説明

変速制御装置、鞍乗型車両、及び変速制御方法

【課題】摩擦クラッチをアクチュエータによって操作する車両において、変速時の加速性の向上を図るとともに、乗り心地の悪化を抑制できる変速制御装置を提供する。
【解決手段】変速制御装置は、変速指示の入力に応じてクラッチアクチュエータを作動させ、変速機に設けられた複数のギアがドッグクラッチによって選択的に係合する前に、接続状態と切断状態との間の中間状態にクラッチを設定する。中間状態では、接続状態における押圧力より低い押圧力で、クラッチの駆動側摩擦部材と被駆動側摩擦部材とが互いに押圧される。変速制御装置は、複数のギアが選択的に係合した後にクラッチアクチュエータを作動させて、中間状態に設定されている摩擦クラッチを、接続状態に復帰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータによってクラッチを制御する変速制御装置、鞍乗型車両、及び変速制御方法において、特に、変速時の車両の加速性の向上を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンから車輪に至るトルクの伝達経路上に配置されるクラッチをアクチュエータによって操作したり、クラッチの操作に加えて、その下流側に配置される変速機をもアクチュエータによって操作するセミオートマチックの車両がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
自動二輪車などの鞍乗型車両には、駆動側摩擦部材(例えば、フリクションディスク)と被駆動側摩擦部材(例えば、クラッチディスク)とを有する摩擦クラッチと、軸方向に相対移動可能な複数のギアを有する常時噛み合い式の変速機とを備えるものがある。常時噛み合い式の変速機では、ギアにはドッグクラッチが形成されており、変速時に複数のギアが選択的に移動し、ドッグクラッチによって係合するギアの組み合わせが変わることによって、トルクを伝達するギアが切り換えられる。
【0004】
このような変速機及びクラッチを備えるセミオートマチックの車両では、搭乗者がシフトボタンやシフトペダルを操作してギアの切り換えを指示すると、まずアクチュエータがクラッチを切断することによって、変速機へのトルク伝達が遮断され、その後、ギアの移動が開始する。そして、ギアの移動が完了し、変速指示の内容に応じた組み合わせでギアが係合した後に、アクチュエータによるクラッチの接続操作、すなわちクラッチを切断状態から接続状態に移行させる制御が開始される。この制御では、通常、クラッチは徐々に接続状態に近づくよう制御され、駆動側摩擦部材と被駆動側摩擦部材との間に押圧力が発生した時点からクラッチ及び変速機によるトルク伝達が開始する。
【特許文献1】特開2001−173685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の制御では、クラッチを一時的に切断状態にするために、クラッチの接続操作の開始後に車輪へのトルク伝達が開始するまでに時間が掛かり、変速時に十分な加速性が得られない場合がある。
【0006】
この点、ギアの移動が完了する前、すなわちドッグクラッチによって2つのギアが係合する前にクラッチを接続状態にする制御や、クラッチを接続させたままギアを移動させて係合させる制御も考えられる。このような制御によれば、2つのギアがドッグクラッチによって係合すると同時に、クラッチ及び変速機を介して車輪にトルクが伝達される。例えば、変速指示がなされた時に、クラッチの接続状態を維持しておく一方で、エンジン出力を抑えることで変速機に伝わるトルクを低減し、その後、ギアの移動を開始する。そして、クラッチの接続状態を維持したまま、新たな組み合わせでギアを係合させる。しかしながら、このような制御によれば、変速時の加速性の向上が図られるものの、ドッグクラッチによってギアが係合した時に車輪へ伝達されるトルクが過大であるため、衝撃が発生し、変速時の車両の乗り心地が悪化する恐れがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、変速時の加速性の向上を図るとともに、乗り心地の悪化を抑制できる変速制御装置、鞍乗型車両、及び変速制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る変速制御装置は、接続状態において互いに押圧されてトルクを伝達し、切断状態においては前記押圧が解除されてトルク伝達を遮断する駆動側摩擦部材と被駆動側摩擦部材とを含む摩擦クラッチと、ドッグクラッチをそれぞれ有する複数のギアを含み、変速時に、前記複数のギアが選択的に相対移動し、前記ドッグクラッチによって選択的に係合することによって、新たな変速比でトルクを伝達する変速機とを備える鞍乗型車両の変速制御装置であって、前記摩擦クラッチを操作するクラッチアクチュエータを備える。そして、前記変速制御装置は、変速指示の入力に応じて前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合する前に、前記接続状態における押圧力より低い押圧力で前記駆動側摩擦部材と前記被駆動側摩擦部材とが互いに押圧される中間状態に前記摩擦クラッチを移行させるクラッチ移行制御部と、前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合した後に前記クラッチアクチュエータを作動させて、前記中間状態に設定されている前記摩擦クラッチを、前記接続状態に復帰させるクラッチ復帰制御部とを備える。
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明に係る鞍乗型車両は、上記変速制御装置を備える。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明に係る変速制御方法は、接続状態において互いに押圧されてトルクを伝達し、切断状態においては前記押圧が解除されてトルク伝達を遮断する駆動側摩擦部材と被駆動側摩擦部材とを含む摩擦クラッチと、前記摩擦クラッチを操作するクラッチアクチュエータと、ドッグクラッチをそれぞれ有する複数のギアを含み、変速時に、前記複数のギアが選択的に相対移動し、前記ドッグクラッチによって選択的に係合することによって、新たな変速比でトルクを伝達する変速機と、を備える鞍乗型車両における変速制御方法である。前記変速制御方法は、変速指示の入力に応じて前記クラッチアクチュエータを作動させて、前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合する前に、前記接続状態における押圧力より低い押圧力で前記駆動側摩擦部材と前記被駆動側摩擦部材とが互いに押圧される中間状態に前記摩擦クラッチを設定するステップと、前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合した後に前記クラッチアクチュエータを作動させて、前記中間状態に設定されている前記摩擦クラッチを、前記接続状態に復帰させるステップとを含む。
【0011】
これによって、ドッグクラッチによって変速機のギアが選択的に係合した時点で、摩擦クラッチ及び変速機を介して車輪にトルクが伝達されるようになるので、車輪へのトルク伝達が遮断されている時間が短くなり、変速時の加速性を向上できる。また、中間状態において駆動側摩擦部材と被駆動側摩擦部材との間に働く押圧力は、接続状態より低いので、ドッグクラッチによって変速機のギアが係合した時の衝撃の発生が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態の例である変速制御装置10を備える自動二輪車1の側面図である。図2は、自動二輪車1のトルクの伝達経路上に配置された機構と変速制御装置10の概略図である。
【0013】
図1に示すように、自動二輪車1は、変速制御装置10の他に、エンジンユニット100と、前輪2と、後輪3とを備えている。前輪2は車体の前部に配置され、フロントフォーク4によって支持されている。フロントフォーク4の上方にはハンドル5が配置され、前輪2とハンドル5は搭乗者のハンドル操作によって一体的に回転するよう設けられている。ハンドル5の端部には搭乗者のスロットル操作に応じて回転するスロットルグリップ5aが設けられている。ハンドル5の後方には、搭乗者が跨って座るためのシート6が配置され、シート6の下方にエンジンユニット100が配置されている。
【0014】
図2に示すように、エンジンユニット100は、エンジン30と、一次減速機構36と、摩擦クラッチ40と、変速機50とを含み、エンジン30は、シリンダ31と、ピストン32と、クランクシャフト34とを備えている。
【0015】
シリンダ31には、内部にスロットルバルブ37aが配置されたスロットルボディ37が接続されている。スロットルバルブ37aは電子制御されており、スロットルボディ37に取り付けられたバルブアクチュエータ63がスロットルバルブ37aを開閉する。また、シリンダ31とスロットルボディ37との間に設けられた吸気通路35には、燃料供給装置としてインジェクタ62が取り付けられている。シリンダ31には点火プラグ61が設けられ、当該点火プラグ61は吸気通路35から流れ込む空気と燃料との混合気に点火する。ピストン32は混合気が燃焼することでシリンダ31内を往復運動し、ピストン32に連結されているクランクシャフト34は、ピストン32の往復運動を受けて回転する。なお、この説明では、スロットルバルブ37aは電子制御式のバルブとして説明するが、スロットルバルブ37aはスロットルグリップ5aにワイヤーなどで接続され、スロットルグリップ5aの操作に応じて開閉してもよい。また、インジェクタ62に替えてキャブレターが燃料供給装置として設けられてもよい。
【0016】
一次減速機構36は、クランクシャフト34と一体的に回転する駆動側の一次ギア36aと、当該一次ギア36aに噛み合う被駆動側の一次ギア36bとを備え、それらのギア比でクランクシャフト34の回転を減速する。
【0017】
摩擦クラッチ40(以下では単にクラッチとする)は、例えば多板摩擦クラッチや単板摩擦クラッチであり、被駆動側の一次ギア36bと一体的に回転する駆動側摩擦部材41(例えばフリクションディスクなど)と、メイン軸52と一体的に回転する被駆動側摩擦部材42(例えば、クラッチディスク)とを備えている。クラッチ40の接続状態では、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42はクラッチスプリング44によって互いに押圧され、それらの間に生じる摩擦力によって一体的に回転する。そして、エンジン30のトルクは、駆動側摩擦部材41から被駆動側摩擦部材42を介してメイン軸52に伝達される。クラッチ40の切断状態では、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが、クラッチスプリング44の弾性力に抗して互いに離れ、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42との押圧が解除される。そして、被駆動側摩擦部材42は、当該駆動側摩擦部材41に対して空転し、トルク伝達が遮断される。なお、後述するように、変速制御装置10はクラッチアクチュエータ14を備え、クラッチ40を接続状態から切断側に移行させる操作、及びクラッチ40を接続状態に復帰させる操作は、このクラッチアクチュエータ14によって行なわれる。
【0018】
なお、ここでは駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とがクラッチスプリング44によって押圧される摩擦クラッチを例にして説明するが、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42は、油圧によって押圧されてもよい。この場合、クラッチアクチュエータ14は、この油圧を低減することで、クラッチ40を切断側に移行させる。
【0019】
変速機50について説明する。図3は変速機50の概略図である。変速機50は、常時噛み合い式の変速機であり、メイン軸52上に配置される複数(ここでは6個)の変速ギア53a・・・53fと、出力軸55上に配置され、メイン軸52上の変速ギア53a・・・53fと噛み合っている複数の変速ギア54a・・・54fとを有している。また、互いに噛み合う一対の変速ギアのうち一方は軸に対して空転するよう設けられている。ここで説明する例では、変速ギア53b,53e,54a,54c,54d,54fは、それぞれメイン軸52又は出力軸55に対して空転するよう設けられ、それらに噛み合う変速ギア54b,54e,53a,53c,53d,53fは、メイン軸52又は出力軸55と一体的に回転するよう設けられている。なお、図3では簡略化のため変速ギア53a・・・53fと変速ギア54a・・・54fは離して示されている。
【0020】
変速機50はドッグクラッチ式であり、変速ギア53c,53d,54b,54eは軸方向に移動可能に設けられ、当該変速ギア53c,53d,54b,54eには、軸方向に突出する突起であるドッグクラッチ51aが形成されている。また、これらの変速ギア53c,53d,54b,54eに対して軸方向で向き合う変速ギア53b,53e,54a,54c,54d,54fには、ドッグクラッチ51aが嵌る凹部であるドッグクラッチ51bが形成されている。変速ギア53c,53d,54b,54eは、隣接する変速ギア53b,53e,54a,54c,54d,54fとドッグクラッチ51a,51bによって係合する係合位置と、それらのギアと係合しない非係合位置との間で移動可能に設けられている。
【0021】
変速時には、変速指示によって新たに設定される変速段に対応する変速ギア(以下、新変速段移動ギア)が係合位置まで動かされ、当該新変速段移動ギアと、それに隣接する変速ギア(以下、新変速段静止ギア)とがドッグクラッチ51a,51bによって係合する。そして、その他の変速ギアは非係合位置に戻される。すなわち、変速時には、変速指示の内容(1速から2速への変速や、4速から3速への変速等)に応じて変速ギア53c,53d,54b,54eが選択的に係合位置まで動かされ、変速ギア53b,53e,54a,54c,54d,54fと係合する。また、当該変速指示の入力前の変速段において係合位置に配置されていた変速ギアは非係合位置に戻される。これによって、エンジン30のトルクを後輪3側に伝達するギアが切り換わる。例えば、変速指示の入力前の変速段において、変速ギア53cが係合位置にある場合には、メイン軸52の回転は、変速ギア53c,53b,54bを介して出力軸55に伝達される。その後、変速指示が入力されると、例えば、変速ギア53dが係合位置に配置され、メイン軸52の回転は、変速ギア53d,53e,54eを介して出力軸55に伝達される。
【0022】
変速機50には、変速ギア53c,53d,54b,54eを移動させるギア切換機構56が設けられている。図3の例では、ギア切換機構56は、変速ギア53c,53d,54b,54eに引っ掛かる複数のシフトフォーク56aと、回転してシフトフォーク56aを軸方向に移動させるシフトカム56bとを有している。なお、後述するように変速制御装置10はシフトアクチュエータ16を備えており、シフトアクチュエータ16は、変速指示の入力に応じてシフトカム56bを回転させ、それによってシフトフォーク56aとともに新変速段移動ギアを移動させる(図2参照)。以上が変速機50の説明である。
【0023】
図2に示すように、伝達機構57は、出力軸55の回転を減速して後輪3の車軸3aに伝達する機構であり、例えば、出力軸55と連動する駆動側部材(例えば、駆動側スプロケット)57aと、車軸3aと連動する被駆動側部材(例えば、被駆動側スプロケット)57bと、駆動側部材57aから被駆動側部材57bにトルクを伝達する伝達部材(例えば、チェーンや、ベルト、シャフト等)57cとを含んでいる。
【0024】
エンジン30から出力されたトルクは、一次減速機構36と、クラッチ40と、変速機50と、伝達機構57とを介して後輪3の車軸3aに伝達される。
【0025】
変速制御装置10の構成について説明する。自動二輪車1はセミオートマチックの車両であり、クラッチ40の操作と、変速ギア53c,53d,54b,54eの移動は変速制御装置10によって行なわれる。図4は、変速制御装置10の構成を示すブロック図である。図2又は図4に示すように、変速制御装置10は、電子制御ユニット11と、クラッチアクチュエータ14と、シフトアクチュエータ16と、スロットル操作センサ17と、エンジン回転センサ18と、出力軸回転センサ19、ギア位置センサ21と、クラッチ位置センサ22と、シフトアップスイッチ9aとシフトダウンスイッチ9bとを備え、電子制御ユニット11には、制御部70と、記憶部12と、クラッチアクチュエータ駆動回路13と、シフトアクチュエータ駆動回路15と、エンジン駆動回路24とが設けられている。
【0026】
記憶部12はRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などを備えている。制御部70はCPU(Central Processing Unit)を備え、記憶部12に格納されているプログラムに従って動作する。ここでは、制御部70は、変速指示に応じて、すなわち搭乗者がシフトアップスイッチ9a又はシフトダウンスイッチ9bをオンする操作に応じて、クラッチアクチュエータ14及びシフトアクチュエータ16を作動させて、クラッチ40及び変速機50を制御する。また、制御部70は、変速指示に応じてエンジン30が出力するトルクを低減する制御も実行する。制御部70が実行する制御については後において詳細に説明する。
【0027】
クラッチアクチュエータ駆動回路13は、制御部70から入力される信号に従って、クラッチアクチュエータ14に、その駆動電力を供給する。クラッチアクチュエータ14は、例えば、モータやソレノイド、及びそれらの動力をクラッチ40に伝える動力伝達機構(例えば、油圧経路やワイヤ)を含み、クラッチアクチュエータ駆動回路13から供給される電力によって作動する。例えば、クラッチアクチュエータ14は、クラッチ40を切断側に移行させる際には、クラッチスプリング44の弾性力に抗して、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とを離し、それらの間に働いていた押圧力を低減する。また、クラッチ40を接続状態に移行させる際には、クラッチアクチュエータ14は、クラッチスプリング44による駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42との押圧を徐々に許容する。その結果、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42はクラッチスプリング44の弾性力を受けて、再び互いに押圧される。
【0028】
シフトアクチュエータ駆動回路15は、制御部70から入力される信号に従って、シフトアクチュエータ16に、その駆動電力を供給する。シフトアクチュエータ16は、例えば、モータや、その動力をシフトカム56bに伝達する動力伝達機構(例えば、ロッド等)を含み、アクチュエータ駆動回路15から供給される電力によって作動する。シフトアクチュエータ16は、ギア切換機構56を作動させて、変速ギア53c,53d,54b,54eを軸方向に選択的に移動させる。具体的には、シフトアクチュエータ16は、変速指示が入力される度に、予め設定された角度だけシフトカム56bを順次回転させる。
【0029】
エンジン駆動回路24は、制御部70から入力される信号に応じて、エンジン30に設けられた各種電装品にその駆動電力を供給する。ここでは、エンジン駆動回路24は、点火プラグ61に電力を供給する駆動回路と、と、インジェクタ62に電力を供給する駆動回路と、バルブアクチュエータ63に電力を供給する駆動回路を含んでいる。制御部70は、点火プラグ61、インジェクタ62、又はバルブアクチュエータ63を制御して、エンジン30が出力するトルクを制御する。
【0030】
スロットル操作センサ17は、搭乗者によるスロットルグリップ5aの操作量(以下、スロットル操作量Sopeとする)を検知するためのセンサであり、例えば、スロットルグリップ5aの回転角度に応じた信号を出力する。制御部70は、スロットル操作センサ17から出力される信号に基づいてスロットル操作量Sopeを検知し、当該スロットル操作量Sopeに応じた角度だけスロットルバルブ37aが開くように、バルブアクチュエータ63を作動させる。
【0031】
ギア位置センサ21は、変速時に移動対象とされる変速ギア53c,53d,54b,54eの位置を検知するためのセンサであり、例えば、シフトカム56bの回転角に応じた信号を出力するポテンショメータによって構成される。制御部70は、ギア位置センサ21が出力する信号に基づいて、変速ギア53c,53d,54b,54eの位置を検知する。
【0032】
クラッチ位置センサ22は、クラッチ40の作動状態(クラッチ40の接続度合)を検知するためのセンサである。クラッチアクチュエータ14の作動位置はクラッチ40の作動状態に対応しており、クラッチ位置センサ22は、例えば、クラッチアクチュエータ14の作動位置に応じた信号を出力するポテンショメータによって構成される。制御部70は、クラッチアクチュエータ14の作動位置をクラッチ位置Pcとして検知する。
【0033】
シフトアップスイッチ9a及びシフトダウンスイッチ9bは、搭乗者が変速制御装置10に変速を指示するためのスイッチであり、例えば、図2に示すようにハンドル5に設けられる。シフトアップスイッチ9a及びシフトダウンスイッチ9bは、搭乗者のスイッチ操作を示す信号を変速指示として制御部70に入力する。
【0034】
エンジン回転センサ18は、エンジン30の回転速度(以下、エンジン回転数Ne)や、駆動側摩擦部材41の回転速度(以下、駆動側回転数Nup)など、クラッチ40の上流側に位置する機構の回転速度を検知するためのセンサであり、例えば、クランクシャフト34の回転速度に応じた頻度でパルス信号を出力するクランク角センサや、一次減速ギア36a,36bの回転速度に応じた頻度でパルス信号を出力するセンサによって構成される。
【0035】
出力軸回転センサ19は、車速Vや、被駆動側摩擦部材42の回転速度(以下、被駆動側回転数Nlow)など、クラッチ40の下流側に位置する機構の回転速度を検知するためのセンサであり、例えば、出力軸55とともに回転する変速ギア54b,54eの回転速度に応じた頻度でパルス信号を出力するセンサである。なお、車速Vや被駆動側回転数Nlowを算出するためのセンサとして、出力軸回転センサ19に替えて、メイン軸52や車軸3aの回転速度に応じて信号を出力するセンサが設けられてもよい。
【0036】
制御部70が実行する制御について説明する。図5は制御部70の機能ブロック図である。なお、同図においては、制御部70とともに、当該制御部70に信号を出力するセンサも示されている。同図に示すように、制御部70は、その機能として、エンジン回転数算出部71aと、駆動側回転数算出部71bと、被駆動側回転数算出部71cと、回転数差算出部71dと、車速算出部71eと、エンジン制御部72と、要求トルク取得部73と、クラッチ移行制御部74と、ギア切換制御部75と、ギア移動判定部76と、クラッチ復帰制御部77と、実トルク算出部78と、目標トルク設定部79と、を含んでいる。
【0037】
まず、制御部70が実行する制御の概要について説明する。図6は、変速時に制御部70が実行する制御を説明するためのタイムチャートである。同図(a)はクラッチ位置Pcを示し、同図(b)はシフトアクチュエータ16の作動位置を示し、同図(c)はシフトカム56bの回転位置を示し、同図(d)はエンジン30が出力するトルクを示し、同図(e)は後輪3に伝達されるトルクを示し、同図(f)は駆動側回転数Nupと被駆動側回転数Nlowとの差(以下、クラッチ回転数差Ndiff(Ndiff=Nup−Nlow)を示している。なお、ここではシフトアップが指示される場合を例にして説明する。
【0038】
t1においてシフトアップスイッチ9aから制御部70に変速指示が入力されると、同図(c)に示すように、エンジン制御部72はエンジン30が出力するトルク(以下、エンジントルク)を低減する制御(以下、出力低減制御(例えば、遅角制御))を開始する。この出力低減制御によって、エンジントルクは、予め設定されたトルク(例えば、0や0より僅かに高い値)まで低減されたり、予め設定された量だけ低減される。
【0039】
また、同図(b)に示すように、ギア切換制御部75は、変速指示の入力に応じて、シフトアクチュエータ16を中立の位置からシフトアップ方向へ作動させる(t3)。その結果、同図(c)に示すように、ギア切換機構56によってシフトカム56bが回転し、t4において、変速指示を受ける前の変速段に対応する2つの変速ギア(以下、前変速段ギア)の係合が解除されるとともに、新変速段移動ギアの移動が開始する。そして、t5において新変速段移動ギアが新変速段静止ギアと係合し、新変速段移動ギアの移動が完了する。なお、本実施形態ではエンジン制御部72によって出力低減制御が実行されているため、クラッチ40を介して変速機50に伝達されるトルクも低減されており、前変速段ギアの係合の解除に要する力は小さくなっている。
【0040】
また、同図(a)に示すように、変速指示が入力されると、クラッチ移行制御部74は、それまでの走行において接続状態に設定されていたクラッチ40を切断側に移行させる(t2)。特に本実施形態では、クラッチ移行制御部74は、クラッチ40を切断状態に設定するのではなく、接続状態と切断状態の間の状態であって、接続状態より低い押圧力で駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが互いに押圧される中間状態にクラッチ40を移行させる。この中間状態では駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42との間に働く押圧力は完全には解除されていないため、クラッチ40による下流側(すなわち後輪3側)へのトルク伝達は可能となっている。また、クラッチ移行制御部74は、t5において新変速段移動ギアの移動が完了するより前に、クラッチ40をこの中間状態に設定する。そのため、同図(e)に示すように、後輪3へのトルク伝達は、前変速段ギアの係合が解除された時点(t4)で一時的に停止するものの、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合した時点(t5)から再開する。なお、エンジン制御部72によって出力低減制御が実行されているため、後輪3に伝達されるトルクは、変速指示の入力後に徐々に小さくなっている。
【0041】
また、こうすることによって、変速時のエンジン回転数Neの上昇を抑えることができる。つまり、従来の制御では、クラッチは、一旦切断状態に設定され、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合した後に、後輪へのトルク伝達が開始する中間状態へ移行していた。そして、クラッチが切断状態から中間状態に達するまではクラッチを介してトルクが伝達されていないため、その間にエンジンが空転し、エンジン回転数が上昇していた。しかしながら、本実施形態では、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合するt5の時点でクラッチ40によるトルク伝達が開始するので、エンジン30が空転する時間が短縮され、エンジン回転数Neの上昇が抑制される。
【0042】
さらに、本実施形態では、要求トルク取得部73によって、変速中(クラッチ40が中間状態から接続状態へ復帰するまでの間)にクラッチ40による下流側への伝達が要求されるトルク(以下、要求トルクTreq)が算出され、この要求トルクTreqに応じて、上記中間状態におけるクラッチ位置(以下、要求クラッチ位置Preq、同図(a)参照)が設定される。摩擦クラッチでは、一般的にクラッチ位置に応じた押圧力で駆動側摩擦部材と被駆動側摩擦部材とが押圧され、その押圧力に応じたトルクが摩擦クラッチを介して伝達される。そのため、クラッチ位置と、当該摩擦クラッチを介して伝達されるトルクとは相関している。そのため、t5において新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合すると、その時点で、要求トルクTreqに応じたトルクがクラッチ40及び変速機50を介して後輪3に伝達される(同図(e)参照)。
【0043】
なお、より好適な形態では、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合するまでクラッチ回転数差Ndiffを生じさせない押圧力で、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが互いに押圧されるクラッチ位置Pcが、要求クラッチ位置Preqとして設定される。すなわち、摩擦クラッチには、接続位置に近いクラッチ位置Pcなど、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合するまでクラッチ回転数差Ndiffを生じさせない押圧力で、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが押圧されるクラッチ位置Pcの範囲がある。この範囲内のクラッチ位置Pcであって、要求トルクTreqに対応するクラッチ位置Pcが要求クラッチ位置Preqとして設定される。
【0044】
このようなクラッチ位置Pcが要求クラッチ位置Preqとして設定されることによって、同図(f)に示すように、t5において新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合するまで、クラッチ回転数差Ndiffは発生しない。そして、t5においてこれらのギアが係合した時に、被駆動側摩擦部材42から後輪3までの機構が一体的に回転し始め、被駆動側摩擦部材42が駆動側摩擦部材41に対して滑り、クラッチ回転数差Ndiffが発生する。こうすることによって、t5において新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合した後だけでなく、t4において前変速段ギアの係合が解除されてからt5に至るまでの間においても、クラッチ40より上流側の機構の回転数、すなわちエンジン回転数Neの上昇が抑制される。要求トルクTreq及び要求クラッチ位置Preqを設定する処理については後において詳説する。
【0045】
同図(a)に示すように、クラッチ復帰制御部77は、t5において新変速段移動ギアの移動が完了した後、クラッチ40を中間状態から接続状態に復帰させる制御(以下、復帰制御)を開始する。具体的には、クラッチ復帰制御部77は、クラッチアクチュエータ14を作動させて、クラッチ位置Pcを緩やかに変化させる。復帰制御においては、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42は緩やかに押圧されており、同図(f)に示すようにクラッチ回転数差Ndiffは徐々に解消される。そして、t6においてクラッチ回転数差Ndiffが所定の回転数(以下、変速終了判定値Nth)より低くなると、クラッチ復帰制御部77は、クラッチ40を完全に接続し、接続状態に復帰させる(t7)。これによって、変速制御装置10による変速が完了する。
【0046】
要求トルクTreq及び要求クラッチ位置Preqを設定する処理について説明する。要求トルク取得部73は、変速時の制御(上述した出力低減制御、又はクラッチ40を中間状態へ移行する制御等)を開始する前の運転状態に基づいて、クラッチ40の接続状態への復帰後にクラッチ40を介して伝達されるトルク(以下、完了後トルクTfin)を推定する。そして、要求トルク取得部73は、完了後トルクTfinに基づいて要求トルクTreqを設定し、クラッチ移行制御部74は、この要求トルクTreqに応じて要求クラッチ位置Preqを設定する。こうすることによって、同図(e)に示すように、クラッチ40の接続状態への復帰が完了する時点で後輪3に伝達されるトルク(t7でのトルクTfin)、或いはそれに近いトルクを、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合した時点で後輪3に伝達でき、接続の完了時に後輪3へ伝達されるトルクの変動を抑制できる。
【0047】
なお、エンジン制御部72は、同図(d)に示すように、t5において新変速段移動ギアの移動が完了した時に、出力低減制御の実行を抑制し、エンジントルクを予め設定された量(以下、中間回復トルクΔTre)だけ回復させる。その後、t6においてクラッチ回転数差Ndiffが変速終了判定値Nthより低くなると、出力低減制御を完全に停止し、エンジントルクを通常走行時のレベルに回復させる。
【0048】
以下、制御部70の各部が実行する処理について詳細に説明する。
【0049】
エンジン回転数算出部71aは、エンジン回転センサ18から出力される信号に基づいてエンジン回転数Neを算出する。駆動側回転数算出部71bは、例えば、エンジン回転センサ18から出力される信号と一次減速機構36の減速比とに基づいて、駆動側回転数Nupを算出する。被駆動側回転数算出部71cは、出力軸回転センサ19から出力される信号と、変速機50においてメイン軸52から出力軸55にトルクを伝達している変速ギアの減速比とに基づいて被駆動側回転数Nlowを算出する。回転数差算出部71dは、被駆動側回転数Nlowと駆動側回転数Nupとに基づいて、クラッチ回転数差Ndiff(Nup−Nlow)を算出する。車速算出部71eは、出力軸回転センサ19から出力される信号に基づいて、車速Vを算出する。
【0050】
上述したように、エンジン制御部72は、変速指示が入力された時に、エンジントルクを低減する出力低減制御を開始し、予め設定されたトルクまでエンジントルクを低減したり、予め設定された量だけエンジントルクを低減する。例えば、エンジン制御部72は、通常の走行時より遅いタイミングで点火プラグ61による点火を行う遅角制御や、スロットル操作量Sopeに対するスロットルバルブ37aの開度を低減することによってシリンダ31に流入する空気量を低減する制御、インジェクタ62による燃料噴射量を低減する制御などを出力低減制御として実行する。
【0051】
また、エンジン制御部72は、新変速段移動ギアの移動が完了した後に、エンジントルクを段階的に回復させる。例えば、上述したように、エンジン制御部72は、新変速段移動ギアの移動が完了した時に(図6においてt5)、点火タイミングを出力低減制御のタイミングから僅かに復帰させたり、スロットル操作量Sopeに対するスロットルバルブ37aの開度を復帰させるなど、出力低減制御の実行を部分的に抑制する。そして、エンジン制御部72は、出力低減制御を開始する前のエンジントルクより低いトルクにまでエンジントルクを回復させたり、上述した中間回復トルクΔTreだけエンジントルクを回復させる。その後、エンジン制御部72は、クラッチ回転数差Ndiffが変速終了判定値Nthより小さくなった時に(図6においてt6)、点火タイミング等を通常の走行時のタイミングにまで復帰させて、出力低減制御を開始する前のトルクにまでエンジントルクを回復させる。なお、エンジントルクTEを回復させる制御は、以上説明した制御に限られない。例えば、エンジン制御部72は、新変速段移動ギアの移動が完了した後に、エンジントルクを漸次増加させてもよい。
【0052】
要求トルク取得部73は、上述したように、クラッチ40の接続状態への復帰後にクラッチ40を介して伝達されるトルク(すなわち、完了後トルクTfin)を、変速時の制御を開始する前の運転状態に基づいて推定し、当該完了後トルクTfinに基づいて要求トルクTreqを算出する。ここで、変速時の制御を開始する前とは、例えば、上述したようにクラッチ40の中間状態への移行が開始する前や出力低減制御を開始する前である。この処理は例えば次のようにして実行される。
【0053】
図5に示すように、要求トルク取得部73は、クラッチ40が接続状態に復帰した時(図6においてはt7)のエンジントルク(以下、完了後エンジントルクTEfin)を推定するエンジントルク推定部73aと、クラッチ40が接続状態に復帰した時にクラッチ40より上流側の機構(エンジン30や一次減速機構36等)の慣性によって発生する慣性トルク(以下、完了後慣性トルクTIfin)を推定する慣性トルク推定部73bとを含んでいる。そして、要求トルク取得部73は、この完了後エンジントルクTEfinと完了後慣性トルクTIfinとに基づいて完了後トルクTfinを算出する。
【0054】
まず、エンジントルク推定部73aの処理について説明する。エンジントルク推定部73aは、まず、変速時の制御を開始する前の運転状態(例えば車速Vやエンジン回転数Ne)に基づいて、クラッチ40が接続状態に復帰する時のエンジン回転数(以下、完了後エンジン回転数Nefin)を推定する。例えば、エンジントルク推定部73aは、車速Vと、伝達機構57の減速比Rtと、変速指示によって新たに設定される変速段の減速比Rnewgearと、一次減速機構36の減速比Rpとを乗じ、それによって得られる値を完了後エンジン回転数Nefin(Nefin=V×Rt×Rnewgear×Rp)とする。また、エンジントルク推定部73aは、このように算出された値を、変速時の制御を開始する前のエンジン回転数Neに基づいて補正し、得られた値を完了後エンジン回転数Nefinとしてもよい。
【0055】
記憶部12には、エンジン回転数Neとスロットル操作量Sopeとに、エンジントルクを対応づけるマップ(以下、エンジントルクマップ)や算式が予め格納されている。エンジントルク推定部73aは、変速時の制御を開始する前にスロットル操作量Sopeを検知し、このエンジントルクマップ等を参照して、算出した完了後エンジン回転数Nefinとスロットル操作量Sopeとに対応するエンジントルクを取得し、当該エンジントルクを完了後エンジントルクTEfinとする。
【0056】
なお、車速Vやスロットル操作量Sopeを検知するタイミングは、例えば、クラッチ移行制御部74によるクラッチ40の移行開始時(図6においてt2)より所定時間(例えば、数百ミリ秒)前や、変速指示の入力時(図6においてt1)である。
【0057】
次に、慣性トルク推定部73bの処理について説明する。完了後慣性トルクTIfinは、上述したように、クラッチ40が接続状態に復帰した時に、クラッチ40より上流側の機構の慣性によって発生すると推定されるトルクであり、クラッチ40が接続状態に復帰する時のエンジン回転数Neの変化速度(以下、エンジン回転加速度dNefin/dt)と、上流側の機構の慣性モーメントIとを乗じ、それによって得られる値(I×(dNefin/dt))である。このエンジン回転加速度dNefin/dtは、変速時の制御を開始する前のクラッチ40より下流側の機構の回転加速度(例えば、車両の加速度dV/dt)に依存する値である。そこで、慣性トルク推定部73bは、例えば、変速時の制御を開始する前に車両の加速度dV/dtを算出し、当該加速度dV/dtと、伝達機構57の減速比Rtと、変速指示によって新たに設定される変速段の減速比Rnewgearと、一次減速機構36の減速比Rpとを乗じて得られる値を、クラッチ40が接続状態に復帰した時のエンジン回転加速度dNefin/dt(dNefin/dt=dV/dt×Rt×Rnewgear×Rp)とする。そして、慣性トルク推定部73bは、エンジン回転加速度dNefin/dtと慣性モーメントIとを乗じ、それによって得られる値を完了後慣性トルクTIfin(TIfin=I×dNefin/dt)とする。慣性トルク推定部73bは、例えば、クラッチ移行制御部74によるクラッチ40の移行開始時より所定時間(例えば、数百ミリ秒)前や、変速指示の入力時における車両の加速度dV/dtに基づいて、以上の処理を行う。
【0058】
なお、慣性トルク推定部73bの処理は、以上説明した処理に限られず、種々の変更が可能である。例えば、慣性トルク推定部73bの処理は、変速時の制御を開始する前の被駆動側摩擦部材42の回転加速度dNlow/dtと、一次減速機構の減速比Rp等に基づいて、クラッチ40の接続状態への復帰時のエンジン回転加速度dNefin/dtを推定してもよい。また、慣性トルク推定部73bは、このようにして算出されたエンジン回転加速度dNefin/dtや、完了後慣性トルクTIfinを車両の運転状態等に基づいて補正し、補正後のエンジン回転加速度dNefin/dt等が、その後の処理に供されてもよい。
【0059】
中間状態にあるクラッチ40を介して下流側に伝達されるトルクは、エンジントルクと、クラッチ40より上流側の機構の慣性によって発生する慣性トルクとの差(エンジントルク−慣性トルク)となっている。つまり、エンジン回転数Neが上昇している時には、エンジントルクから、エンジン回転数Neの上昇に寄与するトルク(すなわち慣性トルク)を引いた残りのトルクが、クラッチ40を介して下流側に伝達され、エンジン回転数Neが下降している時には、エンジントルクに加えて、エンジン回転数Neの下降によって生じる慣性トルクも、クラッチ40を介して伝達される。
【0060】
そこで、要求トルク取得部73は、以上の処理によって得られた完了後慣性トルクTIfinと完了後エンジントルクTEfinとに基づいて、完了後トルクTfinを算出する。例えば、要求トルク取得部73は、完了後エンジントルクTEfinから完了後慣性トルクTIfinを減じ、それによって得られる値を完了後トルクTfin(Tfin=TEfin−TIfin)とする。そして、要求トルク取得部73は、この完了後トルクTfinに基づいて要求トルクTreqを定める。例えば、要求トルク取得部73は、完了後トルクTfinを要求トルクTreqとしてもよいし、完了後トルクTfinを僅かに変化させた値を要求トルクTreqとしてもよい。例えば、完了後トルクTfinに予め設定された値を加算又は減算し、それによって得られた値を要求トルクTreqとしてもよい。
【0061】
次にクラッチ移行制御部74について説明する。クラッチ移行制御部74は、まず上述した処理によって得られた要求トルクTreqに基づいて、中間状態におけるクラッチ位置Pc、すなわち要求クラッチ位置Preqを定める。例えば、要求トルクTreqと要求クラッチ位置Preqとを対応づけるマップ(以下、要求クラッチ位置マップ)や算式を記憶部12に予め格納しておく。そして、クラッチ移行制御部74は、この要求クラッチ位置マップ等を参照して、上述した処理で得られた要求トルクTreqに対応する要求クラッチ位置Preqを取得する。
【0062】
図7は要求クラッチ位置マップの例を示すグラフである。同図においては横軸が要求クラッチ位置Preqであり、縦軸は要求トルクTreqである。同図に示すように、要求クラッチ位置マップは、要求トルクTreqが高くなるに従って、要求クラッチ位置Preqが接続位置に近づくように設定されている。
【0063】
上述したように、摩擦クラッチでは、クラッチ位置と、当該摩擦クラッチを介して伝達されるトルクとは相関している。そこで、要求クラッチ位置マップにおいて、各要求クラッチ位置Preqは、例えば、その位置にクラッチ40が設定された場合にクラッチ40を介して伝達されるトルクが、概ね要求トルクTreqとなるように設定される。また、要求クラッチ位置マップでは、接続状態より低い押圧力で駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが押圧されるクラッチ位置Pcが要求クラッチ位置Preqとして設定されている。さらに、これらの要求クラッチ位置Preqには、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合するまでクラッチ回転数差Ndiffを生じさせない押圧力で、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが互いに押圧される範囲内のクラッチ位置Pcが設定されている。
【0064】
クラッチ移行制御部74は、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合する前に(図6のt5より前に)、クラッチ位置センサ22によって検知されるクラッチ位置Pcが要求クラッチ位置Preqとなる中間状態にクラッチ40を設定する。
【0065】
なお、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合する前に、クラッチ40のクラッチ位置Pcが要求クラッチ位置Preqになるように、この例では、後述するギア切換制御部75によるシフトアクチュエータ16の作動開始タイミング(図6においてt3)と、クラッチ移行制御部74によるクラッチアクチュエータ14の作動開始タイミング(図6においてt2)とが予め設定されている。
【0066】
ギア切換制御部75は、変速指示の入力に応じてシフトアクチュエータ16の作動を開始する。これによって、シフトカム56bが予め設定された角度だけ回転し、新変速段移動ギアが移動する。そして、ギア切換制御部75は、クラッチ移行制御部74の制御によってクラッチ40が上記中間状態に設定されている間に、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとをドッグクラッチ51a,51bによって係合させる。
【0067】
ギア移動判定部76は、ギア位置センサ21から出力される信号に基づいて、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合し、新変速段移動ギアの移動が完了したか否かを判定する。
【0068】
クラッチ復帰制御部77は、ギア移動判定部76によって新変速段移動ギアの移動完了が検知された後、クラッチアクチュエータ14を作動させて、上記中間状態に設定されているクラッチ40を接続状態に移行させる復帰制御を実行する。
【0069】
ここで説明する例では、上述したように制御部70は実トルク算出部78と目標トルク設定部79とを備えている。実トルク算出部78は、復帰制御の最中にクラッチ40によって実際に伝達されているトルク(以下、実トルクTac)を所定の周期(例えば約十ミリ秒)で算出する。また、目標トルク設定部79は、復帰制御の最中にクラッチ40による伝達を要求するトルク(以下、目標トルクTtg)を設定する。ここでは、目標トルク設定部79は、上述した要求トルク取得部73と同様に、クラッチ40の接続状態への復帰後にクラッチ40を介して伝達されるトルクを推定し、当該推定されたトルクを目標トルクTtgとしている。そして、クラッチ復帰制御部77は、それらの処理によって得られた実トルクTacと目標トルクTtgとに基づいてクラッチ40を制御する。具体的には、クラッチ復帰制御部77は、実トルクTacが目標トルクTtgに一致するようにクラッチ40を制御する。
【0070】
図8は復帰制御の概要を説明するためのタイムチャートであり、図8(a)はクラッチ位置Pcを示し、図8(b)は実トルクTacを示し、図8(c)は目標トルクTtgを示している。同図においてt1は変速指示が入力されたタイミングであり、t2はクラッチ40のクラッチ位置Pcが要求クラッチ位置Preqに設定されたタイミングであり、t3は新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合したタイミングであり、t4はクラッチ40が接続状態に復帰するタイミングである。
【0071】
同図(a)及び(b)に示すように、t2においてクラッチ40のクラッチ位置Pcが要求クラッチ位置Preqに設定されると、実トルクTacは、それまでの走行においてクラッチ40を介して伝達されていたトルクから低下する。そして、t3において新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合するまで、要求クラッチ位置Preqに応じたトルクが、実トルクTacとして伝達される。なお、上述したように、後輪3へのトルク伝達は、t2からt3の間においても、前変速段ギアの係合が解除されてから、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合するまでの間は、変速機50において遮断される。
【0072】
t3において新変速段移動ギアの移動完了が検知されると、目標トルク設定部79は、t4においてクラッチ40を介して伝達されるトルクを推定し、当該推定したトルクを目標トルクTtgとして設定する。そして、クラッチ復帰制御部77は復帰制御を開始し、実トルクTacが目標トルクTtgに追従するようにクラッチ位置Pcを漸次変化させる。例えば、図8(b)及び(c)に示すように、実トルクTacが目標トルクTtgより低い場合には、クラッチ復帰制御部77は、クラッチ位置Pcを徐々に接続位置に近づけることによって、実トルクTacを目標トルクTtgに近づける。そして、クラッチ回転数差Ndiffが変速終了判定値Nthより低くなると、クラッチ復帰制御部77は、クラッチ40を完全に接続する(t4)。この時、それまでの制御の結果、実トルクTacが目標トルクTtgに一致しているので、実トルクTacの変動は抑制されている。
【0073】
以下、実トルクTac及び目標トルクTtgを算出する処理について説明する。実トルク算出部78は、復帰制御における車両の運転状態に基づいて実トルクTacを算出する。ここで説明する例では、実トルク算出部78は、復帰制御における実際のエンジントルク(以下、実エンジントルクTEac)を算出するエンジントルク算出部78aと、復帰制御においてクラッチ40より上流側の機構の慣性によって発生しているトルク(以下、実慣性トルクTIac)を算出する慣性トルク算出部78bとを含んでいる。そして、実トルク算出部78は、これらの処理によって得られた実エンジントルクTEacと実慣性トルクTIacとに基づいて、実トルクTacを算出する。
【0074】
まず、実エンジントルクTEacを算出する処理について説明する。上述したように、記憶部12には、エンジン回転数Neとスロットル操作量Sopeとにエンジントルクを対応付けるエンジントルクマップや算式が格納されている。エンジントルク算出部78aは、例えば、このエンジントルクマップ等を参照し、検知或いは算出されたスロットル操作量Sopeとエンジン回転数Neとに対応するエンジントルクを実エンジントルクTEacとして取得する。なお、実エンジントルクTEacを算出する処理は、これに限られない。例えば、エンジントルク算出部78aは、吸気通路35内を流通する空気の圧力(以下、吸気圧力とする)に基づいて、実エンジントルクTEacを算出してもよい。
【0075】
実慣性トルクTIacは、復帰制御におけるエンジン回転数Neの変化速度(すなわち、エンジン回転加速度dNe/dt)と、クラッチ40の上流側の機構の慣性モーメントIとを乗じ、それによって得られる値(I×(dNe/dt))である。このため、実慣性トルク算出部78bはエンジン回転数Neからエンジン回転加速度dNe/dtを算出し、当該エンジン回転加速度dNe/dtと慣性モーメントIとを乗じ、それによって得られた値を実慣性トルクTIac(TIac=I×(dNe/dt))とする。
【0076】
記憶部12には実エンジントルクTEacと実慣性トルクTIacと実トルクTacとを関係付ける算式やマップが予め格納されており、実トルク算出部78は、当該算式等を参照して、実エンジントルクTEacと実慣性トルクTIacとから実トルクTacを算出する。例えば、実トルク算出部78は、実エンジントルクTEacから実慣性トルクTIacを減じ、それによって得られた値を実トルクTac(Tac=TE−TI)とする。以上が実トルクを算出する処理の例である。
【0077】
目標トルク設定部79は、完了後エンジントルクTEfinを推定するエンジントルク推定部79aと、完了後慣性トルクTIfinを推定する慣性トルク推定部79bとを含んでいる。
【0078】
エンジントルク推定部79aが実行する処理は、上述したエンジントルク推定部73aと概ね同様である。すなわち、エンジントルク推定部79aは、復帰制御における車両の運転状態(例えば、車速V)に基づいて、完了後エンジン回転数Nefinを推定する。そして、エンジントルク推定部79aは、上述したエンジントルクマップ等を参照し、復帰制御におけるスロットル操作量Sopeと完了後エンジン回転数Nefinとに対応するエンジントルクを完了後エンジントルクTEfinとする。
【0079】
エンジントルク推定部79aの処理は、このような処理に限定されない。完了後エンジン回転数Nefinは、復帰制御におけるエンジン回転数Neやクラッチ回転数差Ndiffにも依存している。そこで、エンジントルク推定部79aは、車速Vに替えて、復帰制御におけるエンジン回転数Neとクラッチ回転数差Ndiffとに基づいて、完了後エンジン回転数Nefinを推定してもよい。例えば、エンジントルク推定部79aは、エンジン回転数Neから、クラッチ回転数差Ndiffと一次減速機構36の減速比Rpとを乗じることによって得られる値を減じ、それによって得られる値を完了後エンジン回転数Nefin(Nefin=Ne−Ndiff×Rp)としてもよい。
【0080】
慣性トルク推定部79bが実行する処理は、上述した慣性トルク推定部73bと概ね同様である。すなわち、慣性トルク推定部79bは、変速時の制御が開始した直後(例えば、クラッチ40の中間状態への移行開始から数百ミリ秒経過後)、或いは復帰制御における車両の運転状態に基づいて、クラッチ40の接続状態への復帰時のエンジン回転加速度dNefin/dtを推定する。例えば、慣性トルク推定部79bは、変速時の制御が開始した直後の車両の加速度dV/dt、又は被駆動側摩擦部材42の回転加速度dNlow/dtを算出する。そして、慣性トルク推定部79bは、この加速度と、トルク伝達経路上に配置される各減速機構の減速比(例えば、変速指示によって新たに設定される変速段の減速比Rnewgear)とを乗じ、それによって得られる値を、クラッチ40の接続状態への復帰時のエンジン回転加速度dNefin/dtとする。そして、慣性トルク推定部79bは、エンジン回転加速度dNefin/dtと、上流側の機構の慣性モーメントIとを乗じることによって得られる値を完了後慣性トルクTIfinとする。
【0081】
目標トルク設定部79は、上述した要求トルク取得部73と同様に、以上の処理によって得られた完了後慣性トルクTIfinと完了後エンジントルクTEfinとに基づいて、クラッチ40の接続状態への復帰後にクラッチ40を介して伝達されると推定されるトルク(すなわち完了後トルクTfin)を算出する。例えば、目標トルク設定部79は、完了後エンジントルクTEfinから完了後慣性トルクTIfinを減じ、それによって得られる値を完了後トルクTfin(Tfin=TEfin−TIfin)とする。そして、目標トルク設定部79は、この完了後トルクTfinを目標トルクTtgとする。
【0082】
なお、目標トルク設定部79は、実トルク算出部78と同様に、以上の処理を所定の周期で実行し、目標トルクTtgを順次更新してもよいし、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合した直後にだけ実行してもよい。
【0083】
クラッチ復帰制御部77は、所定の周期で実トルクTacと目標トルクTtgの差(以下、トルク差ΔT)を算出し、当該トルク差ΔTに応じた量(以下、クラッチ指示量Cact)だけクラッチアクチュエータ14を作動させる。これによって、クラッチ指示量Cactに応じた大きさだけクラッチ位置Pcが変化する。
【0084】
クラッチ復帰制御部77によるこの制御は、例えば次のようにして実行される。トルク差ΔTとクラッチ指示量Cactとを対応づけるマップ(以下、指示量マップ)や算式を記憶部12に予め格納しておく。図9は指示量マップの例を説明するためのグラフである。同図において縦軸はクラッチ指示量Cactを示し、横軸はトルク差ΔT(ΔT=Ttg−Tac)を示している。同図に示すように、指示量マップでは、トルク差ΔTが大きくなるに従って、クラッチ指示量Cactが大きくなるように設定されている。また、トルク差ΔTが正の値である場合には、クラッチ位置Pcを接続位置に近づける方向にクラッチアクチュエータ14が作動するように、クラッチ指示量Cactは設定され、トルク差ΔTが負の値である場合には、クラッチ位置Pcを切断位置に近づける方向にクラッチアクチュエータ14が作動するように、クラッチ指示量Cactは設定されている。
【0085】
シフトアップ時など、被駆動側回転数Nlowが駆動側回転数Nupより低くい時には、このような指示量マップを参照することによって、クラッチアクチュエータ14が、トルク差ΔTを解消するように作動する。例えば、図8に示したように、実トルクTacが目標トルクTtgに達していない場合(ΔT>0の場合)には、当該トルク差ΔTに応じた大きさだけクラッチ位置Pcが接続位置に近づけられ、これによって実トルクTacが上昇する。すなわち、駆動側回転数Nupが下降することで、被駆動側回転数Nlowに近づき、それに伴ってエンジン回転数Neも下降する。エンジン回転数Neが下降する場合には、実エンジントルクTEacに加えて、その下降速度に応じた実慣性トルクTIacもクラッチ40から下流側に伝達される。また、一般的にエンジンの出力特性では、エンジン回転数が下降するとエンジントルクも上昇する。そのため。トルク差ΔTに応じた大きさだけクラッチ位置Pcが接続位置に近づけられることによって、実トルクTacが上昇し目標トルクTtgに近づく。なお、指示量マップは、図9に示すマップに限られず、クラッチアクチュエータ14の出力特性等に応じて変更されてもよい。
【0086】
クラッチ復帰制御部77は、復帰制御の過程において、クラッチ回転数差Ndiffが上述した変速終了判定値Nthを下回ったか否かを判定する。復帰制御が実行されると、上述のようにクラッチ回転数差Ndiffは少しずつ解消される。クラッチ復帰制御部77は、クラッチ回転数差Ndiffが変速終了判定値Nthを下回った時に、上述した実トルクTacと目標トルクTtgとに基づくクラッチ40の制御を終了し、クラッチ40を完全に接続し、クラッチ40を接続状態に復帰させる。以上の処理が、クラッチ復帰制御部77が実行する処理である。
【0087】
なお、クラッチ復帰制御部77がこのような実トルクTacと目標トルクTtgとに基づく制御を行う場合、上述した要求トルク取得部73は、完了後トルクTfinより予め設定された値だけ低いトルクを要求トルクTreqとしてもよい。これによって、クラッチ復帰制御部77の制御が開始した後に、要求トルクTreqより低いトルクが目標トルクTtgとして設定されることを抑制できる。その結果、クラッチ移行制御部74によって中間状態に設定されたクラッチ40のクラッチ位置Pcが、復帰制御が開始した後に、切断側に変化することを抑制できる。
【0088】
クラッチ復帰制御部77の制御は、このような実トルクTacや目標トルクTtgに基づく制御に限られない。例えば、クラッチ復帰制御部77はクラッチ回転数差Ndiffに応じた量だけクラッチアクチュエータ14を作動させて、クラッチ40を徐々に接続状態に移行させてもよい。
【0089】
制御部70が変速時に実行する処理の流れについて説明する。図10は制御部70が実行する処理の例のフローチャートである。ここではシフトアップ時を例にして説明する。
【0090】
シフトアップスイッチ9aがオンされ、変速指示が制御部70に入力されると、まずエンジン制御部72が出力低減制御を実行し、エンジン30が出力するトルクを低減する(S101)。また、要求トルク取得部73は、車両の運転状態(以上の説明では、スロットル操作量Sopeや車速V、エンジン回転数Ne等)に基づいて、要求トルクTreqを算出する(S102)。そして、クラッチ移行制御部74は、上述した要求クラッチ位置マップを参照して、要求トルクTreqに対応する要求クラッチ位置Preqを取得する(S103)。クラッチ移行制御部74は、変速指示が入力されたタイミングから所定時間Δt1が経過した後にクラッチアクチュエータ14を作動させて、クラッチ位置Pcが要求クラッチ位置Preqとなる中間状態にクラッチ40を設定する(S104)。また、ギア切換制御部75は、変速指示が入力されたタイミングから所定時間Δt2が経過した後にシフトアクチュエータ16を作動させて、新変速段移動ギアの移動を開始する(S105)。なお、ここで所定時間ΔT1,ΔT2は、新変速段移動ギアの移動が完了する前に、クラッチ40が中間状態に設定されるように設定されている。
【0091】
ギア移動判定部76は、ギア位置センサ21から出力される信号に基づいて、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合したか否か、すなわち、新変速段移動ギアの移動が完了したか否かを判定する(S106)。ギア移動判定部76は新変速段移動ギアの移動完了を検知するまで、S106の処理を繰り返す。
【0092】
ギア移動判定部76によって新変速段移動ギアの移動完了が検知されると、エンジン制御部72は上述した出力低減制御の実行を部分的に抑制し、エンジントルクを、上述した中間回復トルクΔTreだけ回復させる(S107)。
【0093】
また、ギア移動判定部76によって新変速段移動ギアの移動完了が検知されると、クラッチ復帰制御部77は復帰制御を開始する。例えば、上述したように、実トルク算出部78が車両の運転状に基づいて、クラッチ40から下流側に伝達されている実トルクTacを算出する(S108)。また、目標トルク設定部79は、車両の運転状態に基づいて完了後トルクTfinを推定し、当該完了後トルクTfinを目標トルクTtgとして設定する(S109)。そして、クラッチ復帰制御部77は、実トルクTacと目標トルクTtgとの差であるトルク差ΔTに応じて、クラッチ指示量Cactを算出し(S110)、当該クラッチ指示量Cactだけクラッチアクチュエータ14を作動させる(S111)。
【0094】
その後、クラッチ復帰制御部77はクラッチ回転数差Ndiffが予め設定された変速終了判定値Nthより低くなったか否かを判定する(S112)。ここで、クラッチ回転数差Ndiffが未だ変速終了判定値Nthより低くなっていない場合には、クラッチ復帰制御部77はS108に戻り、再び以降の処理を実行する。S108からS111の処理は所定の周期(例えば約十ミリ秒)で繰り返し実行され、これによって、実トルクTacは目標トルクTtgに追従する。
【0095】
S112において、クラッチ回転数差Ndiffが変速終了判定値Nthより低くい場合には、エンジン制御部72は、点火タイミングを元の通常走行時のタイミングに復帰させるなどして、出力低減制御を完全に停止し(S113)、エンジン30が出力するトルクを通常走行時のレベルに回復させる。また、クラッチ復帰制御部77はクラッチ40を完全に接続させる(S114)。
【0096】
以上説明したように、クラッチ移行制御部74は、変速指示の入力に応じてクラッチアクチュエータ14を作動させ、変速ギア53a,・・53f,54a,54fがドッグクラッチ51a,51bによって選択的に係合する前に、クラッチ40を中間状態に移行させている。そして、この中間状態では、接続状態における押圧力より低い押圧力で駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが互いに押圧されている。また、クラッチ復帰制御部77は、変速ギア53a,・・53f,54a,54fがドッグクラッチ51a,51bによって選択的に係合した後に、クラッチアクチュエータ14を作動させて、中間状態に設定されているクラッチ40を、接続状態に復帰させている。
【0097】
これによって、ドッグクラッチ51a,51bによって新変速移動ギアと新変速係合ギアとが係合した時点で、後輪3へのトルク伝達を再開でき、クラッチ40を一旦切断状態にする場合に比べて、後輪3へのトルク伝達が遮断されている時間を短縮でき、変速時の加速性を向上できる。また、中間状態において駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42との間に働いている押圧力は、接続状態より低いので、新変速移動ギアと新変速係合ギアとが係合した時の衝撃の発生を抑制できる。
【0098】
また、要求トルク取得部73は、クラッチ40から後輪3側への伝達が要求される要求トルクTreqを算出し、クラッチ移行制御部74は、この要求トルクTreqに基づいて定められる中間状態にクラッチ40を設定している。これによって、新変速移動ギアと新変速係合ギアとが係合した時に、要求トルクTreq或いはそれに近いトルクを後輪3に伝達でき、要求に応じた加速性を発揮できる。
【0099】
また、要求トルク取得部73は、クラッチ40が接続状態に復帰した後に当該クラッチ40を介して伝達される完了後トルクTfinを推定し、推定された完了後トルクTfinに基づいて要求トルクTreqを取得している。また、要求トルク取得部73は、クラッチ40の中間状態への移行が開始する前の車両の運転状態に基づいて、クラッチ40が接続状態に復帰した後にクラッチ40を介して伝達される完了後トルクTfinを推定している。これによって、クラッチ40が接続状態に復帰した後に伝達されると推定されるトルクに応じたトルクを、新変速移動ギアと新変速係合ギアとが係合した時から後輪3へ伝達できる。
【0100】
また、クラッチ移行制御部74は、車両の運転状態に基づいて定められる中間状態に、クラッチ40を設定している。具体的には、スロットル操作量Sopeや、エンジン回転数Ne、車速V等の車両の運転状態に基づいて取得された要求トルクTreqに基づいて、中間状態は定められている。これによって、新変速移動ギアと新変速係合ギアとが係合した時点で、車両の運転状態に応じたトルクを後輪3に伝達できる。
【0101】
また、上述したように、クラッチ移行制御部74は、変速ギア53a,・・53f,54a・・54fがドッグクラッチ51a,51bによって選択的に係合するまで、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42との相対的な回転を生じさせない押圧力で、駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが互いに押圧される中間状態にクラッチ40を設定してもよい。この場合、変速ギア53a,・・53f,54a,54fがドッグクラッチ51a,51bによって係合するまでの間に、エンジン回転数Neが急激に上昇することを抑制できる。
【0102】
また、変速制御装置10では、変速ギア53a,・・53f,54a・・54fを選択的に相対移動させるシフトアクチュエータ16が設けられ、ギア切換制御部75は、変速指示の入力に応じてシフトアクチュエータ16を作動させて変速ギア53a,・・53f,54a・・54fの相対移動を開始し、クラッチ40が中間状態に設定されている間に、ドッグクラッチ51a,51bによって変速ギア53a,・・53f,54a・・54fを選択的によって係合させている。これによって、搭乗者による変速機50の操作を要することなく、変速できる。また、ギア切換制御部75の制御によって変速ギア53a,・・53f,54a・・54fが選択的に係合した時に、後輪3へのトルク伝達が再開される。
【0103】
また、変速制御装置10では、変速指示の入力に応じてエンジントルクを低減するエンジン制御部72が設けられている。このようなエンジン制御によって変速機50に伝達されるトルクも低減されるので、前変速段ギアの係合の解除に必要となる力が低減される。
【0104】
なお、本発明は以上説明した変速制御装置10に限られず、種々の変更が可能である。
【0105】
例えば、以上の説明では、シフトアップ時を例にして説明したが、本発明はシフトダウン時に適用されてもよい。図11は、シフトダウン時に制御部70が実行する制御を説明するためのタイムチャートである。同図(a)はクラッチ40のクラッチ位置Pcを示し、同図(b)はシフトアクチュエータ16の作動位置を示し、同図(c)はシフトカム56bの回転位置を示し、同図(d)はエンジントルクを示している。
【0106】
シフトダウン時には、通常、スロットルグリップ5aは閉じられており、スロットル操作量Sopeは低い値となっている。そのため、ここでは、同図(d)に示すように、変速指示の入力前のエンジントルクは負の値となっている。t1においてシフトダウンを指示する変速指示が入力されると、エンジン制御部72は、シフトアップ時とは異なり、エンジントルクを増大させる出力増大制御を実行し、エンジントルクを予め設定された値(例えば、0や0より僅かに低い値)にする。図10に示すフローチャートでは、エンジン制御部72は、S101の制御に替えて、このような出力増大制御を実行する。
【0107】
また、同図(b)に示すように、変速指示の入力されたタイミングから所定時間Δt2が経過した後に、ギア切換制御部75は、シフトアップ時とは反対方向へのシフトアクチュエータ16の作動を開始する(t3)。これによって、同図(c)に示すように、ギア切換機構56が作動し、t4において前変速段ギアの係合が解除されるとともに、新変速段移動ギアの移動が開始する。そして、t5において新変速段移動ギアが新変速段静止ギアと係合する。
【0108】
また、同図(a)に示すように、変速指示の入力されたタイミングから所定時間Δt1が経過した後に、クラッチ移行制御部74は、それまでの走行において接続状態に設定されていたクラッチ40を切断側に移行させ(t2)、シフトアップ時と同様に、接続状態より低い押圧力で駆動側摩擦部材41と被駆動側摩擦部材42とが互いに押圧される中間状態までクラッチ40に移行させる。この場合の要求クラッチ位置Preqも、シフトアップ時と同様に、要求トルクTreqに応じて定められており、新変速段移動ギアが新変速段静止ギアと係合した時点で、要求トルクTreqに応じたトルクがクラッチ40及び変速機50を介して下流側に伝達される。
【0109】
ギア移動判定部76によって、t5において新変速段移動ギアの移動完了が検知されると、同図(d)に示すように、エンジン制御部72は出力増大制御を段階的に停止する。図10のフローチャートでは、エンジン制御部72は、S107の処理に替えて、予め設定されたトルクだけエンジントルクを低減する。
【0110】
また、同図(a)に示すように、t5において新変速段移動ギアの移動完了が検知されると、クラッチ復帰制御部77は、クラッチ40を徐々に接続状態に復帰させる復帰制御を開始する。この復帰制御では、クラッチ復帰制御部77は、例えば上述したように、実トルクTacと目標トルクTtgとに基づいて、クラッチ40を制御する。
【0111】
なお、シフトダウン時の復帰制御では、上述した指示量マップに替えて、実トルクTacが目標トルクTtgを超えている場合に(ΔT<0の場合)、クラッチ40を接続側に動かすようクラッチ指示量Cactが設定されたマップ(以下、シフトダウン指示量マップ)を参照して、トルク差ΔTに対応するクラッチ指示量Cactを算出する。
【0112】
図12はシフトダウン指示量マップの例を示すグラフである。同図において縦軸はクラッチ指示量Cactを示し、横軸はトルク差ΔT(ΔT=Ttg−Tac)を示している。同図に示すように、シフトダウン指示量マップでは、トルク差ΔTが正の値である場合には、クラッチ位置Pcを切断位置に近づける方向にクラッチアクチュエータ14が作動するように、クラッチ指示量Cactは設定されている。また、トルク差ΔTが負の値である場合に、クラッチ位置Pcを接続位置に近づける方向にクラッチアクチュエータ14が作動するように、クラッチ指示量Cactは設定されている。
【0113】
シフトダウン時など、被駆動側回転数Nlowが駆動側回転数Nupより高い時には、このようなシフトダウン指示量マップを参照することによって、クラッチアクチュエータ14は、トルク差ΔTを解消するように作動する。例えば、実トルクTacが目標トルクTtgより高い場合には場合(ΔT<0の場合)には、シフトアップ時とは反対に、当該トルク差ΔTに応じた大きさだけクラッチ位置Pcが接続位置に近づけられることによって、実トルクTacが下降して目標トルクTtgに近づく。つまり、駆動側回転数Nupが上昇することによって被駆動側回転数Nlowに近づき、それに伴ってエンジン回転数Neも上昇する。エンジン回転数Neが上昇する場合には、その上昇速度に応じた大きさの慣性トルクTIが、実エンジントルクTEacから減損され、残りのトルクが、クラッチ40から下流側に伝達される。また、一般的にエンジンの出力特性では、エンジン回転数が上昇するとエンジントルクは下降する。そのため。トルク差ΔTに応じた大きさだけクラッチ位置Pcが接続位置に近づけられることによって、実トルクTacが下降し、目標トルクTtgに近づく。
【0114】
その後、クラッチ復帰制御部77は、t6においてクラッチ回転数差Ndiffが変速終了判定値Nthを下回ると、クラッチ40を完全に接続させ、接続状態に復帰させる。また、この時、エンジン制御部72は、出力増大制御を完全に停止し、エンジントルクを変速指示の入力前のレベルにまで低減する。以上がシフトダウン時に変速制御装置10が実行する制御の例である。
【0115】
また、以上の説明では、クラッチ復帰制御部77は、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合した後に、実トルクTacと目標トルクTtgとに基づいてクラッチ40を制御していた。しかしながら、クラッチ復帰制御部77は、新変速段移動ギアと新変速段静止ギアとが係合した後においても、クラッチ移行制御部74によって中間状態に設定されているクラッチ40のクラッチ位置(すなわち要求クラッチ位置Preq)を維持し、クラッチ回転数差Ndiffが変速終了判定値Nthを下回った時に、クラッチ40を接続状態に復帰させてもよい。
【0116】
また、以上の説明では、クラッチ移行制御部74は、要求トルク取得部73が車両の運転状態に基づいて算出した要求トルクTreqに基づいて、要求クラッチ位置Preqを定めていた。しかしながら、クラッチ移行制御部74は、車両の運転状態に基づいて要求クラッチ位置Preqを直接的に算出してもよい。例えば、スロットル操作量Sopeや、車速V、エンジン回転数Neなどにクラッチ位置Pcを対応付けるマップや算式を記憶部12に予め格納しておく。そして、クラッチ移行制御部74は、これらのマップ等を参照して、変速時の制御が開始する前のスロットル操作量Sope等に対応するクラッチ位置Pcを取得し、当該クラッチ位置Pcを要求クラッチ位置Preqとしてもよい。
【0117】
また、以上の説明では、クラッチ40をクラッチアクチュエータ14によって操作するとともに、変速機50をもシフトアクチュエータ16によって操作していた。しかしながら、クラッチ40をクラッチアクチュエータ14によって操作する一方で、変速機50は搭乗者によって操作されてもよい。この形態では、例えば変速機50には、シフトアクチュエータ16に替えて、搭乗者によって操作されてシフトカム56bを予め設定された角度だけ回転させる公知のシフトペダルが設けられる。また、変速制御装置10には、当該シフトペダルに取り付けられ、搭乗者のペダル操作を検知するためのセンサが設けられる。このセンサは、搭乗者のペダル操作に応じて変速指示を制御部70に入力する。そして、クラッチ移行制御部74は、当該変速指示の入力に応じて、上述した中間状態にクラッチ40を設定する。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の一実施形態に係る変速制御装置を備えた自動二輪車の側面図である。
【図2】上記自動二輪車のトルク伝達経路に設けられた機構と変速制御装置の概略図である。
【図3】上記自動二輪車が有する変速機の概略図である。
【図4】上記変速制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】上記変速制御装置が有する制御部の機能ブロック図である。なお、同図においては、制御部とともに、当該制御部に信号を入力するセンサも示されている。
【図6】上記変速制御装置による制御の概要を説明するためのタイムチャートである。同図(a)はクラッチのクラッチ位置を示し、同図(b)はシフトアクチュエータの作動位置を示し、同図(c)はシフトカムの回転位置を示し、同図(d)はエンジンが出力するトルクを示し、同図(e)は後輪に伝達されるトルクを示し、同図(f)は駆動側回転数と被駆動側回転数との差を示している。
【図7】要求トルクと要求クラッチ位置とを対応付けるマップの例を示すグラフである。
【図8】中間状態に設定されているクラッチを接続状態に復帰させる制御の例の概要を説明するためのタイムチャートであり、図8(a)はクラッチ位置を示し、図8(b)は実トルクを示し、図8(c)は目標トルクTtgを示している。
【図9】実トルクと目標トルクとの差であるトルク差と、クラッチ指示量とを対応づけるマップの例を説明するためのグラフである。
【図10】シフトアップ時に、制御部が実行する処理の例のフローチャートである。
【図11】シフトダウン時に制御部が実行する制御を説明するためのタイムチャートである。
【図12】実トルクと目標トルクとの差であるトルク差と、クラッチ指示量とを対応づけるマップの他の例を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0119】
1 自動二輪車、2 前輪、3 後輪、9a シフトアップスイッチ、9b シフトダウンスイッチ、10 変速制御装置、12 記憶部、13 クラッチアクチュエータ駆動回路、14 クラッチアクチュエータ、15 シフトアクチュエータ駆動回路、16 シフトアクチュエータ、17 スロットル操作センサ、18 エンジン回転センサ、19 出力軸回転センサ、21 ギア位置センサ、22 クラッチ位置センサ、24 エンジン駆動回路、30 エンジン、40 クラッチ、41 駆動側摩擦部材、42 被駆動側摩擦部材、44 クラッチスプリング、50 変速機、51a,51b ドッグクラッチ、52 メイン軸、53a,53b,53c,53d,53e,53f 変速ギア、54a,54b,54c,54d,54e,54f 変速ギア、55 出力軸、70 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続状態において互いに押圧されてトルクを伝達し、切断状態においては前記押圧が解除されてトルク伝達を遮断する駆動側摩擦部材と被駆動側摩擦部材とを含む摩擦クラッチと、
ドッグクラッチをそれぞれ有する複数のギアを含み、変速時に、前記複数のギアが選択的に相対移動し、前記ドッグクラッチによって選択的に係合することによって、新たな変速比でトルクを伝達する変速機とを備える鞍乗型車両の変速制御装置であって、
前記摩擦クラッチを操作するクラッチアクチュエータと、
変速指示の入力に応じて前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合する前に、前記接続状態における押圧力より低い押圧力で前記駆動側摩擦部材と前記被駆動側摩擦部材とが互いに押圧される中間状態に前記摩擦クラッチを移行させるクラッチ移行制御部と、
前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合した後に前記クラッチアクチュエータを作動させて、前記中間状態に設定されている前記摩擦クラッチを、前記接続状態に復帰させるクラッチ復帰制御部と、
を含むことを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記摩擦クラッチから車輪側への伝達が要求されるトルクを要求トルクとして取得する要求トルク取得部をさらに備え、
前記クラッチ移行制御部は、前記要求トルクに基づいて定められる前記中間状態に前記摩擦クラッチを設定する、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変速制御装置において、
前記要求トルク取得部は、前記摩擦クラッチが前記接続状態に復帰した後に前記摩擦クラッチを介して伝達されるトルクを推定し、推定された前記トルクに基づいて前記要求トルクを定める、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の変速制御装置において、
前記要求トルク取得部は、前記摩擦クラッチの前記中間状態への移行が開始する前の車両の運転状態に基づいて、前記摩擦クラッチが前記接続状態に復帰した後に前記摩擦クラッチを介して伝達されるトルクを推定する、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記クラッチ移行制御部は、車両の運転状態に基づいて定められる前記中間状態に、前記摩擦クラッチを設定する、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の変速制御装置において、
搭乗者のスロットル操作を検知するセンサをさらに備え、
前記クラッチ移行制御部は、前記スロットル操作に基づいて定められる前記中間状態に前記摩擦クラッチを設定する、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の変速制御装置において、
エンジン回転数を検知するためのセンサをさらに備え、
前記クラッチ移行制御部は、前記エンジン回転数に基づいて定められる前記中間状態に前記摩擦クラッチを設定する、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項8】
請求項5に記載の変速制御装置において、
車速を検知するためのセンサをさらに備え、
前記クラッチ移行制御部は、前記車速に基づいて定められる前記中間状態に前記摩擦クラッチを設定する、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記クラッチ移行制御部は、前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合するまで前記駆動側摩擦部材と前記被駆動側摩擦部材との相対的な回転を生じさせない押圧力で、当該駆動側摩擦部材と当該被駆動側摩擦部材とが互いに押圧される前記中間状態に前記摩擦クラッチを設定する、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記複数のギアを選択的に移動させるシフトアクチュエータと、
前記変速指示の入力に応じて前記シフトアクチュエータを作動させて前記複数のギアの選択的な移動を開始し、前記摩擦クラッチが前記中間状態に設定されている間に、前記複数のギアを前記ドッグクラッチによって選択的に係合させるギア切換制御部と、をさらに備える、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記変速指示の入力に応じて前記エンジンが出力するトルクを低減するエンジン制御部をさらに備える、
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項12】
請求項1に記載の変速制御装置を備える鞍乗型車両。
【請求項13】
接続状態において互いに押圧されてトルクを伝達し、切断状態においては前記押圧が解除されてトルク伝達を遮断する駆動側摩擦部材と被駆動側摩擦部材とを含む摩擦クラッチと、
前記摩擦クラッチを操作するクラッチアクチュエータと、
ドッグクラッチをそれぞれ有する複数のギアを含み、変速時に、前記複数のギアが選択的に相対移動し、前記ドッグクラッチによって選択的に係合することによって、新たな変速比でトルクを伝達する変速機と、を備える鞍乗型車両の変速制御方法であって、
変速指示の入力に応じて前記クラッチアクチュエータを作動させて、前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合する前に、前記接続状態における押圧力より低い押圧力で前記駆動側摩擦部材と前記被駆動側摩擦部材とが互いに押圧される中間状態に前記摩擦クラッチを設定するステップと、
前記複数のギアが前記ドッグクラッチによって選択的に係合した後に前記クラッチアクチュエータを作動させて、前記中間状態に設定されている前記摩擦クラッチを、前記接続状態に復帰させるステップと、
を含むことを特徴とする変速制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−264519(P2009−264519A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116412(P2008−116412)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】