説明

ハイブリッド車輌の制御装置

【課題】冷却装置の簡素化やモータの小型化を行ってコストダウンやコンパクト化を図りつつ、モータの保護も図ることが可能なハイブリッド車輌の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンEGの駆動回転によってモータMGが所定回転数以上で回転され、ゼロトルク制御手段21によりゼロトルクに制御されている場合にあって、モータMGの温度が温度上限閾値マップに基づく上限閾値以上となった際に、モータ保護制御手段40がエンジンEGの回転数を低下させる。即ち、モータMGの回転数が下げられ、ゼロトルク制御による発熱量が下がるので、モータMGの温度を下げることが可能となって、モータMGの保護が図られる。これにより、モータMGの冷却構造を高性能にしたり、モータMGを大型化したりすることを不要とし、ハイブリッド駆動装置HVのコストダウンやコンパクト化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッド車輌に搭載される制御装置に係り、詳しくは、エンジンの駆動力を用いた走行中に該エンジンと連動するモータが所定回転数以上となった際に該モータの出力トルクをゼロトルクに制御するハイブリッド車輌の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題等に対応するために車輌の燃費向上を図った種々のハイブリッド駆動装置が提案されており、そのうちの一つとして、変速機構の入力軸にモータ(回転電機MG)が連動して回転されるものがある(特許文献1参照)。このものは、比較的安価で小型の車輌に用いて好適なものと知られており、即ち、主に加減速が多くなる走行状態だけで効率向上を図るため、発進時ないし低中車速領域においてモータによるEV走行やアシスト出力が可能となるように構成し、加減速が少なくなる高速走行状態ではエンジンの駆動力により走行するように構成されている。
【0003】
このように構成されたハイブリッド駆動装置は、エンジンの駆動力による高速走行において、モータも連動して回転されるが、モータの特性上、高回転時のトルク出力が困難であり、かつ何ら電気的制御を行わないと当該モータにおいて負方向の駆動力が生じるので(永久磁石による発電が生じるので)、モータが所定回転数以上となった際に、モータ回転数に応じた弱電流を流して出力トルクをゼロにするゼロトルク制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−132812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようにゼロトルク制御を行うものにあっては、モータの回転数が高くなるほど大きな電流を流す必要があり、つまり高回転になるほどモータの発熱量が大きくなる。一般にモータは、コイルや絶縁材には耐熱温度があるので、この温度以下で駆動しなければならない。即ち、上記ゼロトルク制御によって発生するモータの発熱量よりも放熱量(冷却量)が大きければ耐熱温度を越えることはなく、連続的な運転が可能となる連続運転可能領域であり、発熱量が放熱量よりも大きければ耐熱温度を越える虞があり、連続的な運転が不能となる連続運転不能領域であることになる。
【0006】
上記特許文献1のようなハイブリッド駆動装置にあっては、連続運転許容領域を車輌性能における最高車速に対応させて確保するために、モータの冷却構造(冷却油の循環装置)を高性能にしたり、電流密度を下げて発熱量を減らすためにモータを大型化したりする等の対応が図られている。しかしながら、上記連続運転不能領域は、車輌性能における最高車速近辺で生じる問題であり、つまり車輌の最高車速性能を確保するために、モータの冷却構造を高性能にしたり、モータを大型化したりすることが行われているので、上述のように比較的安価で小型の車輌に用いるものとしては、必ずしも好ましい構成ではない。しかし、単に冷却装置の簡素化やモータの小型化を行ってコストダウンやコンパクト化を図ると、車輌性能における最高車速付近でモータの保護が図れないという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、冷却装置の簡素化やモータの小型化を行ってコストダウンやコンパクト化を図りつつ、モータの保護も図ることが可能なハイブリッド車輌の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は(例えば図1乃至図6参照)、エンジン(EG)と、少なくともエンジン(EG)の駆動力を用いた走行中に該エンジン(EG)と連動して回転するモータ(MG)と、該エンジン(EG)及び該モータ(MG)の回転を変速して駆動車輪(W)に伝動する変速機構(CVT)と、を備えたハイブリッド車輌の制御装置(1)において、
前記エンジン(EG)の駆動回転によって前記モータ(MG)が所定回転数以上となった際に、該モータ(MG)の出力トルクをゼロトルクに制御するゼロトルク制御手段(21)と、
前記モータ(MG)の温度(T)を検出するモータ温度検出手段(51)と、
前記エンジン(EG)の駆動回転によって前記モータ(MG)が前記所定回転数以上で回転されている場合にあって、前記モータ(MG)の温度(T)が上限閾値(例えばT1〜T2)以上となった際に、前記エンジン(EG)の回転数(Ne)を低下させるモータ保護制御手段(40)と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また本発明は(例えば図2参照)、前記上限閾値は、前記モータ(MG)の回転数(Nmg)が高いほど低い温度となるような値に設定されてなることを特徴とする。
【0010】
さらに本発明は(例えば図1乃至図6参照)、前記モータ保護制御手段(40)により前記エンジン(EG)の回転数(Ne)が低下された際に、該エンジンの回転数の低下に対応するように前記変速機構(CVT)の変速比(G)を高速側に変速する車速維持制御手段(31)を備えたことを特徴とする。
【0011】
また本発明は(例えば図1及び図5参照)、前記モータ保護制御手段(40)により前記エンジン(EG)の回転数(Ne)が低下された際に、前記駆動車輪(W)に伝達される駆動力を維持するように前記エンジン(EG)の出力トルク(Te)を上昇する駆動力維持制御手段(11)を備えたことを特徴とする。
【0012】
そして本発明は(例えば図1参照)、前記モータ(MG)は、減速機構(PR)を介して前記変速機構(CVT)の入力軸に連結されてなることを特徴とする。
【0013】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によると、モータ保護制御手段が、エンジンの駆動回転によってモータが所定回転数以上で回転されてゼロトルクに制御されている場合にあって、モータの温度が上限閾値以上となった際に、エンジンの回転数を低下させるので、モータの回転数を下げることができて、ゼロトルク制御による発熱量を下げることができ、モータの温度を下げることが可能となって、モータの保護を図ることができる。これにより、モータの冷却構造を高性能にしたり、モータを大型化したりすることを不要とすることができて、ハイブリッド車輌のコストダウンやコンパクト化を図ることができる。
【0015】
請求項2に係る本発明によると、上限閾値が、モータの回転数が高いほど低い温度となるような値に設定されているので、モータの回転数に応じてモータの温度が高くなり過ぎることを防止することができ、確実にモータの保護を図ることができる。
【0016】
請求項3に係る本発明によると、車速維持制御手段が、モータ保護制御手段によりエンジンの回転数が低下された際に、該エンジンの回転数の低下に対応するように変速機構の変速比を高速側に変速するので、エンジンの回転数の低下に伴う車速の低下の防止を図ることができる。
【0017】
請求項4に係る本発明によると、駆動力維持制御手段が、モータ保護制御手段によりエンジンの回転数が低下された際に、駆動車輪に伝達される駆動力を維持するようにエンジンの出力トルクを上昇するので、駆動車輪に伝達される駆動力が低下して車速の低下を招くことを防ぐことができる。
【0018】
請求項5に係る本発明によると、モータは、減速機構を介して変速機構の入力軸に連結されているので、モータの出力トルクを増幅して駆動車輪に伝達することができる反面、エンジンの回転数に比してモータが高回転となるが、モータ保護制御手段がモータの温度が上限閾値以上となった際にエンジンの回転数を低下させるので、モータの回転数を大幅に下げることができ、それによってモータの保護を確実に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るハイブリッド車輌の制御装置を示すブロック図。
【図2】温度上限閾値マップを示す図。
【図3】本発明に係るモータ保護制御を示すフローチャート。
【図4】エンジントルクとエンジン回転数との関係に基づく車輌の駆動力を説明する説明図。
【図5】エンジンに出力トルクの余裕がある場合のモータ保護制御を示すタイムチャート。
【図6】エンジンに出力トルクの余裕がない場合のモータ保護制御を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図6に沿って説明する。まず、本発明を適用し得るハイブリッド車輌(ハイブリッド駆動装置HV)の概略構成について図1に沿って説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明を適用し得るハイブリッド車輌は、例えばFFタイプ(フロントエンジン、フロントドライブ)に用いて好適であり、エンジンEGがダンパ装置Dを介してハイブリッド駆動装置HVの入力側に接続されており、該ハイブリッド駆動装置の出力側が左右の駆動車輪Wに接続されている。該ハイブリッド駆動装置HVには、モータMG、減速機構PR、クラッチC、無段変速機構(変速機構)CVT、油圧制御装置VB、カウンタギヤCG、ディファレンシャルギヤDG等が備えられている。
【0022】
上記モータMGは、バッテリーBに接続されており、該モータMGは、例えばシングルピニオンプラネタリギヤ等からなる減速機構PRを介して、例えばベルト式の無段変速機構CVTの入力軸に接続されている。また、該無段変速機構CVTの入力軸(プライマリプーリの回転軸)は、上記クラッチC、ダンパ装置Dを介して、エンジンEGに接続されており、該クラッチCは油圧制御装置VBからの供給油圧によってエンジンEGの駆動中には係合され、非駆動中(エンジンストップ中)には解放される。つまりクラッチCを係合した状態(エンジンの駆動力を用いた走行中)にあっては、エンジンEGとモータMGとが連動して回転し、無段変速機構CVTに回転を伝達(伝動)する。
【0023】
該無段変速機構CVTは、例えばプライマリプーリとセカンダリプーリとそれら両プーリに捲回されたベルトとを有するベルト式の無段変速機構からなり、後述する制御部(ECU)1からの変速指令に基づき油圧制御装置VBにより調圧される油圧によって両プーリの軸方向幅が油圧制御されることにより変速比の変更が行われる。そして、無段変速機構CVTの出力軸(セカンダリプーリの回転軸)はカウンタギヤCGに噛合されており、該カウンタギヤCGを介してディファレンシャルギヤDGにその出力回転が伝達され、該ディファレンシャルギヤDGを介して左右の駆動車輪Wにそれらの差回転を許容する形で出力回転が伝達(伝動)される。
【0024】
なお、以上説明したハイブリッド駆動装置HVの詳細な構成は、特開2008−132812号公報(特許文献1)に記載されたものと同様であるので、その詳細説明は省略する。
【0025】
ついで、ハイブリッド車輌の制御装置(制御部)1の構成について図1に沿って説明する。ハイブリッド車輌の制御装置としての制御部(ECU)1は、駆動力維持制御手段11を有するエンジン制御手段10と、ゼロトルク制御手段21を有するモータ制御手段20と、車速維持制御手段31を有する変速制御手段30と、温度上限閾値マップTmapを有するモータ保護制御手段40と、を備えて構成されている。
【0026】
また、制御部1には、モータMGのステータコイル内に配設されたモータ温度センサ(モータ温度検出手段)51と、無段変速機構CVTの入力軸の回転速度を検出する入力軸回転速度センサ52と、無段変速機構CVTの出力軸の回転速度或いはカウンタギヤCGの回転速度を検出する出力軸回転速度(車速)センサ53と、図示を省略した運転席のアクセルペダルの踏込み量(つまりアクセル開度)を検出するアクセル開度センサ54と、が接続されて各種信号が入力されるように構成されている。
【0027】
なお、本実施の形態においては、モータ温度センサ51がモータMGのステータコイル内に配設され、直接的にモータMGの温度を検出するものを説明しているが、これに限らず、例えばモータMGの冷却油の温度を検出する等して、間接的にモータMGの温度を検出しても良く、つまりモータMGの温度を検出できるものであれば、どのようなものであっても構わない。
【0028】
上記エンジン制御手段10は、エンジンEGのスロットル開度などを自在に制御し、エンジンEGの駆動・非駆動を制御すると共に、通常走行中におけるエンジンEGの駆動中にあっては、アクセル開度センサ54により検出されるアクセル開度、出力軸回転速度センサ53により検出される車速(駆動車輪の回転数)V、無段変速機構CVTの変速比などに基づき、エンジンEGが最適燃費状態となるようにエンジン回転数(エンジンの回転数)Ne及びエンジントルク(エンジンの出力トルク)Teを制御する。
【0029】
上記モータ制御手段20は、バッテリーBからの電力(電流・電圧)を自在に制御し、モータMGの力行・回生を制御すると共に、特にエンジンEGの非駆動時には、アクセル開度センサ54により検出されるアクセル開度(つまり運転者の要求する出力)に基づきモータMGの出力トルクを制御し、エンジンEGの駆動時であって特にモータMGの所定回転数(例えば13000rpm)未満にあっては、エンジントルクTeとモータトルクTmgとの合計がアクセル開度に応じた合計トルクとなるように該モータMGを制御する。
【0030】
上記ゼロトルク制御手段21は、入力軸回転速度センサ52による検出結果に基づき、モータMGがモータトルクTmgを出力することが困難となる上記所定回転数(例えば13000rpm)以上となると、モータMGの出力トルクがゼロ(0)となるように電流を流して制御する。これにより、モータMGが所定回転数以上となる高車速時には、該モータMGが負荷になることなく、エンジンEGの出力だけによる走行状態となる。
【0031】
上記変速制御手段30は、アクセル開度センサ54により検出されるアクセル開度、出力軸回転速度センサ53により検出される車速Vなどに基づき、例えば不図示の変速マップを参照し、特にエンジンEGが最適燃費状態の回転数となるように無段変速機構CVTの変速比を判断し、該無段変速機構CVTがその判断した変速比となるように油圧制御装置VBに指令することで、該無段変速機構CVTの変速比を制御する。
【0032】
つづいて、本発明に係るモータ保護制御について、図1、図2、図4を参照しつつ図3のフローチャートに沿って説明する。例えばイグニッションONされた状態となると、図3に示すモータ保護制御が開始され(S1)、まず、モータ保護制御手段40は、モータ温度センサ51によりモータMGの温度Tを検出し(S2)、つづいて、入力軸回転速度センサ52により検出される無段変速機構CVTの入力軸の回転数と減速機構PRのギヤ比とからモータ回転数(モータの回転数)Nmgを算出する形で検出する(S3)。
【0033】
ついで、モータ保護制御手段40は、図2に示す温度上限閾値マップTmapを参照する(S3)。該温度上限閾値マップTmapには、図2に示すように、モータ回転数Nmgとモータ温度(ステータコイル温度)Tとの関係に基づき、図中実線で示す上限閾値が記録されている。該上限閾値は、通常走行状態であるモータ温度Tが0〜T1(例えば150度)までの間では、モータ回転数Nmgが回転数N2(例えば20000rpm)となるように設定されており、モータMGの高温状態であってモータ温度TがT1(例えば150度)〜T2(例えば160度)までの間では、温度T2で回転数N1(例えば13000rpm)となるように設定され、つまりモータ回転数Nmgが高いほど低い温度となるような値に設定されている。
【0034】
なお、このモータMGの高温状態での回転数の上限閾値は、上記ゼロトルク制御が開始される所定回転数(例えば13000rpm)以上、即ち回転数N1以上の場合に対応しており、つまり上記ゼロトルク制御が行われない回転数N1未満では、モータMGの発熱量が放熱量よりも大きくなり過ぎることは想定していない。
【0035】
このような温度上限閾値マップTmapを参照すると(S3)、モータ保護制御手段40は、モータ温度Tが上限閾値以上であるか否かを判定し(S5)、上限閾値未満である場合は(S5のNo)、そのまま終了する(S10)。一方、モータ温度Tが上限閾値以上である場合は(S5のYes)、モータMGが耐熱温度を越える虞があるので、モータ保護制御手段40はエンジン回転数低下制御を行う(S6)。
【0036】
即ち、モータ保護制御手段40は、上記ステップS2で検出したモータ温度Tに基づき温度上限閾値マップTmapを参照し、上限閾値となるモータ回転数に対応する(つまり減速機構PRにより減速されている分を加味して)エンジン回転数となるまで、例えばエンジン制御手段10からスロットル開度や燃料噴射量を変更するなどして、エンジン回転数Neを低下させる。
【0037】
なお、エンジン回転数を低下させる手法としては、スロットル開度や燃料噴射量を変更するだけでなく、例えばエンジンの遅角なども考えられ、つまりエンジン回転数を上記上限閾値に対応した回転数まで低下させることができる手法であれば、どのような手法であっても構わない。
【0038】
ところで、このようにエンジン回転数Neを低下させると、エンジンEGが、ダンパ装置D、クラッチC、無段変速機構CVT、カウンダギヤCG、ディファレンシャルギヤDGを介して駆動車輪Wに連動しているため、何もしないと車速Vが低下することになる。そこで、車速維持制御手段31は、モータ保護制御手段40によるエンジン回転数Neの低下制御に応じて無段変速機構CVTの変速比を高速側に低下(つまりアップシフト)させる変速比低下制御を行う(S7)。即ち、エンジン回転数Neの低下量に合わせて無段変速機構CVTをアップシフトする変速比の変更量を演算し、エンジン回転数Neの低下に同調してアップシフトすることで、基本的に車速Vが維持されるように制御する。
【0039】
なお、モータ温度Tが高温となり、エンジン回転数低下制御を行う状況とは、つまり車輌性能における最高車速付近での走行状態であり、一般的に無段変速機構CVTの設計上、変速比が最低値であると駆動力不足によって最高車速には到達しないため、つまり無段変速機構CVTにはアップシフトする余裕がある変速比であるはずであるので、エンジン回転数Neの低下に同調したアップシフトが不能になることはあり得ないことである。
【0040】
ここで、上述のようにエンジン回転数Neを低下させる場合、駆動車輪Wに伝達されるエンジンEGからの総駆動力(即ち総出力(いわゆる馬力))は、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの積であるので、図4に示すように、点Aで示す走行状態で総駆動力PW1により走行している状態からエンジン回転数Neだけを低下させると、矢印Yのように推移し、点B’で示すように総駆動力がPW1からPW2に低下する。従って、当該ハイブリッド車輌は、走行抵抗に対する総駆動力が低下することとなって、結果的に車速Vが低下してしまうことになり、つまり車輌性能における最高車速が低下することになる。
【0041】
また、図4に示すように、ハイブリッド車輌に搭載されているエンジンEGは、基本的に最適燃費状態となるようにエンジン最適燃費線に沿ってスロットル開度が調整されており、該エンジン最適燃費線に沿ってエンジン回転数Neを推移させれば、矢印Yで示すように総駆動力がPW1からPW2に低下することになるが、エンジンEGの設計によっては(搭載されているエンジンの種類によっては)、エンジン最適燃費線から外れるが、エンジン回転数Neを変化させずに燃料噴射量を変更するなどしてエンジントルクTeだけを上昇させる余裕があるものがある。
【0042】
このようにエンジンEGの設計上、エンジントルクTeをエンジン最適燃費線から外して上昇させる余裕があるものについては、エンジン回転数Neを低下させつつエンジントルクTeを上昇させることで、矢印Xに示すように推移し、つまり駆動車輪Wに対する総駆動力PW1が変化しないように点Bに推移させることが可能となる。
【0043】
そこで、駆動力維持制御手段11は、図3に示すように、上記エンジン回転数低下制御(S6)及び変速比低下制御(S7)を行う際に、エンジントルクTeの上昇が可能であるか否かを判定し(S8)、エンジンEGの設計上、エンジントルクTeの上昇が可能である場合は(S8のYes)、例えば燃料噴射量を上昇するなどしてエンジントルクTeを上昇し、総駆動力を維持させる駆動力維持制御を行い(S9)、つまり図4に示す矢印Xとなるように推移させて、それにより走行抵抗に対する総駆動力を維持させて車速Vを維持し、以上のモータ保護制御を終了する(S10)。
【0044】
一方、エンジンEGの設計上、エンジントルクTeの上昇が可能でない場合は(S8のNo)、エンジン回転数Neを最適燃費線に沿って低下させ、つまり図4に示す矢印Yとなるように推移させて、以上のモータ保護制御を終了する(S10)。この場合は、走行抵抗に対する総駆動力がPW1からPW2に低下するため、車速Vは徐々に低下することになる。
【0045】
ついで、上記モータ保護制御を行った場合の走行例を図5及び図6に沿って説明する。図5はエンジンに出力トルクの余裕がある場合(つまり駆動力維持制御を行う場合)のモータ保護制御、図6はエンジンに出力トルクの余裕がない場合のモータ保護制御を示すタイムチャートである。
【0046】
まず、エンジンに出力トルクの余裕がある場合について説明する。図5に示すように、例えば車輌性能の最高車速付近の車速Vで走行している際は、モータ回転数Nmgも設計上の最高回転数付近であり、例えばモータ回転数Nmgは図2に示す回転数N2(例えば20000rpm)となっている。すると、モータMGはゼロトルク制御手段21によりゼロトルク制御されている状態であり、モータ温度(ステータコイルの温度)Tが徐々に上昇していく。
【0047】
例えば時点t1にモータ温度Tが図2に示す温度T1となると、つまりモータ温度Tが温度上限閾値マップTmapの上限閾値以上となるので(S5のYes)、モータ保護制御手段40は、エンジン回転数低下制御を開始し(S6)、エンジンEGにスロットル開度や燃料噴射量の変更を指令して、上記上限閾値に沿った形でエンジン回転数Neを低下させる。これにより、減速機構PRを介してエンジンEGに連動するモータMGの回転数Nmgも低下していき、ゼロトルク制御されているモータMGの温度上昇も少なくなる。
【0048】
また同時に、車速維持制御手段31が変速比低下制御を開始して(S7)、油圧制御装置VBに指令して無段変速機構CVTの変速比Gを低下(アップシフト)させていく。さらに、駆動力維持制御手段11は、エンジンEGの回転数Neを低下した際にエンジントルクの上昇が可能か否かを判断し、ここではエンジンEGの出力トルクに余裕があるので(S8のYes)、駆動力維持制御を行って(S9)、つまり図4の矢印Xに示すようにエンジン回転数Neの低下に応じてエンジントルクTeを上昇させる。
【0049】
従って、時点t1からは、エンジン回転数Neが低下されてモータ回転数Nmgも連動して低下され、モータ温度Tの発熱量が小さくなっていくことで温度上昇が少なくなっていくと共に、無段変速機構CVTの変速比Gも小さくされていくことでエンジン回転数Neの減少に伴う無段変速機構CVTの出力軸回転数の変化を吸収し、さらにエンジントルクTeを上昇して総駆動力PW1を一定に維持することで、最終的に車速Vを一定に維持する。
【0050】
そして、時点t2にモータMGの発熱量と放熱量とが釣合って、モータ温度Tの上昇が納まると、温度上限閾値マップTmapの上限閾値未満に落ち着くので(S5のNo)、モータ温度Tが連続運転不能となる温度T2を超えることなくモータMGが保護されることになり、そして、エンジン回転数低下制御(S6)、変速比低下制御(S7)、駆動力維持制御(S9)を全て終了し、つまりモータ保護制御を終了して(S10)、そのまま車輌性能の最高車速付近での走行を継続する。
【0051】
つづいて、エンジンに出力トルクの余裕がない場合について説明する。同様に、図6に示すように、例えば車輌性能の最高車速Vmax付近の車速Vで走行している際は、モータ回転数Nmgも設計上の最高回転数付近であって、モータMGはゼロトルク制御手段21によりゼロトルク制御され、モータ温度(ステータコイルの温度)Tが徐々に上昇していく。
【0052】
同様に、例えば時点t1にモータ温度Tが図2に示す温度T1となると、モータ温度Tが上限閾値以上となるので(S5のYes)、モータ保護制御手段40は、エンジン回転数低下制御を開始し(S6)、上記上限閾値に沿った形でエンジン回転数Neを低下させる。これにより、エンジンEGに連動するモータMGの回転数Nmgも低下していき、ゼロトルク制御されているモータMGの温度上昇も少なくなる。
【0053】
また同時に、車速維持制御手段31が変速比低下制御を開始して(S7)、無段変速機構CVTの変速比Gを低下(アップシフト)させる。ここで、駆動力維持制御手段11は、エンジンEGの回転数Neを低下した際にエンジントルクの上昇が可能か否かを判断するが、ここではエンジンEGの出力トルクに余裕がないので(S8のNo)、つまり図4の矢印Yに示すようにエンジン回転数Neを最適燃費線に沿って低下させ、エンジントルクTeは上昇させないことになる。
【0054】
従って、時点t1からは、エンジン回転数Neが低下されてモータ回転数Nmgも連動して低下され、モータ温度Tの発熱量が小さくなっていくことで温度上昇が少なくなっていくと共に、無段変速機構CVTの変速比Gも小さくされていくことでエンジン回転数Neの減少に伴う無段変速機構CVTの出力軸回転数の変化を吸収するが、総駆動力がPW1からPW2に下がるので(図4参照)、最終的に車速Vは走行抵抗に負ける形で車速Vを低下させていく。
【0055】
そして、時点t2にモータMGの発熱量と放熱量とが釣合って、モータ温度Tの上昇が納まると、温度上限閾値マップTmapの上限閾値未満に落ち着くので(S5のNo)、モータ温度Tが連続運転不能となる温度T2を超えることなくモータMGが保護されることになり、そして、エンジン回転数低下制御(S6)、変速比低下制御(S7)を終了し、つまりモータ保護制御を終了して(S10)、そのまま車輌性能の最高車速よりも僅かに低い車速Vでの走行を継続する。
【0056】
以上説明したように本ハイブリッド車輌の制御装置1によると、モータ保護制御手段40が、エンジンEGの駆動回転によってモータMGが所定回転数(例えば13000rpm)以上で回転されてゼロトルクに制御されている場合にあって、モータMGの温度Tが上限閾値以上となった際に、エンジン回転数Neを低下させるので、モータ回転数Nmgを下げることができて、ゼロトルク制御による発熱量を下げることができ、モータ温度Tを下げることが可能となって、モータMGの保護を図ることができる。これにより、モータMGの冷却構造を高性能にしたり、モータMGを大型化したりすることを不要とすることができて、ハイブリッド車輌のコストダウンやコンパクト化を図ることができる。
【0057】
また、上限閾値が、図2に示すように、特に高温状態となる温度T1以上にあって、モータ回転数Nmgが高いほど低い温度となるような値に設定されているので、モータ回転数Nmgに応じてモータ温度Tが高くなり過ぎることを防止することができ、確実にモータMGの保護を図ることができる。
【0058】
さらに、車速維持制御手段31が、モータ保護制御手段40によりエンジン回転数Neが低下された際に、該エンジン回転数Neの低下に対応するように無段変速機構CVTの変速比Gを高速側に変速するので、エンジン回転数Neの低下に伴う車速Vの低下の防止を図ることができる。
【0059】
さらに、駆動力維持制御手段11が、モータ保護制御手段40によりエンジン回転数Neが低下された際にあって、特にエンジンEGの出力トルクの上昇が可能な場合に、駆動車輪Wに伝達される総駆動力PW1を維持するようにエンジントルクTeを上昇するので、駆動車輪Wに伝達される総駆動力が低下して車速Vの低下を招くことを防ぐことができる。
【0060】
そして、モータMGは、減速機構PRを介して無段変速機構CVTの入力軸に連結されているので、モータMGの出力トルクを増幅して駆動車輪Wに伝達することができる反面、エンジン回転数Neに比してモータMGが高回転となるが、モータ保護制御手段40がモータ温度Tが上限閾値以上となった際にエンジン回転数Neを低下させるので、モータ回転数Nmgを大幅に下げることができ、それによってモータMGの保護を確実に図ることができる。
【0061】
なお、以上説明した本実施の形態においては、例えば無段変速機構CVTとしてベルト式無段変速機構を適用したものを説明したが、これに限らず、有段式の自動変速機構であってもよく、つまり変速機構はどのようなものであってもよい。特にエンジン回転数Neの低下制御に伴うアップシフトが不能なものであっても、車輌としての最高車速性能が低下するだけであるので、エンジン回転数Neの低下制御に伴うアップシフトを行わないものも本発明の適用範囲の内である。
【0062】
また、本実施の形態においては、本発明を適用し得るハイブリッド車輌の一例として、エンジンとモータとが変速機構の前段(駆動力の伝達経路の上流側)に並列的に配置したものを説明したが、これに限らず、エンジンの駆動力による走行中にモータが連動して回転されるものであれば、エンジンとモータとの連結関係はどのようなものであっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るハイブリッド車輌の制御装置は、乗用車、トラック等のハイブリッド車輌の制御装置として用いることが可能であり、特に冷却装置の簡素化やモータの小型化を行ってコストダウンやコンパクト化を図りつつ、モータの保護も図ることが求められる自動変速機の制御装置に用いて好適である。
【符号の説明】
【0064】
1 ハイブリッド車輌の制御装置
11 駆動力維持制御手段
21 ゼロトルク制御手段
31 車速維持制御手段
40 モータ保護制御手段
51 モータ温度検出手段(モータ温度センサ)
EG エンジン
MG モータ
PR 減速機構
CVT 変速機構(無段変速機構)
W 駆動車輪
Ne エンジンの回転数(エンジン回転数)
Nmg モータの回転数(モータ回転数)
G 変速機構の変速比
T モータの温度
T1〜T2 上限閾値
Te エンジンの出力トルク(エンジントルク)
V 駆動車輪の回転数(車速)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、少なくともエンジンの駆動力を用いた走行中に該エンジンと連動して回転するモータと、該エンジン及び該モータの回転を変速して駆動車輪に伝動する変速機構と、を備えたハイブリッド車輌の制御装置において、
前記エンジンの駆動回転によって前記モータが所定回転数以上となった際に、該モータの出力トルクをゼロトルクに制御するゼロトルク制御手段と、
前記モータの温度を検出するモータ温度検出手段と、
前記エンジンの駆動回転によって前記モータが前記所定回転数以上で回転されている場合にあって、前記モータの温度が上限閾値以上となった際に、前記エンジンの回転数を低下させるモータ保護制御手段と、を備えた、
ことを特徴とするハイブリッド車輌の制御装置。
【請求項2】
前記上限閾値は、前記モータの回転数が高いほど低い温度となるような値に設定されてなる、
ことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車輌の制御装置。
【請求項3】
前記モータ保護制御手段により前記エンジンの回転数が低下された際に、該エンジンの回転数の低下に対応するように前記変速機構の変速比を高速側に変速する車速維持制御手段を備えた、
ことを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド車輌の制御装置。
【請求項4】
前記モータ保護制御手段により前記エンジンの回転数が低下された際に、前記駆動車輪に伝達される駆動力を維持するように前記エンジンの出力トルクを上昇する駆動力維持制御手段を備えた、
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか記載のハイブリッド車輌の制御装置。
【請求項5】
前記モータは、減速機構を介して前記変速機構の入力軸に連結されてなる、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載のハイブリッド車輌の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−201370(P2011−201370A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69162(P2010−69162)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】