説明

III族窒化物半導体膜およびその製造方法、ならびにIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法

【課題】均質なn型導電性のIII族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体膜およびかかるIII族窒化物半導体膜を含むIII族窒化物半導体デバイスを提供する。
【解決手段】本III族窒化物半導体膜20は、主面20m,21m,22mが(0001)面20cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有し、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層21,22を少なくとも1層含む。また、本III族窒化物半導体デバイスは、上記のIII族窒化物半導体膜20を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n型導電性のIII族窒化物半導体を含むIII族窒化物半導体膜およびその製造方法、ならびにかかるIII族窒化物半導体膜を含むIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
n型導電性のIII族窒化物半導体層の形成においては、n型導電性を決定するためのドーパントとして、一般に、シリコン、酸素、ゲルマニウムなどが併用して用いられる。
たとえば、特開2010−212493号公報(特許文献1)は、主面がc面に対して有限な角度をなす半極性面および無極性面のいずれか一方であり、n型導電性を決定するドーパントとしてシリコンおよび酸素を含むIII族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体素子を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−212493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる特開2010−212493号公報で開示されるIII族窒化物半導体素子においては、n型導電性を決定するドーパントとしてシリコンおよび酸素の2種類が用いられているため、シリコンと酸素との相互作用によりn型キャリア濃度の再現性が低く、均質なn型導電性のIII族窒化物半導体層を形成するのが困難であるという問題があった。
【0005】
また、シリコンのドーパントには、原料として爆発しやすく危険なシランガスが使用されるため、製造設備および製造工程において安全性を担保するための措置が必要となり、製造コストが高くなるととともに製造効率が低下するという問題もあった。
【0006】
本発明は、均質なn型導電性のIII族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体膜およびその製造方法、ならびにかかるIII族窒化物半導体膜を含むIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、主面が(0001)面に対して0°より大きく180°より小さいオフ角を有し、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層を少なくとも1層含むIII族窒化物半導体膜である。
【0008】
本発明にかかるIII族窒化物半導体膜は、ドーパントである酸素の濃度を1×1019cm-3以上とすることができる。また、複数層のIII族窒化物半導体層を含み、ひとつのIII族窒化物半導体層の酸素の濃度と、それ以外のIII族窒化物半導体層の酸素の濃度とを異ならせることができる。
【0009】
また、本発明は、上記のIII族窒化物半導体膜の製造方法であって、III族窒化物半導体層の成長の際に、原料ガスの水分濃度によりIII族窒化物半導体層の酸素の濃度を調節するIII族窒化物半導体膜の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、上記のIII族窒化物半導体膜を含むIII族窒化物半導体デバイスである。
【0011】
また、本発明は、上記のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法であって、III族窒化物半導体層の成長の際に、原料ガスの水分濃度によりIII族窒化物半導体層の酸素の濃度を調節するIII族窒化物半導体デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、均質なn型導電性のIII族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体膜およびその製造方法、ならびにかかるIII族窒化物半導体膜を含むIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかるIII族窒化物半導体膜の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明にかかるIII族窒化物半導体膜の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの別の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスのさらに別の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態1]
図1を参照して、本発明のある実施形態であるIII族窒化物半導体膜20は、主面20m,21m,22mが(0001)面20cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有し、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層21,22を少なくとも1層含む。
【0015】
本実施形態のIII族窒化物半導体膜20に含まれるIII族窒化物半導体層21,22は、その主面21m,22mが(0001)面20cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有する。すなわち、III族窒化物半導体層21,22は、その主面21m、22mが、(0001)面20cに対するオフ角θが0°より大きく90°より小さいかまたは90°より大きく180°より小さい半極性面(半極性の表面をいう、以下同じ。)、または、(0001)面20cに対するオフ角θが90°の無極性面(無極性の表面をいう、以下同じ。)であるため、成長の際にn型導電性を実質的に決定するドーパントとしての酸素が取り込まれやすい。このため、III族窒化物半導体層21,22のドーパントとして酸素のみを用いることにより、III族窒化物半導体層21,22のn型導電性を実質的に決定することができる。また、III族窒化物半導体層21,22に含まれる酸素の濃度を調節することにより、所望の導電性を有するIII族窒化物半導体層21,22が得られる。
【0016】
ここで、III族窒化物半導体層21,22の(0001)面20cに対する主面21m,22mのオフ角θは、III族窒化物半導体層21,22への酸素の取り込み易さを促進する観点から、10°より大きく80°より小さいことが好ましく、60°より大きく80°より小さいことがさらに好ましい。
【0017】
また、III族窒化物半導体層21,22に含まれる酸素の濃度は、n型導電性を高める観点から、1×1019cm-3以上が好ましく、5×1019cm-3以上がより好ましい。ここで、III族窒化物半導体層21,22に含まれる酸素の濃度は、SIMS(2次イオン質量分析)法により測定することができる。
【0018】
また、III族窒化物半導体膜20は、所望の半導体デバイスを形成する観点から、複数層のIII族窒化物半導体層21,22を含み、ひとつのIII族窒化物半導体層21の酸素の濃度と、それ以外のIII族窒化物半導体層22の酸素の濃度とを異ならせることができる。
【0019】
[実施形態2]
図2を参照して、本発明の別の実施形態であるIII族窒化物半導体膜の製造方法は、実施形態1のIII族窒化物半導体膜20の製造方法であって、III族窒化物半導体層21,22の成長の際に、原料ガスの水分濃度によりIII族窒化物半導体層21,22の酸素の濃度を調節するものである。かかる製造方法により、効率よく実施形態1のIII族窒化物半導体膜20が得られる。
【0020】
本実施形態のIII族窒化物半導体膜の製造方法は、特に制限はないが、効率よく実施形態1のIII族窒化物半導体膜20を製造する観点から、主面10mが(0001)面10cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有するIII族窒化物基板10を準備する工程と、III族窒化物基板10の主面10m上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体層21,22を成長させることにより、III族窒化物半導体層21,22を含むIII族窒化物半導体膜20を形成する工程と、を含むことが好ましい。
【0021】
(III族窒化物基板の準備工程)
本実施形態のIII族窒化物半導体膜の製造方法は、たとえば、主面10mが(0001)面10cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有するIII族窒化物基板10を準備する工程を含む。かかるIII族窒化物基板10を用いることにより、主面20m,21m,22mが(0001)面20cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有するIII族窒化物半導体層21,22を少なくとも1層含むIII族窒化物半導体膜20を効率よく形成することができる。
【0022】
本実施形態で用いられるIII族窒化物基板10を準備する方法には、特に制限はなく、たとえば、従来の方法により製造された厚いIII族窒化物バルク結晶を(0001)面10cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有する面に平行な面で切り出すことができる。
【0023】
(III族窒化物半導体膜の形成方法)
本実施形態のIII族窒化物半導体膜の製造方法は、たとえば、上記のIII族窒化物基板10の主面10m上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体層21,22を成長させることにより、III族窒化物半導体層21,22を含むIII族窒化物半導体膜20を形成する工程を含む。III族窒化物基板10は、(0001)面10cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有する主面10mを有しているため、その主面10m上に、主面21m,22mが(0001)面20cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θ(すなわち、III族窒化物基板10の主面10mのオフ角θと同じ角度のオフ角θ)を有するIII族窒化物半導体層21,22をエピタキシャル成長させることができる。
【0024】
ここで、III族窒化物半導体層21,22をエピタキシャル成長させる方法は、特に制限はなく、MOVPE(有機金属気相成長)法、MBE(分子線成長)法、HVPE(ハイドライド気相成長)法、昇華法などの気相法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などが、好適に挙げられる。ここで、III族窒化物半導体層21,22の化学組成、特に酸素の濃度の調節および厚さの調節の精度が高い観点から、MOVPE法が特に好ましい。MOVPE法により成長させる場合には、III族元素原料となる原料ガスとしてTMG(トリメチルガリウム)ガス、TMA(トリメチルアルミニウム)ガス、TMI(トリメチルインジウム)ガスなどが好適に用いられ、窒素原料となる原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガスなどが好適に用いられ、n型導電性を決定するドーパントである酸素の原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガス中の水分(具体的には、水蒸気)が好適に用いられ、p型導電性を決定するドーパントであるMg(マグネシウム)の原料ガスとしてCP2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)などが好適に用いられる。
【0025】
本実施形態のIII族窒化物半導体膜の製造方法においては、III族窒化物半導体層21,22の成長の際に、原料ガスの水分濃度によりIII族窒化物半導体層21,22の酸素の濃度を調節する。かかる方法によれば、III族窒化物半導体層21,22の酸素の濃度を精度よく調節することができる。
【0026】
たとえば、MOVPE法の場合は、原料ガスであるNH3(アンモニア)ガスの水分濃度によりIII族窒化物半導体層21,22の酸素の濃度を調節することができる。
【0027】
[実施形態3]
図3〜5を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体デバイスは、実施形態1のIII族窒化物半導体膜200を含む。かかるIII族窒化物半導体デバイスは、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層(具体的には、n型GaNバッファ層210およびn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の少なくとも1層)を有していることから、安定した動作電圧が得られる。
【0028】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスは、たとえば、図3および4を参照して、たとえば、III族窒化物基板10と、III族窒化物基板10の主面10m上に成長させられたIII族窒化物半導体層であるn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220、In0.03Ga0.97N光ガイド層230a、In0.2Ga0.8N井戸層とGaN障壁層とで構成される3周期の量子井戸構造を有する活性層240、In0.03Ga0.97N光ガイド層230b、p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260およびp型GaNコンタクト層270で構成されるIII族窒化物半導体膜200と、を含む。また、図5を参照して、図3および4に示すIII族窒化物半導体デバイスにおいて、III族窒化物基板10とn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220との間に、さらなるIII族窒化物半導体層としてn型GaNバッファ層210をさらに含む。
【0029】
ここで、図3〜4に示すIII族窒化物半導体デバイスは、III族窒化物基板10、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220、In0.03Ga0.97N光ガイド層230a、活性層240、In0.03Ga0.97N光ガイド層230b、p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260およびp型GaNコンタクト層270は、いずれも、(0001)面からm軸(<10−10>方向軸)方向に0°より大きく180°より小さいオフ角θを有する主面を有する。
【0030】
また、図5に示すIII族窒化物半導体デバイスは、III族窒化物基板10、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220、In0.03Ga0.97N光ガイド層230a、活性層240、In0.03Ga0.97N光ガイド層230b、p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260およびp型GaNコンタクト層270に加えて、n型GaNバッファ層210も、(0001)面200cからm軸(<10−10>方向軸)方向に0°より大きく180°より小さいオフ角θを有する主面を有する。
【0031】
また、図3〜5に示すIII族窒化物半導体デバイスにおいて、III族窒化物半導体膜200を構成するIII族窒化物半導体層の少なくとも1層(具体的には、n型GaNバッファ層210およびn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の少なくとも1層)は、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素である、すなわち、酸素のみによって実質的にn型導電性が決定される。また、III族窒化物半導体層の少なくとも1層(具体的には、n型GaNバッファ層210およびn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の少なくとも1層)は、n型導電性を高める観点から、ドーパントである酸素の濃度が1×1019cm-3以上であることが好ましい。また、所望の半導体デバイスを形成する観点から、III族窒化物半導体層が複数層であって、ひとつのIII族窒化物半導体層(たとえばn型GaNバッファ層210)の酸素の濃度と、それ以外のIII族窒化物半導体層(たとえばn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220)の酸素の濃度とが異なることが好ましい。
【0032】
また、図3〜5を参照して、本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスは、p型GaNコンタクト層270上に形成された開口部を有する絶縁膜300と、絶縁膜300の開口部上に形成されたp側電極400bと、III族窒化物基板10の主面10n上に形成されたn側電極400aと、をさらに含む。こうして、図3〜5に示すようなレーザダイオードLD1,LD2,LD3であるIII族窒化物半導体デバイスが得られる。
【0033】
[実施形態4]
図3〜5を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体膜の製造方法は、実施形態3のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法であって、III族窒化物半導体層(具体的には、n型GaNバッファ層210およびn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の少なくとも1層)の成長の際に、原料ガスの水分濃度によりIII族窒化物半導体層(具体的には、n型GaNバッファ層210およびn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の少なくとも1層)の酸素の濃度を調節するものである。かかる製造方法により、効率よく実施形態3のIII族窒化物半導体デバイスが得られる。
【0034】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、特に制限はないが、効率よく実施形態3のIII族窒化物半導体デバイス(たとえば、レーザダイオードLD1,LD2,LD3)を製造する観点から、主面10mが(0001)面10cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角を有するIII族窒化物基板10を準備する工程と、III族窒化物基板10の主面10m上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体層を成長させることによりIII族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体膜20を形成する工程と、III族窒化物半導体膜20をデバイス化する工程と、を含むことが好ましい。
【0035】
(III族窒化物基板の準備工程)
図3〜5を参照して、本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、たとえば、主面10mが(0001)面10cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有するIII族窒化物基板10を準備する工程を含む。かかるIII族窒化物基板10を用いることにより、主面210m,220mが(0001)面200cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有するIII族窒化物半導体層(たとえば、n型GaNバッファ層210、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220)を少なくとも1層含むIII族窒化物半導体膜200を効率よく形成することができる。
【0036】
本実施形態で用いられるIII族窒化物基板10を準備する方法は、実施形態2の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0037】
(III族窒化物半導体膜の形成工程)
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、たとえば、上記のIII族窒化物基板10の主面10m上に少なくとも1層のIII族窒化物半導体層を成長させることにより、III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体膜20を形成する工程を含む。III族窒化物基板10は、(0001)面10cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有する主面10mを有しているため、その主面10m上に、主面210m,220mが(0001)面20cに対して0°より大きく180°より小さいオフ角θ(すなわち、III族窒化物基板10の主面10mのオフ角θと同じ角度のオフ角θ)を有するIII族窒化物半導体層(たとえば、n型GaNバッファ層210、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220)をエピタキシャル成長させることができる。
【0038】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法において、III族窒化物半導体層のエピタキシャル成長は、たとえば、図3および4を参照して、III族窒化物基板10の主面10m上に、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220、In0.03Ga0.97N光ガイド層230a、In0.2Ga0.8N井戸層とGaN障壁層とで構成される3周期の量子井戸構造を有する活性層240、In0.03Ga0.97N光ガイド層230b、p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260およびp型GaNコンタクト層270で構成されるIII族窒化物半導体膜200を順次エピタキシャル成長させることにより行なう。
【0039】
また、図5を参照して、III族窒化物基板10の主面10m上にn型GaNバッファ層210をエピタキシャル成長させた後、n型GaNバッファ層210上に、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220、In0.03Ga0.97N光ガイド層230a、In0.2Ga0.8N井戸層とGaN障壁層とで構成される3周期の量子井戸構造を有する活性層240、In0.03Ga0.97N光ガイド層230b、p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260およびp型GaNコンタクト層270で構成されるIII族窒化物半導体膜200を順次エピタキシャル成長させることができる。
【0040】
ここで、III族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる方法は、実施形態2の場合と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0041】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法においては、III族窒化物半導体層(たとえば、n型GaNバッファ層210、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220)の成長の際に、原料ガスの水分濃度によりIII族窒化物半導体層(たとえば、n型GaNバッファ層210、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220)の酸素の濃度を調節する。かかる方法によれば、III族窒化物半導体層の酸素の濃度を精度よく調節することができる。
【0042】
たとえば、MOVPE法の場合は、原料ガスであるNH3(アンモニア)ガスの水分濃度によりIII族窒化物半導体層(たとえば、n型GaNバッファ層210、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220)の酸素の濃度を調節することができる。
【0043】
(III族窒化物半導体膜のデバイス化工程)
図3〜5を参照して、本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、たとえば、III族窒化物半導体膜20をデバイス化する工程を含む。III族窒化物半導体膜20をデバイス化することにより、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層(たとえば、n型GaNバッファ層210、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220)を有するIII族窒化物半導体膜200を有し、動作電圧が安定したIII族窒化物半導体デバイスを効率よく製造することができる。
【0044】
III族窒化物半導体膜200をデバイス化する方法は、特に制限はないが、たとえば、III族窒化物半導体膜200のp型GaNコンタクト層270上に絶縁膜300を形成し、絶縁膜300に開口部を形成し、絶縁膜300の開口部上にp側電極400bを形成することにより行なわれる。また、III族窒化物基板10の主面10n上にn側電極400aを形成する。
【0045】
絶縁膜300としては、SiO2膜、Si34膜などが形成される。また、絶縁膜300を形成する方法は、特に制限はなく、スパッタ法、CVD(化学気相成長)法などが好適である。また、絶縁膜300に開口部を形成する方法は、特に制限はなく、ドライエッチング法、ウェットエッチング法などが好適である。
【0046】
p側電極400bとしては、Au電極、Pd電極などが形成される。n側電極400aとしては、Al電極、Ti電極などが形成される。また、p側電極400bおよびn側電極400aを形成する方法は、蒸着法、スパッタ法、CVD法などが好適である。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
1.III族窒化物基板の準備
図3を参照して、主面10mが(0001)面10cに対してm軸(<10−10>方向軸)方向に75°のオフ角θを有する(20−21)面である半極性主面を有するGaN基板(III族窒化物基板10)を準備した。
【0048】
2.III族窒化物半導体膜の形成
GaN基板(III族窒化物基板10)の主面10m上に、MOVPE法により複数層のIII族窒化物半導体層を成長させて、III族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体膜200を形成した。III族元素原料となる原料ガスとしてTMG(トリメチルガリウム)ガス、TMA(トリメチルアルミニウム)ガス、TMI(トリメチルインジウム)ガスを用いた。また、窒素原料となる原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガスを用いた。n型導電性を決定するドーパントとしての酸素原料となるNH3(アンモニア)ガス中の水分(具体的には、水蒸気)を用いた。p型導電性を決定するドーパントとしてのMg(マグネシウム)原料となるCP2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた。詳しくは、以下のようにして、複数層のIII族窒化物半導体層を成長させた。
【0049】
まず、MOVPE装置内に、GaN基板(III族窒化物基板10)をその主面10mが露出するように配置した。MOVPE装置内にNH3(アンモニア)ガスとH2(水素)ガスとの混合ガスを供給して、雰囲気温度を1050℃として10分間保持することにより、GaN基板(III族窒化物基板10)の主面10mを前処理(サーマルクリーニング)した。
【0050】
次に、III族元素原料、窒素原料、n型導電性を決定するドーパントとしての酸素原料、およびp型導電性を決定するドーパントとしてのMg原料となる原料ガスを用いて、1050℃の雰囲気温度で厚さ100nmのn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220を成長させ、次いで、雰囲気温度を840℃にして、厚さ100nmのアンドープのIn0.03Ga0.97N光ガイド層230a、厚さ3nmのアンドープのIn0.2Ga0.8N井戸層と厚さ1nmのアンドープのGaN障壁層とで構成される3周期の量子井戸構造を有する活性層240、厚さ100nmのアンドープのIn0.03Ga0.97N光ガイド層230bを成長させ、次いで、雰囲気温度を1000℃として、厚さ10nmのp型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、厚さ100nmのp型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260、厚さ100nmのp型GaNコンタクト層270を成長させた。
【0051】
こうして成長された上記の複数層のIII族窒化物半導体層(すなわち、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220、In0.03Ga0.97N光ガイド層230a、活性層240、In0.03Ga0.97N光ガイド層230b、p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260およびp型GaNコンタクト層270)は、いずれもそれらの主面が、X線回折法により測定したところ、III族窒化物基板10の主面10mと同様に、(20−21)面であった。
【0052】
ここで、上記の複数層のIII族窒化物半導体層に含まれるドーパントとしての酸素の原料となるNH3(アンモニア)ガス中の水分(具体的には、水蒸気)の濃度を調節するために、NH3ガスの供給装置とMOVPE装置との間にNH3ガスの精製装置を設けた。かかるNH3ガスの精製装置を用いて、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の成長中には水分(水蒸気)濃度が1ppmのNH3ガスを供給し、それ以外のIII族窒化物半導体層の成長中には水分(水蒸気)濃度が測定限界である1ppbより低濃度のNH3ガスを供給した。ここで、NH3ガス中の水分(水蒸気)濃度は、分光法により測定した。
【0053】
上記のようにして得られたn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の酸素の濃度は1×1019cm-3であり、それ以外のIII族窒化物半導体層の酸素の濃度は測定限界である2×1016cm-3より低濃度であった。ここで、III族窒化物半導体層の酸素の濃度は、SIMS法により測定した。
【0054】
3.III族窒化物半導体膜のデバイス化
次に、p型GaNコンタクト層270上に、スパッタ法により、絶縁膜300として厚さ100nmのSiO2膜を形成し、次いで、ドライエッチング法により、絶縁膜300の直径10μmの開口部を設けた。次いで、絶縁膜300の開口部上に、蒸着法により、p側電極400bとして直径50μmのAu電極を形成した。次いで、GaN基板(III族窒化物基板10)の主面10n上に、蒸着法により、n側電極400aとしてAl電極を形成した。こうして、半導体デバイスとして、レーザダイオードLD1が作製された。
【0055】
上記の方法により、10回連続して上記のIII族窒化物半導体膜200を形成させて、半導体デバイスとして、10個のレーザダイオードLD1を作製した。
【0056】
上記のようにして作製された10個のレーザダイオードLD1について、レーザ発振が始まる閾値電圧は、I−V法により測定したところ、4.5V±0.1Vと、バラツキが小さかった。
【0057】
(比較例1)
MOVPE法によるn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の成長中に酸素原料となる水分(水蒸気)とケイ素原料となるSiH4(シラン)ガスとを供給して、酸素の濃度が5×1018cm-3でケイ素の濃度が5×1018cm-3のn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220を成長させたこと以外は、実施例1と同様にして、10個のレーザダイオードを作製した。こうして作製された10個のレーザダイオードについて、レーザ発振が始まる閾値電圧は、5.0V±0.5Vと、バラツキが大きかった。
【0058】
(実施例2)
図4を参照して、主面10mが(0001)面10cに対してm軸(<10−10>方向軸)方向に90°のオフ角θを有する(10−10)面である無極性主面を有するGaN基板(III族窒化物基板10)を準備し、かかるGaN基板(III族窒化物基板10)を用いて、MOVPE法により酸素の濃度が2×1019cm-3のn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220を成長させたこと以外は、実施例1と同様にして、半導体デバイスとして10個のレーザダイオードLD2を作製した。
【0059】
こうして作製された半導体デバイス(レーザダイオードLD2)の複数層のIII族窒化物半導体層(すなわち、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220、In0.03Ga0.97N光ガイド層230a、活性層240、In0.03Ga0.97N光ガイド層230b、p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260およびp型GaNコンタクト層270)は、いずれもそれらの主面が、GaN基板(III族窒化物基板10)の主面10mと同様に、(10−10)面であった。
【0060】
こうして作製された10個のレーザダイオードLD2について、レーザ発振が始まる閾値電圧は、4.4V±0.2Vと、バラツキが小さかった。
【0061】
(比較例2)
MOVPE法によるn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220の成長中に酸素原料となる水分(水蒸気)とケイ素原料となるSiH4(シラン)ガスとを供給して、酸素の濃度が1×1019cm-3でケイ素の濃度が1×1019cm-3のn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220を成長させたこと以外は、実施例2と同様にして、10個のレーザダイオードを作製した。こうして作製された10個のレーザダイオードについて、レーザ発振が始まる閾値電圧は、5.2V±0.5Vと、バラツキが大きかった。
【0062】
(実施例3)
図5を参照して、GaN基板(III族窒化物基板10)の主面10mを前処理(サーマルクリーニング)した後、MOVPE法により1050℃の雰囲気温度で厚さ100nmのn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220を成長させる前に、MOVPE法により水分(水蒸気)濃度が2ppmのNH3ガスを用いて1050℃の雰囲気温度で酸素の濃度が2×1019cm-3の厚さ100nmのn型GaNバッファ層210を成長させたこと以外は、実施例1と同様にして、半導体デバイスとして10個のレーザダイオードLD3を作製した。
【0063】
こうして作製された半導体デバイス(レーザダイオードLD3)の複数層のIII族窒化物半導体層(すなわち、n型GaNバッファ層210、n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220、In0.03Ga0.97N光ガイド層230a、活性層240、In0.03Ga0.97N光ガイド層230b、p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層250、p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層260およびp型GaNコンタクト層270)は、いずれもそれらの主面が、GaN基板(III族窒化物基板10)の主面10mと同様に、(10−10)面であった。
【0064】
こうして作製された10個のレーザダイオードLD2について、レーザ発振が始まる閾値電圧は、4.4V±0.1Vと、バラツキが小さかった。
【0065】
(比較例3)
MOVPE法によるn型GaNバッファ層210とn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220との成長中に酸素原料となる水分(水蒸気)とケイ素原料となるSiH4(シラン)ガスとを供給して、酸素の濃度が1×1019cm-3でケイ素の濃度が1×1019cm-3のn型GaNバッファ層210と酸素の濃度が5×1018cm-3でケイ素の濃度が5×1018cm-3のn型Al0.04Ga0.96Nクラッド層220とを成長させたこと以外は、実施例3と同様にして、10個のレーザダイオードを作製した。こうして作製された10個のレーザダイオードについて、レーザ発振が始まる閾値電圧は、4.6V±0.5Vと、バラツキが大きかった。
【0066】
実施例1〜3および比較例1〜3から明らかなように、主面が(0001)面に対して0°より大きく180°より小さいオフ角を有し、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層を少なくとも1層含むIII族窒化物半導体膜を含む半導体デバイスは、主面が(0001)面に対して0°より大きく180°より小さいオフ角θを有し、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素およびケイ素(酸素以外の元素)であるIII族窒化物半導体層を少なくとも1層含むIII族窒化物半導体膜を含む半導体デバイスに比べて、レーザ発振が始まる閾値電圧のバラツキを低減することができた。
【0067】
また、実施例1および3に示すような半極性(オフ角θが0°<θ<90°または90°<θ<180°)の主面を有するIII族窒化物基板を含む半導体デバイスであっても、実施例2に示すような無極性(オフ角θが90°)の主面を有するIII族窒化物基板を含む半導体デバイスであっても、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層を少なくとも1層含むIII族窒化物半導体膜を含む半導体デバイスは、レーザ発振が始まる閾値電圧のバラツキを低減することができた。
【0068】
また、実施例3に示すような主面が(0001)面に対して0°より大きく180°より小さいオフ角を有し、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層を複数層含むIII族窒化物半導体膜を含む半導体デバイスであっても、レーザ発振が始まる閾値電圧のバラツキを低減することができた。
【0069】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
10 III族窒化物基板、10c,20c,200c (0001)面、10m,10n,20m,21m,22m,210m,220m 主面、20,200 III族窒化物半導体膜、21,22 III族窒化物層、210 n型GaNバッファ層、220 n型Al0.04Ga0.96Nクラッド層、230a,230b In0.03Ga0.97N光ガイド層、240 活性層、250 p型Al0.12Ga0.88N電子ブロック層、260 p型Al0.06Ga0.94Nクラッド層、270 p型GaNコンタクト層、300 絶縁膜、400a n側電極、400b p側電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面が(0001)面に対して0°より大きく180°より小さいオフ角を有し、n型導電性を実質的に決定するドーパントが酸素であるIII族窒化物半導体層を少なくとも1層含むIII族窒化物半導体膜。
【請求項2】
前記ドーパントである酸素の濃度が1×1019cm-3以上である請求項1に記載のIII族窒化物半導体膜。
【請求項3】
複数層の前記III族窒化物半導体層を含み、ひとつの前記III族窒化物半導体層の酸素の濃度と、それ以外の前記III族窒化物半導体層の酸素の濃度とが異なる請求項1または請求項2に記載のIII族窒化物半導体膜。
【請求項4】
請求項1に記載のIII族窒化物半導体膜の製造方法であって、
前記III族窒化物半導体層の成長の際に、原料ガスの水分濃度により前記III族窒化物半導体層の酸素の濃度を調節するIII族窒化物半導体膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のIII族窒化物半導体膜を含むIII族窒化物半導体デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法であって、
前記III族窒化物半導体層の成長の際に、原料ガスの水分濃度により前記III族窒化物半導体層の酸素の濃度を調節するIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−4897(P2013−4897A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137270(P2011−137270)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】