説明

軟質シートの製造方法

【課題】効率的な軟質シートの製造方法、特に圧延工程が短縮化された軟質シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】前記軟質シートの原料である混合物と、この溶融物が通過する断面穴を有するダイとを用意し、当該混合物を当該ダイの断面穴へ通過させることにより長尺物を成形する押出工程と、前記押出工程により成形された長尺物を切断して所定の切断物を得る切断工程と、前記切断工程により得られた所定の切断物を圧延して均一な性状のシートを成形する圧延工程とを有し、前記混合物の材料がフッ素樹脂に無機質充填材を配合した組成物であり、前記押出工程により成形された長尺物の断面形状が環状であることを特徴とする軟質シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートガスケットなどの軟質シートの製造方法に関し、詳しくは押出機により押出成形された混合物を切断し、圧延することで得られる、均一な性状を有する軟質シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
充填材入りフッ素樹脂シートは、フッ素樹脂に充填材を充填してシート状に加工したものであり、フッ素樹脂の持つ耐薬品性、耐熱性、非粘着性、低摩擦性に加えて、充填材の持つ固有の機能・特性を付加し、あるいはフッ素樹脂の欠点である、耐摩耗性や対クリープ性を改善することにより、シール材などに多く用いられている。
【0003】
この充填剤入りフッ素樹脂シートに代表される軟質シートの製造方法としては、材料を攪拌・混合し、これを加熱して得られた混合物を押出機により平板状に押出した後に、これを切断、圧延してシート状にする成形方法が採られている。
【0004】
図4および図5は、従来技術にかかる軟質シートの製造方法の説明図である。図4は、押出機100により材料110が平板状の長尺物120として押出成形される押出工程を示しており、図5は、連続した平板状の長尺物120を切断、圧延して、軟質シート130を成形する工程を示している。
【0005】
図4に示したように、ホッパー104から投入された材料110は、シリンダー108内で加温加圧されて一体化する。一体化した材料110は、押出機100の先端方向に押出され、先端に備えられているダイ102を通過する。ダイ102は混合物、すなわち混合状態となった材料110を平板状に押出成形するいわゆるフラットダイであり、この混合物がダイ102の断面穴102aを通過することで、連続した平板状の長尺物120が押出される。
【0006】
次に、押出機100により成形された連続した平板状の長尺物120を、図5(A)に示す切断工程によって、連続した平板状の長尺物120を所定の寸法に切断して切断物122を得る。そして、図5(B)に示す圧延工程によって、切断物122を折り返してから、所定の厚さとなるまで繰り返し圧延する。この際、切断物122を折り返してから圧延するのは、内部の空隙を除去するとともに、分子鎖を配向させることにより強度を付与するため、すなわちフッ素樹脂の繊維化を促進するために、多くの圧延回数が必要だからである。さらに、図5(C)に示したように、繰り返しの圧延によって乾燥劣化したシート端部124をカットし、この後、不図示の乾燥、焼成、修正等の各工程を経て、図5(D)に示したような軟質シート130が製造される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の成形方法において、圧延工程は軟質シートの製造工程の中で大きなウェイトを占めるため、軟質シートの製造工程を効率化するためには、この圧延工程の短縮化をどのようにして実現するかが課題である。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、従来よりも効率的であり、しかも均一な性状を有する軟質シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述したような従来技術における課題および目的を達成するために発明されたものであって、本発明の軟質シートの製造方法は、
前記軟質シートの原料である混合物と、この混合物が通過する断面穴を有するダイとを用意し、当該混合物を当該ダイの断面穴へ通過させることにより長尺物を成形する押出工程と、
前記押出工程により成形された長尺物を切断して所定の切断物を得る切断工程と、
前記切断工程により得られた所定の切断物を圧延して均一な性状のシートを成形する圧延工程とを有し、
前記混合物の材料がフッ素樹脂に無機質充填材を配合した組成物であり、
前記押出工程により成形された長尺物の断面形状が環状であることを特徴とする。
【0010】
本発明を上記のとおり構成することによって、押出工程における押出比を高めることで、押出工程におけるフッ素樹脂の繊維化を促進することができるため、圧延工程における圧延回数を少なくすることができる。また、歩留り率も向上するなど、従来よりも効率的に軟質シートを製造することが可能となる。
【0011】
また、上記発明において、前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることが好ましい。
本発明を上記のとおり構成することによって、少ない圧延回数で均一な性状の軟質シートを製造できるとの本発明の効果が顕著に発揮される。
【0012】
また、上記発明において、前記混合物の材料に占める無機質充填材の割合が20重量%以上であることが好ましい。
本発明を上記のとおり構成することによって、少ない圧延回数で均一な性状の軟質シートを製造できるとの本発明の効果が更に顕著に発揮される。
【0013】
また、上記発明において、前記押出工程における押出比が5〜10であることが好ましい。
本発明を上記のとおり構成することによって、押出工程における効率が悪化することなく、少ない圧延回数で従来よりも効率的に軟質シートを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の軟質シートの製造方法によれば、押出工程における押出比を高めることで、押出工程におけるフッ素樹脂の繊維化を促進することができるため、従来よりも圧延工程を短縮することができる。また、歩留り率も向上するなど、従来よりも効率的に均一な性状の軟質シートを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明について説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
図1および図2は、本発明にかかる軟質シートの製造方法の説明図である。図1は、押出機1により材料10が円環状の長尺物20として押出成形される押出工程を示しており、図2は、連続した円環状の長尺物20を切断、圧延して、軟質シート30を成形する工程を示している。
【0016】
図1に示したように、ホッパー4から投入された材料10は、シリンダー8内で加熱されて混合状態となる。材料10としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂に無機質充填剤を配合した組成物であることが好ましい。
【0017】
この混合状態となった材料10は、押出機1の先端方向に押出され、先端に備えられて
いるダイ2を通過する。ダイ2は混合物、すなわち混合状態となった材料10を円環状に押出成形するいわゆるサーキュラーダイであり、この混合物がダイ2の断面穴2aを通過することで、連続した円環状の長尺物20が押出される。
【0018】
次に、押出機1により成形された連続した円環状の長尺物20を、図2(A)に示す切断工程によって、連続した円環状の長尺物20を所定の寸法に切断して切断物22を得る。そして、図2(B)に示す圧延工程によって、切断物22を平板状に押し拡げてから、所定の厚さとなるまで繰り返し圧延する。この後、不図示の乾燥、焼成、修正等の各工程を経て、図2(C)に示す軟質シート30が製造される。
【0019】
上記の押出工程で使用する押出機としては、油圧プレス式押出機やスクリュー式押出機など、従来より汎用されている押出機を使用できる。また、上記の圧延工程で使用する圧延機としては、従来より汎用されている圧延機を用いることができる。なお、長尺物20を断面穴2aの通過直後に押出機1内で切断することで、切断工程と押出工程とを一体的に行ってもよい。
【0020】
上記の押出工程において、円環状に長尺物20を押出すことで、従来のように平板状に長尺物120を押出す場合と比べて、高い押出比での押出成形が可能となり、押出工程におけるフッ素樹脂の繊維化を促進することができる。これは、押出工程においてフッ素樹脂の繊維化を促進するためには、押出比を高めて、押出時に作用するせん断力を大きくする必要があるところ、高い押出比で押出成形するためには、環状で押出すことが不可欠だからである。
【0021】
従来のように平板状に押出す場合は、中央部に比べて端部に作用するせん断力が大きくなる。また、押出比を高くすると、押出時に作用するせん断力も大きくなる。よって、高い押出比で平板状に押出成形を行うと、中央部と端部とで作用するせん断力の差が大きくなり、中央部と端部とで繊維化の進行度が異なるものとなる。
【0022】
ところで、繊維化が進行すると展性が失われるとともに、押出時におけるダイ接面との抵抗が大きくなる。したがって、高い押出比で平板状に押出成形を行うと、中央部と端部とで押出時の抵抗が異なることとなるから、均一に押し出せなかったり、中央部に割裂が発生したりする問題が生ずる。
【0023】
一方、本発明のように円環状に押出す場合は、端部(切れ目)が存在しないことから、断面位置に関わらず一様にせん断力が作用し、繊維化の進行も同程度となる。したがって、押出時の抵抗差が生じないため、従来のような問題は生ぜず、高い押出比での押出成形が可能となる。
【0024】
このことから、高い押出比で押出成形を行った本発明の長尺物20は、従来の長尺物120と比べて全体として繊維化が進んでいるため、圧延工程における圧延回数を少なくすることができ、また折り返しも行う必要がない。したがって、従来のようにシート端部が乾燥劣化しないため、シート端部をカットする工程が不要となり、歩留り率が向上する。
【0025】
押出比は、(押出機のシリンダー内断面積)/(ダイの断面穴の断面積)と定義される。前述のとおり押出比が高いほど圧延工程における圧延回数を少なくすることができるが、一方において押出比が高すぎると押出しが困難となり、押出工程における効率が悪化する。本発明における押出比としては5以上が好ましく、特に5〜10とすることが好ましい。
【0026】
上記実施形態では長尺物の断面形状を円環状のものを例にしたが、本発明にかかる長尺
物の断面形状は、円環状に限定されない。例えば、図3(A)に示すような楕円形状40や、図3(B)に示すような二つの円が重なった形状60、および図3(C)に示すような三つの円が重なった形状80等でも良い。すなわち、押出機から押出される際に長尺物のいずれの部位においても密度差が生じないように、切れ目がない断面形状であればよい。なお、本明細書において、「環状」とは切れ目がない形状のことを意味するものとする。
【0027】
以上、本発明の好ましい実施形態を軟質シートの製造方法を例に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることはない。本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を比較例と対比して説明する。以下の説明では、図1および図2に示した本発明にかかる軟質シートの製造方法を実施例と、図4および図5に示した従来技術にかかる軟質シートの製造方法を比較例とする。
【0029】
なお、これらの実施例および比較例は、本発明をさらに具体的に説明するためのものであり、本発明は実施例の範囲のみに限定されるものではない。
(原料)
実施例の材料10および比較例の材料110の原材料は、表1に示すとおりである。
【0030】
【表1】

(押出比)
本実施例では、実施例の押出比を7.5、比較例の押出比を5.0とする。
【0031】
(圧延前の切断物の寸法)
実施例における圧延前の切断物22の寸法は、表2に示すとおり、幅305mm,厚さ20mm,長さ490mmである。一方、比較例における圧延前の切断物122の寸法は、表2に示すとおり、幅365mm,厚さ15mm,長さ620mmである。この切断物22,122を完成品のシート厚さである1.5mmとなるまで圧延する。
【0032】
(圧延回数)
表2に示すとおり、実施例における圧延回数は15回であり、比較例の圧延回数の30回と比べて半分の回数となっている。これは、実施例では、押出工程においてポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)の繊維化が進行しているためである。また、圧延回数が少ない実施例ではシート端部が乾燥劣化しないため、シート端部をカットする工程が不要となる。この圧延回数の減少およびシート端部をカットする工程の省略によって、実施例では、表2に示すとおり、1枚当たりの圧延時間の大幅な短縮が可能となることを確認した。
【0033】
【表2】

(製品物性)
上記の成形方法により製造された軟質シートの物性を表3に示す。なお、表3における実施例のNo.1〜No.8に示す物性値は、1枚の製品シート(1100mm×1100mm)から8個の試験片を押し抜き加工によって取り出して、各々のガスケットの物性を測定したものである。
【0034】
【表3】

[評価基準]
・引張強度(縦):10.8Kgf/mm2以上で良好
・引張強度(横):10.8Kgf/mm2以上で良好
・圧縮率:4〜10%で良好
・復元率:40%以上で良好
・柔軟性:3倍以下で良好
・比重:2.20〜2.40g/mm2で良好
・シール性:温度200℃の環境下で30分間放置し、漏洩量を測定
・外観:限度見本により判定
表3より、実施例の軟質シートは比較例の軟質シートと同等の物性を有することを確認した。
【0035】
(歩留り率)
表4に、実施例と比較例の歩留り率を示す。実施例では圧延工程時にシート端部をカットしないため、比較例の歩留り率65%に対して、実施例の歩留り率は85%となり、実施例では歩留り率が大幅に向上することを確認した。
【0036】
【表4】

以上の実施例および比較例より、本発明の軟質シートの製造方法によれば、従来よりも圧延工程を短縮することができ、また、歩留り率も向上するなど、従来よりも効率的に均一な性状の軟質シートを製造することが可能となることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明にかかる軟質シートの製造方法であって、押出工程を示した図である。
【図2】図2は、本発明にかかる軟質シートの製造方法であって、切断および圧延して、軟質シートを成形する工程を示した図である。
【図3】図3は、本発明にかかる他の長尺物の断面形状を示した図である。
【図4】図4は、従来技術にかかる軟質シートの製造方法であって、押出工程を示した図である。
【図5】図5は、従来技術にかかる軟質シートの製造方法であって、切断および圧延して、軟質シートを成形する工程を示した図である。
【符号の説明】
【0038】
1,100 押出機
2,102 ダイ
2a,102a 断面穴
4,104 ホッパー
8,108 シリンダー
10,110 混合材料
20,120 長尺物
22,122 切断物
30,130 軟質シート
40 楕円形状
60 二つの円が重なった形状
80 三つの円が重なった形状
124 シート端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質シートの製造方法であって、
前記軟質シートの原料である混合物と、この混合物が通過する断面穴を有するダイとを用意し、当該混合物を当該ダイの断面穴へ通過させることにより長尺物を成形する押出工程と、
前記押出工程により成形された長尺物を切断して所定の切断物を得る切断工程と、
前記切断工程により得られた所定の切断物を圧延して均一な性状のシートを成形する圧延工程とを有し、
前記混合物の材料がフッ素樹脂に無機質充填材を配合した組成物であり、
前記押出工程により成形された長尺物の断面形状が環状であることを特徴とする軟質シートの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の軟質のシートの製造方法。
【請求項3】
前記混合物の材料に占める無機質充填材の割合が20重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の軟質シートの製造方法。
【請求項4】
前記押出工程における押出比が5〜10であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の軟質シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−23412(P2010−23412A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190089(P2008−190089)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】