説明

内燃機関

【課題】供給される燃料のオクタン価を可変とする燃料供給装置を備えた内燃機関において、熱効率の悪化を抑制しつつノッキングを適切に抑制する。
【解決手段】本発明に係る内燃機関は、ノッキングが検出されたときノッキング抑制用EGR制御を実行するEGR制御手段と、ノッキングが検出されたときノッキング抑制用燃料供給制御を実行する燃料供給制御手段と、ノッキングが検出されたときノッキング抑制用点火時期制御を実行する点火時期制御手段とを備える。そして、ノッキング抑制用点火時期制御は、ノッキング抑制用EGR制御およびノッキング抑制用燃料供給制御が実行された後、実行され得る。例えば、EGR制御手段は、ノッキングを抑制するように、EGRガスの温度を低下させ、燃料供給制御手段は、ノッキングを抑制するように、供給される燃料のオクタン価を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給される燃料のオクタン価を可変とする燃料供給装置を備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ガソリンタンク内の燃料から高オクタン価燃料と低オクタン価燃料とを生じさせ、負荷に応じて、これら両燃料の混合比を決定する火花点火式内燃機関を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−050070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
供給される燃料のオクタン価を低くすることで、一般に、熱効率向上、つまり、燃費向上を図ることが可能であることは知られている。
【0005】
他方、火花点火式内燃機関では、ノッキングを抑制するように、点火時期を遅角させることが、従来、行われている。このような点火時期の遅角は、ノッキング抑制には有効であるが、概して熱効率を悪化させる。そして、点火時期の遅角による熱効率悪化は、オクタン価の低い燃料を用いることによる熱効率向上を上回る場合がある。
【0006】
そこで、本発明はかかる点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、供給される燃料のオクタン価を可変とする燃料供給装置を備えた内燃機関において、熱効率の悪化を抑制しつつノッキングを適切に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る内燃機関は、ノッキングを検出するためのノッキング検出手段と、EGRガスの供給および温度を制御可能なEGR制御手段であって、ノッキング検出手段によりノッキングが検出されたとき、ノッキング抑制用EGR制御を実行するEGR制御手段と、燃料のオクタン価を制御可能な燃料供給制御手段であって、ノッキング検出手段によりノッキングが検出されたとき、ノッキング抑制用燃料供給制御を実行する燃料供給制御手段と、点火時期を制御する点火時期制御手段であって、ノッキング検出手段によりノッキングが検出されたとき、ノッキング抑制用点火時期制御を実行する点火時期制御手段と、を備え、ノッキング抑制用点火時期制御は、ノッキング抑制用EGR制御およびノッキング抑制用燃料供給制御が実行された後、実行されることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、EGR制御手段がノッキング抑制用EGR制御としてEGRガスの温度を低下させる制御を行った後、燃料供給制御手段はノッキング抑制用燃料供給制御として供給される燃料のオクタン価を高める制御を行うとよい。
【0009】
さらに、ノッキング抑制用燃料供給制御が行われた後、EGR制御手段は、ノッキング抑制用EGR制御としてEGRガスの供給量を減らす制御を行うとよい。
【0010】
なお、燃料供給制御手段は、第1燃料と該第1燃料よりもオクタン価の低い第2燃料との混合燃料を供給可能な燃料供給装置において、該混合燃料の燃料供給総量に対する第1燃料供給割合と第2燃料供給割合とを制御可能であり、燃料供給制御手段は、ノッキング検出手段によりノッキングが検出されたとき、燃料供給総量に対する第1燃料供給割合が高くなるようにノッキング抑制用燃料供給制御を実行するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る実施形態が適用された内燃機関を示す概略構成図である。
【図2】図1の内燃機関の燃料供給制御用のマップ化されたデータである。
【図3】図1の内燃機関のEGR制御用のマップ化されたデータである。
【図4】図1の内燃機関のノッキング抑制用制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る内燃機関は、ノッキングを抑制するように、ノッキング抑制用制御を実行する各種手段(各種装置)を備える。一般的に知られているように、ノッキングを抑制する(回避する)ためには、点火時期を遅角させることが有効である。しかし、点火時期の遅角は、内燃機関の熱効率を悪化させる。それ故、ノッキングを抑制するに際して、内燃機関の熱効率を悪化させないようにすることが望まれている。そこで、本発明では、ノッキングが発生したとき、ノッキングを抑制するべく、ノッキング抑制用点火時期制御を行う前に、まず、ノッキング抑制用EGR制御または/およびノッキング抑制用燃料供給制御を行う。
【0013】
以下に、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る実施形態が適用された内燃機関10を示す概略構成図である。同図に示される内燃機関10は、シリンダブロック12に形成された燃焼室14の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、気筒16内でピストン18を往復移動させることにより動力を発生する。なお、内燃機関10は、4サイクル機関(4ストローク機関)である。
【0015】
各燃焼室14に臨む吸気ポートは、吸気弁Viにより開閉され、吸気マニホールド20に接続されている。この吸気マニホールド20上流側には、順に、サージタンク22および吸気管24が接続されている。吸気管24は、エアクリーナ26を介して図示されない空気取入口に接続されている。そして、吸気管24の中途(サージタンク22とエアクリーナ26との間)には、(ここではアクチュエータ(不図示)により駆動される電子制御式スロットルバルブである)スロットルバルブ28が組み込まれている。それら、例えば、吸気ポート、吸気マニホールド20、サージタンク22、吸気管24のそれぞれは、吸気通路30の一部を区画形成する。
【0016】
他方、各燃焼室14に臨む排気ポートは、排気弁Veにより開閉され、排気マニホールド32に接続され、この排気マニホールド32には下流側に排気管34が接続されている。排気管34には、三元触媒を含む前段触媒装置36およびNOx吸蔵還元触媒を含む後段触媒装置38が接続されている。なお、触媒装置は、このような構成に限定されず、例えば後段触媒装置38はNOx吸蔵還元触媒にかえて、三元触媒を含むことができる。それら、例えば、排気ポート、排気マニホールド32、排気管34のそれぞれは、排気通路40の一部を区画形成する。
【0017】
内燃機関10には、排気通路40を流れる排気ガスの一部を吸気通路30に導く排気ガス還流(EGR)装置(外部EGR装置)42が設けられている。外部EGR装置42は、排気通路40を流れる排気ガスの一部を吸気通路30に導くようにEGR管44によって区画形成されたEGR通路46と、EGR通路46に設けられた2つのEGRバルブつまり第1EGRバルブ48および第2EGRバルブ50とを備える。なお、還流される排気ガス(外部EGRガス)冷却用のEGRクーラ52がEGR通路46の第1EGR枝通路46aに設けられている。第1EGRバルブ48および第2EGRバルブ50の各々は、ここではアクチュエータ(不図示)によって駆動される電子制御式EGRバルブとして構成されている。これら両EGRバルブ48、50は、EGR通路46のうちの第1EGR枝通路46aを介しての外部EGRガスの供給量と、EGR通路46のうちの第2EGR枝通路46bを介してのEGRガスの供給量とを調整するように制御される。なお、上記の如く、第1EGR枝通路46aにEGRクーラ52が設けられているので、これら両EGR枝通路46a、46bの供給量を制御することで、外部EGR装置42によるEGRガスの温度を制御することができる。なお、第1EGRバルブ48と第2EGRバルブ50とはそれぞれ三方弁であり得、また、それらのうちの一方が省かれてもよい。
【0018】
上記吸気弁Viおよび上記排気弁Veは、それぞれ、可変バルブタイミングおよび/または可変リフト機能を有する動弁機構によって開閉させられる。上記吸気弁Viの駆動機構54および上記排気弁Veの駆動機構56を含む動弁機構は、吸気弁Viおよび排気弁Veを、コンロッドを介してピストン18が連結されているクランクシャフトの回転に同期して、個別に任意の開度およびタイミングで制御することが可能な機構である。具体的には、吸気弁Viの駆動機構54および排気弁Veの駆動機構56は、それぞれ個別に設けられたソレノイドを含んでいる。つまり、吸気弁Viおよび排気弁Veはそれぞれ電磁駆動弁とされている。なお、吸気弁Viと排気弁Veとは、それらが同時に開くバルブオーバーラップやそれらが同時に閉じる負のバルブオーバーラップを実現可能にされている。このような動弁機構54、56を備えるので、所望の内部EGRガスを生じさせる(供給する)ことが可能である。つまり、吸気弁Vi、排気弁Ve、および動弁機構54、56は、内部EGRガス供給用の内部EGR装置を構成する。この内部EGR装置および上記外部EGR装置42を含めて、本明細書では、EGR装置と総称し得る。
【0019】
ただし、このような構成に代えて、吸気弁Viおよび上記排気弁Veの動弁機構として、例えば単一の弁に適用される複数種類のカムを油圧によって切り替えることによってバルブタイミングおよびカムプロフィールを任意に変更できる可変バルブタイミング機構(VVT; Variable Valve Timing mechanism)を用いることもできる。なお、このような可変動弁機構は、吸気弁Viおよび排気弁Veの一方に関してのみ備えられてもよい。
【0020】
さらに、内燃機関10の各気筒16は、点火プラグ58を有する。点火プラグ58は、対応する燃焼室14に臨むようにシリンダヘッドに配設されている。
【0021】
さらに、内燃機関10は、図1に示されるように、インジェクタ60を有する。インジェクタ60は、ポート噴射用に設けられている。なお、インジェクタ60は、筒内噴射用のインジェクタであってもよい。
【0022】
ここで、インジェクタ60を含む燃料供給装置62について説明する。燃料供給装置62は、メイン燃料タンク64と、分離器66と、第1サブタンク68と、第2サブタンク70と、第1ポンプ72と、第2ポンプ74と、制御弁76と、上記インジェクタ60とを備える。これらは、各種管によって形成された通路によって連結されているが、直結されてもよい。メイン燃料タンク64には、ガソリンが充填される。メイン燃料タンク64内のガソリンから、ここでは2種類の燃料が生み出される。2種類の燃料は、所定オクタン価以上のオクタン価を有する第1燃料と、この第1燃料よりも相対的にオクタン価の低い第2燃料とである。第1燃料のオクタン価は例えば100であり、第2燃料のオクタン価は例えば88である。これら2種類の燃料は、分離器66によって分離生成される。なお、制御弁76は、ここでは三方弁であるが、種々の弁であり得る。
【0023】
本実施形態では、分離器66は、浸透気化膜を備えて構成されている。好ましくは、浸透気化膜は、高分子膜である。メイン燃料タンク64から供給された燃料は、浸透気化膜によって、高オクタン価燃料である第1燃料と低オクタン価燃料である第2燃料とに分離させられる。そして、生成した第1燃料は第1サブタンク68へ送られ、生成した第2燃料は第2サブタンク70へと送られる。なお、メイン燃料タンク64内の燃料の分離器66への供給、分離器66で生成した第1燃料の第1サブタンク68への供給、分離器66で生成した第2燃料の第2サブタンク70への供給のそれぞれのために、種々の供給手段、具体的にはポンプ(不図示)が備えられている。また、分離器66は、浸透気化膜に向けて供給される燃料の量および温度等を制御するための1つまたは複数の手段または部材を備えることができる。
【0024】
そして、第1サブタンク68内の第1燃料の供給量および第2サブタンク70内の第2燃料の供給量がポンプ72、74、制御弁76の作動により制御される。これにより、インジェクタ60から噴射供給される燃料(第1燃料と第2燃料との混合燃料)における、燃料供給総量に対する第1燃料の供給割合(第1燃料供給割合)と第2燃料の供給割合(第2燃料供給割合)とが調整可能にされる。このように、本実施形態の燃料供給装置62では供給される燃料のオクタン価を可変とすることができる。
【0025】
なお、燃料供給装置の構成は、このような構成に限定されず、他の種々の構成とされることができる。例えば、燃料供給装置におけるポンプの数、設置位置、構成および種類、弁の数、設置位置、構成および種類は、種々変更されることができる。また、例えば、分離器66は、ガソリンを燃料成分の沸点の違いにより高沸点かつ高オクタン価を有する高オクタン価燃料つまり第1燃料と、低沸点かつ低オクタン価を有する低オクタン価燃料つまり第2燃料とに分離する分留器とされてもよい。また、ガソリンから第1燃料と第2燃料とを生み出すような構成を備えることにかえて、当初から外部より第1燃料と第2燃料とが別々に補充可能に供給されるように燃料供給装置は構成されてもよい。また、第1燃料と第2燃料とを生み出してそれらの混合割合をかえることで供給される混合燃料のオクタン価を可変とする上記の如き燃料供給装置に限定されず、1種類の燃料から種々のオクタン価の燃料を直接的に得る他の燃料供給装置も採用され得る。
【0026】
上述のスロットルバルブ28、EGRバルブ48、50、動弁機構に含まれる各駆動機構54、56、各点火プラグ58、各インジェクタ60、分離器66、ポンプ72、74、制御弁76等は、内燃機関10の制御装置として実質的に機能するECU80に電気的に接続されている。ECU80は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート等を含むものである。ECU80には、各種センサ類がA/D変換器等を介して電気的に接続されていて、例えば吸入空気量を検出するためのエアフローメータ82が接続されている。ECU80は、ROM等の記憶装置に記憶されている各種マップ等を用いると共に各種センサ類を用いて得られる検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、スロットルバルブ28、EGRバルブ48、50、各駆動機構54、56、各点火プラグ58、各インジェクタ60等を制御する。
【0027】
図1に示されるように、ECU80に接続されるセンサ類には、クランクポジションセンサ84が含まれる。クランクポジションセンサ84は、クランクシャフトに固定されるロータプレート(シグナルプレート)等を含む磁気センサまたは光電式センサ等であり、クランクシャフトの回転角度を示すパルス信号を微小時間ごとにECU80に与える。本実施形態では、クランクポジションセンサ84は、内燃機関10の回転速度を検出するための回転速度センサとしても用いられる。また、スロットルバルブ28の開度(スロットル開度)を検出するためのスロットル開度センサ86が設けられている。さらに、吸気通路30の圧力すなわち吸気圧を検出するために吸気圧センサ88が設けられている。さらに、内燃機関10でのノッキング発生を検出するためのノックセンサ90や、EGRクーラ52での冷却水の温度を検出するためのEGRクーラ水温センサ92や、内燃機関10の冷却水の温度を検出するための水温センサ(不図示)や、アクセルペダルの開度を検出するためのアクセル開度センサ94が設けられている。また、内燃機関10が搭載された車両の速度(車速)を検出するための車速センサ(不図示)も設けられている。さらに、空燃比センサ(A/Fセンサ)96が排気通路40に設けられている。A/Fセンサ96は、排気通路の排気ガス中の空燃比に応じた電気信号をECU80に出力する。なお、A/Fセンサ96はO2センサであってもよい。また、排気通路40に、O2センサ98が設けられている。O2センサ98は、排気ガス中の酸素濃度に応じた電気信号をECU80に出力する。
【0028】
ECU80のROMは、燃料供給制御用のルーチン、点火時期制御用のルーチン、吸気弁Viや排気弁Veの開閉タイミングを決定してそれらを制御するためのルーチン、EGRガス供給用のルーチン、スロットルバルブ制御用のルーチン、ノッキング抑制用のルーチン等やそれらに用いられるマップ等のデータを記憶している。そして、ECU80は、ROM等に記憶されたこれら種々のルーチン等のアプリケーションプログラムにしたがって、燃料供給制御、点火時期制御、EGR制御等を実行する。
【0029】
つまり、ここでは、EGR制御手段は、ECU80の一部を含んで構成される。燃料供給制御手段は、ECU80の一部を含んで構成される。点火時期制御手段は、ECU80の一部を含んで構成される。なお、ノッキング検出手段は、ECU80の一部およびノックセンサ90を含んで構成される。
【0030】
ここで、内燃機関10での燃料供給制御を説明する。ECU80は、図2のマップ化されたデータに基づいて、インジェクタ60からの燃料の噴射供給を制御する。図2は、横軸に回転速度をとり、縦軸に負荷をとり、インジェクタ60から供給される燃料の目標オクタン価を表している。図2のA1領域は低オクタン価燃料である第2燃料のみを噴射供給する領域であり、図2のA2領域は高オクタン価燃料である第1燃料を含む燃料(第1燃料のみからなる燃料を含む)を噴射供給する領域である。要するに、運転状態が高負荷の運転領域に属するように変化するにしたがって、インジェクタ60から噴射供給される燃料のオクタン価がより高くなるように、燃料供給制御が実行される。なお、図2中の点線は全負荷を表している。
【0031】
内燃機関10でのEGR制御を説明する。ECU80は、図3のマップ化されたデータに基づいて、EGRガスの供給を制御する。図3は、横軸に回転速度をとり、縦軸に負荷をとり、そのときの運転状態に応じて選択されるEGRガスの供給方法を表している。図3のB1領域は内部EGRガスの供給領域であり、B2領域は第2EGR枝通路46bを介して供給される外部EGRガスの供給領域であり、B3領域は第1EGR枝通路46aを介して供給される外部EGRガスの供給領域であり、B4領域はEGRガスを供給しない領域である。要するに、運転状態が概ね図3中右上側(高負荷高回転側)の運転領域に属するように変化するにしたがって、燃焼室14における混合気に対するEGR制御による冷却効果が高まるように、EGR制御が実行される。なお、図3中の点線は全負荷を表している。
【0032】
このような内燃機関10で、ノッキングか検出されたとき、ノッキング抑制用制御が実行される。このノッキング抑制用制御では、ノッキングが生じたときの内燃機関に対して、まず所望のEGRガスの供給が図られ、次に噴射供給される燃料のオクタン価を高めることが図られ、次にEGRガスの供給量を減らすことが図られ、最後に点火時期の遅角が図られる。なお、このような一連のノッキング抑制用制御において、ノッキングが回避された時点で、ノッキング抑制用制御が終了され、内燃機関10が円滑に運転されるのに適した方法で通常の運転状態に復帰される。ただし、ノッキング抑制用制御が実行されることでノッキングが抑制されたとき、実行データに基づいて内燃機関10の制御用データ等(例えば図2、3のデータ)が補正される(学習される)。この補正後のデータ等は、内燃機関10が起動された後、停止されるまで、継続して維持されて使用される。そして、新たに内燃機関10が始動されたときには、補正無しの元のデータ等を用いて内燃機関制御が実行される。なお、本発明は、補正により更新されたデータ等が、次回の内燃機関10の起動後も用いられることを排除しない。
【0033】
以下、本実施形態の内燃機関10のノッキング抑制用制御を図4のフローチャートに基づいて説明する。図4のフローチャートでは、ノッキングが発生し始めたときからノッキングが抑制(回避)されるまでの流れが概略的に表されている。
【0034】
内燃機関10が運転状態にあるとき、ノッキングが検出されると(ステップS401で肯定判定)、ノッキングが抑制されるように、ノッキング抑制用制御が開始される。なお、ノッキングの発生の有無は、ノックセンサ90からの出力信号に基づいて判定される。
【0035】
ノッキングが検出されると、まず、外部EGRの供給が行われているか否かの判定が行われる(ステップS403)。そして、外部EGR装置42を介して外部EGRガスが供給されていないとき(ステップ403において否定判定)、EGRガスの供給が実行される(開始される)(ステップS405)。なお、外部EGRガスの供給の有無の判定は、内燃機関10の回転速度と内燃機関10の負荷(例えばアクセル開度)とに基づいて定められる現在の運転状態が図3のマップのいずれの領域に属するかを調べることに基づいて、実行され得る。
【0036】
EGRガスの供給は、まず、所定第1時間の間は内部EGRガスの供給により行われ、その後所定第1時間経過後、外部EGRガスの供給により行われる。外部EGRガスの供給が実行されるとき、ここでは内部EGRガスの供給は停止されるが、内部EGRガスの供給が継続されてもよい。また、ここでのEGRガスの供給の際には、つまり、外部EGRの供給が行われていないと判断されてEGRガスの供給を行うとき(開始するとき)、内部EGRガスの供給は一切行われなくてもよい。なお、内部EGRガスの供給から外部EGRガスの供給へと変化させるようにEGRガスの供給を制御することは、供給するEGRガスの温度を低くすることに対応する。
【0037】
EGRガスの供給が開始された後、所定第2時間(上記所定第1時間よりも長い時間)が経過しても、未だノッキングが検出されるとき(ステップS407において肯定判定)、さらなるノッキング抑制用制御が実行される。なお、外部EGRガスが既に供給されていたときも(ステップS403において肯定判定)、ここでのさらなるノッキング抑制用制御が行われる。
【0038】
さらなるノッキング抑制用制御を行うべく、EGRクーラ52を経た外部EGRガス(冷却EGRガス)が供給されているか否かの判定が実行される(ステップS409)。この判定は、現在の運転状態が図3のマップのいずれの領域に属するかを調べることに基づいて実行されたり、またはEGRバルブ48、50への制御データ等に基づいて実行されたりし得る。
【0039】
EGRクーラ52を経たEGRガスが供給されていないとき(ステップS409において否定判定)、第1EGR枝通路46aを通ったEGRガスの供給が行われるように、EGRバルブ48、50が制御される(ステップS411)。EGRクーラ52を経たEGRガスの供給が開始された後、所定第3時間が経過しても、未だノッキングが検出されるとき(ステップS413において肯定判定)、さらなるノッキング抑制用制御が実行される。なお、EGRクーラ52を得た外部EGRガスが既に供給されていたとき(ステップS409において肯定判定)、ここでのさらなるノッキング抑制用制御が行われる。
【0040】
さらなるノッキング抑制用制御を行うべく、供給されている燃料のオクタン価が最大高オクタン価であるか否かの判定が実行される(ステップS415)。この判定は、現在の運転状態が図2のマップのいずれの領域に属するかを調べることに基づいて実行されたり、または制御弁76への制御データ等に基づいて実行されたりし得る。なお、最大高オクタン価とは、燃料供給装置62によって供給可能な種々の燃料のうちで最もオクタン価の高い燃料である第1燃料のオクタン価である。ここでは、このように最大高オクタン価は、燃料供給装置62の性能によって定められ得る。しかし、最大高オクタン価は、そのような値に限定されず、種々の値に定められ得る。
【0041】
供給されている燃料のオクタン価が最大高オクタン価でないとき(ステップS415において否定判定)、供給する燃料のオクタン価を高めるように、具体的には第1燃料と第2燃料との混合燃料の燃料供給総量に対する第1燃料供給割合を高めるように、制御弁76等が制御される(ステップS417)。このような燃料のオクタン価を高める制御は連続的にまたは段階的に所定時間おきに実行される。そして、このような燃料のオクタン価を高める制御は、ノッキングが検出される限り(ステップS419において肯定判定)、続けて行われる。
【0042】
未だノッキングが検出されていて(ステップS419において肯定判定)かつ供給されている燃料のオクタン価が最大高オクタン価に達したとき(ステップS415において肯定判定)、さらなるノッキング抑制用制御が実行される。なお、当初より供給されている燃料のオクタン価が最大高オクタン価に達していたときも(ステップS415において肯定判定)、ここでのさらなるノッキング抑制用制御が行われる。
【0043】
ここでのさらなるノッキング抑制用制御は、簡単に述べると、EGRガスの供給量を減じてさらに燃焼室14内の温度を下げる制御である。そこで、EGRガスの供給がないか否かの判定が実行される(ステップS421)。
【0044】
EGRガスの供給があるとき(ステップS421において否定判定)、EGRガスの供給量を減らすように、EGRバルブ48、50が制御される(ステップS423)。このようなEGRガス低減用制御は連続的にまたは段階的に所定時間おきに実行される。そして、このようなEGRガス低減用制御は、ノッキングが検出される限り(ステップS425において肯定判定)、続けて行われる。
【0045】
未だノッキングが検出されていて(ステップS425において肯定判定)かつEGRガスの供給がなされなくなった(EGRガスの供給量が零になった)とき(ステップS421において肯定判定)、さらなるノッキング抑制用制御が実行される。
【0046】
さらなるノッキング抑制用制御として、点火時期を遅角させる制御が実行される(ステップS427)。点火時期の遅角制御は、一般的に知られているように実行され得る。そして、この点火時期の遅角制御は、ノッキングが検出される間(ステップS429で肯定判定)、徐々に実行される(繰り返し実行される)。
【0047】
なお、ノッキングが検出されないときまたは検出されなくなったとき(ステップS401、S407、S413、S419、S425またはS429において否定判定)、上記ノッキング抑制用制御はその時点で終了する。
【0048】
以上説明したように、上記ノッキング抑制用制御では、ノッキング発生時、まず、ノッキングを抑制するべく、(EGRガスが供給されていなければEGRガスの供給を開始しつつ)EGRガスの温度を低下させるようにEGRガス供給が制御される(ノッキング抑制用EGR制御)。そして、未だノッキングが発生するとき、ノッキングを抑制するべく、燃料のオクタン価を高くするように燃料供給が制御される(ノッキング抑制用燃料供給制御)。さらに、それでも未だノッキングが発生するとき、ノッキングを抑制するべく、EGRガスの供給を減じてさらに温度を下げるようにEGRガスの供給が制御される(ノッキング抑制用EGR制御)。そして、それらによっても未だノッキングが発生するとき、点火時期を遅角させるように点火時期遅角制御が行われる(ノッキング抑制用点火時期制御)。
【0049】
このように、上記ノッキング抑制用制御では、点火時期の遅角制御が行われることを極力避けることができる。したがって、熱効率の悪化を抑制しつつ、ノッキングを適切に回避することができる。
【0050】
なお、上記実施形態のノッキング抑制用EGR制御では、内部EGRガスの供給、EGRクーラ52を経ない外部EGRガスの供給、EGRクーラ52を経た外部EGRガスの供給の順に供給するEGRガスを変えることで、EGRガスの温度を下げた。しかし、これら3種類のEGRガスを採用するのではなく、これらのうちの任意の2種類のEGRガスのみを採用してもよい。また、それら3種類のEGRガスの混合比またはそれら3種類のEGRガスのうちの任意の2種類のEGRガスの混合比を変えることでEGRガスの温度が下げられてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、ノッキングを抑制するために、EGRガスの温度を下げた後、燃料のオクタン価を高める制御を行った。この順序が好ましいが、これらの順番が逆にされることを本発明は排除しない。つまり、ノッキングを抑制するために、燃料のオクタン価を高めた後、EGRガスの温度を下げる制御を行うことも可能である。
【0052】
なお、上記実施形態およびその変形例等では本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明はこれらに限定されず、本発明については、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明は特許請求の範囲およびその等価物の範囲および趣旨に含まれる修正および変更を包含するものである。
【符号の説明】
【0053】
10 内燃機関
14 燃焼室
28 スロットルバルブ
42 外部EGR装置
48 第1EGRバルブ
50 第2EGRバルブ
52 EGRクーラ
60 インジェクタ
62 燃料供給装置
54、56 駆動機構
90 ノックセンサ
Vi 吸気弁
Ve 排気弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノッキングを検出するためのノッキング検出手段と、
EGRガスの供給および温度を制御可能なEGR制御手段であって、前記ノッキング検出手段によりノッキングが検出されたとき、ノッキング抑制用EGR制御を実行するEGR制御手段と、
燃料のオクタン価を制御可能な燃料供給制御手段であって、前記ノッキング検出手段によりノッキングが検出されたとき、ノッキング抑制用燃料供給制御を実行する燃料供給制御手段と、
点火時期を制御する点火時期制御手段であって、前記ノッキング検出手段によりノッキングが検出されたとき、ノッキング抑制用点火時期制御を実行する点火時期制御手段と、
を備え、
前記ノッキング抑制用点火時期制御は、前記ノッキング抑制用EGR制御および前記ノッキング抑制用燃料供給制御が実行された後、実行されることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記EGR制御手段が前記ノッキング抑制用EGR制御としてEGRガスの温度を低下させる制御を行った後、前記燃料供給制御手段は前記ノッキング抑制用燃料供給制御として供給される燃料のオクタン価を高める制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記ノッキング抑制用燃料供給制御が行われた後、前記EGR制御手段は、前記ノッキング抑制用EGR制御としてEGRガスの供給量を減らす制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記燃料供給制御手段は、第1燃料と該第1燃料よりもオクタン価の低い第2燃料との混合燃料を供給可能な燃料供給装置において、該混合燃料の燃料供給総量に対する第1燃料供給割合と第2燃料供給割合とを制御可能であり、
前記燃料供給制御手段は、前記ノッキング検出手段によりノッキングが検出されたとき、
前記燃料供給総量に対する前記第1燃料供給割合が高くなるように前記ノッキング抑制用燃料供給制御を実行することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−122544(P2011−122544A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281940(P2009−281940)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】