説明

基板処理装置

【課題】基板の主面に対向部材を極めて微小な間隔を隔てて対向配置させて基板に処理を施すことができる基板処理装置を提供する。
【解決手段】遮断板4の対向面には、中央部吐出口12と多数個の周縁部吐出口19とが形成されている。遮断板保持体17は、ボールブッシュ機構23を介してアーム10に取り付けられている。そのため、遮断板保持体17および遮断板4は、アーム10に対して上下方向に変位可能に保持される。周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出によって、遮断板4に、鉛直上向きの離反方向力が作用し、遮断板4はアーム10に対して鉛直上向きに相対変位する。遮断板4は、この離反方向力と遮断板4等に働く重力とが釣り合う位置に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板などの基板に対して処理を施す基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、半導体ウエハや液晶表示パネル用ガラス基板等の基板の表面に薬液を供給する処理が行われる。この処理の後には、基板の表面に純水が供給されて、その純水で薬液を洗い流すためのリンス処理が行われる。また、リンス処理後の基板の表面には純水が付着しているので、基板が高速回転されて、その純水を振り切って乾燥させるための乾燥処理が行われる。
【0003】
リンス処理および乾燥処理時には、基板が水平面内で回転されつつ、その基板の表面(上面)に遮断板が近接して対向配置される。遮断板は、基板の表面に純水を供給するための純水ノズルと、基板の表面に向けて窒素ガスを供給するための窒素ガス供給路とを備えている。遮断板は、対向面を下に向けて、スピンチャックの上方に設けられたアームに取り付けられている。このアームは、ボールねじ機構やサーボモータなどの昇降駆動機構によって昇降されるようになっている。
【0004】
リンス処理時には、基板の上方に大きく退避していた遮断板が、昇降駆動機構によるアームの下降によって基板の上面に近づけられる。そして、純水ノズルから基板の表面に純水が供給されつつ、窒素ガス供給路を通る窒素ガスが基板に向けて供給され、遮断板と基板の表面上に形成される純水の液膜との間が窒素ガス雰囲気とされる。また、乾燥処理時には、基板を高速回転させつつ、その基板の表面に向けて窒素ガスが供給され、遮断板と基板の表面との間が窒素ガス雰囲気とされる。これにより、基板の乾燥性を向上させるとともに、基板にウォーターマークが発生することを抑制し、さらに、高速回転によって基板の周囲に振り切られた純水が跳ね返って再び基板表面に付着することを抑制している。
【特許文献1】特開平8−316190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対向部材と基板の主面との間隔は、できるだけ微小であることが望ましい。これにより、純水の跳ね返りや雰囲気が基板の主面と対向部材の対向面との間に進入することをより確実に防止することができる。
しかしながら、装置の組み立て精度や部品の加工精度の限界から、対向部材を昇降駆動機構によって昇降させることにより制御可能な間隔(対向部材と基板主面との間隔)には限界値(たとえば0.3mm)がある。
【0006】
そこで、この発明の目的は、基板の主面に対向部材をより近接配置させた状態で基板に処理を施すことができる基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、基板(W)を保持するための基板保持手段(2)と、前記基板保持手段に保持された基板の主面に対向する対向面(9)を有し、基板の周縁部に向けて気体を吐出するための周縁部吐出口(19)が前記対向面に形成された対向部材(4)と、前記対向部材を支持するための支持部材(10)と、前記基板保持手段に保持された基板の主面の法線方向に沿う相対変位が可能な状態で前記対向部材を前記支持部材に保持する保持機構(16;51)と、前記周縁部吐出口からの気体の吐出によって、前記基板保持手段に保持された基板の主面から離反する方向の力が前記対向部材に作用するように、前記対向部材に気体を供給する気体供給手段(32,33,34,35)とを含む、基板処理装置(1;100;200)である。
【0008】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
この発明によれば、対向面に形成された周縁部吐出口から、基板の主面の周縁部に向けて気体が吐出される。対向面が基板に近接すると、気体の吐出により、対向部材に基板の主面から離反する方向の力(離反方向力)が作用する。対向部材は、支持部材に基板の主面の法線方向に沿う相対変位が可能に保持されているので、周縁部吐出口からの気体の吐出による離反方向力を受けて、支持部材に対して基板の主面から離反する方向に相対変位しようとする。周縁部吐出口からの気体の吐出によって対向部材に作用する離反方向力は、対向面と基板の主面との間隔が狭くなればなるほど大きくなる。したがって、対向部材を基板の主面に接近する方向の力(接近方向力)が作用する状態とすると、この接近方向力と、前記周縁部吐出口からの気体の吐出による離反方向力とが釣り合う位置に対向部材が保持される。
【0009】
このため、周縁部吐出口から吐出される気体の流量を適当量に設定することにより、対向面と基板の主面と間に極めて微小間隔の隙間を設けることができる。この間隔は、支持部材、保持機構および対向部材などの部品加工精度や組み立て精度に依存せず、専ら、基板主面および対向面の位置関係ならびに周縁吐出口からの気体吐出流量により定まる。そのため、従来技術では実現できなかった微小な間隔を対向面と基板主面との間に確保することができる。これにより、対向面と基板の主面とを極めて微小な間隔を隔てて対向配置させて基板に処理を施すことができる。したがって、処理液および雰囲気が対向面と基板の主面との間に進入することをより確実に防止することができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記保持機構(16)は、前記基板保持手段に保持された基板の主面に対するあおり方向の変位が可能な状態で前記対向部材を前記支持部材に保持するものである、請求項1記載の基板処理装置である。
この発明によれば、対向部材は基板保持手段に保持された基板の主面に対するあおり方向に変位可能に支持部材に保持されている。周縁部吐出口から気体が吐出されると、基板周縁部の各部と対向部材との間隔に応じて離反方向力が、対向部材の各部に作用する。これにより、対向部材には、対向面が基板の主面と平行となる姿勢に促す力が作用することになる。したがって、対向部材は、基板の主面に対するあおり方向に変位し、対向面が基板の主面と平行となる姿勢に導かれる。これにより、対向部材の対向面と基板の主面との間に均一な隙間を確保することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記保持機構(16)は、前記支持部材と前記対向部材との間に介装された弾性体(27;41)を含む、請求項1または2記載の基板処理装置である。
この発明によれば、弾性体の変形によって、支持部材に対する対向部材の相対変位が許容される。そして、対向部材が支持部材に対して基板の主面から離反する方向に相対変位すると、弾性体が変形する。この弾性体の変形に伴う復元力が、接近方向力となって対向部材に作用するようになる。このようにして、弾性体の使用により、保持機構の構成を簡単にすることができる。
【0012】
弾性体としては、ゴムやばねを用いることができる。
請求項4記載の発明は、前記周縁部吐出口は、前記基板保持手段に保持された基板の周縁部に対向する位置に、基板の周縁部に沿って間隔を開けて複数個形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理装置である。
この発明によれば、複数の周縁部吐出口から吐出された気体は、基板の周縁部に供給される。この周縁部吐出口が基板の周縁部に沿って間隔を開けて複数個形成されているので、基板の周方向に関してほぼ均等な離反方向力を対向部材に作用させることができる。これにより、基板に近接して対向配置される対向部材を、基板の主面に平行に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態(第1の実施形態)に係る基板処置装置1の構成を示す図解的な断面図である。
基板処理装置1は、処理液(薬液やDIW(脱イオン化された純水)その他のリンス液)を用いて、基板の一例である半導体ウエハW(以下、単に「ウエハW」という。)の表面に、処理液による処理を施すための装置である。
【0014】
基板処理装置1は、ウエハWをほぼ水平に保持する基板保持手段としてのスピンチャック2と、スピンチャック2に保持されたウエハWの表面(上面)に薬液を供給するための薬液ノズル3と、スピンチャック2に保持されたウエハWの上面付近の雰囲気を制御するための遮断板(対向部材)4とを備えている。
スピンチャック2は、鉛直方向に沿って延びたスピン軸5と、スピン軸5の上端にほぼ水平に取り付けられたスピンベース6と、このスピンベース6の上面に立設された複数個の挟持部材7とを備えている。複数個の挟持部材7は、スピン軸5の回転軸線を中心とする円周上にほぼ等間隔で配置されており、ウエハWの端面を互いに異なる複数の位置で挟持することによって、そのウエハWをほぼ水平な姿勢で保持することができる。
【0015】
スピン軸5には、モータなどの駆動源を含むチャック回転駆動機構8が結合されている。複数個の挟持部材7によってウエハWを保持した状態で、チャック回転駆動機構8からスピン軸5に回転力を入力し、スピン軸5をその中心軸線まわりに回転させることにより、そのウエハWをスピンベース6とともにスピン軸5の中心軸線周りに回転させることができる。
【0016】
遮断板4は、ウエハWとほぼ同じ径またはそれ以上の径を有する円板状に形成されている。遮断板4は、スピンチャック2に保持されるウエハWに対向する平坦面である対向面9を下方に向けて配置されている。遮断板4は、略水平に延びるアーム(支持部材)10の先端部(遊端部)付近に取り付けられている。
図2は、遮断板4の対向面9を示す底面図である。
【0017】
遮断板4の対向面9には、その中心にリンス液ノズル11の先端が開口している。また、そのリンス液ノズル11の周囲を取り囲むように、円環状の中央部吐出口12が形成されている。そして、対向面9の周縁部には、ウエハWの周縁部に対向する位置に、多数個(図2では24個の場合を図示)の周縁部吐出口19がほぼ等間隔で配置されている。この多数個の周縁部吐出口19は、底面視で同径の円形形状を有している。
【0018】
図1に示すように、アーム10は、ウエハWの回転範囲外で、鉛直方向に延びて設けられたアーム支持軸13によって支持されている。アーム支持軸13の上端部は、アーム10の基端部に結合されている。アーム支持軸13には、サーボボータやボールねじ機構などで構成されるアーム昇降駆動機構14が結合されている。アーム昇降駆動機構14により、アーム支持軸13を昇降させて、このアーム支持軸13と一体的にアーム10を昇降させることができる。これにより、遮断板4を、スピンチャック2に保持されたウエハWの上面に近接した処理位置(図1で2点鎖線にて図示)とスピンチャック2の上方に大きく退避した退避位置(図1で実線にて図示)との間で昇降させることができる。このように、アーム昇降駆動機構14は、遮断板4をウエハWに接近/離反させるための接離駆動機構を構成している。
【0019】
アーム10は、ケーシング15を備えている。ケーシング15によって形成される内部空間には、遮断板4を保持しつつ回転させるための遮断板回転機構(保持機構)16が配置されている。遮断板回転機構16は、略円筒形状を有する遮断板保持体17と、この遮断板保持体17内に収容されたモータ18と、鉛直方向に延びて、モータ18により回転される回転軸20とを備えている。回転軸20の下端に遮断板4が取り付けられている。
【0020】
遮断板保持体17は、ケーシング15の下板15aの先端部(遊端部)に形成された開口25から下方に突出している。遮断板保持体17の上端部には、その下方の部分よりも大径な円筒状に形成されたフランジ21が形成されている。フランジ21には、その上下面を貫通する貫通孔22が形成されている。貫通孔22は、対向面9に垂直な直線を中心とする円筒形状を有し、フランジ21の円周方向に沿って等間隔に12個(図1では、2個のみ図示)設けられている。
【0021】
図3は、遮断板保持体17の貫通孔22の拡大断面図である。各貫通孔22内には、円筒形状のボールブッシュ機構23が内嵌されている。このボールブッシュ機構23は、その周面が遮断板保持体17に固定されている。一方、ケーシング15の下板15a上には、鉛直方向に延びる円柱状の支持棒24が、貫通孔22に対向する位置に立設されている。各ボールブッシュ機構23には、円柱状の支持棒24が鉛直方向に変位可能に内挿されている。そのため、遮断板保持体17および遮断板4は、アーム10に上下方向に相対変位可能に保持される。また、ボールブッシュ機構23と支持棒24とは、所定量のガタが存在する状態で係合している。そのため、遮断板保持体17および遮断板4は、水平面に対し傾斜姿勢をとることが可能になっている。
【0022】
そして、ボールブッシュ機構23の下面とケーシング15の下板15aの上面との間では、支持棒24に弾性体としてのコイルばね27が巻装されている。
コイルばね27は、遮断板保持体17、回転軸20、モータ18および遮断板4に働く重力によって圧縮された圧縮状態となっている。遮断板保持体17および遮断板4が、アーム10に対して相対的に上昇すると、コイルばね27が前記圧縮状態から伸張されて、それに伴って遮断板4および遮断板保持体17に作用するばね力が減少する。その結果、遮断板4および遮断板保持体17に作用する重力に対する抗力は、コイルばね27のばね力によって一部が与えられ、不活性ガスの吐出による反力によって残りの部分が与えられるようになる。
【0023】
回転軸20は、遮断板保持体17の上面と下面とを貫通する貫通孔26内に、この貫通孔26の内面と非接触状態で挿通されている。この回転軸20の回転軸線は、スピンチャック2のスピン軸5と共通の軸線である。
この回転軸20は中空に形成されていて、その内部には、リンス液を吐出するためのリンス液ノズル11が挿通されている。リンス液ノズル11は、遮断板4の中心部に開口している。リンス液ノズル11には、リンス液供給管30が接続されている。このリンス液供給管30には、リンス液バルブ31を介してリンス液供給源からのリンス液が供給されるようになっている。
【0024】
また、回転軸20の中空部の内壁面とリンス液ノズル11の外壁面との間には、窒素ガスなどの不活性ガスが供給される不活性ガス供給路32が形成されている。この不活性ガス供給路32は中央部吐出口12および周縁部吐出口19に連通している。不活性ガス供給路32には、不活性ガスバルブ33を介して、不活性ガス供給源からの不活性ガスが供給されるようになっている。
【0025】
なお、図1においては、中央部吐出口12および周縁部吐出口19がともに不活性ガス供給路32に連通することとしたが、中央部吐出口12および周縁部吐出口19がそれぞれ別の不活性ガス供給路に連通するように構成してもよい。すなわち、中央部吐出口12に連通する中央部用不活性ガス供給路と、周縁部吐出口19に連通する周縁部用不活性ガス供給路とを別々に設けてもよい。この場合、中央部用不活性ガス供給路に接続された不活性ガスバルブと、周縁部用不活性ガス供給路に接続された不活性ガスバルブとを別個に設け、不活性ガス供給源からの不活性ガスがそれぞれ個別に供給されるように制御される。このようにすれば、中央部吐出口12から供給される不活性ガスと周縁部吐出口19から供給される不活性ガスとをそれぞれ最適な条件(圧力や流量)で制御することができる。また、中央部吐出口12から供給される気体と周縁部吐出口19から供給される気体とを異なるものにすることができ、たとえば、中央部吐出口12からは不活性ガスが供給され、周縁部吐出口19からは清浄度の高いクリーンエアが供給されるように構成してもよい。
【0026】
モータ18は、回転軸20を取り囲む円環形状を有している。このモータ18のロータに回転軸20の周面の一部が固定されている。このモータ18の駆動により、回転軸20は回転される。
遮断板4には、各周縁部吐出口19に連通する略円柱状の供給路34が形成されている。各供給路34は、分岐供給管35を介して不活性ガス供給路32に接続されている。このため、不活性ガスバルブ33が開かれると、不活性ガス供給源からの不活性ガスが不活性ガス供給路32を通して中央部吐出口12に供給されるとともに、不活性ガス供給路32および供給路34を通して多数の周縁部吐出口19に供給される。この多数の周縁部吐出口19が同じ径の円形形状に形成されているため、各周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出流量は互いに等しくなる。
【0027】
基板処理装置1は、マイクロコンピュータを有する制御部40が備えられている。この制御部40には、チャック回転駆動機構8、アーム昇降駆動機構14、リンス液バルブ31および不活性ガスバルブ33などが制御対象として接続されている。
基板処理装置1では、図示しない搬送ロボットにより、ウエハWがスピンチャック2に受け渡されると、まず、ウエハWに対し、薬液を用いた薬液処理が施される。具体的には、図示しない搬送ロボットにより、ウエハWがスピンチャック2に受け渡された後、制御部40は、チャック回転駆動機構8を制御して、ウエハWを所定の回転速度で回転させる。この状態で、薬液ノズル3からウエハWの上面の中心に向けて薬液が供給される。ウエハWの上面に供給された薬液は、ウエハWの回転による遠心力によって、ウエハWの周縁部に向けて移動する。これにより、ウエハWの上面の全域に薬液がむらなく供給され、ウエハWの上面に薬液を用いた処理が施される。
【0028】
薬液処理後のウエハWには、リンス液を供給して薬液を洗い流すリンス処理、およびスピンチャック2を高速回転させてウエハW上の処理液を遠心力によって振り切る乾燥処理(スピンドライ)が施される。このリンス処理および乾燥処理は、遮断板4を、退避位置からスピンチャック2に保持されたウエハWの上面に近接する処理位置まで下降させて行われる。
【0029】
図4は、遮断板4を処理位置まで下降させる動作を示す模式的な断面図である。
制御部40は、図4(a)に示すように、アーム昇降駆動機構14を制御して、予め定める下降距離だけアーム10を下降させる。このときのアーム10の下降距離は、退避位置における遮断板4とウエハWの上面との間隔よりも微小距離だけ大きい値に設定されている。このアーム10の下降にともなって、遮断板4が下降される。また、制御部40は、不活性ガスバルブ33を開き、中央部吐出口12および周縁部吐出口19から不活性ガスを吐出する。このときの各吐出口12,19からの不活性ガスの吐出量は、遮断板4の対向面9とウエハWの上面との間隔Sが極微小値となるように予め設定されている。
【0030】
遮断板4がウエハWの上面に近接すると、周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出によって、遮断板4にはウエハWから離反する方向である鉛直上向きの力(離反方向力)が作用する。周縁部吐出口19がウエハW周縁部に沿って間隔を開けて複数個形成されているので、この離反方向力は、遮断板4の周方向にほぼ均等に作用する。そのため、遮断板4は、図4(b)に示すように、水平姿勢のままアーム10に対して鉛直上向きに相対変位する。遮断板4の相対変位によりコイルばね27が伸張し、遮断板4等に働く重力(遮断板4をウエハWに近づけようとする接近方向力)に対する抗力は、コイルばね27だけでなく周縁部吐出部19等からの不活性ガスの吐出による反力によっても与えられる状態となる。一方、遮断板4に鉛直上向きに作用する離反方向力は、対向面9とウエハWの上面との間隔Sが狭くなればなるほど大きくなる。これは、間隔Sが小さいほど、不活性ガスの吐出による反力が大きくなるからである。そして、遮断板4は、離反方向力と接近方向力とが釣り合う位置に保持される。周縁部吐出口19から吐出される不活性ガスは、対向面9とウエハWの上面と間に極微小な間隔Sを設けることができるような流量に設定されている。これにより、対向面9とウエハWの上面との間に、極微小な間隔S(たとえば、0.1mm程度)を確実に確保でき、このような極微小な間隔Sを隔てて対向面9とウエハWの上面とを対向配置させることができる。
【0031】
その後、制御部40は、モータ18を制御して、遮断板4をウエハWの回転方向と同方向に回転させる。このとき、図4(c)に示すように、遮断板4とウエハWの上面との間隔Sを微小に保ちつつ遮断板4は回転する。
その後、中央部吐出口12および周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出が継続されたまま、制御部40は、リンス液バルブ31を制御して、リンス液ノズル11からリンス液を吐出させる。ウエハWの上面に供給されたリンス液は、ウエハWの回転による遠心力を受けて、ウエハWの上面を中央から周縁に向けて流れる。これにより、ウエハWの上面の全域にリンス液が速やかに行き渡り、ウエハWの上面に付着している薬液がリンス液により洗い流されていく。このとき、中央部吐出口12から不活性ガスが供給されていることにより、ウエハW(ウエハWの上面を流れるリンス液による液膜)と遮断板4との間を不活性ガスの雰囲気に置換することができ、それらの間へのウエハWの周囲の雰囲気(リンス液が含まれる雰囲気)の進入を防止することができる。
【0032】
予め定めるリンス時間が終了すると、制御部40は、リンス液バルブ31を閉じて、リンス液ノズル11からのリンス液の供給を停止する。
その後は、ウエハWを乾燥させる乾燥処理が行われる。この乾燥処理では、中央部吐出口12および周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出が続けられたまま、スピンチャック2によるウエハWの回転速度がリンス処理時よりも上昇(たとえば、3000rpmまで上昇)される。これにより、ウエハWに付着しているリンス液がウエハWの高速回転による強い遠心力で振り切られ、ウエハWが乾燥される。このとき、中央部吐出口12からの不活性ガスの供給が続けられていることにより、ウエハWと遮断板4との間に不活性ガスが充満し、それらの間へのウエハWの周囲の雰囲気の進入を防止することができる。その後、予め定める乾燥時間が終了すると、制御部40は、チャック回転駆動機構8を制御して、スピンチャック2によるウエハWの回転を停止させる。また、制御部40は、アーム昇降駆動機構14を制御して、遮断板4を処理位置から退避位置まで上昇させる。また、制御部40は、遮断板4が処理位置から離れた後に、不活性ガスバルブ33を閉じて、中央部吐出口12および周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出を停止する。そして、図示しない搬送ロボットによって、処理済みのウエハWがスピンチャック2から搬出されていく。
【0033】
リンス処理中および乾燥処理の期間中には、遮断板4は、当該遮断板4等の自重と不活性ガス吐出による反力との釣り合い位置に保持される。これにより、ウエハWの上面と遮断板4の対向面9との間隔Sが微小値に保持される。間隔Sは、アーム昇降駆動機構14、アーム10および遮断板4等の部品加工精度や組み立て精度に依存することなく、不活性ガスの吐出による反力によって確保される。したがって、間隔Sが微小値である場合でも、ウエハWと遮断板4とが接触することはない。
【0034】
図5は、ウエハWがスピンチャック2に、上面が水平面に対して傾斜しつつ保持されている場合に、遮断板4を処理位置まで下降させる動作を説明するための模式的な断面図である。なお、この図5においては、スピンチャック2上においてウエハWが傾いて保持されている場合を例示しているが、スピンチャック2自身が傾いて設置されている場合や、遮断板4を保持するアーム10が傾いて設置されている場合もあり、このような場合にも本発明を適用することができる。
【0035】
制御部40は、アーム昇降駆動機構14を制御して、予め定める下降距離だけアーム10を下降させる(図5(a)参照)。このアーム10の下降にともない、遮断板4が下降される。また、制御部40は、不活性ガスバルブ33を開き、中央部吐出口12および周縁部吐出口19から不活性ガスを吐出する。
ボールブッシュ機構23と支持棒24とが所定量のガタが存在する状態で係合しているため、遮断板保持体17および遮断板4は、水平面に対し傾斜姿勢をとることが可能になっている。言い換えれば、遮断板4はスピンチャック2に保持されたウエハWの上面に対するあおり方向X1に変位可能にされている。
【0036】
遮断板4がウエハWの上面に近接すると、周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出によって、遮断板4に鉛直上向きの離反方向力が作用する。この離反方向力は不活性ガスの吐出によってウエハWから受ける反力であり、ウエハWと対向面9との距離が短いほど大きい。このため、遮断板4には対向面9がウエハWの上面と平行となる姿勢に促す力が作用する。その結果、図5(b)に示すように、遮断板4はウエハWの上面に対するあおり方向X1に変位して、その対向面9がウエハWの上面と平行となる姿勢に導かれる。
【0037】
以上により、この実施形態によれば、対向面9に形成された周縁部吐出口19から、ウエハWの上面の周縁部に向けて不活性ガスが吐出される。この不活性ガスの吐出によって、遮断板4に、鉛直上向きの離反方向力が作用する。遮断板4は、上下方向に相対変位が可能にアーム10に保持されているため、周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出による力を受けて、アーム10に対して鉛直上向きに相対変位し、遮断板4等に働く重力(接近方向力)と釣り合う。遮断板4に作用する鉛直上向きの離反方向力は、対向面9とウエハWの上面との間隔が狭くなればなるほど大きくなる。このため、対向面9とウエハWの上面と間に極めて微小な間隔Sを確保することができる。これにより、対向面9とウエハWの上面とを極微小な間隔Sを隔てて対向配置させた状態でウエハWに処理を施すことができる。したがって、処理液および雰囲気が遮断板4の対向面9とウエハWの上面との間に進入することをより確実に防止することができる。
【0038】
また、遮断板4はスピンチャック2に保持されたウエハWの上面に対するあおり方向X1に変位可能にアーム10に保持されている。周縁部吐出口19から不活性ガスが吐出され、そのときのウエハWから受ける反力が鉛直上向きの離反方向力として遮断板4に作用する。これにより、遮断板4の各部は、当該遮断板4等に働く重力と不活性ガスの吐出による反力(離反方向力)とが釣り合う位置に導かれる。こうして、遮断板4には、対向面9がウエハWの上面と平行となる姿勢に促す力が作用することになる。したがって、遮断板4がウエハWの上面に対するあおり方向X1に変位し、対向面9がウエハWの上面と平行となる姿勢に自律する。これにより、遮断板4の対向面9を、スピンチャック2に保持されたウエハWの上面に平行にすることができ、ウエハWの全域において、対向面9とウエハWの上面との間に均一な間隔Sを確保することができる。
【0039】
図6は、この発明の他の実施形態(第2の実施形態)に係る基板処理装置100の構成を示す図解的な断面図である。この図6において、前述の図1〜図5の実施形態(第1の実施形態)に示された各部に対応する部分には、図1〜図5の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
この第2の実施形態では、遮断板保持体17は、複数個の(たとえば12個(図6では2個のみ図示))のゴム部材(弾性体)41によって弾性的に支持されている。具体的には、複数のゴム部材41は、ケーシング15の上板15bから延出したL字状の取付けブラケット42の下面に、図示を省略するボルトによって止定されている。このゴム部材41の下面に、遮断板保持体17のフランジ21の上面が固定されている。ゴム部材41は、フランジ21の周縁部に沿って等間隔に配置されている。各ゴム部材41は、直方体形状を有しており、その材質は、たとえばフッ素ゴムである。
【0040】
ゴム部材41は鉛直方向および水平方向への伸縮が可能である。そのため、遮断板4は、アーム10に対する上下方向の相対変位が可能であり、また、あおり方向X1への変位が可能にされている。
図7は、この発明のさらに他の実施形態(第3の実施形態)に係る基板処理装置200の構成を示す図解的な断面図である。この図7において、前述の図1〜図5の実施形態(第1の実施形態)に示された各部に対応する部分には、図1〜図5の場合と同一の参照符号を付して示し、説明を省略する。
【0041】
図7の実施形態が、第1の実施形態と異なる点は、回転軸50をアーム10に対し上下方向に相対変位可能にさせていない点である。
遮断板4を保持しつつ回転させるための遮断板回転機構(保持機構)51は、鉛直方向に延びる円柱状の回転軸50と、回転軸50の周囲を取り囲む円筒52と、この円筒52に内嵌された円筒状のボールスプライン機構53とを備えている。円筒52は、ケーシング15の下板15aの先端部(遊端部)に形成された開口25から下方に突出している。
【0042】
回転軸50の周面には、円筒52の内周面に対向する位置に、その軸線方向に沿う溝54が周方向に間隔を開けて形成されている。回転軸50は、ボールスプライン機構53に内挿されており、この内挿状態で、溝54にボールスプライン機構53のボールが嵌合している。したがって、ボールスプライン機構53が回転軸50に対して上下方向に移動可能であり、円筒52および遮断板4は、回転軸50に上下方向に相対変位可能に保持されている。また、ボールスプライン機構53と回転軸50とは、所定量のガタが存在する状態で係合している。回転軸50の周面には、上端部に、プーリ55が相対回転不能に外嵌されている。回転軸50の下端部は、その下方の部分よりも大径な円筒状に形成されて、円筒52の回転軸50からの脱落を防止する抜け止め部56が設けられている。
【0043】
ケーシング15内にはモータ57が固定されている。このモータ57からは、出力軸58が鉛直下方に向けて延びていて、このモータ57の出力軸58にプーリ59が固定されている。プーリ59およびプーリ55の周面には、ベルト60が共通に巻回されている。これにより、モータ57が駆動されると、モータ57からの回転力が、プーリ59およびベルト60を介して、プーリ55に伝達される。その結果、回転軸50が回転し、回転軸50に取り付けられている遮断板4が回転する。
【0044】
この第3の実施形態によれば、遮断板4がウエハWの上面に近接すると、周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出によって、遮断板4に鉛直上向きの力が作用する。上下方向に相対変位が可能にアーム10に保持された遮断板4は、周縁部吐出口19からの不活性ガスの吐出による鉛直上方への反力である離反方向力を受けて、アーム10に対して鉛直上向きに相対変位する。すなわち、円筒52が抜け止め部56によって支持されていた状態から、この円筒52および遮断板4に働く重力(接近方向力)に対する抗力が前記離反方向力によって与えられる状態となる。これにより、遮断板4は、この双方の力が釣り合う位置に保持される。こうして、対向面9とウエハWの上面との間に極微小な間隔Sを確保した状態で、ウエハWに処理を施すことができる。
【0045】
以上、この発明の3つの実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。
前述の各実施形態では、遮断板4のウエハWへの近接時には、ウエハWを回転させるとして説明したが、非回転状態のウエハWに対して遮断板4を近接させる構成であってもよい。
【0046】
また、前述の各実施形態では、回転軸20,50を中心として回転する遮断板4を例にとって説明したが、遮断板4を非回転とする構成であってもよい。とくに、遮断板4とウエハWとの間隔Sを極めて狭くすることができるために、リンス処理時や乾燥処理時に遮断板4を回転させなくても、遮断板4とウエハWとの隙間への処理液および雰囲気の進入を防止することができる。
【0047】
また、第2の実施形態では、遮断板保持体17の上面にゴム部材41を配置し、このゴム部材41を介して遮断板保持体17を上方から支持する構成について説明したが、遮断板保持体17の下面にゴム部材41を配置し、遮断板保持体17を下方から支持する構成としてもよい。
また、第3の実施形態では、ボールスプライン機構53に代えて、ボールブッシュ機構を採用することもできる。
【0048】
また、遮断板4の対向面9に、周縁部吐出口19および中央部吐出口12以外の吐出口を設けてもよいし、中央部吐出口12を省略してもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の一実施形態(第1の実施形態)に係る基板処置装置の構成を示す図解的な断面図である。
【図2】遮断板の対向面を示す底面図である。
【図3】遮断板保持体の貫通孔の拡大断面図である。
【図4】遮断板を処理位置まで下降させる動作を示す模式的な断面図である。
【図5】ウエハがスピンチャックに、上面が水平面に対して傾斜しつつ保持されている場合の模式的な断面図である。
【図6】この発明の他の実施形態(第2の実施形態)に係る基板処理装置の構成を示す図解的な断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態(第3の実施形態)に係る基板処理装置の構成を示す図解的な断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1,100,200 基板処理装置
2 スピンチャック(基板保持手段)
4 遮断板(対向部材)
9 対向面
10 アーム(支持部材)
11 リンス液ノズル
12 中央部吐出口
16,51 遮断板回転機構(保持機構)
17 遮断板保持体
18 モータ
19 周縁部吐出口
20 回転軸
23 ボールブッシュ機構
24 支持棒
27 コイルばね(弾性体)
32 不活性ガス供給路(気体供給手段)
33 不活性ガスバルブ(気体供給手段)
34 供給路(気体供給手段)
35 分岐供給管(気体供給手段)
41 ゴム部材(弾性体)
S 間隔
X1 あおり方向
W ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持するための基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された基板の主面に対向する対向面を有し、基板の周縁部に向けて気体を吐出するための周縁部吐出口が前記対向面に形成された対向部材と、
前記対向部材を支持するための支持部材と、
前記基板保持手段に保持された基板の主面の法線方向に沿う相対変位が可能な状態で前記対向部材を前記支持部材に保持する保持機構と、
前記周縁部吐出口からの気体の吐出によって、前記基板保持手段に保持された基板の主面から離反する方向の力が前記対向部材に作用するように、前記対向部材に気体を供給する気体供給手段とを含む、基板処理装置。
【請求項2】
前記保持機構は、前記基板保持手段に保持された基板の主面に対するあおり方向の変位が可能な状態で前記対向部材を前記支持部材に保持するものである、請求項1記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記保持機構は、前記支持部材と前記対向部材との間に介装された弾性体を含む、請求項1または2記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記周縁部吐出口は、前記基板保持手段に保持された基板の周縁部に対向する位置に、基板の周縁部に沿って間隔を開けて複数個形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−164227(P2009−164227A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340130(P2007−340130)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】