動力伝達装置の制御装置
【課題】変速機構を大型化させることなく必要なトルクを駆動輪に伝達することができる動力伝達装置の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンENGおよび駆動輪DRWの間に配設され、エンジンENGの回転駆動力を変速して駆動輪DRWに伝達する金属Vベルト機構20と、遊星歯車機構で構成され、エンジンENGの回転を前進回転方向および後進回転方向に切り換えて金属Vベルト機構20に伝達する前後進切換機構30とを有する動力伝達装置TMに用いられるエンジン制御ユニット60を、後進回転方向が選択されているときに、金属Vベルト機構20を所定のレシオだけ増速側に変速させるとともに、駆動輪DRWに伝達されるトルクが、前進回転方向が選択されているときにこの駆動輪DRWに伝達されるトルクと同じ大きさになるように、エンジンENGから入力されるトルクを制限するように構成する。
【解決手段】エンジンENGおよび駆動輪DRWの間に配設され、エンジンENGの回転駆動力を変速して駆動輪DRWに伝達する金属Vベルト機構20と、遊星歯車機構で構成され、エンジンENGの回転を前進回転方向および後進回転方向に切り換えて金属Vベルト機構20に伝達する前後進切換機構30とを有する動力伝達装置TMに用いられるエンジン制御ユニット60を、後進回転方向が選択されているときに、金属Vベルト機構20を所定のレシオだけ増速側に変速させるとともに、駆動輪DRWに伝達されるトルクが、前進回転方向が選択されているときにこの駆動輪DRWに伝達されるトルクと同じ大きさになるように、エンジンENGから入力されるトルクを制限するように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からの出力を駆動輪に変速して伝達する変速機構を有する動力伝達装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンからの回転駆動力を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を有する動力伝達装置においては、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構を用いた前後進切換機構により前後進を切り換えるように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。例えば、エンジンからの回転駆動力はサンギヤに入力され、リングギヤから無段変速機構に出力されるように構成されており、前進クラッチでサンギヤとリングギヤとを固定することで前進し、後進ブレーキでキャリアを固定することで後進する。
【0003】
このような構成によると、後進レンジが選択されているときには、エンジンからの回転駆動力が遊星歯車機構で減速されて無段変速機構に入力される、すなわち、この無段変速機構への入力トルクが大きくなるため、アップシフトすることにより無段変速機構に必要とされる推力を抑制している。また、アップシフト変速が終了するまで、リタードによりトルクの唐突感を無くすように制御される。
【0004】
【特許文献1】特開2003−120721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばエンジンの排気量が大きくなり、このエンジンから出力されるエンジントルクが大きくなると、無段変速機構に入力されるトルクも大きくなるため、前後進切換機構を構成する後進ブレーキのディスクの枚数を増やしたり、入力されたトルクに対して必要な推力を確保したりする必要がある。そのため、後進ブレーキのディスク枚数を増やすことでフリクションが増大して燃費が悪化するという課題や、必要な推力を確保するために、無段変速機全体が大きく重くなるという課題や、オイルポンプが大きくなるという課題があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、変速機構(無段変速機)を大型化させることなく必要なトルクを駆動輪に伝達することができる動力伝達装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る制御装置(例えば、実施形態におけるエンジン制御ユニット60)は、エンジンおよび駆動輪の間に配設され、エンジンの回転駆動力を変速して駆動輪に伝達する変速機構(例えば、実施形態における金属Vベルト機構20)と、エンジンおよび変速機構の間に配設され、エンジンの回転を前進回転方向および後進回転方向に切り換えて変速機構に伝達する前後進切換機構とを有する動力伝達装置に用いられるものである。このとき、前後進切換機構が、サンギヤ要素(例えば、実施形態におけるサンギヤ31)、キャリア要素(例えば、実施形態におけるキャリア33)およびリングギヤ要素(例えば、実施形態におけるリングギヤ32)を有し、サンギヤ要素がエンジン接続され、リングギヤ要素が変速機構に接続された遊星歯車機構と、サンギヤ要素およびリングギヤ要素を結合させてエンジンの回転をそのまま前進方向にして変速機構に出力させる前進クラッチと、キャリア要素を固定してエンジンの回転を減速するとともに後進回転方向にして無段変速機構に出力させる後進ブレーキとから構成される。そして、この制御装置は、後進ブレーキが係合しているときに、変速機構を所定のレシオだけ増速側に変速させるとともに、駆動輪に伝達されるトルクが、前進クラッチが係合しているときに駆動輪に伝達されるトルクと同じ大きさになるように、エンジンから入力される入力トルクを制限するように構成される。
【0008】
このような本発明に係る動力伝達装置の制御装置は、所定のレシオが、アクセル開度に応じて設定されるレシオ、車速に応じて設定されるレシオ、および、無段変速機構を作動させる最大推力で伝達可能なレシオのうち、最も小さなレシオから選択されるように構成される。このとき、アクセル開度に応じて設定されるレシオが、アクセル開度が小さいときは、遊星歯車機構で減速される量と略同一大きさで変速機構が増速するレシオに設定され、アクセル開度が大きいときは、前進クラッチが係合されているときに得られる駆動力と略同一大きさの駆動力が得られるレシオに設定されることが好ましい。
【0009】
また、動力伝達装置が、変速機構および駆動輪の間に配設され、変速機構と駆動輪とを係脱して変速機構の回転駆動力を駆動輪に伝達する発進クラッチを有し、制御装置が、発進クラッチの伝達トルクが所定の閾値を超えたときに、発進クラッチを滑らせるように構成することが好ましい。あるいは、制御装置が、発進クラッチの伝達トルクが所定の閾値を超えたときに、エンジンに供給される燃料をカットするように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る動力伝達装置の制御装置を以上のように構成すると、エンジンから変速機構に入力されるトルクが適正量に制御されるため、前後進切換機構を構成する後進ブレーキのディスクの枚数を増やす必要が無く、走行時のフリクションが小さくなり燃費を向上させることができる。また、後進ブレーキの部品点数を減らすことができるため、コストダウンにもなる。さらに、無段変速機構に必要な推力も小さくなるため、無段変速機構全体が小型化し、これに作動油を供給するオイルポンプも大型化することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。図1に、本実施例に係る車両の制御装置が設けられた四輪車の動力伝達装置TMを示している。動力伝達装置TMは、エンジンENGと、このエンジンENGの出力軸Es上に配設された電気モータ・ジェネレータMと、エンジンENGの出力軸Esにカップリング機構CPを介して連結された無段変速機CVTとから構成され、エンジンENGの回転駆動力を駆動輪DRW,DRWに伝達して、この駆動輪DRW,DRWおよび従動輪DNW,DNWによる四輪走行を行わせる。
【0012】
エンジンENGは4気筒レシプロエンジンであり、シリンダブロック10に形成された4つのシリンダ室11,11,…の内部にピストンが配設されている。エンジンENGは、各シリンダ室11に対する吸排気制御を行う吸排気制御装置12と、各シリンダ室11に対する燃料噴射制御および噴射燃料の点火制御を行う燃料噴射・点火制御装置13とを有している。吸排気制御装置12は、後述するエンジン制御ユニット60により電気的に作動制御される図示しないスロットルバルブを有しており、このスロットルバルブの開度θTHを調整することによりエンジンENGの出力を調整できるようになっている。
【0013】
電気モータ・ジェネレータMは、車載の図示しないバッテリにより駆動されてエンジンENGの駆動力をアシストすることが可能であり、また、減速走行時には車輪側からの回転駆動により発電を行ってバッテリの充電(エネルギーの回生)を行うことができるようになっている。このように動力伝達装置TMの駆動源は、エンジンENGと電気モータ・ジェネレータMとからなり、ハイブリッド型になっている。
【0014】
無段変速機CVTは、入力軸1とカウンタ軸2との間に配設された金属Vベルト機構20と、入力軸1の上に配設された前後進切換機構30と、カウンタ軸2の上に配設された発進クラッチ5とを備えて構成される。この無段変速機CVTは、入力軸1がカップリング機構CPを介してエンジンENGの出力軸Esと連結されている。また、金属Vベルト機構20は、入力軸1上に配設されたドライブプーリ21と、カウンタ軸2上に配設されたドリブンプーリ26と、両プーリ21,26に巻き掛けられた金属Vベルト25とから構成される。
【0015】
ドライブプーリ21は、入力軸1に固定された固定プーリ半体22と、固定プーリ半体22に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体23とを有する。可動プーリ半体23の側方にはシリンダ壁23aにより囲まれてドライブ側シリンダ室24が形成されている。このドライブ側シリンダ室24に、コントロールバルブCVから油路41を介して供給されるドライブプーリ制御油圧Pdrに応じて可動プーリ半体23が軸方向に移動する。
【0016】
ドリブンプーリ26は、カウンタ軸2に固定された固定プーリ半体27と、固定プーリ半体27に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体28とを有する。可動プーリ半体28の側方にはシリンダ壁28aにより囲まれてドリブン側シリンダ室29が形成されている。このドリブン側シリンダ室29にコントロールバルブCVから油路42を介して供給されるドリブンプーリ制御油圧Pdnに応じて可動プーリ半体28が軸方向に移動する。
【0017】
このように構成された金属Vベルト機構20は、両プーリ制御油圧Pdr,PdnをコントロールバルブCVにより制御し、両プーリ21,26のプーリ溝幅を変化させて金属Vベルト25の巻き掛け半径を変化させることにより、変速比を無段階に変化させる制御が行われる。
【0018】
前後進切換機構30は、いやゆるシングルピニオンタイプの遊星歯車機構からなり、入力軸1に結合されたサンギヤ31と、固定プーリ半体22に結合されたリングギヤ32と、後進ブレーキ37により固定保持可能なキャリア33と、サンギヤ31とリングギヤ32とを連結可能な前進クラッチ35とを備える。この前後進切換機構30において、前進クラッチ35が係合されると全ギヤ31〜33が入力軸1と一体に回転し、エンジンENGの駆動によりドライブプーリ21は入力軸1と同方向(前進方向)に回転駆動される。一方、後進ブレーキ37が係合されると、キャリア33が固定保持されるため、リングギヤ32はサンギヤ31と逆の方向に駆動され、エンジンENGの駆動によりドライブプーリ21は入力軸1と逆方向(後進方向)に回転駆動される。
【0019】
発進クラッチ5は、カウンタ軸2と動力伝達ギヤ列6(6a,6b),8(8a,8b)との間の動力伝達を制御する油圧クラッチであり、カウンタ軸2に発生した出力を接続状態(係合力)に応じた比率で動力伝達ギヤ列6,8に伝達できるように構成されている。発進クラッチ5が係合されると、金属Vベルト機構20により変速されたエンジンENGからの出力が動力伝達ギヤ列6,8を介してディファレンシャル機構9に伝達され、ディファレンシャル機構9により左右のアクスルシャフト9a,9bに分割されて、左右の駆動輪DRW,DRWに伝達される。発進クラッチ5が解放されると、このような動力伝達は行われない。
【0020】
以上のように構成された無段変速機CVTにおいては、コントロールバルブCVから油路41,42を介して供給されるプーリ制御油圧Pdr,Pdnにより変速制御が行われ、油路44を介して前進クラッチ35および後進ブレーキ37に供給される前後進制御油圧PFBにより前後進切換制御が行われ、油路43を介して供給されるクラッチ制御油圧PCLにより発進クラッチ係合制御が行われる。コントロールバルブCVは、ソレノイドを有した電磁制御弁であり、ソレノイドに出力される励磁信号に基づいて作動制御される。
【0021】
なお、動力伝達機構TMには、車両状態を検出するための各種のセンサが配設されている。図1に示すものとして、ドライブプーリ21の近傍に取り付けられてドライブプーリ21の回転数Ndrを検出するためのドライブプーリ回転数センサ51と、ドリブンプーリ26の近傍に取り付けられてドリブンプーリ26の回転数Ndnを検出するためのドリブンプーリ回転数センサ52と、動力伝達ギヤ列6,8を構成するアイドラシャフト7の近傍に取り付けられて車速Vを検出するための車速センサ53と、発進クラッチ5の出力側の回転数VEVを検出する発進クラッチ出力センサ54と、アクセスペダルの開度APを検出するためのアクセルセンサ55とが設けられている。また、車両には、エンジンENGや無段変速機CVTを電気的に制御するためエンジン制御ユニット60が設けられている。
【0022】
エンジン制御ユニット60は、エンジンENGの各部に配設されたセンサや上述の両プーリ回転数センサ51,52、車速センサ53、発進クラッチ出力センサ54およびアクセルセンサ55から入力される検出信号を基にして、エンジン回転数Ne、スロットルバルブの開度θTH、吸気圧Pbの各値を算出する。また、このエンジン制御ユニット60は、スロットルバルブの開度θTHを調整する制御信号を出力し、エンジンENGの出力制御を行うことができるように構成されている。また、電気モータ・ジェネレータMに制御信号を出力して電気モータ・ジェネレータMの作動を制御し、電気モータ・ジェネレータMを利用した駆動力アシスト制御を行うことができるように構成されている。
【0023】
さらに、エンジン制御ユニット60は、入力された各値からクラッチ制御油圧PCLを算出し、算出されたクラッチ制御油圧PCLが発進クラッチ5に供給されるようにコントロールバルブCVに励磁信号を出力してコントロールバルブCVを作動制御し、発進クラッチ5の係合力を制御する。同様に、両プーリ制御油圧Pdr,Pdnや前後進制御油圧PFBもコントロールバルブCVを作動制御して制御する。なお、エンジン制御ユニット60には記憶手段61が設けられており、この記憶手段61にはこれらの制御油圧の算出等に用いられるマップが記憶されている。
【0024】
それでは、後進ブレーキ37が係合した後進状態のときにエンジンENGのトルクを制御するトルクオンデマンド制御について図2〜図7を用いて説明する。なお、この処理はエンジン制御ユニット60において、所定時間(例えば10ミリ秒)毎に繰り返し行われる。また、この処理は、シフトレバー56により後進レンジが選択されているときに行われる。
【0025】
まず、このトルクオンデマンド制御においては、無段変速機CVTの目標レシオRoが算出される(ステップS100)。この目標レシオRoの算出処理S100は、アクセル開度APに応じた駆動力コントロール目標レシオを求めるステップS101、車速Vに応じた目標レシオを求めるステップS103、クランク軸端トルクに応じた推力最大で伝えられる目標レシオ求めるステップS105、および、以上の処理で求められたレシオから目標レシオを決定するステップS107から構成される。
【0026】
駆動力コントロール目標レシオを求めるステップS101は、アクセルセンサ55により検出されたアクセル開度APを引数にして、図4に示す関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索し、このアクセル開度APに対応する駆動力コントロール目標レシオRAPを求めるものである。このマップは、アクセルペダルの開度APが小さいときは、ドライバビリティを重視し、駆動力コントロール目標レシオRAPは、オーバーオールで、前進レンジが選択されているときと同じレシオ程度となるように設定される。すなわち、前後進切換機構30を構成する遊星歯車機構で減速される分を無段変速機CVTで補うレシオが選択される。この場合、所定のアクセル開度APになるまでは、駆動力コントロール目標レシオRAPは一定の値を取るように構成されている。なお、発進敏感が気になる場合には、さらに高いレシオまで変速させる(遊星歯車機構による減速分を超えて補う)ように構成することも可能である。一方、アクセル開度APが所定の大きさを超えると駆動力が必要になるため、遊星歯車機構で減速される分を考慮し、前進レンジが選択されているときと同じレベルの駆動力となるレシオが設定されており、この場合、アクセル開度APに応じて駆動力コントロール目標レシオRAPが増加するように設定されている。
【0027】
車速に応じた目標レシオを求めるステップS103は、車速センサ53で検出された車速Vを引数にして、図5に示すグラフG1の関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索し、この車速Vに対する目標レシオa0を求めるものである。なお、図5は、車速Vとエンジン回転数Neの関係を示すグラフであり、実際のマップには、車速Vに対してこのエンジン回転数Neとなるレシオa0の対応が記憶されている。また、参考のために、上述の駆動力コントロール目標レシオRAP(Lowレンジ、7.70、6.00,4.00、ODレンジのとき)における車速Vとエンジン回転数Neの関係も合わせて示している。
【0028】
推力最大で伝達することができる目標レシオを求めるステップS105は、クランク軸端トルクTCLを引数にして、図6に示す関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索して、無段変速機CVTの推力最大のときに伝達することができる目標レシオb0_baseを求めるものである。このとき、クランク軸端トルクTCLは、エンジンENGの回転数Neと吸気圧Pbとからマップを検索して求められる。
【0029】
そして、目標レシオRoを決定するステップS107は、上述の処理で求められた目標レシオRAP,a0,b0_baseのうち、最小のものを目標レシオRoとして選択し、エンジン制御ユニット60は、コントロールバルブCVに励磁信号を出力してドライブおよびドリブンプーリ制御油圧Pdr,Pdnを制御することにより、選択された目標レシオRoとなるように無段変速機CVTを制御する。
【0030】
目標レシオRoが算出されると、次に、後進時のクランク軸端要求トルクベースTQAPCCRが決定される(ステップS110)。この後進時のクランク軸端要求トルクベースTQAPCCRは、アクセル開度APから算出された(マップに設定されている)クランク軸端トルクベースTQAPCCと後進ブレーキ37の許容トルクTQLMTR(後進ブレーキ37の固有値であって、例えば、105Nm)とが比較されて最小値が選択される。
【0031】
次に、前進レンジ相当のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクTQSCTFCを、次式(1)により算出して決定する(ステップS120)。
【0032】
TQSCTFC = TSC / RAP /RSP (1)
但し、TSC : 発進クラッチ伝達トルク
RAP : 駆動力コントロール目標レシオ
RSP : シングルプラネタリレシオ
【0033】
ここで、発進クラッチ伝達トルクTSCは、脚軸上のクラッチ伝達トルク(駆動輪DRWに出力されるトルク)が前進時と後進時とで同一になるように設定され、且つ、図7(a)に示すエンジン回転数Neとの関係を有するマップとして記憶領域61に記憶されており、エンジン回転数Neを引数にこのマップから求められる。また、駆動力コントロール目標レシオRAPは上述の処理S101で求められたものである。さらに、シングルプラネタリレシオRSPは、前後進切換機構30に用いられているシングルピニオンタイプの遊星歯車機構において後進ブレーキ37を係合したときのレシオである。
【0034】
そして、このようにして求められた前進レンジ相当のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクTQSCTFCから、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNを次式(2)により算出して決定する(ステップS130)。ここで、図7(b)に示すように、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNは、クランク軸端での余裕トルク(エンジントルク−クランク軸端発進トルク)が前進レンジ選択時と後進レンジ選択時とで同じ値となり、かつ、エンジンENGの回転数Neの上昇率が、前進レンジと後進レンジとで同じになるように決定される。そのため、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNは、前進レンジが選択されている時のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクから後進レンジが選択されている時のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクを減算したものとして表される。
【0035】
ここで、前進レンジが選択されている時のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクは、発進クラッチ伝達トルクTSCを前進レンジ(LOWレンジ)のレシオで除算した値であり、また、後進レンジが選択されている時のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクは、発進クラッチ伝達トルクTSCを実レシオRとシングルプラネタリレシオRSPの積で除算した値であるため、これらの値から、次式(2)が求められる。
【0036】
TQRVSDOWN = TQSCTFC − TQSCTFC × RAP / R (2)
但し、R : 実レシオ
【0037】
なお、実レシオRは、無段変速機CVTの実際のレシオであり、ドライブおよびドリブンプーリ回転数センサ51,52から検出されたそれぞれの回転数Ndr,Ndnから算出される。
【0038】
以上のようにして、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNが算出されると、エンジンENGのトルクを減少させる制御が必要か否か、すなわち、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNが正トルクであるか否かが判断される(ステップS140)。後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNが正トルクであるときは、アクセルセンサ54の検出値であるアクセル開度APからアクセルペダルが踏み込まれているか否かが判断され(ステップS150)、アクセルペダルが踏み込まれているときは、後進時のクランク軸端要求トルクTQRVSを次式(3)により決定する(ステップS160)。この式(3)は、ステップS110で算出した後進時クランク軸端要求トルクベースTQAPCCRからトルクダウン量TQRVSDOWNを減算したものを後進時のクランク軸端要求トルクTQRVSとするものである。
【0039】
TQRVS = TQAPCCR − TQRVSDOWN (3)
【0040】
一方、ステップS140においてトルクダウン量TQRVSDOWNが0以下である場合や、ステップS150においてアクセルペダルが踏み込まれていないと判断されたときは、トルクダウンを行う必要はなく、後進時のクランク軸端要求トルクTQRVSに、ステップS110で算出した後進時クランク軸端要求トルクベースTQAPCCRを設定する(ステップS170)。
【0041】
以上の処理により後進時のクランク軸端要求トルクベースTQRVSが決定されると、このトルクがエンジンENGから出力されるようにエンジン制御ユニット60によりエンジンENG(吸排気制御装置12や燃料噴射・点火制御装置13)が制御される。
【0042】
このように、後進レンジが選択されているときに、アクセル開度APや車速Vに応じて無段変速機CVTのレシオを決定するとともに、そのときのエンジンENG等の状態に応じてオンデマンド制御で無段変速機CVTに入力されるトルクを制限することにより、無段変速機CVTに入力されるトルクが適正量に制御されるため、前後進切換機構30を構成する後進ブレーキ37のディスクの枚数を増やす必要が無く、走行時のフリクションが小さくなり燃費を向上させることができる。また、後進ブレーキ37の部品点数を減らすことができるため、コストダウンにもなる。さらに、無段変速機CVTに必要な推力も小さくなるため、無段変速機CVT全体が小型化し、これに作動油を供給するオイルポンプも大型化することがない。
【0043】
また、前後進切換機構30は、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構を用いて、後進レンジが選択されているときは、この遊星歯車機構で減速して無段変速機CVTにトルクを伝達しているため、この遊星歯車機構でトルクが増幅される。そのため、無段変速機CVTに入力されるトルクを、上述のトルクオンデマンド制御で制限を掛けても必要な駆動力(前進レンジが選択されているときと同等の駆動力)を得ることができる。また、走行時に無段変速機CVTを変速させることにより、後進時に必要な車速も確保することができる。
【0044】
ところで、このようなトルクオンデマンド制御により、無段変速機CVTに入力されるトルクを制限していても、アクセルペダルの踏み込み状態等によっては制御しきれずに過大なトルクがこの無段変速機CVTに入力される可能性がある。しかし、本実施例に係るエンジン制御ユニット60では、トルクオンデマンド制御と同時に、発進クラッチ制御と燃料カット要求制御を行ってクランク軸端のトルクに制限を掛けるように構成されており、以下に説明する。なお、発進クラッチ制御と燃料カット要求制御も、エンジン制御ユニット60において、所定時間(例えば10ミリ秒)毎に繰り返し行われる。
【0045】
まず、発進クラッチ制御を図8および図9を用いて説明する。発進クラッチ制御は、まず、エンジンENGの回転数Neを引数にして、図9(a)に示す関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索し、この回転数Neに対応する発進クラッチ伝達トルク係数PSTBMを求める(ステップS200)。また、同様に、発進クラッチ5の滑り量ESCをドリブンプーリ回転数センサ52と発進クラッチ出力センサ54により検出される回転数Ndn(発進クラッチ5の入力側の回転数)と発進クラッチ5の出力側の回転数VEVとから算出し、この滑り量ESCを引数にして、図9(b)に示す関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索し、この滑り量ESCに対応する滑り量補正係数TPQを求める(ステップS202)。さらに、無段変速機CVTの実レシオRを引数にして、記憶手段61に記憶されたマップを検索して、この実レシオRに対応する発進クラッチ伝達トルクの制限値TSCLMTを求める(ステップS204)。そして、これらの値を用いて、次式(4)により、発進クラッチトルクベース値TSCBを算出する(ステップS206)。
【0046】
TSCB = PSTBM × TPQ × R (4)
【0047】
そして、アクセルセンサ55で検出されたアクセル開度APを引数にして、記憶手段61に記憶されたマップを検索して、このアクセル開度APに対応する油圧加算量ΔTSCを求め(ステップS208)、前回の処理において算出された発進クラッチ伝達トルクTSC(n−1)に油圧加算量ΔTSCを加えたものが、発進クラッチトルクベース値TSCB以上であるか否かを判断する(ステップS210)。このステップS210で、発進クラッチトルクベース値TSCBより小さいときは、判定値C0へ発進クラッチトルクベース値TSCBを設定し(ステップS212)、発進クラッチトルクベース値TSCB以上であるときは判定値C0へ、前回の処理において算出された発進クラッチ伝達トルクTSC(n−1)に油圧加算量ΔTSCを加えたものを設定する(ステップS214)。
【0048】
最後に、判定値C0が上述の発進クラッチ伝達トルクの制限値TSCLMT以上であるか否かを判定し(ステップS216)、制限値TSCLMTより小さいときは今回の発進クラッチ伝達トルクTSC(n)に判定値C0を設定し(ステップS218)、制限値TSCLMT以上のときは今回の発進クラッチ伝達トルクTSC(n)に制限値TSCLMTを設定する(ステップS220)。このようにして設定された発進クラッチ伝達トルクTSC(n)になるように、エンジン制御ユニット60は発進クラッチ5を制御するため、過大なトルクが発生したとしても、発進クラッチ5が滑ってエネルギーを吸収することにより無段変速機CVTに入力されるトルクを低減させることができる。
【0049】
一方、燃料カット要求制御は、図10に示すように、まず、発進クラッチ伝達トルクTSCと、ドリブンプーリ回転数センサ52および発進クラッチ出力センサ54により検出される回転数Ndnおよび発進クラッチ5の出力側の回転数VEVとから次式(5)により、発進クラッチ吸収仕事率QSCを算出する(ステップS300)。
【0050】
QSC = TSC × |Ndn − VEL| × α (5)
但し、α : 係数
【0051】
この発進クラッチ吸収仕事率QSCは、発進クラッチ5で吸収可能なエネルギー(熱量)を示すものとして、仕事率を積算してエネルギーとして算出することも可能である。そして、このようにして算出された発進クラッチ吸収仕事率QSCが、許容値QSCLMT以上であるか否かを判断し(ステップS310)、発進クラッチ吸収仕事率QSCが許容値QSCLMTより小さいときは、燃料カット要求F_FCREQに0をセットして燃料カット要求をオフし(ステップS320)、発進クラッチ吸収仕事率QSCが許容値QSCLMT以上のときは、燃料カット要求F_FCREQに1をセットして燃料カット要求をオンにする(ステップS330)。なお、許容値QSCLMTには、上限値と下限値が設定されており、ステップS310において、発進クラッチ吸収仕事率QSCが許容値QSCLMT以上であるか否かの判断は上限値が用いられ、発進クラッチ吸収仕事率QSCが許容値QSCLMTより小さいか否かの判断は下限値が用いられる。
【0052】
このように、燃料カット要求F_FCREQをセットすることにより、エンジン制御ユニット60は、燃料カット要求F_FCREQに応じて燃料噴射・点火制御装置13を制御して、エンジンENGにおいて、燃料噴射を停止するため、出力トルクが低下し、無段変速機CVTに入力されるトルクを低減することができる。
【0053】
それでは、エンジンENGが高回転している状態で、シフトレバー56から入力される変速レンジPOSがニュートラル(N)から後進レンジ(R)に変更されたときのタイムオンデマンド制御、発進クラッチ制御および燃料カット要求制御の結果を図11を用いて説明する。変速レンジがニュートラル(Nレンジ)の状態で、時刻t0にアクセルペダルが踏み込まれスロットルバルブの開度θTHが増加すると、それに応じてエンジン回転数Neも上昇する。そして、このようにエンジン回転数Neが上昇している状態で、時刻t1において変速レンジPOSを後進レンジ(Rレンジ)に入れると、実レシオRを目標レシオRoに近づけるとともに、発進クラッチ5の発進クラッチ伝達トルクTSCを増加させて駆動輪DRWに動力を伝達しようとするが、時刻t2で制限値TSCLMTに達ししてしまい、それ以上この発進クラッチ伝達トルクTSCは上昇しない。このとき、発進クラッチ5は滑っているため、発進クラッチ5の発進クラッチ吸収仕事率QSCが上昇し、許容値QSCLMTを超えると燃料カットが行われる。
【0054】
このように、発進クラッチ5を滑らすとともに、燃料カットを行うことにより、無段変速機CVTに入力されるトルクを減少させながら、無段変速機CVTのレシオRを後進レンジが選択されているときの目標レシオRoになるように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る動力伝達装置の構成を示す構成図である。
【図2】トルクオンデマンド制御の処理を示すフローチャートである。
【図3】目標レシオ算出処理を示すフローチャートである。
【図4】アクセル開度と駆動力コントロール目標レシオの関係を示すグラフである。
【図5】車速に応じた目標レシオにおいて、車速とエンジン回転数の関係を示すグラフである。
【図6】クランク軸端トルクと無段変速機の推力最大のときの目標レシオとの関係を示すグラフである。
【図7】後進時のトルクダウン量の算出方法を説明するための説明図である。
【図8】発進クラッチ制御の処理を示すフローチャートである。
【図9】発進クラッチ制御の各種係数の関係を説明するグラフであり、(a)はエンジン回転数と発進クラッチ伝達トルク係数の関係であり、(b)は発進クラッチの滑り量と滑り量補正係数の関係である。
【図10】燃料カット要求制御の処理を示すフローチャートである。
【図11】エンジンが高回転しているときに、後進レンジが選択されたときのレシオおよび発進クラッチ伝達トルクの制御状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
TM 動力伝達装置
ENG エンジン
DRW 駆動輪
5 発進クラッチ
20 金属Vベルト機構(変速機構)
30 前後進切換機構
31 サンギヤ(サンギヤ要素)
32 リングギヤ(リングギヤ要素)
33 キャリア(キャリア要素)
35 前進クラッチ
37 後進ブレーキ
60 エンジン制御ユニット(制御装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からの出力を駆動輪に変速して伝達する変速機構を有する動力伝達装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンからの回転駆動力を変速して駆動輪に伝達する無段変速機を有する動力伝達装置においては、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構を用いた前後進切換機構により前後進を切り換えるように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。例えば、エンジンからの回転駆動力はサンギヤに入力され、リングギヤから無段変速機構に出力されるように構成されており、前進クラッチでサンギヤとリングギヤとを固定することで前進し、後進ブレーキでキャリアを固定することで後進する。
【0003】
このような構成によると、後進レンジが選択されているときには、エンジンからの回転駆動力が遊星歯車機構で減速されて無段変速機構に入力される、すなわち、この無段変速機構への入力トルクが大きくなるため、アップシフトすることにより無段変速機構に必要とされる推力を抑制している。また、アップシフト変速が終了するまで、リタードによりトルクの唐突感を無くすように制御される。
【0004】
【特許文献1】特開2003−120721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばエンジンの排気量が大きくなり、このエンジンから出力されるエンジントルクが大きくなると、無段変速機構に入力されるトルクも大きくなるため、前後進切換機構を構成する後進ブレーキのディスクの枚数を増やしたり、入力されたトルクに対して必要な推力を確保したりする必要がある。そのため、後進ブレーキのディスク枚数を増やすことでフリクションが増大して燃費が悪化するという課題や、必要な推力を確保するために、無段変速機全体が大きく重くなるという課題や、オイルポンプが大きくなるという課題があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、変速機構(無段変速機)を大型化させることなく必要なトルクを駆動輪に伝達することができる動力伝達装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る制御装置(例えば、実施形態におけるエンジン制御ユニット60)は、エンジンおよび駆動輪の間に配設され、エンジンの回転駆動力を変速して駆動輪に伝達する変速機構(例えば、実施形態における金属Vベルト機構20)と、エンジンおよび変速機構の間に配設され、エンジンの回転を前進回転方向および後進回転方向に切り換えて変速機構に伝達する前後進切換機構とを有する動力伝達装置に用いられるものである。このとき、前後進切換機構が、サンギヤ要素(例えば、実施形態におけるサンギヤ31)、キャリア要素(例えば、実施形態におけるキャリア33)およびリングギヤ要素(例えば、実施形態におけるリングギヤ32)を有し、サンギヤ要素がエンジン接続され、リングギヤ要素が変速機構に接続された遊星歯車機構と、サンギヤ要素およびリングギヤ要素を結合させてエンジンの回転をそのまま前進方向にして変速機構に出力させる前進クラッチと、キャリア要素を固定してエンジンの回転を減速するとともに後進回転方向にして無段変速機構に出力させる後進ブレーキとから構成される。そして、この制御装置は、後進ブレーキが係合しているときに、変速機構を所定のレシオだけ増速側に変速させるとともに、駆動輪に伝達されるトルクが、前進クラッチが係合しているときに駆動輪に伝達されるトルクと同じ大きさになるように、エンジンから入力される入力トルクを制限するように構成される。
【0008】
このような本発明に係る動力伝達装置の制御装置は、所定のレシオが、アクセル開度に応じて設定されるレシオ、車速に応じて設定されるレシオ、および、無段変速機構を作動させる最大推力で伝達可能なレシオのうち、最も小さなレシオから選択されるように構成される。このとき、アクセル開度に応じて設定されるレシオが、アクセル開度が小さいときは、遊星歯車機構で減速される量と略同一大きさで変速機構が増速するレシオに設定され、アクセル開度が大きいときは、前進クラッチが係合されているときに得られる駆動力と略同一大きさの駆動力が得られるレシオに設定されることが好ましい。
【0009】
また、動力伝達装置が、変速機構および駆動輪の間に配設され、変速機構と駆動輪とを係脱して変速機構の回転駆動力を駆動輪に伝達する発進クラッチを有し、制御装置が、発進クラッチの伝達トルクが所定の閾値を超えたときに、発進クラッチを滑らせるように構成することが好ましい。あるいは、制御装置が、発進クラッチの伝達トルクが所定の閾値を超えたときに、エンジンに供給される燃料をカットするように構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る動力伝達装置の制御装置を以上のように構成すると、エンジンから変速機構に入力されるトルクが適正量に制御されるため、前後進切換機構を構成する後進ブレーキのディスクの枚数を増やす必要が無く、走行時のフリクションが小さくなり燃費を向上させることができる。また、後進ブレーキの部品点数を減らすことができるため、コストダウンにもなる。さらに、無段変速機構に必要な推力も小さくなるため、無段変速機構全体が小型化し、これに作動油を供給するオイルポンプも大型化することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。図1に、本実施例に係る車両の制御装置が設けられた四輪車の動力伝達装置TMを示している。動力伝達装置TMは、エンジンENGと、このエンジンENGの出力軸Es上に配設された電気モータ・ジェネレータMと、エンジンENGの出力軸Esにカップリング機構CPを介して連結された無段変速機CVTとから構成され、エンジンENGの回転駆動力を駆動輪DRW,DRWに伝達して、この駆動輪DRW,DRWおよび従動輪DNW,DNWによる四輪走行を行わせる。
【0012】
エンジンENGは4気筒レシプロエンジンであり、シリンダブロック10に形成された4つのシリンダ室11,11,…の内部にピストンが配設されている。エンジンENGは、各シリンダ室11に対する吸排気制御を行う吸排気制御装置12と、各シリンダ室11に対する燃料噴射制御および噴射燃料の点火制御を行う燃料噴射・点火制御装置13とを有している。吸排気制御装置12は、後述するエンジン制御ユニット60により電気的に作動制御される図示しないスロットルバルブを有しており、このスロットルバルブの開度θTHを調整することによりエンジンENGの出力を調整できるようになっている。
【0013】
電気モータ・ジェネレータMは、車載の図示しないバッテリにより駆動されてエンジンENGの駆動力をアシストすることが可能であり、また、減速走行時には車輪側からの回転駆動により発電を行ってバッテリの充電(エネルギーの回生)を行うことができるようになっている。このように動力伝達装置TMの駆動源は、エンジンENGと電気モータ・ジェネレータMとからなり、ハイブリッド型になっている。
【0014】
無段変速機CVTは、入力軸1とカウンタ軸2との間に配設された金属Vベルト機構20と、入力軸1の上に配設された前後進切換機構30と、カウンタ軸2の上に配設された発進クラッチ5とを備えて構成される。この無段変速機CVTは、入力軸1がカップリング機構CPを介してエンジンENGの出力軸Esと連結されている。また、金属Vベルト機構20は、入力軸1上に配設されたドライブプーリ21と、カウンタ軸2上に配設されたドリブンプーリ26と、両プーリ21,26に巻き掛けられた金属Vベルト25とから構成される。
【0015】
ドライブプーリ21は、入力軸1に固定された固定プーリ半体22と、固定プーリ半体22に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体23とを有する。可動プーリ半体23の側方にはシリンダ壁23aにより囲まれてドライブ側シリンダ室24が形成されている。このドライブ側シリンダ室24に、コントロールバルブCVから油路41を介して供給されるドライブプーリ制御油圧Pdrに応じて可動プーリ半体23が軸方向に移動する。
【0016】
ドリブンプーリ26は、カウンタ軸2に固定された固定プーリ半体27と、固定プーリ半体27に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体28とを有する。可動プーリ半体28の側方にはシリンダ壁28aにより囲まれてドリブン側シリンダ室29が形成されている。このドリブン側シリンダ室29にコントロールバルブCVから油路42を介して供給されるドリブンプーリ制御油圧Pdnに応じて可動プーリ半体28が軸方向に移動する。
【0017】
このように構成された金属Vベルト機構20は、両プーリ制御油圧Pdr,PdnをコントロールバルブCVにより制御し、両プーリ21,26のプーリ溝幅を変化させて金属Vベルト25の巻き掛け半径を変化させることにより、変速比を無段階に変化させる制御が行われる。
【0018】
前後進切換機構30は、いやゆるシングルピニオンタイプの遊星歯車機構からなり、入力軸1に結合されたサンギヤ31と、固定プーリ半体22に結合されたリングギヤ32と、後進ブレーキ37により固定保持可能なキャリア33と、サンギヤ31とリングギヤ32とを連結可能な前進クラッチ35とを備える。この前後進切換機構30において、前進クラッチ35が係合されると全ギヤ31〜33が入力軸1と一体に回転し、エンジンENGの駆動によりドライブプーリ21は入力軸1と同方向(前進方向)に回転駆動される。一方、後進ブレーキ37が係合されると、キャリア33が固定保持されるため、リングギヤ32はサンギヤ31と逆の方向に駆動され、エンジンENGの駆動によりドライブプーリ21は入力軸1と逆方向(後進方向)に回転駆動される。
【0019】
発進クラッチ5は、カウンタ軸2と動力伝達ギヤ列6(6a,6b),8(8a,8b)との間の動力伝達を制御する油圧クラッチであり、カウンタ軸2に発生した出力を接続状態(係合力)に応じた比率で動力伝達ギヤ列6,8に伝達できるように構成されている。発進クラッチ5が係合されると、金属Vベルト機構20により変速されたエンジンENGからの出力が動力伝達ギヤ列6,8を介してディファレンシャル機構9に伝達され、ディファレンシャル機構9により左右のアクスルシャフト9a,9bに分割されて、左右の駆動輪DRW,DRWに伝達される。発進クラッチ5が解放されると、このような動力伝達は行われない。
【0020】
以上のように構成された無段変速機CVTにおいては、コントロールバルブCVから油路41,42を介して供給されるプーリ制御油圧Pdr,Pdnにより変速制御が行われ、油路44を介して前進クラッチ35および後進ブレーキ37に供給される前後進制御油圧PFBにより前後進切換制御が行われ、油路43を介して供給されるクラッチ制御油圧PCLにより発進クラッチ係合制御が行われる。コントロールバルブCVは、ソレノイドを有した電磁制御弁であり、ソレノイドに出力される励磁信号に基づいて作動制御される。
【0021】
なお、動力伝達機構TMには、車両状態を検出するための各種のセンサが配設されている。図1に示すものとして、ドライブプーリ21の近傍に取り付けられてドライブプーリ21の回転数Ndrを検出するためのドライブプーリ回転数センサ51と、ドリブンプーリ26の近傍に取り付けられてドリブンプーリ26の回転数Ndnを検出するためのドリブンプーリ回転数センサ52と、動力伝達ギヤ列6,8を構成するアイドラシャフト7の近傍に取り付けられて車速Vを検出するための車速センサ53と、発進クラッチ5の出力側の回転数VEVを検出する発進クラッチ出力センサ54と、アクセスペダルの開度APを検出するためのアクセルセンサ55とが設けられている。また、車両には、エンジンENGや無段変速機CVTを電気的に制御するためエンジン制御ユニット60が設けられている。
【0022】
エンジン制御ユニット60は、エンジンENGの各部に配設されたセンサや上述の両プーリ回転数センサ51,52、車速センサ53、発進クラッチ出力センサ54およびアクセルセンサ55から入力される検出信号を基にして、エンジン回転数Ne、スロットルバルブの開度θTH、吸気圧Pbの各値を算出する。また、このエンジン制御ユニット60は、スロットルバルブの開度θTHを調整する制御信号を出力し、エンジンENGの出力制御を行うことができるように構成されている。また、電気モータ・ジェネレータMに制御信号を出力して電気モータ・ジェネレータMの作動を制御し、電気モータ・ジェネレータMを利用した駆動力アシスト制御を行うことができるように構成されている。
【0023】
さらに、エンジン制御ユニット60は、入力された各値からクラッチ制御油圧PCLを算出し、算出されたクラッチ制御油圧PCLが発進クラッチ5に供給されるようにコントロールバルブCVに励磁信号を出力してコントロールバルブCVを作動制御し、発進クラッチ5の係合力を制御する。同様に、両プーリ制御油圧Pdr,Pdnや前後進制御油圧PFBもコントロールバルブCVを作動制御して制御する。なお、エンジン制御ユニット60には記憶手段61が設けられており、この記憶手段61にはこれらの制御油圧の算出等に用いられるマップが記憶されている。
【0024】
それでは、後進ブレーキ37が係合した後進状態のときにエンジンENGのトルクを制御するトルクオンデマンド制御について図2〜図7を用いて説明する。なお、この処理はエンジン制御ユニット60において、所定時間(例えば10ミリ秒)毎に繰り返し行われる。また、この処理は、シフトレバー56により後進レンジが選択されているときに行われる。
【0025】
まず、このトルクオンデマンド制御においては、無段変速機CVTの目標レシオRoが算出される(ステップS100)。この目標レシオRoの算出処理S100は、アクセル開度APに応じた駆動力コントロール目標レシオを求めるステップS101、車速Vに応じた目標レシオを求めるステップS103、クランク軸端トルクに応じた推力最大で伝えられる目標レシオ求めるステップS105、および、以上の処理で求められたレシオから目標レシオを決定するステップS107から構成される。
【0026】
駆動力コントロール目標レシオを求めるステップS101は、アクセルセンサ55により検出されたアクセル開度APを引数にして、図4に示す関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索し、このアクセル開度APに対応する駆動力コントロール目標レシオRAPを求めるものである。このマップは、アクセルペダルの開度APが小さいときは、ドライバビリティを重視し、駆動力コントロール目標レシオRAPは、オーバーオールで、前進レンジが選択されているときと同じレシオ程度となるように設定される。すなわち、前後進切換機構30を構成する遊星歯車機構で減速される分を無段変速機CVTで補うレシオが選択される。この場合、所定のアクセル開度APになるまでは、駆動力コントロール目標レシオRAPは一定の値を取るように構成されている。なお、発進敏感が気になる場合には、さらに高いレシオまで変速させる(遊星歯車機構による減速分を超えて補う)ように構成することも可能である。一方、アクセル開度APが所定の大きさを超えると駆動力が必要になるため、遊星歯車機構で減速される分を考慮し、前進レンジが選択されているときと同じレベルの駆動力となるレシオが設定されており、この場合、アクセル開度APに応じて駆動力コントロール目標レシオRAPが増加するように設定されている。
【0027】
車速に応じた目標レシオを求めるステップS103は、車速センサ53で検出された車速Vを引数にして、図5に示すグラフG1の関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索し、この車速Vに対する目標レシオa0を求めるものである。なお、図5は、車速Vとエンジン回転数Neの関係を示すグラフであり、実際のマップには、車速Vに対してこのエンジン回転数Neとなるレシオa0の対応が記憶されている。また、参考のために、上述の駆動力コントロール目標レシオRAP(Lowレンジ、7.70、6.00,4.00、ODレンジのとき)における車速Vとエンジン回転数Neの関係も合わせて示している。
【0028】
推力最大で伝達することができる目標レシオを求めるステップS105は、クランク軸端トルクTCLを引数にして、図6に示す関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索して、無段変速機CVTの推力最大のときに伝達することができる目標レシオb0_baseを求めるものである。このとき、クランク軸端トルクTCLは、エンジンENGの回転数Neと吸気圧Pbとからマップを検索して求められる。
【0029】
そして、目標レシオRoを決定するステップS107は、上述の処理で求められた目標レシオRAP,a0,b0_baseのうち、最小のものを目標レシオRoとして選択し、エンジン制御ユニット60は、コントロールバルブCVに励磁信号を出力してドライブおよびドリブンプーリ制御油圧Pdr,Pdnを制御することにより、選択された目標レシオRoとなるように無段変速機CVTを制御する。
【0030】
目標レシオRoが算出されると、次に、後進時のクランク軸端要求トルクベースTQAPCCRが決定される(ステップS110)。この後進時のクランク軸端要求トルクベースTQAPCCRは、アクセル開度APから算出された(マップに設定されている)クランク軸端トルクベースTQAPCCと後進ブレーキ37の許容トルクTQLMTR(後進ブレーキ37の固有値であって、例えば、105Nm)とが比較されて最小値が選択される。
【0031】
次に、前進レンジ相当のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクTQSCTFCを、次式(1)により算出して決定する(ステップS120)。
【0032】
TQSCTFC = TSC / RAP /RSP (1)
但し、TSC : 発進クラッチ伝達トルク
RAP : 駆動力コントロール目標レシオ
RSP : シングルプラネタリレシオ
【0033】
ここで、発進クラッチ伝達トルクTSCは、脚軸上のクラッチ伝達トルク(駆動輪DRWに出力されるトルク)が前進時と後進時とで同一になるように設定され、且つ、図7(a)に示すエンジン回転数Neとの関係を有するマップとして記憶領域61に記憶されており、エンジン回転数Neを引数にこのマップから求められる。また、駆動力コントロール目標レシオRAPは上述の処理S101で求められたものである。さらに、シングルプラネタリレシオRSPは、前後進切換機構30に用いられているシングルピニオンタイプの遊星歯車機構において後進ブレーキ37を係合したときのレシオである。
【0034】
そして、このようにして求められた前進レンジ相当のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクTQSCTFCから、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNを次式(2)により算出して決定する(ステップS130)。ここで、図7(b)に示すように、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNは、クランク軸端での余裕トルク(エンジントルク−クランク軸端発進トルク)が前進レンジ選択時と後進レンジ選択時とで同じ値となり、かつ、エンジンENGの回転数Neの上昇率が、前進レンジと後進レンジとで同じになるように決定される。そのため、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNは、前進レンジが選択されている時のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクから後進レンジが選択されている時のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクを減算したものとして表される。
【0035】
ここで、前進レンジが選択されている時のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクは、発進クラッチ伝達トルクTSCを前進レンジ(LOWレンジ)のレシオで除算した値であり、また、後進レンジが選択されている時のクランク軸端発進クラッチ伝達トルクは、発進クラッチ伝達トルクTSCを実レシオRとシングルプラネタリレシオRSPの積で除算した値であるため、これらの値から、次式(2)が求められる。
【0036】
TQRVSDOWN = TQSCTFC − TQSCTFC × RAP / R (2)
但し、R : 実レシオ
【0037】
なお、実レシオRは、無段変速機CVTの実際のレシオであり、ドライブおよびドリブンプーリ回転数センサ51,52から検出されたそれぞれの回転数Ndr,Ndnから算出される。
【0038】
以上のようにして、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNが算出されると、エンジンENGのトルクを減少させる制御が必要か否か、すなわち、後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNが正トルクであるか否かが判断される(ステップS140)。後進時のトルクダウン量TQRVSDOWNが正トルクであるときは、アクセルセンサ54の検出値であるアクセル開度APからアクセルペダルが踏み込まれているか否かが判断され(ステップS150)、アクセルペダルが踏み込まれているときは、後進時のクランク軸端要求トルクTQRVSを次式(3)により決定する(ステップS160)。この式(3)は、ステップS110で算出した後進時クランク軸端要求トルクベースTQAPCCRからトルクダウン量TQRVSDOWNを減算したものを後進時のクランク軸端要求トルクTQRVSとするものである。
【0039】
TQRVS = TQAPCCR − TQRVSDOWN (3)
【0040】
一方、ステップS140においてトルクダウン量TQRVSDOWNが0以下である場合や、ステップS150においてアクセルペダルが踏み込まれていないと判断されたときは、トルクダウンを行う必要はなく、後進時のクランク軸端要求トルクTQRVSに、ステップS110で算出した後進時クランク軸端要求トルクベースTQAPCCRを設定する(ステップS170)。
【0041】
以上の処理により後進時のクランク軸端要求トルクベースTQRVSが決定されると、このトルクがエンジンENGから出力されるようにエンジン制御ユニット60によりエンジンENG(吸排気制御装置12や燃料噴射・点火制御装置13)が制御される。
【0042】
このように、後進レンジが選択されているときに、アクセル開度APや車速Vに応じて無段変速機CVTのレシオを決定するとともに、そのときのエンジンENG等の状態に応じてオンデマンド制御で無段変速機CVTに入力されるトルクを制限することにより、無段変速機CVTに入力されるトルクが適正量に制御されるため、前後進切換機構30を構成する後進ブレーキ37のディスクの枚数を増やす必要が無く、走行時のフリクションが小さくなり燃費を向上させることができる。また、後進ブレーキ37の部品点数を減らすことができるため、コストダウンにもなる。さらに、無段変速機CVTに必要な推力も小さくなるため、無段変速機CVT全体が小型化し、これに作動油を供給するオイルポンプも大型化することがない。
【0043】
また、前後進切換機構30は、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構を用いて、後進レンジが選択されているときは、この遊星歯車機構で減速して無段変速機CVTにトルクを伝達しているため、この遊星歯車機構でトルクが増幅される。そのため、無段変速機CVTに入力されるトルクを、上述のトルクオンデマンド制御で制限を掛けても必要な駆動力(前進レンジが選択されているときと同等の駆動力)を得ることができる。また、走行時に無段変速機CVTを変速させることにより、後進時に必要な車速も確保することができる。
【0044】
ところで、このようなトルクオンデマンド制御により、無段変速機CVTに入力されるトルクを制限していても、アクセルペダルの踏み込み状態等によっては制御しきれずに過大なトルクがこの無段変速機CVTに入力される可能性がある。しかし、本実施例に係るエンジン制御ユニット60では、トルクオンデマンド制御と同時に、発進クラッチ制御と燃料カット要求制御を行ってクランク軸端のトルクに制限を掛けるように構成されており、以下に説明する。なお、発進クラッチ制御と燃料カット要求制御も、エンジン制御ユニット60において、所定時間(例えば10ミリ秒)毎に繰り返し行われる。
【0045】
まず、発進クラッチ制御を図8および図9を用いて説明する。発進クラッチ制御は、まず、エンジンENGの回転数Neを引数にして、図9(a)に示す関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索し、この回転数Neに対応する発進クラッチ伝達トルク係数PSTBMを求める(ステップS200)。また、同様に、発進クラッチ5の滑り量ESCをドリブンプーリ回転数センサ52と発進クラッチ出力センサ54により検出される回転数Ndn(発進クラッチ5の入力側の回転数)と発進クラッチ5の出力側の回転数VEVとから算出し、この滑り量ESCを引数にして、図9(b)に示す関係が保持されて記憶手段61に記憶されたマップを検索し、この滑り量ESCに対応する滑り量補正係数TPQを求める(ステップS202)。さらに、無段変速機CVTの実レシオRを引数にして、記憶手段61に記憶されたマップを検索して、この実レシオRに対応する発進クラッチ伝達トルクの制限値TSCLMTを求める(ステップS204)。そして、これらの値を用いて、次式(4)により、発進クラッチトルクベース値TSCBを算出する(ステップS206)。
【0046】
TSCB = PSTBM × TPQ × R (4)
【0047】
そして、アクセルセンサ55で検出されたアクセル開度APを引数にして、記憶手段61に記憶されたマップを検索して、このアクセル開度APに対応する油圧加算量ΔTSCを求め(ステップS208)、前回の処理において算出された発進クラッチ伝達トルクTSC(n−1)に油圧加算量ΔTSCを加えたものが、発進クラッチトルクベース値TSCB以上であるか否かを判断する(ステップS210)。このステップS210で、発進クラッチトルクベース値TSCBより小さいときは、判定値C0へ発進クラッチトルクベース値TSCBを設定し(ステップS212)、発進クラッチトルクベース値TSCB以上であるときは判定値C0へ、前回の処理において算出された発進クラッチ伝達トルクTSC(n−1)に油圧加算量ΔTSCを加えたものを設定する(ステップS214)。
【0048】
最後に、判定値C0が上述の発進クラッチ伝達トルクの制限値TSCLMT以上であるか否かを判定し(ステップS216)、制限値TSCLMTより小さいときは今回の発進クラッチ伝達トルクTSC(n)に判定値C0を設定し(ステップS218)、制限値TSCLMT以上のときは今回の発進クラッチ伝達トルクTSC(n)に制限値TSCLMTを設定する(ステップS220)。このようにして設定された発進クラッチ伝達トルクTSC(n)になるように、エンジン制御ユニット60は発進クラッチ5を制御するため、過大なトルクが発生したとしても、発進クラッチ5が滑ってエネルギーを吸収することにより無段変速機CVTに入力されるトルクを低減させることができる。
【0049】
一方、燃料カット要求制御は、図10に示すように、まず、発進クラッチ伝達トルクTSCと、ドリブンプーリ回転数センサ52および発進クラッチ出力センサ54により検出される回転数Ndnおよび発進クラッチ5の出力側の回転数VEVとから次式(5)により、発進クラッチ吸収仕事率QSCを算出する(ステップS300)。
【0050】
QSC = TSC × |Ndn − VEL| × α (5)
但し、α : 係数
【0051】
この発進クラッチ吸収仕事率QSCは、発進クラッチ5で吸収可能なエネルギー(熱量)を示すものとして、仕事率を積算してエネルギーとして算出することも可能である。そして、このようにして算出された発進クラッチ吸収仕事率QSCが、許容値QSCLMT以上であるか否かを判断し(ステップS310)、発進クラッチ吸収仕事率QSCが許容値QSCLMTより小さいときは、燃料カット要求F_FCREQに0をセットして燃料カット要求をオフし(ステップS320)、発進クラッチ吸収仕事率QSCが許容値QSCLMT以上のときは、燃料カット要求F_FCREQに1をセットして燃料カット要求をオンにする(ステップS330)。なお、許容値QSCLMTには、上限値と下限値が設定されており、ステップS310において、発進クラッチ吸収仕事率QSCが許容値QSCLMT以上であるか否かの判断は上限値が用いられ、発進クラッチ吸収仕事率QSCが許容値QSCLMTより小さいか否かの判断は下限値が用いられる。
【0052】
このように、燃料カット要求F_FCREQをセットすることにより、エンジン制御ユニット60は、燃料カット要求F_FCREQに応じて燃料噴射・点火制御装置13を制御して、エンジンENGにおいて、燃料噴射を停止するため、出力トルクが低下し、無段変速機CVTに入力されるトルクを低減することができる。
【0053】
それでは、エンジンENGが高回転している状態で、シフトレバー56から入力される変速レンジPOSがニュートラル(N)から後進レンジ(R)に変更されたときのタイムオンデマンド制御、発進クラッチ制御および燃料カット要求制御の結果を図11を用いて説明する。変速レンジがニュートラル(Nレンジ)の状態で、時刻t0にアクセルペダルが踏み込まれスロットルバルブの開度θTHが増加すると、それに応じてエンジン回転数Neも上昇する。そして、このようにエンジン回転数Neが上昇している状態で、時刻t1において変速レンジPOSを後進レンジ(Rレンジ)に入れると、実レシオRを目標レシオRoに近づけるとともに、発進クラッチ5の発進クラッチ伝達トルクTSCを増加させて駆動輪DRWに動力を伝達しようとするが、時刻t2で制限値TSCLMTに達ししてしまい、それ以上この発進クラッチ伝達トルクTSCは上昇しない。このとき、発進クラッチ5は滑っているため、発進クラッチ5の発進クラッチ吸収仕事率QSCが上昇し、許容値QSCLMTを超えると燃料カットが行われる。
【0054】
このように、発進クラッチ5を滑らすとともに、燃料カットを行うことにより、無段変速機CVTに入力されるトルクを減少させながら、無段変速機CVTのレシオRを後進レンジが選択されているときの目標レシオRoになるように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る動力伝達装置の構成を示す構成図である。
【図2】トルクオンデマンド制御の処理を示すフローチャートである。
【図3】目標レシオ算出処理を示すフローチャートである。
【図4】アクセル開度と駆動力コントロール目標レシオの関係を示すグラフである。
【図5】車速に応じた目標レシオにおいて、車速とエンジン回転数の関係を示すグラフである。
【図6】クランク軸端トルクと無段変速機の推力最大のときの目標レシオとの関係を示すグラフである。
【図7】後進時のトルクダウン量の算出方法を説明するための説明図である。
【図8】発進クラッチ制御の処理を示すフローチャートである。
【図9】発進クラッチ制御の各種係数の関係を説明するグラフであり、(a)はエンジン回転数と発進クラッチ伝達トルク係数の関係であり、(b)は発進クラッチの滑り量と滑り量補正係数の関係である。
【図10】燃料カット要求制御の処理を示すフローチャートである。
【図11】エンジンが高回転しているときに、後進レンジが選択されたときのレシオおよび発進クラッチ伝達トルクの制御状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
TM 動力伝達装置
ENG エンジン
DRW 駆動輪
5 発進クラッチ
20 金属Vベルト機構(変速機構)
30 前後進切換機構
31 サンギヤ(サンギヤ要素)
32 リングギヤ(リングギヤ要素)
33 キャリア(キャリア要素)
35 前進クラッチ
37 後進ブレーキ
60 エンジン制御ユニット(制御装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンおよび駆動輪の間に配設され、前記エンジンの回転駆動力を変速して前記駆動輪に伝達する変速機構と、
前記エンジンおよび前記変速機構の間に配設され、前記エンジンの回転を前進回転方向および後進回転方向に切り換えて前記変速機構に伝達する前後進切換機構とを有する動力伝達装置であって、
前記前後進切換機構が、
サンギヤ要素、キャリア要素およびリングギヤ要素を有し、前記サンギヤ要素が前記エンジンに接続され、前記リングギヤ要素が前記変速機構に接続された遊星歯車機構と、
前記サンギヤ要素および前記リングギヤ要素を結合させて前記エンジンの回転をそのまま前記前進回転方向にして前記変速機構に出力させる前進クラッチと、
前記キャリア要素を固定して前記エンジンの回転を減速するとともに前記後進回転方向にして前記無段変速機構に出力させる後進ブレーキとから構成された動力伝達装置において、
前記後進ブレーキが係合しているときに、
前記変速機構を所定のレシオだけ増速側に変速させるとともに、
前記駆動輪に伝達されるトルクが、前記前進クラッチが係合されているときに前記駆動輪に伝達されるトルクと同じ大きさになるように、前記エンジンから入力される入力トルクを制限することを特徴とする動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記所定のレシオが、
アクセル開度に応じて設定されるレシオ、車速に応じて設定されるレシオ、および、前記無段変速機構を作動させる最大推力で伝達可能なレシオのうち、最も小さなレシオから選択されるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記アクセル開度に応じて設定されるレシオが、
前記アクセル開度が小さいときは、前記遊星歯車機構で減速される量と略同一大きさで前記変速機構が増速するレシオに設定され、
前記アクセル開度が大きいときは、前記前進クラッチが係合されているときに得られる駆動力と略同一大きさの駆動力が得られるレシオに設定されることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記変速機構および前記駆動輪の間に配設され、前記変速機構と前記駆動輪とを係脱して前記変速機構の回転駆動力を前記駆動輪に伝達する発進クラッチを有し、
前記発進クラッチの伝達トルクが所定の閾値を超えたときに、前記発進クラッチを滑らせる請求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記変速機構および前記駆動輪の間に配設され、前記変速機構と前記駆動輪とを係脱して前記変速機構の回転駆動力を前記駆動輪に伝達する発進クラッチを有し、
前記発進クラッチの伝達トルクが所定の閾値を超えたときに、前記エンジンに供給される燃料をカットする請求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
エンジンおよび駆動輪の間に配設され、前記エンジンの回転駆動力を変速して前記駆動輪に伝達する変速機構と、
前記エンジンおよび前記変速機構の間に配設され、前記エンジンの回転を前進回転方向および後進回転方向に切り換えて前記変速機構に伝達する前後進切換機構とを有する動力伝達装置であって、
前記前後進切換機構が、
サンギヤ要素、キャリア要素およびリングギヤ要素を有し、前記サンギヤ要素が前記エンジンに接続され、前記リングギヤ要素が前記変速機構に接続された遊星歯車機構と、
前記サンギヤ要素および前記リングギヤ要素を結合させて前記エンジンの回転をそのまま前記前進回転方向にして前記変速機構に出力させる前進クラッチと、
前記キャリア要素を固定して前記エンジンの回転を減速するとともに前記後進回転方向にして前記無段変速機構に出力させる後進ブレーキとから構成された動力伝達装置において、
前記後進ブレーキが係合しているときに、
前記変速機構を所定のレシオだけ増速側に変速させるとともに、
前記駆動輪に伝達されるトルクが、前記前進クラッチが係合されているときに前記駆動輪に伝達されるトルクと同じ大きさになるように、前記エンジンから入力される入力トルクを制限することを特徴とする動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記所定のレシオが、
アクセル開度に応じて設定されるレシオ、車速に応じて設定されるレシオ、および、前記無段変速機構を作動させる最大推力で伝達可能なレシオのうち、最も小さなレシオから選択されるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記アクセル開度に応じて設定されるレシオが、
前記アクセル開度が小さいときは、前記遊星歯車機構で減速される量と略同一大きさで前記変速機構が増速するレシオに設定され、
前記アクセル開度が大きいときは、前記前進クラッチが係合されているときに得られる駆動力と略同一大きさの駆動力が得られるレシオに設定されることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記変速機構および前記駆動輪の間に配設され、前記変速機構と前記駆動輪とを係脱して前記変速機構の回転駆動力を前記駆動輪に伝達する発進クラッチを有し、
前記発進クラッチの伝達トルクが所定の閾値を超えたときに、前記発進クラッチを滑らせる請求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記変速機構および前記駆動輪の間に配設され、前記変速機構と前記駆動輪とを係脱して前記変速機構の回転駆動力を前記駆動輪に伝達する発進クラッチを有し、
前記発進クラッチの伝達トルクが所定の閾値を超えたときに、前記エンジンに供給される燃料をカットする請求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−100891(P2007−100891A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293483(P2005−293483)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]