説明

キャリアプレート成型用金型およびキャリアプレートの成型方法

【課題】キャリアプレート成型の際に発生するプレートの曲がりを回避した極めて作業性の優れたキャリアプレート用金型およびその成型方法を提供すること。
【解決手段】キャリアプレートを形成する金属製のプレート体1の厚さ方向に貫通形成されている多数の貫通通路4内に当該貫通通路4の内面との間にシリコーンゴムからなる弾性部材を充填して弾性壁を形成する空間を介して挿入される通孔形成ピン12aが立設されているキャリアプレート成型用金型であって、少なくとも前記通孔形成ピン12aおよび通孔形成ピン12aを立設した金型12の表面にPTFE共析無電解ニッケルめっきが施されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサーや抵抗器等のチップ部品の両端に、例えば、銀やパラジウム等の金属のコーティングを施して接点を形成する際に、当該チップ部品を整列支持するために用いるキャリアプレートの成型するためのキャリアプレート成型用金型およびキャリアプレートの成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンデンサーや抵抗器等のチップ部品の両端に接点を形成する際に、当該チップ部品を整列支持するために用いられているキャリアプレートは、金属製の矩形のプレート体の厚さ方向に貫通する多数の貫通通路を、プレート体の平面に並列させて貫通形成し、これらの各通路の内壁面に弾性部材をもって弾性壁を形成することにより構成されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このようなキャリアプレートとしては、アルミニウムなどからなるプレート体と弾性壁を形成する弾性部材からなり、弾性部材としてはシリコーンゴムが多用されている。
【0004】
通常、キャリアプレートの成型用金型は、上型もしくは下型に通孔形成ピンを立設した金型の表面に、ゴムとの離型性を確保するためと防錆のためにハードクロムメッキを施して形成されている。
【0005】
そして、キャリアプレートは、前記成型用金型に厚さ方向に貫通する多数の貫通通路を有した金属製の矩形のプレート体を配設した後に、貫通通路と通孔形成ピンとの間の空間内に液状シリコーンゴムを注入し、当該シリコーンゴムを加熱加硫させて弾性部材を成形した後に脱型する工程によって成型されている(例えば、特許文献2の第2図、特許文献3、特許文献4の図8)。
【0006】
【特許文献1】特公昭62−11488号公報
【特許文献2】特開昭63−76412号公報
【特許文献3】特開2004−17549号公報
【特許文献4】特開2006−344826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キャリアプレートの成型において、ゴムとアルミプレートとの離型が悪いと、プレートの金型からの脱型時にプレートが変形してしまい、平面度が確保できないという不具合があった。キャリアプレートの脱型時にプレートが曲がる原因は、成型時にゴムと密着している通孔形成ピンとを剥がす際の抜け荷重が大きいためである。この抜け荷重は、通孔形成ピンの数と径に依存する。すなわち通孔形成ピンの数が多いほど、かつ通孔形成ピンの径が大きいほどゴムとの接触面積が大となるために抜け荷重が大きくなる。実際に033−7370キャリアプレート(穴径が0.033インチ(0.838mm)の貫通孔が7370個開設されているキャリアプレート)においては、抜け荷重が2500Kgfにまで達する。このような大きな負荷が脱型時にかかるためプレートが曲がってしまうのである。そのためキャリアプレートの材質は曲がり対策のためアルミニウムのA5052などではなく、剛性が鉄並に強いアルミニウムのA7075が標準的に使用されている。
【0008】
しかしながら、アルミニウムA7075を適用しても、穴数が6000個を超えるキャリアプレートにおいては曲がりが発生するため、プレートの変形を起こさない成型方法が望まれていた。
【0009】
本発明は、これらの点に鑑みてなされたものであり、キャリアプレート成型の際に発生するプレートの曲がりを回避した極めて作業性の優れたキャリアプレート用金型およびその成型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前述した目的を達成するために鋭意研究した結果、少なくとも通孔形成ピンおよび通孔形成ピンを立設した金型の表面にPTFE共析無電解ニッケルめっきを施すことによりキャリアプレート成型の際に発生するプレートの曲がりを回避できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明のキャリアプレート成型用金型は、キャリアプレートを形成する金属製のプレート体の厚さ方向に貫通形成されている多数の貫通通路内に当該貫通通路の内面との間にシリコーンゴムからなる弾性部材を充填して弾性壁を形成する空間を介して挿入される通孔形成ピンが立設されているキャリアプレート成型用金型であって、少なくとも前記通孔形成ピンおよび通孔形成ピンを立設した金型の表面にPTFE共析無電解ニッケルめっきが施されていることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明のキャリアプレートの成型方法は、本発明の前記キャリアプレート成型用金型に形成されている通孔形成ピンを金属製のプレート体の厚さ方向に貫通形成されている多数の貫通通路内に挿入させ、当該貫通通路の内面と通孔形成ピンとの間に形成された空間内にシリコーンゴムからなる弾性部材を充填して弾性壁を形成し、その後キャリアプレートを脱型することを特徴とする。
【0013】
このような本発明のキャリアプレート成型用金型を用いて本発明のキャリアプレートの成型方法によってキャリアプレートを成型すると、キャリアプレート成型の際に発生するプレートの曲がりを確実に回避することができ、作業性も優れたものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のキャリアプレート成型用金型およびキャリアプレートの成型方法は前記のように構成され、作用するものであるので、キャリアプレート成型の際に発生するプレートの曲がりを確実に回避することができ、作業性にも優れている等の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を図によって説明する。
【0016】
図1は、本発明にによって成型するキャリアプレートの1例を示す斜視図であり、その一部を切断して示している。
【0017】
ここでキャリアプレートは、金属製の矩形のプレート体1の厚さ方向に貫通する多数の貫通通路4を、プレート体1の平面に並列させて貫通形成し、これらの貫通通路4の内壁面にシリコーンゴムからなる弾性部材2で弾性壁を形成して構成されている。プレート体1の外側フレーム3の端部には位置決め孔6が形成されており、ここでキャリアプレートが位置決め固定される。そしてこのキャリアプレートでは、各貫通通路4における弾性部材2の中心の貫通孔5にコンデンサーや抵抗器等のチップ部品が挿入支持される。図1において貫通孔5の配置は理解の便のために、誇張して示してある。
【0018】
図2は本発明のキャリアプレート成型用金型の1実施形態およびキャリアプレートの成型方法に用いる金型群を示している。
【0019】
図2に示すように、キャリアプレートを成型する場合には、上型11と下型12とによって中型13に支持されたプレート体4を上下から挟持し、シリコーンゴムを注入することにより行なわれる。
【0020】
更に説明すると、本実施形態においては、上型11と下型12とのうち下型12に必要な数の通孔形成ピン12aを立設している。この通孔形成ピン12aは、キャリアプレートを形成する金属製のプレート体1の厚さ方向に貫通形成されている多数の貫通通路4内に挿入されて、貫通通路4の内面との間にシリコーンゴムからなる弾性部材を充填して弾性壁を形成する空間を形成するものである。本実施形態においては、更に、下型12の少なくとも通孔形成ピン12aおよび通孔形成ピン12aを立設した下型12の表面にPTFE共析無電解ニッケルめっきを施してある。また、上型11のキャリアプレートと接する表面にもPTFE共析無電解ニッケルめっきを施してある。
【0021】
ここで、PTFE共析無電解ニッケルめっきとは、無電解ニッケルめっき中に粒径が1μm以下のフッ素樹脂であるPTFE(四フッ化エチレン樹脂)の微粒子を均一に分散共析させたもので、フッ素樹脂の含有量は3〜13wt%程度の範囲である。
【0022】
PTFE共析無電解ニッケルめっきとしては、カニフロンA(フッ素樹脂含有量3〜5wt%)、カニフロンB(フッ素樹脂含有量6〜8.5%)、カニフロンS(フッ素樹脂含有量10.4〜12.8wt%)(以上、日本カニゼン株式会社製商品名)が例示される。
【0023】
本発明においてメッキ厚は特に指定されるものではないが、通常の無電解ニッケルめっきと同様に3〜20μm程度の範囲で適用される。3μm以下では金型からの離型効果が発揮しえず、また20μmを超える厚さを施しても離型性向上効果はないので、経済的に得策ではないが、通孔形成ピン径の微調整のために、例えば35μmというような極端に厚いめっき厚を施してもよい。
【0024】
通常はPTFE共析無電解ニッケルめっきを施した後、素材とめっき層との密着性を改善するために180〜340℃で1〜24時間の熱処理を施すが、本発明においては必ずしも熱処理を必要とはしないが、熱処理によりめっき皮膜硬度(ビッカース)が、例えば350度から500度に硬くなるので、金型の耐久性向上のためには高温で熱処理をすることが望ましい。
【0025】
なお、図2の実施形態においては、下型12のみに通孔形成ピン12aを立設した金型を使用するが、通孔形成ピンはこの配置に限定されるものではない。例えば、脱型時の抜け荷重を低減しキャリアプレートにかかる負荷を軽減するために、上型11と下型12の通孔形成ピンの立設数比を7:3〜3:7以内の数比にして上下に通孔形成ピンを分離して形成した金型を用いてもよい。
【実施例】
【0026】
つぎに、本発明のキャリアプレート成型用金型を用いて本発明のキャリアプレートの成型方法によってキャリアプレートを成型する場合を実施例に基づいて説明する。成型されるキャリアプレートは033−7370キャリアプレートであり、矩形に形成されたキャリアプレートに7370個の貫通孔を開設したものである。
【0027】
実施例1
本実施例1においては、図2に示すように、直径が0.82mmの通孔形成ピン12aを7370本(縦67本×横110本)を下型12に立設し、少なくとも通孔形成ピン12aおよび通孔形成ピン12aを立設した下型12の表面にPTFE共析無電解ニッケルめっきとしてカニフロンAを厚さ5μmにめっき処理し、320℃で4時間熱処理した下型12を用意した。また、上型11のキャリアプレートと接する表面にも同様にPTFE共析無電解ニッケルめっきとしてカニフロンAを厚さ5μmにめっき処理し、320℃で4時間熱処理した上型11を用意した。
【0028】
次に、成型方法を説明する。
【0029】
図2に示すように、アルミニウム製の矩形状のプレート体1の厚さ方向に貫通する多数の貫通通路4をプレート体1の平面に並列させて貫通形成したプレート1aを用意し、一組の金型の中型13にこのプレート1aを入れて保持する。続いて、下型12のノックピン14によって中型13および上型11とを位置合わせしながら、上型11と下型12との間に中型13を挟み込む。これにより、プレート1aに形成されている各貫通通路4内に、下型12の対向する面に立設されている通孔形成ピン12aが下方から挿入された状態になる。また、上型11にはゴム注入ゲート15が形成される。続いて、ゴム注入ゲート15を通して液状シリコーンゴムとしての付加型シリコーンゴム(本実施例においては商品名:KE1950−50A/B(信越化学工業株式会社製))をトランスファー成型により各貫通通路4内に注入し、その後液状シリコーンゴムを120℃で加熱加硫させて固化させる。その後、上型11を図2に示した一組の金型から脱型させ、その次に、中型13をイジェクターピン(図示せず)によって押し上げて下型12を中型13より脱型させた。この脱型後、ゴム成型の終了したキャリアプレートを中型13から取り出して平面度を測定したところ、0.05mm以下であり、曲がりがないことがわかった。これにより曲がりのない033−7370キャリアプレートが成型された。
【0030】
実施例2
前記実施例1のめっき処理の代わりにカニフロンBによって上型11および下型12にめっき処理を施す以外は実施例1と同様にキャリアプレートを成型した。
【0031】
この脱型後、ゴム成型の終了したキャリアプレートを中型13から取り出して平面度を測定したところ、0.05mm以下であり、曲がりがないことがわかった。これにより曲がりのない033−7370キャリアプレートが成型された。
【0032】
実施例3
前記実施例1のめっき処理の代わりにカニフロンSによって上型11および下型12にめっき処理を施す以外は以外は実施例1と同様にキャリアプレートを成型した。
【0033】
この脱型後、ゴム成型の終了したキャリアプレートを中型13から取り出して平面度を測定したところ、0.05mm以下であり、曲がりがないことがわかった。これにより曲がりのない033−7370キャリアプレートが成型された。
【0034】
実施例4
前記実施例1においてカニフロンAを厚さ20μmでめっき処理を施す以外は実施例1と同様にキャリアプレートを成型した。
【0035】
この脱型後、ゴム成型の終了したキャリアプレートを中型13から取り出して平面度を測定したところ、0.05mm以下であり、曲がりがないことがわかった。これにより曲がりのない033−7370キャリアプレートが成型された。
【0036】
実施例5
前記実施例1において金型に対してカニフロンAを厚さ5μmでめっき処理した後、200℃で2時間熱処理した以外は実施例1と同様にキャリアプレートを成型した。
【0037】
この脱型後、ゴム成型の終了したキャリアプレートを中型13から取り出して平面度を測定したところ、0.05mm以下であり、曲がりがないことがわかった。これにより曲がりのない033−7370キャリアプレートが成型された。
【0038】
比較例1
前記実施例1における金型に対するカニフロンAのめっき処理の代わりに、フッ素樹脂を含有しない無電解ニッケルめっきでめっき処理した以外は実施例1と同様にキャリアプレートを成型した。
【0039】
この脱型後、ゴム成型の終了したキャリアプレートを中型13から取り出して平面度を測定したところ、0.15mmを超えており、曲がりが大きく実用使用できないことがわかった。
【0040】
比較例2
前記実施例1における金型に対するカニフロンAのめっき処理の代わりに、ハードクロムめっきでめっき処理した以外は実施例1と同様にキャリアプレートを成型した。
【0041】
この脱型後、ゴム成型の終了したキャリアプレートを中型13から取り出して平面度を測定したところ、0.15mmを超えており、曲がりが大きく実用使用できないことがわかった。
【0042】
以上の結果から、キャリアプレートの成型金型において、少なくとも通孔形成ピンおよび通孔形成ピンの立設面にPTFE共析無電解ニッケルめっきを施すことにより、キャリアプレートの曲がりを抑えることができることがわかった。
【0043】
これに対し、通常の無電解メッキもしくはハードクロムめっきを施した場合には、キャリアプレートの曲がりが大きく実用使用が困難となることがわかった。
【0044】
前記各実施例の結果より、キャリアプレート成型金型において、少なくとも通孔形成ピンおよび通孔形成ピンの立設面にPTFE共析無電解ニッケルめっきを施こすことにより、脱型時の離型性が向上するため、曲がりを抑えることができることがわかった。
【0045】
なお、本発明は前記各実施例に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。例えば、前記実施例においては成型をトランスファー成型によって行なったが、圧縮成型や射出成型等によってキャリアプレートを製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るキャリアプレートの一例を示す要部の一部切断斜視図
【図2】本発明に係るキャリアプレートの成型金型の斜視図
【符号の説明】
【0047】
1 プレート本体
2 電子部品支持体
3 外側フレーム
4 プレート体の孔
5 貫通孔
6 位置決め孔
11 上型
12 下型
12a 通孔形成ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアプレートを形成する金属製のプレート体の厚さ方向に貫通形成されている多数の貫通通路内に当該貫通通路の内面との間にシリコーンゴムからなる弾性部材を充填して弾性壁を形成する空間を介して挿入される通孔形成ピンが立設されているキャリアプレート成型用金型であって、少なくとも前記通孔形成ピンおよび通孔形成ピンを立設した金型の表面にPTFE共析無電解ニッケルめっきが施されていることを特徴とするキャリアプレート成型用金型。
【請求項2】
請求項1に記載のキャリアプレート成型用金型に形成されている通孔形成ピンを金属製のプレート体の厚さ方向に貫通形成されている多数の貫通通路内に挿入させ、当該貫通通路の内面と通孔形成ピンとの間に形成された空間内にシリコーンゴムからなる弾性部材を充填して弾性壁を形成し、その後キャリアプレートを脱型することを特徴とするキャリアプレートの成型方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−238451(P2008−238451A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78786(P2007−78786)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000143307)株式会社荒井製作所 (100)
【Fターム(参考)】