ホイール式作業車両
【課題】前輪の駆動源に電動モータを用いることで、車両構成の簡素化を図り、組立性およびメンテナンス性を向上させるとともに、エンジン負荷の軽減を図ったホイール式作業車両を提供する。
【解決手段】車両前後に、左右の前輪23および後輪24を備え、車体フレーム22上に設置したエンジン40の動力を、ミッションケース42を介して後輪24に伝達するとともに、ステアリング操作により前輪23を操向して車両を旋回させ、前輪23の近傍位置には、バッテリー4の電力により駆動する電動モータ5を設置するとともに、この電動モータ5は、インバータIを介してコントローラCに接続し、後輪24の走行負荷状態や車両の旋回状態に基づいてコントローラCにより電動モータ5の駆動を制御して、前輪23を電動モータ5で駆動させる
【解決手段】車両前後に、左右の前輪23および後輪24を備え、車体フレーム22上に設置したエンジン40の動力を、ミッションケース42を介して後輪24に伝達するとともに、ステアリング操作により前輪23を操向して車両を旋回させ、前輪23の近傍位置には、バッテリー4の電力により駆動する電動モータ5を設置するとともに、この電動モータ5は、インバータIを介してコントローラCに接続し、後輪24の走行負荷状態や車両の旋回状態に基づいてコントローラCにより電動モータ5の駆動を制御して、前輪23を電動モータ5で駆動させる
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前後に、左右の前輪および後輪を備え、車体フレーム上に設置したエンジンの動力を、トランスミッションを介して後輪に伝達するホイール式作業車両に関し、より詳細には、前輪の近傍位置に、バッテリーの電力により駆動する電動モータを設置するとともに、この電動モータは、インバータを介してコントローラに接続し、後輪の走行状態や車両の旋回状態に基づいてコントローラにより電動モータの駆動を制御して、前輪を電動モータで駆動させるホイール式作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホイール式トラクタには、前輪駆動出力軸に、四輪駆動・前輪増速機構を備えるものがあり、圃場などにおいて牽引力の増強や後輪がスリップする際などには、四輪駆動・前輪増速機構により前輪を駆動させ、車両を四輪駆動にすることで、各輪の負荷配分が適性となり、走行安定性を向上させるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−10533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような従来のホイール式トラクタでは、エンジンの動力を、主副変速を介して後輪に伝達する経路とは別に、前輪に動力を伝達する経路として、副変速から車両前部のフロントアクスルに向けて前輪駆動伝達軸などを必要とすることから、別途それらギアや駆動軸などの機械的な部材を必要とするとともに、それらの設置スペースも必要であることから、車両の組立性やメンテナンス性が悪く、コストがかかり、かつ構成の簡素化が行えないという問題があった。また、前輪駆動の入切に用いる四輪駆動・前輪増速機構を前輪駆動伝達軸に備える必要があることから、製造コストやメンテナンス性が悪いという問題もあった。
そこで、この発明の目的は、前輪の駆動源に電動モータを用いることで、車両構成の簡素化を図り、組立性およびメンテナンス性を向上させるとともに、エンジン負荷の軽減を図ったホイール式作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため請求項1に記載の発明は、車両前後に、左右の前輪および後輪を備え、車体フレーム上に設置したエンジンの動力を、ミッションケースを介して前記後輪に伝達するとともに、ステアリング操作により前記前輪を操向して前記車両を旋回させるホイール式作業車両において、前記前輪の近傍位置には、バッテリーの電力により駆動する電動モータを設置するとともに、該電動モータは、インバータを介してコントローラに接続し、前記後輪の走行負荷状態や前記車両の旋回状態に基づいて前記コントローラにより前記電動モータの駆動を制御して、前記前輪を前記電動モータで駆動させることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記電動モータは、前記前輪を取付けるフロントアクスルケースの中央部の前面または後面あるいは上面に設置したことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記電動モータは、該モータ軸を、前記フロントアクスルケース内に備える差動装置のリングギアに接続させたことを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記バッテリーは、前記車体フレームに支持部材を介して取付けた複数のバッテリーケースのそれぞれに設置したことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記バッテリーは、前記車両への昇降を補助する昇降ステップ近傍であって、前記車両を操縦する操縦部の下方に配設したことを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記車両には、前記後輪のスリップ状態を検出するスリップ検出器を設置するとともに、前記スリップ検出器を前記コントローラに接続し、前記スリップ検出器の検出情報に基づいて、前記コントローラが、前記電動モータを駆動制御することを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項1および6に記載のホイール式作業車両において、前記スリップ検出器は、前記後輪の回転数を検出する回転数検出器と、前記車両の実速度を検出する車速検出器と、前記車両の移動速度を検出する距離検出器とからなり、前記車速検出器の検出による前記車両の実速度および前記距離検出器の検出による前記車両の走行距離から、通常の前記後輪の回転数に対する実際の回転数の割合を算出し、その算出値に基づいて前記後輪のスリップ状態を判断することを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記後輪の駆動軸には、該後輪にかかる負荷トルクを検出するトルク検出器を設置するとともに、前記トルク検出器を前記コントローラに接続し、前記トルク検出器の検出情報に基づいて前記コントローラが前記電動モータを駆動制御することを特徴とする。
【0013】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記ステアリングには、該ステアリングの操舵角を検出する角度検出器を設置するとともに、前記角度検出器を前記コントローラに接続し、前記角度検出器の検出情報に基づいて、前記コントローラは、前記車両が所定の車速以下で前記電動モータを駆動制御することを特徴とする。
【0014】
請求項10に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記電動モータは、前記フロントアクスルケース両端部に各別に取付けるとともに、該電動モータのモータ軸を、前記前輪の前車軸としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、車両前後に、左右の前輪および後輪を備え、車体フレーム上に設置したエンジンの動力を、ミッションケースを介して後輪に伝達するとともに、ステアリング操作により前輪を操向して車両を旋回させるホイール式作業車両において、前輪の近傍位置には、バッテリーの電力により駆動する電動モータを設置するとともに、この電動モータは、インバータを介してコントローラに接続し、後輪の走行負荷状態や車両の旋回状態に基づいてコントローラにより電動モータの駆動を制御して、前輪を電動モータで駆動させるので、従来のようにミッションケースからフロントアクスルに動力を伝達していた前輪駆動出力軸や四輪駆動・前輪増速機構を必要とせず、作業状況により必要に応じて電動モータで容易に前輪の駆動を入切することができ、車両構成の簡素化を図ることができる。従って、組立性およびメンテナンス性を向上させたホイール式トラクタを提供することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、電動モータは、前輪を取付けるフロントアクスルケースの中央部の前面または後面あるいは上面に設置したので、設置スペースを有効に利用し、フロントアクスルケース内の差動装置近傍に電動モータを安定的に設置させることができる。従って、車両の省スペース化を図ったホイール式トラクタを提供することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、電動モータは、このモータ軸を、フロントアクスルケース内に備える差動装置のリングギアに接続させたので、電動モータを前輪駆動部に接続させるための大幅な設計や構造を変更することなく、既存の差動装置に容易に電動モータを接続させることができる。従って、生産性を向上したホイール式トラクタを提供することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、バッテリーは、車体フレームに支持部材を介して取付けた複数のバッテリーケースのそれぞれに設置したので、重量を有するバッテリーを、別途高強度の取付部材を必要とせず、既存の強度が高い車体フレームに安定的に設置することができる。従って、生産性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、バッテリーは、車両への昇降を補助する昇降ステップ近傍であって、車両を操縦する操縦部の下方に配設したので、車両の空いているスペースを有効に利用できるとともに、車両の重量バランスを良好にして車両を安定させることができる。従って、車両のコンパクト化を図ったホイール式トラクタを提供することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、車両には、後輪のスリップ状態を検出するスリップ検出器を設置するとともに、スリップ検出器をコントローラに接続し、スリップ検出器の検出情報に基づいて、コントローラが、電動モータを駆動制御するので、後輪がスリップして走行しづらい場合など必要時に応じて前輪を電動モータで自動的に駆動させ、車両を四輪駆動状態にすることで、車両の走行を援助することができる。従って、使用性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、スリップ検出器は、後輪の回転数を検出する回転数検出器と、車両の実速度を検出する車速検出器と、車両の移動速度を検出する距離検出器とからなり、車速検出器の検出による車両の実速度および距離検出器の検出による車両の走行距離から、通常の後輪の回転数に対する実際の回転数の割合を算出し、その算出値に基づいて後輪のスリップ状態を判断するので、簡単な構成により後輪のスリップ状態を検出することができる。従って、生産性を向上したホイール式トラクタを提供することができる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、後輪の駆動軸には、この後輪にかかる負荷トルクを検出するトルク検出器を設置するとともに、トルク検出器をコントローラに接続し、トルク検出器の検出情報に基づいてコントローラが電動モータを駆動制御するので、後輪が湿田などの泥土にはまり、後部作業機を牽引する車両の牽引力が低下するなど必要時に応じて前輪を電動モータで自動的に駆動させ、車両を四輪駆動状態にすることで、車両の牽引力を増強することができる。従って、使用性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、ステアリングには、このステアリングの操舵角を検出する角度検出器を設置するとともに、角度検出器をコントローラに接続し、角度検出器の検出情報に基づいてコントローラが車両が所定の車速以下で電動モータを駆動制御するので、車両の旋回時において、後輪の周速度よりも前輪の周速度を増速させる前輪増速駆動状態に自動的に切換えられ、作業面を荒らすことなく車両が速やかに旋回させることができる。使用性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【0024】
請求項10に記載の発明によれば、電動モータは、フロントアクスルケース両端部に各別に取付けるとともに、この電動モータのモータ軸を、前輪の前車軸としたので、左右前輪をそれぞれ電動モータで別個に駆動させることができ、従来のようにフロントアクスルケースに内装した差動装置や、左右前輪伝動軸、キングピンなどを必要とせず、簡単な構成で前輪に駆動力を伝達することができる。従って、組立性やメンテナンス性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一例としてのホイール式トラクタの側面図である。
【図2】動力伝達系のスケルトン図である。
【図3】車体フレームに取付けたフロントアクスルケースの斜視図である。
【図4】バッテリーの取付例を示す車体フレームの斜視図である。
【図5】バッテリーの設置位置を示すホイール式トラクタの平面図である。
【図6】電動モータの設置位置を示すフロントアクスルケースの平面図である。
【図7】電動モータの設置を示すフロントアクスルの構造図である。
【図8】電動モータの連係を示す前輪差動機構および左前輪駆動軸の組立図である。
【図9】電動モータの別の設置位置を示すフロントアクスルケースの平面図である。
【図10】コントローラによる前輪駆動の制御ブロック図である。
【図11】操向機構の斜視図である。
【図12】前輪内側に取付けた電動モータを示すフロントアクスルケース一端部の背面図である。
【図13】左右電動モータで前輪駆動を行うコントローラの制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は、本発明の一例としてのホイール式トラクタの側面図を示す。この例のトラクタ1は、車体フレーム22の前後に前輪23および後輪24を備え、前輪23の上方にボンネット25を形成し、その内側には原動機部としてのエンジン40およびエンジン40の後部にクラッチハウジング41が配置され、さらにこのクラッチハウジング41の後部にはミッションケース42が配設されており、エンジン40からの動力が後輪24に伝達される。そして、ボンネット25の後部に連続して操縦部27が設けられる。
【0027】
操縦部27内には、車両操作部としてクラッチペダル28などの操作ペダル、ステアリングハンドル29、運転席30などを設ける。また、操縦部27の下方には、運転者が操縦部27に乗降するための昇降ステップ37を車体フレーム22に固定して取り付けてもよい。
【0028】
そして、エンジン40からの動力は、ミッションケース42後端から突出した図示しないPTO軸に伝達され、このPTO軸から図示しないユニバーサルジョイントや作業機装着装置などを介して車両後端に装着された不図示の後部作業機を駆動させる。
【0029】
次に、動力伝達の構成について説明する。図2は動力伝達系のスケルトン図を示す。クラッチハウジング41内には、多板式の主クラッチ43が収納され、クラッチペダル28に連係されている。また、エンジン40の出力軸44の回転が主クラッチ43に入力され、この主クラッチ43の出力軸45は、車両後方に延出され、PTOクラッチ軸46と同一軸心に備えられる。
【0030】
出力軸45の後端には伝動歯車47が配置されており、PTOクラッチ軸46には、PTO一速歯車48と、PTO二速歯車49と、PTO逆転歯車50とがそれぞれ遊嵌される。そして、PTO一速歯車48と、PTO二速歯車49と、伝動歯車47とは、主軸51に設けられた伝達歯車52,53,54にそれぞれ噛合っており、PTO逆転歯車50はカウンタ歯車55を介して伝達歯車56と噛合い、PTOクラッチスライダ57,58の摺動により伝達歯車52,53,56からPTOクラッチ軸46および減速歯車59を介してPTO軸60に回転駆動力が伝達され、作業機を駆動させる。
【0031】
主軸51に固設された伝達歯車52,53,54,56は、主変速軸61に遊嵌される、主変速一速歯車62、主変速二速歯車63、主変速三速歯車64、主変速四速歯車65にそれぞれ噛合されている。この主変速軸61の軸方向摺動可能にスプライン嵌合される2つの主変速クラッチスライダ66,67は、キャビン27に有する不図示の主変速レバーに連係されている。この主変速レバーの操作により主変速クラッチスライダ66,67と主変速一速歯車62、主変速二速歯車63、主変速三速歯車64、主変速四速歯車65を選択し、選択されたいずれか1つの上記主変速歯車62,63,64,65を介して主軸51から主変速軸61へ動力が伝達される。
【0032】
また、主変速軸61の車両進行方向前方延長部分には、正転側歯車68および逆転側歯車69がそれぞれ同一軸心上に遊嵌される。そして、キャビン27に有する不図示のリバーサレバーを操作することによりリバーサクラッチ70が前進側または後進側のいずれかに選択接続され、主変速軸61の回転は正転側歯車68または逆転側歯車69のいずれかに伝達される。ただし、リバーサレバーがニュートラル位置の場合は、回転は正転側歯車68および逆転側歯車69のいずれにも伝達されない。
【0033】
正転側歯車68は、伝達軸71に嵌合される歯車72に、逆転側歯車69はカウンタ軸73に嵌合されるカウンタ歯車74にそれぞれ噛合されており、このカウンタ歯車74は伝達軸71に嵌合される歯車75と噛合される。
【0034】
その結果、リバーサクラッチ70が前進側に接続されたときは、主変速軸61の回転動力が正転側歯車68を介して伝達軸71に伝達され、リバーサクラッチ70が後進側に接続されたときは、主変速軸61の回転動力が逆転側歯車69からカウンタ軸73を介して伝達軸71を逆転方向に回転させることを可能としている。
【0035】
伝達軸71に嵌合される歯車72は、正転側歯車68と噛合うとともに、副変速軸76の同軸線上であり車両進行方向前方に設けられる歯車77と噛合っている。副変速軸76には副変速シフタ78がスプライン嵌合されており、副変速軸76の前部と歯車77の後部との間を自在に摺動可能としている。
【0036】
この副変速シフタ78は、キャビン27に有する不図示の副変速レバーによって操作され、副変速シフタ78の前部に形成された副変速シフタ歯が歯車77の後部に位置する状態の副変速三速(副変速高速段)、副変速シフタ歯と歯車77の後端に設けられた歯とが噛合う状態の副変速二速、副変速シフタ78の中央上部に形成された歯と伝達軸71の中央近傍に設けられた歯車79とが噛合う状態の副変速一速、副変速シフタ78に回転動力が伝達されない(ニュートラル)状態、そして副変速シフタ78後部の歯と不図示の超低速用歯車とが噛合う状態の副変速超低速(C速)とのそれぞれに切換可能とした副変速装置が構成される。
【0037】
これら副変速シフタ78の摺動による歯車噛合わせの選択で、伝達軸71の回転が三段の変速を経て出力され、副変速軸76に入力された回転動力は、副変速軸76に設けられた3つの歯車80,81,82などによって、後輪駆動系に出力される。
【0038】
そして、ミッションケース42後方には後輪デフ装置83が配置され、副変速軸76の回転が、この副変速軸76の後端に形成された歯車82を介して後輪デフ装置83に入力され、リアアクスルケース内の車軸などを介して後輪24が駆動される。なお、符号84はブレーキ装置である。
【0039】
一方、フロントアクスルケース2内には、図2および後述する図7〜8にも示すように、中央部に差動装置7が設置されるとともに、この差動装置7から左右方向に一対の前輪伝動軸8が延設され、さらに、これら左右前輪伝動軸8は、それぞれキングピン9を介してファイナルギア10などに接続されている。なお、ファイナルギア10が、前輪23の前車軸23aに連結され、この前車軸23aの先端部に前輪23が取付けられている。
【0040】
また、差動装置7は、フロントアクスルケース2内に支持された中空のデフケース7aと、このデフケース7aの一側外周面に固設したリングギア7bと、デフケース7aと一体的に回転するピニオン軸7cと、このピニオン軸7cの両端に回転自在に配置させるピニオン7dと、これらピニオン7dに噛み合う、左右前輪伝動軸8を回転させるデフサイドギア7eとから構成される。
【0041】
つまり、リングギア7bの回転により、上記差動装置7を介して左右前輪伝動軸8が回転し、さらにキングピン9やファイナルギア10などを介して前車軸23aの回転により前輪23が回転される。なお、差動装置7は周知技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0042】
従って、車両は、通常では後輪24の二輪駆動で作業を可能としているが、後述するように、後輪24がスリップ状態になるなど、例えば作業する水田条件によっては、必要時に応じて四輪駆動にして各輪の負荷配分を適性なものとし、走行安定性を向上させる場合には、詳細を後述する電動モータ5によりリングギア7bを回転させ、上述したように差動装置7を介して左右前輪伝動軸8が回転し、さらにキングピン9やファイナルギア10などを介して前車軸23aの回転により前輪23を回転させる、四輪駆動機構を有する。また、二輪駆動または四輪駆動状態の車両を旋回させる場合には、電動モータ5の回転数を増加させて、前輪23の周速度を略2倍にする前輪増速機構を有するものである。
【0043】
このように、車両を二輪駆動から適時四輪駆動とすることで、エンジン負荷の軽減(燃費向上や排ガス抑制)および、操舵力が四輪駆動時よりも軽い二輪駆動を用いて操作性を良好にするものである。
【0044】
次に、本願発明の前輪駆動系についてその具体的構成を説明する。図3は車体フレームに取付けたフロントアクスルケースの斜視図、図4はバッテリーの取付例を示す車体フレームの斜視図、図5はバッテリーの設置位置を示すホイール式トラクタの平面図、図6は電動モータの設置位置を示すフロントアクスルケースの平面図、図7は電動モータの設置を示すフロントアクスルの構造図、図8は電動モータの連係を示す前輪差動機構および左前輪駆動軸の組立図、図9は電動モータの別の設置位置を示すフロントアクスルケースの平面図、図10はコントローラによる前輪駆動の制御ブロック図である。
【0045】
まず、図3に示すように、車両前後方向に2本のフレーム22a,22bを並設してなる、エンジン40などを載置する車両前部の車体フレーム22下部には、フロントアクスルケース2が取付けられており、このフロントアクスルケース2の左右両端部に図1で示した前輪23が取付けられている。
【0046】
この車体フレーム22には、例えば図4に示すように、車体フレーム22の後部であって、フレーム22a,22bのそれぞれ車両外側面およびフレーム22a,22b間に、天面を開放した矩形状からなる金属製のバッテリーケース3が設置されるが、これらバッテリーケース3は、左右側部上面などを、車体フレーム22の後部上面に車両左右方向に亘って溶接あるいはボルト締結により架橋させた、並設してなる2本のステーsにボルト締結などして固定させる。
【0047】
そして、これらバッテリーケース3内には、リチウムイオン電池などのバッテリー4が適宜図示しない固定部材などにより固定設置されている。これらバッテリー4は、バッテリーケース3の前面もしくは後面から取出せるようにしてもよく、また、バッテリーケース3およびバッテリー4の設置数は上述したような3個に限定されない。なお、バッテリー4は、電圧制御のため、後述するコントローラCに接続されている。
【0048】
また、これらバッテリー4の設置位置として、好ましくは、図5に示すように、昇降ステップ37近傍であって、操縦部27下方の、フレーム22a,22bからそれぞれ車両後方に向けて延設したフレーム22a´,22b´間およびフレーム22a´,22b´外側面に、上述同様にして設置したバッテリーケース3内に固定設置させることで車両の重量バランスを最適化するとともに車両のスペースを有効に活用することができる。なお、バッテリー4は、上述した昇降ステップ37近傍に限らず、図示しないが、運転席30後方の左右フェンダー間であって、車体フレーム22上に適宜ステーや留め具を用いて立設させてもよい。
【0049】
次に、フロントアクスルケース2には、例えば図6に示すように、このフロントアクスルケース2の中央後面に円筒形の電動モータ5を取付けるが、その際、電動モータ5のモータ軸5aを車両前方のフロントアクスルケース2内に挿入させて取付けられる。なお、この電動モータ5は、フロントアクスルケース2の中央後面にスペーサ6などを介してボルト締結などして固定する。
【0050】
そして、本実施例のホイール式トラクタ1では、上述したリングギア7bに電動モータ5を接続するものである。従来のフロントアクスルケース2の、差動装置7が位置する中央部の背面には、ミッションケース42から前方に延設させた前輪駆動伝達軸を、リングギア7bに接続させるための穴部hを形成している。
【0051】
このため、本例では、この穴部hを利用し、電動モータ5を、上述したようにフロントアクスルケース2の中央後面に取付けるとともに、モータ軸5aを、穴部hを介してリングギア7bに接続させることが好ましい。このとき、モータ軸5aの先端部には、ベベルギア5bを取付けるとともに、このベベルギア5bをリングギア7bに噛み合わせる。
【0052】
なお、フロントアクスルケース2への電動モータ5の設置位置は、上述したフロントアクスルケース2の中央後面に限定せず、図9に示すように、フロントアクスルケース2の中央前面に上記と同じ要領で取付けてもよい。この場合、電動モータ5のモータ軸5aを車両後方に向けて、フロントアクスルケース2の中央前面に形成した不図示の穴部より挿入し、モータ軸5a先端のベベルギア5bをリングギア7bに噛み合わせる。
【0053】
あるいは電動モータ5は、図9の点線に示すように、フロントアクスルケース2の中央上面に設置してもよい。この場合、図示しないが、モータ軸5aを、フロントアクスルケース2の上面に形成した穴部を介してリングギア7bに接続させる。
【0054】
なお、電動モータ5のモータ軸5aは、その中途部に電磁式のクラッチ5cを介装しており、このクラッチ5cの入切によりモータ軸5aの回転駆動をリングギア7bに伝達状態または非伝達状態にすることができる。
【0055】
このような構成により、従来のようにミッションケース42内の副変速軸76からフロントアクスルケース2に向けて前輪駆動伝達軸などのギアや駆動軸など機械的な部材をを必要とせず、構成を簡素化できるとともに、それらの設置スペースに有効に活用し、バッテリー4を効率的に設置させることができる。
【0056】
次に、車両には、後輪24のスリップ状態を検出するスリップ検出器11が設置される。このスリップ検出器11は、例えば上述の図2に示したように、後輪24の回転数を検出するために左右後輪24の後車軸などに設置した、中空円筒軸形状のロータリーエンコーダなど(限定しない)周知の回転数検出器11aa,11abと、車両の適宜位置に設置した、車両の実速度を検出するための、例えば超音波送受波器などからなる周知の実速度検出器11bと、車両の適宜位置に設置した、車両の走行距離を検出するための、例えば光源および受光発光レンズなどからなる周知の距離検出器11cとから構成される。
【0057】
なお、実速度検出器11bは、周知技術であるため、その詳細な説明は省略するが、路面に対し超音波を送受波して、車両の対地車速を検出するものであるが、前記構成に限らず、例えば、前輪23の前車軸などに設けたロータリーエンコーダなどの検出情報に基づいて前輪23の回転数から車両の実速度を算出してもよい。
【0058】
さらに、左右後輪24の各前記後車軸には、後輪24にかかる負荷トルクを検出する中空円筒軸形状の周知のトルク検出器12a,12bが設置される。従って、例えば、各後輪24の前記後車軸先端の図示しないハブには、トルク検出器12a(12b)の一端がボルトにて固定されるとともに、このトルク検出器12a(12b)の他端は前記ホイールに対してボルトで固定され、かつ前記ホイール側中央部には、回転数検出器11aa,11abを同軸的に固定させた構成とすることができる。
【0059】
そして、図10に示すように、回転数検出器11aa,11abおよびトルク検出器12a,12bは、車両の適宜位置に設置したコントローラCに接続させるとともに、このコントローラCには、電動モータ5がインバータIを介して接続される。また、電動モータ5のモータ軸5aに設けたクラッチ5cもコントローラCに接続する。
【0060】
ここで、まず、圃場などにおいて後輪駆動で走行作業中の車両が、圃場の状態により左右後輪24の一方もしくは両方がスリップし始める際、コントローラCは、スリップ検出器11の回転数検出器11aa,11ab、実速度検出器11b、距離検出器11cから送られてくる各検出情報から、車両の実速度および走行距離(一定区間)による通常の後輪24の回転数に対する実際の回転数の割合を算出し、その算出値に基づいて後輪24がスリップ状態であることを判断する。
【0061】
次いで、コントローラCは、インバータIを介して電動モータ5を、例えば車速に応じた所定の回転数で回転させる。そして、コントローラCは、クラッチ5cを操作し、クラッチ5cを接続すると、モータ軸5aの回転が、リングギア7bに伝達され、上述したように差動装置7から左右前輪伝動軸8などを介して前輪23を駆動させた四輪駆動状態にすることで、当該圃場での車両走行を援助することができる。
【0062】
なお、このとき、電動モータ5を駆動状態にした後、クラッチ5cを接続させて電動モータ5の駆動力をリングギア7bに伝達し、前輪23を駆動させるため、前輪23を、円滑かつ効率的に始動させることができる。
【0063】
また、後輪24がスリップ状態から開放され、コントローラCは、回転数検出器11aa,11ab、実速度検出器11b、距離検出器11cから送られてくる検出情報から算出した算出値に基づいて後輪24が正常な駆動状態であることを判断すると、インバータIを介して電動モータ5の駆動を停止し、クラッチ5cの接続を切ることで、車両を後輪駆動状態に戻し、前輪23を従動状態とする。
【0064】
このような構成により、車両の後輪24がスリップして走行しづらい場合など必要時に応じて前輪23を電動モータ5で自動的に駆動させ、車両を四輪駆動状態にすることで、車両の走行を援助することができる。
【0065】
次に、後輪駆動の車両が湿田などに入り、後部作業機の牽引作業などを行う場合、車輪24が湿田にはまり易く、牽引力が不足し、作業効率が低下する際、コントローラCは、左右後輪24に設置したトルク検出器12a,12bから送られてくるトルク検出情報から、左右後輪24にかかるトルク値が所定値より大きい値になった場合に、後輪24が牽引力不足であることを判断する。
【0066】
次いで、コントローラCは、インバータIを介して電動モータ5を、例えば車速に応じた所定の回転数で回転させる。そして、コントローラCは、クラッチ5cを操作し、クラッチ5cを接続すると、モータ軸5aの回転が、リングギア7bに伝達され、上述したように差動装置7から左右前輪伝動軸8などを介して前輪23を駆動させた四輪駆動状態にすることで、当該湿田などでの後部作業機の牽引力を増強させることができる。なお、上述同様に、電動モータ5を駆動状態にした後、クラッチ5cを接続させて電動モータ5の駆動力をリングギア7bに伝達し、前輪23を駆動させるため、前輪23を、円滑かつ効率よく始動させることができる。
【0067】
また、車両が湿田などから出て、後部作業機の牽引作業を止めるもしくは他の条件の圃場で牽引作業をするなどした場合、コントローラCは、後輪24のトルク検出器12a,12bから送られてくるトルク検出情報から、左右後輪24にかかるトルク値が所定値以下になった場合に、大きな牽引力を必要としない状態であることを判断し、インバータIを介して電動モータ5の駆動を停止し、クラッチ5cの接続を切ることで、車両を後輪駆動状態に戻し、前輪23は従動状態とする。
【0068】
このような構成により、車両の後輪24が湿田などの泥土にはまり、後部作業機を牽引する車両の牽引力が低下するなど必要時に応じて前輪23を電動モータ5で自動的に駆動させ、車両を四輪駆動状態にすることで、車両の牽引力を増強することができる。
【0069】
上述では、モータ軸5aにクラッチ5cを備える電動モータ5を説明したが、クラッチ5cを設けることなく、モータ軸5aを直接リングギア7bに接続させてもよい。なお上述したように、前輪23は必要時に応じて電動モータ5により駆動させるため、通常の後輪駆動状態では、前輪23は従動状態である。
【0070】
つまり、リングギア7bに接続したモータ軸5aは、前輪23の従動回転により前車軸23aからファイナルギア10、キングピン9、左右前輪伝動軸8などを介して差動装置7のリングギア7bからモータ軸5aが常に従動回転されるため、電動モータ5本体で発電できる。従って、電動モータ5から得られた電力をバッテリーに蓄電させると、エネルギーを有効利用することができる。
【0071】
本願発明のホイール式トラクタ1では、車両の旋回時に、上述してきた電動モータ5を用いて前輪を増速駆動させることができる。図11は操向機構の斜視図である。
【0072】
図11に示すように、前輪23の操舵は、例えば、ステアリングハンドル29によりステアリング軸29aを左右に回動させて図示しないステアリングバルブを切り換え、油圧シリンダー29bの伸縮により、ピストンロッド29cおよびタイロッド29dを介して左右前輪23を旋回させる周知の技術である。
【0073】
このステアリングハンドル29のステアリング軸29aなどには、例えばポテンショメータなど周知の角度検出器13が設置される。そして、図10に示したように、この角度検出器13は、コントローラCに接続されるとともに、コントローラCには、上述同様に電動モータ5がインバータIを介して接続される。また、電動モータ5のモータ軸5aに設けたクラッチ5cもコントローラCに接続する。
【0074】
ここで、作業者がステアリングハンドル29を操舵して前輪23を操向し、車両を旋回させる場合、コントローラCは、例えば実速度検出器11bなどの検出情報から車速が低速(例えば副変速が1〜2速)で走行していることに加え、ステアリング軸29aに設置した角度検出器13から送られてくるステアリングハンドル29の操舵角の検出情報から、その操舵角が、所定の操舵角以上となったときに車両が旋回状態であることを判断する。なお、コントローラCは、上記の他に、車両がステアリングブレーキを利用している場合にも、車両が旋回状態であることを判断する。
【0075】
次いで、コントローラCは、インバータIを介して電動モータ5を、車速および前輪23の操舵角に応じた所定の回転数(例えば、後輪24の周速度に対して前輪23の周速度が略2倍となる駆動力を前輪23に与える電動モータ5の回転速度)で回転させる。
【0076】
そして、コントローラCは、クラッチ5cを操作し、クラッチ5cを接続すると、モータ軸5aの回転が、リングギア7bに伝達され、上述したように差動装置7から左右前輪伝動軸8などを介して前輪23を駆動させた四輪駆動状態にすることで、作業面を荒らすことなく車両を速やかに旋回させることができる。なお、上述同様に、電動モータ5を駆動状態にした後、クラッチ5cを接続させて電動モータ5の駆動力をリングギア7bに伝達し、前輪23を駆動させるため、前輪23を、円滑かつ効率的に始動させることができる。
【0077】
なお、車両が旋回を終え、直進状態に戻るなどした場合、コントローラCは、ステアリング軸29aの角度検出器13から送られてくるステアリングハンドル29の操舵角の検出情報から、ステアリングハンドル29が所定の操舵角以下となったときに車両が直進状態であることを判断し、インバータIを介して電動モータ5の駆動を停止し、クラッチ5cの接続を切ることで、車両を後輪駆動状態に戻し、前輪23を従動状態とする。
【0078】
このような構成により、車両の旋回時において、後輪24の周速度よりも前輪23の周速度を増速させる前輪増速駆動状態に自動的に切換えられ、作業面を荒らすことなく車両が速やかに旋回させることができる。
【0079】
また、上記前輪23の増速駆動源に電動モータ5を用いたことにより、従来のように、ミッションケース42内の副変速軸76からフロントアクスルケース2に向けて設けた前輪駆動伝達軸に、四輪駆動・前輪増速機構を設置する必要がなく、電動モータ5による簡単な構成にできるため、組立性やメンテナンス性が著しく向上する。
【0080】
以上述べた、電動モータ5による前輪駆動は、手動操作でも行える構成にすることもできる。この場合、図10に示したように、コントローラCには、例えば、運転席30近傍に設置した、前輪駆動入切スイッチ14を接続する。
【0081】
さらに、コントローラCには、上述同様に電動モータ5がインバータIを介して接続されるとともに、電動モータ5のモータ軸5aに設けたクラッチ5cもコントローラCに接続する。
【0082】
このような構成により、スリップ検出器11を用いた前輪23の電動モータ5による駆動制御およびトルク検出器12a,12bを用いた前輪23の電動モータ5による駆動制御に加え、必要に応じて、作業者が前輪駆動入切スイッチ14を入切することで、コントローラCが電動モータ5の駆動を入切し、前輪23を駆動または従動させることができる。
【0083】
また、電動モータ5の設置は、上述した位置および設置方法に限定されない。図12は前輪内側に取付けた電動モータを示すフロントアクスルケース一端部の背面図、図13は左右電動モータで前輪駆動を行うコントローラの制御ブロック図である。
【0084】
この場合、電動モータは、図12に示すように、例えば、左右前輪23の各前車軸に、周知の方法でアウターロータ式の電動モータ5´,5´´(図中では5´のみ記載)を周設させた、インホイールモータとすることもできる。また、電動モータ5´,5´´は、上述同様のクラッチ5c´により、モータ軸5a´,5a´´(図中では5a´のみ記載)の駆動を入切する。なお、この場合のフロントアクスルケース2´は、フレーム22a,22bにブラケットを介して支持させることができる。
【0085】
また、図13に示すように、電動モータ5´,(5´´)は、それぞれインバータIを介してコントローラCに接続されるとともに、上述したスリップ検出器11やトルク検出器12a,12b、角度検出器13、前輪駆動スイッチ14がコントローラCに接続される。
【0086】
そして、コントローラCは、スリップ検出器11やトルク検出器12a,12b、角度検出器13、前輪駆動スイッチ14などからの検出情報に基づき、左右電動モータ5´,5´´の駆動を入切する際、上述したように、インバータIを介して左右電動モータ5´,5´´を、例えば車速に応じた所定の回転数で回転させ、コントローラCが、クラッチ5cを操作し、クラッチ5cを接続すると、モータ軸5a´,5a´´の回転により各前車軸23aが回転するため、前輪23が駆動する。
【0087】
また、上述とは別に、コントローラCは、角度検出器13からの検出情報に基づき、インバータIを介して左右電動モータ5´,5´´それぞれのモータ軸5a´,5a´´に、車体の旋回半径に応じた回転差を与え、差動装置を用いることなく左右前輪23の回転速度を変えることで、車体を円滑に旋回させることができる。
【0088】
このような構成にすることで、左右前輪23をそれぞれ電動モータ5´,5´´で別個に駆動させることができ、従来のようにフロントアクスルケース2に内装した差動装置や、左右前輪伝動軸、キングピン、ファイナルギアなどを必要とせず、コストダウンを図れるとともに、前輪23の駆動構成を簡素化することができる。
【0089】
なお、上述したインホイール式の電動モータ5´,5´´は、アウターロータ型に限定されず、インナーロータ型であってもよい。
【0090】
以上詳述したように、この例のホイール式トラクタ1は、車両前後に左右の前輪23および後輪24を備え、車体フレーム22上に設置したエンジン40の動力を、ミッションケース42を介して後輪24に伝達するとともに、ステアリング操作により前輪23を操向して車両を旋回させ、前輪23の近傍位置には、バッテリー4の電力により駆動する電動モータ5を設置するとともに、この電動モータ5は、インバータIを介してコントローラCに接続し、後輪24の走行負荷状態や車両の旋回状態に基づいて、コントローラCにより電動モータ5の駆動を制御して、前輪23を電動モータ5で駆動させるものである。
【0091】
なお、上述の例では、農作業機としての後輪駆動/四輪駆動切替機構を有するホイール式トラクタについて説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、建設作業機としてのトラクタショベルなどあらゆる後輪駆動/四輪駆動切替機構を有するホイール式トラクタに適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
2 フロントアクスルケース
3 バッテリーケース
4 バッテリー
5 電動モータ
5a モータ軸
5b ベベルギア
5c クラッチ
7 差動装置
7b リングギア
11a,11b,11c 回転数検出器
12a,12b トルク検出器
13 角度検出器
22 車体フレーム
23 前輪
24 後輪
29 ステアリングハンドル
29a ステアリング軸
76 副変速軸
I インバータ
s ステー
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前後に、左右の前輪および後輪を備え、車体フレーム上に設置したエンジンの動力を、トランスミッションを介して後輪に伝達するホイール式作業車両に関し、より詳細には、前輪の近傍位置に、バッテリーの電力により駆動する電動モータを設置するとともに、この電動モータは、インバータを介してコントローラに接続し、後輪の走行状態や車両の旋回状態に基づいてコントローラにより電動モータの駆動を制御して、前輪を電動モータで駆動させるホイール式作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホイール式トラクタには、前輪駆動出力軸に、四輪駆動・前輪増速機構を備えるものがあり、圃場などにおいて牽引力の増強や後輪がスリップする際などには、四輪駆動・前輪増速機構により前輪を駆動させ、車両を四輪駆動にすることで、各輪の負荷配分が適性となり、走行安定性を向上させるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−10533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような従来のホイール式トラクタでは、エンジンの動力を、主副変速を介して後輪に伝達する経路とは別に、前輪に動力を伝達する経路として、副変速から車両前部のフロントアクスルに向けて前輪駆動伝達軸などを必要とすることから、別途それらギアや駆動軸などの機械的な部材を必要とするとともに、それらの設置スペースも必要であることから、車両の組立性やメンテナンス性が悪く、コストがかかり、かつ構成の簡素化が行えないという問題があった。また、前輪駆動の入切に用いる四輪駆動・前輪増速機構を前輪駆動伝達軸に備える必要があることから、製造コストやメンテナンス性が悪いという問題もあった。
そこで、この発明の目的は、前輪の駆動源に電動モータを用いることで、車両構成の簡素化を図り、組立性およびメンテナンス性を向上させるとともに、エンジン負荷の軽減を図ったホイール式作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため請求項1に記載の発明は、車両前後に、左右の前輪および後輪を備え、車体フレーム上に設置したエンジンの動力を、ミッションケースを介して前記後輪に伝達するとともに、ステアリング操作により前記前輪を操向して前記車両を旋回させるホイール式作業車両において、前記前輪の近傍位置には、バッテリーの電力により駆動する電動モータを設置するとともに、該電動モータは、インバータを介してコントローラに接続し、前記後輪の走行負荷状態や前記車両の旋回状態に基づいて前記コントローラにより前記電動モータの駆動を制御して、前記前輪を前記電動モータで駆動させることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記電動モータは、前記前輪を取付けるフロントアクスルケースの中央部の前面または後面あるいは上面に設置したことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記電動モータは、該モータ軸を、前記フロントアクスルケース内に備える差動装置のリングギアに接続させたことを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記バッテリーは、前記車体フレームに支持部材を介して取付けた複数のバッテリーケースのそれぞれに設置したことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記バッテリーは、前記車両への昇降を補助する昇降ステップ近傍であって、前記車両を操縦する操縦部の下方に配設したことを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記車両には、前記後輪のスリップ状態を検出するスリップ検出器を設置するとともに、前記スリップ検出器を前記コントローラに接続し、前記スリップ検出器の検出情報に基づいて、前記コントローラが、前記電動モータを駆動制御することを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項1および6に記載のホイール式作業車両において、前記スリップ検出器は、前記後輪の回転数を検出する回転数検出器と、前記車両の実速度を検出する車速検出器と、前記車両の移動速度を検出する距離検出器とからなり、前記車速検出器の検出による前記車両の実速度および前記距離検出器の検出による前記車両の走行距離から、通常の前記後輪の回転数に対する実際の回転数の割合を算出し、その算出値に基づいて前記後輪のスリップ状態を判断することを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記後輪の駆動軸には、該後輪にかかる負荷トルクを検出するトルク検出器を設置するとともに、前記トルク検出器を前記コントローラに接続し、前記トルク検出器の検出情報に基づいて前記コントローラが前記電動モータを駆動制御することを特徴とする。
【0013】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記ステアリングには、該ステアリングの操舵角を検出する角度検出器を設置するとともに、前記角度検出器を前記コントローラに接続し、前記角度検出器の検出情報に基づいて、前記コントローラは、前記車両が所定の車速以下で前記電動モータを駆動制御することを特徴とする。
【0014】
請求項10に記載の発明は、請求項1に記載のホイール式作業車両において、前記電動モータは、前記フロントアクスルケース両端部に各別に取付けるとともに、該電動モータのモータ軸を、前記前輪の前車軸としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、車両前後に、左右の前輪および後輪を備え、車体フレーム上に設置したエンジンの動力を、ミッションケースを介して後輪に伝達するとともに、ステアリング操作により前輪を操向して車両を旋回させるホイール式作業車両において、前輪の近傍位置には、バッテリーの電力により駆動する電動モータを設置するとともに、この電動モータは、インバータを介してコントローラに接続し、後輪の走行負荷状態や車両の旋回状態に基づいてコントローラにより電動モータの駆動を制御して、前輪を電動モータで駆動させるので、従来のようにミッションケースからフロントアクスルに動力を伝達していた前輪駆動出力軸や四輪駆動・前輪増速機構を必要とせず、作業状況により必要に応じて電動モータで容易に前輪の駆動を入切することができ、車両構成の簡素化を図ることができる。従って、組立性およびメンテナンス性を向上させたホイール式トラクタを提供することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、電動モータは、前輪を取付けるフロントアクスルケースの中央部の前面または後面あるいは上面に設置したので、設置スペースを有効に利用し、フロントアクスルケース内の差動装置近傍に電動モータを安定的に設置させることができる。従って、車両の省スペース化を図ったホイール式トラクタを提供することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、電動モータは、このモータ軸を、フロントアクスルケース内に備える差動装置のリングギアに接続させたので、電動モータを前輪駆動部に接続させるための大幅な設計や構造を変更することなく、既存の差動装置に容易に電動モータを接続させることができる。従って、生産性を向上したホイール式トラクタを提供することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、バッテリーは、車体フレームに支持部材を介して取付けた複数のバッテリーケースのそれぞれに設置したので、重量を有するバッテリーを、別途高強度の取付部材を必要とせず、既存の強度が高い車体フレームに安定的に設置することができる。従って、生産性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、バッテリーは、車両への昇降を補助する昇降ステップ近傍であって、車両を操縦する操縦部の下方に配設したので、車両の空いているスペースを有効に利用できるとともに、車両の重量バランスを良好にして車両を安定させることができる。従って、車両のコンパクト化を図ったホイール式トラクタを提供することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、車両には、後輪のスリップ状態を検出するスリップ検出器を設置するとともに、スリップ検出器をコントローラに接続し、スリップ検出器の検出情報に基づいて、コントローラが、電動モータを駆動制御するので、後輪がスリップして走行しづらい場合など必要時に応じて前輪を電動モータで自動的に駆動させ、車両を四輪駆動状態にすることで、車両の走行を援助することができる。従って、使用性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、スリップ検出器は、後輪の回転数を検出する回転数検出器と、車両の実速度を検出する車速検出器と、車両の移動速度を検出する距離検出器とからなり、車速検出器の検出による車両の実速度および距離検出器の検出による車両の走行距離から、通常の後輪の回転数に対する実際の回転数の割合を算出し、その算出値に基づいて後輪のスリップ状態を判断するので、簡単な構成により後輪のスリップ状態を検出することができる。従って、生産性を向上したホイール式トラクタを提供することができる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、後輪の駆動軸には、この後輪にかかる負荷トルクを検出するトルク検出器を設置するとともに、トルク検出器をコントローラに接続し、トルク検出器の検出情報に基づいてコントローラが電動モータを駆動制御するので、後輪が湿田などの泥土にはまり、後部作業機を牽引する車両の牽引力が低下するなど必要時に応じて前輪を電動モータで自動的に駆動させ、車両を四輪駆動状態にすることで、車両の牽引力を増強することができる。従って、使用性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、ステアリングには、このステアリングの操舵角を検出する角度検出器を設置するとともに、角度検出器をコントローラに接続し、角度検出器の検出情報に基づいてコントローラが車両が所定の車速以下で電動モータを駆動制御するので、車両の旋回時において、後輪の周速度よりも前輪の周速度を増速させる前輪増速駆動状態に自動的に切換えられ、作業面を荒らすことなく車両が速やかに旋回させることができる。使用性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【0024】
請求項10に記載の発明によれば、電動モータは、フロントアクスルケース両端部に各別に取付けるとともに、この電動モータのモータ軸を、前輪の前車軸としたので、左右前輪をそれぞれ電動モータで別個に駆動させることができ、従来のようにフロントアクスルケースに内装した差動装置や、左右前輪伝動軸、キングピンなどを必要とせず、簡単な構成で前輪に駆動力を伝達することができる。従って、組立性やメンテナンス性に優れたホイール式トラクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一例としてのホイール式トラクタの側面図である。
【図2】動力伝達系のスケルトン図である。
【図3】車体フレームに取付けたフロントアクスルケースの斜視図である。
【図4】バッテリーの取付例を示す車体フレームの斜視図である。
【図5】バッテリーの設置位置を示すホイール式トラクタの平面図である。
【図6】電動モータの設置位置を示すフロントアクスルケースの平面図である。
【図7】電動モータの設置を示すフロントアクスルの構造図である。
【図8】電動モータの連係を示す前輪差動機構および左前輪駆動軸の組立図である。
【図9】電動モータの別の設置位置を示すフロントアクスルケースの平面図である。
【図10】コントローラによる前輪駆動の制御ブロック図である。
【図11】操向機構の斜視図である。
【図12】前輪内側に取付けた電動モータを示すフロントアクスルケース一端部の背面図である。
【図13】左右電動モータで前輪駆動を行うコントローラの制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は、本発明の一例としてのホイール式トラクタの側面図を示す。この例のトラクタ1は、車体フレーム22の前後に前輪23および後輪24を備え、前輪23の上方にボンネット25を形成し、その内側には原動機部としてのエンジン40およびエンジン40の後部にクラッチハウジング41が配置され、さらにこのクラッチハウジング41の後部にはミッションケース42が配設されており、エンジン40からの動力が後輪24に伝達される。そして、ボンネット25の後部に連続して操縦部27が設けられる。
【0027】
操縦部27内には、車両操作部としてクラッチペダル28などの操作ペダル、ステアリングハンドル29、運転席30などを設ける。また、操縦部27の下方には、運転者が操縦部27に乗降するための昇降ステップ37を車体フレーム22に固定して取り付けてもよい。
【0028】
そして、エンジン40からの動力は、ミッションケース42後端から突出した図示しないPTO軸に伝達され、このPTO軸から図示しないユニバーサルジョイントや作業機装着装置などを介して車両後端に装着された不図示の後部作業機を駆動させる。
【0029】
次に、動力伝達の構成について説明する。図2は動力伝達系のスケルトン図を示す。クラッチハウジング41内には、多板式の主クラッチ43が収納され、クラッチペダル28に連係されている。また、エンジン40の出力軸44の回転が主クラッチ43に入力され、この主クラッチ43の出力軸45は、車両後方に延出され、PTOクラッチ軸46と同一軸心に備えられる。
【0030】
出力軸45の後端には伝動歯車47が配置されており、PTOクラッチ軸46には、PTO一速歯車48と、PTO二速歯車49と、PTO逆転歯車50とがそれぞれ遊嵌される。そして、PTO一速歯車48と、PTO二速歯車49と、伝動歯車47とは、主軸51に設けられた伝達歯車52,53,54にそれぞれ噛合っており、PTO逆転歯車50はカウンタ歯車55を介して伝達歯車56と噛合い、PTOクラッチスライダ57,58の摺動により伝達歯車52,53,56からPTOクラッチ軸46および減速歯車59を介してPTO軸60に回転駆動力が伝達され、作業機を駆動させる。
【0031】
主軸51に固設された伝達歯車52,53,54,56は、主変速軸61に遊嵌される、主変速一速歯車62、主変速二速歯車63、主変速三速歯車64、主変速四速歯車65にそれぞれ噛合されている。この主変速軸61の軸方向摺動可能にスプライン嵌合される2つの主変速クラッチスライダ66,67は、キャビン27に有する不図示の主変速レバーに連係されている。この主変速レバーの操作により主変速クラッチスライダ66,67と主変速一速歯車62、主変速二速歯車63、主変速三速歯車64、主変速四速歯車65を選択し、選択されたいずれか1つの上記主変速歯車62,63,64,65を介して主軸51から主変速軸61へ動力が伝達される。
【0032】
また、主変速軸61の車両進行方向前方延長部分には、正転側歯車68および逆転側歯車69がそれぞれ同一軸心上に遊嵌される。そして、キャビン27に有する不図示のリバーサレバーを操作することによりリバーサクラッチ70が前進側または後進側のいずれかに選択接続され、主変速軸61の回転は正転側歯車68または逆転側歯車69のいずれかに伝達される。ただし、リバーサレバーがニュートラル位置の場合は、回転は正転側歯車68および逆転側歯車69のいずれにも伝達されない。
【0033】
正転側歯車68は、伝達軸71に嵌合される歯車72に、逆転側歯車69はカウンタ軸73に嵌合されるカウンタ歯車74にそれぞれ噛合されており、このカウンタ歯車74は伝達軸71に嵌合される歯車75と噛合される。
【0034】
その結果、リバーサクラッチ70が前進側に接続されたときは、主変速軸61の回転動力が正転側歯車68を介して伝達軸71に伝達され、リバーサクラッチ70が後進側に接続されたときは、主変速軸61の回転動力が逆転側歯車69からカウンタ軸73を介して伝達軸71を逆転方向に回転させることを可能としている。
【0035】
伝達軸71に嵌合される歯車72は、正転側歯車68と噛合うとともに、副変速軸76の同軸線上であり車両進行方向前方に設けられる歯車77と噛合っている。副変速軸76には副変速シフタ78がスプライン嵌合されており、副変速軸76の前部と歯車77の後部との間を自在に摺動可能としている。
【0036】
この副変速シフタ78は、キャビン27に有する不図示の副変速レバーによって操作され、副変速シフタ78の前部に形成された副変速シフタ歯が歯車77の後部に位置する状態の副変速三速(副変速高速段)、副変速シフタ歯と歯車77の後端に設けられた歯とが噛合う状態の副変速二速、副変速シフタ78の中央上部に形成された歯と伝達軸71の中央近傍に設けられた歯車79とが噛合う状態の副変速一速、副変速シフタ78に回転動力が伝達されない(ニュートラル)状態、そして副変速シフタ78後部の歯と不図示の超低速用歯車とが噛合う状態の副変速超低速(C速)とのそれぞれに切換可能とした副変速装置が構成される。
【0037】
これら副変速シフタ78の摺動による歯車噛合わせの選択で、伝達軸71の回転が三段の変速を経て出力され、副変速軸76に入力された回転動力は、副変速軸76に設けられた3つの歯車80,81,82などによって、後輪駆動系に出力される。
【0038】
そして、ミッションケース42後方には後輪デフ装置83が配置され、副変速軸76の回転が、この副変速軸76の後端に形成された歯車82を介して後輪デフ装置83に入力され、リアアクスルケース内の車軸などを介して後輪24が駆動される。なお、符号84はブレーキ装置である。
【0039】
一方、フロントアクスルケース2内には、図2および後述する図7〜8にも示すように、中央部に差動装置7が設置されるとともに、この差動装置7から左右方向に一対の前輪伝動軸8が延設され、さらに、これら左右前輪伝動軸8は、それぞれキングピン9を介してファイナルギア10などに接続されている。なお、ファイナルギア10が、前輪23の前車軸23aに連結され、この前車軸23aの先端部に前輪23が取付けられている。
【0040】
また、差動装置7は、フロントアクスルケース2内に支持された中空のデフケース7aと、このデフケース7aの一側外周面に固設したリングギア7bと、デフケース7aと一体的に回転するピニオン軸7cと、このピニオン軸7cの両端に回転自在に配置させるピニオン7dと、これらピニオン7dに噛み合う、左右前輪伝動軸8を回転させるデフサイドギア7eとから構成される。
【0041】
つまり、リングギア7bの回転により、上記差動装置7を介して左右前輪伝動軸8が回転し、さらにキングピン9やファイナルギア10などを介して前車軸23aの回転により前輪23が回転される。なお、差動装置7は周知技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0042】
従って、車両は、通常では後輪24の二輪駆動で作業を可能としているが、後述するように、後輪24がスリップ状態になるなど、例えば作業する水田条件によっては、必要時に応じて四輪駆動にして各輪の負荷配分を適性なものとし、走行安定性を向上させる場合には、詳細を後述する電動モータ5によりリングギア7bを回転させ、上述したように差動装置7を介して左右前輪伝動軸8が回転し、さらにキングピン9やファイナルギア10などを介して前車軸23aの回転により前輪23を回転させる、四輪駆動機構を有する。また、二輪駆動または四輪駆動状態の車両を旋回させる場合には、電動モータ5の回転数を増加させて、前輪23の周速度を略2倍にする前輪増速機構を有するものである。
【0043】
このように、車両を二輪駆動から適時四輪駆動とすることで、エンジン負荷の軽減(燃費向上や排ガス抑制)および、操舵力が四輪駆動時よりも軽い二輪駆動を用いて操作性を良好にするものである。
【0044】
次に、本願発明の前輪駆動系についてその具体的構成を説明する。図3は車体フレームに取付けたフロントアクスルケースの斜視図、図4はバッテリーの取付例を示す車体フレームの斜視図、図5はバッテリーの設置位置を示すホイール式トラクタの平面図、図6は電動モータの設置位置を示すフロントアクスルケースの平面図、図7は電動モータの設置を示すフロントアクスルの構造図、図8は電動モータの連係を示す前輪差動機構および左前輪駆動軸の組立図、図9は電動モータの別の設置位置を示すフロントアクスルケースの平面図、図10はコントローラによる前輪駆動の制御ブロック図である。
【0045】
まず、図3に示すように、車両前後方向に2本のフレーム22a,22bを並設してなる、エンジン40などを載置する車両前部の車体フレーム22下部には、フロントアクスルケース2が取付けられており、このフロントアクスルケース2の左右両端部に図1で示した前輪23が取付けられている。
【0046】
この車体フレーム22には、例えば図4に示すように、車体フレーム22の後部であって、フレーム22a,22bのそれぞれ車両外側面およびフレーム22a,22b間に、天面を開放した矩形状からなる金属製のバッテリーケース3が設置されるが、これらバッテリーケース3は、左右側部上面などを、車体フレーム22の後部上面に車両左右方向に亘って溶接あるいはボルト締結により架橋させた、並設してなる2本のステーsにボルト締結などして固定させる。
【0047】
そして、これらバッテリーケース3内には、リチウムイオン電池などのバッテリー4が適宜図示しない固定部材などにより固定設置されている。これらバッテリー4は、バッテリーケース3の前面もしくは後面から取出せるようにしてもよく、また、バッテリーケース3およびバッテリー4の設置数は上述したような3個に限定されない。なお、バッテリー4は、電圧制御のため、後述するコントローラCに接続されている。
【0048】
また、これらバッテリー4の設置位置として、好ましくは、図5に示すように、昇降ステップ37近傍であって、操縦部27下方の、フレーム22a,22bからそれぞれ車両後方に向けて延設したフレーム22a´,22b´間およびフレーム22a´,22b´外側面に、上述同様にして設置したバッテリーケース3内に固定設置させることで車両の重量バランスを最適化するとともに車両のスペースを有効に活用することができる。なお、バッテリー4は、上述した昇降ステップ37近傍に限らず、図示しないが、運転席30後方の左右フェンダー間であって、車体フレーム22上に適宜ステーや留め具を用いて立設させてもよい。
【0049】
次に、フロントアクスルケース2には、例えば図6に示すように、このフロントアクスルケース2の中央後面に円筒形の電動モータ5を取付けるが、その際、電動モータ5のモータ軸5aを車両前方のフロントアクスルケース2内に挿入させて取付けられる。なお、この電動モータ5は、フロントアクスルケース2の中央後面にスペーサ6などを介してボルト締結などして固定する。
【0050】
そして、本実施例のホイール式トラクタ1では、上述したリングギア7bに電動モータ5を接続するものである。従来のフロントアクスルケース2の、差動装置7が位置する中央部の背面には、ミッションケース42から前方に延設させた前輪駆動伝達軸を、リングギア7bに接続させるための穴部hを形成している。
【0051】
このため、本例では、この穴部hを利用し、電動モータ5を、上述したようにフロントアクスルケース2の中央後面に取付けるとともに、モータ軸5aを、穴部hを介してリングギア7bに接続させることが好ましい。このとき、モータ軸5aの先端部には、ベベルギア5bを取付けるとともに、このベベルギア5bをリングギア7bに噛み合わせる。
【0052】
なお、フロントアクスルケース2への電動モータ5の設置位置は、上述したフロントアクスルケース2の中央後面に限定せず、図9に示すように、フロントアクスルケース2の中央前面に上記と同じ要領で取付けてもよい。この場合、電動モータ5のモータ軸5aを車両後方に向けて、フロントアクスルケース2の中央前面に形成した不図示の穴部より挿入し、モータ軸5a先端のベベルギア5bをリングギア7bに噛み合わせる。
【0053】
あるいは電動モータ5は、図9の点線に示すように、フロントアクスルケース2の中央上面に設置してもよい。この場合、図示しないが、モータ軸5aを、フロントアクスルケース2の上面に形成した穴部を介してリングギア7bに接続させる。
【0054】
なお、電動モータ5のモータ軸5aは、その中途部に電磁式のクラッチ5cを介装しており、このクラッチ5cの入切によりモータ軸5aの回転駆動をリングギア7bに伝達状態または非伝達状態にすることができる。
【0055】
このような構成により、従来のようにミッションケース42内の副変速軸76からフロントアクスルケース2に向けて前輪駆動伝達軸などのギアや駆動軸など機械的な部材をを必要とせず、構成を簡素化できるとともに、それらの設置スペースに有効に活用し、バッテリー4を効率的に設置させることができる。
【0056】
次に、車両には、後輪24のスリップ状態を検出するスリップ検出器11が設置される。このスリップ検出器11は、例えば上述の図2に示したように、後輪24の回転数を検出するために左右後輪24の後車軸などに設置した、中空円筒軸形状のロータリーエンコーダなど(限定しない)周知の回転数検出器11aa,11abと、車両の適宜位置に設置した、車両の実速度を検出するための、例えば超音波送受波器などからなる周知の実速度検出器11bと、車両の適宜位置に設置した、車両の走行距離を検出するための、例えば光源および受光発光レンズなどからなる周知の距離検出器11cとから構成される。
【0057】
なお、実速度検出器11bは、周知技術であるため、その詳細な説明は省略するが、路面に対し超音波を送受波して、車両の対地車速を検出するものであるが、前記構成に限らず、例えば、前輪23の前車軸などに設けたロータリーエンコーダなどの検出情報に基づいて前輪23の回転数から車両の実速度を算出してもよい。
【0058】
さらに、左右後輪24の各前記後車軸には、後輪24にかかる負荷トルクを検出する中空円筒軸形状の周知のトルク検出器12a,12bが設置される。従って、例えば、各後輪24の前記後車軸先端の図示しないハブには、トルク検出器12a(12b)の一端がボルトにて固定されるとともに、このトルク検出器12a(12b)の他端は前記ホイールに対してボルトで固定され、かつ前記ホイール側中央部には、回転数検出器11aa,11abを同軸的に固定させた構成とすることができる。
【0059】
そして、図10に示すように、回転数検出器11aa,11abおよびトルク検出器12a,12bは、車両の適宜位置に設置したコントローラCに接続させるとともに、このコントローラCには、電動モータ5がインバータIを介して接続される。また、電動モータ5のモータ軸5aに設けたクラッチ5cもコントローラCに接続する。
【0060】
ここで、まず、圃場などにおいて後輪駆動で走行作業中の車両が、圃場の状態により左右後輪24の一方もしくは両方がスリップし始める際、コントローラCは、スリップ検出器11の回転数検出器11aa,11ab、実速度検出器11b、距離検出器11cから送られてくる各検出情報から、車両の実速度および走行距離(一定区間)による通常の後輪24の回転数に対する実際の回転数の割合を算出し、その算出値に基づいて後輪24がスリップ状態であることを判断する。
【0061】
次いで、コントローラCは、インバータIを介して電動モータ5を、例えば車速に応じた所定の回転数で回転させる。そして、コントローラCは、クラッチ5cを操作し、クラッチ5cを接続すると、モータ軸5aの回転が、リングギア7bに伝達され、上述したように差動装置7から左右前輪伝動軸8などを介して前輪23を駆動させた四輪駆動状態にすることで、当該圃場での車両走行を援助することができる。
【0062】
なお、このとき、電動モータ5を駆動状態にした後、クラッチ5cを接続させて電動モータ5の駆動力をリングギア7bに伝達し、前輪23を駆動させるため、前輪23を、円滑かつ効率的に始動させることができる。
【0063】
また、後輪24がスリップ状態から開放され、コントローラCは、回転数検出器11aa,11ab、実速度検出器11b、距離検出器11cから送られてくる検出情報から算出した算出値に基づいて後輪24が正常な駆動状態であることを判断すると、インバータIを介して電動モータ5の駆動を停止し、クラッチ5cの接続を切ることで、車両を後輪駆動状態に戻し、前輪23を従動状態とする。
【0064】
このような構成により、車両の後輪24がスリップして走行しづらい場合など必要時に応じて前輪23を電動モータ5で自動的に駆動させ、車両を四輪駆動状態にすることで、車両の走行を援助することができる。
【0065】
次に、後輪駆動の車両が湿田などに入り、後部作業機の牽引作業などを行う場合、車輪24が湿田にはまり易く、牽引力が不足し、作業効率が低下する際、コントローラCは、左右後輪24に設置したトルク検出器12a,12bから送られてくるトルク検出情報から、左右後輪24にかかるトルク値が所定値より大きい値になった場合に、後輪24が牽引力不足であることを判断する。
【0066】
次いで、コントローラCは、インバータIを介して電動モータ5を、例えば車速に応じた所定の回転数で回転させる。そして、コントローラCは、クラッチ5cを操作し、クラッチ5cを接続すると、モータ軸5aの回転が、リングギア7bに伝達され、上述したように差動装置7から左右前輪伝動軸8などを介して前輪23を駆動させた四輪駆動状態にすることで、当該湿田などでの後部作業機の牽引力を増強させることができる。なお、上述同様に、電動モータ5を駆動状態にした後、クラッチ5cを接続させて電動モータ5の駆動力をリングギア7bに伝達し、前輪23を駆動させるため、前輪23を、円滑かつ効率よく始動させることができる。
【0067】
また、車両が湿田などから出て、後部作業機の牽引作業を止めるもしくは他の条件の圃場で牽引作業をするなどした場合、コントローラCは、後輪24のトルク検出器12a,12bから送られてくるトルク検出情報から、左右後輪24にかかるトルク値が所定値以下になった場合に、大きな牽引力を必要としない状態であることを判断し、インバータIを介して電動モータ5の駆動を停止し、クラッチ5cの接続を切ることで、車両を後輪駆動状態に戻し、前輪23は従動状態とする。
【0068】
このような構成により、車両の後輪24が湿田などの泥土にはまり、後部作業機を牽引する車両の牽引力が低下するなど必要時に応じて前輪23を電動モータ5で自動的に駆動させ、車両を四輪駆動状態にすることで、車両の牽引力を増強することができる。
【0069】
上述では、モータ軸5aにクラッチ5cを備える電動モータ5を説明したが、クラッチ5cを設けることなく、モータ軸5aを直接リングギア7bに接続させてもよい。なお上述したように、前輪23は必要時に応じて電動モータ5により駆動させるため、通常の後輪駆動状態では、前輪23は従動状態である。
【0070】
つまり、リングギア7bに接続したモータ軸5aは、前輪23の従動回転により前車軸23aからファイナルギア10、キングピン9、左右前輪伝動軸8などを介して差動装置7のリングギア7bからモータ軸5aが常に従動回転されるため、電動モータ5本体で発電できる。従って、電動モータ5から得られた電力をバッテリーに蓄電させると、エネルギーを有効利用することができる。
【0071】
本願発明のホイール式トラクタ1では、車両の旋回時に、上述してきた電動モータ5を用いて前輪を増速駆動させることができる。図11は操向機構の斜視図である。
【0072】
図11に示すように、前輪23の操舵は、例えば、ステアリングハンドル29によりステアリング軸29aを左右に回動させて図示しないステアリングバルブを切り換え、油圧シリンダー29bの伸縮により、ピストンロッド29cおよびタイロッド29dを介して左右前輪23を旋回させる周知の技術である。
【0073】
このステアリングハンドル29のステアリング軸29aなどには、例えばポテンショメータなど周知の角度検出器13が設置される。そして、図10に示したように、この角度検出器13は、コントローラCに接続されるとともに、コントローラCには、上述同様に電動モータ5がインバータIを介して接続される。また、電動モータ5のモータ軸5aに設けたクラッチ5cもコントローラCに接続する。
【0074】
ここで、作業者がステアリングハンドル29を操舵して前輪23を操向し、車両を旋回させる場合、コントローラCは、例えば実速度検出器11bなどの検出情報から車速が低速(例えば副変速が1〜2速)で走行していることに加え、ステアリング軸29aに設置した角度検出器13から送られてくるステアリングハンドル29の操舵角の検出情報から、その操舵角が、所定の操舵角以上となったときに車両が旋回状態であることを判断する。なお、コントローラCは、上記の他に、車両がステアリングブレーキを利用している場合にも、車両が旋回状態であることを判断する。
【0075】
次いで、コントローラCは、インバータIを介して電動モータ5を、車速および前輪23の操舵角に応じた所定の回転数(例えば、後輪24の周速度に対して前輪23の周速度が略2倍となる駆動力を前輪23に与える電動モータ5の回転速度)で回転させる。
【0076】
そして、コントローラCは、クラッチ5cを操作し、クラッチ5cを接続すると、モータ軸5aの回転が、リングギア7bに伝達され、上述したように差動装置7から左右前輪伝動軸8などを介して前輪23を駆動させた四輪駆動状態にすることで、作業面を荒らすことなく車両を速やかに旋回させることができる。なお、上述同様に、電動モータ5を駆動状態にした後、クラッチ5cを接続させて電動モータ5の駆動力をリングギア7bに伝達し、前輪23を駆動させるため、前輪23を、円滑かつ効率的に始動させることができる。
【0077】
なお、車両が旋回を終え、直進状態に戻るなどした場合、コントローラCは、ステアリング軸29aの角度検出器13から送られてくるステアリングハンドル29の操舵角の検出情報から、ステアリングハンドル29が所定の操舵角以下となったときに車両が直進状態であることを判断し、インバータIを介して電動モータ5の駆動を停止し、クラッチ5cの接続を切ることで、車両を後輪駆動状態に戻し、前輪23を従動状態とする。
【0078】
このような構成により、車両の旋回時において、後輪24の周速度よりも前輪23の周速度を増速させる前輪増速駆動状態に自動的に切換えられ、作業面を荒らすことなく車両が速やかに旋回させることができる。
【0079】
また、上記前輪23の増速駆動源に電動モータ5を用いたことにより、従来のように、ミッションケース42内の副変速軸76からフロントアクスルケース2に向けて設けた前輪駆動伝達軸に、四輪駆動・前輪増速機構を設置する必要がなく、電動モータ5による簡単な構成にできるため、組立性やメンテナンス性が著しく向上する。
【0080】
以上述べた、電動モータ5による前輪駆動は、手動操作でも行える構成にすることもできる。この場合、図10に示したように、コントローラCには、例えば、運転席30近傍に設置した、前輪駆動入切スイッチ14を接続する。
【0081】
さらに、コントローラCには、上述同様に電動モータ5がインバータIを介して接続されるとともに、電動モータ5のモータ軸5aに設けたクラッチ5cもコントローラCに接続する。
【0082】
このような構成により、スリップ検出器11を用いた前輪23の電動モータ5による駆動制御およびトルク検出器12a,12bを用いた前輪23の電動モータ5による駆動制御に加え、必要に応じて、作業者が前輪駆動入切スイッチ14を入切することで、コントローラCが電動モータ5の駆動を入切し、前輪23を駆動または従動させることができる。
【0083】
また、電動モータ5の設置は、上述した位置および設置方法に限定されない。図12は前輪内側に取付けた電動モータを示すフロントアクスルケース一端部の背面図、図13は左右電動モータで前輪駆動を行うコントローラの制御ブロック図である。
【0084】
この場合、電動モータは、図12に示すように、例えば、左右前輪23の各前車軸に、周知の方法でアウターロータ式の電動モータ5´,5´´(図中では5´のみ記載)を周設させた、インホイールモータとすることもできる。また、電動モータ5´,5´´は、上述同様のクラッチ5c´により、モータ軸5a´,5a´´(図中では5a´のみ記載)の駆動を入切する。なお、この場合のフロントアクスルケース2´は、フレーム22a,22bにブラケットを介して支持させることができる。
【0085】
また、図13に示すように、電動モータ5´,(5´´)は、それぞれインバータIを介してコントローラCに接続されるとともに、上述したスリップ検出器11やトルク検出器12a,12b、角度検出器13、前輪駆動スイッチ14がコントローラCに接続される。
【0086】
そして、コントローラCは、スリップ検出器11やトルク検出器12a,12b、角度検出器13、前輪駆動スイッチ14などからの検出情報に基づき、左右電動モータ5´,5´´の駆動を入切する際、上述したように、インバータIを介して左右電動モータ5´,5´´を、例えば車速に応じた所定の回転数で回転させ、コントローラCが、クラッチ5cを操作し、クラッチ5cを接続すると、モータ軸5a´,5a´´の回転により各前車軸23aが回転するため、前輪23が駆動する。
【0087】
また、上述とは別に、コントローラCは、角度検出器13からの検出情報に基づき、インバータIを介して左右電動モータ5´,5´´それぞれのモータ軸5a´,5a´´に、車体の旋回半径に応じた回転差を与え、差動装置を用いることなく左右前輪23の回転速度を変えることで、車体を円滑に旋回させることができる。
【0088】
このような構成にすることで、左右前輪23をそれぞれ電動モータ5´,5´´で別個に駆動させることができ、従来のようにフロントアクスルケース2に内装した差動装置や、左右前輪伝動軸、キングピン、ファイナルギアなどを必要とせず、コストダウンを図れるとともに、前輪23の駆動構成を簡素化することができる。
【0089】
なお、上述したインホイール式の電動モータ5´,5´´は、アウターロータ型に限定されず、インナーロータ型であってもよい。
【0090】
以上詳述したように、この例のホイール式トラクタ1は、車両前後に左右の前輪23および後輪24を備え、車体フレーム22上に設置したエンジン40の動力を、ミッションケース42を介して後輪24に伝達するとともに、ステアリング操作により前輪23を操向して車両を旋回させ、前輪23の近傍位置には、バッテリー4の電力により駆動する電動モータ5を設置するとともに、この電動モータ5は、インバータIを介してコントローラCに接続し、後輪24の走行負荷状態や車両の旋回状態に基づいて、コントローラCにより電動モータ5の駆動を制御して、前輪23を電動モータ5で駆動させるものである。
【0091】
なお、上述の例では、農作業機としての後輪駆動/四輪駆動切替機構を有するホイール式トラクタについて説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、建設作業機としてのトラクタショベルなどあらゆる後輪駆動/四輪駆動切替機構を有するホイール式トラクタに適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
2 フロントアクスルケース
3 バッテリーケース
4 バッテリー
5 電動モータ
5a モータ軸
5b ベベルギア
5c クラッチ
7 差動装置
7b リングギア
11a,11b,11c 回転数検出器
12a,12b トルク検出器
13 角度検出器
22 車体フレーム
23 前輪
24 後輪
29 ステアリングハンドル
29a ステアリング軸
76 副変速軸
I インバータ
s ステー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後に、左右の前輪および後輪を備え、
車体フレーム上に設置したエンジンの動力を、ミッションケースを介して前記後輪に伝達するとともに、ステアリング操作により前記前輪を操向して前記車両を旋回させるホイール式作業車両において、
前記前輪の近傍位置には、バッテリーの電力により駆動する電動モータを設置するとともに、該電動モータは、インバータを介してコントローラに接続し、
前記後輪の走行負荷状態や前記車両の旋回状態に基づいて前記コントローラにより前記電動モータの駆動を制御して、前記前輪を前記電動モータで駆動させることを特徴とするホイール式作業車両。
【請求項2】
前記電動モータは、前記前輪を取付けるフロントアクスルケースの中央部の前面または後面あるいは上面に設置したことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項3】
前記電動モータは、該モータ軸を、前記フロントアクスルケース内に備える差動装置のリングギアに接続させたことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項4】
前記バッテリーは、前記車体フレームに支持部材を介して取付けた複数のバッテリーケースのそれぞれに設置したことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項5】
前記バッテリーは、前記車両への昇降を補助する昇降ステップ近傍であって、前記車両を操縦する操縦部の下方に配設したことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項6】
前記車両には、前記後輪のスリップ状態を検出するスリップ検出器を設置するとともに、前記スリップ検出器を前記コントローラに接続し、前記スリップ検出器の検出情報に基づいて、前記コントローラが、前記電動モータを駆動制御することを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項7】
前記スリップ検出器は、前記後輪の回転数を検出する回転数検出器と、前記車両の実速度を検出する車速検出器と、前記車両の移動速度を検出する距離検出器とからなり、前記車速検出器の検出による前記車両の実速度および前記距離検出器の検出による前記車両の走行距離から、通常の前記後輪の回転数に対する実際の回転数の割合を算出し、その算出値に基づいて前記後輪のスリップ状態を判断することを特徴とする、請求項1および6に記載のホイール式作業車両。
【請求項8】
前記後輪の駆動軸には、該後輪にかかる負荷トルクを検出するトルク検出器を設置するとともに、前記トルク検出器を前記コントローラに接続し、前記トルク検出器の検出情報に基づいて前記コントローラが前記電動モータを駆動制御することを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項9】
前記ステアリングには、該ステアリングの操舵角を検出する角度検出器を設置するとともに、前記角度検出器を前記コントローラに接続し、前記角度検出器の検出情報に基づいて、前記コントローラは、前記車両が所定の車速以下で前記電動モータを駆動制御することを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項10】
前記電動モータは、前記フロントアクスルケース両端部に各別に取付けるとともに、該電動モータのモータ軸を、前記前輪の前車軸としたことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項1】
車両前後に、左右の前輪および後輪を備え、
車体フレーム上に設置したエンジンの動力を、ミッションケースを介して前記後輪に伝達するとともに、ステアリング操作により前記前輪を操向して前記車両を旋回させるホイール式作業車両において、
前記前輪の近傍位置には、バッテリーの電力により駆動する電動モータを設置するとともに、該電動モータは、インバータを介してコントローラに接続し、
前記後輪の走行負荷状態や前記車両の旋回状態に基づいて前記コントローラにより前記電動モータの駆動を制御して、前記前輪を前記電動モータで駆動させることを特徴とするホイール式作業車両。
【請求項2】
前記電動モータは、前記前輪を取付けるフロントアクスルケースの中央部の前面または後面あるいは上面に設置したことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項3】
前記電動モータは、該モータ軸を、前記フロントアクスルケース内に備える差動装置のリングギアに接続させたことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項4】
前記バッテリーは、前記車体フレームに支持部材を介して取付けた複数のバッテリーケースのそれぞれに設置したことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項5】
前記バッテリーは、前記車両への昇降を補助する昇降ステップ近傍であって、前記車両を操縦する操縦部の下方に配設したことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項6】
前記車両には、前記後輪のスリップ状態を検出するスリップ検出器を設置するとともに、前記スリップ検出器を前記コントローラに接続し、前記スリップ検出器の検出情報に基づいて、前記コントローラが、前記電動モータを駆動制御することを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項7】
前記スリップ検出器は、前記後輪の回転数を検出する回転数検出器と、前記車両の実速度を検出する車速検出器と、前記車両の移動速度を検出する距離検出器とからなり、前記車速検出器の検出による前記車両の実速度および前記距離検出器の検出による前記車両の走行距離から、通常の前記後輪の回転数に対する実際の回転数の割合を算出し、その算出値に基づいて前記後輪のスリップ状態を判断することを特徴とする、請求項1および6に記載のホイール式作業車両。
【請求項8】
前記後輪の駆動軸には、該後輪にかかる負荷トルクを検出するトルク検出器を設置するとともに、前記トルク検出器を前記コントローラに接続し、前記トルク検出器の検出情報に基づいて前記コントローラが前記電動モータを駆動制御することを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項9】
前記ステアリングには、該ステアリングの操舵角を検出する角度検出器を設置するとともに、前記角度検出器を前記コントローラに接続し、前記角度検出器の検出情報に基づいて、前記コントローラは、前記車両が所定の車速以下で前記電動モータを駆動制御することを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【請求項10】
前記電動モータは、前記フロントアクスルケース両端部に各別に取付けるとともに、該電動モータのモータ軸を、前記前輪の前車軸としたことを特徴とする、請求項1に記載のホイール式作業車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−56542(P2012−56542A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204725(P2010−204725)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
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