説明

単結晶薄膜を有する基板の製造方法

【課題】特別な基板を用いなくても結晶欠陥がほとんど無い単結晶薄膜を有する基板を容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも、ドナー基板とハンドル基板を準備する工程Aと、前記ドナー基板上に単結晶層を積層成長させる工程Bと、前記単結晶層が形成されたドナー基板の単結晶層中にイオン注入してイオン注入層を形成する工程Cと、前記イオン注入されたドナー基板の単結晶層の表面と前記ハンドル基板の表面を貼り合わせる工程Dと、前記貼り合わせられたドナー基板の前記単結晶層中のイオン注入層で剥離する工程Eとにより前記ハンドル基板上に単結晶薄膜を形成し、少なくとも、前記単結晶薄膜が形成されたハンドル基板をドナー基板として前記A〜Eの工程を繰り返すことを特徴とする単結晶薄膜を有する基板の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶欠陥が少ない単結晶薄膜を有する基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスター、レーザー、LED、高周波素子などの半導体デバイスに用いられるシリコン、SiC、GaN、AlN、酸化亜鉛、ダイヤモンドなどの単結晶薄膜や基板は、近年のデバイスの高集積化、高輝度化、高周波化などで、ますます重要度を増している。
【0003】
通常では単結晶薄膜は、格子定数の近い、例えばシリコン、サファイヤ、SiC等から選ばれる単結晶基板上に気相、液相エピタキシャルやスパッター、EB、MBE、昇華等のPVD法などで積層成長して製造されている。
一方、これらに用いられる基板は、一般的には種子結晶を用いてFZ法、CZ法、昇華法などでバルク結晶成長を行いスライス、研磨等の工程を経て作製される。
【0004】
しかしながら、このような従来技術で得られた単結晶薄膜や基板は、種子基板として用いられる単結晶基板にある転位欠陥を引き継いだり、格子定数や熱膨張係数のミスマッチによる結晶歪や積層欠陥、マイクロパイプ等の結晶欠陥を発生しやすい欠点を有する。なお、転位欠陥とは結晶中の原子の周期性の乱れのことを指すものである。
これらの結晶欠陥が多いと、デバイスの初期特性や長期信頼性に悪影響を与えるので、高性能、高信頼の半導体デバイスを作製するには、用いられる単結晶薄膜や基板の結晶欠陥をできるだけ少なくする必要がある。
【0005】
そこで従来は、結晶欠陥を少しでも減らすために、単結晶基板としてほぼ結晶欠陥ゼロの極めて高価なシリコン単結晶(Near Perfect Crystal)を使用したり、単結晶基板と積層成長させる単結晶薄膜の間に、格子定数や熱膨張係数が双方の中間的な値を持つ、例えばSiO、シリコン、GaN、AlGaN、InGaN、GaAsなどのバッファ層を何層も単結晶基板上に積んでから、目的の単結晶薄膜を積層していた(特許文献1参照)。
【0006】
しかし、これらの改善技術では、原料コストやプロセスコストが高くなり経済的に不利であったり、安全衛生や結晶欠陥の低減が不十分であり、実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−048076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、特別な基板を用いなくても結晶欠陥が少ない単結晶薄膜を有する基板を容易に製造することができ、また、その基板を種子基板として用いてエピタキシャル成長又はバルク結晶成長させることで、結晶欠陥が少ない単結晶層、単結晶膜及び単結晶を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、単結晶薄膜を有する基板の製造方法であって、少なくとも、ドナー基板とハンドル基板を準備する工程Aと、前記ドナー基板上に単結晶層を積層成長させる工程Bと、前記単結晶層が形成されたドナー基板の単結晶層中にイオン注入してイオン注入層を形成する工程Cと、前記イオン注入されたドナー基板の単結晶層の表面と前記ハンドル基板の表面を貼り合わせる工程Dと、前記貼り合わせられたドナー基板の前記単結晶層中のイオン注入層で剥離する工程Eとにより前記ハンドル基板上に単結晶薄膜を形成し、少なくとも、前記単結晶薄膜が形成されたハンドル基板をドナー基板として前記A〜Eの工程を繰り返すことを特徴とする単結晶薄膜を有する基板の製造方法を提供する。
【0010】
このように本発明の製造方法によれば、ドナーウェーハ上に形成された単結晶層の中でもドナーウェーハの表面の欠陥に影響されにくい上層部の、結晶欠陥の少ない部分がハンドルウェーハ上に単結晶薄膜として形成される。そしてさらに、そのハンドルウェーハを今度はドナーウェーハとして用いて、結晶欠陥の少ない単結晶薄膜上に単結晶層を積層成長させることで、形成された単結晶層は前の工程によって形成されたものよりもさらに結晶欠陥の少ない単結晶層となる。このような工程(A〜E)を繰り返すことで、ドナーウェーハ上に形成される単結晶薄膜は、結晶欠陥が減少していき最終的には均質で結晶欠陥数が著しく少ない単結晶薄膜を有する基板を得ることができる。
【0011】
また、本発明の製造方法によれば、結晶欠陥が少ない単結晶薄膜を有する基板を製造する際、特別高価な基板を用意する必要が無く、さらに特別な工程を行う必要が無いため、安価かつ容易に結晶欠陥が少ない単結晶薄膜を有する基板を製造することができる。
【0012】
また本発明は、単結晶層を有する基板の製造方法であって、少なくとも、本発明の単結晶薄膜を有する基板の製造方法により製造された基板の単結晶薄膜上に、単結晶層を積層成長させることを特徴とする単結晶層を有する基板の製造方法を提供する。
このように、本発明の製造方法によって製造された基板の単結晶薄膜は、結晶欠陥が極めて少ないため、その単結晶薄膜上に単結晶層を積層成長させれば、積層成長させる基板表面の影響で生じる欠陥等を防止することができ、結晶欠陥が少ない所望厚さを有する単結晶層とすることができる。
【0013】
また本発明は、自立する単結晶膜の製造方法であって、少なくとも、本発明の単結晶層を有する基板の製造方法によって製造された単結晶層を有する基板に、イオン注入して前記単結晶層にイオン注入層を形成し、該イオン注入層で剥離することによって自立する単結晶膜を得ることを特徴とする自立する単結晶膜の製造方法を提供する(請求項14)。
このように、本発明の製造方法によって製造された厚い単結晶層を有する基板の単結晶層の一部を、イオン注入法によって所定の厚さに剥離すれば、結晶欠陥がほとんどなく平坦度の高い自立する単結晶膜を製造することができる。
【0014】
また本発明は、単結晶の製造方法であって、少なくとも、本発明の製造方法によって製造された、単結晶薄膜を有する基板、単結晶層を有する基板、自立する単結晶膜のいずれかを、エピタキシャル用又はバルク結晶成長用の種子基板として用いることを特徴とする単結晶の製造方法を提供する。
本発明の製造方法により得られた単結晶薄膜を有する基板、単結晶層を有する基板及び自立する単結晶膜は、結晶欠陥が少なくほとんど無いものも得られるため、このような単結晶薄膜を有する基板、単結晶層を有する基板及び自立する単結晶膜を種子基板として用いれば、エピタキシャル成長又はバルク結晶成長の際に、種子基板表面の欠陥由来の結晶欠陥の発生がほとんどない。このため、結晶欠陥がほとんどないとともに、所望厚さを有する単結晶を成長させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の単結晶薄膜の製造方法によれば、結晶欠陥が比較的少ない単結晶層の上層部のみを、単結晶薄膜として基板上に形成することができ、その基板の単結晶薄膜上にさらに単結晶層を積層成長させることで、より結晶欠陥の少ない単結晶層とすることができる。このように、本発明の工程を繰り返すことで積層成長させる単結晶層の結晶欠陥を少なくしていき、最後には、極めて低欠陥とすることができ、特には結晶欠陥がほとんど無い単結晶薄膜を有する基板を製造することも可能である。また、このように得られた基板を種子基板として用いれば、エピタキシャル成長又はバルク結晶成長の際の結晶欠陥の発生をほとんど無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の単結晶薄膜を有する基板の製造の工程の一例を示すフロー図であり、工程(A):基板準備、工程(B):積層成長、工程(C):イオン注入(aaはイオン注入を示す)、工程(D):張り合わせ、工程(E):剥離を示す。
【図2】本発明の単結晶層を有する基板及び自立する単結晶膜の製造の工程の一例を示すフロー図であり、aaはイオン注入を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
単結晶薄膜や単結晶基板を作製する際に、種子基板として用いられた基板の転位欠陥を引き継いでしまい、作製された単結晶薄膜等に結晶欠陥が発生してしまうという問題があった。
【0018】
発明者らは、この問題について鋭意調査を行った結果、単結晶薄膜の作製時に結晶欠陥が単結晶基板に近い成長前半に積層された成長部に多く発生し、成長後半に積層される成長部には比較的少ないことを、実験事実より見出した。
【0019】
この事実から、ドナー基板上に単結晶層を積層成長させ、その単結晶層中にイオン注入層を形成することで、ハンドル基板と貼り合わせた後に単結晶層中の比較的結晶欠陥の少ない上層部(後半成長部)と下層部(前半成長部)を分けて剥離することができる。これにより、ハンドル基板上に結晶欠陥の少ない単結晶薄膜が形成され、その基板をさらにドナー基板として、上記工程を繰り返すことで単結晶薄膜の結晶欠陥が低減されていき、最後には結晶欠陥が極めて少ない単結晶薄膜を得ることもできることを見出し本発明を完成させた。
【0020】
以下、本発明の単結晶薄膜を有する基板、単結晶層を有する基板及び自立する単結晶膜の製造方法について、実施態様の一例として、図1、2を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
ここで、図1は本発明の単結晶薄膜を有する基板の製造の工程の一例を示すフロー図であり、工程(A):基板準備、工程(B):積層成長、工程(C):イオン注入(aaはイオン注入を示す)、工程(D):張り合わせ、工程(E):剥離を示す。図2は、本発明の製造方法により得られた単結晶薄膜を有する基板を用いて、単結晶層を有する基板及び自立する単結晶膜を製造する工程の一例を示すフロー図であり、aaはイオン注入を示す。
【0021】
まず、図1の工程(A)では、ドナー基板11とハンドル基板12を準備する。
このドナー基板11又はハンドル基板12の材質としては、シリコン、サファイヤ、SiC、GaN、AlN、酸化亜鉛のいずれかとすることができる。本発明では、作製する半導体デバイスの目的に応じてこれらの中から適宜選択することができる。
【0022】
また、積層成長させる単結晶の種類によっては、ドナー基板11およびハンドル基板12の少なくとも一方を、SiO、Si、GaN、AlGaN、InGaN、AlNのいずれか又はそれらを組み合わせたバッファ層を有している基板とすることが好ましい。積層成長させる単結晶層とドナー基板との中間に近い格子定数や熱膨張係数を有するものを上記から適宜選択してバッファ層とすれば、より良質な単結晶層を積層成長させることができる。このようなバッファ層を有する基板であれば、基板と単結晶層の材質が異なる場合でも、良質な単結晶層を得ることができるし、貼り合わせ、剥離の繰り返し回数を減少できる。バッファ層の厚さは、好ましくは0.01〜10μmである。
【0023】
また、このとき準備されるハンドル基板12を、表面粗さ(Ra)が0.5nm以下の非晶質基板、多結晶基板、単結晶基板のいずれかとすることが好ましい。このように、表面粗さ(Ra)が0.5nm以下の基板であれば、貼り合わせの際に貼り合わせ界面のボイド等を抑制し、より強固に貼り合わせることができる。また、準備されるハンドル基板は、単結晶層を気相成長させる訳ではないので、必ずしも単結晶である必要はなく、より安価な多結晶基板や非晶質のものを用いることもできる。所望の表面粗さ(Ra)は、例えば、エッチングやCMP研磨などをすることにより得られる。
【0024】
次に工程(B)では、ドナー基板11上に単結晶層13を積層成長させる。
このとき、積層成長をCVD(Chemical Vapor Deposition)法、PVD(Physical Vapor Depostion)法、液相エピタキシャル成長法のいずれかによって行うことができる。積層成長させる単結晶層の種類によってこれらの中から適宜選択することができる。本発明の製造方法の好ましい形態において、単結晶層を積層成長させる方法はこれらの中から適宜選択することができ、いずれの方法であっても積層成長させる単結晶層の結晶欠陥の低減を図ることができる。
【0025】
また、このとき積層成長させる単結晶層13を、シリコン、SiC、GaN、AlN、酸化亜鉛、ダイヤモンドのいずれかとすることができる。単結晶層の種類としては、作製する半導体デバイスの目的に応じて、これらの中から適宜選択でき、従来では結晶欠陥の発生しやすかった種類の単結晶層の場合でも、本発明によれば結晶欠陥を低減することができる。単結晶層の厚さは、成長界面での欠陥を低減する点から好ましくは、0.2〜200μmである。
【0026】
工程(C)では、ドナー基板11上に形成された単結晶層13中にイオン注入してイオン注入層14を形成する。
水素イオン又は希ガスイオンあるいはこれらの両方を単結晶層中13に注入し、イオンの平均進入深さにおいて表面に平行なイオン注入層(微小気泡層)14を形成させるもので、この注入温度は25℃〜450℃が好ましい。このとき、本発明では、イオン注入層14を形成する際に、単結晶層13の中に形成するようにするので、剥離後に結晶欠陥が比較的少ない上層部(後半成長部)が剥離後にハンドル基板に転写される単結晶薄膜となる。剥離後の薄膜の厚さが所望厚さ(例えば0.1〜100μm)となるようにイオン注入深さを調整する。本発明の製造方法の好ましい形態において、注入するイオンはこれらの中から適宜選択することができる。
【0027】
工程(D)では、イオン注入層が形成されたドナー基板11とハンドル基板12を貼り合わせる。
この貼り合わせ工程(D)の前に、予めドナー基板11の単結晶層13の表面とハンドル基板表面の少なくとも一方をプラズマ処理することが好ましい。プラズマ処理を行った基板の表面は、OH基が増加するなどして活性化し、貼り合わせの際にその基板を他方の基板と密着させれば、水素結合等によって、より強固に貼り合わせることができる。プラズマで処理をする場合、真空チャンバ中にRCA洗浄等の洗浄をした例えばハンドル基板12を載置し、プラズマ用ガスを導入した後、100W程度の高周波プラズマに5〜10秒程度さらし、表面をプラズマ処理する。プラズマ用ガスとしては、水素ガス、アルゴンガス、窒素ガス又はこれらの混合ガス等を用いることができる。
また、貼り合わせた後に貼り合わせた基板を加熱(例えば200〜450℃)することもでき、加熱によってより強固に貼り合わせることができる。プラズマ処理を行った場合には、比較的低温(例えば50〜200℃)の加熱であっても強固に貼り合わせることができる。
【0028】
さらに工程(D)の前に、ドナー基板11の単結晶層13の表面を平滑化することが好ましい。平滑な表面であれば、貼り合わせ界面のボイドの発生を低減し、強固に貼り合わせることができる。平滑化の方法としては、例えば研磨やアニール処理(例えばシリコンの場合は1100〜1300℃で1〜10時間)を施すことにより単結晶層表面を平滑にすることができる。
【0029】
次に、工程(E)では、イオン注入層14を境界として剥離することによって、単結晶薄膜15が形成されたハンドル基板12を得ることができる。剥離の方法としては、例えば不活性ガス雰囲気下約500℃以上の温度で熱処理を加えれば、結晶の再配列と気泡の凝集とによってイオン注入層で分離される。また、剥離の方法としては例えば、機械的な外力を加えることによって剥離することもできる。剥離のための機械的手段としては、特に限定されないが、例えば、ガスや液体等の流体をイオン注入層の側面から吹き付けるブロアーや、物理的な衝撃を与える衝撃装置が挙げられる。
このように、イオン注入法を用いて熱処理又は機械的手段によって剥離工程を行えば、剥離面が平坦な基板を得ることができる。
【0030】
このような工程(A)〜(E)で得られた基板12の単結晶薄膜15は、ドナー基板11上に形成された単結晶層13の上層部(後半成長部)がハンドル基板12上に転写されて形成されたものであるため、比較的結晶欠陥が少ない。本発明では、このように製造された結晶欠陥の少ない単結晶薄膜15を有するハンドル基板12を、次はドナー基板として用いて上記(A)〜(E)の工程を繰り返す。このように、結晶欠陥が低減された単結晶薄膜上に単結晶層を積層成長させることで、さらに結晶欠陥が低減された単結晶層を積層成長させることができ、このような工程を繰り返すことで、単結晶薄膜の結晶欠陥が極めて少なくなり、最後には実質的に結晶欠陥のほとんどない単結晶薄膜を有する基板を製造することも可能である。
【0031】
このとき、剥離させる工程(E)の後にハンドル基板12の単結晶薄膜15表面を平滑化することが好ましい。これにより、その後にドナー基板として用いる際に積層成長させる単結晶層の結晶欠陥をより効果的に低減することができる。ハンドル基板の単結晶薄膜表面を平滑化することで、その後にドナーウェーハとしてその単結晶薄膜表面に単結晶層を積層成長させる際に、平坦で、より結晶欠陥の少ない単結晶層を形成することができる。
【0032】
また、図2(f)〜(g)に示すように、本発明では図1(A)〜(E)の工程を繰り返すことによって得られた、所望の結晶欠陥密度の単結晶薄膜15を有する基板12上に単結晶層16を積層成長させることができる。本発明の製造方法により製造された結晶欠陥のほとんど無い単結晶薄膜上に単結晶層を積層成長させることで、転位欠陥のほとんどない良質な単結晶層を形成することができる。このとき、製造された単結晶層16を有する基板12をアニール処理(例えばシリコンの場合は1100〜1300℃で1〜10時間)することが好ましく、これにより単結晶層16表面を平滑にすることができ、更に単結晶層16を一層均質にして結晶欠陥を少なくすることができる。
【0033】
また、図2(g)〜(i)に示すように、本発明の製造方法により製造された単結晶薄膜15を有する基板12上に形成された単結晶層16は、十分な厚さを有するようにできるので、この単結晶層16中にイオン注入層14を形成し剥離することで、自立する単結晶膜17を製造することができる。得られる自立する単結晶膜17の厚さは、特に限定されないが、例えば1〜1000μmである。このように製造された自立する単結晶膜17は、ほとんど結晶欠陥が無く、平坦度が高いものとすることができる。また、この製造された自立する単結晶膜17をアニール処理(例えばシリコンの場合は1100〜1300℃)することで、単結晶膜表面を平滑にすることができ、更に一層均質にして結晶欠陥を少なくすることができる。
【0034】
さらに、本発明の製造方法によって製造された単結晶薄膜を有する基板、単結晶層を有する基板、自立する単結晶膜のいずれかをエピタキシャル用又はバルク結晶成長用の種子基板として用いることができる。
本発明の製造方法により得られた単結晶薄膜、単結晶層、自立する単結晶膜は、結晶欠陥がほとんど無いため、このような単結晶薄膜を有する基板、単結晶層を有する基板、自立する単結晶膜を種子基板として用いれば、エピタキシャル成長又はバルク結晶成長の際に、種子基板表面の欠陥由来の結晶欠陥がほとんど生じない。このため、結晶欠陥がほとんどない単結晶を成長させることができる。
【0035】
以上のように、本発明の単結晶薄膜の製造方法によれば、結晶欠陥が比較的少ない積層成長させた単結晶層の上層部のみを、単結晶薄膜として基板上に形成することができ、その基板にさらに単結晶層を積層成長させることで、より結晶欠陥の少ない単結晶層とすることができる。このような本発明の工程を繰り返すことで単結晶層の結晶欠陥を低減していき、最後には、極めて結晶欠陥が少ない単結晶薄膜を有する基板を製造することも可能である。また、このように得られた基板を種子基板として用いれば、結晶欠陥のほとんど無い単結晶層、単結晶膜、単結晶を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0037】
(実施例1)
図1のような工程により、ダイヤモンド薄膜を有する基板を製造した。
図1の工程(A)において、ドナー基板11及びハンドル基板12として、直径6インチ(150mm)厚さ625μmのシリコン単結晶基板を準備した。このとき、ハンドル基板12はAFMを用いて測定した表面粗さ(Ra)が0.3nmであるものを準備した。
図1の工程(B)において、ドナー基板11を2.45GHzのマイクロ波プラズマ装置中に設置し、2vol.%メタン濃度の水素ガスを流しながら、30Torr(4000Pa)、850℃の条件下でプラズマCVDを行い、ダイヤモンド層13を15μmの厚さに積層成長させた。
【0038】
図1の工程(C)において、ドナー基板11上の積層成長させたダイヤモンド層13にイオン注入機で水素をドース量5×1017/cmで500nmの深さにイオン注入し、イオン注入層14を形成した。
図1の工程(D)において、ドナー基板11とハンドル基板12を密着させ、赤外線ランプで250℃に加熱して強固に貼り合わせた。
図1の工程(E)において、貼り合わせた基板を600℃で熱処理をして水素イオン注入層から剥離し、500nmの厚さのダイヤモンド薄膜15を有するシリコン単結晶基板12を製造した。
【0039】
このようにして製造されたダイヤモンド薄膜15を有するシリコン単結晶基板12を、次はドナー基板として用いて、上記工程(A)〜(E)を3回繰り返すことで、断面TEM観察(100,000倍)で結晶欠陥が見出せなかったダイヤモンド薄膜を有する基板が得られた。
その後、図2の工程(f)〜(g)において、実施例1の工程(B)と同様な方法で、基板12のダイヤモンド薄膜15上にダイヤモンド層を16μmの厚さに積層成長させて、アニール処理(1200℃、3時間)を施した。このようにして得られたダイヤモンド層を有するシリコン基板は高耐圧パワートランジスタに好適な基板であった。
【0040】
(実施例2)
図1の工程(A)において、ドナー基板11として直径4インチ(100mm)厚さ400μmの合成石英基板を準備し、その基板上に反応スパッタ―で1μmの厚さのAlNバッファ層を積層した。ハンドル基板12として、直径4インチ(100mm)のサファイヤ基板を準備した。このとき、ハンドル基板12はAFMを用いて測定した表面粗さ(Ra)が0.38nmであるものを準備した。
図1の工程(B)において、ドナー基板11のバッファ層表面にアンモニアと塩化ガリウムを水素をキャリアガスとして、1050℃、常圧下でHVPE(ハイドライド気相エピタキシャル)法により、GaN単結晶層13を8μmの厚さに積層成長させた。
【0041】
図1の工程(C)において、ドナー基板11上の積層成長させたGaN単結晶層13にイオン注入機で水素をドース量9×1016/cmで800nmの深さにイオン注入し、イオン注入層14を形成した。
図1の工程(D)において、予めドナー基板11のGaN単結晶層13表面とハンドル基板12表面をプラズマ用ガス(Ar/N)を用いてプラズマ処理して、その後密着させ、電熱ヒーターで180℃に加熱して強固に貼り合わせた。
【0042】
図1の工程(E)において、貼り合わせた基板をスパチュラと真空チャックを用いて水素イオン注入層で剥離し、800nmの厚さのGaN単結晶薄膜15を有するサファイヤ基板12を製造した。
このとき、剥離されたサファイヤ基板12(ハンドル基板)上のGaN単結晶薄膜15の転位密度は2×10/cmであり、合成石英基板11(ドナー基板)上のGaN単結晶薄膜の転位密度は8×10/cmであった。剥離前の単結晶層13の上層部であった単結晶薄膜15の転位密度は下層部であったものよりもはるかに少なかった。なお、転位密度は、結晶薄膜の面積1cmを貫く転位の数であり、TEM写真に基づき算出した。
【0043】
このようにして製造されたGaN単結晶薄膜15を有するサファイヤ基板12を次はドナー基板として用いて、上記の工程(A)〜(E)を4回繰り返すことで、実質的に転位密度がゼロのGaN単結晶薄膜を有する基板が得られた。
その後、図2の工程(f)〜(g)において、実施例2の工程(B)と同様な方法で、基板12のGaN単結晶薄膜15上にGaN単結晶層16を7μmの厚さに積層成長させて、転位密度がほぼゼロのGaN単結晶層16を有するサファイヤ基板12を得た。
【0044】
さらに、図2の工程(g)〜(i)において、製造したサファイヤ基板12のGaN単結晶層16に実施例2の工程(C)と同様に、ただし2000nmの深さにイオン注入しイオン注入層14を形成した。その後工程(E)と同様に、イオン注入層14で剥離してGaN単結晶のみの2000nmの厚さの自立する単結晶膜17を製造した。このようにして得られた自立する単結晶膜17は、結晶欠陥や反りが観察されず、青色レーザー用基板として最適なものであった。
【0045】
このようにして得られたGaNの2000nmの厚さの自立する単結晶膜17を種子基板として、6Nの金属ガリウム0.3gと5Nのナトリウムアジド10g及び5Nのアンモニア40gと一緒に高圧オートクレーブに仕込み、500℃で10日間結晶成長させた。その結果、結晶欠陥がほとんど無い約1mmのGaNバルク単結晶が成長した。このGaNバルク単結晶から切り出した基板でHEMT(High Electron Mobility Transister)を作製したところ高周波特性が極めて優れたものであった。
【0046】
以上のように、本発明の製造方法により、単結晶薄膜の結晶欠陥を確実に低減していき最後にはほとんど結晶欠陥がゼロの単結晶薄膜を得ることも可能である。また、このように得られた単結晶薄膜を有する基板は、エピタキシャル成長用又はバルク結晶成長用の種子基板として最適な基板であった。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0048】
11 ドナー基板
12 ハンドル基板
13、16…単結晶層
14 イオン注入層
15 単結晶薄膜
17 単結晶膜
aa イオン注入

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶薄膜を有する基板の製造方法であって、少なくとも、
ドナー基板とハンドル基板を準備する工程Aと、
前記ドナー基板上に単結晶層を積層成長させる工程Bと、
前記単結晶層が形成されたドナー基板の単結晶層中にイオン注入してイオン注入層を形成する工程Cと、
前記イオン注入されたドナー基板の単結晶層の表面と前記ハンドル基板の表面を貼り合わせる工程Dと、
前記貼り合わせられたドナー基板の前記単結晶層中のイオン注入層で剥離する工程Eとにより前記ハンドル基板上に単結晶薄膜を形成し、
少なくとも、前記単結晶薄膜が形成されたハンドル基板をドナー基板として前記A〜Eの工程を繰り返すことを特徴とする単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項2】
前記剥離する工程Eを、熱処理又は機械的手段によって前記イオン注入層で剥離することを特徴とする請求項1に記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項3】
前記イオン注入する工程Cを、水素イオン又は希ガスイオンあるいはこれらの両方を注入することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項4】
前記貼り合わせる工程Dの前に、前記ドナー基板の単結晶層表面を平滑化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項5】
前記剥離する工程Eの後に、前記ハンドル基板の単結晶薄膜表面を平滑化することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項6】
前記単結晶層を積層成長させる工程Bを、CVD法、PVD法、液相エピタキシャル成長法のいずれかによって行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項7】
前記ドナー基板又はハンドル基板の材質を、シリコン、サファイヤ、SiC、GaN、AlN、酸化亜鉛のいずれかとすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項8】
前記準備する工程Aのハンドル基板を、工程Dで貼り合せる表面の表面粗さ(Ra)が0.5nm以下であり、非晶質基板、多結晶基板、単結晶基板のいずれかとすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項9】
前記準備するドナー基板およびハンドル基板の少なくとも一方を、SiO、Si、GaN、AlGaN、InGaN、AlNのいずれか又はそれらを組み合わせた1以上のバッファ層を有している基板とすることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項10】
前記積層成長させる単結晶層を、シリコン、SiC、GaN、AlN、酸化亜鉛、ダイヤモンドのいずれかとすることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項11】
前記貼り合わせる工程Dの前に、前記ドナー基板の単結晶層表面及び前記ハンドル基板表面の少なくとも一方をプラズマ処理することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法。
【請求項12】
単結晶層を有する基板の製造方法であって、少なくとも、
請求項1〜11のいずれかに記載の単結晶薄膜を有する基板の製造方法により製造された基板の単結晶薄膜上に、単結晶層を積層成長させることを特徴とする単結晶層を有する基板の製造方法。
【請求項13】
前記単結晶層を積層成長された基板を、アニール処理することを特徴とする請求項12に記載の単結晶層を有する基板の製造方法。
【請求項14】
自立する単結晶膜の製造方法であって、少なくとも、
請求項12又は請求項13に記載の単結晶層を有する基板の製造方法によって製造された単結晶層を有する基板に、イオン注入して前記単結晶層にイオン注入層を形成し、該イオン注入層で剥離することによって自立する単結晶膜を得ることを特徴とする自立する単結晶膜の製造方法。
【請求項15】
前記剥離された単結晶膜を、アニール処理することを特徴とする請求項14に記載の自立する単結晶膜の製造方法。
【請求項16】
単結晶の製造方法であって、少なくとも、
請求項1〜15のいずれかに記載の製造方法によって製造された、単結晶薄膜を有する基板、単結晶層を有する基板、自立する単結晶膜のいずれかを、エピタキシャル用又はバルク結晶成長用の種子基板として用いることを特徴とする単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−231816(P2009−231816A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28783(P2009−28783)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】