΔVとを加算した信号VfVを出力する。変速機2の変速段は、この信号VfVにより制御される。このように、先行車追従制御においては、エンジン回転数がエンジン最適化演算装置5Bで決定された最適エンジン回転数ωdesに近づき収束するよう変速機の制御が行われる。
【0023】
図5には、本発明の車両走行制御装置5における処理手順及び信号の流れを示す。先行車追従制御では、まず、目標駆動力演算装置5A(図4)により、車間距離情報から求められた目標加速度adesと車速Vとに基づき目標駆動力Fdesが、次のとおり演算される。
des=FR+(m+Δm)×ades
ここで、FRは、転がり抵抗等車両の走行抵抗であり、車両重量や車両の走行状態により定まる量である。また、m及びΔmは、それぞれ、車両質量、回転部分相当質量であり、車両に固有の値である。
【0024】
算出された目標駆動力Fdesは、車速センサ4により検出された車速Vとともに最適燃費点算出手段51に入力される。最適燃費点算出手段51では、目標駆動力Fdesを生じるために必要なエンジンの出力Pdesが、目標駆動力Fdesと車速Vとの乗算で算出される。つまり、
Pdes=Fdes×V
最適燃費点算出手段51には、図3に示す最適燃料消費率マップが備えられている。最適燃料消費率マップは、エンジンの一定の出力に対し最適燃料消費率となるエンジン回転数と出力トルクとの関係を示すもので、このマップから、エンジンの出力Pdesを発生するために最小の燃料消費量となる、最適エンジン回転数ωdes及び最適エンジン出力トルクTdesとが決定される。図6は、その決定方法を図示するものであり、最適エンジン回転数ωdes及び最適エンジン出力トルクTdesは、目標駆動力Fdesを生じるために必要なエンジンの出力Pdes(図6の目標出力線)と、最適燃料消費率の曲線との交点となる作動点として求めることができる。
【0025】
最適燃費点算出手段51により決定された最適エンジン回転数ωdes及び最適エンジン出力トルクTdesは、アクセル開度算出手段52に入力される。アクセル開度算出手段52には、図7に示すエンジンの作動点に対応してアクセル開度相当信号を決定する特性図がマップの形で格納されており、アクセル開度算出手段52は、この特性図によって最適エンジン回転数ωdes及び最適エンジン出力トルクTdesに対応するアクセル開度相当信号αdesを算出する。算出されたアクセル開度相当信号αdesは、変速機制御装置21を介してエンジン制御装置11に送られ、エンジン1を制御するパラメータとして使用される。したがって、エンジン1は、最適燃費点に相当するアクセル開度となり、先行車追従運転において燃料消費率が最適な状態で作動することとなる。
【0026】
次に、本発明の車両走行制御装置5における変速機制御について説明する。車両走行制御装置5には、図5の目標変速比算出手段53が備えられており、最適燃費点算出手段51により決定された最適エンジン回転数ωdesは、車速Vとともに目標変速比算出手段53に入力される。一般的に、エンジン回転数ωと車速Vとは比例関係にあり、変速機2の変速比をIgとすれば、両者の関係は、
ω=C×Ig×V (Cは定数)
で表される。したがって、エンジン1が最適エンジン回転数ωdesとなるための目標変速比Igdesは次のようになる。
Igdes=(1/C)×(ωdes/V
一方、車両走行制御装置5には、実際の変速比Igを求める実変速比算出手段54が備えられており、実変速比算出手段54は、実際のエンジン回転数ωと車速Vから次のように求められる。
Ig=(1/C)×(ω/V
【0027】
ところで、実際の変速比Igは変速機2の変速段に対応したものであるが、本発明が適用される車両の変速機は複数の変速段を有する有段変速機であって、Igは、いわば離散的な固有値となり、目標変速比Igdesとは必ずしも一致せず、実際のエンジン回転数ωは最適エンジン回転数ωdesにはならない。そこで、車速Vに車速補正量ΔVを加算したときにωがωdesに一致するような車速補正量ΔVを計算すると、
C×(V+ΔV)×Ig=C×V×Igdes
ΔV=(Igdes−Ig)×(V/Ig
となる。ここで、V及びIgは定数とみなし得るから、車速補正量ΔVと、目標変速比Igdesと実際の変速比Igとの変速比差(Igdes−Ig)とは、比例する量となり、両者は簡単に変換ができる。
【0028】
本発明の車両走行制御装置5には、目標変速比Igdesと実際の変速比Igとの減算処理を行う減算処理手段55が設けてあり、両者の偏差である変速比差(Igdes−Ig)が算出される。変速比差はPID制御器56に送られ、ここで変速比差に応じた適正な量に演算され、さらに車速量に変換されて車速補正量ΔVとして出力される。車速補正量ΔVには、加算処理手段57で車速Vの加算が行われて加算した信号VfV(補正後車速)が算出される。信号VfVは、変速機2の変速段を制御する変速機制御装置21に入力され、変速機2の変速段を決定する車速信号となる。これによって、変速機制御装置21の構成を変えることなく変速点が補正され、実質的に変速段決定手段における図2に示す特性が変更されることとなる。なお、変速機制御装置21の入力側には、自動的な運転とマニュアル運転を切り替える手動/自動スイッチが設置され、マニュアル運転の際には、車速Vが変速機制御装置21にそのまま入力される。
【0029】
この実施例で用いられるPID制御器は、比例動作(P動作)及び積分動作(I動作)行う制御器であって、変速比差(Igdes−Ig)に応じた車速補正量ΔVを、変速比差に比例する量と変速比差を時間積分した量を加算した量として演算する。PID制御器では、P動作又はI動作のゲインを調整することによって、変速比差に対する車速補正量ΔVの大きさを変え、制御動作を適切化することができる。例えば、ゲインを小さくすると車速補正量ΔVが緩やかに変化するようになり、変速比差が生じても変速段の切り替えが起こりにくい特性となって、急激な変速段の切り替えに伴う変速ショックや変速段の切り替えを繰り返すハンチングを防止できる。場合によっては、微分動作(D動作)を加え、制御動作の応答性を高めることもできる。
【0030】
本発明の変速機制御装置21の作動について図8を参照して説明する。図8は、変速点の特性(シフトスケジュール)を示す図2に、車速とエンジン回転数との関係を表すグラフ(下図)を対応させたものである。
下図において実際の変速比Igは直線の傾きとして表され、実際のエンジン回転数ωは現在の変速段N速に対応した直線上の作動点Aとなる。前述したように、実際の変速比Igは離散的な値であるから、先行車追従制御において、最適燃費点算出手段51により決定された最適エンジン回転数ωdesは、実際のエンジン回転数ωと異なる場合がある。このときは、ωdesにより定まる目標変速比IgdesとIgとの偏差に基づきPID制御器での演算が実行され、車速補正量ΔVが算出される。ΔVの値が増加し(V+ΔV)の大きさが変速点を越えると、変速段が隣接する変速段、例えばN+1速に切り替わる。これにより作動点はBとなり、エンジンの状態は最適エンジン回転数ωdesに近い作動点に移るので、その燃料消費率が改善される。
【0031】
N速の変速段からN+1速への切り替えが生じたときには、エンジン回転数がステップ状に変化し、車速Vは短時間には変化しないから、実際のエンジン回転数ωが最適エンジン回転数ωdesよりも小さくなる場合がある。こうした急変が生じると制御系が不安定となり、変速段の切り替えを繰り返すハンチングが発生したり、エンジン回転数の収束に時間的な遅れが発生する虞れがある。本発明では、PID制御におけるP動作及びI動作のゲインを調整することにより、車速補正量ΔVの時間的な増加状態を変更することができ、不安定な制御動作の防止を図ることが可能となる。時間経過に伴い、車速V等が変化して最適エンジン回転数ωdesが変わり、実際のエンジン回転数ωは最適エンジン回転数ωdesと一致するようになる。
【0032】
以上詳述したように、本発明は、エンジンと複数の変速段を有する変速機とを搭載した車両において、目標とする車両の走行状態を達成するため、最適燃料消費率マップを用いてエンジン作動状態を制御し、エンジン作動状態に対応する変速段に適切に移行するよう、変速機を制御するものである。上記の実施例では、先行車追従制御の際の車両走行制御装置として説明したが、本発明は、オートクルーズ制御に適用することも可能である。また、ディーゼルエンジンに限らず例えばガソリンエンジンに適用するなど、実施例に対し種々の変形が可能であるのは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の車両走行制御装置及び動力伝達装置等の概要を示す図である。
【図2】本発明の変速段決定手段の作動特性を表す図である。
【図3】本発明で使用される最適燃料消費率マップを示す図である。
【図4】本発明における先行車追従制御の概要を示す図である。
【図5】本発明の車両走行制御装置における処理手順等を示す図である。
【図6】エンジンの最適作動点を求める過程を示す図である。
【図7】エンジン作動点とアクセル開度相当信号との関係を示す図である。
【図8】本発明の変速機制御装置の作動を示す図である。
【図9】従来の車両走行制御装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 エンジン
11 エンジン制御装置
2 変速機
21 変速機制御装置
3 クラッチ
31 クラッチ制御装置
4 車速センサ
5 車両走行制御装置
51 最適燃費点算出手段
52 アクセル開度算出手段
53 目標変速比算出手段
54 実変速比算出手段
55 減算処理手段
56 PID制御器
57 加算処理手段
6 車間距離センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと複数の変速段を有する変速機とを備えた車両の車両走行制御装置であって、
前記エンジンは、前記車両走行制御装置が出力するアクセル開度相当信号に対応してエンジンを制御するエンジン制御装置を備え、
前記変速機は、車速を表す車速信号と前記アクセル開度相当信号とに対応して変速段を決定する変速段決定手段を有する変速機制御装置を備え、
前記車両走行制御装置は、最適燃料消費率となる前記エンジンの回転数と前記エンジンの出力トルクとの関係を示す最適燃料消費率マップを有する最適燃費点算出手段、前記最適燃費点算出手段の出力により前記アクセル開度相当信号を算出するアクセル開度算出手段、及び前記最適燃費点算出手段の出力により目標となる変速比を算出する目標変速比算出手段を備えており、
前記最適燃費点算出手段が、目標とする駆動力と車速とにより前記最適燃料消費率マップを用いて最適エンジン回転数及び最適エンジン出力トルクとを決定し、前記アクセル開度算出手段が前記アクセル開度相当信号を決定するとともに、目標変速比算出手段が、車速と前記最適エンジン回転数とに基づき目標変速比を決定し、さらに、
前記車両走行制御装置は、前記目標変速比と実際の変速比との変速比差を算出するとともに、前記変速比差を車速差に変換して前記変速比差に応じた車速補正量を算出し、かつ、車速と前記車速補正量とを加算した信号を、車速を表す車速信号として前記変速段決定手段に入力することを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項2】
前記変速比差に応じた車速補正量は、前記変速比差に比例する量と前記変速比差を時間積分した量とを含む請求項1に記載の車両走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−49738(P2008−49738A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225377(P2006−225377)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【Fターム(参考)】