説明

不揮発性半導体記憶装置及びその製造方法とデータ書き換え方法

【課題】データ保持時間を、マスクROMと同様の無限大とすることができる、長期にわたりデータを保持できる信頼性の高いEEPROMを提供する。
【解決手段】不揮発性半導体記憶装置は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子100に正のデータを記憶し、熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子200に負のデータを記憶することでデータ保持時間を無限大にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、不揮発性半導体記憶装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不揮発性半導体記憶装置は、電荷を電荷蓄積膜に蓄積することでデータを記憶する。中でも電気的にデータの書き込みや消去ができるものをEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory:電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ)と呼ぶ。EEPROMには、大別して電荷蓄積膜の種類が異なる2つの構造がある。
【0003】
1つは、電荷蓄積膜となる浮遊ゲートと呼ばれる導電体を酸化膜などで囲って電気的に絶縁するようにしてゲート絶縁膜を構成するものであり、その浮遊ゲートに電荷を蓄積するFG(Floating Gate:フローティングゲート)型である。
【0004】
もう1つは、複数の絶縁膜を積層させてゲート絶縁膜を構成するものであり、複数の絶縁膜のうち1つを電荷蓄積膜とし、この電荷蓄積膜内の電荷トラップに蓄積する電荷量を制御することによって情報の記憶を行うMNOS(Metal−Nitride−Oxide−Silicon)型やMONOS(Metal−Oxide−Nitride−Oxide−Silicon)型である。
【0005】
FG型の場合、電荷蓄積膜が導電体であることから、蓄積した電荷を抜けにくくするために電荷蓄積膜を覆う絶縁膜を厚くする必要がある。具体的には、半導体基板と電荷蓄積膜との間の膜(トンネル絶縁膜という)の膜厚を厚くする必要がある。このため必然的に書き込み電圧や消去電圧が高くなってしまう。
【0006】
一方、MNOS型やMONOS型のEEPROMは、電荷蓄積膜が絶縁膜であるから電荷トラップに蓄積した電荷が抜けにくいため、トンネル絶縁膜などの膜厚を薄くできる。このため、FG型に比べて低い電圧でデータの書き込みや消去ができるという特徴がある。
【0007】
特に、MONOS型の場合は、MNOS型に比べて電荷蓄積膜を含む複数の絶縁膜を薄くすることができるため、さらに低電圧化することができる。このため、昨今、低消費電力化に貢献できるメモリ素子として注目を集めている。
【0008】
電荷蓄積膜に電子を蓄積した状態、すなわち書き込みデータを記憶している状態のしきい値電圧をVtw、電荷蓄積膜に正孔を蓄積した状態、すなわち消去データを記憶している状態のしきい値電圧をVte、電荷蓄積膜に電子も正孔も蓄積していない状態のしきい値電圧、つまり、安定状態のしきい値電圧である熱平衡状態しきい値電圧をV0と呼ぶ。
【0009】
ここで、メモリ素子に記憶されているデータを読み出す時にメモリ素子のゲート電極に印加する電圧Vcgの値を、Vte<Vcg<Vtwの関係が成り立つように設定すると、メモリ素子のドレイン電流が、書き込みデータを記憶している状態では流れず、消去データを記憶している状態では流れるため、書き込みデータと消去データとの判別が可能となる。
【0010】
しかし、VtwやVteの値は常に一定ではない。メモリ素子は、時間の経過と供にエネルギーの安定状態である熱平衡状態に徐々に近づいていく。すなわち、電荷蓄積膜に蓄
積した電荷を時間の経過とともに放出するため、VtwやVteの値はV0に近づいていき、最終的には、Vtw=Vte=V0となる。
【0011】
VtwやVteの値がV0に近づいていく過程において、Vte<Vcg<Vtwの関係が成り立たなくなると、データを正しく読み出すことができなくなる。
つまり、EEPROMはデータの書き換えが可能であるというメリットと共に、記憶したデータの保持時間が有限であるというデメリットも有している。
【0012】
上記の電荷を電荷蓄積膜に蓄積することでデータを記憶するEEPROMとは別の不揮発性半導体記憶装置もあり、代表的なものにマスクROMがある。マスクROMは、記憶データをLSIの製造過程において書き込んだROMである。マスクROMには、大別して書き込み方法の異なる2つの種類がある。
【0013】
1つは、MOSトランジスタのチャネル領域の不純物濃度を調節することで、上記EEPROMと同様に大小2つのしきい値電圧を作り出し、ドレイン電流の有無により記憶データを判別するものである。
【0014】
もう1つは、MOSトランジスタのドレイン領域に設けるコンタクトホール(以後、ドレインコンタクトと称する)の有無によるもので、こちらもドレイン電流の有無により記憶データを判別する。
【0015】
MOSトランジスタのしきい値電圧も、ドレインコンタクトホールの有無も、時間の経過と共に変化することはないため、記憶したデータが消滅することはない。
しかし、記憶するデータはLSI製造工程において確定するため、一旦記憶したデータを書き換えることはできない。
つまり、マスクROMは記憶したデータが消滅しないというメリットと共に、データの書き換えができないというデメリットも有している。
【0016】
このように、EEPROMとマスクROMとにはそれぞれメリットとデメリットとがあるが、マスクROMはデータの書き換えができないというデメリットから実用範囲が限られ、一般的にはEEPROMが、そのデータ保持時間を少しでも延長する対処をした上で実用されている。
このようなEEPROMのデータ保持時間を延長する方法としては、いくつかの提案を見るところである(例えば、特許文献1参照。)。
【0017】
図14は、特許文献1に示した従来技術に記載の不揮発性半導体記憶装置の読み出し回路の構成を説明するために、その主旨を変えずに記載した回路図である。
【0018】
図14において、911と912とはサンプルセル、920は平均電圧出力回路、930はセレクト信号、931はスイッチ、932はメモリセル、933は読み出し線である。
Vwはサンプルセル911のしきい値電圧、Veはサンプルセル912のしきい値電圧、Voは平均電圧出力回路920の出力電圧、940はメモリセル932のゲート電極である。
【0019】
図14において、データはメモリセル932に記憶する。サンプルセル911とサンプルセル912とはメモリセル932と同一構造の記憶素子である。
サンプルセル911には正のデータが記憶され、Vwは書き込み状態のしきい値電圧となる。サンプルセル912には負のデータが記憶され、Veは消去状態のしきい値電圧となる。
しきい値電圧Vwとしきい値電圧Veとが平均電圧出力回路920に入力され、平均電圧出力回路920はしきい値電圧Vwとしきい値電圧Veとの中間の電位である出力電圧Voを出力する。
【0020】
記憶したデータの読み出しは、セレクト信号930によりスイッチ931を切り換え、出力電圧Voをメモリセル932のゲート電極940に印加することで行う。
このときにメモリセル932に正のデータが記憶されていればメモリセル932はオフ状態になり、メモリセル932に負のデータが記憶されていればメモリセル932はオン状態になる。読み出し線933に流れる電流を検出することでこれらメモリセル932の2つの状態を判別し、記憶したデータの読み出しが行われる。
【0021】
特許文献1に示された従来技術は、メモリセル932のしきい値電圧の経年変化に対して、書き込み状態の読み出しマージンと消去状態の読み出しマージンとを常に均等に保つことでデータ保持時間を延長できるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平5−174587号公報(3頁−4頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
特許文献1に示した従来技術は、確かにデータ保持時間を延長できる技術であるものの、データ保持時間が有限である点は従来と何ら変わらず、記憶したデータがいずれは消滅してしまうという問題がある。
【0024】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、EEPROMのデータ保持時間を大幅に伸ばすことを目的とする。具体的には、そのデータ保持時間を、マスクROMと同様の無限大とすることができるので、長期にわたりデータを保持できる信頼性の高いEEPROMを提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を採用する。
【0026】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置において、
所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子と、負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子とを混載したことを特徴とする。
【0027】
このような構成にすることで、EEPROMのデータ保持時間を無限大にすることができる。
【0028】
不揮発性半導体記憶素子は、
トンネル絶縁膜、電荷蓄積層、トップ絶縁膜の順に積層した構造のメモリ絶縁膜を有し、
電荷蓄積層に電子又は正孔を注入することでデータを記憶するようにしてもよい。
【0029】
このような構成にすれば、MONOS型のEEPROMにすることができるので、比較的低電圧でデータの書き込みや消去が行え、低消費電力化できる。
【0030】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような製造方法を採用する。
【0031】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置の製造方法において、
所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子を形成する工程と、負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子を形成する工程と、
熱処理を行って、データの内容に基づく正のデータを第1の不揮発性半導体記憶素子に、負のデータを第2の不揮発性半導体記憶素子に、同時に書き込む工程と、を有することを特徴とする。
【0032】
このような製造方法にすることで、熱処理の1工程だけでEEPROMへのデータの書き込みをすることができる。
【0033】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置の製造方法において、
データの内容に基づいて、
正のデータを所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子に書き込む工程と、
負のデータを所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子に書き込む工程と、を有することを特徴とする。
【0034】
このような製造方法にすることで、従来技術においてEEPROMへデータを書き込むのと同様の方法で、データ保持時間が無限大の本発明のEEPROMへのデータの書き込みをすることができる。
【0035】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置のデータ書き換え方法において、
書き込みたいデータが正のデータのときは、そのデータを、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子に書き込み、
第1の不揮発性半導体記憶素子に記憶している正のデータを書き換えるとき、
第1の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き込み後のしきい値が、所定のセンスレベルよりも負側になるような書き込み電圧を印加することを特徴とする。
【0036】
このような書き換え方法にすることで、書き換え前の正のデータのデータ保持時間は無限大となり、なおかつその正のデータを負のデータに書き換えることもできる。
【0037】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置のデータ書き換え方法において、
書き込みたいデータが負のデータのときは、そのデータを、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子に書き込み、
第2の不揮発性半導体記憶素子に記憶している負のデータを書き換えるとき、
第2の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き込み後のしきい値が、所定のセンスレベルよりも正側になるような書き込み電圧を印加することを特徴とする。
【0038】
このような書き換え方法にすることで、書き換え前の負のデータのデータ保持時間は無限大となり、なおかつその負のデータを正のデータに書き換えることもできる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の不揮発性半導体記憶装置は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子と、負方向である第2の不揮発性半導
体記憶素子とを混載したことで、EEPROMの特徴であるデータの書き換え機能を有しながら、最初に記憶したデータのデータ保持時間を無限大にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】不揮発性半導体記憶素子のしきい値やセンスレベルを説明するための説明図である。
【図2】本発明による不揮発性半導体記憶装置の概念を説明するための説明図である。
【図3】本発明による不揮発性半導体記憶装置の概念を説明するための説明図である。
【図4】本発明による不揮発性半導体記憶装置のメモリ領域の中の配置を説明するための模式図である。
【図5】本発明による不揮発性半導体記憶装置のデータの書き込み及び書き換えの流れを説明するためのフロー図である。
【図6】本発明による不揮発性半導体記憶装置の構成を説明するための断面図である。
【図7】本発明による不揮発性半導体記憶装置のチャネル領域の製造工程を説明するための断面図である。
【図8】本発明による不揮発性半導体記憶装置のチャネル領域の製造工程を説明するための断面図である。
【図9】本発明による不揮発性半導体記憶装置の積層膜の製造工程を説明するための断面図である。
【図10】本発明による不揮発性半導体記憶装置の積層膜の成形を説明するための断面図である。
【図11】本発明による不揮発性半導体記憶装置のゲートの成形を説明するための断面図である。
【図12】本発明による不揮発性半導体記憶装置のデータ書き込み時のトランジスタ特性を示す説明図である。
【図13】本発明による不揮発性半導体記憶装置のデータ書き換え時のトランジスタ特性を示す説明図である。
【図14】特許文献1に示す従来技術の不揮発性半導体記憶装置の回路構成を説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の不揮発性半導体記憶装置は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子と、負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子とを用い、これを混載している。
まず、そのような不揮発性半導体記憶素子のしきい値について図1を用いて説明する。次に図2及び図3を用いて不揮発性半導体記憶装置の概念を説明する。不揮発性半導体記憶素子にデータを書き込む手法は、電気的に書き込む場合と熱を印加する熱処理にて書き込む場合との2通りがある。前者は図2を、後者は図3を用いてそれぞれ説明する。そして、図4を用いて不揮発性半導体記憶素子の配置について説明する。次に、図5を用いて書き込み及び書き換えの手順を説明する。その後に、図6から図13を用いて実施例を説明する。
【0042】
[不揮発性半導体記憶素子のしきい値及びセンスレベルの説明:図1]
まず、不揮発性半導体記憶素子のセンスレベルについて説明する。
不揮発性半導体記憶素子は、すでに説明したように、その電荷蓄積膜に電子や正孔といった電荷を蓄積することでデータが書き込まれたり消去されたりするが、その電荷の蓄積状態に応じてしきい値電圧が変化する。
【0043】
そのような不揮発性半導体記憶素子に対して一定の電圧レベルを規定して、それに対してしきい値電圧が正側か負側かのどちらにあるかでデータの有無を知るが、そのときの電圧レベルをセンスレベルと呼ぶ。
【0044】
センスレベルについて、一般的に広く知られている不揮発性半導体記憶素子の読み出し回路の例を図1を用いて説明する。
図1に示す読み出し回路は、所定の一定電流を流す(定電流動作する)負荷用トランジスタFTと不揮発性半導体記憶素子MTとを、正方向の高い電位を有する電源VDDと負方向に高い電位を供給する電源VSSとの2つの電源間に直列に接続している。つまり、互いのドレイン電極同士を接続している。そして、このドレイン電極の接続点から出力端子OUTを設け、そこに図示しないが判定回路が接続されている。
【0045】
なお、本来は負荷用トランジスタFTと不揮発性半導体記憶素子MTとの間にこの不揮発性半導体記憶素子MTを選択するアドレストランジスタがあるが、センスレベルの説明には関係がないから省略している。
【0046】
不揮発性半導体記憶素子MTにデータが書き込まれている(又は消去されている)とすると、負荷用トランジスタFTと不揮発性半導体記憶素子MTとで2つの電源間に流れる電流のバランスが変わる。そうすると、出力端子OUTから出力される電圧値も変わり、図示しない判定回路にて正のデータ又は負のデータとして認識されるのである。
【0047】
つまり、不揮発性半導体記憶素子MTにデータが書き込まれてそのしきい値が変化し、所定の読み出し状態にしたときに、不揮発性半導体記憶素子MTが流すことができる電流量が少なければ、出力端子OUTから出力される読み出しデータは、負荷用トランジスタFTのソース電極に接続している電源VDDの電位方向になるから、判定回路により正側の論理データとして認識される。
【0048】
また、不揮発性半導体記憶素子MTが流すことができる電流量が多ければ、出力端子OUTから出力される読み出しデータは、不揮発性半導体記憶素子MTのソース電極に接続している電源VSSの電位方向になるから、判定回路により負側の論理データとして認識されるのである。
【0049】
すなわち、センスレベルは、負荷用トランジスタFTと不揮発性半導体記憶素子MTとの電流の引き合いによって生じる出力端子OUTの電圧値が、電源VDDの電位方向から電源VSSの電位方向又は電源VSSの電位方向から電源VDDの電位方向へ切り替わるときの不揮発性半導体記憶素子MTのしきい値の電圧レベルのことである。
【0050】
次にしきい値について説明する。
製造後にまだデータを記憶させていない不揮発性半導体記憶素子は、そのしきい値電圧が安定しない不定状態となっている。そのときのしきい値電圧をVT0とする。
不揮発性半導体記憶素子にとって、電荷蓄積膜に電荷が存在していない熱平衡状態は、最も安定した状態である。このときのしきい値電圧が熱平衡状態しきい値電圧である。
【0051】
不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧は、データが書き込まれていない状態であっても、書き込まれた状態であっても、常温(例えば、25℃)でもその熱エネルギーを得て時間の経過と共に電荷蓄積膜から電子や正孔が抜け出してしまい、やがて熱平衡状態しきい値電圧に収束する。
【0052】
次に所定の熱平衡状態しきい値電圧を作り出すことについて説明する。
本発明の不揮発性半導体記憶素子は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向となる第1の不揮発性半導体記憶素子と、負方向となる第2の不揮発性半導体記憶素子とを用いている。このような不揮発性半導体記憶素子は、半導体装置の製造段階で作り分けることができる。
【0053】
例えば、不揮発性半導体記憶素子を構成するトランジスタ素子のチャネル領域の不純物濃度を変更することで可能である。
また、ゲート絶縁膜の膜厚を変更してもよい。このようにすると、この不揮発性半導体記憶素子の導通のしやすさが変わるためである。
また、不揮発性半導体記憶素子を構成するトランジスタ素子のソース領域とドレイン領域との間の距離(チャネル長)を選択するようにしてもよい。この距離を小さくするとショートチャネル効果により、この不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧は負方向になる。これを用いてしきい値電圧を決めることができる。
【0054】
[本発明の不揮発性半導体記憶装置の概念の説明1:図2]
図2は不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧の値の時間の経過に対する変化を示すものであって、このしきい値電圧と熱平衡状態しきい値電圧とセンスレベルとの関係を説明する図である。横軸は時間の経過を対数軸で表し、縦軸はしきい値電圧の値を表す。
【0055】
図2において、VT1及びVT2は不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧、V01及びV02は熱平衡状態しきい値電圧、SLはセンスレベルである。T1、T2、T3、T4は時間である。
【0056】
不揮発性半導体記憶素子にデータを書き込む前、つまり製造工程を経て完成した後に一度もデータを書き込んでいないときのしきい値電圧VT0は、ある値を有しているが、図2には記載を省略している。
【0057】
図2において、図2(a)は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子について説明する図であり、図2(b)は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子について説明する図である。
【0058】
図2(a)を用いて第1の不揮発性半導体記憶素子について説明する。
まず、製造工程を経て完成した第1の不揮発性半導体記憶素子に電気的にデータを書き込む。例えば、不揮発性半導体記憶装置のボンディングパッドなどにプローブ針を当てるなどして、所定の書き込み電圧を印加して行う。このような手法は広く知られるものである。このときの時間をT1とする。
【0059】
そして、このようなデータ書き込み作業を行うことで第1の不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧VT0は、VT1に変化する。しきい値電圧VT1がVT0に対してどの程度正側に変化したかは、書き込みの強さによって変わる。例えば、書き込み電圧を高くしたり書き込み時間を長くすることでしきい値電圧VT1は、より正側に変化する。
しきい値電圧VT1がセンスレベルSLに対して正方向であれば、記憶したデータは正のデータと認識される。
【0060】
正のデータを記憶した直後のしきい値電圧VT1は、センスレベルSLに対して正方向となるが、その後の時間の経過により、記憶した直後の値に対して負方向に変化する。すでに説明したように、不揮発性半導体記憶素子の電荷蓄積膜から徐々に電荷が抜け出すからである。
【0061】
仮に、しきい値電圧VT1が変化し続け、センスレベルSLに対して負方向になれば、記憶した正のデータは消滅してしまうことになるが、そうはならない。
なぜなら、しきい値電圧VT1はエネルギーの安定状態である熱平衡状態になることで変化が止まるためである。図2(a)に示すように、時間T2のときにVT1=V01となり、それ以降時間が経過してもセンスレベルSLに対して負方向となることはない。
【0062】
つまり、第1の不揮発性半導体記憶素子は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向であるから、時間T2以降は記憶した正のデータのデータ保持時間は無限大となるのである。
【0063】
図2(b)に示す第2の不揮発性半導体記憶素子についても同様である。
まずは第2の不揮発性半導体記憶素子に電気的にデータを書き込む。そうすると、第2の不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧VT0は、VT2に変化する(このときが時間T3である。)。
【0064】
第2の不揮発性半導体記憶素子は、そのしきい値電圧VT2がセンスレベルSLに対して負方向であるから、時間T3に記憶したデータは負のデータと認識され、その後の時間の経過により、記憶した直後の値に対して正方向に変化する。
その変化は、時間T4のときにVT2=V02となり、それ以降時間が経過してもセンスレベルSLに対して正方向となることはない。
【0065】
つまり、第2の不揮発性半導体記憶素子は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向であるから、時間T4以降は記憶した負のデータのデータ保持時間は無限大となるのである。
【0066】
図2(a)に示す例では、データを書き込んだ後からしきい値電圧が負方向に変化するさま(傾き)を見やすくするために時間T1でのしきい値電圧は、より正方向に高い値を有しているように示している。図2(b)に示す例も同様であり、しきい値電圧の変化を見やすくするために、より負方向に高い値を有しているように記載している。
本発明にあっては、データを書き込んだ後のしきい値は、正方向や負方向にいくら高くても意味はない。データを書き込んだ後のしきい値電圧VT1は、センスレベルSLよりも少しでも正方向に、しきい値電圧VT2は、センスレベルSLよりも少しでも負方向に高ければよいのである。
【0067】
[本発明の不揮発性半導体記憶装置の概念の説明2:図3]
次に、図3を用いて不揮発性半導体記憶素子に熱処理の手法を用いてデータを書き込むことについて説明する。
図3は、図2と同様に不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧の値の時間の経過に対する変化を示すものであって、縦軸及び横軸も同じである。図3(a)は図2(a)に相当し、第1の不揮発性半導体記憶素子について説明する図であり、図3(b)は、同じく図2(b)に相当し、第2の不揮発性半導体記憶素子について説明する図である。
【0068】
図3にあっては図2と同様に、不揮発性半導体記憶素子にデータを書き込む前のしきい値電圧VT0は、不定状態とも言える値を示しているので、図示は省略しているが、説明を分かりやすくするためにここでは仮に、VT0はセンスレベルSL近傍にあるとして説明する。なお、図2と同一の要素については同一の記号を付与している。
【0069】
まず、製造工程を経て完成した第1の不揮発性半導体記憶素子に熱処理工程により熱処理を施す。
【0070】
不揮発性半導体記憶素子にあっては、熱平衡状態の方が最も安定状態である(このときのしきい値電圧が熱平衡状態しきい値電圧である。)。すでに説明したように、不揮発性半導体記憶素子にデータを書き込むと常温であってもその熱エネルギーを得て時間の経過と共に電荷蓄積膜から電子や正孔が抜け出してしまうが、熱処理を施すことでより高い熱エネルギーを与えることができるから、常温よりもさらに短時間で熱平衡状態しきい値電圧に収束させることができる。
【0071】
例えば、データを書き込んだ後、常温で放置して10年程度掛かって電荷が抜け、熱平衡状態しきい値電圧までしきい値が変化するとしても、数百℃の加熱をすればデータ書き込み後のしきい値電圧は数時間から数十時間で熱平衡状態しきい値電圧まで変化する。
特に限定しないが、データの書き込みのために行う熱処理は、300℃の加熱を20時間程度行うものとする。
【0072】
このような熱処理によるデータ書き込み作業を行うことで第1の不揮発性半導体記憶素子のデータを書き込む前のしきい値電圧VT0はVT1に、第2の不揮発性半導体記憶素子のデータを書き込む前のしきい値電圧VT0はVT2にそれぞれ変化する。
【0073】
熱処理を行った時間を時間T5とすると、この時点では、図3(a)に示すように、第1の不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧VT1は、センスレベルSLと熱平衡状態しきい値電圧V01との間になっている。同様に、第2の不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧VT2は、センスレベルSLと熱平衡状態しきい値電圧V02との間になっている。
【0074】
図3(a)に示す例では、正のデータを記憶した直後のしきい値電圧VT1は、センスレベルSLに対してわずかに正方向となるが、その後の時間の経過により、記憶した直後の値に対してさらに正方向に変化し、やがて時間T6のときにVT1=V01となり、それ以降時間が経過してもセンスレベルSLに対して負方向となることはない。
【0075】
同様に、図3(b)に示す例では、負のデータを記憶した直後のしきい値電圧VT2は、センスレベルSLに対してわずかに負方向となるが、その後の時間の経過により、記憶した直後の値に対してさらに負方向に変化し、やがて時間T6のときにVT2=V02となり、それ以降時間が経過してもセンスレベルSLに対して負方向となることはない。
【0076】
すでに説明したように、時間の経過と共に不揮発性半導体記憶素子の電荷蓄積膜から徐々に電荷が抜け出し、安定状態である熱平衡状態しきい値電圧に変化するが、図3に示す例では、熱処理によるデータ書き込み後に電荷蓄積膜に残った電荷もその後の時間の経過により抜け出し、電荷蓄積膜の電荷が無くなることで安定状態になるためである。
【0077】
データの書き込みの強さによってしきい値は変化するが、この場合の強さとは、熱処理の温度や時間である。
第1の不揮発性半導体記憶素子は、その熱平衡状態しきい値電圧V01がセンスレベルSLに対して正方向であるよう製造されており、第2の不揮発性半導体記憶素子は、その熱平衡状態しきい値電圧V02がセンスレベルSLに対して負方向であるよう製造されているから、書き込みの強さを選択することで、これら2つの不揮発性半導体記憶素子に同時に熱処理を行うことで、データ書き込み後(時間T5)のしきい値電圧VT1、VT2を、エネルギー的安定状態であるそれぞれの熱平衡状態しきい値電圧V01、V02と同じ値にすることもできる。
【0078】
しかしながら、データ書き込み後のしきい値電圧の値を熱平衡状態しきい値電圧の値と同じ値にするようにしてもあまり意味がない。すでに説明したように、大切なことは、セ
ンスレベルSLよりも少しでも正方向や負方向になるように処理をするということである。
【0079】
ここで、本発明の不揮発性半導体記憶装置の特徴をまとめると以下のようになる。
本発明の不揮発性半導体記憶装置は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子と、負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子とを用い、これを混載している。
記憶するデータの内容に基づいて、正のデータを第1の不揮発性半導体記憶素子に書き込み、負のデータを第2の不揮発性半導体記憶素子に書き込むことで、時間の経過によりしきい値が変化しても、そのしきい値は最終的には熱平衡状態のしきい値となるから、書き込んだデータが消滅することはない。よって、データ保持時間を無限大にすることができるのである。
【0080】
不揮発性半導体記憶素子をN型の半導体トランジスタ素子とした場合、不揮発性半導体記憶素子の電荷蓄積膜に電子を蓄積した状態が正のデータを書き込んだ状態、正孔を蓄積した状態が負のデータを書き込んだ状態となる。
【0081】
時間の経過により電荷蓄積膜から電子が抜けるスピードと正孔が抜けるスピード、つまり正のデータを書き込んだ状態のしきい値電圧が変化するスピードと負のデータを書き込んだ状態のしきい値電圧が変化するスピードとは異なる。
【0082】
よって、従来の技術では、最もデータ保持時間を長くするためにセンスレベルの値を厳密に選定しなければならず、そのためには、実際に不揮発性半導体記憶素子を作成し、その都度個別に検証を行う必要があった。素子の製造ばらつきに対応するためである。
【0083】
それに対して本発明の不揮発性半導体記憶装置は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向又は負方向になるようにするだけでデータ保持時間は無限大となるから、しきい値電圧の変化するスピードを鑑みて厳密にセンスレベルを設定する必要は無い。もちろん、製造し終わった半導体トランジスタ素子ごとにセンスレベルを決める検証作業は必要なく、不揮発性半導体記憶装置の製造に関る工程を短縮することができ、それにより製造時間も短縮できるからコストダウンも達成できる。
【0084】
[本発明の不揮発性半導体記憶素子の配置の説明:図4]
次に、書き込みたいデータに対してどのように第1の不揮発性半導体記憶素子と第2の不揮発性半導体記憶素子とをメモリ領域の中に配置するのかを、図4を用いて説明する。
【0085】
図4は、メモリ領域の中の配置を模式的に示した図である。図4において、10はメモリ領域、11は書き込みたいデータ列である。
【0086】
図4(a)に示すように、メモリ領域10は、例えばアドレスA1〜A8までの8個の不揮発性半導体記憶素子で構成している。1つの不揮発性半導体記憶素子で1ビットのデータを記憶するものとする。データの読み出しはA1からA8の順に行う。
【0087】
図4(b)には、書き込みたいデータ列11を示している。例えば、正のデータとなる場合を「1」、負のデータとなる場合を「0」とすると、その内容は、「10111010」の8ビット分のデータ構成となっている。
【0088】
図4(c)は、第1の不揮発性半導体記憶素子と第2の不揮発性半導体記憶素子との、メモリ領域10の中での配置を示している。M1は第1の不揮発性半導体記憶素子、M2は第2の不揮発性半導体記憶素子である。
【0089】
すでに説明したように、データの読み出しはA1からA8の順に行う。このようにすれば、任意のアドレスを順番に選択するような複雑な動作をするアドレス選択回路が不要となる。
【0090】
ところで、知られているアドレス選択回路では、データ書き込みの際に、任意のアドレスを選択してデータを書き込むことができるものがある。要するに、図4の例では、アドレスA1からA8の中で自由な順番でアドレッシングができる。
【0091】
そのようなアドレス選択回路では、当然のことながら、どのような順番でメモリ領域内の不揮発性半導体記憶素子にデータを書き込んでいったかというアドレス情報を永続的に保持しなければならない。これが失われると正しいアドレッシングができなくなりデータを読み出すことができなくなるためである。
【0092】
しかし、そのようなアドレス選択回路に保持されるアドレス情報も、メモリ領域内のデータを記憶する不揮発性半導体記憶素子と同じ期間はその情報を保持していなければならない。このため本発明の不揮発性半導体記憶装置のようにデータ保持時間が無限大である不揮発性半導体記憶素子用のアドレス選択回路には任意のアドレスを選択してデータを書き込むことができるものを用いることができない。
【0093】
したがって、本発明の不揮発性半導体記憶は、データの読み出しをA1からA8の順に行うように、データの書き込み時にデータ列に合わせて不揮発性半導体記憶素子を配置するのである。
【0094】
つまり、図4(b)に示すデータ列「10111010」に従って、図4(c)に示すように、データ「1」を書き込みたいアドレスA1、A3、A4、A5、A7には第1の不揮発性半導体記憶素子M1を、データ「0」を書き込みたいアドレスA2、A6、A8には第2の不揮発性半導体記憶素子M2を、メモリ領域10に配置する。
【0095】
第1の不揮発性半導体記憶素子と第2の不揮発性半導体記憶素子とは、熱平衡状態しきい値電圧を変えているからその構造が異なる。そのため、本発明の不揮発性半導体記憶装置では、マスクROMと同様に、製造過程において書き込みたいデータ列に対応して第1の不揮発性半導体記憶素子と第2の不揮発性半導体記憶素子とを配置するのである。
【0096】
具体的にどのように熱平衡状態しきい値電圧を変えるかは、不揮発性半導体記憶素子を構成する半導体トランジスタ素子のチャネル領域を形成するためのマスクパターンにより、この2種類の不揮発性半導体記憶素子を作り分ける。これについては、製造方法を後述するので参照されたい。
【0097】
[データの書き込み及び書き換えの流れの説明:図5]
次に、不揮発性半導体記憶装置へのデータの書き込みおよび書き換えの流れについて、図5を用いて説明する。
【0098】
図5に示すように、不揮発性半導体記憶装置においては、まず始めに、メモリ領域の各アドレスに書き込みたいデータが正のデータか負のデータかにより、選択する不揮発性半導体記憶素子が異なる(ステップ(1))。
【0099】
記憶するデータが正のデータの場合は、第1の不揮発性半導体記憶素子を選択し(ステップ(2−a))、記憶するデータが負のデータの場合は、第2の不揮発性半導体記憶素子を選択する(ステップ(2−b))。
【0100】
次に、データの書き込みを行う(ステップ(3−a)、ステップ(3−b))。
データの書き込み方法は、すでに説明したように、従来技術である電圧印加による書き込み方法の他にも、本発明の不揮発性半導体記憶装置では、高温に加熱することにより、正のデータの書き込みと負のデータの書き込みとを一括で行うことも可能である。
ここで書き込んだデータのデータ保持時間はマスクROM同様に無限大であり、データが消滅することはない。
【0101】
次に、データの書き換えが必要になった場合(ステップ(4−a)、ステップ(4−b))、電圧印加により従来技術のEEPROM同様にデータの書き換えが可能である(ステップ(5−a)、ステップ(5−b))。
【0102】
このデータの書き換えが必要になった場合については、一度書き込んだデータを止むを得ず書き換えなければならないような不測の事態への対応である。これについては、図13を用いて後述する。
【0103】
以上が本発明の不揮発性半導体記憶装置の概念及び特徴、そして書き込み及び書き換えの手順である。以降は不揮発性半導体記憶装置の構造およびその製造方法と書き換え方法とについて詳述する。なお、説明にあっては、N型のMONOS型のEEPROMを用いる場合で説明する。
【実施例1】
【0104】
[本発明の実施形態の構造の説明:図6]
不揮発性半導体記憶装置の構造を図6を用いて詳述する。
図6は、不揮発性半導体記憶装置の構成を説明するために模式的に示す断面図である。
【0105】
図6において、100は第1の不揮発性半導体記憶素子であり、ゲート電極110、メモリゲート絶縁膜120、チャネル領域130、ソース領域160、共通領域170、半導体基板400により構成するMONOS型の半導体トランジスタ素子である。
101は第1の不揮発性半導体記憶素子100を選択するためのアドレストランジスタであり、ゲート電極140、ゲート絶縁膜150、共通領域170、ドレイン領域300、半導体基板400により構成するMOSトランジスタ素子である。
【0106】
200は第2の不揮発性半導体記憶素子であり、ゲート電極210、メモリゲート絶縁膜220、チャネル領域230、ソース領域260、共通領域270、半導体基板400により構成するMONOS型の半導体トランジスタ素子である。
201は第2の不揮発性半導体記憶素子200を選択するためのアドレストランジスタであり、ゲート電極240、ゲート絶縁膜250、共通領域270、ドレイン領域300、半導体基板400により構成するMOSトランジスタ素子である。
【0107】
第1の不揮発性半導体記憶素子100とアドレストランジスタ101とで1ビットのメモリを構成し、第2の不揮発性半導体記憶素子200とアドレストランジスタ201とで1ビットのメモリを構成するものである。
以下の説明では、第1及び第2の不揮発性半導体記憶素子がそれぞれ「1」又は「0」の2値の情報を記憶するメモリであるとする。
【0108】
110、140、210、240はゲート電極、120、220はメモリゲート絶縁膜、150、250はゲート絶縁膜、130、230はチャネル領域、160、260はソース領域、170、270は不揮発性半導体記憶素子100、200のドレイン領域とアドレストランジスタ101、201のソース領域とを兼ねた共通領域、300はドレイン
領域、400は半導体基板である。
【0109】
メモリゲート絶縁膜120は、トップ酸化膜121、メモリ窒化膜122、トンネル酸化膜123により構成する。メモリゲート絶縁膜220は、トップ酸化膜221、メモリ窒化膜222、トンネル酸化膜223により構成する。
これら2つのメモリゲート絶縁膜は、酸化膜、窒化膜、酸化膜を順に積層した、いわゆるONO膜構造を有するものであって、MONOS型のEEPROMの特徴のひとつである。
【0110】
例えば、半導体基板400は、P型のシリコン半導体基板を用いることができる。ソース領域160、260と、共通領域170、270と、ドレイン領域300とは、N型の拡散領域となっている。チャネル領域130、230は、半導体基板400とは異なる不純物濃度のP型の拡散領域である。
【0111】
G11はゲート電極110に接続する端子、G21はゲート電極210に接続する端子、G14はゲート電極140に接続する端子、G24はゲート電極240に接続する端子、S16はソース領域160に接続する端子、S26はソース領域260に接続する端子、D30はドレイン領域300に接続する端子である。
【0112】
[本発明の実施形態のデータの読み出し動作の説明:図6]
次に、この実施例の不揮発性半導体記憶装置の記憶したデータの読み出し動作について、引き続き図6を用いて説明する。
【0113】
初めに、第1の不揮発性半導体記憶素子100の読み出し動作について説明する。
端子G14にアドレストランジスタ101のしきい値電圧よりも高い電圧V14を印加することで、共通領域170とドレイン領域300との間にチャネルが形成され(アドレストランジスタ101がオン)、第1の不揮発性半導体記憶素子100が選択される。電圧V14は、例えば1Vである。
【0114】
端子S16に電圧V16、端子G11に電圧V11を印加すると、第1の不揮発性半導体記憶素子100に正のデータが記憶されている場合、すなわち第1の不揮発性半導体記憶素子100のしきい値電圧が電圧V11より正方向の場合には、チャネル領域130にチャネルが形成されない。
よって、端子S16と端子D30との間に電流は流れず、第1の不揮発性半導体記憶素子100に正のデータが記憶されていることが判別できる。
電圧V16と電圧V11とは、それぞれ例えば2V、1Vである。
【0115】
ここで第1の不揮発性半導体記憶素子100は、チャネル領域130の不純物濃度を調整し、熱平衡状態しきい値電圧を電圧V11よりも正方向にすることで正のデータを記憶している。
また、熱平衡状態しきい値電圧を電圧V11よりも正方向にした上で、メモリ窒化膜122に電子を蓄積し、正のデータを記憶してもよい。
【0116】
記憶素子のしきい値電圧は、時間の経過により熱平衡状態しきい値電圧に収束するが、第1の不揮発性半導体記憶素子100の熱平衡状態しきい値電圧は電圧V11よりも正方向のため、正のデータが消滅することはない。
【0117】
続いて、第2の不揮発性半導体記憶素子200の読み出し動作について説明する。
端子G24にアドレストランジスタ201のしきい値電圧よりも高い電圧V14を印加することで、共通領域270とドレイン領域300との間にチャネルが形成され(アドレ
ストランジスタ201がオン)、第2の不揮発性半導体記憶素子200が選択される。このときの電圧V14は、第1の不揮発性半導体記憶素子100の読み出し動作時の電圧と同じであり、例えば1Vである。
【0118】
端子S26に電圧V16、端子G21に電圧V11を印加すると、第2の不揮発性半導体記憶素子200に負のデータが記憶されている場合、すなわち第2の不揮発性半導体記憶素子200のしきい値電圧が電圧V11より負方向の場合には、チャネル領域230にチャネルが形成される。
よって、端子S26と端子D30との間に電流が流れ、第2の不揮発性半導体記憶素子200に負のデータが記憶されていることが判別できる。
このときの電圧V16と電圧V11とは、それぞれ例えば2V、1Vである。
【0119】
ここで第2の不揮発性半導体記憶素子200は、チャネル領域230の不純物濃度を調整し、熱平衡状態しきい値電圧を電圧V11よりも負方向にすることで負のデータを記憶している。
また、熱平衡状態しきい値電圧を電圧V11よりも負方向にした上で、メモリ窒化膜222に正孔を蓄積し、負のデータを記憶してもよい。
【0120】
記憶素子のしきい値電圧は、時間の経過により熱平衡状態しきい値電圧に収束するが、第2の不揮発性半導体記憶素子200の熱平衡状態しきい値電圧は電圧V11よりも負方向のため、負のデータが消滅することはない。
【0121】
以上、熱平衡状態しきい値電圧が電圧V11よりも正方向の第1の不揮発性半導体記憶素子100に正のデータを記憶し、熱平衡状態しきい値電圧が電圧V11よりも負方向の第2の不揮発性半導体記憶素子200に負のデータを記憶することで、本実施例の不揮発性半導体記憶装置は記憶したデータの保持時間を無限大とすることができる。
【0122】
[本発明の実施形態の製造方法の説明:図6、図7〜図11]
次に、この実施例の不揮発性半導体記憶装置の製造方法について図6及び図7から図11を参照しながら説明する。既に説明した同様の構成には同様の番号を付与しているのでその説明は省略する。
【0123】
ここでは、知られているイオン注入法と熱拡散とによるウェル形成、LOCOS分離法によるフィールド酸化膜とアクティブ領域との形成については公知技術であるためその説明を省略し、その後アクティブ領域に形成する第1及び第2の不揮発性半導体記憶素子とアドレストランジスタとの製造方法について説明する。
【0124】
まず、図7に示すように、半導体基板400の表面にダミー酸化膜形成工程を用いてダミー酸化膜500を形成する。ここで、ダミー酸化膜形成工程は、例えば、酸素(O)と窒素(N)とを混合した雰囲気中の熱酸化工程である。
【0125】
次に、ダミー酸化膜500の上にフォトレジスト601を知られているフォトリソグラフィ技術を用いて形成する。
フォトレジスト601は、チャネル領域130を形成する領域を除くような形状で形成する。
【0126】
次に、知られているイオン注入法により、半導体基板400の上部から所定の不純物イオンをイオン注入する。フォトレジスト601はチャネル領域130を形成する部分が開口しているため、この部分の半導体基板400に不純物イオンが導入され、不純物層130´が形成される。
この不純物層130´は、後述するトップ酸化膜121を形成するときの熱印加により半導体基板400に拡散しチャネル領域130となる。
その後にフォトレジスト601を知られているウェットエッチング技術により除去する。
【0127】
第1の不揮発性半導体記憶素子100の熱平衡状態しきい値電圧は、ここでのイオン注入法による注入量によって決定する。そのため、第1の不揮発性半導体記憶素子100の熱平衡状態しきい値電圧が、この実施例の不揮発性半導体記憶装置の読み出し動作において図6で示した端子G11に印加する電圧V11よりも正方向になるように、イオン注入法の注入量を設定する。
【0128】
このイオン注入量は、半導体基板400の不純物濃度や第1の不揮発性半導体記憶素子100のサイズにもよるので一概に決めることはできないが、例えば、N型の不純物であるリンを1×1012(ions/cm)のドーズ量でイオン注入する。
【0129】
次に、図8に示すように、ダミー酸化膜500の上にフォトレジスト602を知られているフォトリソグラフィ技術を用いて形成する。
フォトレジスト602は、チャネル領域230を形成する領域を除くような形状で形成する。
【0130】
次に、すでに説明した図7に示す第1の不揮発性半導体記憶素子100の不純物層130´の形成と同様な製造方法にて、後の工程を経てチャネル領域230となる不純物層230´を形成する。
不純物層230´の形成後にフォトレジスト602を知られているウェットエッチング技術により除去する。
【0131】
第2の不揮発性半導体記憶素子200の熱平衡状態しきい値電圧は、ここでのイオン注入法による注入量によって決定する。そのため、第2の不揮発性半導体記憶素子200の熱平衡状態しきい値電圧が、この実施例の不揮発性半導体記憶装置の読み出し動作において図6で示した端子G21に印加する電圧V11よりも負方向になるように、イオン注入法の注入量を設定する。
【0132】
このときのイオン注入量は、不純物層130´を形成するときと同様に一概に決めることはできないが、例えば、N型の不純物であるリンを5×1012(ions/cm)のドーズ量でイオン注入する。
【0133】
次に、図9に示すように、ダミー酸化膜500を知られているウェットエッチング技術により除去した後に、メモリゲート絶縁膜120、220となるONO膜を形成する。その手順の一例は以下の通りである。
【0134】
まず、半導体基板400の表面にトンネル酸化膜形成工程を用いてトンネル酸化膜723を形成する。トンネル酸化膜形成工程は、知られている酸化方法を用いている。例えば、酸素(O)と窒素(N)とを混合した雰囲気中の熱酸化により形成する。
【0135】
次に、メモリ窒化膜形成工程により、トンネル酸化膜723の上層部位にメモリ窒化膜722を形成する。この工程では、例えば、反応ガスにジクロルシラン(SiHCl)とアンモニア(NH)とを用いたCVD法により形成する。
【0136】
次に、トップ酸化膜形成工程により、メモリ窒化膜722の上層部位にトップ酸化膜721を形成する。この工程は、例えば、酸化拡散炉を用いた水蒸気雰囲気中の熱酸化によ
り形成する。
この熱酸化を利用して、図8に示す不純物層130´、230´を活性化させると共に半導体基板400に拡散させ、チャネル領域130、230を形成する。
【0137】
なお、トップ酸化膜721の形成において、熱酸化を用いない場合(例えば、CVD法により酸化膜を形成する場合)などは、別途熱処理工程を用いてチャネル領域130、230を形成する。
【0138】
次に、図10に示すように、トップ酸化膜721の上にフォトレジスト603を知られているフォトリソグラフィ技術を用いて形成する。
ここでフォトレジスト603を形成する領域は、チャネル領域130とチャネル領域230とを形成した領域である。
次に、トップ酸化膜721の上に形成したフォトレジスト603をマスクとして、トップ酸化膜721とメモリ窒化膜722とトンネル酸化膜723とをドライエッチング技術を使って除去し、チャネル領域130、230の上部にのみONO膜を残す。
【0139】
この工程によって、ONO膜は上述のように所定の形状になるので、チャネル領域130の上部に残ったトップ酸化膜721をトップ酸化膜121、メモリ窒化膜722をメモリ窒化膜122、トンネル酸化膜723をトンネル酸化膜123と呼ぶことにする。
また、チャネル領域230の上部に残ったトップ酸化膜721をトップ酸化膜221、メモリ窒化膜722をメモリ窒化膜222、トンネル酸化膜723をトンネル酸化膜223と呼ぶことにする。
その後にフォトレジスト603を知られているウェットエッチング技術により除去する。
【0140】
次に、図11を用いてゲート電極を形成する工程を説明する。
まず、図示はしないが、ゲート絶縁膜形成工程を用いてゲート絶縁膜150とゲート絶縁膜250とを形成するための酸化膜を半導体基板400の上部全面に形成する。ゲート絶縁膜形成工程は、例えば、酸素(O)と窒素(N)とを混合した雰囲気中の熱酸化工程である。
続いて、CVD法を用いてゲート電極110とゲート電極140とゲート電極210とゲート電極240とを形成するためのポリシリコン膜をゲート絶縁膜の上部全面に形成する。この工程は、例えば、反応ガスにモノシラン(SiH)を用いる。
【0141】
その後、図11に示すように、ゲート電極110とゲート電極140とゲート電極210とゲート電極240とを形成したい部分にフォトレジスト604を知られているフォトリソグラフィ技術を用いて形成し、これをマスクとしてポリシリコン膜と酸化膜とをドライエッチング技術を使って除去する。
この工程によって、トップ酸化膜121の上部にゲート電極110が、トップ酸化膜221の上部にゲート電極210が、ゲート絶縁膜150の上部にゲート電極140が、ゲート絶縁膜250の上部にゲート電極240が、それぞれ形成される。
その後にフォトレジスト604を知られているウェットエッチング技術により除去する。
【0142】
次いで、図示はしないが、知られているイオン注入工程及び不純物層の熱拡散工程によりソース領域160とソース領域260と共通領域170と共通領域270とドレイン領域300とを形成することで、図6に示すような不揮発性半導体記憶装置の根幹を成す構造が完成する。
この後、公知の技術を用いて、図示しない層間絶縁膜や種々の配線等を形成し、不揮発性半導体記憶装置を有する半導体装置の構造が完成する。
【0143】
[データ書き込み工程の説明:図2、図3、図6、図12]
次に、構造が完成した不揮発性半導体記憶装置にデータを書き込む様子について、主に図6及び図12を用い、図2及び図3も参照して説明する。この例は、熱処理を行う手法と電気的にデータを書き込む手法とを合わせて説明する。
【0144】
図12は、不揮発性半導体記憶素子のトランジスタ特性を示す説明図である。横軸は不揮発性半導体記憶素子のゲート電極に印加する電圧(ゲート電圧)を表し、縦軸は不揮発性半導体記憶素子のソース領域とドレイン領域との間を流れる電流(ドレイン電流)を表す。
【0145】
図12において、VT0はデータ書き込み前のしきい値電圧、VT11及びVT22はそれぞれ第1及び第2の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き込み後のしきい値電圧、V01及びV02はそれぞれ第1及び第2の不揮発性半導体記憶素子の熱平衡状態しきい値電圧、SLはセンスレベルである。
【0146】
図12(a)は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子について説明する図であり、図12(b)は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子について説明する図である。
【0147】
まず、第1の不揮発性半導体記憶素子について説明する。
図12(a)に示すように、データ書き込み前のしきい値電圧VT0は、正のデータか負のデータかが不定な状態であるが、センスレベルSL近傍にあるとする。実際のところはこの図のように正確にセンスレベル付近にあるとは限らないが、図面を見やすくするためにこのように記載している。
【0148】
ここで、第1の不揮発性半導体記憶素子にデータを書き込む工程を行うことで、しきい値は、データ書き込み後のしきい値電圧VT11となる。その様子は図中に点線矢印aで示している。
データを書き込む工程としては、例えば、300℃の加熱を20時間程度行う熱処理を用いる。
【0149】
データ書き込み前のしきい値電圧VT0は、時間の経過により熱平衡状態しきい値電圧V01に収束するが、すでに説明した通り、高温に加熱することで、熱平衡状態しきい値電圧V01に収束するまでに要する時間を短縮することができる。
上述の熱処理を行うことで、センスレベルSLに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き込み後のしきい値電圧VT11を、センスレベルSLよりも正方向にシフトさせ、正のデータが書き込まれる。
【0150】
図12(a)の様子は、図3(a)も参照すると理解しやすい。図3(a)に示すデータ書き込み後のしきい値電圧VT1は、時間の経過と共にやがて熱平衡状態しきい値電圧V01に収束するが、同様に図12(a)に示すデータ書き込み後のしきい値電圧VT11は、図中に点線矢印bで示すように、時間の経過と共に熱平衡状態しきい値電圧V01に収束する。
【0151】
また、熱処理を行う代わりに電圧を印加して電気的にデータを書き込んでもよい。
図6において、第1の不揮発性半導体記憶素子100のしきい値電圧は、半導体基板400の電位に対して端子G11の電位が正方向となるように半導体基板400と端子G11とに電圧を印加することで、メモリ窒化膜122に電子が蓄積され、センスレベルに対
して正方向の値となる。よって、正のデータが書き込まれる。
【0152】
ここで、印加する電圧としては、例えば、半導体基板400に0V、端子G11に8Vである。また、この電圧を印加する時間としては1msである。
【0153】
このような電気的なデータ書きこみの場合を図2(a)と対応させて考えると、図示はしないが、図12(a)においては、データ書き込み後のしきい値電圧VT11は、熱平衡状態しきい値電圧V01よりも図中右側になり、時間の経過と共に図中左にシフトしていき、やがてしきい値電圧V01に収束する。
【0154】
次に、第2の不揮発性半導体記憶素子について説明する。
図12(b)に示すように、第1の不揮発性半導体記憶素子と同様にデータ書き込み前のしきい値電圧VT0はセンスレベルSL近傍にあるものとする。
【0155】
ここで、第2の不揮発性半導体記憶素子にデータを書き込む工程を行うことで、しきい値はデータ書き込み後のしきい値電圧VT22となる。その様子は図中に点線矢印cで示している。
データを書き込む工程としては、例えば、第1の不揮発性半導体記憶素子と一括での処理が可能であるから、300℃の加熱を20時間程度行う。
【0156】
上述の熱処理を行うことで、センスレベルSLに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き込み後のしきい値電圧VT22は、センスレベルSLよりも負方向にシフトし、負のデータが書き込まれる。
【0157】
図12(b)の様子は、図3(b)も参照すると理解しやすい。図3(b)に示すデータ書き込み後のしきい値電圧VT2は、時間の経過と共にやがて熱平衡状態しきい値電圧V02に収束するが、同様に図12(b)に示すデータ書き込み後のしきい値電圧VT22は、図中に点線矢印dで示すように、時間の経過と共に熱平衡状態しきい値電圧V02に収束する。
【0158】
また、第1の不揮発性半導体記憶素子と同様に熱処理を行う代わりに電圧を印加することでデータを書き込んでもよい。
図6において、第2の不揮発性半導体記憶素子200のしきい値電圧は、半導体基板400の電位に対して端子G21の電位が負方向となるように半導体基板400と端子G21とに電圧を印加することで、メモリ窒化膜222に正孔が蓄積され、センスレベルに対して負方向の値となる。よって、負のデータが書き込まれる。
【0159】
ここで、印加する電圧としては、例えば、半導体基板400に0V、端子G21に−8Vである。また、この電圧を印加する時間としては200msである。
【0160】
このような電気的なデータ書きこみの場合を図2(b)と対応させて考えると、図示はしないが、図12(b)においては、データ書き込み後のしきい値電圧VT22は、熱平衡状態しきい値電圧V02よりも図中左側になり、時間の経過と共に図中右にシフトしていき、やがてしきい値電圧V02に収束する。
【0161】
ここで、従来の技術では、電圧を印加することで書き込んだデータは、時間の経過により不揮発性半導体記憶素子のしきい値電圧が熱平衡状態しきい値電圧に収束する過程において、消滅してしまう。
そのため、データが消滅するまでの寿命を少しでも長くするために、半導体基板とゲート電極との電位差を大きくするか、もしくは電圧を印加する時間を長くすることで、少し
でも多くの電荷を蓄積する必要がある。
【0162】
しかしそうすると、半導体基板とゲート電極との電位差を大きくするためには、不揮発性半導体記憶素子そのもの、および周辺回路の耐圧を高くする必要があり、不揮発性半導体記憶装置の微細化を阻害する要因となる。また、電圧を印加する時間を長くすると、不揮発性半導体記憶装置の製造工程の冗長化を招く。
【0163】
それに対して、本発明の不揮発性半導体記憶装置は、時間の経過により図12(a)のデータ書き込み後のしきい値電圧VT11が熱平衡状態しきい値電圧V01に収束する過程において、書き込んだデータが消滅することがない。
同様に、図12(b)のデータ書き込み後のしきい値電圧VT22が熱平衡状態しきい値電圧V02に収束する過程において、書き込んだデータが消滅することがない。
【0164】
よって、データ書き込み後のしきい値電圧VT11がセンスレベルSLに対して正方向、データ書き込み後のしきい値電圧VT22がセンスレベルSLに対して負方向となっていれさえすればよいため、データを書き込むために印加する電圧の低電圧化、印加する時間の短時間化が可能である。
【0165】
[本発明の実施形態のデータの書き換え方法の説明:図6、図13]
次に、この実施例の不揮発性半導体記憶装置のデータを書き換える場合について、図6及び図13を用いて説明する。
【0166】
本発明の不揮発性半導体記憶装置は、マスクROMと同様に、書き込んだデータの保持時間は無限大になる。しかし、一旦データを書き込んだ後、止むを得ずデータを書き換えなければならない場合もある。
例えば、記憶したデータがシステムを制御するシステムプログラムであったとき、そのシステムプログラムに変更の必要が生じた場合である。また、記憶したデータがユーザー固有のデータであったとき、ユーザーが変わったりユーザーが入力した情報に変更があった場合である。
【0167】
システムプログラムの変更は、いわば不測の事態と言えなくもないが、本発明の不揮発性半導体記憶装置を使用する際の用途にもよるが、ユーザー固有のデータ変更については、対応できた方が便利であろう。
マスクROMの場合は、そのようなデータ書き換えはまったくできないため、不揮発性半導体記憶装置を交換するなどしか対応策はなかったが、本発明の不揮発性半導体記憶装置は、そのような事態にも対応可能である。これについて以下説明する。
【0168】
図13は、不揮発性半導体記憶素子のトランジスタ特性を示す説明図である。横軸は不揮発性半導体記憶素子のゲート電極に印加する電圧(ゲート電圧)を表し、縦軸は不揮発性半導体記憶素子のソース領域とドレイン領域との間を流れる電流(ドレイン電流)を表す。
【0169】
図13において、VT11及びVT22はそれぞれ第1及び第2の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き込み後のしきい値電圧、VT12及びVT21はそれぞれ第1及び第2の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き換え後のしきい値電圧、V01及びV02はそれぞれ第1及び第2の不揮発性半導体記憶素子の熱平衡状態しきい値電圧、SLはセンスレベルである。
【0170】
図13(a)は、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子について説明する図であり、図13(b)は、所定のセン
スレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子について説明する図である。
【0171】
まず、第1の不揮発性半導体記憶素子について説明する。
図13(a)に示すように、データ書き込み後のしきい値電圧VT11はセンスレベルSLに対して正方向にあり、正のデータが書き込まれている状態である。
【0172】
ここで、第1の不揮発性半導体記憶素子のデータの書き換えを行うことで、しきい値はデータ書き換え後のしきい値電圧VT12となる。その様子は図中に点線矢印eで示している。
【0173】
データの書き換え方法としては、例えば、図6において、半導体基板400の電位に対して端子G11の電位が負方向となるように半導体基板400と端子G11とに電圧を印加し、メモリ窒化膜122に正孔を蓄積する。
それにより、図13(a)において、データ書き換え後のしきい値電圧VT12は、センスレベルSLに対して負方向の値となる。よって、負のデータが書き込まれる。
【0174】
ここで、印加する電圧としては、例えば、半導体基板400に0V、端子G11に−9Vである。また、この電圧を印加する時間としては500msである。
【0175】
次に、第2の不揮発性半導体記憶素子について説明する。
図13(b)に示すように、データ書き込み後のしきい値電圧VT22はセンスレベルSLに対して負方向にあり、負のデータが書き込まれている状態である。
【0176】
ここで、第2の不揮発性半導体記憶素子のデータの書き換えを行うことで、しきい値はデータ書き換え後のしきい値電圧VT21となる。その様子は図中に点線矢印gで示している。
【0177】
データの書き換え方法としては、例えば、図6において、半導体基板400の電位に対して端子G21の電位が正方向となるように半導体基板400と端子G11とに電圧を印加し、メモリ窒化膜222に電子を蓄積する。
それにより、図13(b)において、データ書き換え後のしきい値電圧VT21は、センスレベルSLに対して正方向の値となる。よって、正のデータが書き込まれる。
【0178】
ここで、印加する電圧としては、例えば、半導体基板400に0V、端子G21に9Vである。また、この電圧を印加する時間としては10msである。
【0179】
つまり、従来の技術では、消滅することがないマスクROMのデータは書き換えができないのに対して、本発明の不揮発性半導体記憶装置はEEPROMと同様に電気的な書き換えが可能である。
【0180】
しかしながら、図13を用いて説明したデータの書き換えを行うと、データの保持は無限大にはならなくなる。
図13(a)に示すように、第1の不揮発性半導体記憶素子は、データ書き換え後のしきい値電圧がVT12となるが、時間の経過と共に電荷蓄積膜に蓄積した電荷が抜けてしまうために、図中に点線矢印fで示すように、やがて熱平衡状態しきい値電圧V01に収束する。
同様に、図13(b)に示すように第2の不揮発性半導体記憶素子も、データ書き換え後のしきい値電圧がVT21は、図中に点線矢印hで示すように、時間の経過と共に熱平衡状態しきい値電圧V02に収束する。
【0181】
例えば、第1及び第2の不揮発性半導体記憶素子のデータ保持期間が、従来知られている、不揮発性半導体記憶素子と同等の10年とすると、データ書き換えを行うと、データ保持期間は10年となり有限の値となってしまう。
【0182】
しかしながら、データ書き換えしなければデータ保持期間が無限大となりマスクROMと同等となることに加えて、マスクROMではまったく対応できなかったデータ書き換えができることのメリットはとても大きい。したがって、この不測の事態が生じた場合などにデータ書き換えができるという特徴もまた、本発明の優れた点と言えるだろう。
【0183】
以上、実施例を説明した。
すでに説明した例では、1つの第1の不揮発性半導体記憶素子と1つの第2の不揮発性半導体記憶素子とを混載する場合について説明したが、もちろんそれに限定するものではない。
複数の第1の不揮発性半導体記憶素子と複数の第2の不揮発性半導体記憶素子とをそれぞれ用いる、マルチビットの不揮発性半導体記憶装置を構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明の不揮発性半導体記憶装置は、最初に記憶したデータの寿命が無限大であり、なおかつデータの書き換え機能も有しているため、コンピュータ装置や電子機器その他の各種機器に広範に利用できる。
そして、不揮発性半導体記憶装置の信頼性の向上、及び開発期間短縮などを実現することもできる。
【符号の説明】
【0185】
VT1、VT2 しきい値電圧
VT0 データ書き込み前のしきい値電圧
VT11、VT22 データ書き込み後のしきい値電圧
VT12、VT21 データ書き換え後のしきい値電圧
V01、V02 熱平衡状態しきい値電圧
SL センスレベル
10 メモリ領域
11 書き込みたいデータ列
A1〜A8 アドレス
M1 第1の不揮発性半導体記憶素子
M2 第2の不揮発性半導体記憶素子
FT 負荷用トランジスタ
MT 不揮発性半導体記憶素子
OUT 出力端子
VDD 正方向の高い電位を有する電源
VSS 負方向の高い電位を有する電源
100 第1の不揮発性半導体記憶素子
200 第2の不揮発性半導体記憶素子
101、201 アドレストランジスタ
110、140、210、240 ゲート電極
120、220 メモリゲート絶縁膜
150、250 ゲート絶縁膜
121、221、721 トップ酸化膜
122、222、722 メモリ窒化膜
123、223、723 トンネル酸化膜
130、230 チャネル領域
160、260 ソース領域
170、270 共通領域
300 ドレイン領域
400 半導体基板
500 ダミー酸化膜
601、602、603、604 フォトレジスト
G11 ゲート110に接続する端子
G14 ゲート140に接続する端子
S16 ソース160に接続する端子
G21 ゲート210に接続する端子
G24 ゲート240に接続する端子
S26 ソース260に接続する端子
D30 ドレイン300に接続する端子
911、912 サンプルセル
920 平均電圧出力回路
930 セレクト信号
931 スイッチ
932 メモリセル
933 読み出し線
940 メモリセル932のゲート電極
Vw サンプルセル911のしきい値電圧
Ve サンプルセル912のしきい値電圧
Vo 平均電圧出力回路920の出力電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置において、
所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子と、負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子とを混載したことを特徴とする不揮発性半導体記憶装置。
【請求項2】
前記不揮発性半導体記憶素子は、
トンネル絶縁膜、電荷蓄積層、トップ絶縁膜の順に積層した構造のメモリ絶縁膜を有し、
前記電荷蓄積層に電子又は正孔を注入することで前記データを記憶することを特徴とする請求項1に記載の不揮発性半導体記憶装置。
【請求項3】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置の製造方法において、
所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子を形成する工程と、負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子を形成する工程と、
熱処理を行って、前記データの内容に基づく正のデータを前記第1の不揮発性半導体記憶素子に、負のデータを前記第2の不揮発性半導体記憶素子に、同時に書き込む工程と、を有することを特徴とする不揮発性半導体記憶装置の製造方法。
【請求項4】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置の製造方法において、
前記データの内容に基づいて、
正のデータを所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子に書き込む工程と、
負のデータを所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子に書き込む工程と、を有することを特徴とする不揮発性半導体記憶装置の製造方法。
【請求項5】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置のデータ書き換え方法において、
書き込みたいデータが正のデータのときは、そのデータを、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が正方向である第1の不揮発性半導体記憶素子に書き込み、
前記第1の不揮発性半導体記憶素子に記憶している前記正のデータを書き換えるとき、
前記第1の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き込み後のしきい値が、所定のセンスレベルよりも負側になるような書き込み電圧を印加することを特徴とする不揮発性半導体記憶装置のデータ書き換え方法。
【請求項6】
データを記憶する不揮発性半導体記憶素子を有する不揮発性半導体記憶装置のデータ書き換え方法において、
書き込みたいデータが負のデータのときは、そのデータを、所定のセンスレベルに対して熱平衡状態しきい値電圧が負方向である第2の不揮発性半導体記憶素子に書き込み、
前記第2の不揮発性半導体記憶素子に記憶している前記負のデータを書き換えるとき、
前記第2の不揮発性半導体記憶素子のデータ書き込み後のしきい値が、所定のセンスレベルよりも正側になるような書き込み電圧を印加することを特徴とする不揮発性半導体記憶装置のデータ書き換え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−74227(P2013−74227A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213870(P2011−213870)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】