説明

動力分配装置

【課題】 車両の走行性能を向上させる動力分配装置の低コスト化を達成する。
【解決手段】 動力分配装置11は、変速出力軸19に連結される入力フランジ40と、前輪出力軸30に連結される出力フランジ45とを備える。双方のフランジ40,45には入力側カム41と出力側カム46とが形成され、対向するカム41,46の間にはボール部材47が組み込まれる。また、入力フランジ40に固定されるドラム部材42には駆動プレート51が装着され、後輪出力軸34に連結される中間軸32には従動プレート52が装着される。エンジンによって入力フランジ40が駆動されると、カム機構48の噛み合いによって出力フランジ45が駆動されるとともに、噛み合い反力で移動する出力フランジ45によってプレート51,52が押圧されて中間軸32が駆動される。このように、前後輪に対して常に駆動トルクを分配できる動力分配装置11を簡単に構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後輪に動力を分配する動力分配装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前後輪を駆動する四輪駆動車には、エンジン等から出力される動力を前輪と後輪とに分配する動力分配装置が組み込まれている。このような動力分配装置としては、かさ歯車や遊星歯車を備えたデファレンシャルタイプや、アウタプレートおよびインナプレートを備えたカップリングタイプがある。
【0003】
デファレンシャルタイプの動力分配装置にあっては、エンジンに駆動されるデファレンシャルケース(以下、デフケースという)を備えており、このデフケースには一対の差動大歯車が回転自在に収容されている。それぞれの差動大歯車は前輪と後輪とに連結されるとともに、デフケースに支持される差動小歯車を介して相互に噛み合っており、エンジン動力はデフケースから差動小歯車を介して双方の差動大歯車に伝達されるようになっている。また、対向する差動大歯車は差動小歯車を介して相対回転自在となっており、旋回走行などにおいては前後輪の回転差を吸収することが可能となる。
【0004】
また、カップリングタイプの動力分配装置にあっては、変速機の変速出力軸に連結される入力軸と、補助的に駆動される補助駆動輪に連結される出力軸とを備えている。入力軸にはアウタプレートを備えるカップリングケースが取り付けられ、出力軸にはアウタプレートに対して交互に重なるようにインナプレートが取り付けられる。カップリングケース内にはシリコンオイルが封入されており、プレート間の回転速度差に応じて生じるシリコンオイルの剪断力によって、入力軸から出力軸に対して駆動トルクが伝達されるようになっている。つまり、変速機から直接的にエンジン動力が伝達される主駆動輪が空転した場合に、補助駆動輪に対してエンジン動力が伝達される構造となっている。
【0005】
さらに、カップリングタイプの動力分配装置として、前述したビスカスカップリングに代えて多板クラッチを組み込むようにした動力分配装置も提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この動力分配装置は、前後輪の回転速度差に応じて作動する油圧ピストンを備えており、油圧ピストンによって多板クラッチを締結することにより、補助駆動輪に対してエンジン動力を伝達する構造となっている。また、特許文献1に記載される動力分配装置にあっては、前後輪の回転速度差に応じて作動するカム機構を備えており、ぬかるみ等における主駆動輪の空転によって回転速度差が大きく現れた場合には、カム機構によって多板クラッチを完全に締結することにより、補助駆動輪に大きな駆動トルクを与えて車両の脱出性能を向上させるようにしている。
【特許文献1】特開平5−106655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述したカップリングタイプの動力分配装置にあっては、前後輪に回転速度差が発生する迄は、前輪と後輪とのいずれか一方に対して駆動トルクを伝達する構造であるため、前後輪に対して常に駆動トルクを伝達することはできず、車両の動力性能を向上させることが困難となっていた。一方、デファレンシャルタイプの動力分配装置にあっては、前後輪に対して常に駆動トルクを伝達することができ、車両の動力性能を向上させることが可能であるが、複雑な構造を有することから製造コストを引き下げることが困難となっていた。
【0007】
本発明の目的は、車両の動力性能を向上させるようにした動力分配装置の低コスト化を達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動力分配装置は、駆動源に連結される入力部材と、第1駆動輪に連結される第1出力部材と、第2駆動輪に連結される第2出力部材とを備え、前記駆動源からの動力を前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とに分配する動力分配装置であって、前記入力部材に設けられる入力側カムと、これに対向して前記第1出力部材に設けられる出力側カムとを備え、前記入力側カムと前記出力側カムとを噛み合わせて前記第1駆動輪に動力を伝達するカム機構と、前記第2出力部材に設けられる従動プレートと、これに係合自在に対面する駆動プレートとを備え、前記カム機構の噛み合い反力によって前記駆動プレートと前記従動プレートとを押圧し、前記第2駆動輪に動力を伝達するクラッチ機構とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の動力分配装置は、前記カム機構の噛み合い反力による前記入力側カムと前記出力側カムとの相対移動により、前記駆動プレートと前記従動プレートとを押圧することを特徴とする。
【0010】
本発明の動力分配装置は、前記カム機構は前記入力側カムと前記出力側カムとの間に係合部材を備え、前記係合部材を介して前記入力側カムと前記出力側カムとを噛み合わせることを特徴とする。
【0011】
本発明の動力分配装置は、前記入力側カムと前記出力側カムとは、前記入力側カムから前記出力側カムに動力を伝達するドライブ側カム面と、前記出力側カムから前記入力側カムに動力を伝達するコースト側カム面とを備え、前記ドライブ側カム面の傾斜角度と前記コースト側カム面の傾斜角度とを相違させることを特徴とする。
【0012】
本発明の動力分配装置は、前記入力側カムと前記出力側カムとは、前記入力側カムから前記出力側カムに動力を伝達するドライブ側カム面と、前記出力側カムから前記入力側カムに動力を伝達するコースト側カム面とのいずれか一方を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の動力分配装置は、前記クラッチ機構は前記駆動プレートと前記従動プレートとを予圧する弾性部材を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の動力分配装置は、前記クラッチ機構は前記駆動プレートと前記従動プレートとを押圧するアクチュエータを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の動力分配装置は、前記カム機構によるプレート押圧方向と前記アクチュエータによるプレート押圧方向とを一致させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カム機構の噛み合わせによって第1駆動輪に動力を伝達し、カム機構の噛み合い反力によって締結されるクラッチ機構を介して第2駆動輪に動力を伝達するようにしたので、全ての駆動輪に対して動力を分配することができ、車両の動力性能や走行安定性を向上させることが可能となる。しかも、従来のセンタデファレンシャル機構が備える遊星歯車やかさ歯車等を削減することができるため、動力分配装置の低コスト化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は手動変速機10が搭載された車両を示す概略図であり、図2は本発明の一実施の形態である動力分配装置11が組み込まれた手動変速機10を示すスケルトン図である。
【0018】
図1に示すように、車両には駆動源であるエンジン12に隣接して手動変速機10が縦置きに搭載されており、手動変速機10に組み込まれるフロントデファレンシャル機構13から、第1駆動輪である前輪14fに対してエンジン動力が伝達される一方、手動変速機10にプロペラシャフト15を介して接続されるリヤデファレンシャル機構16から、第2駆動輪である後輪14rに対してエンジン動力が伝達されている。つまり、図示する手動変速機10は四輪駆動車に搭載される手動変速機となっている。
【0019】
図2に示すように、手動変速機10は、入力クラッチ17を介してエンジン12に連結される変速入力軸18と、これに平行となる中空の変速出力軸19とを有しており、変速入力軸18と変速出力軸19とは車両の前後方向を向いてミッションケース20内に組み込まれている。変速入力軸18には、第1速と第2速の駆動歯車21a,22aが固定され、第3速から第5速の駆動歯車23a〜25aが回転自在に設けられる一方、変速出力軸19には、第1速と第2速の従動歯車21b,22bが回転自在に設けられ、第3速から第5速の従動歯車23b〜25bが固定されている。変速入力軸18の駆動歯車21a〜25aと変速出力軸19の従動歯車21b〜25bとは、相互に噛み合って第1速から第5速の変速歯車列21〜25を形成しており、それぞれの変速歯車列21〜25はシンクロメッシュ機構26〜28によって動力伝達状態に切り換えられるようになっている。
【0020】
変速されたエンジン動力が伝達される変速出力軸19には、本発明の一実施の形態である動力分配装置11が組み付けられており、この動力分配装置11を介して前輪14fと後輪14rとにエンジン動力が分配される。動力分配装置11から車両前方側に延びる前輪出力軸30は、変速出力軸19の中心孔に案内されるとともにフロントデファレンシャル機構13に接続されており、動力分配装置11から前輪側に分配されるエンジン動力は、前輪出力軸30を介して前輪14fに伝達されるようになっている。また、動力分配装置11から車両後方側に延びる中間軸32は、一対の伝達歯車33a,33bを介して後輪出力軸34に連結されている。この後輪出力軸34は、プロペラシャフト15を介してリヤデファレンシャル機構16に接続されており、動力分配装置11から後輪側に分配されるエンジン動力は、中間軸32から後輪出力軸34を介して後輪14rに伝達されるようになっている。
【0021】
図3は手動変速機10に組み込まれる動力分配装置11とその近傍を示す断面図である。図3に示すように、動力分配装置11は、変速出力軸19に取り付けられる入力部材としての入力フランジ40を備えており、この入力フランジ40は変速出力軸19に嵌合するスリーブ部40aと入力側カム41を備えるディスク部40bとにより構成されている。また、入力フランジ40のディスク部40bにはドラム部材42が固定されており、入力フランジ40とドラム部材42とによってクラッチケース43が形成されている。さらに、クラッチケース43内には、前輪出力軸30に対して軸方向に移動自在に取り付けられる第1出力部材としての出力フランジ45が収容されており、この出力フランジ45は前輪出力軸30に嵌合するスリーブ部45aと出力側カム46を備えるディスク部45bとにより構成されている。そして、入力フランジ40に形成された入力側カム41と、これに対向するように出力フランジ45に形成された出力側カム46との間には、係合部材としてのボール部材47が組み込まれている。
【0022】
つまり、入力フランジ40と出力フランジ45とは、入力側カム41、出力側カム46、ボール部材47によって形成されるカム機構48を介して連結されるようになっている。そして、後述するように、ボール部材47を介して入力側カム41と出力側カム46とを噛み合わせることにより、入力フランジ40から出力フランジ45に対してエンジン動力が伝達されるとともに、入力フランジ40から離れる方向に出力フランジ45が押し出されることになる。
【0023】
また、クラッチケース43を構成するドラム部材42と、クラッチケース43内に収容される第2出力部材としての中間軸32との間には、複数枚の摩擦プレートを備える多板式のクラッチ機構50が設けられている。このクラッチ機構50は、ドラム部材42の内周面に装着される複数枚の駆動プレート51と、中間軸32の外周面に装着される複数枚の従動プレート52とを備えており、駆動プレート51と従動プレート52とは交互に重なるように配置されている。そして、駆動プレート51と従動プレート52とを押圧して互いに係合させることにより、ドラム部材42から中間軸32にエンジン動力が伝達されることになる。
【0024】
ここで、図4(A)〜(C)は図3のa−a線に沿ってカム機構48を概略的に示す断面図である。図4(A)は車両停止時の状態を示し、図4(B)はアクセルペダルの踏み込みによって車両が加速するドライブ時の状態を示し、図4(C)はアクセルペダルの踏み込み解除によって車両が減速するコースト時の状態を示している。
【0025】
まず、図4(A)に示すように、入力フランジ40の入力側カム41と、出力フランジ45の出力側カム46とは、ほぼ同じ傾斜角度D1,C1を備えたドライブ側カム面41a,46aおよびコースト側カム面41b,46bを有している。運転者がアクセルペダルを踏み込むことにより、エンジン動力によって車両を加速させるドライブ時にあっては、図4(B)に示すように、入力フランジ40が出力フランジ45に比べて速く回転しようとするため、双方のフランジ40,45に形成されるドライブ側カム面41a,46aはボール部材47を介して噛み合うことになる。このように、カム機構48を介して入力フランジ40と出力フランジ45とは直結された状態となり、入力フランジ40から出力フランジ45に対してエンジン動力が直接的に伝達されるようになっている。
【0026】
さらに、ボール部材47を介して噛み合うドライブ側カム面41a,46aは回転方向に対して傾斜するため、双方のフランジ40,45に対して互いに離れる方向の噛み合い反力が作用することになる。ここで、図3に示すように、入力フランジ40は軸受53によって軸方向移動が規制されるため、図4(B)に示すように、噛み合い反力Fd1によって出力フランジ45がクラッチ機構50に向けて押し出されることになる。つまり、出力フランジ45は噛み合い反力Fd1によってプレート51,52を相互に押圧するようになっており、出力フランジ45はクラッチ機構50の締結状態を制御するピストンとして機能するようになっている。
【0027】
たとえば、アクセルペダルの踏み込みにより、入力フランジ40の駆動トルクが増大した場合には、これに比例して噛み合い反力Fd1も増大するため、出力フランジ45によるクラッチ機構50の締結力も増大することになる。つまり、入力フランジ40の駆動トルクが増大した場合には、これに比例して後輪14rに分配される駆動トルクも増大することになるため、前輪14fと後輪14rとに対するトルク分配比はほぼ一定に保たれることになる。なお、前輪14fと後輪14rとに対するトルク分配比は、ドライブ側カム面41a,46aの傾斜角度に応じて定められるようになっている。
【0028】
また、図4(B)に示す状態から、運転者がアクセルペダルの踏み込みを解除することにより、エンジンブレーキによって車両を減速させるコースト時にあっては、図4(C)に示すように、双方のフランジ40,45に形成されるコースト側カム面41b,46bがボール部材47を介して相互に噛み合うことになる。これにより、入力フランジ40と出力フランジ45とはカム機構48を介して機械的に噛み合うことになり、前輪14fに対して負荷トルクを与えることができる。また、コースト時であっても噛み合い反力Fc1によって出力フランジ45はクラッチ機構50を締結するため、後輪14rに対しても負荷トルクを与えることができ、車両の走行安定性を高めることが可能となる。なお、図示する場合には、ドライブ側カム面41a,46aとコースト側カム面41b,46bとの傾斜角度D1,C1が同じであるため、ドライブ時およびコースト時のトルク分配比はほぼ一定に制御されることになる。
【0029】
これまで説明したように、ドライブ時において変速出力軸19から出力されるエンジン動力は、カム機構48を介して前輪出力軸30に伝達されるとともに、噛み合い反力Fd1によって締結されるクラッチ機構50を介して後輪出力軸34に伝達されることになる。つまり、ドライブ時にあっては前後輪14f,14rに対して常にエンジン動力を分配することができ、車両の動力性能を向上させることが可能となる。また、アクセルペダルの踏み込みを解除するコースト時においても、カム機構48を介してエンジン12からの負荷トルクを前輪14fに与えることができるとともに、クラッチ機構50を介してエンジン12からの負荷トルクを後輪14rに与えることができる。これにより、前後輪14f,14rのトルク抜けを防止することができるため、車両の走行安定性を向上させることが可能となる。
【0030】
しかも、従来のセンタデファレンシャル機構が備えていた遊星歯車やかさ歯車を用いることなく、前後輪14f,14rに対して駆動トルクや負荷トルクを与えることができるため、動力分配装置11の製造コストを引き下げることが可能となる。また、ドライブ側カム面41a,46aやコースト側カム面41b,46bの傾斜角度を変更したり、駆動プレート51および従動プレート52の枚数を変更したりすることにより、前後輪14f,14rに対する駆動トルクや負荷トルクの分配比を容易に変更することが可能となる。
【0031】
また、前述した動力分配装置11にあっては、カム機構48の噛み合い反力Fd1,Fc1によってクラッチ機構50を締結することにより、後輪14rに対して駆動トルクや負荷トルクを伝達しているが、出力フランジ45と駆動プレート51との間に弾性部材としての皿バネを組み込むことにより、噛み合い反力Fd1,Fc1が発生していない状況であってもクラッチ機構50を滑り係合状態(半クラッチ状態)に保つようにしても良い。このように、駆動プレート51と従動プレート52とを皿バネを用いて予圧することにより、図4(A)に示すようにカム機構48が噛み合っていない状況であっても、後輪14rに対して負荷トルクを与えることができ、車両の走行安定性を向上させることが可能となる。なお、駆動プレート51と従動プレート52との間に皿バネを組み込むようにしても良く、駆動プレート51とドラム部材42との間に皿バネを組み込むようにしても良い。さらに、入力フランジ40と出力フランジ45との間に皿バネを組み込むようにしても良い。
【0032】
ここで、図5および図6は本発明の他の実施の形態である動力分配装置のカム機構60,65を概略的に示す断面図である。図5(A)および図6(A)は車両停止時の状態を示し、図5(B)および図6(B)はアクセルペダルの踏み込みによって車両が加速するドライブ時の状態を示し、図5(C)および図6(C)はアクセルペダルの踏み込み解除によって車両が減速するコースト時の状態を示している。
【0033】
前述した入力フランジ40や出力フランジ45にあっては、ドライブ側カム面41a,46aとコースト側カム面41b,46bとの傾斜角度D1,C1がほぼ同じに形成されているが、これに限られることはなく、ドライブ側カム面とコースト側カム面との傾斜角度を相違させても良い。図5(A)に示すように、入力フランジ61や出力フランジ62に形成されるドライブ側カム面61a,62aの傾斜角度D2に対して、入力フランジ61や出力フランジ62に形成されるコースト側カム面61b,62bの傾斜角度C2を小さく形成すると、図5(B)および(C)に示すように、ドライブ時の噛み合い反力Fd2とコースト時の噛み合い反力Fc2とを相違させることが可能となる。つまり、それぞれの傾斜角度D2,C2を相違させることにより、ドライブ時における前後輪14f,14rに対するトルク分配比と、コースト時における前後輪14f,14rに対するトルク分配比とを変化させることが可能となる。
【0034】
このように、トルク分配比を変化させるようにすると、車両の動力性能を更に向上させることが可能となる。たとえば、ドライブ時においては後輪14rに対するトルク分配比を増加させるように、ドライブ側カム面61a,62aの傾斜角度D2を設定することにより、アクセルペダルを踏み込むときの加速性能を向上させることが可能となる。また、コースト時に後輪14rに対するトルク分配比を減少させるように、コースト側カム面61b,62bの傾斜角度C2を設定することにより、アクセルペダルの踏み込みを解除する際の旋回性能を向上させることが可能となる。
【0035】
また、図6(A)に示すように、入力フランジ66と出力フランジ67とに対してドライブ側カム面66a,67aのみを形成するようにしても良い。図6(B)および(C)に示すように、ドライブ側カム面66a,67aのみを形成すると、ドライブ時においては噛み合い反力Fd3が発生する一方、コースト時においては噛み合い反力が発生しないため、コースト時には前輪14fにのみ負荷トルクを発生させることが可能となる。なお、入力フランジ66と出力フランジ67とに対してコースト側カム面のみを形成することにより、ドライブ時において前輪14fにのみ駆動トルクを伝達するようにしても良い。
【0036】
さらに、前述したカム機構48,60,65にあっては、ボール部材47を組み込むようにしているが、ボール部材47を削減するようにしても良い。ここで、図7(A)および(B)は本発明の他の実施の形態である動力分配装置のカム機構70を概略的に示す断面図であり、(A)は車両停止時の状態を示し、(B)はアクセルペダルの踏み込みによって車両が加速するドライブ時の状態を示している。
【0037】
図7(A)および(B)に示すように、入力フランジ71および出力フランジ72に対して略台形状の凹凸を形成することにより、入力フランジ71と出力フランジ72とを直に接触させることが可能となる。ドライブ時やコースト時にあっては、対面するドライブ側カム面71a,72aやコースト側カム面71b,72bを滑り接触させることにより、噛み合い反力Fd4を発生させることができるため、出力フランジ72によって前述したクラッチ機構50を締結することが可能となる。このようにカム機構70を構成することにより、カム機構70からボール部材47を削減することができ、動力分配装置の更なる低コスト化を達成することが可能となる。
【0038】
続いて、本発明の他の実施の形態である動力分配装置80,90について説明する。図8および図9は本発明の他の実施の形態である動力分配装置80,90とその近傍を示す断面図である。なお、図3に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
まず、図8に示すように、変速出力軸19には入力部材としての入力フランジ81が取り付けられており、この入力フランジ81は変速出力軸19に嵌合するスリーブ部81aと入力側カム82を備えるディスク部81bとにより構成されている。また、前輪出力軸30には第1出力部材としてのクラッチハブ83が軸方向に移動自在に取り付けられており、このクラッチハブ83は前輪出力軸30に嵌合するスリーブ部83aと出力側カム84を備えるディスク部83bとにより構成されている。さらに、対面する入力側カムと出力側カムとの間には係合部材としてのローラ部材85が組み付けられており、入力フランジ81とクラッチハブ83とは、入力側カム82、出力側カム84、ローラ部材85によって構成されるカム機構86を介して連結されている。なお、入力フランジ81に形成される入力側カム82やクラッチハブ83に形成される出力側カム84は、前述した入力側カム41や出力側カム46と同様のカム面構造を備えている。
【0040】
また、カム機構86を介して入力フランジ81に連結されるクラッチハブ83には、複数枚の駆動プレート87aが取り付けられており、第2出力部材としての中間軸32に固定されるクラッチドラム88には、複数枚の従動プレート87bが取り付けられている。クラッチ機構87を構成する駆動プレート87aと従動プレート87bとを係合させるため、クラッチハブ83のディスク部83bは径方向外方に伸びるように形成されており、ディスク部83bの外縁部は従動プレート87bに対面するようになっている。さらに、クラッチドラム88には油圧制御によって進退移動する油圧ピストン89aが収容されており、この油圧ピストン89aを前進移動させることによっても、駆動プレート87aと従動プレート87bとを係合させることが可能となっている。つまり、クラッチ機構87には油圧制御によって駆動プレート87aと従動プレート87bとを押圧するアクチュエータ89が組み込まれている。
【0041】
アクセルペダルの踏み込みによって車両を加速させる際には、入力フランジ81がクラッチハブ83に比べて速く回転しようとするため、入力側カム82と出力側カム84とがローラ部材85を介して噛み合うことになり、変速出力軸19から前輪出力軸30に対してエンジン動力が伝達されるとともに、カム機構86の噛み合い反力によってクラッチハブ83が矢印A方向に押し出されることになる。そして、噛み合い反力によるクラッチハブ83の相対移動に伴ってクラッチ機構87が締結されるため、カム機構86を介して前輪出力軸30に伝達されるエンジン動力の一部は、クラッチ機構87を介して中間軸32から後輪出力軸34に向けて分配されることになる。なお、アクセルペダルの踏み込み解除によって車両を減速させるコースト時であっても、カム機構86の噛み合い反力によってクラッチハブ83を矢印A方向に移動させることができるため、クラッチ機構87を締結して後輪14rに負荷トルクを与えることが可能となる。
【0042】
このように、第1出力部材であるクラッチハブ83と第2出力部材である中間軸32との間に、駆動プレート87aと従動プレート87bとを設けるようにした動力分配装置80であっても、前述した動力分配装置11と同様に、前後輪14f,14rに対し、所定のトルク分配比でエンジン動力を伝達することができる。さらに、図示する動力分配装置80にあっては、油圧ピストン89aによってクラッチ機構87の締結状態を自在に制御することができるため、前後輪14f,14rに対するトルク分配比を走行状況に応じて変化させることができ、車両の加速性能や旋回性能を向上させることが可能となる。
【0043】
前述した動力分配装置80にあっては、カム機構86によって押し出されるクラッチハブ83の移動方向と、駆動プレート87aと従動プレート87bとを押圧する油圧ピストン89aの移動方向とが対向しているが、クラッチハブ83の移動方向と油圧ピストン89aの移動方向とを一致させることにより、油圧ピストン89aに対して供給する作動油圧を引き下げることが可能となる。続いて、クラッチハブ91の移動方向と油圧ピストン99aの移動方向とを一致させるようにした動力分配装置90について説明する。
【0044】
図9に示すように、変速出力軸19には入力部材としてのクラッチハブ91が移動自在に取り付けられており、このクラッチハブ91は変速出力軸19に嵌合するスリーブ部91aと入力側カム92を備えるディスク部91bとにより構成されている。また、前輪出力軸30には第1出力部材としての出力フランジ93が取り付けられており、この出力フランジ93は前輪出力軸30に嵌合するスリーブ部93aと出力側カム94を備えるディスク部93bとにより構成されている。さらに、対面する入力側カム92と出力側カム94との間には係合部材としてのローラ部材95が組み付けられており、クラッチハブ91と出力フランジ93とは、入力側カム92、出力側カム94、ローラ部材95によって構成されるカム機構96を介して連結されている。なお、クラッチハブ91に形成される入力側カム92や出力フランジ93に形成される出力側カム94は、前述した入力側カム41や出力側カム46と同様のカム面構造を備えている。
【0045】
また、変速出力軸19に連結されるクラッチハブ91には、複数枚の駆動プレート97aが取り付けられており、中間軸32に固定されるクラッチドラム98には、複数枚の従動プレート97bが取り付けられている。クラッチ機構97を構成する駆動プレート97aと従動プレート97bとを係合させるため、クラッチハブ91のディスク部91bは径方向外方に伸びるように形成されており、ディスク部91bの外縁部は従動プレート97bに対面するようになっている。さらに、クラッチドラム98には油圧制御によって進退移動する油圧ピストン99aが収容されており、この油圧ピストン99aはクラッチハブ91のディスク部91bを押圧して駆動プレート97aと従動プレート97bとを係合させることが可能となっている。つまり、クラッチ機構97には油圧制御によって駆動プレート97aと従動プレート97bとを押圧するアクチュエータ99が組み込まれている。
【0046】
このように、カム機構96の噛み合い反力によって押し出されるクラッチハブ91のプレート押圧方向(矢印A1方向)と、作動油圧によって押し出される油圧ピストン99aのプレート押圧方向(矢印A2方向)とを一致させるようにすると、それぞれの推力を打ち消し合うことがないため、低い作動油圧によって油圧ピストン99aを作動させることが可能となる。つまり、図8に示すように、前述した動力分配装置80にあっては、クラッチハブ83と油圧ピストン89aとが対向しており、油圧ピストン89aを押し出してプレート87a,87bを押圧するためには、カム機構86の噛み合い反力を上回るようにピストン推力を発生させる必要がある。これに対し、図9に示す動力分配装置90にあっては、クラッチハブ91と油圧ピストン99aとが並列に配置されるため、噛み合い反力の大きさに影響されることなく、油圧ピストン99aの押圧力をプレート97a,97bに伝達することが可能となっている。
【0047】
これにより、油圧ポンプの吐出圧力を引き下げることができるため、エンジンに作用するポンプ負荷を引き下げて燃費性能を向上させることが可能となる。また、低い作動油圧であってもクラッチ機構97の締結状態を制御することができるため、油圧ピストン99aの小型化を図ることができるとともに、トルク分配比を制御する際の応答性を向上させることが可能となる。
【0048】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、図示する場合には、手動変速機10に対して本発明の動力分配装置11,80,90を組み込むようにしているが、自動変速機や無段変速機に対して本発明の動力分配装置11,80,90を組み込むようにしても良い。
【0049】
また、図示する場合には、カム機構48,86,96を介してエンジン動力を前輪14fに伝達する一方、クラッチ機構50,87,97を介してエンジン動力を後輪14rに伝達するようにしているが、これに限られることはなく、カム機構48,86,96を介してエンジン動力を後輪14rに伝達する一方、クラッチ機構50,87,97を介してエンジン動力を前輪14fに伝達するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】手動変速機が搭載された車両を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態である動力分配装置が組み込まれた手動変速機を示すスケルトン図である。
【図3】手動変速機に組み込まれる動力分配装置とその近傍を示す断面図である。
【図4】(A)〜(C)は図3のa−a線に沿ってカム機構を概略的に示す断面図である。
【図5】(A)〜(C)は本発明の他の実施の形態である動力分配装置のカム機構を概略的に示す断面図である。
【図6】(A)〜(C)は本発明の他の実施の形態である動力分配装置のカム機構を概略的に示す断面図である。
【図7】(A)および(B)は本発明の他の実施の形態である動力分配装置のカム機構を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の他の実施の形態である動力分配装置とその近傍を示す断面図である。
【図9】本発明の他の実施の形態である動力分配装置とその近傍を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
11 動力分配装置
12 エンジン(駆動源)
14f 前輪(第1駆動輪)
14r 後輪(第2駆動輪)
32 中間軸(第2出力部材)
40 入力フランジ(入力部材)
41 入力側カム
41a ドライブ側カム面
41b コースト側カム面
45 出力フランジ(第1出力部材)
46 出力側カム
46a ドライブ側カム面
46b コースト側カム面
47 ボール部材(係合部材)
48 カム機構
50 クラッチ機構
51 駆動プレート
52 従動プレート
60 カム機構
61 入力フランジ(入力部材)
62 出力フランジ(第1出力部材)
61a,62a ドライブ側カム面
61b,62b コースト側カム面
65 カム機構
66 入力フランジ(入力部材)
67 出力フランジ(第1出力部材)
66a,67a ドライブ側カム面
70 カム機構
71 入力フランジ(入力部材)
72 出力フランジ(第1出力部材)
71a,72a ドライブ側カム面
71b,72b コースト側カム面
80 動力分配装置
81 入力フランジ(入力部材)
82 入力側カム
83 クラッチハブ(第1出力部材)
84 出力側カム
85 ローラ部材(係合部材)
86 カム機構
87 クラッチ機構
87a 駆動プレート
87b 従動プレート
89 アクチュエータ
90 動力分配装置
91 クラッチハブ(入力部材)
92 入力側カム
93 出力フランジ(第1出力部材)
94 出力側カム
95 ローラ部材(係合部材)
96 カム機構
97 クラッチ機構
97a 駆動プレート
97b 従動プレート
99 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に連結される入力部材と、第1駆動輪に連結される第1出力部材と、第2駆動輪に連結される第2出力部材とを備え、前記駆動源からの動力を前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とに分配する動力分配装置であって、
前記入力部材に設けられる入力側カムと、これに対向して前記第1出力部材に設けられる出力側カムとを備え、前記入力側カムと前記出力側カムとを噛み合わせて前記第1駆動輪に動力を伝達するカム機構と、
前記第2出力部材に設けられる従動プレートと、これに係合自在に対面する駆動プレートとを備え、前記カム機構の噛み合い反力によって前記駆動プレートと前記従動プレートとを押圧し、前記第2駆動輪に動力を伝達するクラッチ機構とを有することを特徴とする動力分配装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力分配装置において、前記カム機構の噛み合い反力による前記入力側カムと前記出力側カムとの相対移動により、前記駆動プレートと前記従動プレートとを押圧することを特徴とする動力分配装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の動力分配装置において、前記カム機構は前記入力側カムと前記出力側カムとの間に係合部材を備え、前記係合部材を介して前記入力側カムと前記出力側カムとを噛み合わせることを特徴とする動力分配装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の動力分配装置において、前記入力側カムと前記出力側カムとは、前記入力側カムから前記出力側カムに動力を伝達するドライブ側カム面と、前記出力側カムから前記入力側カムに動力を伝達するコースト側カム面とを備え、前記ドライブ側カム面の傾斜角度と前記コースト側カム面の傾斜角度とを相違させることを特徴とする動力分配装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の動力分配装置において、前記入力側カムと前記出力側カムとは、前記入力側カムから前記出力側カムに動力を伝達するドライブ側カム面と、前記出力側カムから前記入力側カムに動力を伝達するコースト側カム面とのいずれか一方を備えることを特徴とする動力分配装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の動力分配装置において、前記クラッチ機構は前記駆動プレートと前記従動プレートとを予圧する弾性部材を備えることを特徴とする動力分配装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の動力分配装置において、前記クラッチ機構は前記駆動プレートと前記従動プレートとを押圧するアクチュエータを備えることを特徴とする動力分配装置。
【請求項8】
請求項7記載の動力分配装置において、前記カム機構によるプレート押圧方向と前記アクチュエータによるプレート押圧方向とを一致させることを特徴とする動力分配装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−40339(P2007−40339A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223059(P2005−223059)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】