説明

MIS積層構造体の作製方法およびMIS積層構造体

【課題】コスト低減の図れるスイッチング素子の基本構造であるMIS積層構造体およびそれらの作製方法を提供する。
【解決手段】支持基板上に、少なくとも半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、および導電性酸化物材料層〔M〕(照射するレーザ光を吸収し、薄膜の少なくとも一部がアモルファス相である導電性酸化物材料層)を順次成膜してMIS積層構成体を形成する成膜工程(a)と、集光した状態のレーザ光を前記導電性酸化物材料層側から照射して該導電性酸化物材料層の一部を熱変化させると共に、MIS積層構成体内部に伝播した熱により前記半導体材料層の一部を熱変化させる熱処理工程(b)と、前記MIS積層構成体の熱変化していない部分をエッチング処理で除去するエッチング処理工程(c)とによりMIS積層構造体を作製し、これに電極を設けてスイッチング素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光発光素子やメモリ素子に接続されて電荷移動を制御するスイッチング素子の基本構造であるMIS積層構造体およびそれらの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受光発光素子には、薄膜トランジスタなどからなるスィッチング素子が電荷移動を制御するために接続されるが、近年、このようなスィッチング素子の半導体材料として、有機半導体を適用する技術開発が非常に進展している。すなわち、有機半導体をスィッチング素子の半導体材料として採用することによって素子作製時に、インクジェットプリンティングプロセス、スピンコーティングプロセス、印刷プロセスなどのウェット系の低温プロセスが採用でき、プロセスのコスト低減化が可能になると同時に、プラスチック基板化が図れ、さらにデバイスのフレキシブル化も期待できる。
【0003】
一方、電荷移動度など有機半導体材料の半導体特性は現状において十分とは言えず、例えば、非特許文献1や特許文献1に記載されているように、低温プロセスで形成可能な無機半導体材料の開発も盛んに行われている。
無機半導体材料を半導体層とするスィッチング素子の作製法としては、特許文献2に記載されているウェットエッチングとドライエッチング処理を併用して各層をパターン化する方法や、特許文献3に記載されているウェットエッチング処理のみにより作製する方法が採用されている。
上記何れの方法においても、フォトリソグラフィーによりレジストマスクを形成する工程は必須である。
【0004】
従来のフォトリソグラフィーとエッチング処理による薄膜トランジスタの作製方法を図1に示す。図1はトップゲート型薄膜トランジスタの構造例を示す概略断面図である。
図1において、101は半導体薄膜のフォトリソグラフィー工程を示す。半導体薄膜1011上にフォトレジスト(レジスト)1012を塗布し、フォトリソグラフィー1013にてパターン化したフォトレジストをエッチングマスク1014で覆って、半導体薄膜を加工する。102はソース・ドレイン電極のフォトリソグラフィー工程、103はゲート絶縁膜のフォトリソグラフィー工程、104はゲート電極のフォトリソグラフィー工程を示す。
すなわち、従来の作製方法により、図1の105に示すような薄膜トランジスタの基本構造を作製する場合には、4回のフォトリソグラフィー工程が必要である。プロセスコストは、フォトマスク枚数、および工程数に応じて増加する。従って、いかにフォトリソグラフィーの回数を低減できるかが、デバイスの低コスト化の課題になる。また、プラスチック基板上の無機半導体材料を加工する際に、ドライエッチング法を採用した場合、樹脂基板材料へのプラズマダメージを回避する方法も課題になる。
【0005】
【特許文献1】特開2007−194628号公報
【特許文献2】特開2002−116714号公報
【特許文献3】特開2007−123700号公報
【非特許文献1】Nature、Vol.432(2004)488
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであり、製造プロセスを簡略化でき、素子の微細化にも有利で従来技術よりもコスト低減が図れ、電荷移動制御の可能なスイッチング素子の基本構造であるMIS積層構造体、およびその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の〔1〕〜〔7〕に記載する発明によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0008】
〔1〕:上記課題は、レーザ光の照射とエッチング処理を用いて、半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、導電性酸化物材料層〔M〕からなるMIS積層構造体を作製する方法であって、支持基板上に、少なくとも半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、および導電性酸化物材料層〔M〕として、照射するレーザ光を吸収し、薄膜の少なくとも一部がアモルファス相である材料を順次成膜してMIS積層構成体を形成する成膜工程(a)と、集光した状態のレーザ光を前記導電性酸化物材料層側から照射して該導電性酸化物材料層の一部を熱変化させると共に、MIS積層構成体内部に伝播した熱により前記半導体材料層の一部を熱変化させる熱処理工程(b)と、前記MIS積層構成体の熱変化していない部分をエッチング処理により除去するエッチング処理工程(c)と、を含むことを特徴とするMIS積層構造体の作製方法により解決される。
【0009】
〔2〕:上記〔1〕に記載のMIS積層構造体の作製方法において、前記熱処理工程では、レーザ光の波長が360〜420nmの範囲にある半導体レーザを用いることを特徴とする。
【0010】
〔3〕:上記〔1〕または〔2〕に記載のMIS積層構造体の作製方法において、前記エッチング処理工程では、湿式エッチング法を用いることを特徴とする。
【0011】
〔4〕:上記課題は、〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の方法で作製したMIS積層構造体であって、支持基板上に、少なくとも半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、および導電性酸化物材料層〔M〕が順次成膜されたMIS積層構成体を有することを特徴とするMIS積層構造体により解決される。
【0012】
〔5〕:上記〔4〕に記載のMIS積層構造体において、前記半導体材料層〔S〕として、In23、SnO2、およびZnOから選ばれる材料を含むことを特徴とする。
【0013】
〔6〕:上記〔4〕または〔5〕に記載のMIS積層構造体において、前記MIS積層構造体の加工部形状が略円形もしくは長円形であることを特徴とする。
【0014】
〔7〕:上記〔4〕乃至〔6〕のいずれかに記載のMIS積層構造体において、前記MIS積層構造体の形成された下面に位置する支持基板の表面に凸部が形成されて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のMIS積層構造体の作製方法によれば、支持基板上に設けられた、半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、および導電性酸化物材料層〔M〕からなるMIS積層構成体に、レーザを照射して加熱により導電性酸化物材料層と半導体材料層を熱変化(結晶化)させ、その熱変化部分と非変化部分とのエッチング選択性を利用したエッチング処理により、前記MIS積層構造体を形成することができる。すなわち、従来のフォトリソグラフィーの手法を用いることなく、熱処理とエッチング処理のみの簡便なプロセスにより、スイッチング素子の基本構造であるMIS積層構造体を作製することができる。製造プロセスの簡略化によってコストの低減化が図れると共に、微細で規則的なMIS積層構造体が形成される。
例えば、従来のフォトリソグラフィーを用いる場合、通常、4枚のフォトマスクを用いて4回のフォトリソグラフィー工程が必要であるが、本発明の方法を用いることにより、フォトマスクが不要になる。
本発明のMIS積層構造体によれば、集光したレーザ光を用いて加工するため、MIS積層構成からなる構造体、および電極の端部がレーザビーム形状に倣い曲線状(円形)になり、角がとれた形状となることから、素子上に保護膜などを積層した際に素子端部での応力集中を防ぐことができ、素子の安定動作につながるといった形状的な特長を有している。また、微細で規則的な素子構成とされるため、安定したスイッチング動作が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
前述のように本発明におけるMIS積層構造体の作製方法は、レーザ光の照射とエッチング処理を用いて、半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、導電性酸化物材料層〔M〕からなるMIS積層構造体を作製する方法であって、支持基板上に、少なくとも半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、および導電性酸化物材料層〔M〕として、照射するレーザ光を吸収し、薄膜の少なくとも一部がアモルファス相である材料を順次成膜してMIS積層構成体を形成する成膜工程(a)と、集光した状態のレーザ光を前記導電性酸化物材料層側から照射して該導電性酸化物材料層の一部を熱変化させると共に、MIS積層構成体内部に伝播した熱により前記半導体材料層の一部を熱変化させる熱処理工程(b)と、前記MIS積層構成体の熱変化していない部分をエッチング処理により除去するエッチング処理工程(c)と、を含むことを特徴とするものである。
【0017】
以下、図面をもとに本発明を説明する。
図4(41)は支持基板上に形成されたMIS積層構成体から、MIS積層構造体を形成する本発明の作製方法を示す模式図である。
図4(41)において、符号401は成膜工程(a)を示す。
符号4011は支持基板を示す。支持基板4011の材料としては、ガラス、石英、シリコンなどを用いることができる。また、プラスチック基板を用いることもできる。プラスチック材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)などを用いることができる。
【0018】
符号4012は半導体材料層〔S〕(Semiconductor)を示す。半導体材料層を成す材料としては、酸溶液でエッチング除去できる材料を用いる。酸化亜鉛(ZnO)や酸化錫(SnO2)などの酸化物材料を用いることができる。また、酸化亜鉛(ZnO)に、In23および/またはGa23など他の金属酸化物を含有させてもよい。例えば、InGaZnO(In23:Ga23:ZnO=1:1:1)を用いても構わない。成膜にはスパッタリング法を用いることができ、膜厚としては20〜200nmの範囲に設定するのが好ましい。
符号4013は絶縁材料層〔I〕(Insulator)を示す。絶縁材料としては、ZnS、SiO2、SiON、Si34、もしくは前記材料の混合物から選ばれる薄膜を用いることができる。例えば、硫化亜鉛と酸化シリコンを混合した絶縁材料(ZnS−SiO2)を用いてもよい。成膜にはスパッタリング法を用いることができ、膜厚としては5〜50nmの範囲に設定するのが好ましい。
【0019】
符号4014は導電性酸化物材料層〔M〕(Metal)を示す。導電性酸化物材料としては、In23、SnO2、In23−SnO2(ITO)などを用いることができる。また、これら導電性酸化物材料にAl、Ga、Znなどの金属元素を添加した材料でも構わない。成膜にはスパッタリング法を用いることができ、膜厚としては50〜200nmの範囲に設定するのが好ましい。
【0020】
一般に導電性酸化物材料をスパッタリング法で成膜する場合、化学量論組成からの酸素の抜けを補うため、アルゴンガスに酸素ガスを添加した雰囲気中で成膜する反応性スパッタ法が用いられる。ところが、本実施形態では、化学量論組成に対して酸素量が少ない状態(酸素欠損の状態)の導電性酸化物材料層を形成するため、好ましくは、酸素ガスを添加せずアルゴンガスのみの雰囲気で成膜する。酸素欠損がある状態の導電性酸化物材料層とすることで透過率が低下し、前記〔1〕(請求項1)に示すように光の吸収能が増加する。導電性酸化物薄膜の透過率は測定波長400nmにおいて10〜30%の範囲にあることが好ましい。前記導電性酸化物材料、In23、SnO2、In23−SnO2(ITO)などは、スパッタ成膜における雰囲気ガスをアルゴンのみとすることで、簡便に透過率が制御できる材料であり、本発明によるレーザ照射加熱を利用する加工法には敵する材料である。
【0021】
以上のように、図4(401)に示す成膜工程では、半導体材料層(4012)、絶縁材料層(4013)、前記導電性酸化物材料層(4014)を順次積層(例えば、連続成膜して積層)し、MIS積層構成体を作製する。
【0022】
図4(41)において、符号402はレーザ照射工程(b)を示す。
レーザ照射工程(b)では、集光されたレーザ光(ビーム)を前記導電性酸化物材料層側からパワーレベルを変調させて照射し、導電性酸化物材料層〔M〕の一部を熱変化させると共に、MIS積層構成体内部に伝播した熱により前記半導体材料層〔S〕の一部を熱変化させる。レーザ光源には、波長360〜420nmの青色レーザを用いる。対物レンズの開口数(NA)としては0.65〜0.95が好ましい。符号4021に、レーザ光パワーレベルの変調タイミング(変調パターンの例)を示す。レーザ光パワーレベルは、MIS積層構造体の形状を形成する位置のタイミングで変調する。
【0023】
図5に、本発明のレーザ光照射工程で用いられるレーザ照射装置(サンプル設置ステージ:X方向に走査、光学ピックアップ:Y方向に走査)の概念図を示す。
図5において、符号501はレーザ光源を示す。レーザ光源には、半導体レーザを用いることが好ましい。半導体レーザは、駆動電流の外部制御によりパワーレベルを高速変調することができる。また、比較的安価な対物レンズであっても光の回折限界付近まで集光することができ、容易に微細なレーザ光スポットが形成できる。これにより、微細な領域(レーザ照射部位)において導電性酸化物材料を熱変化させることができ、熱処理工程を有効に実施することができる。
【0024】
符号502はサンプルを示し、符号503はサンプルを設置するステージを示す。符号504は光学ピックアップを設置するステージを示す。サンプル設置ステージ(503)は、X方向に走査でき、X方向に走査する速度は、例えば、0.1〜1m/secの範囲で可変できるものである。光学ピックアップを設置するステージは、Y方向に走査でき、Y方向に送る分解能は数nm程度である。
【0025】
また、サンプル設置ステージを回転させ、光学ピックアップ設置ステージをX方向に走査させることにより、レーザ照射しても構わない。図9にレーザ照射装置(サンプル設置ステージ:θ方向に回転、光学ピックアップ:X方向に走査)の概念図を示す。
図9において、符号901はレーザ光源を示す。レーザ光源には、前記X−Y走査によるレーザ照射装置と同じものを用いることができる。902は対物レンズを示し、903は集光されたレーザ光を示す。符号904は光学ピックアップを設置するステージを示す。ピックアップ設置ステージはX方向に走査できる。符号905はサンプルを示し、符号906はサンプルを設置するステージを示す。サンプル設置ステージ(906)は、θ方向に回転動作することができる。回転速度は、例えば、0.1〜10m/secの範囲で可変できるものである。ピックアップ設置ステージ(904)のX走査と、サンプル設置ステージ(906)のθ走査を組合せことによって、サンプル面全面に対してらせん状にレーザ照射することができる。
【0026】
以上のように、2軸のステージ走査によって、レーザ光をX−Yの所定位置に対して走査する方法、および、レーザ光をX−θの所定位置に対して走査する方法によって、図4(41)の符号4021に示したパワーレベルの変調によりMIS積層構成体を熱変化、すなわち、導電材料層の一部を熱変化させると共に、MIS積層構成体内部に伝播した熱により前記半導体材料層の一部を熱変化させる。
【0027】
前記図4(41)の符号403は、MIS積層構成体の熱変化されていない部分をエッチング処理により除去してMIS積層構造体を形成するエッチング処理工程(c)を示す。エッチング処理工程(c)においては、簡便な湿式エッチング法を用いることができる。
符号4031のエッチング溶液としては、塩酸溶液(HCl+H2O)、硝酸溶液(HNO3+H2O)、シュウ酸溶液((COOH)2+H2O)、フッ化水素酸相溶液(HF+H2O)などの酸系水溶液を用いることができる。これらの酸溶液の混合溶液を用いても構わない。エッチング溶液は、導電性酸化物材料の種類や結晶状態によって選択する。処理は室温(加熱しない状態)で行ってもよく、溶液を数十℃に加熱した状態で行ってもよい。
【0028】
本発明のMIS積層構造体の作製方法においては、前述のようにエッチング処理工程(c)により、MIS積層構成体の熱変化されていない部分を湿式エッチングにより除去してMIS積層構造体を形成する。図4(404)に湿式エッチング(ウェットエッチング)処理後のMIS積層構造体の形状を示す。図4(404)において、符号4041はMIS積層構造体を側面から見た断面形状を示し、符号4042はMIS積層構造体を上面から見た断面形状を示す。
符号40411は支持基板、符号40412は半導体材料層、符号40413は絶縁材料層、符号40414は導電性酸化物材料層を示し、MIS積層構成になっている。各構成材料としては前述の材料等が用いられる。
【0029】
符号40412に示す半導体材料層の加工サイズは、符号40414に示す導電性酸化物からなる導電材料層のサイズよりも大きなサイズになっている。
また、集光したレーザ光照射によって形成することから、符号40414に示す導電性酸化物からなる構造体の形状は円形(もしくは楕円形)、符号40412に示す半導体材料からなる構造体の形状は楕円形もしくは端部が曲線である形状となっている。つまり、前記MIS積層構造体の加工部形状が略円形もしくは長円形である。
【0030】
符号40421は構造体の幅を示し、例えば、0.3μm〜1μmの範囲にある。符号40422は半導体材料領域の長さを示し、例えば、0.5μm〜5μmの範囲にある。符号40423は、導電性酸化物領域および絶縁性材料領域の長さを示し、例えば、0.1μm〜2μmの範囲にある。MIS積層構造体をもとにスィッチング素子を形成する場合、符号40423の長さがゲート長に対応する。符号40415は構造体の高さを示し、例えば、100〜500nmの範囲にある。
【0031】
上記本発明におけるMIS積層構造体の作製方法の原理を表1にまとめる。
【0032】
【表1】

【0033】
表1において、符号101はMIS積層構造体の形状の特徴を示す。符号1011に示すようにMIS積層構造体は導電材料(導電性酸化物材料層)〔M〕[上層M:導電性酸化物材料(Metal)]、絶縁材料層〔I〕[中層I:絶縁材料(Insulator)]、半導体材料層〔S〕[下層S:半導体材料(Semiconductor)]の積層構造をとる。
表1に記載の符号1012は形状の特徴を示す。MIS積層構成において、上層に位置する導電性酸化物材料層と絶縁材料層とで構成されるゲート領域よりも、下層に位置する半導体材料層の領域は大きい。表1の欄外に記載した素子構造体断面(1013)に示すように、半導体層領域には、ソース電極とドレイン電極のコンタクト領域を設ける必要があるためである。
【0034】
表1の符号102には、MIS積層構造体の作製方法における特性を示す。符号1021はMIS積層構成材料(酸化物積層構成)を示す。符号1022はレーザ光の吸収能の違いを示す。前記〔1〕(請求項1)に示すように、MIS積層構成の上層に酸素欠損によって透過率が低下した状態の導電性酸化物材料層を配置することによって、レーザ照射とエッチング処理による簡便な方法で、スイッチング素子の基本構造であるMIS積層からなる構造体を形成することができる。
【0035】
表1において、符号1023はレーザ光照射工程における各構成層の蓄熱状態の違いを示す。本発明のスイッチング素子構造体の作製方法においては、前述のように、レーザ光照射により、導電材料層の一部を熱変化させると共に、MIS積層構成体内部に伝播する熱により前記半導体材料層の一部を熱変化させる。つまり、MIS積層構成体は積層構成であることから、レーザ光照射側の上層よりも下層に熱が籠もりやすい。このため、レーザ照射による発熱は下層に蓄熱されて半導体材料層の一部を熱変化させる。符号1024はエッチング溶液に対する選択性を示す。ウェットエッチング処理の酸溶液に対して、上層の導電材料層と下層の半導体材料には選択性が生じる材料を用い、絶縁材料には選択性が生じない材料を用いる。
【0036】
符号1025は加工形状を示す。図4(41)、図4(404)で示したように、上層の導電性酸化物材料層と下層の半導体材料層の熱変化部分は凸形状でパターン化できる。この際に、蓄熱および熱拡散によって下層の半導体材料層の熱変化領域は拡がり、パターン化領域は上層よりも下層の半導体材料層が大きくなり、いわゆる拡張する。また、中層の絶縁性材料層はエッチング選択性を持たない材料であることから、上層の導電性材料層がエッチングマスクとなり、導電性材料層パターンと同じサイズで加工できる。その結果、符号1013の断面図に示すようなMIS積層構成からなる構造体を、一回のレーザ照射とウェットエッチング処理によって作製することができる。
【0037】
図6の概略断面図に、MIS積層構造体の形成された下面に位置する支持基板の表面に凸部が形成された構造体の形状を示す。
図6において、符号60はMIS積層構造体の断面形状であり、符号61はレーザ照射工程におけるレーザ光パワーレベルの変調のタイミングを示す。
MIS積層構造体(60)における符号601はプラスチック材料(ポリカーボネート)からなる支持基板である。符号6011はポリカーボネート基板表面に形成された凸部を示す。符号6012は凸部の高さを示す。凸部の高さは10〜50nmである。
符号602はレーザ光照射工程とエッチング処理工程によりパターン化された半導体材料層であり、半導体材料は先に記載した材料と同様のものが用いられている。符号603は、前記プロセスでパターン化された絶縁材料層であり、絶縁材料としては、先に記載した材料と同様のものが用いられている。符号604は前記プロセスでパターン化された導電性酸化物材料層であり、導電性酸化物材料としては、先に記載した材料と同様のものが用いられている。
【0038】
図6のレーザ光パワーレベル変調タイミング(61)において、符号611はレーザパワーレベルの変調波形である。レーザ光パワーレベルを3水準で変調した。すなわち、低レベル(6111)、中レベル(6112)、高レベル(6113)の3水準である。
図6に示すように、MIS積層構成からなる素子構造体を形成する際に、構造体の中心位置のタイミングで高パワーレベル(6113)のレーザ光を照射する。その結果、MIS積層構成体の内部に伝播した熱によって、構造体中心に位置するプラスチック基板表面を凸形状に変形することができる。すなわち、プラスチック基板上にMIS積層構成からなる素子構造体を形成する場合には、レーザ光パワーレベルの照射条件によって図6の符号6011に示すようにプラスチック基板表面に凸形状(6011)を有するスイッチング素子構造体とすることができ、従来のフォトリソグラフィーを用いた加工方法とは異なる形状とすることができる。
【0039】
次に、MIS積層構造体をもとにスイッチング素子を製造する方法について説明する。
前記MIS積層構造体上に、導電性酸化物材料層〔M2〕を成膜する積層工程(d)と、レーザ光を前記導電性酸化物材料層〔M2〕側から照射して該M2の一部を熱変化させるレーザ光照射工程(e)と、前記導電性酸化物材料層〔M2〕の熱変化していない部分を湿式エッチングにより除去して電極(ソース電極、ドレイン電極等)を形成するエッチング処理工程(f)とを含んでなる作製方法により、スイッチング素子を好ましく作製することができる。なお、電極の形成法は、これに限られるものではなく、例えば、通常のフォトリソグラフィーとエッチング処理のプロセスや、インクジェットプリンティングのプロセスを用いて、ソース・ドレイン電極を形成し、スィッチング素子の構造を作製することができる。
【0040】
図7(42)はMIS積層構造体上に電極(ソース電極、ドレイン電極)を形成してスイッチング素子とする本発明の作製方法を示す模式図である。
図7(42)において、符号405は導電性酸化物材料層〔M2〕を成膜する積層工程(d)を示す。符号4051は、導電性酸化物材料層〔M〕(Metal)を示す。
導電性酸化物材料としては、MIS積層構造体の導電材料層〔M〕と同様に、In23、SnO2、およびZnOから選ばれる材料を含有するものが好ましく用いられる。例えば、In23−SnO2(ITO)、In23−SnO2−ZnO(IZO)などを用いることができる。成膜にはスパッタリング法を用いることができ、膜厚は、50〜200nmの範囲に設定するのが好ましい。また、前記導電性酸化物材料層を成す酸化物材料として、酸素欠損状態のIn23−SnO2(ITO)が好ましく用いられる。スイッチング素子構造体の導電材料層〔M〕と同じように、化学量論組成に対して酸素量が少ない状態(酸素欠損状態)の導電性酸化物材料層を形成するためには、成膜雰囲気はアルゴンガスのみの条件でスパッタリングが行われるのが好ましい。
【0041】
図7(42)の符号406は、レーザ光照射工程(e)を示す。
レーザ照射工程(e)では、集光されたレーザ光(ビーム)を導電材料層〔M2〕側からパワーレベルを変調させて照射し、導電材料層〔M2〕の一部を熱変質させる。前述のスイッチング素子構造体の形成におけるレーザ光照射工程(b)と同様のレーザ光源を用いる。
図7(42)における符号4061は、積層工程(d)で導電性酸化物材料層〔M2〕が成膜された構造体の上方視(上面図)である。
符号4062は、構造体を上方から見た場合のレーザ光の走査方向を示す。符号4063には、レーザ光パワーレベルの変調のタイミングを示す。レーザ光パワーレベルは、ソース電極、ドレイン電極を形成する位置のタイミングで変調する(例えば、2段階)。前述のスイッチング素子構造体の形成において説明したのと同様のレーザ照射装置(図5)を用いることができる。つまり、レーザ光をX−Yの所定位置に対して走査し、図7の符号(4063)に示したパワーレベルの変調によりソース電極、ドレイン電極とする導電性酸化物を熱変化(熱変質)させる。
【0042】
図7(42)における符号407は導電性酸化物材料層〔M2〕の熱変化していない部分を湿式エッチングにより除去して電極(ソース電極、ドレイン電極)を形成するエッチング処理工程[ウェットエッチング処理工程](f)を示す。エッチング処理工程(f)における湿式エッチングにはエッチング溶液として酸溶液が好ましく用いられる。
前述のスイッチング素子構造体のエッチング処理工程(c)と同様に、符号4071のエッチング溶液としては、塩酸溶液(HCl+H2O)、硝酸溶液(HNO3+H2O)、シュウ酸溶液((COOH)2+H2O)、フッ化水素酸相溶液(HF+H2O)などの酸系水溶液を用いることができる。これらの酸溶液の混合溶液を用いても構わない。エッチング溶液は、導電性酸化物材料の種類や結晶状態によって選択する。処理は室温(加熱しない状態)で行ってもよく、溶液を数十℃に加熱した状態で行ってもよい。
以上のような作製方法により、MIS積層構造体にソース電極およびドレイン電極を形成することができる。
【0043】
図7(408)の断面図に、MIS積層構造体にソース電極とドレイン電極を形成した状態を示す。
図7(408)において、符号4081はスイッチング素子の側面形状を示す断面図であり、符号4082はスイッチング素子の上面形状を示す断面図である。
符号40811は導電性酸化物材料よりなる電極(ソース電極、ドレイン電極)を示す。導電性酸化物材料は、前述したMIS積層構造体における材料と同様である。ソース電極、ドレイン電極は半導体領域(40412)に接して形成されている。また、集光したレーザ光照射によって形成することから、前記図4(404)で示したように端部は曲線形状(円弧を有する形状)になっている。符号40821は、ソース電極とドレイン電極の幅を示し、例えば、0.5μm〜2μmの範囲にある。符号40812はソース電極とドレイン電極の高さを示し、例えば、100nm〜500nmの範囲にあり、前記図4(404)で示したMIS積層構成体の高さ(40415)にほぼ一致した高さになっている。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制約を受けるものではない。
【0045】
(参考例1)
実施例に先だって、基板上に半導体材料層を単層構成で設け、これにレーザ光を照射した後、湿式エッチング(ウエットエッチング)処理を施して所定の構造パターンの形成を試みた。図3にプロセスを示す。
図3において、符号311はサンプル構成およびレーザ照射の様子を示す。符号3111はポリカーボネート基板、符号3112はInGaZnO薄膜を示す。InGaZnO薄膜はスパッタリング法で成膜した。膜厚は100nmである。成膜温度は室温(基板加熱をしない状態)であり、成膜雰囲気はアルゴン(Ar)である。符号3113はレーザ光パワーレベルの変調のタイミングを示す。
レーザ光として、波長405nmのレーザ光を照射した。レーザ光照射後にウェットエッチング処理を行った。エッチング溶液には塩酸水溶液(HCl+H2O)を用いた。塩酸水溶液の混合比率はHCl(3.5wt%)であり、エッチング処理は室温、つまり加熱しない状態で行った。エッチング後の状態を符号313に記載したように、InGaZnO薄膜全面がエッチング除去されてしまった。すなわち、InGaZnO薄膜は光吸収能が低いため、レーザ光を照射していても熱変化(例えば、結晶化等の熱変質)しない。このため、レーザ照射部分と、非照射部分とでエッチング選択性が生じず、サンプル全面がエッチング除去されてしまい、所定の構造パターンの形成はできなかった。
【0046】
(実施例1)
図8の模式図に示す工程によりMIS積層構造体を作製した。(参考例1)に示したように、InGaZnO薄膜のみの場合は、レーザ照射とウェットエッチング処理による加工はできないが、MIS積層構成とすることによって、InGaZnO薄膜を含む積層構成の加工が可能になる。
図8において、MIS積層構成体は、ポリカーボネート基板[支持基板](3211)上に、InGaZnO(In23:Ga23:ZnO=1:1:1)薄膜[半導体材料層](3212)、ZnSとSiO2の混合(ZnS−SiO2)薄膜[絶縁材料層](3213)、In23−SnO2(ITO)薄膜[導電性酸化物材料層](3214)を順次積層して形成した。各層は、スパッタリング法で成膜した。成膜温度は室温(基板加熱をしない状態)であり、成膜雰囲気はアルゴン(Ar)である。各層の膜厚は、InGaZnO薄膜が50nm、ZnS−SiO2薄膜が30nm、ITO薄膜が100nmである。
前記〔1〕(請求項1)に示すように、上記層構成において導電性酸化物層であるITO薄膜(3214)の状態に特徴がある。
【0047】
まず、ITO薄膜の状態について説明する。図10には、ITO薄膜の成膜条件による透過率の変化を示す。ITO薄膜の成膜は、DCスパッタリング法を用い、スパッタリングターゲットとして、複合酸化物の状態であるIn23−SnO2(ITO)ターゲットを用い、基板温度を室温(基板加熱しない状態)にして成膜した。ターゲット材の組成比(重量比wt%)は、In23(95wt%)−SnO2(5wt%)である。ITO薄膜の膜厚は150nmである。成膜圧力は0.8Pa(パスカル)に設定した。雰囲気ガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用いて、ArとO2の比率を変化させて、数種類のITO薄膜作製し透過率を測定した。測定には、紫外可視分光光度計(島津製作所社製 UV-2500(PC)SGLP)を用いた。
図10において、横軸はArとO2の混合比率を、酸素流量比[O2流量/(O2+Ar流量)](%)で示している。縦軸は透過率(%)を示す。透過率は波長250〜800nmの範囲で測定し、そのうち、図10には波長400nmにおける透過率の値を示している。図示したように、波長400nmにおける透過率は、酸素流量比が小さくなると低下する。酸素流量比=0%、つまり、酸素ガスを添加せずArガスのみの雰囲気で成膜したITO薄膜の透過率は22%であった。酸素流量比を下げることによる透過率の低下は、ITO薄膜からの酸素のヌケ(酸素欠損)による。酸素欠損状態とは、ITO薄膜の場合、本来の組成比はIn23−SnO2であるが、In2−SnOとすると、酸化物の価数x、yは、x<3、y<2のように酸素が化学量論組成よりも少ない状態の部分が薄膜の少なくとも一部に存在している状態を示す。波長400nmにおける透過率を10〜30%にすることで、レーザ光の吸収能を上げて、後記するように、レーザ光照射によって薄膜が発熱し熱で変化する状態とする。スパッタ成膜における酸素流量比の制御で簡便に透過率を下げられる限界が10%であるため、透過率の下限は10%に設定している。また、透過率が30%よりも高くなると、レーザ光照射によって導電性酸化物薄膜を熱変化させるために、非常に高いエネルギーが必要になり、高価なレーザ照射装置が必要になる。安価な半導体レーザが採用できなくなる。また、前記〔1〕(請求項1)に記載するように、ITO薄膜の結晶状態は、少なくとも薄膜の一部がアモルファス相である。
【0048】
次に、上記のような状態のITO薄膜を最上層に積層したMIS積層構成の加工方法を図8をもとに示す。レーザ照射とエッチング処理により前記MIS積層構成を凸形状の構造体に加工した。
図8の符号321はサンプル構成およびレーザ照射の様子を示す。符号3215はレーザ光パワーレベルの変調のタイミングを示す。レーザ光のパワーレベルは3水準で変調した。図8に示すように、低レベル2mW、中レベル8mW、高レベル14mWの3水準である。
また、符号322はウェットエッチング処理であり、図3で示したのと同じようにエッチング溶液には塩酸水溶液(HCl+H2O)を用いた。塩酸水溶液の混合比率はHCl(3.5wt%)であり、エッチング処理は室温、つまり加熱しない状態で行った。
図8の符号323はウェットエッチング処理後のサンプルの状態を示す。積層構成の最上層に位置するITO薄膜(3214)は、レーザ光の吸収により発熱する。その発熱によってITO薄膜(3214)の一部が熱変化すると共に、熱が下層に位置するInGaZnO薄膜(3212)にも伝播してInGaZnO薄膜の一部が熱変化(結晶化)する。熱変化(結晶化)の様子を図11に示す。
【0049】
図11は、前記MIS積層構成のX線回折測定結果である。X線回折測定結果をもとに、MIS積層構成の結晶状態を説明する。MIS積層構成は、図8の321に示す層構成であり、InGaZnO薄膜(3212)、ZnS−SiO薄膜(3213)、ITO薄膜(3214)の積層構成である。測定には、X線回折装置(フィリップス社製 X’Pert MRD)を用いた。X線源にはCukα線を用い、加速電圧は45keV、電流値は40mAに設定した。図11において、1101は成膜状態のMIS積層構成のX線回折プロファイルであり、1102は凸形状に加工した後のMIS積層構造体のX線回折プロファイルである。1102に示す加工後の回折パターンは、X線照射領域内に多数個の構造体が含まれる状態で測定した結果である。成膜後(1101)は、30°付近にITO薄膜の(222)面に対応する小さな回折ピークとアモルファス相からのブロードなピークが観測され、MIS積層構成は、結晶相とアモルファス相が混在した状態であることを示す。一方、凸形状に加工した後のMIS積層構造体のX線回折プロファイル(1102)には、ITO薄膜の(222)面、(400)面、(440)面、(622)面に対応するシャープな回折ピークが観測され、多結晶状態のMIS構造体が形成されていることを示す。
【0050】
以上のように、ウェットエッチング処理によって、ITO薄膜(3214)の熱変化部分は、レーザ光非照射部分よりもエッチング速度が低下するため、エッチングされずに凸形状の構造体に加工できる。凸形状に加工されたITOからなる構造体がエッチングマスクとなり、下層のZnS−SiO2(3212)もエッチングされずに残留する。最下層に位置するInGaZnO薄膜(3212)も同様に、レーザ照射部分と非照射部分とのエッチング選択性が生じて凸形状の構造体に加工できる。
【0051】
符号3231は、加工後の状態をサンプル上方から観察した走査型電子顕微鏡写真である(SEM像)。SEM像において、明コントラストで観測される小さな円形(3234)がITOからなる構造パターンであり、その下層に大きな長円形で見える部分(3232)がInGaZnOからなる構造パターンである。そのほかの暗コントラスト部分はポリカーボネート基板の表面である。つまり、上層のITO薄膜での発熱が下層では拡がること、および積層構成であるために下層では熱が籠もりやすい状態にあることから、InGaZnO薄膜の熱変化(熱変質)領域が拡がり、上層のITOの構造パターンよりも下層のInGaZnOの構造パターンが大きなサイズで形成されている。
【0052】
以上のように、レーザ照射加熱による材料の熱変化(熱変質)と、その熱変化部分と非変化部分とのエッチング選択性を利用したウェットエッチング処理により、フォトリソグラフィーを用いずにMIS積層構成体を加工することができ、スイッチング素子構造体が作製される。本発明によれば、参考例1では凸形状の構造パターンに加工できなかったInGaZnOからなる半導体材料層も良好に所定の構造パターンとして形成が可能になる。
【0053】
(実施例2)
前述の図7(42)に示すプロセスに準じて、実施例1で作製したMIS積層構造体上に、導電性酸化物材料層〔M2〕として、ITO薄膜(4051)を形成した。ITO薄膜はスパッタリング法により形成し、酸素欠損状態とするために、成膜雰囲気をアルゴンガスのみの条件とした。ITO薄膜の膜厚は150nmである。
形成したITO薄膜〔M2〕側から図7(42)の符号4063のようにパワーレベルを変調させてレーザ光を照射し、ITO薄膜〔M2〕の一部を熱変化させた。次いで、ITO薄膜〔M2〕の熱変化していない部分を湿式エッチングにより除去してソース電極とドレイン電極を形成した。なお、エッチング溶液には、実施例1において用いたのと同様、塩酸水溶液(HCl+H2O)を用いた。塩酸水溶液の混合比率はHCl(3.5wt%)であり、エッチング処理は室温、つまり加熱しない状態で行った。ソース電極、ドレイン電極は半導体領域に接して形成されていた。形状は、図7(42)の符号408に示されているのと同様に端部が曲線形状、いわゆる円弧を有する形状になっていた。
【0054】
本発明によれば、レーザ照射による熱処理とエッチング処理のみの簡便なプロセスにより、スイッチング素子の基本構造であるMIS積層構造体の作製、および前記構造体に電極(ソース電極、ドレイン電極)を形成してなるスイッチング素子の作製が実施でき、製造プロセスの簡略化によってコストの低減化が図れる。集光したレーザ光をMIS積層構成体に照射し、エッチング処理により加工するため、微細で規則的なMIS積層構造体が形成されて信頼性の高い素子が安定して作製できる。
また、本発明によるMIS積層構造体およびその作製方法は、スイッチング素子に限定されるものではなく、光センサーなどの受光素子の光電変換部として用いることもできる。本作製方法によれば、微細で規則的なMIS積層構造体が形成できることから、高分解能であるセンサーの実現が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】従来のフォトリソグラフィーとエッチング処理によるトップゲート型薄膜トランジスタの製造工程を示す工程フローである。
【図2】実施例1で形成されたMIS積層構成のX線回折プロファイルである。
【図3】参考例1において、基板上に半導体材料層を単層構成で設けてレーザ光照射とウエットエッチング処理を施した場合の様子を示す説明図である。
【図4】本発明においてMIS積層構成体からMIS積層構造体を形成する工程を示す模式図(41)と湿式エッチング処理後の素子構造体の断面図(404)である。
【図5】本発明のレーザ光照射工程で用いられるレーザ照射装置(サンプル設置ステージ:X方向に走査、光学ピックアップ:Y方向に走査)の概念図である。
【図6】本発明においてMIS積層構造体の形成された下面に位置する支持基板表面に凸部が形成された構造体の形状を示す概略断面図である。
【図7】本発明においてMIS積層構造体上に電極を形成する工程を示す模式図(42)とMIS積層構造体に電極を形成した状態を示す断面図(408)である。
【図8】実施例1のMIS積層構造体の作製において適用した工程を示す模式図である。
【図9】本発明のレーザ光照射工程で用いられるレーザ照射装置(サンプル設置ステージ:θ方向に回転、光学ピックアップ:X方向に走査)の概念図である。
【図10】実施例1で測定したITO薄膜の波長400nmにおける透過率と酸素流量比[O2流量/(O2+Ar流量)](%)との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
(図1の符号)
101 半導体薄膜のフォトリソグラフィー工程
1011 半導体薄膜
1012 フォトレジスト
1013 フォトリソグラフィー
1014 エッチングマスク
102 ソース・ドレイン電極のフォトリソグラフィー工程
1021 ソース、ドレイン電極薄膜
1022 フォトレジスト
1023 フォトリソグラフィー工程
103 ゲート絶縁膜のフォトリソグラフィー工程
1031 ゲート絶縁膜
1032 フォトレジスト
1033 フォトリソグラフィー工程
104 ゲート電極のフォトリソグラフィー工程
1041 ゲート電極薄膜
1042 フォトレジスト
1043 フォトリソグラフィー工程
105 薄膜トランジスタ構造
1051 支持基板
1052 半導体薄膜
1053 ゲート絶縁膜
1054 ソース電極
1055 ドレイン電極
1056 ゲート電極
(図2の符号)
1101 成膜状態のMIS積層構成のX線回折プロファイル
1102 凸形状に加工した後のMIS積層構造体のX線回折プロファイル
(図3の符号)
311 サンプル構成およびレーザ照射の様子
3111 ポリカーボネート基板
3112 InGaZnO薄膜
3113 レーザ光パワーレベルの変調タイミング
312 ウェットエッチング処理
313 エッチング後の状態
(図4の符号)
41 MIS積層構成作製方法
401 成膜工程(a)
4011 支持基板
4012 半導体材料層〔S〕(Semiconductor)
4013 絶縁材料層〔I〕(Insulator)
4014 導電性酸化物材料層〔M〕(Metal)
402 レーザ照射工程(b)
4021 レーザ光パワーレベルの変調タイミング(変調パターンの例)
403 エッチング処理工程[ウェットエッチング処理工程](c)
4031 エッチング溶液
404 ウェットエッチング処理後のスィッチング素子構造体の形状
4041 スイッチング素子構造体を側面から見た断面形状
4042 スイッチング素子構造体を上面から見た断面形状
40412 半導体材料層
40413 絶縁材料層
40414 導電性酸化物材料層
(図5の符号)
501 レーザ光源
502 サンプル
503 サンプルを設置するステージ
504 光学ピックアップを設置するステージ
(図6の符号)
60 MIS積層構造体
601 支持基板
6011 ポリカーボネート基板表面に形成された凸部
6012 凸部の高さ
602 半導体材料層
603 絶縁材料層
604 導電材料層
61 レーザ光パワーレベルの変調のタイミング
611 レーザパワーレベルの変調波形
6111 レーザ光パワー(低レベル)
6112 レーザ光パワー(中レベル)
6113 レーザ光パワー(高レベル)
(図7の符号)
42 ソース、ドレイン電極作製方法
405 導電材料層〔M2〕を成膜する積層工程(d)
4051 酸化物からなる導電材料層〔M〕(Metal)
406 レーザ光照射工程(e)
4061 構造体の上方視(上面図)
4062 レーザ光の走査方向
4063 レーザ光パワーレベルの変調のタイミング
407 ウェットエッチング処理工程(f)
4071 エッチング溶液
408 スイッチング素子構造体にソース電極とドレイン電極を形成した状態
4081 スィッチング素子の側面形状を示す断面図
4082 スィッチング素子の上面形状を示す断面図
40811 導電性酸化物よりなる電極
40412 少なくとも酸化亜鉛を含有する半導体材料層
40413 絶縁材料層
40414 酸化物(導電性酸化物)からなる導電材料層
(図8の符号)
321 レーザ光照射工程
3211 ポリカーボネート基板[支持基板]
3212 InGaZnO(In:Ga:ZnO=1:1:1)薄膜[半
導体材料層]
3213 ZnSとSiOの混合薄膜[絶縁材料層]
3214 In−SnO(ITO)薄膜[導電材料層]
3215 レーザ光パワーレベル変調タイミング
322 ウェットエッチング処理
323 ウェットエッチング処理後のサンプルの状態
3231 SEM像
3232 凸形状InGaZnOパターン
(図9の符号)
901 レーザ光源
902 対物レンズ
903 レーザ光
904 ピックアップ設置ステージ
905 サンプル
906 サンプル設置ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の照射とエッチング処理を用いて、半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、導電性酸化物材料層〔M〕からなるMIS積層構造体を作製する方法であって、支持基板上に、少なくとも半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、および導電性酸化物材料層〔M〕として、照射するレーザ光を吸収し、薄膜の少なくとも一部がアモルファス相である材料を順次成膜してMIS積層構成体を形成する成膜工程(a)と、集光した状態のレーザ光を前記導電性酸化物材料層側から照射して該導電性酸化物材料層の一部を熱変化させると共に、MIS積層構成体内部に伝播した熱により前記半導体材料層の一部を熱変化させる熱処理工程(b)と、前記MIS積層構成体の熱変化していない部分をエッチング処理により除去するエッチング処理工程(c)と、を含むことを特徴とするMIS積層構造体の作製方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、レーザ光の波長が60〜420nmの範囲にある半導体レーザを用いることを特徴とする請求項1に記載のMIS積層構造体の作製方法。
【請求項3】
前記エッチング処理工程では、湿式エッチング法を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のMIS積層構造体の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法で作製したMIS積層構造体であって、支持基板上に、少なくとも半導体材料層〔S〕、絶縁材料層〔I〕、および導電性酸化物材料層〔M〕が順次成膜されたMIS積層構成体を有することを特徴とするMIS積層構造体。
【請求項5】
前記半導体材料層〔S〕として、In23、SnO2、およびZnOから選ばれる材料を含むことを特徴とする請求項4に記載のMIS積層構造体。
【請求項6】
前記MIS積層構造体の加工部形状が略円形もしくは長円形であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のMIS積層構造体。
【請求項7】
前記MIS積層構造体の形成された下面に位置する支持基板の表面に凸部が形成されて成ることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載のMIS積層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−50428(P2010−50428A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316867(P2008−316867)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】