説明

駆動力制御装置

【課題】内燃機関が低回転で運転している場合に、発電手段による発電量をより確実に上昇させることのできる駆動力制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジン10が低回転で運転をしており、オルタネータ11の発電量の制限がかかった場合において、トランスミッション17の変速比が最大の場合には、ロックアップクラッチ16を開放させる。これにより、エンジン10は、ロックアップクラッチ16によってトランスミッション17と結合されている際における回転の抵抗が低減し、回転数が上昇する。エンジン10の回転数が上昇すると、ベルト38を介してエンジン10の動力が伝達されるオルタネータ11の回転数も上昇するので、オルタネータ11による発電量を上昇させることができる。この結果、内燃機関であるエンジン10が低回転で運転している場合に、発電手段であるオルタネータ11による発電量をより確実に上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力制御装置に関するものである。特に、この発明は、発電手段を備える内燃機関の駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関では、内燃機関の運転時に使用する電気を発電する発電手段である発電機を備えているものが多く、このように内燃機関に備えられる発電機は、内燃機関の運転時の動力がベルトによって伝達され、ベルト伝動で発電を行なうものが多い。また、このように内燃機関の動力を発電機に伝達するベルトは、内燃機関及び発電機に設けられる双方のプーリに掛けられ、プーリとの摩擦によって内燃機関の動力を発電機に伝達する。
【0003】
しかし、発電機に伝達される内燃機関の動力は、このようにベルトとプーリとの摩擦力によって伝達されるため、発電機の負荷トルクが大きい場合、ベルトとプーリとの間で滑りが発生し、ベルトスリップが発生する虞がある。このベルトスリップは、ベルトの鳴き、即ち異音発生の原因になるため、ベルトスリップの発生を防止するには発電機の負荷トルクを抑える必要があるが、発電機の負荷トルクを低減した場合には、発電機の出力が低減し、発電量が低下してしまう。そこで、従来の発電機を備える内燃機関では、ベルトスリップを抑えつつ発電機の発電量を確保しているものがある。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の車両用発電制御装置では、発電機で所定の電力を発電する際において発電機に伝達する所定のトルクである目標負荷トルクを、ベルト伝動によってベルトスリップが発生しないトルクの上限である伝動トルク上限値で制限する。さらに、この内燃機関に接続される変速機の変速比を大きくして内燃機関の回転数を上昇させると共に、発電機の回転数も上昇させている。
【0005】
ここで、運転中の内燃機関は、出力が同じ場合には、回転数が高くなるに従ってトルクが小さくなる。このため、特許文献1に記載の車両用発電制御装置のように、内燃機関の回転数を上昇させて発電機の回転数を上昇させることにより、発電機に伝達するトルクの低減を図ることができると共に、内燃機関の出力を確保することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−114038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発電機は出力が高くなる回転数が決まっているが、ベルトスリップが発生する状況において内燃機関の回転数を上昇させる場合に、変速機の変速比を大きくして内燃機関の回転数を上昇させても、発電機の回転数を所望の回転数まで上昇させることが困難な場合がある。この場合、所望の発電量を得ることが困難になる虞がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、内燃機関が低回転で運転している場合に、発電手段による発電量をより確実に上昇させることのできる駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明に係る駆動力制御装置は、車両が有する車輪を駆動する内燃機関と、前記内燃機関からベルトを介して伝達される動力によって発電する発電手段と、前記内燃機関と前記車輪との回転比を変化させる変速手段と、前記内燃機関と前記変速手段との結合または開放が可能な動力断続手段と、前記発電手段の発電量に制限がかかり、且つ、前記変速手段の変速比が最大である場合に前記動力断続手段を開放させる動力伝達制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明では、発電手段の発電量の制限がかかった場合において、変速手段の変速比が最大の場合には動力断続手段を開放させている。これにより、内燃機関の回転数を上昇させることができ、発電手段の発電量を上昇させることができる。つまり、内燃機関が低回転で運転をしており、発電手段の発電量に制限がかかっている場合に、動力断続手段を開放させることにより、内燃機関は、動力断続手段によって変速手段と結合されている際における回転の抵抗が低減する。このため、運転中の内燃機関の回転数は上昇するので、ベルトを介して内燃機関の動力が伝達される発電手段の回転数を上昇させることができ、発電手段による発電量を上昇させることができる。この結果、内燃機関が低回転で運転している場合に、発電手段による発電量をより確実に上昇させることができる。
【0011】
また、この発明に係る駆動力制御装置は、さらに、前記車輪のスリップを制御するスリップ制御手段を備えており、前記スリップ制御手段は、前記発電手段の発電量に制限がかかり、且つ、前記変速手段の変速比が最大であることにより前記動力伝達制御手段が前記動力断続手段を開放させた場合に、前記車輪のスリップ率を、前記発電手段の発電量に制限がかかっていない場合のスリップ率以上の大きさにすることを特徴とする。
【0012】
この発明では、動力伝達制御手段が動力断続手段を開放させた場合には、車輪のスリップ率を、発電手段の発電量に制限がかかっていない場合のスリップ率以上の大きさにしているので、車輪は空転して回転数が上昇し易くなり、これに伴い内燃機関の回転数も上昇し易くなる。従って、発電手段の回転数をより確実に上昇させることができ、発電手段による発電量をより確実に上昇させることができる。この結果、内燃機関が低回転で運転している場合に、発電手段による発電量をより確実に上昇させることができる。
【0013】
また、この発明に係る駆動力制御装置は、前記車両は前記車輪を複数有していると共に前記車輪は前記車両の前輪または後輪として設けられており、さらに、前記車両は、複数の前記車輪のうち一部の前記車輪を駆動する電動機を備えており、前記内燃機関は、前記前輪と前記後輪とのうちいずれか一方の前記車輪を駆動し、前記電動機は、前記前輪と前記後輪とのうち前記内燃機関が駆動する前記車輪の他方の前記車輪を駆動し、前記発電手段は、前記電動機に電気を供給可能に設けられていることを特徴とする。
【0014】
この発明では、車両の前輪と後輪とのうち、一方を内燃機関で駆動し、他方を電動機で駆動する。さらに、発電手段は、電動機に電気を供給する。このため、前輪と後輪とのうち一方を内燃機関で駆動し、他方を電動機で駆動する四輪駆動の車両の場合に、電動機の出力を確保できるので、電動機で駆動する側の車輪の駆動力を高めることができる。この結果、全車輪の駆動力を確保することができ、車両の走行安定性を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る駆動力制御装置は、内燃機関が低回転で運転している場合に、発電手段による発電量をより確実に上昇させることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係る駆動力制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例1に係る駆動力制御装置が設けられた車両を示す概略図である。同図に示す車両1には、本発明の実施例1に係る駆動力制御装置5が備えられており、この駆動力制御装置5は、運転時には内部で燃料を燃焼させることにより作動する内燃機関であるエンジン10を有している。このエンジン10は、当該エンジン10を搭載する車両1の進行方向における前半部分に設けられている。このエンジン10には、トルクコンバータ15を介して、変速手段であるトランスミッション17が接続されている。このトランスミッション17は、エンジン10の運転時に変速比を無段階で変速可能な無段変速機となっており、いわゆるCVT(Continuously Variable Transmission:連続可変トランスミッション)として設けられている。これにより、トランスミッション17は、車両1の走行時におけるエンジン10の回転と、車両1が有する車輪40の回転との回転比を変化させることができる。
【0018】
また、トルクコンバータ15は、このトランスミッション17とエンジン10とを接続している。詳しくは、このトルクコンバータ15は、公知のロックアップ機構が備えられており、結合及び開放が可能な動力断続手段であるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ15となっている。このロックアップクラッチ16は、エンジン10とトランスミッション17との結合または開放が可能に形成されている。このため、ロックアップクラッチ16が結合状態となった場合、即ちロックアップの状態になった場合には、エンジン10とトランスミッション17とは、機械的に結合される。また、トルクコンバータ15内には、当該トルクコンバータ15内を循環するオイル(図示省略)が入っており、ロックアップクラッチ16が開放状態になった場合には、エンジン10とトランスミッション17とは機械的には結合されず、トルクコンバータ15内のオイルを介してエンジン10の動力はトランスミッション17に伝達される。このように、トルクコンバータ15はロックアップ機構が備えられることにより、エンジン10とトランスミッション17との結合または開放が可能に設けられている。
【0019】
また、トランスミッション17には、当該トランスミッション17によって変速されたエンジン10の回転が伝達される前輪用デファレンシャルギア25が接続されている。さらに、この前輪用デファレンシャルギア25には、車両1が有する複数の車輪40のうち、車両1の進行方向における前側に位置する車輪40である前輪41に、エンジン10の動力を伝達する前輪用ドライブシャフト27が接続されている。つまり、前輪用デファレンシャルギア25は、トランスミッション17によって変速されたエンジン10の回転を、前輪用ドライブシャフト27を介して車両1の前輪41に伝達可能に設けられている。
【0020】
また、この前輪用ドライブシャフト27は、前輪用デファレンシャルギア25から2方向に向けて設けられており、2方向の前輪用ドライブシャフト27は、車両1の左右の前輪41に接続されている。これにより、前輪用ドライブシャフト27は、車両1の左右に設けられる2つの前輪41に、トランスミッション17から前輪用デファレンシャルギア25に伝達された回転を伝達可能になっている。さらに、前輪用デファレンシャルギア25は、2方向の前輪用ドライブシャフト27、或いは左右の前輪41に対して、回転差を有してトランスミッション17からの回転を伝達可能に設けられている。
【0021】
また、エンジン10には、運転中のエンジン10で使用する電気や、車両1に備えられる電気部品(図示省略)及びバッテリー(図示省略)に供給する電気を発電する発電手段であるオルタネータ11が備えられている。また、エンジン10には、オルタネータ11よりも高電圧の電気を発電する発電手段である高圧オルタネータ12が備えられている。さらに、エンジン10には、車両1に備えられる空調機のコンプレッサ(図示省略)など、エンジン10の運転時にエンジン10の動力によって作動可能な補機13が備えられている。
【0022】
これらのオルタネータ11、高圧オルタネータ12及び補機13には、それぞれに回転可能なプーリ30が設けられており、これらはエンジン10に設けられたプーリ30とベルト38によって接続されることにより、作動可能に設けられている。詳しくは、エンジン10には、エンジン10の内部に設けられ、エンジン10の運転時に回転するクランクシャフト(図示省略)と一体に形成されている回転軸に接続されたクランクプーリ31が設けられている。また、オルタネータ11には、オルタネータ11が有すると共にオルタネータ11で発電をさせる際に回転させる軸である回転軸に接続されたオルタネータ用プーリ32が設けられている。同様に、高圧オルタネータ12には、高圧オルタネータ12が有すると共に高圧オルタネータ12に発電をさせる際に回転させる軸である回転軸に接続された高圧オルタネータ用プーリ33が設けられている。また、補機13には、補機13が有すると共に補機13を作動させる際に回転させる軸である回転軸に接続された補機用プーリ34が設けられている。
【0023】
これらのクランクプーリ31、オルタネータ用プーリ32、高圧オルタネータ用プーリ33及び補機用プーリ34には、エンジン10の動力をオルタネータ11、高圧オルタネータ12及び補機13に伝達するベルト38が掛けられている。このベルト38は、輪状に形成されており、輪状の外側から内側に向かうに従って幅が狭くなって形成される、いわゆるVベルトとなっている。このように形成されるベルト38は、1本のベルト38がクランクプーリ31、オルタネータ用プーリ32、高圧オルタネータ用プーリ33及び補機用プーリ34の全てのプーリ30に掛けられている。
【0024】
なお、ベルト38は、輪状に形成されるベルト38の内側に周方向に形成される複数本の溝を有するVリブベルトなど、Vベルト以外のベルト38を用いてもよい。また、ベルト38は、1本のベルト38を全てのプーリ30に掛けるのではなく、複数本のベルト38をクランクプーリ31に掛け、オルタネータ用プーリ32、高圧オルタネータ用プーリ33及び補機用プーリ34をそれぞれ別々、または複数のプーリ30ごとに分けてベルト38を掛けてもよい。
【0025】
また、高圧オルタネータ12には、電動機であるモータ20が接続されており、高圧オルタネータ12で発電した電気はモータ20に供給可能になっている。モータ20は、この高圧オルタネータ12から供給される電気により作動可能に形成されている。また、このモータ20には、高圧オルタネータ12からの電気によって作動するモータ20の回転が伝達される、後輪用デファレンシャルギア26が接続されている。さらに、後輪用デファレンシャルギア26には、車両1が有する複数の車輪40のうち、車両1の進行方向における後側に位置する車輪40である後輪42に、モータ20の動力を伝達する後輪用ドライブシャフト28が接続されている。つまり、後輪用デファレンシャルギア26は、モータ20の回転を、後輪用ドライブシャフト28を介して車両1の後輪42に伝達可能に設けられている。
【0026】
また、後輪用ドライブシャフト28は、前輪用ドライブシャフト27と同様に、後輪用デファレンシャルギア26から2方向に向けて設けられており、車両1の左右に設けられる2つの後輪42に、モータ20から後輪用デファレンシャルギア26に伝達された回転を伝達可能になっている。さらに、後輪用デファレンシャルギア26は、2方向の後輪用ドライブシャフト28、或いは左右の後輪42に対して、回転差を有してモータ20からの回転を伝達可能に設けられている。
【0027】
また、これらのエンジン10、トルクコンバータ15、トランスミッション17、モータ20は、車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)50に接続されており、ECU50によって制御可能に設けられている。
【0028】
ECU50には、処理部51、記憶部65及び入出力部66が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU50に接続されているエンジン10、トルクコンバータ15、トランスミッション17、モータ20は、入出力部66に接続されており、入出力部66は、これらのエンジン10等との間で信号の入出力を行なう。また、記憶部65には、本発明に係る駆動力制御装置5を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部65は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0029】
また、処理部51は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくともトルクコンバータ15が有するロックアップクラッチ16の結合及び開放の制御をするクラッチ制御部52と、トランスミッション17の変速の制御をする変速制御部53と、エンジン10の運転状態を含めた車両1の運転状態を取得する運転状態取得部54と、車両1の運転時においてオルタネータ11が要求される発電量である要求発電量を算出する要求発電量算出部55と、オルタネータ11の出力特性より、オルタネータ11に要求発電量の発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出する出力特性回転数算出部56と、ベルト38の滑り限界トルクより、オルタネータ11に要求発電量の発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出する滑り限界トルク回転数算出部57と、現在のエンジン回転数が、出力特性回転数算出部56及び滑り限界トルク回転数算出部57で算出した回転数よりも高いかを判定するエンジン回転数判定部58と、現在のトランスミッション17の変速比が最大であるかを判定する変速比判定部59と、所定の条件の場合に、クラッチ制御部52に対してロックアップクラッチ16の開放を要求するロックアップ禁止要求部60と、所定の条件の場合に、変速制御部53に対してトランスミッション17を、最も変速比が大きくなる状態であるローに変速させる要求をするロー変速要求部61と、を有している。
【0030】
当該駆動力制御装置5が有するエンジン10やトルクコンバータ15などの制御は、例えばクランクシャフトの角速度を検出するクランク角センサ(図示省略)など、車両1の各部に設けられたセンサによる検出結果に基づいて、処理部51が前記コンピュータプログラムを当該処理部51に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてエンジン10に設けられた燃料噴射インジェクタ(図示省略)などを作動させることにより制御する。その際に処理部51は、適宜記憶部65へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このように駆動力制御装置5を制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、ECU50とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
【0031】
この実施例1に係る駆動力制御装置5は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1を走行させる際には、エンジン10を運転させることにより、エンジン10の駆動力を車輪40に伝達して走行させる。詳しくは、エンジン10を運転させることにより、エンジン10のクランクシャフトの回転がトルクコンバータ15を介してトランスミッション17に伝達される。その際に、トルクコンバータ15は、車両1の発進時やトランスミッション17の変速時などには、ロックアップクラッチ16を開放する。これにより、エンジン10の回転はトルクコンバータ15内のオイルを介してトランスミッション17に伝達される。
【0032】
また、エンジン10の回転数が所定の回転数以上で車両1の速度変化が多くない場合など所定の条件を満たしている場合には、ロックアップクラッチ16を結合する。これにより、エンジン10とトランスミッション17とは機械的に結合されるため、エンジン10の回転はトルクコンバータ15を介して機械的にトランスミッション17に伝達される。
【0033】
なお、このロックアップクラッチ16の制御は、ECU50の処理部51が有するクラッチ制御部52で行なう。つまり、ECU50のクラッチ制御部52が、エンジン10の回転数の変化の度合いなど車両1の運転状態より、ロックアップクラッチ16を結合するか開放するかを判断し、この判断に沿ってロックアップクラッチ16を結合させたり開放させたりすることにより、ロックアップクラッチ16を制御する。
【0034】
トルクコンバータ15を介してエンジン10の回転が伝達されたトランスミッション17は、エンジン10の回転数や車両1の速度、車両1の室内に設けられたアクセルペダル(図示省略)の開度など、車両1の運転状態に応じて、変速して出力をする。つまり、トランスミッション17は、トルクコンバータ15を介してエンジン10から伝達された動力の回転数を変化させて前輪用デファレンシャルギア25に伝達するが、その際におけるエンジン10から入力される回転と前輪用デファレンシャルギア25に出力する回転との回転比を、車両1の運転状態に応じて変化させる。
【0035】
なお、このようにエンジン10から入力される回転と前輪用デファレンシャルギア25に出力する回転との回転比を変化させる、即ち、変速する際には、予めECU50の記憶部65に記憶された変速のマップ(図示省略)に従って変速する。この変速のマップは、車両1の運転状態に応じた変速のタイミングを示すマップとなっている。
【0036】
また、このトランスミッション17の変速は、ECU50の処理部51が有する変速制御部53で制御する。つまり、ECU50の変速制御部53が、車両1の現在の運転状態と、記憶部65に記憶された変速マップとからトランスミッション17の変速比を選定し、選定した変速比になるようにトランスミッション17を変速させる。
【0037】
トランスミッション17で変速されたエンジン10の動力が伝達された前輪用デファレンシャルギア25は、前輪用ドライブシャフト27を介して、車両1の左右の前輪41に動力を伝達する。これにより、左右の前輪41は駆動する。
【0038】
また、エンジン10の運転時には、クランクシャフトの回転に伴ってクランクプーリ31が回転し、この回転は、クランクプーリ31に掛けられたベルト38によって、当該ベルト38が掛けられたオルタネータ用プーリ32、高圧オルタネータ用プーリ33、補機用プーリ34に伝達される。これにより、オルタネータ11、高圧オルタネータ12、補機13は作動する。
【0039】
このうち、オルタネータ11及び高圧オルタネータ12が作動すると電気を発電し、オルタネータ11が発電した電気は、運転中のエンジン10やバッテリーなどに供給される。また、高圧オルタネータ12が発電した電気は、当該高圧オルタネータ12に接続されたモータ20に供給される。また、補機13として設けられる空調機のコンプレッサなどは、その補機13に応じた作用をする。
【0040】
また、高圧オルタネータ12で発電した電気が供給されたモータ20は、この電気によって作動し、作動時の動力を後輪用デファレンシャルギア26に出力する。モータ20の動力が伝達された後輪用デファレンシャルギア26は、後輪用ドライブシャフト28を介して、車両1の左右の後輪42に動力を伝達する。これにより、左右の後輪42は駆動する。このように、前輪41はエンジン10によって駆動し、後輪42はモータによって駆動することにより、四輪全てが駆動する。
【0041】
また、車両1の運転中には、ECU50が車両1の各部を制御する。このため、ECU50の処理部51が有する運転状態取得部54では、車両1の各部に設けられたセンサによる検出結果より、車両1の運転状態を取得する。ECU50は、この運転状態取得部54で逐次車両1の運転状態を取得しながら、車両1の各部を制御する。また、ECU50では、トルクコンバータ15が有するロックアップクラッチ16の制御や、トランスミッション17の変速の制御を行なうが、これらの制御を行なう際に、オルタネータ11による発電状態も含めて制御している。
【0042】
例えば、エンジン10の回転数が低過ぎる場合には、オルタネータ11の回転数も低いためオルタネータ11の発電能力が低くなるので、発電量を抑える必要がある。また、オルタネータ11の回転数が低い場合には、オルタネータ11を回転させる際のトルクが大きくなるので、エンジン10の駆動力をオルタネータ11に伝達する際においてベルト38に作用する負荷が大きくなる。このため、ベルト38とプーリ30との間で滑りが生じ易くなり、オルタネータ11を回転させる際の抵抗を抑える必要があるため、オルタネータ11の発電量を抑える必要がある。従って、これらの場合にはオルタネータ11の発電量に制限をかける必要がある。しかし、オルタネータ11の発電量を制限した場合には、オルタネータ11で発電する必要がある発電量を得られない場合があるので、この場合、オルタネータ11で発電する必要がある発電量を発電できる回転数までエンジン10の回転数を上昇させて対処する。
【0043】
具体的には、ECU50の処理部51が有する要求発電量算出部55で、オルタネータ11による発電で必要な発電量を算出し、算出した発電量をオルタネータ11に発電させるために必要なエンジン10の回転数を、ECU50の処理部51が有する出力特性回転数算出部56で算出する。また、ECU50の処理部51が有する滑り限界トルク回転数算出部57では、ベルト38の滑りを発生させることなく要求発電量算出部55で算出した発電量を、オルタネータ11に発電させるために必要なエンジン10の回転数を算出する。
【0044】
また、ECU50の処理部51が有するエンジン回転数判定部58では、エンジン10の現在の回転数が、出力特性回転数算出部56で算出した回転数や滑り限界トルク回転数算出部57で算出した回転数よりも高いかを判定する。この判定により、エンジン10の回転数が、算出した回転数よりも低い場合には、ECU50の処理部51が有する変速比判定部59でトランスミッション17の変速比が最大の状態であるかを判定し、トランスミッション17の変速比が最大の状態である場合には、ECU50の処理部51が有するロックアップ禁止要求部60はクラッチ制御部52に対して、ロックアップの禁止を要求する。
【0045】
ロックアップの禁止が要求されたクラッチ制御部52は、トルクコンバータ15が有するロックアップクラッチ16が、結合状態の場合には開放し、開放状態の場合には開放を維持する。つまり、クラッチ制御部52は、オルタネータ11の発電量に制限がかかり、且つ、トランスミッション17の変速比が最大である場合にロックアップクラッチ16を開放させる。この場合、エンジン10の動力は、トルクコンバータ15内のオイルを介してトランスミッション17に伝達される。このため、エンジン10の回転数とトランスミッション17の入力軸(図示省略)との回転数は一致せず、動力の伝達時にはトルクコンバータ15でロスが発生するため、エンジン10の回転数はロックアップクラッチ16の結合時よりも上昇する。
【0046】
また、変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の変速比が最大の状態ではないと判定された場合には、ECU50の処理部51が有するロー変速要求部61は変速制御部53に対してトランスミッション17の変速比が最大になるように要求する。このトランスミッション17のローとは、トランスミッション17において変速比が最も大きい状態、つまり、エンジン10の回転に対して、車輪40の回転が最も遅くなる変速比である。ロー変速要求部61から、トランスミッション17をローに変速するように要求された変速制御部53は、トランスミッション17をローに変速する。これにより、エンジン10の回転数は、トランスミッション17がロー以外の状態の場合よりも上昇する。
【0047】
図2は、本発明の実施例1に係る駆動力制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例1に係る駆動力制御装置5の制御方法、即ち、当該駆動力制御装置5の処理手順について説明する。また、以下の説明では、エンジン10が低回転で運転をしており、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合における処理手順について説明する。
【0048】
実施例1に係る駆動力制御装置5の処理手順では、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合には、まず、車両1の運転状態を取得する(ステップST101)。この運転状態の取得は、ECU50の処理部51が有する運転状態取得部54で取得する。運転状態取得部54は、車両1の各部に設けられた各種センサより、車両1の現在の速度やアクセルペダルの開度、さらに、車両1に備えられる電気部品の消費電力や電気部品に要求される出力など、現在の車両1の運転状態を取得する。
【0049】
次に、オルタネータ11の要求発電量Aを算出する(ステップST102)。このオルタネータ11の要求発電量Aの算出は、運転状態取得部54で取得した車両1の運転状態の情報がECU50の処理部51が有する要求発電量算出部55に伝達され、この伝達された運転状態の情報より、要求発電量算出部55によって算出する。つまり、要求発電量算出部55に伝達された運転状態の情報より、車両1に備えられる電気部品等を作動させる電気を発生させるのに必要な発電量である要求発電量Aを算出する。
【0050】
次に、要求発電量Aに対するオルタネータ11の出力特性による必要エンジン回転数Bを算出する(ステップST103)。このオルタネータ11の出力特性による必要エンジン回転数Bの算出は、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU50の処理部51が有する出力特性回転数算出部56に伝達され、この出力特性回転数算出部56によって算出する。要求発電量Aが伝達された出力特性回転数算出部56は、オルタネータ11が発電をする際の出力特性より、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジン10の回転数Bを算出する。
【0051】
図3は、オルタネータの出力特性を示す説明図である。同図は、オルタネータ11に要求される要求発電電力とエンジン10の回転数との関係とを示しており、横軸はオルタネータ11に要求される要求発電電力を示し、縦軸はオルタネータ11に横軸の要求発電電力を発電させるのに必要なエンジン10の回転数を示している。換言すると、横軸は、エンジン10を縦軸の回転数で回転させた場合に、オルタネータ11で発電可能な発電電力である。エンジン10の回転が伝達されることにより発電するオルタネータ11の出力特性は、図3に示すように、エンジン10の回転数が高くなるに従って、発電する電力量が多くなる。特に、エンジン10の回転数が比較的低い領域では、エンジン10の回転数が比較的高い領域よりもエンジン10の回転数に対するオルタネータ11の発電量の変化が大きくなっている。
【0052】
このように、オルタネータ11は、エンジン10の回転数に応じて発電する発電量が変化するため、要求発電量算出部55から要求発電量Aが伝達された出力特性回転数算出部56は、このオルタネータ11の出力特性に基づいて、エンジン10の回転数を算出する。このように、出力特性回転数算出部56はオルタネータ11の出力特性に基づいてエンジン10の回転数を算出するめに、ECU50の記憶部65には、この出力特性を記憶させておく。つまり、オルタネータ11の出力特性を、予めマップ化してECU50の記憶部65に記憶させておく。要求発電量算出部55から要求発電量Aが伝達された出力特性回転数算出部56は、要求発電量Aを発電するのに必要なエンジン10の回転数である必要エンジン回転数Bを算出する際には、記憶部65に記憶されたこの出力特性のマップを参照することにより算出する。
【0053】
次に、要求発電量Aに対するベルト滑り限界トルクによる必要エンジン回転数Cを算出する(ステップST104)。このベルト滑り限界トルクによる必要エンジン回転数Cの算出は、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU50の処理部51が有する滑り限界トルク回転数算出部57に伝達され、この滑り限界トルク回転数算出部57によって算出する。要求発電量Aが伝達された滑り限界トルク回転数算出部57は、エンジン10の動力をベルト38によってオルタネータ11に伝達する際における、ベルト38の滑り限界トルクより、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジン10の回転数Cを算出する。
【0054】
つまり、オルタネータ11は、ベルト38でエンジン10の動力を伝達することにより発電をするが、この動力の伝達は、ベルト38とプーリ30との摩擦力によって伝達するため、エンジンのトルクが大きい場合には、ベルト38とプーリ30との間で滑りが発生し、動力を効率よく伝達できなくなる場合がある。このため、エンジン10の動力をベルト38によって伝達する際には、ベルト38の滑りが発生しないトルクであるベルト滑り限界トルク以下で伝達する必要があり、滑り限界トルク回転数算出部57は、このベルト滑り限界トルク以下で、且つ、オルタネータ11に要求発電量Aを発生させることのできるエンジン10の回転数を算出する。
【0055】
具体的には、ベルト38の滑りはベルト38とプーリ30との摩擦力によって決まるので、ベルト滑り限界トルクは、ベルト38の張力等の条件が変化しない限り一定である。このため、ベルト滑り限界トルクは、予めECU50の記憶部65に記憶されている。このように一定の値になっているベルト滑り限界トルクに対し、エンジン10のトルクは、運転状態によって変化する。つまり、エンジン10の回転数が同じ回転数の場合には、エンジン10の出力が高くなるに従ってトルクは大きくなり、エンジン10の出力が同じ出力の場合には、エンジン10の回転数が高くなるに従ってトルクは小さくなる。
【0056】
このため、エンジン10の運転中には、エンジン10からオルタネータ11に伝達されるトルクも変化するので、エンジン10からオルタネータ11に伝達されるトルクをベルト滑り限界トルク以下に抑える際には、エンジン10の運転状態を変化させてトルクを変化させることにより、トルクを抑える。また、エンジン10の出力を一定にする場合には、トルクは上記のようにエンジン10の回転数を高くすることにより小さくなるので、エンジン10の出力を確保しつつトルクを抑える場合には、エンジン10の回転数を上昇させる必要がある。
【0057】
これらにより、エンジン10の出力を確保しつつ、オルタネータ11で要求発電量Aの発電が可能な動力をエンジン10からオルタネータ11に伝達する際には、エンジン10の出力を確保しつつオルタネータ11に要求発電量Aを発電させることができ、さらに、トルクがベルト滑り限界トルク以下にするために必要な回転数で伝達する。このため、滑り限界トルク回転数算出部57は、要求発電量算出部55から伝達された要求発電量Aより、エンジン10の出力を確保しつつ要求発電量Aを発電させることができ、トルクをベルト滑り限界トルク以下にするために必要な回転数である必要エンジン回転数Cを算出する。
【0058】
滑り限界トルク回転数算出部57で必要エンジン回転数Cを算出する際には、要求発電量算出部55から伝達された要求発電量Aとベルト滑り限界トルク、及びエンジン10とオルタネータ11との回転比であるオルタネータ減速比より、下記の式(1)によって求める。
必要エンジン回転数C=要求発電量A÷ベルト滑り限界トルク÷オルタネータ減速比・・・(1)
【0059】
なお、滑り限界トルク回転数算出部57で必要エンジン回転数Cを算出する際には、エンジン10の回転数と出力とトルクの関係を予めマップ化してECU50の記憶部65に記憶させておき、要求発電量算出部55から伝達された要求発電量Aに対するベルト滑り限界トルクを用いて、このマップを参照することにより算出してもよい。
【0060】
次に、現在のエンジン10の回転数である現エンジン回転数が、出力特性回転数算出部56で算出した必要エンジン回転数Bと滑り限界トルク回転数算出部57で算出した必要エンジン回転数Cとのうち回転数が高い方の回転数よりも高いかを判定する(ステップST105)。この判定は、ECU50の処理部51が有するエンジン回転数判定部58で行ない、現エンジン回転数は必要エンジン回転数の最大値よりも高いかをエンジン回転数判定部58で判定する。つまり、エンジン回転数判定部58は、現エンジン回転数と、必要エンジン回転数Bと必要エンジン回転数Cとのうち回転数が高い方の回転数であるMAX(B、C)とを比較し、現エンジン回転数はMAX(B、C)よりも高いかを判定する。
【0061】
エンジン回転数判定部58がこの判定を行なう際には、エンジン10の他の制御で用いられる現在のエンジン10の回転数と、出力特性回転数算出部56で算出した必要エンジン回転数Bと、滑り限界トルク回転数算出部57で算出した必要エンジン回転数Cとが、エンジン回転数判定部58に伝達されて、現エンジン回転数がMAX(B、C)よりも高いか判定される。エンジン回転数判定部58での判定により、現エンジン回転数はMAX(B、C)よりも高いと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
【0062】
これに対し、エンジン回転数判定部58での判定により、現エンジン回転数はMAX(B、C)以下であると判定された場合には、次に、トランスミッション17の変速比が最大であるかを判定する(ステップST106)。この判定は、トランスミッション17の制御をする際に用いられるトランスミッション17の現在の変速比が、ECU50の処理部51が有する変速比判定部59に伝達され、伝達された変速比が最大、つまり、エンジン10の回転数に対して車輪40の回転数が最も低くなる変速比であるかを、変速比判定部59で判定する。変速比判定部59は、このようにトランスミッション17の現在の変速比が最大であるかを判定することにより、トランスミッション17の変速比をまだ大きくすることができるかを判定する。
【0063】
変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の現在の変速比が最大であると判定された場合、即ち、トランスミッション17の変速比を、現在の変速比よりも大きくすることができないと判定された場合には、次に、ロックアップの禁止要求をする(ステップST107)。この禁止要求は、ECU50の処理部51が有するロックアップ禁止要求部60が、ECU50の処理部51が有するクラッチ制御部52に対して、ロックアップの禁止を要求する。ロックアップの禁止が要求されたクラッチ制御部52は、トルクコンバータ15のロックアップクラッチ16を開放状態にする。つまり、ロックアップの禁止が要求されたクラッチ制御部52は、トルクコンバータ15のロックアップクラッチ16が開放状態の場合にはその状態を維持し、ロックアップクラッチ16が結合状態の場合には、ロックアップクラッチ16を開放状態にする。これにより、エンジン10とトランスミッション17とは機械的な結合はされなくなり、エンジン10の動力はトルクコンバータ15内のオイルを介してトランスミッション17に伝達される。
【0064】
このように、エンジン10の動力がトルクコンバータ15内のオイルを介してトランスミッション17に伝達される場合には、エンジン10とトランスミッション17との回転部分は機械的な結合がされてないため、エンジン10の回転数とトランスミッション17の入力軸との回転数は一致しない場合が多い。特に、車両1の加速時に回転のずれが生じ易く、車両1の加速時にはエンジン10の回転が上昇し、この回転がトルクコンバータ15内のオイルを介してトランスミッション17に伝達されるため、トランスミッション17の入力軸の回転数よりもエンジン10の回転数の方が高くなる。このため、クラッチ制御部52に対してロックアップの禁止を要求し、ロックアップクラッチ16を開放状態にすることにより、エンジン10の回転数はロックアップクラッチ16の結合時よりも上昇する。換言すると、ロックアップクラッチ16を開放状態にすることにより、エンジン10は、ロックアップクラッチ16によってトランスミッション17と結合されている際における回転の抵抗が低減するので、エンジン10の回転数は上昇する。
【0065】
これに対し、変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の現在の変速比が最大ではないと判定された場合、即ち、トランスミッション17の変速比を、現在の変速比よりも大きくすることができると判定された場合には、トランスミッション17をローに変速するように、つまり、トランスミッション17の変速比が最大になるように要求する(ステップST108)。この要求は、ECU50の処理部51が有するロー変速要求部61が、ECU50の処理部51が有する変速制御部53に対して、トランスミッション17をローに変速するように要求する。ロー変速要求部61から、トランスミッション17をローに変速するように要求された変速制御部53は、トランスミッション17をローに変速する。
【0066】
このように、トランスミッション17をローに変速し、トランスミッション17の変速比を最大にした場合には、車輪40の回転に対してエンジン10の回転が最も早くなる。このため、変速制御部53に対してトランスミッション17をローに変速するように要求した場合には、エンジン10の回転数はトランスミッション17がロー以外の状態の場合よりも上昇する。
【0067】
以上の駆動力制御装置5は、オルタネータ11の発電量の制限がかかった場合において、トランスミッション17の変速比が最大の場合には、ロックアップクラッチ16を開放させている。これにより、エンジン10の回転数を上昇させることができ、オルタネータ11の発電量を上昇させることができる。つまり、エンジン10が低回転で運転をしており、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合に、ロックアップクラッチ16を開放させることにより、エンジン10は、ロックアップクラッチ16によってトランスミッション17と結合されている際における回転の抵抗が低減する。このため、運転中のエンジン10の回転数は上昇するので、ベルト38を介してエンジン10の動力が伝達されるオルタネータ11の回転数を上昇させることができ、オルタネータ11による発電量を上昇させることができる。この結果、エンジン10が低回転で運転している場合に、オルタネータ11による発電量をより確実に上昇させることができる。
【実施例2】
【0068】
実施例2に係る駆動力制御装置70は、実施例1に係る駆動力制御装置5と略同様の構成であるが、発電手段の要求発電量を確保する制御をする際に、車輪40のスリップ率を変更することも含めて制御している点に特徴がある。他の構成は実施例1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。図4は、本発明の実施例2に係る駆動力制御装置が設けられた車両を示す概略図である。同図に示す駆動力制御装置70は、実施例1に係る駆動力制御装置5と同様に、エンジン10にはオルタネータ11、高圧オルタネータ12、補機13が設けられている。また、これらのオルタネータ11、高圧オルタネータ12、補機13には、それぞれプーリ30が設けられており、このプーリ30にベルト38が掛けられることにより、ベルト38を介してエンジン10の動力が伝達される。また、この車両1には、後輪用デファレンシャルギア26及び後輪用ドライブシャフト28を介して後輪42に動力を伝達可能なモータ20が設けられており、このモータ20は高圧オルタネータ12に接続され、高圧オルタネータ12で発電した電気を供給することにより、作動可能になっている。また、実施例2に係る駆動力制御装置70は、車輪40に駆動力を作用させた際における車輪40のスリップを低減する公知のトラクションコントロール機構(図示省略)が備えられている。
【0069】
また、この実施例2に係る駆動力制御装置70は、実施例1に係る駆動力制御装置5と同様にECU71を有しており、このECU71は処理部51と記憶部65と入出力部66とを有している。このうち、処理部51は、少なくともクラッチ制御部52と、変速制御部53と、運転状態取得部54と、要求発電量算出部55と、出力特性回転数算出部56と、滑り限界トルク回転数算出部57と、エンジン回転数判定部58と、変速比判定部59と、ロックアップ禁止要求部60と、ロー変速要求部61とを有している。
【0070】
さらに、ECU71の処理部51は、少なくともトラクションコントロール機構を制御して車輪40のスリップを制御するスリップ制御手段であるTRC制御部72と、高圧オルタネータ12で要求発電量Aを発電するための目標となる車輪40の速度である目標車輪速Fを算出する目標車輪速算出部73と、目標車輪速Fに基づいて目標スリップ率Gを算出する目標スリップ率算出部74と、TRC制御部72で用いられる設定スリップ率を設定する設定スリップ率設定部75と、を有している。
【0071】
この実施例2に係る駆動力制御装置70は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1を走行させる際には、エンジン10を運転させることにより、エンジン10の動力がトルクコンバータ15、トランスミッション17、前輪用デファレンシャルギア25、前輪用ドライブシャフト27を介して前輪41に伝達されることにより、前輪41は回転する。また、高圧オルタネータ12で発電される電気によって作動するモータ20の動力は、後輪用デファレンシャルギア26及び後輪用ドライブシャフト28を介して後輪42に伝達され、伝達された動力により後輪42は回転する。
【0072】
また、車両1の走行時には、トラクションコントロール機構を制御するTRC制御部72は、車輪40のスリップを制御する。TRC制御部72による車輪40のスリップの制御は、車輪40の近傍に設けられると共に車輪40の状態を検出するセンサ(図示省略)の検出結果より車輪40の回転状態を取得し、車輪40がスリップしている場合には、エンジンスロットル制御やエンジン点火遅角度制御などによってエンジン10の出力を低下させたり、ブレーキ制御を行なったりするなどしてスリップを止める。
【0073】
また、実施例2に係る駆動力制御装置70では、実施例1に係る駆動力制御装置5におけるオルタネータ11の発電量に制限がかかった場合の制御と同様に、高圧オルタネータ12の発電量に制限がかかった場合には、トランスミッション17の変速比が最大である場合に、ロックアップクラッチ16を開放させる。
【0074】
また、高圧オルタネータ12の制限がかかった場合において、ロックアップクラッチ16を開放させた場合には、さらに、目標となる車輪40の速度を設定することにより、エンジン10の回転数を上昇させて、高圧オルタネータ12の発電量を確保する。
【0075】
具体的には、ECU71の目標車輪速算出部73で、高圧オルタネータ12によって発電させる必要のある要求発電量を高圧オルタネータ12に発電させるために、目標となる車輪40の速度を算出し、この車輪40の速度に基づいて、トラクションコントロール機構で車輪40のスリップを制御する場合の目標スリップ率を、ECU71の目標スリップ率算出部74で算出する。算出した目標スリップ率は、トラクションコントロール機構の標準のスリップ率と比較し、スリップ率が高い方、即ち、車輪40がスリップし易い方のスリップ率を、TRC制御部72で車輪40のスリップを制御する場合に用いられるスリップ率である設定スリップ率として、設定スリップ率設定部75で設定する。
【0076】
TRC制御部72では、この設定スリップ率設定部75で設定した設定スリップ率により、車輪40のスリップを制御する。つまり、TRC制御部72は、高圧オルタネータ12の発電量に制限がかかり、且つ、トランスミッション17の変速比が最大であることによりクラッチ制御部52がロックアップクラッチ16を開放させた場合に、車輪40のスリップ率を、高圧オルタネータ12の発電量に制限がかかっていない場合のスリップ率以上の大きさにする。これにより、車輪40はスリップし易くなるので、エンジン10の回転数は上昇し易くなり、エンジン10の出力を確保することができる。従って、エンジン10の動力で駆動する車輪40である前輪41の駆動力を高めることができる。
【0077】
また、エンジン10の回転数が上昇し易くなるので、高圧オルタネータ12による発電量を上昇させることができる。従って、高圧オルタネータ12から供給される電気で作動するモータ20の出力を確保できるので、このモータ20の動力で駆動する車輪40である後輪42の駆動力を高めることができる。
【0078】
図5は、本発明の実施例2に係る駆動力制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例2に係る駆動力制御装置70の制御方法、即ち、当該駆動力制御装置70の処理手順について説明する。また、以下の説明では、エンジン10が低回転で運転をしており、高圧オルタネータ12の発電量に制限がかかっている場合における処理手順について説明する。
【0079】
実施例2に係る駆動力制御装置70の処理手順では、高圧オルタネータ12の発電量に制限がかかっている場合には、まずECU71の処理部51が有する運転状態取得部54で、車両1の運転状態を取得する(ステップST201)。
【0080】
次に、運転状態取得部54で取得した車両1の運転状態の情報より、ECU71の要求発電量算出部55で高圧オルタネータ12の要求発電量A、つまり、四輪駆動で走行する際に高圧オルタネータ12で必要な発電量である要求発電量Aを算出する(ステップST202)。詳しくは、要求発電量算出部55に伝達された運転状態の情報より、モータ20に供給する電気を発生させるのに必要な発電量である要求発電量Aを算出する。この算出は、車両1の運転状態に応じて、モータ20が後輪42に伝達する必要のある駆動力を発生させるのに必要な電気量を、予めマップ化してECU71の記憶部65に記憶させておき、このマップを参照することにより算出する。なお、この算出は、運転状態に応じてモータ20に供給する必要のある電気量を算出する関数を用いるなど、マップを参照する以外の手法によって算出してもよい。
【0081】
次に、要求発電量算出部55で算出した要求発電量AがECU71の出力特性回転数算出部56に伝達され、要求発電量Aに対する高圧オルタネータ12の出力特性による必要エンジン回転数Bを、この出力特性回転数算出部56によって算出する(ステップST203)。即ち、出力特性回転数算出部56は、高圧オルタネータ12が発電をする際の出力特性より、要求発電量Aを高圧オルタネータ12に発電させるのに必要なエンジン10の回転数Bを算出する。
【0082】
このように出力特性回転数算出部56によって必要エンジン回転数Bを算出する際には、高圧オルタネータ12の出力特性に基づいてエンジン10の回転数を算出するめに、ECU71の記憶部65には、この出力特性を記憶させておく。つまり、高圧オルタネータ12の出力特性を、予めマップ化してECU71の記憶部65に記憶させておく。要求発電量算出部55から要求発電量Aが伝達された出力特性回転数算出部56は、要求発電量Aを発電するのに必要なエンジン10の回転数である必要エンジン回転数Bを算出する際には、記憶部65に記憶されたこの出力特性のマップを参照することにより算出する。
【0083】
次に、要求発電量算出部55で算出した要求発電量AがECU71の滑り限界トルク回転数算出部57に伝達され、要求発電量Aに対するベルト滑り限界トルクによる必要エンジン回転数Cを、この滑り限界トルク回転数算出部57によって算出する(ステップST204)。即ち、滑り限界トルク回転数算出部57は、エンジン10の動力をベルト38によって高圧オルタネータ12に伝達する際におけるベルト滑り限界トルクより、要求発電量Aを高圧オルタネータ12に発電させるのに必要なエンジンの回転数Cを算出する。
【0084】
このように、ベルト滑り限界トルクより、要求発電量Aを高圧オルタネータ12に発電させるのに必要なエンジン10の回転数である必要エンジン回転数Cを、滑り限界トルク回転数算出部57で算出する際には、実施例1に係る駆動力制御装置5と同様に、要求発電量算出部55から伝達された要求発電量Aとベルト滑り限界トルク、及びオルタネータ減速比より、上記の式(1)によって求める(実施例1、ステップST104参照)。
【0085】
次に、現在のエンジン10の回転数である現エンジン回転数が、出力特性回転数算出部56で算出した必要エンジン回転数Bと滑り限界トルク回転数算出部57で算出した必要エンジン回転数Cとのうち回転数が高い方の回転数であるMAX(B、C)よりも高いかを、ECU71のエンジン回転数判定部58で判定する(ステップST205)。エンジン回転数判定部58での判定により、現エンジン回転数はMAX(B、C)よりも高いと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
【0086】
また、エンジン回転数判定部58での判定により、現エンジン回転数はMAX(B、C)以下であると判定された場合には、次に、トランスミッション17の変速比が最大であるかを、ECU71の変速比判定部59で判定する(ステップST206)。
【0087】
変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の現在の変速比が最大であると判定された場合には、次に、ECU71のロックアップ禁止要求部60が、クラッチ制御部52に対してロックアップの禁止要求をする(ステップST207)。これにより、トルクコンバータ15のロックアップクラッチ16は開放状態になる。このため、エンジン10は、ロックアップクラッチ16によってトランスミッション17と結合されている際における回転の抵抗が低減するので、エンジン10の回転数は上昇する。
【0088】
これに対し、変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の現在の変速比が最大ではないと判定された場合には、ECU71のロー変速要求部61が、変速制御部53に対して、トランスミッション17をローに変速するように要求する(ステップST208)。これにより、トランスミッション17はローに変速される。このため、エンジン10の回転数は、トランスミッション17がロー以外の状態の場合よりも上昇する。
【0089】
また、変速比判定部59での判定によりトランスミッション17の現在の変速比は最大であると判定され、さらに、ロックアップ禁止要求部60がクラッチ制御部52に対してロックアップの禁止要求をした後は、次に、エンジン10の回転数がMAX(B、C)の場合における目標車輪速Fを算出する(ステップST209)。
【0090】
この目標車輪速Fは、MAX(B、C)での最小車輪速となっており、その算出は、ECU71の処理部51が有する目標車輪速算出部73で行なう。目標車輪速算出部73で目標車輪速Fを算出する際には、MAX(B、C)と、トランスミッション17の最大変速比と、目標トルコン速度比と、前輪用デファレンシャルギア25のデフ比と、前輪41のタイヤ有効半径とより、下記の式(2)によって求める。このうち、MAX(B、C)は、出力特性回転数算出部56で算出した必要エンジン回転数Bと滑り限界トルク回転数算出部57で算出した必要エンジン回転数Cとが目標車輪速算出部73に伝達され、双方の回転数のうち高い方の回転数をMAX(B、C)とする。また、トランスミッション17の最大変速比、前輪用デファレンシャルギア25の減速比であるデフ比、前輪41のタイヤ有効半径は、予めECU71の記憶部65に記憶され、この記憶部65に記憶された値を用いる。また、目標トルコン速度比は、目標トルク容量より求める。
目標車輪速F=MAX(B、C)×最大変速比×目標トルコン速度比×デフ比×タイヤ有効半径・・・(2)
【0091】
図6は、トルクコンバータの特性を示す説明図である。同図は、トルクコンバータ15のトルク容量と速度比との関係を示しており、縦軸はトルク容量を示し、横軸はトルクコンバータ15の速度比を示している。なお、ここでいうトルクコンバータ15のトルク容量とは、エンジン10の動力をトランスミッション17に伝達する際にトルクコンバータ15で伝達可能なトルクの大きさを示している。また、トルクコンバータ15の速度比とは、ロックアップクラッチ16を開放した場合におけるトルクコンバータ15のタービン(図示省略)速度と、トルクコンバータ15のポンプ(図示省略)速度との比であり、下記の式(3)によって算出される値である。このうち、タービン速度とは、エンジン10からトルクコンバータ15への入力時の回転の速度、つまりエンジン10の回転の速度であり、ポンプ速度とは、トルクコンバータ15からトランスミッション17への出力時の回転の速度、つまりトランスミッション17が有する入力軸の回転の速度である。
トルクコンバータ速度比=タービン速度÷ポンプ速度・・・(3)
【0092】
目標車輪速Fの算出に用いられる目標トルコン速度比を求める際には、まず、目標トルク容量を算出する、この目標トルク容量は、現在のエンジン10のトルクと、必要エンジン回転数、即ちMAX(B、C)とから、下記の式(4)により算出する。なお、ここで用いられるエンジントルクは、車両運転時における他の制御で用いられる値を用いてもよく、また、車両1の運転状態よりマップを用いて求める、或いは、関数を用いて算出してもよい。
目標トルク容量=エンジントルク÷必要エンジン回転数2・・・(4)
【0093】
式(4)によって目標トルク容量を算出した後は、トルク容量と速度比との関係を示すマップと、算出した目標トルク容量とにより、目標トルコン速度比を求める。このように、目標トルコン速度比を求める際に用いられるマップは、トルク容量と速度比との関係によって表されるトルクコンバータの特性に基づいて予め作成し、ECU71の記憶部65に記憶する。このため、このマップはトルクコンバータ15のトルク容量と速度比との関係に基づいて作成されており、トルクコンバータ15のトルク容量と速度比との関係は、図6に示すように、速度比が大きくなるに従ってトルク容量が小さくなる。換言すると、トルクコンバータ15のトルク容量と速度比との関係は、トルク容量が大きくなるに従って、速度比が小さくなる。
【0094】
目標トルコン速度比を求める際に用いられるマップは、このようなトルクコンバータ15の特性に基づいて作成され、目標トルコン速度比を求める場合には、式(4)で算出した目標トルク容量と、このマップとから求める。さらに、目標車輪速Fを算出する際には、求めた目標トルコン速度比と、MAX(B、C)と、最大変速比と、デフ比と、タイヤ有効半径とを式(2)に代入して算出する。
【0095】
次に、目標車輪速算出部73で算出した目標車輪速Fから、目標スリップ率Gを算出する(ステップST210)。この目標スリップ率Gは、目標車輪速Fで車輪40を回転させることのできるスリップ率であり、その算出は、ECU71の処理部51が有する目標スリップ率算出部74で行なう。目標スリップ率算出部74で目標スリップ率Gを算出する際には、目標車輪速算出部73で算出した目標車輪速Fと、MAX(現車速、最低TRC車速)より、下記の式(5)によって求める。
目標スリップ率G=目標車輪速F÷MAX(現車速、最低TRC車速)・・・(5)
【0096】
このうち、最低TRC車速とは、トラクションコントロール機構において用いられる最低車速のことである。つまり、トラクションコントロール機構は、車輪40に駆動力を作用させた際に、車輪40が空転してスリップすることを抑制する機構であるが、トラクションコントロール機構を制御するECU71のTRC制御部72は、車輪40が極低速で走行をしている際において車輪40がスリップを続けた場合には、車両1は所定の低速度で走行しているものとして制御する。最低TRC車速とは、この所定の低速度のことであり、最低TRC車速は、TRC制御部72でトラクションコントロール機構を制御する場合に用いられる最低車速となっている。目標スリップ率Gを算出する際に用いられるMAX(現車速、最低TRC車速)は、この最低TRC車速と、車両1の現在の車速である現車速とのうち、高い方の速度が、MAX(現車速、最低TRC車速)の値になる。
【0097】
このように、目標スリップ率Gを算出する際に用いられる最低TRC車速は、TRC制御部72で用いられるため、予めECU71の記憶部65に記憶されており、現車速は、ECU71の運転状態取得部54で取得される。目標スリップ率算出部74は、記憶部65に記憶されている最低TRC車速と、運転状態取得部54で取得される車両1の現在の速度とから、MAX(現車速、最低TRC車速)を求める。さらに、目標車輪速算出部73から目標スリップ率算出部74に目標車輪速Fが伝達されることにより、目標スリップ率算出部74は式(5)を用いて、目標スリップ率Gを算出する。
【0098】
次に、設定スリップ率=(目標スリップ率G、標準TRC目標スリップ率)に設定する(ステップST211)。この設定は、ECU71の処理部51が有する設定スリップ率設定部75で行ない、目標スリップ率算出部74で算出した目標スリップ率Gと、通常、TRC制御部72で用いられる標準TRC目標スリップ率とのうち高い方を、TRC制御部72での制御時における設定スリップ率に設定する。
【0099】
つまり、TRC制御部72では、制御時における標準のスリップ率であり、高圧オルタネータ12の発電量に制限がかかっていない場合のスリップ率である標準TRC目標スリップ率が設定されており、車輪40のスリップ時には、この標準TRC目標スリップ率以上に車輪40がスリップしないように制御する。設定スリップ率設定部75は、この標準TRC目標スリップ率と、目標スリップ率算出部74で算出した目標スリップ率Gとのうち、スリップ率が高い方、即ち、車輪40が空転し易い方のスリップ率を、設定スリップ率に設定する。TRC制御部72では、この設定スリップ率に基づいて、車輪40のスリップを制御する。
【0100】
このように、目標スリップ率Gと標準TRC目標スリップ率とのうち、高い方のスリップ率を設定スリップ率に設定し、この設定スリップ率で車輪40のスリップを制御することにより、車輪40のスリップ時に車輪40の回転数は上昇し易くなる。また、車輪40の回転数が上昇し易くなるのに伴い、車輪40を駆動させるエンジン10の回転数も上昇し易くなる。
【0101】
以上の駆動力制御装置70は、クラッチ制御部52がトルクコンバータ15のロックアップクラッチ16を開放させた場合には、車輪40のスリップ率を、高圧オルタネータ12の発電量に制限がかかっていない場合のスリップ率以上の大きさにしている。このため、車輪40は空転して回転数が上昇し易くなり、これに伴いエンジン10の回転数も上昇し易くなる。従って、高圧オルタネータ12の回転数をより確実に上昇させることができ、高圧オルタネータ12による発電量をより確実に上昇させることができる。この結果、エンジン10が低回転で運転している場合に、高圧オルタネータ12による発電量をより確実に上昇させることができる。
【0102】
また、車両1の前輪41と後輪42とのうち、前輪41をエンジン10で駆動し、後輪42をモータ20で駆動しており、さらに、高圧オルタネータ12は、モータ20に電気を供給する。このため、前輪41と後輪42とのうち一方をエンジン10で駆動し、他方をモータ20で駆動する四輪駆動の車両1の場合に、モータ20の出力を確保できるので、モータ20で駆動する側の車輪40の駆動力を高めることができる。この結果、全車輪40の駆動力を確保することができ、車両1の走行安定性を図ることができる。
【実施例3】
【0103】
実施例3に係る駆動力制御装置80は、実施例1に係る駆動力制御装置5と略同様の構成であるが、オルタネータ11による発電量を確保するのに必要なエンジン10の回転数を算出する際に、ベルト38の限界張力も考慮して算出している点に特徴がある。他の構成は実施例1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。図7は、本発明の実施例3に係る駆動力制御装置が設けられた車両を示す概略図である。同図に示す駆動力制御装置80は、実施例1に係る駆動力制御装置5と同様に、エンジン10にはオルタネータ11、高圧オルタネータ12、補機13が設けられている。また、これらのオルタネータ11、高圧オルタネータ12、補機13には、それぞれプーリ30が設けられており、このプーリ30にベルト38が掛けられることにより、ベルト38を介してエンジン10の動力が伝達される。
【0104】
また、この実施例3に係る駆動力制御装置80は、実施例1に係る駆動力制御装置5と同様にECU81を有しており、このECU81は処理部51と記憶部65と入出力部66とを有している。このうち、処理部51は、少なくともクラッチ制御部52と、変速制御部53と、運転状態取得部54と、要求発電量算出部55と、出力特性回転数算出部56と、滑り限界トルク回転数算出部57と、エンジン回転数判定部58と、変速比判定部59と、ロックアップ禁止要求部60と、ロー変速要求部61と、を有している。
【0105】
さらに、ECU81の処理部51は、ベルト38の限界張力でエンジン10からオルタネータ11に動力を伝達する際のトルクであるベルト張力限界トルクより、オルタネータ11に要求発電量の発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出する張力限界トルク回転数算出部82を有している。
【0106】
この実施例3に係る駆動力制御装置80は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。エンジン10が低回転であることにより、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合、オルタネータ11に要求発電量の発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出するが、この回転数を算出する際には、実施例1に係る駆動力制御装置5と同様に、オルタネータの出力特性、及びベルト滑り限界トルクより、必要エンジン回転数B、Cを算出する。
【0107】
さらに、実施例3に係る駆動力制御装置80では、ECU81の張力限界トルク回転数算出部82で、ベルト張力限界トルクより、オルタネータ11に要求発電量の発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数Dを算出する。ECU81のエンジン回転数判定部58は、現エンジン回転数が、必要エンジン回転数B、C、Dよりも高いかを判定し、判定結果に応じて、ロックアップクラッチ16を制御したり、トランスミッション17の変速比を制御したりする。
【0108】
図8は、本発明の実施例3に係る駆動力制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例3に係る駆動力制御装置80の制御方法、即ち、当該駆動力制御装置80の処理手順について説明する。また、以下の説明では、エンジン10が低回転で運転をしており、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合における処理手順について説明する。
【0109】
実施例3に係る駆動力制御装置80の処理手順では、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合には、まずECU81の処理部51が有する運転状態取得部54で、車両1の運転状態を取得する(ステップST301)。次に、運転状態取得部54で取得した車両1の運転状態の情報より、ECU81の要求発電量算出部55で、オルタネータ11の要求発電量Aを算出する(ステップST302)。
【0110】
次に、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU81の出力特性回転数算出部56に伝達され、出力特性回転数算出部56は、オルタネータ11が発電をする際の出力特性より、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジン10の回転数Bを算出する(ステップST303)。次に、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU81の滑り限界トルク回転数算出部57に伝達され、滑り限界トルク回転数算出部57は、エンジン10の動力をベルト38によってオルタネータ11に伝達する際におけるベルト滑り限界トルクより、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジン10の回転数Cを算出する(ステップST304)。
【0111】
次に、要求発電量Aに対するベルト張力限界トルクによる必要エンジン回転数Dを算出する(ステップST305)。このベルト張力限界トルクによる必要エンジン回転数Dの算出は、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU81の処理部51が有する張力限界トルク回転数算出部82に伝達され、この張力限界トルク回転数算出部82によって算出する。要求発電量Aが伝達された張力限界トルク回転数算出部82は、エンジン10の動力をベルト38によってオルタネータ11に伝達する際におけるベルト張力限界トルクより、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジンの回転数Dを算出する。
【0112】
つまり、オルタネータ11は、ベルト38でエンジン10の動力を伝達することにより発電をするが、その際に、ベルト38には張力が作用する。この張力は、ベルト38で伝達するトルクが大きい場合には、張力も大きくなる。また、ベルト38に作用させることのできる最大の張力である最大ベルト張力は、ベルト38によって一定であり、ベルト38に作用させる張力は、この最大ベルト張力以下に抑える必要がある。このため、エンジン10の動力をベルト38によって伝達する際には、ベルト38に作用する張力が最大ベルト張力となるトルクであるベルト張力限界トルク以下で伝達する必要があり、張力限界トルク回転数算出部82は、このベルト張力限界トルク以下で、且つ、オルタネータ11に要求発電量Aを発生させることのできるエンジン10の回転数を算出する。
【0113】
具体的には、ベルト張力限界トルクは、最大ベルト張力と、ベルト38が掛けられるプーリ30の径とによって決まるので、ベルト張力限界トルクは、プーリ30の径が変化しない限り一定であるのに対し、エンジン10のトルクは、運転状態によって変化する。つまり、エンジン10の回転数が同じ回転数の場合には、エンジン10の出力が高くなるに従ってトルクも高くなり、エンジン10の出力が同じ出力の場合には、エンジン10の回転数が高くなるに従ってトルクは低くなる。
【0114】
このため、エンジン10の運転中には、エンジン10からオルタネータ11に伝達されるトルクも変化するので、エンジン10からオルタネータ11に伝達されるトルクをベルト張力限界トルク以下に抑える際には、エンジン10の運転状態を変化させてトルクを変化させることにより、トルクを抑える。また、エンジン10の出力を一定にする場合には、トルクは前記のようにエンジン10の回転数を高くすることにより低くなるので、エンジン10の出力を確保しつつトルクを抑える場合には、エンジンの回転数を上昇させる必要がある。
【0115】
またベルト38は、オルタネータ用プーリ32以外のプーリ30、例えば、補機用プーリ34などにも掛けられているが、最大ベルト張力は一定であるため、エンジン10の動力をベルト38によってオルタネータ11に伝達する際に作用させることのできる張力は、最大ベルト張力よりも小さくなる。つまり、エンジン10の動力をベルト38によってオルタネータ11に伝達する際に作用させることのできる張力は、最大ベルト張力から、エンジン10の動力をベルト38によって補機13などオルタネータ11以外の機器に伝達する際に作用する張力である補機張力を引いた張力になる。
【0116】
これらにより、エンジン10の出力を確保しつつ、オルタネータ11で要求発電量Aの発電が可能な動力をエンジン10からオルタネータ11に伝達する際には、エンジン10の出力を確保しつつオルタネータ11に要求発電量Aを発電させることができ、さらに、トルクをベルト張力限界トルク以下にするために必要な回転数で伝達する。このため、張力限界トルク回転数算出部82は、要求発電量算出部55から伝達された要求発電量Aより、エンジン10の出力を確保しつつ要求発電量Aを発電させることができ、トルクをベルト張力限界トルク以下にするために必要な回転数である必要エンジン回転数Dを算出する。
【0117】
張力限界トルク回転数算出部82で必要エンジン回転数Dを算出する際には、要求発電量算出部55から伝達された要求発電量Aとベルト張力限界トルク、最大ベルト張力、補記張力、及びオルタネータ減速比より、下記の式(6)によって求める。
必要エンジン回転数D=要求発電量A÷(最大ベルト張力−補機張力)÷オルタネータ減速比・・・(6)
【0118】
次に、現エンジン回転数が、出力特性回転数算出部56で算出した必要エンジン回転数Bと、滑り限界トルク回転数算出部57で算出した必要エンジン回転数Cと、張力限界トルク回転数算出部82で算出した必要エンジン回転数Dとのうち、最も高い回転数であるMAX(B、C、D)よりも高いかを、ECU81のエンジン回転数判定部58で判定する(ステップST306)。エンジン回転数判定部58での判定により、現エンジン回転数はMAX(B、C、D)よりも高いと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
【0119】
また、エンジン回転数判定部58での判定により、現エンジン回転数はMAX(B、C、D)以下であると判定された場合には、次に、トランスミッション17の変速比が最大であるかを、ECU81の変速比判定部59で判定する(ステップST307)。
【0120】
変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の現在の変速比が最大であると判定された場合には、次に、ECU81のロックアップ禁止要求部60が、クラッチ制御部52に対してロックアップの禁止要求をする(ステップST308)。これにより、トルクコンバータ15のロックアップクラッチ16は開放状態になる。このため、エンジン10は、ロックアップクラッチ16によってトランスミッション17と結合されている際における回転の抵抗が低減するので、エンジン10の回転数は上昇する。
【0121】
これに対し、変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の現在の変速比が最大ではないと判定された場合には、ECU81のロー変速要求部61が、変速制御部53に対して、トランスミッション17をローに変速するように要求する(ステップST309)。これにより、トランスミッション17はローに変速される。このため、エンジン10の回転数は、トランスミッション17がロー以外の状態の場合よりも上昇する。
【0122】
以上の駆動力制御装置80では、ECU81に張力限界トルク回転数算出部82を設け、オルタネータ11に要求発電量Aの発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出する際に、ベルト張力限界トルクより算出している。これにより、エンジン10の動力をオルタネータ11に伝達する際に、ベルト38の張力の範囲内で、ベルト38を介してエンジン10からオルタネータ11に伝達することができる。この結果、ベルト38の破損を抑制しつつ、オルタネータ11による発電量を、より確実に上昇させることができる。
【0123】
また、ベルト張力限界トルクより必要エンジン回転数Dを算出する際に、最大ベルト張力から補機張力を引いている。これにより、オルタネータ11に動力を伝達することができる張力の範囲内で、オルタネータ11に要求発電量Aの発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出することができる。従って、より確実にオルタネータ11に伝達する分の張力を確保しつつエンジン10の回転数を算出することができる。この結果、より確実にベルト38の破損を抑制しつつ、オルタネータ11による発電量を上昇させることができる。
【実施例4】
【0124】
実施例4に係る駆動力制御装置90は、実施例3に係る駆動力制御装置80と略同様の構成であるが、オルタネータ11による発電量を確保するのに必要なエンジン10の回転数を算出する際に、出力可能なエンジン10の仕事率も考慮して算出している点に特徴がある。他の構成は実施例3と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。図9は、本発明の実施例4に係る駆動力制御装置が設けられた車両を示す概略図である。同図に示す駆動力制御装置90は、実施例3に係る駆動力制御装置80と同様に、エンジン10にはオルタネータ11、高圧オルタネータ12、補機13が設けられている。また、これらのオルタネータ11、高圧オルタネータ12、補機13には、それぞれプーリ30が設けられており、このプーリ30にベルト38が掛けられることにより、ベルト38を介してエンジン10の動力が伝達される。
【0125】
また、この実施例4に係る駆動力制御装置90は、実施例3に係る駆動力制御装置80と同様にECU91を有しており、このECU91は処理部51と記憶部65と入出力部66とを有している。このうち、処理部51は、少なくともクラッチ制御部52と、変速制御部53と、運転状態取得部54と、要求発電量算出部55と、出力特性回転数算出部56と、滑り限界トルク回転数算出部57と、エンジン回転数判定部58と、変速比判定部59と、ロックアップ禁止要求部60と、ロー変速要求部61と、張力限界トルク回転数算出部82と、を有している。
【0126】
さらに、ECU91の処理部51は、エンジン10の運転時に出力可能なエンジン10の仕事率である出力可能エンジン仕事率より、オルタネータ11に要求発電量の発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出する出力可能仕事率回転数算出部92を有している。
【0127】
この実施例4に係る駆動力制御装置90は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。エンジン10が低回転であることにより、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合、オルタネータ11に要求発電量の発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出するが、この回転数を算出する際には、実施例3に係る駆動力制御装置80と同様に、オルタネータ11の出力特性、ベルト滑り限界トルク、ベルト張力限界トルクより、必要エンジン回転数B、C、Dを算出する。
【0128】
さらに、実施例4に係る駆動力制御装置90では、ECU91の出力可能仕事率回転数算出部92で、出力可能エンジン仕事率より、オルタネータ11に要求発電量の発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数Eを算出する。ECU91のエンジン回転数判定部58は、現エンジン回転数が、必要エンジン回転数B、C、D、Eよりも高いかを判定し、判定結果に応じて、ロックアップクラッチ16を制御したり、トランスミッション17の変速比を制御したりする。
【0129】
図10は、本発明の実施例4に係る駆動力制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例4に係る駆動力制御装置90の制御方法、即ち、当該駆動力制御装置90の処理手順について説明する。また、以下の説明では、エンジン10が低回転で運転をしており、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合における処理手順について説明する。
【0130】
実施例4に係る駆動力制御装置90の処理手順では、オルタネータ11の発電量に制限がかかっている場合には、まずECU91の処理部51が有する運転状態取得部54で、車両1の運転状態を取得する(ステップST401)。次に、運転状態取得部54で取得した車両1の運転状態の情報より、ECU91の要求発電量算出部55で、オルタネータ11の要求発電量Aを算出する(ステップST402)。
【0131】
次に、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU91の出力特性回転数算出部56に伝達され、出力特性回転数算出部56は、オルタネータ11が発電をする際の出力特性より、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジン10の回転数Bを算出する(ステップST403)。次に、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU91の滑り限界トルク回転数算出部57に伝達され、滑り限界トルク回転数算出部57は、エンジン10の動力をベルト38によってオルタネータ11に伝達する際におけるベルト滑り限界トルクより、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジン10の回転数Cを算出する(ステップST404)。
【0132】
次に、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU91の張力限界トルク回転数算出部82に伝達され、張力限界トルク回転数算出部82は、エンジン10の動力をベルト38によってオルタネータ11に伝達する際におけるベルト張力限界トルクより、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジンの回転数Dを算出する(ステップST405)。
【0133】
次に、要求発電量Aに対する出力可能エンジン仕事率による必要エンジン回転数Eを算出する(ステップST406)。この出力可能エンジン仕事率による必要エンジン回転数Eの算出は、要求発電量算出部55で算出した要求発電量Aが、ECU91の処理部51が有する出力可能仕事率回転数算出部92に伝達され、この出力可能仕事率回転数算出部92によって算出する。要求発電量Aが伝達された出力可能仕事率回転数算出部92は、エンジン10の動力をオルタネータ11や補機13などに伝達する際に、これらに対して出力することのできる出力可能エンジン仕事率より、要求発電量Aをオルタネータ11に発電させるのに必要なエンジン10の回転数Eを算出する。
【0134】
つまり、オルタネータ11は、ベルト38によってエンジン10の動力が伝達されることにより作動して発電し、また、エンジン10に設けられる補機13などもこれと同様に、ベルト38の動力が伝達されることにより作動する。即ち、オルタネータ11や補機13などは、エンジン10の仕事率がベルト38を介して出力されることにより作動する。このため、エンジン10の回転数を算出する際には、オルタネータ11や補機13などを作動させることのできる仕事率を出力できる回転数を算出する必要がある。従って、ECU91の出力可能仕事率回転数算出部92は、オルタネータ11を作動させて要求発電量Aを発電させることができると同時に補機13などを作動させることができ、且つ、オルタネータ11や補機13などに対して出力可能な仕事率である出力可能エンジン仕事率を出力することのできるエンジン10の回転数を算出する。
【0135】
図11は、エンジンの出力特性を示す説明図である。同図は、出力可能エンジン仕事率と、出力可能エンジン仕事率でオルタネータ11や補機13などに対して出力することのできるエンジン10の回転数である出力可能エンジン回転数との関係を示しており、横軸は、出力可能エンジン仕事率を示し、縦軸は、出力可能エンジン回転数を示している。出力可能エンジン仕事率でオルタネータ11や補機13などに対して出力する場合には、図11に示すように、出力可能エンジン仕事率は、出力可能エンジン回転数が上昇するに従って大きくなる傾向にある。このため、出力可能エンジン仕事率を出力することのできるエンジン10の回転数である出力可能エンジン回転数を算出する際には、このようなエンジン10の出力特性より算出する。
【0136】
具体的には、出力可能エンジン仕事率と出力可能エンジン回転数との関係、即ちエンジン10の出力特性を予めマップ化してECU91の記憶部65に記憶させておく。さらに、運転状態取得部54で取得した車両1の運転状態の情報より出力可能エンジン仕事率を算出し、算出した出力可能エンジン仕事率と、記憶部65に記憶させたエンジン10の出力特性のマップとを照らし合わせることにより、出力可能エンジン回転数、つまり、必要エンジン回転数Eを、出力可能仕事率回転数算出部92によって算出する。
【0137】
次に、現エンジン回転数が、出力特性回転数算出部56で算出した必要エンジン回転数Bと、滑り限界トルク回転数算出部57で算出した必要エンジン回転数Cと、張力限界トルク回転数算出部82で算出した必要エンジン回転数Dと、出力可能仕事率回転数算出部92で算出した必要エンジン回転数Eとのうち、最も高い回転数であるMAX(B、C、D、E)よりも高いかを、ECU91のエンジン回転数判定部58で判定する(ステップST407)。エンジン回転数判定部58での判定により、現エンジン回転数はMAX(B、C、D、E)よりも高いと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
【0138】
また、エンジン回転数判定部58での判定により、現エンジン回転数はMAX(B、C、D、E)以下であると判定された場合には、次に、トランスミッション17の変速比が最大であるかを、ECU91の変速比判定部59で判定する(ステップST408)。
【0139】
変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の現在の変速比が最大であると判定された場合には、次に、ECU91のロックアップ禁止要求部60が、クラッチ制御部52に対してロックアップの禁止要求をする(ステップST409)。これにより、トルクコンバータ15のロックアップクラッチ16は開放状態になる。このため、エンジン10は、ロックアップクラッチ16によってトランスミッション17と結合されている際における回転の抵抗が低減するので、エンジン10の回転数は上昇する。
【0140】
これに対し、変速比判定部59での判定により、トランスミッション17の現在の変速比が最大ではないと判定された場合には、ECU91のロー変速要求部61が、変速制御部53に対して、トランスミッション17をローに変速するように要求する(ステップST410)。これにより、トランスミッション17はローに変速される。このため、エンジン10の回転数は、トランスミッション17がロー以外の状態の場合よりも上昇する。
【0141】
以上の駆動力制御装置90では、ECU91に出力可能仕事率回転数算出部92を設け、オルタネータ11に要求発電量Aの発電をさせるのに必要なエンジン10の回転数を算出する際に、出力可能エンジン仕事率より算出している。これにより、エンジン10の仕事率をオルタネータ11や補機13などの機器に出力する際に、オルタネータ11に要求発電量Aを発電させると同時に、補機13などを作動させることのできる仕事率として出力することができる。この結果、エンジン10の動力が伝達され、エンジン10の動力によって作動する機器を、より確実に作動させつつ、オルタネータ11による発電量を、より確実に上昇させることができる。
【0142】
なお、上述した駆動力制御装置では、変速手段であるトランスミッション17としてCVTが用いられているが、トランスミッション17は、エンジン10の運転時に変速比を有段で変速可能なオートマチックトランスミッション(図示省略)を用いてもよく、または、自動制御式マニュアルトランスミッション(図示省略)であってもよい。変速手段は、ECUの変速制御部53で制御可能なものであれば、その構造は問わない。同様に、動力断続手段は、トルクコンバータ15が有するロックアップクラッチ16以外のものでもよく、例えば、通常、マニュアルトランスミッション(図示省略)とエンジン10との結合・開放に用いられる乾式単板クラッチ(図示省略)でもよい。動力断続手段は、ECUのクラッチ制御部52で制御可能なものであれば、その構造は問わない。
【0143】
また、実施例2に係る駆動力制御装置70では、モータ20は車両1の後輪42を駆動しているが、モータ20は前輪41を駆動してもよく、或いは、全ての車輪40を駆動してもよい。モータ20を、後輪42のみの駆動以外の車輪40の駆動に用いた場合でも、発電量が上昇するように制御された高圧オルタネータ12で発電した電気をモータ20に供給し、このモータ20で車輪40を駆動することにより、車輪40の駆動力を確保できる。これにより、より確実に車両走行時の安定性を確保できる。
【0144】
また、実施例1、実施例3、実施例4に係る駆動力制御装置5、80、90では、発電量を上昇させる発電手段として、運転中のエンジン10で使用する電気などを発電するオルタネータ11による発電量を確保しているが、実施例1、実施例3、実施例4に係る駆動力制御装置5、80、90において発電量を上昇させる発電手段は、車輪40を駆動するモータ20用の電気を発電する高圧オルタネータ12であってもよい。同様に、実施例2に係る駆動力制御装置70では、発電量を上昇させる発電手段として、車輪40を駆動するモータ20用の電気を発電する高圧オルタネータ12による発電量を確保しているが、実施例2に係る駆動力制御装置70において発電量を上昇させる発電手段は、運転中のエンジン10で使用する電気などを発電するオルタネータ11であってもよい。発電手段は、エンジン10の動力が伝達されることによって発電するものであれば、その用途は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上のように、本発明に係る駆動力制御装置は、エンジンの動力によって発電する発電手段を備える内燃機関に有用であり、特に、ベルトによって内燃機関の動力を発電手段に伝達する場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明の実施例1に係る駆動力制御装置が設けられた車両を示す概略図である。
【図2】本発明の実施例1に係る駆動力制御装置の処理手順を示すフロー図である。
【図3】オルタネータの出力特性を示す説明図である。
【図4】本発明の実施例2に係る駆動力制御装置が設けられた車両を示す概略図である。
【図5】本発明の実施例2に係る駆動力制御装置の処理手順を示すフロー図である。
【図6】トルクコンバータの特性を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例3に係る駆動力制御装置が設けられた車両を示す概略図である。
【図8】本発明の実施例3に係る駆動力制御装置の処理手順を示すフロー図である。
【図9】本発明の実施例4に係る駆動力制御装置が設けられた車両を示す概略図である。
【図10】本発明の実施例4に係る駆動力制御装置の処理手順を示すフロー図である。
【図11】エンジンの出力特性を示す説明図である。
【符号の説明】
【0147】
1 車両
5、70、80、90 駆動力制御装置
10 エンジン
11 オルタネータ
12 高圧オルタネータ
13 補機
15 トルクコンバータ
16 ロックアップクラッチ
17 トランスミッション
20 モータ
30 プーリ
31 クランクプーリ
32 オルタネータ用プーリ
33 高圧オルタネータ用プーリ
34 補機用プーリ
38 ベルト
40 車輪
41 前輪
42 後輪
50、71、81、91 ECU
51 処理部
52 クラッチ制御部
53 変速制御部
54 運転状態取得部
55 要求発電量算出部
56 出力特性回転数算出部
57 滑り限界トルク回転数算出部
58 エンジン回転数判定部
59 変速比判定部
60 ロックアップ禁止要求部
61 ロー変速要求部
65 記憶部
72 TRC制御部
73 目標車輪速算出部
74 目標スリップ率算出部
75 設定スリップ率設定部
82 張力限界トルク回転数算出部
92 出力可能仕事率回転数算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が有する車輪を駆動する内燃機関と、
前記内燃機関からベルトを介して伝達される動力によって発電する発電手段と、
前記内燃機関と前記車輪との回転比を変化させる変速手段と、
前記内燃機関と前記変速手段との結合または開放が可能な動力断続手段と、
前記発電手段の発電量に制限がかかり、且つ、前記変速手段の変速比が最大である場合に前記動力断続手段を開放させる動力伝達制御手段と、
を備えることを特徴とする駆動力制御装置。
【請求項2】
さらに、前記車輪のスリップを制御するスリップ制御手段を備えており、
前記スリップ制御手段は、前記発電手段の発電量に制限がかかり、且つ、前記変速手段の変速比が最大であることにより前記動力伝達制御手段が前記動力断続手段を開放させた場合に、前記車輪のスリップ率を、前記発電手段の発電量に制限がかかっていない場合のスリップ率以上の大きさにすることを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記車両は前記車輪を複数有していると共に前記車輪は前記車両の前輪または後輪として設けられており、さらに、前記車両は、複数の前記車輪のうち一部の前記車輪を駆動する電動機を備えており、
前記内燃機関は、前記前輪と前記後輪とのうちいずれか一方の前記車輪を駆動し、
前記電動機は、前記前輪と前記後輪とのうち前記内燃機関が駆動する前記車輪の他方の前記車輪を駆動し、
前記発電手段は、前記電動機に電気を供給可能に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−132929(P2008−132929A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321964(P2006−321964)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】