説明

サスペンションの制御装置及び制御方法

【課題】運転者が要求する操縦安定性とその他の乗員が要求する乗り心地との両立を図る。
【解決手段】車体と各車輪との相対運動を抑制する減衰力を増減可能なダンパが設けられたサスペンションの制御装置において、車体の運動状態に基づいて目標減衰力を設定するスカイフック制御ベース値設定部61と、操作スイッチ15による乗員の指示操作、及び乗員の乗車状態を判別する乗車状態判別部67での判別結果の少なくとも一方に基づいて、操縦安定性及び乗り心地の要求度合いに関する車両特性を設定する車両特性設定部63と、この車両特性設定手段により設定された車両特性に応じて、減衰力設定手段により設定された目標減衰力を、車輪の各々に設けられたダンパごとに補正する減衰力補正部64と、を備えたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各車輪と車体との相対運動を抑制する減衰力を増減可能なダンパが設けられたサスペンションの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のサスペンションでは、近年、車両の操縦安定性や各乗員の乗り心地を向上させるために、減衰力を増減可能な減衰力可変ダンパが採用されている。
【0003】
この種の減衰力可変ダンパの制御では、各車輪ごとのダンパの減衰力を個別に制御すると共に、各車輪ごとのダンパの伸縮速度が互いに同一になるように各々の減衰係数を設定するようにした技術が知られている(特許文献1参照)。これによると、乗員がいずれの座席に着座していても同じ乗り心地を確保することができ、また前後左右の車輪で荷重移動の速度が均一になるため、旋回時の操縦安定性も確保することができる。
【特許文献1】特開2005−41289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、運転者が要求する操縦安定性を実現するために、ダンパの減衰力を大きく設定すると、各車輪ごとの減衰力が全体的に増大するため、他の乗員にとっては乗り心地が悪化する虞があり、反対に他の乗員が要求する乗り心地を重視して減衰力を小さく設定すると、レスポンスの悪い操作性となって操縦安定性が低下する虞がある。このように、従来の技術では、運転者が要求する操縦安定性とその他の乗員が要求する乗り心地との両立を図ることが困難である。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、運転者が要求する操縦安定性とその他の乗員が要求する乗り心地との両立を図ることができるように構成されたサスペンションの制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明では、請求項1に示すとおり、車体(1)と各車輪(3)との相対運動を抑制する減衰力を増減可能なダンパ(4)が設けられたサスペンションの制御装置において、前記車体の運動状態に基づいて目標減衰力を設定する減衰力設定手段(スカイフック制御ベース値設定部61)と、乗員の指示操作、及び乗員の乗車状態を判別する乗車状態判別手段(乗車状態判別部67)での判別結果の少なくとも一方に基づいて、操縦安定性及び乗り心地の要求度合いに関する車両特性を設定する車両特性設定手段(車両特性設定部63)と、この車両特性設定手段により設定された車両特性に応じて、前記減衰力設定手段により設定された目標減衰力を、前記車輪の各々に設けられた前記ダンパごとに補正する減衰力補正手段(減衰力補正部64)と、を備えたものとした。
【0007】
これによると、操縦安定性及び乗り心地の要求度合いに関する車両特性に基づいて各ダンパごとの減衰力を個別に増減補正するため、運転者が要求する操縦安定性とその他の乗員が要求する乗り心地との両立を図ることができる。
【0008】
例えば、車両特性設定手段により設定された車両特性が操縦安定性優先の場合、前輪側のダンパの目標減衰力が大きくなるように増大補正することで、運転者のステアフィールの悪化を抑制して、操縦安定性を向上させることができる。他方、車両特性設定手段により設定された車両特性が乗り心地優先の場合、後輪側のダンパの目標減衰力が小さくなるように低減補正することで、高周波の車体上下加速度が減少し、乗心地を向上させることができる。
【0009】
また、乗員の指示操作に基づいて車両特性を設定するため、乗員の操縦安定性及び乗り心地に関する嗜好の違いに対応することができる。また、乗員の乗車状態を判別する乗車状態判別手段での判別結果に基づいて車両特性を設定するため、乗員の乗車状態に応じて適切な操縦安定性及び乗り心地を確保することができる。
【0010】
この場合、減衰力補正手段は、車両特性設定手段により設定された車両特性に基づいて、目標減衰力に対する補正量、例えば乗算により補正する場合には補正率(補正ゲイン)を求め、この補正量で目標減衰力を補正すれば良い。
【0011】
前記サスペンションの制御装置においては、請求項2に示すとおり、前記ダンパの減衰力に関する車体姿勢制御及び制振制御が並行して実行され、前記車両特性設定手段により設定された車両特性が乗り心地優先の場合、車体姿勢制御を操縦安定性優先としたままで、制振制御に係る前記減衰力補正手段が、前記ダンパの目標減衰力が小さくなるように低減補正する構成とすることができる。
【0012】
これによると、操縦安定性への寄与の高い車体姿勢制御(ロール制御及びピッチ制御)を操縦安定性優先とする一方で、乗り心地への寄与の高いばね上及びばね下の制振制御(スカイフック制御)でダンパの目標減衰力を低減補正することで、操縦安定性を確保しつつ乗り心地を向上させることができる。
【0013】
前記サスペンションの制御装置においては、請求項3に示すとおり、前記減衰力補正手段は、操縦安定性及び乗り心地の双方を要求する車両特性である場合に、前輪側の前記ダンパの目標減衰力が大きくなるように増大補正すると共に、後輪側の前記ダンパの目標減衰力が小さくなるように低減補正する構成とすることができる。
【0014】
これによると、運転者の感じる操縦安定性の低下を抑えつつ後部座席の乗員に対する乗り心地の向上を図ることができる。
【0015】
前記サスペンションの制御装置においては、請求項4に示すとおり、前記車両特性設定手段は、前記乗車状態判別手段により乗員が後部座席に座っていないものと判別された場合に、車両特性を操縦安定性優先に設定し、前記減衰力補正手段は、前輪側及び後輪側の双方のダンパの目標減衰力が大きくなるように増大補正する構成とすることができる。
【0016】
これによると、乗員が後部座席に座っていないことから、後部座席の乗員に対する乗り心地を確保する必要がなく、一方、運転者は操縦安定性を重視することから、前輪側及び後輪側の双方の減衰力を増大させて操縦安定性を向上させることで、運転者の要望を満足させることができる。
【0017】
この場合、各座席を撮影する座席撮影手段と、各座席の荷重を検出する座席荷重検出手段と、を備え、乗車状態判別手段は、座席撮影手段の撮影画像及び座席荷重検出手段の検出荷重に基づいて、各座席に着座する乗員の有無を判別するものとすれば良い。これによると、後部座席の乗員の有無を精度良く判別することができる。
【0018】
前記サスペンションの制御装置においては、請求項5に示すとおり、乗員に車両特性を選択させる乗員操作手段(操作スイッチ15)を備え、前記車両特性設定手段は、前記乗車状態判別手段により判別された乗員の乗車状態より優先して、前記操作スイッチにより指定された車両特性を採用する構成とすることができる。
【0019】
これによると、乗車状態判別手段により判別された乗員の乗車状態に応じた車両特性と、操作スイッチを用いた乗員の指示操作により指定された車両特性とが異なる場合に、乗員の指示操作を優先させて、乗員の嗜好に適合するように車両特性を設定するため、乗員に満足感を与えることができる。
【0020】
また、本発明では、請求項6に示すとおり、車体と各車輪との相対運動を抑制する減衰力を増減可能なダンパが設けられたサスペンションの制御方法において、前記車体の運動状態に基づいて目標減衰力を設定する減衰力設定過程と、乗員の指示操作、及び乗員の乗車状態を判別する乗車状態判別過程での判別結果の少なくとも一方に基づいて、操縦安定性及び乗り心地の要求度合いに関する車両特性を設定する車両特性設定過程と、この車両特性設定過程により設定された車両特性に応じて、前記減衰力設定過程により設定された目標減衰力を、前記車輪の各々に設けられた前記ダンパごとに補正する減衰力補正過程と、を有するものとした。
【0021】
これによると、操縦安定性及び乗り心地の要求度合いに関する車両特性に基づいて各ダンパごとの減衰力を個別に増減補正するため、運転者が要求する操縦安定性とその他の乗員が要求する乗り心地との両立を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
このように本発明によれば、操縦安定性及び乗り心地の要求度合いに関する車両特性に基づいて各ダンパごとの減衰力を個別に増減補正するため、運転者が要求する操縦安定性とその他の乗員が要求する乗り心地との両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明が適用される4輪自動車の概略構成を示す模式図である。ここで、4つの車輪やそれらに対して配置された部材、すなわち、タイヤやサスペンション等については、それぞれ数字の符号に前後左右を示す添字を付して、例えば、車輪3fl(左前)、車輪3fr(右前)、車輪3rl(左後)、車輪3rr(右後)と記す一方、総称する場合には、例えば、車輪3と記す。
【0025】
この車両Vは、タイヤ2が装着された前後左右の4つの車輪3を備えており、これら各車輪3がサスペンションアームや、スプリング、ダンパ4等からなるサスペンション5によって車体1に懸架されている。
【0026】
また、この車両Vには、サスペンションシステムの制御主体であるECU(Electronic Control Unit)7や、EPS(Electric Power Steering:電動パワーステアリング)8が設置され、さらに車速を検出する車速センサ9、横加速度を検出する横Gセンサ10、前後加速度を検出する前後Gセンサ11、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ12等が車体1の適所に設置されるとともに、ダンパ4の伸縮量を検出するストロークセンサ13と、ホイールハウス付近の上下加速度を検出する上下Gセンサ14とが各車輪3ごとに設置されている。
【0027】
ECU7は、マイクロコンピュータやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、各種ドライバ等から構成されており、通信回線(CAN(Controller Area Network))を介して各車輪3のダンパ4や各センサ9〜14と接続されている。
【0028】
ダンパ4は、磁気粘性流体(Magneto-Rheological Fluid:以下、MRFと記す)を作動流体とする減衰力可変型ダンパであり、ECU7にて、センサ9〜14の検出結果に基づいて、各車輪3のダンパ4ごとの減衰力が個別に制御される。
【0029】
図2は、図1に示したダンパ4の縦断面図である。このダンパ4は、モノチューブ式(ド・カルボン式)であり、MRFが充填された円筒状のシリンダチューブ21と、このシリンダチューブ21に対して軸方向に相対動するピストンロッド22と、ピストンロッド22の先端に装着されてシリンダチューブ21内を上部油室24と下部油室25とに区画するピストン26と、シリンダチューブ21の下部に高圧ガス室27を画成するフリーピストン28と、ピストンロッド22等への塵埃の付着を防ぐカバー29と、フルバウンド時における緩衝を行うバンプストップ30とを主要構成要素としている。
【0030】
シリンダチューブ21は、下端のアイピース21aに嵌挿されたボルト31を介して、車輪側部材であるトレーリングアーム35の上面に連結されている。また、ピストンロッド22は、上下一対のブッシュ36とナット37とを介して、その上端のスタッド22aが車体側部材であるダンパベース(ホイールハウス上部)38に連結されている。
【0031】
ピストン26には、上部油室24と下部油室25とを連通する連通路39と、この連通路39に沿って配置された磁気流体バルブ(Magnetizable Liquid Valve:以下、MLVと記す)を構成するMLVコイル40とが設けられている。ECU7からMLVコイル40に電流が供給されると、連通路39を通過するMRFに磁界が印可されて強磁性微粒子が鎖状のクラスタを形成し、連通路39内を通過するMRFの見かけ上の粘度が上昇し、これに応じて減衰力が増大する。
【0032】
図3は、図1に示した車両Vにおける操作スイッチ、座席撮影カメラ及び座席荷重センサの配設状況を示す模式図である。この車両Vには、各座席Sf・Srに着座する乗員に車両特性を選択させる操作スイッチ(乗員操作手段)15と、各座席Sf・Srを撮影する座席撮影カメラ(座席撮影手段)16と、各座席Sf・Srに作用する荷重を検出する座席荷重センサ(座席荷重検出手段)17とが設けられている。この操作スイッチ15、座席撮影カメラ16及び座席荷重センサ17はECU7と接続されている。
【0033】
図4は、図1に示したECU7における減衰力制御に係る要部の概略構成を示すブロック図である。図5は、図4に示したスカイフック制御部57の概略構成を示すブロック図である。図6は、本発明における車両特性の一例を示す図である。図7は、図4に示した駆動電流設定部で用いられる目標電流マップである。
【0034】
ECU7は、図4に示すように、上述した各センサ9〜17等が接続する入力インタフェース51と、各センサ9〜12・14、並びに操作スイッチ15、座席撮影カメラ16及び座席荷重センサ17等からの入力信号に基づき各ダンパ4の目標減衰力を設定する減衰力設定部52と、減衰力設定部52で設定された目標減衰力とストロークセンサ13の検出結果とに応じて各ダンパ4(MLVコイル40)への駆動電流を設定する駆動電流設定部53と、駆動電流設定部53で設定された駆動電流を各ダンパ4に出力する出力インタフェース54とを有している。
【0035】
減衰力設定部52は、スカイフック制御部57と、ロール制御部58と、ピッチ制御部59とを有している。ロール制御部58及びピッチ制御部59は、車両の旋回時のローリングや車両の急加速時や急減速時のピッチングを抑えて車体の姿勢を適正化する車体姿勢制御を行うものであり、ここでは操縦安定性を優先した設定で目標減衰力が求められる。スカイフック制御部57は、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑えて乗り心地を高める乗り心地制御(制振制御)を行うものであり、ここでは、以下に説明するように、操縦安定性及び乗り心地の優先度合いに関する車両特性に応じて目標減衰力が増減される。
【0036】
スカイフック制御部57は、図5に示すように、スカイフック制御ベース値設定部(ベース値設定手段)61と、ばね上速度算出部62と、車両特性設定部(車両特性設定手段)63と、減衰力補正部(減衰力補正手段)64とを有している。減衰力補正部64は、ゲイン設定部65と、スカイフック目標値算出部66とを有している。これらは、各ダンパ4ごとの目標減衰力を求めるために必要に応じて各ダンパ4ごとの演算を行う。
【0037】
スカイフック制御ベース値設定部61は、車速センサ9による車速、及び上下Gセンサ14による上下加速度等に基づいてスカイフック制御ベース値を設定する。ばね上速度算出部62は、上下Gセンサ14による上下加速度を積分してばね上速度を算出する。ゲイン設定部65は、ばね上速度算出部62から入力したばね上速度と、車両特性設定部63から入力した車両特性とに基づいて、各ダンパ4ごとの補正ゲインを設定する。スカイフック目標値算出部66は、スカイフック制御ベース値設定部61から入力したスカイフック制御ベース値にゲイン設定部65で設定された補正ゲインを乗じて、各ダンパ4ごとのスカイフック制御目標値を算出する。
【0038】
車両特性設定部63は、乗員の乗車状態を判別する乗車状態判別部(乗車状態判別手段)67を備えており、この乗車状態判別部67の判別結果に基づいて車両特性を設定する。この乗車状態判別部67では、各座席Sf・Srを撮影する座席撮影カメラ16による撮影画像の画像解析により座席Sf・Sr上に何らかの物体があるか否かを識別し、さらに座席荷重センサ17の検出結果を加味して、各座席Sf・Srに着座する乗員の有無を判別する。
【0039】
また、車両特性設定部63では、乗員の指示操作に応じて操作スイッチ15から出力される信号に基づいて車両特性を設定する。ここでは、乗車状態判別部67により判別された乗員の乗車状態より優先して、操作スイッチ15により指定された車両特性を採用する。
【0040】
操作スイッチ15は、図3に示したように、各座席Sf・Srの近傍に配置され、各座席Sf・Srに着座する乗員が好みに応じて車両特性を選択することができる。このように操作スイッチ15により乗員ごとに車両特性の選択権を与えることで、乗車状態判別部67により判別された乗員の乗車状態に基づく車両特性と異なる車両特性を乗員が求めた場合や、他の乗員と異なる車両特性を乗員が求めた場合に、各自の座席Sf・Srの近傍の操作スイッチ15により所望の車両特性を選択することができる。
【0041】
ところで、車両特性は、図6に示すように、前輪側3fl・3fr及び後輪3rl・3rr側の減衰力を、ハード、ミドル及びソフトの3段階に調整する場合、合計9つのモードが考えられる。ハードでは、ゲイン設定部65で補正ゲインが高く設定され、目標減衰力が大きくなるように増大補正される。ソフトでは、ゲイン設定部65で補正ゲインが低く設定され、目標減衰力が小さくなるように低減補正される。
【0042】
前輪3fl・3fr側をハードとして、前輪3fl・3fr側の目標減衰力が大きくなるように増大補正すると、運転者のステアフィールの悪化を抑制して、操縦安定性を確保することができる。他方、後輪3rl・3rr側をソフトとして、後輪3rl・3rr側の目標減衰力が小さくなるように低減補正すると、高周波の車体上下加速度が減少し、乗心地を向上させることができる。
【0043】
ここで、乗車状態判別部67により判別された乗員の乗車状態に基づく車両特性が操縦安定性優先(ハード)で、後部座席Srの乗員が操作スイッチ15により乗り心地優先(ソフト)を選択した場合、あるいはこれと逆に乗員の乗車状態に基づく車両特性が乗り心地優先(ソフト)で、運転者が操作スイッチ15により操縦安定性優先(ハード)を選択した場合、また運転者が操作スイッチ15により操縦安定性優先(ハード)を選択し、且つ後部座席Srの乗員が操作スイッチ15により乗り心地優先(ソフト)を選択した場合には、操縦安定性及び乗り心地の双方が要求される。
【0044】
この場合には、前輪3fl・3fr側の目標減衰力が大きくなるように増大補正すると共に、後輪3rl・3rr側の目標減衰力が小さくなるように低減補正する(モード7)。これにより運転者の感じる操縦安定性の低下を極力抑えつつ後部座席の乗員に対する乗り心地の向上を図ることができる。
【0045】
また、乗車状態判別部67により乗員が後部座席に座っていないものと判別された場合には、車両特性を操縦安定性優先に設定し、前輪3fl・3fr側及び後輪3rl・3rr側の双方の目標減衰力が大きくなるように増大補正する(モード9)。この場合、乗員が後部座席Srに座っていないことから、後部座席Srの乗員に対する乗り心地を確保する必要がなく、一方、運転者は操縦安定性を重視することから、前輪3fl・3fr側及び後輪3rl・3rr側の双方の減衰力を増大させて操縦安定性を向上させることで、運転者の要望を満足させることができる。
【0046】
この例では、前輪3fl・3fr側と後輪3rl・3rr側とで目標減衰力の補正ゲインを変えるものとしたが、さらに左右で補正ゲインを変えることも可能である。この場合、左右の座席の乗員同士で異なる車両特性を求めた場合、各乗員が求める車両特性に基づく減衰力特性で乗員の近傍のダンパ4を動作させることで、各乗員に各自の好みに応じた乗り心地を提供することが可能になる。
【0047】
なお、左右のダンパ4で減衰力が異なると、車両の旋回時の車両挙動に影響を及ぼすことから、車両の直進時に限定して左右のダンパ4で減衰力を変えるようにすると良い。
【0048】
このようにしてスカイフック制御部57にて目標減衰力が求められるが、これに並行してロール制御部58、及びピッチ制御部59でも目標減衰力が求められ、ダンパ4が伸び側に作動している場合には、スカイフック制御、ロール制御、及びピッチ制御で求められた3つの目標減衰力のうち値が最も大きいものが目標減衰力として採用され、またダンパ4が縮み側に作動している場合には、3つの目標減衰力のうち値が最も小さいものが目標減衰力として採用される。
【0049】
以上のようにして減衰力設定部52にて目標減衰力が設定されると、図4に示したように、駆動電流設定部53にて、減衰力設定部52で求めた目標減衰力と、ストロークセンサ13の検出値から求められるストローク速度とから、図7に示す目標電流マップを参照して目標電流が設定され、この目標電流に各ダンパ4のMLVコイル40の実電流が近づくようにフィードバック制御される。
【0050】
図8は、本発明による後輪側減衰力低減制御を行った場合の車体上下加速度の発生状況を示すグラフである。前記のように、後輪3rl・3rr側の減衰力を低減補正すると、高周波の車体上下加速度が減少することから、乗心地が向上し、また低周波の加速度が上昇することから、やわらかさ感を出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明が適用される4輪自動車の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1に示したダンパの縦断面図である。
【図3】図1に示した車両における操作スイッチ、座席撮影カメラ及び座席荷重センサの配設状況を示す模式図である。
【図4】図1に示したECUにおける減衰力制御に係る要部の概略構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示したスカイフック制御部の概略構成を示すブロック図である。
【図6】本発明における車両特性の一例を示す図である。
【図7】図4に示した駆動電流設定部で用いられる目標電流マップである。
【図8】本発明による後輪側減衰力低減制御を行った場合の車体上下加速度の発生状況を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1 車体
3 車輪
4 ダンパ
7 ECU
15 操作スイッチ(乗員操作手段)
16 座席撮影カメラ(座席撮影手段)
17 座席荷重センサ(座席荷重検出手段)
52 減衰力設定部
53 駆動電流設定部
57 スカイフック制御部
58 ロール制御部
59 ピッチ制御部
61 スカイフック制御ベース値設定部(減衰力設定手段)
63 車両特性設定部(車両特性設定手段)
64 減衰力補正部(減衰力補正手段)
65 ゲイン設定部
66 スカイフック目標値算出部
67 乗車状態判別部(乗車状態判別手段)
V 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と各車輪との相対運動を抑制する減衰力を増減可能なダンパが設けられたサスペンションの制御装置であって、
前記車体の運動状態に基づいて目標減衰力を設定する減衰力設定手段と、
乗員の指示操作、及び乗員の乗車状態を判別する乗車状態判別手段での判別結果の少なくとも一方に基づいて、操縦安定性及び乗り心地の要求度合いに関する車両特性を設定する車両特性設定手段と、
この車両特性設定手段により設定された車両特性に応じて、前記減衰力設定手段により設定された目標減衰力を、前記車輪の各々に設けられた前記ダンパごとに補正する減衰力補正手段と、を備えたことを特徴とするサスペンションの制御装置。
【請求項2】
前記ダンパの減衰力に関する車体姿勢制御及び制振制御が並行して実行され、
前記車両特性設定手段により設定された車両特性が乗り心地優先の場合、車体姿勢制御を操縦安定性優先としたままで、制振制御に係る前記減衰力補正手段が、前記ダンパの目標減衰力が小さくなるように低減補正することを特徴とする請求項1に記載のサスペンションの制御装置。
【請求項3】
前記減衰力補正手段は、操縦安定性及び乗り心地の双方を要求する車両特性である場合に、前輪側の前記ダンパの目標減衰力が大きくなるように増大補正すると共に、後輪側の前記ダンパの目標減衰力が小さくなるように低減補正することを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のサスペンションの制御装置。
【請求項4】
前記車両特性設定手段は、前記乗車状態判別手段により乗員が後部座席に座っていないものと判別された場合に、車両特性を操縦安定性優先に設定し、
前記減衰力補正手段は、前輪側及び後輪側の双方のダンパの目標減衰力が大きくなるように増大補正することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のサスペンションの制御装置。
【請求項5】
乗員に車両特性を選択させる乗員操作手段を備え、
前記車両特性設定手段は、前記乗車状態判別手段により判別された乗員の乗車状態より優先して、前記操作スイッチにより指定された車両特性を採用することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のサスペンションの制御装置。
【請求項6】
車体と各車輪との相対運動を抑制する減衰力を増減可能なダンパが設けられたサスペンションの制御方法であって、
前記車体の運動状態に基づいて目標減衰力を設定する減衰力設定過程と、
乗員の指示操作、及び乗員の乗車状態を判別する乗車状態判別過程での判別結果の少なくとも一方に基づいて、操縦安定性及び乗り心地の要求度合いに関する車両特性を設定する車両特性設定過程と、
この車両特性設定過程により設定された車両特性に応じて、前記減衰力設定過程により設定された目標減衰力を、前記車輪の各々に設けられた前記ダンパごとに補正する減衰力補正過程と、を有することを特徴とするサスペンションの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−227036(P2009−227036A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73438(P2008−73438)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】