説明

変速制御システムおよび車両

【課題】ドライバビリティを向上させることができる変速制御システムおよびそれを備えた車両を提供する。
【解決手段】変速制御システムは、シフトアップ操作装置、クラッチアクチュエータ、シフトアクチュエータおよびCPUを備える。CPUは、シフトアップ操作装置の操作レバーの移動が開始される時点t1において、クラッチアクチュエータを制御することによりクラッチの切断動作を開始する。また、操作レバーの移動が終了される時点t2において、クラッチアクチュエータを制御することによりクラッチの切断動作を完了する。その後、CPUは、シフトアクチュエータを制御することにより変速機のギアポジションをシフトさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速制御システムおよびそれを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変速機の変速比を自動的に変更することができる自動または半自動の変速制御システムが開発されている。このような変速制御システムにおいては、一般に、予め設定された適切な速度で変速比が変更される。それにより、車両に変速ショックが発生することを防止することができる。
【0003】
ところで、上記のように予め設定された速度で変速比が変更される車両においては、運転者が迅速に変速を行いたいと考えている場合でも、変速機の変速比を迅速に変更することができない。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1記載の無段変速機の変速制御装置においては、自動変速モードと手動変速モードとが設けられている。そして、手動変速モードにおける変速比の変更速度が自動変速モードにおける変速比の変更速度よりも速く設定されている。したがって、この変速制御装置を備えた車両においては、運転者が手動変速モードにおいて変速レバーを操作することにより、変速機の迅速な変速動作が可能となる。
【特許文献1】特開平9−53712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の変速制御装置においては、手動変速モードにおいて運転者が変速レバーを操作した場合には、変速比が常に迅速に変更されてしまう。すなわち、運転者が迅速な変速動作を望んでいない場合でも、迅速な変速動作が実行されてしまう。それにより、車両のドライバビリティが低下する。
【0006】
本発明の目的は、ドライバビリティを向上させることができる変速制御システムおよびそれを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の発明に係る変速制御システムは、エンジン、クラッチおよび変速機を有する車両の変速制御システムであって、変速機のギアポジションをシフトさせるために運転者により操作されるシフト操作部と、クラッチを切断および接続するクラッチ作動機構と、変速機のギアポジションをシフトさせるシフト機構と、クラッチ作動機構およびシフト機構を制御する制御部とを備え、シフト操作部は、第1の位置と第2の位置との間で移動可能に設けられ、制御部は、シフト操作部が第1の位置から第2の位置側へ移動を開始した第1の時点においてクラッチ作動機構によりクラッチの切断動作を開始し、シフト操作部が第2の位置に到達した第2の時点においてクラッチ作動機構によりクラッチの切断動作を完了し、第2の時点後にシフト機構によりギアポジションをシフトさせるものである。
【0008】
この変速制御システムによれば、変速機がシフトチェンジされる場合に、シフト操作部の第1の位置からの移動が開始される第1の時点においてクラッチの切断動作が開始される。また、シフト操作部が第2の位置に到達する第2の時点においてクラッチの切断動作が完了される。そして、その第2の時点後に変速機のギアポジションがシフトされる。
【0009】
このように、この変速制御システムにおいては、シフト操作部が第1の位置から第2の位置へ移動する期間に、クラッチの切断動作が開始および完了される。したがって、運転者は、シフト操作部の操作速度(シフト操作部の第1の位置から第2の位置への移動時間)を調整することにより、クラッチの切断動作期間を調整することができる。それにより、変速機のシフトチェンジに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができる。その結果、車両のドライバビリティが向上する。
【0010】
(2)制御部は、シフト操作部の第1の位置からの距離の増加に従ってクラッチの伝達トルクの絶対値が低下するようにクラッチ作動機構によるクラッチの切断動作を制御してもよい。
【0011】
この場合、運転者は、シフト操作部の操作速度を調整することにより、クラッチの切断動作の進行速度を容易に調整することができる。それにより、車両のドライバビリティが十分に向上する。
【0012】
(3)制御部は、第1の位置と第2の位置との間の任意の位置に対応して変化する値として設定される第1の伝達トルク目標値に従ってクラッチの伝達トルクの絶対値が低下するようにクラッチ作動機構によりクラッチの切断動作を制御してもよい。
【0013】
この場合、運転者は、シフト操作部の操作速度を調整することにより、クラッチの切断動作の進行速度を容易に調整することができる。また、第1の位置と第2の位置との間の任意の位置に対応して変化する値として設定される第1の伝達トルク目標値に従ってクラッチの伝達トルクの絶対値を低下させることができるので、クラッチを円滑に切断することができる。それにより、変速機の円滑なシフトチェンジが可能になる。
【0014】
(4)制御部は、シフト操作部が第2の位置から第1の位置側へ移動を開始した第3の時点においてクラッチ作動機構によりクラッチの接続動作を開始し、シフト操作部が第1の位置に復帰した第4の時点においてクラッチ作動機構によるクラッチの接続動作を完了してもよい。
【0015】
この場合、シフト操作部が第2の位置から第1の位置へ移動する期間に、クラッチの接続動作が開始および完了される。したがって、運転者は、シフト操作部の操作速度(シフト操作部の第2の位置から第1の位置への移動時間)を調整することにより、クラッチの接続動作期間を調整することができる。それにより、変速機のシフトチェンジに要する時間を運転者の意図に応じて容易に調整することができる。その結果、車両のドライバビリティがさらに向上する。
【0016】
(5)制御部は、シフト操作部の第2の位置からの距離の増加に従ってクラッチの伝達トルクの絶対値が上昇するようにクラッチ作動機構によるクラッチの接続動作を制御してもよい。
【0017】
この場合、運転者は、シフト操作部の操作速度を調整することにより、クラッチの接続動作の進行速度を容易に調整することができる。それにより、車両のドライバビリティが十分に向上する。
【0018】
(6)制御部は、第2の位置と第1の位置との間の任意の位置に対応して変化する値として設定される第2の伝達トルク目標値に従ってクラッチの伝達トルクの絶対値が上昇するようにクラッチ作動機構によるクラッチの接続動作を制御してもよい。
【0019】
この場合、運転者は、シフト操作部の操作速度を調整することにより、クラッチの接続動作の進行速度を容易に調整することができる。また、第2の位置と第1の位置との間の任意の位置に対応して変化する値として設定される第2の伝達トルク目標値に従ってクラッチの伝達トルクの絶対値を低下させることができるので、クラッチを円滑に接続することができる。それにより、変速機の円滑なシフトチェンジが可能になる。
【0020】
(7)変速制御システムは、エンジンにおいて発生されるエンジントルクを調整するエンジントルク調整部をさらに備え、制御部は、第1の時点と第2の時点との間の期間においては、第1の位置と第2の位置との間の任意の位置に対応して変化する第1のエンジントルク目標値に従ってエンジントルク調整部によりエンジントルクを第1の値から第2の値に変化させ、第3の時点と第4の時点との間の期間においては、第2の位置と第1の位置との間の任意の位置に対応して変化する第2のエンジントルク目標値に従ってエンジントルク調整部によりエンジントルクを第2の値から第1の値に変化させてもよい。
【0021】
この変速制御システムによれば、シフト操作部が第1の位置から第2の位置へ移動する期間に、第1のエンジントルク目標値に従ってエンジントルクを第1の値から第2の値へ変化させることができる。また、シフト操作部が第2の位置から第1の位置へ移動する期間に、第2のエンジントルク目標値に従ってエンジントルクを第1の値に復帰させることができる。
【0022】
このように、この変速制御システムにおいては、クラッチの切断動作に並行してエンジントルクを適切な値に調整することができる。それにより、変速機のシフトチェンジをさらに円滑に行うことができる。
【0023】
(8)変速制御システムは、シフト操作部の第1の位置と第2の位置との間における位置を検出する第1の検出器をさらに備え、制御部は、第1の検出器により検出される位置に基づいてクラッチ作動機構を制御してもよい。
【0024】
この変速制御システムによれば、第1の検出器によって検出されるシフト操作部の位置に基づいてクラッチ作動機構を制御することができるので、運転者の意図が十分に反映されたクラッチの動作が可能になる。それにより、車両のドライバビリティがさらに向上する。
【0025】
(9)変速制御システムは、シフト操作部の第1の位置と第2の位置との間における第3および第4の位置を検出する第2の検出器と、第2の検出器により第3の位置が検出される第5の時点および第2の検出器により第4の位置が検出される第6の時点を測定する測定器とをさらに備え、制御部は、第2の検出器により検出される第3および第4の位置と測定器により検出される第5および第6の時点に基づいてシフト操作部の位置を算出し、その算出される位置に基づいてクラッチ作動機構を制御してもよい。
【0026】
この変速制御システムによれば、第2の検出器、第3の検出器および測定器の検出結果から算出されるシフト操作部の位置に基づいてクラッチ作動機構を制御することができるので、運転者の意図が十分に反映されたクラッチの動作が可能になる。それにより、車両のドライバビリティがさらに向上する。
【0027】
また、この変速制御システムにおいては、第2の検出器は第3および第4の位置においてシフト操作部を検出すればよく、第3の検出器は第5および第6の位置においてシフト操作部を検出すればよい。したがって、安価な検出器を第2および第3の検出器として用いることができる。その結果、変速制御システムの低コスト化が可能になる。
【0028】
(10)第2の発明に係る車両は、駆動輪と、エンジンと、エンジンにより発生されるトルクを駆動輪に伝達する変速機と、エンジンと変速機との間に設けられるクラッチと、第1の発明に係る変速制御システムとを備えたものである。
【0029】
この車両においては、エンジンにより発生されたトルクがクラッチおよび変速機を介して駆動輪に伝達される。
【0030】
ここで、この車両には、第1の発明に係る変速制御システムが設けられている。したがって、変速機がシフトチェンジされる場合に、シフト操作部の第1の位置からの移動が開始される第1の時点においてクラッチの切断動作が開始される。また、シフト操作部が第2の位置に到達する第2の時点においてクラッチの切断動作が完了される。そして、その第2の時点後に変速機のギアポジションがシフトされる。
【0031】
このように、この変速制御システムにおいては、シフト操作部が第1の位置から第2の位置へ移動する期間に、クラッチの切断動作が開始および完了される。したがって、運転者は、シフト操作部の操作速度(シフト操作部の第1の位置から第2の位置への移動時間)を調整することにより、クラッチの切断動作期間を調整することができる。それにより、変速機のシフトチェンジに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができる。その結果、車両のドライバビリティが向上する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、運転者は、シフト操作部の操作速度(シフト操作部の第1の位置から第2の位置への移動時間)を調整することにより、クラッチの切断動作期間を調整することができる。それにより、変速機のシフトチェンジに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができる。その結果、車両のドライバビリティが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の一実施の形態に係る変速制御システムを備える車両について図面を用いて説明する。なお、以下においては、車両の一例として自動二輪車について説明する。
【0034】
<第1の実施の形態>
(1)自動二輪車の概略構成
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車を示す概略側面図である。
【0035】
図1の自動二輪車100においては、本体フレーム101の前端にヘッドパイプ102が設けられる。ヘッドパイプ102にフロントフォーク103が回転可能に設けられる。フロントフォーク103の下端に前輪104が回転可能に支持される。ヘッドパイプ102の上端にはハンドル105が設けられる。
【0036】
ハンドル105には、アクセルグリップ106が設けられる。本体フレーム101の中央部には、エンジン107が設けられる。エンジン107の吸気ポートにはスロットルボディ108が取り付けられ、エンジン107の排気ポートには排気管109が取り付けられる。スロットルボディ108には、スロットルバルブ81が設けられる。
【0037】
エンジン107の下部には、クランクケース110が取り付けられる。クランクケース110内には、エンジン107のクランク2(図2参照)が収容される。
【0038】
本体フレーム101の下部には、ミッションケース111が設けられる。ミッションケース111内には、後述する変速機5(図2参照)およびシフト機構6(図2参照)が設けられる。
【0039】
なお、本実施の形態においては、変速機5のギアポジションを切り替える際に運転者によるクラッチ3(図2参照)の切断動作は不要である。すなわち、本実施の形態に係る自動二輪車100には、運転者のシフト操作に基づいて変速機5のギアポジションを自動的に切り替える半自動の変速制御システムが搭載されている。変速制御システムの詳細は後述する。
【0040】
エンジン107の上部には燃料タンク113が設けられ、燃料タンク113の後方にはシート114が設けられる。シート114の下部には、ECU50(Electronic Control Unit;電子制御ユニット)が設けられる。エンジン107の後方に延びるように、本体フレーム101にリアアーム115が接続される。リアアーム115は、後輪116および後輪ドリブンスプロケット117を回転可能に保持する。後輪ドリブンスプロケット117には、チェーン118が取り付けられる。
【0041】
(2)変速機およびシフト機構の構成
次に、図1のミッションケース111に設けられる変速機およびシフト機構について説明する。
【0042】
図2は、変速機およびシフト機構の構成を示す図である。
【0043】
図2に示すように、変速機5は、メイン軸5aおよびドライブ軸5bを備える。メイン軸5aには多段(例えば5段)の変速ギア5cが装着され、ドライブ軸5bには多段の変速ギア5dが装着される。
【0044】
メイン軸5aは、クラッチ3を介してエンジン107(図1)のクランク2に連結される。クラッチ3はプレッシャープレート3a、複数のクラッチディスク3bおよび複数のフリクションディスク3cを備える。クラッチディスク3bは、クランク2から伝達されるトルクにより回転する。また、フリクションディスク3cは、メイン軸5aに連結され、メイン軸5aを回転軸として回転する。
【0045】
フリクションディスク3cは、プレッシャープレート3aによりクラッチディスク3bに密着する方向に付勢されている。以下においては、複数のクラッチディスク3bと複数のフリクションディスク3cとが互いに密着している状態をクラッチ3の接続(係合)状態とし、複数のクラッチディスク3bと複数のフリクションディスク3cとが互いに離間している状態をクラッチ3の切断状態とする。クラッチ3の接続状態では、クランク2のトルクがクラッチディスク3bおよびフリクションディスク3cを介してメイン軸5aに伝達されるが、クラッチ3の切断状態では、クランク2のトルクがメイン軸5aに伝達されない。
【0046】
メイン軸5aには、プッシュロッド5eが挿入される。プッシュロッド5eの一端はプレッシャープレート3aに連結され、他端は電動式または油圧式のクラッチアクチュエータ4に連結される。
【0047】
本実施の形態においては、ECU50の制御によりクラッチアクチュエータ4が駆動された場合に、プッシュロッド5eがクラッチ3側に押し出される。それにより、プレッシャープレート3aが押され、クラッチディスク3bとフリクションディスク3cとが離間する。その結果、クラッチ3が切断状態になる。ECU50の制御動作の詳細は後述する。
【0048】
クラッチ3が接続状態である場合にクランク2からメイン軸5aに伝達されたトルクは、変速ギア5cおよび変速ギア5dを介してドライブ軸5bに伝達される。ドライブ軸5bには、図1のチェーン118が取り付けられる。ドライブ軸5bのトルクは、チェーン118および後輪ドリブンスプロケット117(図1)を介して後輪116(図1)に伝達される。それにより、自動二輪車100が走行する。
【0049】
メイン軸5aとドライブ軸5bとの減速比は、変速ギア5cと変速ギア5dとの組み合わせにより決定される。また、メイン軸5aとドライブ軸5bとの減速比は、複数の変速ギア5c,5dのうちのいずれかの変速ギア5c,5dが移動されることにより変更される。なお、本実施の形態においては、変速ギア5cおよび変速ギア5dはドグ機構により互いに連結される。
【0050】
変速ギア5c,5dは、シフト機構6により移動される。シフト機構6は、シフトカム6aを有する。シフトカム6aには、複数のカム溝6b(図2においては3本)が形成される。この各カム溝6bにシフトフォーク6cがそれぞれ装着される。シフトカム6aは、図示しないリンク機構を介して電動式または油圧式のシフトアクチュエータ7に接続される。
【0051】
本実施の形態においては、ECU50の制御によりシフトアクチュエータ7が駆動された場合に、シフトカム6aが回転される。それにより、各シフトフォーク6cが各カム溝6bに沿って移動する。その結果、いずれかの変速ギア5c,5dが移動され、変速機5のギアポジションが変更される。
【0052】
(3)変速制御システム
次に、自動二輪車100の変速制御システムについて説明する。
【0053】
図3は、本実施の形態に係る変速制御システムの構成を示すブロック図である。
【0054】
図3に示すように、本実施の形態に係る変速制御システム200は、アクセル開度センサSE1、スロットルセンサSE2、エンジン回転速度センサSE3、シフトカム回転角センサSE4、シフトアップセンサSE5、シフトダウンセンサSE6、ECU50、クラッチアクチュエータ4、シフトアクチュエータ7、スロットルアクチュエータ8、複数の燃料噴射装置9および複数の点火プラグ10を備える。
【0055】
アクセル開度センサSE1は、運転者によるアクセルグリップ106(図1)の操作量(以下、アクセル開度と称する。)を検出するとともに検出したアクセル開度をECU50に与える。スロットルセンサSE2は、スロットルバルブ81(図1)の開度(以下、スロットル開度と称する。)を検出するとともに検出したスロットル開度をECU50に与える。
【0056】
エンジン回転速度センサSE3は、エンジン107(図1)の回転速度を検出するとともに検出した回転速度をECU50に与える。なお、本実施の形態においては、エンジン回転速度センサSE3は、クランク2(図2)の角速度を検出することによりエンジン107の回転速度を検出する。
【0057】
シフトカム回転角センサSE4は、シフトカム6a(図2)の回転角度を検出するとともに検出した回転角度をECU50に与える。
【0058】
シフトアップセンサSE5およびシフトダウンセンサSE6は、例えば、ポテンショメータ、接触式の変位センサまたは無接触式の変位センサ等を含む。シフトアップセンサSE5は、例えば、ハンドル105(図1)に設けられるシフトアップ操作装置91(後述の図4参照)に設けられ、シフトダウンセンサSE6は、例えば、ハンドル105に設けられるシフトダウン操作装置92(後述の図4参照)に設けられる。
【0059】
図4は、シフトアップ操作装置およびシフトダウン操作装置の一例を示す上面図である。なお、図4においては、説明を簡便にするため、符号Aが付されている側を前方とし、符号Bが付されている側を後方とする。
【0060】
図4に示すように、シフトアップ操作装置91は、本体部911を有する。本体部911の中央部には、前後方向に延びるように開口912が形成されている。また、シフトアップ操作装置91は、操作レバー913を有する。操作レバー913は、開口912内において前後方向に移動可能に本体部911に設けられている。なお、操作レバー913は、図示しない付勢部材により後方側に付勢されている。したがって、運転者が操作レバー913を操作していない場合には、操作レバー913は、開口部912内において後端に位置する。
【0061】
本実施の形態においては、運転者は、変速機5のシフトアップを行う場合には、まず、操作レバー913を開口912内において前端まで移動させる。その後、操作レバー913を解放するか、あるいは後方に移動させる。シフトアップセンサSE5は、上記の操作レバー913の移動量を検出する。具体的には、シフトアップセンサSE5は、操作レバー913の規準位置(開口912の後端)からの距離に比例して電圧値が変化する信号を出力する。
【0062】
また、図4に示すように、シフトダウン操作装置92は、シフトアップ操作装置91と同様の構成の本体部921および操作レバー923を有する。なお、シフトダウン操作装置92においては、操作レバー923は、図示しない付勢部材により前方側に付勢されている。したがって、運転者が操作レバー923を操作していない場合には、操作レバー923は、開口922内において前端に位置する。
【0063】
本実施の形態においては、運転者は、変速機5のシフトダウンを行う場合には、まず、操作レバー923を開口922内において後端まで移動させる。その後、操作レバー923を解放するか、あるいは前方に移動させる。シフトダウンセンサSE6は、上記の操作レバー923の移動量を検出する。具体的には、シフトダウンセンサSE6は、操作レバー923の規準位置(開口922の前端)からの距離に比例して電圧値が変化する信号を出力する。
【0064】
図3に示すように、ECU50は、インターフェース回路51、CPU(中央演算処理装置)52、ROM(リードオンリメモリ)53およびRAM(ランダムアクセスメモリ)54を含む。
【0065】
上記のセンサSE1〜SE6の出力信号は、インターフェース回路51を介してCPU52に与えられる。CPU52は、後述するように、各センサSE1〜SE6の検出結果に基づいてエンジン107の出力を調整する。ROM53は、CPU52の制御プログラム等を記憶する。RAM54は、種々のデータを記憶するとともにCPU52の作業領域として機能する。
【0066】
シフトアクチュエータ7は、例えば、電動式または油圧式で構成され、CPU52の制御によりシフトカム6a(図2)を回転させる。スロットルアクチュエータ8は、例えば、電動式のモータを含み、CPU52の制御によりスロットルバルブ81の開度を調整する。燃料噴射装置9は、エンジン107の気筒ごとに設けられる。点火プラグ10は、エンジン107の各気筒に設けられる。
【0067】
(4)CPUの制御動作
以下、自動二輪車100の通常走行時および変速機5のシフトチェンジ時のCPU52の制御動作について説明する。
【0068】
(a)通常走行時の制御動作
自動二輪車100の通常の走行時には、CPU52は、アクセル開度センサSE1により検出されるアクセル開度に基づいてスロットルアクチュエータ8、燃料噴射装置9および点火プラグ10を制御する。それにより、スロット開度、燃料噴射量および混合気の点火時期が調整され、エンジン107の出力が調整される。なお、アクセル開度とスロットル開度との関係は、ECU50のROM53(またはRAM54)に予め記憶されている。
【0069】
また、CPU52は、スロットルセンサSE2により検出されるスロットル開度に基づいてスロットルアクチュエータ8のフィードバック制御を行う。それにより、スロットル開度をより適切に調整することができる。
【0070】
(b)シフトアップ制御
次に、変速機5のシフトアップ時のCPU52の制御動作について説明する。
【0071】
図5は、シフトアップ時のCPU52の制御動作を説明するための図である。図5において、(a)は、クラッチディスク3b(図2)の回転速度の経時変化およびフリクションディスク3c(図2)の回転速度の経時変化を示し、(b)は、自動二輪車100の加速度の経時変化を示し、(c)は、変速機5のギアポジションの経時変化を示し、(d)は、エンジン107において発生されるトルクの経時変化およびクラッチ3の伝達トルク(摩擦トルク)の経時変化を示し、(e)は、シフトアップセンサSE5の出力信号(以下、シフトアップ信号と称する。)の電圧値の経時変化を示す。
【0072】
なお、図5(a)において、実線はクラッチディスク3b(図2)の回転速度の経時変化を示し、点線はフリクションディスク3c(図3)の回転速度の経時変化を示す。また、図5(d)において、実線はエンジン107において発生されるトルク(以下、エンジントルクと称する。)の経時変化を示し、点線はクラッチ3の伝達トルク(以下、クラッチトルクと称する。)の経時変化を示す。
【0073】
エンジン107がクラッチ3のクラッチディスク3bを駆動している場合には、エンジントルクが正の値を示し、エンジン107がクラッチ3のクラッチディスク3bにより駆動されている場合には、エンジントルクは負の値を示す。
【0074】
また、クラッチ3のクラッチディスク3bからフリクションディスク3cにトルクが伝達されている場合には、クラッチトルクが正の値を示し、クラッチ3のフリクションディスク3cからフリクションディスク3cにトルクが伝達されている場合には、クラッチトルクは負の値を示す。
【0075】
また、上述したように、本実施の形態においては、シフトアップ信号の電圧値は、操作レバー913(図4)の移動量に比例して変化する。図5(e)においては、操作レバー913が規準位置に位置している場合のシフトアップ信号の電圧値を0とし、操作レバー913の規準位置からの移動量が最大になったときのシフトアップ信号の電圧値を1として定義している。
【0076】
以下、シフトアップ時のCPU52の制御動作について詳細に説明する。
【0077】
図5(d)および(e)に示すように、本実施の形態においては、時点t1において運転者が操作レバー913(図4)を前方に移動させることにより、クラッチトルクおよびエンジントルクが値aから0に向かって低下する。具体的には、エンジントルクおよびクラッチトルクは、シフトアップ信号の電圧値が1(最大)となる時点t2において0になるように、シフトアップ信号の電圧値の上昇に従ってそれぞれ所定の波形を描くように低下する。
【0078】
したがって、シフトアップ信号の電圧値が緩やかに上昇する場合、すなわち運転者が操作レバー913(図4)を緩やかに前方に移動させる場合には、クラッチトルクおよびエンジントルクは緩やかに低下する。
【0079】
また、シフトアップ信号の電圧値が速やかに上昇する場合、すなわち運転者が操作レバー913を速やかに前方に移動させる場合には、クラッチトルクおよびエンジントルクは速やかに低下する。
【0080】
なお、図5の例においては、クラッチトルクが0になる時点t2においてクラッチ3が完全に切断されている。また、図5(b)に示すように、時点t1−t2間においてクラッチトルクが低下することにより、自動二輪車100の加速度が低下する。
【0081】
ここで、本実施の形態においては、時点t1−t2間においてシフトアップ信号の電圧値の上昇に従ってクラッチトルクを低下させるために、例えば、電圧値とクラッチトルクの目標値との関係を示すマップがECU50のROM53(またはRAM54)に予め記憶される。
【0082】
図6は、時点t1−t2間において用いられるマップの一例を示す図である。図6に示すマップにおいては、任意の電圧値とクラッチトルクの目標値とが対応付けられている。したがって、図5の時点t1−t2間においてクラッチトルクを低下させる際には、CPU52は、シフトアップ信号の電圧値の経時変化に基づいて図6に示すマップからクラッチトルクの目標値の経時変化を算出することができる。
【0083】
そして、CPU52は、時点t1−t2間においてクラッチ3で発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。それにより、シフトアップ信号の電圧値の上昇に従って所定の波形を描くようにクラッチトルクを低下させることができる。
【0084】
また、本実施の形態においては、時点t1−t2間においてシフトアップ信号の電圧値の上昇に従ってエンジントルクを低下させるために、例えば、電圧値とエンジントルクの目標値との関係を示すマップがROM53(またはRAM54)に予め記憶される。
【0085】
図7は、時点t1−t2間において用いられるマップの一例を示す図である。図7に示すマップにおいては、任意の電圧値とエンジントルクの目標値とが対応付けられている。したがって、図5の時点t1−t2間においてエンジントルクを低下させる際には、CPU52は、シフトアップ信号の電圧値の経時変化に基づいて図7に示すマップからエンジントルクの目標値の経時変化を算出することができる。
【0086】
そして、CPU52は、時点t1−t2間においてエンジン107で発生されるエンジントルクがその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、各構成要素(例えば、スロットルアクチュエータ8、燃料噴射装置9および点火プラグ10)を制御する。それにより、シフトアップ信号の電圧値の上昇に従って所定の波形を描くようにエンジントルクを低下させることができる。
【0087】
なお、図6および図7のマップにおいて値aは変数であり、時点t1(図5)におけるクラッチトルクおよびエンジントルクの値が値aとなる。
【0088】
次に、図5(c)〜(e)に示すように、クラッチ3が切断される時点t2後に、変速機5のギアポジションが1段シフトアップされる。それにより、図5(a)に示すように、フリクションディスク3c(メイン軸5a(図2))の回転速度が低下する。
【0089】
次に、図5(d)および(e)に示すように、時点t3において運転者が操作レバー913(図4)を後方に移動させることにより、エンジントルクおよびクラッチトルクが0から値aに向かって上昇する。具体的には、エンジントルクおよびクラッチトルクは、シフトアップ信号の電圧値が0となる時点t4において値aに復帰するように、シフトアップ信号の電圧値の低下に従ってそれぞれ所定の波形を描くように上昇する。
【0090】
したがって、シフトアップ信号の電圧値が緩やかに低下する場合、すなわち運転者が操作レバー913(図4)を緩やかに後方に移動させる場合には、エンジントルクおよびクラッチトルクは緩やかに上昇する。
【0091】
また、シフトアップ信号の電圧値が速やかに低下する場合、すなわち運転者が操作レバー913を速やかに後方に移動させる場合には、エンジントルクおよびクラッチトルクは速やかに上昇する。
【0092】
なお、図5の例においては、クラッチトルクの上昇が開始される時点t3においてクラッチ3の接続が開始されている。すなわち、時点t3において、クラッチ3が半クラッチ状態になっている。それにより、図5(a)に示すように、クラッチディスク3bの回転速度がフリクションディスク3cの回転速度に徐々に近づくように低下する。
【0093】
ここで、本実施の形態においては、時点t3−t4間においてシフトアップ信号の電圧値の低下に従ってクラッチトルクを上昇させるために、例えば、電圧値とクラッチトルクの目標値との関係を示すマップがECU50のROM53(またはRAM54)に予め記憶される。
【0094】
図8は、時点t3−t4間において用いられるマップの一例を示す図である。図8に示すマップにおいては、任意の電圧値とクラッチトルクの目標値とが対応付けられている。したがって、図5の時点t3−t4間においてクラッチトルクを上昇させる際には、CPU52は、シフトアップ信号の電圧値の経時変化に基づいて図8に示すマップからクラッチトルクの目標値の経時変化を算出することができる。
【0095】
そして、CPU52は、時点t3−t4間においてクラッチ3で発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。それにより、シフトアップ信号の電圧値の低下に従って所定の波形を描くようにクラッチトルクを上昇させることができる。
【0096】
また、時点t3−t4間においてエンジントルクを上昇させる際には、CPU52は、例えば、シフトアップ信号の電圧値の経時変化に基づいて図7に示したマップからエンジントルクの目標値の経時変化を算出することができる。
【0097】
そして、CPU52は、時点t3−t4間においてエンジン107で発生されるエンジントルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、各構成要素(例えば、スロットルアクチュエータ8、燃料噴射装置9および点火プラグ10)を制御する。それにより、シフトアップ信号の電圧値の低下に従って所定の波形を描くようにエンジントルクを上昇させることができる。
【0098】
なお、図8のマップにおいて値aは変数であり、時点t1(図5)におけるクラッチトルクの値が値aとなる。
【0099】
また、図5の例においては、クラッチトルクがシフトアップ前の値aに復帰する時点t4においてクラッチ3が接続されている。したがって、図5(a)に示すように、時点t4においてクラッチディスク3bおよびフリクションディスク3cの回転速度が略一致する。これにより、変速機5のシフトアップ制御が終了する。
【0100】
以上のように、本実施の形態においては、シフトアップ信号の電圧値が1まで上昇された場合にクラッチ3が切断され、シフトアップ信号の電圧値が0まで低下された場合にクラッチ3が接続される。したがって、運転者は、シフトアップ操作装置91(図4)の操作レバー913(図4)の操作速度を調整することにより、クラッチ3の切断動作期間(図5の時点t1−t2間)、ギアポジションの切り替え期間(図5の時点t2−t3間)およびクラッチ3の接続動作期間(図5の時点t3−t4間)の長さを調整することができる。この場合、変速機5のシフトアップに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができるので、自動二輪車100のドライバビリティが向上する。
【0101】
また、本実施の形態においては、シフトアップ信号の電圧値の変化に従ってエンジントルクおよびクラッチトルクの値が変化する。したがって、運転者は、操作レバー913の操作速度を調整することにより、エンジントルクおよびクラッチトルクの低下速度および上昇速度を調整することができる。この場合、変速機5のシフトアップ時に、エンジントルクおよびクラッチトルクを運転者の意図に応じた速度で低下および上昇させることができる。それにより、自動二輪車100のドライバビリティがさらに向上する。
【0102】
(c)シフトダウン制御
次に、変速機5のシフトダウン時のCPU52の制御動作について説明する。
【0103】
図9は、シフトダウン時のCPU52の制御動作を説明するための図である。図9においては、(a)は、クラッチディスク3b(図2)の回転速度の経時変化およびフリクションディスク3c(図2)の回転速度の経時変化を示し、(b)は、自動二輪車100の加速度の経時変化を示し、(c)は、変速機5のギアポジションの経時変化を示し、(d)は、エンジントルクの経時変化およびクラッチトルクの経時変化を示し、(e)は、シフトダウンセンサSE6の出力信号(以下、シフトダウン信号と称する。)の電圧値の経時変化を示す。
【0104】
また、上述したように、本実施の形態においては、シフトダウン信号の電圧値は、操作レバー923(図4)の移動量に比例して変化する。図9(e)においては、操作レバー923が規準位置に位置している場合のシフトダウン信号の電圧値を0とし、操作レバー923の規準位置からの移動量が最大になったときのシフトダウン信号の電圧値を1として定義している。
【0105】
以下、シフトダウン時のCPU52の制御動作について詳細に説明する。
【0106】
図9(d)および(e)に示すように、本実施の形態においては、時点t11において運転者が操作レバー923(図4)を後方に移動させることにより、クラッチトルクおよびエンジントルクが負の値−bから上昇する。すなわち、クラッチトルクおよびエンジントルクの絶対値が低下する。
【0107】
具体的には、クラッチトルクは、シフトダウン信号の電圧値が1(最大)となる時点t12において0になるように、シフトダウン信号の電圧値の上昇に従って所定の波形を描くように上昇する。同様に、エンジントルクは、時点t12において0になるように、シフトダウン信号の電圧値の上昇に従って所定の波形を描くように上昇する。
【0108】
したがって、シフトダウン信号の電圧値が緩やかに上昇する場合、すなわち運転者が操作レバー923(図4)を緩やかに後方に移動させる場合には、クラッチトルクおよびエンジントルクの絶対値は緩やかに低下する。
【0109】
また、シフトダウン信号の電圧値が速やかに上昇する場合、すなわち運転者が操作レバー923を速やかに後方に移動させる場合には、クラッチトルクおよびエンジントルクの絶対値は速やかに低下する。
【0110】
なお、図9の例においては、クラッチトルクが0になる時点t12においてクラッチ3が完全に切断されている。それにより、図9(a)に示すように、クラッチディスク3b(クランク2(図2))の回転速度が上昇する。また、図9(b)に示すように、時点t11−t12間において負のクラッチトルクの絶対値が低下することにより、自動二輪車100の加速度が負の値から上昇する。すなわち、自動二輪車100の減速度が低下する。
【0111】
ここで、時点t11−t12間においてクラッチトルクの絶対値を低下させる際には、CPU52は、例えば、シフトダウン信号の電圧値の経時変化に基づいて図6に示したマップと同様のマップからクラッチトルクの目標値の経時変化を算出することができる。この場合、マップの縦軸には負の値−bが設定される。
【0112】
そして、CPU52は、時点t11−t12間においてクラッチ3で発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。それにより、シフトダウン信号の電圧値の上昇に従って所定の波形を描くようにクラッチトルクの絶対値を低下させることができる。
【0113】
また、図9の時点t11−t12間においてエンジントルクの絶対値を低下させる際には、CPU52は、例えば、シフトダウン信号の電圧値の経時変化に基づいて図7に示したマップと同様のマップからエンジントルクの目標値の経時変化を算出することができる。この場合、マップの縦軸には負の値−bが設定される。
【0114】
そして、CPU52は、時点t11−t12間においてエンジン107で発生されるエンジントルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、各構成要素(例えば、スロットルアクチュエータ8、燃料噴射装置9および点火プラグ10)を制御する。それにより、シフトダウン信号の電圧値の上昇に従って所定の波形を描くようにエンジントルクの絶対値を低下させることができる。
【0115】
次に、図9(d),(e)に示すように、時点t12−t13間においては、エンジントルクは正の値cとなる。図9(c)〜(e)に示すように、クラッチ3が切断される時点t12後に、変速機5のギアポジションが1段シフトダウンされる。それにより、図9(a)に示すように、フリクションディスク3c(メイン軸5a(図2))の回転速度が上昇する。
【0116】
次に、図9(d)および(e)に示すように、時点t13において運転者が操作レバー923(図4)を前方に移動させることにより、エンジントルクおよびクラッチトルクが0から負の値−bに向かって低下する。すなわち、クラッチトルクおよびエンジントルクの絶対値が上昇する。具体的には、エンジントルクおよびクラッチトルクは、シフトダウン信号の電圧値が0となる時点t14において負の値−bに復帰するように、シフトダウン信号の電圧値の低下に従ってそれぞれ所定の波形を描くように低下する。
【0117】
したがって、シフトダウン信号の電圧値が緩やかに上昇する場合、すなわち運転者が操作レバー923(図4)を緩やかに前方に移動させる場合には、エンジントルクおよびクラッチトルクの絶対値は緩やかに上昇する。
【0118】
また、シフトダウン信号の電圧値が速やかに上昇する場合、すなわち運転者が操作レバー923を速やかに前方に移動させる場合には、エンジントルクおよびクラッチトルクの絶対値は速やかに上昇する。
【0119】
なお、図9の例においては、クラッチトルクの絶対値の上昇が開始される時点t13においてクラッチ3の接続が開始されている。すなわち、時点t13において、クラッチ3が半クラッチ状態になっている。それにより、図9(a)に示すように、クラッチディスク3bの回転速度がフリクションディスク3cの回転速度に徐々に近づくように上昇する。
【0120】
ここで、時点t13−t14間においてクラッチトルクの絶対値を上昇させる際には、CPU52は、例えば、シフトダウン信号の電圧値の経時変化に基づいて図6に示したマップと同様のマップからクラッチトルクの目標値の経時変化を算出する。この場合、マップの縦軸には負の値−bが設定される。
【0121】
そして、CPU52は、時点t13−t14間においてクラッチ3で発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。それにより、シフトダウン信号の電圧値の低下に従って所定の波形を描くようにクラッチトルクの絶対値を上昇させることができる。
【0122】
また、本実施の形態においては、時点t13−t14間においてシフトダウン信号の低下に従ってエンジントルクの絶対値を上昇させるために、例えば、電圧値とエンジントルクの目標値との関係を示すマップがECU50のROM53(またはRAM54)に予め記憶される。
【0123】
図10は、時点t13−t14間において用いられるマップの一例を示す図である。図10に示すマップにおいては、任意の電圧値とエンジントルクの目標値とが対応付けられている。したがって、時点t13−t14間においてエンジントルクの絶対値を上昇させる際には、CPU52は、例えば、シフトダウン信号の電圧値の経時変化に基づいて図10に示したマップからエンジントルクの目標値の経時変化を算出する。
【0124】
そして、CPU52は、時点t13−t14間においてエンジン107で発生されるエンジントルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、各構成要素(例えば、スロットルアクチュエータ8、燃料噴射装置9および点火プラグ10)を制御する。それにより、シフトダウン信号の電圧値の低下に従って所定の波形を描くようにエンジントルクの絶対値を上昇させることができる。
【0125】
なお、図9の例においては、クラッチトルクがシフトダウン前の値−bに復帰する時点t14においてクラッチ3が接続されている。したがって、図9(a)に示すように、時点t14においてクラッチディスク3bおよびフリクションディスク3cの回転速度が略一致する。これにより、変速機5のシフトダウン制御が終了する。
【0126】
以上のように、本実施の形態においては、シフトダウン信号の電圧値が1まで上昇された場合にクラッチ3が切断され、シフトダウン信号の電圧値が0まで低下された場合にクラッチ3が接続される。したがって、運転者は、シフトダウン操作装置92(図4)の操作レバー923(図4)の操作速度を調整することにより、クラッチ3の切断動作期間(図9の時点t11−t12間)、ギアポジションの切り替え期間(図9の時点t12−t13間)およびクラッチ3の接続動作期間(図9の時点t13−t14間)の長さを調整することができる。この場合、変速機5のシフトダウンに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができるので、自動二輪車100のドライバビリティが向上する。
【0127】
また、本実施の形態においては、シフトダウン信号の電圧値の変化に従ってエンジントルクおよびクラッチトルクの値が変化する。したがって、運転者の操作レバー923の操作速度を調整することにより、エンジントルクおよびクラッチトルクの絶対値の低下速度および上昇速度を調整することができる。この場合、変速機5のシフトダウン時に、エンジントルクおよびクラッチトルクを運転者の意図に応じた速度で低下および上昇させることができる。それにより、自動二輪車100のドライバビリティがさらに向上する。
【0128】
(d)制御フロー
次に、変速機5のシフトチェンジ時のCPU52の制御フローについて説明する。
【0129】
図11、図12および図13は、シフトチェンジ時のCPU52の動作の一例を示すフローチャートである。
【0130】
図11に示すように、CPU52は、まず、シフトアップ信号の電圧値が第1のしきい値以上であるか否かを判別する(ステップS1)。なお、第1のしきい値は、シフトアップ信号の電圧値の最大値を1とした場合、例えば、0.02に設定される。
【0131】
シフトアップ信号の電圧値が第1のしきい値以上である場合、CPU52は、運転者が操作レバー913(図4)を前方に移動させていると判断し、図5で説明したシフトアップ制御を行う(ステップS2)。
【0132】
具体的には、図12に示すように、CPU52は、まず、シフトアップ信号の電圧値の上昇に従ってエンジントルクおよびクラッチトルクを低下させる(ステップS21)。
【0133】
次に、CPU52は、シフトアップ信号の電圧値が第2のしきい値以上であるか否かを判別する(ステップS22)。なお、第2のしきい値は、シフトアップ信号の最大値を1とした場合、例えば、0.99に設定される。
【0134】
シフトアップ信号の電圧値が第2のしきい値以上である場合、CPU52は、クラッチ3が切断されたと判断し、変速機5のシフトアップを行う(ステップS23)。具体的には、CPU52は、シフトアクチュエータ7(図2)を制御することによりシフトカム6a(図2)を回転させる。それにより、シフトフォーク6c(図2)が移動され、変速ギア5c(図2)または変速ギア5d(図2)が移動される。その結果、変速機5のギアポジションが1段シフトアップされる。
【0135】
次に、CPU52は、シフトアップ信号の電圧値が第3のしきい値以下であるか否かを判別する(ステップS24)。なお、第3のしきい値は、シフトアップ信号の最大値を1とした場合、例えば、0.97に設定される。
【0136】
シフトアップ信号の電圧値が第3のしきい値以下である場合、CPU52は、運転者が操作レバー913を後方に移動させているか、あるいは操作レバー913を解放したと判断し、シフトアップ信号に従ってエンジントルクおよびクラッチトルクを上昇させる(ステップS25)。その後、クラッチ3が完全に接続され、シフトアップ制御が終了する。
【0137】
ステップS22において、シフトアップ信号の電圧値が第2のしきい値よりも小さい場合、CPU52は、クラッチ3の切断動作が終了していないと判断し、シフトアップ信号の電圧値が第2のしきい値以上になるまでステップS21およびステップS22の処理を繰り返す。
【0138】
ステップS24においてシフトアップ信号の電圧値が第3のしきい値よりも大きい場合、CPU52は、シフトアップ信号の電圧値が第3のしきい値以下になるまで待機する。
【0139】
図11のステップS1において、シフトアップ信号の電圧値が第1のしきい値よりも小さい場合、CPU52は、運転者によりシフトアップ操作が行われていないと判断し、シフトダウン信号の電圧値が第4のしきい値以上であるか否かを判別する(ステップS3)。なお、第4のしきい値は、シフトダウン信号の電圧値の最大値を1とした場合、例えば、0.02に設定される。
【0140】
シフトアップ信号の電圧値が第4のしきい値以上である場合、CPU52は、運転者が操作レバー923(図4)を後方に移動させていると判断し、図9で説明したシフトダウン制御を行う(ステップS4)。
【0141】
具体的には、図13に示すように、CPU52は、まず、シフトダウン信号の電圧値の上昇に従ってエンジントルクおよびクラッチトルクの絶対値を低下させる(ステップS41)。
【0142】
次に、CPU52は、シフトダウン信号の電圧値が第5のしきい値以上であるか否かを判別する(ステップS42)。なお、第5のしきい値は、シフトダウン信号の最大値を1とした場合、例えば、0.99に設定される。
【0143】
シフトダウン信号の電圧値が第5のしきい値以上である場合、CPU52は、クラッチ3が切断されたと判断し、変速機5のシフトダウンを行う(ステップS43)。具体的には、CPU52は、シフトアクチュエータ7(図2)を制御することによりシフトカム6a(図2)を回転させる。それにより、シフトフォーク6c(図2)が移動され、変速ギア5c(図2)または変速ギア5d(図2)が移動される。その結果、変速機5のギアポジションが1段シフトダウンされる。
【0144】
次に、CPU52は、シフトダウン信号の電圧値が第6のしきい値以上であるか否かを判別する(ステップS44)。なお、第6のしきい値は、シフトダウン信号の最大値を1とした場合、例えば、0.97に設定される。
【0145】
シフトダウン信号の電圧値が第6のしきい値以上である場合、CPU52は、運転者が操作レバー923を前方に移動させているか、あるいは操作レバー923を解放したと判断し、シフトダウン信号に従ってエンジントルクおよびクラッチトルクの絶対値を上昇させる(ステップS45)。その後、クラッチ3が完全に接続され、シフトダウン制御が終了する。
【0146】
ステップS42において、シフトダウン信号の電圧値が第5のしきい値よりも小さい場合、CPU52は、クラッチ3の切断動作が終了していないと判断し、シフトダウン信号の電圧値が第5のしきい値以上になるまでステップS41およびステップS42の処理を繰り返す。
【0147】
ステップS44においてシフトダウン信号の電圧値が第6のしきい値よりも大きい場合、CPU52は、シフトダウン信号の電圧値が第6のしきい値以下になるまで待機する。
【0148】
図11のステップS2において、シフトダウン信号の電圧値が第4のしきい値よりも小さい場合、CPU52は、運転者によってシフト操作が行われていないと判断し、ステップS1の処理に戻る。
【0149】
(5)本実施の形態の効果
本実施の形態に係る変速制御システム200においては、運転者は、シフトアップ操作装置91(図4)の操作レバー913(図4)およびシフトダウン操作装置92(図4)の操作レバー923(図4)の操作速度を調整することにより、クラッチ3の切断動作期間、ギアポジションの切り替え期間およびクラッチ3の接続動作期間の長さを調整することができる。この場合、変速機5のシフトチェンジに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができるので、自動二輪車100のドライバビリティが向上する。
【0150】
また、運転者は、操作レバー913の操作速度を調整することにより、エンジントルクおよびクラッチトルクの絶対値の低下速度および上昇速度を調整することができる。それにより、運転者の意図に応じた速度でエンジントルクおよびクラッチトルクの値を低下および上昇させることができる。この場合、シフトチェンジ時に、エンジントルクおよびクラッチトルクを運転者の意図に応じた速度で低下および上昇させることができるので、自動二輪車100のドライバビリティがさらに向上する。
【0151】
また、運転者の意図に応じてエンジントルクの経時変化、クラッチトルクの経時変化およびシフトチェンジに要する時間を調整することができるので、車両重量が軽く(慣性が小さく)、変速動作の影響を受けやすい自動二輪車100においても走行フィーリングを十分に向上させることができる。
【0152】
<第2の実施の形態>
(1)変速制御システムの概要
図14は、第2の実施の形態に係る変速制御システムの構成を示すブロック図である。
【0153】
図14に示す変速制御システム300が図3に示す変速制御システム200と異なるのは以下の点である。
【0154】
図14に示すように、本実施の形態に係る変速制御システム300は、第1シフトアップセンサSE51、第2シフトアップセンサSE52、第1シフトダウンセンサSE61および第2シフトダウンセンサSE62を有する。また、ECU50には、タイマー55が設けられている。
【0155】
第1シフトアップセンサSE51および第2シフトアップセンサSE52は、後述するシフトアップ操作装置93(図15参照)に設けられ、第1シフトダウンセンサSE61および第2シフトダウンセンサSE62は、後述するシフトダウン操作装置94(図16参照)に設けられる。シフトアップ操作装置93およびシフトダウン操作装置94は、例えば、ハンドル105(図1)に設けられる。
【0156】
図15は、本実施の形態に係るシフトアップ操作装置93の一例を示す概略図である。なお、図15において、(a)は、シフトアップ操作装置93の上面図であり、(b)は、(a)のC−C線断面図である。なお、図15においては、説明を簡便にするため、符号Aが付されている側を前方とし、符号Bが付されている側を後方とする。
【0157】
図15に示すように、シフトアップ操作装置93は、本体部931および操作レバー932を有する。本体部931の内部の両側面には、前後方向に延びるように溝933が形成され、本体部931の上面の中央部には、前後方向に延びるように開口934が形成されている。
【0158】
図15(a)に示すように、操作レバー932の両側面には、前後方向に直交する方向に突出するように突出部935が形成されている。突出部935は、前後方向に移動可能に溝933に支持されている。図15(b)に示すように、突出部935(図15(a))が溝933に支持された状態において、操作レバー932の上端部は開口934から上方に突出し、操作レバー932の下端が本体部931内の底面から僅かに離間している。
【0159】
なお、操作レバー932は、図示しない付勢部材により後方側に付勢されている。したがって、運転者が操作レバー932を操作していない場合には、操作レバー932は、本体部931内において後端に位置する。
【0160】
本体部931の底面部936には、第1シフトアップセンサSE51および第2シフトアップセンサSE52が埋設される。本実施の形態においては、第1シフトアップセンサSE51が本体部931内の後方側に設けられ、第2シフトアップセンサSE52が本体部931内の前方側に設けられる。第1シフトアップセンサSE51および第2シフトアップセンサSE52の上部は、底面部936から上方に突出しかつ上下動可能に設けられている。
【0161】
本実施の形態においては、運転者は、変速機5のシフトアップを行う場合には、まず、操作レバー932を本体部931内において前端まで移動させる。その後、操作レバー932を解放するか、あるいは後方に移動させる。この場合、操作レバー932が第1シフトアップセンサSE51および第2シフトアップセンサSE52の上方を通過するので、操作レバー932の下面により第1シフトアップセンサSE51および第2シフトアップセンサSE52が押下される。
【0162】
以下、操作レバー932の位置とシフトアップセンサSE51,SE52との関係について簡単に説明する。なお、以下の説明においては、本体部931内における操作レバー932の移動可能距離を1とする。
【0163】
本実施の形態に係るシフトアップ操作装置93においては、図15に示すように、規準位置(本体部931内の後端)からの距離が0.02〜0.25の領域に操作レバー932が位置する場合には、操作レバー932の下面によって第1シフトアップセンサSE51が押下される。
【0164】
また、規準位置からの距離が0.75〜0.98の領域に操作レバー932が位置する場合には、操作レバー932の下面によって第2シフトアップセンサSE52が押下される。
【0165】
ここで、本実施の形態においては、第1シフトアップセンサSE51および第2シフトアップセンサSE52は、操作レバー932により押下されていない場合には、ローレベルの信号を出力し、操作レバー932により押下されている場合には、ハイレベルの信号を出力する。
【0166】
したがって、第1シフトアップセンサSE51からハイレベルの信号が出力されている場合には、操作レバー932は、規準位置からの距離が0.02〜0.25の領域に位置している。また、第2シフトアップセンサSE52からハイレベルの信号が出力されている場合には、操作レバー932は、規準位置からの距離が0.75〜0.98の領域に位置している。
【0167】
次に、シフトダウン操作装置94について説明する。図16は、シフトダウン操作装置94の一例を示す概略図である。なお、図16において、(a)は、シフトダウン操作装置94の上面図であり、(b)は、(a)のC−C線断面図である。なお、図16においては、説明を簡便にするため、符号Aが付されている側を前方とし、符号Bが付されている側を後方とする。
【0168】
図16に示すように、シフトダウン操作装置94は、シフトアップ操作装置93と同様の構成の本体部941および操作レバー942を有する。なお、シフトダウン操作装置94においては、操作レバー942は、図示しない付勢部材により前方側に付勢されている。したがって、運転者が操作レバー942を操作していない場合には、操作レバー942は、本体部941内において前端に位置する。
【0169】
また、本体部941の底面部946には、第1シフトダウンセンサSE61および第2シフトダウンセンサSE62が埋設される。本実施の形態においては、第1シフトダウンセンサSE61が本体部941内の前方側に設けられ、第2シフトダウンセンサSE62が本体部941内の後方側に設けられる。第1シフトダウンセンサSE61および第2シフトダウンセンサSE62の上部は、底面部946から上方に突出しかつ上下動可能に設けられている。
【0170】
本実施の形態においては、運転者は、変速機5のシフトダウンを行う場合には、まず、操作レバー942を本体部941内において後端まで移動させる。その後、操作レバー942を解放するか、あるいは前方に移動させる。この場合、操作レバー942が第1シフトダウンセンサSE61および第2シフトダウンセンサSE62の上方を通過するので、操作レバー942の下面により第1シフトダウンセンサSE61および第2シフトダウンセンサSE62が押下される。
【0171】
以下、操作レバー942の位置とシフトダウンセンサSE61,SE62との関係について簡単に説明する。なお、以下の説明においては、本体部941内における操作レバー942の移動可能距離を1とする。
【0172】
本実施の形態に係るシフトダウン操作装置94においては、図16に示すように、規準位置(本体部941内の前端)からの距離が0.02〜0.25の領域に操作レバー942が位置する場合には、操作レバー942の下面によって第1シフトダウンセンサSE61が押下される。
【0173】
また、規準位置からの距離が0.75〜0.98の領域に操作レバー942が位置する場合には、操作レバー942の下面によって第2シフトダウンセンサSE62が押下される。
【0174】
ここで、本実施の形態においては、第1シフトダウンセンサSE61および第2シフトダウンセンサSE62は、操作レバー942により押下されていない場合には、ローレベルの信号を出力し、操作レバー942により押下されている場合には、ハイレベルの信号を出力する。
【0175】
したがって、第1シフトダウンセンサSE61からハイレベルの信号が出力されている場合には、操作レバー942は、規準位置からの距離が0.02〜0.25の領域に位置している。また、第2シフトダウンセンサSE62からハイレベルの信号が出力されている場合には、操作レバー942は、規準位置からの距離が0.75〜0.98の領域に位置している。
【0176】
本実施の形態においては、CPU52は、上記の関係に基づいて、シフトアップ制御およびシフトダウン制御を行う。以下、詳細に説明する。
【0177】
(2)シフトアップ制御
図17は、本実施の形態に係るシフトアップ制御を説明するための図である。図17において、(a)は、CPU52により算出されるエンジントルクの目標値の経時変化およびクラッチトルクの目標値の経時変化を示し、(b)は、エンジン107において発生されるエンジントルクの経時変化およびクラッチ3において発生されるクラッチトルクの経時変化を示し、(c)は、操作レバー932の位置(規準位置からの距離)の経時変化を示し、(d)は、第1シフトアップセンサSE51の出力信号の経時変化および第2シフトアップセンサSE52の出力信号の経時変化を示す。
【0178】
なお、図17(a)において、実線はエンジントルクの目標値を示し、点線はクラッチトルクの目標値を示す。また、図17(b)において、実線はエンジントルクを示し、点線はクラッチトルクを示す。また、図17(c)においては、操作レバー932の規準位置(本体部931(図15)内の後端)からの移動距離が最大となるときの操作レバー932の位置を1.0とし、基準位置を0として定義している。
【0179】
以下、シフトアップ時のCPU52の制御動作について詳細に説明する。
【0180】
図17(c)に示すように、本実施の形態においては、運転者が操作レバー932(図15)を前方に移動させることにより、時点t21において操作レバー932が位置0.02まで移動する。それにより、図17(b)および(d)に示すように、第1シフトアップセンサSE51の出力信号がハイレベルになり、クラッチトルクおよびエンジントルクの低下が開始される。
【0181】
また、図17(c)および(d)に示すように、時点t24において操作レバー932が位置0.98まで移動することにより、第2シフトアップセンサSE52の出力信号がハイレベルになる。それにより、図17(b)に示すように、クラッチトルクおよびエンジントルクが0まで低下される。
【0182】
ここで、本実施の形態においては、時点t21−t24間において操作レバー932の位置に従ってクラッチトルクおよびエンジントルクを低下させるために、例えば、任意の位置とクラッチトルクの目標値との関係を示すマップおよび任意の位置とエンジントルクの目標値との関係を示すマップがECU50のROM53(またはRAM54)に予め記憶される。
【0183】
図18および図19は、時点t21−t24間において用いられるマップの一例を示す図である。図18に示すマップにおいては、任意の位置とクラッチトルクの目標値とが対応付けられている。また、図19に示すマップにおいては、任意の位置とエンジントルクの目標値とが対応付けられている。なお、図18および図19のマップにおいて値aは変数であり、時点t21(図17)におけるクラッチトルクおよびエンジントルクの値が値aとなる。
【0184】
本実施の形態においては、CPU52は、予め設定された条件および第1シフトアップセンサSE51の出力信号に基づいて時点t21−t24間における操作レバー932の位置の経時変化を算出し、その算出した位置の経時変化に基づいて図18に示すマップからクラッチトルクの目標値の経時変化を算出する。
【0185】
そして、CPU52は、時点t21−t24間においてクラッチ3で発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。
【0186】
また、同様に、CPU52は、時点t21−t24間における操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図19に示すマップからエンジントルクの目標値の経時変化を算出する。そして、CPU52は、時点t21−t24間においてエンジン107で発生されるエンジントルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、各構成要素(例えば、スロットルアクチュエータ8、燃料噴射装置9および点火プラグ10)を制御する。
【0187】
具体的には、CPU52は、例えば、時点t21から所定の時間(以下、トルク低下開始時間と称する。)内は操作レバー932が一定の速度で移動しかつそのトルク低下開始時間において位置0から位置0.25まで移動すると仮定する。また、CPU52は、その仮定に基づいてトルク低下開始時間内における操作レバー932の位置の経時変化を推定する。
【0188】
また、CPU52は、その推定した操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図18に示すマップからトルク低下開始時間内におけるクラッチトルクの目標値の経時変化を算出する。そして、CPU52は、トルク低下開始時間においてクラッチ3で発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。なお、図18においては、トルク低下開始時間終了時点におけるクラッチトルクの目標値が値a1として示されている。
【0189】
同様に、CPU52は、上記のようにして推定した操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図19に示すマップからトルク低下開始時間内におけるクラッチトルクの目標値の経時変化を算出し、その目標値に従って各構成要素を制御する。なお、図19においては、トルク低下開始時間終了時点におけるエンジントルクの目標値が値a2として示されている。
【0190】
次に、時点t22において第1シフトアップセンサSE51の出力信号がローレベルになった場合に、CPU52は、時点t21−t22間の長さおよび操作レバー932の移動距離に基づいて、時点t21−t22間における操作レバー932の実際の移動速度を算出する。なお、時点t21−t22間の長さは、タイマー55(図14)によって測定される。また、図17(c)および(d)に示すように、操作レバー932は、第1シフトアップセンサSE51の出力信号がハイレベルの期間に位置0.02から位置0.25へ移動する。したがって、時点t21−t22間における操作レバー932の移動距離は、0.23となる。
【0191】
次に、CPU52は、上記のようにして算出した移動速度で操作レバー932が位置1.0(本体部931(図15)内の前端)まで移動すると仮定し、その仮定した移動速度に基づいて位置0.25から位置1.0までの間における操作レバー932の位置の経時変化を推定する。
【0192】
次に、CPU52は、その推定した操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図18に示すマップから、時点t22以降のクラッチトルクの目標値の経時変化を算出する。そして、CPU52は、時点t22以降においてクラッチ3において発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。
【0193】
同様に、CPU52は、上記のようにして推定した操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図19に示すマップから、時点t22以降のエンジントルクの目標値の経時変化を算出し、その目標値に従って各構成要素を制御する。
【0194】
上記のようにして算出されるクラッチトルクおよびエンジントルクの目標値の経時変化の一例が図17(a)に示される。図17(a)に示す例では、クラッチトルクおよびエンジントルクの目標値が時点t21において値a1および値a2から低下し、時点t25において0となる。すなわち、CPU52により推定される操作レバー932の位置の経時変化によれば、時点t25において操作レバー932が位置1.0に到達する。以下、CPU52により推定される時点t25を1次推定到達時点t25と称する。
【0195】
なお、本実施の形態においては、トルク低下開始時間が時点t22よりも前に終了する場合には、CPU52は、時点t22までクラッチトルクの目標値を値a1に維持するとともにエンジントルクの目標値を値a2に維持する。また、時点t22がトルク低下開始時間終了前である場合には、CPU52は、時点t22においてトルク低下開始時間を終了する。また、CPU52は、その時点t22におけるクラッチトルクの目標値を値a1に設定するとともに、エンジントルクの目標値を値a2に設定する。
【0196】
次に、時点t23において第2シフトアップセンサSE52の出力信号がハイレベルになった場合に、CPU52は、時点t22−t23間の長さおよび操作レバー932の移動距離に基づいて、時点t22−t23間における操作レバー932の実際の移動速度を算出する。なお、時点t22−t23間の長さは、タイマー55(図14)によって測定される。また、図17(c)および(d)に示すように、操作レバー932は、第1シフトアップセンサSE51の出力信号がローレベルになってから第2シフトアップセンサSE52の出力信号がハイレベルになるまでの期間に位置0.25から位置0.75まで移動する。したがって、時点t22−t23間における操作レバー932の移動距離は、0.50となる。
【0197】
次に、CPU52は、上記のようにして算出した操作レバー932の移動速度に基づいて、操作レバー932が位置1.0に到達する時点(以下、2次推定到達時点と称する。)を推定する。そして、CPU52は、その2次推定到達時点においてクラッチトルクおよびエンジントルクが0になるように、クラッチトルクおよびエンジントルクの目標値を補正する。
【0198】
具体的には、クラッチトルクおよびエンジントルクの目標値は、例えば、時点t23から2次推定到達時点までの期間において時間の経過に比例して0まで低下するように補正される。そして、CPU52は、その補正後のクラッチトルクの目標値に従ってクラッチアクチュエータ4を制御するとともに、補正後のエンジントルクの目標値に従って各構成要素を制御する。
【0199】
図17には、2次推定到達時点が1次推定到達時点t25よりも前である場合の一例が示されている。この場合、図17(b)に示すように、クラッチトルクおよびエンジントルクは、時点t23以降において図17(a)に示されるクラッチトルクおよびエンジントルクの目標値よりも速やかに低下し、1次推定到達時点t25よりも前に0になる。なお、2次推定到達時点が1次推定到達時点t25よりも後である場合には、クラッチトルクおよびエンジントルクは、時点t23以降において図17(a)に示されるクラッチトルクの目標値よりも緩やかに低下する。
【0200】
次に、時点t24において第2シフトアップセンサSE52の出力信号がローレベルになった場合に、CPU52は、クラッチ3が完全に切断されているか否か判断する。そして、クラッチ3が完全に切断されていない場合には、CPU52は、クラッチアクチュエータ4を制御することにより時点t24においてクラッチ3を完全に切断する。なお、CPU52は、例えば、クラッチアクチュエータ4に対する制御量に基づいて、あるいはプッシュロッド5e(図2)の移動量に基づいてクラッチ3が切断されているか否かを判断することができる。
【0201】
上記の制御により、例えば、2次推定到達時点が1次推定到達時点t25よりも後である場合でも、クラッチトルクは時点t24において0になる。これにより、運転者の操作レバー923の操作に対してクラッチ3の切断動作に遅れが生じることを防止することができる。
【0202】
なお、時点24においてクラッチ3が完全に切断されていない場合に、時点24においてクラッチ3を完全に切断するとともにエンジントルクを0まで低下させてもよい。
【0203】
次に、クラッチトルクおよびエンジントルクの復帰動作について説明する。
【0204】
図17(c)に示すように、運転者が操作レバー932(図15)を本体部931(図15)内において前端から後方に移動させることにより、時点t26において操作レバー932が位置0.98まで移動する(戻る)。それにより、図17(b)および(d)に示すように、第2シフトアップセンサSE52の出力信号がハイレベルになり、クラッチトルクおよびエンジントルクの上昇が開始される。
【0205】
また、図17(c)および(d)に示すように、時点t29において操作レバー932が位置0.02まで移動することにより、第1シフトアップセンサSE51の出力信号がハイレベルになる。それにより、図17(b)に示すように、クラッチトルクおよびエンジントルクが値aまで復帰される。
【0206】
ここで、本実施の形態においては、時点t26−t29間において操作レバー932の位置に従ってクラッチトルクを上昇させるために、例えば、任意の位置とクラッチトルクの目標値との関係を示すマップがECU50のROM53(またはRAM54)に予め記憶される。
【0207】
図20は、時点t26−t29間において用いられるマップの一例を示す図である。図20に示すマップにおいては、任意の位置とクラッチトルクの目標値とが対応付けられている。なお、図20のマップにおいて値aは変数であり、時点t21(図17)におけるクラッチトルクの値が値aとなる。
【0208】
クラッチトルクの復帰時には、CPU52は、例えば、時点t26から所定の時間(以下、トルク復帰開始時間と称する。)内は操作レバー932が一定の速度で移動しかつそのトルク復帰開始時間において位置1.0から位置0.75まで移動すると仮定する。また、CPU52は、その仮定に基づいてトルク復帰開始時間内における操作レバー932の位置の経時変化を推定する。
【0209】
また、CPU52は、その推定した操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図20に示すマップからトルク復帰開始時間内におけるクラッチトルクの目標値の経時変化を算出する。そして、CPU52は、トルク復帰開始時間においてクラッチ3で発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。なお、図20においては、トルク復帰開始時間終了時点におけるクラッチトルクの目標値が値a3として示されている。
【0210】
同様に、CPU52は、上記のようにして推定した操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図19に示すマップからトルク復帰開始時間内におけるクラッチトルクの目標値の経時変化を算出し、その目標値に従って各構成要素を制御する。なお、図19においては、トルク復帰開始時間終了時点におけるエンジントルクの目標値が値a4として示されている。
【0211】
次に、時点t27において第2シフトアップセンサSE52の出力信号がローレベルになった場合に、CPU52は、時点t26−t27間の長さおよび操作レバー932の移動距離に基づいて、時点t26−t27間における操作レバー932の実際の移動速度を算出する。なお、時点t26−t27間の長さは、タイマー55(図14)によって測定される。また、図17(c)および(d)に示すように、操作レバー932は、第2シフトアップセンサSE52の出力信号がハイレベルの期間に位置0.98から位置0.75へ移動する。したがって、時点t26−t27間における操作レバー932の移動距離は、0.23となる。
【0212】
次に、CPU52は、上記のようにして算出した移動速度で操作レバー932が規準位置(位置0:図15参照)まで移動すると仮定し、その仮定した移動速度に基づいて位置0.75から規準位置までの間における操作レバー932の位置の経時変化を推定する。
【0213】
次に、CPU52は、その推定した操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図20に示すマップから、時点t27以降のクラッチトルクの目標値の経時変化を算出する。そして、CPU52は、時点t27以降においてクラッチ3において発生されるクラッチトルクの経時変化がその算出した目標値の経時変化に等しくなるように、クラッチアクチュエータ4を制御する。
【0214】
同様に、CPU52は、上記のようにして推定した操作レバー932の位置の経時変化に基づいて図19に示すマップから、時点t27以降のエンジントルクの目標値の経時変化を算出し、その目標値に従って各構成要素を制御する。
【0215】
上記のようにして算出されるクラッチトルクおよびエンジントルクの目標値の経時変化の一例が図17(a)に示される。図17(a)に示す例では、クラッチトルクおよびエンジントルクの目標値が時点t27において値a3および値a4から上昇し、時点t30において値aとなる。すなわち、CPU52により推定される操作レバー932の位置の経時変化によれば、時点t30において操作レバー932が基準位置に復帰する。以下、CPU52により推定される時点t30を1次推定復帰時点t30と称する。
【0216】
なお、本実施の形態においては、トルク復帰開始時間が時点t27よりも前に終了する場合には、CPU52は、時点t27までクラッチトルクの目標値を値a3に維持するとともにエンジントルクの目標値を値a4に維持する。また、時点t27がトルク復帰開始時間終了前である場合には、CPU52は、時点t27においてトルク復帰開始時間を終了する。また、CPU52は、その時点t27におけるクラッチトルクの目標値を値a3に設定するとともに、エンジントルクの目標値を値a4に設定する。
【0217】
次に、時点t28において第1シフトアップセンサSE51の出力信号がハイレベルになった場合に、CPU52は、時点t27−t28間の長さおよび操作レバー932の移動距離に基づいて、時点t27−t28間における操作レバー932の実際の移動速度を算出する。なお、時点t27−t28間の長さは、タイマー55(図14)によって測定される。また、図17(c)および(d)に示すように、操作レバー932は、第2シフトアップセンサSE52の出力信号がローレベルになってから第1シフトアップセンサSE51の出力信号がハイレベルになるまでの期間に位置0.75から位置0.25まで移動する。したがって、時点t27−t28間における操作レバー932の移動距離は、0.50となる。
【0218】
次に、CPU52は、上記のようにして算出した操作レバー932の移動速度に基づいて、操作レバー932が基準位置に復帰する時点(以下、2次推定復帰時点と称する。)を推定する。そして、CPU52は、その2次推定復帰時点においてクラッチトルクおよびエンジントルクが値aに復帰するように、クラッチトルクおよびエンジントルクの目標値を補正する。
【0219】
具体的には、クラッチトルクおよびエンジントルクの目標値は、例えば、時点t28から2次推定復帰時点までの期間において時間の経過に比例して値aまで上昇するように補正される。そして、CPU52は、その補正後のクラッチトルクの目標値に従ってクラッチアクチュエータ4を制御するとともに、補正後のエンジントルクの目標値に従って各構成要素を制御する。
【0220】
図17には、2次推定復帰時点が1次推定復帰時点t30よりも前である場合の一例が示されている。この場合、図17(b)に示すように、クラッチトルクおよびエンジントルクは、時点t28以降において図17(a)に示されるクラッチトルクおよびエンジントルクの目標値よりも速やかに上昇し、1次推定復帰時点t30よりも前に値aに復帰する。なお、2次推定復帰時点が1次推定復帰時点t30よりも後である場合には、クラッチトルクおよびエンジントルクは、時点t28以降において図17(a)に示されるクラッチトルクの目標値よりも緩やかに上昇する。
【0221】
次に、時点t29において第1シフトアップセンサSE51の出力信号がローレベルになった場合に、CPU52は、クラッチ3が完全に接続されているか否か判断する。そして、クラッチ3が完全に接続されていない場合には、CPU52は、クラッチアクチュエータ4を制御することにより時点t29においてクラッチ3を完全に接続する。なお、CPU52は、例えば、クラッチアクチュエータ4に対する制御量等に基づいてクラッチ3が接続されているか否かを判断することができる。
【0222】
上記の制御により、例えば、2次推定復帰時点が1次推定復帰時点t30よりも後である場合でも、クラッチトルクは時点t29において値aに復帰する。これにより、運転者の操作レバー932の操作に対してクラッチ3の接続動作に遅れが生じることを防止することができる。
【0223】
なお、時点29においてクラッチ3が完全に接続されていない場合に、時点29においてクラッチ3を完全に接続するとともにエンジントルクを値aに復帰させてもよい。
【0224】
以上のように、本実施の形態においては、第1シフトアップセンサSE51または第2シフトアップセンサSE52の出力信号に基づいて、操作レバー932の移動速度を算出することができる。この場合、安価な構成で操作レバー932の移動速度を算出することができるので、変速制御システム300を低コストで構築することができる。
【0225】
また、本実施の形態においては、第1シフトアップセンサSE51または第2シフトアップセンサSE52の出力信号に基づいて、操作レバー932が本体部931内の前端に到達する時間または規準位置に復帰する時間を算出することができる。それにより、運転者による操作レバー932の操作に対してクラッチ3の切断動作および接続動作に遅れが生じることを防止することができる。その結果、自動二輪車100のドライバビリティが向上する。
【0226】
また、運転者は、操作レバー932の操作速度を調整することにより、クラッチ3の切断動作期間、ギアポジションの切り替え期間およびクラッチ3の接続動作期間の長さを調整することができる。この場合、変速機5のシフトアップに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができるので、自動二輪車100のドライバビリティが十分に向上する。
【0227】
また、運転者は、操作レバー932の操作速度を調整することにより、エンジントルクおよびクラッチトルクの低下速度および上昇速度を調整することができる。それにより、運転者の意図に応じた速度でエンジントルクおよびクラッチトルクの値を低下および上昇させることができる。この場合、シフトアップ時に、エンジントルクおよびクラッチトルクを運転者の意図に応じた速度で低下および上昇させることができるので、自動二輪車100のドライバビリティがさらに向上する。
【0228】
(3)シフトダウン制御
次に、シフトダウン制御について説明する。
【0229】
図21は、本実施の形態に係るシフトダウン制御を説明するための図である。図21において、(a)は、CPU52により算出されるエンジントルクの目標値の経時変化およびクラッチトルクの目標値の経時変化を示し、(b)は、エンジン107において発生されるエンジントルクの経時変化およびクラッチ3において発生されるクラッチトルクの経時変化を示し、(c)は、操作レバー932の位置(規準位置からの距離)の経時変化を示し、(d)は、第1シフトダウンセンサSE61の出力信号の経時変化および第2シフトダウンセンサSE62の出力信号の経時変化を示す。
【0230】
なお、図21の時点t31〜t40が図17の時点t21〜t30にそれぞれ対応している。
【0231】
また、クラッチトルクの目標値の経時変化およびエンジントルクの目標値の経時変化は、例えば、第1の実施の形態で用いたマップと同様のマップから算出することができる。
【0232】
図21に示すように、本実施の形態に係るシフトダウン制御においては、CPU52は、図17のシフトアップ制御と同様の方法で、第1シフトダウンセンサSE61および第2シフトダウンセンサSE62の出力信号に基づいてクラッチトルクおよびエンジントルクを制御する。
【0233】
したがって、第1シフトダウンセンサSE61または第2シフトダウンセンサSE62の出力信号に基づいて、操作レバー942の移動速度を算出することができる。この場合、安価な構成で操作レバー942の移動速度を算出することができるので、変速制御システム300を低コストで構築することができる。
【0234】
また、第1シフトダウンセンサSE61または第2シフトダウンセンサSE62の出力信号に基づいて、操作レバー942(図16)が本体部941(図16)内の後端に到達する時間または規準位置に復帰する時間を算出することができる。それにより、運転者による操作レバー942の操作に対してクラッチ3の切断動作および接続動作に遅れが生じることを防止することができる。その結果、自動二輪車100のドライバビリティが向上する。
【0235】
また、運転者は、操作レバー942の操作速度を調整することにより、クラッチ3の切断動作期間、ギアポジションの切り替え期間およびクラッチ3の接続動作期間の長さを調整することができる。この場合、変速機5のシフトダウンに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができるので、自動二輪車100のドライバビリティが十分に向上する。
【0236】
また、運転者は、操作レバー942の操作速度を調整することにより、エンジントルクおよびクラッチトルクの絶対値の低下速度および上昇速度を調整することができる。それにより、運転者の意図に応じた速度でエンジントルクおよびクラッチトルクの値を低下および上昇させることができる。この場合、シフトダウン時に、エンジントルクおよびクラッチトルクを運転者の意図に応じた速度で低下および上昇させることができるので、自動二輪車100のドライバビリティがさらに向上する。
【0237】
(4)本実施の形態の効果
以上のように、本実施の形態においては、各センサSE51,SE52,SE61,SE62の出力信号に基づいて、運転者の操作レバー932,942の操作速度を算出することができる。それにより、安価な構成でシフトアップ操作装置93およびシフトダウン操作装置94を構成することができる。
【0238】
また、本実施の形態においては、各センサSE51,SE52,SE61,SE62の出力信号に基づいて、操作レバー932,942の本体部931,942内における移動完了時間を算出することができる。それにより、運転者による操作レバー932,942の操作に対してクラッチ3の切断動作および接続動作に遅れが生じることを防止することができる。その結果、自動二輪車100のドライバビリティが向上する。
【0239】
また、運転者は、操作レバー932,942の操作速度を調整することにより、クラッチ3の切断動作期間、ギアポジションの切り替え期間およびクラッチ3の接続動作期間の長さを調整することができる。この場合、変速機5のシフトチェンジに要する時間を運転者の意図に応じて調整することができるので、自動二輪車100のドライバビリティが十分に向上する。
【0240】
また、運転者は、操作レバー932,942の操作速度を調整することにより、エンジントルクおよびクラッチトルクの絶対値の低下速度および上昇速度を調整することができる。それにより、運転者の意図に応じた速度でエンジントルクおよびクラッチトルクの値を低下および上昇させることができる。この場合、シフトチェンジ時に、エンジントルクおよびクラッチトルクを運転者の意図に応じた速度で低下および上昇させることができるので、自動二輪車100のドライバビリティがさらに向上する。
【0241】
また、運転者の意図に応じてエンジントルクの経時変化、クラッチトルクの経時変化およびシフトチェンジに要する時間を調整することができるので、車両重量が軽く(慣性が小さく)、変速動作の影響を受けやすい自動二輪車100においても走行フィーリングを十分に向上させることができる。
【0242】
<他の実施の形態>
(1)自動二輪車の他の例
上記実施の形態においては、シフトアップセンサSE5およびシフトダウンセンサSE6がシフトアップ操作装置91およびシフトダウン操作装置92に設けられているが、シフトペダル112(図1)にシフトアップセンサSE5およびシフトダウンセンサSE6が設けられてもよい。この場合、運転者のシフトペダル112の操作に基づいて上記と同様の信号が出力されるようにシフトアップセンサSE5およびシフトダウンセンサSE6を設けることにより、運転者は、シフトペダル112を操作することにより、変速機5のシフトチェンジを行うことができる。
【0243】
同様に、シフトアップセンサSE51,SE52およびシフトダウンセンサSE61,SE62がシフトペダル112に設けられてもよい。
【0244】
また、上記実施の形態においては、車両の一例として自動二輪車100について説明したが、自動三輪車および自動四輪車等の他の車両であってもよい。
【0245】
(2)変速制御システムの他の例
上記実施の形態においては、運転者のシフト操作に基づいて自動的に変速機5のシフトチェンジを行う半自動の変速制御システム200,300について説明したが、変速制御システム200,300の制御モードは上記の例に限定されない。例えば、変速制御システム200,300が完全自動の制御モードをさらに有してもよい。この場合、例えば、完全自動の制御モードと半自動の制御モードとを切り替えるためのスイッチを自動二輪車100に設けることにより、運転者は容易に制御モードを選択することができる。それにより、自動二輪車100のドライバビリティがさらに向上する。
【0246】
また、上記実施の形態においては、運転者は、操作レバー913,923,932,942(以下、操作レバーと略記する。)の操作速度を調整することにより変速機5のギアポジションの切り替え期間の長さを調整することができるが、ギアポジションの切り替え期間の長さの最小時間が予め設定されていてもよい。また、CPU52は、運転者がその最小時間内に操作レバーを移動させても、クラッチトルクおよびエンジントルクの復帰動作を行わなくてもよい。
【0247】
なお、最小時間は、変速機5のギアポジションの切り替え動作の速度等に基づいて設定されることが好ましい。この場合、変速機5のギアポジションが切り替えられる前にトルク復帰動作が行われることを防止することができるので、変速機5のシフトチェンジに自動二輪車100にショックが発生することを十分に防止することができる。
【0248】
なお、最小時間経過前に運転者が操作レバーを移動させた場合には、操作レバーの移動開始時点よりも後の時点においてトルク復帰動作が開始されるが、トルク復帰動作(クラッチ接続動作)は、操作レバーが規準位置に復帰する時点において終了される。この場合、運転者の操作レバーの操作速度に応じた時間で変速機5のシフトチェンジ(クラッチ3の接続動作)を完了することができる。それにより、自動二輪車100のドライバビリティが向上する。
【0249】
<請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応>
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0250】
上記実施の形態においては、操作レバー913,923,932,942またはシフトペダル112がシフト操作部の例であり、クラッチアクチュエータ4がクラッチ作動機構の例であり、シフト機構6およびシフトアクチュエータ7がシフト機構の例であり、CPU52が制御部の例であり、スロットルアクチュエータ8、燃料噴射装置9または点火プラグ10がエンジントルク調整部の例であり、シフトアップセンサSE5またはシフトダウンセンサSE6が第1の検出器の例であり、第1シフトアップセンサSE51、第2シフトアップセンサSE52、第1シフトダウンセンサSE61または第2シフトダウンセンサSE62が第2の検出器の例であり、タイマー55が測定器の例であり、後輪116が駆動輪の例である。
【0251】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0252】
本発明は種々の車両の制御システムとして有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0253】
【図1】第1の実施の形態に係る自動二輪車を示す概略側面図である。
【図2】変速機およびシフト機構の構成を示す図である。
【図3】本変速制御システムの構成を示すブロック図である。
【図4】シフトアップ操作装置およびシフトダウン操作装置の一例を示す上面図である。
【図5】シフトアップ時のCPUの制御動作を説明するための図である。
【図6】ECUに記憶されるマップの一例を示す図である。
【図7】ECUに記憶されるマップの一例を示す図である。
【図8】ECUに記憶されるマップの一例を示す図である。
【図9】シフトダウン時のCPU52の制御動作を説明するための図である。
【図10】ECUに記憶されるマップの一例を示す図である。
【図11】シフトチェンジ時のCPUの動作の一例を示すフローチャートである。
【図12】シフトチェンジ時のCPUの動作の一例を示すフローチャートである。
【図13】シフトチェンジ時のCPUの動作の一例を示すフローチャートである。
【図14】第2の実施の形態に係る変速制御システムの構成を示すブロック図である。
【図15】シフトアップ操作装置の一例を示す概略図である。
【図16】シフトダウン操作装置の一例を示す概略図である。
【図17】シフトアップ制御を説明するための図である。
【図18】ECUに記憶されるマップの一例を示す図である。
【図19】ECUに記憶されるマップの一例を示す図である。
【図20】ECUに記憶されるマップの一例を示す図である。
【図21】シフトダウン制御を説明するための図である。
【符号の説明】
【0254】
3 クラッチ
3b クラッチディスク
3c フリクションディスク
4 クラッチアクチュエータ
5 変速機
5a メイン軸
5b ドライブ軸
5c,5d 変速ギア
6 シフト機構
7 シフトアクチュエータ
8 スロットルアクチュエータ
9 燃料噴射装置
10 点火プラグ
50 ECU
52 CPU
53 ROM
54 RAM
55 タイマー
91,93 シフトアップ操作装置
92,94 シフトダウン操作装置
100 自動二輪車
107 エンジン
116 後輪
200 変速制御システム
300 変速制御システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、クラッチおよび変速機を有する車両の変速制御システムであって、
前記変速機のギアポジションをシフトさせるために運転者により操作されるシフト操作部と、
前記クラッチを切断および接続するクラッチ作動機構と、
前記変速機のギアポジションをシフトさせるシフト機構と、
前記クラッチ作動機構および前記シフト機構を制御する制御部とを備え、
前記シフト操作部は、第1の位置と第2の位置との間で移動可能に設けられ、
前記制御部は、前記シフト操作部が前記第1の位置から前記第2の位置側へ移動を開始した第1の時点において前記クラッチ作動機構により前記クラッチの切断動作を開始し、前記シフト操作部が前記第2の位置に到達した第2の時点において前記クラッチ作動機構により前記クラッチの切断動作を完了し、前記第2の時点後に前記シフト機構により前記ギアポジションをシフトさせる、変速制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記シフト操作部の前記第1の位置からの距離の増加に従って前記クラッチの伝達トルクの絶対値が低下するように前記クラッチ作動機構による前記クラッチの切断動作を制御する、請求項1記載の変速制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の位置と前記第2の位置との間の任意の位置に対応して変化する値として設定される第1の伝達トルク目標値に従って前記クラッチの伝達トルクの絶対値が低下するように前記クラッチ作動機構により前記クラッチの切断動作を制御する、請求項1または2記載の変速制御システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記シフト操作部が前記第2の位置から前記第1の位置側へ移動を開始した第3の時点において前記クラッチ作動機構により前記クラッチの接続動作を開始し、前記シフト操作部が前記第1の位置に復帰した第4の時点において前記クラッチ作動機構による前記クラッチの接続動作を完了する、請求項1〜3のいずれかに記載の変速制御システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記シフト操作部の前記第2の位置からの距離の増加に従って前記クラッチの伝達トルクの絶対値が上昇するように前記クラッチ作動機構による前記クラッチの接続動作を制御する、請求項4記載の変速制御システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第2の位置と前記第1の位置との間の任意の位置に対応して変化する値として設定される第2の伝達トルク目標値に従って前記クラッチの伝達トルクの絶対値が上昇するように前記クラッチ作動機構による前記クラッチの接続動作を制御する、請求項4または5記載の変速制御システム。
【請求項7】
前記エンジンにおいて発生されるエンジントルクを調整するエンジントルク調整部をさらに備え、
前記制御部は、
前記第1の時点と前記第2の時点との間の期間においては、前記第1の位置と前記第2の位置との間の任意の位置に対応して変化する第1のエンジントルク目標値に従って前記エンジントルク調整部により前記エンジントルクを第1の値から第2の値に変化させ、
前記第3の時点と前記第4の時点との間の期間においては、前記第2の位置と前記第1の位置との間の任意の位置に対応して変化する第2のエンジントルク目標値に従って前記エンジントルク調整部により前記エンジントルクを前記第2の値から前記第1の値に変化させる、請求項4〜6のいずれかに記載の変速制御システム。
【請求項8】
前記シフト操作部の前記第1の位置と前記第2の位置との間における位置を検出する第1の検出器をさらに備え、
前記制御部は、前記第1の検出器により検出される位置に基づいて前記クラッチ作動機構を制御する、請求項1〜7のいずれかに記載の変速制御システム。
【請求項9】
前記シフト操作部の前記第1の位置と前記第2の位置との間における第3および第4の位置を検出する第2の検出器と、
前記第2の検出器により前記第3の位置が検出される第5の時点および前記第2の検出器により前記第4の位置が検出される第6の時点を測定する測定器とをさらに備え、
前記制御部は、前記第2の検出器により検出される前記第3および第4の位置と前記測定器により検出される第5および第6の時点に基づいて前記シフト操作部の位置を算出し、その算出される位置に基づいて前記クラッチ作動機構を制御する、請求項1〜7のいずれかに記載の変速制御システム。
【請求項10】
駆動輪と、
エンジンと、
前記エンジンにより発生されるトルクを前記駆動輪に伝達する変速機と、
前記エンジンと前記変速機との間に設けられるクラッチと、
請求項1〜9のいずれかに記載の変速制御システムとを備えた、車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−90928(P2010−90928A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259261(P2008−259261)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】