説明

III族窒化物半導体からなるHFETの製造方法

【課題】III 族窒化物半導体からなるHFETの製造方法において、素子分離領域を容易に形成する方法を提供すること。
【解決手段】i−AlGaN層12表面側からレーザーを照射して、HFETとして動作させる素子領域を囲うようにして溝15を形成する(図2(c))。溝15の深さは、i−AlGaN層12表面からi−GaN層11に達する深さとする。この溝15によってi−AlGaN層12が取り除かれたため、この取り除かれた領域において2次元電子ガス層が消滅する。その結果、HFETとして動作させる素子領域は、溝15による素子分離領域によって電気的に分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III 族窒化物半導体からなるHFETの製造方法に関するものであり、特に素子分離領域の形成方法に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体からなるHFETの素子分離方法として、イオン注入による方法が従来より広く知られている。これは、III 族窒化物半導体に不純物を打ち込み、結晶性を破壊して絶縁化することで素子分離領域を形成する方法である。また、ドライエッチングによって溝を形成することで素子分離する方法も従来より広く知られている。
【0003】
一方、レーザーを照射することによりIII 族窒化物半導体を加工する技術が特許文献1、2に記載されている。特許文献1には、レーザーを用いてリセスゲート構造を形成する方法が記載されており、特許文献2には、レーザーを用いてチップ分離のための溝、または半導体レーザの共振器端面を露出させるための溝を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−363346
【特許文献2】特開2003−17790
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、イオン注入やドライエッチングによって素子分離する方法では、レジストなどのマスクを形成する工程や、その除去工程などが必要なため工程数が多く、コストがかかる点が問題である。また、レジストを除去しきれず、その後の工程に不具合を生じることもある。
【0006】
また、特許文献1、2のいずれにも、HFETの素子分離にレーザーを用いた例は、記載されていない。
【0007】
そこで本発明の目的は、容易に素子分離できる工程を有したIII 族窒化物半導体からなるHFETの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、III 族窒化物半導体からなり、障壁層とチャネル層との接合構造と素子分離領域とを有したHFETの製造方法において、レーザーを照射して、障壁層表面から障壁層とチャネル層との接合界面に少なくとも達する深さの溝を所定の領域に形成することにより、素子分離領域を形成する、ことを特徴とするHFETの製造方法である。
【0009】
ここでIII 族窒化物半導体とは、一般式Alx Gay Inz N(x+y+z=1、0≦x、y、z≦1)で表される化合物半導体であり、Al、Ga、Inの一部を他の第13族元素であるBやTlで置換したもの、Nの一部を他の第15族元素であるP、As、Sb、Biで置換したものをも含むものとする。通常は、Gaを必須とするGaN、AlGaN、InGaN、AlGaInNを示す。
【0010】
障壁層やチャネル層は、単層であってもよいし、複数の層で構成されていてもよい。また、障壁層およびチャネル層は、障壁層のバンドギャップがチャネル層のバンドギャップよりも大きなIII 族窒化物半導体材料であればよい。たとえばチャネル層にGaN、障壁層にAlGaNを用いたり、チャネル層にInGaN、障壁層にGaNまたはAlGaNを用いたりすることができる。
【0011】
レーザーの照射による溝の深さは、レーザー光の照射時間や、レーザー光の出力、波長などによって制御することが可能である。レーザー光の波長は短いほど溝の形成が容易となり望ましく、特に障壁層のバンドギャップよりも大きなエネルギーの波長であるとより望ましい。また、溝の幅は、レーザー光のスポット径などによって制御することが可能である。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、HFETは、障壁層表面にソース電極、ドレイン電極、およびゲート電極を有した構造である、ことを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、障壁層はAlGaNであり、チャネル層はGaNであることを特徴とするHFETの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、従来のようなマスクの形成、除去の工程が必要なく、レーザーの照射のみによって簡易にIII 族窒化物半導体からなるHFETの素子分離を行うことができる。また、素子分離工程が簡素化された結果、アイソレーション特性の評価を迅速に行うことができ、その評価の前工程へのフィードバックも早くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】HFETの構成を示した図。
【図2】HFETの製造工程について示した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明にかかるHFETの構成について示した図である。HFETは、基板10上に、AlNからなるバッファ層(図示しない)を介してi−GaN層11(本発明のチャネル層に相当)、i−AlGaN層12(本発明の障壁層に相当)が積層され、i−AlGaN層12上の所定の位置にソース電極13、ドレイン電極14が形成され、i−AlGaN層12上のソース電極13とドレイン電極14とに挟まれた領域にゲート電極16が形成され、溝15による素子分離領域によって他の素子から分離されている構造である。i−GaN層11の厚さは1μm、i−AlGaN層12の厚さは45nmでAl組成比は20%である。このHFETは、i−GaN層11とi−AlGaN層12との整合界面17のi−AlGaN層12側に生じる2次元電子ガス層をチャネルとして動作する。
【0018】
基板10には、たとえばサファイア、SiC、Si、スピネル、ZnO、GaNなどを用いる。ソース電極13、ドレイン電極14の材料は、i−AlGaN層12に対してオーミックコンタクトをとることができる材料であればよく、たとえばTi/Alなどを用いることができる。ゲート電極16の材料は、i−AlGaN層12に対してショットキーコンタクトをとることができる材料であればよく、たとえばNiやWなどを用いることができる。なお、絶縁膜を介してゲート電極を形成することで絶縁ゲート型の構造としてもよい。
【0019】
溝15は、HFETとして動作させる素子領域を囲うようにして形成されており、その深さはi−AlGaN層12表面(i−GaN層11とi−AlGaN層12との整合界面17側ではない方の表面)からi−GaN層11に達する。この溝15によってi−AlGaN層12が取り除かれているため、2次元電子ガス層が生じず、アイソレーションをとることが可能となっている。
【0020】
次に、HFETの製造工程について、図2を参照に説明する。まず、基板10上にAlNからなるバッファ層(図示しない)を介してMOCVD法によってi−GaN層11、i−AlGaN層12を積層させる(図2(a))。キャリアガスには水素と窒素、窒素源にはアンモニア、Ga源にはTMG(トリメチルガリウム)、Al源にはTMA(トリメチルアルミニウム)を用いた。
【0021】
次に、フォトリソグラフィ、蒸着、リフトオフによって、i−AlGaN層12上の所定の領域に、ソース電極13、ドレイン電極14を互いに離間させて形成する(図2(b))。
【0022】
次に、i−AlGaN層12表面側(i−GaN層11とi−AlGaN層12とが接合している側の表面とは反対側の表面側)からレーザーを照射して、HFETとして動作させる素子領域を囲うようにして溝15を形成する(図2(c))。溝15の深さは、i−AlGaN層12表面からi−GaN層11に達する深さとする。この溝15によってi−AlGaN層12が取り除かれたため、この取り除かれた領域において2次元電子ガス層が消滅する。その結果、HFETとして動作させる素子領域は、溝15による素子分離領域によって電気的に分離される。
【0023】
ここで、レーザーの照射による溝の深さは、レーザーの照射時間やレーザーの出力、レーザー光の波長などによって制御することが可能である。また、溝の幅は、レーザーのスポット径などによって制御することが可能である。レーザ光の波長は短いほど溝の形成が容易となるので望ましい。特にi−AlGaN層12のバンドギャップよりもエネルギーが大きい波長であることが望ましい。また、溝15の深さは、i−AlGaN層12が除去されて2次元電子ガス層が消滅する深さであれば任意の深さでよい。
【0024】
次に、フォトリソグラフィ、蒸着、リフトオフによって、i−AlGaN層12上のソース電極13とドレイン電極14とに挟まれた領域に、ゲート電極16を形成する。これにより、図1に示すHFETが作製される。
【0025】
以上のように、実施例1のHFETの製造工程における素子分離は、レーザーの照射のみによって行うことができ、容易かつ簡素に素子分離を行うことができる。そのため、アイソレーション特性の評価を迅速に行うことができ、その評価の前工程へのフィードバックも早く行うことが可能である。
【0026】
なお、実施例では素子分離領域の形成を、ソース電極、ドレイン電極の形成後、ゲート電極の形成前に行っているが、ソース電極、ドレイン電極の形成前に行ってもよいし、ゲート電極の形成後に行ってもよい。
【0027】
また、HFETは実施例に示した構成に限るものではなく、障壁層とチャネル層の接合構造を有したHFETであればよい。たとえば、実施例1のHFETはショットキーゲート型であるが、絶縁ゲート型であってもよい。また、障壁層やチャネル層を複数の層で構成してもよい。また、ノーマリオン型であってもよいし、ノーマリオフ型であってもよい。また、基板に対して縦方向に導通を取る縦型のHFETに対しても本発明は適用することができる。
【0028】
また、実施例ではチャネル層にGaN、障壁層にAlGaNを用いているが、障壁層のバンドギャップがチャネル層のバンドギャップよりも大きい材料であればよい。たとえば、チャネル層にInGaNを用い、障壁層にGaNやAlGaNを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のFETは、高周波帯の増幅器などに利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10:基板
11:i−GaN層
12:i−AlGaN層
13:ソース電極
14:ドレイン電極
15:素子分離領域
16:ゲート電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
III 族窒化物半導体からなり、障壁層とチャネル層との接合構造と素子分離領域とを有したHFETの製造方法において、
レーザーを照射して、前記障壁層表面から前記障壁層と前記チャネル層との接合界面に少なくとも達する深さの溝を所定の領域に形成することにより、前記素子分離領域を形成する、
ことを特徴とするHFETの製造方法。
【請求項2】
前記HFETは、前記障壁層表面にソース電極、ドレイン電極、およびゲート電極を有した構造である、ことを特徴とする請求項1に記載のHFETの製造方法。
【請求項3】
前記障壁層はAlGaNであり、前記チャネル層はGaNであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のHFETの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−212494(P2010−212494A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58061(P2009−58061)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】