説明

化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法と、トランジスタ用エピタキシャルウェハ

【課題】基板面内のコンタクト抵抗を低く抑えることを可能とした化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法と、トランジスタ用エピタキシャルウェハを提供する。
【解決手段】基板1上に有機金属原料化学気相成長法で化合物半導体層を形成する気相エピタキシャル成長装置10によってn型不純物がドーピングされたn型コンタクト層を成長させる際に、原料ガスが供給される上流側に設けられた第1ヒータ16のヒータ温度を500℃以上とし、第1ヒータ16より下流側に設けられた他のヒータ17,18のヒータ温度を第1ヒータ16のヒータ温度よりも低く、かつ、350℃以上500℃以下に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族化合物半導体からなるエピタキシャルウェハの製造方法と、トランジスタ用エピタキシャルウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの通信端末機器は、音声テストやテキストデータだけでなく、大容量の多様な動画像情報を高速で送受信することが求められている。このため、これらの端末機器に使用される送受信パワー増幅器には、高速・高周波動作への対応や消費電力の低減などが要求されている。このような端末機器用の送受信パワー増幅器には、化合物半導体を用いて形成されるヘテロバイポーラトランジスタ(HBT)や高電子移動度トランジスタ(HEMT)が用いられている。
【0003】
この種のHEMT、例えばGaAsを中心とするIII−V族化合物半導体(特許文献1参照)を用いた高電子移動度トランジスタは、超高・高周波動作の観点から光通信システムの信号処理回路等の高速デジタル回路、携帯電話、又は無線LANなどの無線通信機器の送信/受信信号の切り替えや内蔵アンテナと外部アンテナの切り替えに使用されている。また、低雑音の観点からマイクロ波又はミリ波帯で使用される低雑音増幅器への使用も期待されている。
【0004】
このHEMTの基本構造は、図1に示すように、半絶縁性の基板1上に、電流リークを防止し、歪を緩衝するためのバッファ層2と、電子が走行する電子走行層(チャネル層)3と、電子を供給する電子供給層4と、ショットキー電極と接し、耐圧をとるためのショットキー層5とを順に積層して形成し、ショットキー層5の上に更に、電極となる金属との接触抵抗を小さくするためにn型のキャリアを高濃度にドープしたコンタクト層6を積層形成している。
【0005】
バッファ層2は、ノンドープのGaAsとAlGa(1−x)As(但し、0<x<1)層を交互に数nm〜数10nmの範囲で積層する。
【0006】
チャネル層3は、InGa(1−x)As(但し、0<x<1)層を積層する。但し、InGaAs層は、GaAsとの格子整合が不可能であるため、格子緩和が発生しない程度の組成と膜厚が用いられる。
【0007】
電子供給層4は、高濃度のn型AlGa(1−x)As(但し、0<x<1)を数10nm、もしくはSiプレナードープ層を積層する。
【0008】
ショットキー層5は、ノンドープ又は低濃度のn型AlGa(1−x)As(但し、0<x<1)を数10nm程度に積層する。
【0009】
コンタクト層6は、高濃度にSiをドーパントしたn型GaAs層を積層する。接触抵抗を下げるために、Te又はSeをドーパントしたn型のInGa(1−x)As(但し、0<x<1)層を用いることもある。
【0010】
この種の化合物半導体エピタキシャルウェハの製法にあっては、固体又は液状の有機金属原料をガス化して供給し、昇温した基板上で熱分解、化学反応させ、その昇温した基板上に薄膜結晶をエピタキシャル成長させる化学気相成長法(例えば、MOCVD法)、あるいは超真空中で結晶の構成元素をそれぞれ別々のルツボから蒸発させ、分子線の形で、昇温させた基板上に供給し、その昇温した基板上に薄膜結晶をエピタキシャル成長させる分子線エピタキシー法(MBE法)などにより製造されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−32928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
トランジスタ素子においては、コンタクト層のコンタクト抵抗を下げるためにTe又はSeをドーパントしたn型のInGa(1−x)As(但し、0<x<1)層を用いている。このとき、ウェハ面内のドーピング均一性が悪いため、ウェハ面内のコンタクト抵抗がばらついてしまう。また、コンタクト層中のn型ドーパントであるSe又はTe濃度を制御しても、コンタクト抵抗を低く抑えることはできない場合がある。
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決することができる化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法と、トランジスタ用エピタキシャルウェハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1]第1の発明は、基板を設置する成長室内に複数のヒータを設け、前記成長室内に原料ガスを供給して、前記基板上に化学気相成長法により化合物半導体層を形成するにあたり、前記化合物半導体層のうち、Te又はSeを含有するn型不純物がドーピングされたn型のInGaAsコンタクト層は、前記原料ガスが供給される上流側に設けられた第1ヒータのヒータ温度を500℃以上とし、前記第1ヒータより下流側に設けられた他のヒータのヒータ温度を前記第1ヒータのヒータ温度よりも低くし、かつ、基板温度を350℃以上500℃以下に調整して成長させることを特徴とする化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法にある。
【0015】
[2]第2の発明は、上記[1]記載の発明にあって、前記n型InGaAsコンタクト層の前記n型不純物濃度が1.0E19cm−3以上5.0E19cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E16cm−3以上3.0E18cm−3以下となるように成長させることを特徴とする。
【0016】
[3]第3の発明は、上記[1]又は[2]記載の発明にあって、前記n型InGaAsコンタクト層は、In組成比が0からxまで増加するInGaAsグレーデッド層上に、In組成比xが一定(0.3≦x≦0.6)のInGaAs層を形成し、グレーデッド層におけるn型不純物濃度が3.0E18cm−3以上7.0E18cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E17cm−3以上1.0E18cm−3以下であることを特徴としている。
【0017】
[4]第4の発明は、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の発明にあって、前記n型InGaAsコンタクト層の成長時における前記他のヒータは、前記基板の上方に設けられる第2ヒータと、前記第1及び第2ヒータより下流側に設けられる第3ヒータとからなり、前記第3ヒータは、前記第2ヒータよりもヒータ温度を高くすることを特徴としている。
【0018】
[5]第5の発明は、上記[4]記載の発明にあって、前記n型InGaAsコンタクト層の成長時における前記第1ヒータと前記第2ヒータとの温度差は、前記第2ヒータと前記第3ヒータとの温度差よりも大きくすることを特徴としている。
【0019】
[6]第6の発明は、基板と、前記基板上に設けられるトランジスタ機能層を含む化合物半導体層と、前記半導体層上に設けられるn型コンタクト層とを有し、前記n型コンタクト層は、n型不純物としてTe又はSeがドーピングされ、In組成比xが一定(0.3≦x≦0.6)のInGaAs層からなり、前記InGaAs層におけるn型不純物濃度が1.0E19cm−3以上5.0E19cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E16cm−3以上3.0E18cm−3以下であり、前記InGaAsコンタクト層の前記n型不純物濃度の面内バラツキが6.0%以下であり、前記InGaAs層は、Van der Pauw法によるホール測定を行った移動度が500cm/V・s以上1500cm/V・s以下であることを特徴とするトランジスタ用エピタキシャルウェハを提供する。
【0020】
[7]第7の発明は、上記[6]記載の発明にあって、前記n型コンタクト層は、In組成比が0からxまで増加するInGaAsグレーデッド層上に設けられ、前記グレーデッド層におけるn型不純物濃度が3.0E18cm−3以上7.0E18cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E17cm−3以上1.0E18cm−3以下であることを特徴としている。
【0021】
[8]第8の発明は、上記[6]又は[7]記載の発明にあって、前記化合物半導体層は、前記基板側に0.8μm以上1.5μm以下のバッファ層を有し、前記バッファ層のTe濃度又はSe濃度が2.0E15cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E16cm−3以上5.0E17cm−3以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
第1ヒータをコンタクト成長温度上限である500℃以上の高い温度で制御することで、p型不純物である炭素濃度を低減することができるようになり、n型コンタクト層のドーピング濃度が均一になり、基板面内のコンタクト抵抗のバラツキを小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の典型的な実施の形態であるHEMTの縦断面図である。
【図2】本発明の典型的な実施の形態である反応炉を横から見た構造図である。
【図3】ヒータ温度とコンタクト抵抗のバラツキの関係を示す図である。
【図4】従来の反応炉を横から見た構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(HEMTエピ層の構成)
この実施の形態に係る高電子移動度トランジスタ(HEMT)用の化合物半導体エピタキシャルウェハの基本構造にあっても、図1に示すように、従来と同様に、基板1上に薄膜結晶をエピタキシャル成長させる。このエピタキシャル層(以下、「エピ層」という。)は、半絶縁性の基板1上に、バッファ層2と、電子走行層(チャネル層)3と、電子供給層4と、ショットキー層5と、n型コンタクト層6とを順に積層して構成されている。
【0025】
図示例によれば、バッファ層2は、ノンドープのGaAsとAlGa(1−x)As(但し、0<x<1)層を交互に積層して構成されている。チャネル層3は、InGa(1−x)As(但し、0<x<1)層により構成されている。電子供給層4は、5.0E17cm−3以上1.0E19cm−3以下のn型AlGa(1−x)As(但し、0<x<1)、又はSiプレナードープ層により構成されている。ショットキー層5は、ノンドープもしくは1.0E17cm−3以下のn型AlGa(1−x)As(但し、0<x<1)により構成されている。n型コンタクト層6は、Te又はSeをドーパントしたn型のInGa(1−x)As(但し、0<x<1)層により構成されている。
【0026】
(MOCVD装置の構成)
この実施の形態に係る主要な構成は、原料ガスの供給側から排気側にわたって分割した複数のヒータを用い、n型コンタクト層6が成長する際に、原料ガスの供給側である上流側のヒータ温度をn型コンタクト層6の成長温度上限である所定温度以上に設定することで、n型コンタクト層6における抵抗の面内バラツキを小さく抑制することにある。
【0027】
図2を参照すると、図2には、原料ガスを炉内の成長室に導入して化合物半導体結晶を成長させるMOCVD装置10の一例が模式的に示されている。図示例では、このMOCVD装置10は、複数の基板1が図示しない均熱板を介してサセプタ11の開口部内にフェイスダウンで設けられた自転公転型に構成されている。
【0028】
成長室12の内部の中央上部には、図示しないアクチュエータにより回転自在に支持された回転軸13を介して円盤状のサセプタ11が取り付けられている。成長室12の中央下部には、原料ガスを図示しないガス供給源から成長室内部へ導入するガス配管14と、成長室12の内部の原料ガスを外部へ排気するガス排気管15とがそれぞれ設置されている。
【0029】
このサセプタ11の上側には、所定の間隔をもってサセプタ11を加熱するための第1〜第3ヒータ16,17,18が原料ガスを供給する上流側から下流側にわたって分割して配置されている。図示例によれば、第1及び第3ヒータ16,18は、基板1と対向しない部位に設置されており、一方の第2ヒータ17は、基板1と対向する部位に設置されている。
【0030】
原料ガスは、回転しているサセプタ11の中央下部にガス配管14を介して流れ、そのサセプタ11の中央下部から半径方向両側に向けて放射状に流れ、第1〜第3ヒータ16,17,18によって加熱分解され、基板1上にエピ層が成長する。サセプタ11の中央下部から半径方向両側に向けて放射状に流れる原料ガスは、ガス排気管15を介して外部へ排気される。
【0031】
原料ガスを供給する上流側においてヒータ温度を高くすることができれば、ヒータ配置位置は、図示例に限定されるものではないが、n型コンタクト層6の成長時において、第3ヒータ18を第2ヒータ17よりもヒータ温度を高く設定することが好適であり、第1ヒータ16と第2ヒータ17との温度差を第2ヒータ17と第3ヒータ18との温度差よりも大きく設定することが好適である。
【0032】
(HEMTエピ層の製造方法)
以上のように構成されたMOCVD装置10を用いて、所期の目的を達成するエピ層を効果的に得ることができる。
【0033】
この実施の形態では、上記ヒータ温度条件で、サセプタ11の中心下部から基板1までの領域を加熱する第1ヒータ16のヒータ温度をn型コンタクト層6の成長温度上限である500℃以上の高い温度に制御するとともに、第1ヒータ16より下流側に設けられた第2及び第3ヒータ17,18のヒータ温度を第1ヒータ16よりも低く制御しながら、基板1の温度を350℃以上500℃以下に制御することが肝要である。
【0034】
エピ層のうち、n型コンタクト層6の成長時においては、炉内の成長室12の第1ヒータ16のヒータ温度を500℃以上に制御し、原料ガスを加熱分解し、エピ層を形成するための基板温度が350℃以上500℃以下となるように他の第2及び第3ヒータ17,18のヒータ温度を制御し、Te又はSeの不純物濃度とともに、炭素濃度を制御する。
【0035】
n型コンタクト層6としては、InGaAsにより形成し、n型不純物としてTe又はSeをドーピングする。n型コンタクト層6におけるn型不純物濃度が1.0E19cm−3以上5.0E19cm−3以下であり、炭素濃度が1.0E16cm−3以上3.0E18cm−3以下となるように成長させる。
【0036】
n型コンタクト層6は、In組成比が0からxまで増加する図示しないInGaAsグレーデッド層上に、In組成比xが一定(0.3≦x≦0.6)のInGaAs層を形成し、グレーデッド層におけるn型不純物濃度が3.0E18cm−3以上7.0E18cm−3以下であり、炭素濃度が1.0E17cm−3以上1.0E18cm−3以下となるように成長させることも可能である。
【0037】
第1ヒータ16をコンタクト成長温度上限である500℃以上の高い温度に制御するとともに、基板温度を350℃以上500℃以下に制御することで、p型不純物である炭素濃度を低減することが可能となり、n型コンタクト層6のドーピング濃度が均一になり、基板面内のコンタクト抵抗のバラツキを小さく抑えることが可能となる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の更に具体的な実施の形態として、実施例及び比較例を挙げて、HEMTエピ層について説明する。
【0039】
実施例においては、上記MOCVD装置10を用い、第1〜第3ヒータ16,17,18のヒータ温度を独立して制御することで、基板1上にエピ層を成長させ、その特性を調べた。
【0040】
図2に示す反応炉の成長室12を加熱するヒータ温度は、300〜1200℃の範囲で制御した。HEMTの成長条件は、バッファ層、コンタクト層、グレーデッド層を除いて、その成長時における基板温度を650℃とした。成長室12内の圧力は10132Pa(76Torr)とし、希釈用ガスは水素を用いた。サセプタ11の回転数は10回転/分とし、基板1はGaAs基板を用いた。なお、「i−」は、エピ層が半絶縁性であることを表している。
【0041】
バッファ層2のi−GaAs層の成長には、原料としてGa(CHとAsHを用いた。Ga(CHの流量は10.5cm/分とした。一方のAsHの流量は315cm/分とした。
【0042】
バッファ層2のi−Al0.25GaAs層の成長には、原料としてGa(CH、Al(CH及びAsHを用いた。それらの流量は、それぞれ5.3cm/分、1.43cm/分、及び630cm/分とした。
【0043】
チャネル層3のi−In0.20GaAs層の成長には、原料としてGa(CH、In(CH及びAsHを用いた。それらの流量は、それぞれ5.3cm/分、2.09cm/分、及び500cm/分とした。
【0044】
電子供給層4及びショットキー層5のn−Al0.25GaAs層の成長には、i−Al0.25GaAsの成長に原料として使用したGa(CH、Al(CH及びAsHに加えて、Siを用いた。Siの流量は7.78×10−3cm/分とした。一方、Si以外の流量はi−Al0.25GaAs層の場合と同じである。
【0045】
コンタクト層6のn−InGaAs層の成長には、i−GaAsの成長に原料として使用したGa(CH、AsHに加えて、HSeを用いた。HSeの流量は1.47×10−4cm/分とした。
【0046】
グレーデッド層は、設計した組成比となるよう流量を適宜制御した。n型コンタクト層6であるInGaAs層では、i−InGaAs層の場合とドーパント量以外は同じである。
【0047】
n型コンタクト層6の成長における基板温度は350℃以上500℃以下となるように第1〜第3ヒータ16〜18の制御を行った。グレーデッド層の成長における基板温度ついても、n型コンタクト層6の成長時における基板温度と同じである。
【0048】
バッファ層2の成長においては、バッファ層成長時における基板温度が600℃以上700℃以下となるように第1ヒータ16の制御を行った。V族/III族は30以上150以下とした。バッファ層2に使用したAlGa(1−x)AsのAl組成x<0.3に関し、酸素濃度を2.0E16cm−3以下とした。
【0049】
バッファ層2に関しては、通常のGaAs層最適基板温度である580℃付近より高温に設定した。これは、成長室12内に残留するTe又はSeの混入を防止するとともに、p型ドーパントである炭素の取り込み量を制御するためである。つまり、不純物ドーパントは、基板温度が低い程、取り込まれ易いため、基板温度を高く設定する必要がある。炭素に関してはV族ガス流量により制御可能であるが、700℃を超える高温になると、有機金属原料から自然に混入される炭素不純物量の制御がし難くなる。
【0050】
酸素濃度に関しては、バッファ層2の高抵抗化として機能するが、ロット毎に酸素濃度が変わる場合は、素子特性に影響を与えることがある。有機金属原料から自然に取り込まれるため、成長室12内の制御が難しい。炭素に関しては、V族ガス流量により制御可能であるが、酸素に関しては制御が困難であるためSIMS分析の検出下限レベルまで下げる。これは、基板温度を高くすることにより対応が可能である。以上より、素子やデバイスに形成したときの特性のバラツキなどの問題の解消を図っている。
【0051】
有機金属原料としては、基板温度350℃付近でも、熱分解が可能であるTEI、TMI、TEGを使用した。Te又はSeをドーパントしたコンタクト層であるn型のInGa(1−x)As(但し、0<x<1)層のドーピング効率を上げるため、通常のGaAs層最適成長基板温度である580℃よりも200℃を超えて下げ、基板温度を350℃以下とした場合は、V族原料が熱分解を起こさないので適用できない。また、有機金属原料から多量の炭素不純物が発生し、InGa(1−x)As(但し、0<x<1)層に混入されるので、適用が困難である。一方、500℃以上に基板温度を上げると、Te又はSeのドーピング効率低下によるTe又はSeの原料供給量が増加するために使用困難となる。
【0052】
サセプタ11の中央下部から基板1までの領域を加熱している第1ヒータ16をコンタクト成長温度上限である500℃よりも高い温度で制御することにより、p型不純物である炭素濃度を低減するとともに、n型コンタクト層6のドーピング濃度を均一とし、コンタクト抵抗が均一なエピ層を形成する。
【0053】
この実施例に係るn型ドーパントにはSeを用い、下記の点にも注意しながら、第1〜第3ヒータ16〜18のヒータ温度を調整しつつ、基板温度を制御した。
【0054】
n型コンタクト層6のSe濃度が1.0E19cm−3以上5.0E19cm−3以下であり、炭素濃度が1.0E16cm−3以上3.0E18cm−3以下となるようにヒータ温度と基板温度とを所定の範囲内で制御した。
【0055】
具体的には、n型コンタクト層6は、グレーデッド層とは均一層からなる。In組成比が0からxまで増加するInGaAsグレーデッド層上に、In組成比xが一定(0.3≦x≦0.6)のInGaAs層を形成する。
【0056】
グレーデッド層におけるn型不純物濃度が3.0E18以上7.0E18以下であり、炭素濃度が1.0E17以上1.0E18以下となるように、ヒータ温度と基板温度を制御した。
【0057】
以上より、効果を確認するために、第1ヒータ16のヒータ温度を変化させ、基板面内のコンタクト抵抗のバラツキを調べた。
【0058】
n型コンタクト層6の成長において、第1ヒータ16のヒータ温度を500℃、550℃、600℃、650℃の4通りにヒータ温度を変化させた。このときの第2ヒータ17のヒータ温度は、400〜450℃、第3ヒータ18のヒータ温度は450〜500℃の範囲で制御し、基板温度が350〜500℃の範囲となるように制御した。基板温度は放射温度計により測定した。なお、第1ヒータ温度を500℃以上とし、基板温度を350〜500℃とするため、第1ヒータ16が基板1と対向しない位置に設けた。
【0059】
(実施例の評価結果)
この実施例に係る成長室12内の基板面内のコンタクト抵抗のバラツキを調べた。その結果を図3に示す。
【0060】
図3から明らかなように、第1ヒータ16のヒータ温度が500℃でコンタクト抵抗の面内バラツキが6.0%となった。ヒータ温度が500℃で好適な温度条件となり、第1ヒータ16のヒータ温度を500℃より上げると、コンタクト抵抗の面内バラツキが小さくなり、素子特性が更に改善されるということが理解できる。第1ヒータ16のヒータ温度を500℃以上に制御することにより、基板面内のコンタクト抵抗のバラツキが6.0%以下となるように小さく抑えることができるということが分かる。更に、ヒータ温度が550℃以上であれば、基板面内のコンタクト抵抗のバラツキを5.0%以下(5.0%、4.3%、4.1%)に抑えることができた。
【0061】
この実施例によれば、第1〜第3ヒータ16〜18のヒータ温度設定を制御し、基板温度を所定の範囲内に制御することで、n型コンタクト層6にオートドーピングされる炭素量が抑制される。p型として機能する炭素濃度を低減することで、抵抗の面内バラツキが小さくなったものと考えられる。
【0062】
この実施例によれば、n型コンタクト層6の表面粗さRaは、15nm以下に抑えられていた。これは、コンタクト層成長時の基板温度とIn組成により制御が可能であると考えられる。
【0063】
n型コンタクト層6の表面凹凸が高いと、表面が白濁する。その表面凹凸が高すぎる場合は、n型コンタクト層6上に蒸着する電極膜のひび割れ等を誘発したり、あるいはn型コンタクト層6より下層にあるエピ層にも、膜の劣化を及ぼしたりする場合があるため、上限を設ける必要がある。n型コンタクト層6の表面粗さRaが15nm以下であれば、プロセス工程においても、問題を発生することなく、歩留りの低下などを引起すこともない。
【0064】
n型コンタクト層6への炭素の取り込まれる量を制御することで、Te又はSeのドーピング量(原料供給量)が19乗台後半〜20乗台とすることなく、低コンタクト抵抗を実現できた。また、n型コンタクト層6の成長時に、過剰なTe又はSeドーピング原料を供給する必要がないので、これらのメモリー効果の低減が可能となる。
【0065】
この実施例によれば、炭素濃度の取り込み量を低減することができたので、Te又はSeを過剰にドーピングする必要がなくなり、結果的に、Te又はSeを用いた場合に問題となるメモリー効果の低減も達成できた。これにより、成長毎(ロット毎)にメンテナンスをする必要がなくなり、バッファ層2を600℃以上700℃以下の温度範囲でヒータ制御を行い、0.8μm以上1.5μm以下に膜厚を形成することで、メモリー効果によるバッファ層2に生じていたリーク電流などの問題を抑えることができた。このとき、バッファ層2に混入する酸素濃度のバラツキをなくすことで、素子特性のバラツキも低減できた。
【0066】
[比較例]
比較例においては、上記実施の形態に係るMOCVD装置、及び図4に示す従来の反応炉内で基板上にエピ層を成長させ、その特性を調べた。なお、図4において、上記MOCVD装置と実質的に同じ部材には同一の部材名と符号を付している。
【0067】
[比較例1]
比較例1としては、上記MOCVD装置10における第1ヒータ16のヒータ温度を300℃、350℃、400℃、450℃の4通りに設定し、第2及び第3ヒータ17,18のヒータ温度を450〜550℃の範囲に設定することで、基板温度が350℃以上500℃以下となるように制御した。その結果、基板面内のコンタクト抵抗のバラツキは、第1ヒータ16をヒータ最大温度である450℃に設定した場合でも、7.3%となり、上記実施例と比べて高かった。
【0068】
[比較例2]
比較例2としては、図4に示す従来の成長室12内で、ヒータ温度を400〜500℃に設定し、基板1上にエピ層の成長を行ったところ、基板1内のコンタクト抵抗のバラツキが9%を超えるものしか得られなかった。
【0069】
(実施例におけるHEMTエピ層の一構成例)
上記実施例のように製造することで得られたHEMT用のエピ層について、SIMS分析により不純物を測定した。その結果、次のようなHEMT用のウェハが得られた。
【0070】
基板1と、基板1上に設けられるトランジスタ機能層を含む化合物半導体層と、半導体層上に設けられるn型コンタクト層6とを有するHEMT用のウェハにおいて、
(1)n型コンタクト層6は、In組成比が0からxまで増加するInGaAsグレーデッド層上に、In組成比xが一定(0.3≦x≦0.6)のInGaAs層からなる。
(2)グレーデッド層におけるn型不純物濃度が3.0E18cm−3以上7.0E18cm−3以下であり、炭素濃度が1.0E17以上1.0E18以下であり、InGaAs層におけるn型不純物濃度が1.0E19cm−3以上5.0E19cm−3以下であり、炭素濃度が1.0E16cm−3以上3.0E18cm−3以下である。(3)InGaAsコンタクト層6のTe又はSeのn型不純物濃度の面内バラツキが6.0%以下であり、InGaAs層は、Van der Pauw法によるホール測定を行った移動度が、500cm/V・s以上1500cm/V・s以下である。
【0071】
この実施例では、上記製造方法により、n型コンタクト層6におけるTe又はSe濃度、炭素濃度を規定することで、上記移動度が達成できたものと考えられる。
【0072】
上記構成をHEMT素子に用いる場合は、化合物半導体層は、基板側に0.8μm以上1.5μm以下のバッファ層2を有し、バッファ層2のTe濃度又はSe濃度が2.0E15cm−3以下であり、炭素濃度が1.0E16cm−3以上5.0E17cm−3以下とする。
【0073】
n型コンタクト層6を用いた場合は、メモリー効果を低減することができるとともに、バッファ層2の管理によってリーク電流の発生を抑制できる。上記実施例より得られたHEMT素子用エピタキシャルウェハに、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極を形成し、素子の電気的特性等の確認を行ったところ、ウェハ面内のいずれにおいて得られた素子であっても、リーク電流、素子耐圧性やスイッチング特性等は、従来品に対して同等以上の電気的特性を有していることを確認した。
【0074】
[変形例]
以上の説明からも明らかなように、本発明の化合物半導体エピタキシャルウェハを上記実施の形態、及び実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態、及び実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。本発明にあっては、例えば次に示すような他の変形例も可能である。
【0075】
本出願人が先に提案した特開2006−261364号公報に記載されたHBT、同特開2006−228784号公報に記載されたBI−FET、及び同特開2009−81284号公報に記載されたBI−HEMTの各構造のコンタクト層成長においても、上記MOCVD装置を用い、第1ヒータの温度を500℃以上に制御することで、基板面内のコンタクト抵抗バラツキを6.0%以下に抑えることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 基板
2 バッファ層
3 電子走行層(チャネル層)
4 電子供給層
5 ショットキー層
6 コンタクト層
10 MOCVD装置
11 サセプタ
12 成長室
13 回転軸
14 ガス配管
15 ガス排気管
16 第1ヒータ
17 第2ヒータ
18 第3ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を設置する成長室内に複数のヒータを設け、前記成長室内に原料ガスを供給して、前記基板上に化学気相成長法により化合物半導体層を形成するにあたり、
前記化合物半導体層のうち、Te又はSeを含有するn型不純物がドーピングされたn型のInGaAsコンタクト層は、前記原料ガスが供給される上流側に設けられた第1ヒータのヒータ温度を500℃以上とし、前記第1ヒータより下流側に設けられた他のヒータのヒータ温度を前記第1ヒータのヒータ温度よりも低くし、かつ、基板温度を350℃以上500℃以下にして成長させることを特徴とする化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項2】
前記n型InGaAsコンタクト層の前記n型不純物濃度が1.0E19cm−3以上5.0E19cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E16cm−3以上3.0E18cm−3以下となるように成長させることを特徴とする請求項1記載の化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項3】
前記n型InGaAsコンタクト層は、In組成比が0からxまで増加するInGaAsグレーデッド層上に、In組成比xが一定(0.3≦x≦0.6)のInGaAs層を形成し、グレーデッド層におけるn型不純物濃度が3.0E18cm−3以上7.0E18cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E17cm−3以上1.0E18cm−3以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項4】
前記n型InGaAsコンタクト層の成長時における前記他のヒータは、前記基板の上方に設けられる第2ヒータと、前記第1及び第2ヒータより下流側に設けられる第3ヒータとからなり、
前記第3ヒータは、前記第2ヒータよりもヒータ温度を高くすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項5】
前記n型InGaAsコンタクト層の成長時における前記第1ヒータと前記第2ヒータとの温度差は、前記第2ヒータと前記第3ヒータとの温度差よりも大きくすることを特徴とする請求項4記載の化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項6】
基板と、前記基板上に設けられるトランジスタ機能層を含む化合物半導体層と、前記半導体層上に設けられるn型コンタクト層とを有し、
前記n型コンタクト層は、n型不純物としてTe又はSeがドーピングされ、In組成比xが一定(0.3≦x≦0.6)のInGaAs層からなり、前記InGaAs層におけるn型不純物濃度が1.0E19cm−3以上5.0E19cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E16cm−3以上3.0E18cm−3以下であり、
前記InGaAsコンタクト層の前記n型不純物濃度の面内バラツキが6.0%以下であり、前記InGaAs層は、Van der Pauw法によるホール測定を行った移動度が500cm/V・s以上1500cm/V・s以下であることを特徴とするトランジスタ用エピタキシャルウェハ。
【請求項7】
前記n型コンタクト層は、In組成比が0からxまで増加するInGaAsグレーデッド層上に設けられ、
前記グレーデッド層におけるn型不純物濃度が3.0E18cm−3以上7.0E18cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E17cm−3以上1.0E18cm−3以下であることを特徴とする請求項6記載のトランジスタ用エピタキシャルウェハ。
【請求項8】
前記化合物半導体層は、前記基板側に0.8μm以上1.5μm以下のバッファ層を有し、
前記バッファ層のTe濃度又はSe濃度が2.0E15cm−3以下であり、かつ、炭素濃度が1.0E16cm−3以上5.0E17cm−3以下であることを特徴とする請求項6又は7記載のトランジスタ用エピタキシャルウェハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−64643(P2012−64643A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205503(P2010−205503)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】