説明

前駆体組成物、前駆体組成物の製造方法、強誘電体膜の製造方法、圧電素子、半導体装置、圧電アクチュエータ、インクジェット式記録ヘッド、およびインクジェットプリンタ

【課題】 液相法において、組成制御性がよく、しかも鉛などの金属成分の再利用が可能な強誘電体形成用の前駆体組成物、該前駆体組成物の製造方法、および前駆体組成物を用いた強誘電体膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】 前駆体組成物は、強誘電体を形成するための前駆体を含む前駆体組成物であって、前記強誘電体は、一般式AB1−xで示され、A元素は少なくともPbからなり、B元素はZr、Ti、V、WおよびHfの少なくとも一つからなり、C元素は、NbおよびTaの少なくとも一つからなり、前記前駆体は、少なくとも前記B元素およびC元素を含み、かつ一部にエステル結合を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体を形成するための前駆体組成物、前駆体組成物の製造方法、強誘電体膜の製造方法、圧電素子、半導体装置、圧電アクチュエータ、インクジェット式記録ヘッド、およびインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
PZTをはじめとする強誘電体は、強誘電体メモリ、圧電素子、赤外センサ、SAWデバイスなどの各種用途に用いられ、その研究開発が盛んに行われている。
【0003】
強誘電体を形成する方法の代表的なものとして、ゾルゲル法、MOD法などの化学溶液法(CSD:Chemical Solution Deposition Method)がある。
【0004】
ゾルゲル法では、金属アルコキシド等の化合物を加水分解および重縮合(これを「加水分解・縮合」ともいう)することによって高分子化した前駆体の溶液を用いる。かかるゾルゲル法では、金属アルコキシド溶液の組成を制御することにより、得られる強誘電体の組成制御性が良いという利点を有する反面、加水分解・縮合反応が不可逆反応であるため、一旦架橋して高分子化したものはゾルゲル原料として用いることができない難点を有する。特に、PZTのように鉛を含む強誘電体の場合には、鉛廃棄物の処理を行う必要がある。
【0005】
また、有機金属分解法(MOD:Metal Organic Decomposition Method)では、金属のカルボン酸塩等の安定な有機金属化合物の溶液を用いる。このMOD法で用いられる原料溶液は、安定な有機金属化合物を原料としているので、溶液組成の調整、ハンドリングが容易である等の利点を有する。MOD法は、化合物の加水分解・重縮合により複合酸化物を形成するゾルゲル法とは異なり、分子量の大きい有機基を酸素雰囲気中で分解することにより複合酸化物を形成するため、ゾルゲル法と比較して、結晶化温度が高く、結晶粒が大きくなり易い傾向がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、液相法において、組成制御性がよく、しかも鉛などの金属成分の再利用が可能な強誘電体形成用の前駆体組成物、該前駆体組成物の製造方法、および前駆体組成物を用いた強誘電体膜の製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、圧電素子、半導体装置、圧電アクチュエータ、インクジェット式記録ヘッド、およびインクジェットプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる前駆体組成物は、
強誘電体を形成するための前駆体を含む前駆体組成物であって、
前記強誘電体は、一般式AB1−xで示され、
A元素は少なくともPbからなり、
B元素はZr、Ti、V、WおよびHfの少なくとも一つからなり、
C元素は、NbおよびTaの少なくとも一つからなり、
前記前駆体は、少なくとも前記B元素およびC元素を含み、かつ一部にエステル結合を有する。
【0009】
この前駆体組成物は、前駆体がエステル結合を有していて可逆的に反応するため、高分子化された前駆体を再び分解することができる。そのため、この分解物を前駆体原料として再利用することができる。
【0010】
本発明の前駆体組成物において、前記B元素は、ZrおよびTiであり、
前記C元素は、Nbであることができる。
【0011】
本発明の前駆体組成物において、前記前駆体は、さらに前記A元素を含むことができる。
【0012】
本発明の前駆体組成物において、前記前駆体は、有機溶媒に溶解もしくは分散されていることができる。ここで、有機溶媒は、アルコールを用いることができる。
【0013】
本発明の前駆体組成物において、前記強誘電体は、好ましくは0.05≦x<1の範囲で、さらに好ましくは0.1≦x≦0.3の範囲でNbを含むことができる。
【0014】
本発明の前駆体組成物において、前記強誘電体は、0.05≦x<1の範囲でTaを含むことができる。
【0015】
本発明の前駆体組成物において、さらに、前記強誘電体は、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは0.5〜5モル%のSi、あるいはSiおよびGeを含むことができる。Siの微少添加は、焼結剤として結晶化温度低減効果を有する。
【0016】
本発明にかかる前駆体組成物の製造方法は、
強誘電体を形成するための前駆体を含む前駆体組成物の製造方法であって、
前記強誘電体は、一般式AB1−xで示され、A元素は少なくともPbからなり、B元素はZr、Ti、V、WおよびHfの少なくとも一つからなり、C元素は、NbおよびTaの少なくとも一つからなり、
少なくとも前記B元素および前記C元素を含むゾルゲル原料であって、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合し、
前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を形成することを含む。
【0017】
この製造方法によれば、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によって本発明にかかる前駆体組成物を容易に得ることができる。
【0018】
本発明の前駆体組成物の製造方法において、前記有機溶媒は、アルコールであることができる。かかるアルコールの具体例については後述する。
【0019】
本発明の前駆体組成物の製造方法において、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルは、2価以上であることができる。本発明に用いるポリカルボン酸としては、以下のものを例示できる。3価のカルボン酸としては、Trans−アコニット酸、トリメシン酸、4価のカルボン酸としては、ピロメリット酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸等が挙げられる。また、アルコール中で解離してポリカルボン酸として働くポリカルボン酸エステルとしては、2価のコハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジエチル、3価のクエン酸トリブチル、1,1,2−エタントリカルボン酸トリエチル、4価の1,1,2,2−エタンテトラカルボン酸テトラエチル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリメチル等が挙げられる。これらのポリカルボン酸エステルは、アルコール存在下で解離してポリカルボン酸としての働きを示す。以上のポリカルボン酸またはそのエステルの例を図3A〜図3Dに示す。また、本発明は、ポリカルボン酸を用いて、ネットワークをエステル化で繋げていくことに特徴があり、例えば酢酸や酢酸メチルといった、シングルカルボン酸およびそのエステルでは、エステルネットワークが成長しないため、本発明には含まれない。
【0020】
本発明の前駆体組成物の製造方法において、2価のカルボン酸エステルとしては、好ましくは、コハク酸エステル、マレイン酸エステルおよびマロン酸エステルから選択される少なくとも1種であることができる。これらのエステルの具体例としては、コハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マロン酸ジメチルをあげることができる。
【0021】
前記ポリカルボン酸エステルの分子量は、150以下であることができる。ポリカルボン酸エステルの分子量が大きすぎると、熱処理時においてエスエルが揮発する際に膜にダメージを与えやすく、緻密な膜を得られないことがある。
【0022】
前記ポリカルボン酸エステルは、室温において液体であることができる。ポリカルボン酸エステルが室温で固体であると、液がゲル化することがある。
【0023】
本発明の前駆体組成物の製造方法において、前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに金属カルボン酸塩を用いたゾルゲル原料を含むことができる。かかる金属カルボン酸塩としては、代表的に、鉛のカルボン酸塩である酢酸鉛、さらに図2に示すような、オクチル酸鉛、オクチル酸ニオブ、オクチル酸鉛ニオブなどを挙げることができる。
【0024】
本発明の前駆体組成物の製造方法において、前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに有機金属化合物(MOD原料)を用いることができる。このように、本発明の前駆体組成物の製造方法においては、アルコキシド原料同士をエステル結合するだけでなく、MOD原料とアルコキシド原料をエステル結合することができる。
【0025】
本発明の前駆体組成物の製造方法において、さらに、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料として、Si、あるいはSiおよびGeを含むゾルゲル原料を用いることができる。
【0026】
本発明の前駆体組成物の製造方法において、前記ゾルゲル溶液として、少なくともPbZrO用ゾルゲル溶液、PbTiO用ゾルゲル溶液、およびPbNbO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いることができる。例えば、PbNbOゾルゲル溶液においては、オクチル酸鉛とオクチル酸ニオブを混合して形成され、両者のアルコール交換反応によって、図2のような様相を示すものである。また、PbNbOゾルゲル溶液の代わりにPbTaOゾルゲル溶液を用いることもできる。
【0027】
本発明の前駆体組成物の製造方法において、ゾルゲル溶液として、さらにPbSiO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いることができる。
【0028】
本発明にかかる強誘電体膜の製造方法は、本発明にかかる前駆体組成物を、導電膜上に塗布した後、熱処理することを含む。前記導電膜としては、Pt、Irなどの白金系金属を用いることができる。さらに導電膜として、SrRuOやLaNiOなどのペロブスカイト型電極材料を用いることもできる。
【0029】
本発明にかかる圧電素子は、本発明の前駆体組成物を用いて形成された強誘電体膜を含む。
【0030】
本発明にかかる半導体装置は、本発明の前駆体組成物を用いて形成された強誘電体膜を含む。
【0031】
本発明にかかる圧電アクチュエータは、本発明の圧電素子を含む。
【0032】
本発明にかかるインクジェット式記録ヘッドは、本発明の圧電アクチュエータを含む。
【0033】
本発明にかかるインクジェットプリンタは、本発明のインクジェット式記録ヘッドを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に述べる。
【0035】
1.前駆体組成物
本実施形態にかかる前駆体組成物は、強誘電体の成膜に用いられる。ここで、強誘電体は、一般式AB1−xで示され、A元素は少なくともPbからなり、B元素はZr、Ti、V、WおよびHfの少なくとも一つからなり、C元素は、NbおよびTaの少なくとも一つからなることができる。そして、本実施形態では、前駆体は、少なくともB元素およびC元素を含み、かつ一部にエステル結合を有する。
【0036】
本実施形態の前駆体組成物において、前記前駆体は、有機溶媒に溶解もしくは分散されていることができる。有機溶媒としては、アルコールを用いることができる。アルコールとしては、特に限定されないが、ブタノール、メタノール、エタノール、プロパノールなどの1価のアルコール、または多価アルコールを例示できる。かかるアルコールとしては、例えば以下のものをあげることができる。
【0037】
1価のアルコール類;
プロパノール(プロピルアルコール)として、1−プロパノール(沸点97.4℃)、2−プロパノール(沸点82.7℃)、
ブタノール(ブチルアルコール)として、1−ブタノール(沸点117℃)、2−ブタノール(沸点100℃)、2−メチル−1−プロパノール(沸点108℃)、2−メチル−2−プロパノール(融点25.4℃,沸点83℃)、
ペンタノール(アミルアルコール)として、1−ペンタノール(沸点137℃)、3−メチル−1−ブタノール(沸点131℃)、2−メチル−1−ブタノール(沸点128℃)、2,2ジメチル−1−プロパノール(沸点113℃)、2−ペンタノール(沸点119℃)、3−メチル−2−ブタノール(沸点112.5℃)、3−ペンタノール(沸点117℃)、2−メチル−2−ブタノール(沸点102℃)、
多価アルコール類;
エチレングリコール(融点−11.5℃,沸点197.5℃)、グリセリン(融点17℃,沸点290℃)。
【0038】
本実施形態の前駆体組成物によって得られる強誘電体は、好ましくは0.05≦x<1の範囲で、さらに好ましくは0.1≦x≦0.3の範囲でNbを含むことができる。また、前記強誘電体は、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、5モル%以下のSi、あるいはSiおよびGeを含むことができる。さらに、前記B元素は、ZrおよびTiであることができる。すなわち、本実施形態では、強誘電体は、TiサイトにNbをドーピングしたPb(Zr、Ti、Nb)O(PZTN)であることできる。
【0039】
Nbは、Tiとサイズ(イオン半径が近く、原子半径は同一である)がほぼ同じで、重さが2倍あり、格子振動による原子間の衝突によっても格子から原子が抜けにくい。また原子価は、+5価で安定であり、たとえPbが抜けても、Nb5+によりPb抜けの価数を補うことができる。また結晶化時に、Pb抜けが発生したとしても、サイズの大きなOが抜けるより、サイズの小さなNbが入る方が容易である。
【0040】
また、Nbは+4価も存在するため、Ti4+の代わりは十分に行うことが可能である。更に、実際にはNbは共有結合性が非常に強く、Pbも抜け難くなっていると考えられる(H.Miyazawa,E.Natori,S.Miyashita;Jpn.J.Appl.Phys.39(2000)5679)。
【0041】
本実施形態の前駆体組成物によって得られる強誘電体、特にPZTNによれば、Nbを特定の割合で含むことにより、Pbの欠損による悪影響を解消し、優れた組成制御性を有する。その結果、PZTNは、後述する実施例からも明らかなように、通常のPZTに比べて極めて良好なヒステリシス特性、リーク特性、耐還元性および絶縁性などを有する。
【0042】
これまでも、PZTへのNbドーピングは、主にZrリッチの稜面体晶領域で行われてきたが、その量は、0.2〜0.025モル%(J.Am.Ceram.Soc,84(2001)902;Phys.Rev.Let,83(1999)1347)程度と、極僅かなものである。このようにNbを多量にドーピングすることができなかった要因は、Nbを例えば10モル%添加すると、結晶化温度が800℃以上に上昇してしまうことによるものであったと考えられる。
【0043】
そこで、強誘電体の前駆体組成物に、更にPbSiOシリケートを例えば、0.5〜5モル%の割合で添加することが好ましい。これによりPZTNの結晶化エネルギーを軽減させることができる。すなわち、強誘電体膜の材料としてPZTNを用いる場合、Nb添加とともに、PbSiOシリケートを添加することでPZTNの結晶化温度の低減を図ることができる。また、シリケートの代わりに、シリケートとゲルマネートを混合して用いることもできる。本願発明者らは、Siが、焼結剤として働いた後、Aサイトイオンとして、結晶の一部を構成していることを確認した(図1参照)。すなわち、図1に示すように、チタン酸鉛中にシリコンを添加すると、Aサイトイオンのラマン振動モードE(1TO)に変化が見られた。また、ラマン振動モードに変化が見られたのは、Si添加量が8モル%以下の場合であった。従って、Siの微少添加では、SiはペロブスカイトのAサイトに存在していることが確認された。
【0044】
本発明においては、Nbの代わりに、あるいはNbと共に、Taを用いることもできる。Taを用いた場合にも、上述したNbと同様の傾向がある。
【0045】
本実施形態の前駆体組成物は、後に詳述するように、前駆体がポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有していて可逆的反応が可能なため、高分子化された前駆体を分解して金属アルコキシドとすることができる。そのため、この金属アルコキシドを前駆体原料として再利用することができる。
【0046】
加えて、本発明には、以下のような利点がある。市販されているPZTゾルゲル溶液では、一般に鉛原料として酢酸鉛が用いられるが、酢酸鉛は他のTiやZrのアルコキシドと結合し難く、鉛が前駆体のネットワーク中に取り込まれ難い。本発明では、例えば2価のポリカルボン酸であるコハク酸の2つのカルボキシル基のうち、初めに酸として働くどちらか一方の第1カルボルシル基の酸性度はpH=4.0と酢酸のpH=4.56よりも小さく、酢酸よりも強い酸であるため、酢酸鉛は、コハク酸と結合する。つまり弱酸の塩+強酸→強酸の塩+弱酸となる。更に、コハク酸の残った第2カルボルシル基が、別のMOD分子或いはアルコキシドと結合するため、これまで困難であったPbの前駆体でのネットワーク化が容易である。
【0047】
2.前駆体組成物の製造方法
本実施形態にかかる前駆体組成物の製造方法は、一般式AB1−xで示され、A元素は少なくともPbからなり、B元素はZr、Ti、V、WおよびHfの少なくとも一つからなり、C元素は、NbおよびTaの少なくとも一つからなる強誘電体の形成に用いることができる。本実施形態の製造方法は、少なくとも前記B元素および前記C元素を含むゾルゲル原料であって、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合し、前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を形成することを含む。
【0048】
本実施形態では、B元素が、ZrおよびTiであり、C元素が、NbまたはTaである強誘電体の製造方法に有用である。
【0049】
図4および図5に、本実施形態の製造方法における前駆体の生成反応を模式的に示す。
【0050】
前駆体の生成反応は、大別すると、図4に示すような第1段目のアルコキシ基の置換反応と、図5に示すような第2段目のエステル化による高分子ネットワークの形成反応とを含む。図4および図5では、便宜的に、ポリカルボン酸エステルとしてコハク酸ジメチルを用い、有機溶媒としてn−ブタノールを用いた例を示す。コハク酸ジメチルは非極性であるがアルコール中で解離してジカルボン酸となる。
【0051】
第1段目の反応においては、図4に示すように、コハク酸ジメチルとゾルゲル原料の金属アルコキシドとのエステル化によって両者はエステル結合される。すなわち、コハク酸ジメチルはn−ブタノール中で解離し、一方のカルボニル基(第1カルボニル基)にプロトンが付加した状態となる。この第1カルボニル基と、金属アルコキシドのアルコキシ基との置換反応が起き、第1カルボキシル基がエステル化された反応生成物とアルコールが生成する。ここで、「エステル結合」とは、カルボニル基と酸素原子との結合(−COO−)を意味する。
【0052】
第2段目の反応においては、図5に示すように、第1段目の反応で残った他方のカルボキシル基(第2カルボキシル基)と金属アルコキシドのアルコキシ基との置換反応が起き、第2カルボキシル基がエステル化された反応生成物とアルコールが生成する。
【0053】
このように、2段階の反応によって、ゾルゲル原料に含まれる、金属アルコキシドの加水分解・縮合物同士がエステル結合した高分子ネットワークが得られる。したがって、この高分子ネットワークは、該ネットワーク内に適度に秩序よくエステル結合を有する。なお、コハク酸ジメチルは2段階解離し、第1カルボキシル基は第2カルボキシル基より酸解離定数が大きいため、第1段目の反応は第2段目の反応より反応速度が大きい。したがって、第2段目の反応は第1段目の反応よりゆっくり進むことになる。
【0054】
本実施形態において、上述したエステル化反応を促進するためには、以下の方法を採用できる。
【0055】
(1)反応物の濃度あるいは反応性を大きくする。具体的には、反応系の温度を上げることにより、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの解離度を大きくすることによって反応性を高める。反応系の温度は、有機溶媒の沸点などに依存するが、室温より高く有機溶媒の沸点より低い温度であることが望ましい。反応系の温度としては、例えば100℃以下、好ましくは50〜100℃であることができる。
【0056】
(2)反応副生成物を除去する。具体的には、エステル化と共に生成する水、アルコールを除去することでエステル化がさらに進行する。
【0057】
(3)物理的に反応物の分子運動を加速する。具体的には、例えば紫外線などのエネルギー線を照射して反応物の反応性を高める。
【0058】
本実施形態の前駆体組成物の製造方法に用いられる有機溶媒は、前述したように、アルコールであることができる。溶媒としてアルコールを用いると、ゾルゲル原料とポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの両者を良好に溶解することができる。
【0059】
本実施形態の前駆体組成物の製造方法に用いられるポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルは、特に限定されないが、前述したポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを用いることができる。
【0060】
ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの使用量は、ゾルゲル原料および強誘電体の組成比に依存するが、ポリカルボン酸が結合する、例えばPZTゾルゲル原料、PbNbゾルゲル原料、PbSiゾルゲル原料の合計モルイオン濃度とポリカルボン酸のモルイオン濃度は、好ましくは1≧(ポリカルボン酸のモルイオン濃度)/(原料溶液の総モルイオン濃度)、より好ましくは1:1とすることができる。ポリカルボン酸の添加量は、例えば0.35molとすることができる。
【0061】
ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの添加量は、結合させたい原料溶液の総モル数と等しいかそれ以上であることが望ましい。両者のモルイオン濃度の比が1:1で、原料すべてが結合するが、エステルは、酸性溶液中で安定に存在するので、エステルを安定に存在させるために、原料溶液の総モル数よりも、ポリカルボン酸を多く入れることが好ましい。また、ここで、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルのモル数とは、価数のことである。つまり、2価のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルであれば、1分子のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルが、2分子の原料分子を結合することができるので、2価のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルであれば、原料溶液1モルに対して、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル0.5モルで1:1ということになる。加えて、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルも、初めから酸ではなく、ポリカルボン酸のエステルをアルコール中で解離させて、ポリカルボン酸となる。この場合、添加するアルコールのモル数は、1≧(アルコールのモル数/ポリカルボン酸エステルのモル数)であることが望ましい。全てのポリカルボン酸エステルが十分に解離するには、アルコールのモル数が多いほうが、安定して解離するからである。ここで、アルコールのモル数というのも、アルコールの価数で割った、いわゆる、モルイオン濃度を意味する。
【0062】
本実施形態の前駆体組成物の製造方法において、さらに、金属カルボン酸塩からなる原料を含むことができる。かかる金属カルボン酸塩としては、代表的に、前述した鉛のカルボン酸塩である酢酸鉛、オクチル酸鉛等を挙げることができる。
【0063】
また、本実施形態の前駆体組成物の製造方法においては、前記ゾルゲル原料とともに有機金属化合物(MOD原料)を用いることができる。かかる有機金属化合物としては、例えばオクチル酸ニオブを用いることができる。オクチル酸ニオブは、図2に示したように、Nbが2原子共有結合して、その他の部分にオクチル基が存在する構造である。この場合、Nb−Nbは2原子が結合しているが、それ以上のネットワークは存在しないため、これをMOD原料として扱っている。
【0064】
カルボン酸とMOD原料のネットワーク形成は、主にアルコール交換反応で進行する。例えば、オクチル酸ニオブの場合、カルボン酸とオクチル基の間で反応し(アルコール交換反応)、R−COO−Nbという、エステル化が進行する。このように、本実施形態では、MOD原料をエステル化することにより、MOD原料とアルコキシドとの縮合によってMOD原料の分子を前駆体のネットワークに結合することができる。
【0065】
さらに、本実施形態の前駆体組成物の製造方法においては、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料として、Si、あるいはSiおよびGeを含むゾルゲル原料を用いることができる。このようなゾルゲル溶液としては、PbSiO用ゾルゲル溶液を単独で、もしくはPbSiO用ゾルゲル溶液とPbGeO用ゾルゲル溶液の両者を用いることができる。このようなSiやGeを含むゾルゲル原料を用いることにより、成膜時の温度を低くすることができ、450℃程度から強誘電体の結晶化が可能である。すなわち、図6に示すように、結晶化温度が450℃においても本発明のPZTN強誘電体を示すピークが認められる。
【0066】
本実施形態の前駆体組成物の製造方法においては、PZTNを得るためには、ゾルゲル溶液として、少なくともPbZrO用ゾルゲル溶液、PbTiO用ゾルゲル溶液、およびPbNbO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いることができる。この場合にも、上述したSi、あるいはSiおよびGeを含むゾルゲル原料をさらに混合することができる。
【0067】
また、Nbの代わりにTaを導入する場合には、ゾルゲル原料として、PbTaO用ゾルゲル溶液を用いることができる。
【0068】
本実施形態で得られた前駆体組成物の前駆体は、複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有しているので、可逆的反応が可能である。そのため、前駆体において、図4に示す左方向の反応を進行させることで、高分子化された前駆体(高分子ネットワーク)を分解して金属アルコキシドの縮合物とすることができる。
【0069】
本実施形態の製造方法および前駆体組成物によれば、以下のような特徴を有する。
【0070】
本実施形態の製造方法によれば、有機溶媒中で、ポリカルボン酸によって、ゾルゲル原料の金属アルコキシドの加水分解・縮合物(複数の分子ネットワーク)同士がエステル結合によって縮重合した高分子ネットワークが得られる。したがって、この高分子ネットワークには、上記加水分解・縮合物に由来する複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有する。そして、エステル化反応は、温度制御などで容易に行うことができる。
【0071】
また、このように本実施形態の前駆体組成物は、複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有しているので、可逆的反応が可能である。そのため、強誘電体膜の成膜後に残った組成物において、高分子化された前駆体(高分子ネットワーク)を分解して金属アルコキシド(もしくはその縮合物からなる分子ネットワーク)とすることができる。このような金属アルコキシド(もしくはその縮合物からなる分子ネットワーク)は、前駆体原料として再利用することができるので、鉛などの有害とされる物質を再利用でき、環境の面からもメリットが大きい。
【0072】
3.強誘電体膜の製造方法
本実施形態にかかる強誘電体膜の製造方法は、上述した本実施形態にかかる前駆体組成物を、白金系金属からなる金属膜上に塗布した後、熱処理することを含む。白金系金属は、エステル化に対して良好な酸性触媒作用を有するので、強誘電体膜の結晶化をより良好にすることができる。白金系金属としては、PtおよびIrの少なくとも一方であることができる。白金系金属の代わりに、SrRuOやLaNiOなどのペロブスイカイト型電極材料を用いることもできる。この製造方法によれば、公知の塗布法を用いた簡易な方法によって特性のよい強誘電体膜を得ることができる。
【0073】
4.実施例
以下、本発明の実施例について説明する。
【0074】
(1)実施例1
(A)本実施例では、PZTN強誘電体膜は、Pb、Zr、Ti、およびNbの少なくともいずれかを含む第1ないし第3の原料溶液と、ポリカルボン酸エステルとしてのコハク酸ジメチルと、有機溶媒としてのn−ブタノールとを混合し、これらの混合液に含まれる酸化物を熱処理等により結晶化させて得られた。混合液は、ゾルゲル原料とコハク酸ジメチルとを1:1の割合でn−ブタノールに溶解したものである。
【0075】
第1の原料溶液としては、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびZrによるPbZrOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0076】
第2の原料溶液としは、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびTiによるPbTiOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0077】
第3の原料溶液としては、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびNbによるPbNbOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0078】
上記第1、第2および第3の原料溶液を用いて、PbZr0.2Ti0.6Nb0.2(PZTN)からなる強誘電体膜を形成する場合、(第1の原料溶液):(第2の原料溶液):(第3の原料溶液)=2:6:2の比で混合する。さらに、強誘電体膜の結晶化温度を低下させる目的で、第4の原料溶液として、PbSiO結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を、3モル%の割合で上記混合溶液中に添加した。すなわち、ゾルゲル原料として上記第1、第2、第3および第4の原料溶液の混合溶液を用いることで、PZTNの結晶化温度を700℃以下の温度範囲で結晶化させることが可能となる。
【0079】
サンプルは、以下の方法で得た。
【0080】
まず、室温にて、上記第1ないし第4の原料溶液と、コハク酸ジメチルとをn−ブタノールに溶解して溶液(前駆体組成物)を調製した。そして、この溶液を常温で8週間にわたって保存した。この間に、所定期間経過した溶液を用いて、図36に示す方法でサンプルを作成した。すなわち、スピン塗布法によって白金基板(シリコン基板上に、酸化シリコン層、酸化チタン層および白金層が形成された基板)に溶液を塗布し、ホットプレートを用いて150〜180℃(150℃)で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300〜350℃(300℃)で脱脂熱処理を行った。その後、必要に応じて上記塗布工程、乾燥処理工程および脱脂熱処理を複数回行い所望の膜厚の塗布膜を得た。さらに、結晶化アニール(焼成)により、膜厚150nmの強誘電体膜のサンプルを得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中でラピッドサーマルアニール(RTA)を用いて、650〜700℃(700℃)で行った。さらに、白金からなる上部電極をスパッタ法により形成して、強誘電体キャパシタのサンプル(以下、これを「キャパシタサンプル」ともいう)を得た。
【0081】
これらのサンプルを用いて以下の特性を調べた。
【0082】
(a)3種のサンプルの強誘電体膜について、X線回折によって結晶性を調べた。図7にその結果を示す。図7において、符号aで示すグラフは調製直後の溶液を用いたサンプルaの結果を示し、符号bで示すグラフは調製直後から3週間経過した溶液を用いたサンプルbの結果を示し、符号cで示すグラフは調製直後から8週間経過した溶液を用いたサンプルcの結果を示した。
【0083】
図7から、いずれのサンプルにもPZTNの(100)、(111)のピークが認められ、いずれの原料溶液もエステル化が進行していることが確認された。特に、サンプルcでは、ピークは顕著であった。
【0084】
(b)図8(A)〜(C)に、サンプルa,b,cの強誘電体膜を有するキャパシタサンプルa,b,cについて求めたヒステリシスを示した。図8(A)〜(C)から、キャパシタサンプルaよりキャパシタサンプルb,cのほうが良好なヒステリシス特性を有することが確認された。
【0085】
(c)図9に、キャパシタサンプルa,b,cについて求めた、分極特性を示した。図9から、キャパシタサンプルaよりキャパシタサンプルb,cのほうが良好な分極特性を有することが確認された。
【0086】
(B)さらに、溶液調整後から4日間、7日間、11日間、2週間、3週間、8週間および12週間経過したときの上記溶液(前駆体組成物)を用いて、強誘電体膜のサンプルを形成した。サンプルは、白金基板上に溶液を塗布し、室温で窒素ガスブローによって塗膜中の有機溶媒(n−ブタノール)を除去して形成した。これらのサンプルをそれぞれサンプルb,c,d,e,f,gおよびhとする。
【0087】
図10および図11に、各サンプルa〜hについて求めたフーリエ変換赤外分光法(FT−IR)の結果を示す。図10には、キャパシタサンプルaの結果もあわせて示す。図11は、図10に示すスペクトルから、各サンプルb〜hのスペクトルとサンプルaのスペクトルとの差(差スペクトル)を求めたものである。波長1160〜1170cm−1のピークは、C−O−R’を示し、波長1726〜1742cm−1のピークは、カルボニル基(C=O)を示す。図10および図11から、溶液調製からの経過時間が長いほど、エステル結合を示すこれらのピークがより大きくなり、溶液中にエステル結合を有する高分子ネットワークが形成されていることが確認された。
【0088】
さらに、図12に、PZTに由来する1300〜1600cm−1の複数ピークに対する上記カルボニル基に由来するピークの相対強度の変化を示す。図12から、溶液調製から7日目くらいからカルボニル基のピーク強度が大きくなり、8週間頃からほぼ飽和していることがわかる。
【0089】
(2)実施例2
本実施例では、溶液を調製する際に加熱する点で、実施例1と異なる。溶液の組成は実施例1と同様である。すなわち、ゾルゲル原料として、実施例1で用いられたPbZr0.2Ti0.8Nb0.2(PZTN)に相当する第1〜第3の原料溶液にPbSiO結晶を形成するための第4の原料溶液を、2モル%の割合で添加したものを用いた。このゾルゲル原料とコハク酸ジメチルとを1:1の割合でn−ブタノールに溶解した後、溶液を80℃で60分間加熱して溶液(前駆体組成物)を得た。
【0090】
サンプル1は、以下の方法で得た。まず、上記溶液(前駆体組成物)をスピン塗布法によって白金基板に塗布し、ホットプレートを用いて150〜180℃で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300〜350℃で脱脂熱処理を行った。その後、必要に応じて上記塗布工程、乾燥処理工程および脱脂熱処理を複数回行い、所望の膜厚の塗布膜を得た。さらに結晶化アニール(焼成)により、膜厚150nmの強誘電体膜を得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中でラピッドサーマルアニール(RTA)を用いて700℃で行った。このようにして強誘電体膜のサンプル1を得た。このサンプル1について、X線回折によって結晶性を調べた。図13にその結果を示す。図13において、符号aで示すグラフは調製から3週間経過した溶液を用いた実施例1のサンプルbの結果を示し、符号bで示すグラフは本実施例のサンプル1の結果を示している。
【0091】
図13から、本実施例のサンプル1は、実施例1のサンプルbに比べて、同等かそれ以上の良好な結晶性を有することがわかった。また、サンプル1の強誘電体膜の表面モフォロジーをSEMにて調べたところ、図54に示すように、良好であった。
【0092】
溶液の温度を50℃および110℃とした以外は上述の方法と同様にして、強誘電体膜のサンプル2,3を得た。図14は、各サンプル1,2,3のX線回折で得られたXRDパターンから得られた結晶性と反応温度および反応時間との関係を示す。図14において、符号aで示すグラフは温度が80℃、符号bで示すグラフは温度が50℃、符号cで示すグラフは温度が110℃の場合のサンプルである。
【0093】
図14から、溶液を調製する温度が110℃の場合には、当該温度が50℃および80℃の場合に比べて、結晶性が劣ることが分かった。この場合は、温度が高すぎて、アルコール溶媒の蒸発が起こり、エステル化が妨げられたためと思われる。
【0094】
図15(A)および(B)は、溶液の調製条件が異なるサンプルのヒステリシスを示す。図15(A)は、溶液調製から常温で3週間経過した溶液を用いた実施例1のサンプルbの結果を示し、図15(B)は、本実施例のサンプル1の結果を示している。図15から、両者の場合とも良好なヒステリシス特性を有することが確認された。
【0095】
さらに、図37に本実施例のサンプル1および比較例1のサンプルについて求めた示差熱分析による溶液の分解過程を調べた。図37において、符号aで示すグラフは本実施例のサンプル1の結果を示し、符号bで示すグラフは比較例1のサンプルの結果を示す。比較例1は、市販のPZT形成用ゾルゲル原料にオクチル酸ニオブを本実施例の組成と同じ組成になるように添加したものである。
【0096】
図37から、本実施例のサンプル1では、約300℃付近に急峻なピークが存在することが確認された。このことは、本実施例の原料溶液では、エステル化が進行し、秩序よくカルボキシル基が配列した前駆体を含み、この前駆体は有機鎖の分解エネルギーが揃っていて分解が一気に進行するためと考えられる。これに対し、比較例1のサンプルでは、ピークがブロードで有機鎖の分解エネルギーが揃っておらず、前駆体の化学的構造が一様でないことがわかる。
【0097】
(3)実施例3
本実施例では、本願発明により得られたPZTNと従来のPZTとを比較する。成膜に用いられる溶液は、実施例2と同様である。すなわち、第1ないし第4の原料溶液と、コハク酸ジメチルとをn−ブタノールに溶解したのち、温度80℃にて1時間保持し、溶液(前駆体組成物)を調製した。溶液の組成は以下のようである。
【0098】
Pb:Zr:Ti:Nb=1:0.2:0.6:0.2とした。ここにPbSiOを0モル%,0.5モル%,1モル%添加した。
【0099】
この時の膜の表面モフォロジーを図16(A)〜図16(C)に示す。また、この膜の結晶性をX線回折法により測定すると、図17(A)〜図17(C)に示すようであった。図17(A)に示される、シリケートが0モル%(なし)の場合、結晶化温度を800℃まであげても、常誘電体パイロクロアのみが得られた。また、図17(B)に示される、シリケートが0.5モル%の場合、PZTとパイロクロアの混在であった。また、図17(C)に示される、シリケートが1モル%の場合、PZT(111)単一配向膜が得られた。また結晶性もこれまで得られたことがないほど良好なものであった。
【0100】
次にPbSiOの1モル%添加PZTN薄膜に対して、膜厚を120〜200nmとしたところ、図18(A)〜図18(C)ならびに図19(A)〜図19(C)に示すように、それぞれ膜厚に比例した結晶性を示した。なお、図18(A)〜図18(C)は、膜厚120nm〜200nmにおける表面モフォロジーを示す電子顕微鏡写真であり、図19(A)〜図19(C)は、膜厚120nm〜200nmにおけるPZTN薄膜の結晶性を示すX線回折法による測定結果である。また、図20(A)〜図20(C)および図21(A)〜図21(C)に示すように、膜厚が120nm〜200nmの範囲の全てにおいて角型性の良好なヒステリシス特性が得られた。なお、図21(A)〜図21(C)は、図20(A)〜図20(C)のヒステリシスカーブの拡大図である。特に、図21(A)〜図21(C)に示すように、本例のPZTN薄膜では、2V以下という低い電圧でしっかりとヒステリシスが開き、かつ飽和していることが確認された。
【0101】
また、リーク特性についても、図22(A)および図22(B)に示すように、膜組成や膜厚によらず、2V印加時(飽和時)で5×10−8〜7×10−9A/cmと非常に良好であった。
【0102】
次に、PbZr0.2Ti0.6Nb0.2薄膜の疲労特性、およびスタティックインプリントを測定したところ、図23(A)および図23(B)に示すように、非常に良好であった。特に、図23(A)に示す疲労特性は、上下電極にPtを用いているにもかかわらず、非常に良好である。
【0103】
さらに、図24に示すように、基板601上に、下部電極601、本実施例のPZTN強誘電体膜603、上部電極603を形成した強誘電体キャパシタ600の上にオゾンTEOSによるSiO膜604の形成を試みた。従来からあるPZTはオゾンTEOSによるSiO膜形成を行うと、TEOSから発生する水素が上部Ptを通してPZTを還元し、全くヒステリシスを示さなくなるほど、PZT結晶が壊れてしまうことが知られている。
【0104】
しかしながら本実施例によるPZTN強誘電体膜603は、図25に示すように、ほとんど劣化せず、良好なヒステリシスを保持していた。すなわち、本実施例によるPZTN強誘電体膜603は耐還元性にも強いことが分かった。また、本願発明による正方晶PZTN強誘電体膜603ではNbが40モル%を超えない場合、Nbの添加量に応じて、良好なヒステリシスが得られた。
【0105】
次に、比較のために従来のPZT強誘電体膜の評価を行った。従来PZTとしては、それぞれPb:Zr:Ti=1:0.2:0.8、1:0.3:0.7、および1:0.6:0.4とした。そのリーク特性は、図26に示すように、Ti含有量が増加するほどリーク特性は劣化してしまい、Ti:80%の場合、2V印加時に、10−5A/cmとなり、メモリ応用に適していないことが分かった。同様に疲労特性も図27に示すように、Ti含有量が増加するほど疲労特性は劣化した。またインプリント後には、図28に示すように、殆どデータが読み出せないことが分かった。
【0106】
以上の実施例から分かるように、本実施例の溶液(前駆体組成物)を用いて形成されたPZTN強誘電体膜は、従来、PZTの本質が原因と考えられるリーク電流増大並びにインプリント特性劣化という問題を解決したばかりか、これまで、上記理由から使われてこなかった、正方晶PZTをメモリの種類、構造によらずにメモリ用途に用いることが可能となる。加えて、同じ理由から正方晶PZTが使われなかった圧電素子用途にも本材料は適用可能である。
【0107】
(4)実施例4
本実施例では、PZTN強誘電体膜において、Nb添加量を0、5、10、20、30、40モル%と変化させて強誘電特性を比較した。全ての試料においてPbSiOシリケートを5モル%添加している。溶液(前駆体組成物)は、実施例2と同様に調製され、コハク酸ジメチルおよび有機溶媒としてn−ブタノールを用いた。
【0108】
図29〜図31に、本実施例のPZTN強誘電体膜を測定したヒステリシス特性を示す。
【0109】
図29(A)に示すように、Nb添加量が0の場合、リーキーなヒステリシスが得られたが、図29(B)に示すように、Nb添加量が5モル%となると、絶縁性の高い良好なヒステリシス特性が得られた。
【0110】
また、図30(A)に示すように、強誘電特性は、Nb添加量が10モル%までは、殆ど変化が見られなかった。Nb添加量が0の場合も、リーキーではあるが、強誘電特性には変化が見られなかった。また、図30(B)に示すように、Nb添加量が20モル%の場合は、非常に角型性の良いヒステリシス特性が得られた。
【0111】
しかしながら、図31(A)および図31(B)に示すように、Nb添加量が20モル%を超えると、ヒステリシス特性が大きく変化し、劣化していくことが確認された。
【0112】
そこで、X線回折パターンを比較したところ図32のようであった。Nb添加量が5モル%(Zr/Ti/Nb=20/75/5)の場合、(111)ピーク位置は、従来からあるNbが添加されていないPZT膜の時と変わらないが、Nb添加量が20モル%(Zr/Ti/Nb=20/60/20)、40モル%(Zr/Ti/Nb=20/40/40)と増加するに従って、(111)ピークは低角側にシフトした。すなわち、PZTの組成はTiリッチで正方晶領域であるにもかかわらず、実際の結晶は、稜面体晶となっていることが分かる。また結晶系が変化するに従って、強誘電体特性が変化していることが分かる。
【0113】
加えて、Nbを45モル%添加したところ、ヒステリシスは開かず、強誘電特性を確認できなかった(図示省略)。
【0114】
また、本願発明によるPZTN膜は、非常に絶縁性が高いことは既に述べたが、ここでPZTNが絶縁体であるための条件を求めてみたところ、図33のようであった。
【0115】
すなわち、本願発明によるPZTN膜は、非常に絶縁性が高く、このことはPbの欠損量の2倍に相当する組成比で、TiサイトにNbが添加されていることとなる。また、ペロブスカイト結晶は図34に示されるWOの結晶構造からも分かるように、Aサイトイオンが100%欠損していても成り立ち、かつWOは結晶系が変化し易いことが知られている。
【0116】
従って、PZTNの場合は、Nbを添加することで、Pb欠損量を積極的に制御して、かつ結晶系を制御していることとなる。
【0117】
このことは、本実施形態のPZTN膜が、圧電素子、例えば、アクチュエータ、インクジェットヘッド等への応用にも非常に有効であることを示している。一般的に、PZTを圧電素子に応用する場合、Zrリッチ組成の稜面体晶領域を用いる。このとき、ZrリッチなPZTはソフト系PZTと呼ばれる。このことは文字通り、結晶が軟らかいことを意味している。例えば、インクジェットプリンタのインク吐き出しノズルにも、ソフト系PZTが使われているが、あまりにもソフトであるため、あまり粘度の高いインクでは、インクの圧力に負けて押し出すことができない。
【0118】
一方で、Tiリッチな正方晶PZTはハード系PZTと呼ばれ、固くて脆いことを意味している。しかしながら、本願発明のPZTN膜ではハード系でありながら、人工的に結晶系を稜面体晶に変化させることができる。その上、結晶系をNbの添加量によって任意に変化させることが可能で、かつTiリッチなPZT系強誘電体膜は比誘電率が小さいため、素子を低電圧で駆動することも可能となる。
【0119】
このことにより、これまで用いられることのなかった、ハード系PZTを例えば、インクジェットプリンタのインク吐き出しノズルに用いることが可能となる。加えて、NbはPZTに軟らかさをもたらすため、適度に硬いが、脆くないPZTを提供することが可能となる。
【0120】
これまで述べたように、本実施例の前駆体組成物ではNbを添加するだけでなく、Nb添加と同時に、シリケートを添加することで、結晶化温度をも低減することができることを確認している。
【0121】
(5)比較例1
比較のため、実施例2で用いたコハク酸ジメチルの代わりにモノカルボン酸エステルを用いた。
【0122】
具体的には、実施例2において、コハク酸ジメチルの代わりに、酢酸メチルを0.35モル%添加した溶液を作製した後、Pt電極基板上にスピンコートを行って、酸素雰囲気中で650℃、5分間の焼成を行って、厚さ150nmの比較用セラミック薄膜を形成した。
【0123】
この比較用サンプルについて、X線回折によって結晶性を調べた。その結果、図35に示すように、酢酸メチルを用いた場合、パイロクロア相が多く見られた。パイロクロア相は、PZTの低温相として知られている。つまり、酢酸メチルを用いた場合、コハク酸ジメチルを用いた場合よりも、結晶化温度が高いことが示された。
【0124】
酢酸メチルは1価のカルボン酸エステルであり、解離して酢酸となるが、アルコキシドやMOD原料とエステル結合を形成しても、ポリカルボン酸ではないため、次のネットワークを形成する2番目以降のエステル化が生じないため、ネットワークが長く成長することはない。その結果、本比較例では結晶化温度が上昇したと思われる。
【0125】
(6)実施例5
本実施例では、ポリカルボン酸エステルとして、コハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、およびマロン酸ジメチルを用いて原料溶液を調製し、各原料溶液を用いて実施例2と同様にしてサンプルを形成した。
【0126】
具体的には、ゾルゲル原料として、PbZr0.17Ti0.66Nb0.17(PZTN)に相当する実施例1と同様の第1〜第3の原料溶液に、PbSiO結晶を形成するための第4の原料溶液を、5モル%の割合で添加したものを用いた。このゾルゲル原料とコハク酸ジメチルとを1:1の割合でn−ブタノールに溶解した後、溶液を80℃で60分間加熱して溶液(前駆体組成物)を得た。
【0127】
サンプル1は、以下の方法で得た。まず、上記溶液(前駆体組成物)をスピン塗布法によって白金基板に塗布し、ホットプレートを用いて150℃で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300℃で脱脂熱処理を行った。その後、上記塗布工程、乾燥処理工程および脱脂熱処理を3回行い、所望の膜厚の塗布膜を得た。さらに結晶化アニール(焼成)により、膜厚150nmの強誘電体膜を得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中でラピッドサーマルアニール(RTA)を用いて700℃で行った。このようにして強誘電体膜のサンプル1を得た。
【0128】
このサンプル1について、実施例1と同様にして、X線回折によって結晶性およびヒステリシスを調べた。図38にX線解析結果を、図39にヒステリシスの結果を示す。これらの結果からも、コハク酸ジメチルを用いた場合に良好なPZTNが得られることが確認された。
【0129】
コハク酸ジメチルの代わりにマレイン酸ジメチルを用いた他は、サンプル1の場合と同様にして強誘電体膜のサンプル2を得た。このサンプル2について、実施例1と同様にして、X線回折によって結晶性およびヒステリシスを調べた。図40にX線解析結果を、図41にヒステリシスの結果を示す。これらの結果から、マレイン酸ジメチルを用いた場合にも良好なPZTNが得られることが確認された。
【0130】
さらに、コハク酸ジメチルの代わりにマロン酸ジメチルを用いた他は、サンプル1の場合と同様にして強誘電体膜のサンプル3を得た。このサンプル3について、実施例1と同様にして、X線回折によって結晶性およびヒステリシスを調べた。図42にX線解析結果を、図43にヒステリシスの結果を示す。これらの結果から、マロン酸ジメチルを用いた場合にも良好なPZTNが得られることが確認された。
【0131】
(7)実施例6
本実施例では、Nbの代わりにTaを含む酸化物を用いて原料溶液を調製し、実施例2と同様にしてサンプルを形成した。
【0132】
具体的には、ゾルゲル原料として、PbZr0.17Ti0.66Ta0.17(PZTT)に相当する第1〜第3の原料溶液にPbSiO結晶を形成するための第4の原料溶液を、5モル%の割合で添加したものを用いた。PbおよびZrを含む第1の原料溶液と、PbおよびTiを含む第2の原料溶液は実施例1と同様であり、PbおよびTaを含む第3の原料溶液としては、PbTaOペロブスカイト結晶を形成するための縮合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0133】
この溶液を用いて実施例1と同様にして強誘電体膜のサンプルを得た。このサンプルについて、実施例1と同様にして、ヒステリシスを調べた。図44にヒステリシスの結果を示す。この結果から、Nbの代わりにTaを用いた場合にも良好なヒステリシスが得られることが確認された。
【0134】
(8)実施例7
本実施例では、結晶化温度を変えた他は、実施例1と同様にしてサンプルを形成した。
【0135】
具体的には、ゾルゲル原料として、PbZr0.2Ti0.6Nb0.2(PZTN)に相当する実施例1と同様の第1〜第3の原料溶液に、PbSiO結晶を形成するための第4の原料溶液を、5モル%の割合で添加したものを用いた。このゾルゲル原料とコハク酸ジメチルとを1:1の割合でn−ブタノールに溶解した後、溶液を80℃で60分間加熱して溶液(前駆体組成物)を得た。
【0136】
サンプルは、以下の方法で得た。まず、上記溶液(前駆体組成物)をスピン塗布法によって白金基板(シリコン基板上に、酸化シリコン層、酸化チタン層および白金層が形成された基板)に塗布し、ホットプレートを用いて150℃で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300℃で脱脂熱処理を行った。その後、上記塗布工程、乾燥処理工程および脱脂熱処理を3回行い、所望の膜厚の塗布膜を得た。さらに結晶化アニール(焼成)により、膜厚150nmの強誘電体膜を得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中でラピッドサーマルアニール(RTA)を用いて600℃で10分間行った。このようにして強誘電体膜のサンプルを得た。
【0137】
このサンプルについて、実施例1と同様にして、X線回折によって結晶性を調べた。図45にX線解析結果を示す。図45において、符号「a」で示すグラフは、本実施例の結果を示し、符号「b」で示すグラフは、後述する参考例1の結果を示す。図46は、図45の一部を拡大して示すものである。この結果から、本実施例でも、良好なPZTNが得られることが確認された。
【0138】
(9)参考例1
実施例7で用いたn−ブタノールの代わりに、有機溶媒としてアルカンであるn−オクタンを用いたほかは実施例7と同様にしてサンプルを得た。
【0139】
このサンプルについて、実施例1と同様にして、X線回折によって結晶性を調べた。図45および図46にX線解析結果を示す。この結果から、本参考例では、図46において矢印で示す部分にパイロクロアのピークが確認された。このことから、有機溶媒としては、アルカンのような極性のないものより、アルコールのような極性を有する溶媒を用いると、結晶性のより良好なPZTNが得られることが確認された。
【0140】
(10)実施例8
本実施例では、有機溶媒としてn−ブタノールの代わりにエチレングリコールを用いた点で、実施例1と異なる。すなわち、本実施例では、PZTN強誘電体膜は、Pb、Zr、TiおよびNbの少なくともいずれかを含む第1ないし第3の原料溶液と、ポリカルボン酸としてのコハク酸ジメチルと、有機溶媒としてのエチレングリコール(C:二価アルコール)とを混合し、これらの混合液に含まれる酸化物を熱処理等により結晶化させて得られた。混合液は、ゾルゲル原料とコハク酸ジメチルとを1:1の割合でエチレングリコールに溶解したものである。
【0141】
第1の原料溶液としては、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびZrによるPbZrOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をエチレングリコールに無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0142】
第2の原料溶液としは、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびTiによるPbTiOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をエチレングリコールに無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0143】
第3の原料溶液としては、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびNbによるPbNbOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をエチレングリコールに無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0144】
上記第1、第2および第3の原料溶液を用いて、PbZr0.2Ti0.6Nb0.2(PZTN)からなる強誘電体膜を形成する場合、(第1の原料溶液):(第2の原料溶液):(第3の原料溶液)=2:6:2の比で混合する。さらに、強誘電体膜の結晶化温度を低下させる目的で、第4の原料溶液として、PbSiO結晶を形成するための縮重合体をエチレングリコールに無水状態で溶解した溶液を、1.5モル%の割合で上記混合溶液中に添加した。すなわち、ゾルゲル原料として上記第1、第2、第3および第4の原料溶液の混合溶液を用いることで、PZTNの結晶化温度を650℃で結晶化させることが可能となる。
【0145】
サンプルは、以下の方法で得た。
【0146】
まず、室温にて、上記第1ないし第4の原料溶液と、コハク酸ジメチルとをエチレングリコールに溶解して溶液を調製した。そして、この溶液を密閉した後、90℃、30分間加熱し、さらに室温まで冷却して前駆体組成物を得た。
【0147】
ついで、この前駆体組成物を、スピン塗布法によって白金基板に塗布し、ホットプレートを用いて150℃で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300℃で脱脂熱処理を行った。その後、上記塗布工程、乾燥処理工程および脱脂熱処理を3回行った後、酸素中で650℃、5分間の結晶化アニール(焼成)を行い、膜厚120nmの強誘電体膜のサンプルを得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中で120℃/秒の昇温速度のラピッドサーマルアニール(RTA)を用いて行った。さらに、白金からなる上部電極をスパッタ法により形成して、強誘電体キャパシタのサンプルを得た。
【0148】
これらのサンプルを用いて、以下の特性を調べた。
【0149】
キャパシタサンプルの結晶性をX線回折によって調べた。図55にその結果を示す。図55において、符号「a」で示すXRDパターンは本実施例のエチレングリコールを用いたものであり、符号「b」で示すXRDパターンは実施例2のn−ブタノールを用いたものである。図55から、本実施例のPZTNも実施例2と同様にペロブスカイト単相からなることが分かった。
【0150】
また、本実施例のキャパシタサンプルのヒステリシス特性を評価したところ、図56(A)に示すように、良好なヒステリシス特性が得られた。
【0151】
図56(B)は、焼成温度を700℃にした他は本実施例と同様にして得られたキャパシタサンプルのヒステリシス特性を示す。この場合も良好なヒステリシス特性が得られた。
【0152】
さらに、本実施例のキャパシタサンプルの表面モフォロジーをSEMによって調べたところ、図57に示すように、良好な結果が得られた。
【0153】
(11)実施例9
本実施例では、PZTN強誘電体膜は、Pb、Zr、Ti、およびNbの少なくともいずれかを含む第1ないし第3の原料溶液と、ポリカルボン酸としては、コハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マロン酸ジメチル、およびクエン酸トリブチルのいずれかと、有機溶媒としてのn−ブタノールとをそれぞれ混合し、これらの混合液に含まれる酸化物を熱処理等により結晶化させて得られた。混合液は、ゾルゲル原料とコハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マロン酸ジメチル、またはクエン酸トリブチルのそれぞれとを1:1の割合でn−ブタノールに溶解したものである。
【0154】
第1の原料溶液としては、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびZrによるPbZrOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノール溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0155】
第2の原料溶液としは、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびTiによるPbTiOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノール溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0156】
第3の原料溶液としては、PZTN強誘電体相の構成金属元素のうち、PbおよびNbによるPbNbOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノール溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0157】
上記第1、第2および第3の原料溶液を用いて、PbZr0.2Ti0.6Nb0.2(PZTN)からなる強誘電体膜を形成する場合、(第1の原料溶液):(第2の原料溶液):(第3の原料溶液)=2:6:2の比で混合する。さらに、強誘電体膜の結晶化温度を低下させる目的で、第4の原料溶液として、PbSiO結晶を形成するため縮重合体をn−ブタノール溶媒に無水状態で溶解した溶液を、1.5モル%の割合で上記混合溶液中に添加した。このようにPZTN形成用ゾルゲル溶液を作製した。コハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マロン酸ジメチル、またはクエン酸トリブチルを用いて作製した溶液をそれぞれPZTN形成用ゾルゲル溶液a,b,c,dとした。
【0158】
次に、キャパシタサンプルは、以下の方法で得た。
まず、室温にて、PZTN形成用ゾルゲル溶液a,b,c,dを、それぞれスピン塗布法によって白金基板に塗布し、ホットプレートを用いて150℃で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300℃で脱脂熱処理を行った。その後、上記塗布工程、乾燥処理工程および脱脂熱処理を3回行った後、酸素中で650℃、5分間の結晶化アニール(焼成)により、膜厚120nmの強誘電体膜のサンプルa,b,c,dを得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中で120℃/秒の昇温速度のサーマルラピッドアニール(RTA)を用いて行った。さらに、白金からなる上部電極をスパッタ法により形成して、強誘電体キャパシタサンプルa,b,c,dを得た。
【0159】
これらのサンプルを用いて以下の特性を調べた。
【0160】
キャパシタサンプルa,b,c,dの結晶性をX線回折によって調べた。図58にその結果を示す。図58から、全てのキャパシタサンプルa,b,c,dがペロブスカイト単相からなることが分かった。
【0161】
次に、各キャパシタサンプルa,b,c,dのヒステリシス特性を評価したところ、図59(A)〜(D)に示すように、良好なヒステリシス特性が得られた。
【0162】
また、強誘電体(PZTN)膜サンプルa,b,c,dの表面モフォロジーをSEMによって調べたところ、図60(A)〜(D)に示すように、全てのサンプルにおいて緻密で平滑な表面モフォロジーであることが確認された。
【0163】
5.半導体素子
次に、本実施形態の原料溶液を用いて形成された強誘電体膜を含む半導体素子について説明する。本実施形態では、半導体素子の一例である強誘電体キャパシタを含む強誘電体メモリ装置を例に挙げて説明する。
【0164】
図47(A)および図47(B)は、上記実施形態の製造方法により得られる強誘電体キャパシタを用いた強誘電体メモリ装置1000を模式的に示す図である。なお、図47(A)は、強誘電体メモリ装置1000の平面的形状を示すものであり、図47(B)は、図47(A)におけるI−I断面を示すものである。
【0165】
強誘電体メモリ装置1000は、図47(A)に示すように、メモリセルアレイ200と、周辺回路部300とを有する。そして、メモリセルアレイ200と周辺回路部300とは、異なる層に形成されている。また、周辺回路部300は、メモリセルアレイ200に対して半導体基板400上の異なる領域に配置されている。なお、周辺回路部300の具体例としては、Yゲート、センスアンプ、入出力バッファ、Xアドレスデコーダ、Yアドレスデコーダ、又はアドレスバッファを挙げることができる。
【0166】
メモリセルアレイ200は、行選択のための下部電極210(ワード線)と、列選択のための上部電極220(ビット線)とが交叉するように配列されている。また、下部電極210および上部電極220は、複数のライン状の信号電極から成るストライプ形状を有する。なお、信号電極は、下部電極210がビット線、上部電極220がワード線となるように形成することができる。
【0167】
そして、図47(B)に示すように、下部電極210と上部電極220との間には、強誘電体膜215が配置されている。メモリセルアレイ200では、この下部電極210と上部電極220との交叉する領域において、強誘電体キャパシタ230として機能するメモリセルが構成されている。強誘電体膜215は、上記実施形態にかかる原料溶液を用いて形成された膜である。なお、強誘電体膜215は、少なくとも下部電極210と上部電極220との交叉する領域の間に配置されていればよい。
【0168】
さらに、強誘電体メモリ装置1000は、下部電極210、強誘電体膜215、および上部電極220を覆うように、第2の層間絶縁膜430が形成されている。さらに、配線層450、460を覆うように第2の層間絶縁膜430の上に絶縁性の保護層440が形成されている。
【0169】
周辺回路部300は、図47(A)に示すように、前記メモリセルアレイ200に対して選択的に情報の書き込み若しくは読出しを行うための各種回路を含み、例えば、下部電極210を選択的に制御するための第1の駆動回路310と、上部電極220を選択的に制御するための第2の駆動回路320と、その他にセンスアンプなどの信号検出回路(図示省略)とを含んで構成される。
【0170】
また、周辺回路部300は、図47(B)に示すように、半導体基板400上に形成されたMOSトランジスタ330を含む。MOSトランジスタ330は、ゲート絶縁膜332、ゲート電極334、およびソース/ドレイン領域336を有する。各MOSトランジスタ330間は、素子分離領域410によって分離されている。このMOSトランジスタ330が形成された半導体基板400上には、第1の層間絶縁膜420が形成されている。そして、周辺回路部300とメモリセルアレイ200とは、配線層51によって電気的に接続されている。
【0171】
次に、強誘電体メモリ装置1000における書き込み、読出し動作の一例について述べる。
【0172】
まず、読出し動作においては、選択されたメモリセルのキャパシタに読み出し電圧が印加される。これは、同時に‘0’の書き込み動作を兼ねている。このとき、選択されたビット線を流れる電流又はビット線をハイインピーダンスにしたときの電位をセンスアンプにて読み出す。そして、非選択のメモリセルのキャパシタには、読み出し時のクロストークを防ぐため、所定の電圧が印加される。
【0173】
書き込み動作においては、‘1’の書き込みの場合は、選択されたメモリセルのキャパシタに分極状態を反転させる書き込み電圧が印加される。‘0’の書き込みの場合は、選択されたメモリセルのキャパシタに分極状態を反転させない書き込み電圧が印加され、読み出し動作時に書き込まれた‘0’状態を保持する。このとき、非選択のメモリセルのキャパシタには書き込み時のクロストークを防ぐために、所定の電圧が印加される。
【0174】
この強誘電体メモリ装置1000において、強誘電体キャパシタ230は、低温で結晶化が可能な強誘電体膜215を有する。そのため、周辺回路部300を構成するMOSトランジスタ330などを劣化させることなく、強誘電体メモリ1000装置を製造することができるという利点を有する。また、この強誘電体キャパシタ230は、良好なヒステリシス特性を有するため、信頼性の高い強誘電体メモリ装置1000を提供することができる。
【0175】
図48には、半導体装置の他の例として1T1C型強誘電体メモリ装置500の構造図を示す。図49は、強誘電体メモリ装置500の等価回路図である。
【0176】
強誘電体メモリ装置500は、図48に示すように、下部電極501、プレート線に接続される上部電極502、および上述の実施形態の強誘電体膜503からなるキャパシタ504(1C)と、ソース/ドレイン電極の一方がデータ線505に接続され、ワード線に接続されるゲート電極506を有するスイッチ用のトランジスタ素子507(1T)からなるDRAMに良く似た構造のメモリ素子である。1T1C型のメモリは、書き込みおよび読み出しが100ns以下と高速で行うことができ、かつ書き込んだデータは不揮発であるため、SRAMの置き換え等に有望である。
【0177】
本実施形態の半導体装置によれば、上記実施形態の原料溶液を用いて形成されているため、低温で半導体膜を結晶化することができ、MOSトランジスタなどの半導体素子との混載を実現することができる。本実施形態の半導体装置は、上述したものに限定されず、2T2C型強誘電体メモリ装置などにも適用できる。
【0178】
6.圧電素子
次に、本実施形態の原料溶液を用いて形成された強誘電体膜を圧電素子に適用した例について説明する。
【0179】
図50は、本発明の原料溶液を用いて形成された強誘電体膜を有する圧電素子1を示す断面図である。この圧電素子1は、基板2と、基板2の上に形成された下部電極3と、下部電極3の上に形成された圧電体膜4と、圧電体膜4の上に形成された上部電極5と、を含んでいる。
【0180】
基板2は、たとえばシリコン基板を用いることができる。本実施形態において、基板2には、(110)配向の単結晶シリコン基板を用いている。なお、基板2としては、(100)配向の単結晶シリコン基板または(111)配向の単結晶シリコン基板なども用いることができる。また、基板2としては、シリコン基板の表面に、熱酸化膜または自然酸化膜などのアモルファスの酸化シリコン膜を形成したものも用いることができる。基板2は加工されることにより、後述するようにインクジェット式記録ヘッド50においてインクキャビティー521を形成するものとなる(図51参照)。
【0181】
下部電極3は、圧電体膜4に電圧を印加するための一方の電極である。下部電極3は、たとえば、圧電体膜4と同じ平面形状に形成されることができる。なお、後述するインクジェット式記録ヘッド50(図51参照)に複数の圧電素子1が形成される場合、下部電極3は、各圧電素子1に共通の電極として機能するように形成されることもできる。下部電極3の膜厚は、たとえば100nm〜200nm程度に形成されている。
【0182】
圧電体膜4は、上記の本実施形態による原料溶液を用いて形成された層であり、ペロブスカイト型構造を有する。
【0183】
下部電極3および上部電極5は、例えばスパッタ法あるいは真空蒸着法などによって形成することができる。下部電極3および上部電極5は、例えばPt(白金)からなる。なお、下部電極3および上部電極5の材料は、Ptに限定されることなく、例えば、Ir(イリジウム)、IrO(酸化イリジウム)、Ti(チタン)、または、SrRuOなどを用いることができる。
【0184】
本実施形態の圧電素子によれば、上記実施形態の原料溶液を用いて形成されているため、低温で圧電体膜を結晶化することができ、他の半導体素子との混載を実現することができる。
【0185】
7.インクジェット式記録ヘッドおよびインクジェットプリンタ
次に、上述の圧電素子が圧電アクチュエータとして機能しているインクジェット式記録ヘッドおよびこのインクジェット式記録ヘッドを有するインクジェットプリンタについて説明する。以下の説明では、インクジェット式記録ヘッドについて説明した後に、インクジェットプリンタについて説明する。図51は、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す側断面図であり、図52は、このインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下逆に示したものである。なお、図53には、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを有するインクジェットプリンタ700を示す。
【0186】
7.1.インクジェット式記録ヘッド
図51に示すように、インクジェット式記録ヘッド50は、ヘッド本体(基体)57と、ヘッド本体57上に形成される圧電部54と、を含む。圧電部54には図50に示す圧電素子1が設けられ、圧電素子1は、下部電極3、圧電体膜(強誘電体膜)4および上部電極5が順に積層して構成されている。圧電体膜4は、1.の項で述べた原料溶液を用いて形成された膜である。インクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電部54は、圧電アクチュエータとして機能する。
【0187】
インクジェット式記録ヘッド50は、ノズル板51と、インク室基板52と、弾性膜55と、弾性膜55に接合された圧電部54と、を含み、これらが筐体56に収納されて構成されている。なお、このインクジェット式記録ヘッド50は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成している。
【0188】
ノズル板51は、例えばステンレス製の圧延プレート等で構成されたもので、インク滴を吐出するための多数のノズル511を一列に形成したものである。これらノズル511間のピッチは、印刷精度に応じて適宜に設定されている。
【0189】
ノズル板51には、インク室基板52が固着(固定)されている。インク室基板52は、ノズル板51、側壁(隔壁)522、および弾性膜55によって、複数のキャビティ(インクキャビティ)521と、リザーバ523と、供給口524と、を区画形成したものである。リザーバ523は、インクカートリッジ(図示しない)から供給されるインクを一時的に貯留する。供給口524によって、リザーバ523から各キャビティ521にインクが供給される。
【0190】
キャビティ521は、図51および図52に示すように、各ノズル511に対応して配設されている。キャビティ521は、弾性膜55の振動によってそれぞれ容積可変になっている。キャビティ521は、この容積変化によってインクを吐出するよう構成されている。
【0191】
インク室基板52を得るための母材としては、(110)配向のシリコン単結晶基板が用いられている。この(110)配向のシリコン単結晶基板は、異方性エッチングに適しているのでインク室基板52を、容易にかつ確実に形成することができる。なお、このようなシリコン単結晶基板は、弾性膜55の形成面が(110)面となるようにして用いられている。
【0192】
インク室基板52のノズル板51と反対の側には弾性膜55が配設されている。さらに弾性膜55のインク室基板52と反対の側には複数の圧電部54が設けられている。弾性膜55の所定位置には、図52に示すように、弾性膜55の厚さ方向に貫通して連通孔531が形成されている。連通孔531により、インクカートリッジからリザーバ523へのインクの供給がなされる。
【0193】
各圧電素部は、圧電素子駆動回路(図示しない)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。すなわち、各圧電部54はそれぞれ振動源(ヘッドアクチュエータ)として機能する。弾性膜55は、圧電部54の振動(たわみ)によって振動し、キャビティ521の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0194】
なお、上述では、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本実施形態は、圧電素子を用いた液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【0195】
また、本実施形態に係る圧電素子は、上述した適用例に限定されるものではなく、圧電ポンプ、表面弾性波素子、薄膜圧電共振子、周波数フィルタ、発振器(例えば電圧制御SAW発振器)など、様々な形態に適用することができる。
【0196】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明はこれらに限定されず、本発明の要旨の範囲内で各種の形態を取りうる。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】本実施形態において、チタン酸鉛中にSiを添加した場合の、Aサイトイオンのラマン振動モードの変化を示す図。
【図2】本実施形態において用いられる、鉛を含むカルボン酸を示す図。
【図3.A】本実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。
【図3.B】本実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。
【図3.C】本実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。
【図3.D】本実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。
【図4】本実施形態に係る前駆体組成物における前駆体の生成反応を示す図。
【図5】本実施形態に係る前駆体組成物における前駆体の生成反応を示す図。
【図6】本実施形態に係るSi、Geを含むゾルゲル原料を用いた場合の結晶性を示す図。
【図7】本実施例に係る実施例1のサンプルのX線回折による結晶性を示す図。
【図8】本実施例に係る実施例1のサンプルのヒステリシスを示す図。
【図9】本実施例に係る実施例1のサンプルの分極特性を示す図。
【図10】本実施例に係る実施例1のサンプルのFT−IRによるスペクトルを示す図。
【図11】本実施例に係る実施例1のサンプルのFT−IRによる差スペクトルを示す図。
【図12】本実施例に係る実施例1のサンプルのFT−IRによるスペクトルにおけるPZTピークに対するカルボニル基由来ピークの相対強度を示す図。
【図13】本実施例に係る実施例2のサンプルのX線回折による結晶性を示す図。
【図14】本実施例に係る実施例2のサンプルのX線回折による結晶性と反応温度および反応時間との関係を示す図。
【図15】本実施例に係る実施例2のサンプルのヒステリシス特性を示す図。
【図16】本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の表面モフォロジーを示す図。
【図17】本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の結晶性を示す図。
【図18】本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の膜厚と表面モフォロジーとの関係を示す図。
【図19】本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の膜厚と結晶性との関係を示す図。
【図20】本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の膜厚とヒステリシス特性を示す図。
【図21】本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の膜厚とヒステリシス特性を示す図。
【図22】本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜のリーク電流特性を示す図。
【図23】本実施形態に係る実施例3におけるPZTN膜の疲労特性およびスタティックインプリント特性を示す図。
【図24】本実施形態に係る実施例3におけるオゾンTEOSによるSiO保護膜形成のキャパシタ構造を示す図。
【図25】本実施形態に係る実施例3におけるオゾンTEOSによるSiO保護膜形成後のキャパシタのヒステリシス特性を示す図。
【図26】本実施形態に係る実施例3における従来PZT膜のリーク電流特性を示す図。
【図27】本実施形態に係る実施例3における従来PZTキャパシタの疲労特性を示す図。
【図28】本実施形態に係る実施例3における従来PZTキャパシタのスタティックインプリント特性を示す図。
【図29】本実施形態に係る実施例4におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図30】本実施形態に係る実施例4におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図31】本実施形態に係る実施例4におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図32】本実施形態に係る実施例4におけるPZTN膜のX線回折パターンを示す図。
【図33】本実施形態に係る実施例4におけるPZTN結晶中のPb欠損量とNbの組成比の関係を示す図。
【図34】ペロブスカイト結晶であるWOの結晶構造を説明するための図。
【図35】本実施形態における比較例のサンプルのX線回折パターンを示す図。
【図36】本実施形態に係る実施例1におけるサンプルの形成方法を示す図。
【図37】本実施形態に係る実施例2におけるサンプルの示差熱分析の結果を示す図。
【図38】本実施形態に係る実施例5におけるPZTN膜のX線回折パターンを示す図。
【図39】本実施形態に係る実施例5におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図40】本実施形態に係る実施例5におけるPZTN膜のX線回折パターンを示す図。
【図41】本実施形態に係る実施例5におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図42】本実施形態に係る実施例5におけるPZTN膜のX線回折パターンを示す図。
【図43】本実施形態に係る実施例5におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図44】本実施形態に係る実施例6におけるPZTT膜のヒステリシス特性を示す図。
【図45】本実施形態に係る実施例7および参考例におけるPZTN膜のX線回折パターンを示す図。
【図46】図45の一部を拡大した図。
【図47】(A),(B)は本実施形態にかかる半導体装置を示す図。
【図48】本実施形態に係る1T1C型強誘電体メモリを模式的に示す断面図。
【図49】図48に示す強誘電体メモリの等価回路を示す図。
【図50】本実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図51】本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成図。
【図52】本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図。
【図53】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図。
【図54】本実施形態に係る実施例2におけるPZTN膜の表面モフォロジーを示す図。
【図55】本実施形態に係る実施例8におけるPZTN膜のX線回折パターンを示す図。
【図56】本実施形態に係る実施例8におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図57】本実施形態に係る実施例8におけるPZTN膜の表面モフォロジーを示す図。
【図58】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜のX線回折パターンを示す図。
【図59.A】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図59.B】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図59.C】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図59.D】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜のヒステリシス特性を示す図。
【図60.A】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜の表面モフォロジーを示す図。
【図60.B】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜の表面モフォロジーを示す図。
【図60.C】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜の表面モフォロジーを示す図。
【図60.D】本実施形態に係る実施例9におけるPZTN膜の表面モフォロジーを示す図。
【符号の説明】
【0198】
600 強誘電体キャパシタ、601 下部電極、603 PZTN強誘電体膜、603 上部電極、604 SiO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体を形成するための前駆体を含む前駆体組成物であって、
前記強誘電体は、一般式AB1−xで示され、
A元素は少なくともPbからなり、
B元素はZr、Ti、V、WおよびHfの少なくとも一つからなり、
C元素は、NbおよびTaの少なくとも一つからなり、
前記前駆体は、少なくとも前記B元素およびC元素を含み、かつ一部にエステル結合を有する、前駆体組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記B元素は、ZrおよびTiであり、
前記C元素は、Nbである、前駆体組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記前駆体は、さらに前記A元素を含む、前駆体組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記前駆体は、有機溶媒に溶解もしくは分散されている、前駆体組成物。
【請求項5】
請求項4において、
前記有機溶媒は、アルコールである、前駆体組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記強誘電体は、0.05≦x<1の範囲でNbを含む、前駆体組成物。
【請求項7】
請求項6において、
前記強誘電体は、0.1≦x≦0.3の範囲でNbを含む、前駆体組成物。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記強誘電体は、0.05≦x<1の範囲でTaを含む、前駆体組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
さらに、前記強誘電体は、0.5モル%以上のSi、あるいはSiおよびGeを含む、前駆体組成物。
【請求項10】
請求項9において、
前記強誘電体は、0.5〜5モル%のSi、あるいはSiおよびGeを含む、前駆体組成物。
【請求項11】
強誘電体を形成するための前駆体を含む前駆体組成物の製造方法であって、
前記強誘電体は、一般式AB1−xで示され、A元素は少なくともPbからなり、B元素はZr、Ti、V、WおよびHfの少なくとも一つからなり、C元素は、NbおよびTaの少なくとも一つからなり、
少なくとも前記B元素および前記C元素を含むゾルゲル原料であって、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合し、
前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を形成することを含む、前駆体組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記B元素は、ZrおよびTiであり、
前記C元素は、Nbである、前駆体組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項11または12において、
前記有機溶媒は、アルコールである、前駆体組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかにおいて、
前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルは、2価のカルボン酸またはカルボン酸エステルである、前駆体組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項14において、
前記2価のカルボン酸エステルは、コハク酸エステル、マレイン酸エステルおよびマロン酸エステルから選択される少なくとも1種である、前駆体組成物の製造方法。
【請求項16】
請求項11ないし15のいずれかにおいて、
前記ポリカルボン酸エステルの分子量は、150以下である、前駆体組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項11ないし16のいずれかにおいて、
前記ポリカルボン酸エステルは、室温において液体である、前駆体組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項11ないし17のいずれかにおいて、
前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに金属カルボン酸塩を用いたゾルゲル原料を含む、前駆体組成物の製造方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記金属カルボン酸塩は、鉛のカルボン酸塩である、前駆体組成物の製造方法。
【請求項20】
請求項11ないし19のいずれかにおいて、
前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに有機金属化合物を含む、前駆体組成物の製造方法。
【請求項21】
請求項11ないし20のいずれかにおいて、
前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらにSi、あるいはSiおよびGeを含むゾルゲル原料を用いる、前駆体組成物の製造方法。
【請求項22】
請求項11ないし21のいずれかにおいて、
前記ゾルゲル溶液として、少なくともPbZrO用ゾルゲル溶液、PbTiO用ゾルゲル溶液、およびPbNbO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いる、前駆体組成物の製造方法。
【請求項23】
請求項11ないし21のいずれかにおいて、
前記ゾルゲル溶液として、少なくともPbZrO用ゾルゲル溶液、PbTiO用ゾルゲル溶液、およびPbTaO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いる、前駆体組成物の製造方法。
【請求項24】
請求項22または23において、
ゾルゲル溶液として、さらにPbSiO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いる、前駆体組成物の製造方法。
【請求項25】
請求項1ないし10のいずれかに記載の前駆体組成物を、導電膜上に塗布した後、熱処理することを含む、強誘電体膜の製造方法。
【請求項26】
請求項25において、
前記導電膜は、白金系金属からなる、強誘電体膜の製造方法。
【請求項27】
請求項1〜10のいずれかに記載の前駆体組成物を用いて形成された強誘電体膜を含む、圧電素子。
【請求項28】
請求項1〜10のいずれかに記載の前駆体組成物を用いて形成された強誘電体膜を含む、半導体装置。
【請求項29】
請求項27に記載の圧電素子を含む、圧電アクチュエータ。
【請求項30】
請求項29に記載の圧電アクチュエータを含む、インクジェット式記録ヘッド。
【請求項31】
請求項30に記載のインクジェット式記録ヘッドを含む、インクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3.A】
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【図3.B】
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【図3.C】
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【図3.D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図55】
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【図56】
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【図58】
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【図59.A】
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【図59.B】
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【図59.C】
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【図59.D】
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【図16】
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【図18】
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【図54】
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【図57】
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【図60.A】
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【図60.B】
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【図60.C】
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【図60.D】
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【公開番号】特開2006−151785(P2006−151785A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380987(P2004−380987)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】