説明

気相成長方法

【課題】基板を載置したサセプタを低速で回転させながら高品質で再現性も良好な堆積膜を得ることができる気相成長方法を提供する。
【解決手段】サセプタの回転に伴って基板保持部材を自公転させるとともに、原料ガス導入部からサセプタ表面側に原料ガスを導入して加熱手段により加熱された基板面に薄膜を気相成長させる自公転型の気相成長装置を用いた気相成長方法において、サセプタの回転数を毎分60回転以下に設定するとともに、基板の回転方向を、正方向に回転している時間に比べて短い時間だけ負方向に回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長方法に関し、詳しくは、基板を保持したサセプタを回転させる機構を備えた気相成長装置を用いて基板上に薄膜を気相成長させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相成長装置として、チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの外周部周方向に等間隔で回転可能に設けられた複数の基板保持部材と、該基板保持部材の表面に設けられた円形の基板保持凹部と、前記チャンバーの中央部からサセプタ表面側に原料ガスを放射状に導入する原料ガス導入部と、前記チャンバーの外周部に設けられた排気部と、前記基板保持部材を介して前記基板保持凹部に保持された基板を加熱する加熱手段とを備え、前記サセプタの回転に伴って前記基板保持部材を自公転させるとともに、前記原料ガス導入部からサセプタ表面側に原料ガスを導入して前記加熱手段により加熱された基板面に薄膜を気相成長させる自公転型の気相成長装置が知られている。
【0003】
さらに、この自公転型を含めてサセプタに載置した基板を回転させる形式の気相成長装置を用いて基板上に薄膜を気相成長させる際に、サセプタを高速回転させたり、一定周期ごとにサセプタを逆回転させることにより、成長膜の膜質を改善させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−142416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載された方法は、該文献の発明が解決しようとする課題において、サセプタの回転数が毎分100回転以下の従来のものでは、基板上に成長させる堆積膜の品質劣化を招くという課題が示されており、特許文献1の方法では、基本的にサセプタ上の基板の回転数を毎分100回転以上、実施の形態における記載では、毎分720回転の高速で基板を回転させることにより、成長膜の膜質を改善できるとしている。また、回転方向を変化させる場合でも、回転数を毎分720回転あるいは毎分1800回転の高速回転を行うことを基本とし、さらに、正回転と逆回転とを同じ時間周期で繰り返すようにしている。
【0006】
しかしながら、サセプタに載置した基板を高速で回転させるためには、サセプタの回転機構に高精度の加工技術が求められ、装置コストの大幅な上昇を招くという問題があるだけでなく、回転中の僅かな振動でサセプタ上に載置した基板がサセプタ上で不規則に回転し、基板とサセプタとが擦れあって基板が破損したりすることがあり、また、成膜再現性に支障を来したりするという問題がある。さらに、薄くて軽い基板がサセプタから浮き上がるようなことがあると、基板をサセプタ上の所定位置に載置しておくことができず、自公転型の場合には、公転による遠心力で基板がサセプタの外周方向に飛び出してしまうおそれもあった。
【0007】
そこで本発明は、基板を載置したサセプタを低速で回転させながら高品質で再現性も良好な堆積膜を得ることができる気相成長方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の気相成長方法は、チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの表面に設けられた基板保持凹部と、前記チャンバーのサセプタ表面側に原料ガスを導入する原料ガス導入部と、前記チャンバーの反原料ガス導入部側に設けられた排気部と、前記基板保持凹部に保持された基板を加熱する加熱手段とを備え、前記サセプタの回転に伴って前記基板を回転させるとともに、前記原料ガス導入部から原料ガスを導入して前記加熱手段により加熱された基板面に薄膜を気相成長させる気相成長装置において、前記サセプタと一体に回転する基板の回転数を毎分60回転以下に設定するとともに、前記基板の回転方向を、正方向に回転している時間に比べて短い時間だけ負方向に回転させることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の気相成長方法は、チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの外周部周方向に等間隔で回転可能に設けられた複数の基板保持部材と、該基板保持部材の表面に設けられた基板保持凹部と、前記チャンバーの中央部からサセプタ表面側に原料ガスを放射状に導入する原料ガス導入部と、前記チャンバーの外周部に設けられた排気部と、前記基板保持凹部に保持された基板を加熱する加熱手段とを備え、前記サセプタの回転に伴って前記基板を自公転させるとともに、前記原料ガス導入部からサセプタ表面側に原料ガスを導入して前記加熱手段により加熱された基板面に薄膜を気相成長させる自公転型の気相成長装置を用いた気相成長方法において、前記サセプタの回転数を毎分60回転以下に設定するとともに、前記基板の回転方向を、正方向に回転している時間に比べて短い時間、又は、正方向に回転している角度に比べて小さい角度だけ負方向に回転させることを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明の気相成長方法は、前記サセプタの回転数が毎分1〜10回転であり、前記基板は、正方向に回転している時間又は角度に対して負方向に回転する時間又は角度が1/8〜1/2の範囲であること、特に、前記基板は、正方向に360度回転したときに、負方向に90度回転して正回転に戻ることを成膜操作中に繰り返すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の気相成長方法によれば、サセプタや基板を低速で回転させるとともに短時間だけ基板を逆回転させることにより、回転中のサセプタや基板保持部材の振動によって基板保持凹部内の基板が不規則に回転することを抑制できるので、高品質で再現性も良好な堆積膜を得ることができる。また、サセプタを高速で回転させる必要がないので、装置コストが上昇することはなく、通常の気相成長装置に対しても容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の気相成長装置の一形態例を示す断面図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】基板の回転方向を示す説明図である。
【図5】実施例1における回転角度と面内発光分布の関係を示す図である。
【図6】実施例2における回転角度と面内発光分布の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本形態例に示す気相成長装置11は、ステンレスで形成された偏平円筒状のチャンバー12内に円盤状のサセプタ13を回転可能に設けるとともに、該サセプタ13の外周部に複数の基板保持部材14を回転歯車部材15を介して回転可能に設けた自公転型気相成長装置であって、本形態例では10枚の基板16を同時に処理することができるように形成されている。
【0014】
サセプタ13は、チャンバー12の底面部分を貫通した回転軸17により支持されており、該回転軸17を、回転数及び回転方向を制御可能なパルスモータで駆動するようにしている。チャンバー12の下部にはヒーター18や温度計19がそれぞれ設けられ、ヒーター18の周囲にはリフレクター20が設けられている。また、チャンバー12のサセプタ表面側中央部には原料ガス導入部21が設けられ、外周部には排気部22が設けられるとともに、回転軸17の周囲には不活性ガス導入部23が設けられ、リフレクター20の外周には前記排気部22に連通する不活性ガス導出部24が設けられている。
【0015】
サセプタ13の外周部には、前記回転歯車部材15を収納する平面視円形の収容部13aが周方向に等間隔で設けられている。収容部13aのサセプタ13外周側には開口部13bが設けられ、回転歯車部材15の外歯車15aがサセプタ13外周に突出するように形成されている。
【0016】
基板保持部材14は、上面に基板16を保持する基板保持凹部14aを設けた大径部14bと、該大径部14bの下面から突出した小径部14cと、大径部14bと小径部14cとの間の水平方向の下向き段部14dとを有する円柱状に形成されている。
【0017】
回転歯車部材15は、内周上部の前記基板保持部材14の大径部14bを収納する大径収納部15bと、内周下部の前記基板保持部材14の小径部14cを収納する小径収納部15cと、大径収納部15bと小径収納部15cとの間で前記基板保持部材14の下向き段部14dを載置する載置段部15dとを有する円筒状に形成され、上部外周には前記外歯車15aが形成されている。この回転歯車部材15は、前記収容部13a内に、カーボンやセラミックで形成された多数のボール25を介して回転可能に収容されている。
【0018】
基板保持部材14は、下向き段部14dと載置段部15dとの間に、スペーサリング26を介装させた状態で回転歯車部材15の内部に収納されて保持され、回転歯車部材15と一体的に回転する。スペーサリング26は、回転歯車部材15に保持した基板保持部材14の高さ調整を行うものであって、厚さ寸法の異なるものが複数用意されている。このスペーサリング26は、サファイアやカーボンなどの各種材料で形成することができるが、窒化ケイ素と窒化ホウ素の複合材料で形成することにより、加工性の向上と強度の向上を図ることができる。
【0019】
また、サセプタ13の外周位置には、前記開口部13bから突出する回転歯車部材15の外歯車15aに歯合する内歯車27aを備えたリング状の固定歯車部材27が設けられている。
【0020】
基板保持部材14の上面に設けられている基板保持凹部14aは、保持する基板16の直径に対応した直径、通常は基板16の直径よりも僅かに、例えば数mm大きな直径を有し、基板16の厚さと略同じ深さを有している。
【0021】
この気相成長装置11で基板16の上面に薄膜を気相成長させる際に、回転軸17を所定速度で回転させてサセプタ13を回転させると、このサセプタ13の回転により、サセプタ13の軸線を中心として公転する回転歯車部材15の外歯車15aが固定歯車部材27の内歯車27aと歯合することにより、回転歯車部材15及びこれに保持された基板保持部材14がその軸線を中心として自転し、これによって基板16が自公転する状態となる。
【0022】
このように、基板保持部材14に保持した基板16を自公転させながら気相成長操作を行う際に、前記サセプタ13の回転数を毎分60回転以下、好ましくは毎分1〜10回転に設定するとともに、図4の実線及び破線に示すように、前記基板16の回転方向を、正方向(図4の実線矢印A)、例えば図2において反時計回りに回転している時間に比べて、短い時間だけ負方向(図4の破線矢印B)、すなわち図2において時計回りに回転させることにより、正方向に回転するときに基板16に発生する加速度、基板保持凹部14aに対して基板16を回転させようとする力を抑えることができ、回転に伴ってサセプタ13や基板保持部材14、回転歯車部材15からの振動を受けて基板16が基板保持凹部14a内で不規則に回転することを防止できる。
【0023】
すなわち、サセプタ13の回転数を低く設定するとともに、基板16を短時間だけ負方向に回転させることにより、成膜操作中の基板16を安定した状態で保持することができ、公転方向へも十分に回転させることができるので、高品質で再現性も良好な堆積膜を得ることができる。
【0024】
正方向に回転する時間と負方向に回転する時間との割合は、サセプタ13の回転数(基板16の公転数)、基板保持部材14の回転数(基板16の自転数)、サセプタ13や基板16の大きさ(直径)、自転部と公転部とのギア比などの条件によって最適な条件を選定すればよい。通常、正方向に回転する時間に対して負方向に回転する時間を近付けていくと、回転方向の切り替えが少な過ぎて十分な効果を得ることができない。一方、回転方向の切り替えを多くし過ぎると、切り替え時の僅かな回転停止時間が無視できなくなり、成膜均一性が損なわれるおそれがある。正方向に回転する時間に対して負方向に回転する時間は1/8〜1/2の範囲、特に1/4とすることが好ましい。例えば、正方向に12秒間回転させた後、3〜6秒間負方向に回転させることが好ましく、これを回転角度で表せば、基板16を、例えば360度正方向に回転させた後に、45〜180度負方向に回転させることが好ましい。例えば、回転数に関係なく、サセプタ13を回転させて基板16が360度正方向に回転した後、90度(360度の1/4)負方向に基板16を回転させることにより、逆回転1回について公転方向に270度ずつ進むことになるので、基板16を自公転させる効果を損なうことなく、良好な堆積膜を得ることができる。
【0025】
なお、本形態例では、自公転型の気相成長装置を例示して説明したが、チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの表面に設けられた基板保持凹部と、前記チャンバーのサセプタ表面側に原料ガスを導入する原料ガス導入部と、前記チャンバーの反原料ガス導入部側に設けられた排気部と、前記基板保持凹部に保持された基板を加熱する加熱手段とを備え、前記サセプタの回転に伴って前記基板を回転させるとともに、前記原料ガス導入部から原料ガスを導入して前記加熱手段により加熱された基板面に薄膜を気相成長させる横型の気相成長装置にも適用可能である。
【実施例1】
【0026】
基板16の負方向への回転角度(自転角度)を正方向の自転角度の1/4に設定し、負方向に回転させるまでの正方向への自転角度を変化させてGaN系半導体発光デバイスを通常の条件で成膜し、得られた発光デバイスの面内波長分布を測定した。なお、正方向への自転角度が0度というのは、基板16は自転せずにサセプタ13の回転による公転のみの状態である。結果を図5に示す。この結果から、負方向への自転角度が正方向の自転角度の1/4の場合には、基板16の回転方向を変化させることによって堆積膜の面内分布を改善できること、正方向への自転角度が360度のときに回転方向を切り換えることによって最も良好な結果が得られることがわかる。
【実施例2】
【0027】
基板16の正方向への回転角度(自転角度)を360度に設定し、負方向への自転角度を変化させてGaN系半導体発光デバイスを成膜し、得られた発光デバイスの面内波長分布を測定した。なお、逆自転角度が0度というのは回転方向の切り換えを行わなかった場合である。結果を図6に示す。この結果から、正方向への自転角度が360度の場合には、90度のときに最も良好な結果が得られることがわかる。また、直径100mmの基板において、正方向への自転角度を360度、負方向への自転角度を90度としたときの基板直径方向における面内波長分布は±1nm程度の範囲であり、面内波長分布が改善されていることがわかる。
【符号の説明】
【0028】
11…気相成長装置、12…チャンバー、13…サセプタ、13a…収容部、13b…開口部、14…基板保持部材、14a…基板保持凹部、14b…大径部、14c…小径部、14d…下向き段部、15…回転歯車部材、15a…外歯車、15b…大径収納部、15c…小径収納部、15d…載置段部、16…基板、17…回転軸、18…ヒーター、19…温度計、20…リフレクター、21…原料ガス導入部、22…排気部、23…不活性ガス導入部、24…不活性ガス導出部、25…ボール、26…スペーサリング、27…固定歯車部材、27a…内歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの表面に設けられた基板保持凹部と、前記チャンバーのサセプタ表面側に原料ガスを導入する原料ガス導入部と、前記チャンバーの反原料ガス導入部側に設けられた排気部と、前記基板保持凹部に保持された基板を加熱する加熱手段とを備え、前記サセプタの回転に伴って前記基板を回転させるとともに、前記原料ガス導入部から原料ガスを導入して前記加熱手段により加熱された基板面に薄膜を気相成長させる気相成長装置において、前記サセプタと一体に回転する基板の回転数を毎分60回転以下に設定するとともに、前記基板の回転方向を、正方向に回転している時間に比べて短い時間だけ負方向に回転させることを特徴とする気相成長方法。
【請求項2】
チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの外周部周方向に等間隔で回転可能に設けられた複数の基板保持部材と、該基板保持部材の表面に設けられた円形の基板保持凹部と、前記チャンバーの中央部からサセプタ表面側に原料ガスを放射状に導入する原料ガス導入部と、前記チャンバーの外周部に設けられた排気部と、前記基板保持凹部に保持された基板を加熱する加熱手段とを備え、前記サセプタの回転に伴って前記基板を自公転させるとともに、前記原料ガス導入部からサセプタ表面側に原料ガスを導入して前記加熱手段により加熱された基板面に薄膜を気相成長させる自公転型の気相成長装置を用いた気相成長方法において、前記サセプタの回転数を毎分60回転以下に設定するとともに、前記基板の回転方向を、正方向に回転している時間に比べて短い時間だけ負方向に回転させることを特徴とする気相成長方法。
【請求項3】
前記サセプタの回転数が毎分1〜10回転であり、前記基板は、正方向に回転している時間に対して負方向に回転する時間が1/8〜1/2の範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載の気相成長方法。
【請求項4】
前記基板は、正方向に360度回転したときに、負方向に90度回転して正回転に戻ることを成膜操作中に繰り返すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の気相成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−187695(P2011−187695A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51574(P2010−51574)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】