エンジンの燃料噴射制御装置
【課題】吸気ポートに燃料噴射弁を備えると共に、吸気弁の開特性を可変制御する機構を備えた機関において、可変動弁機構の動作による吸入空気量の変化に応じ、目標空燃比の混合気形成に必要な燃料を噴射可能とする。
【解決手段】燃料噴射弁により第1噴射量を噴射する第1噴射と、前記第1噴射の後であって吸気行程の後期に前記燃料噴射弁により第2噴射量を噴射する第2噴射とを行う。ここで、第2噴射量の演算タイミングが、第1噴射量の演算タイミングにおける可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期を基準に設定され、前記閉時期に対する、第2噴射量の演算タイミングにおける可変動弁機構の制御量に基づく吸気バルブの閉時期の変化率、及び、第1噴射量の演算タイミングにおける可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量と、前記第2噴射量の演算タイミングにおける可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量との偏差に基づき、第2噴射量を設定する。
【解決手段】燃料噴射弁により第1噴射量を噴射する第1噴射と、前記第1噴射の後であって吸気行程の後期に前記燃料噴射弁により第2噴射量を噴射する第2噴射とを行う。ここで、第2噴射量の演算タイミングが、第1噴射量の演算タイミングにおける可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期を基準に設定され、前記閉時期に対する、第2噴射量の演算タイミングにおける可変動弁機構の制御量に基づく吸気バルブの閉時期の変化率、及び、第1噴射量の演算タイミングにおける可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量と、前記第2噴射量の演算タイミングにおける可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量との偏差に基づき、第2噴射量を設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンの燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、吸気バルブの上流側の吸気通路内に燃料を噴射する吸気通路内噴射弁と、筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射弁と、吸気バルブのリフト量及び/又はバルブタイミングを変更する可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、吸気バルブのリフト量が小さくなるほど、及び/又は、吸気バルブの開弁時期が吸気上死点後から遅くなるほど、総燃料噴射量に対する吸気通路内噴射弁からの燃料噴射量の比率を低くし、総燃料噴射量に対する筒内噴射弁からの燃料噴射量の比率を高くする制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−248883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、可変動弁機構によって吸気バルブの開特性を連続的に変更することでシリンダ吸入空気量を制御する場合、過渡運転時には、吸気バルブが開き始めてからも吸気バルブの開特性(バルブリフト量)が徐々に変化するので、吸気バルブの閉時期になった時点で、その吸気行程でのシリンダ吸入空気量が確定することになる。
しかし、混合気の均質度を高めるためには、早い時期に燃料を噴射することが要求され、吸気通路内に燃料を噴射する噴射弁による噴射タイミングは、例えば、排気行程(吸気バルブの開弁前)から吸気行程の前期(吸気バルブの開弁直後)に設定されている。
【0005】
このため、シリンダ吸入空気量が最終的に決まるタイミングと、燃料噴射量を決定するタイミングとには大きなずれがあり、燃料噴射量を決定した後に可変動弁機構が動作して吸気バルブの開特性が変化すると、燃料噴射量を適合させたシリンダ吸入空気量と、実際のシリンダ吸入空気量とに差が生じ、実際の空燃比が目標空燃比からずれてしまう。
そして、エンジンの過渡運転時に、実際の空燃比が目標空燃比からずれると、排気性状の悪化や動力性能の低下などが生じるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、可変動弁機構の動作による吸入空気量の変化に応じて、目標空燃比の混合気形成に必要な燃料を噴射させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、本発明に係るエンジンの燃料噴射制御装置は、
吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、
前記燃料噴射弁により第1噴射量を噴射する第1噴射と、前記第1噴射の後であって吸気行程の後期に前記燃料噴射弁により第2噴射量を噴射する第2噴射とを行い、
前記第2噴射量を、前記第1噴射量の演算後の前記可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変化分に基づいて補正する燃料噴射制御装置であって、
前記第2噴射量の演算タイミングが、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期を基準に設定され、
前記閉時期に対する、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期の変化率、及び、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量と、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量との偏差に基づき、前記第2噴射量を設定するようにした。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によると、第1噴射で噴射される燃料によって混合気の均質化を図りつつ、可変動弁機構によって吸気バルブの開特性が変更される過渡運転状態において、シリンダ吸入空気量に対して燃料噴射量の過不足が生じて、実際の空燃比が目標空燃比からずれてしまうことを抑制でき、過渡運転時における排気性状及び動力性能を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態におけるエンジンの構成図。
【図2】本発明の実施形態における可変バルブリフト機構VELの断面図(図3のA−A断面図)。
【図3】上記可変バルブリフト機構VELの側面図。
【図4】上記可変バルブリフト機構VELの平面図。
【図5】上記可変バルブリフト機構VELに使用される偏心カムを示す斜視図。
【図6】上記可変バルブリフト機構VELの低リフト時の作用を示す断面図(図3のB−B断面図)。
【図7】上記可変バルブリフト機構VELの高リフト時の作用を示す断面図(図3のB−B断面図)。
【図8】上記可変バルブリフト機構VELにおける揺動カムの基端面とカム面に対応したバルブリフト特性図。
【図9】上記可変バルブリフト機構VELのバルブタイミングとバルブリフトの特性図。
【図10】上記可変バルブリフト機構VELにおける制御軸の回転駆動機構を示す斜視図。
【図11】本発明の実施形態における可変バルブタイミング機構(VTC)114の断面図。
【図12】本発明の実施形態における吸入空気量(トルク)制御の全体構成を示すブロック図。
【図13】本発明の実施形態における可変バルブリフト機構VELの目標作動角の演算を示すブロック図。
【図14】本発明の実施形態において吸気バルブの閉弁タイミングに応じてVEL目標作動角を補正するバルブタイミング補正値KHOSIVCの設定を示すブロック図。
【図15】本発明の本実施形態において吸気バルブ上流側の吸気圧に応じてVEL目標作動角を補正するバルブ上流圧補正値KMANIPの設定を示す図。
【図16】本発明の実施形態における目標スロットル開度演算を示すブロック図。
【図17】本発明の実施形態における吸気バルブ開度補正値KAVELの設定を示すブロック図。
【図18】本発明の実施形態におけるスロットル弁全開時の吸気バルブ通過体積流量比WQH0VEL及び実際の吸気バルブ通過体積流量比RQH0VELの算出を示すブロック図。
【図19】本発明の実施形態における排気行程で行われる第1噴射における第1噴射量Tiの演算を示すフローチャート。
【図20】本発明の実施形態におけるポート壁流補正量の演算を示すフローチャート。
【図21】本発明の実施形態における吸気ポートにおける平衡壁流付着量、エンジン負荷TP、エンジン回転速度NEの相関を示す線図。
【図22】本発明の実施形態において筒内壁流補正基本値を補正する水温係数と水温TWとの相関を示す線図。
【図23】本発明の実施形態において筒内壁流補正基本値を補正するΔTVO係数とスロットルバルブ開度TVOの変化ΔTVOとの相関を示す線図。
【図24】本発明の実施形態における筒内壁流補正量の演算を示すフローチャート。
【図25】本発明の実施形態における筒内における平衡壁流付着量、エンジン負荷TP、エンジン回転速度NEの相関を示す線図。
【図26】本発明の実施形態において筒内壁流補正基本値を補正する始動後時間係数と始動後からの経過時間との相関を示す線図。
【図27】本発明の実施形態における第2噴射の開始タイミングの演算を示すブロック図。
【図28】本発明の実施形態における吸気行程噴射基本分担量Tveldef、エンジン負荷TP、エンジン回転速度NEの相関を示す線図。
【図29】本発明の実施形態における吸気行程で行われる第2噴射における第2噴射量Tintの演算を示すフローチャート。
【図30】本発明の実施形態において補正分Tintbasを補正する補正係数HOSEIと水温TWとの相関を示す線図。
【図31】本発明の実施形態における加速時(バルブリフト量の増大変化時)における噴射量の特性を示す図。
【図32】本発明の実施形態における減速時(バルブリフト量の減少変化時)における噴射量の特性を示す図。
【図33】本発明の実施形態における第1,第2噴射のタイミングと、吸排気バルブのリフト状態との相関を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る燃料噴射制御装置が適用される車両用エンジンを示す。
図1において、エンジン101の吸気管102には、スロットルモータ103aでスロットル弁103bを開閉する電子制御スロットル104が介装されている。
複数気筒からなるエンジン101の各燃焼室106内には、前記電子制御スロットル104及び吸気バルブ105を介して空気が吸入される。
【0011】
また、前記吸気バルブ105上流でかつ電子制御スロットル104下流の吸気管102には、気筒毎に燃料噴射弁121が設けられており、該燃料噴射弁121から噴射される燃料によって、燃焼室106内に混合気が形成される。
尚、前記燃料噴射弁121は、開弁時間(噴射パルス幅)に比例する量の燃料を噴射する。
【0012】
前記燃焼室106内の燃料は、図示省略した点火プラグによる火花点火によって、着火燃焼する。
前記燃焼室106内の燃焼排気は、排気バルブ107を介して排気管123に排出される。
前記排気管123によって燃焼室106内から導出された排気は、触媒コンバータ108及びマフラー109を通過した後に、大気中に放出される。
【0013】
前記排気バルブ107は、排気カム軸110に一体的に設けられたカム111によって、一定のバルブリフト量、バルブ作動角及びバルブタイミングを保って開閉動作する。
一方、前記吸気バルブ105は、可変動弁機構としての可変バルブリフト機構(VEL)112によってバルブリフト量及びバルブ作動角が連続的に変えられるようになっている。
【0014】
また、吸気カム軸113の端部には、クランク軸124に対する吸気カム軸113の回転位相を変化させることで、吸気バルブ105のバルブ作動角の中心位相を連続的に変化させる可変バルブタイミング機構(VTC)114が設けられている。
前記電子制御スロットル104、燃料噴射弁121、可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114は、マイクロコンピュータを内蔵するコントロールユニット(C/U)115によって制御される。
【0015】
前記コントロールユニット(C/U)115には、各種センサからの信号が入力される。
前記各種センサとしては、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)ACCを検出するアクセル開度センサ116、エンジン101の吸入空気量Qaを検出するエアフローメータ(AF/M)117、クランク軸124の回転角信号POSを出力するクランク角センサ118、吸気カム軸113の回転角信号CAMを出力するカム角センサ119、スロットル弁103bの開度TVOを検出するスロットルセンサ120などが設けられている。
【0016】
そして、コントロールユニット(C/U)115は、前記クランク角センサ118及びカム角センサ119の検出信号に基づき、クランク軸124に対する吸気カム軸113の回転位相を検出すると共に、エンジン101の運転状態に応じて前記回転位相の目標値(目標進角値)を設定し、吸気カム軸113の回転位相が前記目標値となるよう可変バルブタイミング機構(VTC)114を制御する。
【0017】
また、コントロールユニット(C/U)115は、アクセル開度ACCに対応する吸入空気量が得られるように、前記電子制御スロットル104及び可変バルブリフト機構(VEL)112を制御する。
具体的には、前記可変バルブリフト機構(VEL)112によりバルブリフト量及びバルブ作動角を制御することで吸入空気量を制御しつつ、目標の吸気管負圧(マニホールド負圧)を発生させるようにスロットル弁103bの開度を制御する。
【0018】
前記吸気管負圧は、燃料タンクにて発生した燃料蒸気を捕集するキャニスタからの燃料蒸気のパージやブローバイガスの処理などに用いられる他、ブレーキ操作力を倍力するマスタバックなどにおいて動力源として使用される。
尚、吸気管負圧の発生要求のない運転条件では、スロットル弁103bを全開に保持して、可変バルブリフト機構(VEL)112のみで吸入空気量を制御する。
【0019】
また、前記可変バルブリフト機構(VEL)112のみでは吸入空気量を目標に制御できない低負荷領域においては、可変バルブリフト機構(VEL)112を制御すると共に、前記スロットル弁103bの開度を絞る制御を行う。
ここで、前記可変バルブリフト機構(VEL)112の構造を説明する。
可変バルブリフト機構(VEL)112は、図2〜図4に示すように、シリンダヘッド11のカム軸受14に回転自在に支持された中空状のカム軸13と、前記カム軸13の上方位置に同じカム軸受14に回転自在に支持された制御軸16とを、各気筒に共通の部品として備える一方、気筒毎の部品として、一対の吸気バルブ105,105と、前記カム軸13に軸支された回転カムである2つの偏心カム15,15と、前記制御軸16に制御カム17を介して揺動自在に支持された一対のロッカアーム18,18と、各吸気バルブ105,105の上端部にバルブリフター19、19を介して配置された一対のそれぞれ独立した揺動カム20,20と、を備えている。
【0020】
前記偏心カム15,15とロッカアーム18,18とは、リンクアーム25,25によって連係され、ロッカアーム18,18と揺動カム20,20とは、リンク部材26,26によって連係されている。
また、前記偏心カム15は、図5に示すように、略リング状を呈し、小径なカム本体15aと、該カム本体15aの外端面に一体に設けられたフランジ部15bとからなり、内部軸方向にカム軸挿通孔15cが貫通形成されていると共に、カム本体15aの軸心Xがカム軸13の軸心Yから所定量だけ偏心している。
【0021】
また、前記偏心カム15は、カム軸13に対し前記バルブリフター19に干渉しない両外側にカム軸挿通孔15cを介して圧入固定されていると共に、カム本体15aの外周面15dが同一のカムプロフィールに形成されている。
前記ロッカアーム18は、図4に示すように、略クランク状に屈曲形成され、中央の基部18aが制御カム17に回転自在に支持されている。
【0022】
また、前記ロッカアーム18の基部18aの外端部に突設された一端部18bには、リンクアーム25の先端部と連結するピン21が圧入されるピン孔18dが貫通形成されている一方、基部18aの内端部に突設された他端部18cには、各リンク部材26の後述する一端部26aと連結するピン28が圧入されるピン孔18eが形成されている。
前記制御カム17は、円筒状を呈し、制御軸16外周に固定されていると共に、図2に示すように、軸心P1が制御軸16の軸心P2から所定量αだけ偏心している。
【0023】
前記揺動カム20は、図2,図6及び図7に示すように、略横U字形状を呈し、略円環状の基端部22にカム軸13が嵌挿されて回転自在に支持される支持孔22aが貫通形成されていると共に、ロッカアーム18の他端部18c側に位置する端部23にピン孔23aが貫通形成されている。
また、前記揺動カム20の下面には、基端部22側の基円面24aと該基円面24aから端部23端縁側に円弧状に延びるカム面24bとが形成されており、該基円面24aとカム面24bとが、揺動カム20の揺動位置に応じて各バルブリフター19の上面の所定位置に当接するようになっている。
【0024】
即ち、図8に示すバルブリフト特性からみると、図2に示すように基円面24aの所定角度範囲θ1がベースサークル区間になり、また、カム面24bの前記ベースサークル区間θ1から所定角度範囲θ2が所謂ランプ区間となり、更に、カム面24bのランプ区間θ2から所定角度範囲θ3がリフト区間になるように設定されている。
前記リンクアーム25は、円環状の基部25aと、該基部25aの外周面の所定位置に突設された突出端25bとを備え、基部25aの中央位置には、前記偏心カム15のカム本体15aの外周面に回転自在に嵌合する嵌合穴25cが形成されている一方、突出端25bには、前記ピン21が回転自在に挿通するピン孔25dが貫通形成されている。
【0025】
前記リンク部材26は、所定長さの直線状に形成され、円形状の両端部26a,26bには、前記ロッカアーム18の他端部18cと揺動カム20の端部23の各ピン孔18d,23aに圧入した各ピン28,29の端部が回転自在に挿通する、ピン挿通孔26c,26dが貫通形成されている。
尚、各ピン21,28,29の一端部には、リンクアーム25やリンク部材26の軸方向の移動を規制するスナップリング30,31,32が設けられている。
【0026】
前記制御軸16は、図10に示すように、一端部に設けられたDCサーボモータ等のアクチュエータ201によって所定の回転角度範囲内で回転駆動されるようになっており、前記制御軸16の角度を前記アクチュエータ201で変化させることで、吸気バルブ105,105のバルブリフト量及びバルブ作動角が連続的に変化する(図9参照)。
即ち、図10において、アクチュエータ(DCサーボモータ)201の回転は、伝達部材202を介してネジ切り加工が施された軸103に伝達され、該軸203が通されたナット204の軸方向位置が変化する。
【0027】
そして、制御軸16の先端に取り付けられ、その一端が前記ナット204に固定された一対のステー部材205a、205bにより制御軸16が回転する。
尚、本実施形態では、図10に示すように、ナット204の位置を前記伝達部材202に近づけることでバルブリフト量が小さくなり、逆に、ナット204の位置を前記伝達部材202から遠ざけることでバルブリフト量が大きくなる。
【0028】
また、前記制御軸16の先端には、該制御軸16の角度(VEL作動角)を検出する作動角センサ206が設けられており、該作動角センサ206で検出される実際の制御軸16の角度が、目標角度(目標VEL作動角)に近づくように、前記コントロールユニット(C/U)115が前記アクチュエータ(DCサーボモータ)201の操作量をフィードバック制御する。
【0029】
図11は、前記可変バルブタイミング機構(VTC)114の構造を示す。
本実施形態における可変バルブタイミング機構(VTC)114は、油圧ベーン式の機構であり、クランク軸124によりタイミングチェーンを介して回転駆動されるカムスプロケット51(タイミングスプロケット)と、吸気カム軸113の端部に固定されてカムスプロケット51内に回転自在に収容された回転部材53と、該回転部材53をカムスプロケット51に対して相対的に回転させる油圧回路54と、カムスプロケット51と回転部材53との相対回転位置を所定位置で選択的にロックするロック機構60とを備えている。
【0030】
前記カムスプロケット51は、外周にタイミングチェーン(又はタイミングベルト)が噛合する歯部を有する回転部(図示省略)と、該回転部の前方に配置されて前記回転部材53を回転自在に収容するハウジング56と、該ハウジング56の前後開口を閉塞するフロントカバー,リアカバー(図示省略)とから構成される。
前記ハウジング56は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面には、横断面が台形状を呈し、それぞれハウジング56の軸方向に沿って設けられる4つの隔壁部63が90°間隔で突設されている。
【0031】
前記回転部材53は、吸気カム軸113の前端部に固定されており、円環状の基部77の外周面に90°間隔で4つのベーン78a,78b,78c,78dが設けられている。
前記第1〜第4ベーン78a〜78dは、それぞれ断面が略逆台形状を呈し、各隔壁部63間の凹部に配置され、前記凹部を回転方向の前後に隔成し、ベーン78a〜78dの両側と各隔壁部63の両側面との間に、進角側油圧室82と遅角側油圧室83を構成する。
【0032】
前記ロック機構60は、ロックピン84が、回転部材53の最大遅角側の回動位置(基準作動状態)において係合孔(図示省略)に係入するようになっている。
前記油圧回路54は、進角側油圧室82に対して油圧を給排する第1油圧通路91と、遅角側油圧室83に対して油圧を給排する第2油圧通路92との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路91,92には、供給通路93とドレン通路94a,94bとがそれぞれ通路切り換え用の電磁切換弁95を介して接続されている。
【0033】
前記供給通路93には、オイルパン96内の油を圧送するエンジン駆動のオイルポンプ97が設けられている一方、ドレン通路94a,94bの下流端がオイルパン96に連通している。
前記第1油圧通路91は、回転部材53の基部77内に略放射状に形成されて各進角側油圧室82に連通する4本の分岐路91dに接続され、第2油圧通路92は、各遅角側油圧室83に開口する4つの油孔92dに接続される。
【0034】
前記電磁切換弁95は、内部のスプール弁体が各油圧通路91,92と供給通路93及びドレン通路94a,94bとを相対的に切り換え制御するようになっている。
前記コントロールユニット(C/U)115は、前記電磁切換弁95を駆動する電磁アクチュエータ99に対する通電量を、オン時間割合を制御するデューティ制御信号に基づいて制御する。
【0035】
例えば、電磁アクチュエータ99にデューティ比0%の制御信号(OFF信号)を出力すると、オイルポンプ47から圧送された作動油は、第2油圧通路92を通って遅角側油圧室83に供給されると共に、進角側油圧室82内の作動油が、第1油圧通路91を通って第1ドレン通路94aからオイルパン96内に排出される。
従って、遅角側油圧室83の内圧が高、進角側油圧室82の内圧が低となって、回転部材53は、ベーン78a〜78bを介して最大遅角側に回転し、この結果、吸気バルブ105の作動角の中心位相が遅角される。
【0036】
一方、電磁アクチュエータ99にデューティ比100%の制御信号(ON信号)を出力すると、作動油は、第1油圧通路91を通って進角側油圧室82内に供給されると共に、遅角側油圧室83内の作動油が第2油圧通路92及び第2ドレン通路94bを通ってオイルパン96に排出され、遅角側油圧室83が低圧になる。
このため、回転部材53は、ベーン78a〜78dを介して進角側へ最大に回転し、これによって、吸気バルブ105の作動角の中心位相が進角される。
【0037】
尚、前記可変バルブタイミング機構(VTC)114は、図11に示した油圧ベーン式の機構に限定されるものではなく、例えば、特開2003−184516号公報に開示される、渦巻き状ガイドに変位可能に案内係合される可動案内部を備えてなる可変バルブタイミング機構や、特開2008−025541号公報に開示される、モータによってカムシャフトを駆動するモータ式の可変バルブタイミング機構や、特開2007−120339号公報に開示されるヘリカルスプラインと電磁ブレーキとの組み合わせからなる電磁ブレーキ式の可変バルブタイミング機構などであっても良い。
【0038】
次に、前記コントロールユニット(C/U)115による吸入空気量制御について説明する。
図12は、前記コントロールユニット(C/U)115による吸入空気量の制御機能の基本構成を示すブロック図であり、この図12に示すように、コントロールユニット(C/U)115は、目標体積流量比演算部a,VEL目標作動角演算部b及び目標スロットル開度演算部cとしての機能を備えている(特開2003−184587号公報参照)。
【0039】
まず、前記目標体積流量比演算部aにおける演算処理について説明する。
前記目標体積流量比演算部aでは、目標トルク相当の目標体積流量比TQH0STを算出する。
具体的には、アクセル開度ACC及びエンジン回転速度NEに対応する、或いは、アクセル開度ACC及びエンジン回転速度NEに基づき設定される目標トルクが得られる要求空気量Q0を算出する一方、アイドル時のエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEに近づけるために要求されるアイドル要求空気量QISCを算出する。
【0040】
尚、エンジン回転速度NEは、前記コントロールユニット(C/U)115が、前記クランク角センサ118からの信号に基づいて算出する。
そして、前記要求空気量Q0に前記アイドル要求空気量QISCを加算して、総要求空気量Q(Q=Q0+QISC)を算出し、前記総要求空気量Qを、エンジン回転速度Ne及び排気量(シリンダ総容積)VOL#で除算することにより、目標体積流量比TQH0STを算出する。
【0041】
式(1)・・・TQH0ST=Q/(Ne・VOL#)
次に、前記VEL目標作動角演算部bにおける演算処理について説明する。
前記VEL目標作動角演算部bでは、前記目標体積流量比TQH0STに基づいて目標バルブ開口面積TVELAAを算出し、更に、前記目標バルブ開口面積TVELAAに基づいて目標VEL作動角TGVELを設定する。
【0042】
図13は、前記VEL目標作動角演算部bの演算機能の詳細を示す。
図13において、A部では、前記目標体積流量比TQH0STと最小体積流量比QH0LMTとを比較して大きい方を選択し、可変バルブリフト機構VEL112で実現すべき体積流量比TQH0VELを設定する。
尚、前記最小体積流量比QH0LMTは、可変バルブリフト機構(VEL)112によって実現可能な最小体積流量比、即ち、最小バルブリフト量のときの体積流量比であり、a1部において、エンジン回転速度NEに基づき、図に示すようなテーブルTQH0LMTを検索することにより、エンジン回転速度NEが高いほどより大きな値に算出される。
【0043】
B部では、前記体積流量比TQH0VELを、図に示すようなテーブルTVACDNVに基づいてバルブ開口面積AV相当の状態量VACDNVに変換する。
ここで、VACDNV=AV・Cd/N/Vであり、AVはバルブ開口面積、Cdは損失係数、Nは回転速度、Vは排気量を示す。
そして、前記B部において求めた状態量VACDNVに対し、C部においてはエンジン回転速度NEを、D部においては排気量VOL#を乗算することで、要求バルブ開口面積TVELAA0を算出する。
【0044】
即ち、前記要求バルブ開口面積TVELAA0は、TVELAA0=Av・Cdである。
E部では、前記要求バルブ開口面積TVELAA0を、吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCに応じた補正値KHOSIVCで除算し、要求バルブ開口面積TVELAA1を算出する。
【0045】
これは、吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCを進角させると有効シリンダ容積が減少し、同じバルブ開口面積であっても体積流量比が減少するため、これに対応させるように前記要求バルブ開口面積TVELAA0を補正するものである。
F部では、E部において算出した要求バルブ開口面積TVELAA1に対し、吸気バルブ105に上流側の吸気管圧に応じて設定される補正値KMANIPを乗算して、要求バルブ開口面積TVELAA2を求める。
【0046】
G部では、F部において算出された要求バルブ開口面積TVELAA2を、エンジン回転速度NEに応じて設定される補正値KHOSNEで除算して、要求バルブ開口面積TVELAAを求める。
前記補正値KHOSNEは、g1部において、エンジン回転速度Neに基づき図に示すようなテーブルTKHOSNEを検索することにより算出され、エンジン回転速度NEが高くなるほど1よりも大きな値に設定される。
【0047】
H部では、前記要求バルブ開口面積TVELAAを、図に示すようなテーブルTTGVEL0を用いて、目標VEL作動角TGVEL0(制御軸16の目標角度)に変換する。
そして、I部では、H部で求めた目標VEL作動角TGVEL0と、最大VEL作動角VELHLMTとを比較し、TGVEL0≧VELHLMTであれば、VELHLMTを目標VEL作動角TGVELとして設定し、TGVEL0<VELHLMTであれば、TGVEL0を目標VEL作動角TGVELとして設定する。
【0048】
前記最大VEL作動角VELHLMTは、i1部において、エンジン回転速度Neに基づき、図に示すようなテーブルTVELHLMTを検索することにより算出する。
前記コントロールユニットC/U115は、実際のVEL作動角VELCOM(実際の制御軸16の角度)が前記目標VEL作動角TGVELとなるように、前記アクチュエータ201の操作量をフィードバック制御する。
【0049】
ここで、図13のE部において用いる補正値KHOSIVCの設定を、図14に基づいて説明する。
図14において、e1部では、前記可変バルブタイミング機構(VTC)114が動作していないとき、即ち、吸気バルブ105の作動角の中心位相が最遅角状態である場合の吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCの角度V0IVCを、そのときの吸気バルブ105のバルブ作動角VSC−ANGLに基づき、図に示すようなテーブルTV0IVCを参照して求める。
【0050】
次に、e2部において、前記閉弁タイミングIVCの角度V0IVCから、前記可変バルブタイミング機構(VTC)114によるそのときの中心位相の進角値VTCNOWを減算することで、実際のIVC角度REALIVCを求める。
そして、e3部において、前記実際のIVC角度REALIVCに基づき、図に示すようなテーブルTKHOSIVCを検索して補正値KHOSIVCを設定し、図13のE部に出力する。
【0051】
次に、図13のF部で用いる補正値KMANIPの設定を、図15に基づいて説明する。
図15のf1部において、補正値KMANIPは、大気圧/目標Boost(例えば、101.3KPa/88KPa)、又は、1.0であり、前記目標体積流量TQH0STが前記最小体積流量比QH0LMT以下の場合、補正値KMANIPとして1.0を出力し、それ以外では、大気圧/目標Boostが、補正値KMANIPとして出力される。
【0052】
次に、前記目標スロットル開度演算部cにおける演算処理を、図16に基づいて説明する。
図16において、J部では、吸気バルブ105の作動特性が基準状態であるときに要求されるスロットル弁の開口面積Atに相当する状態量TADNV0を算出する。
前記作動特性が基準状態である場合とは、吸気バルブ105のバルブリフト量、バルブ作動角、バルブタイミングを固定とし、スロットルバルブ開度でエンジン101の吸入空気量が制御される場合に相当する。
【0053】
前記J部では、前記目標体積流量比TQH0STに基づいて、図に示すような変換テーブルTTADNV0を検索することによりTADNV0を算出する。
尚、前記状態量TADNV0は、スロットル弁開口面積をAt、エンジン回転速度をNe、排気量(シリンダ容積)をVOL#としたときに、TADNV0=At/(Ne・VOL#)で表されるものである。
【0054】
そして、算出したTADNV0に対し、K部においてエンジン回転速度Neを、L部において排気量VOL#を乗算し、吸気バルブ105の作動特性が基準状態であるときのスロットル要求開口面積TVOAA0を算出する。
M部では、算出したスロットル要求開口面積TVOAA0に、実際の吸気バルブ105の作動特性、すなわち、作動特性の変化に応じた補正を行う。
【0055】
具体的には、前記スロットル要求開口面積TVOAAに、実際の吸気バルブ105の作動特性に応じて設定される補正値KAVELを乗算して、目標スロットル開口面積TVOAAを算出する。
N部では、算出した目標スロットル開口面積TAVOAAに基づいて、図に示すような変換テーブルTTDTVOを検索して目標スロットル開度TDTVOを設定する。
【0056】
前記コントロールユニット(C/U)115は、実際のスロットル弁103bの開度TVOが前記目標スロットル開度TDTVOに収束するように、前記電子制御スロットル104の操作量をフィードバック制御する。
ここで、図16のM部で用いる補正値KAVELの設定を、図17に基づいて説明する。
【0057】
図17のm1部において、圧力比Pm’0/Paを、目標体積流量比TQH0STとエンジン回転速度NEに基づいて図に示すようなマップを参照して求める。
尚、Paは大気圧、Pm’0は吸気バルブ105の作動特性が基準状態であるときの吸気マニホールド圧である。
そして、m2部において、前記圧力比Pm’0/Paに基づいて、図に示すテーブルTBLKPA0を検索して係数KPA0を算出する。
【0058】
一方、m3部において、スロットル弁103bの全開時における吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELに、変換定数TPGAIN#を乗算することで、スロットル弁103bの全開時においてシリンダに吸入される空気量TP100を算出する。
また、m4部においては、新気割合ηを、スロットル弁103bが絞られている時の吸気バルブ通過体積流量比RQH0VELとエンジン回転速度NEに基づいて、図に示すようなマップを参照して算出する。
【0059】
m5部では、前記スロットル弁103bの全開時においてシリンダに吸入される空気量TP100に、前記新気割合ηを乗算して、「TP100・η」を算出し、m6部において「TP/(TP100・η)」を算出する。
前記「TP/(TP100・η)」は、可変バルブリフト機構(VEL)112の作動時における圧力比Pm’1/Paを示す。
【0060】
更に、m7部では、可変バルブリフト機構(VEL)112の作動時における圧力比Pm’1/Paに基づいて、図に示すテーブルTKPA1を検索して係数KPA1を算出する。
m8部では、m2部で算出した係数KAP0を、m7部で算出した係数KAP1で除算することで、補正値KAVELを設定し、図16のM部に出力する。
【0061】
次に、吸気バルブ通過体積流量比WQH0VEL及び実体積流量比RQH0VELの算出を、図18のブロック図に基づいて説明する。
m10部では、前記可変バルブリフト機構(VEL)112の制御軸16の作動角VELREAL(制御量)に基づいて、図に示すようなテーブルTAAVEL0を検索して吸気バルブ105の開口面積AAVEL0を算出する。
【0062】
m11部では、図13のG部と同様に、開口面積AAVEL0を、エンジン回転速度Neに応じた補正値KHOSNEで除算して、AAVELを算出する。
そして、算出したAAVELを、m12部においてエンジン回転速度NEで除算し、m13部において排気量(シリンダ容積)VOL#で除算する。
m14部では、図に示すようなテーブルTWH0VEL0を検索して、AAVEL/NE/VOL#を、体積流量比WH0VEL0に変換する。
【0063】
そして、m15部において、図13のE部と同様に、補正値KHOSIVCによる補正を体積流量比WH0VEL0に対して施して、スロットル弁103b全開時の吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELを算出して、図17のm3部へ出力する。
一方、m16部では、m11部で算出したAAVELに、実際の吸気マニホールド圧Pmと大気圧Paの比(Pm/Pa)を乗算して、AAVEL’を算出する。
【0064】
そして、前記AAVEL’を、m17部においてエンジン回転速度Neで除算し、m18部において排気量(シリンダ容積)VOL#で除算する。
m19部では、m14部と同様に、図に示すようなテーブルTRH0VEL0を検索して、AAVEL’/NE/VOL#を体積流量比RH0VEL0に変換する。
そして、m20部において、m15部(図13のE部)と同様に、補正値KHOSIVCによる補正を体積流量比RH0VEL0に対して施して、実体積流量比RQH0VELを算出して、図17のm4部へ出力する。
【0065】
次に、前記コントロールユニット(C/U)115による燃料噴射制御を説明する。
本実施形態における燃料噴射弁121は、吸気バルブ105上流の吸気管102に設けられており、前記燃料噴射弁121による燃料噴射は、各気筒の1サイクル当たり、排気行程中(例えば排気行程の中期)の第1噴射と吸気行程の後期の第2噴射との2回に分けて行われ、排気行程中に噴射された燃料と吸気行程中に噴射された燃料との総和によって、混合気が形成されるようになっている(図33参照)。
【0066】
各気筒における噴射開始タイミングは、クランク角センサ118及びカム角センサ119からの信号に基づいて検出される。
前記排気行程中の第1噴射は、排気行程中に予め設定された噴射開始タイミングになると、燃料噴射量(第1噴射量)Tiを演算し、該燃料噴射量(第1噴射量)Tiに対応するパルス幅の噴射パルスを、噴射開始タイミング(排気行程)である気筒に設けられている燃料噴射弁121に出力することでなされる。
【0067】
前記燃料噴射量(第1噴射量)Tiは、後に詳細に説明するように、基本燃料噴射量Tp,各種補正係数COEF,ポート壁流補正量Tvelp,筒内壁流補正量Tvels,無効噴射パルス分Ts,増減補正分担分Tveli,吸気行程噴射基本分担量Tveldefから、Ti=Tp×COEF+Tvelp+Tvels+Ts+Tveli−Tveldefとして算出される。
ここで、前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefは、吸気行程の後期で実行される第2噴射で噴射させる燃料量の基本値であり、第1噴射のタイミングにおけるシリンダ吸入空気量に対応する燃料量のうち、Tveldefを除いた分を排気行程での第1噴射で噴射させ、残りのTveldefを第2噴射で噴射させ、第1噴射で噴射される第1噴射量とその後の第2噴射で噴射される第2噴射量との総和が、定常時にはシリンダ吸入空気量に見合った量となり、目標空燃比の混合気が形成されるようにする(図33参照)。
【0068】
図19のフローチャートは、排気行程において行われる第1噴射の制御を示す。
この図19のフローチャートに示すルーチンは、予め設定された第1噴射における噴射開始タイミング(噴射開始クランク角度)であることが、クランク角センサ118で検出されたときに、割り込み実行されるようになっている。
前記第1噴射における噴射開始タイミングは、排気行程中の固定の角度位置、又は、エンジン運転状態(エンジン負荷、エンジン回転速度、エンジン温度など)から可変に設定される排気行程中の角度位置とすることができる。
【0069】
前記第1噴射における噴射開始タイミングになって割り込み処理が開始されると、まず、ステップS1001では、第1噴射後の吸気行程の後期で行わせる第2噴射の噴射開始タイミングを決定する。
具体的には、図27に示すように、そのときの可変バルブリフト機構(VEL)112の制御軸16の作動角(VEL角度)から、可変バルブタイミング機構(VTC)114が最遅角に制御されていると仮定したときの吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCを求める。
【0070】
そして、前記閉弁タイミングIVCを、そのときの可変バルブタイミング機構(VTC)114によるカム軸113の回転位相の進角量(VTC角度)で補正することで、そのときの可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態における吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCを求める。
更に、エンジン回転速度NEが高いほど、実際の閉弁タイミングIVCからより進角した角度位置を、第2噴射の開始タイミングとすべく、エンジン回転速度NEに応じた進角補正値で前記実際の閉弁タイミングIVCを進角補正した結果を、第2噴射の開始タイミングとする。
【0071】
前記エンジン回転速度NEに応じた開始タイミングの補正は、エンジン回転速度が高いほど、閉弁タイミングIVCからより進角した角度位置を第2噴射の開始タイミングとすべく設定される。
本実施形態の場合に、吸気バルブ105の上流側に燃料噴射弁121が設けられるから、吸気バルブ105が開弁しているときだけ燃焼室106に燃料を供給でき、しかも、燃料噴射弁121から噴射された燃料が燃焼室106に吸入されるまでには輸送時間を要する。
【0072】
従って、吸気バルブ105の閉弁間際に噴射させた燃料を燃焼室106内に吸引させるためには、吸気バルブ105の閉弁タイミングから前記輸送時間だけ前の時点で燃料を噴射させる必要があり、前記輸送時間に相当する角度は、高回転時ほど大きな角度となる。
そこで、エンジン回転速度NEが高いときほど、噴射開始タイミングを、吸気バルブ105の閉弁タイミングからより進角させるようにしている。
【0073】
上記ステップS1001において、可変バルブリフト機構(VEL)112の制御軸16の作動角と、可変バルブタイミング機構(VTC)114によるカム軸113の回転位相の進角量とから閉弁タイミングを求めると、第1噴射の噴射開始タイミングから前記閉弁タイミングまでの角度IVCANGzを求め記憶する。
尚、前記ステップS1001では、第1噴射タイミングにおける、可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態に基づいて、吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCを求めており、この閉弁タイミングは、第1噴射後における可変バルブリフト機構(VEL)112の動作で変わり得る値である。
【0074】
次のステップS1002では、基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpを演算する。
前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpは、エンジン回転速度NEとエアフローメータ(AF/M)117で検出された吸入空気量Qaと定数Kとを用いて、Tp=Qa/Ne×Kとして算出される。
即ち、前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpは、そのときに計測されたシリンダ吸入空気量に対して、目標空燃比の混合気を形成させるために要求される総燃料量である。
【0075】
ステップS1003では、前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpを補正するための各種補正係数COEFを算出する。
前記各種補正係数COEFは、始動及び始動直後に燃料量を増量するための始動及び始動後増量Kas,低水温(冷機)時に燃料量を増量するための水温増量率Ktw,高負荷高回転運転時に燃料を増量して排気温度の上昇を抑えつつ出力を発生させるための高負荷高回転増量率KMR,高水温時に燃料を増量して排気温度の上昇を抑えるための高水温時増量率KHOTなどに基づき、COEF=Kas+Ktw+KMR+KHOTとして算出される。
【0076】
ステップS1004では、前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpを、ポート壁流量の変化に応じて補正するためのポート壁流補正量Tvelpを算出する。
前記ポート壁流補正量Tvelpの算出は、図20のフローチャートに詳細に示してある。
ステップS2011では、エンジン回転速度NE,エンジン負荷を代表する基本噴射パルス幅(基本燃料噴射量)Tp,水温Tw,スロットルバルブ開度TVO,制御軸16の作動角(バルブリフト量)を入力する。
【0077】
ステップS2012では、前記エンジン回転速度Ne,基本噴射パルス幅Tp,水温Tw,スロットルバルブ開度TVOに基づいて、ポート壁流補正基本値を演算する。
具体的には、図21に示すように、エンジン回転速度NE及び基本噴射パルス幅Tpに対応してポート壁流の平衡付着量を記憶したマップから、アクセル操作前(過渡運転直前)のエンジン回転速度Ne及び基本噴射パルス幅Tpに対応する平衡付着量と、アクセル操作後(過渡運転中)のエンジン回転速度NE及び基本噴射パルス幅Tpに対応する平衡付着量とを検索する。
【0078】
尚、前記ポート壁流の平衡付着量は、低回転高負荷時ほど大きな値に設定される。
そして、基本補正値を、基本補正値=平衡付着量(アクセル操作後)−平衡付着量(アクセル操作前)として算出する。
一方、図22に示すように、水温Twが低いときほど大きな水温補正係数を設定し、更に、図23に示すように、スロットルバルブ開度TVOの単位時間当たりの変化量(変化速度)ΔTVOが大きいときほど大きなΔTVO係数を設定する。
【0079】
そして、ポート壁流補正基本値を、ポート壁流補正基本値=基本補正値×水温補正係数×ΔTVO係数として算出する。
ステップS2013では、前記制御軸16の作動角に応じてVEL補正量を設定する。
本実施形態では、前記制御軸16の作動角が大きいときほど吸気バルブ105のバルブリフト量が大きくなるものとし、前記VEL補正量は、フローチャート中に示すように、バルブリフト量が多くなる制御軸16の作動角が大きいときほど、大きな値に設定される。
【0080】
上記VEL補正量は、バルブリフト量が小さい条件では、吸気バルブ105を通過する吸気の流速が速く、吸気バルブ105付近の吸気ポート壁面に付着している燃料が吸い出され易くなって、ポート付着壁流量が少なくなることに対応している。
ステップS2014では、前記ポート壁流補正量Tvelpを、Tvelp=ポート壁流補正基本値×VEL補正量として算出する。
【0081】
ステップS1005では、前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpを、筒内壁流量の変化に応じて補正するための筒内壁流補正量Tvelsを算出する。
前記筒内壁流補正量Tvelsの算出は、図24のフローチャートに詳細に示してある。
ステップS3021では、エンジン回転速度Ne,エンジン負荷を代表する基本噴射パルス幅(基本燃料噴射量)Tp,水温Tw,スロットルバルブ開度TVO,制御軸16の作動角(バルブリフト量)及び始動後からの経過時間を入力する。
【0082】
ステップS3022では、前記エンジン回転速度Ne,基本噴射パルス幅Tp,水温Tw,スロットルバルブ開度TVO及び始動後からの経過時間に基づいて、筒内壁流補正基本値を演算する。
具体的には、図25に示すように、エンジン回転速度Ne及び基本噴射パルス幅Tpに対応して筒内壁流の平衡付着量を記憶したマップから、アクセル操作前(過渡運転直前)のエンジン回転速度Ne及び基本噴射パルス幅Tpに対応する平衡付着量と、アクセル操作後(過渡運転中)のエンジン回転速度Ne及び基本噴射パルス幅Tpに対応する平衡付着量とを検索する。
【0083】
尚、前記筒内壁流の平衡付着量は、低回転低負荷時ほど大きな値に設定される。
そして、基本補正値を、基本補正値=平衡付着量(アクセル操作後)−平衡付着量(アクセル操作前)として算出する。
一方、図22に示すように、水温Twが低いときほど大きな水温補正係数を設定し、更に、図23に示すように、スロットルバルブ開度TVOの単位時間当たりの変化量(変化速度)ΔTVOが大きいときほど大きなΔTVO係数を設定する。
【0084】
また、始動後からの経過時間に応じて始動後時間係数を設定する。前記始動後時間係数は、図26に示すように、始動からの経過時間が長くなるほどより小さい値に設定される。
そして、筒内壁流補正基本値を、筒内壁流補正基本値=基本補正値×水温補正係数×ΔTVO係数×始動後時間係数として算出する。
【0085】
ステップS3023では、前記制御軸16の作動角に応じてVEL補正量を設定する。
前記VEL補正量は、フローチャート中に示すように、バルブリフト量が大きくなる作動角が大きいときほど、小さな値に設定される。
上記筒内壁流補正基本値の補正に用いられるVEL補正量は、バルブリフト量が小さい条件では、吸気バルブを通過するときの吸気の流れが周辺(吸気バルブ105の径方向)に指向して筒内付着壁流量が多くなることに対応している。
【0086】
ステップS3024では、筒内壁流補正量Tvelsを、Tvels=筒内壁流補正基本値×VEL補正量として算出する。
上記のように、ポート壁流補正量Tvelp,筒内壁流補正量Tvelsの演算において、吸気バルブ105のバルブリフト量に応じた補正を施すことで、バルブリフト量の変化によるポート壁流量及び筒内壁流量の変化に対応して燃料噴射量を適切に補正することができ、過渡時の空燃比制御精度を向上させることができる。
【0087】
ステップS1006では、無効噴射パルス分Tsを算出する。
前記無効噴射パルス分Tsは、前記燃料噴射弁121の電源であるバッテリの電圧による開弁遅れ時間の変化に対応するための補正値であり、バテッリ電圧が低く燃料噴射弁121の開弁遅れ時間が長くなるほど大きな値に設定される。
ステップS1007では、増減補正分担分Tveliを演算する。
【0088】
本実施形態では、後述するように、第1噴射量を演算してからの可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の増減変化分に対応する噴射量の増減補正を、吸気行程後期の第2噴射における第2噴射量に対して施すことで、変化後のシリンダ吸入空気量で目標空燃比の混合気が形成されるようにする。
しかし、第2噴射は、前述のように、吸気行程の後期で噴射されるため、第2噴射で噴射された燃料を吸気行程中に燃焼室106内に均等に分布させることは困難であり、燃焼室106内に均質な混合気を形成させるためには、目標空燃比の混合気形成に必要とされる燃料量のうちのなるべく多くの燃料を、第1噴射で噴射させることが望まれる。
【0089】
そこで、前回の第2噴射において、第1噴射量を演算してからの可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の増減変化分に対応する増減補正分として算出された量のうちの一定割合を、次のサイクルにおける第1噴射で噴射させ、第2噴射で噴射させるべき燃料量を減らすようにしてある。
即ち、前回の第2噴射の噴射開始タイミングで演算した、第1噴射後のシリンダ吸入空気量の変化に対応するための増減補正分Tintbasと、予め設定された比率Ratioとから、前記増減補正分担分Tveliを、Tveli=Tintbas×Ratioとして算出する。
【0090】
前記比率Ratioは、固定値であっても良いし、急加速ほどより大きな値に設定することができる。
前記増減補正分Tintbasについては、後で詳細に説明する。
ステップS1008では、吸気行程噴射基本分担量Tveldefを演算する。
前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefは、エンジン101の定常運転時にも第2噴射で噴射させる第2噴射量の基本値であり、エンジン101の運転状態に応じて設定される。
【0091】
具体的には、図28に示すマップに示すように、前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefは、エンジン回転速度Ne及びエンジン負荷を代表する基本噴射パルス幅(基本燃料噴射量)Tpに応じて予め設定されており、低回転高負荷時ほど大きな値に設定され、低回転低負荷域、中高回転低負荷、高回転中高負荷域では零に設定される。
前記基本分担量Tveldefが零に設定される領域は、一般的に定常運転で使用される運転領域であり、加速されることで、基本分担量Tveldef>0となる運転領域に入るため、実質的には、第1噴射が行われた後にシリンダ吸入空気量が変化することになる場合に、基本分担量Tveldef>0に設定され、第2噴射による噴射量の修正が不要の場合には、第2噴射が行われないことになる。
【0092】
尚、前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefを、加速時と減速時とで異なる値に設定させることができ、具体的には、加速時には、減速時より分担量Tveldefを少なくすることができる。
これは、減速に伴ってシリンダ吸入空気量が減少変化する場合、係る減少変化に対応するために、予め減少代が第2噴射において確保されている必要があるのに対し、加速時には、シリンダ吸入空気量の増大変化に対応して燃料を追加噴射すればよく、分担量Tveldefが零であってもよいためである。
【0093】
第2噴射のタイミングで燃料を減らそうとしても、最大に減らせるのは基本分担量Tveldefに限られ、基本分担量Tveldefが少ないと、第2噴射量を最大に減らしても、既に噴射されている第1噴射量だけで空燃比がリッチ化してしまう可能性があり、減らす量よりも第2噴射量を多くしておく必要がある。
従って、加速/減速運転を判別し、加速時には分担量Tveldefを零或いは最小噴射量程度に設定し、減速時に、固定値(>0)或いはエンジン負荷やエンジン回転速度などに応じた可変値として、加速時よりも大きな分担量Tveldefを設定させることができる。
更に、急減速時ほど分担量Tveldefを多くすることで、第1噴射後のシリンダ吸入空気量の減少変化が大きい場合に、分担量Tveldefを予め多くしておくことができる。
【0094】
前記急減速の判断は、例えばアクセル開度や制御軸16の角速度などのシリンダ吸入空気量の変化速度に相関する状態量に基づいて行わせることができる。
ステップS1009では、上記ステップS1002〜ステップS1008の演算結果に基づいて、燃料噴射量(第1噴射量)Tiを、下式に従って算出する。
式(2)・・・Ti=Tp×COEF+Tvelp+Tvels+Ts+Tveli−Tveldef
ステップS1010では、前記燃料噴射量(第1噴射量)Tiに相当するパルス幅の噴射パルス信号を、第1噴射の開始タイミング(排気行程)である気筒に備えられている燃料噴射弁121に対して出力する。
【0095】
即ち、排気行程中の噴射開始タイミングになったときに、燃料噴射量(第1噴射量)Tiを演算し、かつ、該燃料噴射量(第1噴射量)Tiの噴射を直ちに開始させる。
但し、前記燃料噴射量(第1噴射量)Tiの演算を一定時間毎に繰り返し実行させ、第1噴射タイミングに相当するクランク角になったときに、最新に演算された燃料噴射量(第1噴射量)Tiに基づいて第1噴射を行わせることができる。
【0096】
ステップS1011では、吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELの最新値を、第1噴射時の値WQH0VELzとして記憶する。
尚、前記吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELは、前記制御軸16の角度(可変バルブリフト機構(VEL)112の制御量)に基づいて推定される吸入空気量に相当する。
【0097】
図29のフローチャートに示すルーチンは、吸気行程後期の第2噴射を制御するルーチンであり、前記ステップS1001で演算された第2噴射の噴射開始タイミングになったことが、クランク角センサ118の信号に基づいて検出されたときに、割り込み実行されるようになっている。
そして、第2噴射の開始タイミングになって割り込み処理が開始されると、まず、ステップS1101で、第1噴射の開始タイミング、換言すれば、第1噴射における燃料噴射量(第1噴射量)Tiを決定してからの可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の変化分に対応する噴射量である補正分Tintbasを演算する。
【0098】
定常状態では、第1噴射量を、そのときのシリンダ吸入空気量相当量から基本分担量Tveldefだけ減らした量とし、基本分担量Tveldefだけ第2噴射を行わせることで、第1噴射量と第2噴射量との総和は、そのときのシリンダ吸入空気量に見合った量となる。
しかし、第1噴射量を演算したタイミングから、吸気バルブ105が閉弁するまでの間に、シリンダ吸入空気量を変化させることになる可変バルブリフト機構(VEL)112の動作があった場合、前記基本分担量Tveldefだけ第2噴射を行わせたのでは、前記シリンダ吸入空気量の変化に対応できず、変化した分のシリンダ吸入空気量に見合った分だけ噴射量に誤差を生じる。
【0099】
即ち、第1噴射量を演算してからバルブリフトを変化させる制御が行われた場合、実際にシリンダ吸入空気量がどれだけになるかは、吸気バルブ105が閉じられた時点で確定されることになり、第1噴射時に計測した吸入空気量とは異なる量になり、結果、第1噴射時に判断した要求噴射量では過不足を生じることになってしまう。
そこで、本実施形態では、第1噴射後から吸気バルブ105の閉弁タイミング近傍乃至閉弁タイミング直前まで待って、第1噴射の開始タイミングからのシリンダ吸入空気量の変化を判断し、第1噴射の開始タイミング時点でのシリンダ吸入空気量に対する変化分だけ、第2噴射における第2噴射量を変化させて、実際にシリンダに吸引された空気量に見合う燃料量が、第1噴射量と第2噴射量との総和で得られるようにする。
【0100】
例えば、加速時でバルブリフトが増大方向に変化する場合、第1噴射量を決定してからも制御軸16がリフト増大方向に回転することで、吸気バルブ105の閉弁時点で確定されるシリンダ吸入空気量は、第1噴射量の決定時点でのシリンダ吸入空気量よりも多くなるので、前記シリンダ吸入空気量の増大変化分に相当する補正分Tintbasだけ第2噴射量を増やして、実際のシリンダ吸入空気量に見合う量の燃料が噴射されるようにする。
【0101】
尚、上記の第2噴射は、吸気バルブ105の閉弁直前になされるので、第2噴射で噴射された燃料を燃焼室106内に均等に分布させることは困難であるが、必要噴射量の大部分を排気行程での第1噴射で噴射させるので、吸気ポートの熱を利用して気化させた燃料噴霧を、吸気行程中の空気流動に乗せて、燃焼室106内に略均一に分布させることができ、第1噴射及び第2噴射によって燃焼室106内に形成される混合気を均質混合気にすることができる。
【0102】
前記補正分Tintbasは、前記図18のブロック図に従って演算される吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELを用いて、以下にようにして算出される。
まず、吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELの最新値、換言すれば、第2噴射の開始タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112(可変動弁機構)の制御量から推定されたシリンダ吸入空気量と、第1噴射の開始タイミングにおいて演算された吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELzと、吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCの変化に基づくゲインGAINとに基づいて、第1噴射開始タイミングからのシリンダ吸入空気量の変化量DWQH0VELを算出する。
【0103】
式(3)・・・DWQH0VEL=(WQH0VEL−WQH0VELz)×GAIN
前記ゲインGAINは、GAIN=IVCANG/IVCANGzとして算出される。
ここで、前記角度IVCANGは、前記第1噴射を開始させるクランク角から吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCまでの角度であって、前記IVCANGは、第2噴射の開始タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態に従って予測される閉弁タイミングIVCに基づく値であり、前記IVCANGzは、第1噴射の開始タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態に従って予測される閉弁タイミングIVCに基づく値である。
【0104】
即ち、前記ゲインGAINは、第1噴射の開始タイミングで予測した、換言すれば、第2噴射の開始タイミングの設定基準とした閉弁タイミングに対する、第2噴射の開始タイミングになった時点で予測した閉弁タイミングの割合であり、第1噴射の開始タイミングで予測した閉弁タイミングに対して、第2噴射の開始タイミングで予測した閉弁タイミングがより遅角していて、IVCANG>IVCANGzとなると、1を超える値に設定され、逆に、第1噴射の開始タイミングで予測した閉弁タイミングに対して、第2噴射の開始タイミングになった時点で予測した閉弁タイミングがより進角していて、IVCANG<IVCANGzとなると、1を下回る値に設定される。
【0105】
第2噴射の開始タイミングは、第1噴射の開始タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態に従って予測される閉弁タイミングIVCに基づいて設定しており、第1噴射の開始タイミング後から第2噴射開始タイミングになるまでに、可変バルブリフト機構(VEL)112及び/又は可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態が変わって、吸気バルブ105の閉弁タイミングが変わると、第2噴射の開始タイミングと吸気バルブ105の閉弁タイミングとの相対位置が変化することになる。
【0106】
第1噴射開始後に吸気バルブ105の閉弁タイミングに変化がなかった場合、第2噴射タイミングは、吸気バルブ105の閉弁間際であり、そのときの吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELは、今回の吸気行程での最終的なシリンダ吸入空気量を略表すことになる。
しかし、例えば、吸気バルブ105の閉弁タイミングが、第1噴射の開始タイミングの時点で予測した角度位置から遅角変化すると、第2噴射開始タイミングは、吸気バルブ105の閉弁タイミングから相対的により進角した位置となり、第2噴射タイミング後も、可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態が変わり続ける場合、第2噴射タイミングにおける吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELは、今回の吸気行程での最終的なシリンダ吸入空気量を表さず、変わりつつあるシリンダ吸入空気量の途中経過を示すことになる。
【0107】
一方、第1噴射開始タイミングから第2噴射開始タイミングまでの間における可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の変化が、その後もそれまでの割合で継続すると仮定すると、WQH0VEL−WQH0VELzをIVCANGzで除算して得られる単位クランク角当たりの空気量変化に、前記IVCANGを乗算すれば、前記IVCANGにおける空気量変化、換言すれば、第1噴射の開始タイミングから吸気バルブ105の閉弁タイミングまでの間における空気量変化が求められることになる。
【0108】
そこで、第1噴射開始タイミングから第2噴射開始タイミングまでの間における可変バルブリフト機構(VEL)112の制御状態の変化から予測される、シリンダ吸入空気量の変化分「WQH0VEL−WQH0VELz」に、前記ゲインGAINを乗算することで、第1噴射開始タイミング(第1噴射量の決定時期)から吸気バルブ105の閉時期までの角度IVCANGにおけるシリンダ吸入空気量の変化分を求めるようにしてある。
【0109】
従って、例えば、加速に伴うバルブリフト量の増大によって、吸気バルブ105の閉弁タイミングが大きく遅角し、相対的に第2噴射開始タイミングが閉弁タイミングから進角しても、第1噴射タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112の制御状態から推定されるシリンダ吸入空気量と、閉弁タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112の制御状態に見合うシリンダ吸入空気量との偏差に相当する変化量DWQH0VELを、第2噴射開始タイミングにおいて求めることができる。
【0110】
上記のようにして、変化量DWQH0VELを求めると、次いで、体積流量としての前記偏差DWQH0VELを、係数AIRSPGによって質量流量として偏差DMASCYLに変換する。
式(4)・・・DMASCYL=DWQH0VEL×AIRSPG
前記係数AIRSPGは、吸気温度及び吸気マニホールド圧に基づき、下式に従って算出される。
式(5)・・・AIRSPG=(1.293/(1+0.00367×吸気温度℃))×吸気マニホールド圧kPa/101.3kPa
更に、吸気量を目標空燃比相当の燃料噴射量に変換するための係数Kと、水温に応じて設定される補正係数HOSEIとに基づいて前記偏差DMASCYLを補正して、その結果を、前記補正分Tintbasとする。
【0111】
式(6)・・・Tintbas=DMASCYL×K×HOSEI
前記補正係数HOSEIは、図30に示すように、高温時に1.0に設定され、低温になるほど1.0よりも大きな値に設定される。
前記補正係数HOSEIによる増量補正は、前記燃料噴射量(第1噴射量)Tiにおける前記各種補正係数COEF(水温増量率Ktw)などと同様に、前記補正分Tintbasを低温時ほど増大補正する。
【0112】
ステップS1102では、前記ステップS1007で設定した増減補正分担分Tveliを読み込み、次のステップS1103では、前記ステップS1008で設定した吸気行程噴射基本分担量Tveldefを読み込む。
ステップS1104では、第2噴射量Tintを、下式に従って算出する。
式(7)・・・Tint=Tveldef+Tintbas−Tveli
上記のように、第2噴射量Tintは、吸気行程噴射基本分担量Tveldefを基本量とし、第1噴射量を決定してからの空気量の変化分Tintbasだけ補正し、変化分Tintbasのうち第1噴射量の転嫁させた分であるTveliを減算補正する。
【0113】
前記増減補正分担分Tveliは、前述のように、Tveli=Tintbas×Ratioとして設定され、例えば、今回の第2噴射タイミングで求めたTintbasの所定割合が、次回の第1噴射に加算されるようになっており、この第1噴射量に加算したTveliだけ、第2噴射量を減算することで相殺し、総和として変化しないようにしている。
上記のように、増減補正分担分Tveliだけ第1噴射量を補正すれば、可変バルブリフト機構(VEL)112が動作して吸気バルブ105のバルブリフト量が変化し続ける状態において、該増大変化による第1噴射後のシリンダ吸入空気量の増大変化を予め見込んで、第1噴射量が補正されることになって、相対的に、第2噴射で噴射する必要がある燃料量が減ることになる。
【0114】
ここで、均質混合気の形成には、早いタイミングでの燃料噴射が望まれるから、必要な燃料量のうち第1噴射で噴射させる燃料量をなるべく多くすることで、混合気の均質化に寄与できる。
尚、第1噴射後のシリンダ吸入空気量の増大変化は、例えば、可変バルブリフト機構(VEL)112の動作速度から予測できるので、前記増減補正分担分Tveliを、可変バルブリフト機構(VEL)112の動作速度に応じて設定することで、第1噴射で噴射させる燃料量をなるべく多くすることが可能である。
【0115】
また、第2噴射量を相対的に減らすことで、第2噴射で噴射した燃料を吸気バルブ105が閉じるまでの間にシリンダ内に燃料を吸引させることができ、また、第2噴射量を決定するタイミングをなるべく遅くして、吸気バルブ105が閉じるまでの間におけるシリンダ吸入空気量の変化を精度良く推定させることができる。
但し、増減補正分担分Tveliが過剰であると、吸入空気量が変化する過渡運転から吸入空気量が殆ど変化しない定常運転に移行するときに、第1噴射量が過剰に補正されてしまう可能性があるので、前記比率Ratioは、第1噴射量の過剰補正にならないように、予め実験やシミュレーションによって適合される。
【0116】
尚、前記比率Ratioは固定値とすることができるが、例えばアクセル開度の変化速度や制御軸16の角速度などのシリンダ吸入空気量の変化速度に相関する状態量に基づいて可変に設定させることができ、この場合、シリンダ吸入空気量の変化速度が速くなる条件では、前記比率Ratioをより大きな値に設定する。
図31は、加速時におけるTi、Tintbas、Tveliの変化を示し、ここでは、比率Ratio=0.5としてある。
【0117】
加速時には、吸気行程噴射基本分担量Tveldefが、シリンダ吸入空気量の増大変化分だけ増量補正されて第2噴射量Tintが決定されることになる。
具体的には、加速の開始によって第2噴射の開始タイミングでTintbas=A(ms)が算出されると、そのときの第2噴射量は、Tint=Tveldef+A−0に決定され、次回の第1噴射量には、Tveli=A×0.5が加算される一方、その次の第2噴射の開始タイミングでTintbas=B(ms)が算出されると、Tint=Tveldef+B−A×0.5に決定される。
【0118】
更に、次の第1噴射においては、Tveli=B×0.5が加算される一方、その次の第2噴射の開始タイミングでTintbas=C(ms)が算出されると、Tint=Tveldef+C−B×0.5に決定される。
一方、減速時には、図32に示すように、吸気行程噴射基本分担量Tveldefがシリンダ吸入空気量の減少変化分だけ減量補正されることになり、第1噴射及び第2噴射のトータルでの噴射量が、第1噴射時の見込みよりも減量されることになる。
【0119】
尚、減速運転によるバルブリフト量の減少に伴ってバルブ作動角が減少するので、減速運転時には吸気バルブ105の閉時期が進角変化することになり、第1噴射の開始タイミングにおいて決定した第2噴射のタイミングになった時点で、既に吸気バルブ105が閉じている可能性がある。
この場合には、第2噴射を行わないようにすることで、実質的には、吸気行程噴射基本分担量Tveldefだけ燃料量を減量したことになり、減速によって過剰となる燃料の噴射を抑制して、実際の吸入空気量に対する噴射量の制御精度を高めることができる。
【0120】
ステップS1104で上記のようにして、第2噴射量Tintを算出すると、ステップS1105では、前記第2噴射量Tintに相当するパルス幅の噴射パルス信号をそのときに吸気行程である気筒の燃料噴射弁121に出力して、燃料噴射を開始させる。
また、次のステップS1106では、次回の第1噴射量Tiを、今回算出された補正分Tintbasに基づいて補正させるべく、今回算出された補正分Tintbasを記憶する。
【0121】
上記実施形態によると、第1噴射の開始タイミング(第1噴射量Tiの決定タイミング)から吸気バルブ105が閉じられるまでの間における、可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の変化分だけ第2噴射量を補正することで、当該サイクルにおけるトータルの燃料噴射量が補正される。
従って、第1噴射の開始タイミング(第1噴射量Tiの決定タイミング)から吸気バルブ105が閉じられるまでの間において、可変バルブリフト機構(VEL)112が動作しても、実際のシリンダ吸入空気量に略見合った燃料を噴射させることができ、空燃比ずれによる排気性状の悪化や、動力性能の低下を抑制できる。
【0122】
尚、可変バルブリフト機構(VEL)112に機械的な異常が生じ、目標バルブリフトに収束させることができなくなっている場合や応答速度が大幅に低下したりしている場合、更に、前記制御軸16の角度を検出する作動角センサ206が故障している場合などの可変動弁系のシステム異常時には、第2噴射を停止させ、第1噴射量Ti=Tp×COEF+Tvelp+Tvels+Tsとして第1噴射のみを行わせるか、第2噴射量をフェール状態用の限界値以下に制限するようにする。
【0123】
可変バルブリフト機構(VEL)112の応答速度によって第2噴射で補正される可能性のある量が異なるので、そのときの応答速度に応じて予測される第2噴射で補正される可能性のある量に基づいて前記限界値を設定することができる。
上記のように、可変動弁系のシステム異常時に第2噴射を制限することで、第2噴射量が誤って設定されることによる空燃比ずれの発生を抑制でき、また、均質混合気の生成が第2噴射で妨げられることを回避できる。
【0124】
また、前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefの設定を省略し(Tveldef=0に固定し)、加速時における追加噴射としての第2噴射を補正分Tintbasに基づいて行わせることができ、更に、前記Tveliによる第1及び第2噴射量の補正を省略することができる。
更に、吸気行程後期の第2噴射のタイミングは、第2噴射で噴射される燃料を燃焼室内に均質に分布させるためには、なるべく早い時期とすることが望まれる一方、吸気バルブ105の閉時期に近い方が、第1噴射後の可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の変化を高精度に捉えることができる。
しかし、吸気バルブ105の閉時期に近づき過ぎると、第2噴射で噴射させた燃料の全てをその回の吸気行程で燃焼室内に吸引させることができなくなってしまう。
そこで、上記のような噴射タイミングに要求される条件を加味しつつ、第2噴射のタイミングを設定する。
【0125】
また、加速による追加噴射の要求時にのみ第2噴射を行わせ、加速時以外は、第2噴射を停止させ、第1噴射のみで混合気を形成させることができ、これによって、混合気の均質性を向上させることができる。
更に、本実施形態では、前記吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELの変化に基づいて、第1噴射後の吸入空気量の変化分を検出したが、例えば、実際の吸気バルブ通過体積流量比RQH0VELの変化や、前記可変バルブリフト機構(VEL)112の制御軸16の角度(制御量)やアクチュエータ(DCサーボモータ)201の操作量の変化に基づいて、第2噴射量を決定することができる。
【0126】
尚、バルブリフト量を連続的に可変とする機構は、前記可変バルブリフト機構(VEL)112に限定されるものではなく、可変動弁機構のアクチュエータもDCサーボモータに限定されず、例えばブラシレスモータなどであってもよく、第2噴射量は、適用される可変動弁機構の制御量又は操作量の変化から設定させることができる。
また、上記実施形態では、第1噴射を排気行程中に行わせるようにしたが、排気バルブ107の閉弁直後や吸気行程の初期(好ましくは吸気バルブ105の開弁直後)に、第1噴射を行わせることができる。
【0127】
また、可変動弁機構としての可変バルブリフト機構(VEL)112の構造を、図2〜図4に示した構造に限定するものではなく、吸気バルブ105の閉時期の進遅角制御によってエンジンの吸入空気量を制御する可変動弁機構であってもよい。
吸気バルブ105の閉時期の進遅角制御を行う可変バルブタイミング機構としては、前記図11に示した機構の他、特開2003−269124号公報に開示される、電磁リターダの磁力によってバルブ作動角の中心位相を進遅角制御する機構や、特開2003−184516号公報に開示される、渦巻き状ガイドに変位可能に案内係合される可動案内部を備えてなる機構や、更に、特開2008−025541号公報に開示される、モータによってカムシャフトを駆動する機構などの公知の機構を適宜採用できる。
【0128】
また、バルブリフト量を連続的に可変とする機構としては、例えば、特開2001−263015号公報に開示される機構を用いることができる。
前記特開2001−263015号公報に開示される機構は、コントロールシャフトと連動して移動可能なスライダギアと、カムシャフトのカムにより駆動される入力アームと、機関バルブをリフトさせる出力アームとを備え、コントロールシャフトの軸方向への移動に連動してスライダギアが軸方向に移動することで、スライダギアと入力アーム及び出力アームとの軸方向における相対位置が変化し、スライダギア上の入力アームと出力アームとが相対回転して、両者の相対位相差が変更され、機関バルブの作用角及びリフト量を連続的に変化させる機構である。
【0129】
更に、第1噴射の開始タイミングで決定した第2噴射の開始タイミングを、第1噴射後における吸気バルブ105の閉時期の変化に基づいて進遅角補正させることができる。
例えば、加速時でバルブリフト量が第1噴射後に増大変化する場合には、係る増大変化による吸気バルブ105の閉時期の遅角変化に対応して、第2噴射タイミングを第1噴射時の決定よりも遅角させ、減速時でバルブリフト量が第1噴射後に減少変化する場合には、係る減少変化による吸気バルブ105の閉時期の進角変化に対応して、第2噴射タイミングを第1噴射時の決定よりも進角させるようにする。
【0130】
具体的には、図27のブロック図に示した第2噴射タイミングの演算を、第1噴射後に繰り返し実行させ、最新に求めた第2噴射タイミングとそのときのクランク角との比較で第2噴射タミングを判断させることで行え、また、閉弁タイミングの進遅角速度を考慮して、進角速度が速い場合には、より閉弁タイミングから遠いクランク角を第2噴射タイミングとし、逆に、遅角速度が速い場合には、より閉弁タイミングから近いクランク角を第2噴射タイミングとすることができる。
【0131】
上記のようにして、第2噴射タイミングを補正すれば、第2噴射のタイミングと吸気バルブの閉弁タイミングとの相対位置が大きく変化することを抑制でき、以って、第1噴射後の吸入空気量変化を安定して推定でき、また、第2噴射で噴射させる燃料をその吸気行程で確実にシリンダ内に吸引させることができ、更に、安定した性能で混合気を形成させることができる。
【0132】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)前記第2噴射量の基本値が、前記エンジンの低回転時ほどより大きな値に設定されることを特徴とする請求項5記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
上記発明によると、第2噴射量の基本値が、エンジンの低回転時ほどより大きな値に設定され、係る基本値が、吸入空気量の変化分に応じて増減補正される。
【0133】
(ロ)前記第2噴射量の基本値が、前記エンジンの高負荷時ほどより大きな値に設定されることを特徴とする請求項5又は(イ)記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
上記発明によると、第2噴射量の基本値が、エンジンの高負荷時ほどより大きな値に設定され、係る基本値が、吸入空気量の変化分に応じて増減補正される。
【0134】
(ハ)吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンの燃料噴射制御装置であって、
前記燃料噴射弁により第1噴射量を噴射する第1噴射と、前記第1噴射の後であって吸気行程の後期に前記燃料噴射弁により第2噴射量を噴射する第2噴射とを行うと共に、
前記第2噴射量を、前記第1噴射量の演算後の前記可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変化分に応じて設定することを特徴とするエンジンの燃料噴射制御装置。
【0135】
上記発明によると、燃料噴射が、吸気行程の後期での第2噴射と、該第2噴射よりも前の第1噴射との2回に分けて実行され、第1噴射における第1噴射量と第2噴射における第2噴射量との総和によりそのサイクルにおける混合気形成がなされる。
ここで、吸気行程の後期に行われる第2噴射では、第1噴射における第1噴射量の演算後に可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変動分に応じて設定される第2噴射量を噴射する。
【0136】
即ち、第1噴射量を演算するタイミング(例えば排気行程)で、そのときの可変動弁機構の制御状態に対応するシリンダ吸入空気量に基づいて燃料噴射量を決定しても、その後に可変動弁機構が動作して吸気バルブの開特性が変化するとシリンダ吸入空気量が変化し、第1噴射量の演算タイミングで判断した要求噴射量から変化してしまう。
そこで、第1噴射量の演算後の可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変化分に応じて、吸気行程の後期に噴射させる第2噴射量を設定させることで、第1噴射量と第2噴射量との総和が、吸気バルブの閉弁時に確定するその吸気行程でのシリンダ吸入空気量に対応し、目標空燃比の混合気が得られる燃料量になるようにした。
【0137】
従って、第1噴射で噴射される燃料によって混合気の均質化を図りつつ、可変動弁機構によって吸気バルブの開特性が変更される過渡運転状態において、シリンダ吸入空気量に対して燃料噴射量の過不足が生じて、実際の空燃比が目標空燃比からずれてしまうことを抑制又は防止でき、過渡運転時における排気性状及び動力性能を改善できる。
【0138】
(ニ)前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から推定される吸入空気量と、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から推定される吸入空気量との偏差に基づいて、前記第2噴射量を設定することを特徴とする請求項(ハ)記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
上記発明によると、第1噴射量の演算タイミングから第2噴射量の演算タイミングまでの間における吸入空気量の変化分が、可変動弁機構の制御量から予測され、前記変化分に基づき第2噴射量が設定される。
【0139】
(ホ)前記第2噴射量の演算タイミングが、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から推定される前記吸気バルブの閉時期を基準に設定され、前記閉時期に対する、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から推定される前記吸気バルブの閉時期の変化率を演算し、該変化率に基づき前記偏差を補正して、前記第2噴射量を設定することを特徴とする請求項(ニ)記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
上記発明によると、第1噴射量の演算タイミングから吸気バルブの閉時期までの吸入空気量の変化分を求め、前記変化分に基づき第2噴射量が設定される。
【符号の説明】
【0140】
101…エンジン、104…電子制御スロットル、105…吸気バルブ、112…可変バルブリフト機構(VEL)、114…可変バルブタイミング機構(VTC)、115…コントロールユニット(C/U)、116…アクセル開度センサ、117…エアフローメータ(AF/M)、118…クランク角センサ、119…カム角センサ、120…スロットルセンサ、121…燃料噴射弁、201…アクチュエータ(DCサーボモータ)、206…作動角センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンの燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、吸気バルブの上流側の吸気通路内に燃料を噴射する吸気通路内噴射弁と、筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射弁と、吸気バルブのリフト量及び/又はバルブタイミングを変更する可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、吸気バルブのリフト量が小さくなるほど、及び/又は、吸気バルブの開弁時期が吸気上死点後から遅くなるほど、総燃料噴射量に対する吸気通路内噴射弁からの燃料噴射量の比率を低くし、総燃料噴射量に対する筒内噴射弁からの燃料噴射量の比率を高くする制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−248883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、可変動弁機構によって吸気バルブの開特性を連続的に変更することでシリンダ吸入空気量を制御する場合、過渡運転時には、吸気バルブが開き始めてからも吸気バルブの開特性(バルブリフト量)が徐々に変化するので、吸気バルブの閉時期になった時点で、その吸気行程でのシリンダ吸入空気量が確定することになる。
しかし、混合気の均質度を高めるためには、早い時期に燃料を噴射することが要求され、吸気通路内に燃料を噴射する噴射弁による噴射タイミングは、例えば、排気行程(吸気バルブの開弁前)から吸気行程の前期(吸気バルブの開弁直後)に設定されている。
【0005】
このため、シリンダ吸入空気量が最終的に決まるタイミングと、燃料噴射量を決定するタイミングとには大きなずれがあり、燃料噴射量を決定した後に可変動弁機構が動作して吸気バルブの開特性が変化すると、燃料噴射量を適合させたシリンダ吸入空気量と、実際のシリンダ吸入空気量とに差が生じ、実際の空燃比が目標空燃比からずれてしまう。
そして、エンジンの過渡運転時に、実際の空燃比が目標空燃比からずれると、排気性状の悪化や動力性能の低下などが生じるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、可変動弁機構の動作による吸入空気量の変化に応じて、目標空燃比の混合気形成に必要な燃料を噴射させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、本発明に係るエンジンの燃料噴射制御装置は、
吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、
前記燃料噴射弁により第1噴射量を噴射する第1噴射と、前記第1噴射の後であって吸気行程の後期に前記燃料噴射弁により第2噴射量を噴射する第2噴射とを行い、
前記第2噴射量を、前記第1噴射量の演算後の前記可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変化分に基づいて補正する燃料噴射制御装置であって、
前記第2噴射量の演算タイミングが、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期を基準に設定され、
前記閉時期に対する、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期の変化率、及び、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量と、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量との偏差に基づき、前記第2噴射量を設定するようにした。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によると、第1噴射で噴射される燃料によって混合気の均質化を図りつつ、可変動弁機構によって吸気バルブの開特性が変更される過渡運転状態において、シリンダ吸入空気量に対して燃料噴射量の過不足が生じて、実際の空燃比が目標空燃比からずれてしまうことを抑制でき、過渡運転時における排気性状及び動力性能を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態におけるエンジンの構成図。
【図2】本発明の実施形態における可変バルブリフト機構VELの断面図(図3のA−A断面図)。
【図3】上記可変バルブリフト機構VELの側面図。
【図4】上記可変バルブリフト機構VELの平面図。
【図5】上記可変バルブリフト機構VELに使用される偏心カムを示す斜視図。
【図6】上記可変バルブリフト機構VELの低リフト時の作用を示す断面図(図3のB−B断面図)。
【図7】上記可変バルブリフト機構VELの高リフト時の作用を示す断面図(図3のB−B断面図)。
【図8】上記可変バルブリフト機構VELにおける揺動カムの基端面とカム面に対応したバルブリフト特性図。
【図9】上記可変バルブリフト機構VELのバルブタイミングとバルブリフトの特性図。
【図10】上記可変バルブリフト機構VELにおける制御軸の回転駆動機構を示す斜視図。
【図11】本発明の実施形態における可変バルブタイミング機構(VTC)114の断面図。
【図12】本発明の実施形態における吸入空気量(トルク)制御の全体構成を示すブロック図。
【図13】本発明の実施形態における可変バルブリフト機構VELの目標作動角の演算を示すブロック図。
【図14】本発明の実施形態において吸気バルブの閉弁タイミングに応じてVEL目標作動角を補正するバルブタイミング補正値KHOSIVCの設定を示すブロック図。
【図15】本発明の本実施形態において吸気バルブ上流側の吸気圧に応じてVEL目標作動角を補正するバルブ上流圧補正値KMANIPの設定を示す図。
【図16】本発明の実施形態における目標スロットル開度演算を示すブロック図。
【図17】本発明の実施形態における吸気バルブ開度補正値KAVELの設定を示すブロック図。
【図18】本発明の実施形態におけるスロットル弁全開時の吸気バルブ通過体積流量比WQH0VEL及び実際の吸気バルブ通過体積流量比RQH0VELの算出を示すブロック図。
【図19】本発明の実施形態における排気行程で行われる第1噴射における第1噴射量Tiの演算を示すフローチャート。
【図20】本発明の実施形態におけるポート壁流補正量の演算を示すフローチャート。
【図21】本発明の実施形態における吸気ポートにおける平衡壁流付着量、エンジン負荷TP、エンジン回転速度NEの相関を示す線図。
【図22】本発明の実施形態において筒内壁流補正基本値を補正する水温係数と水温TWとの相関を示す線図。
【図23】本発明の実施形態において筒内壁流補正基本値を補正するΔTVO係数とスロットルバルブ開度TVOの変化ΔTVOとの相関を示す線図。
【図24】本発明の実施形態における筒内壁流補正量の演算を示すフローチャート。
【図25】本発明の実施形態における筒内における平衡壁流付着量、エンジン負荷TP、エンジン回転速度NEの相関を示す線図。
【図26】本発明の実施形態において筒内壁流補正基本値を補正する始動後時間係数と始動後からの経過時間との相関を示す線図。
【図27】本発明の実施形態における第2噴射の開始タイミングの演算を示すブロック図。
【図28】本発明の実施形態における吸気行程噴射基本分担量Tveldef、エンジン負荷TP、エンジン回転速度NEの相関を示す線図。
【図29】本発明の実施形態における吸気行程で行われる第2噴射における第2噴射量Tintの演算を示すフローチャート。
【図30】本発明の実施形態において補正分Tintbasを補正する補正係数HOSEIと水温TWとの相関を示す線図。
【図31】本発明の実施形態における加速時(バルブリフト量の増大変化時)における噴射量の特性を示す図。
【図32】本発明の実施形態における減速時(バルブリフト量の減少変化時)における噴射量の特性を示す図。
【図33】本発明の実施形態における第1,第2噴射のタイミングと、吸排気バルブのリフト状態との相関を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る燃料噴射制御装置が適用される車両用エンジンを示す。
図1において、エンジン101の吸気管102には、スロットルモータ103aでスロットル弁103bを開閉する電子制御スロットル104が介装されている。
複数気筒からなるエンジン101の各燃焼室106内には、前記電子制御スロットル104及び吸気バルブ105を介して空気が吸入される。
【0011】
また、前記吸気バルブ105上流でかつ電子制御スロットル104下流の吸気管102には、気筒毎に燃料噴射弁121が設けられており、該燃料噴射弁121から噴射される燃料によって、燃焼室106内に混合気が形成される。
尚、前記燃料噴射弁121は、開弁時間(噴射パルス幅)に比例する量の燃料を噴射する。
【0012】
前記燃焼室106内の燃料は、図示省略した点火プラグによる火花点火によって、着火燃焼する。
前記燃焼室106内の燃焼排気は、排気バルブ107を介して排気管123に排出される。
前記排気管123によって燃焼室106内から導出された排気は、触媒コンバータ108及びマフラー109を通過した後に、大気中に放出される。
【0013】
前記排気バルブ107は、排気カム軸110に一体的に設けられたカム111によって、一定のバルブリフト量、バルブ作動角及びバルブタイミングを保って開閉動作する。
一方、前記吸気バルブ105は、可変動弁機構としての可変バルブリフト機構(VEL)112によってバルブリフト量及びバルブ作動角が連続的に変えられるようになっている。
【0014】
また、吸気カム軸113の端部には、クランク軸124に対する吸気カム軸113の回転位相を変化させることで、吸気バルブ105のバルブ作動角の中心位相を連続的に変化させる可変バルブタイミング機構(VTC)114が設けられている。
前記電子制御スロットル104、燃料噴射弁121、可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114は、マイクロコンピュータを内蔵するコントロールユニット(C/U)115によって制御される。
【0015】
前記コントロールユニット(C/U)115には、各種センサからの信号が入力される。
前記各種センサとしては、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)ACCを検出するアクセル開度センサ116、エンジン101の吸入空気量Qaを検出するエアフローメータ(AF/M)117、クランク軸124の回転角信号POSを出力するクランク角センサ118、吸気カム軸113の回転角信号CAMを出力するカム角センサ119、スロットル弁103bの開度TVOを検出するスロットルセンサ120などが設けられている。
【0016】
そして、コントロールユニット(C/U)115は、前記クランク角センサ118及びカム角センサ119の検出信号に基づき、クランク軸124に対する吸気カム軸113の回転位相を検出すると共に、エンジン101の運転状態に応じて前記回転位相の目標値(目標進角値)を設定し、吸気カム軸113の回転位相が前記目標値となるよう可変バルブタイミング機構(VTC)114を制御する。
【0017】
また、コントロールユニット(C/U)115は、アクセル開度ACCに対応する吸入空気量が得られるように、前記電子制御スロットル104及び可変バルブリフト機構(VEL)112を制御する。
具体的には、前記可変バルブリフト機構(VEL)112によりバルブリフト量及びバルブ作動角を制御することで吸入空気量を制御しつつ、目標の吸気管負圧(マニホールド負圧)を発生させるようにスロットル弁103bの開度を制御する。
【0018】
前記吸気管負圧は、燃料タンクにて発生した燃料蒸気を捕集するキャニスタからの燃料蒸気のパージやブローバイガスの処理などに用いられる他、ブレーキ操作力を倍力するマスタバックなどにおいて動力源として使用される。
尚、吸気管負圧の発生要求のない運転条件では、スロットル弁103bを全開に保持して、可変バルブリフト機構(VEL)112のみで吸入空気量を制御する。
【0019】
また、前記可変バルブリフト機構(VEL)112のみでは吸入空気量を目標に制御できない低負荷領域においては、可変バルブリフト機構(VEL)112を制御すると共に、前記スロットル弁103bの開度を絞る制御を行う。
ここで、前記可変バルブリフト機構(VEL)112の構造を説明する。
可変バルブリフト機構(VEL)112は、図2〜図4に示すように、シリンダヘッド11のカム軸受14に回転自在に支持された中空状のカム軸13と、前記カム軸13の上方位置に同じカム軸受14に回転自在に支持された制御軸16とを、各気筒に共通の部品として備える一方、気筒毎の部品として、一対の吸気バルブ105,105と、前記カム軸13に軸支された回転カムである2つの偏心カム15,15と、前記制御軸16に制御カム17を介して揺動自在に支持された一対のロッカアーム18,18と、各吸気バルブ105,105の上端部にバルブリフター19、19を介して配置された一対のそれぞれ独立した揺動カム20,20と、を備えている。
【0020】
前記偏心カム15,15とロッカアーム18,18とは、リンクアーム25,25によって連係され、ロッカアーム18,18と揺動カム20,20とは、リンク部材26,26によって連係されている。
また、前記偏心カム15は、図5に示すように、略リング状を呈し、小径なカム本体15aと、該カム本体15aの外端面に一体に設けられたフランジ部15bとからなり、内部軸方向にカム軸挿通孔15cが貫通形成されていると共に、カム本体15aの軸心Xがカム軸13の軸心Yから所定量だけ偏心している。
【0021】
また、前記偏心カム15は、カム軸13に対し前記バルブリフター19に干渉しない両外側にカム軸挿通孔15cを介して圧入固定されていると共に、カム本体15aの外周面15dが同一のカムプロフィールに形成されている。
前記ロッカアーム18は、図4に示すように、略クランク状に屈曲形成され、中央の基部18aが制御カム17に回転自在に支持されている。
【0022】
また、前記ロッカアーム18の基部18aの外端部に突設された一端部18bには、リンクアーム25の先端部と連結するピン21が圧入されるピン孔18dが貫通形成されている一方、基部18aの内端部に突設された他端部18cには、各リンク部材26の後述する一端部26aと連結するピン28が圧入されるピン孔18eが形成されている。
前記制御カム17は、円筒状を呈し、制御軸16外周に固定されていると共に、図2に示すように、軸心P1が制御軸16の軸心P2から所定量αだけ偏心している。
【0023】
前記揺動カム20は、図2,図6及び図7に示すように、略横U字形状を呈し、略円環状の基端部22にカム軸13が嵌挿されて回転自在に支持される支持孔22aが貫通形成されていると共に、ロッカアーム18の他端部18c側に位置する端部23にピン孔23aが貫通形成されている。
また、前記揺動カム20の下面には、基端部22側の基円面24aと該基円面24aから端部23端縁側に円弧状に延びるカム面24bとが形成されており、該基円面24aとカム面24bとが、揺動カム20の揺動位置に応じて各バルブリフター19の上面の所定位置に当接するようになっている。
【0024】
即ち、図8に示すバルブリフト特性からみると、図2に示すように基円面24aの所定角度範囲θ1がベースサークル区間になり、また、カム面24bの前記ベースサークル区間θ1から所定角度範囲θ2が所謂ランプ区間となり、更に、カム面24bのランプ区間θ2から所定角度範囲θ3がリフト区間になるように設定されている。
前記リンクアーム25は、円環状の基部25aと、該基部25aの外周面の所定位置に突設された突出端25bとを備え、基部25aの中央位置には、前記偏心カム15のカム本体15aの外周面に回転自在に嵌合する嵌合穴25cが形成されている一方、突出端25bには、前記ピン21が回転自在に挿通するピン孔25dが貫通形成されている。
【0025】
前記リンク部材26は、所定長さの直線状に形成され、円形状の両端部26a,26bには、前記ロッカアーム18の他端部18cと揺動カム20の端部23の各ピン孔18d,23aに圧入した各ピン28,29の端部が回転自在に挿通する、ピン挿通孔26c,26dが貫通形成されている。
尚、各ピン21,28,29の一端部には、リンクアーム25やリンク部材26の軸方向の移動を規制するスナップリング30,31,32が設けられている。
【0026】
前記制御軸16は、図10に示すように、一端部に設けられたDCサーボモータ等のアクチュエータ201によって所定の回転角度範囲内で回転駆動されるようになっており、前記制御軸16の角度を前記アクチュエータ201で変化させることで、吸気バルブ105,105のバルブリフト量及びバルブ作動角が連続的に変化する(図9参照)。
即ち、図10において、アクチュエータ(DCサーボモータ)201の回転は、伝達部材202を介してネジ切り加工が施された軸103に伝達され、該軸203が通されたナット204の軸方向位置が変化する。
【0027】
そして、制御軸16の先端に取り付けられ、その一端が前記ナット204に固定された一対のステー部材205a、205bにより制御軸16が回転する。
尚、本実施形態では、図10に示すように、ナット204の位置を前記伝達部材202に近づけることでバルブリフト量が小さくなり、逆に、ナット204の位置を前記伝達部材202から遠ざけることでバルブリフト量が大きくなる。
【0028】
また、前記制御軸16の先端には、該制御軸16の角度(VEL作動角)を検出する作動角センサ206が設けられており、該作動角センサ206で検出される実際の制御軸16の角度が、目標角度(目標VEL作動角)に近づくように、前記コントロールユニット(C/U)115が前記アクチュエータ(DCサーボモータ)201の操作量をフィードバック制御する。
【0029】
図11は、前記可変バルブタイミング機構(VTC)114の構造を示す。
本実施形態における可変バルブタイミング機構(VTC)114は、油圧ベーン式の機構であり、クランク軸124によりタイミングチェーンを介して回転駆動されるカムスプロケット51(タイミングスプロケット)と、吸気カム軸113の端部に固定されてカムスプロケット51内に回転自在に収容された回転部材53と、該回転部材53をカムスプロケット51に対して相対的に回転させる油圧回路54と、カムスプロケット51と回転部材53との相対回転位置を所定位置で選択的にロックするロック機構60とを備えている。
【0030】
前記カムスプロケット51は、外周にタイミングチェーン(又はタイミングベルト)が噛合する歯部を有する回転部(図示省略)と、該回転部の前方に配置されて前記回転部材53を回転自在に収容するハウジング56と、該ハウジング56の前後開口を閉塞するフロントカバー,リアカバー(図示省略)とから構成される。
前記ハウジング56は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面には、横断面が台形状を呈し、それぞれハウジング56の軸方向に沿って設けられる4つの隔壁部63が90°間隔で突設されている。
【0031】
前記回転部材53は、吸気カム軸113の前端部に固定されており、円環状の基部77の外周面に90°間隔で4つのベーン78a,78b,78c,78dが設けられている。
前記第1〜第4ベーン78a〜78dは、それぞれ断面が略逆台形状を呈し、各隔壁部63間の凹部に配置され、前記凹部を回転方向の前後に隔成し、ベーン78a〜78dの両側と各隔壁部63の両側面との間に、進角側油圧室82と遅角側油圧室83を構成する。
【0032】
前記ロック機構60は、ロックピン84が、回転部材53の最大遅角側の回動位置(基準作動状態)において係合孔(図示省略)に係入するようになっている。
前記油圧回路54は、進角側油圧室82に対して油圧を給排する第1油圧通路91と、遅角側油圧室83に対して油圧を給排する第2油圧通路92との2系統の油圧通路を有し、この両油圧通路91,92には、供給通路93とドレン通路94a,94bとがそれぞれ通路切り換え用の電磁切換弁95を介して接続されている。
【0033】
前記供給通路93には、オイルパン96内の油を圧送するエンジン駆動のオイルポンプ97が設けられている一方、ドレン通路94a,94bの下流端がオイルパン96に連通している。
前記第1油圧通路91は、回転部材53の基部77内に略放射状に形成されて各進角側油圧室82に連通する4本の分岐路91dに接続され、第2油圧通路92は、各遅角側油圧室83に開口する4つの油孔92dに接続される。
【0034】
前記電磁切換弁95は、内部のスプール弁体が各油圧通路91,92と供給通路93及びドレン通路94a,94bとを相対的に切り換え制御するようになっている。
前記コントロールユニット(C/U)115は、前記電磁切換弁95を駆動する電磁アクチュエータ99に対する通電量を、オン時間割合を制御するデューティ制御信号に基づいて制御する。
【0035】
例えば、電磁アクチュエータ99にデューティ比0%の制御信号(OFF信号)を出力すると、オイルポンプ47から圧送された作動油は、第2油圧通路92を通って遅角側油圧室83に供給されると共に、進角側油圧室82内の作動油が、第1油圧通路91を通って第1ドレン通路94aからオイルパン96内に排出される。
従って、遅角側油圧室83の内圧が高、進角側油圧室82の内圧が低となって、回転部材53は、ベーン78a〜78bを介して最大遅角側に回転し、この結果、吸気バルブ105の作動角の中心位相が遅角される。
【0036】
一方、電磁アクチュエータ99にデューティ比100%の制御信号(ON信号)を出力すると、作動油は、第1油圧通路91を通って進角側油圧室82内に供給されると共に、遅角側油圧室83内の作動油が第2油圧通路92及び第2ドレン通路94bを通ってオイルパン96に排出され、遅角側油圧室83が低圧になる。
このため、回転部材53は、ベーン78a〜78dを介して進角側へ最大に回転し、これによって、吸気バルブ105の作動角の中心位相が進角される。
【0037】
尚、前記可変バルブタイミング機構(VTC)114は、図11に示した油圧ベーン式の機構に限定されるものではなく、例えば、特開2003−184516号公報に開示される、渦巻き状ガイドに変位可能に案内係合される可動案内部を備えてなる可変バルブタイミング機構や、特開2008−025541号公報に開示される、モータによってカムシャフトを駆動するモータ式の可変バルブタイミング機構や、特開2007−120339号公報に開示されるヘリカルスプラインと電磁ブレーキとの組み合わせからなる電磁ブレーキ式の可変バルブタイミング機構などであっても良い。
【0038】
次に、前記コントロールユニット(C/U)115による吸入空気量制御について説明する。
図12は、前記コントロールユニット(C/U)115による吸入空気量の制御機能の基本構成を示すブロック図であり、この図12に示すように、コントロールユニット(C/U)115は、目標体積流量比演算部a,VEL目標作動角演算部b及び目標スロットル開度演算部cとしての機能を備えている(特開2003−184587号公報参照)。
【0039】
まず、前記目標体積流量比演算部aにおける演算処理について説明する。
前記目標体積流量比演算部aでは、目標トルク相当の目標体積流量比TQH0STを算出する。
具体的には、アクセル開度ACC及びエンジン回転速度NEに対応する、或いは、アクセル開度ACC及びエンジン回転速度NEに基づき設定される目標トルクが得られる要求空気量Q0を算出する一方、アイドル時のエンジン回転速度NEを目標アイドル回転速度NEに近づけるために要求されるアイドル要求空気量QISCを算出する。
【0040】
尚、エンジン回転速度NEは、前記コントロールユニット(C/U)115が、前記クランク角センサ118からの信号に基づいて算出する。
そして、前記要求空気量Q0に前記アイドル要求空気量QISCを加算して、総要求空気量Q(Q=Q0+QISC)を算出し、前記総要求空気量Qを、エンジン回転速度Ne及び排気量(シリンダ総容積)VOL#で除算することにより、目標体積流量比TQH0STを算出する。
【0041】
式(1)・・・TQH0ST=Q/(Ne・VOL#)
次に、前記VEL目標作動角演算部bにおける演算処理について説明する。
前記VEL目標作動角演算部bでは、前記目標体積流量比TQH0STに基づいて目標バルブ開口面積TVELAAを算出し、更に、前記目標バルブ開口面積TVELAAに基づいて目標VEL作動角TGVELを設定する。
【0042】
図13は、前記VEL目標作動角演算部bの演算機能の詳細を示す。
図13において、A部では、前記目標体積流量比TQH0STと最小体積流量比QH0LMTとを比較して大きい方を選択し、可変バルブリフト機構VEL112で実現すべき体積流量比TQH0VELを設定する。
尚、前記最小体積流量比QH0LMTは、可変バルブリフト機構(VEL)112によって実現可能な最小体積流量比、即ち、最小バルブリフト量のときの体積流量比であり、a1部において、エンジン回転速度NEに基づき、図に示すようなテーブルTQH0LMTを検索することにより、エンジン回転速度NEが高いほどより大きな値に算出される。
【0043】
B部では、前記体積流量比TQH0VELを、図に示すようなテーブルTVACDNVに基づいてバルブ開口面積AV相当の状態量VACDNVに変換する。
ここで、VACDNV=AV・Cd/N/Vであり、AVはバルブ開口面積、Cdは損失係数、Nは回転速度、Vは排気量を示す。
そして、前記B部において求めた状態量VACDNVに対し、C部においてはエンジン回転速度NEを、D部においては排気量VOL#を乗算することで、要求バルブ開口面積TVELAA0を算出する。
【0044】
即ち、前記要求バルブ開口面積TVELAA0は、TVELAA0=Av・Cdである。
E部では、前記要求バルブ開口面積TVELAA0を、吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCに応じた補正値KHOSIVCで除算し、要求バルブ開口面積TVELAA1を算出する。
【0045】
これは、吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCを進角させると有効シリンダ容積が減少し、同じバルブ開口面積であっても体積流量比が減少するため、これに対応させるように前記要求バルブ開口面積TVELAA0を補正するものである。
F部では、E部において算出した要求バルブ開口面積TVELAA1に対し、吸気バルブ105に上流側の吸気管圧に応じて設定される補正値KMANIPを乗算して、要求バルブ開口面積TVELAA2を求める。
【0046】
G部では、F部において算出された要求バルブ開口面積TVELAA2を、エンジン回転速度NEに応じて設定される補正値KHOSNEで除算して、要求バルブ開口面積TVELAAを求める。
前記補正値KHOSNEは、g1部において、エンジン回転速度Neに基づき図に示すようなテーブルTKHOSNEを検索することにより算出され、エンジン回転速度NEが高くなるほど1よりも大きな値に設定される。
【0047】
H部では、前記要求バルブ開口面積TVELAAを、図に示すようなテーブルTTGVEL0を用いて、目標VEL作動角TGVEL0(制御軸16の目標角度)に変換する。
そして、I部では、H部で求めた目標VEL作動角TGVEL0と、最大VEL作動角VELHLMTとを比較し、TGVEL0≧VELHLMTであれば、VELHLMTを目標VEL作動角TGVELとして設定し、TGVEL0<VELHLMTであれば、TGVEL0を目標VEL作動角TGVELとして設定する。
【0048】
前記最大VEL作動角VELHLMTは、i1部において、エンジン回転速度Neに基づき、図に示すようなテーブルTVELHLMTを検索することにより算出する。
前記コントロールユニットC/U115は、実際のVEL作動角VELCOM(実際の制御軸16の角度)が前記目標VEL作動角TGVELとなるように、前記アクチュエータ201の操作量をフィードバック制御する。
【0049】
ここで、図13のE部において用いる補正値KHOSIVCの設定を、図14に基づいて説明する。
図14において、e1部では、前記可変バルブタイミング機構(VTC)114が動作していないとき、即ち、吸気バルブ105の作動角の中心位相が最遅角状態である場合の吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCの角度V0IVCを、そのときの吸気バルブ105のバルブ作動角VSC−ANGLに基づき、図に示すようなテーブルTV0IVCを参照して求める。
【0050】
次に、e2部において、前記閉弁タイミングIVCの角度V0IVCから、前記可変バルブタイミング機構(VTC)114によるそのときの中心位相の進角値VTCNOWを減算することで、実際のIVC角度REALIVCを求める。
そして、e3部において、前記実際のIVC角度REALIVCに基づき、図に示すようなテーブルTKHOSIVCを検索して補正値KHOSIVCを設定し、図13のE部に出力する。
【0051】
次に、図13のF部で用いる補正値KMANIPの設定を、図15に基づいて説明する。
図15のf1部において、補正値KMANIPは、大気圧/目標Boost(例えば、101.3KPa/88KPa)、又は、1.0であり、前記目標体積流量TQH0STが前記最小体積流量比QH0LMT以下の場合、補正値KMANIPとして1.0を出力し、それ以外では、大気圧/目標Boostが、補正値KMANIPとして出力される。
【0052】
次に、前記目標スロットル開度演算部cにおける演算処理を、図16に基づいて説明する。
図16において、J部では、吸気バルブ105の作動特性が基準状態であるときに要求されるスロットル弁の開口面積Atに相当する状態量TADNV0を算出する。
前記作動特性が基準状態である場合とは、吸気バルブ105のバルブリフト量、バルブ作動角、バルブタイミングを固定とし、スロットルバルブ開度でエンジン101の吸入空気量が制御される場合に相当する。
【0053】
前記J部では、前記目標体積流量比TQH0STに基づいて、図に示すような変換テーブルTTADNV0を検索することによりTADNV0を算出する。
尚、前記状態量TADNV0は、スロットル弁開口面積をAt、エンジン回転速度をNe、排気量(シリンダ容積)をVOL#としたときに、TADNV0=At/(Ne・VOL#)で表されるものである。
【0054】
そして、算出したTADNV0に対し、K部においてエンジン回転速度Neを、L部において排気量VOL#を乗算し、吸気バルブ105の作動特性が基準状態であるときのスロットル要求開口面積TVOAA0を算出する。
M部では、算出したスロットル要求開口面積TVOAA0に、実際の吸気バルブ105の作動特性、すなわち、作動特性の変化に応じた補正を行う。
【0055】
具体的には、前記スロットル要求開口面積TVOAAに、実際の吸気バルブ105の作動特性に応じて設定される補正値KAVELを乗算して、目標スロットル開口面積TVOAAを算出する。
N部では、算出した目標スロットル開口面積TAVOAAに基づいて、図に示すような変換テーブルTTDTVOを検索して目標スロットル開度TDTVOを設定する。
【0056】
前記コントロールユニット(C/U)115は、実際のスロットル弁103bの開度TVOが前記目標スロットル開度TDTVOに収束するように、前記電子制御スロットル104の操作量をフィードバック制御する。
ここで、図16のM部で用いる補正値KAVELの設定を、図17に基づいて説明する。
【0057】
図17のm1部において、圧力比Pm’0/Paを、目標体積流量比TQH0STとエンジン回転速度NEに基づいて図に示すようなマップを参照して求める。
尚、Paは大気圧、Pm’0は吸気バルブ105の作動特性が基準状態であるときの吸気マニホールド圧である。
そして、m2部において、前記圧力比Pm’0/Paに基づいて、図に示すテーブルTBLKPA0を検索して係数KPA0を算出する。
【0058】
一方、m3部において、スロットル弁103bの全開時における吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELに、変換定数TPGAIN#を乗算することで、スロットル弁103bの全開時においてシリンダに吸入される空気量TP100を算出する。
また、m4部においては、新気割合ηを、スロットル弁103bが絞られている時の吸気バルブ通過体積流量比RQH0VELとエンジン回転速度NEに基づいて、図に示すようなマップを参照して算出する。
【0059】
m5部では、前記スロットル弁103bの全開時においてシリンダに吸入される空気量TP100に、前記新気割合ηを乗算して、「TP100・η」を算出し、m6部において「TP/(TP100・η)」を算出する。
前記「TP/(TP100・η)」は、可変バルブリフト機構(VEL)112の作動時における圧力比Pm’1/Paを示す。
【0060】
更に、m7部では、可変バルブリフト機構(VEL)112の作動時における圧力比Pm’1/Paに基づいて、図に示すテーブルTKPA1を検索して係数KPA1を算出する。
m8部では、m2部で算出した係数KAP0を、m7部で算出した係数KAP1で除算することで、補正値KAVELを設定し、図16のM部に出力する。
【0061】
次に、吸気バルブ通過体積流量比WQH0VEL及び実体積流量比RQH0VELの算出を、図18のブロック図に基づいて説明する。
m10部では、前記可変バルブリフト機構(VEL)112の制御軸16の作動角VELREAL(制御量)に基づいて、図に示すようなテーブルTAAVEL0を検索して吸気バルブ105の開口面積AAVEL0を算出する。
【0062】
m11部では、図13のG部と同様に、開口面積AAVEL0を、エンジン回転速度Neに応じた補正値KHOSNEで除算して、AAVELを算出する。
そして、算出したAAVELを、m12部においてエンジン回転速度NEで除算し、m13部において排気量(シリンダ容積)VOL#で除算する。
m14部では、図に示すようなテーブルTWH0VEL0を検索して、AAVEL/NE/VOL#を、体積流量比WH0VEL0に変換する。
【0063】
そして、m15部において、図13のE部と同様に、補正値KHOSIVCによる補正を体積流量比WH0VEL0に対して施して、スロットル弁103b全開時の吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELを算出して、図17のm3部へ出力する。
一方、m16部では、m11部で算出したAAVELに、実際の吸気マニホールド圧Pmと大気圧Paの比(Pm/Pa)を乗算して、AAVEL’を算出する。
【0064】
そして、前記AAVEL’を、m17部においてエンジン回転速度Neで除算し、m18部において排気量(シリンダ容積)VOL#で除算する。
m19部では、m14部と同様に、図に示すようなテーブルTRH0VEL0を検索して、AAVEL’/NE/VOL#を体積流量比RH0VEL0に変換する。
そして、m20部において、m15部(図13のE部)と同様に、補正値KHOSIVCによる補正を体積流量比RH0VEL0に対して施して、実体積流量比RQH0VELを算出して、図17のm4部へ出力する。
【0065】
次に、前記コントロールユニット(C/U)115による燃料噴射制御を説明する。
本実施形態における燃料噴射弁121は、吸気バルブ105上流の吸気管102に設けられており、前記燃料噴射弁121による燃料噴射は、各気筒の1サイクル当たり、排気行程中(例えば排気行程の中期)の第1噴射と吸気行程の後期の第2噴射との2回に分けて行われ、排気行程中に噴射された燃料と吸気行程中に噴射された燃料との総和によって、混合気が形成されるようになっている(図33参照)。
【0066】
各気筒における噴射開始タイミングは、クランク角センサ118及びカム角センサ119からの信号に基づいて検出される。
前記排気行程中の第1噴射は、排気行程中に予め設定された噴射開始タイミングになると、燃料噴射量(第1噴射量)Tiを演算し、該燃料噴射量(第1噴射量)Tiに対応するパルス幅の噴射パルスを、噴射開始タイミング(排気行程)である気筒に設けられている燃料噴射弁121に出力することでなされる。
【0067】
前記燃料噴射量(第1噴射量)Tiは、後に詳細に説明するように、基本燃料噴射量Tp,各種補正係数COEF,ポート壁流補正量Tvelp,筒内壁流補正量Tvels,無効噴射パルス分Ts,増減補正分担分Tveli,吸気行程噴射基本分担量Tveldefから、Ti=Tp×COEF+Tvelp+Tvels+Ts+Tveli−Tveldefとして算出される。
ここで、前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefは、吸気行程の後期で実行される第2噴射で噴射させる燃料量の基本値であり、第1噴射のタイミングにおけるシリンダ吸入空気量に対応する燃料量のうち、Tveldefを除いた分を排気行程での第1噴射で噴射させ、残りのTveldefを第2噴射で噴射させ、第1噴射で噴射される第1噴射量とその後の第2噴射で噴射される第2噴射量との総和が、定常時にはシリンダ吸入空気量に見合った量となり、目標空燃比の混合気が形成されるようにする(図33参照)。
【0068】
図19のフローチャートは、排気行程において行われる第1噴射の制御を示す。
この図19のフローチャートに示すルーチンは、予め設定された第1噴射における噴射開始タイミング(噴射開始クランク角度)であることが、クランク角センサ118で検出されたときに、割り込み実行されるようになっている。
前記第1噴射における噴射開始タイミングは、排気行程中の固定の角度位置、又は、エンジン運転状態(エンジン負荷、エンジン回転速度、エンジン温度など)から可変に設定される排気行程中の角度位置とすることができる。
【0069】
前記第1噴射における噴射開始タイミングになって割り込み処理が開始されると、まず、ステップS1001では、第1噴射後の吸気行程の後期で行わせる第2噴射の噴射開始タイミングを決定する。
具体的には、図27に示すように、そのときの可変バルブリフト機構(VEL)112の制御軸16の作動角(VEL角度)から、可変バルブタイミング機構(VTC)114が最遅角に制御されていると仮定したときの吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCを求める。
【0070】
そして、前記閉弁タイミングIVCを、そのときの可変バルブタイミング機構(VTC)114によるカム軸113の回転位相の進角量(VTC角度)で補正することで、そのときの可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態における吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCを求める。
更に、エンジン回転速度NEが高いほど、実際の閉弁タイミングIVCからより進角した角度位置を、第2噴射の開始タイミングとすべく、エンジン回転速度NEに応じた進角補正値で前記実際の閉弁タイミングIVCを進角補正した結果を、第2噴射の開始タイミングとする。
【0071】
前記エンジン回転速度NEに応じた開始タイミングの補正は、エンジン回転速度が高いほど、閉弁タイミングIVCからより進角した角度位置を第2噴射の開始タイミングとすべく設定される。
本実施形態の場合に、吸気バルブ105の上流側に燃料噴射弁121が設けられるから、吸気バルブ105が開弁しているときだけ燃焼室106に燃料を供給でき、しかも、燃料噴射弁121から噴射された燃料が燃焼室106に吸入されるまでには輸送時間を要する。
【0072】
従って、吸気バルブ105の閉弁間際に噴射させた燃料を燃焼室106内に吸引させるためには、吸気バルブ105の閉弁タイミングから前記輸送時間だけ前の時点で燃料を噴射させる必要があり、前記輸送時間に相当する角度は、高回転時ほど大きな角度となる。
そこで、エンジン回転速度NEが高いときほど、噴射開始タイミングを、吸気バルブ105の閉弁タイミングからより進角させるようにしている。
【0073】
上記ステップS1001において、可変バルブリフト機構(VEL)112の制御軸16の作動角と、可変バルブタイミング機構(VTC)114によるカム軸113の回転位相の進角量とから閉弁タイミングを求めると、第1噴射の噴射開始タイミングから前記閉弁タイミングまでの角度IVCANGzを求め記憶する。
尚、前記ステップS1001では、第1噴射タイミングにおける、可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態に基づいて、吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCを求めており、この閉弁タイミングは、第1噴射後における可変バルブリフト機構(VEL)112の動作で変わり得る値である。
【0074】
次のステップS1002では、基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpを演算する。
前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpは、エンジン回転速度NEとエアフローメータ(AF/M)117で検出された吸入空気量Qaと定数Kとを用いて、Tp=Qa/Ne×Kとして算出される。
即ち、前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpは、そのときに計測されたシリンダ吸入空気量に対して、目標空燃比の混合気を形成させるために要求される総燃料量である。
【0075】
ステップS1003では、前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpを補正するための各種補正係数COEFを算出する。
前記各種補正係数COEFは、始動及び始動直後に燃料量を増量するための始動及び始動後増量Kas,低水温(冷機)時に燃料量を増量するための水温増量率Ktw,高負荷高回転運転時に燃料を増量して排気温度の上昇を抑えつつ出力を発生させるための高負荷高回転増量率KMR,高水温時に燃料を増量して排気温度の上昇を抑えるための高水温時増量率KHOTなどに基づき、COEF=Kas+Ktw+KMR+KHOTとして算出される。
【0076】
ステップS1004では、前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpを、ポート壁流量の変化に応じて補正するためのポート壁流補正量Tvelpを算出する。
前記ポート壁流補正量Tvelpの算出は、図20のフローチャートに詳細に示してある。
ステップS2011では、エンジン回転速度NE,エンジン負荷を代表する基本噴射パルス幅(基本燃料噴射量)Tp,水温Tw,スロットルバルブ開度TVO,制御軸16の作動角(バルブリフト量)を入力する。
【0077】
ステップS2012では、前記エンジン回転速度Ne,基本噴射パルス幅Tp,水温Tw,スロットルバルブ開度TVOに基づいて、ポート壁流補正基本値を演算する。
具体的には、図21に示すように、エンジン回転速度NE及び基本噴射パルス幅Tpに対応してポート壁流の平衡付着量を記憶したマップから、アクセル操作前(過渡運転直前)のエンジン回転速度Ne及び基本噴射パルス幅Tpに対応する平衡付着量と、アクセル操作後(過渡運転中)のエンジン回転速度NE及び基本噴射パルス幅Tpに対応する平衡付着量とを検索する。
【0078】
尚、前記ポート壁流の平衡付着量は、低回転高負荷時ほど大きな値に設定される。
そして、基本補正値を、基本補正値=平衡付着量(アクセル操作後)−平衡付着量(アクセル操作前)として算出する。
一方、図22に示すように、水温Twが低いときほど大きな水温補正係数を設定し、更に、図23に示すように、スロットルバルブ開度TVOの単位時間当たりの変化量(変化速度)ΔTVOが大きいときほど大きなΔTVO係数を設定する。
【0079】
そして、ポート壁流補正基本値を、ポート壁流補正基本値=基本補正値×水温補正係数×ΔTVO係数として算出する。
ステップS2013では、前記制御軸16の作動角に応じてVEL補正量を設定する。
本実施形態では、前記制御軸16の作動角が大きいときほど吸気バルブ105のバルブリフト量が大きくなるものとし、前記VEL補正量は、フローチャート中に示すように、バルブリフト量が多くなる制御軸16の作動角が大きいときほど、大きな値に設定される。
【0080】
上記VEL補正量は、バルブリフト量が小さい条件では、吸気バルブ105を通過する吸気の流速が速く、吸気バルブ105付近の吸気ポート壁面に付着している燃料が吸い出され易くなって、ポート付着壁流量が少なくなることに対応している。
ステップS2014では、前記ポート壁流補正量Tvelpを、Tvelp=ポート壁流補正基本値×VEL補正量として算出する。
【0081】
ステップS1005では、前記基本燃料噴射量(基本噴射パルス幅)Tpを、筒内壁流量の変化に応じて補正するための筒内壁流補正量Tvelsを算出する。
前記筒内壁流補正量Tvelsの算出は、図24のフローチャートに詳細に示してある。
ステップS3021では、エンジン回転速度Ne,エンジン負荷を代表する基本噴射パルス幅(基本燃料噴射量)Tp,水温Tw,スロットルバルブ開度TVO,制御軸16の作動角(バルブリフト量)及び始動後からの経過時間を入力する。
【0082】
ステップS3022では、前記エンジン回転速度Ne,基本噴射パルス幅Tp,水温Tw,スロットルバルブ開度TVO及び始動後からの経過時間に基づいて、筒内壁流補正基本値を演算する。
具体的には、図25に示すように、エンジン回転速度Ne及び基本噴射パルス幅Tpに対応して筒内壁流の平衡付着量を記憶したマップから、アクセル操作前(過渡運転直前)のエンジン回転速度Ne及び基本噴射パルス幅Tpに対応する平衡付着量と、アクセル操作後(過渡運転中)のエンジン回転速度Ne及び基本噴射パルス幅Tpに対応する平衡付着量とを検索する。
【0083】
尚、前記筒内壁流の平衡付着量は、低回転低負荷時ほど大きな値に設定される。
そして、基本補正値を、基本補正値=平衡付着量(アクセル操作後)−平衡付着量(アクセル操作前)として算出する。
一方、図22に示すように、水温Twが低いときほど大きな水温補正係数を設定し、更に、図23に示すように、スロットルバルブ開度TVOの単位時間当たりの変化量(変化速度)ΔTVOが大きいときほど大きなΔTVO係数を設定する。
【0084】
また、始動後からの経過時間に応じて始動後時間係数を設定する。前記始動後時間係数は、図26に示すように、始動からの経過時間が長くなるほどより小さい値に設定される。
そして、筒内壁流補正基本値を、筒内壁流補正基本値=基本補正値×水温補正係数×ΔTVO係数×始動後時間係数として算出する。
【0085】
ステップS3023では、前記制御軸16の作動角に応じてVEL補正量を設定する。
前記VEL補正量は、フローチャート中に示すように、バルブリフト量が大きくなる作動角が大きいときほど、小さな値に設定される。
上記筒内壁流補正基本値の補正に用いられるVEL補正量は、バルブリフト量が小さい条件では、吸気バルブを通過するときの吸気の流れが周辺(吸気バルブ105の径方向)に指向して筒内付着壁流量が多くなることに対応している。
【0086】
ステップS3024では、筒内壁流補正量Tvelsを、Tvels=筒内壁流補正基本値×VEL補正量として算出する。
上記のように、ポート壁流補正量Tvelp,筒内壁流補正量Tvelsの演算において、吸気バルブ105のバルブリフト量に応じた補正を施すことで、バルブリフト量の変化によるポート壁流量及び筒内壁流量の変化に対応して燃料噴射量を適切に補正することができ、過渡時の空燃比制御精度を向上させることができる。
【0087】
ステップS1006では、無効噴射パルス分Tsを算出する。
前記無効噴射パルス分Tsは、前記燃料噴射弁121の電源であるバッテリの電圧による開弁遅れ時間の変化に対応するための補正値であり、バテッリ電圧が低く燃料噴射弁121の開弁遅れ時間が長くなるほど大きな値に設定される。
ステップS1007では、増減補正分担分Tveliを演算する。
【0088】
本実施形態では、後述するように、第1噴射量を演算してからの可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の増減変化分に対応する噴射量の増減補正を、吸気行程後期の第2噴射における第2噴射量に対して施すことで、変化後のシリンダ吸入空気量で目標空燃比の混合気が形成されるようにする。
しかし、第2噴射は、前述のように、吸気行程の後期で噴射されるため、第2噴射で噴射された燃料を吸気行程中に燃焼室106内に均等に分布させることは困難であり、燃焼室106内に均質な混合気を形成させるためには、目標空燃比の混合気形成に必要とされる燃料量のうちのなるべく多くの燃料を、第1噴射で噴射させることが望まれる。
【0089】
そこで、前回の第2噴射において、第1噴射量を演算してからの可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の増減変化分に対応する増減補正分として算出された量のうちの一定割合を、次のサイクルにおける第1噴射で噴射させ、第2噴射で噴射させるべき燃料量を減らすようにしてある。
即ち、前回の第2噴射の噴射開始タイミングで演算した、第1噴射後のシリンダ吸入空気量の変化に対応するための増減補正分Tintbasと、予め設定された比率Ratioとから、前記増減補正分担分Tveliを、Tveli=Tintbas×Ratioとして算出する。
【0090】
前記比率Ratioは、固定値であっても良いし、急加速ほどより大きな値に設定することができる。
前記増減補正分Tintbasについては、後で詳細に説明する。
ステップS1008では、吸気行程噴射基本分担量Tveldefを演算する。
前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefは、エンジン101の定常運転時にも第2噴射で噴射させる第2噴射量の基本値であり、エンジン101の運転状態に応じて設定される。
【0091】
具体的には、図28に示すマップに示すように、前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefは、エンジン回転速度Ne及びエンジン負荷を代表する基本噴射パルス幅(基本燃料噴射量)Tpに応じて予め設定されており、低回転高負荷時ほど大きな値に設定され、低回転低負荷域、中高回転低負荷、高回転中高負荷域では零に設定される。
前記基本分担量Tveldefが零に設定される領域は、一般的に定常運転で使用される運転領域であり、加速されることで、基本分担量Tveldef>0となる運転領域に入るため、実質的には、第1噴射が行われた後にシリンダ吸入空気量が変化することになる場合に、基本分担量Tveldef>0に設定され、第2噴射による噴射量の修正が不要の場合には、第2噴射が行われないことになる。
【0092】
尚、前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefを、加速時と減速時とで異なる値に設定させることができ、具体的には、加速時には、減速時より分担量Tveldefを少なくすることができる。
これは、減速に伴ってシリンダ吸入空気量が減少変化する場合、係る減少変化に対応するために、予め減少代が第2噴射において確保されている必要があるのに対し、加速時には、シリンダ吸入空気量の増大変化に対応して燃料を追加噴射すればよく、分担量Tveldefが零であってもよいためである。
【0093】
第2噴射のタイミングで燃料を減らそうとしても、最大に減らせるのは基本分担量Tveldefに限られ、基本分担量Tveldefが少ないと、第2噴射量を最大に減らしても、既に噴射されている第1噴射量だけで空燃比がリッチ化してしまう可能性があり、減らす量よりも第2噴射量を多くしておく必要がある。
従って、加速/減速運転を判別し、加速時には分担量Tveldefを零或いは最小噴射量程度に設定し、減速時に、固定値(>0)或いはエンジン負荷やエンジン回転速度などに応じた可変値として、加速時よりも大きな分担量Tveldefを設定させることができる。
更に、急減速時ほど分担量Tveldefを多くすることで、第1噴射後のシリンダ吸入空気量の減少変化が大きい場合に、分担量Tveldefを予め多くしておくことができる。
【0094】
前記急減速の判断は、例えばアクセル開度や制御軸16の角速度などのシリンダ吸入空気量の変化速度に相関する状態量に基づいて行わせることができる。
ステップS1009では、上記ステップS1002〜ステップS1008の演算結果に基づいて、燃料噴射量(第1噴射量)Tiを、下式に従って算出する。
式(2)・・・Ti=Tp×COEF+Tvelp+Tvels+Ts+Tveli−Tveldef
ステップS1010では、前記燃料噴射量(第1噴射量)Tiに相当するパルス幅の噴射パルス信号を、第1噴射の開始タイミング(排気行程)である気筒に備えられている燃料噴射弁121に対して出力する。
【0095】
即ち、排気行程中の噴射開始タイミングになったときに、燃料噴射量(第1噴射量)Tiを演算し、かつ、該燃料噴射量(第1噴射量)Tiの噴射を直ちに開始させる。
但し、前記燃料噴射量(第1噴射量)Tiの演算を一定時間毎に繰り返し実行させ、第1噴射タイミングに相当するクランク角になったときに、最新に演算された燃料噴射量(第1噴射量)Tiに基づいて第1噴射を行わせることができる。
【0096】
ステップS1011では、吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELの最新値を、第1噴射時の値WQH0VELzとして記憶する。
尚、前記吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELは、前記制御軸16の角度(可変バルブリフト機構(VEL)112の制御量)に基づいて推定される吸入空気量に相当する。
【0097】
図29のフローチャートに示すルーチンは、吸気行程後期の第2噴射を制御するルーチンであり、前記ステップS1001で演算された第2噴射の噴射開始タイミングになったことが、クランク角センサ118の信号に基づいて検出されたときに、割り込み実行されるようになっている。
そして、第2噴射の開始タイミングになって割り込み処理が開始されると、まず、ステップS1101で、第1噴射の開始タイミング、換言すれば、第1噴射における燃料噴射量(第1噴射量)Tiを決定してからの可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の変化分に対応する噴射量である補正分Tintbasを演算する。
【0098】
定常状態では、第1噴射量を、そのときのシリンダ吸入空気量相当量から基本分担量Tveldefだけ減らした量とし、基本分担量Tveldefだけ第2噴射を行わせることで、第1噴射量と第2噴射量との総和は、そのときのシリンダ吸入空気量に見合った量となる。
しかし、第1噴射量を演算したタイミングから、吸気バルブ105が閉弁するまでの間に、シリンダ吸入空気量を変化させることになる可変バルブリフト機構(VEL)112の動作があった場合、前記基本分担量Tveldefだけ第2噴射を行わせたのでは、前記シリンダ吸入空気量の変化に対応できず、変化した分のシリンダ吸入空気量に見合った分だけ噴射量に誤差を生じる。
【0099】
即ち、第1噴射量を演算してからバルブリフトを変化させる制御が行われた場合、実際にシリンダ吸入空気量がどれだけになるかは、吸気バルブ105が閉じられた時点で確定されることになり、第1噴射時に計測した吸入空気量とは異なる量になり、結果、第1噴射時に判断した要求噴射量では過不足を生じることになってしまう。
そこで、本実施形態では、第1噴射後から吸気バルブ105の閉弁タイミング近傍乃至閉弁タイミング直前まで待って、第1噴射の開始タイミングからのシリンダ吸入空気量の変化を判断し、第1噴射の開始タイミング時点でのシリンダ吸入空気量に対する変化分だけ、第2噴射における第2噴射量を変化させて、実際にシリンダに吸引された空気量に見合う燃料量が、第1噴射量と第2噴射量との総和で得られるようにする。
【0100】
例えば、加速時でバルブリフトが増大方向に変化する場合、第1噴射量を決定してからも制御軸16がリフト増大方向に回転することで、吸気バルブ105の閉弁時点で確定されるシリンダ吸入空気量は、第1噴射量の決定時点でのシリンダ吸入空気量よりも多くなるので、前記シリンダ吸入空気量の増大変化分に相当する補正分Tintbasだけ第2噴射量を増やして、実際のシリンダ吸入空気量に見合う量の燃料が噴射されるようにする。
【0101】
尚、上記の第2噴射は、吸気バルブ105の閉弁直前になされるので、第2噴射で噴射された燃料を燃焼室106内に均等に分布させることは困難であるが、必要噴射量の大部分を排気行程での第1噴射で噴射させるので、吸気ポートの熱を利用して気化させた燃料噴霧を、吸気行程中の空気流動に乗せて、燃焼室106内に略均一に分布させることができ、第1噴射及び第2噴射によって燃焼室106内に形成される混合気を均質混合気にすることができる。
【0102】
前記補正分Tintbasは、前記図18のブロック図に従って演算される吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELを用いて、以下にようにして算出される。
まず、吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELの最新値、換言すれば、第2噴射の開始タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112(可変動弁機構)の制御量から推定されたシリンダ吸入空気量と、第1噴射の開始タイミングにおいて演算された吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELzと、吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCの変化に基づくゲインGAINとに基づいて、第1噴射開始タイミングからのシリンダ吸入空気量の変化量DWQH0VELを算出する。
【0103】
式(3)・・・DWQH0VEL=(WQH0VEL−WQH0VELz)×GAIN
前記ゲインGAINは、GAIN=IVCANG/IVCANGzとして算出される。
ここで、前記角度IVCANGは、前記第1噴射を開始させるクランク角から吸気バルブ105の閉弁タイミングIVCまでの角度であって、前記IVCANGは、第2噴射の開始タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態に従って予測される閉弁タイミングIVCに基づく値であり、前記IVCANGzは、第1噴射の開始タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態に従って予測される閉弁タイミングIVCに基づく値である。
【0104】
即ち、前記ゲインGAINは、第1噴射の開始タイミングで予測した、換言すれば、第2噴射の開始タイミングの設定基準とした閉弁タイミングに対する、第2噴射の開始タイミングになった時点で予測した閉弁タイミングの割合であり、第1噴射の開始タイミングで予測した閉弁タイミングに対して、第2噴射の開始タイミングで予測した閉弁タイミングがより遅角していて、IVCANG>IVCANGzとなると、1を超える値に設定され、逆に、第1噴射の開始タイミングで予測した閉弁タイミングに対して、第2噴射の開始タイミングになった時点で予測した閉弁タイミングがより進角していて、IVCANG<IVCANGzとなると、1を下回る値に設定される。
【0105】
第2噴射の開始タイミングは、第1噴射の開始タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態に従って予測される閉弁タイミングIVCに基づいて設定しており、第1噴射の開始タイミング後から第2噴射開始タイミングになるまでに、可変バルブリフト機構(VEL)112及び/又は可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態が変わって、吸気バルブ105の閉弁タイミングが変わると、第2噴射の開始タイミングと吸気バルブ105の閉弁タイミングとの相対位置が変化することになる。
【0106】
第1噴射開始後に吸気バルブ105の閉弁タイミングに変化がなかった場合、第2噴射タイミングは、吸気バルブ105の閉弁間際であり、そのときの吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELは、今回の吸気行程での最終的なシリンダ吸入空気量を略表すことになる。
しかし、例えば、吸気バルブ105の閉弁タイミングが、第1噴射の開始タイミングの時点で予測した角度位置から遅角変化すると、第2噴射開始タイミングは、吸気バルブ105の閉弁タイミングから相対的により進角した位置となり、第2噴射タイミング後も、可変バルブリフト機構(VEL)112及び可変バルブタイミング機構(VTC)114の制御状態が変わり続ける場合、第2噴射タイミングにおける吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELは、今回の吸気行程での最終的なシリンダ吸入空気量を表さず、変わりつつあるシリンダ吸入空気量の途中経過を示すことになる。
【0107】
一方、第1噴射開始タイミングから第2噴射開始タイミングまでの間における可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の変化が、その後もそれまでの割合で継続すると仮定すると、WQH0VEL−WQH0VELzをIVCANGzで除算して得られる単位クランク角当たりの空気量変化に、前記IVCANGを乗算すれば、前記IVCANGにおける空気量変化、換言すれば、第1噴射の開始タイミングから吸気バルブ105の閉弁タイミングまでの間における空気量変化が求められることになる。
【0108】
そこで、第1噴射開始タイミングから第2噴射開始タイミングまでの間における可変バルブリフト機構(VEL)112の制御状態の変化から予測される、シリンダ吸入空気量の変化分「WQH0VEL−WQH0VELz」に、前記ゲインGAINを乗算することで、第1噴射開始タイミング(第1噴射量の決定時期)から吸気バルブ105の閉時期までの角度IVCANGにおけるシリンダ吸入空気量の変化分を求めるようにしてある。
【0109】
従って、例えば、加速に伴うバルブリフト量の増大によって、吸気バルブ105の閉弁タイミングが大きく遅角し、相対的に第2噴射開始タイミングが閉弁タイミングから進角しても、第1噴射タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112の制御状態から推定されるシリンダ吸入空気量と、閉弁タイミングにおける可変バルブリフト機構(VEL)112の制御状態に見合うシリンダ吸入空気量との偏差に相当する変化量DWQH0VELを、第2噴射開始タイミングにおいて求めることができる。
【0110】
上記のようにして、変化量DWQH0VELを求めると、次いで、体積流量としての前記偏差DWQH0VELを、係数AIRSPGによって質量流量として偏差DMASCYLに変換する。
式(4)・・・DMASCYL=DWQH0VEL×AIRSPG
前記係数AIRSPGは、吸気温度及び吸気マニホールド圧に基づき、下式に従って算出される。
式(5)・・・AIRSPG=(1.293/(1+0.00367×吸気温度℃))×吸気マニホールド圧kPa/101.3kPa
更に、吸気量を目標空燃比相当の燃料噴射量に変換するための係数Kと、水温に応じて設定される補正係数HOSEIとに基づいて前記偏差DMASCYLを補正して、その結果を、前記補正分Tintbasとする。
【0111】
式(6)・・・Tintbas=DMASCYL×K×HOSEI
前記補正係数HOSEIは、図30に示すように、高温時に1.0に設定され、低温になるほど1.0よりも大きな値に設定される。
前記補正係数HOSEIによる増量補正は、前記燃料噴射量(第1噴射量)Tiにおける前記各種補正係数COEF(水温増量率Ktw)などと同様に、前記補正分Tintbasを低温時ほど増大補正する。
【0112】
ステップS1102では、前記ステップS1007で設定した増減補正分担分Tveliを読み込み、次のステップS1103では、前記ステップS1008で設定した吸気行程噴射基本分担量Tveldefを読み込む。
ステップS1104では、第2噴射量Tintを、下式に従って算出する。
式(7)・・・Tint=Tveldef+Tintbas−Tveli
上記のように、第2噴射量Tintは、吸気行程噴射基本分担量Tveldefを基本量とし、第1噴射量を決定してからの空気量の変化分Tintbasだけ補正し、変化分Tintbasのうち第1噴射量の転嫁させた分であるTveliを減算補正する。
【0113】
前記増減補正分担分Tveliは、前述のように、Tveli=Tintbas×Ratioとして設定され、例えば、今回の第2噴射タイミングで求めたTintbasの所定割合が、次回の第1噴射に加算されるようになっており、この第1噴射量に加算したTveliだけ、第2噴射量を減算することで相殺し、総和として変化しないようにしている。
上記のように、増減補正分担分Tveliだけ第1噴射量を補正すれば、可変バルブリフト機構(VEL)112が動作して吸気バルブ105のバルブリフト量が変化し続ける状態において、該増大変化による第1噴射後のシリンダ吸入空気量の増大変化を予め見込んで、第1噴射量が補正されることになって、相対的に、第2噴射で噴射する必要がある燃料量が減ることになる。
【0114】
ここで、均質混合気の形成には、早いタイミングでの燃料噴射が望まれるから、必要な燃料量のうち第1噴射で噴射させる燃料量をなるべく多くすることで、混合気の均質化に寄与できる。
尚、第1噴射後のシリンダ吸入空気量の増大変化は、例えば、可変バルブリフト機構(VEL)112の動作速度から予測できるので、前記増減補正分担分Tveliを、可変バルブリフト機構(VEL)112の動作速度に応じて設定することで、第1噴射で噴射させる燃料量をなるべく多くすることが可能である。
【0115】
また、第2噴射量を相対的に減らすことで、第2噴射で噴射した燃料を吸気バルブ105が閉じるまでの間にシリンダ内に燃料を吸引させることができ、また、第2噴射量を決定するタイミングをなるべく遅くして、吸気バルブ105が閉じるまでの間におけるシリンダ吸入空気量の変化を精度良く推定させることができる。
但し、増減補正分担分Tveliが過剰であると、吸入空気量が変化する過渡運転から吸入空気量が殆ど変化しない定常運転に移行するときに、第1噴射量が過剰に補正されてしまう可能性があるので、前記比率Ratioは、第1噴射量の過剰補正にならないように、予め実験やシミュレーションによって適合される。
【0116】
尚、前記比率Ratioは固定値とすることができるが、例えばアクセル開度の変化速度や制御軸16の角速度などのシリンダ吸入空気量の変化速度に相関する状態量に基づいて可変に設定させることができ、この場合、シリンダ吸入空気量の変化速度が速くなる条件では、前記比率Ratioをより大きな値に設定する。
図31は、加速時におけるTi、Tintbas、Tveliの変化を示し、ここでは、比率Ratio=0.5としてある。
【0117】
加速時には、吸気行程噴射基本分担量Tveldefが、シリンダ吸入空気量の増大変化分だけ増量補正されて第2噴射量Tintが決定されることになる。
具体的には、加速の開始によって第2噴射の開始タイミングでTintbas=A(ms)が算出されると、そのときの第2噴射量は、Tint=Tveldef+A−0に決定され、次回の第1噴射量には、Tveli=A×0.5が加算される一方、その次の第2噴射の開始タイミングでTintbas=B(ms)が算出されると、Tint=Tveldef+B−A×0.5に決定される。
【0118】
更に、次の第1噴射においては、Tveli=B×0.5が加算される一方、その次の第2噴射の開始タイミングでTintbas=C(ms)が算出されると、Tint=Tveldef+C−B×0.5に決定される。
一方、減速時には、図32に示すように、吸気行程噴射基本分担量Tveldefがシリンダ吸入空気量の減少変化分だけ減量補正されることになり、第1噴射及び第2噴射のトータルでの噴射量が、第1噴射時の見込みよりも減量されることになる。
【0119】
尚、減速運転によるバルブリフト量の減少に伴ってバルブ作動角が減少するので、減速運転時には吸気バルブ105の閉時期が進角変化することになり、第1噴射の開始タイミングにおいて決定した第2噴射のタイミングになった時点で、既に吸気バルブ105が閉じている可能性がある。
この場合には、第2噴射を行わないようにすることで、実質的には、吸気行程噴射基本分担量Tveldefだけ燃料量を減量したことになり、減速によって過剰となる燃料の噴射を抑制して、実際の吸入空気量に対する噴射量の制御精度を高めることができる。
【0120】
ステップS1104で上記のようにして、第2噴射量Tintを算出すると、ステップS1105では、前記第2噴射量Tintに相当するパルス幅の噴射パルス信号をそのときに吸気行程である気筒の燃料噴射弁121に出力して、燃料噴射を開始させる。
また、次のステップS1106では、次回の第1噴射量Tiを、今回算出された補正分Tintbasに基づいて補正させるべく、今回算出された補正分Tintbasを記憶する。
【0121】
上記実施形態によると、第1噴射の開始タイミング(第1噴射量Tiの決定タイミング)から吸気バルブ105が閉じられるまでの間における、可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の変化分だけ第2噴射量を補正することで、当該サイクルにおけるトータルの燃料噴射量が補正される。
従って、第1噴射の開始タイミング(第1噴射量Tiの決定タイミング)から吸気バルブ105が閉じられるまでの間において、可変バルブリフト機構(VEL)112が動作しても、実際のシリンダ吸入空気量に略見合った燃料を噴射させることができ、空燃比ずれによる排気性状の悪化や、動力性能の低下を抑制できる。
【0122】
尚、可変バルブリフト機構(VEL)112に機械的な異常が生じ、目標バルブリフトに収束させることができなくなっている場合や応答速度が大幅に低下したりしている場合、更に、前記制御軸16の角度を検出する作動角センサ206が故障している場合などの可変動弁系のシステム異常時には、第2噴射を停止させ、第1噴射量Ti=Tp×COEF+Tvelp+Tvels+Tsとして第1噴射のみを行わせるか、第2噴射量をフェール状態用の限界値以下に制限するようにする。
【0123】
可変バルブリフト機構(VEL)112の応答速度によって第2噴射で補正される可能性のある量が異なるので、そのときの応答速度に応じて予測される第2噴射で補正される可能性のある量に基づいて前記限界値を設定することができる。
上記のように、可変動弁系のシステム異常時に第2噴射を制限することで、第2噴射量が誤って設定されることによる空燃比ずれの発生を抑制でき、また、均質混合気の生成が第2噴射で妨げられることを回避できる。
【0124】
また、前記吸気行程噴射基本分担量Tveldefの設定を省略し(Tveldef=0に固定し)、加速時における追加噴射としての第2噴射を補正分Tintbasに基づいて行わせることができ、更に、前記Tveliによる第1及び第2噴射量の補正を省略することができる。
更に、吸気行程後期の第2噴射のタイミングは、第2噴射で噴射される燃料を燃焼室内に均質に分布させるためには、なるべく早い時期とすることが望まれる一方、吸気バルブ105の閉時期に近い方が、第1噴射後の可変バルブリフト機構(VEL)112の動作によるシリンダ吸入空気量の変化を高精度に捉えることができる。
しかし、吸気バルブ105の閉時期に近づき過ぎると、第2噴射で噴射させた燃料の全てをその回の吸気行程で燃焼室内に吸引させることができなくなってしまう。
そこで、上記のような噴射タイミングに要求される条件を加味しつつ、第2噴射のタイミングを設定する。
【0125】
また、加速による追加噴射の要求時にのみ第2噴射を行わせ、加速時以外は、第2噴射を停止させ、第1噴射のみで混合気を形成させることができ、これによって、混合気の均質性を向上させることができる。
更に、本実施形態では、前記吸気バルブ通過体積流量比WQH0VELの変化に基づいて、第1噴射後の吸入空気量の変化分を検出したが、例えば、実際の吸気バルブ通過体積流量比RQH0VELの変化や、前記可変バルブリフト機構(VEL)112の制御軸16の角度(制御量)やアクチュエータ(DCサーボモータ)201の操作量の変化に基づいて、第2噴射量を決定することができる。
【0126】
尚、バルブリフト量を連続的に可変とする機構は、前記可変バルブリフト機構(VEL)112に限定されるものではなく、可変動弁機構のアクチュエータもDCサーボモータに限定されず、例えばブラシレスモータなどであってもよく、第2噴射量は、適用される可変動弁機構の制御量又は操作量の変化から設定させることができる。
また、上記実施形態では、第1噴射を排気行程中に行わせるようにしたが、排気バルブ107の閉弁直後や吸気行程の初期(好ましくは吸気バルブ105の開弁直後)に、第1噴射を行わせることができる。
【0127】
また、可変動弁機構としての可変バルブリフト機構(VEL)112の構造を、図2〜図4に示した構造に限定するものではなく、吸気バルブ105の閉時期の進遅角制御によってエンジンの吸入空気量を制御する可変動弁機構であってもよい。
吸気バルブ105の閉時期の進遅角制御を行う可変バルブタイミング機構としては、前記図11に示した機構の他、特開2003−269124号公報に開示される、電磁リターダの磁力によってバルブ作動角の中心位相を進遅角制御する機構や、特開2003−184516号公報に開示される、渦巻き状ガイドに変位可能に案内係合される可動案内部を備えてなる機構や、更に、特開2008−025541号公報に開示される、モータによってカムシャフトを駆動する機構などの公知の機構を適宜採用できる。
【0128】
また、バルブリフト量を連続的に可変とする機構としては、例えば、特開2001−263015号公報に開示される機構を用いることができる。
前記特開2001−263015号公報に開示される機構は、コントロールシャフトと連動して移動可能なスライダギアと、カムシャフトのカムにより駆動される入力アームと、機関バルブをリフトさせる出力アームとを備え、コントロールシャフトの軸方向への移動に連動してスライダギアが軸方向に移動することで、スライダギアと入力アーム及び出力アームとの軸方向における相対位置が変化し、スライダギア上の入力アームと出力アームとが相対回転して、両者の相対位相差が変更され、機関バルブの作用角及びリフト量を連続的に変化させる機構である。
【0129】
更に、第1噴射の開始タイミングで決定した第2噴射の開始タイミングを、第1噴射後における吸気バルブ105の閉時期の変化に基づいて進遅角補正させることができる。
例えば、加速時でバルブリフト量が第1噴射後に増大変化する場合には、係る増大変化による吸気バルブ105の閉時期の遅角変化に対応して、第2噴射タイミングを第1噴射時の決定よりも遅角させ、減速時でバルブリフト量が第1噴射後に減少変化する場合には、係る減少変化による吸気バルブ105の閉時期の進角変化に対応して、第2噴射タイミングを第1噴射時の決定よりも進角させるようにする。
【0130】
具体的には、図27のブロック図に示した第2噴射タイミングの演算を、第1噴射後に繰り返し実行させ、最新に求めた第2噴射タイミングとそのときのクランク角との比較で第2噴射タミングを判断させることで行え、また、閉弁タイミングの進遅角速度を考慮して、進角速度が速い場合には、より閉弁タイミングから遠いクランク角を第2噴射タイミングとし、逆に、遅角速度が速い場合には、より閉弁タイミングから近いクランク角を第2噴射タイミングとすることができる。
【0131】
上記のようにして、第2噴射タイミングを補正すれば、第2噴射のタイミングと吸気バルブの閉弁タイミングとの相対位置が大きく変化することを抑制でき、以って、第1噴射後の吸入空気量変化を安定して推定でき、また、第2噴射で噴射させる燃料をその吸気行程で確実にシリンダ内に吸引させることができ、更に、安定した性能で混合気を形成させることができる。
【0132】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)前記第2噴射量の基本値が、前記エンジンの低回転時ほどより大きな値に設定されることを特徴とする請求項5記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
上記発明によると、第2噴射量の基本値が、エンジンの低回転時ほどより大きな値に設定され、係る基本値が、吸入空気量の変化分に応じて増減補正される。
【0133】
(ロ)前記第2噴射量の基本値が、前記エンジンの高負荷時ほどより大きな値に設定されることを特徴とする請求項5又は(イ)記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
上記発明によると、第2噴射量の基本値が、エンジンの高負荷時ほどより大きな値に設定され、係る基本値が、吸入空気量の変化分に応じて増減補正される。
【0134】
(ハ)吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンの燃料噴射制御装置であって、
前記燃料噴射弁により第1噴射量を噴射する第1噴射と、前記第1噴射の後であって吸気行程の後期に前記燃料噴射弁により第2噴射量を噴射する第2噴射とを行うと共に、
前記第2噴射量を、前記第1噴射量の演算後の前記可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変化分に応じて設定することを特徴とするエンジンの燃料噴射制御装置。
【0135】
上記発明によると、燃料噴射が、吸気行程の後期での第2噴射と、該第2噴射よりも前の第1噴射との2回に分けて実行され、第1噴射における第1噴射量と第2噴射における第2噴射量との総和によりそのサイクルにおける混合気形成がなされる。
ここで、吸気行程の後期に行われる第2噴射では、第1噴射における第1噴射量の演算後に可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変動分に応じて設定される第2噴射量を噴射する。
【0136】
即ち、第1噴射量を演算するタイミング(例えば排気行程)で、そのときの可変動弁機構の制御状態に対応するシリンダ吸入空気量に基づいて燃料噴射量を決定しても、その後に可変動弁機構が動作して吸気バルブの開特性が変化するとシリンダ吸入空気量が変化し、第1噴射量の演算タイミングで判断した要求噴射量から変化してしまう。
そこで、第1噴射量の演算後の可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変化分に応じて、吸気行程の後期に噴射させる第2噴射量を設定させることで、第1噴射量と第2噴射量との総和が、吸気バルブの閉弁時に確定するその吸気行程でのシリンダ吸入空気量に対応し、目標空燃比の混合気が得られる燃料量になるようにした。
【0137】
従って、第1噴射で噴射される燃料によって混合気の均質化を図りつつ、可変動弁機構によって吸気バルブの開特性が変更される過渡運転状態において、シリンダ吸入空気量に対して燃料噴射量の過不足が生じて、実際の空燃比が目標空燃比からずれてしまうことを抑制又は防止でき、過渡運転時における排気性状及び動力性能を改善できる。
【0138】
(ニ)前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から推定される吸入空気量と、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から推定される吸入空気量との偏差に基づいて、前記第2噴射量を設定することを特徴とする請求項(ハ)記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
上記発明によると、第1噴射量の演算タイミングから第2噴射量の演算タイミングまでの間における吸入空気量の変化分が、可変動弁機構の制御量から予測され、前記変化分に基づき第2噴射量が設定される。
【0139】
(ホ)前記第2噴射量の演算タイミングが、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から推定される前記吸気バルブの閉時期を基準に設定され、前記閉時期に対する、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から推定される前記吸気バルブの閉時期の変化率を演算し、該変化率に基づき前記偏差を補正して、前記第2噴射量を設定することを特徴とする請求項(ニ)記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
上記発明によると、第1噴射量の演算タイミングから吸気バルブの閉時期までの吸入空気量の変化分を求め、前記変化分に基づき第2噴射量が設定される。
【符号の説明】
【0140】
101…エンジン、104…電子制御スロットル、105…吸気バルブ、112…可変バルブリフト機構(VEL)、114…可変バルブタイミング機構(VTC)、115…コントロールユニット(C/U)、116…アクセル開度センサ、117…エアフローメータ(AF/M)、118…クランク角センサ、119…カム角センサ、120…スロットルセンサ、121…燃料噴射弁、201…アクチュエータ(DCサーボモータ)、206…作動角センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、
前記燃料噴射弁により第1噴射量を噴射する第1噴射と、前記第1噴射の後であって吸気行程の後期に前記燃料噴射弁により第2噴射量を噴射する第2噴射とを行い、
前記第2噴射量を、前記第1噴射量の演算後の前記可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変化分に基づいて補正する燃料噴射制御装置であって、
前記第2噴射量の演算タイミングが、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期を基準に設定され、
前記閉時期に対する、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期の変化率、及び、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量と、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量との偏差に基づき、前記第2噴射量を設定することを特徴とするエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から前記吸気バルブの閉時期を推定し、前記吸気バルブの閉時期からエンジン回転速度が高いほど進角した時期を、前記第2噴射量の演算タイミングに設定し、該演算タイミングにおいて、前記第2噴射量を演算し、かつ、前記第2噴射量を噴射する第2噴射を開始することを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記吸入空気量の変化分に見合う燃料噴射量の所定割合だけ、次回の前記第1噴射における第1噴射量を補正すると共に、前記第1噴射量を補正した分が相殺されるように、前記第2噴射量を補正することを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記第2噴射量の基本値が予め設定され、前記吸入空気量の変化分に応じて前記基本値を増減補正して前記第2噴射量を決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記第2噴射量の基本値が、前記エンジンの運転状態に応じて決定されることを特徴とする請求項4記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記第1噴射量の演算タイミングにおけるエンジンの要求噴射量から前記第2噴射量の基本値を減算した量を前記第1噴射量とすることを特徴とする請求項4又は5記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記吸入空気量の変化分への対応が不要である場合に、前記第2噴射を行わないことを特徴とする請求項1,2,4〜6のいずれか1つに記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項8】
可変動弁系のシステム異常の発生状態で、前記吸入空気量の変化分に対応する燃料噴射量の補正設定を制限することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項1】
吸気バルブの上流側に燃料噴射弁を備えると共に、前記吸気バルブの開特性を可変とする可変動弁機構を備えたエンジンにおいて、
前記燃料噴射弁により第1噴射量を噴射する第1噴射と、前記第1噴射の後であって吸気行程の後期に前記燃料噴射弁により第2噴射量を噴射する第2噴射とを行い、
前記第2噴射量を、前記第1噴射量の演算後の前記可変動弁機構の動作で生じる吸入空気量の変化分に基づいて補正する燃料噴射制御装置であって、
前記第2噴射量の演算タイミングが、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期を基準に設定され、
前記閉時期に対する、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく前記吸気バルブの閉時期の変化率、及び、前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量と、前記第2噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量に基づく吸入空気量との偏差に基づき、前記第2噴射量を設定することを特徴とするエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記第1噴射量の演算タイミングにおける前記可変動弁機構の制御量から前記吸気バルブの閉時期を推定し、前記吸気バルブの閉時期からエンジン回転速度が高いほど進角した時期を、前記第2噴射量の演算タイミングに設定し、該演算タイミングにおいて、前記第2噴射量を演算し、かつ、前記第2噴射量を噴射する第2噴射を開始することを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記吸入空気量の変化分に見合う燃料噴射量の所定割合だけ、次回の前記第1噴射における第1噴射量を補正すると共に、前記第1噴射量を補正した分が相殺されるように、前記第2噴射量を補正することを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記第2噴射量の基本値が予め設定され、前記吸入空気量の変化分に応じて前記基本値を増減補正して前記第2噴射量を決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記第2噴射量の基本値が、前記エンジンの運転状態に応じて決定されることを特徴とする請求項4記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記第1噴射量の演算タイミングにおけるエンジンの要求噴射量から前記第2噴射量の基本値を減算した量を前記第1噴射量とすることを特徴とする請求項4又は5記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記吸入空気量の変化分への対応が不要である場合に、前記第2噴射を行わないことを特徴とする請求項1,2,4〜6のいずれか1つに記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項8】
可変動弁系のシステム異常の発生状態で、前記吸入空気量の変化分に対応する燃料噴射量の補正設定を制限することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載のエンジンの燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2011−140961(P2011−140961A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97523(P2011−97523)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2008−97013(P2008−97013)の分割
【原出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2008−97013(P2008−97013)の分割
【原出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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