説明

内燃機関の制御装置

【課題】 アイドル運転以外の運転状態においても、燃料のセタン価を精度良く推定することができる内燃機関の制御装置を提供するを提供する。
【解決手段】 内燃機関3の気筒#1内の圧力の変化量を圧力変化量DPとして検出する圧力変化量検出手段(筒内圧センサ21)と、検出された圧力変化量DPに応じて、気筒#1内に発生した熱量を熱発生量QHRL,QHRH,QHRDとして算出する熱発生量算出手段(ECU2)と、内燃機関3の負荷(車速VP、エンジン回転数NE、アクセル開度AP)を検出する負荷検出手段(車速センサ21、クランク角センサ22、アクセル開度センサ28)と、算出された熱発生量QHRL,QHRH,QHRDおよび検出された内燃機関の負荷に基づき、燃料のセタン価CETL,CETH,CETDを推定するセタン価推定手段(ECU2)と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この制御装置は、車両のディーゼルエンジンに適用されており、アイドル運転状態において、パイロット噴射およびメイン噴射の実行中に、燃料のセタン価を推定する。セタン価の推定は、筒内圧センサによって検出された燃焼室内の圧力と、クランク角センサの検出値から算出された燃焼室の容積とに応じて算出される熱発生量パラメータに基づいて、以下のように行われる。
【0003】
まず、パイロット噴射による燃料噴射量を制御することによって、メイン噴射の開始時までの期間における熱発生量パラメータの最大値と最小値との差を所定量に調整する。次に、メイン噴射を所定の条件で実行し、メイン噴射によって熱発生量パラメータが上昇を開始した時点からの所定のクランク角度区間において算出した熱発生量パラメータの上昇率を複数回、算出し、複数の熱発生量パラメータの上昇率の平均値に応じて、セタン価の推定値が算出される。
【0004】
以上のように、上記の制御装置では、燃焼室内の圧力に応じて算出される熱発生量パラメータに基づいて、セタン価が算出される。しかし、アイドル運転以外のエンジンの運転状態では、負荷などに応じて燃焼室内の圧力が変動し、それに応じて、熱発生量パラメータも変動する結果、セタン価の推定値がずれてしまい、燃料のセタン価を精度良く推定することができない。
【0005】
このため、セタン価の推定をアイドル運転中に限って行うようにすると、例えば、燃料を補給した直後に、アイドル運転をほとんど実行することなく車両が発進した場合には、次にアイドル運転が実行されるまで、セタン価の推定を行えない。このため、補給された燃料のセタン価が補給前に用いていた燃料のセタン価と異なる場合、次にアイドル運転が実行されるまで、実際のセタン価と異なる推定値に応じて、エンジン制御が行われてしまう。その結果、燃料の実際の着火時期が変動することにより、ノイズや振動が増大し、あるいは排ガス特性が悪化するなどの不具合が発生してしまう。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、アイドル運転以外の運転状態においても、燃料の性状を精度良く推定することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
【特許文献1】特開2005−344550号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内燃機関(実施形態における(以下、本項において同じ)エンジン3)の気筒#1内の圧力の変化量を圧力変化量DPとして検出する圧力変化量検出手段(筒内圧センサ21)と、検出された圧力変化量DPに応じて、気筒#1内に発生した熱量を熱発生量QHRL,QHRH、QHRDとして算出する熱発生量算出手段(ECU2、図3のステップ26,27、図6のステップ46,47)と、内燃機関の負荷(車速VP、エンジン回転数NE、要求トルクPMCMD)を検出する負荷検出手段(車速センサ29、クランク角センサ22、アクセル開度センサ28)と、算出された熱発生量QHRL,QHRHおよび検出された内燃機関の負荷に基づき、燃料の性状(低負荷時セタン価CETL、中高負荷時セタン価CETH、走行時セタン価CETD)を推定する燃料性状推定手段(ECU2、図3のステップ30、図6のステップ50、図14のステップ104、図17のステップ114)と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
この内燃機関の制御装置によれば、圧力変化量検出手段により、気筒内の圧力の変化量が圧力変化量として検出され、検出された圧力変化量に応じて、気筒内に発生した熱量が熱発生量として算出される。そして、算出された熱発生量と、負荷検出手段によって検出された内燃機関の負荷に基づいて、燃料の性状が燃料性状推定手段により推定される。
【0010】
一般に、燃料の燃焼のしやすさはその性状に応じて変化し、例えばセタン価が高いほど、燃料は燃焼しやすく、着火直後の一定期間内に発生する熱発生量、および気筒内の圧力変化量は大きくなる。一方、セタン価が低いほど、燃焼に伴って一定期間内に発生する熱発生量、および圧力変化量はいずれも小さくなる。したがって、圧力変化量に応じて算出された熱発生量は、燃料の性状を良好に反映する。
【0011】
また、熱発生量は、内燃機関の負荷に応じて変動する。したがって、熱発生量に加え、内燃機関の負荷に基づいて推定することにより、燃料の性状を精度良く推定できる。それにより、アイドル運転以外の内燃機関の運転状態においても、燃料の性状を精度良く推定することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、気筒#1〜#4から排出された排ガスの一部を気筒#1〜#4に還流させる排ガス還流手段(EGR装置7)と、燃料性状推定手段により燃料の性状(低負荷時セタン価CETL)を推定するときに、内燃機関の負荷に応じて、気筒#1〜#4に還流する排ガスの量(EGR量QEGR)を低減させる排ガス還流量低減手段(EGR制御弁7b)と、をさらに備えているとを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、燃料性状推定手段により燃料の性状を推定するときには、複数の気筒に還流する排ガスの量(以下「EGRガス量」という)は、内燃機関の負荷に応じ、排ガス還流量低減手段によって低減される。EGRガス量を低減させると、気筒に吸入される吸気に占める新気の割合が大きくなり、燃焼によって一定期間内に発生する熱発生量、および圧力変化量がともに大きくなる。したがって、内燃機関の負荷に応じ、例えば、負荷が小さく、熱発生量が小さいときに、排ガス還流量を低減させることで、熱発生量を増大させることにより、燃料の性状の違いに応じた熱発生量の差がより大きくなるので、熱発生量に基づく燃料の性状の推定をより精度良く行うことができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、互いに異なる所定の性状(第1〜第3セタン価CET1〜CET3)を有する燃料の燃焼に伴って発生する熱発生量を、所定の性状ごとに、内燃機関の負荷に応じて、参照用熱発生量QHRDREF1〜3としてあらかじめ記憶する熱発生量記憶手段(ECU2)をさらに備え、燃料性状推定手段は、検出された内燃機関の負荷に応じて熱発生量記憶手段から検索された所定の性状ごとの複数の参照用熱発生量QHRDREF1〜3と、熱発生量算出手段によって算出された熱発生量QHRDに応じて、燃料の性状(走行時セタン価CETD)を推定することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、互いに異なる所定の性状を有する燃料の燃焼に伴って発生する熱発生量が、所定の性状ごとに、負荷に応じて、参照用熱発生量として熱発生量記憶手段にあらかじめ記憶されている。このような参照用熱発生量のうち、検出された負荷に対応する参照用熱発生量が所定の性状ごとに検索され、検索された所定の性状ごとの参照用熱発生量と、検出された圧力変化量に応じて算出された熱発生量に応じて、使用中の燃料の性状が推定される。
【0016】
前述したように、熱発生量は、内燃機関の負荷に応じて変動し、また、圧力変化量に応じて算出された熱発生量は、燃料の性状を良好に反映する。したがって、参照用熱発生量を、負荷と燃料の性状との相関性を適切に反映するように設定し、記憶することによって、検出された実際の負荷に応じて得られた参照用熱発生量と、検出された実際の圧力変化量に応じて算出された熱発生量から、内燃機関の任意の運転状態において、使用中の燃料の性状をより精度良く推定することができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、燃料性状推定手段は、検索された所定の性状ごとの参照用熱発生量QHRDREF1〜3と、算出された熱発生量QHRDに応じて、燃料の性状を暫定的に決定する暫定決定手段(ECU2、図14のステップ103)を有し、暫定的に決定した燃料の性状(走行時暫定セタン価CETDINT)にフィルタリング処理を施すことによって、燃料の性状を推定することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、検出された負荷に応じて検索された所定の性状ごとの複数の参照用熱発生量と、圧力変化量に応じて算出された熱発生量に応じて、燃料の暫定的な性状が決定され、この燃料の暫定的な性状にフィルタリング処理を施すことによって、使用中の燃料の性状が推定される。
【0019】
一般に、内燃機関の負荷や圧力変化量を検出するセンサなどの検出値には、例えば外乱や不安定な燃焼によるノイズが含まれるので、検出された負荷や圧力変化量に応じて燃料の性状を直接、推定した場合、推定した燃料の性状にばらつきが発生しやすい。これに対し、本発明では、検出した負荷および圧力変化量に応じて決定した燃料の暫定的な性状に対し、フィルタリング処理を施すことによりノイズによる影響を抑制でき、したがって、燃料の性状を精度良く推定することができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、燃料性状推定手段は、検出された内燃機関の負荷にフィルタリング処理を施し、フィルタリング処理を施した内燃機関の負荷(フィルタ値NEOut、PMCMDOut)に基づき、複数の参照用熱発生量QHRDREF1〜3を検索することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、検出された負荷に対してフィルタリング処理が施され、フィルタリング処理を施された負荷に基づき、参照用熱発生量が検索される。このように、検出された負荷に含まれるノイズなどの影響が抑制される結果、負荷に基づいて検索される参照用熱発生量がより安定し、したがって、参照用熱発生量に応じて、燃料の性状を安定して推定することができる。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の内燃機関の制御装置において、負荷検出手段は、内燃機関の負荷として、互いに異なる複数の種類の負荷(エンジン回転数NE、要求トルクPMCMD)を検出し、燃料性状推定手段は、検出された内燃機関の複数の種類の負荷のそれぞれに、互いに同じフィルタリング特性(重み係数K)によりフィルタリング処理を施すことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、検出した互いに異なる複数の種類の負荷に応じて、参照用熱発生量が燃料の性状ごとに検索される。このように、複数の種類の負荷に応じて参照用熱発生量が検索されるので、負荷が1種類の場合よりも、適正な参照用熱発生量を検索でき、それらに応じて推定される燃料の性状の信頼性をさらに向上させることができる。
【0024】
また、検出された複数の種類の負荷に対し、互いに同じフィルタリング特性によりフィルタリング処理を行うので、いずれの種類の負荷に対しても、ノイズなどの影響を同じ度合いで抑制することができる。それにより、フィルタリング処理を施したこれらの負荷に応じて検索される参照用熱発生量を適切に算出でき、その結果、推定される燃料の性状の信頼性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明を適用した制御装置1を、内燃機関(以下「エンジン」という)3とともに示している。エンジン3は、1番〜4番の気筒#1〜#4を有する直列4気筒のディーゼルエンジンであり、車両(図示せず)に搭載されている。このエンジン3では、通常、吸気行程中から圧縮行程中の任意の期間に燃料を噴射するパイロット噴射と、圧縮行程中に燃料を噴射するメイン噴射とを順次、実行する通常燃焼が行われる。
【0026】
気筒#1〜#4にはそれぞれ、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)4が設けられている。また、各インジェクタ4の燃料噴射量QINJおよび燃料噴射時期TINJは、ECU2からの噴射パルス信号SINJによって制御される。
【0027】
また、気筒#1には、筒内圧センサ21が設けられている。筒内圧センサ21は、圧電素子で構成された、グロープラグ(図示せず)と一体型のものであり、気筒#1内の圧力の変化量(以下「筒内圧変化量」という)DPを表す検出信号をECU2に出力する。
【0028】
エンジン3のクランクシャフト(図示せず)には、マグネットロータが取り付けられており、このマグネットロータとMREピックアップ(いずれも図示せず)によって、クランク角センサ22が構成されている。クランク角センサ22は、クランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0029】
CRK信号は、所定のクランク角(例えば1°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを求める。TDC信号は、ピストン(図示せず)が吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定のクランク角度位置にあることを表す信号である。また、エンジン3には、気筒判別センサ(図示せず)が設けられており、この気筒判別センサは、気筒#1〜#4を判別するためのパルス信号を、気筒判別信号としてECU2に出力する。
【0030】
また、エンジン3には、EGR管7aおよびEGR制御弁7bを有するEGR装置7が設けられている。EGR管7aは、エンジン3の吸気管5および排気管6をつなぐように接続されており、このEGR管7aを介して、エンジン3の排ガスの一部がEGRガスとして吸気管5に還流し、気筒#1〜#4に流入する。これにより、エンジン3における燃焼温度が低下することによって、排ガス中のNOxが低減される。
【0031】
EGR制御弁7bは、EGR管7aに設けられたバタフライ弁と、これを開閉駆動するDCモータ(いずれも図示せず)で構成されており、DCモータに供給される電流をECU2で制御し、その弁開度をリニアに制御することによって、EGRガスの量(以下「EGR量」という)が制御される。EGR制御弁7bの開度(以下「EGR弁開度」という)LFは、EGR弁開度センサ23によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
【0032】
また、エンジン3の吸気管5には過給装置9が設けられている。過給装置9は、ターボチャージャ式の過給機10と、これに連結されたベーンアクチュエータ11を有している。過給機10は、吸気管5のスロットル弁5aよりも上流側に設けられた回転自在のコンプレッサブレード10aと、排気管6の途中に設けられたタービンブレード10bおよび複数の回動自在の可変ベーン10c(2つのみ図示)と、これらのブレード10a、10bを一体に連結するシャフト10dを有している。排気管6内の排ガスでタービンブレード10aが回転駆動されることによって、過給動作が行われる。ベーンアクチュエータ11は、ECU2からの制御信号で制御され、それにより、各可変ベーン10cの開度が変化することによって、過給圧が制御される。
【0033】
また、排気管6の過給機10よりも下流側には、上流側から順に、酸化触媒12およびDPF13が設けられている。酸化触媒12は、排ガス中のHCおよびCOを酸化し、排ガスを浄化する。DPF13は、排ガス中の煤などのパティキュレート(以下「PM」という)を捕集することによって、大気中に排出されるPMを低減する。また、DPF13の表面には、酸化触媒12と同様の触媒(図示せず)が担持されている。
【0034】
DPF13は、排ガスがフィルタの微細な孔を通過する際、排気中の炭素を主成分とするPMであるスートを、フィルタ壁の表面およびフィルタ壁中の孔に堆積させることによって捕集する。フィルタ壁の構成材料としては、例えば、炭化珪素などのセラミックスや金属多孔体が使用される。
【0035】
DPF13のスート捕集能力の限界までスートが堆積すると、排気圧力の上昇を引き起こすので、スートを燃焼させる再生処理が適宜、行われる。この再生処理は、例えば、エンジン3の膨張行程中や排気行程中に燃焼室(図示せず)に燃料を噴射するポスト噴射によって行われる。それにより、排ガス中に未燃燃料を供給し、DPF13を高温状態(例えば600℃)に制御し、フィルタに堆積したスートを燃焼させることによって、DPF13が再生し、排気管6の通気が確保される。
【0036】
また、エンジン3の本体には、水温センサ24が取り付けられている。水温センサ24は、エンジン3のシリンダブロック(図示せず)内を循環する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)TWを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0037】
吸気管5および排気管6には、エアフローセンサ25および排気温センサ26が、それぞれ設けられている。前者25は吸入空気量QAを、後者26は、排気温TEを、それぞれ検出し、それらの検出信号は、ECU2に出力される。
【0038】
また、ECU2には、油温センサ27、アクセル開度センサ28および車速センサ29からそれぞれ、エンジン3の潤滑油の温度(以下「油温」という)TOIL、アクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)AP、および車速VPを表す検出信号が、出力される。
【0039】
ECU2は、本実施形態において、熱発生量算出手段および燃料性状推定手段を構成するものであり、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ21〜29からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、以下に述べるセタン価CETの算出処理を含むエンジン3の制御を実行する。
【0040】
図2は、第1実施形態によるセタン価CETの算出処理を示している。本処理は、燃料の性状としてセタン価を算出するものであり、所定の周期で実行される。まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、燃料を給油した直後か否かを判別する。この答がYESのときには、後述するアイドル時セタン価算出完了フラグF_CETI、アイドル時セタン価暫定算出フラグF_CETIINT、低負荷時セタン価算出完了フラグF_CETL、および中高負荷時セタン価算出完了フラグF_CETHを、それぞれ「0」にリセットする(ステップ2)。
【0041】
次に、ステップ3において、セタン価CETを所定の暫定セタン価CETBASE(例えば45)に設定し、本処理を終了する。これにより、エンジン3は、給油直後には、暫定セタン価CETBASEに応じて制御される。
【0042】
一方、上記ステップ1の答がNOのときには、給油時以後におけるエンジン3の運転時間TFUELが所定時間TFUELREF以上か否かを判別する(ステップ4)。この答がNOのときには、給油後におけるエンジン3の運転時間が短く、燃料タンクとエンジン3の間の配管などに存在する燃料が、給油した燃料に完全に入れ替わっていない可能性があるとして、セタン価CETの算出は行わず、前記ステップ3を経て本処理を終了する。
【0043】
一方、前記ステップ4の答がYESのときには、エンジン3がアイドル運転中であるか否かを判別する(ステップ5)。この判別では、車速VPおよびアクセル開度APがいずれもほぼ値0であるときに、アイドル運転中であるとされる。この答がNOのときには、車速VPが第1所定車速VP1(例えば60km/h)よりも小さいか否かを判別する(ステップ6)。この答がYESで、VP<VP1のときには、セタン価CETの算出を行わず、後述するステップ16に進み、本処理を終了する。
【0044】
一方、ステップ6の答がNOのときには、車速VPが第1所定車速VP1よりも大きな第2所定車速VP2(例えば80km/h)よりも大きいか否かを判別する(ステップ7)。この答がYESで、VP>VP2のときには、エンジン3が中高負荷領域にあるとして、ステップ8において中高負荷時セタン価CETHを算出した後、ステップ16に進み、本処理を終了する。
【0045】
図3は、この中高負荷時セタン価CETH(燃料の性状)の算出処理を示している。本処理は、図4に示すパイロット噴射の開始時期TINJ1と算出終了時期TINJ2で規定される所定の算出区間RDET1において、パイロット噴射に伴う熱発生量を算出し、算出した熱発生量に基づいて、中高負荷時セタン価CETHを算出するものである。本処理はCRK信号の発生に同期して、クランク角1°ごとに実行される。
【0046】
この処理では、まず、ステップ21において、算出中フラグF_CALHが「1」であるか否かを判別する(ステップ21)。この答がNOで、中高負荷時セタン価CETHの算出中でないときには、今回のクランク角度CAがパイロット噴射の開始時期(以下「噴射開始時期」という)TINJ1に等しいか否かを判別する(ステップ22)。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
【0047】
一方、ステップ22の答がYESのときには、中高負荷時セタン価CETHの算出を開始するものとして、後述する算出カウンタCNTHおよび熱発生量QHRHを、それぞれ値0にリセットする(ステップ23、24)とともに、算出中フラグF_CALHを「1」にセットし(ステップ25)、ステップ26に進む。これにより、次回以降のループにおいて、上記ステップ21の答がYESになり、その場合には、上記ステップ22〜25をスキップして、ステップ26に進む。
【0048】
このステップ26では、次式(1)によって、熱発生率dQHRH(単位クランク角当たりの熱発生量 )を算出する。
dQHRH = k/(k−1)×Pθ×1000×dVθ
+1/(k−1)×DP×1000×Vθ ……(1)
dQHRH:熱発生率(J/deg)
k:混合気の比熱比
Pθ:筒内圧の絶対値(kPa)
dVθ:筒内容積上昇率(m3/deg)
Vθ:筒内容積(m3
DP:筒内圧変化量(kPa/deg)
ここで、比熱比kは所定値(例えば1.39)に設定されている。また、Pθ、dVθおよびVθは、いずれもクランク角度位置に応じて定まる値であり、DPは筒内圧センサ21による検出値である。
【0049】
次いで、熱発生量QHRHの前回値に、算出した熱発生率dQHRHを加算することにより、噴射開始時期TINJ1から今回までに発生した総熱量である熱発生量QHRHを算出する(ステップ27)。次に、算出カウンタCNTHをインクリメントし(ステップ28)、算出カウンタCNTHが所定値CNTHREFに達したか否かを判別する(ステップ29)。所定値CNTHREFは、算出区間RDET1の長さに相当する値(例えば10)に設定されている。したがって、この答がNOのときには本処理を終了する一方、YESのときには、算出区間RDET1が終了したとして、上記ステップ27で算出した熱発生量QHRHと、車速VPに基づき、図5に示すCETHマップに従って、中高負荷時セタン価CETHを算出する(ステップ30)。
【0050】
このCETHマップでは、第2所定車速VP2用と、それよりも大きな第3所定車速VP3(例えば100km/h)用の計2つのテーブルが用意されている。各テーブルでは、熱発生量QHRHが大きいほど、セタン価CETHはより大きな値に設定されている。これは、セタン価が大きいほど、燃料が燃焼しやすく、一定期間内にパイロット噴射に伴う燃焼によって発生する熱発生量がより大きくなるためである。また、2つのテーブルを比較すると、同じ熱発生量QHRHに対して、車速VPが大きい第3所定車速VP3用のテーブルの方が、中高負荷時セタン価CETHはより小さな値に設定されている。これは、セタン価が同じ場合、車速VPが大きく、すなわち負荷が高いほど、熱発生量が大きくなるためである。なお、車速VPが第2所定車速VP2および第3所定車速VP3に一致しない場合には、中高負荷時セタン価CETHは、補間計算により求められる。
【0051】
図3に戻り、ステップ30に続くステップ31では、算出中フラグF_CALHを「0」にリセットするとともに、中高負荷時セタン価CETHの算出が完了したことを表すために、中高負荷時セタン価算出完了フラグF_CETHを「1」にセットし(ステップ32)、本処理を終了する。
【0052】
図2に戻り、前記ステップ7の答がNOで、VP1≦VP≦VP2のときには、エンジン3が低負荷領域にあるとして、中高負荷時セタン価算出完了フラグF_CETH、および低負荷時セタン価算出完了フラグF_CETLが「1」であるか否かをそれぞれ判別する(ステップ9、10)。これらのいずれかの答がYESで、中高負荷時セタン価CETHまたは低負荷時セタン価CETLの算出がすでに完了しているときには、ステップ16に進み、本処理を終了する。
【0053】
一方、上記ステップ9、10の答がいずれもNOのときには、EGR制御弁7bを閉弁側に制御することによって、セタン価算出時用の所定のEGR量QEGRになるように、EGR量を減量する(ステップ11)。このセタン価算出時用のEGR量QEGRは、通常のEGR量に対して所定の比率(例えば80%)に設定されている。
【0054】
次いで、上記のEGRの減量制御後、所定時間(例えば5〜10sec)が経過したか否かを判別する(ステップ12)。この答がNOのときには、ステップ16に進む一方、YESのときには、EGR量がセタン価算出時用のEGR量QEGRに収束したとして、ステップ13において低負荷時セタン価CETLを算出した後、ステップ16に進み、本処理を終了する。
【0055】
図6は、この低負荷時セタン価CETL(燃料の性状)の算出処理を示している。この処理は、前述した中高負荷時セタン価CETHの算出処理とほぼ同じ処理内容を有しており、前記ステップ21〜32と同様にステップ41〜52を実行することにより、熱発生量QHRLに基づいて低負荷時セタン価CETLを算出するとともに、その算出が完了したときに、低負荷時セタン価算出完了フラグF_CETLが「1」にセットされる。
【0056】
図7は、本処理のステップ50において、低負荷時セタン価CETLを算出するのに用いられるCETLテーブルを示している。このテーブルでは、熱発生量QHRLが大きいほど、低負荷時セタン価CETLはより小さな値に設定されている。なお、同図の破線は、EGRの減量制御を行わない場合のセタン価と熱発生量との関係を参考として示したものである。すなわち、エンジン3が低負荷領域にあるときに、本来、熱発生量が小さいので、セタン価に対して熱発生量は比較的緩やかに変化する。本実施形態では、前記ステップ11でEGRの減量制御が行われることにより、各気筒に吸入される吸気に占める新気の割合が大きくなり、一定期間内にパイロット噴射に伴う燃焼によって発生する熱発生量が増大する結果、低負荷時セタン価CETLに対して熱発生量QHRLがより大きく変化する関係になっており、CETLテーブルは、このような関係に基づいて設定されている。
【0057】
以上のように、車速VP>第2所定車速VP2であるエンジン3の中高負荷領域では、筒内圧変化量DPに応じて、熱発生量QHRHを算出する(ステップ26,27)とともに、算出した熱発生量QHRHと車速VPに応じて、中高負荷時セタン価CETHを算出する(ステップ30)ので、中高負荷時セタン価CETHを精度良く推定することができる。
【0058】
また、第1所定車速VP1≦車速VP≦第2所定車速VP2であるエンジン3の低負荷領域では、筒内圧変化量DPに応じて、熱発生量QHRLを算出する(ステップ46,47)とともに、算出した熱発生量QHRLに基づいて、低負荷時セタン価CETLを算出する(ステップ50)。また、この低負荷時セタン価CETLの算出に先立ってEGR量を減量する(ステップ11)ことによって、熱発生量QHRLをより大きくし、その結果、セタン価の違いに応じた熱発生量QHRLの差をより大きくすることができるので、熱発生量QHRLに基づく低負荷時セタン価CETLの算出をより精度良く行うことができる。
【0059】
図2に戻り、前記ステップ5の答がYESで、エンジン3がアイドル運転中のときには、アイドル時セタン価算出完了フラグF_CETIが「1」であるか否かを判別する(ステップ14)。この答がYESで、アイドル時セタン価CETIの算出がすでに完了しているときには、ステップ16に進む一方、NOのときにはステップ15において、アイドル時セタン価CETIを算出した後、ステップ16に進み、本処理を終了する。
【0060】
図8は、このアイドル時セタン価CETIの算出処理を示している。本処理は、気筒#1において予混合燃焼を実行しながら、基準着火時期CAFMMと実着火時期CAFMとの差に応じて、アイドル時セタン価CETIを算出するものである。この処理は、気筒#1のCRK信号の発生に同期して実行される。
【0061】
まず、ステップ61では、エンジン3の所定の運転条件が成立しているか否かを判別する。この所定の運転条件として、例えば、排気温TEが所定温度TEREF(例えば90℃)以上であり、かつエンジン水温TWまたは油温TOILが、エンジン3の暖機状態を表す所定温度TUP(例えば80℃)以上であることが設定されている。
【0062】
上記ステップ61の答がNOのときには、アイドル時セタン価CETIの算出の実行条件が成立していないとして、本処理を終了する一方、YESのときには、気筒#1において予混合燃焼を実行する(ステップ62)。具体的には、気筒#1のパイロット噴射を停止するとともに、メイン噴射用の燃料噴射量QINJ#1を、通常燃焼時よりも小さな一定の所定値QREFに設定する。そして、燃料噴射時期TINJ1を、通常燃焼時よりも進角側に設定することによって、気筒#1において、燃料の噴射後、遅れを伴って燃料が燃焼する、いわゆる予混合燃焼が行われる。
【0063】
次いで、上記ステップ62の実行後、所定時間が経過したか否かを判別する(ステップ63)。この答がNOのときには本処理を終了する一方、YESのときには、気筒#1における予混合燃焼による燃焼状態が安定したとして、算出中フラグF_CETIが「1」であるか否かを判別する(ステップ64)。この答がNOのときには、アイドル時セタン価CETIの算出を開始するものとして、算出カウンタCNTIおよびアイドル時セタン価CETIをそれぞれ値0にリセットする(ステップ65、66)とともに、算出中フラグF_CALIを「1」にセットした(ステップ67)後、ステップ68に進む。ステップ67の実行により、次回以降のループにおいて、上記ステップ64の答がYESになり、その場合には、上記ステップ65〜67をスキップし、ステップ68に進む。
【0064】
このステップ68では、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、CAFMMマップ(図示せず)を検索することによって、基準着火時期CAFMMを算出する。要求トルクPMCMDは、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0065】
このCAFMMマップは、所定のセタン価(例えば57)の燃料を予混合燃焼により燃焼させたときに得られる着火時期を、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、基準着火時期CAFMMとして設定したものである。また、基準着火時期CAFMMは、クランク角度位置で表される。
【0066】
次いで、気筒#1における実着火時期CAFMを検出する(ステップ69)。この実着火時期CAFMの検出は、例えば図9に示すようにして行われる。すなわち、クランク角度位置CAIMでインジェクタ4への噴射パルス信号SINJが出力された後、筒内圧変化量DPが所定のしきい値DPPを超えたときのクランク角度位置を、実着火時期CAFMとして検出する。なお、実着火時期CAFMの検出は、噴射パルス信号SINJの出力後、所定の角度範囲RDET2(例えば10°)内において行われる。
【0067】
次いで、上記のようにして求めた基準着火時期CAFMMから実着火時期CAFMを減算することによって、着火遅れ角DCAを算出する(ステップ70)。次いで、算出した着火遅れ角DCAに応じて、アイドル時セタン価CETIを算出し(ステップ71)、本処理を終了する。具体的には、まず、着火遅れ角DCAを、そのときのエンジン回転数NEを用いて着火遅れ時間TDFMに換算し、次いで、着火遅れ時間TDFMに応じ、図10に示すCETTテーブルを検索することによって、セタン価の暫定値CETTを算出する。このCETTテーブルでは、暫定値CETTは、着火遅れ時間TDFMが大きいほど、より小さな値に設定されている。次に、算出した暫定値CETTとセタン価の前回値CETIZを加重平均することによって、今回のアイドル時セタン価CETIを算出する。
【0068】
次いで、アイドル時セタン価CETIの算出中であることを表すために、アイドル時セタン価暫定算出フラグF_CETIINTを「1」にセットする(ステップ72)。次に、算出カウンタCNTIをインクリメントし(ステップ73)、算出カウンタCNTIが所定値CNTIREF(例えば10)に達したか否かを判別する(ステップ74)。この答がNOのときには本処理を終了する一方、YESのときには、算出中フラグF_CALIおよびアイドル時セタン価暫定算出フラグF_CETIINTを、それぞれ「0」にリセットする(ステップ75,76)とともに、アイドル時セタン価CETIの算出が完了したことを表すために、アイドル時セタン価算出完了フラグF_CETIを「1」にセットし(ステップ77)、本処理を終了する。
【0069】
以上のように、アイドル時セタン価CETIの算出中は、気筒#1において予混合燃焼が行われる。予混合燃焼中には、燃料のセタン価CETの違いによる着火時期の差が大きくなるので、着火遅れに基づくアイドル時セタン価CETIの算出を精度良く行うことができる。
【0070】
図2に戻り、前記ステップ8、13または15などに続くステップ16において、セタン価CETを決定した後、本処理を終了する。このセタン価CETの決定は、以下のようにして行われる。アイドル時セタン価CETI、低負荷時セタン価CETLおよび中高負荷時セタン価CETHの算出がいずれも完了していないときには、セタン価CETは、前記ステップ3で設定した暫定セタン価CETBASEに維持される。一方、上記3種類のセタン価CETI、CETL、CETHのいずれかの算出が完了しているときには、算出が完了したものをセタン価CETとして設定する。
【0071】
また、上記3種類のセタン価CETI、CETL、CETHのうち、複数のセタン価が算出されているときには、より信頼性の高いものをセタン価CETとして設定する。例えば、低負荷時セタン価CETLは、前述したようにEGRの減量制御を行いながら算出されるため、信頼性が比較的低いと判断されることから、アイドル時セタン価CETIまたは中高負荷時セタン価CETHを優先して採用する。以上のようにして算出されたセタン価CETは、燃料噴射量QINJや燃料噴射時期TINJの制御に用いられる。
【0072】
図11および図12は、パイロット噴射に伴う燃焼(以下「パイロット燃焼」という)の結果、エンジン3から排出されるスートの量と、熱発生量QHRおよび車速VPとの関係を示しており、これらは実験によって求められる。図11は、EGR量を減量せずにパイロット燃焼を行った場合を示しており、車速VPが80km/hよりも大きいときには、熱発生量QHRの増大に伴って、スート量もまた、比較的急激に増大する。したがって、熱発生量QHR、ひいては筒内圧変化量DPに応じて、セタン価CETの推定とともに、スート量を精度良く推定することができる。一方、車速VPが80km/h以下のときには、熱発生量QHRとスート量との相関性は小さく、熱発生量QHRが増大しても、スート量の増加量はわずかであるので、筒内圧変化量DPに応じてスート量を精度良く推定することは困難である。
【0073】
図12は、図2の前記ステップ11のようにEGR量の減量制御を行い、熱発生量QHRを増大させた場合のスート量と熱発生量QHRの関係を示している。この場合、新気量の割合が増大し、燃焼状態が高負荷時の状態に近づくので、上述した図11の場合と比較して、車速VPが80km/h以下のときでも、熱発生量QHRの増大に伴ってスート量が比較的急に増大する。その結果、筒内圧変化量DPに応じて、スート量の推定を精度良く行うことが可能になる。
【0074】
以上のように、筒内圧変化量DPに応じてスート量を推定することができるので、推定したスート量に応じて、スート量を低減するためのエンジン3の制御や、再生処理のタイミングの決定などのDPF13の再生制御を適切に行うことが可能になる。
【0075】
図13は、第2実施形態によるセタン価CETの算出処理を示している。なお、同図において、図2に示した第1実施形態のCET算出処理と同じ処理内容については、同じステップ番号を付している。図2との比較から明らかなように、本処理は、基本的に、図2のCET算出処理におけるステップ6〜13をステップ88に置き換えたものである。具体的には、第1実施形態では、上記のステップ6〜13において、低負荷時セタン価CETLおよび中高負荷時セタン価CETHが算出されるのに対し、本実施形態では、ステップ88において、走行時セタン価として、CETDが算出される。このため、図2のステップ2に相当する本処理のステップ82では、低負荷時セタン価算出完了フラグF_CETLおよび中高負荷時セタン価算出完了フラグF_CETHに代えて、走行時セタン価算出完了フラグF_CETDが「0」にリセットされる。
【0076】
図14は、上記ステップ88で実行される走行時セタン価CETD(燃料の性状)の算出処理を示している。本処理は、CRK信号の発生に同期して、クランク角1°ごとに実行される。
【0077】
本処理では、まず、前述した図3の処理のステップ21〜29と同様に、ステップ91〜99を実行し、算出区間RDET1における熱発生量QHRDを算出する。次いで、エンジン3が所定の定常運転状態にあるか否かを判別する(ステップ100)。具体的には、車速VP、エンジン回転数NE、要求トルクPMCMD、アクセル開度AP、実際の過給圧と目標過給圧との偏差、および実際の新気量と目標新気量との偏差がいずれも、それぞれの所定の範囲内にあるときに、エンジン3が所定の定常運転状態にあると判別される。
【0078】
この答がYESのときには、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、図15に示す3つの熱発生量マップから、参照用熱発生量QHRDREF1〜QHRDREF3をそれぞれ検索する(ステップ101)。これらの熱発生量マップは、互いに異なる所定の第1〜第3セタン価CET1〜CET3(例えば46、50、55)の燃料を用いてエンジンを運転したときに、算出区間RDET1に相当する一定区間内に1つの気筒内に発生する熱発生量を、あらかじめ実験により求め、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じてマップ化し、参照用熱発生量QHRDREF1〜3として、ECU2のROMに記憶したものである。
【0079】
次いで、上記のように検索した参照用熱発生量QHRDREF1〜3と、これらに対応する第1〜第3セタン価CET1〜CET3との組み合わせから、図16に示す走行時暫定セタン価CETDINTを求めるためのテーブルを作成する(ステップ102)。具体的には、同図に示すように、第1〜第3セタン価CET1〜CET3と、参照用熱発生量QHRDREF1〜QHRDREF3との各組み合わせから成る3つの点(QC1〜QC3)をテーブル上にプロットし、点QC1と点QC2の間、および点QC2と点QC3の間をそれぞれ補間することによって、熱発生量QHRDと走行時暫定セタン価CETDINTの関係を表すテーブルを作成する。
【0080】
次に、図16に示すように、作成したテーブルを用い、前記ステップ97で算出した熱発生量QHRDに応じて、走行時暫定セタン価CETDINTを算出する(ステップ103)。なお、熱発生量QHRDが参照用熱発生量QHRDREF1〜3に一致しない場合には、走行時暫定セタン価CETDINTは、補間計算により求められる。
【0081】
次いで、走行時暫定セタン価CETDINTにフィルタリング処理を施すことにより、走行時セタン価CETDを算出する(ステップ104)。具体的には、次式(2)によって算出する。
CETD←K・CETDINT+(1−K)・CETD(n−1)……(2)
ここで、K(フィルタ特性)は1.0未満の所定の重み係数である。この式(2)から明らかなように、重み係数Kを用い、今回求めた走行時暫定セタン価CETDINTと走行時セタン価の前回値CETD(n−1)との加重平均を行うことにより、走行時セタン価CETDが算出される。
【0082】
次に、走行時セタン価算出完了フラグF_CETDを「1」にセットする(ステップ105)とともに、算出中フラグF_CALDを「0」にリセットし(ステップ106)、本処理を終了する。一方、前記ステップ100の答がNOで、エンジン3が所定の定常運転状態にないときには、ステップ106を経て、本処理を終了する。
【0083】
図13に戻り、ステップ89では、前記ステップ7で求めたアイドル時セタン価CETIと、ステップ88で求めた走行時セタン価CETDなどに基づいて、セタン価CETを決定し、本処理を終了する。このセタン価CETの決定は、基本的に、図2のステップ16と同様に行われる。特に、アイドル時セタン価CETIおよび走行時セタン価CETDの両方の算出が完了しているときには、前者CETIをセタン価CETとして設定する。これは、エンジン3のアイドル運転時には、燃焼状態が安定しているので、そのときに算出されるアイドル時セタン価CETIは、より信頼性が高いと判断されるからである。
【0084】
以上のように、本実施形態によれば、第1〜第3セタン価CET1〜CET3に対応する参照用熱発生量QHRDREF1〜3を、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じてあらかじめ記憶する。そして、第1〜第3セタン価CET1〜CET3と、検出された実際のエンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて得られた3つの参照用熱発生量QHRDREF1〜3から、テーブルを作成するとともに、作成したテーブルを用い、実際の圧力変化量DPに応じて算出された熱発生量QHRDに応じて、走行時セタン価CETDを算出する。したがって、エンジン3の様々な運転状態において、走行時セタン価CETDをより精度良く推定することができる。
【0085】
また、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて決定した走行時暫定セタン価CETDINTに対し、加重平均によるフィルタリング処理を施すことにより、ノイズによる影響を抑制でき、走行時セタン価CETDを精度良く推定することができる。さらに、エンジン3が所定の定常運転状態にあることを条件として、走行時セタン価CETDを推定するので、運転状態の変化による影響を抑制しながら、熱発生量QHRDを適切に算出でき、したがって、熱発生量QHRDに応じて、走行時セタン価CETDをより精度良く推定することができる。
【0086】
また、エンジン3の負荷として、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDという2種類のパラメータに応じて、参照用熱発生量QHRDREF1〜3が検索されるので、負荷を表すパラメータが1種類の場合よりも、適正な参照用熱発生量QHRDREF1〜3を算出でき、走行時セタン価CETDの信頼性をさらに向上させることができる。
【0087】
図17は、図14のCETD算出処理の変形例を示している。同図において、図14のCETD算出処理と同じ処理内容については、同じステップ番号を付している。この変形例では、図14のステップ101〜104に代えて、ステップ111〜114を実行する。
【0088】
まず、ステップ111では、エンジン回転数NE、要求トルクPMCMDおよび熱発生量QHRDのそれぞれのフィルタ値NEOut、PMCMDOutおよびQHRDOutを算出する。具体的には、互いに同じ重み係数Kをそれぞれ用い、前記ステップ104と同様に、それぞれの今回値と前回値との加重平均値をフィルタ値として算出する。
【0089】
次いで、前記ステップ101およびステップ102と同様に、算出したフィルタ値NEOutおよびPMCMDOutに応じて、図15の熱発生量マップから、第1〜第3セタン価CET1〜CET3に対応する参照用熱発生量QHRDREF1〜3を検索する(ステップ112)とともに、これらに応じて、テーブルを作成する(ステップ113)。次に、上記ステップ111で算出した熱発生量QHRDのフィルタ値QHRDOutに応じ、作成したテーブルを検索することにより、走行時セタン価CETDを算出する(ステップ114)。そして、ステップ105およびステップ106を経て、本処理を終了する。
【0090】
以上のように、本処理によれば、検出されたエンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに対して加重平均によるフィルタリング処理が施され、得られたフィルタ値NEOutおよびPMCMDOutに基づき、参照用熱発生量QHRDREF1〜3が検索される。それにより、エンジン回転数NEの検出値などに含まれるノイズなどの影響が抑制される結果、参照用熱発生量QHRDREF1〜3をより適切に算出でき、したがって、それらに応じて、走行時セタン価CETDを精度良く推定することができる。
【0091】
また、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに対し、互いに同じ重み係数Kを用いて加重平均を行うので、両者のノイズなどの影響を同じ度合いで抑制することができる。それにより、フィルタ値NEOut、PMCMDOutに応じて検索される参照用熱発生量QHRDREF1〜3をより適切に算出でき、その結果、走行時セタン価CETDの信頼性をさらに向上させることができる。
【0092】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、セタン価の算出のための筒内圧変化量DPの検出を、気筒#1についてのみ行っているが、他の1つの気筒についてのみ、または、2以上の気筒について行ってもよい。また、実施形態では、セタン価を、パイロット噴射に伴う熱発生量に応じて算出しているが、メイン噴射に伴う熱発生量に応じて算出してもよい。
【0093】
また、実施形態では、燃料の性状として、セタン価を推定しているが、これに限定されることなく、実施形態と同様にして、エンジンの負荷や熱発生量などに応じて、燃料に含まれるアロマ(芳香族炭化水素)の量を推定してもよい。
【0094】
また、第1実施形態では、内燃機関の負荷を表すパラメータとして、車速VPを用いているが、これに限定されることなく、他の適当なパラメータ、たとえば吸入空気量QAなどを用いてもよい。また、第2実施形態では、内燃機関の負荷を表すパラメータとして、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDを用いているが、他の適当なパラメータを用いてもよい。
【0095】
また、第2実施形態では、参照用熱発生量を検索するための熱発生量マップとして、セタン価ごとの3つの熱発生量マップを用意しているが、その数をより多くしてもよく、それにより、より多くの参照用熱発生量に応じてテーブルをより適切に作成でき、走行時セタン価CETDの精度をさらに向上させることができる。
【0096】
また、第2実施形態では、エンジン回転数NEなどのフィルタリング処理を加重平均によって行っているが、これに代えて、例えば機械的なフィルタによって行ってもよい。また、上記の加重平均を行うための重み係数Kとして、所定値を用いているが、エンジン3の運転状態などに応じて、重み係数Kを変更してもよい。
【0097】
また、熱発生量の算出を、実施形態で示した方法に限定されることなく、他の任意の方法で行ってもよい。また、本発明は、船外機のような船舶推進機用エンジンを含む、様々な産業用の内燃機関に用いることができる。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明による制御装置およびエンジンなどを示す概略構成図である。
【図2】第1実施形態によるセタン価CETの算出処理を示すフローチャートである。
【図3】図2のステップ8における中高負荷時セタン価CETHの算出処理を示すフローチャートである。
【図4】通常燃焼モードにおけるクランク角度と熱発生率の関係を示す図である。
【図5】図3の処理で用いられるCETHマップの一例である。
【図6】図2のステップ13における低負荷時セタン価CETLの算出処理を示すフローチャートである。
【図7】図6の処理で用いられるCETLテーブルの一例である。
【図8】図2のステップ15におけるアイドル時セタン価CETIの算出処理を示すフローチャートである。
【図9】実着火時期CAFMの検出方法を説明するための図である。
【図10】図8の処理で用いられるCETTテーブルの一例である。
【図11】熱発生量QHRとスート量の車速VPに応じた関係を示す図である。
【図12】EGR量を減量した場合の熱発生量QHRとスート量の車速VPに応じた関係を示す図である。
【図13】第2実施形態によるセタン価CETの算出処理を示すフローチャートである。
【図14】図13の処理において実行される走行時セタン価CETDの算出処理を示すフローチャートである。
【図15】第1〜第3セタン価にそれぞれ対応する3つの熱発生量マップである。
【図16】図14の処理において作成される走行時暫定セタン価CETDINTを求めるためのテーブルの一例である。
【図17】図14のCETD算出処理の変形例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0099】
1 制御装置
2 ECU(熱発生量算出手段、セタン価推定手段、熱発生量記憶手段、
暫定決定手段)
3 内燃機関
7 EGR装置(排ガス還流手段)
7b EGR制御弁(排ガス還流量低減手段)
21 筒内圧センサ(圧力変化量検出手段)
22 クランク角センサ(負荷検出手段)
28 アクセル開度センサ(負荷検出手段)
29 車速センサ(負荷検出手段)
#1〜#4 気筒
DP 圧力変化量
VP 車速(内燃機関の負荷)
NE エンジン回転数(内燃機関の負荷)
PMCMD 要求トルク(内燃機関の負荷)
QHRL 熱発生量
QHRH 熱発生量
QHRD 熱発生量
QEGR EGR量(排ガス還流量)
CETL 低負荷時セタン価(燃料の性状)
CETH 中高負荷時セタン価(燃料の性状)
CETD 走行時セタン価(燃料の性状)
CET1〜3 第1〜第3セタン価(所定の性状)
QHRDREF1〜3 参照用熱発生量
CETDINT 走行時暫定セタン価(暫定的に決定した燃料の性状)
NEOut フィルタ値(フィルタリング処理を施した内燃機関の負荷)
PMCMDOut フィルタ値(フィルタリング処理を施した内燃機関の負荷)
K 重み係数(フィルタリング特性)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒内の圧力の変化量を圧力変化量として検出する圧力変化量検出手段と、
当該検出された圧力変化量に応じて、前記気筒内に発生した熱量を熱発生量として算出する熱発生量算出手段と、
前記内燃機関の負荷を検出する負荷検出手段と、
前記算出された熱発生量および前記検出された内燃機関の負荷に基づき、燃料の性状を推定する燃料性状推定手段と、
を備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記気筒から排出された排ガスの一部を当該気筒に還流させる排ガス還流手段と、
前記燃料性状推定手段により前記燃料の性状を推定するときに、前記内燃機関の負荷に応じて、前記気筒に還流する排ガスの量を低減させる排ガス還流量低減手段と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
互いに異なる所定の性状を有する燃料の燃焼に伴って発生する熱発生量を、前記所定の性状ごとに、前記内燃機関の負荷に応じて、参照用熱発生量としてあらかじめ記憶する熱発生量記憶手段をさらに備え、
前記燃料性状推定手段は、前記検出された内燃機関の負荷に応じて前記熱発生量記憶手段から検索された前記所定の性状ごとの参照用熱発生量と、前記熱発生量算出手段によって算出された熱発生量に応じて、燃料の性状を推定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃料性状推定手段は、
前記検索された所定の性状ごとの参照用熱発生量と、前記算出された熱発生量に応じて、燃料の性状を暫定的に決定する暫定決定手段を有し、
当該暫定的に決定した燃料の性状にフィルタリング処理を施すことによって、燃料の性状を推定することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記燃料性状推定手段は、前記検出された内燃機関の負荷にフィルタリング処理を施し、当該フィルタリング処理を施した内燃機関の負荷に基づき、前記複数の参照用熱発生量を検索することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記負荷検出手段は、前記内燃機関の負荷として、互いに異なる複数の種類の負荷を検出し、
前記燃料性状推定手段は、前記検出された内燃機関の複数の種類の負荷のそれぞれに、互いに同じフィルタリング特性によりフィルタリング処理を施すことを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−95675(P2008−95675A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308151(P2006−308151)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】