説明

ハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造

【課題】部品点数の増加や組付け作業性の悪化に起因する製造コストの高騰を未然に防止した上で、油圧クラッチ及び走行用モータを個別に収容するハウジング内の作動流体の熱膨張による圧力上昇を確実に抑制できるハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造を提供する。
【解決手段】ハウジング1に形成したクラッチ室6内に湿式油圧クラッチ19を収容すると共に、このクラッチ室6の後側にモータ室7を形成して油冷式のモータ20を収容し、クラッチ室6及びモータ室7の上部に形成されたモータ冷却作動油供給弁室39を介してクラッチ室6とモータ室7とを連通させる。モータ冷却後の作動油をモータ室7の上部の流下孔35から環状回収路33を経て下部のオイルパン37に回収すると共に、この環状回収路33の途中にクラッチ室6とモータ室7との共用のエアブリーザを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造に係り、詳しくはエンジンからの駆動力を変速機側に伝達するための湿式油圧クラッチを収容するクラッチハウジング、及び油冷式の走行用モータを収容するモータハウジング内の圧力上昇を抑制するエアブリーザの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車両のパワープラントには、エンジンからの駆動力を変速機側に伝達するために作動流体を利用した流体継手や湿式油圧クラッチなどの油圧締結装置が備えられる場合があり、このような車両では、油圧締結装置を収容したハウジングに作動流体の熱膨張による圧力上昇を抑制するためにエアブリーザを設けている。
例えば特許文献1に記載の技術は流体継手に関するものであるが、流体継手を収容するハウジングの上部に形成した流体貯槽にエアブリーザを設けて、流体継手を循環する作動流体が熱膨張したときにエアブリーザを介して流体貯槽内のエアを外部に排出することにより圧力上昇を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−314435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では燃費や排ガス性能の向上を目的としてハイブリッド電気自動車が普及しており、この種のハイブリッド電気自動車ではパワープラントに走行用モータが追加される。例えば油圧クラッチをパワープラントに備えた車両では、油圧クラッチと変速機との間に走行用モータを配置し、走行用モータの作動に応じてその駆動力を変速機側に任意に伝達可能としている。
【0005】
この種の走行用モータとしては、ステータのコイルを作動流体により冷却する油冷式のものが採用されることがある。冷却用の作動流体としては油圧クラッチに使用している作動流体を流用する場合も、全く別の供給源からの作動流体を使用する場合もあるが、何れにしても油圧クラッチと走行用モータとでは作動流体の使用状況が全く異なることから、相互に独立したハウジングに個別に収容する必要がある。
【0006】
即ち、油圧クラッチは、湿式クラッチ板やベアリングを潤滑した後の作動流体を遠心力で飛散させながら高速回転するため、油圧クラッチを収容したハウジング内は作動流体が常に飛散する環境となる。これに対して走行用モータは、上記のようにステータのコイル部分は作動流体による冷却を要するものの、高速回転するロータを収容したハウジング内は作動流体の飛散を極力防止して、飛散した作動流体との衝突によるロータの回転ロスを防止する配慮が必要となる。
【0007】
以上の理由により、油圧クラッチと走行用モータとを相互に独立したハウジングに収容する必要が生じ、必然的にそれぞれのハウジングに作動流体の熱膨張による圧力上昇を抑制するためのエアブリーザ、及びエアブリーザを設置するためのブリーザ室を個別に設ける必要が生じる。結果として、部品点数の増加や組付け作業性の悪化により製造コストが高騰するという問題が生じた。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、部品点数の増加や組付け作業性の悪化に起因する製造コストの高騰を未然に防止した上で、油圧クラッチ及び走行用モータを個別に収容するハウジング内の作動流体の熱膨張による圧力上昇を確実に抑制することができるハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、ハウジングに形成されたクラッチ室内に収容され、作動油供給源から供給される作動油に応じて断接動作し、エンジンからの駆動力を変速機側に伝達可能な湿式油圧クラッチと、ハウジングにクラッチ室と隣接して形成されたモータ室内に収容されて湿式油圧クラッチと変速機との間に接続され、変速機側に駆動力を伝達すると共に、作動油供給源から供給される作動油により冷却される油冷式のモータと、クラッチ室の上部とモータ室の上部とを連通する連通路と、モータ室側に設けられてモータ室内のエアを外部に排出可能なエアブリーザとを備えたものである。
【0010】
従って、クラッチ室内の湿式油圧クラッチ、及びモータ室内の油冷式のモータには作動油が供給されることから、クラッチ室及びモータ室の何れも作動油の熱膨張により圧力上昇を発生し得る。ここで、圧力上昇を生じたときのモータ室内のエアはエアブリーザから外部に排出され、同じく圧力上昇を生じたときのクラッチ室のエアは連通路を経てエアブリーザから外部に排出され、これによりクラッチ室及びモータ室の何れの圧力上昇も抑制される。
【0011】
そして、このように共通のエアブリーザによりクラッチ室及びモータ室の圧力上昇を抑制することから、個別にエアブリーザを設けたときの部品点数の増加や組付け作業性の悪化、ひいては製造コストの高騰が未然に防止される。
一方、クラッチ室内は遠心力により湿式油圧クラッチから飛散した作動油が常に充満した状態にあるのに対し、モータ室内の作動油はモータを冷却した後の比較的落ち着いた流動状態にある。このようなモータ室側にエアブリーザが設けられることにより、エアブリーザは飛散・霧化した作動油を殆ど含まないエアを外部に排出し、エアブリーザから作動油が外部に漏れる事態が未然に防止される。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、ハウジングの上部に、モータ冷却のために作動油供給源から供給される作動油を制御するモータ冷却作動油供給弁を収容したモータ冷却作動油供給弁室が形成され、モータ冷却作動油供給弁室の一側がクラッチ室内と連通し、モータ冷却作動油供給弁室の他側がモータ室内と連通することにより、モータ冷却作動油供給弁室が連通路として機能するものである。
従って、モータ冷却制御用のモータ冷却作動油供給弁を収容したモータ冷却作動油供給弁室は既存の構成であり、このモータ冷却作動油供給弁室を介してクラッチ室とモータ室とを連通させるため、従来のパワープラントの構成に対して僅かな仕様変更を行うだけで実施可能となる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2において、ハウジングは略円筒状をなしてモータ室の外周に沿う円弧状をなす回収路が形成され、回収路の上部がモータ室の上部に形成された流下孔と連通する一方、回収路の下部がハウジングの下部に設けられた作動油回収用のオイルパンと連通し、回収路内の一側には、回収路内での作動油の流れ方向に対して略直交する方向に向けて膨出するようにブリーザ室が形成され、エアブリーザがブリーザ室に設けられたものである。
従って、モータ室内でモータを冷却した後の作動油は流下孔から溢れて、回収路内を下方に案内されてオイルパンに回収される。また、クラッチ室やモータ室の圧力上昇時には、回収路からブリーザ室を経てエアブリーザから外部に排出される。
【0014】
そして、元々モータ室内の作動油の流動状態は落ち着いている上に、回収路内を流れる過程で作動油の流動状態はさらに安定する。しかも、回収路内での作動油の流れ方向に対してブリーザ室は略直交方向に膨出しているため、回収路内の作動油がブリーザ室内に侵入するには、その流動方向を略直交する方向に変更する必要があり、作動油のブリーザ室内への侵入が妨げられる。結果として、エアブリーザから外部への作動油の漏れを一層確実に抑制可能となる。
また、モータ室から溢流した作動油をオイルパンに回収するための回収路は既存の構成であり、この回収路を介して圧力上昇時のエアをエアブリーザまで導いているため、従来のパワープラントの構成に対して僅かな仕様変更を行うだけで実施可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造によれば、クラッチ室の上部とモータ室の上部とを連通路により連通させて共通のエアブリーザを設けたため、個別にエアブリーザを設けたときの部品点数の増加や組付け作業性の悪化に起因する製造コストの高騰を未然に防止した上で、クラッチ室及びモータ室内の作動流体の熱膨張による圧力上昇を確実に抑制でき、しかも、比較的作動油の流動状態が落ち着いているモータ室側にエアブリーザを設けたため、エアブリーザから作動油が外部に漏れる事態を未然に防止することができる。
【0016】
請求項2の発明のハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造によれば、請求項1に加えて、既存のモータ冷却作動油供給弁室を利用してクラッチ室とモータ室とを連通させることにより、従来のパワープラントの構成に対して僅かな仕様変更を行うだけで低コストにより実施することができる。
請求項3の発明のハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造によれば、請求項1または2に加えて、回収路内を流れる過程で作動油の流動状態を安定させると共に、回収路内での作動油の流れ方向に対してブリーザ室を略直交方向に膨出させてブリーザ室内への作動油の侵入を妨げることにより、エアブリーザから外部への作動油の漏れを一層確実に抑制できると共に、既存の回収路を利用して圧力上昇時のエアをエアブリーザまで導くことにより、従来のパワープラントの構成に対して僅かな仕様変更を行うだけで低コストにより実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造が適用されたパワープラントを示す全体構成図である。
【図2】パワープラントのクラッチ・モータ機構を示す断面図である。
【図3】環状回収路を示す図2のIII−III線断面図である。
【図4】ブリーザ室を示す図3のIV−IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造の一実施形態を説明する。
図1は本発明のハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造が適用されたパワープラントを示す全体構成図である。
全体としてパワープラントは、車両前方よりエンジンM1、湿式油圧クラッチ19(以下、単にクラッチと称する)及び油冷式モータ20(以下、単にモータと称する)からなるクラッチ・モータ機構M2、エンジンM1やモータ20の駆動力を任意の変速段で変速するデュアルクラッチ式の変速機M3、及び変速機M3から出力される駆動力を左右の駆動輪54に伝達するプロペラシャフト52及び差動装置53からなる伝達機構M4により構成されている。
【0019】
図2はこのように構成されたパワープラントのクラッチ・モータ機構M2を示す断面図である。
クラッチ・モータ機構M2のクラッチ・モータハウジング1(ハウジング)は、クラッチ19及びモータ20を収容するようにアルミ合金により一体成型されている。但し、クラッチ・モータハウジング1は必ずしも一体成型する必要はなく、クラッチ19側とモータ20側とを別体で成型してボルトにより締結する構成としてもよい。
【0020】
以下に詳細を説明すると、クラッチ・モータハウジング1のハウジング本体2は全体として前後方向に延びる略円筒状をなし、その前端は図示しないボルトで締結された前壁3により閉塞され、同じく後端は図示しないボルトで締結された後壁4により閉塞されている。ハウジング本体2の内部には隔壁5が一体成型され、この隔壁5によりクラッチ・モータハウジング1内は前側のクラッチ室6と後側のモータ室7とに区画されている。
【0021】
クラッチ・モータハウジング1の前端外周にはフランジ1aが形成され、このフランジ1aを介してクラッチ・モータハウジング1の前端にはエンジンM1が図示しないボルトにより連結されている。クラッチ・モータハウジング1の前壁3の中央には前後方向に延びるようにクラッチ入力軸10が回転可能に支持され、このクラッチ入力軸10の前端にエンジンM1の出力軸が連結されている。前壁3にはオイルポンプ11(作動油供給源)が設けられ、オイルポンプ11はクラッチ入力軸10と連結されてエンジンM1の運転中に常に回転駆動されて作動油(ATF)を供給する。後述するように、このオイルポンプ11から供給される作動油がクラッチ19の断接動作や潤滑、及びモータ20の冷却に利用される。
【0022】
クラッチ入力軸10の後方には変速機M3の入力軸として機能するアウタ入力軸12が同一軸線上に配設され、このアウタ入力軸12は隔壁5に設けられたベアリング13及び後壁4に設けられたベアリング14により回転可能に支持されている。アウタ入力軸12は筒状をなし、その内部には同じく変速機M3の入力軸として機能するインナ入力軸15が配設されている。
アウタ入力軸12の内周の前部及び後部にはベアリング16,17が設けられ、これらのベアリング16,17によりインナ入力軸15はアウタ入力軸12に対して相対回転可能に支持されている。これらのアウタ入力軸12及びインナ入力軸15の後端はクラッチ・モータハウジング1の後壁4を介して後方に突出し、後述するように、これらのアウタ入力軸12及びインナ入力軸15を介してエンジンM1やモータ20の駆動力が変速機M3側に伝達される。
【0023】
上記クラッチ室6内にはクラッチ入力軸10を中心としてクラッチ19が収容されている。詳細は説明しないが、クラッチ19はアウタクラッチ19a及びインナクラッチ19bから構成され、それぞれ上記オイルポンプ11から供給される作動油によりピストンを油圧作動させて湿式多板クラッチを押圧することにより接続される。
アウタクラッチ19aの接続時にはクラッチ入力軸10とアウタ入力軸12とが接続されて、エンジンM1からの駆動力がアウタクラッチ19aを介してアウタ入力軸12に伝達され、インナクラッチ19bの接続時にはクラッチ入力軸10とインナ入力軸15とが接続されて、エンジンM1からの駆動力がインナクラッチ19bを介してインナ入力軸15に伝達される。
【0024】
一方、モータ室7内にはアウタ入力軸12を中心として永久磁石式のモータ20が配設され、全体としてモータ20はロータ21及びステータ22から構成されている。ロータ21はモータ室7内に露出しているアウタ入力軸12に外嵌され、ロータ21の周囲には永久磁石からなる多数のロータコア21aが列設されている。ロータ21はアウタ入力軸12の外周面に対してスプライン23により相対回転を規制されると共に、隔壁5に設けられたベアリング24及び後壁4に設けられたベアリング25に案内されながらアウタ入力軸12と共に回転可能となっている。
【0025】
ステータ22は、電磁鋼板を積層した環状のステータコア22a上にコイル22bを巻回した複数個のボビン22cを周方向に列設して構成されており、ロータ21の周囲を僅かな間隙をおいて取り巻くように配設されている。ステータ22は、ステータコア22aの外周部がハウジング1のモータ室7の内周に嵌め込まれて固定されている。ステータ22の各ボビン22cの前部はアウタ入力軸12を中心とした環状をなすパッキン26を介してハウジング1の隔壁5に当接し、各ボビン22cの後部は同じくアウタ入力軸12を中心とした環状をなすパッキン27を介してハウジング1の後壁4に当接している。
【0026】
図示はしないが、ステータ22の各コイル22bはU,V,Wの3相に分別されて交互に配列され、各相のコイル22bはそれぞれ電力線を介してハウジング外の走行用バッテリに接続されている。インバータの制御によりバッテリから電力を供給されて各相のコイル22bは順次通電され、ステータコア22aに発生した磁界の方向に応じてロータ21と共にアウタ入力軸12には駆動トルクや回生トルクが付与される。
モータ室7内においてロータ21の後部にはロータ角度を検出するためのレゾルバ28が設けられている。レゾルバ28はレゾルバロータ28aとレゾルバステータ28bとから構成され、レゾルバロータ28aはロータ21の後部に固定され、レゾルバステータ28bは後壁4からステー29を介して支持されてレゾルバロータ28aを取り巻くように配設されている。
【0027】
これによりモータ20のロータ21と共にレゾルバロータ28aが回転すると、その回転角度に応じた信号をレゾルバステータ28bが出力する。
また、前後のパッキン26,27のシール作用により、モータ室7内はステータ22を境界として内周側のロータ室7aと外周側のステータ室7bとに内外に区画されると共に、各ボビン22cの後部の外周側に形成された切欠30を介してステータ22の各ボビン22cはステータ室7bと連通している。
【0028】
隔壁5のモータ室7側の面には、アウタ入力軸12を中心としてステータ22と相対向する環状をなす分配溝31が凹設され、前側のパッキン26には各ボビン22cに対応するように複数個の分配孔32が貫設されている。分配溝32内には図示しない油路を経て上記オイルポンプ11から作動油の一部が供給され、作動油は分配溝31から各分配孔32を経て各ボビン22c内に導かれるようになっている。各ボビン22cはステータ室7bと連通しているため、各ボビン22c内に導かれた作動油はコイル22bに沿って後方に流通してステータ室7b内を満たし、コイル22bは常に作動油により冷却される。
【0029】
なお、このようにステータ室7bは作動油が常に満たされるが、上記パッキン26,27のシール作用によりロータ室7aへの作動油の侵入はほとんどない。この対策は、ロータ室7a内で飛散した作動油が高速回転するロータ21に衝突して回転ロスを生じるのを防止するためである。
図3は環状回収路を示す図2のIII−III線断面図である。
【0030】
図2,3に示すように、クラッチ・モータハウジング1のハウジング本体2と後壁4との間には、モータ室7の後部周囲を取り巻くように環状回収路33(回収路)が形成されている。環状回収路33の外周側は、ハウジング本体2と後壁とをボルトで締結するためのフランジ34に倣った形状をなし、環状回収路33の内周側は、後側のパッキン27の外周端よりも若干小径の円形状をなしている。この環状回収路33の内周側とパッキン27の外周端との大小関係により、パッキン27の外周端は環状回収路33の内周面よりも寸法Lだけ突出している。
【0031】
上記ステータ室7bは、その最上部に形成された流下孔35を介して環状回収路33の最上部と連通している。上記分配溝31からステータ室7b内に供給されてコイル22bの冷却に供された作動油は、順次流下孔35から溢れて環状回収路33内を左右に分岐して下方に案内される。
ハウジング本体2には環状回収路33内の最下部に一端を開口させるように下部回収路36が形成され、下部回収路36の他端はハウジング本体2の下部に設けられたオイルパン37内と連通している。従って、環状回収路33を下方に案内された作動油は下部回収路36を経てオイルパン37に回収される。
【0032】
一方、ハウジング本体2の上部にはモータ冷却作動油供給弁室39(連通路)が設けられ、モータ冷却作動油供給弁室39は前後方向においてクラッチ室6とモータ室7とに亘るように配設されている。図2ではモータ冷却作動油供給弁室39がハウジング本体2の最上部に位置するように示されているが、実際には図3に示すように、円筒状をなすハウジング本体2の最上部よりも右側にオフセット配置されており、モータ冷却作動油供給弁室39の上方への突出による車載性の悪化を防止している。
【0033】
モータ冷却作動油供給弁室39はハウジング本体2上に凹設されて、その開口部をボルト40により脱着可能な蓋体41で閉塞されている。モータ冷却作動油供給弁室39内にはモータ温度調整用のソレノイドバルブ42が配設され、ソレノイドバルブ42はオイルポンプ11から分配溝31内に供給される作動油を制御する。モータ冷却作動油供給弁室39内の前部底面には前部連通孔43が貫設され、この前部連通孔43を介してモータ冷却作動油供給弁室39内は下方に位置するクラッチ室6内と連通している。また、モータ冷却作動油供給弁室39内の後部には後部連通孔44が貫設され、この後部連通孔44を介してモータ冷却作動油供給弁室39内は後方に位置する環状回収路33の上部及びモータ室7の上部と連通している。
【0034】
後部連通孔44は上記レゾルバ28の信号線45を案内する役割も果たしている。即ち、図2に示すように、レゾルバステータ28bから延設された信号線45は後壁4に穿設された図示しない通路内を案内され、環状回収路33内を横切って後部連通孔44を介してモータ冷却作動油供給弁室39内に導かれている。図示はしないが、モータ冷却作動油供給弁室39の側部にはOリングにより油密保持された導出口が設けられ、レゾルバ28の信号線45及びソレノイドバルブ42を切換作動させるための信号線46は導出口を介してハウジング外に取り出されて上記モータ制御用のインバータに接続されている。
【0035】
例えばインバータは、レゾルバ28からの入力される検出信号に基づき、ロータ角度に応じて通電すべき各相のコイル22bを判別して通電制御を実行し、これによりモータ20を作動させる。また、インバータは、図示しない温度センサからの検出信号に基づきソレノイドバルブ42を切り換えることにより、オイルポンプ11から分配溝31内に供給される作動油を制御してコイル22bの温度を適温に保つ。
なお、切換時のソレノイドバルブ42は内部の作動油をモータ冷却作動油供給弁室39内に排出するが、排出された作動油は前部連通孔43を介してクラッチ室6に導かれたり、後部連通孔44を介してステータ室7b内に導かれたりするため、モータ冷却作動油供給弁室39内は作動油が溜まることなくクラッチ室6やモータ室7に対して常に連通状態に保持される。
【0036】
一方、図4はブリーザ室を示す図3のIV−IV線断面図である。図3,4に示すように、ハウジング本体2の上部にはブリーザ室48が設けられている。モータ冷却作動油供給弁室39と同じく上方への突出による車載性の悪化を防止するために、ブリーザ室48はハウジング本体2の最上部よりも左側(モータ冷却作動油供給弁室39とは反対側)にオフセットされており、最上部の流下孔35よりも環状回収路33内を左方に下った位置に配置されている。
ブリーザ室48は環状回収路33の前面から前方に向けて膨出する形状をなし、その断面形状は略直角三角状をなしている。なお、本実施形態ではブリーザ室48をハウジング本体2に一体成型しているが、これに限ることはなく、別部品として製作してボルトなどで固定するようにしてもよい。また、ブリーザ室48の膨出方向は前方に代えて後方としてもよい。
【0037】
ブリーザ室48の断面直角三角状の斜辺に相当する面48aは環状回収路33の内周面に沿うと共に、この環状回収路33の内周面よりも段差49を介して若干上側に位置している。また、斜辺以外の他の一辺に相当する面48bはブリーザ室48の上面を構成し、この上面にはエアブリーザ50が固定され、エアブリーザ50の先端はブリーザ室48内の最奥部に突出している。周知のようにエアブリーザ50は、ブリーザ室48内のエアを適宜外部に排出することにより圧力上昇を抑制する役割を果たす。
【0038】
一方、以上のように構成されたクラッチ・モータ機構M2の後側には、図1に示すようにデュアルクラッチ式の変速機M3が接続されている。
当該デュアルクラッチ式変速機M3の構成については、例えば特開2009−035168号公報などに開示されているため概略的な説明にとどめるが、アウタ入力軸12と出力軸51との間に第1歯車機構G1を設けると共に、インナ入力軸15と出力軸51との間に第2歯車機構G2を設けて構成されている。デュアルクラッチ式変速機M3の出力軸51は、上記したように伝達機構M4のプロペラシャフト52及び差動装置53を介して駆動輪54に接続されている。
【0039】
例えば図1に太線矢印で示すように、アウタクラッチ19aの接続によりエンジンM1の駆動力、或いはそれに加えてモータ20の駆動力をアウタ入力軸12から第1歯車機構G1を介して出力軸51側に伝達しているときには、インナクラッチ19bの切断により動力伝達していない第2歯車機構G2を次変速段に予め切り換えた上で(プリセレクトと称する)、その後に次変速段への切換タイミングになると、アウタクラッチ19aを切断すると共にインナクラッチ19bを接続することにより駆動力を連続的に伝達しながら変速を完了する。
次に、以上のように構成された本実施形態のハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造の作用、特にオイルポンプ11からクラッチ19及びモータ20への作動油の供給及び排出作用と、エアブリーザ50によるクラッチ室6及びモータ室7の圧力上昇の抑制作用とを説明する。
【0040】
まず、オイルポンプ11から供給される作動油は図示しない油路を経てアウタクラッチ19a及びインナクラッチ19bのシリンダ室内に供給され、上記変速時には、油圧作動したピストンで湿式多板クラッチを押圧することにより、これらのクラッチ19a,19bが任意に接続される。アウタクラッチ19a及びインナクラッチ19bは高速回転し、湿式多板クラッチを潤滑した作動油、及び両クラッチ19a,19bを回転可能に支持するベアリングを潤滑した作動油は、図2に白抜き矢印で示すように遠心力により激しく飛散するため、クラッチ室6内は常に飛散した作動油が充満した状態にある。なお、飛散した作動油はクラッチ室6の内壁への付着後に流れ落ち、図示しない回収路を経てオイルパン37に回収される。
【0041】
一方、ロータ室7a内には、パッキン26,27のシール作用により作動油はほとんど侵入していない。このため、ロータ21は飛散した作動油により回転ロスを生じることなく円滑に回転する。
また、図2,3に白抜き矢印で示すように、ステータ室7bは分配溝31から分配孔32を経て供給される作動油で満たされており、この作動油はコイル22bの冷却に供された後に順次流下孔35から溢れて環状回収路33内を左右に分岐して下方に案内される。環状回収路33の最下部において作動油は左右から合流し、下部回収路36を経てオイルパン37に回収される。
【0042】
そして、このようにクラッチ室6及びステータ室7bは、それぞれの内部で循環する作動油の熱膨張により圧力上昇を生じる。ここで、クラッチ室6は前部連通孔43を介してモータ冷却作動油供給弁室39と連通し、モータ冷却作動油供給弁室39は後部連通孔44を介して環状回収路33と連通し、一方で環状回収路33は流下孔35を介してステータ室7bと連通し、他方で環状回収路33はブリーザ室48内のエアブリーザ50を介してハウジング外と連通している。
【0043】
このため、作動油の熱膨張により圧力上昇を生じたときのステータ室7b内のエアは、流下孔35、環状回収路33、ブリーザ室48を経てエアブリーザ50からハウジング外に排出され、これによりステータ室7b内の圧力上昇が確実に抑制される。同じく作動油の熱膨張により圧力上昇を生じたときのクラッチ室6内のエアは、前部連通孔43、モータ冷却作動油供給弁室39、後部連通孔44、環状回収路33、ブリーザ室48を経てエアブリーザ50からハウジング外に排出され、これによりクラッチ室6内の圧力上昇が確実に抑制される。
【0044】
そして、このように本実施形態では、クラッチ室6及びモータ室7に個別にブリーザ室48及びエアブリーザ50を設けることなく、環状回収路33の途中に設けた共通のブリーザ室48及びエアブリーザ50によりクラッチ室6及びモータ室7の圧力上昇を抑制している。結果として、個別にブリーザ室48及びエアブリーザ50を設けたときの部品点数の増加や組付け作業性の悪化、ひいては製造コストの高騰を未然に防止することができる。
また、ブリーザ室48及びエアブリーザ50はパワープラントから上方や側方に突出して車載性を低下させる要因になり易いが、クラッチ室6及びモータ室7で共通化して1組のブリーザ室48及びエアブリーザ50で機能させているため、車載性の低下を最小限に抑制することができる。
【0045】
特に本実施形態では、環状回収路33内を左方に下った位置で前方に向けて膨出するようにブリーザ室48を形成しているため、ブリーザ室48及びエアブリーザ50の上方への突出が防止されると共に側方への突出も防止される。よって、パワープラントの車載性を一層向上することができる。
一方、本実施形態では、作動油が激しく飛散しているクラッチ室6内を避けて、流下孔35から作動油を溢れ流させるだけで比較的作動油の流動状態が落ち着いているモータ室7側にエアブリーザ50を配置している。しかも、エアブリーザ50を流下孔35の近傍に設けることなく、作動油を排出するための環状回収路33の途中に配設しているため、環状回収路33内を流れる過程で作動油の流動状態はさらに安定する。このため、環状回収路33内を案内される作動油がブリーザ室48内に侵入することはなく、エアブリーザ50は飛散・霧化した作動油を殆ど含まないエアを外部に排出し、エアブリーザ50から作動油が外部に漏れる可能性はほとんどない。
【0046】
しかも、環状回収路33内での作動油の流れ方向に対してブリーザ室48は略直交する前方に向けて膨出している。このため、環状回収路33内の作動油がブリーザ室48内に侵入するには、その流動方向を略直交する方向に変更(環状回収路33に沿った左斜め下方から前方に変更)する必要があり、これもブリーザ室48内への作動油の侵入を妨げる要因となる。
加えて、環状回収路33内を案内される作動油は、環状回収路33の内周面に突出するパッキン27の外周端により堰き止められて前方、即ちブリーザ室48側への流動を規制される。また、環状回収路33の内周面とブリーザ室48との間に形成された段差48も、ブリーザ室48側への作動油の流動を規制する役割を果たす。これらの要因も、ブリーザ室48内への作動油の侵入を妨げることに貢献する。
【0047】
以上の理由により、モータ室7から溢れ流れて環状回収路33内を案内される作動油がブリーザ室48内に侵入する事態が防止され、ブリーザ室48内に侵入した作動油がエアブリーザ50に吸い込まれてハウジング外に漏れるトラブルを未然に回避することができる。
しかも、モータ冷却制御用のソレノイドバルブ42を収容したモータ冷却作動油供給弁室39は既存の構成であり、モータ室7から溢れ流れた作動油をオイルパン37に回収するための環状回収路33も既存の構成である。このため、従来のパワープラントの構成に加えて、モータ冷却作動油供給弁室39をクラッチ室6と連通させるための前部連通孔43を貫設し、環状回収路33の途中の適所にブリーザ室48を形成してエアブリーザ50を設置するだけで本実施形態の構成となり、極めて僅かな仕様変更を行うだけで低コストにより実施することができる。
【0048】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、変速機として歯車機構G1,G2を備えたデュアルクラッチ式変速機M3を採用したが、これに限ることはなく、単一の歯車機構を備えた一般的な変速機を採用してもよい。この場合にはアウタ側及びインナ側にそれぞれ設けられたクラッチと入力軸とが単一のものに変更され、その単一の入力軸にモータ20が設けられる構成となる。
【0049】
また、上記実施形態では、円筒状をなすハウジング本体1の最上部よりも右側にモータ冷却作動油供給弁室39をオフセット配置し、左側にブリーザ室48をオフセット配置したが、このレイアウトに限ることはない。例えばモータ冷却作動油供給弁室39とブリーザ室48とを左右同一側に設けてもよい。この場合には、モータ冷却作動油供給弁室39及びブリーザ室48を設けた側のみ半円状に環状回収路33を形成して連通させ、この環状回収路33を作動油のオイルパン37への回収及び圧力上昇時のエアの案内に利用すると共に、反対側は環状回収路33を形成せずに省略してもよい
また、上記実施形態では、既存のモータ冷却作動油供給弁室39を連通路として利用し、既存の環状回収路33を圧力上昇時のエアをエアブリーザ50まで導く通路として利用したが、これに限ることはなく、専用の連通路やエア通路を形成してもよい。
また、上記実施形態では、作動油供給源から供給される作動油を制御する手段として、ソレノイドバルブ42を用いたが、これに限ることはなく、圧力開閉バルブなど他の種類のバルブを用いても良い。
【符号の説明】
【0050】
1 クラッチ・モータハウジング(ハウジング)
6 クラッチ室
7 モータ室
11 オイルポンプ(作動油供給源)
19 クラッチ
20 モータ
33 環状回収路(回収路)
35 流下孔
37 オイルパン
39 モータ冷却作動油供給弁室(連通路)
48 ブリーザ室
50 エアブリーザ
M1 エンジン
M3 変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成されたクラッチ室内に収容され、作動油供給源から供給される作動油に応じて断接動作し、エンジンからの駆動力を変速機側に伝達可能な湿式油圧クラッチと、
上記ハウジングに上記クラッチ室と隣接して形成されたモータ室内に収容されて上記湿式油圧クラッチと上記変速機との間に接続され、上記変速機側に駆動力を伝達すると共に、上記作動油供給源から供給される作動油により冷却される油冷式のモータと、
上記クラッチ室の上部と上記モータ室の上部とを連通する連通路と、
上記モータ室側に設けられて該モータ室内のエアを外部に排出可能なエアブリーザと
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造。
【請求項2】
上記ハウジングの上部に、上記モータ冷却のために作動油供給源から供給される作動油を制御するモータ冷却作動油供給弁を収容したモータ冷却作動油供給弁室が形成され、
上記モータ冷却作動油供給弁室の一側が上記クラッチ室内と連通し、該モータ冷却作動油供給弁室の他側が上記モータ室内と連通することにより、該モータ冷却作動油供給弁室が上記連通路として機能することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造。
【請求項3】
上記ハウジングは略円筒状をなして上記モータ室の外周に沿う円弧状をなす回収路が形成され、該回収路の上部が上記モータ室の上部に形成された流下孔と連通する一方、該回収路の下部が上記ハウジングの下部に設けられた作動油回収用のオイルパンと連通し、上記回収路内の一側には、該回収路内での作動油の流れ方向に対して略直交する方向に向けて膨出するようにブリーザ室が形成され、
上記エアブリーザは、上記ブリーザ室に設けられたことを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−126320(P2011−126320A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284001(P2009−284001)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】