説明

ハイブリッド車両の制動装置およびハイブリッド車両の負圧蓄圧制御装置

【課題】 ハイブリッド車両の制動装置において、効率よく負圧を蓄圧し、かつ確実かつ安定的に負圧を提供する。
【解決手段】 ハイブリッド車両の制動装置は、エンジン11の駆動に伴って発生される負圧を蓄圧し、この負圧によって運転者のブレーキ踏力を助勢する負圧式ブースタ34を有する液圧ブレーキ装置Aと、負圧式ブースタ34に蓄圧されている負圧を検出する負圧計38と、車両の加速状態を検出するアクセル開度センサ25および車両速度を検出する車輪速度センサ26〜29と、これらアクセル開度センサ25および車輪速度センサ26〜29によって検出された車両の動作状態に応じてエンジン11が駆動される際に、負圧式ブースタ34に蓄圧されている負圧が低下している場合には、負圧の蓄圧を優先するようにエンジン11を制御するハイブリッドECU23とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータによって車両の駆動力を発生させるハイブリッド車両の制動装置に関し、特に、エンジンの駆動に伴って発生される負圧を蓄圧し、この負圧によって運転者のブレーキ踏力を助勢する助勢手段を有する液圧ブレーキ装置を備えた制動装置に関し、また、負圧蓄圧を制御する負圧蓄圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のハイブリッド車両の制動装置においては、エンジン2の吸気系に接続され、エンジン2の吸気によって負圧pを得るブレーキ負圧装置16と、ブレーキセンサ14によってブレーキ操作を検出すると、エンジン2のスロットル開度θを調節して十分な負圧を発生させるように制御を行う制御手段9とを有しており、さらに、スロットル開度θの変化によって生ずるエンジントルクの変動は、モータトルクを制御することによって補正する制御も行われている(特許文献1参照)。具体的には、車両制御装置10は、ブレーキセンサ14からブレーキ踏み込み量βが入力されると、ブレーキ負圧装置の負圧pが十分に得られるように、スロットル開度θを決定し、スロットル開度θの変更によって変動したエンジントルクの変動分を補正するように、モータトルクTM* を決定する。このような決定に基づいて、車両制御装置10は、決定されたスロットル開度θを指示するスロットル開度信号をエンジン制御装置11へ供給し、上記決定されたモータトルクTM* をモータ制御装置12へ供給する。これにより、ブレーキ操作時のブレーキ負圧が確保され、かつブレーキ操作を行っても制動力には変化は生じないようになっている。したがって、負圧発生装置を別途設けることなく、ブレーキ負圧を得ることができるようになっている。
【特許文献1】特開平8−317507号公報(第3−7頁、図1−3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したハイブリッド車両の制動装置においては、ブレーキ操作時にエンジン2の吸気によってブレーキ負圧を確保しているが、ブレーキ操作時にエンジン2が駆動していない場合には、ブレーキ負圧を確保するためにわざわざエンジン2を駆動させる必要があった。又は、常時エンジン2が駆動している前提であった。
【0004】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、ハイブリッド車両の制動装置において、効率よく負圧を蓄圧し、かつ確実かつ安定的に負圧を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、駆動力を発生させるエンジンおよびモータを備えたハイブリッド車両の制動装置であって、エンジンの駆動に伴って発生される負圧を蓄圧し、この負圧によって運転者のブレーキ踏力を助勢する助勢手段を有する液圧ブレーキ装置と、助勢手段に蓄圧されている負圧を検出する負圧検出手段と、車両の動作状態を検出する動作状態検出手段と、この動作状態検出手段によって検出された車両の動作状態に応じてエンジンが駆動される際に、助勢手段に蓄圧されている負圧が低下している場合には、負圧の蓄圧を優先するようにエンジンを制御する制御手段とを備えたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、車両の動作状態が車両の走行状態であることである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、制御手段は、車両の走行状態が加速状態である場合、運転者の要求加速に対して、エンジンの寄与度を減少させてそれにより負圧を増大させるとともに、エンジン以外の駆動源の寄与度を増加させて減少されたエンジンの寄与分を補償して全体としての車両の加速度を確保することである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、運転者の加速操作に合わせてエンジンを駆動するとともに、負圧が所定値に到達するまでエンジンを停止しないことである。
【0009】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、制御手段は、車両の走行状態が高速走行中である場合、エンジンの寄与度を減少させてそれにより負圧を増大させるとともに、エンジン以外の駆動源の寄与度を増加させて減少されたエンジンの寄与分を補償して全体としての車両の駆動力を確保することである。
【0010】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、車両の動作状態が車両に搭載されている機器の動作状態であることである。
【0011】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項6において、制御手段は、車両に搭載されている機器の動作状態が車両に搭載されているバッテリの充電状態である場合、エンジンの駆動によって充電されるバッテリに対する充電速度を通常より減少させてそれにより負圧を増大させることである。
【0012】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項7において、バッテリの充電状態に合わせてエンジンを駆動するとともに、負圧が所定値に到達するまでエンジンを停止しないことである。
【0013】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項8の何れか一項において、車両がスタンバイ状態になった後であってエンジンを最初に駆動させた場合、負圧が所定値に到達するまでエンジンを停止しないことである。
【0014】
請求項10に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項8の何れか一項において、運転者による制動操作中であって助勢手段に蓄圧されている負圧が低下した場合には、助勢手段によって発生される制動力を抑制してその減少分を他の制動力発生手段によって補償することである。
【0015】
請求項11に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項8の何れか一項において、運転者による制動操作中であって助勢手段に蓄圧されている負圧が低下した場合には、エンジンを駆動して負圧を蓄圧するとともに、制動力としてはエンジンによるエンジンブレーキの寄与度を増加させその分回生ブレーキの寄与度を減少させるとともに負圧発生能力も向上させることである。
【0016】
請求項12に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項11の何れか一項において、エンジンを所定時間駆動させても助勢手段に所定値の負圧が蓄圧されない場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことである。
【0017】
請求項13に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項11の何れか一項において、助勢手段の負圧が漏れている場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことである。
【0018】
請求項14に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項11の何れか一項において、液圧ブレーキ装置はブレーキ加圧手段を備え、このブレーキ加圧手段が失陥した場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことである。
【0019】
請求項15に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項11の何れか一項において、液圧ブレーキ装置はブレーキ加圧手段を備え、このブレーキ加圧手段が失陥した場合には、エンジンを常時駆動させて助勢手段の負圧を確保することである。
【0020】
請求項16に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項11の何れか一項において、助勢手段に所定値の負圧が蓄圧されない場合であって、その負圧では運転者の要求制動力を満たすことができない場合には、その不足分を他の制動力発生手段によって補償することである。
【0021】
請求項17に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項11の何れか一項において、車両がスタンバイ状態になった後であって運転者による一回目の制動操作時に助勢手段の機能を検査することである。
【0022】
請求項18に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、エンジンによって直動される負圧ポンプをさらに備え、この負圧ポンプによって負圧を発生させることである。
【0023】
請求項19に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、負圧増加装置をさらに備え、この負圧増加装置によって負圧を高めることである。
【0024】
請求項20に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、エンジンによって負圧を発生させるインテークマニホールド、および負圧を高める負圧増加装置をさらに備える構成とし、インテークマニホールドおよび負圧増加装置のうち発生される負圧の大きいほうを自動的に選択する構成としたことである。
【0025】
請求項21に係る発明の構成上の特徴は、請求項1および請求項18乃至請求項20の何れか一項において、助勢手段とは別に負圧を蓄圧する蓄圧タンクをさらに備えたことである。
【0026】
請求項22に係る発明の構成上の特徴は、エンジンとモータによって車両の駆動力を発生させるとともに、エンジンの駆動に伴って発生される負圧を蓄圧し、この負圧によって運転者のブレーキ踏力を助勢する助勢手段を備えたハイブリッド車両の負圧蓄圧制御装置において、助勢手段の負圧が適正値であるか否かを判定する負圧判定手段と、車両の動作状態を判定する動作状態判定手段と、この動作状態判定手段によって判定された車両の動作状態に応じてエンジンが駆動される際に、負圧判定手段によって負圧が低下していると判定された場合には、負圧の蓄圧を優先するようにエンジンを制御する駆動力制御手段とを備えたことである。
【発明の効果】
【0027】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、制御手段が、動作状態検出手段によって検出された車両の動作状態に応じてエンジンが駆動される際に、助勢手段に蓄圧されている負圧が低下している場合には、負圧の蓄圧を優先するようにエンジンを制御する。したがって、他の要求によるエンジンの駆動中に負圧を蓄圧することができるので、効率よく負圧を蓄圧するとともに、これにより確実かつ安定的に負圧を提供することができる。
【0028】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、車両の動作状態が車両の走行状態であることにより、車両の走行状態が加速状態または高速走行中等のエンジン駆動の違和感を感じず確実に負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0029】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項2に係る発明において、制御手段は、車両の走行状態が加速状態である場合、運転者の要求加速に対して、エンジンの寄与度を減少させてそれにより負圧を増大させるとともに、エンジン以外の駆動源の寄与度を増加させて減少されたエンジンの寄与分を補償して全体としての車両の加速度を確保することにより、車両の加速フィーリングを損なうことなく負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0030】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項3に係る発明において、運転者の加速操作に合わせてエンジンを駆動するとともに、負圧が所定値に到達するまでエンジンを停止しないことにより、確実に所定量の負圧を確保することができる。
【0031】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項2に係る発明において、制御手段は、車両の走行状態が高速走行中である場合、エンジンの寄与度を減少させてそれにより負圧を増大させるとともに、エンジン以外の駆動源の寄与度を増加させて減少されたエンジンの寄与分を補償して全体としての車両の駆動力を確保することにより、車両の高速走行フィーリングを損なうことなく負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0032】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1に係る発明において、車両の動作状態が車両に搭載されている機器の動作状態であることにより、その機器が所定の動作状態である場合であっても、確実に負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0033】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項6に係る発明において、制御手段は、車両に搭載されている機器の動作状態が車両に搭載されているバッテリの充電状態である場合、エンジンの駆動によって充電されるバッテリに対する充電速度を通常より減少させてそれにより負圧を増大させることにより、バッテリ充電中に負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0034】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項7に係る発明において、バッテリの充電状態に合わせてエンジンを駆動するとともに、負圧が所定値に到達するまでエンジンを停止しないことにより、確実に所定量の負圧を確保することができる。
【0035】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項1乃至請求項8の何れか一項に係る発明において、車両がスタンバイ状態になった後であってエンジンを最初に駆動させた場合、負圧が所定値に到達するまでエンジンを停止しないことにより、最初のエンジン駆動以降に実施される車両の制動のために必要な負圧を最初のエンジン駆動中に確実に確保することができ、負圧を安定的に提供することができる。
【0036】
上記のように構成した請求項10に係る発明においては、請求項1乃至請求項8の何れか一項に係る発明において、運転者による制動操作中であって助勢手段に蓄圧されている負圧が低下した場合には、助勢手段によって発生される制動力を抑制してその減少分を他の制動力発生手段によって補償することにより、制動操作中に助勢手段の作動による負圧の消費を抑制することができるとともに、車両全体として要求どおりの制動力を確保することができる。
【0037】
上記のように構成した請求項11に係る発明においては、請求項1乃至請求項8の何れか一項に係る発明において、運転者による制動操作中であって助勢手段に蓄圧されている負圧が低下した場合には、エンジンを駆動して負圧を蓄圧するとともに、制動力としてはエンジンによるエンジンブレーキの寄与度を増加させその分回生ブレーキの寄与度を減少させることにより、不必要に制動力を増大させることなく車両全体として要求どおりの制動力を確保することができる。また、エンジンブレーキにより負圧発生能力を向上できる。
【0038】
上記のように構成した請求項12に係る発明においては、請求項1乃至請求項11の何れか一項に係る発明において、エンジンを所定時間駆動させても助勢手段に所定値の負圧が蓄圧されない場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことにより、助勢手段に十分に負圧が蓄圧されていないことを運転者に対して確実に警告することができる。
【0039】
上記のように構成した請求項13に係る発明においては、請求項1乃至請求項11の何れか一項に係る発明において、助勢手段の負圧が漏れている場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことにより、助勢手段に負圧を蓄圧できないことを運転者に対して確実に警告することができる。
【0040】
上記のように構成した請求項14に係る発明においては、請求項1乃至請求項11の何れか一項に係る発明において、液圧ブレーキ装置はブレーキ加圧手段を備え、このブレーキ加圧手段が失陥した場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことにより、ブレーキ加圧手段の失陥を運転者に対して確実に警告することができる。
【0041】
上記のように構成した請求項15に係る発明においては、請求項1乃至請求項11の何れか一項に係る発明において、液圧ブレーキ装置はブレーキ加圧手段を備え、このブレーキ加圧手段が失陥した場合には、エンジンを常時駆動させて助勢手段の負圧を確保することにより、少なくとも助勢手段によって助勢されたブレーキ踏力を制動力として確保することができる。
【0042】
上記のように構成した請求項16に係る発明においては、請求項1乃至請求項11の何れか一項に係る発明において、助勢手段に所定値の負圧が蓄圧されない場合であって、その負圧では運転者の要求制動力を満たすことができない場合には、その不足分を他の制動力発生手段によって補償することにより、車両全体の制動力を確実に確保することができる。
【0043】
上記のように構成した請求項17に係る発明においては、請求項1乃至請求項11の何れか一項に係る発明において、車両がスタンバイ状態になった後であって運転者による一回目の制動操作時に助勢手段の機能を検査することにより、早期に助勢手段の機能が正常であるか否かを確認することができる。
【0044】
上記のように構成した請求項18に係る発明においては、請求項1に係る発明において、エンジンによって直動される負圧ポンプをさらに備え、この負圧ポンプによって負圧を発生させることにより、エンジンだけでなく負圧ポンプによっても負圧を発生させるので、負圧発生能力を向上させることができる。
【0045】
上記のように構成した請求項19に係る発明においては、請求項1に係る発明において、負圧増加装置をさらに備え、この負圧増加装置によって負圧を高めることにより、エンジン駆動だけでなく負圧増加装置によってもより高い負圧を発生させるので、負圧発生能力を向上させることができる。
【0046】
上記のように構成した請求項20に係る発明においては、請求項1に係る発明において、エンジンによって負圧を発生させるインテークマニホールド、および負圧を高める負圧増加装置をさらに備える構成とし、インテークマニホールドおよび負圧増加装置のうち発生される負圧の大きいほうを自動的に選択する構成としたことにより、より効果的に負圧を蓄圧することができる。
【0047】
上記のように構成した請求項21に係る発明においては、請求項1および請求項18乃至請求項20の何れか一項に係る発明において、助勢手段とは別に負圧を蓄圧する蓄圧タンクをさらに備えたことにより、負圧蓄圧量をより多く稼ぐことができ、負圧をより安定に供給することができる。
【0048】
上記のように構成した請求項22に係る発明においては、負圧判定手段が助勢手段の負圧が適正値であるか否かを判定し、動作状態判定手段が車両の動作状態を判定し、駆動力制御手段が、動作状態判定手段によって判定された車両の動作状態に応じてエンジンが駆動される際に、負圧判定手段によって負圧が低下していると判定された場合には、負圧の蓄圧を優先するようにエンジンを制御する。したがって、他の要求によるエンジンの駆動中に負圧を蓄圧することができるので、効率よく負圧を蓄圧するとともに、これにより確実かつ安定的に負圧を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
1)第1の実施の形態
次に、上述した本発明によるハイブリッド車両の制動装置の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。図1はハイブリッド車両の概要を示す概要模式図であり、図2は液圧ブレーキ装置Aの概要を示す概要図である。ハイブリッド車両は、ハイブリッドシステムによって駆動輪例えば左右前輪FR,FLを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の駆動源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本実施の形態の場合、エンジン11およびモータ12の双方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。なお、これ以外にシリアルハイブリッドシステムがあるが、これはモータ12によって車輪が駆動され、エンジン11はモータ12への電力供給源として作用する。
【0050】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車両は、エンジン11およびモータ12を備えている。エンジン11の駆動力は、動力分割機構13および動力伝達機構14を介して駆動輪(本実施の形態では左右前輪FR,FL)に伝達されるようになっており、モータ12の駆動力は、動力伝達機構14を介して駆動輪に伝達されるようになっている。動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機駆動力に適切に分割するものである。動力伝達機構14は、走行条件に応じてエンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達するものである。動力伝達機構14はエンジン11とモータ12の伝達される駆動力比を0:100〜100:0の間で調整している。この動力伝達機構14は変速機能を有している。
【0051】
エンジン11は、各気筒(シリンダ)11aに空気および燃料を吸い込む大気に開口されている吸気管(インテークマニホールド)15を備えている。吸気管15の入口付近には吸い込む空気をろ過するためのエアフィルタ(図示省略)が設けられており、エアフィルタと気筒11aの間には吸い込む空気量を調節するためのスロットルバルブ16が設けられている。スロットルバルブ16はエンジンECU22の指令によるモータ17の作動によってアクセル開度(後述する)に応じて開閉されるようになっている。スロットルバルブ16の開度が小さいと、吸気管15に吸い込まれる空気が減少し吸気管15内の圧力が減少することにより、スロットルバルブ16から気筒11aまでの吸気管15内の負圧は増大する。一方スロットルバルブ16の開度が大きいと、吸気管15に吸い込まれる空気が増大し吸気管15内の圧力が増大することにより、スロットルバルブ16から気筒11aまでの吸気管15内の負圧は減少する。なお、負圧の増大とは吸気管15内の気圧が減少することをいい、負圧の減少とは吸気管15内の気圧が増加することをいう。
【0052】
モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ21を充電するものである。発電機18は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能を有する。これらモータ12および発電機18は、インバータ19にそれぞれ電気的に接続されている。インバータ19は、直流電源としてのバッテリ21に電気的に接続されており、モータ12および発電機18から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ21に供給したり、逆にバッテリ21からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12および発電機18へ出力したりするものである。
【0053】
エンジン11はエンジンECU(電子制御ユニット)22によって制御されており、エンジンECU22は後述するハイブリッドECU(電子制御ユニット)23からのエンジン出力要求値に従ってスロットルバルブ16に開度指令を出力し、エンジン11の回転数を調整する。ハイブリッドECU23は、インバータ19およびバッテリ21が接続されている。ハイブリッドECU23は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)などから必要なエンジン出力、モータトルクおよび発電機トルクを導出し、その導出したエンジン出力要求値をエンジンECU22に送信してエンジン11の駆動力を制御し、また導出したモータトルク要求値および発電機トルク要求値に従って、インバータ19を通してモータ12および発電機18を制御する。また、ハイブリッドECU23は、バッテリ21の充電状態、充電電流などを監視している。さらに、ハイブリッドECU23は、アクセルペダル24に組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ25も接続されており、アクセル開度センサ25からアクセル開度信号を入力している。ハイブリッドECU23は制御手段であり、駆動力制御手段である。さらに、ブレーキECU56は、各車輪FL,FR,RL,RR毎に各車輪速度の検出を行う車輪速度センサ26〜29が接続されており、これらの車輪速度センサ26〜29からの検出信号が入力されるようになっている。さらに、ハイブリッドECU23は、イグニッションスイッチ23aが接続されており、イグニッションスイッチ23aのオン・オフ信号が入力されるようになっている。
【0054】
また、ハイブリッド車両は、各車輪FR,FL,RR,RLに摩擦制動力を直接付与して車両を制動させる液圧ブレーキ装置Aを備えている。この液圧ブレーキ装置Aは、ブレーキ液圧によって制動力を付与するものであり、少なくとも静圧ブレーキ(ポンプ44,51によって発生する液圧ではなく、運転者の踏力によって発生する液圧に基づく制動力)を全輪に付与するものであり、車両の発進時、加速時および旋回中において車両の安定性を確保する機能(例えばVSC(ビークル・スタビリティ・コントロール)、TRC(トラクション・コントロール))を有するブレーキ液圧の作用によって制動力を付与するものである。
【0055】
液圧ブレーキ装置Aは、主として図2に示すように、ブレーキペダル31の踏込状態(踏力、すなわちブレーキ踏力)に応じた液圧のブレーキ油を生成して車輪FL,RR,RL,FRの回転を規制するホイールシリンダWC1〜WC4に供給するマスタシリンダ32と、ブレーキ油を貯蔵するリザーバタンク33と、ブレーキペダル31の踏力を助勢する助勢手段としての負圧式ブースタ(バキュームブースタ)34とを備えている。
【0056】
負圧式ブースタ34は、エンジン11の駆動に伴って発生される負圧を蓄圧し、この負圧によって運転者のブレーキ踏力(ブレーキペダル31を踏み込む力)を助勢するものである。この負圧式ブースタ34は、パワーピストン(図示省略)によって画成された負圧室と変圧室とを備え、ブレーキペダル31に連結されて連動する入力ロッド31aへの入力(ブレーキ踏力)によって、変圧室に大気を導入し、負圧室と変圧室との間に生じる差圧によってパワーピストンに推力を発生させて、ブレーキ踏力を助勢する。すなわちパワーピストンの作動によってマスタシリンダ32のマスタシリンダピストン32a,32bの作動が助勢されてブレーキ踏力に応じた液圧のブレーキ油が生成され、そのブレーキ油がマスタシリンダ32からホイールシリンダWC1〜WC4に供給されるようになっている。
【0057】
負圧式ブースタ34の負圧室は、負圧供給管35を介してエンジン11の吸気管15におけるスロットルバルブ16の下流に接続されている。負圧供給管35には、上流から(エンジン11の吸気管15側から)順番にチェック弁(逆止弁)36、負圧タンク37および負圧計(バキューム計)38が設けられている。チェック弁36は、負圧式ブースタ34側から吸気管15側への流体(空気)の流れのみを許容するものであり、負圧式ブースタ34および負圧タンク37に蓄圧した負圧を保ち、吸気管15から空気を流れ込ませないようにするものである。負圧タンク37は、負圧式ブースタ34とは別に負圧を蓄圧するものである。負圧計38は、負圧式ブースタ34(または負圧タンク37)内の負圧を検出するものであり、その検出信号をハイブリッドECU23に送信するものである。
【0058】
マスタシリンダ32の第1出力ポート32cは、電磁弁41,42が非通電状態(図示状態)にあるとき第1油路L1及び電磁弁41,42を介し左前輪FL用のホイールシリンダWC1に連通しているとともに、電磁弁41,43が非通電状態(図示状態)にあるとき第1油路L1及び電磁弁41,43を介して右後輪RR用のホイールシリンダWC2に連通している。電磁弁41は、通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWC1,WC2に対して第1油路L1を連通及び遮断するためのものであり、マスタシリンダカット手段として機能する。電磁弁42,43は、通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWC1,WC2に対して第1油路L1又は後述の第1高圧油路LH1を連通及び遮断するものである。
【0059】
液圧ブレーキ装置Aは、液圧供給源(ブレーキ加圧手段である)としてのポンプ44を備えている。ポンプ44はモータ44aによって駆動されている。ポンプ44の吸い込み口はブレーキ油を貯蔵する内蔵リザーバタンク45に連通しており、ポンプ44はそのブレーキ油を吸い込んで昇圧して吐出口から吐出している。ポンプ44の吐出口は、マスタシリンダカット手段である電磁弁41が非通電状態(図示状態)にあるとき第1高圧油路LH1、電磁弁41および第1油路L1を介してマスタシリンダ32に連通し、増圧手段である電磁弁42,43が非通電状態(図示状態)にあるとき第1高圧油路LH1および電磁弁42,43を介してホイールシリンダWC1,WC2に連通する。
【0060】
電磁弁42,43とホイールシリンダWC1,WC2の間からは、減圧手段である電磁弁46,47を介して内蔵リザーバタンク45に接続された第1低圧油路LL1が分流している。電磁弁46,47は、通電により切り換え制御されて、ホイールシリンダWC1,WC2に対して第1低圧油路LL1を連通および遮断するものである。
【0061】
マスタシリンダ32の第2出力ポート32dは、電磁弁48,49が非通電状態(図示状態)にあるとき第2油路L2及び電磁弁48,49を介し左後輪RL用のホイールシリンダWC3に連通しているとともに、電磁弁48,50が非通電状態(図示状態)にあるとき第2油路L2及び電磁弁48,50を介して右前輪FR用のホイールシリンダWC4に連通している。電磁弁48は、通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWC3,WC4に対して第2油路L2を連通及び遮断するためのものであり、マスタシリンダカット手段として機能する。電磁弁49,50は、通電により状態を切り換え制御されて、ホイールシリンダWC3,WC4に対して第2油路L2又は後述の第2高圧油路LH2を連通及び遮断するものである。
【0062】
液圧ブレーキ装置Aは、液圧供給源(ブレーキ加圧手段である)としてのポンプ51を備えている。ポンプ51はモータ44aによって駆動されている。ポンプ51の吸い込み口はブレーキ油を貯蔵する内蔵リザーバタンク52に連通しており、ポンプ51はそのブレーキ油を吸い込んで昇圧して吐出口から吐出している。ポンプ51の吐出口は、マスタシリンダカット手段である電磁弁48が非通電状態(図示状態)にあるとき第2高圧油路LH2、電磁弁48および第2油路L2を介してマスタシリンダ32に連通し、増圧手段である電磁弁49,50が非通電状態(図示状態)にあるとき第2高圧油路LH2および電磁弁49,50を介してホイールシリンダWC3,WC4に連通する。
【0063】
電磁弁49,50とホイールシリンダWC3,WC4の間からは、減圧手段である電磁弁53,54を介して内蔵リザーバタンク52に接続された第2低圧油路LL2が分流している。電磁弁53,54は、通電により切り換え制御されて、ホイールシリンダWC3,WC4に対して第2低圧油路LL2を連通および遮断するものである。
【0064】
また、液圧ブレーキ装置Aは、第1油路L1の油圧すなわちマスタシリンダ32の油圧(マスタシリンダ圧)を検出する液圧計55を備えている。液圧計55はハイブリッドECU23に接続されており、検出したマスタシリンダ32のマスタシリンダ圧を送信するようになっている。なお、図2にて破線で囲まれた部分の構成部材すなわち上述した電磁弁41〜43,46〜50,53,54、ポンプ44,51、モータ44a、内蔵リザーバタンク45,54、および液圧計55は1つの構造体に内蔵されており、この構造体をブレーキアクチュエータ40とする。
【0065】
上述した電磁弁41〜43,46〜50,53,54、およびモータ44aは、ブレーキECU56に電気的に接続されている。ブレーキECU56は、通常の制動制御、すなわちマスタシリンダカット手段(電磁弁41,48)を開きブレーキペダル31の踏み込み操作に応じて発生する液圧のブレーキ油をホイールシリンダWC1〜WC4に供給するようにして車両を制動する。また、ブレーキECU56は、ハイブリッドECU23に互いに通信可能に接続されており、各車輪FL,RR,RL,FRの各車輪速度に基づいて車輪がロックしないように増圧手段(電磁弁42,43,49,50)および減圧手段(電磁弁46,47,53,54)を開閉制御してアンチロックブレーキ制御を実行する。さらに、ブレーキECU56は、マスタシリンダカット手段を閉じブレーキペダル31の踏み込み操作に関係なく増圧手段および減圧手段を開閉制御して車両の走行時の安定性を保持する制御を実行する。さらに、ブレーキECU56は、車両の全制動力が液圧ブレーキだけの車両と同等となるようにモータ12が行う回生ブレーキと液圧ブレーキの協調制御を行っている。なお、液圧ブレーキはマスタシリンダ32に踏力によって発生する基礎液圧分とポンプ44,51の駆動により発生する制御液圧分から構成されている。
【0066】
次に、上記のように構成したハイブリッド車両の制動装置の作動、特に負圧蓄圧の制御について図3のフローチャートに沿って説明する。この負圧制御のうち車両の走行状態に応じて制御する場合について説明する。ハイブリッドECU23は、イグニッションスイッチ23aがオン状態であるか否かを判定し(ステップ102)、オフ状態である場合には、イグニッションスイッチ23aがオン状態となるまでステップ102の処理を繰り返し実行する。運転者によってイグニッションスイッチ23aが投入されると、ハイブリッドECU23は、エンジン11を起動させ(ステップ104)、その出力を制御する(ステップ106)。このとき、スロットルバルブ16が閉状態(全閉ではなくエンジン11のアイドリング状態を維持する程度の状態)となるようにモータ17を制御する。これにより、吸気管15に最大負圧を発生させることができる。
【0067】
イグニッションスイッチ23aを投入した直後においては、前回車両を停車させてから時間がかなり経過している場合など負圧式ブースタ34または負圧タンク37内の負圧は減少しているおそれがあり、そのままの状態で走行を開始して負圧が十分蓄圧されない状態で車両が制動されると、車両としては負圧による制動力を十分に得ることができない。これを防止するために、イグニッションスイッチ23aを投入した直後から所定の負圧を確保する処理を実行している。
【0068】
具体的には、イグニッションスイッチ23aを投入してもしばらく停車している場合、ハイブリッドECU23は、ステップ108にて走行状態情報(アクセル開度、車速など)を入力し、その情報に基づいて車両が加速状態でないと判定するとともに車両が高速走行中でないと判定し(ステップ110,112)、そして、負圧が不足状態であるすなわち負圧が所定値(制御開始圧)以下であるので、エンジン11の駆動状態を維持する(ステップ114,116)。エンジン11の駆動が継続すると、エンジン11の駆動に伴って負圧が蓄圧され、その負圧が所定値(制御終了(目標)圧)に到達すると、エンジン11の駆動を停止する(ステップ114〜118)。これにより、負圧が十分蓄圧されていないハイブリッド車両のイグニッションスイッチ23aを投入してもしばらく停車している場合、イグニッションスイッチ23aの投入直後に負圧を十分蓄圧することにより、イグニッションスイッチ23aの投入直後においても所定値の負圧を確実に確保することができる。なお、イグニッションスイッチ23aの投入時にすでに負圧が十分蓄圧されている場合には、前述した処理を行わない。すなわちステップ108〜ステップ116の処理を繰り返し実行しないで、ステップ116にてNOと判定しステップ118にてエンジン11の駆動を停止する。
【0069】
なお、ハイブリッドECU23は、ステップ114において、負圧情報すなわち負圧式ブースタ34または負圧タンク37の負圧を示す信号を負圧計38から入力する。ステップ116において、負圧が不足しているか否かを判定する。具体的にはステップ114にて入力した負圧が所定値(制御開始圧)以下であれば負圧が不足していると判定し、そうでなければ負圧が不足していないと判定する。なお、一旦負圧が不足であると判定した場合、負圧供給が開始されて負圧が増大し始めて制御開始圧より大きくなっても制御終了圧まで上昇しなければ、負圧が制御開始圧より大きい値であっても負圧が不足であると判定する。言い換えれば、負圧の蓄圧中においては、負圧が制御開始圧より大きい値であっても負圧が制御終了圧以下であれば負圧が不足であると判定し、そうでなければ負圧が不足していないと判定する。ステップ118において、駆動しているエンジン11を停止する。
【0070】
上述したように負圧が十分蓄圧されたハイブリッド車両の走行が開始された場合、ハイブリッドECU23は、車両の動作状態である車両の走行状態を入力し(ステップ108)、その走行状態に応じてエンジン11を駆動させている(ステップ110,112,120)。ハイブリッド車両の加速中または高速走行中においてはモータ12の駆動力だけでは車両全体として駆動力が不足する場合があり、その不足を補うために一般的に行われている。具体的には、ハイブリッドECU23は、ステップ108において、アクセル開度センサ25から車両のアクセル開度を示す信号を入力し、車輪速度センサ26〜29から各車輪の車輪速度を示す信号をブレーキECU56を通じて入力する。ステップ110において、車両を加速させようと運転者がアクセルペダル24を踏み込むので、アクセル開度が所定値以上であれば、ハイブリッドECU23は、車両が加速状態であると判定し、そうでなければ加速状態でないと判定する。なお、車両が加速中であるか否かを判断するパラメータとしては、アクセル開度だけでなく、車両に設けられた加速度センサによって検出される車両の加速度を使用するようにしてもよい。ステップ112において、車両速度が所定値以上であれば、ハイブリッドECU23は、車両が高速走行中であると判定し、そうでなければ高速走行中でないと判定する。なお、車両速度は、車輪速度センサ26〜29から入力した信号から導出した各車輪の車輪速度に基づいてそれらの平均を計算するなどして導出している。また、車両速度としては、車両に設けられた車速センサによって検出される車両速度を使用するようにしてもよい。
【0071】
ハイブリッドECU23は、エンジン11の駆動を伴っている車両の加速中または高速走行中において、負圧式ブースタ34または負圧タンク37の負圧が所定値(制御開始圧)より大きければ、エンジン11およびモータ12を通常のトルク配分にて制御する(ステップ122〜128)。一方、負圧式ブースタ34または負圧タンク37の負圧が所定値(制御開始圧)以下であれば、エンジン11およびモータ12を通常のトルク配分ではなくモータ12の寄与度を増大させたトルク配分にて制御する(ステップ122,124,130,128)。
【0072】
具体的には、ハイブリッドECU23は、ステップ122において、ステップ114と同様に負圧計38から負圧式ブースタ34または負圧タンク37の負圧を示す信号を入力し、ステップ124において、ステップ116と同様に負圧が不足しているか否かを判定する。ステップ126において、ハイブリッドECU23は、一般に行われているように、アクセル開度およびシフトポジションなどから必要な通常のエンジン出力トルクおよびモータトルクを導出する(または両トルクの通常の配分を導出する)。ステップ128において、ステップ126にて導出したエンジン出力要求値(エンジン出力トルク)をエンジンECU22に送信してエンジンECU22によってスロットルバルブ16を制御することによりエンジン11の出力(駆動力)を制御するとともに、導出したモータトルク要求値(モータトルク)に従って、インバータ19を通してモータ12の駆動電流を制御することによりモータ12の出力(駆動力)を制御する。
【0073】
ハイブリッドECU23は、ステップ130において、ステップ126と同様に通常のエンジン出力トルクおよびモータトルクを導出して、この導出結果に基づいてモータ12の寄与度を増大させたトルク配分とする。すなわち、車両走行に必要な全トルクのうちエンジン11の寄与度すなわちエンジン出力トルクを減少させ、減少されたエンジン11の寄与分(トルク分)を補償するためにエンジン11以外の駆動源であるモータ12の寄与度すなわちモータトルクを増加させるように、エンジン11およびモータ12の各トルクを設定する。
【0074】
例えば、図4に示すように、負圧式ブースタ34の負圧(ブースタ負圧)が不足していない場合には(時刻t1より前または時刻t3以降)、所定のアクセル開度およびシフト位置において、それらの状態に応じてスロットルバルブの開度(スロットル開度)がS1に設定され、すなわちエンジン出力(トルク)は通常のエンジン出力TE1に設定されるようになっている。この結果、吸気管15内の負圧(インマニ負圧)はPI1となっている。また、モータ出力(トルク)は通常のモータ出力TM1に設定されるようになっている。なお、エンジン11およびモータ12による駆動力の総和は、運転者の要求加速または要求走行に応じた車両の全駆動力となるようになっている。
【0075】
一方、ブースタ負圧が不足している場合には(時刻t1以降時刻t3までの間)、時刻t1より前と同じ所定のアクセル開度およびシフト位置において、エンジン出力(トルク)は通常のエンジン出力TE1より小さいTE2に設定されるとともにモータ出力(トルク)は通常のモータ出力TM1より大きいTM2に設定される。エンジントルクTE2を発生するためスロットル開度はS1より閉じた状態であるS2に設定され、この結果、吸気管15内の負圧はPI1より大であるPI2となる。なお、エンジントルクの減少量とモータトルクの増加量は同一となるように設定されておりそれにともなって制御されている。したがって、時刻t1から時刻t2または時刻t3から時刻t4の間において、エンジントルクの減少率とモータトルクの増加率の絶対値は同一であり、時刻t2から時刻t3の間において、エンジントルクとモータトルクは同一である。これにより、エンジン11およびモータ12による駆動力の総和は、運転者の要求加速または要求走行に応じた車両の全駆動力すなわち時刻t1より前と同一となるようになっている。
【0076】
なお、図4において、時刻t1は、減少していた負圧が制御開始圧以下となり、負圧蓄圧制御を開始した時刻であり、時刻t2はエンジン出力およびモータ出力がTE2およびTM2になった時刻であり、時刻t3は、増加していた負圧が制御終了圧以上となり、負圧蓄圧制御を終了した時刻であり、時刻t4はエンジン出力およびモータ出力がTE1およびTM1に戻った時刻である。
【0077】
これにより、ハイブリッドECU23は、車両の走行状態が加速状態である場合、運転者の要求加速に対して、エンジン11の寄与度を減少させてそれにより負圧を増大させるとともに、モータ12の寄与度を増加させて減少されたエンジン11の寄与分を補償して全体としての車両の加速度を確保している。また、車両の走行状態が高速走行中である場合、エンジン11の寄与度を減少させてそれにより負圧を増大させるとともに、モータ12の寄与度を増加させて減少されたエンジンの寄与分を補償して全体としての車両の駆動力を確保している。
【0078】
なお、イグニッションスイッチ23aの投入後の負圧の蓄圧中に車両の走行が開始された場合、ハイブリッドECU23は、必要に応じて上述したステップ122〜130の処理を実行し、また、加速または高速走行が終了し車両が加速中および高速走行中でないときにエンジン11を停止させることなく所定値の負圧を蓄圧する。
【0079】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態においては、ハイブリッドECU23が、動作状態検出手段であるアクセル開度センサ25、車輪速度センサ26〜29などによって検出された車両の動作状態に応じてエンジン11が駆動される際に、助勢手段である負圧式ブースタ34に蓄圧されている負圧が低下している場合には、負圧の蓄圧を優先するようにエンジン11を制御する。したがって、他の要求によるエンジン11の駆動中に負圧を蓄圧することができるので、効率よく負圧を蓄圧するとともに、これにより確実かつ安定的に負圧を提供することができる。
【0080】
また、車両の動作状態が車両の走行状態であることにより、車両の走行状態が加速状態または高速走行中等のエンジン駆動の違和感を感じず確実に負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0081】
また、ハイブリッドECU23は、車両の走行状態が加速状態である場合、運転者の要求加速に対して、エンジン11の寄与度を減少させてそれにより負圧を増大させるとともに、エンジン11以外の駆動源であるモータ12の寄与度を増加させて減少されたエンジン11の寄与分を補償して全体としての車両の加速度を確保することにより、車両の加速フィーリングを損なうことなく負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0082】
また、ハイブリッドECU23は、運転者の加速操作に合わせてエンジン11を駆動するとともに(ステップ110,112,120)、負圧が所定値(制御終了圧)に到達するまでエンジン11を停止しない(ステップ116,118)ことにより、確実に所定量の負圧を確保することができる。
【0083】
また、ハイブリッドECU23は、車両の走行状態が高速走行中である場合、エンジン11の寄与度を減少させてそれにより負圧を増大させるとともに、モータ12の寄与度を増加させて減少されたエンジン11の寄与分を補償して全体としての車両の駆動力を確保することにより、車両の高速走行フィーリングを損なうことなく負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0084】
また、上述した実施の形態においては、ハイブリッドECU23は、車両がスタンバイ状態(例えばイグニッションスイッチ23aを投入して車両が走行準備できた状態)になった後であってエンジン11を最初に駆動させた場合、負圧が所定値に到達するまでエンジンを停止しないことが望ましく、これにより、最初のエンジン駆動以降に実施される車両の制動のために必要な負圧を最初のエンジン駆動中に確実に確保することができ、負圧を安定的に提供することができる。
【0085】
また、負圧式ブースタ34とは別に負圧を蓄圧する蓄圧タンク37をさらに備えたことにより、負圧蓄圧量をより多く稼ぐことができ、負圧をより安定に供給することができる。
【0086】
また、ハイブリッドECU23は、ステップ124が負圧式ブースタ34の負圧が適正値であるか否かを判定し、ステップ110,112が車両の動作状態を判定し、ステップ130,128が、ステップ110,112によって検出された車両の動作状態に応じてエンジン11が駆動される際に、ステップ124によって負圧が低下していると判定された場合には、負圧の蓄圧を優先するようにエンジンを制御する。したがって、他の要求によるエンジン11の駆動中に負圧を蓄圧することができるので、効率よく負圧を蓄圧するとともに、これにより確実かつ安定的に負圧を提供することができる。
【0087】
次に、上記のように構成したハイブリッド車両の制動装置の負圧蓄圧の制御のうち、車両に搭載されている機器の動作状態に応じて制御する場合について図5のフローチャートに沿って説明する。具体的には、この機器としてバッテリ21があり、ハイブリッドECU23はバッテリ21の充電状態に応じて制御する。ハイブリッドECU23は、図5のフローチャートに沿って制御をするが、以下図3のフローチャートと異なる点を説明する。ハイブリッドECU23は、ステップ202から206において、ステップ102から106と同様な処理を実行し、ステップ208にて他の機器の状態情報を入力する。例えば、バッテリ21からバッテリ充電状態、エンジン11からエンジンECU22を介してエンジン水温などを入力する。
【0088】
ハイブリッドECU23は、ステップ210において、エンジン水温が所定値以下であれば暖機不足であると判定し、プログラムをステップ204に戻してエンジン11を起動させてエンジン11を暖機する。エンジン水温が所定値より大きければ暖機不足でないと判定しプログラムをステップ212に進めてバッテリ21の充電状態を判定する。ステップ212においては、バッテリ21の電圧等が所定値以下であれば充電不足であると判定しプログラムをステップ220以降に進めてエンジン11を起動して発電機18を駆動させてバッテリ21を充電する。バッテリ21の電圧等が所定値より大きければ充電不足でないと判定しプログラムをステップ214以降に進めて、上述したステップ114から118の処理と同様に、負圧が不足していればエンジン11の駆動を維持して負圧を蓄圧し(ステップ214,216)、負圧が不足していなければエンジン11の駆動を停止する(ステップ214〜218)。したがって、イグニッションスイッチ23aを投入した直後に、バッテリ21が十分充電されていても、負圧が不足していれば、エンジン11の駆動によって所定値の負圧を確実に確保することができる。
【0089】
ハイブリッドECU23は、バッテリ21が充電不足である場合には、エンジン11を起動して発電機18を駆動させてバッテリ21を充電する。このとき、負圧式ブースタ34または負圧タンク37の負圧が所定値(制御開始圧)より大きければ、エンジン11を通常の発電効率重視の出力設定(通常の充電電流となるように)にて制御する(ステップ222〜228)。一方、負圧式ブースタ34または負圧タンク37の負圧が所定値(制御開始圧)以下であれば、エンジン11を通常の出力設定ではなくエンジン11を負圧発生能力重視の出力設定にて制御する(ステップ222,224,230,228)。
【0090】
具体的には、ハイブリッドECU23は、ステップ222において、ステップ122と同様に負圧計38から負圧式ブースタ34または負圧タンク37の負圧を示す信号を入力し、ステップ224において、ステップ124と同様に負圧が不足しているか否かを判定する。負圧が不足していなければ、ステップ226において、ハイブリッドECU23は、一般に行われているように、バッテリ21の電圧などから必要な通常の充電電流となるようエンジン出力を導出する。ステップ228において、ステップ226にて導出したエンジン出力をエンジンECU22に送信してエンジンECU22によってスロットルバルブ16を制御することによりエンジン11の出力を制御する。負圧が不足していれば、ステップ230において、ステップ226と同様に通常の充電電流を導出して、その充電電流より減少させた充電電流となるようにエンジン出力を設定する。
【0091】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態においては、車両の動作状態が車両に搭載されている機器例えばバッテリ21の充電状態であることにより、その機器が所定の動作状態である場合(充電不足である場合)であっても、確実に負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0092】
また、ハイブリッドECU23は、車両に搭載されている機器の動作状態が車両に搭載されているバッテリの充電状態である場合、エンジン11の駆動によって充電されるバッテリ21に対する充電速度を通常より減少させてそれにより負圧を増大させることにより、バッテリ充電中に負圧を効率よく蓄圧することができる。
【0093】
また、バッテリ21の充電状態に合わせてエンジン11を駆動するとともに(ステップ212,220)、負圧が所定値に到達するまでエンジンを停止しない(ステップ216,218)ことにより、確実に所定量の負圧を確保することができる。
【0094】
次に、上記のように負圧を蓄圧したハイブリッド車両が制動される際、制動時の減速性能確保および停止時の制動力制限に関する制御について図6のフローチャートに沿って説明する。ハイブリッドECU23は、ステップ302から306において、ステップ102から106と同様な処理を実行し、ステップ308にて車両の走行状態情報を入力する。例えば、油圧計55からマスタシリンダ圧すなわちブレーキペダル31の操作状態などをブレーキECU56を介して入力する。ハイブリッドECU23は、ステップ310において、マスタシリンダ圧が所定圧以上であればブレーキ操作が行われたとして制動中(制動操作中)であると判定し、プログラムをステップ320以降に進めて、制動時の減速性能確保処理(ステップ322から334)および停車時の制動力制限処理(ステップ336から340)の各処理を実施する。マスタシリンダ圧が所定圧未満であればブレーキ操作が行われていないとして制動中(制動操作中)でないと判定し、プログラムをステップ312以降に進めて、車両の各制動処理を解除する。
【0095】
ブレーキ操作が行われていない場合、ハイブリッドECU23は、ステップ312において、静的ブレーキおよび動的ブレーキ(それぞれ後述する)をそれぞれ解除する。そして、上述したステップ114から118の処理と同様に、負圧が不足していればエンジン11の駆動を維持して負圧を蓄圧し(ステップ314,316)、負圧が不足していなければエンジン11の駆動を停止する(ステップ314〜318)。
【0096】
ブレーキ操作が行われて車両が制動中でありかつ走行中である場合、ハイブリッドECU23は、ステップ320にて「NO」と判定し、プログラムをステップ322に進め、負圧式ブースタ34または負圧タンク37の負圧が不足しているか否かを判定する(ステップ322,324)。ステップ322,324はステップ122,124と同様の処理である。負圧が不足していなければ、液圧ブレーキのうち基礎液圧分のブレーキすなわち負圧式ブースタによるブレーキを使用することができるので、液圧ブレーキのうち制御液圧分のブレーキおよび回生ブレーキの目標値を設定する(ステップ334)。すなわち、基礎液圧ブレーキ以外の動的ブレーキの目標値を設定する。なお、動的ブレーキとは、液圧ブレーキおよび回生ブレーキのことをいう。そして、ハイブリッドECU23は、ステップ332において、設定された目標値となるようにモータ12を制御して回生ブレーキを発生させ、ポンプ44,51を加圧して制御液圧を発生させることにより、動的ブレーキの出力を制御する。
【0097】
一方負圧が不足していれば、ハイブリッドECU23は、液圧ブレーキのうち基礎液圧分のブレーキすなわち負圧式ブースタによるブレーキを使用することができないので、負圧を蓄圧しながら動的ブレーキを発生するように制御する。具体的には、ステップ326において、エンジン11を起動させ、ステップ328にて、ステップ106と同様にエンジン11の出力を制御する。そして、不足する基礎液圧分のブレーキすなわち負圧式ブースタ34の負圧値に応じて基礎液圧ブレーキ以外の動的ブレーキの目標値すなわち液圧ブレーキのうち制御液圧分のブレーキおよび回生ブレーキの目標値を設定する(ステップ330)。そして、ハイブリッドECU23は、ステップ332において、設定された目標値となるようにモータ12を制御して回生ブレーキを発生させ、ポンプ44,51を加圧して制御液圧を発生させることにより、動的ブレーキの出力を制御する。なお、負圧式ブースタ34によって発生される制動力(基礎液圧による制動力)を抑制してその減少分を他の制動力発生手段であるモータ12またはポンプ44,51によって補償するようにするのが好ましい。これにより、制動操作中に負圧式ブースタ34の作動による負圧の消費を抑制することができるとともに、車両全体として要求どおりの制動力を確保することができる。また、制動力としてエンジン11によるエンジンブレーキを使用するようにすればその寄与度が増加するので、その分回生ブレーキまたは液圧ブレーキのうち制御液圧分の寄与度を減少させるようにするのが好ましい。これにより、不必要に制動力を増大させることなく車両全体として要求どおりの制動力を確保することができる。また、エンジンブレーキによる負圧発生能力も向上できる。
【0098】
また、ブレーキ操作が行われて制動が終了し車両が停車中である場合、ハイブリッドECU23は、ステップ320にて「YES」と判定し、プログラムをステップ336以降に進める。ステップ336において、動的ブレーキを解除または制限する。具体的には、基礎液圧による液圧ブレーキを全部解除または制限する。そうすると、車両の制動力が無くなったり、極端に減少したりして停車状態が解除され、これを防ぐために静的ブレーキを発生させる。静的ブレーキは、動的ブレーキを発生させる機構以外の機構によって発生されるブレーキであって、例えば、電動パーキングブレーキなどがある。電動パーキングブレーキは、例えば一般に知られている、他端がブレーキ本体に接続されて運転者の手または足によって操作されるブレーキレバーに接続された一端が、ブレーキレバーではなくモータに接続されたパーキングブレーキであり、モータの駆動によって自動で作動されるものである。ハイブリッドECU23は、静的ブレーキの目標値を設定し(ステップ338)、その目標値となるように電動パーキングブレーキのモータを制御する。これにより、停車中において、基礎液圧によるブレーキを使用するのを抑制することにより、蓄圧した負圧の消費をできるだけ抑制することができる。
【0099】
なお、上述した実施の形態においては、負圧式ブースタ34に所定値の負圧が蓄圧されない場合であって、その負圧では運転者の要求制動力を満たすことができない場合には、その不足分を他の制動力発生手段(上述した)によって補償することが好ましい。これにより、車両全体の制動力を確実に確保することができる。また、車両がスタンバイ状態になった後であって運転者による一回目の制動操作時に負圧式ブースタ34の機能を検査することが好ましい。これにより、早期に負圧式ブースタ34の機能が正常であるか否かを確認することができる。
【0100】
なお、上述した各実施の形態においては、エンジン11を所定時間駆動させても負圧式ブースタ34または/および負圧タンク37に所定値(例えば制御終了圧)の負圧が蓄圧されない場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えるようにしてもよい。警告手段としては、専用に設けた警告灯を点灯、点滅させてもよく、CRTなどの表示器にメッセージを表示させてもよく、音声にてアナウンスするようにしてもよい。これにより、負圧式ブースタ34または/および負圧タンク37に十分に負圧が蓄圧されていないことを運転者に対して確実に警告することができる。
【0101】
また、上述した各実施の形態においては、負圧式ブースタ34または/および負圧タンク37の負圧が漏れている場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えるようにしてもよい。例えば、車両を制動せず(ブレーキペダル31を操作しない)、かつ、負圧を蓄圧しないときに、負圧計38によって検出した負圧に所定量以上の変動があれば、負圧が漏れていると判定する。これにより、負圧式ブースタ34または/および負圧タンク37に負圧を蓄圧できないことを運転者に対して確実に警告することができる。
【0102】
また、上述した各実施の形態においては、液圧ブレーキ装置Aの失陥(例えばブレーキ加圧手段の失陥)を検出するようにして、液圧ブレーキ装置A(例えばブレーキ加圧手段)が失陥した場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えるようにしてもよい。これにより、液圧ブレーキ装置Aの失陥を運転者に対して確実に警告することができる。さらに、液圧ブレーキ装置A(例えばブレーキ加圧手段)が失陥した場合には、エンジン11を常時駆動させて負圧式ブースタ34の負圧を確保するようにしてもよい。これにより、少なくとも負圧式ブースタ34によって助勢されたブレーキ踏力を制動力として確保することができる。
【0103】
2)第2の実施の形態
次に、上述した本発明によるハイブリッド車両の制動装置の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。図7はハイブリッド車両の概要を示す概要模式図である。この実施の形態は、第1の実施の形態に、エンジン11によって直動される負圧ポンプ61をさらに備えたものである。負圧ポンプ61はエンジン11の出力軸にクラッチ機構62を介して離脱可能に接続されており、クラッチ機構62はハイブリッドECU23の指令によって係脱されている。負圧ポンプ61は負圧供給管63を介して負圧供給管35に接続されており、負圧供給管63にはチェック弁64が設けられている。クラッチ機構62が係合状態となるとエンジン11の駆動に伴って負圧ポンプ61も駆動されてこの負圧ポンプ61によって負圧式ブースタ34に負圧を発生させる。これにより、エンジン11だけでなく負圧ポンプ61によっても負圧を発生させるので、負圧発生能力を向上させることができる。負圧ポンプ61は負圧増加装置である。
【0104】
なお、本第2の実施の形態においては、エンジン11によって負圧を発生させるインテークマニホールド15、および負圧を発生させる負圧ポンプ61のうち発生される負圧の大きいほうを自動的に選択する構成とすることが好ましい。これにより、より効果的に負圧を蓄圧することができる。
【0105】
3)第3の実施の形態
次に、上述した本発明によるハイブリッド車両の制動装置の第3の実施の形態について図面を参照して説明する。図8はハイブリッド車両の概要を示す概要模式図である。この実施の形態は、第1の実施の形態に、負圧増加装置であるエジェクタ71をさらに備えたものである。エジェクタ71は、大気に開放されているエア供給ポート72aを備えたノズル72と、開閉電磁弁75を備えた接続管76を介して吸気管15に連通する導出ポート73aを備えたディフューザ73とから構成されている。ノズル72とディフューザ73とが小さい隙間をおいて配置されその隙間に真空ポート74が形成されている。吸気管15が負圧状態のときに開閉電磁弁が開かれると、エア供給ポート72aから空気が吸い込まれ、ノズル72とディフューザ73内を空気がかなりの速度で流れて、導出ポート73aから排出される。このとき、ベンチュリ効果によって真空ポート74に負圧が発生する。真空ポート74は接続管77を介してチェック弁36と負圧タンク37の間の負圧供給管35に連通している。接続管77には上述したチェック弁36と同様なチェック弁78が設けられている。開閉電磁弁75はエンジンECU22に接続されている。エンジン11の駆動中に開閉電磁弁75が開かれると、真空ポート74が負圧となり、エジェクタ71によってインテークマニホールド15より高い負圧が発生される。これにより、エンジン駆動とエジェクタ71によってより高い負圧を発生させるので、負圧発生能力を向上させることができる。
【0106】
なお、本第3の実施の形態においては、エンジン11によって負圧を発生させるインテークマニホールド15、および負圧を高めるエジェクタ71のうち発生される負圧の大きいほうを自動的に選択する構成とすることが好ましい。これにより、より効果的に負圧を蓄圧することができる。
【0107】
なお、上述した各実施の形態においては、本発明を、ブレーキ加圧手段としてポンプ44,51を備えている液圧ブレーキ装置Aに適用したが、ブレーキ油を加圧するブレーキ加圧手段であれば他の構成部材、例えばアキュムレータを備えている液圧ブレーキ装置に適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明によるハイブリッド車両の制動装置の第1の実施の形態の概要を示す概要模式図である。
【図2】図1に示す液圧ブレーキ装置の概要を示す概要図である。
【図3】図1に示すハイブリッドECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図4】図3に示す制御プログラムによる制御を示すタイムチャートである。
【図5】図1に示すハイブリッドECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図6】図1に示すハイブリッドECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図7】本発明によるハイブリッド車両の制動装置の第2の実施の形態の概要を示す概要模式図である。
【図8】本発明によるハイブリッド車両の制動装置の第3の実施の形態の概要を示す概要模式図である。
【符号の説明】
【0109】
11…エンジン、12…モータ、13…動力分割機構、14…動力伝達機構、15…吸気管、16…スロットルバルブ、17…モータ、18…発電機、19…インバータ、21…バッテリ、22…エンジンECU、23…ハイブリッドECU、23a…イグニッションスイッチ、56…ブレーキECU、24…アクセルペダル、25…アクセル開度センサ、26〜29…車輪速度センサ、31…ブレーキペダル、32…マスタシリンダ、33…リザーバタンク、34…負圧式ブースタ、35…負圧供給管、36…チェック弁、37…負圧タンク、38…負圧計、40…ブレーキアクチュエータ、32c…第1出力ポート、32d…第2出力ポート、44a…モータ、44,51…ポンプ、41〜43,46〜50,53,54…電磁弁、55…液圧計、45,52…内蔵リザーバタンク、A…ブレーキ装置、WC1〜WC4…ホイールシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力を発生させるエンジンおよびモータを備えたハイブリッド車両の制動装置であって、
前記エンジンの駆動に伴って発生される負圧を蓄圧し、この負圧によって運転者のブレーキ踏力を助勢する助勢手段を有する液圧ブレーキ装置と、
前記助勢手段に蓄圧されている負圧を検出する負圧検出手段と、
車両の動作状態を検出する動作状態検出手段と、
該動作状態検出手段によって検出された前記車両の動作状態に応じて前記エンジンが駆動される際に、前記助勢手段に蓄圧されている負圧が低下している場合には、前記負圧の蓄圧を優先するようにエンジンを制御する制御手段とを備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項2】
請求項1において、前記車両の動作状態が車両の走行状態であることを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項3】
請求項2において、前記制御手段は、前記車両の走行状態が加速状態である場合、運転者の要求加速に対して、前記エンジンの寄与度を減少させてそれにより前記負圧を増大させるとともに、前記エンジン以外の駆動源の寄与度を増加させて前記減少されたエンジンの寄与分を補償して全体としての車両の加速度を確保することを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項4】
請求項3において、前記運転者の加速操作に合わせて前記エンジンを駆動するとともに、前記負圧が所定値に到達するまで前記エンジンを停止しないことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項5】
請求項2において、前記制御手段は、前記車両の走行状態が高速走行中である場合、前記エンジンの寄与度を減少させてそれにより前記負圧を増大させるとともに、前記エンジン以外の駆動源の寄与度を増加させて前記減少されたエンジンの寄与分を補償して全体としての車両の駆動力を確保することを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項6】
請求項1において、前記車両の動作状態が車両に搭載されている機器の動作状態であることを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項7】
請求項6において、前記制御手段は、前記車両に搭載されている機器の動作状態が前記車両に搭載されているバッテリの充電状態である場合、前記エンジンの駆動によって充電される前記バッテリに対する充電速度を通常より減少させてそれにより前記負圧を増大させることを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項8】
請求項7において、前記バッテリの充電状態に合わせて前記エンジンを駆動するとともに、前記負圧が所定値に到達するまで前記エンジンを停止しないことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一項において、前記車両がスタンバイ状態になった後であって前記エンジンを最初に駆動させた場合、前記負圧が所定値に到達するまで前記エンジンを停止しないことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8の何れか一項において、前記運転者による制動操作中であって前記助勢手段に蓄圧されている負圧が低下した場合には、前記助勢手段によって発生される制動力を抑制してその減少分を他の制動力発生手段によって補償することを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項8の何れか一項において、前記運転者による制動操作中であって前記助勢手段に蓄圧されている負圧が低下した場合には、前記エンジンを駆動して前記負圧を蓄圧するとともに、制動力としては前記エンジンによるエンジンブレーキの寄与度を増加させその分回生ブレーキの寄与度を減少させるとともに負圧発生能力も向上させることを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11の何れか一項において、前記エンジンを所定時間駆動させても前記助勢手段に所定値の負圧が蓄圧されない場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項11の何れか一項において、前記助勢手段の負圧が漏れている場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項11の何れか一項において、前記液圧ブレーキ装置はブレーキ加圧手段を備え、該ブレーキ加圧手段が失陥した場合には、その旨を警告する警告手段をさらに備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項11の何れか一項において、前記液圧ブレーキ装置はブレーキ加圧手段を備え、該ブレーキ加圧手段が失陥した場合には、前記エンジンを常時駆動させて前記助勢手段の負圧を確保することを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項16】
請求項1乃至請求項11の何れか一項において、前記助勢手段に所定値の負圧が蓄圧されない場合であって、その負圧では運転者の要求制動力を満たすことができない場合には、その不足分を他の制動力発生手段によって補償することを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項17】
請求項1乃至請求項11の何れか一項において、前記車両がスタンバイ状態になった後であって前記運転者による一回目の制動操作時に前記助勢手段の機能を検査することを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項18】
請求項1において、前記エンジンによって直動される負圧ポンプをさらに備え、該負圧ポンプによって前記負圧を発生させることを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項19】
請求項1において、負圧増加装置をさらに備え、該負圧増加装置によって前記負圧を高めることを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項20】
請求項1において、前記エンジンによって前記負圧を発生させるインテークマニホールド、および前記負圧を高める負圧増加装置をさらに備える構成とし、前記インテークマニホールドおよび負圧増加装置のうち発生される負圧の大きいほうを自動的に選択する構成としたことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項21】
請求項1および請求項18乃至請求項20の何れか一項において、前記助勢手段とは別に負圧を蓄圧する蓄圧タンクをさらに備えたことを特徴とするハイブリッド車両の制動装置。
【請求項22】
エンジンとモータによって車両の駆動力を発生させるとともに、前記エンジンの駆動に伴って発生される負圧を蓄圧し、この負圧によって運転者のブレーキ踏力を助勢する助勢手段を備えたハイブリッド車両の負圧蓄圧制御装置において、
前記助勢手段の負圧が適正値であるか否かを判定する負圧判定手段と、
前記車両の動作状態を判定する動作状態判定手段と、
該動作状態判定手段によって判定された前記車両の動作状態に応じて前記エンジンが駆動される際に、前記負圧判定手段によって負圧が低下していると判定された場合には、前記負圧の蓄圧を優先するように前記エンジンを制御する駆動力制御手段とを備えたことを特徴とするハイブリッド車両の負圧蓄圧制御装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−2667(P2006−2667A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179893(P2004−179893)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】