説明

ポリカーボネート樹脂成形体の成形装置、成形方法及びポリカーボネート樹脂成形体

【課題】黄変が防止され、色相が良好なポリカーボネート樹脂成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形してペレットとし、これを射出成形して透明ポリカーボネート樹脂成形体を製造する。成形機のスクリュ等に、酸化開始温度が700℃以上の皮膜を設ける。得られた透明ポリカーボネート樹脂成形体を、加熱してアニール処理してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なポリカーボネート樹脂成形体を成形するのに好適な成形装置及び成形方法と、この方法によって成形されたポリカーボネート樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的特性、耐熱性、耐候性に優れている上、高い光線透過率を備えているところから、幅広い用途に使用されている。この様な用途としては、例えば液晶ディスプレイにおける携帯電話用のサイドライト方式用導光板や液晶テレビ用の直下型バックライト方式の面光源体用光拡散板用途、またCD,DVDといった記録メディア、カメラやメガネ、サングラス用のレンズ等がある。
【0003】
液晶表示装置では、表示面積の増大と共に高輝度化の要望が高まり、また水銀撤廃という環境問題からも従来の蛍光管に代えて、最近ではLEDを用いることが多くなってきている。蛍光管は線光源であるため、サイドライト型導光板においては1〜3本の蛍光管を導光板端面に配置して光の出光方向を制御することにより、面状光源体を構成しているが、LEDは点光源のため、蛍光管1本に対して数十倍の個数が必要である。このため、LEDを用いたバックライトユニット全体の熱量が増加し、アクリル樹脂からなる導光板では耐熱性が不足して溶融するおそれがある。
【0004】
耐熱性に優れるポリカーボネート樹脂製の導光板は、アクリル樹脂製の導光板に比べて耐衝撃性・寸法安定性等の品質面においても優れている。
【0005】
導光板は、年々その画面サイズの大型化が進んでいる。サイドライト式のポリカーボネート樹脂製導光板の場合、大型化すると、長い光路となるために、ポリカーボネート特有の黄色透明といった色相が影響してくる。例えば、導光板を面状光源体に用いると、出光色が黄色い光となってしまったり、白色LEDでは特に460nm(青)に最も強い分光ピークを有するために光を吸収され、輝度が低くなる問題がある。
【0006】
射出成形時の温度が高温(例えば350℃以上)になると、このような問題が一層顕著になる。
【0007】
また、射出成形によって成形されるレンズ等の成形体の場合、肉厚が厚いために、成形サイクルを5分程度と長くしているが、このことも黄変の原因となっている。即ち、成形機シリンダー内に樹脂材料が5分又は5分以上の長い時間高温で滞留した状態におかれると、樹脂や添加剤が分解して黄色に着色しやすい。
【0008】
液晶テレビ用光拡散板としては、光拡散用粒子を3〜4wt%添加した、厚さ2mmのポリカーボネート樹脂板が用いられている。この光拡散板の裏面に対峙させて、約25mmの間隔で多数の蛍光管を配置している。この光拡散板は、光路が比較的短く、蛍光管の輝度により高い輝度を有する。しかしながら、蛍光管の本数を減少させたり、サイドライト式へ変更すると、光の光路が長くなり、ポリカーボネート特有の黄色透明な色相が問題となる。
【0009】
色相対策として、ポリカーボネート樹脂に染料、顔料を添加してブルーイング処理することもあるが、光源光の青を吸収してしまうため、輝度が低くなる。
【0010】
ポリカーボネート樹脂製レンズの場合、人間は一般に青色を好むために、対比色である黄色は敬遠され、成形材料にブルーイング剤を添加するブルーイング処理を行っている。ポリカーボネート製レンズは、比較的肉厚が厚いこともあり、色相が一般消費者に認識されやすいため、ブルーイングの濃度も濃くなっている。そのため、射出成形時にブルーイング剤が変色したり、ガスとなって金型を痛めて耐久性やメンテ頻度を増やす等の問題が生じている。
【0011】
特開平8−132437号公報では、押出成形されたポリカーボネート樹脂の黄変(黄着色)を抑制するために、成形用樹脂を貯留するためのホッパー内に窒素を連続的に多量に供給し、ホッパー内の酸素濃度を0.1%未満にすることが記載されている。
【0012】
また、特開平9−59367号公報には、色相安定性を高めるために、押出機の混練部にポリカーボネート樹脂100gに対し、窒素ガスを0.1〜20NL(ノルマルリットル)供給することが記載されている。
【0013】
しかしながら、これらのように窒素ガスを多量に使用することは、コスト高の原因にもなり、好ましくない。
【0014】
特開2001−341164号公報には、射出シリンダに付設された熱可塑性樹脂供給用ホッパ内に窒素ガスを供給して該ホッパ内の酸素濃度を制御することにより、成形品の黄変を防止することが記載されているが、ホッパ内の酸素濃度レベルをどの程度にするかについての記載はない。
【0015】
ポリカーボネート樹脂の大きな市場のひとつであるCD,DVDのようなメディアは、350℃を超える高温で射出成形されているが、5秒サイクル以下であり滞留の影響は少ないにも拘らず色相は黄色透明である。しかしながら読み取りはレーザーであるため、その色相は問題にはならない。メディアに関しては色相よりも射出成形によって異物が増加しないことが望まれる。
【0016】
これらの対策として、射出成形機のスクリュ本体及び逆流防止リング周辺部材表面にSiC,TiC,TiN,WSよりなる皮膜を設けることが特開平4−208428号公報に開示されている。
【0017】
また、射出成形機のシリンダー内壁にCo−Ni−Mo−Crからなる合金ライニング行うとともに、スクリュ表面にTiCとTiNの2層コーティングを行うことが特開平2−276039号公報に開示されている。
【0018】
このように皮膜(コーティング)を設けることにより、成形機内の滞留による焼けや炭化物が発生しにくくなったり、非付着性であるために剥離しやすくなったりする。この結果、光ディスクで問題視されている異物を低減させることができる。
【0019】
これらの公知文献は、ポリカーボネートと非付着性の皮膜を設けることにより、焼けによる異物の発生を防止することを開示するが、黄色透明の色相改善に対しては何ら言及していない。
【0020】
特開平7−178781号公報、特開2002−86520号公報には、射出成形用シリンダーやスクリュに剥離性や摩擦抵抗低減処理用としてフッ素樹脂やフルオロカーボン分散メッキ、TiNをコーティングすることが開示されているが、これらの文献も上記文献と同様に、剥離性に優れた皮膜を形成することにより異物低減を図るものである。これらの文献にも、ポリカーボネート樹脂の黄変対策は言及されていない。
【特許文献1】特開平8−132437号公報
【特許文献2】特開平9−59367号公報
【特許文献3】特開2001−341164号公報
【特許文献4】特開平4−208428号公報
【特許文献5】特開平2−276039号公報
【特許文献6】特開平7−178781号公報
【特許文献7】特開2002−86520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解消し、黄変が防止され色相が良好な透光性ポリカーボネート樹脂成形体を成形するための装置及び方法と、この方法で成形されたポリカーボネート樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明(請求項1)のポリカーボネート樹脂成形体の成形装置は、ポリカーボネート樹脂組成物を溶融して成形するポリカーボネート樹脂成形体の成形装置において、溶融ポリカーボネート樹脂組成物と接触する面が、大気中での酸化開始温度が700℃以上の皮膜で被覆されていることを特徴とするものである。
【0023】
請求項2の成形装置は、請求項1において、前記成形装置が射出成形機又は押出機であり、前記溶融ポリカーボネート樹脂との接触面が、スクリュ表面、バレル内面、プランジャー表面、スクリュヘッド表面、逆流防止リング表面、シートリング表面、ノズル内面、ダイ内面、及び溶融ポリカーボネート樹脂の流路の少なくとも一部であることを特徴とするものである。
【0024】
請求項3の成形装置は、請求項1又は2において、前記皮膜は、Pt、Au、TiAlN、TiSiN、AlCrN、CrSiN、TiBN、AlCrSiN、AlZrN、AlZrSiN、及びCrBNよりなる群から選択された少なくとも1種の皮膜であることを特徴とするものである。
【0025】
請求項4のポリカーボネート樹脂成形体の成形装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記皮膜の大気中での酸化開始温度が850℃以上であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明(請求項5)のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成形装置を用いてポリカーボネート樹脂成形体を成形することを特徴とするものである。
【0027】
請求項6のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は、請求項5において、前記ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂とリン系化合物とを含んでおり、該樹脂材料中のリン系化合物の割合が、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.02〜0.3重量部であり、該ポリカーボネート樹脂組成物の水分含有量が130ppm以下であること特徴とするものである。
【0028】
請求項7に記載のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は、請求項6において、前記リン系化合物がリン系熱安定剤であることを特徴とするものである。
【0029】
請求項8の透光性ポリカーボネート樹脂成形体の製造方法は、請求項6又は7において、前記樹脂材料の水分含有量が100ppm以下であることを特徴とするものである。
【0030】
請求項9のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は、請求項6ないし8のいずれか1項において、前記ポリカーボネート樹脂組成物が真空乾燥されたものであることを特徴とするものである。
【0031】
請求項10のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は、請求項5ないし9のいずれか1項において、において、前記ポリカーボネート樹脂組成物をホッパー中に貯蔵しておき、該ホッパーから樹脂供給路を介して射出成形機へ該樹脂を供給して成形を行うようにした透光性ポリカーボネート樹脂成形体の成形方法であって、該ホッパーと該樹脂供給路との連結部分であるホッパー下に窒素ガスを供給し、ホッパー内の酸素濃度を0.2〜5.0体積%とすることを特徴とするものである。
【0032】
請求項11のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は、請求項5ないし10のいずれか1項において、射出成形された成形体を加熱してアニール処理することを特徴とするものである。
【0033】
本発明(請求項12)のポリカーボネート成形体は、請求項5ないし11のいずれか1項に記載の方法によって成形されたものである。
【発明の効果】
【0034】
従来使用されている表面処理皮膜は、ポリカーボネート樹脂組成物の一般的な成形温度(例えば270〜370℃程度)や圧力下において酸化され、酸化皮膜を生成する。
【0035】
ポリカーボネート樹脂末端基がこの酸化皮膜と反応すると、微量の黄色物質が生成し、ポリカーボネート樹脂は特有の黄色透明になる。
【0036】
これに対し、本発明では、ポリカーボネート樹脂組成物を成形するための射出成形機、押出成形機等の成形装置において、溶融ポリカーボネート樹脂と接触する部位の表面を、大気中での酸化開始温度が700℃以上の皮膜で被覆することによって、ポリカーボネート樹脂特有の黄色透明をほぼ無色透明にすることができる。
【0037】
本発明においては、ポリカーボネート樹脂100重量部に対してリン系化合物を0.02〜0.3重量部を含有し、水分含有量が好ましくは130ppm以下、より好ましくは120ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下のポリカーボネート樹脂組成物を成形することにより、黄変がより確実に防止されたポリカーボネート樹脂成形体を得ることができる。この理由については、水分中の酸素がポリカーボネート樹脂と反応して黄変が生じることが抑制されるためであると推察される。
【0038】
リン系化合物としてリン系熱安定剤を用いると、光線透過率と色相が向上する。
【0039】
前記樹脂材料は、真空乾燥により容易に水分含有量を十分に低下させることができる。
【0040】
樹脂を貯蔵しておくホッパーから成形機へ樹脂材料を供給する樹脂供給路とホッパーとの連結部であるホッパー下に窒素ガスを供給してホッパー内の酸素濃度を5.0体積%以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂の黄変がさらに十分に防止される。
【0041】
このホッパー内の雰囲気の酸素濃度は6.0体積%以下であれば十分であり、0.2〜5.0体積%と前記特許文献1,2の場合よりも高くてもよい。このように酸素濃度をそれほど低くする必要がないところから、窒素ガスの使用量が特許文献1,2の場合に比べて少量で足り、製造コストが低減される。
【0042】
前記樹脂材料を射出成形することにより、導光板、光拡散板、レンズ類等が製造される。
【0043】
成形されたポリカーボネート樹脂成形体を加熱してアニール処理することにより成形体の透光性を高くすることができる。
【0044】
このように、本発明によれば、無色透明で、耐熱性、強度、寸法安定性に優れた高品質のポリカーボネート成形体を提供することが出来る。また、メンテナンス性の向上、添加剤の低減等による生産性向上及びコストダウンを図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0046】
本発明のポリカーボネート樹脂成形体の成形装置は、ポリカーボネート樹脂組成物を溶融して成形するポリカーボネート樹脂成形体の成形装置において、溶融ポリカーボネート樹脂組成物と接触する面が、大気中での酸化開始温度が700℃以上の皮膜で被覆されていることを特徴とするものである。
【0047】
本発明のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は、この成形装置を用いて成形を行うものである。
【0048】
本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、この成形方法により成形されたものである。
【0049】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
<ポリカーボネート樹脂>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンと反応させる界面重合法(ホスゲン法)、又は炭酸ジエステルと反応させる溶融法(エステル交換法)等により得られる樹脂であり、直鎖状又は分岐状の熱可塑性重合体又は共重合体である。
【0050】
原料として用いる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわちビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン(すなわちテトラメチルビスフェノールA)等のビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン(すなわちテトラブロムビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン(すなわちテトラクロロビスフェノールA)等のハロゲンを含むビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物の他、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられる。中でもハロゲンを含んでいてもよい、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物が好ましく、特には、ビスフェノールAが好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いても、複数種類を任意の割合で適宜選択して用いてもよい。
【0051】
なお、ポリカーボネート樹脂の分子量を適宜調節するために、分子量調節剤を添加してもよい。分子量調節剤としては、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を使用することができ、具体的には、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−ブロムフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。この分子量調節剤は、任意の量を添加することができるが、ポリカーボネート樹脂が下記の粘度平均分子量となるように添加することが好ましい。
【0052】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量は、12000〜30000特に14000〜30000程度であることが好ましい。この粘度平均分子量が低すぎると、得られる成形品の靭性が低くなり、実用的ではなくなる場合がある。逆に高すぎても、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が低下するため、射出成形では厚肉部品への適用に限定され、大型部品へ適用できない場合がある。
【0053】
なお、本発明でいう粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、20℃にて、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液の粘度を測定し極限粘度(η)を求め、次のSchnellの粘度式から算出される値を示す。
〔η〕=1.23×10-4Mv0.83
【0054】
<リン系化合物>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、リン系化合物を0.02〜0.3重量部、特に好ましくは0.03〜0.1重量部含有する。リン系化合物としては、ポリカーボネート樹脂組成物の光線透過率と色相を向上させるため、リン系熱安定剤が好ましい。リン系熱安定剤としては、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が好ましい。
【0055】
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、モノブチルジフエニルホスファイト、モノオクチルジフエニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル及びモノエステル等が挙げられる。
【0056】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニレンホスフォナイト等が挙げられる。
【0057】
これらのリン系化合物の中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2.6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等の亜リン酸エステルが好ましく、中でもビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト及びトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等のホスファイトが特に好ましい。なお、リン系化合物は、これらを単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0058】
リン系熱安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.02〜0.3重量部、好ましくは0.03〜0.1重量部、更に好ましくは0.04〜0.05重量部である。リン系熱安定剤の配合量が0.02重量部未満では効果が小さく、0.3重量部を超えてもそれ以上の添加効果は見られず、むしろ加水分解が発生し易くなる傾向がある。
【0059】
<ポリカーボネート樹脂組成物の水分含有量>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂組成物は、好ましくは、前記ポリカーボネート樹脂とリン系化合物とを含み、水分含有量が130ppm以下、特に120ppm以下、さらには100ppm以下とりわけ80ppm以下のものである。
【0060】
射出成形、押出成形のいずれの場合においても、樹脂材料中の水分を130ppm以下とすることにより、水分中の酸素とポリカーボネート樹脂とが反応して成形体が黄変することが防止される。
【0061】
なお、本発明において、水分含有量とは、ポリカーボネート樹脂ペレット又はフレークについてカールフィッシャー水分計によって測定した値である。
【0062】
樹脂材料中の水分含有量を上記の値以下とするには、樹脂材料を真空乾燥、熱風乾燥などによって乾燥することが好ましい。なお、真空乾燥機により10kPa以下、90〜130℃にて、2時間以上、例えば3〜4時間真空乾燥することにより、水分含有量を容易に100ppm以下とすることができる。絶対真空度まで減圧した真空乾燥機を用いて100〜130℃にて2hr以上乾燥することで80ppm以下まで水分量を低減させることができる。
【0063】
なお、通常のポリカーボネート樹脂の射出成形においては、ペレットを熱風循環乾燥機にて120℃にて4時間以上乾燥させるが、ペレット中には130ppmの水分が残存する。ポリカーボネート樹脂ペレットが若干溶融してブロッキングしない程度の135℃で行っても、水分含有量は、殆ど低下しない。このように水分を多く含んだ状態でも、成形不良として知られるシルバーストリークの発生はなく、通常は問題なく成形が行われている。しかしこの水分含有量で射出成形したものは、樹脂温度を290℃程度として成形しても、水分中の酸素とポリカーボネートが反応して黄変が生じる。
【0064】
溶融ポリカーボネート樹脂組成物と成形する部分に酸化開始温度の高い皮膜を設けると、ペレット中に130ppm程度の水分が存在していても黄変が防止される。ただし、成形条件(温度、サイクル等)が過酷になってくると、上記皮膜を設けていても、黄変が生じ易くなる。このような場合には、ペレット中の水分を120ppm以下、特に100ppm以下、とりわけ80ppm以下とすることにより、黄変を防止することができる。
【0065】
なお、ポリカーボネート樹脂のペレットの代わりにフレークを用いる場合も同様である。
【0066】
<添加剤>
ポリカーボネート樹脂組成物には、機能及び用途に応じて、微粒子、蛍光増白剤などの種々の添加剤を添加することができる。
【0067】
≪微粒子≫
本発明の透光性ポリカーボネート樹脂成形体を光拡散板として使用する場合には、光拡散用の微粒子を添加する。
【0068】
微粒子としては、光拡散剤として使用される、各種のものを適宜選択して使用することができる。具体的には、無機化合物又は有機化合物の各種の粒子が使用可能であり、特に制限はないが重量平均粒径が0.7〜30μm、特に1〜20μmとりわけ2〜10μm程度であることが好ましい。ここで、重量平均粒径の測定は、例えば、コールター法(Coulter Multisizer)により行う。
【0069】
重量平均粒径が極端に小さいと、樹脂組成物の光拡散性が劣り、光源が透けて見えたり、視認性に劣る場合がある。逆に極端に平均粒径が大きいと、添加量に対する拡散効果が低いので、輝度が低下する場合がある。
【0070】
上記微粒子としては、具体的には例えば、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ガラス等に代表される無機微粒子;シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等の有機微粒子;が挙げられる。中でも有機微粒子が好ましい。
【0071】
有機微粒子としては、有機高分子を構成する主鎖同士が架橋した、架橋構造を有する有機微粒子が好ましく、中でも本発明のポリカーボネート樹脂成形体の加工過程、例えば射出成形時において実用的に変形せず微粒子状態を維持しているものが好ましい。
【0072】
即ち、有機微粒子としては、ポリカーボネート樹脂の成形温度(例えば約360℃)まで加熱しても、ポリカーボネート樹脂中に実質的に溶融しないものが好ましい。この様な微粒子としては、架橋したアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂の有機微粒子が挙げられ、中でも、部分架橋したメタクリル酸メチルをベースとしたポリマー微粒子ポリ(ブチルアクリレート)のコア/ポリ(メチルメタクリレート)のシェルを有するポリマー、ゴム状ビニルポリマーのコアとシェルを含んだコア/シェルモノホルジーを有するポリマーが好ましい。
【0073】
微粒子は、光拡散性の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)との屈折率差(△n)が0.01以上であり、且つ該ポリカーボネート樹脂(A)と非相溶性であることが好ましい。ここで屈折率とは、温度25℃におけるd線(587.562nm、He)に対する屈折率である。実際の測定は、ポリカーボネート樹脂の屈折率(npc)は、Vブロック法(カルニュー光学社製、形式KPR)により行い、微粒子の屈折率(nld)は、ベッケ法(標準溶液と比較する方法)により行う。
【0074】
光拡散板の後方に配置された光源が透けて見えるなどの不具合を抑制し、また輝度を十分なものとするために、この屈折率差は0.05〜0.5、特に0.07〜0.3程度であることが好ましい。屈折率の差をこの範囲とすることにより、光拡散性も十分なものとなる。
【0075】
なお、本発明に用いるポリカーボネート樹脂として好適なビスフェノールAよりなる芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率は約1.58である。
【0076】
上記微粒子の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.1〜20重量部特に0.5〜5重量部程度であることが好ましい。微粒子の配合量が少なすぎると光拡散性が不足し、光源が透けて見えるという問題が生じ易くなり、逆に多すぎると、光線透過率が低下し十分な輝度を得にくくなる。
【0077】
≪蛍光増白剤≫
本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物は、蛍光増白剤を含有してもよい。蛍光増白剤は、光線の紫外部のエネルギーを吸収し、このエネルギーを可視部に放射する作用を有するものである。例えば、蛍光増白剤としては、従来公知の蛍光染料の他に、有機EL用として従来公知の白色有機発光体や青色有機発光体等が挙げられる。
【0078】
蛍光染料よりなる蛍光増白剤としては、合成樹脂等の色調を白色あるいは青白色に改善するために用いられるものであれば特に制限は無く、例えばベンゾオキサゾール系、スチルベンゼン系、ベンズイミダゾール系、ナフタルイミド系、ローダミン系、クマリン系、オキサジン系等の化合物が挙げられる。
【0079】
これらの蛍光染料の中でも、熱安定性の点から、ベンゾオキサゾール系化合物及びクマリン系化合物から選ばれる、白色系又は青色系の蛍光染料が好ましく、具体的には、耐熱性の観点から、分子量300〜1000程度の、いわゆる高分子量の蛍光染料が好ましく、特にベンゾオキサゾール系化合物やクマリン系化合物が好ましい。
【0080】
ベンゾオキサゾール系化合物としては、具体的には、4−(ベンゾオキサゾール−2−イル)−4’−(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)フラン等を挙げることができ、中でも、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン等のスチルベンベンゾオキサゾール系化合物が好ましい。
【0081】
クマリン系化合物としては、具体的には、3−フェニル−7−アミノクマリン、3−フェニル−7−(イミノ−1’,3’,5’−トリアジン−2’−ジエチルアミノ−4’−クロロ)−クマリン、3−フェニル−7−(イミノ−1’,3’,5’−トリアジン−2’−ジエチルアミノ−4’−メトキシ)−クマリン、3−フェニル−7−ナフトトリアゾールクマリン、4−メチル−7−ヒドロキシクマリン等を挙げることができ、中でも、3−フェニル−7−ナフトトリアゾールクマリン等のフェニルアリルトリアゾリルクマリン系化化合物が好ましい。
【0082】
白色有機発光体や青色有機発光体としては、例えば、ジスチリルビフェニル系青色蛍光発光材、アリールエチニルベンゼン系青色蛍光発光材、キンキピリジン系蛍光発光材、セキシフェニル系青色蛍光発光材、ジメシチルボリルアントラセン系蛍光発光材、キナクリドン系蛍光発光材等が挙げられる。
【0083】
蛍光増白剤の添加量は、ポリカーボネート樹脂と微粒子との合計100重量部に対して、0.0005〜0.1重量部であり、中でも0.001〜0.1重量部であることが好ましく、更には0.001〜0.05重量部、特に0.005〜0.02重量部とすることが好ましい。添加量が少ないと、添加に見合う十分な面発光性や発光面の色調の改良効果が得られない場合があり、逆に多すぎても、発光面の色調の改良効果は小さく、かえって色調(色相)のムラが生じる場合がある。
【0084】
≪その他の添加剤≫
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、更に種々の添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、熱安定剤、流動性改良剤、デカブロモジフェニレンエーテル等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、凝集防止剤等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えばトリアゾール系、アセトフェノン系、サリチル酸エステル系等のものを用いることができる。
【0085】
[ポリカーボネート樹脂組成物ペレット又はフレークの製造方法]
ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート原料樹脂に必要に応じて添加される添加剤の所定量を混合し、好ましくは更に混練し、次いで好ましくは押出成形し、さらに切断等によってペレット又はフレーク状とされる。混合及び混練の装置としては、通常の熱可塑性樹脂に適用されるものが採用され、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリユー押出機、多軸スクリュ押出機等を使用することができる。混練の温度条件は通常、230〜300℃、好ましくは235〜280℃、更に好ましくは240〜260℃である。
【0086】
<成形機>
このポリカーボネート樹脂組成物から成形体を成形するための成形機としては、射出成形機、押出成形機等が例示される。射出成形機は射出圧縮成形機であってもよい。射出成形機としては、具体的には、インライン式射出成形機、プリプラ式射出成形機等を用いることができる。射出成形を行うには、上記樹脂組成物のペレット又はフレークを溶融可塑化して射出成形機から所望の形状の金型内に樹脂材料を射出し、冷却固化して脱型すればよい。
【0087】
押出成形を行うには、例えば押出成形機のダイに金型を取り付けて異形押出成形を行う。
【0088】
ポリカーボネート樹脂組成物をシート状に押出成形し、得られたシートを真空成形や圧空成形して目的形状の成形体を成形することも可能である。
【0089】
<皮膜>
本発明のポリカーボネート樹脂を成形するための射出成形機、押出成形機等の成形装置においては、溶融状態のポリカーボネート樹脂組成物との接触面が、大気中での酸化皮膜生成温度が700℃以上好ましくは850℃以上の皮膜で被覆されていることが必要である。
【0090】
射出成形機の場合、インライン式射出成形機では、少なくともスクリュ表面、バレル内面、スクリュヘッド表面、逆流防止リング表面、シートリング表面、ノズル内面、プリプラ式射出成形機では少なくともスクリュ表面、バレル内面、プランジャー表面、ノズル内面、スクリュ-からプランジャーへの流路のうちいずれかの部品表面がこの皮膜で被覆されていることが好ましい。
【0091】
押出機の場合、スクリュ表面、バレル内面、ダイ内面のいずれかに上記表面処理が施されていることが好ましい。
【0092】
特にスクリュは、ポリカーボネート樹脂組成物との接触面積が多く、剪断発熱も発生しやすいので、上記皮膜で被覆されていることが望ましい。
【0093】
皮膜を構成する材料としては、大気で加熱試験をして700℃でも表面に酸化皮膜が生成しないものが望ましく、その皮膜としては、Pt、Au、TiAlN、TiSiN、AlCrN、CrSiN、TiBN、AlCrSiN、AlZrN、AlZrSiN、CrBNがあげられる。
【0094】
皮膜は、少なくとも1層形成されていればよく、多層であってもよい。例えば、金属と密着性に優れるCrNから成る皮膜を形成し、その上にTiSiN等の皮膜を形成してもよいし、また薄膜を交互に多層化しても良いが、表面は上記薄膜とする。このような皮膜構成にすることにより、下地の金属と密着性がより強固なものとなる。
【0095】
なお、上記薄膜同士をさまざまな組み合わせで多層化しても良い。
【0096】
皮膜を形成する方法としては、真空蒸着法やスパッタ法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、IVD法(イオン・ベーパー・デポジション法)等の物理的気相成長法(PVD法)を挙げることができる。特に好ましいのは、イオンプレーティング法である。
【0097】
皮膜膜厚としては、1〜30μmが好ましい。また、皮膜の表面粗さとしてはRa;1.0μm以下が好ましい。このように表面粗さを小さくすることにより、溶融樹脂との接触面積低減や剪断力を発生させないようにすることができる。
【0098】
皮膜の酸化開始温度の測定方法としては、Ptからなる薄板基材(10×5×0.1mm)上に膜厚約2μmの厚さに皮膜を成膜し、この皮膜が形成されたPt基材を10℃/分の昇温速度で熱重量天秤を用いて加熱し、昇温過程における重量変化を測定する。そして、重量が増加し始めた温度を酸化開始温度とする。
【0099】
なお、SiC,TiC,TiN,WSあるいはこれらの複層よりなる皮膜は、大気での酸化開始温度は成形加工時の温度よりも十分に高い450〜650℃である。しかしながら実際の成形工程では圧力やポリカーボネート樹脂との接触、剪断発熱等によって、実際にはかなり低い温度域でも酸化皮膜が生成することが認められた。
【0100】
例えば大気での酸化皮膜生成温度が550℃のCrNのスクリュを用いて360℃の温度で短期に射出成形を行った後、スクリュを取り外して観察してみると、特に圧縮ゾーンにおいては酸化劣化した表面が干渉色や曇りを呈しており、射出成形機内部では比較的低温で酸化劣化が進行していることが確認された。
【0101】
<下地金属> 射出成形機及び押出機において、皮膜が形成される下地金属としては、通常使用されている炭素鋼、ステンレス鋼、ダイス鋼、工具鋼などが用いられる。特にHRC硬度が50以上のものが表面処理をしても傷が付きづらく、耐久性に優れるため好ましい。バレルに関しては、一般的に知られる遠心鋳造法によって得られるNiアロイ及びCoアロイを使用することが緻密であるために好ましい。
【0102】
<窒素ガスの供給>
射出成形機は、一般に、射出用シリンダと、このシリンダに供給される樹脂材料を溜めるホッパ等を備えている。
【0103】
本発明では、このシリンダに樹脂材料を供給するホッパーよりも下側に窒素ガスを供給して、ホッパー下及びホッパー内の雰囲気中の酸素濃度を低下させることにより、成形体の透明度を高めることができる。
【0104】
なお、通常の射出成形機では、樹脂材料を貯蔵しておくホッパーから射出シリンダへ樹脂材料を供給する樹脂供給路と該ホッパーとの連結部、即ち、スクリュで樹脂材料を可塑化する直前部位をホッパー下と称し、ここから材料をスクリュへ供給する。また、その上部には材料投入あるいは搬送用ホッパー(ここではホッパードライヤー、ローダー、ホース等可塑化部へ搬送する一時的なストック箇所を指す)が設置されている。
【0105】
窒素ガスは空気より軽いため、窒素ガス導入部位はホッパーより下であることが望ましい。酸素濃度はホッパーに取り付けた酸素濃度計で測定して確認することが好ましい。窒素ガスを供給する場合、ホッパーの開口部あるいは繋ぎ目等の空気が流れ込む部位を完全にOリング、シーラント等を用いて塞いでほぼ密閉状態とすることが好ましい。また、連続成形するためにホッパーローダー等のホースを接続した場合は、密閉することが難しいため、ホッパーストック部位に一時的に金属シャッターを設け、ある程度の時間密閉することが好ましい。
【0106】
ホッパー下に窒素を供給することにより、黄変が抑制される理由については、酸素濃度が低くなることによりポリカーボネート樹脂の酸化反応が抑制されるためであると考えられる。
【0107】
本発明においては、このようにホッパー下に窒素ガスを供給する場合、ホッパー内の酸素濃度を6.0体積%以下、特に0.2〜5.0体積%とすることが好ましい。
【0108】
本発明では、このホッパー下等に窒素ガスを供給しなくても十分に透明なポリカーボネート樹脂成形体を製造することができるが、ホッパー内の酸素濃度が上記範囲内になるように窒素ガスを供給することにより、透明度が十分に高いポリカーボネート樹脂成形体を製造することができる。
【0109】
上記の酸素濃度の範囲は前記特許文献1,2と比べて高い範囲であるため、窒素ガスの使用量を大幅に低減できる。従ってランニングコストを抑えることができ、また、クリーンルーム内での作業の安全性を高めることができる。
【0110】
[アニール処理]
得られたポリカーボネート樹脂成形体を熱風循環乾燥機、脱湿乾燥機、真空乾燥機、遠赤外加熱機等を用いて加熱してアニール処理することによって、成形体内部の歪が除去され、複屈折が小さくなり、透明感を高めることができる。特に光学部品に使用する場合、通常よりも輝度が向上し、透過特性や集光特性も向上する。
【0111】
上記熱処理は、110〜140℃特に120〜130℃で0.2〜5時間特に0.5〜4時間程度行うことが好ましいが、これに限定されない。
【0112】
[全光線透過率(%)]
本発明の成形装置及び成形方法によると、300mmの長さにおける全光線透過率が65%以上特に67%以上の高透明性のポリカーボネート樹脂成形体を成形することができる。
【0113】
[透明ポリカーボネート樹脂成形体の用途]
透明なポリカーボネート樹脂成形体の用途としては、液晶装置用バックライトに組み込まれる導光板、拡散板があげられる。また、このポリカーボネート樹脂成形体は、メガネレンズ、サングラスレンズ、カメラレンズ、fθレンズを含む各種レンズ、防犯カメラ用ドームカバー、自動車用クリアランスランプやメーター、パチンコ部品、表示機を含む各種導光体、ヘッドランプ、テールランプ等の光透過性部品に適用可能である。
【実施例】
【0114】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
実施例及び比較例で用いた原料は次の通りである。
ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス製
「ユーピロンH4000F」(粘度平均分子量16000)
リン系化合物(安定剤) 旭電化製「PEP−36」 ビス(2,6−ジ−tert
−ブチル−4−メチルフェニル)−ペンタエリスリトール
−ジ−ホスファイト
【0116】
実施例及び比較例で形成した皮膜の酸化開始温度は以下の通りである。
TiSiN:1100℃ AlZrN:1300℃以上 AlCrSiN:1100℃ CrSiN:1000℃ Au:1300℃以上 TiN;450℃ TiCN;350℃ CrN;550℃
【0117】
[実施例1]
ポリカーボネート樹脂100重量部に対して上記リン系化合物を0.05重量部添加して混合した後、スクリュー径40mmのベント付単軸押出機(田辺プラスチック機械社製「VS−40」)によりシリンダー温度250℃で溶融混練及び押出成形してストランドとし、これをカットして、樹脂材料のペレットを得た。その際ホッパー下より窒素を供給し、ホッパーに酸素濃度計を取り付け、嵌合部材や隙間のある部位をOリングやシーラントで密閉し、ホッパー内の酸素濃度が2%になるように窒素流量を調整した。
【0118】
この押出機のスクリュは、冷間工具鋼KPS6(日本高周波鋼業製)にアークイオンプレーティングにて下地にCrNを4μm成膜し、その表面にTiSiNを2μm成膜した皮膜付スクリューである。バレルは遠心鋳造Niアロイ、ダイはKPS6とし内部は特に表面処理を行わなかった。なお、スクリュ表面粗さはRa;0.6μmであった。
【0119】
このペレットを、120℃にて約5時間真空乾燥機(真空圧力60Pa)により乾燥した。このペレットの水分量を測定したところ68ppmであった。なお、水分計としては、イヤインスツルメント製カールフィッシャー水分測定装置CA−100を用い、気化装置としてはダイヤインスツルメント製自動気化装置VA−100を用いた。サンプルペレット重量は1.0gとした。測定温度は280℃である。
【0120】
乾燥したペレットを、直ちに射出成形機に供給し、下記条件にて射出成形を行い、試験片を成形した。
【0121】
≪成形条件≫
金型温度:120℃
樹脂温度:360℃
射出圧力:80MPa
射出速度:100mm/sec
サイクル:1分
試験片:幅5mm、長さ300mm、厚さ4mm
射出成形機:プリプラ式射出成形機(ソディックプラステック製TR100−EH
(型締力1000KN))
スクリュー:工具鋼NPR1(不二越製)にアークイオンプレーティング法にて下地
にCrNを2μm成膜し、ついでTiSiNを2μm、さらにCrNを
2μm成膜し、ついで最表面にTiSiNを2μm成膜したもの。表面
粗さはRa;0.6μm
プランジャー:プランジャー表面にも同様の成膜を設けたもの
ノズル内部:ノズル内部に、AlZrN単層2μmの成膜を設けたもの
バレル:遠心鋳造Niアロイ
【0122】
なお、ホッパーに酸素濃度計を取り付け、嵌合部材や隙間のある部位をOリングやシーラントで密閉した。ホッパー下から窒素ガスを供給し、ホッパー内の酸素濃度を3体積%とした。
【0123】
得られた試験片は、非常にきれいで無色透明であり、アクリル樹脂と比較しても遜色ない色相を有していた。得られた試験片について、下記条件により全光線透過率(%)、黄変度(YI)を測定した。結果を表1に示す。
【0124】
さらに、得られた試験片を120℃、2時間熱風循環乾燥機にて加熱して、アニール処理を行い、全光線透過率(%)、黄変度(YI)を測定した。結果を表1に示す。
【0125】
≪全光線透過率(%)及び黄変度(YI)の測定条件≫
分光光度計(日本電色工業社製「ASA−1型」)を使用し、成形した試験片の300mmの長さにおける全光線透過率(%)と、YIを測定した。全光線透過率(%)の数値は、白色LEDでピーク強度を有する460nmの透過率を示した。なお、透過率は通常3mm肉厚で測定するが、本発明の効果がより分かるように300mmで測定した。
【0126】
[実施例2]
ペレット成形用の押出成形機のホッパー下への窒素ガス供給を停止したこと以外は、実施例1と同様にして試験片を製造し、アニール処理前後の各試験片についてそれぞれ全光線透過率(%)及び黄変度(YI)を測定した。得られた成形品は、非常にきれいで無色透明であり、アクリル樹脂と比較しても遜色ない色相を有していた。結果を表1に示す。
【0127】
[実施例3]
ペレットの乾燥に熱風循環乾燥機を用い、120℃で5時間乾燥した。これにより、水分量128ppmのペレットが得られた。このペレットを用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験片を製造し、アニール処理前後の各試験片についてそれぞれ全光線透過率(%)及び黄変度(YI)を測定した。得られた成形品は、非常にきれいで無色透明であり、アクリル樹脂と比較しても遜色ない色相を有していた。結果を表1に示す。
【0128】
[実施例4]
ペレット成形用の押出成形機のホッパー下への窒素ガス供給を停止したこと以外は、実施例3と同様にして試験片を製造し、アニール処理前後の各試験片についてそれぞれ全光線透過率(%)及び黄変度(YI)を測定した。結果を表1に示す。得られた成形品は、非常にきれいで無色透明であり、アクリル樹脂と比較しても遜色ない色相を有していた。
【0129】
[実施例5〜8]
射出成形機として次のものを用いたこと以外は、実施例1〜4と同様に試験片を製造し、アニール処理前後の各試験片について全光線透過率(%)及び黄変度(YI)を測定した。結果を表1に示す。得られた成形品は、非常にきれいで無色透明であり、アクリル樹脂と比較しても遜色ない色相を有していた。
なお、実施例5は実施例1に対応し、実施例6は実施例2に対応し、実施例7は実施例3に対応し、実施例8は実施例4に対応する。
【0130】
住友プラスチックマシナリー製SE100DU(型締力1000kN) スクリュー:工具鋼NPR1(不二越製)上にアークイオンプレーティング法にて下 地にCrNを2μm成膜し、ついでAlCrSiNを2μm成膜したも の。表面粗さはRa;0.6μm。 スクリュヘッド表面、逆流防止リング表面、シートリング表面: アークイオンプレーティング法にてCrSiNを3μm成膜。 バレル:遠心鋳造Coアロイ ノズル内部:Auをアークイオンプレーティング法により1μm成膜した。
【0131】
[比較例1]
実施例4において、樹脂材料ペレットの成形用の押出成形機のスクリュ(表面粗さRa:0.6μm)に皮膜を設けなかった。熱風乾燥後の樹脂ペレットの水分含有量は134ppmであった。
【0132】
射出成形機としては、スクリュ表面に厚さ5μmのTiN皮膜を設け、プランジャ表面及びノズル内部には皮膜を設けなかったこと以外は実施例4と同一のものを用いた。
【0133】
これら以外は実施例4と同一条件にて試験片を製造した。
【0134】
アニール処理前の試験片について全光線透過率(%)及び黄変度(YI)を測定した結果を表1に示す。
【0135】
[比較例2]
射出成形機のスクリュ表面の皮膜をTiCNとしたこと以外は比較例1と同様にして試験片の製造と測定を行い、結果を表1に示した。
【0136】
[比較例3]
射出成形機のスクリュ表面の皮膜をCrNとしたこと以外は比較例1と同様にして試験片の製造と測定を行い、結果を表1に示した。
【0137】
[比較例4]
リン系化合物の添加量を0.01重量部としたこと以外は比較例1〜3と同様にして試験片の製造と測定を行い、結果を表1に示した。
【0138】
なお、比較例4が比較例1に対応し、比較例5が比較例2に対応し、比較例6が比較例3に対応する。
【0139】
【表1】

【0140】
表1により明らかなように、押出機のスクリュ及び射出成形機のスクリュに酸化開始温度の高い皮膜を形成することにより、大幅に全光線透過率(%)及び黄変度(YI)が改善される。
【0141】
表1の通り、皮膜の酸化開始温度が高いほど、また、乾燥後の樹脂材料の水分含有量が少ないほど、全光線透過率(%)及び黄変度(YI)に優れた透明ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0142】
また、アニール処理を施すことにより、透明性がさらに向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂組成物を溶融して成形するポリカーボネート樹脂成形体の成形装置において、
溶融ポリカーボネート樹脂組成物と接触する面が、大気中での酸化開始温度が700℃以上の皮膜で被覆されていることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体の成形装置。
【請求項2】
前記成形装置が射出成形機又は押出機であり、
前記溶融ポリカーボネート樹脂との接触面が、スクリュ表面、バレル内面、プランジャー表面、スクリュヘッド表面、逆流防止リング表面、シートリング表面、ノズル内面、ダイ内面、及び溶融ポリカーボネート樹脂の流路の少なくとも一部であることを特徴とする請求項1記載の成形装置。
【請求項3】
前記皮膜は、Pt、Au、TiAlN、TiSiN、AlCrN、CrSiN、TiBN、AlCrSiN、AlZrN、AlZrSiN、及びCrBNよりなる群から選択された少なくとも1種の皮膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の成形装置。
【請求項4】
前記皮膜の大気中での酸化開始温度が850℃以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の成形装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成形装置を用いてポリカーボネート樹脂成形体を成形することを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体の成形方法。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂とリン系化合物とを含んでおり、
該樹脂材料中のリン系化合物の割合が、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.02〜0.3重量部であり、
該ポリカーボネート樹脂組成物の水分含有量が130ppm以下であること特徴とする請求項5に記載のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法。
【請求項7】
前記リン系化合物がリン系熱安定剤であることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法。
【請求項8】
前記樹脂材料の水分含有量が100ppm以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の透光性ポリカーボネート樹脂成形体の成形方法。
【請求項9】
前記ポリカーボネート樹脂組成物が真空乾燥されたものであることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法。
【請求項10】
前記ポリカーボネート樹脂組成物をホッパー中に貯蔵しておき、該ホッパーから樹脂供給路を介して射出成形機へ該樹脂を供給して成形を行うようにした透光性ポリカーボネート樹脂成形体の成形方法であって、
該ホッパーと該樹脂供給路との連結部分であるホッパー下に窒素ガスを供給し、ホッパー内の酸素濃度を0.2〜5.0体積%とすることを特徴とする請求項5ないし9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法。
【請求項11】
射出成形された成形体を加熱してアニール処理することを特徴とする請求項5ないし10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂成形体の成形方法。
【請求項12】
請求項5ないし11のいずれか1項に記載の方法によって成形されたポリカーボネート樹脂成形体。

【公開番号】特開2009−184266(P2009−184266A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27751(P2008−27751)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】