説明

歩幅算出装置、歩行距離特定装置、位置特定装置、コンピュータプログラム及び歩幅算出方法

【課題】歩行者の位置を精度良く特定するための歩行者の歩幅を算出する歩幅算出装置、歩行距離特定装置、位置特定装置、コンピュータプログラム及び歩幅算出方法を提供する。
【解決手段】相関パラメータ算出部172は、歩行者の歩幅と一歩毎の歩行速度との相関パラメータを算出する。2地点間の歩行距離をd、2地点間の歩行者の歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、2地点間の一歩毎の歩行速度の列をvi(i=1、2、…n)とすると、歩幅と歩行速度との相関関係は、d=Σwi=α・Σvi+n・βで表わすことができる。ここで、α、βは相関パラメータである。歩幅算出部173は、距離センサ132等で歩数及び一歩毎の歩行速度を取得し、取得した歩数及び歩行速度と相関パラメータα、βとにより一歩毎の歩幅を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置特定の技術に関し、特に歩行者が携帯することによって歩行者の位置を精度良く特定するための歩行者の歩幅を算出する歩幅算出装置、該歩幅算出装置を備える歩行距離特定装置、該歩行距離特定装置を備える位置特定装置、前記歩幅算出装置を実現するためのコンピュータプログラム及び歩幅算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の移動体の位置を検出するためにナビゲーションで広く利用されている位置検出方法には、例えば、自立航法、衛星航法、地図マッチング法、ハイブリッド航法などがある。自立航法は、距離センサ、方位センサ又は角速度センサなど用い、例えば、経緯度座標系を基にした直交座標系に対する車両の走行の方位角と単位時間当たりの走行距離に基づいて、逐次車両位置を算出するものであるが、道路との整合性は考慮されておらず、走行距離の増加に応じて車両位置の誤差が累積するという問題がある。
【0003】
また、衛星航法は、GPS(Global Positioning System)を用いるものであり、検出
される位置には、10〜20m程度の誤差を含む。GPSを用いるため、距離センサ、方位センサ又は角速度センサ等の車載のセンサは不要である。しかし、高架下の道路、建物に挟まれた道路、山道、街路樹等で覆われた道路では、所定数のGPS衛星から電波を受信することができず、検出精度が大きく劣化するという問題がある。また、道路間隔の狭い細街路では、走行道路を間違うという問題もある。
【0004】
また、地図マッチング法は、自立航法による走行軌跡と道路地図との整合性(マッチング)を考慮して車両の位置を検出するものである(特許文献1参照)。すなわち、自立航法による軌跡と、道路地図データとを比較して相関をとりながら、走行していると考えられる複数の道路候補の中から、最も確からしい道路を選定してゆく。そして、候補となる道路が1本に限定された時点で、自立航法により得られた車両の走行軌跡を道路に合致させる。しかし、限定した道路が間違っている場合、それ以降の位置検出が不能になるという問題がある。
【0005】
また、ハイブリッド航法は、衛星航法と地図マッチング法とを組み合わせたものであり、自立航法と衛星航法の誤差を勘案しながら、合理的に車両の位置を推定し、走行している道路を特定するものである(特許文献2参照)。ハイブリッド航法では、例えば、通常時には、地図マッチング法を用いて車両の位置を検出する。地図マッチング法で車両の位置が検出不能に陥った場合、衛星航法により車両の位置、方位を検出して車両の位置を推定し、道路地図データとの整合性を考慮して車両の位置を検出するものである。ハイブリッド航法を用いれば、特殊な場合を除けば、車両が走行している道路を間違う可能性は殆どなく、道路方向の位置精度も、平均的には10m程度の誤差範囲内であり、道路案内目的のナビゲーションでは、実用上殆ど問題ない精度レベルである。
【0006】
一方、歩行者の位置検出方法では、歩行者が携帯する携帯電話又は簡易型ナビゲーション装置等の携帯機器を用いて位置検出を行っている。このような携帯機器では、例えば、GPS衛星からの電波又は基地局との通信により歩行者の現在位置を検出する方法が実用化されている。
【0007】
しかし、GPS衛星から電波を受信して位置を検出する場合、GPS衛星の受信状態が良いときには、位置誤差が10〜20m程度であるが、都心のビル等の建造物の谷間又は高架下の道路などでは、位置が検出することが不能となる場合、あるいは、マルチパス等の影響により位置誤差が数百m程度になり正確な位置が求められない場合がある。特に、歩行者の場合、車両等の移動体と異なり、建造物の近くを建造物に沿って歩く傾向があるため、GPS衛星からの電波の受信レベルが低下する。
【0008】
そこで、歩行者の位置を精度良く求めるための技術開発が行われている。例えば、歩行者の一歩ずつの歩行を検出し、検出した歩行と登録されている歩幅とにより歩行距離を算出し、自立航法により所定の起点から見た歩行者の相対的な位置を求めて歩行者の現在位置を検出する携帯用ナビゲーション装置が開示されている(特許文献3参照)。
【0009】
また、歩行者の歩数を検出し、予め設定された歩幅と検出した歩数とから歩行距離を算出して自立航法によって地図上の位置を求めながら地図上における歩行者の現在の位置を検出する携帯用ナビゲーション装置が開示されている(特許文献4参照)。
【0010】
歩行者が携帯する携帯機器において、歩行者の位置を検出するために使用される距離センサは、歩行者の歩数を計数するもの、あるいは、加速度センサなどであり、車両の場合に使用される距離センサ(例えば、車速センサ、車輪速センサなど)に比べて検出精度は低い。また、歩数を検出して歩行距離を求める場合でも、車速センサ等と同様、一歩当たりの距離(歩幅)を較正(キャリブレーション)する必要がある。このため、上述の特許文献4では、GPSで地図上における位置を測定し、測定された位置の間の歩行者の歩行距離を求め、その歩行距離の間に検出された歩数で歩行距離を割算して歩幅を算出して設定するようにしている。
【特許文献1】特開昭63−148115号公報
【特許文献2】特開平2−275310号公報
【特許文献3】特開平8−68643号公報
【特許文献4】特開平9−89584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、歩幅を算出するためにGPSで測定した2地点間の歩行距離を算出する場合、2地点間の距離が比較的短い(例えば、100m〜500m程度)ときには、GPSによる測位誤差が無視できず、正確な歩行距離を算出することができない。特に、歩行者が建物付近を建物に沿って歩行するような場合には、マルチパス等の影響によりGPS測位の精度が大幅に低下する。さらに、2地点間の距離が比較的長く(例えば、1km程度)なる場合には、その2地点間において歩行者が必ずしも直進するとは限らないため、一層正確な歩行距離を算出することが困難となる。
【0012】
一方で、歩行者が歩行する場合、歩幅が常に一定であるとは限らず、例えば、歩行者の気分によっても歩幅は変化する。そこで、歩行リズムと歩幅とを予め対応付けておき、歩行者の歩行リズムに応じた歩幅又は歩行距離を求めることも考えられる。しかし、2地点間を歩行する間において歩行リズムが変動するような場合には、やはり歩幅又は歩行距離を正確に求めることはできない。また、歩行リズム(例えば、1秒当たりの歩数)が同じときでも歩幅が異なる(例えば、大股で歩行する場合と普通に歩行する場合)場合も考えられる。このため、歩行者の歩幅を精度良く算出することが要望されていた。
【0013】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、歩行者の位置を精度良く特定するための歩行者の歩幅を算出する歩幅算出装置、該歩幅算出装置を備える歩行距離特定装置、該歩行距離特定装置を備える位置特定装置、前記歩幅算出装置を実現するためのコンピュータプログラム及び歩幅算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係る歩幅算出装置は、歩行者の歩幅を算出する歩幅算出装置において、歩行者の歩数を取得する歩数取得手段と、歩行者が歩行した地点のうちの2地点間の歩行距離を算出する歩行距離算出手段と、歩行者の歩行特性を取得する歩行特性取得手段と、前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び歩行特性に基づいて歩幅と歩行特性との相関関係を特定する相関関係特定手段と、該相関関係特定手段で特定した相関関係及び歩行特性に基づいて歩幅を算出する歩幅算出手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
第2発明に係る歩幅算出装置は、第1発明において、前記歩行特性として一歩毎の歩行速度を取得する歩行速度取得手段を備え、前記相関関係特定手段は、前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び該2地点間での一歩毎の歩行速度それぞれに基づいて歩幅と歩行速度との相関関係を特定するように構成してあり、前記歩幅算出手段は、前記相関関係特定手段で特定した相関関係及び歩行速度に基づいて歩幅を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0016】
第3発明に係る歩幅算出装置は、第1発明において、前記歩行特性として一歩毎の歩行時間を取得する歩行時間取得手段を備え、前記相関関係特定手段は、前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び該2地点間での一歩毎の歩行時間それぞれに基づいて歩幅と歩行時間との相関関係を特定するように構成してあり、前記歩幅算出手段は、前記相関関係特定手段で特定した相関関係及び歩行時間に基づいて歩幅を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0017】
第4発明に係る歩幅算出装置は、第1発明において、前記歩行特性として一歩毎の着地時の衝撃を取得する衝撃取得手段を備え、前記相関関係特定手段は、前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び該2地点間での一歩毎の着地時の衝撃それぞれに基づいて歩幅と着地時の衝撃との相関関係を特定するように構成してあり、前記歩幅算出手段は、前記相関関係特定手段で特定した相関関係及び着地時の衝撃に基づいて歩幅を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0018】
第5発明に係る歩幅算出装置は、第1発明乃至第4発明のいずれか1つにおいて、前記2地点間の傾斜に関する傾斜情報を取得する傾斜情報取得手段を備え、前記相関関係特定手段は、前記傾斜情報取得手段で取得した傾斜情報に応じて歩幅と歩行特性との相関関係を特定するように構成してあることを特徴とする。
【0019】
第6発明に係る歩幅算出装置は、第1発明乃至第5発明のいずれか1つにおいて、地図情報を記憶する記憶手段と、歩行者が歩行した2地点を特定する第1特定手段と、該第1特定手段で特定した2地点の直線距離を算出する第1距離算出手段と、前記第1特定手段で特定した2地点の歩行軌跡に沿った距離を自立航法により算出する第2距離算出手段と、前記第1特定手段で特定した2地点を前記記憶手段に記憶してある地図情報を用いた地図マッチング法により地図上の2地点に特定する第2特定手段と、該第2特定手段で特定した2地点の直線距離を算出する第3距離算出手段とを備え、前記歩行距離算出手段は、前記第1距離算出手段、第2距離算出手段及び第3距離算出手段で算出した距離に基づいて、歩行者が歩行した2地点の歩行距離を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0020】
第7発明に係る歩幅算出装置は、第5発明において、前記相関関係特定手段は、前記傾斜情報取得手段で取得した傾斜情報に応じて歩幅と歩行特性との相関関係を示す相関パラメータを特定するように構成してあり、前記相関関係特定手段が特定した傾斜情報に応じた相関パラメータと該傾斜情報に基づいて、相関パラメータと傾斜情報との第2の相関関係を特定する第2相関関係特定手段を備え、前記相関関係特定手段は、さらに、前記第2相関関係特定手段で特定した第2の相関関係に基づいて任意の傾斜情報に対する相関パラメータを特定するように構成してあることを特徴とする。
【0021】
第8発明に係る歩幅算出装置は、第1発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、前記歩幅算出手段で算出した歩幅の誤差を算出する誤差算出手段を備えることを特徴とする。
【0022】
第9発明に係る歩行距離特定装置は、第1発明乃至第8発明のいずれか1つに係る歩幅算出装置と、歩行者の歩数及び前記歩幅算出装置で算出した歩幅に基づいて歩行距離を特定する歩行距離特定手段とを備えることを特徴とする。
【0023】
第10発明に係る位置特定装置は、第9発明に係る歩行距離特定装置と、歩行者の位置を測位する測位手段と、該測位手段で測位した測位位置及び前記歩行距離特定装置で特定した歩行距離に基づいて歩行者の位置を特定する位置特定手段とを備えることを特徴とする。
【0024】
第11発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータを、歩行者の歩数及び歩行特性を取得させて、歩行者の歩幅と歩行特性との相関関係を特定する手段として機能させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、歩行者が歩行した地点のうちの2地点間の歩行距離を算出する歩行距離算出手段と、算出した2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び歩行特性に基づいて歩幅と歩行特性との相関関係を特定する相関関係特定手段として機能させることを特徴とする。
【0025】
第12発明に係る歩幅算出方法は、歩幅算出装置で歩行者の歩幅を算出する歩幅算出方法において、前記歩幅算出装置は、歩行者の歩数を取得し、歩行者が歩行した地点のうちの2地点間の歩行距離を算出し、歩行者の歩行特性を取得し、前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び歩行特性に基づいて歩幅と歩行特性との相関関係を特定し、特定した相関関係及び歩行特性に基づいて歩幅を算出することを特徴とする。
【0026】
第1発明、第11発明及び第12発明にあっては、歩行者が歩行した2地点を特定し、2地点間の歩行距離、その2地点間での歩行者の歩数及びその2地点間での歩行者の歩行特性に基づいて歩幅と歩行特性との相関関係を特定する。歩行者が歩行した2地点は、例えば、GPS、基地局通信、距離センサ、方位センサなどの測位データを用いて測位、あるいは、光ビーコン、電波ビーコン等の通信により測位し、測位した測位位置から地図マッチングで測位位置に対応する地点を求めることで特定することができる。地図マッチングを併用することで、例えば、GPSのみで測位する場合に比べて精度良く2地点を特定し、2地点間の歩行距離を求めることができる。
【0027】
歩行者の歩行特性は、例えば、前記2地点間の歩行者の一歩毎の歩行速度、一歩毎の歩行時間(歩行ペース)、一歩毎の着地時の衝撃としての歩行強度(歩行の強さ)などとすることができる。歩行特性として、例えば、歩行速度を用いる場合、2地点間の歩行距離をd、2地点間の歩行者の歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、2地点間の一歩毎の歩行速度の列をvi(i=1、2、…n)とすると、歩幅と歩行速度との相関関係は、例えば、d=Σwi=α・Σvi+n・βで表わすことができる。ここで、α、βは相関パラメータである。これらのデータを収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα、βを算出することにより、歩幅と歩行特性(例えば、一歩毎の歩行速度)との相関関係を特定することができる。
【0028】
歩幅を算出する場合には、例えば、加速度センサ等で歩数及び歩行特性として一歩毎の歩行速度を取得し、取得した歩数及び一歩毎の歩行速度と相関パラメータとにより一歩毎の歩幅を求めることができる。これにより、2地点間において、歩行者の歩行特性(例えば、歩行速度)が変動した場合でも、精度良く歩幅を算出することができる。
【0029】
第2発明にあっては、歩行特性として一歩毎の歩行速度を取得する。歩行者が歩行した2地点を特定し、2地点間の歩行距離、その2地点間の歩行者の歩数及びその2地点間の一歩毎の歩行速度に基づいて歩幅と歩行速度との相関関係を特定する。2地点間の歩行距離をd、2地点間の歩行者の歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、2地点間の一歩毎の歩行速度の列をvi(i=1、2、…n)とすると、歩幅と歩行速度との相関関係は、例えば、d=Σwi=α・Σvi+n・βで表わすことができる。ここで、α、βは相関パラメータである。これらのデータを収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα、βを算出することにより、歩幅と歩行速度との相関関係を特定することができる。
【0030】
歩幅を算出する場合には、例えば、加速度センサ等で歩数及び一歩毎の歩行速度を取得し、取得した歩数及び歩行速度と相関パラメータとにより一歩毎の歩幅を求めることができる。これにより、2地点間において、歩行者の歩行速度が変動した場合でも、精度良く歩幅を算出することができる。
【0031】
第3発明にあっては、歩行特性として一歩毎の歩行時間(歩行ペース)を取得する。歩行者が歩行した2地点を特定し、2地点間の歩行距離、その2地点間の歩行者の歩数及びその2地点間の一歩毎の歩行時間(歩行ペース)に基づいて歩幅と歩行時間との相関関係を特定する。2地点間の歩行距離をd、2地点間の歩行者の歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、2地点間の一歩毎の歩行時間の列をtri(i=1、2、…n)とすると、歩幅と歩行時間との相関関係は、例えば、d=Σwi=α′・Σtri+n・β′で表わすことができる。ここで、α′、β′は相関パラメータである。これらのデータを収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα′、β′を算出することにより、歩幅と歩行時間との相関関係を特定することができる。
【0032】
歩幅を算出する場合には、例えば、加速度センサ等で歩数及び一歩毎の歩行時間を取得し、取得した歩数及び歩行時間と相関パラメータとにより一歩毎の歩幅を求めることができる。これにより、2地点間において、歩行者の歩行時間(歩行ペース)が変動した場合でも、精度良く歩幅を算出することができる。
【0033】
第4発明にあっては、歩行特性として一歩毎の着地時の衝撃としての歩行強度(歩行の強さ)を取得する。歩行者が歩行した2地点を特定し、2地点間の歩行距離、その2地点間の歩行者の歩数及びその2地点間の一歩毎の歩行強度(歩行の強さ)に基づいて歩幅と一歩毎の歩行強度との相関関係を特定する。2地点間の歩行距離をd、2地点間の歩行者の歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、2地点間の一歩毎の歩行強度の列をsti(i=1、2、…n)とすると、歩幅と一歩毎の歩行強度との相関関係は、例えば、d=Σwi=α″・Σsti+n・β″で表わすことができる。ここで、α″、β″は相関パラメータである。これらのデータを収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα″、β″を算出することにより、歩幅と一歩毎の歩行強度との相関関係を特定することができる。
【0034】
歩幅を算出する場合には、例えば、加速度センサ等で歩数及び一歩毎の歩行強度を取得し、取得した歩数及び歩行強度と相関パラメータとにより一歩毎の歩幅を求めることができる。これにより、2地点間において、歩行者の歩行強度(歩行の強さ)が変動した場合でも、精度良く歩幅を算出することができる。
【0035】
第5発明にあっては、前記2地点間の傾斜に関する傾斜情報を取得する。傾斜情報は、例えば、2地点の高度、2地点の高度差、あるいは、2地点の高度差を距離で除算した2地点の傾斜角などの情報である。傾斜情報は、予め地図情報などに含めて記憶しておく構成でもよく、高度センサ等で検出する構成でもよく、あるいは、外部から傾斜情報を受信する構成であってもよい。例えば、2地点間の傾斜角をφとし、正を上り坂、負を下り坂とする。歩行特性として、例えば、歩行速度を用いる場合、2地点間の歩行距離をd、2地点間の歩行者の歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、2地点間の一歩毎の歩行速度の列をvi(i=1、2、…n)とすると、2地点の傾斜角φを考慮した歩幅と歩行速度との相関関係は、例えば、d=Σwi=α(φ)・Σvi+n・β(φ)で表わすことができる。ここで、α(φ)、β(φ)は相関パラメータである。これらのデータを収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα(φ)、β(φ)を算出することにより、平坦な道路だけでなく2地点間が坂道である場合であっても、歩幅と歩行速度との相関関係を特定することができる。なお、歩行特性として、歩行時間(歩行ペース)、歩行強度(歩行の強さ)を用いる場合も同様である。
【0036】
第6発明にあっては、歩行者が歩行した2地点を特定する。歩行者が歩行した2地点(例えば、A1、B1)は、例えば、GPS、基地局通信、距離センサ、方位センサなどの測位データを用いて測位、あるいは、光ビーコン、電波ビーコン等の通信により測位することができる。特定した2地点(A1、B1)の直線の距離L1を算出するとともに、特定した2地点(A1、B1)の歩行軌跡に沿った距離D1を自立航法のステップ毎に得られた距離の和により算出する。次に、特定した2地点(A1、B1)に対応する地図上の2地点(A2、B2)を特定する。測位位置(A1、B1)に対応する地図上の位置(A2、B2)を特定するには、例えば、地図マッチングを用いることができる。特定した2地点間の実際の歩行距離を、地図上の2地点(A2、B2)の直線距離L2を用いて、例えば、L2・D1/L1により算出する。
【0037】
これにより、測位した位置を地図マッチングにより精度良く特定することができるとともに、自立航法により得られた歩行軌跡に沿った距離と直線距離との比を考慮することにより、歩行者が直進せずに歩行する場合でも、特定した2地点間の歩行距離を精度良く求めることができる。
【0038】
第7発明にあっては、歩幅と歩行特性との相関関係を示す相関パラメータと傾斜情報とを関連付ける。例えば、歩行特性として歩行速度、傾斜情報として傾斜角を考える。歩幅と歩行特性との相関関係を示す相関パラメータをα(φ)、β(φ)とすると、傾斜角φが変化した場合の相関パラメータα(φ)、β(φ)の変化は微小であると考えられるので、相関パラメータα(φ)、β(φ)と傾斜情報(傾斜角φ)との関連付けを、例えば、α(φ)=α1・φ+α2とし、β(φ)=β1・φ+β2のように、新たな第2の相関関係としての相関パラメータα1、α2、β1、β2を用いて表わすことができる。予めいくつかの傾斜角φに対応する相関パラメータα(φ)、β(φ)がわかっている場合には、上述の関連付けを用いることにより、任意の傾斜角に対して相関パラメータを求めることができる。なお、歩行特性として、歩行時間(歩行ペース)、歩行強度(歩行の強さ)を用いる場合も同様である。
【0039】
第8発明にあっては、算出した歩幅の誤差を算出する。歩幅の誤差は、歩幅と歩行特性(例えば、歩行速度、歩行時間、歩行強度など)との相関関係を特定する際の回帰直線の回りの分散により求めることができる。これにより、歩幅に基づいて歩行距離を算出する際に、算出した歩行距離の誤差の程度を把握することができ、仮に誤差が許容できる範囲を超えた場合には、誤った歩行距離の特定、あるいは、誤った歩行者の位置の特定を防止することができる。
【0040】
第9発明にあっては、歩行者の歩数及び算出した歩幅に基づいて歩行距離を特定する。これにより、精度良く歩行距離を求めることができる。
【0041】
第10発明にあっては、歩行者の位置を測位し、測位した測位位置及び特定した歩行距離に基づいて歩行者の位置を特定する。これにより、精度良く歩行者の位置を求めることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明にあっては、歩行者の歩幅が変動するような状況であっても、歩行者の歩幅を従来よりも精度良く算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
実施の形態1
以下、本発明を実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る位置特定装置である位置検出装置10の構成の一例を示すブロック図である。位置検出装置10は、歩行者の歩幅を算出するとともに、算出した歩幅を用いて歩行者の歩行距離を特定し、歩行者の位置を特定(検出)する。
【0044】
位置検出装置10は、歩行者が携帯可能であって、装置全体を制御する制御部11、通信部12、測位部13、地図データベース14、記憶部15、操作部16、位置検出処理部17、表示部18、音声出力部19などを備える。また、測位部13は、GPS131、距離センサ132、方位センサ133などを備える。また、位置検出処理部17は、距離算出部171、相関パラメータ算出部172、歩幅算出部173、誤差算出部174、歩行距離特定部175、位置特定部176などを備える。
【0045】
通信部12は、光ビーコン、電波ビーコン、RFID若しくはDSRC等の路上装置との間で通信を行う狭域通信機能、UHF帯若しくはVHF帯などの無線LAN等の中域通信機能、又は携帯電話、PHS、多重FM放送若しくはインターネット通信などの広域通信機能を備える。通信部12は、例えば、路上装置間の路路間通信、路上装置と車両との路車間通信、又は車々間通信で通信された地図情報を取得する。路上装置は、例えば、超音波感知器、光ビーコン若しくは画像感知器等の交通情報収集装置、交通情報を文字又は図形で提供する情報板装置、信号制御装置等でもよい。また、通信部12は、携帯電話等の広域通信を利用することにより、情報処理センタ又は交通管制センタ等のセンタ装置から歩行者の周辺の地図情報などを取得することもできる。
【0046】
通信部12は、基地局との間で通信を行う通信機能を備え、複数の基地局からの電波を受信し、受信結果を測位部13へ出力する。また、通信部12は、路上装置との狭域通信により得られた通信地点の位置情報を測位部13へ出力する。
【0047】
測位部13は、歩行者の位置を時々刻々(例えば、0.5秒、1秒等の経過の都度、1m、2m等の移動の都度など)測位し(測位位置を求め)、歩行者の移動距離及び移動方位(測位方位)を時刻とともに歩行者の歩行軌跡として記憶部15に記憶する。
【0048】
GPS131は、複数のGPS衛星から電波を受信し、歩行者の位置を測位する。なお、GPS131に加えて、DGPS(ディファレンシャルGPS)を搭載することもできる。DGPSは、予め位置が分かっている基準局から発信されるFM放送又は中波を受信し、GPS131で求めた測位位置のずれを補正することができ、歩行者の位置の精度を向上させることができる。
【0049】
距離センサ132は、歩行者の歩数を検出する歩数センサ、あるいは、歩行時に歩行者の着地に伴う衝撃(振動)の周期的なピークを取得して歩数を検出する加速度センサを備えている。また、加速度センサにより、歩行者の一歩毎の歩行速度、歩行時間(歩行ぺース)、歩行者の足が地面に着地する際の衝撃としての歩行強度(歩行の強さ)を検出することもできる。
【0050】
方位センサ133は、角速度センサ又は角加速度センサ(相対方位センサ)、地磁気センサ(絶対方位センサ)などを備えている。これにより、自立航法において歩行者の移動方位を短時間かつ短距離の歩行毎に検出することができる。
【0051】
測位部13は、測位した測位データ、通信部12を経由して得られた基地局からの電波の受信結果、又は路上装置との狭域通信により得られた通信地点の位置情報などに基づいて、測位位置及び測位位置の誤差を算出する。以下、測位位置及びその誤差の算出方法について説明する。
【0052】
図2は測位位置の誤差範囲の例を示す説明図である。直交座標系(x方向及びy方向)において、GPS、基地局又は路上装置との狭域通信により検出された位置の誤差範囲を、一例として、矩形領域(x方向の長さが4a、y方向の長さが4b)として設定する。すなわち、測位位置は、矩形領域の中心位置であり、誤差範囲は、中心位置からx方向に±2aの範囲だけ広がり、y方向に±2bの範囲だけ広がる。例えば、2aを2シグマと設定した場合、x方向の分散はa2 となり、標準偏差はaと設定することができる。また、2bを2シグマと設定した場合、y方向の分散はb2 となり、標準偏差はbと設定することができる。
【0053】
歩行者の位置を測位する際にGPSを利用する場合、誤差範囲は、環境条件、より具体的には、GPSの受信レベル、捕捉衛星数、2次元又は3次元測位の別、あるいは、CEP(Circular Error Probability)等により時間的に変化する。また基地局通信の場合には、誤差範囲は、基地局との通信レベル、基地局の通信範囲等で時間的に変化する。誤差範囲を予め大きめに設定した所定の定数、場所又は時間に応じて予め決定した定数等を用いてもよい。また、誤差範囲の形状は、矩形形状に限らず、円形、楕円形等任意の形状でもよい。例えば、GPSのみで測位する場合、環境条件が良好なときには、誤差範囲として10〜20m程度を設定することができる。
【0054】
以下、歩行者の測位位置の算出方法について説明する。なお、測位位置は、直交座標系における二次元ベクトルで表現するが、3次元では、高度情報を加えるだけであり、容易に拡張可能である。また、以下の説明では、時刻で定式化しているが、実際の処理においては、単位時間の経過の都度の処理の代わりに単位歩行距離の都度処理を行ってもよい。また、以下、大文字のアルファベットはベクトル又は行列とする。
【0055】
時刻tにおける歩行者の位置P(t)を式(1)とすると、時刻t+1(時刻t、t+1の間隔は、所定時間であり、例えば、1秒、0.5秒などである)における歩行者の位置P(t+1)は、式(2)で表すことができる。あるいは、時刻tから歩行者が所定の歩行距離(例えば、1m、2mなど)を歩行した時刻を時刻t+1とすることもできる。なお、ベクトルに付した「T」は転置を意味する。また、式(2)は、歩行者の動特性を示すものである。なお、時刻tにおける歩行者の位置P(t)は、歩行者の真の位置(実際の位置)であり、未知の誤差の存在のため観測不可能な位置である。すなわち、歩行者の測位位置は、真の位置P(t)に対する最適な推定位置を求めるものである。
【0056】
【数1】

【0057】
ここで、D(t)は、式(3)で表され、d(t)は、時刻tから時刻t+1までに歩行者が移動(歩行)した距離、θ(t)は、直交座標系に対する歩行者の移動(歩行)の方位角である。また、E(t)は、式(4)で表され、e(t)は、移動距離d(t)の誤差である。また、誤差E(t)の分散Q(t)は、式(5)で表され、qは、単位距離移動での誤差分散であり、一定値とすることができる。
【0058】
また、時刻tにおいて、GPS、基地局通信又は路上装置との通信により検出された位置S(t)は、式(6)で表すことができる。ここで、G(t)は、位置S(t)の誤差であり、誤差G(t)の共分散行列R(t)は、式(7)で表すことができる。式(7)において、a、bそれぞれは、図2で示した誤差範囲である矩形領域のx方向及びy方向の長さの4分の1である。すなわち、共分散行列R(t)は、2a、2bを2シグマとした場合のx方向及びy方向の分散で構成されている。なお、E(t)、G(t)の平均値は0としても一般性は失わない。
【0059】
時刻tにおける歩行者の位置P(t)の最適な推定位置H(t)は、カルマンフィルタにより式(8)のような漸化式で表される。
【0060】
【数2】

【0061】
ここで、Γ(t)は、推定位置H(t)の推定誤差の分散であり、式(9)のような漸化式で表すことができる。また、行列に付した「−1」は、その行列の逆行列を意味する。また、初期時刻0における推定位置H(0)、その推定誤差の分散Γ(0)は、それぞれ式(10)、式(11)で表すことができる。ここで、Mは、歩行者の最初の位置の先験情報であり、Σは、その誤差分散である。仮に先験情報がない場合、M=0、Σ-1=0となり、初期時刻0における推定位置H(0)、その推定誤差の分散Γ(0)は、それぞれ式(12)、式(13)で表される。
【0062】
なお、式(6)は、GPS、基地局通信又は路上装置との通信により位置が検出された場合に得られるので、GPS、基地局通信又は路上装置との通信が行われない間は、式(7)における誤差a、bが十分大きな値と考えることにより、式(8)において、R-1(t)=0とすれば、式(8)をそのまま用いて推定位置を繰り返し算出することができる。すなわち、この場合は、自立航法のみで位置を測位することと等価になる。なお、以上の数式では、2次元の位置検出として定式化したが、高さの次元を加えて3次元で定式化してもよい。
【0063】
地図データベース14は、広範囲の地図情報を記憶してある。なお、歩行者の位置に応じて、その付近の地図情報をセンタ装置又は路上装置などの外部から通信で取得して記憶しておくこともできる。
【0064】
図3は地図情報の一例を示す模式図である。歩行者の位置を検出する場合には、車両の位置を検出する場合に比較して複雑かつ困難になる。すなわち、車両の場合には、推定した位置と地図上の車道との地図マッチングにより、車両の位置を検出することができるのに対し、歩行者の場合には、歩行者用の歩道以外に歩行者が歩行可能な領域は種々存在する。また、屋外のみならず屋内であっても歩行者の位置検出を行う必要性が高い。したがって、歩行者の位置を検出する場合、歩道と車道との分離等、きめ細かな地図マッチングが必要となるため、地図情報としても詳細のデータが必要になる。ただし、広範囲な地図情報を位置検出装置10の記憶部15に記憶しておく必要はなく、歩行者の位置に合わせて適宜、情報センタ装置又は路上装置等の外部から通信で取得しても良い。
【0065】
地図上には、歩行者専用道路(歩道)、車道、横断歩道、ビル、小売店、公園、池、踏切など、種々の領域が存在する。そこで、ビル、地下道、駅舎、店舗、小売店、家屋、工場、地下街、建造物内部などの屋内領域には、その中に歩行通路(道路)を設定することができる。
【0066】
図4は地図上の道路の設定の一例を示す説明図である。図4の例は、道路上の特徴地点としての交差点の周辺の道路の設定例を示す。図4に示すように、歩道と車道とが分離されているような幹線道路の場合には、歩行者道路(歩道)及び横断歩道を道路として設定することができる。図4の例では、道路を二次元で示し、道路の幅を設定してある。
【0067】
図5は地図上の道路の設定の他の例を示す説明図である。図5の例も、道路上の特徴地点としての交差点の周辺の道路の設定例を示す。図5に示すように、歩道と車道とが分離されているような幹線道路の場合には、歩行者道路(歩道)及び横断歩道を道路として設定することができる。図5の例では、道路を一次元で示し、道路を線分として設定してある。なお、この場合、道路の幅を設定しておくこともできる。
【0068】
記憶部15は、通信部12を介して受信した各種情報、測位部13で測位した測位データ、位置検出処理部17で処理した処理結果などを記憶する。なお、制御部11、位置検出処理部17などをCPU、RAMなどで構成する場合、制御部11、位置検出処理部17の処理手順を定めたコンピュータプログラムを記憶することもできる。
【0069】
操作部16は、各種操作ボタンを備え、歩行者と位置検出装置10とのユーザインタフェースとして機能する。例えば、操作部16は、歩行者の操作により位置検出装置10の動作の開始又は停止の操作を受け付ける。
【0070】
位置検出処理部17は、専用のハードウエア回路で構成してもよく、又は予め処理手順を定めたコンピュータプログラムを実行する構成であってもよい。
【0071】
距離算出部171は、相関パラメータ算出部172で歩行者の歩幅と歩行特性(例えば、一歩毎の歩行速度、一歩毎の歩行時間、一歩毎の着地時の衝撃としての歩行強度など)との相関パラメータを算出するため、及び歩幅算出部173で相関パラメータと歩行特性(例えば、一歩毎の歩行速度、歩行時間又は歩行強度など)とにより歩幅を算出するために必要な2地点間の歩行距離を算出する。
【0072】
図6は2地点間の歩行距離を算出する一例を示す説明図である。図6(a)に示す歩行者が歩行した2地点A1、B1は、例えば、GPS131、基地局通信、距離センサ132、方位センサ133などの測位データを用いて測位することができ、あるいは、光ビーコン、電波ビーコン等の通信により測位することができる。
【0073】
距離算出部171は、特定した2地点A1、B1の直線の距離L1を算出するとともに、特定した2地点A1、B1の歩行軌跡に沿った距離D1を自立航法のステップ毎に得られた距離の和により算出する。特定した2地点A1、B1の直線の距離L1は、例えば、各地点A1、B1の位置を(x、y、z)座標で表す場合、各座標値の差の2乗を加算して平方根を求めることにより算出することができる。
【0074】
次に、距離算出部171は、図6(b)に示すように、特定した2地点A1、B1に対応する地図上の2地点A2、B2を特定する。測位位置A1、B1に対応する地図上の位置A2、B2を特定するには、例えば、地図マッチングを用いることができる。例えば、各地点A2、B2は、地図マッチングにより、歩行者が道路を曲がることにより確定した2地点の位置データを基準とすることができる。距離算出部171は、特定した2地点間の実際の歩行距離dを、地図上の2地点(A2、B2)の直線距離L2を用いて、例えば、L2・D1/L1により算出する。
【0075】
これにより、地図マッチング法と自立航法のそれぞれの欠点を補い、それぞれの長所を取り込むことで、測位した位置を地図マッチングにより精度良く特定することができるとともに、自立航法により得られた歩行軌跡に沿った距離と直線距離との比を考慮することにより、歩行者が直進せずに歩行する場合でも、特定した2地点間の歩行距離を精度良く求めることができる。なお、特定した地点A2、B2が地図上で直線でない(例えば、A2、B2間にカーブ、曲がり角がある)場合には、曲線を折れ線で近似した地図の各点ごとに、上記処理を行って累計すればよい。また、他の方法として、特定した2地点間の歩行が略直線であるか否かを自立航法により求めた歩行軌跡で推定し、あるいは、対応する地図上の道路で判定し、略直線の場合のみデータを利用することもできる。
【0076】
相関パラメータ算出部172は、距離算出部171で特定した2地点間の歩行距離に基づいて、歩行者の歩幅と歩行特性(例えば、一歩毎の歩行速度、歩行時間又は歩行強度など)との相関パラメータを算出する。なお、歩行特性として一歩毎の歩行速度、歩行時間、歩行強度などの1つを用いてもよく、あるいは、いくつかを組み合わせて用いてもよい。
【0077】
まず、歩行特性として一歩毎の歩行速度と歩幅との相関パラメータを算出する場合について説明する。すなわち、相関パラメータ算出部172は、距離算出部171で特定した2地点間の歩行距離に基づいて、歩行者の歩幅と一歩毎の歩行速度との相関パラメータを算出する。歩行者の歩幅wは、歩行者の歩行速度vとの間に式(14)の関係があると考えるのが妥当である。ここで、α、βは相関パラメータである。
【0078】
【数3】

【0079】
地図マッチングにより特定された2地点(図6の例では、A2、B2)間の歩行距離をd、この2地点間において距離センサ132で得られた歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、一歩毎の歩行速度の列をvi(i=1、2、…n)とすると、歩幅と歩行速度との相関関係は、例えば、式(15)で表わすことができる。すなわち、歩幅は、歩行速度と第1の相関パラメータ(α)との積算値に第2の相関パラメータ(β)を加算した相関式で表わすことができる。
【0080】
この場合、線形回帰直線は、式(16)〜式(18)で表わされる。式(17)、式(18)において、aveは平均操作を示す。これらのデータを必要量収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα、βは、式(19)〜式(22)で算出することができる。ここで、varは、分散操作を示し、covは共分散操作を示す。
【0081】
歩幅算出部173は、距離センサ132等で歩数及び一歩毎の歩行速度を取得し、取得した歩数及び歩行速度と相関パラメータα、βとにより一歩毎の歩幅を算出する。これにより、2地点間において、歩行者の歩行速度が変動した場合でも、精度良く歩幅を算出することができる。
【0082】
誤差算出部174は、算出した歩幅の誤差を算出する。歩幅の誤差は、歩幅と歩行速度との相関関係を特定する際の回帰直線の回りの分散により求めることができる。例えば、上述の線形回帰直線のyの誤差(一歩当たりの誤差)は、式(23)で示す回帰直線の回りの分散で表わすことができ、一歩当たりの距離誤差の平均的な割合eは、1シグマのレベルとして式(24)で算出することができる。なお、距離誤差は、歩幅と歩行速度との相関パラメータを用いて算出される距離の誤差であることから相関誤差としての意味合いも有する。
【0083】
【数4】

【0084】
式(24)で算出される一歩当たりの誤差を、式(4)のe(t)として用いることができる。なお、この場合には、一歩当たりの誤差に歩数を積算しておく必要がある。これにより、歩幅に基づいて歩行距離を算出する際に、算出した歩行距離の誤差の程度を把握することができ、仮に誤差が許容できる範囲を超えた場合には、誤った歩行距離の特定、あるいは、誤った歩行者の位置の特定を防止することができる。また、歩行者の位置を検出する場合、他のセンサ誤差等を加味して、位置検出の誤差範囲を的確に把握することができる。
【0085】
上述の例では、歩行者の歩幅wは、歩行者の歩行速度vとの間で線形関係にあるとして相関パラメータを算出したが、これに限定されるものではなく、歩行者の歩幅wと、歩行者の歩行速度vとの間に多項式の関係があるとすることもできる。例えば、式(25)で示すように、二次式の関係にあるとすることもできる。
【0086】
【数5】

【0087】
この場合、式(15)に代えて式(26)を、式(16)に代えて式(27)を、式(17)に代えて式(28)及び式(29)を、式(18)に代えて式(30)を用いることができる。また、相関パラメータα、β、γは、例えば、重回帰分析などの手法を用いて算出することができる。すなわち、歩幅は、歩行速度の2乗と第1の相関パラメータ(α)との積算値に、歩行速度と第2の相関パラメータ(β)との積算値を加算し、さらに第3の相関パラメータ(γ)を加算した相関式で表わすことができる。
【0088】
なお、歩行者の歩幅と歩行速度との関係は、多項式の関係があるとすることができることから、二次式の関係に限定されるものではなく、N次式の結合からなる式(N=2、1、−1、又は0、すなわち定数項など)であってもよい。
【0089】
次に、歩行特性として一歩毎の歩行時間(歩行ペース)と歩幅との相関パラメータを算出する場合について説明する。なお、歩行ペースとは、歩行における足の回転の早さに基づく数値を示し、例えば、一歩当たりに要する歩行時間tr、単位時間当たりの歩数、あるいは単位時間当たりにセンサデータの原点(データのほぼ中央値)を通過する回数などである。
【0090】
図7は歩行ペースの一例を示す説明図である。図7において、横軸は時間を示し、縦軸は歩行に伴う鉛直方向の加速度を示す。歩行者の歩行に伴う鉛直方向の加速度を検出することができるセンサでデータを取得した場合、図7に示すように、センサデータ(図7の例では加速度データ)の原点又はデータのほぼ中央値を通過する回数を求めることにより歩行ペースを取得することができる。歩数の検出が困難な場合には有効かつ簡便な方法である。なお、以下の説明では、歩行ペースとして一歩当たりの歩行時間trの場合について説明するが、単位時間当たりの歩数、あるいは単位時間当たりにセンサデータの原点(データのほぼ中央値)を通過する回数についても同様である。
【0091】
相関パラメータ算出部172は、距離算出部171で特定した2地点間の歩行距離に基づいて、歩行者の歩幅と一歩毎の歩行時間(歩行ペース)との相関パラメータを算出する。歩行者の歩幅wは、歩行者の歩行時間vとの間に式(31)の関係があると考えるのが妥当である。ここで、α′、β′は相関パラメータである。
【0092】
【数6】

【0093】
地図マッチングにより特定された2地点(図6の例では、A2、B2)間の歩行距離をd、この2地点間において距離センサ132で得られた歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、一歩毎の歩行時間の列をtri(i=1、2、…n)とすると、歩幅と歩行時間との相関関係は、例えば、式(32)で表わすことができる。すなわち、歩幅は、歩行時間と第1の相関パラメータα′との積算値に第2の相関パラメータβ′を加算した相関式で表わすことができる。
【0094】
この場合、線形回帰直線は、式(33)〜式(35)で表わされる。これらのデータを必要量収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα′、β′は、歩行速度の場合と同様に、式(19)〜式(22)で算出することができる。
【0095】
歩幅算出部173は、距離センサ132等で歩数及び一歩毎の歩行時間を取得し、取得した歩数及び歩行時間と相関パラメータとにより一歩毎の歩幅を算出する。これにより、2地点間において、歩行者の歩行時間(歩行ペース)が変動した場合でも、精度良く歩幅を算出することができる。
【0096】
誤差算出部174は、算出した歩幅の誤差を算出する。歩幅の誤差は、歩幅と歩行時間との相関関係を特定する際の回帰直線の回りの分散により求めることができる。例えば、上述の線形回帰直線のyの誤差(一歩当たりの誤差)は、式(23)で示す回帰直線の回りの分散で表わすことができ、一歩当たりの距離誤差の平均的な割合eは、1シグマのレベルとして式(24)で算出することができる。なお、距離誤差は、歩幅と歩行時間との相関パラメータを用いて算出される距離の誤差であることから相関誤差としての意味合いも有する
【0097】
上述の例では、歩行者の歩幅wは、歩行者の歩行時間trとの間で線形関係にあるとして相関パラメータを算出したが、これに限定されるものではなく、歩行者の歩幅wと、歩行者の歩行時間trとの間に多項式の関係があるとすることもできる。例えば、式(36)で示すように、二次式の関係にあるとすることもできる。
【0098】
【数7】

【0099】
この場合、式(15)に代えて式(37)を、式(16)に代えて式(38)を、式(17)に代えて式(39)及び式(40)を、式(18)に代えて式(41)を用いることができる。また、相関パラメータα′、β′、γ′は、例えば、重回帰分析などの手法を用いて算出することができる。すなわち、歩幅は、歩行時間の2乗と第1の相関パラメータα′との積算値に、歩行時間と第2の相関パラメータβ′との積算値を加算し、さらに第3の相関パラメータγ′を加算した相関式で表わすことができる。
【0100】
なお、歩行者の歩幅と歩行時間との関係は、多項式の関係があるとすることができることから、二次式の関係に限定されるものではなく、N次式の結合からなる式(N=2、1、−1、定数項など)であってもよい。
【0101】
次に、歩行特性として一歩毎の着地時の衝撃としての歩行強度(歩行の強さ)と歩幅との相関パラメータを算出する場合について説明する。歩行強度は、例えば、歩行者が歩行する都度、足を地面に着地させたときの衝撃を示すものである。図8は歩行強度の一例を示す説明図である。図8において、横軸は時間を示し、縦軸は歩行に伴う鉛直方向の加速度を示す。図8に示すように、歩行強度は、歩行に伴って生ずる鉛直方向の加速度に含まれる変量であり、例えば、一歩毎の加速度と静止加速度(重力加速度g)との差分の絶対値の最大値であるSm1若しくはSm2、あるいは最大値の平均値(Sm1+Sm2)/2、あるいは一歩毎の加速度の積分値、例えば、図8において斜線で示す面積S1、S2、あるいは面積の和(S1+S2)などである。
【0102】
相関パラメータ算出部172は、距離算出部171で特定した2地点間の歩行距離に基づいて、歩行者の歩幅と一歩毎の歩行強度(歩行の強さ)との相関パラメータを算出する。歩行者の歩幅wは、歩行者の歩行強度stとの間に式(42)の関係があると考えるのが妥当である。ここで、α″、β″は相関パラメータである。
【0103】
【数8】

【0104】
地図マッチングにより特定された2地点(図6の例では、A2、B2)間の歩行距離をd、この2地点間において距離センサ132で得られた歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、一歩毎の歩行強度の列をsti(i=1、2、…n)とすると、歩幅と歩行強度との相関関係は、例えば、式(43)で表わすことができる。すなわち、歩幅は、歩行強度と第1の相関パラメータα″との積算値に第2の相関パラメータβ″を加算した相関式で表わすことができる。
【0105】
この場合、線形回帰直線は、式(44)〜式(46)で表わされる。これらのデータを必要量収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα″、β″は、歩行速度の場合と同様に、式(19)〜式(22)で算出することができる。
【0106】
歩幅算出部173は、距離センサ132等で歩数及び一歩毎の歩行強度を取得し、取得した歩数及び歩行強度と相関パラメータとにより一歩毎の歩幅を算出する。これにより、2地点間において、歩行者の歩行時間(歩行ペース)が変動した場合でも、精度良く歩幅を算出することができる。
【0107】
誤差算出部174は、算出した歩幅の誤差を算出する。歩幅の誤差は、歩幅と歩行強度との相関関係を特定する際の回帰直線の回りの分散により求めることができる。例えば、上述の線形回帰直線のyの誤差(一歩当たりの誤差)は、式(23)で示す回帰直線の回りの分散で表わすことができ、一歩当たりの距離誤差の平均的な割合eは、1シグマのレベルとして式(24)で算出することができる。なお、距離誤差は、歩幅と歩行強度との相関パラメータを用いて算出される距離の誤差であることから相関誤差としての意味合いも有する
【0108】
上述の例では、歩行者の歩幅wは、歩行者の歩行強度stとの間で線形関係にあるとして相関パラメータを算出したが、これに限定されるものではなく、歩行者の歩幅wと歩行者の歩行速度vとの間の関係、あるいは歩幅wと歩行時間trとの間の関係と同様に、歩行者の歩幅wと歩行者の歩行強度stとの間に多項式の関係があるとすることもできる。
【0109】
上述した相関パラメータ、α、β、γ、α′、β′、γ′、α″、β″等の算出では、過去に収集して記憶しておいた多くのデータを用いるが、データを記憶(蓄積)する場合、必ずしも全てのデータを記憶しておく必要はない。すなわち、データ数、x及びyそれぞれの総和、xの2乗及びyの2乗それぞれの総和、x・yの総和を記憶しておけば、式(19)〜式(24)は、データが得られる都度、漸化的に算出することができる。
【0110】
なお、上述の距離算出部171、相関パラメータ算出部172、歩幅算出部173、誤差算出部174は、全体として本発明に係る歩幅算出装置を構成している。また、相関パラメータ算出部172をCPU、RAMなどで構成し、相関パラメータの算出処理手順を定めたコンピュータプログラムを実行する構成とすることもできる。
【0111】
所定のデータを収集して相関パラメータを求めておくことによって、歩行距離特定部175は、歩行者の歩数及び歩幅算出部173で算出した歩幅に基づいて歩行距離を特定する。これにより、精度良く歩行距離を求めることができる。
【0112】
所定のデータを収集して相関パラメータを求めておくことによって、位置特定部176は、測位部13で測位した測位位置及び歩行距離特定部175で特定した歩行距離に基づいて歩行者の位置を特定する。これにより、精度良く歩行者の位置を求めることができる。
【0113】
表示部18は、例えば、液晶表示パネルであって、歩行者に自身の位置を地図上に表示する。
【0114】
音声出力部19は、歩行者の位置を表示部18で表示する際に、歩行者に所要の情報を通知するため、又は注意を促すため音声又は音響を出力する。
【0115】
次に相関パラメータを算出して歩幅を算出処理の手順について説明する。図9は歩幅算出処理の手順を示すフローチャートである。制御部11は、歩行者の位置を測位し(S11)、特定の2地点を通過したか否かを判定し(S12)、2地点を通過していない場合(S12でNO)、ステップS11の処理を行って測位を続ける。
【0116】
2地点を通過した場合(S12でYES)、制御部11は、2地点の間の歩行距離を算出し(S13)、2地点の間の歩数を取得し(S14)、2地点の間の歩行特性(例えば、一歩毎の歩行速度、歩行時間又は歩行強度など)を取得する(S15)。
【0117】
制御部11は、相関パラメータ算出に必要なデータが十分あるか否かを判定し(S16)、データが十分でない場合(S16でNO)、取得したデータを記憶し(S17)、ステップS11以降の処理を続ける。
【0118】
データが十分ある場合(S16でYES)、制御部11は、相関パラメータを算出し(S18)、算出した相関パラメータ及び歩行特性(例えば、一歩毎の歩行速度、歩行時間又は歩行強度など)に基づいて歩幅を算出し(S19)、処理を終了する。
【0119】
なお、制御部11は、上述の処理で算出した歩幅と検出した歩数とに基づいて、歩行距離を特定する。また、制御部11は、測位した測位位置及び特定した歩行距離に基づいて歩行者の位置を特定する。
【0120】
実施の形態2
実施の形態1で説明した歩行者の歩行特性は、歩行者が平坦な道路を歩行する場合と坂道を歩行する場合とで微妙に異なる可能性がある。従って歩行者の歩幅と歩行特性との相関パラメータは平坦な道路と坂道とでは異なる可能性がある。以下、歩行者が歩行した2地点間の道路の傾斜を考慮した場合について説明する。
【0121】
位置検出装置10の構成は、図1の例と同様であるが、地図データベース14は、広範囲の地図情報として、例えば、定義された道路の距離及び方位に加えて、傾斜情報としての道路の適宜の地点の高度情報、高度差の情報、あるいは適宜の地点間の高度差を両端点の距離で除した傾斜角を記憶してある。
【0122】
なお、位置検出装置10に高度センサを備えておき、高度センサで検出した高度情報を用いて傾斜角を取得することもできる。また、通信部12を介して、外部より傾斜情報を受信するようにしてもよい。以下、傾斜情報として2地点間の傾斜角を用いる場合について説明する。
【0123】
まず、傾斜角を考慮して歩幅と一歩毎の歩行速度との相関パラメータを算出する場合について説明する。すなわち、相関パラメータ算出部172は、距離算出部171で特定した2地点間の歩行距離、2地点間の傾斜角に基づいて、歩行者の歩幅と一歩毎の歩行速度との相関パラメータを算出する。歩行者の歩幅wは、歩行者の歩行速度vとの間に式(14)の関係があると考えるのが妥当である。ここで、α(φ)、β(φ)は相関パラメータであり、φは2地点間の傾斜角である。なお、傾斜角φは、正の場合が上り坂、負の場合が下り坂とすることができる。
【0124】
【数9】

【0125】
地図マッチングにより特定された2地点(図6の例では、A2、B2)間の歩行距離をd、この2地点間において距離センサ132で得られた歩数をn、2地点間の一歩毎の歩幅の列をwi(i=1、2、…n)、一歩毎の歩行速度の列をvi(i=1、2、…n)とすると、歩幅と歩行速度との相関関係は、例えば、式(48)で表わすことができる。すなわち、歩幅は、歩行速度と第1の相関パラメータα(φ)との積算値に第2の相関パラメータβ(φ)を加算した相関式で表わすことができる。
【0126】
この場合、線形回帰直線は、式(49)〜式(51)で表わされる。式(50)、式(51)において、aveは平均操作を示す。これらのデータを必要量収集し、線形回帰直線の解として相関パラメータα(φ)、β(φ)は、式(52)〜式(55)で算出することができる。ここで、varは、分散操作を示し、covは共分散操作を示す。
【0127】
歩幅算出部173は、距離センサ132等で歩数及び一歩毎の歩行速度を取得し、取得した歩数及び歩行速度と相関パラメータα(φ)、β(φ)とにより一歩毎の歩幅を算出する。これにより、2地点間において、歩行者が平坦な道路だけでなく、坂道を歩行する場合であっても、精度良く歩幅を算出することができる。
【0128】
誤差算出部174は、算出した歩幅の誤差を算出する。歩幅の誤差は、歩幅と歩行速度との相関関係を特定する際の回帰直線の回りの分散により求めることができる。例えば、上述の線形回帰直線のyの誤差(一歩当たりの誤差)は、式(56)で示す回帰直線の回りの分散で表わすことができ、一歩当たりの距離誤差の平均的な割合eは、1シグマのレベルとして式(57)で算出することができる。なお、距離誤差は、歩幅と歩行速度との相関パラメータを用いて算出される距離の誤差であることから相関誤差としての意味合いも有する。
【0129】
【数10】

【0130】
式(57)で算出される一歩当たりの誤差を、式(4)のe(t)として用いることができる。なお、この場合には、一歩当たりの誤差に歩数を積算しておく必要がある。これにより、歩幅に基づいて歩行距離を算出する際に、算出した歩行距離の誤差の程度を把握することができ、仮に誤差が許容できる範囲を超えた場合には、誤った歩行距離の特定、あるいは、誤った歩行者の位置の特定を防止することができる。また、歩行者の位置を検出する場合、他のセンサ誤差等を加味して、位置検出の誤差範囲を的確に把握することができる。
【0131】
上述の例では、歩行者の歩幅wは、歩行者の歩行速度vとの間で線形関係にあるとして相関パラメータを算出したが、これに限定されるものではなく、実施の形態1の場合と同様に、歩行者の歩幅wと、歩行者の歩行速度vとの間に多項式(N次式)の関係があるとすることもできる。例えば、二次式の場合、相関パラメータα(φ)、β(φ)、γ(φ)は、例えば、重回帰分析などの手法を用いて傾斜角φ毎に算出することができる。すなわち、歩幅は、歩行速度の2乗と第1の相関パラメータα(φ)との積算値に、歩行速度と第2の相関パラメータβ(φ)との積算値を加算し、さらに第3の相関パラメータγ(φ)を加算した相関式で表わすことができる。
【0132】
また、一歩毎の歩行速度の他に、歩行特性として一歩毎の歩行時間(歩行ペース)又は歩行強度(歩行の強さ)などを用いることもできる。
【0133】
上述のように、傾斜角φ毎に得られた相関パラメータα(φ)、β(φ)、γ(φ)などは、傾斜角φの変化に応じて微小に変化するため、相関パラメータα(φ)、β(φ)、γ(φ)などは、傾斜角φと線形関係にあるとすることができる。すなわち、式(58)〜式(60)が成立する。ここで、α1、α2は、相関パラメータα(φ)を任意の傾斜角φに対して補正することができる新たな第2の相関関係を特定する相関パラメータ(補正用相関パラメータ)であり、β1、β2は、相関パラメータβ(φ)を任意の傾斜角φに対して補正することができる新たな第2の相関関係を特定する相関パラメータ(補正用相関パラメータ)であり、γ1、γ2は、相関パラメータγ(φ)を任意の傾斜角φに対して補正することができる新たな第2の相関関係を特定する相関パラメータ(補正用相関パラメータ)である。
【0134】
【数11】

【0135】
また、傾斜角φ毎に得られた一歩当たりの距離誤差(相関誤差)の平均的な割合e(φ)も、傾斜角φの変化に応じて微小に変化するため、距離誤差(相関誤差)e(φ)は、傾斜角φと線形関係にあるとすることができ、式(61)が成立する。ここで、e1、e2は、距離誤差(相関誤差)e(φ)を任意の傾斜角φに対して補正することができる新たなパラメータ(相関誤差補正用パラメータ)である。なお、補正用相関パラメータ、相関誤差補正用パラメータの算出は、相関パラメータ算出部172で行うことができる。
【0136】
上述の式(58)〜式(60)は、相関パラメータと傾斜角とを関連付けるものである。予めいくつかの傾斜角φに対応する相関パラメータα(φ)、β(φ)、γ(φ)がわかっている場合には、上述の関連付けを用いることにより、任意の傾斜角に対して相関パラメータを求めることができる。なお、歩行特性として、歩行時間(歩行ペース)、歩行強度(歩行の強さ)を用いる場合も同様である。
【0137】
実施の形態2では、上述した相関パラメータα(φ)、β(φ)、γ(φ)等の算出では、過去に収集して記憶しておいた多くのデータを用いるが、データを記憶(蓄積)する場合、必ずしも全てのデータを記憶しておく必要はない。すなわち、傾斜角φ毎のデータ数、x及びyそれぞれの総和、xの2乗及びyの2乗それぞれの総和、x・yの総和を記憶しておけば、式(52)〜式(57)は、データが得られる都度、漸化的に算出することができる。そして、その結果を用いて相関パラメータと傾斜角との関係を示す式(58)〜式(60)、式(61)における補正用相関パラメータ(α1、α2など)、相関誤差補正用パラメータ(e1、e2など)を算出すればよい。
【0138】
相関パラメータを算出して歩幅を算出処理の手順については、2地点間の歩行距離、歩数及び歩行特性に加えて、2地点間の傾斜角を取得し、取得した傾斜角に応じて相関パラメータを算出する点が異なり、他は図9の例と同様であるので説明は省略する。
【0139】
以上説明したように、本発明によれば、一歩毎に歩行速度、歩行ペース(歩行時間)又は歩行強度(歩行の強さ)が変動して歩行特性が変化し、歩行者の歩幅が変動するような状況であっても、歩行者の歩幅を従来よりも精度良く算出することができる。また、歩行者が平坦な道路だけでなく、坂道を歩行する場合であっても、歩行者の歩幅を従来よりも精度良く算出することができる。また、歩幅を精度良く算出して歩行者の歩行距離、位置を精度良く特定することができ、自立航法、地図マッチング法、GPS等の衛星航法とのハイブリッド型による位置検出の精度の向上を計ることができる。
【0140】
上述の位置検出装置は、例えば、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)、PHS、ノート型パーソナルコンピュータ、音楽プレーヤ、携帯型ゲーム装置等の情報端末装置又は携帯端末装置などに適用することができる。
【0141】
上述の実施の形態において、位置検出装置に傾斜角センサを備えることもできる。これにより、歩行者の歩行、取り出し、操作等に伴う位置検出装置の振動又は姿勢変化で位置検出装置が傾いた場合、方位センサ又は距離センサの種類によっては機能が停止し、あるいは、性能が劣化することがある。従って、傾斜角センサにより傾斜角を検出し、方位センサ又は距離センサを補正することもできる。
【0142】
上述の実施の形態で示した相関パラメータ、歩幅、歩行者の位置を推定するための数式は、一例であって、これらに限定されるものではなく、適宜変形した数式を用いることもできる。
【0143】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明に係る位置特定装置である位置検出装置の構成の一例を示すブロック 図である。
【図2】測位位置の誤差範囲の例を示す説明図である。
【図3】地図情報の一例を示す模式図である。
【図4】地図上の道路の設定の一例を示す説明図である。
【図5】地図上の道路の設定の他の例を示す説明図である。
【図6】2地点間の歩行距離を算出する一例を示す説明図である。
【図7】歩行ペースの一例を示す説明図である。
【図8】歩行強度の一例を示す説明図である。
【図9】歩幅算出処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0145】
10 位置検出装置
11 制御部
12 通信部
13 測位部
131 GPS
132 距離センサ
133 方位センサ
14 地図データベース
15 記憶部
16 操作部
17 位置検出処理部
171 距離算出部
172 相関パラメータ算出部
173 歩幅算出部
174 誤差算出部
175 歩行距離特定部
176 位置特定部
18 表示部
19 音声出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者の歩幅を算出する歩幅算出装置において、
歩行者の歩数を取得する歩数取得手段と、
歩行者が歩行した地点のうちの2地点間の歩行距離を算出する歩行距離算出手段と、
歩行者の歩行特性を取得する歩行特性取得手段と、
前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び歩行特性に基づいて歩幅と歩行特性との相関関係を特定する相関関係特定手段と、
該相関関係特定手段で特定した相関関係及び歩行特性に基づいて歩幅を算出する歩幅算出手段と
を備えることを特徴とする歩幅算出装置。
【請求項2】
前記歩行特性として一歩毎の歩行速度を取得する歩行速度取得手段を備え、
前記相関関係特定手段は、
前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び該2地点間での一歩毎の歩行速度それぞれに基づいて歩幅と歩行速度との相関関係を特定するように構成してあり、
前記歩幅算出手段は、
前記相関関係特定手段で特定した相関関係及び歩行速度に基づいて歩幅を算出するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の歩幅算出装置。
【請求項3】
前記歩行特性として一歩毎の歩行時間を取得する歩行時間取得手段を備え、
前記相関関係特定手段は、
前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び該2地点間での一歩毎の歩行時間それぞれに基づいて歩幅と歩行時間との相関関係を特定するように構成してあり、
前記歩幅算出手段は、
前記相関関係特定手段で特定した相関関係及び歩行時間に基づいて歩幅を算出するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の歩幅算出装置。
【請求項4】
前記歩行特性として一歩毎の着地時の衝撃を取得する衝撃取得手段を備え、
前記相関関係特定手段は、
前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び該2地点間での一歩毎の着地時の衝撃それぞれに基づいて歩幅と着地時の衝撃との相関関係を特定するように構成してあり、
前記歩幅算出手段は、
前記相関関係特定手段で特定した相関関係及び着地時の衝撃に基づいて歩幅を算出するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の歩幅算出装置。
【請求項5】
前記2地点間の傾斜に関する傾斜情報を取得する傾斜情報取得手段を備え、
前記相関関係特定手段は、
前記傾斜情報取得手段で取得した傾斜情報に応じて歩幅と歩行特性との相関関係を特定するように構成してあることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の歩幅算出装置。
【請求項6】
地図情報を記憶する記憶手段と、
歩行者が歩行した2地点を特定する第1特定手段と、
該第1特定手段で特定した2地点の直線距離を算出する第1距離算出手段と、
前記第1特定手段で特定した2地点の歩行軌跡に沿った距離を自立航法により算出する第2距離算出手段と、
前記第1特定手段で特定した2地点を前記記憶手段に記憶してある地図情報を用いた地図マッチング法により地図上の2地点に特定する第2特定手段と、
該第2特定手段で特定した2地点の直線距離を算出する第3距離算出手段と
を備え、
前記歩行距離算出手段は、
前記第1距離算出手段、第2距離算出手段及び第3距離算出手段で算出した距離に基づいて、歩行者が歩行した2地点間の歩行距離を算出するように構成してあることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の歩幅算出装置。
【請求項7】
前記相関関係特定手段は、
前記傾斜情報取得手段で取得した傾斜情報に応じて歩幅と歩行特性との相関関係を示す相関パラメータを特定するように構成してあり、
前記相関関係特定手段が特定した傾斜情報に応じた相関パラメータと該傾斜情報に基づいて、相関パラメータと傾斜情報との第2の相関関係を特定する第2相関関係特定手段を備え、
前記相関関係特定手段は、
さらに、前記第2相関関係特定手段で特定した第2の相関関係に基づいて任意の傾斜情報に対する相関パラメータを特定するように構成してあることを特徴とする請求項5に記載の歩幅算出装置。
【請求項8】
前記歩幅算出手段で算出した歩幅の誤差を算出する誤差算出手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載の歩幅算出装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の歩幅算出装置と、
歩行者の歩数及び前記歩幅算出装置で算出した歩幅に基づいて歩行距離を特定する歩行距離特定手段と
を備えることを特徴とする歩行距離特定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の歩行距離特定装置と、
歩行者の位置を測位する測位手段と、
該測位手段で測位した測位位置及び前記歩行距離特定装置で特定した歩行距離に基づいて歩行者の位置を特定する位置特定手段と
を備えることを特徴とする位置特定装置。
【請求項11】
コンピュータを、歩行者の歩数及び歩行特性を取得させて、歩行者の歩幅と歩行特性との相関関係を特定する手段として機能させるためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
歩行者が歩行した地点のうちの2地点間の歩行距離を算出する歩行距離算出手段と、
算出した2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び歩行特性に基づいて歩幅と歩行特性との相関関係を特定する相関関係特定手段と
して機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項12】
歩幅算出装置で歩行者の歩幅を算出する歩幅算出方法において、
前記歩幅算出装置は、
歩行者の歩数を取得し、
歩行者が歩行した地点のうちの2地点間の歩行距離を算出し、
歩行者の歩行特性を取得し、
前記2地点間の歩行距離、該2地点間での歩行者の歩数及び歩行特性に基づいて歩幅と歩行特性との相関関係を特定し、
特定した相関関係及び歩行特性に基づいて歩幅を算出することを特徴とする歩幅算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−168792(P2009−168792A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143026(P2008−143026)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】