説明

半導体装置の製造方法及びスパッタリング装置

【課題】半導体基板にシリサイド形成用の金属膜を形成する時に、ゲート絶縁膜にダメージが加わることを抑制する。
【解決手段】このスパッタリング装置は、チャンバ101、ウェハステージ102、リングチャック104、金属ターゲット105、防着シールド107、マグネット108、コリメータ109、並びに直流電源110,120を備えている。直流電源110は、コリメータ109に負電圧のみを印加するために設けられている。コリメータ109に印加される負電圧は、金属ターゲット105に印加される電圧より低電圧、例えば−70V以上−50V以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲート電極を有する半導体基板にシリサイド形成用の金属膜を成膜する工程を有する半導体装置の製造方法及びスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に形成されている多結晶シリコンからなるゲート電極は、低抵抗化およびトランジスタの寄生抵抗低減を図るために、表面がシリサイド化される。先端のトランジスタではシリコン基板上に形成されたソース・ドレイン領域とゲート電極上を同時にシリサイド化するのが普通で、その場合は特にサリサイドと呼ばれる。シリサイド化を行うためには、ゲート電極を有する半導体基板に金属膜を形成する必要がある。この金属膜の成膜には、スパッタリング装置が用いられる。
【0003】
スパッタリング装置には、例えば特許文献1及び特許文献2に記載するように、コリメータが用いられることがある。コリメータは、スパッタリング用のターゲットと半導体基板の間に配置される。コリメータは、特許文献1においてはゲート電極への電荷蓄積を減らすために用いられており、特許文献2においてはスパッタ粒子の流れを整流するために用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−263305号公報
【特許文献2】特開平08−213320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリサイドのための金属膜を半導体基板(半導体ウェハ)に形成する時、半導体基板ではゲート電極が露出している。このため、半導体基板に到達した荷電粒子(主に電子)はゲート電極(配線部分も含む)にチャージする。この電荷量がゲート絶縁膜の耐圧を超えるレベルになってゲート絶縁膜に電流が流れると、ゲート絶縁膜にダメージを与える。特に近年は半導体基板の微細化が進んでゲート絶縁膜の薄膜化が進んでおり、また、ゲート絶縁膜に対するゲート電極の面積比であるアンテナ比が大きくなる場合もある。このため、単にコリメータを配置するのみでは、金属膜を形成する時にゲート絶縁膜にダメージが加わることを十分に抑制できないこともある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、金属ターゲットに対向して配置されたウェハステージ上に、ゲート電極が形成された半導体基板を載置する工程と、
前記金属ターゲットと前記半導体基板の間の空間でプラズマを生成し、かつ前記金属ターゲットと前記ウェハステージの間に配置されたコリメータに負電圧のみを印加することにより、前記半導体基板にシリサイド形成用の金属膜を形成する工程と、
を備える半導体装置の製造方法が提供される。
【0007】
本発明によれば、コリメータには負電圧のみが印加される。このため、プラズマ内で生成した電子は、コリメータから反力を受けることになり、コリメータを通り抜けて基板に到達しにくくなる。またプラズマ内で生成した正イオンは、コリメータを通り抜けようとする時にコリメータに捕捉されやすくなる。従って、半導体基板に金属膜を成膜する時に半導体基板に到達する荷電粒子の量を減らすことができ、これにより、ゲート絶縁膜にダメージが加わることを抑制できる。
【0008】
本発明によれば、金属ターゲットと、
前記金属ターゲットに対向して配置され、ゲート電極が形成された半導体基板が載置されるウェハステージと、
前記金属ターゲットと前記ウェハステージの間に配置されたコリメータと、
前記コリメータに対して負電圧のみを印加する直流電圧印加部と、
を備え、
前記半導体基板上にシリサイド形成用の金属膜を形成するためのスパッタリング装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半導体基板にシリサイド形成用の金属膜を形成する時に、ゲート絶縁膜にダメージが加わることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るスパッタリング装置の構造を示す図である。
【図2】図1に示したスパッタリング装置を用いたシリサイドプロセスを説明するためのフローチャートである。
【図3】シリサイドプロセスを説明する断面図である。
【図4】シリサイドプロセスを説明する断面図である。
【図5】シリサイドプロセスを説明する断面図である。
【図6】シリサイドプロセスを説明する断面図である。
【図7】図1に示したスパッタリング装置における作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係るスパッタリング装置の構成を示す図である。このスパッタリング装置は、チャンバ101、ウェハステージ102、リングチャック104、金属ターゲット105、防着シールド107、マグネット108、コリメータ109、並びに直流電源110,120を備えている。ウェハステージ102、リングチャック104、金属ターゲット105、防着シールド107、及びコリメータ109は、チャンバ101の中に配置されている。このスパッタリング装置は、半導体基板103のゲート電極上にシリサイド形成用の金属膜を形成するために用いられる。金属ターゲット105は、例えばコバルトターゲットである。
【0013】
ウェハステージ102は、シリコンウェハなどの半導体基板103を載置するために設けられており、半導体基板103のデバイス形成面が金属ターゲット105に対向するように配置されている。半導体基板103は、リングチャック104によって周辺部が保持されている。半導体基板103には、予めゲート電極、サイドウォール、素子分離膜、並びにソース及びドレインとなる不純物領域が形成されている。ゲート電極は、例えば多結晶シリコンにより形成されている。本実施形態では、金属ターゲット105は直流電源120に接続されており、ウェハステージ102は接地されている。
【0014】
防着シールド107内の雰囲気を、例えばArなどの不活性ガスにしてその圧力を所定の圧力にした後、直流電源120から金属ターゲット105に負電圧が印加されることにより、金属ターゲット105とウェハステージ102の間の空間でプラズマ106が生成する。プラズマ106は例えばArプラズマである。そしてプラズマ106内で生成した正イオン、例えばArイオンが金属ターゲット105に衝突して金属粒子が半導体基板103に向けて飛ぶことにより、金属膜の成膜が半導体基板103に対して行われる。金属膜は、ウェハ全面に形成され、不純物領域上及びゲート電極上では後工程の熱処理により金属シリサイドとなる。金属ターゲット105には、例えば−500〜−1000Vの負電圧が印加される。またマグネット108は、プラズマ106の密度を高めるためにチャンバ101の外部に設けられている。
【0015】
直流電源110は、コリメータ109に負電圧のみを印加するために設けられている。コリメータ109に印加される負電圧は例えば直流電圧であり、例えば−70V以上−50V以下である。またコリメータ109の厚さは、5mm以上30mm以下であり、コリメータ109に形成された開口は、幅が5mm以上30mm以下である。なお開口のアスペクト比、すなわちコリメータ109の厚さに対する開口の幅の比は、例えば0.8以上2以下である。
【0016】
図2は、図1に示したスパッタリング装置を用いて半導体基板103にシリサイド層を形成する方法を示すフローチャートであり、図3〜図7は図2に示したフローを説明するための半導体基板103の断面図である。本図に示す例においてシリサイド層は、ゲート電極204の表層及びソース・ドレイン領域206の表層に同時に形成される。
【0017】
まずウェハステージ102上に半導体基板103を載置する(図2のステップS10)。半導体基板103は、少なくとも表層がシリコンにより形成されている。半導体基板103は、例えばシリコンウェハである。半導体基板103には、図3に示すように、予め素子分離膜202、ゲート絶縁膜203、ゲート電極204、サイドウォール205、ソース・ドレイン領域206、及びソース・ドレイン拡張領域207が形成されている。ゲート電極204は、少なくとも表層が多結晶シリコンにより形成されており、ソース・ドレイン領域206はシリコン層に形成されている。
【0018】
次いで、チャンバ101の防着シールド107内にArガスなどの不活性ガスを導入し、雰囲気を不活性ガス雰囲気にする(図2のステップS20)。次いで、直流電源120から金属ターゲット105に負電圧を印加させる。これにより、図1に示した金属ターゲット105と半導体基板103の間の空間でArプラズマが生成する。この時、直流電源110からコリメータ109に負電圧を印加させる。これにより、半導体基板103には金属膜208が成膜される(図2のステップS30及び図4)。金属膜208の厚さは、例えば10nm以上30nm以下である。
【0019】
この工程において、コリメータ109には負電圧が印加されている。このため、詳細を後述するように、半導体基板103に到達する荷電粒子の量が減る。このため、ゲート電極204を介してゲート絶縁膜203にプラズマダメージが加わることが抑制される。
【0020】
その後、半導体基板103を熱処理する。これにより、金属膜208とゲート電極204を形成する多結晶シリコンが反応し、ゲート電極204の表層にシリサイド層209aが形成される、また半導体基板103のうちソース・ドレイン領域206となっている部分と金属膜208も反応し、ソース・ドレイン領域206の表層にもシリサイド層209bが形成される(図2のステップS40及び図5)。
【0021】
その後、図6に示すように、未反応の金属膜を除去する。そして追加の熱処理を行い、シリサイド層209a,209bの組成を、低抵抗や熱安定性などの要件を満たすために必要な組成にする。なお追加の熱処理は、図5及び図2のステップS40に示した熱処理より高温の場合が多い。
【0022】
図7は、コリメータ109に負電圧を印加させることの作用を説明するための図である。プラズマ106内には、Arイオンなどの正イオンと電子が含まれている。プラズマ106内の正イオンは、金属ターゲット105に加わっている負電位に引き付けられて金属ターゲット105に衝突し、金属ターゲット105を構成している金属をスパッタリングする。スパッタリングされた金属の大部分は中性と考えられる。このため、スパッタリングされた金属は、コリメータ109付近での運動方向が図2における下方向であれば、コリメータ109の開口部分を通過し、コリメータ109付近での運動方向が図3における下方向から大きく傾いていれば、コリメータ109に付着する。
【0023】
一方、Arイオンなどの正イオンは、コリメータ109の開口を通過する方向に移動していると、コリメータ109に負電圧が印加されているため、コリメータ109に引き寄せられる。なお、コリメータ109の負電位が大きければ、コリメータ109がスパッタリングされるため、好ましくない。
【0024】
またプラズマ106中の電子の一部がプラズマ周辺に移動することも起こるが、コリメータ109に負電圧が加わっているため、コリメータ109に近づく電子との間で反発力が働き、コリメータ109の開口を通過する可能性は低くなる。
【0025】
以上、本実施形態によれば、コリメータ109に負電圧のみを印加しているため、半導体基板103にシリサイド形成用の金属膜を成膜する時に、半導体基板103に到達する荷電粒子の量を減らすことができる。従って、ゲート絶縁膜にダメージが加わることを抑制できる。
【0026】
なお、ゲート絶縁膜のプラズマダメージに対する耐性は、ゲート絶縁膜が4nm程度の場合に最も小さくなる。またゲート絶縁膜が100nm程度の場合も、それより厚い場合及び薄い場合と比較して小さくなる。本実施形態における効果は、ゲート絶縁膜が4nm程度又は100nm程度の場合に顕著になる。
【0027】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0028】
(実施例)
コリメータ109の厚さを20mmとして、コリメータ109の開口の幅を20mmとした。また、金属ターゲット105としてコバルトターゲットを用いた。金属ターゲット105と半導体基板103との間隔は100mmとした。ターゲット105に印加する電圧を−600Vとして、コリメータ109に印加する負電圧を変えて、プラズマ損傷耐性のないデバイス(ゲート絶縁膜厚4nm、アンテナ比300)への影響を評価した。
【0029】
コリメータ109に印加する電圧が−45Vより0Vに近い時では、トランジスタの耐圧劣化が顕著になった。一方、コリメータ109に印加する電圧が−80ボルトを越えるような条件下では、同一時間で半導体基板103上に成膜されるコバルト膜の膜厚の面内分布に変化が見られた。これは、コリメータ109に付着したコバルトがスパッタリングされだしているものと推測される。コバルト膜に面内分布が生じることは、半導体装置のバラツキを抑制するという観点から好ましくない。また、コリメータ109そのものがスパッタリングされてしまうと、金属膜に不純物が混入してしまう。このことから、コリメータ109に印加される負電圧は、−70V以上−50V以下であるのが好ましいと考えられる。
【符号の説明】
【0030】
101 チャンバ
102 ウェハステージ
103 半導体基板
104 リングチャック
105 金属ターゲット
106 プラズマ
107 防着シールド
108 マグネット
109 コリメータ
110 直流電源
120 直流電源
202 素子分離膜
203 ゲート絶縁膜
204 ゲート電極
205 サイドウォール
206 ソース・ドレイン領域
207 ソース・ドレイン拡張領域
208 金属膜
209a シリサイド層
209b シリサイド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ターゲットに対向して配置されたウェハステージ上に、ゲート電極が形成された半導体基板を載置する工程と、
前記金属ターゲットと前記半導体基板の間の空間でプラズマを生成し、かつ前記金属ターゲットと前記ウェハステージの間に配置されたコリメータに負電圧のみを印加することにより、半導体基板上にシリサイド形成用の金属膜を形成する工程と、
を備える半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記コリメータに印加される負電圧が−70V以上−50V以下である半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
前記コリメータの厚さは5mm以上30mm以下であり、
前記コリメータに形成された開口は、幅が5mm以上30mm以下である半導体装置の製造方法。
【請求項4】
金属ターゲットと、
前記金属ターゲットに対向して配置され、ゲート電極が形成された半導体基板が載置されるウェハステージと、
前記金属ターゲットと前記ウェハステージの間に配置されたコリメータと、
前記コリメータに対して負電圧のみを印加する直流電圧印加部と、
を備え、
前記半導体基板上にシリサイド形成用の金属膜を形成するためのスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−23649(P2011−23649A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168879(P2009−168879)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】