説明

プラズマ処理方法

【課題】ラジアルラインスロットアンテナを使ったマイクロ波プラズマ処理装置において、アンテナ中の遅波板とマイクロ波放射面を構成するスロット板との間の密着性を向上させ、異常放電を防止する。
【解決手段】スロット板16を、遅波板18と熱膨張率が近い材料により形成する。あるいはスロット板16を、遅波板18を構成する誘電体板上に、金属を付着させることにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般にプラズマ処理装置に係り、特にマイクロ波プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理工程およびプラズマ処理装置は、近年のいわゆるディープサブミクロン素子あるいはディープサブクォーターミクロン素子と呼ばれる0.1μmに近い、あるいはそれ以下のゲート長を有する超微細化半導体装置の製造や、液晶表示装置を含む高解像度平面表示装置の製造にとって、不可欠の技術である。
【0003】
半導体装置や液晶表示装置の製造に使われるプラズマ処理装置としては、従来より様々なプラズマの励起方式が使われているが、特に平行平板型高周波励起プラズマ処理装置あるいは誘導結合型プラズマ処理装置が一般的である。しかしこれら従来のプラズマ処理装置は、プラズマ形成が不均一であり、電子密度の高い領域が限定されているため大きな処理速度すなわちスループットで被処理基板全面にわたり均一なプロセスを行うのが困難である問題点を有している。この問題は、特に大径の基板を処理する場合に深刻になる。しかもこれら従来のプラズマ処理装置では、電子温度が高いため被処理基板上に形成される半導体素子にダメージが生じ、また処理室壁のスパッタリングによる金属汚染が大きいなど、いくつかの本質的な問題を有している。このため、従来のプラズマ処理装置では、半導体装置や液晶表示装置のさらなる微細化およびさらなる生産性の向上に対する厳しい要求を満たすことが困難になりつつある。
【0004】
一方、従来より直流磁場を用いずにマイクロ波電界により励起された高密度プラズマを使うマイクロ波プラズマ処理装置が提案されている。例えば、均一なマイクロ波を発生するように配列された多数のスロットを有する平面状のアンテナ(ラジアルラインスロットアンテナ)から処理容器内にマイクロ波を放射し、このマイクロ波電界により真空容器内のガスを電離してプラズマを励起させる構成のプラズマ処理装置が提案されている。(例えば特開平9−63793公報を参照。)このような手法で励起されたマイクロ波プラズマではアンテナ直下の広い領域にわたって高いプラズマ密度を実現でき、短時間で均一なプラズマ処理を行うことが可能である。しかもかかる手法で形成されたマイクロ波プラズマは、励起周波数が高く、かつ磁場を用いた電子の共鳴現象を用いないため、電子温度が低く、被処理基板のダメージや金属汚染を回避することができる。さらに大面積基板上にも均一なプラズマを容易に励起できるため、大口径半導体基板を使った半導体装置の製造工程や大型液晶表示装置の製造にも容易に対応できる。
【0005】
図1(A),(B)は、かかるラジアルラインスロットアンテナを使った従来のマイクロ波プラズマ処理装置100の構成を示す。ただし図1(A)はマイクロ波プラズマ処理装置100の断面図を、また図1(B)はラジアルラインスロットアンテナの構成を示す図である。
【0006】
図1(A)を参照するに、マイクロ波プラズマ処理装置100は複数の排気ポート116から排気される処理室101を有し、前記処理室101中には被処理基板114を保持する保持台115が形成されている。前記処理室101の均一な排気を実現するため、前記保持台115の周囲にはリング状に空間101Aが形成されており、前記複数の排気ポート116を前記空間101Aに連通するように等間隔で、すなわち被処理基板に対して軸対称に形成することにより、前記処理室101を前記空間101Aおよび排気ポート116を介して均一に排気することができる。
【0007】
前記処理室101上には、前記保持台115上の被処理基板114に対応する位置に、前記処理室101の外壁の一部として、低誘電損失誘電体よりなり多数の開口部107を形成された板状のシャワープレート103がシールリング109を介して形成されており、さらに前記シャワープレート103の外側に同じく低誘電損失誘電体よりなるカバープレート102が、別のシールリング108を介して設けられている。
【0008】
前記シャワープレート103にはその上面にプラズマガスの通路104が形成されており、前記複数の開口部107の各々は前記プラズマガス通路104に連通するように形成されている。さらに、前記シャワープレート103の内部には、前記処理容器101の外壁に設けられたプラズマガス供給ポート105に連通するプラズマ励起ガスの供給通路106が形成されており、前記プラズマ励起ガス供給ポート105に供給されたArやKr等のプラズマ励起ガスは、前記供給通路106から前記通路104を介して前記開口部107に供給され、前記開口部107から前記処理容器101内部の前記シャワープレート103直下の空間101Bに、実質的に一様な濃度で放出される。
【0009】
前記処理容器101上には、さらに前記カバープレート102の外側に、前記カバープレート102から4〜5mm離間して、図1(B)に示す放射面を有するラジアルラインスロットアンテナ110が設けられている。前記ラジアルラインスロットアンテナ110は外部のマイクロ波源(図示せず)に同軸導波管110Aを介して接続されており、前記マイクロ波源からのマイクロ波により、前記空間101Bに放出されたプラズマ励起ガスを励起する。前記カバープレート102とラジアルラインスロットアンテナ110の放射面との間の隙間は大気により充填されている。
【0010】
前記ラジアルラインスロットアンテナ110は、前記同軸導波管110Aの外導体に接続された平坦なディスク状のラジアル線路裏面金属板110Bと、前記ラジアル線路裏面金属板110Bの開口部に形成された、図1(B)に示す多数のスロット110aおよびこれに直交する多数のスロット110bを形成された放射板110Cとよりなり、前記ラジアル線路裏面金属板110Bと前記放射板110Cとの間には、厚さが一定の誘電体よりなる遅波板110Dが挿入されている。
【0011】
かかる構成のラジアルラインスロットアンテナ110では、前記同軸導波管110から給電されたマイクロ波は、前記ディスク状のラジアル線路裏面金属板110Bと放射板110Cとの間を、半径方向に広がりながら進行するが、その際に前記遅波板110Dの作用により波長が圧縮される。そこで、このようにして半径方向に進行するマイクロ波の波長に対応して前記スロット110aおよび110bを同心円状に、かつ相互に直交するように形成しておくことにより、円偏波を有する平面波を前記放射板110Cに実質的に垂直な方向に放射することができる。
【0012】
かかるラジアルラインスロットアンテナ110を使うことにより、前記シャワープレート103直下の空間101Bに均一な高密度プラズマが形成される。このようにして形成された高密度プラズマは電子温度が低く、そのため被処理基板114にダメージが生じることがなく、また処理容器101の器壁のスパッタリングに起因する金属汚染が生じることもない。
【0013】
図1のプラズマ処理装置100では、さらに前記処理容器101中、前記シャワープレート103と被処理基板114との間の拡散プラズマ領域に、外部の処理ガス源(図示せず)から前記処理容器101中に形成された処理ガス通路112を介して処理ガスを供給する多数のノズル113を形成された導体構造物111が形成されており、前記ノズル113の各々は、供給された処理ガスを、前記導体構造物111と被処理基板114との間の空間101Cに放出する。前記導体構造物111には、前記隣接するノズル113と113との間に、前記空間101Bにおいて形成されたプラズマを前記空間101Bから前記空間101Cに拡散により、効率よく通過させるような大きさの開口部が形成されている。
【0014】
そこで、このように前記導体構造物111から前記ノズル113を介して処理ガスを前記空間101Cに放出した場合、電子温度の低いプラズマ中であるので処理ガスの過剰解離を抑えることができるため、前記被処理基板114上に、一様で高品質なプラズマ処理が、効率的かつ高速に、しかも基板および基板上の素子構造を損傷させることなく、また基板を汚染することなく行われる。一方前記ラジアルラインスロットアンテナ110から放射されたマイクロ波は、かかる導体構造物111により阻止され、プラズマ着火前であっても、被処理基板114を損傷させることはない。
【0015】
上述のようなラジアルスロットアンテナを有するマイクロ波プラズマ処理装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2000−286237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、このようなラジアルラインスロットアンテナ110を使ったプラズマ処理装置100では、前記空間101Bに形成されるプラズマの密度が1012/cm3のオーダーに達するため、シャワープレート103は前記高密度プラズマを構成する大量のイオンおよび電子に曝されることになり、これらのイオンおよび電子による加熱が生じる。かかるイオンおよび電子に起因する熱フラックスは1〜2W/cm2にも達する。しかも、前記プラズマ処理装置100では処理室101への堆積物の付着を抑制するために、処理室101の器壁を150°C程度の温度に保持して運転されることが多いが、このような処理室101の加熱の結果、誘電体材料よりなる前記シャワープレート103およびカバープレート102中には熱が蓄積してしまい、非常に大きな温度分布が生じてしまう。
【0017】
このようなシャワープレート103およびカバープレート102中への熱の蓄積を軽減するには、前記ラジアルラインスロットアンテナ110を前記カバープレート102に密接させ、アンテナ110をヒートシンクとして熱を除去するのが望ましいが、従来のラジアルラインスロットアンテナ110では前記放射板110Cが前記同軸導波管110Aの中心導体に対してネジ止めされていたため、ネジ頭のためのスペースを前記カバープレート102と放射板110Cとの間に確保する必要があり、かかる構成を採用することが困難であった。
【0018】
また、従来のプラズマ処理装置100では前記シャワープレート103およびカバープレート102からの熱フラックスにより前記ラジアルラインスロットアンテナ110は、前記カバープレート102に密接していなくても、実質的な加熱を受け、温度が上昇する。また、前記ラジアルラインスロットアンテナ110を密接させた場合には、アンテナの温度上昇はさらに大きくなる。
【0019】
従来のラジアルラインスロットアンテナは、かかる高温環境下での使用を前提として設計されてはおらず、そのためこのようにアンテナの温度が上昇した場合、熱膨張率の違いにより、アンテナ内、特に遅波板として設けられた誘電体板110Dと放射板110Cとの間に隙間が生じる場合がある。このように遅波板110Dと放射板110Cとの間に隙間が生じると、遅波板中を伝播するマイクロ波が感じるインピーダンスが乱れ、アンテナ内において好ましくない異常放電や反射波の形成、あるいは定在波の形成等の問題が発生してしまう。異常放電が生じると、そのアンテナは以後使用不能になってしまう。
【0020】
そこで本発明は、上述の課題を解決した新規で有用なプラズマプロセス装置を提供することを目的とする。
【0021】
本発明のより具体的な課題は、ラジアルラインスロットアンテナを使ってプラズマを励起するプラズマ処理装置において、ラジアルラインスロットアンテナ中における遅波板と放射板との密着性を改善することにある。
【0022】
本発明のその他の課題は、ラジアルラインスロットアンテナを使ってプラズマを励起するプラズマ処理装置において、アンテナが加熱された場合にも安定してマイクロ波を放射できる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は上記の課題を、
外壁により画成され、被処理基板を保持する保持台を備えた処理容器と、
前記処理容器に結合された排気系と、
前記処理容器中にプラズマガスを供給するプラズマガス供給部と、
前記処理容器上に、前記プラズマガス供給部に対応して設けられ、同軸導波管により給電されるマイクロ波アンテナとよりなり、
前記マイクロ波アンテナは、開口部を有するラジアル線路裏面金属板と、前記ラジアル線路裏面金属板上に前記開口部を覆うように設けられ複数のスロットを有するマイクロ波放射面と、前記ラジアル線路裏面金属板とマイクロ波放射面との間に設けられた誘電体板とよりなり、
前記マイクロ波放射面を、前記誘電体板との熱膨張率の差が、前記誘電体板の熱膨張率に対して10%以内となるような導電性材料より構成したことを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記誘電体板は、Al23,SiO2およびSi34のいずれかより選ばれることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記誘電体板はアルミナセラミックよりなり、前記マイクロ波放射面はCuとWの合金よりなることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記マイクロ波放射面は、導電性材料よりなる基材と、前記基材の表面を被覆する、Ni,Au,AgあるいはCuよりなるめっき層とよりなることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記めっき層は6μm以上の厚さを有することを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記マイクロ波放射面と前記誘電体板とは、セラミック系接着剤層により接着されていることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記マイクロ波放射面と前記誘電体板とは、導電性接着剤層により接着されていることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
外壁により画成され、被処理基板を保持する保持台を備えた処理容器と、
前記処理容器に結合された排気系と、
前記処理容器中にプラズマガスを供給するプラズマガス供給部と、
前記処理容器上に、前記プラズマガス供給部に対応して設けられ、同軸導波管により給電されるマイクロ波アンテナとよりなり、
前記マイクロ波アンテナは、開口部を有するラジアル線路裏面金属板と、前記ラジアル線路裏面金属板上に前記開口部を覆うように設けられ複数のスロットを有するマイクロ波放射面と、前記ラジアル線路裏面金属板とマイクロ波放射面との間に設けられた誘電体板とよりなり、
前記マイクロ波放射面は、前記誘電体板上に形成された導電体材料のめっき層よりなることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記導電体材料のめっき層は、無電解めっき層であることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記めっき層は、少なくとも一原子層の無電解めっき層と、前記無電解めっき層上に形成された電解めっき層とよりなることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記導電性材料はCuよりなることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記めっき層は、前記誘電体板に接するNi層と,前記Ni層上に形成されたCu層とよりなることを特徴とするプラズマ処理装置により、または
少なくとも前記Cu層は、6μm以上の厚さを有することを特徴とするプラズマ処理装置により、または
前記スロットは、エッチングにより形成されたことを特徴とするプラズマ処理装置により、または、
被処理基体が載置される載置台が内部に設けられた処理容器と、
マイクロ波を発生して前記処理容器に供給するマイクロ波発生器と
該マイクロ波発生器と前記処理容器との間に設けられ、前記マイクロ波発生器から供給されるマイクロ波の波長を短縮する遅波板と、
該遅波板により波長短縮されたマイクロ波を前記処理容器内の空間に放射するマイクロ波放射部材と
を有し、
前記遅波板の少なくとも上面と下面とに金属層が形成されており、
前記マイクロ波放射部材は、前記遅波板の表面に形成された前記金属層より構成されることを特徴とするプラズマ処理装置により、または、
前記マイクロ波放射部材は多数のスロットを有し、該スロットは前記金属層をエッチングにより除去することにより形成されることを特徴とするマイクロ波プラズマ処理装置により、または、
前記金属層の厚みは、前記マイクロ波発生器が発生するマイクロ波の表皮深さより大きいことを特徴とするプラズマ処理装置により、または、
前記金属層は、銅、金、銀、ニッケルよりなる群から選定された材料によるめっき層であることを特徴とするプラズマ処理装置により、または、
マイクロ波の波長は2.45GHzであり、前記金属層は銅めっき層よりなり、該銅めっき層の厚みは6μm以上であることを特徴とするプラズマ処理装置により、または、
前記金属層は、化学的気相合成法(CVD)により堆積された金属膜であることを特徴とするプラズマ処理装置により、または、
前記金属層は、物理的気相合成法(PVD)により堆積された金属膜であることを特徴とするプラズマ処理装置により、または、
前記マイクロ波発生器からのマイクロ波を前記遅波板に供給する同軸導波管をさらに有し、
該同軸導波管の外管及び内側ケーブルは、前記遅波板の中央部分に半田付けにより接続されることを特徴とするプラズマ処理装置により、または、
被処理基体が載置される載置台が内部に設けられた処理容器と、マイクロ波を発生して前記処理容器に供給するマイクロ波発生器と、該マイクロ波発生器と前記処理容器との間に設けられ、少なくとも上面及び下面が金属層により覆われており、前記マイクロ波発生器からのマイクロ波の波長を短縮する遅波板と、前記遅波板の表面に形成された前記金属層の一部により構成されたマイクロ波放射部材とを有するマイクロ波プラズマ処理装置を用いるプラズマ処理方法であって、
前記被処理基体の処理面を前記マイクロ波放射部材に対向するように前記載置台に載置し、
前記遅波板にマイクロ波を供給して、金属層の一部に形成された多数のスロットからマイクロ波を前記処理容器内に導入し、
導入したマイクロ波により前記処理容器内にプラズマを発生させ、発生したプラズマにより前記被処理基体にプラズマ処理を施す
ことを特徴とするプラズマ処理方法により、または、
プラズマ処理を施す処理容器と、マイクロ波を発生して前記処理容器に供給するマイクロ波発生器とを有するマイクロ波プラズマ処理装置に用いられ、前記マイクロ波発生器から供給されるマイクロ波の波長を短縮する遅波板であって、
少なくとも上面及び下面が金属層により覆われており、該金属層の一部によりマイクロ波放射部材が構成されたことを特徴とする遅波板により、または、
前記マイクロ波放射部材は多数のスロットを有し、該スロットは前記金属層をエッチングにより除去することにより形成されることを特徴とする遅波板により、または、
前記金属層の厚みは、前記マイクロ波発生器が発生するマイクロ波の表皮深さより大きいことを特徴とする遅波板により、または、
前記金属層は、銅、金、銀、ニッケルよりなる群から選定された材料によるめっき層であることを特徴とする遅波板により、または、
供給されるマイクロ波の波長は2.45GHzであり、前記金属めっき層は銅めっき層よりなり、該銅めっき層の厚みは6μm以上であることを特徴とする遅波板により、または、
前記マイクロ波発生器からのマイクロ波を前記遅波板に供給する同軸導波管に半田付けにより接合される突起部を中央部分に有することを特徴とする遅波板により、解決する。
【0024】
[作用]
本発明によれば、ラジアルラインスロットアンテナ中の遅波板と放射面を構成するスロット板との間の熱膨張差が10%以下に制御されるため、アンテナがプラズマにより加熱されてもアンテナ内において隙間が発生する等の問題は生じることがなく、これに伴い、異常放電や反射波の形成、定在波の形成等の問題を回避することが可能になる。
【0025】
また、本発明において、前記スロット板を前記遅波板上に、めっきにより形成することにより前記遅波板上の微細な凹凸がめっき層により充填され、前記スロット板と遅波板との間に理想的な密着を実現することが可能になる。
【0026】
さらに、本発明において、遅波板の少なくとも上面及び下面にめっき層を形成し、下面のめっき層をマイクロ波放射材として機能させることにより、マイクロ波放射材がプラズマにより加熱されてもマイクロ波放射材と遅波板との間に隙間が発生する等の問題は生じることがない。したがって、異常放電や反射波の形成、定在波の形成等の問題を回避することが可能になる。また、遅波板の上面に形成されためっき層により、遅波板の上面部分においても金属部と遅波板との間に隙間が生じないため、マイクロ波放射特性が安定する。
【0027】
また、上述の発明によれば、マイクロ波放射部材が金属層により形成されるため、スロット部分の厚みが薄くでき、スロット部分でのカットオフ現象に起因するマイクロ波の反射を抑制することができ、放射効率が改善される。さらに、マイクロ波放射部材が金属層の一部として遅波板に一体的に形成されるため、遅波板とマイクロ波放射部材と別個の部品として作製して接合する必要がない。これにより、熱膨張や経時変化により遅波板とマイクロ波放射部材との間に間隙が形成されることが防止され、一様なマイクロ波を処理容器に導入することができる。したがって、経時変化が少なく、再現性のよいプラズマ処理を行うことができる。また、遅波板のほぼ全体が金属めっき層により覆われるため、遅波板に供給されたマイクロ波が漏洩することなく処理容器に導入されるため、効率のよいプラズマ生成を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ラジアルラインスロットアンテナを使ったマイクロ波プラズマ処理装置において、スロット板をCu−W合金とすることにより、遅波板を構成する誘電体板との間の熱膨張率差を最小化でき、加熱されてもマイクロ波放射特性が変化しないアンテナを実現することができる。またスロット板をめっき層により形成することによって、遅波板とスロット板との間に理想的な密着を実現でき、過熱されてもマイクロ波放射特性が変化せず、異常放電を防止し得るアンテナを実現することができる。さらに、遅波板の上面と下面とにめっき層等の金属層を形成することにより、遅波板の上面と下面における異常放電を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
[第1実施例]
図2(A),(B)は、本発明の第1実施例によるマイクロ波プラズマ処理装置10の構成を示す。
【0030】
図2(A)を参照するに、前記マイクロ波プラズマ処理装置10は処理容器11と、前記処理容器11内に設けられ、被処理基板12を静電チャックにより保持する好ましくは熱間等方圧加圧法(HIP)により形成されたAlNもしくはAl23よりなる保持台13とを含み、前記処理容器11内には前記保持台13を囲む空間11Aに等間隔に、すなわち前記保持台13上の被処理基板12に対して略軸対称な関係で少なくとも二箇所、好ましくは三箇所以上に排気ポート11aが形成されている。前記処理容器11は、かかる排気ポート11aを介して不等ピッチ不等傾角スクリューポンプ等により、排気・減圧される。
【0031】
前記処理容器11は好ましくはAlを含有するオーステナイトステンレス鋼よりなり、内壁面には酸化処理により酸化アルミニウムよりなる保護膜が形成されている。また前記処理容器11の外壁のうち前記被処理基板12に対応する部分には、HIP法により形成された緻密なAl23よりなり多数のノズル開口部14Aを形成されたディスク状のシャワープレート14が、前記外壁の一部として形成される。かかるHIP法により形成されたAl23シャワープレート14はY23を焼結助剤として使って形成され、気孔率が0.03%以下で実質的に気孔やピンホールを含んでおらず、30W/m・Kに達する、AlNには及ばないものの、セラミックとしては非常に大きな熱伝導率を有する。
【0032】
前記シャワープレート14は前記処理容器11上にシールリング11sを介して装着され、さらに前記シャワープレート14上には同様なHIP処理により形成された緻密なAl23よりなるカバープレート15が、シールリング11tを介して設けられている。前記シャワープレート14の前記カバープレート15と接する側には前記ノズル開口部14Aの各々に連通しプラズマ励起ガス流路となる凹部14Bが形成されており、前記凹部14Bは前記シャワープレート14の内部に形成され、前記処理容器11の外壁に形成されたプラズマガス入口11pに連通する別のプラズマガス流路14Cに連通している。
【0033】
前記シャワープレート14は前記処理容器11の内壁に形成された張り出し部11bにより保持されており、前記張り出し部11bのうち、前記シャワープレート14を保持する部分には異常放電を抑制するために丸みが形成されている。
【0034】
そこで、前記プラズマ励起ガス入口11pに供給されたArやKr等のプラズマガスは前記シャワープレート14内部の流路14Cおよび14Bを順次通過した後、前記開口部14Aを介して前記シャワープレート14直下の空間11B中に一様に供給される。
【0035】
前記カバープレート15上には、前記カバープレート15に密接し図2(B)に示す多数のスロット16a,16bを形成されたディスク状のスロット板16と、前記スロット板16を保持するディスク状の金属板17(ラジアル線路裏面金属板)と、前記スロット板16と前記金属板17との間に挟持されたAl23、SiO2あるいはSi34の低誘電損失誘電体材料よりなる遅波板18とにより構成されたラジアルラインスロットアンテナ20が設けられている。前記スロット板16は、10wt%までのW(タングステン)を含んだCu(銅)より構成されるのが好ましく、特に前記遅波板18として線膨張係数が7〜8×10-6/°CのAl23を使った場合、遅波板18として線膨張係数が約7×10-6/°CのCu−W合金を使うことにより、前記遅波板18との間の熱膨張差を10%以下に抑制することができる。前記Cu−W合金は比抵抗が比較的大きいため、ラジアルラインスロットアンテナのスロット板16として使う場合には、その上に図3の拡大図に示すようにAu(金)やAg(銀)、銅(Cu)などの低抵抗層16rを、マイクロ波の表皮効果を考慮して約3μm以上の厚さに形成しておくのが好ましい。かかる低抵抗層16rは、例えば電解めっきなどにより、容易に形成することができる。
【0036】
前記スロット板16は、前記遅波板18にセラミックス系の接着剤により接着することが可能である。かかるセラミック系接着剤としては典型的にはアルミナ粒子を溶媒中に分散させたものが市販されている。接着後、200〜300°Cでアニールすることにより溶媒が揮発され、図3に示すマイクロ波損失の無い強固な接着層181が得られる。
【0037】
前記ラジアルスロットラインアンテナ20は前記処理容器11上にシールリング11uを介して装着されており、前記ラジアルラインスロットアンテナ20には同軸導波管21を介して外部のマイクロ波源(図示せず)より周波数が2.45GHzあるいは8.3GHzのマイクロ波が供給される。供給されたマイクロ波は前記スロット板16上のスロット16a,16bから前記カバープレート15およびシャワープレート14を介して前記処理容器11中に放射され、前記シャワープレート14直下の空間11Bにおいて、前記開口部14Aから供給されたプラズマガス中にプラズマを励起する。その際、前記カバープレート15およびシャワープレート14はAl23により形成されており、効率的なマイクロ波透過窓として作用する。その際、前記プラズマガス流路14A〜14Cにおいてプラズマが励起されるのを回避するため、前記プラズマガスは、前記流路14A〜14Cにおいて約6666Pa〜13332Pa(約50〜100Torr)の圧力に保持される。
【0038】
前記ラジアルラインスロットアンテナ20と前記カバープレート15との密着性を向上させるため、本実施例のマイクロ波プラズマ処理装置10では前記スロット板16に係合する前記処理容器11の上面の一部にリング状の溝11gが形成されており、かかる溝11gを、これに連通した排気ポート11Gを介して排気することにより、前記スロット板16とカバープレート15との間に形成された隙間を減圧し、大気圧により、前記ラジアルラインスロットアンテナ20を前記カバープレート15にしっかりと押し付けることが可能になる。かかる隙間には、前記スロット板16に形成されたスロット16a,16bが含まれるが、それ以外にも様々な理由により隙間が形成されることがある。かかる隙間は、前記ラジアルラインスロットアンテナ20と処理容器11との間のシールリング11uにより封止されている。
【0039】
さらに前記排気ポート11Gおよび溝15gを介して前記スロット板16と前記カバープレート15との間の隙間に熱伝導率の大きい不活性気体を充填することにより、前記カバープレート15から前記スロット板16への熱の輸送を促進することができる。かかる不活性気体としては、熱伝導率が大きくしかもイオン化エネルギの高いHeを使うのが好ましい。前記隙間にHeを充填する場合には、0.8気圧程度の圧力に設定するのが好ましい。図3の構成では、前記溝15gの排気および溝15gへの不活性気体の充填のため、前記排気ポート11Gにバルブ11Vが接続されている。
【0040】
前記同軸導波管21のうち、外側の導波管21Aはディスク状の金属板17(ラジアル線路裏面金属板)に接続され、中心導体21Bは、前記遅波板18に形成された開口部を介して前記スロット板16に接続されている。そこで前記同軸導波管21に供給されたマイクロ波は、前記金属板17とスロット板16との間を径方向に進行しながら、前記スロット16a,16bより放射される。
【0041】
図2(B)は前記スロット板16上に形成されたスロット16a,16bを示す。
【0042】
図2(B)を参照するに、前記スロット16aは同心円状に配列されており、各々のスロット16aに対応して、これに直行するスロット16bが同じく同心円状に形成されている。前記スロット16a,16bは、前記スロット板16の半径方向に、前記遅波板18により圧縮されたマイクロ波の波長に対応した間隔で形成されており、その結果マイクロ波は前記スロット板16から略平面波となって放射される。その際、前記スロット16aおよび16bを相互の直交する関係で形成しているため、このようにして放射されたマイクロ波は、二つの直交する偏波成分を含む円偏波を形成する。
【0043】
さらに図2(A)のプラズマ処理装置10では、前記金属板17上に、冷却水通路19Aを形成された冷却ブロック19が形成されており、前記冷却ブロック19を前記冷却水通路19A中の冷却水により冷却することにより、前記シャワープレート14に蓄積された熱を、前記ラジアルラインスロットアンテナ20を介して吸収する。前記冷却水通路19Aは前記冷却ブロック19上においてスパイラル状に形成されており、好ましくはH2ガスをバブリングすることで溶存酸素を排除して且つ酸化還元電位を制御した冷却水が通される。
【0044】
また、図2(A)のマイクロ波プラズマ処理装置10では、前記処理容器11中、前記シャワープレート14と前記保持台13上の被処理基板12との間に、前記処理容器11の外壁に設けられた処理ガス注入口11rから処理ガスを供給されこれを多数の処理ガスノズル開口部31B(図4参照)から放出する格子状の処理ガス通路31Aを有する処理ガス供給構造31が設けられ、前記処理ガス供給構造31と前記被処理基板12との間の空間11Cにおいて、所望の均一な基板処理がなされる。かかる基板処理には、プラズマ酸化処理、プラズマ窒化処理、プラズマ酸窒化処理、プラズマCVD処理等が含まれる。また、前記処理ガス供給構造31から前記空間11CにC、CまたはCなどのカーボンリッチなフルオロカーボンガスや、F系あるいはCl系等のエッチングガスを供給し、前記保持台13に高周波電源13Aから高周波電圧を印加することにより、前記被処理基板12に対して反応性イオンエッチングを行うことが可能である。
【0045】
本実施例によるマイクロ波プラズマ処理装置10では、前記処理容器11の外壁は150°C程度の温度に加熱しておくことにより、処理容器内壁への反応副生成物等の付着が回避され、一日に一回程度のドライクリーニング行うことで、定常的に、安定して運転することが可能である。
【0046】
図4は、図2(A)の処理ガス供給構造31の構成を示す底面図である。
【0047】
図4を参照するに、前記処理ガス供給構造31は例えばMgを含んだAl合金やAl添加ステンレススチール等の導電体より構成されており、前記格子状処理ガス通路31Aは前記処理ガス注入口11rに処理ガス供給ポート31Rにおいて接続され、下面形成された多数の処理ガスノズル開口部31Bから処理ガスを前記空間11Cに均一に放出する。また、前記処理ガス供給構造31には、隣接する処理ガス通路31Aの間にプラズマやプラズマ中に含まれる処理ガスを通過させるプラズマ拡散通路31Cが形成されている。前記処理ガス供給構造31をMg含有Al合金により形成する場合には、表面に弗化物膜を形成しておくのが好ましい。また前記処理ガス供給構造31をAl添加ステンレススチールにより形成する場合には、表面に酸化アルミニウムの不動態膜を形成しておくのが望ましい。本発明によるプラズマ処理装置10では、励起される励起されるプラズマ中の電子温度が低いためプラズマ中のイオンの入射エネルギが小さく、かかる処理ガス供給構造31がスパッタリングされて被処理基板12に金属汚染が生じる問題が回避される。前記処理ガス供給構造31は、石英またはアルミナ等の誘電体により形成することも可能である。
【0048】
前記格子状処理ガス通路31Aおよび処理ガスノズル開口部31Bは図4に破線で示した被処理基板12よりもやや大きい領域をカバーするように設けられている。かかる処理ガス供給構造31を前記シャワープレート14と被処理基板12との間に設けることにより、前記処理ガスをプラズマ励起し、かかるプラズマ励起された処理ガスにより、均一に処理することが可能になる。
【0049】
前記処理ガス供給構造31を金属等の導体により形成する場合には、前記格子状処理ガス通路31A相互の間隔を前記マイクロ波の波長に対応するカットオフ導波管のサイズより小さく設定することにより、前記処理ガス供給構造31はマイクロ波の短絡面を形成する。この場合にはプラズマのマイクロ波励起は前記空間11B中においてのみ生じ、前記被処理基板12の表面を含む空間11Cにおいては前記励起空間11Bから拡散してきたプラズマにより、処理ガスが活性化される。また、プラズマ着火時に前記被処理基板12が直接マイクロ波に曝されるのを防ぐことが出来るので、マイクロ波による基板の損傷も防ぐことが出来る。
【0050】
本実施例によるマイクロ波プラズマ処理装置10では、処理ガス供給構造31を使うことにより処理ガスの供給が一様に制御されるため、処理ガスの被処理基板12表面における過剰解離の問題を解消することができ、被処理基板12の表面にアスペクト比の大きい構造が形成されている場合でも、所望の基板処理を、かかる高アスペクト構造の奥にまで実施することが可能である。すなわち、マイクロ波プラズマ処理装置10は、設計ルールの異なる多数の世代の半導体装置の製造に有効である。
【0051】
本実施例によるプラズマ処理装置10では、用途により、図5に示すプラズマ処理装置10Aのように前記処理ガス供給機構31を撤去することも可能である。ただし図5中、先に説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0052】
図5の構成では、前記シャワープレート14からArあるいはKrなどの不活性ガスとともにO2などの酸化性ガスあるいはNH3やN2とH2の混合ガスのような窒化性ガスを導入することで、前記被処理基板12の表面に酸化膜や窒化膜、あるいは酸窒化膜を形成することが可能になる。
【0053】
本実施例では、前記スロット板16と遅波板18との間の熱膨張差が10%以下に抑制されているため、処理容器11から高密度プラズマに起因する大量の熱フラックスがアンテナ20に供給されて前記スロット板16および遅波板18の温度が上昇しても、前記スロット板16と遅波板18との間に隙間が生じることはなく、異常放電や反射波の形成、あるいは定在波の形成等の問題を効果的に回避することができる。
[第2実施例]
図6は、本発明の第2実施例によるプラズマ処理装置10Bの構成を示す。ただし図6中、先に説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0054】
図6を参照するに、本実施例においては図2(A)のマイクロ波アンテナ20の代わりにマイクロ波アンテナ20Aが使われる。マイクロ波アンテナ20Aでは同軸導波管21の中心導体21Bの先端部21bがスロット板16から離間されており、前記スロット板16上に形成された遅波板18の背後に結合される。かかる構成では、前記中心導体21Bを前記スロット板16に接触させずに、効率的にマイクロ波を給電する。前記マイクロ波アンテナ20Aでは、前記遅波板18は前記スロット板16の背後に連続的に延在し、前記中心導体のためのコンタクトホールは形成されていない。
【0055】
図7(A)〜(D)は、前記プラズマ処理装置10Bで使われるラジアルラインスロットアンテナ20Aにおける、遅波板18とスロット板16の形成工程を示す図である。
【0056】
図7(A)を参照するに、最初にAl23やSiO2あるいはSi34よりなる遅波板18が無電解めっき槽Bath1中においてCuの無電解めっき液中に浸漬され、表面に少なくとも1原子層の無電解Cuめっき層161が形成される。
【0057】
図7(A)の無電解めっきをさらに継続し、前記遅波板18上に無電解めっきCu層を所望の厚さに堆積してもよいが、密着性を向上させる観点からは、図7(B)に示すように先の図7(A)の工程で前記無電解Cuめっき層161を形成された遅波板18を、電解めっき槽Bath2において電界めっき液中に浸漬し、前記無電解Cuめっき層161を電極に使い、電解Cuめっき層162を前記無電解Cuめっき層161上に所望の厚さに形成するのが好ましい。前記Cu層162の所望の厚さは、マイクロ波の表皮効果を勘案して、6μm以上とするのが好ましい。
【0058】
このようにして形成されたCu層161および162は図7(C)の工程においてレジスト膜Rにより覆われ、図7(D)の工程でこれを露光・現像し、形成されたレジストパターンR'をマスクに前記Cu層161および162をパターニングすることにより、前記スロット16a,16bが形成されたスロット板16が得られる。また所望のパターンを有する膜を貼り付け、かかる膜をマスクにウェットエッチングにより前記Cu層16をパターニングすることも可能である。
【0059】
かかる工程により形成されたスロット板16は、Cuにより形成されていても遅波板18表面の微細な凹凸を充填して形成されているため密着力に優れ、スロット板16と遅波板18との間における隙間の形成を抑制するのに効果的である。
【0060】
なお、先にも説明したが、前記スロット板16は無電解めっきによって形成してもよい。さらに図7(A)〜(D)の例において、前記無電解Cuめっき層161の代わりにNiめっき層を使うことも可能である。
【0061】
図6の実施例においても、プラズマ処理装置の用途如何により、前記処理ガス供給構造を撤去することが可能である。
【0062】
なお、図7(A)〜(D)の工程によるスロット板16の形成方法は、図2(A),(B)のプラズマ処理装置10あるいは図5のプラズマ処理装置10Aに対しても、さらに図1(A),(B)に示す従来のプラズマ処理装置100に対しても適用可能である。
[第3実施例]
図8は本発明の一実施の形態によるマイクロ波プラズマ処理装置の概略構成図である。
【0063】
図8に示すマイクロ波プラズマ処理装置40は、例えばプラズマCVD装置であり、処理容器42内において被処理基体としての半導体ウェハWにプラズマCVD処理を施すものである。処理容器42は例えばアルミニウムにより形成され、真空引き可能なように密閉構造を有する。処理容器42内には半導体ウェハWを載置するための載置台44が設けられる。
【0064】
処理容器42の底部には排気口42aが設けられ、真空ポンプ(図示せず)が接続されて処理容器42内を所定の低圧状態に維持することができる。
【0065】
処理容器42の天井部には、誘電体板46が気密に取り付けられる。本実施例では、少なくとも上面及び下面にめっきが施された遅波板48が、誘電体板46の上に取り付けられる。本実施例では、遅波板48のめっき層によりマイクロ波放射部材を形成しているので、マイクロ波放射部材としてのアンテナ部材を遅波板48とは個別に設ける必要はない。めっきが施された遅波板48については、後述する。
【0066】
遅波板48は、支持部材50に取り付けられる。支持部材50は遅波板48を支持するとともに、遅波板48を冷却する機能を有している。すなわち、支持部材50の内部には冷却水が流れる通路50aが形成され、プラズマ処理時に遅波板48を冷却する。
【0067】
遅波板48の中央部分には、マイクロ波を供給するための同軸導波管52が接続される。同軸導波管52は同軸導波管変換器54を介して導波管56に接続され、導波管56はマグネトロン等よりなるマイクロ波発生器58に接続される。
【0068】
上述の構成において、マイクロ波発生器28により発生した例えば2.45GHzのマイクロ波は、導波管56を伝播して同軸導波管変換器54を介して同軸導波管52に供給される。同軸導波管52を伝播したマイクロ波は、遅波板48により波長が短縮された後、遅波板48の表面に形成されためっき層からなるマイクロ波放射部材により誘電体板46を透過して処理容器42の処理空間に向けて放射される。
【0069】
処理容器42内の処理空間には、プラズマ用ガスが供給され、プラズマ用ガスがマイクロ波によりプラズマ化される。このプラズマにより、載置台44上に載置された半導体ウェハWにプラズマ処理が施される。
【0070】
次に、本実施の形態における遅波板48について、図9を参照しながら説明する。図9は遅波板48の断面図である。
【0071】
遅波板48は、アルミナ(AlO)、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、石英等の誘電体により形成され、平坦な円板形状を有している。遅波板48の中央部分には、同軸導波管52が接続される突起部48aが形成される。突起部48aは、円錐形の一部を形成する傾斜面48bを有しており、マイクロ波による電界の集中を防止している。突起部に48aには、同軸導波管52の外管52aが接続される。外管52aは突起部48aの平坦な頂面48cに接続されてもよく、また、傾斜面48bに接続されてもよい。
【0072】
突起部48aの中央には、同軸導波管52の内側ケーブル52bが挿入される貫通孔48dが形成される。貫通孔48dの処理容器側の端部にはテーパ部48eが形成され、このテーパ部の形状に対応した形状に形成された内側ケーブル52bの端部が嵌合する。
【0073】
ここで、遅波板48の表面には、銅、金、銀、ニッケル等の金属めっき層60が形成される。金属めっき層60は、遅波板48の突起部48aの頂面48cを除く全面に形成される。特に遅波板48の処理容器42の内部に面する表面に形成されためっき層60は、所定のパターンでエッチングされ、めっき層が除去された部分がスロットとして機能する。
【0074】
図10は遅波板48の金属めっき層60にスロット32が形成された面を示す平面図である。図10に示すように、スロット32の各々は細長い楕円状であり、3つの異なる円周P1,P2,P3に沿って配置されている。なお、スロット32は円周P1,P2,P3の各々の全周にわたって設けられているが、図10では簡略化のためその一部のみを示している。ここで、円周P1,P2,P3の中心は、遅波板48の外形の中心からずれており(偏心しており)、その各々のずれ方向(偏心方向)は異なっている。
【0075】
すなわち、内側の円周P1の中心が遅波板48の外形の中心からずれる方向に対して、中央の円周P2の中心が遅波板48の外形の中心からずれる方向は120度異なっている。また、中央の円周P2の中心が遅波板48の外形の中心からずれる方向に対して、外側の円周P3の中心が遅波板48の外形の中心からずれる方向は120度異なっている。このように、円周P1,P2,P3の中心は互いに異なった方向へとずれている。
【0076】
このように、複数の非同心円に沿ってスロット32を配列すると、金属めっき層30を放射方向に伝播して外周面により反射された表面波は、遅波板48の中心部に向かって戻るが、遅波板48の中心一点に集中することはない。すなわち、円周P1,P2,P3のずれ量に従ってある程度の大きさの範囲に戻ることとなる。したがって、本実施の形態によるスロット62の配置によれば、円周P1,P2,P3が同心円である場合に表面波が一点に集中することでプラズマ空間の電子密度に不均一性が発生していた従来の平面アンテナ部材に比べ、不均一性が改善され、プラズマ密度の分布をある程度均一にすることができる。
【0077】
なお、図10に示すスロット62は、複数の非同心円状に配列されているが、螺旋状に配列してもよく、また、複数の同心円状に配列することとしてもよい。また、スロット62の形状は図10に示すような細長い楕円に限られることはなく、円形、三角形、正方形、長方形等の形状を採用することができるが、多角形の場合、角部に丸みをつけて電界の集中を防止することが好ましい。また、2つのスロットを近接してT字状に配列してスロット対とし、多数のスロット対を複数の同心円状、螺旋状あるいは、複数の非同心円状に配列してもよい。
【0078】
めっき層60の厚みはマイクロ波の表皮深さδよりも厚くすることが好ましく、以下の式に基づいて決定することが好ましい。
【0079】
δ=(2/ωσμ1/2
ここで、ωは角周波数であり、σは導電率であり、μは真空中の透磁率である。
【0080】
2.45GHzのマイクロ波を用いて、めっき層60を銅めっきにより形成した場合、銅の導電率σ=6.45×10(Ωm)−1であり、真空透磁率μ=1.257×10−6Hm−1であり、角周波数は2π×2.45×10Hzであるので、表皮深さδ=1.98×10−6m=1.98μm(約2μm)となる。ここで、めっき層の表皮深さでは電界の減少は約30%であるので、余裕率をみて3倍として、めっき層60を銅により形成した場合の厚みは約6μmとすることが好ましい。
【0081】
以上のように、本実施の形態による遅波板48には、金属めっき層60が形成され、金属めっき層60がアンテナ部材(マイクロ波放射部材)の機能を果たすので、アンテナ部材を別個に設ける必要はなく、部品点数を減少することができる。また、遅波板48の表面は、マイクロ波を供給する部分及び放射する部分(スロット)を除いて全て金属めっき層60により覆われているので、マイクロ波が遅波板48の外に漏れることが防止され、供給されたマイクロ波を損失無く処理容器の処理空間へと導入することができる。
【0082】
また、スロットが形成される金属部材は、厚みが数μm程度の金属めっき層60であるので、スロットでの異常放電が減少し、従来よりも大電力を投入することができるため、プラズマ処理のスループットが向上する。また、スロット部分の厚みが薄いため、スロットによるマイクロ波の反射が減少し、放射効率が改善される。
【0083】
図11は同軸導波管52と遅波板48との接続の一例を示す断面図である。図11に示す構成では、同軸導波管52の外管52aの先端を、遅波板48の突起部48aの傾斜面48bに対応した形状とし、半田付けにて接合する。また、内側ケーブル52bの先端部も貫通穴48dの内面及びテーパ部48eに半田付けにて接合する。
【0084】
遅波板48(実際には遅波板48の表面に形成されためっき層60)と支持部材50との間には、伝熱特性の良好な接着材68を設けて、遅波板48を支持部材50に強固に固定すると共に、遅波板48の熱を支持部材50に伝達する。なお、図11に示す支持部材50は、冷却水の通路が省略されている。また、遅波板48の外周側面は、金属板64を介して支持部材50を貫通した多数のねじ66により押圧され固定される。これにより、遅波板48と支持部材との間の確実な電気的接触が維持される。
【0085】
図12は同軸導波管52と遅波板48との接続の一例を示す断面図である。図12において、図11に示す構成部品と同等な構成部品には同じ符号を付し、その説明は省略する。図12に示す構成では、同軸導波管52の外管52aの先端を、遅波板48の突起部48aの頂面48cに対向させて接触するよう構成している。また、内側ケーブル52bの先端部は、貫通穴48dの内面及びテーパ部48eに半田付けにて接合する。また、突起部48aの傾斜面48bの先端部において、シールドスパイラル70を設けて、支持部材50と遅波板48の金属めっき層60との電気的接触をより確実にしている。
【0086】
なお、本実施例によるめっき層60は、上述の第2実施例によるめっき層と同様な方法で形成することができる。また、めっき層を遅波板の上面及び下面に形成することとしたが、遅波板の外周側面にもめっき層を施すこととしてもよい。このようにすれば、遅波板のほぼ全体がめっき層により覆われることとなり、マイクロ波の漏洩が防止され、遅波板のほぼ全体において異常放電を防止することができる。
【0087】
また、上述の第2及び第3の実施の形態では、遅波板の表面にめっきにより金属層を形成しているが、めっき層に限ることはない。例えば、化学的気相合成法(PVD)や物理的気相合成法(PVD)により遅波板の表面に金属を堆積させて金属層を形成することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】(A),(B)は、従来のラジアルラインスロットアンテナを使ったプラズマ処理装置の構成を示す図である。
【図2】(A),(B)は、本発明の第1実施例によるプラズマ処理装置の構成を示す図である。
【図3】図2(A),(B)のプラズマ処理装置で使われるラジアルラインスロットアンテナの一部を拡大して示す図である。
【図4】図2(A)のマイクロ波プラズマ処理装置の処理ガス供給機構の構成を示す図である。
【図5】図2(A),(B)のプラズマ処理装置の一変形例を示す図である。
【図6】本発明の第2実施例によるプラズマ処理装置の構成を示す図である。
【図7】(A)〜(D)は、図6のプラズマ処理装置で使われるラジアルラインスロットアンテナの、スロット板の形成工程を示す図である。
【図8】本発明の第3実施例によるマイクロ波プラズマ処理装置の概略構成図である。
【図9】図8に示す遅波板の断面図である。
【図10】図8に示す遅波板に形成された金属めっき層のスロットを示す平面図である。
【図11】同軸導波管と遅波板との接続の一例を示す断面図である。
【図12】同軸導波管と遅波板との接続の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0089】
10,10A,10B,100 プラズマ処理装置
11 処理容器
11a 排気ポート
11b 張り出し部
11p プラズマガス供給ポート
11r 処理ガス供給ポート
11A,11B,11C 空間
11G 減圧およびHe供給ポート
12 被処理基板
13 保持台
13A 高周波電源
14 シャワープレート
14A プラズマ励起ガスノズル開口部
14B,14C プラズマガス通路
15 カバープレート
16 スロット板
16a,16b スロット開口部
16r 低抵抗層
161 無電解めっき層
162 電解めっき槽
17 金属板
18 遅波板
181 セラミック接着剤層
19 冷却ブロック
19A 冷却水通路
20 ラジアルラインアンテナ
21 同軸導波管
21A 外側導波管
21B 内側給電線
30 処理ガス供給構造
31A 処理ガス通路
31B 処理ガスノズル
31C プラズマ拡散通路
31R 処理ガス供給ポート
Bath1 無電解めっき槽
Bath2 電解めっき槽
R レジスト膜
R' レジストパターン
40 マイクロ波プラズマ処理装置
42 処理容器
44 載置台
46 誘電体板
48 遅波板
48a 突起部
48b 傾斜面
48c 頂面
48d 貫通孔
48e テーパ部
50 支持部材
50a 通路
52 同軸導波管
52a 外管
52b 内側ケーブル
54 同軸導波管変換器
56 導波管
58 マイクロ波発生器
60 金属メッキ層
62 スロット
64 金属板
66 ねじ
68 接着材
70 シールドスパイラル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基体が載置される載置台が内部に設けられた処理容器と、マイクロ波を発生して前記処理容器に供給するマイクロ波発生器と、該マイクロ波発生器と前記処理容器との間に設けられ、少なくとも上面及び下面が金属層により覆われており、前記マイクロ波発生器からのマイクロ波の波長を短縮する遅波板と、前記遅波板の表面に形成された前記金属層の一部により構成されたマイクロ波放射部材とを有するマイクロ波プラズマ処理装置を用いるプラズマ処理方法であって、
前記被処理基体の処理面を前記マイクロ波放射部材に対向するように前記載置台に載置し、
前記遅波板にマイクロ波を供給して、金属層の一部に形成された多数のスロットからマイクロ波を前記処理容器内に導入し、
導入したマイクロ波により前記処理容器内にプラズマを発生させ、発生したプラズマにより前記被処理基体にプラズマ処理を施す
ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
前記遅波板は、Al23,SiO2およびSi34のいずれかより選ばれることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記遅波板はアルミナセラミックよりなり、前記マイクロ波放射部材はCuとWの合金よりなることを特徴とする請求項1または2記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記マイクロ波放射部材は、導電性材料よりなる基材と、前記基材の表面を被覆する、Ni,Au,AgあるいはCuよりなるめっき層とよりなることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
前記めっき層は6μm以上の厚さを有することを特徴とする請求項4記載のプラズマ処理方法。
【請求項6】
前記マイクロ波放射部材と前記遅波板とは、セラミック系接着剤層により接着されていることを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記マイクロ波放射部材と前記遅波板とは、導電性接着剤層により接着されていることを特徴とする請求項1〜5のうち、いずれか一項記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
前記金属層はCuよりなることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか一項記載のプラズマ処理方法。
【請求項9】
前記金属層は、前記遅波板に接するNi層と、該Ni層上に形成されたCu層とよりなることを特徴とする1〜7のうちいずれか一項記載のプラズマ処理方法。
【請求項10】
少なくとも前記Cu層は、6μm以上の厚さを有することを特徴とする請求項8又は9記載のプラズマ処理方法。
【請求項11】
前記スロットは、エッチングにより形成されたことを特徴とする請求項1〜10のうちいずれか一項記載のプラズマ処理方法。
【請求項12】
前記遅波板の外周側面が前記金属層で覆われていることを特徴とする請求項1〜11のうちいずれか一項記載のプラズマ処理方法。
【請求項13】
前記マイクロ波発生器からのマイクロ波を同軸導波管により伝播して前記遅波板に供給するよう構成され、該同軸導波管は、前記遅波板に半田付けされていることを特徴とする請求項1〜12のうちいずれか一項記載のプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−243827(P2008−243827A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144962(P2008−144962)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【分割の表示】特願2001−340995(P2001−340995)の分割
【原出願日】平成13年11月6日(2001.11.6)
【出願人】(000205041)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】