説明

検査治具の洗浄方法

【課題】半導体素子を検査する検査治具のプローブ端子を損傷することなく、低接触抵抗値を維持し、信頼性の高いプローブカードの洗浄方法を得る。
【解決手段】ウエハ一括コンタクトボード60を構成するニッケル(Ni)からなる半球状のバンプ(プローブ端子)22を備えたバンプ付きメンブレンリング10を、フッ素濃度が1wt%未満の酸性フッ化アンモン水溶液に浸漬する。これにより、半導体素子を検査した時にアルミニウムパッドから剥がれてバンプ22に付着したアルミニウムや酸化アルミニウムを、バンプ22を損傷することなく除去することが可能である。また、バンプ22を構成するニッケル(Ni)を溶解すること無く、バンプの表面に形成されたニッケル酸化物(NiO)を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を電気的あるいは熱加速試験するためのプローブカードの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウエハ上に複数形成された半導体素子の検査は、プローブカード等の検査治具による製品検査(電気的特性試験)と、その後に行われる信頼性試験であるバーンイン試験がある。電気的特性試験に用いられる検査治具であるプローブカードは、半導体素子の検査パッドの位置に対応してタングステンからなるプローブ針が設けられている。電気的特性試験は、プローブ針を半導体素子の検査パッド上に降ろして1個ずつ行われる。最近では、COP実装やベアチップ搭載等の要望から、ダイシングする前にウエハ上の半導体素子を一括して試験する方法がとられており、そのための検査治具、つまりウエハ一括コンタクトボードの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。このウエハ一括コンタクトボードには、ウエハ上の素子を一括して検査するため、検査パッドの数に素子の数を乗じた数万個の検査端子が必要であるため、プローブカードにおけるタングステン針のような針状端子ではなく、直径数十μmの半球状のNi(ニッケル)からなる金属バンプが設けられており、金属バンプが半導体素子の検査パッドに加圧接触することにより電気的特性試験あるいは、熱加速試験が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−164651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
検査治具のプローブカードやウエハ一括コンタクトボードにおいて、試験時、プローブ端子を半導体素子の検査パッドに対して加圧接触するため、検査パッドのアルミニウムや、このアルミニウムが酸化された酸化アルミニウムが、プローブ針や金属バンプの表面に付着してしまう。さらに、これらのアルミニウムや酸化アルミニウムは、検査パッドとプローブ端子との間に流れる電流の影響で融解し、プローブ接点の表面に強力に付着(融着)してしまう。プローブ端子表面に付着したアルミニウムや酸化アルミニウムの量が増えると、プローブ端子と検査パッドとの間の接触抵抗が著しく高くなってしまう。このような場合、半導体素子に対する電気的試験を正常に行うことができなくなるため、誤って不良と判定される半導体素子の割合が増大して、見かけ上の不良率が高くなる。この対策として、プローブ針を用いた従来のプローブカードにおいては、セラミック研磨板あるいは砥粒を含む弾性体にプローブ針を突き刺すことにより、先端の酸化物や異物を除去していた。一方、ウエハ一括コンタクトボードにおいては、端子が針状ではなく半球状の金属バンプであるため、弾性体に突き刺して異物を除去することが難しく、セラミック板で金属バンプの表面を研磨することにより、アルミニウムや酸化アルミニウム屑を除去していた。しかし研磨することにより、金属バンプ表面も一緒に削れてしまうため、研磨を繰り返すうちに、検査パッドに対する金属バンプの接触面積が次第に大きくなる。すなわち、金属バンプの接触点にかかる単位面積あたりの荷重が減少することとなるため、半導体素子の検査パッドと十分な接触が困難になり、金属バンプと検査パッドとの間の接触抵抗が徐々に増大することとなる。また、金属バンプは、主にニッケルで構成されているが、経時の酸化や測定時の発熱により表面にニッケルの酸化物(NiO)が形成される。このNiOにより、接触抵抗が増大するという問題もある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、プローブ端子を損傷することなく、半導体素子の検査パッドと低い接触抵抗を維持し、信頼性の高い検査治具を得ることが可能な検査治具の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
複数のプローブ端子を備え、該プローブ端子を半導体素子の検査パッドに接触させて該半導体素子の電気的試験を行う検査治具の洗浄方法であって、
前記プローブ端子を、フッ化物水溶液を用いて洗浄することを特徴とする検査治具の洗浄方法。
【0007】
(構成2)
前記検査治具は、ウエハ上に多数形成された半導体素子の電気的試験を一括して行うために使用されるウエハ一括コンタクトボードであって、
該ウエハ一括コンタクトボードは、前記半導体素子の検査パッドに接触する多数の半球状の導電性材料からなるバンプを備えたバンプ付きメンブレンリングと、該バンプ付きメンブレンリングと一体となって前記バンプに導通する多数の配線を積層構造として有する多層配線基板とを備えてなり、
前記プローブ端子は、前記バンプ付きメンブレンリングの半球状に突出した前記導電性材料からなるバンプであることを特徴とする構成1記載の検査治具の洗浄方法。
【0008】
前記フッ化物水溶液は、フッ酸水溶液、ケイフッ酸水溶液および酸性フッ化アンモン水溶液から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする構成1または2記載の検査治具の洗浄方法。
【0009】
(構成4)
前記フッ化物水溶液のフッ素濃度は、1wt%未満であることを特徴とする構成1、2または3記載の検査治具の洗浄方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成1によれば、フッ化物水溶液を用いて洗浄することにより、プローブ端子に付着したアルミニウムおよび酸化アルミニウムを除去することができる。例えば、タングステンからなる針状のプローブ端子を備えたプ検査治具においては、従来の洗浄方法として問題点となっていた研磨による研磨屑の再付着が無く、また、プローブ端子先端の形状変化も無いため、接触不良による不良を無くすことができ、信頼性の高いプローブカードを得ることができる。
【0011】
本発明の構成2によれば、構成1同様、ウエハ一括コンタクトボードにおいても、プローブ端子である導電性材料からなるバンプに付着したアルミニウムおよび酸化アルミニウムを、導電性材料からなるバンプの形状を変化させることなく除去することができる。また、バンプ表面の自然酸化層をも除去することができ高い信頼性を得ることができる。
【0012】
本発明の構成3によれば、フッ化物水溶液として、フッ酸水溶液、ケイフッ酸水溶液および酸性フッ化アンモン水溶液から選ばれる少なくとも1つを用いることにより、良好にアルミニウムおよび酸化アルミニウムを除去することができる。
【0013】
本発明の構成4によれば、フッ化物水溶液のフッ素濃度を1wt%未満とすることにより、毒性、安全性及び環境に配慮した洗浄を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のウエハ一括コンタクトボードを示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態であるウエハ一括コンタクトボードの洗浄方法について説明する。図1は、ウエハ一括コンタクトボードを示す概略断面図である。
ウエハ一括コンタクトボード60は、ウエハ上に多数形成された半導体デバイスを一括して電気的試験を行うために用いられ、その構造は、図1に示すように、バンプ付きメンブレンリング10と、多層配線基板50と、バンプ付きメンブレンリングと多層配線基板とを電気的に接続する異方性導電ゴムシート40とを有するものである。なお、ウエハ一括コンタクトボードの使用時において、バンプ付きメンブレンリング10、異方性導電ゴムシート40、及び多層配線基板50は重ねて一体となって保持されるが、図1においては、各構成を見やすくするため、それぞれを離して示している。
多数の半導体素子の試験にコンタクトボードを繰り返し使用した場合、バンプ接点には、半導体素子のパッドから剥がれたアルミニウムや酸化アルミニウムのクズが付着する。また、これらの付着が増えると、金属バンプと半導体素子のアルミニウムパッドとの間の接触抵抗が著しく高くなってしまう。
【0016】
ウエハ一括コンタクトボードの構成の詳細について説明する。
バンプ付きメンブレンリング10は、リング13と、リングに張り渡された絶縁性薄膜42の一方の面に設けられた導電性材料からなるバンプ22と、このバンプ22と電気的に接続して他方の面に設けられた金属パッド11aとを備える。バンプ付きメンブレンリングにおいては、半導体ウエハ71上の各半導体チップの周縁又はセンターライン上に形成されたアルミニウムパッド(検査パッド)72に対応して、約数万個のバンプが絶縁性薄膜上に形成されている。
【0017】
絶縁性薄膜12としては、ポリイミド樹脂は、優れた耐熱性や耐薬品性や、機械的強度を発揮する点で、バーンインボードやプローブカードなどの用途に適している。なお、フッ化物水溶液に対する耐性を有していれば、絶縁性薄膜を、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ABS系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコン系樹脂等を用いることもできる。メンブレンは、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂であってよい。
【0018】
リング13は、絶縁性薄膜を張り渡しで固定するための骨組み部材であり、SiN、SiCN、インバーニッケル、その他のSiに近い熱膨張率を有し強度の高いセラミックス、低膨張ガラス、金属、その他の材料からなるリングを用いてもよい。
【0019】
バンプ22は、プローブ端子の一例であり、例えば電解メッキ法又は無電解メッキ法等のメッキ法により、絶縁性薄膜12の各バンプホールの位置にそれぞれ形成される。バンプの形状は、例えば半球状に突起した形状である。なお、ここでいう半球状とは完全な半球だけではなく、単調な曲面をもって突起した形状をも含む。
【0020】
バンプ22は、例えば、ニッケル(Ni)又はニッケル合金等で形成される。ニッケル合金としては、例えばニッケル・錫合金、ニッケル・パラジウム合金等を使用できる。バンプは、銅で形成されてもよい。また、バンプは、メッキ法で形成されたニッケル等の部分の上に、他の金属で形成された表層を有してもよい。この表層の材料としては、例えばロジウム、パラジウム、白金、金などを使用することができる。
作製方法として以下のものを挙げることができる。銅箔とポリイミド薄膜が貼り合わされた積層フィルムをリングに張り渡して接着する。ポリイミド薄膜12の所定位置に、エキシマレーザーを用いて、バンプホールを形成した後、バンプホールにNiの電気メッキを行い、さらに等方的に広がった後、ほぼ半球状に成長させてバンプを形成する。金属パッド11aは、積層フィルムの銅箔をフォトリソグラフィによってパターニングすることで得ることができる。
【0021】
多層配線基板50は、電源電圧および所定のバーンイン試験信号を付与するための配線層を積層構造として有する。多層配線基板は、試験装置本体(テスター)と電気的に接続されており、試験装置とバンプ付きメンブレンリングとの間の信号を伝送する。作製方法としては、絶縁性基材上に配線層を積層し、周知のリソグラフィ法により所望のパターンに形成した後、絶縁層を積層し、該絶縁層に周知のリソグラフィ法によりコンタクトホールを形成した後、その上に他のスパッタ法などにより他の配線層を積層することによりコンタクトホールを介して下層の導電層と導通させる。この一連の工程を複数回行うことにより、ウエハ上の多数のパッドに電気信号を送るための複数の配線を設けている。絶縁性基材51としては、低膨張無アルカリガラス(例えば、NA40:HOYA社製)を用いることが望ましい。絶縁層53としては、例えば、ポリイミド前駆体を塗布して熱処理によりイミド化させて形成するポリイミドが望ましい。また、配線層52としては、Cr、CuおよびNiをこの順に積層してなるNi/Cu/Cr配線を用いることができる。
【0022】
異方性導電ゴムシート40は、主面と垂直な方向にのみ導電性を有する弾性体、例えばシリコン樹脂からなり、金属粒子がパッド電極部分41aに導通方向に沿って埋め込まれている。多層配線基板上の端子とバンプ付きメンブレンリングの金属パッド11aとを電気的に接続し、バンプ付きメンブレンリング上の金属パッド11aに押し当てることで、半導体ウエハ表面の凹凸及びバンプの高さのバラツキを吸収し、半導体ウエハ上の半導体素子のアルミニウムパッド72とバンプ付きメンブレンリング上のバンプ22とを確実に接続する。
【0023】
バンプ付きメンブレンリング10に設けられたバンプ22が、半導体ウエハ71上の半導体素子のアルミニウムパッド72と接触することにより、多層配線基板50の配線層52に接続された電源および信号源から印加される電源電圧およびバーンイン試験信号が、異方性導電ゴムシート40を介してバンプ付きメンブレンリングの金属パッド11aに送られ、金属パッド11aに導通するバンプ22からウエハ上の半導体デバイスに送られて、電気的特性試験やバーンイン試験が行われる。
上記構成の詳細に示すように、ウエハ一括コンタクトボードは、フッ化物水溶液に対する耐性を有している。
【0024】
次に、本発明の洗浄方法の詳細について説明する。
本発明によるウエハ一括コンタクトボードの洗浄方法は、フッ化物水溶液が入った液槽に、このウエハ一括コンタクトボードを構成するバンプ付きメンブレンリングを取り外して、このバンプ付きメンブレンリング全体を浸漬することにより容易に行うことができる。フッ化物水溶液としては、フッ酸水溶液、ケイフッ酸水溶液および酸性フッ化アンモン水溶液から選ばれる少なくとも1つであることが望ましく、フッ素濃度は、1wt%(重量百分率)未満が望ましい。
例えば、酸性フッ化アンモンNHF・HF(NH4F・HF=1:1)水溶液であれば、室温(25℃)で、フッ素濃度(重量百分率)が0.95wt%のものを用いることが望ましい。浸漬する時間は、例えば20秒から1分程度である。フッ素濃度を、1wt%(重量百分率)未満にすることにより、環境に配慮した溶液とすることができる。
【0025】
浸漬した後には、洗浄用布として東レ社製ベルクリンを用いてスクラブ洗浄、および純水リンスを行うことが好ましい。さらには、上記浸漬、スクラブ洗浄、および純水リンスを複数回繰り返すことがより好ましい。最後に乾燥工程を設ける。
【0026】
(バンプ−アルミニウムパッド間接触抵抗の評価)
上記実施形態に示すようなウエハ一括コンタクトボードを用いて、半導体素子の電気的特性試験を行った。半導体素子のアルミニウムパッドとのコンタクト回数は、500回である。
ウエハ一括コンタクトボードを、フッ素濃度(重量百分率)が0.95wt%の酸性フッ化アンモン水溶液に20秒浸漬し、その後、スクラブ洗浄、および純水リンスの工程を3回繰り返して行った後、乾燥し、半導体素子のアルミニウムパッドと、ウエハ一括コンタクトボードのバンプとの接触抵抗を測定した。
一方、比較例として、室温において、水酸化ナトリウム水溶液(5wt%)に、30秒浸漬したウエハ一括コンタクトボードを用意した。
【0027】
実施例において、4端子測定により接触抵抗を100点測定したところ、平均0.35mΩであった。また抵抗ばらつきはみられなかった。
一方、比較例においては、接触抵抗を100点測定したところ、平均0.55mΩであった。さらに、接触抵抗ばらつきが見られ、ウエハ全体で1〜2%、高抵抗を示す箇所がみられた。
このように本発明の洗浄方法を用いることによって、バンプと半導体素子のアルミニウムパッドとの接触抵抗を下げることができる。また、さらには、Niからなるバンプ表面に形成された自然酸化膜が洗浄後除去されていることを確認した。
【符号の説明】
【0028】
10 バンプ付きメンブレンリング
11a 金属パッド
12 絶縁性薄膜
13 リング
22 バンプ
40 異方性導電ゴムシート
50 多層配線基板
51 絶縁性基材
52 配線層
53 絶縁層
60 ウエハ一括コンタクトボード
71 半導体ウエハ
72 アルミニウムパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプローブ端子を備え、該プローブ端子を半導体素子の検査パッドに接触させて該半導体素子の電気的試験を行う検査治具の洗浄方法であって、
前記プローブ端子を、フッ化物水溶液を用いて洗浄することを特徴とする検査治具の洗浄方法。
【請求項2】
前記検査治具は、ウエハ上に多数形成された半導体素子の電気的試験を一括して行うために使用されるウエハ一括コンタクトボードであって、
該ウエハ一括コンタクトボードは、前記半導体素子の検査パッドに接触する多数の半球状の導電性材料からなるバンプを備えたバンプ付きメンブレンリングと、該バンプ付きメンブレンリングと一体となって前記バンプに導通する多数の配線を積層構造として有する多層配線基板とを備えてなり、
前記プローブ端子は、前記バンプ付きメンブレンリングの半球状に突出した前記導電性材料からなるバンプであることを特徴とする請求項1記載の検査治具の洗浄方法。
【請求項3】
前記フッ化物水溶液は、フッ酸水溶液、ケイフッ酸水溶液および酸性フッ化アンモン水溶液から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2記載の検査治具の洗浄方法。
【請求項4】
前記フッ化物水溶液のフッ素濃度は、1wt%未満であることを特徴とする請求項1、2または3記載の検査治具の洗浄方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−186889(P2010−186889A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30389(P2009−30389)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】