説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】エンジン始動時、トルク変動がそのまま車輪に伝わることを防止しながら、発進クラッチの固着判定時間の短縮化を図ること。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、エンジン1と、モータジェネレータ2と、第2クラッチ5(CL2)と、固着判定手段(図9)と、を備える。モータジェネレータ2は、エンジン1に連結される。第2クラッチ5(CL2)は、モータジェネレータ2とタイヤ7,7の間に介装され、エンジン始動時にスリップ締結される。固着判定手段(図9)は、モータジェネレータ2をスタータモータとするエンジン始動制御が開始されると、モータジェネレータ2に対する許容入力トルク指令とエンジン1に対する燃料噴射停止指令を出力し続け、第2クラッチ5(CL2)のスリップ量Sが固着判定閾値S1を超えないままで第2ターマー値TIM2以上経過すると、第2クラッチ5(CL2)が固着であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動制御中に発進クラッチの固着判定を行うハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド車両としては、エンジンとモータと変速機とを備え、エンジンとモータとの間に第1クラッチ、モータと変速機との間に第2クラッチを設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このハイブリッド車両の場合、第1クラッチを締結した状態のままでエンジンの始動制御を行い、第2クラッチをスリップさせて駆動軸にトルクを伝える。第2クラッチが固着した状態の場合、入力トルク変動がそのまま駆動軸に伝わるため、固着判定をしたのちに入力トルクを増加させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−293816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のハイブリッド車両にあっては、第2クラッチの固着判定を行うとき、エンジンへの燃料噴射を停止していないため、エンジントルクのばらつきを考慮してモータトルクを設定する必要がある。したがって、第2クラッチが固着している場合、ばらつきトルク分が想定したトルクより大きい変動であると、許容入力トルクより大きな入力トルク変動がそのまま車輪に伝わるおそれがある。これを防止するため、第2クラッチへの入力トルクとして、最大のばらつきがあっても許容入力トルク以下になるように、モータトルクを小さく抑えざるを得ない。この結果、第2クラッチの入力回転数上昇勾配(=スリップ量上昇勾配)が小さくなってしまい、固着判定に要する固着判定時間が長くなってしまう、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、エンジン始動時、トルク変動が車輪に伝わることを防止しながら、発進クラッチの固着判定時間の短縮化を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータと、発進クラッチと、固着判定手段と、を備える手段とした。
前記モータは、前記エンジンに連結される。
前記発進クラッチは、前記モータと駆動輪の間に介装され、前記エンジン始動時にスリップ締結される。
前記固着判定手段は、前記モータをスタータモータとするエンジン始動制御が開始されると、前記モータに対する許容入力トルク指令と前記エンジンに対する燃料噴射停止指令を出力し続け、前記発進クラッチのスリップ量が固着判定閾値を超えないままで所定時間以上経過すると、前記発進クラッチが固着であると判定する。
【発明の効果】
【0008】
よって、モータをスタータモータとするエンジン始動制御が開始されると、固着判定手段において、モータに対する許容入力トルク指令とエンジンに対する燃料噴射停止指令が出力し続けられる。そして、発進クラッチのスリップ量が固着判定閾値を超えないままで所定時間以上経過すると、発進クラッチが固着であると判定される。
すなわち、発進クラッチの固着判定が完了するまでは、エンジンへの燃料噴射停止が行われることで、エンジントルクのばらつきを考慮することなく、モータのみにより許容入力トルクを与えることができる。したがって、発進クラッチへの入力トルクが許容入力トルクより大きくなってしまうことがなく、発進クラッチが固着している場合にトルク変動が車輪に伝わることが防止される。そして、発進クラッチへの入力トルクとして、許容入力トルクが確保されることで、エンジン始動制御を開始してからの発進クラッチの入力回転数上昇勾配(=スリップ量上昇勾配)が大きくなる。このため、固着判定に要する固着判定時間が、発進クラッチへの入力トルクが許容入力トルクより小さい場合の固着判定時間に比べ、短縮化される。
この結果、エンジン始動時、トルク変動が車輪に伝わることを防止しながら、発進クラッチの固着判定時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両のパワートレーン系を示すパワートレーン系構成図である。
【図2】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御システムを示す制御システム構成図である。
【図3】実施例1の統合コントローラを示す演算ブロック図である。
【図4】実施例1の制御装置で用いられる定常目標トルクマップ(a)とMGアシストトルクマップ(b)を示すマップ図である。
【図5】実施例1の制御装置で用いられるエンジン始動停止線マップを示すマップ図である。
【図6】実施例1の制御装置で用いられるバッテリSOCに対する走行中要求発電出力を示す特性図である。
【図7】実施例1の制御装置で用いられるエンジンの最良燃費線を示す特性図である。
【図8】実施例1の自動変速機における変速線の一例を示す変速マップ図である。
【図9】実施例1の統合コントローラでのエンジン始動制御処理中に実行される第2クラッチ固着判定処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図10】エンジン冷却水温と許容入力トルクのうちエンジンフリクション分との関係を示すテーブル設定特性図である。
【図11】図9の第2クラッチ固着判定処理においてCL2固着判定が出されたときCL2固着判定に引き続いて実行されるCL2固着判定確認処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図12】比較例と実施例1の許容入力トルクに対する各トルク(エンジントルク、モータトルク、ばらつきトルク)の振り分け構成の対比を示す説明図である。
【図13】比較例と実施例1でエンジン始動制御を開始してからの入力回転数(スリップ量)の上昇特性を用いた固着判定所要時間の対比を示す説明図である。
【図14】実施例1の第2クラッチ固着判定処理においてCL2固着判定が出されないままでエンジン始動制御処理が実行されたときの始動開始フラグ・アクセル開度(APO)・第1クラッチ(CL1)・回転(入力回転数、車速)・CL2スリップ量・CL2トルク・モータトルク・燃料噴射フラグ・点火フラグの各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両のパワートレーン系を示す。以下、図1に基づきパワートレーン系構成を説明する。
【0012】
実施例1のハイブリッド車両のパワートレーン系は、図1に示すように、エンジン1と、モータジェネレータ2(モータ)と、自動変速機3と、第1クラッチ4と、第2クラッチ5(発進クラッチ)と、ディファレンシャルギア6と、タイヤ7、7(駆動輪)と、を備えている。
【0013】
実施例1のハイブリッド車両は、エンジンと1モータ・2クラッチを備えたパワートレーン系構成であり、走行モードとして、第1クラッチ4の締結による「HEVモード」と、第1クラッチ4の開放による「EVモード」と、第2クラッチ5をスリップ締結状態にして走行する「WSCモード」と、を有する。
【0014】
前記エンジン1は、その出力軸とモータジェネレータ2(略称MG)の入力軸とが、トルク容量可変の第1クラッチ4(略称CL1)を介して連結される。
【0015】
前記モータジェネレータ2は、その出力軸と自動変速機3(略称AT)の入力軸とが連結される。
【0016】
前記自動変速機3は、その出力軸にディファレンシャルギア6を介してタイヤ7、7が連結される。
【0017】
前記第2クラッチ4(略称CL2)は、自動変速機3のシフト状態に応じて異なる変速機内の動力伝達を担っているトルク容量可変のクラッチ・ブレーキによる締結要素のうち、1つを用いている。これにより自動変速機3は、第1クラッチ4を介して入力されるエンジン1の動力と、モータジェネレータ2から入力される動力を合成してタイヤ7、7へ出力する。
【0018】
前記第1クラッチ4と前記第2クラッチ5には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチ等を用いればよい。このパワートレーン系には、第1クラッチ4の接続状態に応じて2つの運転モードがあり、第1クラッチ4の切断状態では、モータジェネレータ2の動力のみで走行する「EVモード」であり、第1クラッチ4の接続状態では、エンジン1とモータジェネレータ2の動力で走行する「HEVモード」である。
【0019】
そして、パワートレーン系には、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転センサ10と、モータジェネレータ2の回転数を検出するMG回転センサ11と、自動変速機3の入力軸回転数を検出するAT入力回転センサ12と、自動変速機3の出力軸回転数を検出するAT出力回転センサ13と、が設けられる。
【0020】
図2は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御システムを示す。以下、図2に基づいて制御システム構成を説明する。
【0021】
実施例1の制御システムは、図2に示すように、統合コントローラ20と、エンジンコントローラ21と、モータコントローラ22と、インバータ8と、バッテリ9と、ソレノイドバルブ14と、ソレノイドバルブ15と、アクセル開度センサ17と、エンジン冷却水温センサ23と、SOCセンサ16と、を備えている。
【0022】
前記統合コントローラ20は、パワートレーン系構成要素の動作点を統合制御する。この統合コントローラ20では、アクセル開度APOとバッテリ充電状態SOCと、車速VSP(自動変速機出力軸回転数に比例)と、に応じて、運転者が望む駆動力を実現できる運転モードを選択する。そして、モータコントローラ22に目標MGトルクもしくは目標MG回転数を指令し、エンジンコントローラ21に目標エンジントルクを指令し、ソレノイドバルブ14、15に駆動信号を指令する。
【0023】
前記エンジンコントローラ21は、エンジン1を制御する。前記モータコントローラ22は、モータジェネレータ2を制御する。前記インバータ8は、モータジェネレータ2を駆動する。前記バッテリ9は、電気エネルギーを蓄える。前記ソレノイドバルブ14は、第1クラッチ4の油圧を制御する。前記ソレノイドバルブ15は、第2クラッチ5の油圧を制御する。前記アクセル開度センサ17は、アクセル開度(APO)を検出する。前記エンジン冷却水温センサ23は、エンジン1の冷却水温度を検出する。前記SOCセンサ16は、バッテリ9の充電状態を検出する。
【0024】
図3は、実施例1の統合コントローラ20を示す演算ブロック図である。以下、図3に基づいて統合コントローラ20の構成を説明する。
【0025】
前記統合コントローラ20は、図3に示すように、目標駆動トルク演算部100と、モード選択部200と、目標発電出力演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を備えている。
【0026】
前記目標駆動トルク演算部100は、図4(a)に示す目標定常駆動トルクマップと、図4(b)に示すMGアシストトルクマップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPから、目標定常駆動トルクとMGアシストトルクを算出する。
【0027】
前記モード選択部200は、図5に示す車速毎のアクセル開度で設定されているエンジン始動停止線マップを用いて、運転モード(HEVモード、EVモード)を演算する。エンジン始動線とエンジン停止線は、エンジン始動線(SOC高、SOC低)とエンジン停止線(SOC高、SOC低)の特性に代表されるように、バッテリSOCが低くなるにつれて、アクセル開度APOが小さくなる方向に低下する特性として設定されている。
ここで、エンジン始動処理は、「EVモード」の選択状態で図5に示すエンジン始動線をアクセル開度APOが越えた時点で、第2クラッチ5をスリップさせるように、第2クラッチ5のトルク容量を制御する。そして、第2クラッチ5がスリップ開始したと判断した後に第1クラッチ4の締結を開始してエンジン回転を上昇させる。エンジン回転が初爆可能な回転数に達成したらエンジン1を燃焼作動させ、モータ回転数とエンジン回転数が近くなったところで第1クラッチ4を完全に締結する。その後、第2クラッチ5をロックアップさせて「HEVモード」に遷移させることをいう。
【0028】
前記目標発電出力演算部300は、図6に示す走行中発電要求出力マップを用いて、バッテリSOCから目標発電出力を演算する。また、現在の動作点から図7で示す最良燃費線までエンジントルクを上げるために必要な出力を演算し、前記目標発電出力と比較して少ない出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0029】
前記動作点指令部400では、アクセル開度APOと目標定常トルク、MGアシストトルクと目標モードと車速VSPと要求発電出力とを入力する。そして、これらの入力情報を動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標MGトルクと目標CL2トルク容量と目標変速比とCL1ソレノイド電流指令を演算する。
【0030】
前記変速制御部500は、目標CL2トルク容量と目標変速比とから、これらを達成するように自動変速機3内のソレノイドバルブを駆動制御する。図8に変速制御で用いられる変速線マップの一例を示す。車速VSPとアクセル開度APOから現在の変速段から次変速段をいくつにするか判定し、変速要求があれば変速クラッチを制御して変速させる。
【0031】
図9は、実施例1の統合コントローラ20でのエンジン始動制御処理中に実行される第2クラッチ固着判定処理の構成および流れを示す(固着判定手段)。以下、図9の各ステップについて説明する。
【0032】
ステップS1では、自動変速機3のレンジ選択位置が、「Pレンジ(パーキングレンジ)」であるか否かを判断する。YES(Pレンジ)の場合はステップS5へ進み、NO(Pレンジ以外)の場合はステップS2へ進む。
【0033】
ステップS2では、ステップS1でのPレンジ以外であるとの判断に続き、第1クラッチ4(CL1)が締結状態であるか否かを判断する。YES(CL1締結状態)の場合はステップS5へ進み、NO(CL1開放状態)の場合はステップS3へ進む。
【0034】
ステップS3では、ステップS2でのCL1開放状態であるとの判断に続き、CL1開放状態でのエンジン始動制御を開始し、ステップS4へ進む。
【0035】
ステップS4では、ステップS3でのエンジン始動制御開始に続き、例えば、EV走行中に「HEVモード」や「WSCモード」へ移行するとき、第1クラッチ4(CL1)の開放状態から行う通常のエンジン始動制御を実施し、始動終了へ進む。
【0036】
ステップS5では、ステップS1でのPレンジ判断、あるいは、ステップS2でのCL1締結状態判断、あるいは、ステップS8でのTIM<TIM0であるとの判断、あるいは、ステップS10でのTIM<TIM2であるとの判断に続き、モータジェネレータ2に対する指令を、許容入力トルク指令(スリップ上昇分+目標駆動力分+エンジンフリクション分)とし、エンジン1に対する指令を、燃料噴射停止指令(F/C指令)とする。そして、これらの指令をモータジェネレータ2とエンジン1に出力することで、第2クラッチ5(CL2)への入力トルクを上昇させ、ステップS6へ進む。
ここで、モータジェネレータ2から出力する許容入力トルクのうち、エンジンフリクション分は、図10に示すように、エンジン1が低温であるほどエンジンフリクションが高くなることを考慮し、エンジン冷却水温が低いほど高い値に設定する。
【0037】
ステップS6では、ステップS5での入力トルク上昇指令に続き、第2クラッチ5(CL2)のトルク容量を、目標駆動トルク相当まで下げ、ステップS7へ進む。
【0038】
ステップS7では、ステップS6でのCL2トルク容量制御に続き、CL2スリップ量Sがスリップ判定閾値S0以上になったことにより第2クラッチ5(CL2)がスリップしたか否かを判断する。YES(S≧S0)の場合はステップS12へ進み、NO(S<S0)の場合はステップS8へ進む。
【0039】
ステップS8では、ステップS7でのS<S0であるとの判断に続き、エンジン始動制御を開始した時点からカウントされるタイマー値TIMが、第1設定タイマー値TIM0以上になったか否かを判断する。YES(TIM≧TIM0)の場合はステップS9へ進み、NO(TIM<TIM0)の場合はステップS5へ戻る。
ここで、第1設定タイマー値TIM0は、CL2固着判定時間として設定された第2設定タイマー値TIM2より短い時間に設定される。
【0040】
ステップS9では、ステップS8でのTIM≧TIM0であるとの判断に続き、エンジン1の点火を実施する点火フラグをONとし、ステップS10へ進む。
【0041】
ステップS10では、ステップS9での点火フラグONに続き、エンジン始動制御を開始した時点からカウントされるタイマー値TIMが、CL2固着判定時間として設定された第2設定タイマー値TIM2以上になったか否かを判断する。YES(TIM≧TIM2)の場合はステップS11へ進み、NO(TIM<TIM2)の場合はステップS5へ戻る。
【0042】
ステップS11では、ステップS10でのTIM≧TIM2であるとの判断に続き、第2クラッチ5(CL2)が固着状態であるというCL2固着判定を出力し、点火フラグをOFFにしてエンジン始動制御を中止し、図10に示すフローチャートの処理を開始する。
【0043】
ステップS12では、ステップS7でのS≧S0であるとの判断に続き、モータジェネレータ2によるモータ回転数制御により、モータジェネレータ2に連結されているエンジン1のエンジン回転数をアイドル相当回転数まで上昇させ、ステップS13へ進む。
【0044】
ステップS13では、ステップS12でのエンジン回転数上昇に続き、停止していた燃料噴射を開始し、ステップS14へ進む。
【0045】
ステップS14では、ステップS13での燃料噴射開始に続き、モータ回転数がアイドル回転数(エンジン完爆判定回転数R2)以上になったか否かを判断する。YES(モータ回転数≧R2)の場合は始動終了へ進み、NO(モータ回転数<R2)の場合はステップS12へ戻る。
【0046】
図11は、図9の第2クラッチ固着判定処理においてCL2固着判定が出されたときCL2固着判定に引き続いて実行されるCL2固着判定確認処理の構成および流れを示す。以下、図11の各ステップについて説明する。
【0047】
ステップS21では、エンジン始動制御中のスリップ確認と同じ条件で第2クラッチ5(CL2)のスリップ確認を10秒間継続し、ステップS22へ進む。
ここで、同じ条件とは、モータジェネレータ2に対して許容入力トルク指令とし、エンジン1に対して燃料噴射停止指令(F/C指令)とし、第2クラッチ5(CL2)のトルク容量を目標駆動トルク相当まで下げた状態とすることをいう。
【0048】
ステップS22では、ステップS21での10秒間スリップ確認に続き、CL2スリップ量Sがスリップ判定閾値S0以上になったか否かを判断する。YES(S≧S0)の場合はステップS24へ進み、NO(S<S0)の場合はステップS23へ進む。
【0049】
ステップS23では、ステップS22でのS<S0であるとの判断に続き、バッテリ9の充電容量をあらわすバッテリSOCが所定値以下であるか否かを判断する。YES(バッテリSOC≦所定値)の場合はステップS25へ進み、NO(バッテリSOC>所定値)の場合はステップS21へ戻る。
【0050】
ステップS24では、ステップS22でのS≧S0であるとの判断に続き、図9のステップS11で出力したCL2固着判定を取り消し、エンドへ進む。
ここで、CL2固着判定を取り消した場合には、同じエンジン始動方法を用いて、エンジン始動制御を実行する。
【0051】
ステップS25では、ステップS23でのバッテリSOC≦所定値であるとの判断に続き、図9のステップS11で出力したCL2固着判定を確定し、エンドへ進む。
ここで、CL2固着判定が確定した場合には、エンジン始動方法を他の方法に切り替えて、エンジン始動制御を実行する。
【0052】
次に、作用を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「CL2固着判定時間の比較作用」、「CL1締結状態でのCL2固着判定作用」、「CL2固着判定確認作用」、「CL1締結状態でのエンジン始動制御作用」に分けて説明する。
【0053】
[CL2固着判定時間の比較作用]
燃料噴射しているエンジントルクとモータトルクとの合計トルクにより、発進クラッチである第2クラッチの入力トルクを出し、第2クラッチの固着判定(スリップ判定)を行うものを比較例とする。
【0054】
まず、比較例の場合、第2クラッチの固着判定を行うとき、エンジンへの燃料噴射を停止していないため、エンジントルクのばらつきを考慮してモータトルクを設定する必要がある。つまり、図12の(1)に示すように、モータトルク(MGトルク)+エンジントルク(ENGトルク)+ばらつきトルクの合計が許容入力トルクと一致するような設定を行う。
【0055】
したがって、第2クラッチが固着している場合、ばらつきトルク分が想定したトルクより大きい変動であると、許容入力トルクより大きな入力トルク変動がそのまま車輪に伝わるおそれがある。これを防止するため、最大のばらつきがあっても許容入力トルク以下になるように、モータトルク(MGトルク)を小さく抑えざるを得ない。つまり、車両が飛び出さない許容入力トルク内で第2クラッチの固着判定を行う必要がある。
【0056】
この結果、比較例の場合、図13の(1)特性に示すように、第2クラッチの入力回転数上昇勾配(=スリップ量上昇勾配)が小さくなってしまい、スリップ量Sが固着判定閾値S1に到達するまでに要する固着判定時間TIM1が長くなってしまう。
【0057】
これに対し、実施例1の場合、発進クラッチである第2クラッチ5(CL2)の固着判定が完了するまでは、エンジン1への燃料噴射停止が行われる。このため、図12の(2)に示すように、エンジントルクのばらつきを考慮することなく、モータトルク(MGトルク)のみにより許容入力トルクを与えることができる。
【0058】
したがって、第2クラッチ5(CL2)への入力トルクが許容入力トルクより大きくなってしまうことがなく、仮に第2クラッチ5(CL2)が固着している場合であってもトルク変動がそのまま車輪に伝わることが防止される。そして、第2クラッチ5(CL2)への入力トルクとして、許容される最大限の許容入力トルクが確保される。
【0059】
この結果、比較例の場合、図13の(2)特性に示すように、エンジン始動制御を開始してからの第2クラッチ5(CL2)の入力回転数上昇勾配(=スリップ量上昇勾配)が大きくなる。このため、スリップ量Sが固着判定閾値S1に到達するまでに要する固着判定時間TIM2が、第2クラッチへの入力トルクが許容入力トルクより小さい比較例における固着判定時間TIM1に比べ、短縮化される。なお、固着判定閾値S1は、スリップ判定閾値S0と同じ値としても良いし、少しずらした値としても良い。
【0060】
[CL1締結状態でのCL2固着判定作用]
エンジン始動制御が開始されると、図9のフローチャートにおいて、ステップS1(または、ステップS1→ステップS2)→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8へと進む。このステップS8の点火条件が成立しない限り、ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8へと進む流れが繰り返される。
【0061】
そして、ステップS8の点火条件が成立すると、ステップS8からステップS9→ステップS10へと進み、ステップS9にて点火フラグがONとされる。そして、ステップS7のスリップ条件、あるいは、ステップS10のCL2固着判定条件が成立しない限り、ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9→ステップS10へと進む流れが繰り返される。
【0062】
そして、ステップS7のスリップ判定条件がステップS10のCL2固着判定条件よりも先に成立した場合には、第2クラッチ5(CL2)に与えられる許容入力トルクに応じてスリップをし、第2クラッチ5(CL2)が固着していないとの判定に基づき、ステップS7からステップS12へ進み、エンジン始動制御処理へ移行する。
【0063】
一方、ステップS10のCL2固着判定条件がステップS7のスリップ判定条件よりも先に成立した場合には、ステップS10からステップS11へ進み、第2クラッチ5(CL2)に与えられる許容入力トルクにかかわらず、第2クラッチ5(CL2)のスリップ量が増大することがなく、第2クラッチ5(CL2)が固着していると判定される。
【0064】
上記のように、実施例1では、モータジェネレータ2をスタータモータとするエンジン始動制御が開始されると、モータジェネレータ2に対する許容入力トルク指令とエンジン1に対する燃料噴射停止指令を出力し続ける(ステップS5)。そして、第2クラッチ5(CL2)のスリップ量が固着判定閾値S1を超えないままで第2タイマー値TIM2以上経過すると、第2クラッチ5(CL2)が固着であると判定する構成を採用した(ステップS10→ステップS11)。
したがって、CL1締結状態でのエンジン始動時、トルク変動がそのまま車輪に伝わることを防止しながら、発進クラッチである第2クラッチ5(CL2)の固着判定時間の短縮化が図られる。
【0065】
実施例1では、モータジェネレータ2に対する許容入力トルクを、エンジン冷却水温に基づいて変更する構成を採用した(ステップS5)。
すなわち、モータジェネレータ2に対する許容入力トルク指令は、スリップ上昇分+目標駆動力分+エンジンフリクション分により決まる。そして、エンジンフリクション分は、上流側のエンジン1により消費されるため、下流側の第2クラッチ5(CL2)への入力トルクは、スリップ上昇分+目標駆動力分となる。一方、エンジン1が低温であるほどエンジンフリクションが高くなるため、例えば、一定のエンジンフリクション分を与えるようにすると、エンジン1の低温時に第2クラッチ5(CL2)への入力トルクが低下する。
したがって、モータジェネレータ2から出力する許容入力トルクのうち、エンジンフリクション分を、エンジン冷却水温が低いほど高い値に設定することで、エンジン冷却水温にかかわらず、第2クラッチ5(CL2)の固着判定時間の短縮化を図ることができる。
【0066】
[CL2固着判定確認作用]
エンジン始動制御中のCL2固着判定は、応答性が要求されるため、エンジン始動制御のスリップ判定に含めて行うようにしている。このため、第2クラッチ5(CL2)の潤滑油の粘性や油に混入したコンタミ等の一時的な環境要因により、第2クラッチ5(CL2)が固着であると誤判定する可能性がある。そこで、CL2固着判定がなされると、これに引き続いてCL2固着判定確認を行うようにした。
【0067】
すなわち、図9の処理にてCL2固着判定がなされると、図11のフローチャートにおいて、ステップS21へ進み、スリップ判定と同じ入力トルク条件とクラッチ締結容量条件で、第2クラッチ5(CL2)がスリップしないか否かの確認が10秒間継続される。
【0068】
そして、一時的な環境要因により第2クラッチ5(CL2)が固着であると誤判定されていた場合には、スリップ量Sが増大することで、図11のフローチャートにおいて、ステップS21からステップS22→ステップS24へ進み、ステップS24では、CL2固着判定が取り消される。そして、CL2固着判定を取り消された場合には、同じエンジン始動方法を用いて、エンジン始動制御が実行される。
【0069】
一方、一時的な環境要因ではなく、第2クラッチ5(CL2)が固着フェールに陥っているような場合には、スリップ確認によってもスリップ量Sが増大しないことで、図11のフローチャートにおいて、ステップS21からステップS22→ステップS23へ進む。そして、そのときのバッテリSOCが所定値を超えている場合には、再び、ステップS21へ戻るというように、バッテリSOCが所定値以下になるまで、10秒間継続させるスリップ確認動作が反復して繰り返される。
【0070】
そして、バッテリSOCが所定値以下になってもステップS22のスリップ判定条件が成立しない場合には、ステップS23からステップS25へ進み、ステップS25では、図9のステップS11で出力したCL2固着判定を確定する。そして、ステップS25でCL2固着判定が確定した場合には、エンジン始動方法を他の方法に切り替えて、エンジン始動制御が実行される。
【0071】
[CL1締結状態でのエンジン始動制御作用]
上記のように、ステップS7のスリップ判定条件がステップS10のCL2固着判定条件よりも先に成立した場合には、第2クラッチ5(CL2)に与えられる許容入力トルクに応じてスリップをしたとの判定に基づき、ステップS7からステップS12へ進む。そして、モータ回転数がアイドル回転数R2以上になるまでは、図9のフローチャートにおいて、ステップS12→ステップS13→ステップS14へ進む流れが繰り返され、モータ回転数制御と燃料噴射が実行される。そして、モータ回転数がアイドル回転数R2以上になると、ステップS14から始動終了へ進み、エンジン始動制御を終了する。
【0072】
上記CL1締結状態でのエンジン始動制御を、図14に示すタイムチャートに基づいて説明する。このタイムチャートで、スリップ判定開始時刻t1からスリップ判定終了時刻t3までをフェーズ1(phase1)とし、スリップ判定終了時刻t3から始動制御終了時刻t4までをフェーズ2(phase2)とする。
【0073】
・フェーズ1(phase1)
スリップ判定開始時刻t1に始動開始フラグがOFF→ONになる。始動開始フラグがONになると、CL2固着判定を行うため、モータジェネレータ2は、エンジン冷却水温ごとのエンジンフリクションを考慮し、モータトルクT1を指令する。第2クラッチ5(CL2)は、スリップを促進するために目標駆動トルク相当T3まで指令値を低下させる。この間、エンジン1は、燃料噴射停止状態(F/C状態)を継続するので、モータジェネレータ2のみで許容入力トルク与えることができ、CL2固着判定に要する時間を短縮できる。
また、スリップ判定開始時刻t1とスリップ判定終了時刻t3の間の時刻t2では、その後のエンジン始動時間を短縮するために、点火フラグがOFF→ONとされる。
そして、モータ回転数が上昇し、スリップ判定終了時刻t3で第2クラッチ5(CL2)のスリップ量が、スリップ判定閾値S0(=固着判定閾値S1)が成立したことを判定し、モータジェネレータ2は、トルク制御から回転数制御に移行する。
【0074】
・フェーズ2(phase2)
モータジェネレータ2は、回転数制御で最大トルクT2を指令すると同時に、エンジン1も燃料噴射を開始する。そして、モータ回転数がさらに上昇し、時刻t4でモータ回転数≧完爆判定回転数R2が成立したことを判定して始動制御終了する。
【0075】
上記のように、実施例1では、第2クラッチ5(CL2)の固着判定中にエンジン1への点火を開始し、第2タイマー値TIM2に達する前に第2クラッチ5(CL2)のスリップ量Sがスリップ判定閾値S0を超えると、直ちにエンジン1への燃料噴射を開始する構成を採用した。
すなわち、第2クラッチ5(CL2)のスリップ判定に先行して点火を開始し、スリップ判定の直後に燃料噴射を開始すると、燃料噴射がなされるのと同時に燃料への点火を開始することができる。
したがって、CL2スリップ判定に基づき、燃料噴射フラグと点火フラグを同時にONにする場合に比べ、エンジン始動制御が終了するまでの時間が短縮される。
【0076】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0077】
(1) エンジン1と、
前記エンジン1に連結されるモータ(モータジェネレータ2)と、
前記モータ(モータジェネレータ2)と駆動輪(タイヤ7,7)の間に介装され、前記エンジン始動時にスリップ締結される発進クラッチ(第2クラッチ5)と、
前記モータ(モータジェネレータ2)をスタータモータとするエンジン始動制御が開始されると、前記モータ(モータジェネレータ2)に対する許容入力トルク指令と前記エンジン1に対する燃料噴射停止指令を出力し続け、前記発進クラッチ(第2クラッチ5)のスリップ量Sが固着判定閾値S1を超えないままで所定時間以上経過すると、前記発進クラッチ(第2クラッチ5)が固着であると判定する固着判定手段(図9)と、
を備える。
このため、エンジン始動時、トルク変動が車輪に伝わることを防止しながら、発進クラッチ(第2クラッチ5)の固着判定時間の短縮化を図ることができる。
【0078】
(2) 前記固着判定手段(図9)は、前記モータ(モータジェネレータ2)に対する許容入力トルクを、エンジン冷却水温に基づいて変更する(ステップS5)。
このため、(1)の効果に加え、エンジン冷却水温にかかわらず、発進クラッチ(第2クラッチ5)の固着判定時間の短縮化を図ることができる。
【0079】
(3) 前記固着判定手段(図9)は、前記発進クラッチ(第2クラッチ5)の固着判定中にエンジンへの点火を開始し、前記所定時間に達する前に前記発進クラッチ(第2クラッチ5)のスリップ量Sがスリップ判定閾値S0を超えると、直ちに前記エンジン1への燃料噴射を開始する。
このため、(1)または(2)の効果に加え、スリップ判定に基づき、燃料噴射フラグと点火フラグを同時にONにする場合に比べ、エンジン始動制御が終了するまでの時間を短縮することができる。
【0080】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0081】
実施例1では、エンジンとモータジェネレータとの間に第1クラッチが介装された1モータ2クラッチタイプのパワートレーン系を持つハイブリッド車両に対し適用した例を示した。しかし、エンジンとモータジェネレータを直結したパワートレーン系を持つハイブリッド車両に対しても適用することができる。要するに、エンジンとモータジェネレータの下流位置に発進クラッチを有するハイブリッド車両であれば、前輪駆動車や後輪駆動車や4輪駆動車にかかわらず適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 エンジン
2 モータジェネレータ(モータ)
3 自動変速機
4 第1クラッチ
5 第2クラッチ(発進クラッチ)
6 ディファレンシャルギア
7 タイヤ(駆動輪)
8 インバータ
9 バッテリ
10 エンジン回転センサ
11 MG回転センサ
12 AT入力回転センサ
13 AT出力回転センサ
14、15 ソレノイドバルブ
16 SOCセンサ
17 アクセル開度センサ
20 統合コントローラ
21 エンジンコントローラ
22 モータコントローラ
23 エンジン冷却水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンに連結されるモータと、
前記モータと駆動輪の間に介装され、前記エンジン始動時にスリップ締結される発進クラッチと、
前記モータをスタータモータとするエンジン始動制御が開始されると、前記モータに対する許容入力トルク指令と前記エンジンに対する燃料噴射停止指令を出力し続け、前記発進クラッチのスリップ量が固着判定閾値を超えないままで所定時間以上経過すると、前記発進クラッチが固着であると判定する固着判定手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記固着判定手段は、前記モータに対する許容入力トルクを、エンジン冷却水温に基づいて変更することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記固着判定手段は、前記発進クラッチの固着判定中にエンジンへの点火を開始し、前記所定時間に達する前に前記発進クラッチのスリップ量がスリップ判定閾値を超えると、直ちに前記エンジンへの燃料噴射を開始することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−86652(P2012−86652A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234426(P2010−234426)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】