説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の高負荷運転時の出力性能の低下と高オクタン価燃料の消費とを極力抑制するようにしつつ、ノッキングの発生の防止を適切に行う。
【解決手段】高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とを使用して運転を行う内燃機関1の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、燃焼室3への空気供給量の増加に伴い、燃焼室3への高オクタン価燃料供給割合を増加させ、その後、内燃機関1の出力トルクの減少の要求に応じて燃焼室への空気供給量を減少させることに伴い、燃焼室3への高オクタン価燃料供給割合を減少させる。燃焼室3への空気供給量の減少に伴い、高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、EGR率を増加させるか、又はアトキンソンサイクル運転を行って実行圧縮比を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とを使用して運転を行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1、2に見られる如く、高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とを燃料として用いて運転を行う内燃機関が知られている。この種の内燃機関では、燃焼室に供給する燃料中の高オクタン価燃料の供給量の割合いと低オクタン価燃料の供給量の割合いとを、内燃機関の運転状態に応じて可変的に制御することで、ノッキングの発生の防止や、燃費の向上が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−293600号公報
【特許文献2】特開2000−329013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とを燃料として用いて運転を行う内燃機関では、高負荷運転時に燃焼室への高オクタン価燃料の供給割合を多くすることで、ノッキングの発生を防止できることから、内燃機関の出力性能を向上させる(出力可能なトルクの上限を高める)ことが可能である。
【0005】
しかるに、特許文献1、2に見られる技術では、内燃機関の高負荷運転時には、内燃機関の燃焼室への高オクタン価燃料の供給割合を高く保持することで、ノッキングの発生を防止することを基本としているため、高負荷運転が頻繁に行われるような場合には、高オクタン価燃料の残量が早期に減少し易しやすい。
【0006】
そして、高オクタン価燃料の残量が少なくって、内燃機関の燃焼室に供給し得る高オクタン価燃料が不足すると、高オクタン価燃料の積極的な使用によってノッキングの発生を防止するようにすることができなくなる。このため、このような状況では、内燃機関で出力させるトルクの上限を低下させざるを得なくなる。
【0007】
例えば、特許文献1に見られる技術では、高オクタン価燃料の残量が所定の基準値以下に減少した状況では、ノッキングが発生すると、点火時期を遅角させることで、内燃機関の出力トルクを減少させるようにしている。
【0008】
このように、特許文献1、2に見られる如き従来の技術では、内燃機関の高負荷運転が頻繁に行なわれると、高オクタン価燃料が早期に減少しやすく、ひいては、内燃機関の出力性能を制限せざるを得なくなる状況が発生しやすいという不都合があった。
【0009】
本発明はかかる背景に鑑みてなされてものであり、内燃機関の高負荷運転時の出力性能の低下と高オクタン価燃料の消費とを極力抑制するようにしつつ、ノッキングの発生の防止を適切に行うことができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の内燃機関の制御装置の第1の態様は、かかる目的を達成するために、高オクタン価燃料と、該高オクタン価燃料よりもオクタン価が低い低オクタン価燃料とを燃料として用い、燃焼室に供給する燃料中の高オクタン価燃料の供給量の割合いである高オクタン価燃料供給割合と低オクタン価燃料の供給量の割合いである低オクタン価燃料供給割合とを可変的に制御可能に構成された内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関には、EGR率を可変的に制御可能なEGR装置が付設されており、
前記内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、前記燃焼室への空気供給量の増加に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を増加させ、その後、前記内燃機関の出力トルクの減少の要求に応じた前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させるように該高オクタン価燃料供給割合を制御する燃料供給制御手段と、
該燃料供給手段が前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、前記EGR装置のEGR率を、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間よりも増加させるように制御するEGR制御手段とを備えることを特徴とする(第1発明)。
【0011】
なお、前記EGR装置は、内燃機関の燃焼室から排出される排ガスの一部を吸気側に還流させ、その還流させた排ガスを、該燃焼室の吸気行程において、空気(新気)と共に該燃焼室に供給する装置である。そして、前記EGR率は、燃焼室に供給される空気と排ガスとの総量に対する排ガス量の割合を意味する。
【0012】
また、前記高オクタン価燃料供給割合を増加させるということは、前記低オクタン価燃料供給割合を減少させることと等価である。同様に、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させるということは、前記低オクタン価燃料供給割合を増加させることと等価である。
【0013】
上記第1発明によれば、前記内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合、すなわち、該出力トルクの目標値が増加された場合に、前記燃焼室への空気供給量の増加に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を増加させるので、内燃機関のノッキングの発生を抑制しつつ、該内燃機関の出力トルクを高トルクまで円滑に増加させることができる。
【0014】
ここで、内燃機関を走行用の動力源として搭載する車両を加速しようとする場合等、内燃機関の出力トルクを増加させようとする場合、通常、その増加の要求の発生の直後は、内燃機関の出力トルクの目標値は、最終的な目標値よりも大きめの目標値に設定される。そして、内燃機関の燃焼室への空気供給量の増加(ひいては実際の出力トルクの増加)によって、内燃機関の実際の出力トルクが最終的な目標値にほぼ一致するようになると、前記内燃機関の出力トルクの減少の要求が発生し、内燃機関の出力トルクの目標値が減少されることとなる。
【0015】
この場合、第1発明においては、前記内燃機関の出力トルクの減少の要求に応じた前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合が減少される。加えて、このように高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況では、前記EGR装置のEGR率が、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間(すなわち、出力トルクの増加の要求の発生後、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始されるまでの期間)よりも増加される。
【0016】
ここで、前記EGR率を増加させ、内燃機関の燃焼室に還流させる排ガス量を増加させることは、ノッキングの発生を抑制する効果がある。このため、内燃機関の実際の出力トルクが最終的な目標値にほぼ一致するようなトルクまで上昇した後に、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況では、内燃機関のノッキングの発生を抑制するための高オクタン価燃料の必要供給量が軽減されることとなる。従って、前記燃焼室への空気供給量の減少に伴う前記高オクタン価燃料供給割合の減少度合いを、前記EGR率の増加を行なわない場合よりも高めることができることとなる。
【0017】
そして、このように高オクタン価燃料供給割合の減少度合いを高めて、前記燃焼室への高オクタン価燃料の供給量を少なくするようにしても、EGR率の増加によって、内燃機関のノッキングの発生を防止できることとなる。
【0018】
よって、第1発明によれば、内燃機関の高負荷運転時の出力性能の低下と高オクタン価燃料の消費とを極力抑制するようにしつつ、ノッキングの発生の防止を適切に行うことができる。
【0019】
かかる第1発明では、前記EGR制御手段は、前記EGR率の目標値を、少なくとも前記内燃機関の出力トルクの目標値に応じて変化させるように設定する手段と、該目標値に応じて前記EGR率を制御する手段とを備え、前記EGR率の目標値を設定する手段は、前記出力トルクの目標値が高いほど、前記EGR率の目標値が小さくなるようにあらかじめ定められた特性で、該EGR率の目標値を設定することが好ましい(第2発明)。
【0020】
この第2発明によれば、前記EGRの目標値は、前記出力トルクの目標値が高いほど、小さくなるように設定されるので、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、前記EGR率の目標値が増加し、ひいては、実際のEGR率が増加されることとなる。そして、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間では、前記出力トルクの目標値が高いことから、EGR率の目標値が小さい(ゼロでもよい)ものとなる。
【0021】
前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間では、前記燃焼室に十分な量の空気を充填できることとなり、内燃機関の出力トルクを、高い応答性で高トルクまで増加させることができる。
【0022】
また、上記第1発明又は第2発明では、前記EGR装置は、前記内燃機関の吸気側に排ガスを還流させるEGR通路に、該排ガスを冷却する排ガス冷却手段を備えるEGR装置であることが好ましい(第3発明)。
【0023】
この第3発明によれば、前記燃焼室に還流させる排ガスの温度を低くすることができる。このため、前記EGR率の増加によるノッキングの発生の防止効果を高めることができる。ひいては、前記燃焼室への空気供給量の減少に伴う前記高オクタン価燃料供給割合の減少度合いをより一層高めることができる。この結果、高負荷運転時の高オクタン価燃料の消費をより一層低減することができる。
【0024】
また、上記第1〜第3発明では、前記内燃機関は、実効圧縮比を可変的に制御可能なアトキンソンサイクル運転を行なうことが可能なように構成された内燃機関であり、前記燃料供給手段が前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、前記実効圧縮比を、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間よりも減少させるように制御する実効圧縮比制御手段をさらに備えるようにしてもよい(第4発明)。
【0025】
すなわち、前記実効圧縮比を減少させることは、EGR率を増加させる場合と同様に、ノッキングの発生を抑制する効果がある。このため、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、EGR率を増加させることと並行して、前記実効圧縮比を、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間よりも減少させることで、内燃機関のノッキングの発生を抑制するための高オクタン価燃料の必要供給量がより一層、軽減されることとなる。従って、前記燃焼室への空気供給量の減少に伴う前記高オクタン価燃料供給割合の減少度合いをより一層高めて、高オクタン価燃料の消費の抑制効果を高めることができる。
【0026】
補足すると、前記アトキンソンサイクル運転は、燃焼室の実効圧縮比が膨張比よりも小さくなるような燃焼サイクルでの運転(ミラーサイクルでの運転を含む)である。そして、実効圧縮比を可変的に制御可能なアトキンソンサイクル運転を行なうことが可能なように構成された内燃機関としては、該内燃機関の吸気系に、該内燃機関の吸気バルブの開弁期間の位相角を変化させる機構(例えばVTCと言われる機構)と、該吸気バルブのリフト量及び開弁期間の角度幅を変化させる機構(例えばVTEC(登録商標)と言われる機構)とのうちの一方又は両方を備えた内燃機関が挙げられる。この場合、アトキンソンサイクルはミラーサイクルとして実現される。
【0027】
上記の如く、前記実効圧縮比を減少させることで、EGR率を増加させる場合と同様に、ノッキングの発生を抑制する効果があることから、本発明は次の形態を採用してもよい。
【0028】
すなわち、本発明の内燃機関の制御装置の第2の態様は、高オクタン価燃料と、該高オクタン価燃料よりもオクタン価が低い低オクタン価燃料とを燃料として用い、燃焼室に供給する燃料中の高オクタン価燃料の供給量の割合いである高オクタン価燃料供給割合と低オクタン価燃料の供給量の割合いである低オクタン価燃料供給割合とを可変的に制御可能に構成された内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関は、実効圧縮比を可変的に制御可能なアトキンソンサイクル運転を行なうことが可能なように構成された内燃機関であり、
前記内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、前記燃焼室への空気供給量の増加に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を増加させ、その後、前記内燃機関の出力トルクの減少の要求に応じた前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させるように該高オクタン価燃料供給割合を制御する燃料供給制御手段と、
該燃料供給手段が前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、前記実効圧縮比を、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間よりも減少させるように制御する実効圧縮比制御手段とを備えることを特徴とする(第5発明)。
【0029】
この第5発明によれば、前記内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、前記燃焼室への空気供給量の増加に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を増加させるので、第1発明と同様に、内燃機関のノッキングの発生を抑制しつつ、該内燃機関の出力トルクを高トルクまで円滑に増加させることができる。
【0030】
そして、前記実効圧縮比を減少させることは、ノッキングの発生を抑制する効果があるので、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況では、内燃機関のノッキングの発生を抑制するための高オクタン価燃料の必要供給量が軽減されることとなる。従って、前記燃焼室への空気供給量の減少に伴う前記高オクタン価燃料供給割合の減少度合いを、前記実効圧縮比の減少を行なわない場合よりも高めることができることとなる。
【0031】
そして、このように高オクタン価燃料供給割合の減少度合いを高めて、前記燃焼室への高オクタン価燃料の供給量を少なくするようにしても、実効圧縮比の減少によって、内燃機関のノッキングの発生を防止できることとなる。
【0032】
よって、第5発明によれば、第1発明と同様に、内燃機関の高負荷運転時の出力性能の低下と高オクタン価燃料の消費とを極力抑制するようにしつつ、ノッキングの発生の防止を適切に行うことができる。
【0033】
上記の如く実効圧縮比の制御を行う前記第4発明又は第5発明では、前記実効圧縮比制御手段は、前記実効圧縮比の目標値を、少なくとも前記内燃機関の出力トルクの目標値に応じて変化させるように設定する手段と、該目標値に応じて前記実効圧縮比を制御する手段とを備え、前記実効圧縮比の目標値を設定する手段は、前記出力トルクの目標値が高いほど、前記実効圧縮比の目標値が大きくなるようにあらかじめ定められた特性で、該実効圧縮比の目標値を設定することが好ましい(第6発明)。
【0034】
この第6発明によれば、前記実効圧縮比の目標値は、前記出力トルクの目標値が高いほど、大きくなるように設定されるので、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、前記実効圧縮比の目標値が減少し、ひいては、実際の実効圧縮比が減少されることとなる。そして、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間では、前記出力トルクの目標値が高いことから、実効圧縮比の目標値が大きいものとなる。
【0035】
従って、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間では、実効圧縮比を大きなものとして、内燃機関の出力トルクを、高トルクまで増加させることができる。
【0036】
また、前記第1〜第6発明では、前記内燃機関には、前記内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、前記燃焼室への空気の過給を行なう過給機が付設されていてもよい(第7発明)。
【0037】
この第7発明によれば、内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、前記過給機によって、前記燃焼室への空気の過給が行なわれるため、ノッキングが発生しやすくなるものの、前記燃焼室への空気供給量の増加に伴い、高オクタン価燃料供給割合が増加されるため、ノッキングの発生を効果的に防止しつつ、内燃機関の出力トルクをより一層の高トルクまで円滑に上昇させることができる。
【0038】
そして、内燃機関の出力トルクが最終的な目標値にほぼ一致するようなトルクまで上昇し、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況になると、すると、内燃機関の出力トルクの減少の要求応じたが発生し、できる。前記EGR率の増加させることと、前記実効圧縮比を減少させることのいずれか一方又は両方が行なわれることで、高オクタン価燃料供給割合を速やかに減少させて、高オクタン価燃料の消費を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態における内燃機関およびこれに付帯するシステムの構成を示す図。
【図2】図1に示す内燃機関の吸気バルブ及び排気バルブに関する構成を模式的に示す図。
【図3】図1に示す内燃機関の吸気バルブの駆動特性を示すグラフ。
【図4】図1に示す電子制御装置の処理を示すフローチャート。
【図5】図4のSTEP1の処理で使用するマップを示す図。
【図6】図4のSTPE2の処理で使用するマップを示す図。
【図7】図4のSTPE2の処理で使用するマップを示す図。
【図8】図4のSTPE2の処理で使用するマップを示す図。
【図9】図1に示す電子制御装置の処理を示すフローチャート。
【図10】図9のSTEP12の処理で使用するマップを示す図。
【図11】図9のSTPE12の処理で使用するマップを示す図。
【図12】第1実施形態における作動を説明するためのグラフ。
【図13】本発明の第2実施形態における内燃機関およびこれに付帯するシステムの構成を示す図。
【図14】第1実施形態のにおける作動を説明するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を以下に説明する。図1及び図2を参照して、本実施形態のシステムは、車両に走行用の動力源として搭載された内燃機関1と、この内燃機関1の運転制御を行う電子制御装置50とを備えている。
【0041】
内燃機関1は、本実施形態では、例えば4気筒の内燃機関である。但し、内燃機関1の気筒数は、4個である必要はない。例えば内燃機関1は、単気筒もしくは6気筒の内燃機関であってもよい。
【0042】
この内燃機関1の吸気系は、各気筒2の燃焼室3で燃焼させる燃料と混合する空気(新気)を、全気筒2に対して共通の吸気通路4と各気筒2の燃焼室3の吸気ポートに連通するインテークマニホールド5とを順に経由して各気筒2の燃焼室3に供給するように構成されている。
【0043】
この場合、吸気通路4には、これに外部から流入する空気中(大気中)の不要物を除去するエアクリーナ6と、空気の流量を調整するためのスロットル弁7とが上流側から順に介装されている。スロットル弁7は、電動式のスロットル弁であり、その開度が図示しない電動モータを介して制御される。
【0044】
そして、各気筒2の燃焼室3の吸気ポートを開閉するための吸気バルブ8と、該吸気バルブ8を開閉駆動する吸気バルブ駆動機構9とが内燃機関1に付設されている。
【0045】
本実施形態では、内燃機関1の各気筒2の燃焼室3の実効圧縮比を可変的に制御可能なアトキンソンサイクル(ミラーサイクル)での内燃機関1の運転を実現するするために、吸気バルブ駆動機構9は、吸気バルブ8の開弁期間の位相角を変化させるための公知のバルブ位相可変機構(所謂、VTCと言われる機構)と、吸気バルブ8の吸気バルブ8のリフト量(最大開度)と開弁期間の角度幅とを変化させるための公知のバルブリフト可変機構(所謂、VTEC(登録商標)と言われる機構)とを有する構成とされている。
【0046】
なお、吸気バルブ8の開弁期間の角度幅というのは、吸気バルブ8の開弁開始から開弁終了までの開弁期間を、内燃機関1の出力軸であるクランク軸12の回転角度幅で表したもの、すなわち、吸気バルブ8の開弁開始時のクランク軸12の位相角(回転角度位置)と吸気バルブ8の開弁終了時のクランク軸12の位相角との間の角度差である。また、吸気バルブ8の開弁期間の位相角というのは、該開弁期間の全体がクランク軸12のどの位相角の範囲に存在するかを代表的に示す位相角を意味し、例えば吸気バルブ8の開弁開始の位相角(開弁開始時のクランク軸12の位相角)又は吸気バルブ8の開弁終了の位相角(開弁終了時のクランク軸12の位相角)により表される。
【0047】
詳細な構成の図示は省略するが、かかる吸気バルブ駆動機構9の概略的な構成は次の通りである。すなわち、図2を参照して、吸気バルブ駆動機構9は、各気筒2毎に、2つの吸気カム10L,10Hを備えており、これらの吸気カム10L,10Hは、吸気側カムシャフト11と一体に回転するようにして該吸気側カムシャフト11に軸支されている。
【0048】
上記吸気カム10L,10Hのプロフィール(形状パターン)は、吸気バルブ8のリフト量(最大開度)と開弁期間の角度幅とが互いに異なるものとなるように設定されている。
【0049】
これらの吸気カム10L,10Hのプロフィールは、図3に実線a,cで示す如く、吸気カム10Hによる吸気バルブ8のリフト量及び開弁期間の角度幅のそれぞれが、吸気カム10Lよる吸気バルブ8のリフト量及び開弁期間の角度幅よりも大きくなるようなプロフィールである(以降、吸気カム10Hを大リフト吸気カム10H、吸気カム10Lを小リフト吸気カム10Lということがある)。なお、図3の横軸のクランク角度は、クランク軸12の位相角を意味する。
【0050】
この場合、大リフト吸気カム10Hによる吸気バルブ8の開弁期間の角度幅は、小リフト吸気カム10Lよる吸気バルブ8の開弁期間の角度幅よりも、各気筒2のピストン14の上死点の位相角と下死点の位相角との間の角度差(=180deg)により近い角度幅に設定されている。より詳しくは、大リフト吸気カム10Hによる吸気バルブ8の開弁期間の角度幅は、例えば、上死点の位相角と下死点の位相角との間の角度差(=180deg)よりも若干大きい角度幅(例えば190deg)に設定されている。
【0051】
また、小リフト吸気カム10Lによる吸気バルブ8の開弁期間の角度幅は、上死点の位相角と下死点の位相角との間の角度差(=180deg)よりも小さく、例えば、100deg程度に設定されている。
【0052】
そして、吸気バルブ駆動機構9は、吸気バルブ8をロッカアーム15を介して実際に開閉駆動する吸気カムを、油圧式のバルブリフト可変機構によって、小リフト吸気カム10Lと、大リフト吸気カム10Hとのいずれか一方に選択的に切替えるように構成されている。この場合、小リフト吸気カム10Lは、内燃機関1の低負荷運転用の吸気カムとして用いられ、大リフト吸気カム10Hは、内燃機関1の高負荷運転用の吸気カムとして用いられる。
【0053】
上記バルブリフト可変機構は、公知の構造のものであり、例えば特開2005−180306号公報の図2に示されるものと同様の構成のものが採用される。但し、バルブリフト可変機構は、吸気バルブ8を開閉駆動する吸気カムを、小リフト吸気カム10Lと大リフト吸気カム10Hとのいずれか一方に選択的に切替えることができる機構であれば他の構成のものを採用してもよい。
【0054】
また、吸気カム10L,10Hを軸支する吸気側カムシャフト11は、内燃機関1のクランク軸12に連動して回転する(クランク軸12の2回転毎に1回転する)ように該クランク軸12にタイミングベルト(図示省略)を介して接続された油室形成部材に(図示省略)に軸支されており、その回転方向での該油室形成部材に対する吸気側カムシャフト11の位相角(角度位置)を所定の角度範囲内で変化させることが可能となっている。
【0055】
これにより、クランク軸12の位相角に対する吸気側カムシャフト11の位相角、ひいては小リフト吸気カム10Lと大リフト吸気カム10Hの位相角を所定の角度範囲内で連続的に変化させることが可能となっている。
【0056】
そして、吸気バルブ駆動機構9は、クランク軸12の位相角に対する吸気側カムシャフト11の位相角(ひいてはクランク軸12の位相角に対する小リフト吸気カム10L及び大リフト吸気カム10Hの位相角)を、油圧式のバルブ位相可変機構によって変化させるように構成されている。この構成によって、図3の矢印Y1,Y2で示す如く、小リフト吸気カム10L及び大リフト吸気カム10Hのそれぞれによる吸気バルブ8の開弁期間の位相角を所定の範囲で連続的に変化させることができるようになっている。
【0057】
上記バルブ位相可変機構は、公知の構造のものであり、例えば、特開2005−180306号公報の図3に示されるものと同様の構成のものが採用される。但し、バルブ位相可変機構は、クランク軸12の位相角に対する小リフト吸気カム10L及び大リフト吸気カム10Hの位相角を所定の範囲で連続的に変化させることができる機構であれば他の構成のものを採用してもよい。
【0058】
上記のように吸気バルブ駆動機構9がバルブ位相可変機構とバルブリフト可変機構とを備えることで、各気筒2の燃焼室3の実効圧縮比を可変的に設定することが可能となっている。例えば、小リフト吸気カム10Lにより吸気バルブ8を開閉駆動する場合に、吸気バルブ8の開弁期間の位相角状態を、図3の実線aの状態から二点鎖線bの状態に向って連続的に変化させることによって、実効圧縮比を連続的に増加させていくことができる。
【0059】
この場合、本実施形態では、小リフト吸気カム10Lによる吸気バルブ8の開閉駆動時には、吸気バルブ8の閉弁開始の位相角が、下死点の位相角よりも進角側の位相角になるように開弁期間の位相角を設定することによって、実効圧縮比が膨張比よりも小さくなるアトキンソンサイクル(ミラーサイクル)での内燃機関1の運転が実現されることとなる。
【0060】
また、大リフト吸気カム10Hにより吸気バルブ8を開閉駆動する場合に、吸気バルブ8の開弁期間の位相角状態を図3の実線cの状態から二点鎖線dの状態に向って連続的に変化させることによって、実効圧縮比を連続的に減少させていくことができる。
【0061】
この場合、本実施形態では、大リフト吸気カム10Hによる吸気バルブ8の開閉駆動時には、吸気バルブ8の閉弁開始の位相角が、下死点の位相角よりも遅角側の位相角になるように開弁期間の位相角を設定することによって、実効圧縮比が膨張比よりも小さくなるアトキンソンサイクル(ミラーサイクル)での内燃機関1の運転が実現されることとなる。
【0062】
なお、図3の実線cの状態では、吸気バルブ8の開弁開始及び開弁終了が、それぞれ上死点、下死点とほぼ同じ位相角で行なわれることとなることから、実効圧縮比が膨張比とほぼ同一となるオットーサイクルでの内燃機関1の運転が実現されることとなる。
【0063】
さらに、吸気バルブ8を開閉駆動する吸気カムを、小リフト吸気カム10L及び大リフト吸気カム10Hの一方から他方に切替えることによって、実効圧縮比を増加又は減少させることもできる。この場合、小リフト吸気カム10Lを使用する場合よりも大リフト吸気カム10Hを使用する場合の方が、実効圧縮比をより高めることができる。
【0064】
内燃機関1の排気系は、各気筒2の燃焼室3で生成される排ガスを、各気筒2の燃焼室3の排気ポートに連通するエギゾーストマニホールド17と、全気筒2に対して共通の排気通路18とを順に経由して排気するように構成されている。この場合、排気通路18には、排ガス浄化用の触媒19が介装されている。
【0065】
そして、各気筒2の燃焼室3の排気ポートを開閉するための排気バルブ20と、該排気バルブ20を開閉駆動する排気バルブ駆動機構21とが内燃機関1に付設されている。
【0066】
この排気バルブ駆動機構21は、内燃機関1のクランク軸12に連動して回転する(クランク軸12の2回転毎に1回転する)排気側カムシャフト22に、これと一体に回転自在に軸支された排気カム23を各気筒2毎に備えており、この排気カム23により、ロッカアーム24を介して排気バルブ20を開閉駆動する。なお、排気カム23のプロフィール(形状パターン)は、本実施形態では、例えば前記大リフト吸気カム10Hのプロフィール(図3の実線cのパターン)と同様のパターンに設定され、排気バルブ20の開弁期間の角度幅が、各気筒2のピストン14の下死点の位相角と上死点の位相角との間の角度差(180deg)よりも若干大きい角度幅に設定される。
【0067】
上記の如く構成された内燃機関1の吸気系及び排気系には、さらにEGR装置25と過給機26とが付設されている。
【0068】
EGR装置25は、排ガスの一部を吸気側に還流させ、その還流させた排ガスを各気筒2の燃焼室3に空気(燃料と混合する新気)と共に供給する装置であり、排気通路18の上流端部(エギゾーストマニホールド17との接続箇所近辺)から分流されてインテークマニホールド5に合流されたEGR通路27(還流される排ガスの通路)を備えている。
【0069】
このEGR通路27には、吸気側に還流させる排ガスを冷却する排ガス冷却手段としてのEGRクーラ28と、該排ガスの流量を制御するための電動式又は電磁式の流量制御弁29(以下、EGR弁29という)とが介装され、EGR弁29の開度を制御することで、EGR率(燃焼室3に供給する空気と排ガスとの総量に対する排ガス量の割合い)を制御することが可能となっている。
【0070】
過給機26は、本実施形態では排気タービン式過給機(所謂、ターボチャージャ)である。より詳しくは、この過給機26は、触媒19の上流側で排気通路18に介装された羽根車30と、スロットル弁7の上流側(エアクリーナ6の下流側)で吸気通路4に介装された羽根車31とを備え、これらの羽根車30,31が一体に回転し得るように連結されている。そして、過給機26は、排気通路18を流れる排ガスによって羽根車30,31を回転させることで、吸気通路4を下流側に向って(スロットル弁7に向って)流れる空気の圧力を高め、それにより、各気筒2の燃焼室3に供給される空気量を増量させるようにしている。
【0071】
また、内燃機関1には、各気筒2の燃焼室3で燃焼させる燃料を供給する燃料供給装置32の構成要素として各気筒2毎に設けられた燃料噴射弁33a,33bが付設されている。
【0072】
ここで、本実施形態の内燃機関1は、高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とを使用して運転を行なう機関である。より詳しくは、本実施形態では、高オクタン価燃料は、例えばエタノールであり、低オクタン価燃料は、例えばガソリンである。
【0073】
これらの高オクタン価燃料と低オクタン価燃料は、本実施形態では、エタノールとガソリンとが混合された原燃料(例えばE10等の燃料)から分離・生成される。
【0074】
より詳しくは、図2を参照して、燃料供給装置32は、低オクタン価燃料を貯蔵する第1燃料タンク34と、高オクタン価燃料を貯蔵する第2燃料タンク35とを備え、第1燃料タンク34に原燃料が適宜補充されるようになっている。
【0075】
この場合、第1燃料タンク34には、原燃料を高オクタン価燃料(エタノール)と低オクタン価燃料(ガソリン)とに分離する分離器36が備えられ、この分離器36で原燃料から分離された高オクタン価燃料(エタノール)が第2燃料タンク35に移送されて貯蔵されると共に、残りの低オクタン価燃料(ガソリン)が第1燃料タンク34に貯蔵されるようになっている。
【0076】
なお、高オクタン価燃料には、エタノールよりも十分に小さい含有割合でガソリンが含まれていてもよく、低オクタン価燃料には、ガソリンよりも十分に小さい含有割合でエタノールが含まれていてもよい。
【0077】
そして、燃料供給装置32は、第2燃料タンク35の高オクタン価燃料をポンプ等により構成される昇圧機構37により昇圧して、燃料噴射弁33a,33bのうちの燃料噴射弁33aに供給する。また、燃料供給装置32は、第1燃料タンク34の低オクタン価燃料をポンプ等により構成される昇圧機構38により昇圧して、燃料噴射弁33a,33bのうちの燃料噴射弁33bに供給する。
【0078】
燃料噴射弁33a,33bは、本実施形態では、ポート噴射型のものであり、図2に示す如くインテークマニホールド5に取り付けられている。そして、各燃料噴射弁33a,33bは、その開弁時間を制御することで、燃料噴射量(燃焼室3への燃料供給量)を制御することが可能となっている。なお、燃料噴射弁33a,33bのうちの一方、例えば、高オクタン価燃料用の燃料噴射弁33aを直噴型としてもよい。
【0079】
上記のように高オクタン価燃料用の燃料噴射弁33aと、低オクタン価用の燃料噴射弁33bとを各別に備えることで、両燃料噴射弁33a,33bによって各気筒2の燃焼室3に供給されるトータルの燃料中の高オクタン価燃料の供給割合と低オクタン価燃料の供給割合とを可変的に制御できることとなる。なお、高オクタン価燃料の供給割合は、1回当たりの燃焼サイクルで、各気筒2の燃焼室3に供給されるトータルの燃料の全体積に対する高オクタン価燃料の体積の割合である。低オクタン価燃料についても同様である。
【0080】
また、内燃機関1には、各気筒2の燃焼室3で圧縮される混合気に点火する点火装置の構成要素として各気筒2毎に設けられた点火プラグ40が付設されている。
【0081】
点火プラグ40は、図2に示すように各気筒2の燃焼室3の頂部に装着され、所要のタイミングで図示しないディストリビュータから高電圧が供給されて火花放電を発生する。
【0082】
以上が本実施形態のシステム(内燃機関1及びこれに付帯するシステム)の機構的な構成である。
【0083】
電子制御装置50は、CPU、RAM、ROM等を含む電子回路ユニットであり、前記スロットル弁7、吸気バルブ駆動機構9のバルブ位相可変機構及びバルブリフト可変機構、EGR装置25のEGR弁29、燃料供給装置32の燃料噴射弁33a,33b、点火プラグ40の動作を制御する。
【0084】
これらの制御を担う電子制御装置50には、各種のセンサの検出信号が入力される。本実施形態のシステムでは、以下に示すようなセンサが備えられており、これらのセンサの検出信号が電子制御装置50に入力される。
【0085】
すなわち、本実施形態のシステムでは、内燃機関1のクランク軸12の回転数NE(回転速度)を検出するための信号(詳しくは、クランク軸12の所定の回転角度毎に発生するパルス信号)を出力する回転数センサ51が内燃機関1に付設されている。
【0086】
また、吸気通路4を流れる空気の流量Qを検出する空気流量センサ52と、スロットル弁7に流入する空気の圧力P2(過給機26の羽根車31とスロットル弁7との間の圧力)を検出する圧力センサ53とが吸気通路4に設けられている。
【0087】
さらに、本実施形態のシステムには、図示を省略する車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下、アクセル操作量という)を検出するアクセルセンサ54と、前記第2燃料タンク35内の高オクタン価燃料(エタノール)の残量を検出する燃料残量センサ55とが備えられている。
【0088】
次に、本実施形態のシステムの作動を説明する。前記電子制御装置50は、図4のフローチャートに示す制御処理と、図9のフローチャートに示す制御処理とを実行することで、内燃機関1の運転制御を行う。
【0089】
図4のフローチャートに示す制御処理は、内燃機関1の各気筒2の燃焼室3に供給される空気量を制御するために、前記吸気バルブ駆動機構9の動作状態(詳しくは、吸気バルブ8を開閉駆動するカムの種類(高負荷用カム10H又は低負荷用カム10L)、並びに、そのカムの位相)と、EGR装置25のEGR弁29の開度と、スロット弁7の開度(以下、スロットル開度という)とを制御するための処理である。この場合、吸気バルブ駆動機構9の動作状態の制御処理は、各気筒2の燃焼室3の実効圧縮比を制御するための処理であり、EGR弁29の開度の制御処理は、EGR率を制御するための処理である。
【0090】
図4のフローチャートに示す制御処理では、電子制御装置50は、まず、STEP1で、吸気通路4の空気流量Qの目標値である目標空気量を決定する。
【0091】
具体的には、電子制御装置50は、内燃機関1の要求トルク(出力トルクの目標値)と、回転数センサ51の出力により認識される回転数NEの計測値とから、図5に示す如く設定されたマップ(要求トルクと回転数NEと目標空気量との間の関係を規定するマップ)に基づいて、要求トルクを実現するために必要な目標空気量を決定する。
【0092】
図5に示すマップの基本的傾向は、要求トルクが大きいほど、目標空気量が大きくなり、また、回転数NEが高いほど、目標空気量が大きくなるように設定されている。なお、要求トルクは、前記アクセルセンサ54の出力により認識されるアクセル操作量の計測値から、あるいは、該アクセル操作量の計測値と車速の計測値とから、図示しないマップに基づき決定される。この場合、基本的には、要求トルクは、アクセル操作量が大きいほど、大きくなるように決定される。
【0093】
次いで、STEP2に進んで、電子制御装置50は、目標空気量を実現するための実効圧縮比の目標値と、EGR率の目標値と、スロットル開度の目標値とを設定する。
【0094】
具体的には、電子制御装置50は、STEP1で決定した目標空気量と、前記圧力センサ53の出力により認識される圧力P2(スロットル弁7に流入する空気の圧力)の計測値と、内燃機関1の回転数NEの計測値とから図6に示す如く設定されたマップ(目標空気量と圧力P2と回転数NEと実効圧縮比の目標値との間の関係を規定するマップ)に基づいて、実効圧縮比の目標値を設定する。図6に示すマップの基本的な傾向は、目標空気量が大きいほど、実効圧縮比の目標値が増加し、また、圧力P2が大きいほど、実効圧縮比の目標値が減少し、また、回転数NEが高いほど、実効圧縮比の目標値が減少するように設定されている。
【0095】
また、電子制御装置50は、目標空気量と、圧力P2の計測値と、回転数NEの計測値とから図7に示す如く設定されたマップ(目標空気量と圧力P2と回転数NEとEGR率の目標値との間の関係を規定するマップ)に基づいて、EGR率の目標値を設定する。図7に示すマップの基本的な傾向は、目標空気量が大きいほど、EGR率の目標値が減少し、また、圧力P2が大きいほど、EGR率の目標値が増加し、また、回転数NEが高いほど、EGR率の目標値が増加するように設定されている。
【0096】
また、電子制御装置50は、目標空気量と、圧力P2の計測値と、回転数NEの計測値とから図8に示す如く設定されたマップ(目標空気量と圧力P2と回転数NEとスロットル開度の目標値との間の関係を規定するマップ)に基づいて、スロットル開度の目標値を設定する。図8に示すマップの基本的な傾向は、目標空気量が大きいほど、スロットル開度の目標値が増加し、また、圧力P2が大きいほど、スロットル開度の目標値が減少し、また、回転数NEに対してはスロットル開度の目標値がほぼ一定になるように設定されている。
【0097】
なお、前記目標空気量は、内燃機関1の要求トルクが高いほど、大きくなるように設定されるので、図6のマップを用いて決定される前記実効圧縮比の目標値は、結果的に、該要求トルクが高いほど、該実効圧縮比の目標値が大きくなるような特性で決定されることなる。
【0098】
また、図7のマップを用いて決定される前記EGR率の目標値は、結果的に、該要求トルクが高いほど、該EGR率の目標値が小さくなるような特性で決定されることなる。
【0099】
また、図8のマップを用いて決定される前記スロットル開度の目標値は、結果的に、該要求トルクが高いほど、該スロットル開度の目標値が大きくなるような特性で決定されることなる。
【0100】
次いで、STEP3に進んで、電子制御装置50は、前記空気流量センサ52の出力により認識される空気流量Qの計測値が、STEP1で決定した目標空気量に一致するか否かを判断する。なお、ここで空気流量Qの計測値が目標空気量に一致するというのは、厳密に等しいということを意味するものではなく、それらの差の絶対値がある所定値以下に収まる状態を意味する。
【0101】
このSTEP3の判断結果が肯定的である場合には、電子制御装置50は、図4のフローチャートの今回の処理を終了し、次回の演算処理周期まで待機する。この場合には、吸気バルブ駆動機構9の動作状態と、EGR弁29の開度と、スロット開度とは現状の状態に維持される。
【0102】
一方、STEP3の判断結果が否定的である場合には、電子制御装置50は、STEP4の処理を実行する。このSTEP4では、電子制御装置50は、実際の空気流量Q(計測値)を目標空気量に近づけるように、実際の実効圧縮比と、実際のEGR率と、実際のスロットル開度とを現状の状態から変更する。
【0103】
そして、電子制御装置50は、STEP3と同じ判断処理をSTEP4に続くSTEP5で実行し、このSTEP5の判断結果が肯定的となるまで、STEP4の処理を繰り返す。
【0104】
この場合、上記のように繰り返されるSTEP4の処理はより具体的には次のように行なわれる。すなわち、STEP3の次の最初のSTEP4の処理では、前記吸気バルブ駆動機構9の実際の動作状態と、EGR弁29の実際の開度と、実際のスロットル開度とが、それぞれ、STEP2で設定した実効圧縮比の目標値に応じて決定した基準の動作状態、STEP2で設定したEGR率の目標値に応じて決定したEGR弁29の基準の開度、STEP2で設定したスロットル開度の目標値に制御される。
【0105】
この場合、吸気バルブ駆動機構9の基準の動作状態は、STEP2で設定した実効圧縮比の目標値を実現するための動作状態であり、該目標値に応じて、あらかじめ設定されたマップ等により決定される。また、EGR弁29の基準の開度は、STEP2で設定したEGR率の目標値を実現するための開度であり、該目標値に応じて、あらかじめ設定されたマップ等により決定される。
【0106】
そして、STEP5の判断処理で空気流量Qが目標空気量よりも小さい場合におけるSTEP4の処理では、実効圧縮比を所定量だけ増やすように吸気バルブ駆動機構9の実際の動作状態を現在の動作状態から変更することと、EGR弁29の実際の開度を現在の開度から所定量だけ減少させる(ひいてはEGR率を減少させる)ことと、実際のスロットル開度を現在の開度から所定量だけ増加させることとが実行される。
【0107】
また、STEP5の判断処理で空気流量Qが目標空気量よりも大きい場合におけるSTEP4の処理では、実効圧縮比を所定量だけ減らすように吸気バルブ駆動機構9の実際の動作状態を現在の動作状態から変更することと、EGR弁29の実際の開度を現在の開度から所定量だけ増加させる(ひいてはEGR率を増加させる)ことと、実際のスロットル開度を現在の開度から所定量だけ減少させることとが実行される。
【0108】
このようにして、上記STEP4の処理を繰り返すことによって、吸気バルブ駆動機構9の実際の動作状態と、EGR弁29の実際の開度と、実際のスロットル開度とが、それぞれ、実効圧縮比の目標値に対応する基準の動作状態、EGR率の目標値に対応する基準の開度、スロットル開度の目標値の近辺で調整される。これにより、実際の空気流量Q(計測値)が目標空気量に一致するように、吸気バルブ駆動機構9の実際の動作状態と、EGR弁29の実際の開度と、実際のスロットル開度とがそれぞれ制御されることとなる。
【0109】
以上が、図4のフローチャートの処理の詳細である。
【0110】
次に、図9のフローチャートに示す制御処理は、燃料噴射弁33a,33bのそれぞれの燃料噴射量と、点火プラグ40の点火時期とを制御するための処理である。
【0111】
このフローチャートに示す制御処理では、電子制御装置50は、まず、STEP11で、空気流量Qの計測値を取得する。
【0112】
次いで、STEP12に進んで、電子制御装置50は、各気筒2の燃焼室3に供給する燃料中の高オクタン価燃料(エタノール)の供給割合(以降、エタノール比率という)の目標値と、点火時期の目標値とを設定する。
【0113】
具体的には、電子制御装置50は、空気流量Qの計測値と、圧力P2の計測値と、内燃機関1の回転数NEの計測値とから図10に示す如く設定されたマップ(空気流量Qと圧力P2と回転数NEとエタノール比率の目標値との間の関係を規定するマップ)に基づいて、エタノール比率の目標値を決定する。図10に示すマップの基本的な傾向は、空気流量Qが大きいほど、エタノール比率の目標値が増加し、また、圧力P2が大きいほど、エタノール比率の目標値が減少し、また、回転数NEが高いほど、エタノール比率の目標値が減少するように設定されている。
【0114】
また、電子制御装置50は、空気流量Qの計測値と、圧力P2の計測値と、内燃機関1の回転数NEの計測値とから図11に示す如く設定されたマップ(空気流量Qと圧力P2と回転数NEと点火時期の目標値との間の関係を規定するマップ)に基づいて、点火時期の目標値を決定する。図11に示すマップの基本的な傾向は、内燃機関1の高負荷運転以外の運転時(中負荷又は低負荷運転時)においては、点火時期の目標値を最適点火時期(所謂、MBT)に保持し、内燃機関1の高負荷運転時には、空気流量Qが大きいほど、点火時期の目標値の最適点火時期からの遅角量が増加し、また、圧力P2が小さいほど、点火時期の目標値の上記遅角量が増加し、また、回転数NEが高いほど、点火時期の目標値の上記遅角量が減少するように設定されている。
【0115】
なお、エタノール比率(高オクタン価燃料の供給割合)の目標値を設定することで、結果的に、該低オクタン価燃料(ガソリン)の供給割合(以降、ガソリン比率という)も決定されることとなる。すなわち、エタノール比率をX[%]としたとき、ガソリン比率は、100−X[%]となる。従って、STEP2では、エタノール比率の目標値を決定する代わりに、ガソリン比率の目標値を決定するようにしてもよい。
【0116】
次いで、STEP13に進んで、電子制御装置50は、各気筒2毎の燃料噴射弁33a,33bの実際の燃料噴射量を、上記の如く決定したエタノール比率の目標値を満たすように制御すると共に、各気筒2毎の点火プラグ40の実際の点火時期を目標値に制御する。
【0117】
この場合、燃料噴射弁33a,33bの実際の燃料噴射量の制御においては、燃料噴射弁33a,33bのそれぞれの実際の燃料噴射量の総和(各気筒2の燃焼室3に供給するトータルの燃料供給量)が吸気通路4の空気流量Qの計測値に応じて決定される。そして、このトータルの燃料供給量とエタノール比率の目標値とから各燃料噴射弁33a,33bの燃料噴射量が決定され、その決定された燃料噴射量に応じて各燃料噴射弁33a,33bの開弁時間が制御される。
【0118】
次いで、STEP14に進んで、電子制御装置50は、図示しないノックセンサによって内燃機関1のノッキングが発生するか否かを判断する。そして、この判断結果が否定的である場合には、電子制御装置50は、図9のフローチャートの今回の処理を終了し、次回の演算処理周期まで待機する。
【0119】
一方、STEP14の判断結果が否定的である場合には、電子制御装置50はSTEP15の処理を実行する。このSTEP15の処理では、電子制御装置50は、エタノール比率を現状の値から所定量だけ増加させるように、各気筒2毎の燃料噴射弁33a,33bの燃料噴射量を調整する。
【0120】
そして、電子制御装置50は、STPE16において、STEP14と同じ判断処理を実行し、このSTEP16の判断結果が肯定的になるまで、STEP15の処理を繰り返す。
【0121】
以上が図9のフローチャートの制御処理である。
【0122】
補足すると、電子制御装置50は、本発明における燃料供給制御手段、EGR制御手段、及び実効圧縮比制御手段としての機能を含んでいる。この場合、燃料供給制御手段としての機能は、図9のフローチャートの処理(STEP11〜16の処理のうち、点火時期に関する処理を除く処理)によって実現される。この場合、前記エタノール比率が本発明における高オクタン価燃料供給割合に相当し、前記ガソリン比率が本発明における低オクタン価燃料供給割合に相当する。
【0123】
また、EGR制御手段としての機能は、図4のフローチャートの処理(STEP1〜5の処理のうち、実効圧縮比及びスロットル開度に関する処理を除く処理)によって実現され、実効圧縮比制御手段としての機能は、図4のフローチャートの処理(STEP1〜5の処理のうち、EGR率及びスロットル開度に関する処理を除く処理)によって実現される。
【0124】
本実施形態では、電子制御装置50によって図4及び図9のフローチャートの処理が上記の如く実行されることによって、特に、内燃機関1の出力トルクを大きく増加させる要求(車両を大きな加速度で加速する要求)が発生した場合に特徴的な作動を呈する。以下に、特徴的な作動を図12を参照して説明する。
【0125】
車両の運転者が、車両を大きな加速度で加速しようとする場合には、まず、アクセルペダルを大きく踏み込み、次いで、車両の実際の加速度が所望の加速度もしくはそれに近い加速度に達すると、所望の加速度を維持すべくアクセルペダルの踏み込みを緩めて、該アクセルペダル操作量を減少させる。
【0126】
このとき、内燃機関1の要求トルクは、図12の第1段目(最上段)のグラフで示すように変化する。すなわち、要求トルクが、時刻t1で急激に増加し、時刻t2までほぼ一定の大トルクに保持される。そして、時刻t2以後に要求トルクが、車両の所望の加速度に対応する大きさのトルクまで減少される。なお、同図中の時刻t1は、アクセルペダルの踏み込み開始時刻、時刻t2はアクセルペダルの踏み込みを緩め始めるタイミングの時刻に対応している。
【0127】
このとき、吸気通路4においてスロットル弁7に流入する空気の圧力P2(過給機26の羽根車31の下流側の圧力P2)は、図12の第2段目のグラフで示すように変化する。本実施形態では、過給機26が備えられているため、圧力P2(計測値)は、時刻t1からt2の期間で増加し、その後、ほぼ一定に保たれる。
【0128】
なお、図12の第2段目のグラフでは、縦軸の圧力P2の値は、大気圧に等しい圧力値をゼロとしており、圧力P2の値がゼロよりも大きくなる領域が、過給領域となる。
【0129】
また、この場合、エタノール比率、EGR率、実効圧縮比、スロットル開度のそれぞれの目標値は、それぞれ、第3段目、第4段目、第5段目、第6段目のグラフで示す如く設定される。
【0130】
この場合、EGR比率の目標値に関しては、時刻t1からt2において要求トルクが大トルクとなり、ひいては、目標空気量が大流量となることから、EGR比率の目標値は、図7に示したマップの特性によって、例えば図7中の点A1での値(≒0)に保持される。従って、図12の第4段目のグラフで示す如く、EGR比率の目標値は、時刻t1の直後からゼロ(もしくはそれに近い微小値)に保持される。これにより、時刻t1からt2においては、排ガスの吸気側への還流が行なわれない状態もしくはそれに近い状態になり、各気筒2の燃焼室3に供給されるガスの全体もしくは大部分が、吸気通路4に導入される空気になる。
【0131】
そして、時刻t2以後に、要求トルクが減少し、ひいては目標空気量が減少することから、EGR率の目標値は、図7に示したマップの特性によって、例えば図7中の点A1での値(≒0)から点A2の値まで変化していく。従って、時刻t2以後の要求トルクの減少時には、図12に示す如く、EGR比率の目標値は増加される。各気筒2の燃焼室3に吸気行程で還流する排ガス量が増加すると共に該吸気行程で燃焼室3に供給される空気量が減少することとなる。
【0132】
また、実効圧縮比の目標値に関しては、時刻t1からt2において上記の如く目標空気量が大流量となることから、図6に示したマップの特性によって、例えば図6中の点A3での値(=最大圧縮比)に保持される。従って、図12の第5段目のグラフで示す如く、実効圧縮比の目標値は、時刻t1の直後から最大圧縮比(もしくはそれに近い圧縮比)に保持される。なお、最大圧縮比は、膨張比に等しい圧縮比(内燃機関1の運転をオットーサイクルで行なう場合の圧縮比)である。
【0133】
これにより、時刻t1からt2においては、前記吸気バルブ駆動装置9の動作状態は、内燃機関1の運転が各気筒2の燃焼室3に最大限に吸気を行なうオットーサイクルで行なうように制御される。この状態では、吸気バルブ8を開閉駆動するカムとして高負荷用カム10Hが使用されると共に、この高負荷用カム10Hによる吸気バルブ8の開弁期間の位相角は、図3の実線cで示す状態に制御される。
【0134】
そして、時刻t2以後における目標空気量の減少時(要求トルクの減少時)には、実効圧縮比の目標値は、図6に示したマップの特性によって、例えば図6中の点A3での値(=最大圧縮比)から点A4の値まで変化していく。従って、時刻t2以後の要求トルクの減少時には、図12に示す如く、実効圧縮比の目標値は減少される。ひいては、各気筒2の燃焼室3に吸気行程で供給される空気が減少されることとなる。
【0135】
また、スロットル開度の目標値に関しては、時刻t1から時刻t2において上記の如く目標空気量が大流量となることから、スロットル開度の目標値は、図8に示したマップの特性によって全開(もしくはほぼ全開)に保持される。そして、時刻t2以後における目標空気量の減少時(要求トルクの減少時)には、スロットル開度の目標値は、図8に示したマップの特性によって、該目標空気量の減少に伴い減少することとなる。
【0136】
一方、エタノール比率の目標値に関しては、時刻t1からt2において上記の如く目標空気量が大流量となるものの、吸気通路4の実際の空気流量Qは、即座には、目標空気量に追従せず、該目標空気量に応答遅れを伴って追従する。また、スロットル弁7に流入する空気の圧力P2は、図12の第2段目のグラフで示すように漸変的に増加する。
【0137】
このため、時刻t1からt2において、エタノール比率の目標値は、図10のマップの特性によって、例えば同図中の点A5の値、点A6の値、点A7の値を経由するような形態で増加する。従って、エタノール比率の目標値は、時刻t1からt2において、図12の第3段目のグラフで示すように漸変的に増加することとなる。
【0138】
なお、時刻t1と時刻t2の期間の途中で、エタノール比率の時間的な増加度合いが低下するのは、時刻t1からt2で圧力P2が増加していく一方、図10のマップにおいて、圧力P2が大きくなると、該圧力P2の計測値が大きいほど、エタノール比率の目標値を減少させるような傾向でエタノール比率の目標値が設定されるからである。
【0139】
そして、時刻t2以後における目標空気量の減少時(要求トルクの減少時)には、エタノール比率の目標値は、図10に示したマップの特性によって、例えば図10中の点A7での値から点A8の値まで変化していく。従って、時刻t2以後の要求トルクの減少時には、図12に示す如く、エタノール比率の目標値は減少される。
【0140】
上記のように、内燃機関1の出力トルクを大きく増加させる要求(要求トルクが大トルクとなるような要求)が発生した場合には、その発生後の初期の期間(時刻t1からt2の期間)では、吸気通路4の実際の空気流量Qの増加に伴い(ひいては各気筒2の燃焼室3への空気供給量の増加に伴い)、エタノール比率が増加するように燃料噴射弁33a,33bの燃料噴射量が制御される。
【0141】
また、この初期の期間では、EGR率がゼロもしくはそれに近い微小な値に保持されるように該EGR率がEGR弁29を介して制御される。このため、各気筒2の燃焼室3に吸気行程で還流する排ガス量は、ゼロもしくはほぼゼロに制限される。
【0142】
さらに、この初期の期間では、実効圧縮比が最大圧縮比(内燃機関1をオットーサイクルで運転させる場合の圧縮比)もしくはそれに近い圧縮比に保持されるように該実効圧縮比が吸気バルブ駆動装置8を介して制御される。このため、各気筒2の圧縮行程で実際に圧縮される燃焼室3内の空気量を最大限の空気量にすことができる。
【0143】
このため、上記初期の期間において、ノッキングの発生をエタノール(高オクタン価燃料)によって効果的に抑制しつつ、内燃機関1の出力トルクを、該内燃機関1で発生可能な最大限のトルクもしくはそれに近いトルクに向って高い応答性で円滑に増加させることができる。特に、本実施形態では、過給機26による各気筒2の燃焼室3への過給によって、内燃機関1で非常に大きなトルクを発生させることとなって、ノッキングが発生し易くなるものの、上記初期の期間において、高オクタン価燃料であるエタノールを積極的に使用することで、ノッキングの発生を効果的に防止しつつ、大きなトルクまで内燃機関1の出力トルクを円滑に増加させることができる。
【0144】
そして、上記初期の期間に続いて要求トルクが減少されると、吸気通路4の実際の空気流量Qの減少に伴い(ひいては各気筒2の燃焼室3への空気供給量の減少に伴い)、エタノール比率が減少するように燃料噴射弁33a,33bの燃料噴射量が制御される。
【0145】
同時に、EGR率が、上記初期の期間よりも増加するようにEGR弁29を介して制御される。さらに、実効圧縮比が、上記初期の期間よりも減少するように吸気バルブ駆動機構9を介して制御され、その結果、アトキンソンサイクル(ミラーサイクル)での内燃機関1の運転が行なわれる。
【0146】
ここで、EGR率を増加させ、各気筒2の燃焼室3に還流させる排ガス量を増加させることは、ノッキングの発生を抑制する効果がある。特に、本実施形態では、燃焼室3に還流する排ガスは、EGR通路27を流れる過程でEGRクーラ28によって積極的に冷却されることから、ノッキングの発生を抑制する効果が高まる。
【0147】
また、アトキンソンサイクルでの内燃機関1の運転を行って、実効圧縮比を減少させることも、ノッキングの発生を抑制する効果がある。
【0148】
このため、上記初期の期間に続く要求トルクの減少後の定常的な要求トルク(車両の定常的な加速を行なうための要求トルク)が比較的大きい場合、すなわち、上記初期の期間に続く内燃期間が高負荷運転状態である場合に、エタノール比率を大きな比率に維持することなく、内燃機関1のノッキングの発生を防止できることとなる。このため、上記初期の期間に続く高負荷運転時のエタノール(高オクタン価燃料)の消費量を抑制できる。
【0149】
また、上記初期の期間の後は、内燃機関1の出力トルクが既に大トルクに増加した状態であるので、EGR率の増加や、実効圧縮比の減少によって該内燃機関1の出力トルクの応答性が損なわれるのを回避することができる。
【0150】
以上のように、本実施形態によれば、内燃機関1の出力トルクを大きく増加させる要求が発生した場合に、その発生の直後は、EGR率をゼロもしくはそれに近い小さい値に維持し、且つ、実効圧縮比を最大圧縮比もしくはそれに近い圧縮比に維持しつつ、空気流量Qの増加に伴いエタノール比率を増加させるようにした。これにより、内燃機関1のノッキングの発生を、高オクタン価燃料(エタノール)の積極的な使用によって効果的に抑制しつつ、高い応答性で内燃機関1の出力トルクを円滑に増加させることができる。
【0151】
そして、内燃機関1の出力トルクが十分に増加して、要求トルクが減少する(ひいては、目標空気量が減少する)ようになると、空気流量Qの減少に伴いエタノール比率を減少させることと並行して、EGR率の増加と、実効圧縮比の減少とを行なうようにした。これにより、高オクタン価燃料(エタノール)に消費量を抑制しつつ、内燃機関1のノッキングの発生を抑制できる。
【0152】
このため、本実施形態によれば、内燃機関1の高負荷運転が頻繁に行なわれるような状況であっても、高オクタン価燃料の残量が早期に減少してしまうのを防止できる。ひいては、内燃機関1の出力トルクの上限を低下させざるを得なくなるような状況が発生するのを防止できる。
【0153】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図13及び図14を参照して説明する。
【0154】
図13を参照して、本実施形態のシステム(内燃機関1とこれに付帯するシステム)は、第1実施形態における過給機26を備えないシステムであり、この点以外の構成は、第1実施形態のシステムと同一である。すなわち、本実施形態のシステムは、第1実施形態のシステムから過給機26を削除した構成のものである。
【0155】
このため、本実施形態の説明では、第1実施形態のシステムと同一の構成要素に第1実施形態と同一の参照符号を付し、当該同一の構成要素の説明を省略する。
【0156】
そして、本実施形態のシステムにおける電子制御装置50は、第1実施形態のものと同じ制御処理、すなわち、図4及び図9のフローチャートに示した制御処理を実行する。この場合、これらの制御処理で使用させるマップも、第1実施形態のものと同様のパターンで設定される。但し、本実施形態では過給機が備えられていないので、それらのマップおけるパタメータ(目標空気量や、圧力P2等)の範囲は、一般には第1実施形態のものと相違する。
【0157】
かかる本実施形態では、内燃機関1の出力トルクを大きく増加させる要求が発生した場合に、図14に例示するようなパターンでの作動が実現されることとなる。すなわち、内燃機関1の要求トルクが、図14の第1段目(最上段)のグラフで例示する如く、前記図12に示したものと同様のパターンで変化する。なお、図14中の時刻t1、t2の意味は、図12のものと同じである。
【0158】
このとき、本実施形態では過給機26が備えられていないので、圧力P2は、図14の第2段目のグラフで示す如く、大気圧にほぼ一致する圧力に保持される。
【0159】
また、EGR率の目標値、実効圧縮比の目標値、及びスロットル開度の目標値は、図14の要求トルクの変化のパターンに対して、前記図12に示したものと同様のパターンで変化する。
【0160】
一方、エタノール比率の目標値に関しては、本実施形態では、過給機26が備えられていないことから、吸気通路4の実際の空気流量Qが、要求トルクの増加後、比較的早期に要求トルクに対応する目標空気量まで上昇し、その後、時刻t2までほぼ一定に維持される。
【0161】
このため、エタノール比率の目標値は、時刻t1からt2の期間(初期の期間)において、増加した後、ほぼ一定に維持される。
【0162】
そして、時刻t2以後は、エンタノール比率の目標値は、図12に示したものと同様のパターンで変化する。すなわち、要求トルクの減少による空気流量Qの減少に伴い、エタノール比率の目標値が減少される。
【0163】
以上の如く本実施形態においても、第1実施形態と同様に、内燃機関1の出力トルクを大きく増加させる要求が発生した場合に、その発生の直後は、EGR率をゼロもしくはそれに近い小さい値に維持し、且つ、実効圧縮比を最大圧縮比もしくはそれに近い圧縮比に維持しつつ、空気流量Qの増加に伴いエタノール比率を増加させる。これにより、内燃機関1のノッキングの発生を、高オクタン価燃料(エタノール)の積極的な使用によって効果的に抑制しつつ、高い応答性で内燃機関1の出力トルクを円滑に増加させることができる。
【0164】
そして、内燃機関1の出力トルクが十分に増加して、要求トルクが減少する(ひいては、目標空気量が減少する)ようになると、空気流量Qの減少に伴いエタノール比率を減少させることと並行して、EGR率の増加と、実効圧縮比の減少とが行なわれる。これにより、高オクタン価燃料(エタノール)に消費量を抑制しつつ、内燃機関1のノッキングの発生を抑制できる。
【0165】
このため、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、内燃機関1の高負荷運転が頻繁に行なわれるような状況であっても、高オクタン価燃料の残量が早期に減少してしまうのを防止できる。ひいては、内燃機関1の出力トルクの上限を低下させざるを得なくなるような状況が発生するのを防止できる。
【0166】
[変形態様について]
次に、以上説明した各実施形態の変形態様をいくつか説明する。
【0167】
前記各実施形態におけるエタノール比率の目標値の設定処理(図9のSTEP12における処理)と、EGR率の目標値の設定処理(図4のSTEP2における処理)とにおいて、それぞれ、エタノール比率の目標値と、EGR率の目標値とを、前記第2燃料タンク37内の高オクタン価燃料(エタノール)の残量に応じて変化させるように設定してもよい。
【0168】
より詳しくは、高オクタン価燃料の残量が少ないほど、エタノール比率の目標値が小さくなり、また、EGR率の目標値が大きくなるような傾向で、該エタノール比率の目標値とEGR率の目標値とを、高オクタン価燃料の残量に応じて変化させるようにしてもよい。
【0169】
より具体的な一例としては、例えば、エタノール比率の目標値を決定するために使用するマップ(図10に示すマップ)と、EGR率の目標値を決定するために使用するマップ(図7に示すマップ)とを各々、高オクタン価燃料の残量が所定値以上である場合と、所定値よりも小さい場合とで各別に設定しておく。
【0170】
この場合、エタノール比率の目標値を決定するための2つのマップは、高オクタン価燃料の残量が所定値よりも小さい場合に、該残量が所定値以上である場合よりもエタノール比率の目標値がより小さい値になるような傾向で設定しておく。
【0171】
また、EGR率の目標値を決定するための2つのマップは、高オクタン価燃料の残量が所定値よりも小さい場合に、該残量が所定値以上である場合よりもエタノール比率の目標値がより小さい値になるような傾向で設定しておく。
【0172】
このようにすることで、高オクタン価燃料の残量が十分に多い場合には、高負荷運転時に、EGR率を極力小さい値に抑制しつつ、高オクタン価燃料を積極的に使用することとなる。これにより、ノッキングの発生を高オクタン価燃料によって効果的に抑制しつつ、高い熱効率で内燃機関1の高負荷運転を行うようにすることができる。
【0173】
また、高オクタン価燃料の残量が少ない場合には、高負荷運転時に、高オクタン価燃料の残量が十分に多い場合に較べて、高オクタン価燃料の消費量を少なめに抑制しつつ、EGR率が増加されることとなる。これにより、高オクタン価燃料の消費を抑制しつつ、ノッキングの発生をEGR率の増加によって抑制するようにして、内燃機関1の高負荷運転を行うことができる。
【0174】
また、前記各実施形態では、高オクタン価燃料、低オクタン価燃料として、それぞれ、エタノール、ガソリンを使用したが、これに限定されるものではない。例えば高オクタン価燃料としては、エタノール以外に、芳香族炭化水素、メタノール等を使用してもよい。
【符号の説明】
【0175】
1…内燃機関、3…燃焼室、25…EGR装置、26…過給機、、27…EGR通路、28…EGRクーラ(排ガス冷却手段)、50…電子制御装置(燃料供給制御手段、EGR制御手段、実効圧縮比制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高オクタン価燃料と、該高オクタン価燃料よりもオクタン価が低い低オクタン価燃料とを燃料として用い、燃焼室に供給する燃料中の高オクタン価燃料の供給量の割合いである高オクタン価燃料供給割合と低オクタン価燃料の供給量の割合いである低オクタン価燃料供給割合とを可変的に制御可能に構成された内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関には、EGR率を可変的に制御可能なEGR装置が付設されており、
前記内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、前記燃焼室への空気供給量の増加に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を増加させ、その後、前記内燃機関の出力トルクの減少の要求に応じた前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させるように該高オクタン価燃料供給割合を制御する燃料供給制御手段と、
該燃料供給手段が前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、前記EGR装置のEGR率を、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間よりも増加させるように制御するEGR制御手段とを備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
前記EGR制御手段は、前記EGR率の目標値を、少なくとも前記内燃機関の出力トルクの目標値に応じて変化させるように設定する手段と、該目標値に応じて前記EGR率を制御する手段とを備え、前記EGR率の目標値を設定する手段は、前記出力トルクの目標値が高いほど、前記EGR率の目標値が小さくなるようにあらかじめ定められた特性で、該EGR率の目標値を設定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の内燃機関の制御装置において、
前記EGR装置は、前記内燃機関の吸気側に排ガスを還流させるEGR通路に、該排ガスを冷却する排ガス冷却手段を備えるEGR装置であることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関は、実効圧縮比を可変的に制御可能なアトキンソンサイクル運転を行なうことが可能なように構成された内燃機関であり、
前記燃料供給手段が前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、前記実効圧縮比を、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間よりも減少させるように制御する実効圧縮比制御手段をさらに備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
高オクタン価燃料と、該高オクタン価燃料よりもオクタン価が低い低オクタン価燃料とを燃料として用い、燃焼室に供給する燃料中の高オクタン価燃料の供給量の割合いである高オクタン価燃料供給割合と低オクタン価燃料の供給量の割合いである低オクタン価燃料供給割合とを可変的に制御可能に構成された内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関は、実効圧縮比を可変的に制御可能なアトキンソンサイクル運転を行なうことが可能なように構成された内燃機関であり、
前記内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、前記燃焼室への空気供給量の増加に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を増加させ、その後、前記内燃機関の出力トルクの減少の要求に応じた前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させるように該高オクタン価燃料供給割合を制御する燃料供給制御手段と、
該燃料供給手段が前記燃焼室への空気供給量の減少に伴い、前記高オクタン価燃料供給割合を減少させる状況で、前記実効圧縮比を、前記燃焼室への空気供給量の減少が開始される前の期間よりも減少させるように制御する実効圧縮比制御手段とを備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の内燃機関の制御装置において、
前記実効圧縮比制御手段は、前記実効圧縮比の目標値を、少なくとも前記内燃機関の出力トルクの目標値に応じて変化させるように設定する手段と、該目標値に応じて前記実効圧縮比を制御する手段とを備え、前記実効圧縮比の目標値を設定する手段は、前記出力トルクの目標値が高いほど、前記実効圧縮比の目標値が大きくなるようにあらかじめ定められた特性で、該実効圧縮比の目標値を設定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関には、前記内燃機関の出力トルクの増加の要求が発生した場合に、前記燃焼室への空気の過給を行なう過給機が付設されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−163002(P2012−163002A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22016(P2011−22016)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】