液圧制動システム
【課題】 ブレーキ装置116の作動液の液圧をパイロット圧とし、そのパイロット圧に応じた圧力に作動液を調圧するパイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置120を備えた液圧制動システム100において、その機能の異常を検出する
【解決手段】 液圧制動システムが備えるブレーキECU48の異常診断部482は、ブレーキ装置116に設定圧の作動液を封じ込めた状態において液圧調整装置への電力の供給を停止し、その封じ込められた作動液の圧力をパイロット圧として液圧調整装置により作動液を調圧し、その調圧された作動液の液圧に基づいてパイロット圧依存調圧機能を診断する。したがって、本液圧制動システムは、液圧調整装置への電力が断たれる状況下でなくともパイロット圧依存調圧機能の異常を検出することができる。
【解決手段】 液圧制動システムが備えるブレーキECU48の異常診断部482は、ブレーキ装置116に設定圧の作動液を封じ込めた状態において液圧調整装置への電力の供給を停止し、その封じ込められた作動液の圧力をパイロット圧として液圧調整装置により作動液を調圧し、その調圧された作動液の液圧に基づいてパイロット圧依存調圧機能を診断する。したがって、本液圧制動システムは、液圧調整装置への電力が断たれる状況下でなくともパイロット圧依存調圧機能の異常を検出することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備される液圧制動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装備される液圧制動システムの中には、運転者によりブレーキ操作部材に加えられる操作力に依存せずに、液圧ポンプ等によって構成される高圧源装置によって高圧とされた作動液の圧力に依存して制動力を発生させるシステムが存在する。そのようなシステムの中には、下記特許文献に記載されているように、高圧とされた作動液の圧力を調圧する液圧調整装置を備えているものがある。そのような液圧調整装置を備えた液圧制動システムは、ブレーキ操作に基づいて適切な制動力を発生させるために、液圧調整装置に供給する電力をブレーキ操作に基づいて制御することによって、作動液の圧力を調整する。また、そのような液圧調整装置の中には、自身への電力の供給が断たれてしまった場合でも、操作力に基づいて発生する作動液の圧力をパイロット圧として利用して自身を作動させ、そのパイロット圧に依存して作動液の圧力を調圧することが可能な機能、所謂パイロット圧依存調圧機能を有しているものも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−132996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置を採用した液圧制動システムでは、その機能の異常を検出することが望ましい。さらに言えば、その機能は、液圧調整装置への電力の供給が断たれたときに発揮される機能であるため、当該機能が発揮されるべき状況となって始めて異常を検出するのではなく、その状況が発揮されない状況下において上記異常を検出することがより望ましいのである。本発明は、このような実情に鑑み、パイロット圧依存調圧機能の異常を検出する機能を備えた液圧制動システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の液圧制動システムは、車輪に設けられたブレーキ装置の作動液の液圧をパイロット圧としてその圧力に応じた圧力に作動液を調圧する上記パイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置を備えた液圧制動システムを対象とし、当該システムが備える制御装置の異常診断部が、上記ブレーキ装置に設定圧の作動液を封じ込めた状態において上記液圧調整装置への電力の供給を停止した際にその液圧調整装置によって調圧される作動液の液圧(調製圧)に基づいて、上記パイロット圧依存調圧機能を診断するように構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液圧制動システムによれば、液圧調整装置への電力が断たれる状況下でなくとも上記パイロット圧依存調圧機能の異常が検出可能であるため、当該パイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置を備えた液圧制動システムの実用性を向上させることが可能となる。なお、上記異常診断部を、任意の時期において上記パイロット圧依存調圧機能の異常を検出可能に構成すれば、より実用性に富んだ液圧制動システムが構築されることになる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項から(10)項はそれぞれ請求項1から請求項10に相当する。
【0009】
(1)作動液の圧力によって制動力を発生させる液圧制動システムであって、
運転者によって操作される操作部材と、
その操作部材に加えられた操作力と、自身に供給される作動液の圧力とによって作動液を加圧するマスタシリンダ装置と、
車輪に設けられて自身に供給された圧力に応じた制動力を発生させるブレーキ装置と、 高圧の作動液を発生させる高圧源装置と、
その高圧源装置からの圧力を、自身に供給された電力に応じて調圧するとともに、自身に電力が供給されていない状態においても、パイロット圧として自身に導入された作動液の圧力に応じて調圧するパイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置と、
その液圧調整装置から前記マスタシリンダ装置に調圧された作動液を供給するための第1調圧流路と、
その第1調圧流路と連通し、前記液圧調整装置から前記ブレーキ装置に調圧された作動液を供給するための第2調圧流路と、
前記マスタシリンダ装置によって加圧された作動液をそのマスタシリンダ装置から前記ブレーキ装置に供給するためのマスタ圧流路と、
前記第2調圧流路に設けられ、当該第2調圧流路を遮断するための第2調圧流路遮断器と、
前記マスタ圧流路に設けられ、当該マスタ圧流路を遮断するためのマスタ圧流路遮断器と、
前記ブレーキ装置に供給されている作動液の圧力を、前記液圧調整装置に前記パイロット圧として導入するためのパイロット圧流路と、
前記液圧調整装置に供給される電力と、前記第2調圧流路遮断器および前記マスタ圧流路遮断器の作動とを制御する制御装置と
を備え、
その制御装置が、
(a)前記マスタ圧流路遮断器により前記マスタ圧流路を遮断しつつ、前記液圧調整装置に供給される電力を制御することで、前記ブレーキ装置がその電力に応じて調圧された作動液の圧力に依存した制動力を発生させる状態である調圧依存制動力発生状態を実現し、(b)前記第2調圧流路遮断器により前記第2調圧流路を遮断することで、前記液圧調整装置への電力の供給が断たれた場合においても、前記マスタシリンダ装置からの作動液の圧力によって、前記ブレーキ装置が前記操作力と前記パイロット圧に応じて調圧された作動液の圧力との両方に依存した制動力を発生させる状態である操作力・調圧依存制動力発生状態を実現する作動制御部と、
当該液圧制動システムの異常についての診断を実行する異常診断部と
を有し、
その異常診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器および前記第2調圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路および前記第2調圧流路がそれぞれ遮断されて前記ブレーキ装置に第1設定圧の作動液が封じ込められた状態において、前記液圧調整装置への電力の供給を停止した際の、前記液圧調整装置によって調圧される作動液の圧力に基づいて、前記液圧調整装置の前記パイロット圧依存調圧機能についての異常を診断するパイロット圧依存調圧機能診断部を有する液圧制動システム。
【0010】
本項に記載の液圧制動システムが備える制御装置は、異常診断部を備え、その異常診断部は、液圧調整装置が有する上記パイロット圧依存調圧機能を診断する上記パイロット圧依存調圧機能診断部を有している。当該診断部による診断は、上記マスタ圧流路遮断器および第2調圧流路遮断器によってブレーキ装置に作動液が封じ込められた状態において、液圧調整装置への電力の供給を積極的に禁止して行われる。つまり、液圧調整装置への電力が供給不能となっている状況下でなくても、敢えて上記機能を発揮させることにより、その機能の診断を行うことができるのである。したがって、本項のシステムは、上記機能を発揮させることが必要となった状況下でなくても上記パイロット圧依存調圧機能の異常を検出可能であるため、実用性の高いシステムとなる。
【0011】
具体的に説明すれば、上記パイロット圧依存調圧機能診断部による診断では、ブレーキ装置に設定圧の作動液が封じ込められた状態で、液圧調整装置への電力の供給を停止し、その際に液圧調整装置によって調圧された圧力に基づいて、上記機能についての診断が行われる。このような診断によれば、電力の供給を停止した際、上記第2調圧流路が遮断されているため、調圧された作動液は液圧調整装置から、ブレーキ装置に供給されることはなく、当該機能に異常がない場合には、液圧調整装置によって調圧された圧力(以下、「調整圧」という場合がある)は、専ら上記設定圧に応じた高さの圧力(以下、「正常時基準圧」という場合がある)となる。それに対し、当該機能に異常がある場合には、調整圧は正常時基準圧とはならない。上記パイロット圧依存調圧機能診断部は、そのような現象を利用して、パイロット圧依存調圧機能の異常についての診断を行うのである。
【0012】
上述のようにして、パイロット圧依存調圧機能についての診断が行われるため、その診断は、運転者のブレーキ操作部材の操作に依存せずに行うことが可能とされている。そのことは、当該診断の実施時期の自由度を高めることに寄与している。端的に言えば、諸条件さえ充足すれば、車両の始動時,停車中若しくは走行時等、任意の時期に、液圧調整装置の作動状態を上記パイロット圧依存調圧機能に依拠した作動状態とすることが可能であるため、任意の時期に当該機能についての診断を行うことができるのである。例えば、車両始動時,停車中等においては、後に説明するように、パイロット圧依存調圧機能診断部が、自ら積極的に、ブレーキ装置に設定圧の作動液を封じ込めた状態を実現させて診断を行うことができる。また、例えば、走行中であれば、制動の最中に、極短時間だけ上記第2調圧流路を遮断してブレーキ装置に作動液を封じ込め、その封じ込められた作動液を圧力を設定圧と擬制して、極短時間だけ液圧調整装置への電力の供給を停止することで、上記機能の診断を行うことができる。このような手法によれば、必要とされる制動力を実質的に損なうことなく、診断を実行できることになる。
【0013】
(2)前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路を遮断した状態で前記液圧調整装置に電力を供給することで前記第2調圧流路を介して前記第1設定圧の作動液を前記ブレーキ装置に供給し、その後に、前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断して、前記ブレーキ装置に前記第1設定圧の作動液を封じ込めるように構成された(1)項に記載の液圧制動システム。
【0014】
本項の態様は、先に説明したブレーキ装置への作動液の封じ込めの手法に関する限定を加えた態様である。詳しく言えば、パイロット圧依存調圧機能診断部が、診断の際、自ら積極的に、ブレーキ装置に設定圧の作動液を封じ込めた状態を実現させる態様であり、車両始動時,車両の停止中等において上記機能の診断を実行する場合に、特に有効である。ちなみに、本項の態様によれば、運転者によって操作部材が操作されている場合でも、ブレーキ装置に設定圧の作動液を封じ込めることができるため、マスタシリンダ装置から供給される作動液の影響を受けずに、上記診断を実行することが可能である。
【0015】
(3)前記液圧調整装置が有する前記パイロット圧依存調圧機能が、前記高圧源装置からの作動液の圧力を、前記パイロット圧に対して設定比となる圧力に調圧する機能であり、
前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記液圧調整装置への電力の供給を禁止した際に前記液圧調整装置によって調圧される作動液の圧力が、前記第1設定圧に対する前記設定比となる圧力以下に設定された圧力に至らない場合に、前記パイロット圧依存調圧機能が異常であると診断するように構成された(1)項または(2)項に記載の液圧制動システム。
【0016】
本項の態様は、パイロット圧依存調圧機能診断部による異常の判断基準に対して限定を加えた態様である。本項に記載の液圧調整装置によれば、先に説明したように、パイロット圧依存調圧機能が正常である場合、調整力は、第1設定圧とされたパイロット圧に対して設定比となる圧力、つまり、正常時基準圧となる。それに対し、異常である場合には、調整圧はその正常時基準圧とはならない。本項のパイロット圧依存調圧機能診断部は、異常であるか否かを、正常時基準圧を基準に、若しくは、その基準圧にある程度のマージンを設けて設定された圧力を基準に判断する。
【0017】
(4)前記異常診断部が、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常について診断する第2調圧流路遮断異常診断部を有する(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧制動システム。
【0018】
本項に記載の態様によれば、上述のパイロット圧依存調圧機能についての診断に加えて、第2調圧流路の遮断異常、具体的には、第2調圧流路遮断器の異常についての診断をも実行可能であるため、さらに実用性の高い液圧制動システムを構築することが可能である。また、後に説明するように、第2調圧流路が遮断異常である場合には、上述のパイロット圧依存調圧機能についての診断において、当該機能に異常があると判断されることがあるため、第2調圧流路の遮断異常についての診断結果を基にパイロット圧依存調圧機能についての診断を行うことで、当該機能についての診断の信頼性を向上させることも可能である。
【0019】
(5)前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路を遮断した状態において、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された(4)項に記載の液圧制動システム。
【0020】
本項の態様は、第2調圧流路の遮断異常についての具体的診断手法に関する限定を加えた態様である。本項の態様によれば、マスタ圧流路が遮断されているため、マスタシリンダ装置から供給される加圧された作動液の影響を受けない診断が可能となる。裏を返せば、運転者の操作部材の操作に頼らずに、第2調圧流路遮断器の不具合を検出することが可能である。
【0021】
(6)当該液圧制動システムが、前記ブレーキ装置の作動液を低圧源に導くための低圧源流路と、前記ブレーキ装置に作動液が供給される際に前記低圧源流路を遮断する低圧源流路遮断器とを備え、
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断した状態で前記液圧調整装置に電力を供給することで前記第2調圧流路に第2設定圧の作動液を供給し、その後に、前記低圧源流路遮断器による前記低圧源流路の遮断を解除し、その際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力に基づいて、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された(5)項に記載の液圧制動システム。
【0022】
本項の態様は、第2調圧流路の遮断異常についての診断手法にさらなる限定を加えた態様である。第2調圧流路が遮断された状態で、液圧調整装置によって作動液を第2設定圧とした場合、第2調圧流路遮断器が正常である場合、ブレーキ装置には、第2設定圧の作動液は供給されない。それに対し、第2調圧流路遮断器に液漏れ等が発生している場合は、ブレーキ装置に第2設定圧の作動液が供給されることになる。第2調圧流路遮断器によって第2調圧流路が遮断された状態で調整圧を第2設定圧とし、その後に、上記低圧源流路を開通させた場合、第2調圧流路遮断器が正常であるときには、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力は変化しない。それに対し、第2調圧流路遮断器に上記のような不具合があるときには、当該遮断器と液圧調整装置との間にある作動液は、その遮断器を通って、低圧源にまで流出されることになり、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力が低下することになる。本項の態様による第2調圧流路の遮断異常についての診断は、そのような現象を利用して行われるのである。なお、第2調圧流路の遮断異常についての診断は、車両始動時、停車中に行うことが望ましい。
【0023】
(7)前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記低圧源流路遮断器による前記低圧源流路の遮断を解除した際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力が、前記第2設定圧以下に設定された圧力を下回った場合に、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常であると診断するように構成された(6)項に記載の液圧制動システム。
【0024】
本項の態様は、第2調圧流路遮断異常診断部による遮断異常の判断基準に関する限定を加えた態様である。先に説明したように、第2調圧流路遮断器に液漏れ等の不具合が発生している場合、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力は第2設定圧から低下するように変化する。本項の態様では、その第2設定圧若しくはその設定圧に対してある程度のマージンを設けた圧力を基準圧として、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力がその基準圧を下回った場合に、遮断異常と判断されることになる。遮断異常である場合の液圧低下の様子は、漏れの程度、つまり、不具合の程度や、第2設定圧と低圧源の圧力との差等によって異なるので、その程度を考慮して、上記マージンを適切に設定すればよい。
【0025】
なお、液圧調整装置が、作動液が低圧源に逆流しない構造とされている場合には、第2設定圧とされた作動液が液圧調整装置から低圧源に流出しないため、正確な診断が行える。それに対し、液圧調整装置が、上記逆流を許容する構造とされている場合には、第2設定圧を維持するように液圧調整装置に電力を供給し続ければよく、その場合には、低圧源流路の遮断を解除した後極短時間しか経過していない時点における調整圧の低下をもって、遮断異常であるか否かを判断すればよい。
【0026】
(8)前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記液圧調整装置に電力を供給することで第2調圧流路を介して第2設定圧の作動液を前記ブレーキ装置に供給し、その後に、前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断するとともに作動液の圧力を前記第2設定圧より高い第3設定圧に増圧すべく前記液圧調整装置に供給する電力を増加させ、その際の前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力に基づいて、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された(5)項に記載の液圧制動システム。
【0027】
本項の態様は、第2調圧流路の遮断異常についての診断手法に、先に説明した限定とは異なる限定を加えた態様である。第2調圧流路遮断器によって第2設定圧の作動液をブレーキ装置に封じ込めた状態において、液圧調整装置によってより高い第3設定圧の作動液を供給した場合を考える。その場合、第2調圧流路遮断器が正常であるときには、ブレーキ装置には、その高い圧力の作動液は供給されず、液圧調整装置によって供給されている作動液の圧力は、その高い圧力に維持される。それに対し、第2調圧流路遮断器に液漏れ等が発生しているときには、ブレーキ装置に作動液が供給され、液圧調整装置によって供給されている作動液の圧力は低下することになる。本項の態様による第2調圧流路の遮断異常についての診断は、そのような現象を利用して行われるのである。なお、第2調圧流路の遮断異常についての診断は、車両始動時、停車中に行うことが望ましい。
【0028】
(9)前記第2調圧流路遮断異常部が、
前記液圧調整装置に供給する電力を増加させた際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力が、前記第3設定圧以下に設定された圧力に至らない場合に、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常であると診断するように構成された(8)項に記載の液圧制動システム。
【0029】
本項の態様は、第2調圧流路遮断異常診断部による遮断異常の判断基準に関する限定を加えた態様である。先に説明したように、第2調圧流路遮断器に液漏れ等の不具合が発生している場合、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力は第3設定圧から低下するように変化する。本項の態様では、その第3設定圧若しくはその設定圧に対してある程度のマージンを設けた圧力を基準圧として、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力がその基準圧を下回った場合に、遮断異常と判断されることになる。遮断異常である場合の液圧低下の様子は、漏れの程度、つまり、不具合の程度や、第3設定圧と第2設定圧との差等によって異なるので、その程度を考慮して、上記マージンを適切に設定すればよい。
【0030】
なお、液圧調整装置が、作動液が低圧源に逆流しない構造とされている場合には、第3設定圧とされた作動液が液圧調整装置から低圧源に流出しないため、正確な診断が行える。それに対し、液圧調整装置が、電力の供給を停止したときに上記逆流を許容する構造とされている場合には、第3設定圧を維持するように液圧調整装置に電力を供給し続ければよく、その場合には、第3設定圧への昇圧を開始した後極短時間しか経過していない時点で、第2調圧流路に供給されている作動液の液圧と基準圧とを比較して、遮断異常であるか否かを判断すればよい。
【0031】
(10)前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記第2調圧流路遮断異常診断部によって、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常でないと診断されたことを条件として、前記パイロット圧依存調圧機能が異常であると診断するように構成された(4)ないし(9)項のいずれか1つに記載の液圧制動システム。
【0032】
前述のように、第2調圧流路遮断器に漏れ等の異常がある場合には、当該遮断器によって第2調圧流路を遮断したとしても、その遮断器を通ってブレーキ装置に作動液が流れ出る。そのため、第2調圧流路遮断器に異常がある状態で上記パイロット圧依存調圧機能についての診断を行った場合、その異常の影響で、パイロット圧が変化し、当該機能について正確な診断が行えなくなる。本項の態様は、そのことを考慮し、第2調圧流路の遮断異常がないことを条件に、パイロット圧依存調圧機能の異常を認定するようにした態様である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施例の液圧制動システムが装備されたハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを表す模式図である。
【図2】第1実施例の液圧制動システムを示す図である。
【図3】第1実施例の液圧制動システムの液圧調整装置と高圧源装置とを示す図である。
【図4】第1実施例の液圧制動システムの高圧源装置、液圧調整装置、第1調圧流路、第2調圧流路、第2調圧流路遮断器、パイロット圧流路を含んで構成されるブレーキアクチュエータの外観を示す図である。
【図5】第1実施例の液圧制動システムが実行する異常診断処理のフローチャートである。
【図6】第1実施例の液圧制動システムにおいて、異常診断の結果から異常の原因を特定するための表である。
【図7】第1実施例の液圧制動システムにおける異常の原因とその原因に応じて液圧制動システムを作動させるモードとの関係を示す表である。
【図8】第1実施例の液圧制動システムにおける作動液の漏れを診断する処理のフローチャートである。
【図9】第1実施例の液圧制動システムのパイロット圧依存調圧機能診断部が実行する処理のフローチャートである。
【図10】第1実施例の液圧制動システムの第2調圧流路遮断異常診断部が実行する処理のフローチャートである。
【図11】変形例の液圧制動システムの第2調圧流路遮断異常診断部が実行する処理のフローチャートである。
【図12】第2実施例の液圧制動システムの液圧調整装置と高圧源装置とを示す図である。
【図13】第3実施例の液圧制動システムの液圧調整装置と高圧源装置とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0035】
≪車両の構成≫
図1に、第1実施例の液圧制動システムを搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電気モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行う発電機14も搭載されている。これらエンジン10、電気モータ12、発電機14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力を発電機14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、電気モータ12からの出力を駆動輪に伝達させることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として、機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、総称として使用するが、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付すこととする。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RL,および車輪18RRである。
【0036】
電気モータ12は、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、発電機14によって出力される交流の電力を、バッテリー26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、バッテリ26に蓄えられている直流の電力を、電気モータ12を駆動するための交流の電力に変換させることができる。発電機14は、電気モータ12と同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることができ、一方が、電気モータ12として、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、発電機14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0037】
また、電気モータ12は、車両の走行に伴う車輪18RL、18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL、18RRに連結される電気モータ12では、電力が発生するとともに、電気モータ12の回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、電気モータ12は、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキがエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御されることで、制動されるのである。
【0038】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU40は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および電気モータ12の駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と電気モータ12の駆動とは、メインECU40によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU40によって、エンジン10の出力と電気モータ12による出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU42、電気モータ12及び発電機14を制御するモータECU44に各制御についての指令が出力される。また、メインECU40には、バッテリ26を制御するバッテリECU46も接続されている。
【0039】
さらに、メインECU40には、ブレーキを制御するブレーキECU48も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)が設けられており、ブレーキECU48は、その操作部材の操作量であるブレーキ操作量(以下、単に「操作量」という場合がある)と、その操作部材に加えられる運転者の力であるブレーキ操作力(以下、単に「操作力」という場合がある)との少なくとも一方に基づいて目標制動力を決定し、メインECU40に対してこの目標制動力を出力する。メインECU40は、モータECU44にこの目標制動力を出力し、モータECU44は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU40に出力する。メインECU40では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧制動システム100において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU40は、目標液圧制動力をブレーキECU48に出力し、ブレーキECU48は、通常時において、液圧制動システム100が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0040】
≪液圧制動システムの構成≫
このように構成された本ハイブリッド車両に搭載される液圧制動システム100について、図2を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、「前方」は図2における左方、「後方」は図2における右方をそれぞれ表している。また、「前側」、「後側」、「前端」、「後端」、「前進」、「後進」等も同様に表すものとされている。以下の説明において[ ]の文字は、センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。
【0041】
図2に、車両が備える液圧制動システム100を、模式的に示す。液圧制動システム100は、作動液を加圧するためのマスタシリンダ装置110を有している。車両の運転者は、マスタシリンダ装置110に連結された操作装置112を操作することでマスタシリンダ装置110を作動させことができ、マスタシリンダ装置110は、自身の作動によって作動液を加圧する。その加圧された作動液は、マスタシリンダ装置110に接続されるアンチロック装置114を介して、各車輪に設けられたブレーキ装置116に供給される。ブレーキ装置116は、自身に供給される作動液の圧力(以下、「ブレーキ圧」と呼ぶ)に依拠して、車輪18の回転を制止するための力、すなわち、液圧制動力を発生させる。
【0042】
液圧制動システム100は、高圧の作動液を発生させる高圧源装置118を有している。その高圧源装置118は、液圧調整装置120を介して、マスタシリンダ装置110に接続されている。後で詳しく説明するが、液圧調整装置120は、ブレーキECU48によって制御され、高圧源装置118によって高圧とされた作動液の圧力(以下、「高圧源圧」という場合がある)を調整することが可能とされている。その調整された圧力(以下、「調整圧」という場合がある)の作動液は、マスタシリンダ装置110およびブレーキ装置116に供給される。また、液圧制動システム100は、作動液を大気圧下で貯留するリザーバ122を有している。リザーバ122は、マスタシリンダ装置110、液圧調整装置120、高圧源装置118の各々に接続されている。
【0043】
操作装置112は、操作部材としてのブレーキペダル140と、ブレーキペダル140に連結されるオペレーションロッド142とを含んで構成されている。ブレーキペダル140は、車体に回動可能に保持されている。オペレーションロッド142は、後端部においてブレーキペダル140に連結され、前端部においてマスタシリンダ装置110に連結されている。また、操作装置112は、ブレーキペダル140の操作量を検出するための操作量センサ[SP]144と、操作力を検出するための操作力センサ[FP]146とを有している。操作量センサ144および操作力センサ146は、ブレーキECU48に接続されており、ブレーキECU48は、それらのセンサの検出値を基にして、目標制動力を決定する。
【0044】
ブレーキ装置116は、詳しい説明は省略するが、ブレーキキャリパと、そのブレーキキャリパに取り付けられたホイールシリンダ(ブレーキシリンダ)およびブレーキパッドと、各車輪とともに回転するブレーキディスクとを含んで構成されている。ブレーキシリンダは、作動液の圧力に依拠して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける。その押し付けによって発生する摩擦によって、各ブレーキ装置116では、車輪の回転を制止する液圧制動力が発生し、車両は制動されるのである。
【0045】
アンチロック装置114は、一般的な装置であり、簡単に説明すれば、各車輪に対応する4対の開閉弁を有している。各対の開閉弁のうちの1つは増圧用開閉弁170であり、車輪がロックしていない状態では、開弁状態となっており、また、もう1つは減圧用開閉弁172であり、車輪がロックしていない状態では、閉弁状態とさせられている。車輪がロックした場合には、増圧用開閉弁170が閉弁させられるとともに、減圧用開閉弁172が開弁され、ブレーキ装置116から低圧源であるリザーバ122への作動液の流れを許容して、車輪のロックを解除するように構成されている。
【0046】
高圧源装置118は、液圧調整装置120からリザーバ122に至る液通路に設けられている。その高圧源装置118は、作動液の圧力を増加させる液圧ポンプ180と、増圧された作動液が溜められるアキュムレータ182とを含んで構成されている。ちなみに、液圧ポンプ180はモータ184によって駆動される。
【0047】
≪マスタシリンダ装置の構成≫
マスタシリンダ装置110は、それの筐体であるハウジング200と、ブレーキ装置116に供給する作動液を加圧する第1加圧ピストン202および第2加圧ピストン204と、運転者の操作力および液圧調整装置120から供給される調整圧とされた作動液によって前進する中間ピストン206と、運転者の操作が操作装置112を通じて入力される入力ピストン208とを含んで構成されている。なお、図2は、マスタシリンダ装置110が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。ちなみに、一般的なシリンダ装置がそうであるように、本マスタシリンダ装置110も、内部に作動液が収容されるいくつかの液室、それらの液室間,それらの液室と外部とを連通させるいくつかの連通路が形成されており、それらの液密を担保するため、構成部材間には、いくつかのシールが配設されている。それらのシールは一般的なものであり、明細書の記載の簡略化に配慮し、特に説明すべきものでない限り、それの説明は省略するものとする。
【0048】
ハウジング200は、主に、2つの部材から、具体的には、第1ハウジング部材220、第2ハウジング部材222から構成されている。第1ハウジング部材220は、前端部が閉塞された概して円筒状を有し、後端部の外周にフランジ224が形成されており、そのフランジ224において車体に固定される。第1ハウジング部材220は、内径が互いに異なる3つの部分、具体的には、前方側に位置して内径の最も小さい前方小径部226、後方側に位置して内径の最も大きい後方大径部228、それら前方小径部226と後方大径部228との中間に位置しそれらの内径の中間の内径を有する中間部230に区分けされている。
【0049】
第2ハウジング部材222は、前方側に位置して外径の大きい前方大径部232、後方側に位置して外径の小さい後方小径部234とを有する円筒形状をなしている。第2ハウジング部材222は、前方大径部232の前端部が第1ハウジング部材220の中間部230と後方大径部228との段差面に接する状態で、その後方大径部228に嵌め込まれている。それら第1ハウジング部材220,第2ハウジング部材222は、第1ハウジング部材220の後端部の内周面に嵌め込まれたロック環236によって、互いに締結されている。
【0050】
第1加圧ピストン202および第2加圧ピストン204は、それぞれ、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材220の前方小径部226に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン202は、第2加圧ピストン204の後方に配設されている。第1加圧ピストン202と第2加圧ピストン204との間には、左前輪のブレーキ装置116FLに供給される作動液を加圧するための第1加圧室R1が区画形成されており、また、第2加圧ピストン204の前方には、右前輪に設けられたブレーキ装置116FRに供給される作動液を加圧するための第2加圧室R2が区画形成されている。なお、第1加圧ピストン202と第2加圧ピストン204とは、第1加圧ピストン202の後端部に立設された有頭ピン250と、第2加圧ピストン204の後端面に固設されたピン保持筒252とによって、離間距離が設定範囲内に制限されている。また、第1加圧室R1内,第2加圧室R2内には、それぞれ、圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)254、256が配設されており、それらスプリング254、256によって、第1加圧ピストン202,第2加圧ピストン204はそれらが互いに離間する方向に付勢されるとともに、第1加圧ピストン202、第2加圧ピストン204は後方に向かって付勢されており、第1加圧ピストン202は、後述する中間ピストン206の前端面に当接されている。
【0051】
中間ピストン206は、両端部が開口された円筒形状の本体部270と、本体部270の前端部を塞ぐ蓋部272とから構成されている。中間ピストン206は、前端が第1加圧ピストン202の後端に当接した状態で、第1ハウジング部材220の中間部230の内周面に、摺動可能に嵌め合わされている。中間ピストン206の後方には、第2ハウジング部材222の前端部との間に、液圧調整装置120から調整圧とされた作動液が供給される液室(以下、「供給液室」という場合がある)R3が区画形成されている。ちなみに、図2では、ほとんど潰れた状態で示されている。また、ハウジング200の内部には、第1ハウジング部材220の内周面と第1加圧ピストン202の外周面との間に形成された空間が存在する。その空間が、中間ピストン206の前端面と、第1ハウジング部材220の前方小径部226と中間部230との段差面とによって区画されることで、常時大気圧とされる環状の液室(以下、「大気圧室」という場合がある)R4が形成されている。
【0052】
入力ピストン208は、前方が塞がれて後端部の開口する円筒形状をなす外筒部材280と、概して円柱形状のロッド部材282とを主体として構成されている。入力ピストン208は、ロッド部材282が、外筒部材280に、それの後端側から挿し込まれている。入力ピストン208は、第2ハウジング部材222に保持された状態で、中間ピストン206の本体部270の前端部から挿し込まれるとともに、中間ピストン206に対して進退可能とされている。このように構成された入力ピストン208および中間ピストン206の内部には、中間ピストン206と入力ピストン208との相対移動によって自身の容積が変化する液室(以下、「内部室」という場合がある)R5が区画形成されている。ちなみに、入力ピストン208の後退は、外筒部材280の前端部に形成される鍔部が、中間ピストン206の本体部270の後端部に当接することで制限されている。
【0053】
内部室R5には、中間ピストン206の内底面と入力ピストン208の前端面との間に、2つの圧縮コイルスプリングである第1反力スプリング290および第2反力スプリング292が配設されている。第1反力スプリング290は、第2反力スプリング292の後方に直列に配設されており、鍔付ロッド形状の浮動座294が、それらの反力スプリングに挟まれて浮動支持されている。第1反力スプリング290は、それの前端部が中間ピストン206の前端部に支持され、後端部が浮動座294の前方側のシート面に支持されている。一方、第2反力スプリング292は、それの前端部が浮動座294の後方側のシート面に支持され、後端部が入力ピストン208の前端部に支持されている。このように配設された第1反力スプリング290および第2反力スプリング292は、入力ピストン208と中間ピストン206とを、それらが互いに離間する方向に、つまり、内部室R5の容積が拡大する方向に付勢している。また、浮動座294の前端部には第1緩衝ゴム296、後端部には第2緩衝ゴム298がそれぞれ嵌め込まれており、その第1緩衝ゴム296が中間ピストン206の内底面に当接し、第2緩衝ゴム298が入力ピストン208の前端面に当接することで、浮動座294と中間ピストン206との接近、および、浮動座294と入力ピストン208との接近は、ある範囲に制限されている。
【0054】
入力ピストン208のロッド部材282の後端部には、ブレーキペダル140に加えられた操作力を入力ピストン208に伝達すべく、また、ブレーキペダル140の操作量に応じて入力ピストン208を進退させるべく、オペレーションロッド142の前端部が連結されている。ちなみに、入力ピストン208は、ロッド部材282の後端部が第2ハウジング部材222の後端部によって係止されることで、後退が制限されている。また、オペレーションロッド142には、円形の支持板300が付設されており、この支持板300とハウジング200との間にはブーツ302が渡されており、マスタシリンダ装置110の後部の防塵が図られている。
【0055】
第1加圧室R1は、開口が出力ポートとなる連通孔310を介して外部と連通しており、また、第1加圧ピストン202に設けられた連通孔312および開口がドレインポートとなる連通孔314を介して、リザーバ122に、非連通となることが許容された状態で連通している。一方、第2加圧室R2は、開口が出力ポートとなる連通孔316を介して外部と連通しており、第2加圧ピストン204に設けられた連通孔318および開口がドレインポートとなる連通孔320を介して、リザーバ122に、非連通となることが許容された状態で連通している。
【0056】
中間ピストン206は、第1ハウジング部材220の中間部230の内径よりある程度小さい外径とされており、それらの間にはある程度の流路面積を有する液通路322が形成されている。供給液室R3は、その液通路322および開口が連結ポートとなる連通孔324を介して、外部に連通可能となっている。
【0057】
中間ピストン206には、蓋部272において、大気圧室R4と内部室R5とを連通する連通孔330が設けられている。また、第1加圧ピストン202は、第1ハウジング部材220の中間部230の内径よりある程度小さい外径とされており、それらの間にはある程度の流路面積を有する液通路332が形成されている。大気圧室R4は、その液通路332および連通孔314を介して、リザーバ122に連通されている。したがって、環状室R4および内部室R5は、常時、大気圧とされており、それらの作動液は、リザーバ122に対して流出入可能とされている
【0058】
≪液圧調整装置の構成≫
図3は、液圧調整装置120と高圧源装置118とを示す模式図である。液圧調整装置120は、調整圧を増加させる電磁式の増圧リニア弁370と、調整圧を低減させる電磁式の減圧リニア弁372と、自身にパイロット圧として導入される作動液の圧力に応じて作動液を調整圧に調圧する調圧弁装置374とを含んで構成されている。
【0059】
増圧リニア弁370は、電力が供給されていない状態、つまり、非励磁状態では、閉弁状態とされており、電力を供給することによって、つまり、励磁状態とすることで、その供給された電力に応じた開弁圧において開弁する。ちなみに、供給される電力が大きいほど開弁圧が小さくなるように構成されている。一方、減圧リニア弁372は、電力が供給されていない状態では開弁状態とされており、自身に設定された範囲における最大電流が供給されると閉弁状態とされる。ちなみに、供給される電力が小さいほど開弁圧が高くなるように構成されている。
【0060】
調圧弁装置374は、それの筐体であるハウジング380と、調整圧を低減する場合に作動する減圧弁部材382と、調整圧を増加する場合に作動させられる増圧弁部材384と、その増圧弁部材384を押圧して作動させる押圧部材386とを含んで構成されている。なお、図3は、調圧弁装置374が作動していない状態を示している。なお、マスタシリンダ装置110と同様に、調圧弁装置374も、内部に作動液が収容されるいくつかの液室、それらの液室間,それらの液室と外部とを連通させるいくつかの連通路が形成されており、それらの液密を担保するため、構成部材間には、いくつかのシールが配設されている。それらのシールは一般的なものであり、明細書の記載の簡略化に配慮し、特に説明すべきものでない限り、それの説明は省略するものとする。
【0061】
ハウジング380は、主に、3つの部材から、具体的には、図3における上端部が開口する円筒形状とされた第1ハウジング部材390と、その第1ハウジング部材390の開口に嵌め込まれる円筒形状の第2ハウジング部材392と、第2ハウジング部材の上端部を塞ぐ第3ハウジング部材394とから構成されている。第1ハウジング部材390は、内径が互いに異なる3つの部分、具体的には、下方に位置して内径の最も小さい下方小径部396、上方に位置して内径の最も大きい上方大径部398、それら下方小径部396と上方大径部398との中間に位置し、それらの内径の中間の内径を有する中間部400に区分けされている。
【0062】
下方小径部396には、減圧弁部材382がシールを介して摺動可能に嵌め合わされている。減圧弁部材382は、概して円柱形状とされており、それの上端部は半球形に形成された弁体部402と、下端面は凹みが設けられて後述するパイロット圧の作用するパイロット圧作用部404となっている。また、弁体部402の外径はパイロット圧作用部404の外径よりも小さくされており、減圧弁部材382のほぼ中間には、それらの外径が互いに異なることによって形成される段差面が形成されている。
【0063】
中間部400には、押圧部材386がシールを介して摺動可能に嵌め合わされている。押圧部材386は、円筒形状とされており、外径が互いに異なる3つの部分、具体的には、図3における下方に位置して外径の最も大きい下方大径部406、上方に位置して外径の最も小さい上方小径部408、それら下方大径部406と上方小径部408との中間に位置し、それらの外径の中間の外径を有する中間部410に区分けされている。また、押圧部材386の内部には、一端が中間部410に開口し、他端が押圧部材386の下端面中心部に開口する連通路412が形成されている。
【0064】
第1ハウジング部材390の上方大径部398には、自身の下端面の中心部に連通孔414が設けられた円筒形状の第2ハウジング部材392が嵌め込まれている。連通孔414は、第2ハウジング部材392の内部と第1ハウジング部材390の中間部400に形成される液室とを連通するようにして設けられている。また、第2ハウジング部材392の側面にも、内部と外部とを連通する連通孔416が設けられている。第2ハウジング部材392は、それの上端部に第3ハウジング部材394が嵌め込まれることで閉塞されており、その閉塞された第2ハウジング部材392の内部には、球形とされている増圧弁部材384が収容されている。なお、増圧弁部材384の直径は、連通孔414の直径よりも大きくされている。
【0065】
減圧弁部材382、増圧弁部材384、押圧部材386は、それぞれ、圧縮コイルスプリング418、420、422によって下方に付勢されている。具体的には、圧縮コイルスプリング418は、一端が減圧弁部材382の中間に設けられた段差面に当接し、他端が押圧部材386の下端面に当接した状態で減圧弁部材382を下方に付勢している。圧縮コイルスプリング422は、一端が押圧部材386の下方大径部406と中間部410との境界に形成される段差面に当接し、他端が第4ハウジング部材392の下端面に当接した状態で押圧部材386を下方に付勢している。また、圧縮コイルスプリング420は、一端が増圧弁部材384の球形とされている表面に当接し、他端が第3ハウジング部材394の下面に当接した状態で増圧弁部材384を下方に付勢している。
【0066】
このように構成される調圧弁装置374には、第1ハウジング部材390の下方小径部396、上方大径部398、中間部400の内部にそれぞれ液室が形成されている。詳しく説明すると、下方小径部396には、それの内周面と、減圧弁部材382の外周面と、押圧部材386の下端面とによって囲まれる第1液室424が形成されている。上方大径部398には、第2ハウジング部材392の内周面と第3ハウジング部材394の下面とによって囲まれる第2液室426が形成されている。また、中間部400には、それの内周面と、押圧部材386の外周面と、第2ハウジング部材392の下面とによって囲まれる第3液室428が形成されている。
【0067】
また、第1ハウジング部材390の下方小径部396には、一端が第1液室424に開口し、他端が第1ハウジング部材390の外周面に開口する連通孔430が設けられている。また、上方大径部398には、一端が第2ハウジング部材392の連通孔416に連通し、他端が第1ハウジング部材390の外周面に開口する連通孔432が設けられている。したがって、連通孔416と連通孔432とによって、第2液室は外部に連通されている。中間部400には、一端が第3液室に連通し、第1ハウジング部材390の外周面に開口する2つの連通孔434、436が設けられている。また、第1ハウジング部材390の下端面の中心部には、外部と減圧弁部材382のパイロット圧作用部404とを連通する連通孔438が設けられている。
【0068】
≪連通路の構成≫
ブレーキ装置116は、液通路442、444を介してマスタシリンダ装置110に接続されている。液通路442は第1加圧室R1に連通する連通孔310に繋がれており、液通路444は、第2加圧室R2に連通する連通孔316に連通されている。つまり、それら液通路442、444は、マスタ圧流路として、マスタシリンダ装置110によって加圧された作動液をブレーキ装置116に供給するための液通路となっている。ちなみに、液通路442が、左前輪側のブレーキ装置116FLに繋がれており、液通路444が、右前輪側のブレーキ装置116RRに繋がれている。また、液通路442および液通路444には、それぞれ、非励磁状態で開弁し、励磁状態で閉弁する電磁式の開閉弁(以下、「マスタ用開閉弁」という場合がある)446、448が設けられている。それらのマスタ用開閉弁446、448は、マスタ圧流路遮断器として機能し、励磁状態で閉弁させられることによって、マスタ圧流路である液通路442,444をそれぞれ遮断することができる。
【0069】
調圧弁装置372の各連通孔には、以下のように各連通路が繋げられている。連通孔430には、リザーバ122に至る減圧連通路450が繋げられており、その途中に、上記減圧リニア弁372が設けられている。連通孔432には、高圧源装置118に至る高圧連通路452が繋げられている。また、連通孔434には、高圧源装置118に至る液通路454が繋げられており、その途中に上記増圧リニア弁370が設けられている。その連通孔434と第2液室428とを介して連通する連通孔436には、マスタシリンダ装置110の連通孔324に繋がれる連通路456が接続されている。連通孔438には、液通路442に設けられたマスタ用開閉弁446とブレーキ装置116FLとの間から分岐する連通路458が接続されている。
【0070】
また、連通路456は途中で分岐しており、その分岐した連通路である連通路460は、アンチロック装置114を介してブレーキ装置116に繋げられている。アンチロック装置114の内部では、連通路460は4つに分岐しており、それら分岐した部分の各々に、4つのブレーキ装置116にそれぞれ対応する増圧用開閉弁170が設けられている。また、アンチロック装置114には、リザーバ122に連通する減圧連通路462も繋げられている。アンチロック装置114の内部において、その減圧連通路462も4つに分岐しており、それら分岐した部分の各々に、4つのブレーキ装置116にそれぞれ対応する減圧用開閉弁172が設けられている。つまり、減圧連通路462は、ブレーキ装置116を低圧源であるリザーバ122に導くための低圧源流路として機能し、減圧用開閉弁172は、閉弁することでその低圧源流路を遮断する低圧源流路遮断器として機能する。なお、4つの増圧用開閉弁170および4つの減圧用開閉弁172は、車輪18RL、RRに対応する増圧用開閉弁170RL、RRを除いて、非励磁状態において閉弁し、励磁状態において開弁する電磁弁である。増圧用開閉弁170RL、RRは、非励磁状態において開弁し、励磁状態において閉弁する電磁弁である。
【0071】
このように構成された連通路には、作動液の圧力を検知する圧力センサが設けられている。液通路442には、それのマスタ用開閉弁446とマスタシリンダ装置110との間に、マスタシリンダ装置110によって加圧された作動液の圧力を検出するマスタ圧センサ[PO]470が設けられている。液通路444のマスタ用開閉弁448とブレーキ装置116との間には、ブレーキ装置116に作用する作動液の圧力を検出するブレーキ圧センサ[PB]472が設けられている。連通路452には、高圧源圧を検出するための高圧源圧センサ[PH]474を有している。ブレーキECU48は、高圧源圧センサ474の検出値を監視しており、その検出値に基づいて、液圧ポンプ180は制御駆動される。この制御駆動によって、高圧源装置118は、常時、設定された圧力以上の作動液を液圧調整装置120に供給する。また、連通路456には、調整圧を検出するための調整圧センサ[PC]476が設けられている。増圧リニア弁370および減圧リニア弁372は、調整圧センサ476の検出値に基づき、ブレーキECU48によって制御される。
【0072】
このように構成された本液圧制動システム100において、アンチロック装置114、高圧源装置118、液圧調整装置120、マスタ用開閉弁446、448、各センサ、および、連通路456、450等(図2の二点鎖線で囲まれた部分)は、一体とされた筐体内に収容されており、図4に外観を示すブレーキアクチュエータ478を構成している。詳しい説明は省略するが、ブレーキアクチュエータ478には複数のポートが設けられており、それらのポートを含んで各連通路が構成されることで、ブレーキアクチュエータ478は、ブレーキ装置116、リザーバ122、マスターシリンダ装置110の各液室R1、R2、R3に連通されている。このように、ブレーキアクチュエータ478は比較的コンパクトに構成されているため、液圧制動システム100の作動により作動液の圧力が相当に高くなる場合でも、ブレーキアクチュエータ478内の液通路の膨張等が抑えられている。そのため、その膨張等による作動液の圧力の変化が防止されている。
【0073】
≪マスタシリンダ装置および液圧調整装置の作動≫
以下に、ブレーキ操作における液圧制動システム100の作動について説明する。マスタシリンダ装置110では、ブレーキペダル140に加えられた操作力により、入力ピストン208が前進し、2つの反力スプリング290,292を圧縮する。これらの反力スプリング290,292の弾性反力は、中間ピストン206にそれを前進させるように作用し、その中間ピストン206は、第1加圧ピストン202を前進させるように押圧する。第1加圧ピストン202が前進すれば、それに伴って第2加圧ピストン204も前進し、第1加圧室R1,第2加圧室R2の作動液が加圧される。しかしながら、液圧制動システム100が正常に作動する場合、マスタ用開閉弁446、448は励磁状態とされて閉弁させられており、第1加圧室R1,第2加圧室R2は封止されているため、第1加圧室R1,第2加圧室R2の作動液をブレーキ装置116に供給することはできない。つまり、第1加圧ピストン202および第2加圧ピストン204は前進することができず、そのため、中間ピストン206も前進することはできない。したがって、マスタシリンダ装置110は、ブレーキペダル140の操作に対して、操作力によって加圧された作動液をブレーキ装置116に供給することなく、2つの反力スプリング290,292の弾性反力によって、運転者のブレーキペダル140に加えた操作力に対する操作反力を発生させるように作動する。つまり、2つの反力スプリング290,292は、運転者に操作反力を認識させるためのストロークシミュレータとして機能する。
【0074】
一方、液圧調整装置120では、ブレーキペダル140の操作量と操作力とに応じて、マスタシリンダ装置110およびブレーキ装置116に供給される作動液が調圧される。具体的には、作動液の調圧は、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372に供給される電力がブレーキECU48によって制御されることで行われる。減圧リニア弁372が閉弁させられた状態で、増圧リニア弁370が開弁されると、高圧とされた作動液が、調圧弁装置374の第3液室428、連通孔436を介して、連通路456に供給される。また、増圧リニア弁370が閉弁させられた状態で減圧リニア弁372が開弁されると、連通路456の作動液が、連通孔436、第3液室428、押圧部材386内部の連通路412を介して第1液室424に流れ込み、連通孔430から減圧リニア弁372を介してリザーバ122に流出する。このように、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372の開閉を制御することで、連通路456の作動液の圧力を調整圧に調整することができる。したがって、連通路456は、液圧調整装置120からマスタシリンダ装置110に調圧された作動液を供給するための第1調圧流路として機能する。また、連通路456から分岐する連通路460内の作動液も調整圧とされるため、連通路460は、液圧調整装置120からブレーキ装置116に調圧された作動液を供給するための第2調圧流路として機能し、増圧用開閉弁170は、閉弁することでその第2調圧流路を遮断することができる第2調圧流路遮断器として機能する。
【0075】
詳しい説明は省略するが、ブレーキECU48は、液圧制動力に応じた調整圧のマップデータを有しており、目標液圧制動力に応じた目標調整圧を決定することができる。したがって、ブレーキECU48は、調整圧センサ476によって検出される調整圧の値から、ブレーキ装置116において発生する液圧制動力が目標液圧制動力となっているかどうかを判定することができ、調整圧が目標調整圧となるように、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372を制御する。このように、液圧制動システム100では、液圧調整装置120に供給される電力を制御することで、ブレーキ装置116がその電力に応じて調圧された作動液の圧力に依存した制動力を発生させる状態である調圧依存制動力発生状態が実現される。
【0076】
次に、何らかの原因で液圧調整装置120への電力の供給ができなくなった場合の液圧制動システム100の作動について説明する。液圧調整装置120に電力が供給されていないと、増圧リニア弁370は非励磁状態で閉弁状態とされ、減圧リニア弁372も非励磁状態で開弁状態とされる。また、ブレーキECU48は、液圧調整装置120に電力が供給されていない場合、マスタシリンダ装置110によって加圧された作動液がブレーキ装置116に供給されるように、マスタ用開閉弁446、448を非励磁状態として開弁状態とする。したがって、ブレーキペダル140が操作されると、中間ピストン206を前進させ、第1加圧ピストン202および第2加圧ピストン204を前進させて、第1加圧室R1,第2加圧室R2の作動液を加圧し、加圧された作動液は、それぞれ、ブレーキ装置116FL、116FRに供給される。
【0077】
液圧調整装置120の調圧弁装置374には、連通路458を介してブレーキ装置116FLに供給される作動液の圧力が導入される。調圧弁装置374は、その圧力をパイロット圧として利用して作動することが可能とされている。つまり、連通路458は、調圧弁装置374のパイロット圧作用部404にパイロット圧を導入するためのパイロット圧流路として機能する。パイロット圧を利用した調圧弁装置374の作動について詳しく説明すると、パイロット圧がある大きさになると、圧縮コイルスプリング418の弾性力に抗して、減圧弁部材382が上方に移動させられ、押圧部材386の下端面中心部の開口を塞ぐようにして押圧部材386に当接し、連通路412を遮断する。さらにパイロット圧が大きくなると、圧縮コイルスプリング422の弾性力に抗して、押圧部材386が上方に移動させられ、押圧部材386の上端部が第2ハウジング部材392の下端面の連通孔414を介して増圧弁部材384を押し上げる。したがって、第1ハウジング部材390の連通孔432が、第2ハウジング部材392の連通孔416、第2液室426、連通孔414、第3液室428を介して、連通孔436と連通する。つまり、高圧源装置118と連通路456とが連通され、高圧源装置118によって高圧とされた作動液が、マスタシリンダ装置110の供給液室R3に供給される。一方、パイロット圧が低下すると、調圧弁装置374は、図3に示すように、連通孔430が、第1液室424、連通路412、第3液室428を介して、連通孔436と連通する。つまり、リザーバ122と連通路456とが連通され、供給液室R3の作動液がリザーバ122へと流出される。
【0078】
このように作動する調圧弁装置374が、減圧弁部材382が押圧部材386に当接しつつ、押圧部材386の上端部が増圧弁部材384を押し上げていない状態になると、調整圧はその状態における大きさで維持されることになる。この状態における減圧弁部材382に作用する力と、押圧部材386に作用する力について詳しく説明すると、パイロット圧により減圧弁部材382を上方に押す力と、調整圧により押圧部材386を下方に押す力とは、平衡した状態において維持されることとなる。つまり、パイロット圧PPの減圧弁部材382に作用する受圧面積をA1とすれば、減圧弁部材382を上方に押す力は、A1×PPとなる。一方、調整圧PCの押圧部材386に作用する受圧面積をA2とすれば、押圧部材386を下方に押す力は、A2×PCとなる。なお、受圧面積A1は、減圧弁部材382の下端における断面積であり、受圧面積A2は、押圧部材386の下方大径部406の断面積である。圧縮コイルスプリング418、422の発生する力がこれらの力に比べて無視できるほど小さいと考えれば、A1×PP=A2×PCとなった状態で、調整圧PCは維持されることになる。したがって、調整圧PCは、A1/A2×PPにより算出されることになる。つまり、減圧弁部材382の受圧面積A1と押圧部材386の受圧面積A2との面積比は、調整圧PCのパイロット圧PPに対する設定比とされており、調整圧PCは、パイロット圧PPに対してその設定比となる圧力に調整されるのである。
【0079】
このように、供給液室R3に供給される作動液の圧力である調整圧は、パイロット圧に応じて、調圧弁装置374によって調圧される。そのため、中間ピストン206は、操作力とともに、その調整圧に依存して前進させられる。したがって、マスタシリンダ装置110は、操作力と調整圧とに依存して第1加圧室R1および第2加圧室R2の作動液を加圧し、前輪側のブレーキ装置116FL,FRに加圧された作動液を供給する。このように、本液圧制動システムでは、液圧調整装置120への電力の供給がされていない場合に、ブレーキ装置116FL,FRが、操作力と調整圧との両方に依存した制動力を発生させる状態である操作力・調圧依存制動力発生状態が実現させられる。その際、ブレーキ装置116FL,FRに供給される作動液が液圧調整装置120へと逆流しないように、それらのブレーキ装置116FL,FRにそれぞれ対応する増圧用開閉弁170FL、FRは非励磁状態で閉弁状態とさせられ、連通路460は遮断されている。また、後輪側のブレーキ装置116RL,RRに対応する増圧用開閉弁170RL,RRは開弁状態とさせられており、ブレーキ装置116RL,RRは、調整圧に応じた制動力を発生させる。
【0080】
マスタシリンダ装置110からブレーキ装置116FL,FRに供給される作動液の圧力であるブレーキ圧PBは、操作力Fと、調整圧PCと、中間ピストン206の入力室R3に対する受圧面積A3(概して後端面の面積に等しい)と、第1加圧ピストン202,第2加圧ピストン204の第1加圧室R1,第2加圧室R2に対する受圧面積A4(概してそれぞれのピストン202,204の断面積は等しい)とから、下記式で表すことができる。
PB=(F+A3×PC)/A4=F/A4+(A3/A4)×PC
したがって、操作力・調圧依存制動力発生状態におけるブレーキ圧PBは、操作力Fに依拠して決定される圧力F/A4に、マスタシリンダ装置110において設定される面積に基づいて決定される係数(A3/A4)だけ倍増された調整圧PCが加えられた圧力となる。つまり、ブレーキ圧PBは、操作力Fのみならず、調整圧PCにも依存した圧力となり、ブレーキ装置116FL,FRはそのブレーキ圧PBに依存して制動力を発生させるのである。
【0081】
≪液圧制動システム診断≫
前述のように作動する液圧制動システム100において、ブレーキECU48は、液圧制動システム診断を行う。この診断は、大まかに言えば、図5のフローチャートに示すように、液圧制動システム100を診断する7つの異常診断処理から構成されている。以下に、図5のフローチャートに示す順番に従って、各異常診断処理について説明する。なお、本車両は、ブレーキペダル140が踏み込まれた状態でなければ車両の始動を行うことができないようになっており、各異常診断処理は、その始動時のブレーキ操作を利用して実行される診断処理と、ブレーキ操作が解除されてから実行される診断処理とがある。以下の各異常診断処理の説明では、ブレーキ操作と各診断処理の実行との関係についても説明する。
【0082】
液圧制動システム診断では、まず、電力供給異常診断処理が実行される。電力供給異常診断処理は、高圧源装置118、液圧調整装置120、各開閉弁、各センサなど、電力によって作動する部分に、正常に電力が供給されているかどうかを診断する。また、ブレーキECU48自身への電力の供給についても診断する。本電力供給異常診断処理はブレーキ操作時に実行される。
【0083】
次に、運転者により入力される操作力による第1加圧室R1および第2加圧室R2の作動液の加圧に異常がないかを診断する入力系異常診断処理が実行される。入力系異常診断処理は、マスタ用開閉弁446、448を閉弁した状態で、ブレーキペダル140の操作に対する操作力センサ146の検出値とマスタ圧センサ470の検出値とに基づいて実行される。そのため、ブレーキECU48は、操作量とマスタ圧との関係を示すマップデータを保存しており、入力系異常診断処理では、操作力センサ146の検出値とマスタ圧センサ470の検出値とがそのマップデータと比較されることで、運転者の入力する操作力による作動液の加圧において異常がないかが診断される。
【0084】
次に、液圧調整装置120により調圧された作動液の供給液室R3および増圧用開閉弁170への供給に異常がないかを診断する調圧系異常診断処理が実行される。調圧系異常診断処理では、増圧用開閉弁170およびマスタ用開閉弁446、448が閉弁されて、増圧用リニア弁170および減圧リニア弁172により調圧された作動液が連通路456、460に供給される。したがって、増圧用開閉弁170やマスタシリンダ装置110の供給液室R3には、調圧された作動液が供給される。その際、調圧系異常診断処理では、調整圧センサ476の検出値があらかじめ設定された値と比較されることで、調圧された作動液の供給液室R3および増圧用開閉弁170への供給に異常がないかが診断される。
【0085】
次に、液圧調整装置120によって調圧された作動液のブレーキ装置116への供給に異常がないかを診断するブレーキ系異常診断処理が実行される。ブレーキ系異常診断処理では、増圧用開閉弁170が開弁され、減圧用開閉弁172およびマスタ用開閉弁446,448が閉弁されて、調整圧PCがあらかじめ設定されたブレーキ圧診断目標圧PT1となるように液圧調整装置120に供給される電力が制御された後、増圧リニア弁370と減圧リニア弁372とが閉弁される。したがって、ブレーキ装置116はブレーキ圧診断目標圧PT1の作動液によって作動させられている状態となり、この状態であらかじめ設定された時間TB経過後の調整圧PCが、あらかじめ設定されたブレーキ圧異常診断圧PC1より低下した場合に、調圧された作動液のブレーキ装置116への供給に異常があると診断される。
【0086】
次に、液圧調整装置120がパイロット圧依存調圧機能で作動する場合に異常がないかを診断するパイロット圧依存調圧機能異常診断処理が実行される。パイロット圧依存調圧機能異常診断処理では、増圧用開閉弁170が開弁され、減圧用開閉弁172およびマスタ用開閉弁446,448が閉弁され、調整圧PCがあらかじめ設定されたパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2となるように液圧調整装置120に供給される電力が制御されて、増圧用開閉弁170が閉弁される。つまり、ブレーキ装置116には、第1設定圧であるパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2とされた作動液が封じ込められる。さらに、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372への電力の供給が停止され、増圧リニア弁370は閉弁され、減圧リニア弁372は開弁される。したがって、液圧調整装置120は、パイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2をパイロット圧とするパイロット圧依存調圧機能で作動する。パイロット圧依存調圧機能が正常である場合、調整圧PCは、パイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2に対して設定比となる圧力、つまり、正常時基準圧であるパイロット圧依存調整圧PCPとなる。パイロット圧依存調圧機能異常診断処理では、調整圧PCが、パイロット圧依存調整圧PCPにマージンを設けて設定された圧力、つまり、パイロット圧依存調整圧PCP以下に設定された圧力であるパイロット圧依存異常診断圧PC2を下回る場合に、液圧調整装置120のパイロット圧依存調圧機能に異常があると診断される。本パイロット圧依存調圧機能異常診断処理は、ブレーキ操作時に、増圧用開閉弁170が閉弁され、そのときのパイロット圧をパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2とすることによって実行される。
【0087】
なお、本液圧制動システム100では、車両の走行時であっても、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理を実行することが可能である。具体的には、車両の走行時の制動中に、ブレーキペダル140の操作量が一定となっているようなときに、極短時間だけ増圧用開閉弁170を閉弁してブレーキ装置116に作動液を封じ込め、その封じ込められた作動液の圧力をパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2とし、極短時間だけ液圧調整装置への電力の供給を停止することによって、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理を実行することができる。
【0088】
次に、連通路460に設けられた増圧用開閉弁170によって、連通路460、つまり、液圧調整装置120からブレーキ装置116に調圧された作動液を供給する第2調圧流路が正常に遮断されるかを診断する第2調圧流路遮断異常診断処理が実行される。第2調圧流路遮断異常診断処理では、増圧用開閉弁170が閉弁され、調整圧PCが第2設定圧としてあらかじめ設定された第1遮断診断目標圧PT3となるように液圧調整装置120に供給される電力が制御され、次いで、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372が閉弁される。このとき、増圧用開閉弁170に液漏れ等の異常が発生している場合には、連通路460の作動液の圧力は第1遮断診断目標圧PT3となる。ここで、減圧用開閉弁172を開弁すると、連通路460の増圧用開閉弁170とブレーキ装置118との間にある作動液の圧力は大気圧となる。したがって、連通路460の増圧用開閉弁170と液圧調整装置120との間にある作動液は、増圧用開閉弁170の異常によって、ブレーキ装置118側へと流出し、調整圧PCは第1遮断診断目標圧PT3から低下してしまう。そのことを利用して、第2調圧流路遮断異常診断処理は、調整圧PCが、第1遮断診断目標圧PT3にマージンを設けて設定された基準圧、つまり、第1遮断診断目標圧PT3以下に設定された第2調圧流路遮断異常診断圧PC3を下回った場合に、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常があると診断する。
【0089】
また、詳細な説明は省略するが、4つの減圧用開閉弁172の各々を、同時に開弁するのではなく、順番に開弁することで、第2調圧流路の遮断の異常がどの増圧用開閉弁170で発生しているのかを特定することもできる。つまり、遮断が正常に行われている増圧用開閉弁170に対応する減圧用開閉弁172が開弁されたとしても、調整圧PCが第2調圧流路遮断異常診断圧PC3を下回ることはないが、遮断に異常がある増圧用開閉弁170に対応する減圧用開閉弁172が開弁されれば、調整圧PCは第2調圧流路遮断異常診断圧PC3を下回ってしまう。そのことを利用すれば、どの増圧用開閉弁170に異常があるかを特定することができる。
【0090】
次に、高圧源装置118からの作動液の供給において異常がないかを診断する高圧供給異常診断処理が実行される。高圧供給異常診断処理では、増圧用開閉弁170およびマスタ用開閉弁446、448が閉弁され、増圧リニア弁370が開弁されて高圧源装置118より高圧とされた作動液が供給された際、高圧源圧センサ474の検出値である高圧源圧PHに基づいて異常がないかが診断される。つまり、高圧供給異常診断処理では、高圧源圧PHがあらかじめ設定された値を下回る場合に、高圧源圧PHの低下の度合いが大きすぎるとして、高圧とされた作動液の供給に異常があると診断する。
【0091】
なお、これらの各異常診断処理のうち、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理および第2調圧流路遮断異常診断処理が、本液圧制動システム100の請求可能発明である。
【0092】
このように、各異常診断処理は、電力供給異常診断処理を除いて、作動液の圧力が用いられている。したがって、各診断処理が適切に行われるためには、正常の場合と異常の場合とにおける作動液の圧力の差異を正確に検出する必要がある。本液圧制動システム100では、前述のように、一体とされた筐体を有するブレーキアクチュエータ478が採用されているため、ブレーキアクチュエータ478内の液通路の膨張等が抑えられている。したがって、ブレーキアクチュエータ478内で異常が発生した場合、その異常による液漏れ等が微小であっても、その異常が作動液の圧力の変化となって現れ易くなっている。そのため、本液圧制動システム100は、正常の場合と異常の場合とにおける作動液の圧力の差異を正確に検出し、各診断処理を適切に実行することが可能とされている。
【0093】
このように各異常診断処理がおこなわれると、それらの診断結果に基づいて、液圧制動システム100が異常である場合には、その異常の原因が特定される。図6は、各異常診断処理の診断結果に基づいて、液圧制動システム100の異常の原因を特定するための表である。表中におけるNは診断結果が正常であったことを示し、ANは診断結果が異常であったことを示している。これらの正常または異常の診断結果の組合せによって、液圧制動システム100は、正常、あるいは、異常の原因が[異常原因1]〜[異常原因12]のいずれかに特定される異常と診断される。
【0094】
図7の表は、[異常原因1]〜[異常原因12]の各々の場合における異常の内容を示している。以下に、異常診断結果の組合せによって特定される異常原因、および、その特定される異常原因の異常の内容について説明する。電力供給異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因1]と特定される。[異常原因1]は、高圧源装置118、液圧調整装置120、各開閉弁、各センサなどへの電力の供給に異常が発生していることを表している。入力系異常診断処理のみで異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因2]と特定される。[異常原因2]は、マスタシリンダ装置110内部に固着や液漏れ等の異常が発生していることを表している。
【0095】
調圧系異常診断処理のみで異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因3]と特定される。[異常原因3]は、増圧用リニア弁170または減圧リニア弁172に固着や液漏れ等の異常が発生していることを表している。[異常原因3]の場合に加えて、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因4]と特定される。[異常原因4]は、液圧調整装置120がパイロット圧依存調圧機能で正常に調圧することもできなくなっているため、増圧用リニア弁170および減圧リニア弁172も含んだ液圧調整装置120に液漏れ等の異常が発生していることを表している。[異常原因4]の場合に加えて、高圧供給異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因5]と特定される。[異常原因5]は、高圧とされた作動液の供給もできなくなっているため、高圧減圧装置118または液圧調整装置120の高圧源圧PHの作用する箇所に異常が発生していることを表している。
【0096】
ブレーキ系異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因6]と特定される。[異常原因6]は、液圧調整装置120によって調圧された作動液の圧力が作用する箇所に液漏れ等の異常が発生していることを表している。ただし、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理が正常であるため、液圧調整装置120がパイロット圧依存調圧機能で作動する場合に、パイロット圧の作用する箇所以外で異常が発生していることになる。[異常原因6]の場合に加えて、高圧供給異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因7]と特定される。[異常原因7]は、[異常原因6]の場合と同様に、パイロット圧が作用する箇所以外で液漏れ等の異常が発生しているとともに、高圧源圧PHの低下の度合いが大きいため、液漏れの程度が大きな異常が発生していることを表している。
【0097】
ブレーキ系異常診断処理およびパイロット圧依存調圧機能異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因8]と特定される。[異常原因8]は、[異常原因6]に相反して、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理が異常であるため、パイロット圧が作用する箇所で液漏れ等の異常が発生していることを表している。[異常原因8]の場合に加えて、高圧供給異常診断処理が異常であると診断された場合には、異常の原因は[異常原因9]と特定される。[異常原因9]は、[異常原因7]に相反して、パイロット圧が作用する箇所で液漏れ等の異常が発生しており、その液漏れ等の程度が大きな異常が発生していることを表している。
【0098】
パイロット圧依存調圧機能異常診断処理で異常があり、かつ、第2調圧流路遮断異常診断処理が正常であると診断された場合には、異常の原因は[異常原因10]と特定される。パイロット圧依存調圧機能異常診断処理で異常がある場合は、液圧調整装置120のパイロット圧依存調圧機能において作動する場合に異常が発生していることを表しており、加えて、第2調圧流路遮断異常診断処理が正常である場合には、調整圧装置374における弁体等の固着による異常が発生していることを表している。つまり、調整圧装置374に液漏れが発生している場合には、第2調圧流路遮断異常診断処理において、第1遮断診断目標圧PT3とされた調整圧PCが、大気圧とされているパイロット圧流路、つまり、連通路458に流出してしまうため、調整圧PCが調圧流路遮断異常診断圧PC3を下回ってしまう。したがって、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理が異常で、かつ、第2調圧流路遮断異常診断処理が正常である場合である[異常原因10]は、調整圧装置374において弁体等が固着していることを表している。また、[異常原因10]の場合に加えて、第2調圧流路遮断異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因11]と特定される。[異常原因11]は、前述のことから、調整圧装置374に液漏れが発生していることを表している。第2調圧流路遮断異常診断処理のみで異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因12]と特定される。[異常原因12]は、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常が発生していることを表している。
【0099】
このように、本液圧制動システム異常診断のパイロット圧依存調圧機能異常診断処理は、自身の診断結果が異常であるだけでは、調整圧装置374における弁部材等の固着なのか液漏れなのかを特定することができない。つまり、どちらかの異常があれば、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理の実行において、調整圧PCはパイロット圧依存異常診断圧PC2を下回る可能性がある。しかしながら、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理は、第2調圧流路遮断異常診断処理の診断結果により、その診断結果が正常である場合には、調整圧装置374における弁体等の固着による異常であり、異常である場合には、調整圧装置374の液漏れによる異常と診断することができる。このように、本液圧制動システムは、第2調圧流路の遮断異常についての診断結果に基づいてパイロット圧依存調圧機能についての診断を行うことで、さらに詳細に異常の原因を特定することが可能とされている。
【0100】
≪液圧制動システムの作動モード≫
ブレーキECU48は、前述の正常であるか、あるいは、異常の原因が[異常原因1]〜[異常原因12]のどれであるかに基づいて、液圧制動システム100の作動を切り換える作動モード切換処理を実行する。作動モード切換処理によって、液圧制動システム100は、作動モード1から3のいずれかの作動モードで作動させられる。具体的には、液圧制動システム100は、正常である場合には作動モード1、[異常原因1]〜[異常原因7]の異常である場合には作動モード2、[異常原因8]〜[異常原因12]の異常である場合には作動モード3で作動させられる。それら3つの作動モードについて説明すると、液圧制動システム100は、作動モード1では調圧依存制動力発生状態で作動させられ、作動モード2では操作力・調圧依存制動力発生状態で作動させられ、作動モード3では、パイロット圧依存調圧機能が正常に作動しないため、パイロット圧流路である連通路458と連通するブレーキ装置116FLを除いた他の3つのブレーキ装置116によって、調圧依存制動力発生状態で作動させられる。つまり、作動モード3では、ブレーキ装置116FLの作動が禁止される。
【0101】
≪各異常診断処理のフロー≫
ブレーキECU48は、液圧制動システム診断の各診断処理を、図5に示すフローチャートに従って実行する。各診断処理は、ブレーキECU48に保存される各々のプログラムが実行されることによって行われる。つまり、各診断処理のプログラムが実行されることによって、液圧制動システム診断は実行される。各プログラムのうち、請求可能発明に関係の深いブレーキ系異常診断処理、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理、第2調圧流路遮断異常診断処理のプログラムのフローチャートを、図8から図10にそれぞれ示す。
【0102】
ブレーキ系異常診断処理は、図8にフローチャートを示すプログラムに従って実行される。このプログラムに従う処理では、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様とする)において、各開閉弁が制御され、液圧調整装置120の作動により、S3において、調整圧PCがブレーキ圧診断目標圧PT1とさせられる。次に、各リニア弁が閉弁させられてから時間TB経過後、S6において、時間TB経過後の調整圧PCがブレーキ圧異常診断圧PC1より低下しているかどうかが診断される。低下している場合には、S7において、ブレーキ圧が異常である、つまり、液圧調整装置120によって調圧された作動液のブレーキ装置116への供給において異常があると診断される。
【0103】
パイロット圧依存調圧機能異常診断処理は、図9にフローチャートを示すプログラムに従って実行される。このプログラムに従う処理では、S11において、各開閉弁が制御され、液圧調整装置120の作動により、S13において、調整圧PCがパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2とさせられる。次に、増圧用開閉弁170および増圧リニア弁370が閉弁され、減圧リニア弁372が開弁されて、S15において、調整圧PCがパイロット圧依存異常診断圧PC2を下回っているかどうかが診断される。下回っている場合には、S16において、液圧調整装置120のパイロット圧依存調圧機能が異常であると診断される。
【0104】
また、第2調圧流路遮断異常診断処理は、図10にフローチャートを示すプログラムに従って実行される。このプログラムに従う処理では、S21において、増圧用開閉弁170が閉弁させられて、液圧調整装置120の作動により、S23において、調整圧PCが第1遮断診断目標圧PT3とさせられる。次に、各リニア弁が閉弁され、減圧用開閉弁172が開弁されて、S26において、調整圧PCが第2調圧流路遮断異常診断圧PC3に至らないかどうかが診断される。低下している場合には、S27において、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常があると診断される。
【0105】
≪ブレーキECUの機能構成≫
このような液圧制動システム100において、ブレーキECU48は、液圧調整装置120に供給される電力および各開閉弁の作動の制御を実行し、液圧制動システム診断と作動モードの切換とを実行する制御装置と考えることができる。また、ブレーキECU48は、これらの実行を行ういくつかの機能部を有すると考えることができる。具体的には、図2に示すように、ブレーキECU48は、作動制御部として液圧制動システム100を作動モード1から3において作動させる作動モード切換処理部480と、液圧制動システム診断を実行する異常診断部482とを有していると考えることができる。また、異常診断部482は、各異常診断を実行する機能部、例えば、ブレーキ系異常診断処理を実行するブレーキ圧異常診断部484や、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理を実行するパイロット圧依存調圧機能異常診断部486や、第2調圧流路遮断異常診断処理を実行する第2調圧流路遮断異常診断部488などを有していると考えることができる。
【0106】
≪変形例≫
本液圧制動システム100の第2調圧流路の遮断についての診断処理には、前述の第2調圧流路遮断異常診断処理に代えて、他の診断処理を用いることができる。以下にその診断処理について説明する。
【0107】
本変形例の第2調圧流路遮断異常診断処理では、増圧用開閉弁170が開弁され、調整圧PCが第2設定圧としてあらかじめ設定された第1遮断診断目標圧PT3となるように、液圧調整装置120に供給される電力が制御される。次いで、増圧用開閉弁170が閉弁され、調整圧PCが第3設定圧としてあらかじめ設定された第2遮断診断目標圧PT4となるように、液圧調整装置120に供給される電力が制御される。次に、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372が閉弁されることで、連通路460は、増圧用開閉弁170から液圧調整装置120側の作動液の圧力が第2遮断診断目標圧PT4となり、ブレーキ装置116側の作動液の圧力が第1遮断診断目標圧PT3となる。そのため、増圧用開閉弁170の前後において圧力差が発生することとなり、増圧用開閉弁170に漏れなどの異常が発生している場合には、液圧調整装置120側の作動液がブレーキ装置116側へと流れ出し、調整圧PCは、第2遮断診断目標圧PT4から低下してしまう。したがって、調整圧PCが、第2遮断診断目標圧PT4にマージンを設けて設定された基準圧、つまり、第2遮断診断目標圧PT4以下に設定された第2調圧流路遮断異常診断圧PC4に至らない場合に、第2調圧流路遮断異常診断処理は、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常があると診断する。
【0108】
本変形例の第2調圧流路遮断異常診断処理は、図11にフローチャートを示すプログラムに従って実行される。このプログラムに従う処理では、S31において、増圧用開閉弁170が開弁されて、液圧調整装置120の作動により、S33において、調整圧PCが第1遮断診断目標圧PT3とされる。次に、S34において、各リニア弁が閉弁され、減圧用開閉弁172が開弁されて、S35において、調整圧PCが第2遮断診断目標圧PT4とされる。次に、各リニア弁が閉弁されて、S37において、調整圧PCが第2調圧流路遮断異常診断圧PC4に至らないかどうかが診断される。至らない場合には、S38において、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常があると診断される。
【実施例2】
【0109】
本実施例の液圧制動システム500のハード構成は、液圧調整装置を除いて、先の液圧制動システム100とほぼ同様の構成とされているため、ハード構成に関して液圧調整装置501とそれに接続される液通路等を図12に示し、システム全体の図面とそれの説明を省略することとする。
【0110】
≪液圧調整装置の構成≫
液圧調整装置501は、電磁式のリニア弁とされており、図12に示すように、中空形状のハウジング502と、そのハウジング502内にそれの軸線方向に移動可能に設けられたプランジャ504と、ハウジング502の外周に設けられた円筒状のコイル506とを備えている。ハウジング502は、下方に設けられた有底円筒状の下部外殻部材508と、上方に設けられた有蓋円筒状の上部外殻部材510と、それら下部外殻部材508と上部外殻部材510とを連結する概して円柱状のコア512と、上部外殻部材510の内部に設けられた有蓋円筒状の区画部材514とによって構成されている。
【0111】
コア512は、最も外径の大きいフランジ部516と、そのフランジ部516の下方に位置しフランジ部516の外径より小さな外径の下方部518と、フランジ部516の上方に位置しフランジ部516の外径より小さな外径の上方第1外径部520と、その上方第1外径部520の上方に位置し上方第1外径部520の外径より小さな外径の上方第2外径部522とを有している。コア512の下方部518は下部外殻部材508に固定的に嵌合されており、コイル506は、下部外殻部材508に外嵌するようにしてフランジ部の516下面側に配設されている。
【0112】
コア512には、ハウジング502の軸線方向に貫通する貫通穴524が形成されており、プランジャ504は、その貫通穴524に挿入されるロッド部526と、コア512の下端面と下部外殻部材508の内底面との間に配設される本体部528とを有している。ロッド部526は、下方に位置し外径の大きい大径部530と、上方に位置し外径の大きい小径部532とを有しており、貫通穴524の内周面は、上方に位置し内径の大きい大内径部534と、下方に位置し内径の小さい小内径部536とに区分けされている。ロッド部526の大径部530は貫通穴524の小内径部536に摺動可能に嵌合されており、ロッド部526の小径部532は貫通穴524の大内径部534にクリアランスを設けた状態で挿入されている。
【0113】
上部外殻部材510は、下端部に位置し内径の最も大きい第1内径部540と、その第1内径部540の上方に位置し第1内径部540の内径より小さな内径の第2内径部542と、上端部に位置し内径の最も小さい第3内径部544と、その第3内径部544と第2内径部542との間に位置し第2内径部542の内径より小さく、かつ第3内径部544の内径より大きい内径の第4内径部546とを有する。コア512の上方第2外径部522は上部外殻部材510の第2内径部542に固定的に嵌合されており、コア512の上方第1外径部520は、上部外殻部材510の第1内径部540に固定的に嵌合されている。上方第1外径部520と上方第2外径部522との間の段差面と、第1内径部540と第2内径部542との間の段差面とは離隔しており、それら2つの段差面と上方第2外径部522と第1内径部540とによって第1液室548が区画されている。なお、上部外殻部材510と下部外殻部材508とコア512とは、ハウジング502を構成する本体部材として機能している。
【0114】
区画部材514は、下端部に位置し外径の大きい大径部550と、上端部に位置し外径の小さい小径部552とを有しており、小径部552は上部外殻部材510の第3内径部544に、大径部550は上部外殻部材510の第4内径部546に、それぞれ摺動可能に嵌合されている。区画部材514の下端面とコア512の上端面との間には、コイルスプリング554が圧縮された状態で配設されている。そのコイルスプリング554の弾性力によって区画部材514は上方に付勢されており、区画部材514の蓋部の上端面と上部外殻部材510の蓋内面とが当接している。区画部材514の上端面は僅かに凹んでおり、その凹んだ部分と上部外殻部材510の蓋内面とによって第2液室556が区画されている。また、大径部550と小径部552との間の段差面と、第3内径部544と第4内径部546との間の段差面とは離隔しており、それら2つの段差面と小径部552と第4内径部546とによって第3液室558が区画されている。
【0115】
さらに、区画部材514の蓋内側には、円板状のリアクションディスク560が設けられている。そのリアクションディスク560は、それの上面において、区画部材514の蓋部によって支持されている。区画部材514の内周部562には、概して中空円筒形状の第1移動部材566が摺動可能に嵌合されており、その第1移動部材566の上端面がリアクションディスク560の下面に接触している。第1移動部材566は、それのほぼ中間における外周面において径方向に突出する突出部568と、その突出部568の上方に位置する上方円筒部569と、突出部568の下方に位置する下方円筒部570とを有している。また、区画部材514の内周部562の下方への開口は、テーパ状とされており、その開口に第1移動部材566の突出部568が着座可能とされている。つまり、突出部568は、区画部材514の開口を塞ぐことができる弁体として機能することができる。また、突出部568の下方円筒部570は、貫通穴524の大内径部534に摺動可能に嵌合されている。このような構造によって、上部外殻部材510の第4内径部546と、区画部材514の下端面と、コア512の上端面と、第1移動部材566の下方円筒部570とによって第4液室572が区画されている。
【0116】
第1移動部材566の下端面とコア512の上端面との間には、コイルスプリング573が圧縮された状態で配設されている。そのコイルスプリング573の弾性力によって第1移動部材566はその第1移動部材566の突出部568が内周部562の開口に着座する方向に付勢されており、突出部568は内周部562の開口に着座している。また、第1移動部材566の外周面は僅かに凹んでおり、その第1移動部材566の外周面の凹んだ部分と区画部材514の内周部562とによって第5液室576が区画されている。
【0117】
その第1移動部材566の内部には、概して円柱状の第2移動部材578が貫通した状体で設けられている。その第2移動部材578は、上端をリアクションディスク560に接触させた状態で第1移動部材566内に軸線方向に摺動可能に設けられている。その第2移動部材578の外周面は僅かに凹んでおり、その凹んだ部分と第1移動部材566の内周面との間にクリアランス580が存在している。また、第2移動部材578の下端部は、第1移動部材566から下方に延び出すとともに、コア512の貫通穴524に摺動可能に嵌合されている。
【0118】
クリアランス580と第4液室572とを連通する連通穴582が第1移動部材566の壁面に形成されており、第4液室572内の作動液がその連通穴582を介してクリアランス580にも流入するようになっている。つまり、連通穴582およびクリアランス580も、第5液室576の一部として機能している。また、第2移動部材578の内部には、下端面と外周面とに開口し、クリアランス580と貫通穴524内とを連通する内部連通路584が形成されている。その内部連通路584の貫通穴524内部への開口は、テーパ状とされており、上記プランジャ504のロッド部526の先端と向かい合っている。また、第2移動部材578のそのテーパ状とされた開口を有する面と、ロッド部526の大径部530と小径部532との間の段差面との間には、コイルスプリング586が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング586の弾性力によってプランジャ504は下方に付勢されている。したがって、そのプランジャ504の先端は、上記コイルスプリング586の弾性力によってプランジャ504の先端が内部連通路584の開口から離隔する方向に付勢されており、そのコイルスプリング586の弾性力に抗してプランジャ504が上方に移動することで、プランジャ504の先端が、内部連通路584の開口に着座するようにされている。
【0119】
区画部材514の大径部550の僅かに凹んだ部分と上部外殻部材510の第4内径部546との間には、クリアランス590が存在しており、そのクリアランス590に開口する高圧ポート592が、その第4内径部546に形成されている。また、そのクリアランス590と第5液室576とを連通する第1連通路594が、区画部材514の径方向に延びるように形成されており、高圧ポート592には、高圧源圧装置118に至る液通路が接続されている。つまり、高圧ポート592とクリアランス590と第1連通路594とを介して、第5液室576に高圧源圧とされた作動液を供給することが可能とされている。
【0120】
上部外殻部材510の第1内径部540には、第1液室548に開口する低圧ポート600が形成されており、その低圧ポート600を介して、第1液室548にはリザーバ122に至る液通路が接続されている。その第1液室548と貫通穴524の大内径部534とを連通する第2連通路602が、コア512内に径方向に延びるように形成されており、その第2連通路602および貫通穴524も第1液室548の一部として機能している。以下、第1液室548と第2連通路602と貫通穴524とをまとめて第1液室548等という場合がある。また、上部外殻部材510の第4内径部546には、第3液室558に開口するドレインポート604が形成されており、リザーバ122に連通する液通路が、ドレインポート604を介して第3液室558に接続されており、第3液室558の容積変化が許容されている。
【0121】
上部外殻部材510の第4内径部546には、第4液室572に開口するポート608が形成されており、そのポート608を介して、第1連通路である連通路456が第4液室572に接続されている。また、上部外殻部材510の蓋部には、第2液室556に開口するポート610が形成されており、そのポート610を介して、連通路458が第2液室556に接続されている。このような構造によって、本液圧調整装置501においても、先の液圧制動システム100の液圧調整装置120と同様に、コイル506への電力を制御することで、調整圧を制御することが可能となっている。
【0122】
≪液圧調整装置の作動≫
上述した構造によって、液圧調整装置501は、コイル506に電流が供給されていないときには、第5液室576から第4液室572への作動液の流れを遮断するとともに、第4液室572から第1液室548等への作動液の流れを許容する。つまり、コイル506に電流が供給されていないときには、第4液室572はリザーバ122と連通しており、第4液室572内の作動液の圧力である調整圧は大気圧となっている。また、コイル506に電流を供給することによって、第4液室572から第1液室548等への作動液の流れを遮断するとともに、第5液室576から第4液室572への作動液の流れを許容することで、調整圧を増加させることができる。さらに、調整圧を増加した後にコイル506への電力の供給量を減らすことによって、第5液室576から第4液室572への作動液の流れを遮断するとともに、第4液室572から第1液室548等への作動液の流れを許容することで、増加した調整圧を減少させることができる。
【0123】
詳しく説明すれば、コイル506に電流が供給されていないときには、コイルスプリング574の弾性力によって、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口に着座しており、第5液室576と第4液室572との間の作動液の流れが遮断されている。さらに、コイルスプリング586の弾性力によってプランジャ504の先端は第2移動部材578の内部連通路584の下方への開口から離隔しており、第4液室572と第1液室548等との間の作動液の流れが許容されている。このため、調整圧は大気圧となっている。
【0124】
コイル506に電流が供給されると、プランジャ504の先端が内部連通路584の開口に接近する方向にプランジャ504を移動させようとする電磁力が生じる。この電磁力によって、まず、プランジャ504がコイルスプリング586の弾性力に抗して上方に移動して、プランジャ504の先端が内部連通路584の開口へ着座する。この状態において、第4液室572と第1液室548等との間の作動液の流れは遮断されており、第5液室576と第4液室572との間の作動液の流れも遮断されている。そして、プランジャ504の先端が開口へ着座した状態、つまり、プランジャ504が第2移動部材578に当接した状態で、プランジャ504が上方へ移動すると、第2移動部材578も上方に移動する。その第2移動部材578の上方への移動に伴って、ゴム製のリアクションディスク560の第2移動部材578に接触している部分が上方へ変形して、その変形に連動して、リアクションディスク560の第1移動部材566に接触している部分が下方へ変形する。そして、第1移動部材566の下方への移動に伴って、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口から離隔することで、第5液室576と第4液室572との間の作動液の流れが許容されるのである。このように、コイル506への電力を制御することで、調整圧を制御可能に増加させることが可能となっている。
【0125】
また、調整圧が増加させられた後に、コイル506への電力の供給量を減らせば、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口に着座する状態で、プランジャ504の先端が内部連通路584の開口に着座する。したがって、調整圧は、その状態における圧力に維持されることになる。そして、その状態からコイル506への電力の供給量をさらに減らせば、プランジャ504の先端が内部連通路584の開口から離隔して、第1液室548等と第4液室572との間の作動液の流れが許容される。つまり、コイル506への電力を制御することで、調整圧を制御可能に減少させることが可能となっている。
【0126】
液圧調整装置501への電力の供給がされていない場合には、マスタシリンダ装置110の作動によって加圧された作動液が、パイロット圧流路である連通路458を介して、第2液室556に流入する。そのため、第2液室556内の作動液の圧力による区画部材514を下方に押す力が、調整圧による区画部材514を上方に押す力より大きくなったときに、区画部材514が下方に移動する。区画部材514の下方への移動に伴って、第1移動部材566と第2移動部材578とリアクションディスク560とが下方に移動し、まず、第2移動部材578の内部連通路584の下方の開口に、プランジャ504の先端が着座する。この状態において、第1液室548等と第4液室572との間の作動液の流れが遮断される。そして、区画部材514がさらに下方に移動すると、第1移動部材566とリアクションディスク560とは下方に移動させられるが、第2移動部材578は、プランジャ504と当接しているために下方に移動できず、リアクションディスク560の第2移動部材578が接触している部分を変形させる。そのリアクションディスク560の変形に伴って、第1移動部材566がさらに下方に移動させられ、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口から離隔することで、第5液室576と第4液室572との間の作動液の流れが許容される。このように、液圧調整装置501は、自身への電力の供給がされていない場合であっても、パイロット圧として自身に導入された作動液の圧力に応じて、第4液室572の作動液を調圧するパイロット圧依存調圧機能を有しているのである。
【0127】
このように作動する液圧調整装置501が、プランジャ504の先端が第2移動部材578の内部連通路584の下方の開口に着座しつつ、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口に着座している状態になると、調整圧はその状態における大きさで維持されることになる。また、この状態において、区画部材514は停止されていることになる。この状態における区画部材514に作用する力について詳しく説明すると、パイロット圧により区画部材514を下方に押す力と、調整圧により区画部材514を上方に押す力とは、平衡した状態において維持されることとなる。つまり、パイロット圧PPの区画部材514に作用する受圧面積をA5とすれば、区画部材514を下方に押す力は、A5×PPとなる。一方、調整圧PCの区画部材514に作用する受圧面積をA6とすれば、区画部材514を上方に押す力は、A6×PCとなる。なお、受圧面積A5、A6は、それぞれ、区画部材514の小径部552の断面積、大径部550の断面積となる。圧縮コイルスプリング554、574の発生する力がこれらの力に比べて無視できるほど小さいと考えれば、A5×PP=A6×PCとなった状態で、調整圧PCは維持されることになる。したがって、調整圧PCは、A5/A6×PPにより算出されることになる。つまり、パイロット圧PPの区画部材514に作用する受圧面積A5と調整圧PCの押圧部材386に作用する受圧面積A6との面積比は、調整圧PCのパイロット圧PPに対する設定比とされており、調整圧PCは、パイロット圧PPに対してその設定比となる圧力に調整されるのである。なお、この設定比は、第1実施例のの液圧制動システム100における調圧弁装置374の設定比と同じとされている。
【0128】
≪液圧制動システム診断≫
前述のように作動する液圧制動システム500において、ブレーキECU48は、第1実施例の液圧制動システム100と同様に、液圧制動システム500の作動を制御する。また、本実施例の液圧制動システム診断も、第1実施例の液圧制動システム100と同様に行われる。しかしながら、本液圧制動システム500の液圧調整装置501は、自身への電力の供給がされないと、リザーバ122への逆流を許容する構造とされている。つまり、第1実施例の液圧制動システム100の液圧調整装置120では、増圧リニア弁370と減圧リニア弁372とを閉弁することで、第2調圧流路に作動液を封じ込めることができる構造とされていたが、本液圧調整装置501は、そのような構造とされていない。そのため、第2調圧流路遮断異常診断処理の実行中、調整圧PCが第1遮断診断目標圧PT3となるように、液圧調整装置501への電力の供給は続けられている。つまり、液圧調整装置501は、調整圧PCが第1遮断診断目標圧PT3に維持されるように作動し続けることとなる。
【0129】
このように作動する液圧調整装置501では、第2調圧流路の遮断の異常による漏れが小さい場合には、減圧用開閉弁172が開弁されたとき、調整圧PCは、第1遮断診断目標圧PT3から一旦低下してもすぐに第1遮断診断目標圧PT3に復帰してしまう。本液圧制動システム500の第2調圧流路遮断異常診断処理は、そのような漏れが小さい場合であっても、減圧用開閉弁172を開弁した後の調整圧の僅かな低下によって遮断異常を診断する。そのため、本液圧制動システム500の第2調圧流路遮断異常診断処理では、第1遮断診断目標圧PT3以下に設定される基準圧である第2調圧流路遮断異常診断圧PC3が、そのことも考慮したマージンを設けて設定されている。
【実施例3】
【0130】
本実施例の液圧制動システム700のハード構成は、液圧調整装置を除いて、先の液圧制動システム100とほぼ同様の構成とされているため、ハード構成に関して液圧調整装置701とそれに接続される液通路等を図14に示し、システム全体の図面とそれの説明を省略することとする。
【0131】
≪液圧調整装置の構成≫
液圧調整装置702は、自身に導入される作動液の圧力に応じて作動液を調整圧に調圧する調圧弁装置704と、高圧源装置118に繋がれる増圧用リニア弁704と、リザーバ122に繋がれる減圧用リニア弁706とを有している。調圧弁装置704は、それら増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706に繋がれており、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706の作動によって、調整圧とされた作動液を、マスタシリンダ装置110の供給液室R3、および、ブレーキ装置116に供給することができる。
【0132】
調圧弁装置704は、図2に示すように、中空形状のハウジング710と、そのハウジング710内にそれの軸線方向に移動可能に設けられたプランジャ712と、そのプランジャ712の下方において軸線方向に移動可能に設けられた円柱状の棒状ピストン714と、プランジャ712の上方において軸線方向に移動可能に設けられた移動部材716とを備えている。ハウジング710は、概して円筒状の外殻部材718と、その外殻部材718の下端部が固定的に嵌合される有底円筒部材720と、外殻部材718の上端を塞ぐ蓋部材722とを有しており、内部に作動液が充填されている。
【0133】
外殻部材718の内周面は、5つの異なる内径の内径部によって構成されており、上方へ向かうほど内径は大きくなっている。つまり、下端部から順番に、内径の最も小さい第1内径部724,その第1内径部724の内径より大きい内径の第2内径部726,その第2内径部726の内径より大きい内径の第3内径部728,その第3内径部728の内径より大きい内径の第4内径部730,内径の最も大きい第5内径部732が位置しており、外殻部材718の内周面は段付形状とされている。
【0134】
棒状ピストン714の外周面も段付形状とされており、上端部に位置し外径の大きい大径部734と、下端部に位置し外径の小さい小径部736とに区分けされている。その棒状ピストン714の小径部736は外殻部材718の第1内径部724に摺動可能に嵌合されており、大径部734は第2内径部726に摺動可能に嵌合されている。大径部734と小径部736との間の段差面と、第1内径部724と第2内径部726との間の段差面とは当接しており、棒状ピストン714の下方への移動範囲が制限されている。なお、外殻部材718に棒状ピストン714が嵌合された状態で、外殻部材718と棒状ピストン714と有底円筒部材720とによって第1液室738が区画されている。
【0135】
プランジャ712は、円柱状の本体部740と、その本体部740の上方に位置しその本体部740の外径より小さな外径の中間部742と、中間部742の上方に位置しその中間部742の外径より小さな外径のロッド部744とによって構成されている。プランジャ712の本体部740は、外殻部材718の第2内径部726に摺動可能に嵌合されており、本体部740の下端面が棒状ピストン714の上端面に形成された凸部746と当接している。凸部746と本体部740の下端面とが当接した状態でも、本体部740の下端面と棒状ピストン714の上端面との間にはクリアランスが存在し、そのクリアランスが第2液室748として機能している。
【0136】
移動部材716の外周面も段付形状とされており、最も外径の大きいフランジ部750と、フランジ部750の上方に位置しフランジ部750の外径より小さな外径の上方第1外径部752と、その上方第1外径部752の上方に位置し上方第1外径部752の外径より小さな外径の上方第2外径部754と、フランジ部750の下方に位置しフランジ部750の外径より小さな外径の下方第1外径部756と、その下方第1外径部756の下方に位置し下方第1外径部756の外径より小さな外径の下方第2外径部758とによって構成されている。下方第2外径部758は、外殻部材718の第3内径部728に摺動可能に嵌合されており、第2室間部としての第3内径部728の上方への開口に移動部材716の外周面が着座可能とされている。詳しく言えば、第3内径部728と第4内径部730との間の段差面760がテーパ状とされており、下方第1外径部756と下方第2外径部758との間の段差面が、弁体として機能し、テーパ状とされた上記段差面760に着座可能とされている。
【0137】
ハウジング710の上端に固定的に嵌合された蓋部材722の下面には、凹部770が形成されており、凹部770の下方への開口に移動部材716の上方第2外径部754が摺動可能に嵌合されている。蓋部材722の下面と移動部材716のフランジ部750との間にはコイルスプリング772が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング772の弾性力によって移動部材716が下方に付勢されている。つまり、コイルスプリング772の弾性力によって、移動部材716の外周面の弁体として機能する部分が外殻部材718の内周面に形成された段差面760に接近する方向に、移動部材716が付勢されている。ちなみに、移動部材716の外周面が段差面760に着座した状態において、外殻部材718の第4内径部730と移動部材716とによって第3液室774が区画されている。また、移動部材716の下方第2外径部758の外周面は僅かに凹んでおり、着座状態において、下方第2外径部758の外周面の凹んだ部分と外殻部材718の第3内径部728とによって第4液室776が区画されている。
【0138】
移動部材716の内部には、それの軸線方向に貫通する貫通穴780が形成されており、その貫通穴780は、移動部材716の上端面および下端面に開口している。移動部材716の内部には、さらに、下方第1外径部756の外周面と貫通穴780とに開口する接続穴782が径方向に延びるように形成されている。貫通穴780には、それの上端の開口から、概して円柱状のピン262が摺動可能に挿入されており、そのピン784の上端面は蓋部材722の凹部770の内面において支持されている。蓋部材722の凹部770の内部には、ピン784を貫通させた状態で環状のゴム部材786が設けられており、そのゴム部材786の下面に移動部材716の上端面が密着している。ゴム部材786はシールとして機能しており、そのゴム部材786によって移動部材716と蓋部材722との間の液漏れが禁止されている。
【0139】
貫通穴780には、それの下端の開口から、プランジャ712のロッド部744および中間部742が挿入されており、貫通穴780の下端の開口に、プランジャ712の外周面が着座可能とされている。詳しく言えば、貫通穴780の下端の開口がテーパ状とされており、プランジャ712の中間部742と本体部740との間の段差面が、弁体として機能し、テーパ状とされた開口に着座可能とされている。また、プランジャ712のロッド部744と中間部742との間の段差面と、貫通穴780の内部に形成された段差面との間にはコイルスプリング790が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング790の弾性力によってプランジャ712が下方に付勢されている。つまり、コイルスプリング790の弾性力によって、プランジャ712の外周面の弁体として機能する部分が貫通穴780の下端の開口から離隔する方向に、プランジャ712が付勢されている。ちなみに、プランジャ712がコイルスプリング790の弾性力に抗して貫通穴780の下端の開口に着座した状態において、外殻部材718の第3内径部728とプランジャ712の本体部740と移動部材716の下端面とによって第5液室792が区画されている。
【0140】
外殻部材718の第3内径部728には、第4液室776と外殻部材718の外周面とに開口する第1連通路794が径方向に延びるように形成されており、その第1連通路794の外周面への開口には、高圧源装置118に連通する液通路が接続されている。つまり、第4液室776は、その液通路を介して、高圧源装置118によって高圧とされた作動液が流入するものとされている。また、外殻部材718の第3内径部728には、第5液室792と外殻部材718の外周面とに開口する第2連通路796が径方向に延びるように形成されており、その第2連通路796の外周面への開口には、リザーバ122に連通する連通路が接続されている。つまり、第5液室792は、その連通路を介して、リザーバ122に作動液を流出させるものとされている。ちなみに、第3内径部728に移動部材716の下方第2外径部758が嵌合されることで、第5液室792と第4液室776との間の作動液の流通は遮断されている。なお、第2連通路796には、外殻部材718の第1内径部724に開口するドレイン路798が繋がっている。
【0141】
外殻部材718の第2内径部726には、第2液室748と外殻部材718の外周面とに開口する第3連通路800が径方向に延びるように形成されており、その第3連通路800の外周面への開口には、常閉弁とされた電磁式の増圧用リニア弁704に接続される液通路が繋げられている。また、その液通路は分岐しており、その分岐した液通路は、常開弁とされた電磁式の減圧用リニア弁706に接続されている。
【0142】
外殻部材718の第4内径部730には、第3液室774と外殻部材718の外周面とに開口する第4連通路802が径方向に延びるように形成されており、その第4連通路802の外周面への開口に、第1調圧流路である連通路456が接続されている。また、有底円筒部材720には、第1液室738に開口するポート804が形成されており、そのポート804を介して、パイロット圧流路である連通路458が接続されている。
【0143】
≪液圧調整装置の作動≫
上述した構造によって、調圧弁装置704は、第2液室748に供給される作動液の圧力(以下、「制御用液圧」という場合がある)に応じて各液室間の作動液の流通状態を切り換えることで、第3液室774内の作動液の圧力を調整し、連通路456に調整圧とされた作動液を供給することが可能とされている。制御用液圧は、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706への電力が制御されることで増減されるようになっている。詳しく言えば、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706への電力の供給がされていない状態において、増圧用リニア弁704は閉弁されるとともに減圧用リニア弁706は開弁されており、制御用液圧は大気圧となる。そして、減圧用リニア弁706に設定された範囲における最大電流が供給され、増圧用リニア弁704への電力を制御することで、減圧用リニア弁706が閉弁された状態で増圧用リニア弁704の開弁量が制御される。この際、制御用液圧は、増圧用リニア弁704への電力に応じて増加される。制御用液圧が増加させられた後に、増圧用リニア弁704への電力の供給をせず、減圧用リニア弁706への電力を制御すれば、増圧用リニア弁704が閉弁された状態で減圧用リニア弁706の開弁量が制御される。この際、制御用液圧は、減圧用リニア弁706への電力に応じて減少させられるのである。
【0144】
上述したように、制御用液圧が増加されると、プランジャ712が上方へ付勢される。つまり、制御用液圧の増加によって、プランジャ712には、プランジャ712を貫通穴780の下端の開口(以下、「第5液室側開口」という場合がある)に接近させる方向の力が作用するのである。この力によって、まず、プランジャ712がコイルスプリング790の弾性力に抗して上方に移動し、プランジャ712の外周面が第5液室側開口に着座する。この状態において、第3液室774と第5液室792との間の作動液の流れは遮断されており、第4液室776と第3液室774との間の作動液の流れも遮断されている。そして、プランジャ712の外周面が第5液室側開口へ着座した状態でプランジャ712が上方へ移動すると、移動部材716も上方に移動する。移動部材716が上方へ移動すると、移動部材716の外周面が外殻部材718に形成された段差面760から離隔し、第4液室776から第3液室774への作動液の流れが許容され、調整圧が増加される。このように、制御用液圧を制御することで調整圧を制御可能に増加させることが可能となっている。つまり、増圧用リニア弁704への電力に応じて調整圧を増加させることが可能となっている。
【0145】
また、調整圧が増加させられた後に、増圧用リニア弁704が閉弁されるとともに減圧用リニア弁706の開弁量が制御されると、制御用液圧が減少され、プランジャ712が第5液室側開口に着座する状態で、移動部材716の外周面が段差面760に着座する。したがって、調整圧は、その状態における圧力に維持されることになる。そして、さらに制御用液圧を減少させると、プランジャ712が第5液室側開口から離隔して、第3液室774から第5液室792への作動液の流れが許容され、調整圧が減少される。つまり、減圧用リニア弁706への電力に応じて調整圧を減少させることが可能となっている。
【0146】
また、本液圧調整装置702では、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706への電力の供給がされていない場合には、電力に依拠することなく、マスタシリンダ装置110の作動によって加圧された作動液に依拠して調整圧を増減させるようになっている。詳しく言えば、液圧制動システム700への電力供給がされていない場合には、マスタシリンダ装置110の作動によって加圧された作動液が、パイロット圧流路である連通路458を介して第1液室738に供給される。このため、第1液室738内の作動液の圧力、つまり、パイロット圧の増加に伴って、棒状ピストン714が上方に移動し、その棒状ピストン714によってプランジャ712も上方へ移動する。したがって、前述のように、プランジャ712の上方への移動に伴って、第4液室776から第3液室774への作動液の流れが許容され、調整圧が増加される。また、パイロット圧が減少すれば、それに伴って、棒状ピストン714が下方に移動し、プランジャ712も下方へ移動する。したがって、前述のように、第3液室774から第5液室792への作動液の流れが許容され、調整圧が減少される。このように、本調圧弁装置704は、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706への電力の供給がされていない場合であっても、パイロット圧として自身に導入された作動液の圧力に応じて、第3液室774の作動液を調圧するパイロット圧依存調圧機能を有しているのである。
【0147】
このように作動する液圧調整装置501が、プランジャ712の外周面が第5液室側開口に着座しつつ、移動部材716の外周面が外殻部材718に形成された段差面760に着座している状態になると、調整圧はその状態における大きさで維持されることになる。また、この状態において、移動部材716は停止されていることになる。この状態における移動部材716に作用する力について詳しく説明すると、パイロット圧により移動部材716を上方に押す力と、調整圧により移動部材716を下方に押す力とは、平衡した状態において維持されることとなる。移動部材716を上方に押す力は、棒状ピストン714がプランジャ712を介して移動部材716に伝達する力である。つまり、パイロット圧PPの棒状ピストン714に作用する受圧面積をA7とすれば、棒状ピストン714を上方に押す力は、A7×PPとなる。一方、調整圧PCの移動部材716に作用する受圧面積をA8とすれば、移動部材716を下方に押す力は、A8×PCとなる。なお、受圧面積A7は、棒状ピストン714の小径部736の断面積であり、受圧面積A8は、第3液室774と第5液室792との差圧を受ける箇所の面積である。圧縮コイルスプリング772、790の発生する力がこれらの力に比べて無視できるほど小さいと考えれば、A7×PP=A8×PCとなった状態で、調整圧PCは維持されることになる。したがって、調整圧PCは、A7/A8×PPにより算出されることになる。つまり、パイロット圧PPの棒状ピストン714に作用する受圧面積A7と調整圧PCの移動部材716に作用する受圧面積A8との面積比は、調整圧PCのパイロット圧PPに対する設定比とされており、調整圧PCは、パイロット圧PPに対してその設定比となる圧力に調整されるのである。なお、この設定比は、第1実施例の液圧制動システム100における調圧弁装置374の設定比と同じとされている。
【0148】
≪液圧制動システム診断≫
前述のように作動する液圧制動システム700において、ブレーキECU48は、第2実施例の液圧制動システム500と同様に、液圧制動システム700の作動を制御する。また、本液圧制動システム700は、第2実施例の液圧制動システム診断と同一の液圧制動システム診断を実行することができる。
【符号の説明】
【0149】
48:ブレーキECU(制御装置) 100:液圧制動システム 110:マスタシリンダ装置 116:ブレーキ装置 118:高圧源装置 120:液圧調整装置 122:リザーバ(低圧源) 140:ブレーキペダル(操作部材) 170:増圧用開閉弁(第2調圧流路遮断器) 172:減圧用開閉弁(低圧源流路遮断器) 442:液通路(マスタ圧流路) 444:液通路(マスタ圧流路) 446:マスタ用開閉弁(マスタ圧流路遮断器) 448:マスタ用開閉弁(マスタ圧流路遮断器) 456:連通路(第1調圧流路) 458:連通路(パイロット圧流路) 460:連通路(第2調圧流路) 462:減圧連通路(低圧源流路) 480:作動モード切換処理部(作動制御部) 482:異常診断部 500:液圧制動システム 501:液圧調整装置 700:液圧制動システム 702:液圧調整装置 PT2:パイロット圧依存調圧機能診断目標圧(第1設定圧) PT3:第1遮断診断目標圧(第2設定圧) PT4:第2遮断診断目標圧(第3設定圧)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備される液圧制動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装備される液圧制動システムの中には、運転者によりブレーキ操作部材に加えられる操作力に依存せずに、液圧ポンプ等によって構成される高圧源装置によって高圧とされた作動液の圧力に依存して制動力を発生させるシステムが存在する。そのようなシステムの中には、下記特許文献に記載されているように、高圧とされた作動液の圧力を調圧する液圧調整装置を備えているものがある。そのような液圧調整装置を備えた液圧制動システムは、ブレーキ操作に基づいて適切な制動力を発生させるために、液圧調整装置に供給する電力をブレーキ操作に基づいて制御することによって、作動液の圧力を調整する。また、そのような液圧調整装置の中には、自身への電力の供給が断たれてしまった場合でも、操作力に基づいて発生する作動液の圧力をパイロット圧として利用して自身を作動させ、そのパイロット圧に依存して作動液の圧力を調圧することが可能な機能、所謂パイロット圧依存調圧機能を有しているものも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−132996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置を採用した液圧制動システムでは、その機能の異常を検出することが望ましい。さらに言えば、その機能は、液圧調整装置への電力の供給が断たれたときに発揮される機能であるため、当該機能が発揮されるべき状況となって始めて異常を検出するのではなく、その状況が発揮されない状況下において上記異常を検出することがより望ましいのである。本発明は、このような実情に鑑み、パイロット圧依存調圧機能の異常を検出する機能を備えた液圧制動システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の液圧制動システムは、車輪に設けられたブレーキ装置の作動液の液圧をパイロット圧としてその圧力に応じた圧力に作動液を調圧する上記パイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置を備えた液圧制動システムを対象とし、当該システムが備える制御装置の異常診断部が、上記ブレーキ装置に設定圧の作動液を封じ込めた状態において上記液圧調整装置への電力の供給を停止した際にその液圧調整装置によって調圧される作動液の液圧(調製圧)に基づいて、上記パイロット圧依存調圧機能を診断するように構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液圧制動システムによれば、液圧調整装置への電力が断たれる状況下でなくとも上記パイロット圧依存調圧機能の異常が検出可能であるため、当該パイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置を備えた液圧制動システムの実用性を向上させることが可能となる。なお、上記異常診断部を、任意の時期において上記パイロット圧依存調圧機能の異常を検出可能に構成すれば、より実用性に富んだ液圧制動システムが構築されることになる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項から(10)項はそれぞれ請求項1から請求項10に相当する。
【0009】
(1)作動液の圧力によって制動力を発生させる液圧制動システムであって、
運転者によって操作される操作部材と、
その操作部材に加えられた操作力と、自身に供給される作動液の圧力とによって作動液を加圧するマスタシリンダ装置と、
車輪に設けられて自身に供給された圧力に応じた制動力を発生させるブレーキ装置と、 高圧の作動液を発生させる高圧源装置と、
その高圧源装置からの圧力を、自身に供給された電力に応じて調圧するとともに、自身に電力が供給されていない状態においても、パイロット圧として自身に導入された作動液の圧力に応じて調圧するパイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置と、
その液圧調整装置から前記マスタシリンダ装置に調圧された作動液を供給するための第1調圧流路と、
その第1調圧流路と連通し、前記液圧調整装置から前記ブレーキ装置に調圧された作動液を供給するための第2調圧流路と、
前記マスタシリンダ装置によって加圧された作動液をそのマスタシリンダ装置から前記ブレーキ装置に供給するためのマスタ圧流路と、
前記第2調圧流路に設けられ、当該第2調圧流路を遮断するための第2調圧流路遮断器と、
前記マスタ圧流路に設けられ、当該マスタ圧流路を遮断するためのマスタ圧流路遮断器と、
前記ブレーキ装置に供給されている作動液の圧力を、前記液圧調整装置に前記パイロット圧として導入するためのパイロット圧流路と、
前記液圧調整装置に供給される電力と、前記第2調圧流路遮断器および前記マスタ圧流路遮断器の作動とを制御する制御装置と
を備え、
その制御装置が、
(a)前記マスタ圧流路遮断器により前記マスタ圧流路を遮断しつつ、前記液圧調整装置に供給される電力を制御することで、前記ブレーキ装置がその電力に応じて調圧された作動液の圧力に依存した制動力を発生させる状態である調圧依存制動力発生状態を実現し、(b)前記第2調圧流路遮断器により前記第2調圧流路を遮断することで、前記液圧調整装置への電力の供給が断たれた場合においても、前記マスタシリンダ装置からの作動液の圧力によって、前記ブレーキ装置が前記操作力と前記パイロット圧に応じて調圧された作動液の圧力との両方に依存した制動力を発生させる状態である操作力・調圧依存制動力発生状態を実現する作動制御部と、
当該液圧制動システムの異常についての診断を実行する異常診断部と
を有し、
その異常診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器および前記第2調圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路および前記第2調圧流路がそれぞれ遮断されて前記ブレーキ装置に第1設定圧の作動液が封じ込められた状態において、前記液圧調整装置への電力の供給を停止した際の、前記液圧調整装置によって調圧される作動液の圧力に基づいて、前記液圧調整装置の前記パイロット圧依存調圧機能についての異常を診断するパイロット圧依存調圧機能診断部を有する液圧制動システム。
【0010】
本項に記載の液圧制動システムが備える制御装置は、異常診断部を備え、その異常診断部は、液圧調整装置が有する上記パイロット圧依存調圧機能を診断する上記パイロット圧依存調圧機能診断部を有している。当該診断部による診断は、上記マスタ圧流路遮断器および第2調圧流路遮断器によってブレーキ装置に作動液が封じ込められた状態において、液圧調整装置への電力の供給を積極的に禁止して行われる。つまり、液圧調整装置への電力が供給不能となっている状況下でなくても、敢えて上記機能を発揮させることにより、その機能の診断を行うことができるのである。したがって、本項のシステムは、上記機能を発揮させることが必要となった状況下でなくても上記パイロット圧依存調圧機能の異常を検出可能であるため、実用性の高いシステムとなる。
【0011】
具体的に説明すれば、上記パイロット圧依存調圧機能診断部による診断では、ブレーキ装置に設定圧の作動液が封じ込められた状態で、液圧調整装置への電力の供給を停止し、その際に液圧調整装置によって調圧された圧力に基づいて、上記機能についての診断が行われる。このような診断によれば、電力の供給を停止した際、上記第2調圧流路が遮断されているため、調圧された作動液は液圧調整装置から、ブレーキ装置に供給されることはなく、当該機能に異常がない場合には、液圧調整装置によって調圧された圧力(以下、「調整圧」という場合がある)は、専ら上記設定圧に応じた高さの圧力(以下、「正常時基準圧」という場合がある)となる。それに対し、当該機能に異常がある場合には、調整圧は正常時基準圧とはならない。上記パイロット圧依存調圧機能診断部は、そのような現象を利用して、パイロット圧依存調圧機能の異常についての診断を行うのである。
【0012】
上述のようにして、パイロット圧依存調圧機能についての診断が行われるため、その診断は、運転者のブレーキ操作部材の操作に依存せずに行うことが可能とされている。そのことは、当該診断の実施時期の自由度を高めることに寄与している。端的に言えば、諸条件さえ充足すれば、車両の始動時,停車中若しくは走行時等、任意の時期に、液圧調整装置の作動状態を上記パイロット圧依存調圧機能に依拠した作動状態とすることが可能であるため、任意の時期に当該機能についての診断を行うことができるのである。例えば、車両始動時,停車中等においては、後に説明するように、パイロット圧依存調圧機能診断部が、自ら積極的に、ブレーキ装置に設定圧の作動液を封じ込めた状態を実現させて診断を行うことができる。また、例えば、走行中であれば、制動の最中に、極短時間だけ上記第2調圧流路を遮断してブレーキ装置に作動液を封じ込め、その封じ込められた作動液を圧力を設定圧と擬制して、極短時間だけ液圧調整装置への電力の供給を停止することで、上記機能の診断を行うことができる。このような手法によれば、必要とされる制動力を実質的に損なうことなく、診断を実行できることになる。
【0013】
(2)前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路を遮断した状態で前記液圧調整装置に電力を供給することで前記第2調圧流路を介して前記第1設定圧の作動液を前記ブレーキ装置に供給し、その後に、前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断して、前記ブレーキ装置に前記第1設定圧の作動液を封じ込めるように構成された(1)項に記載の液圧制動システム。
【0014】
本項の態様は、先に説明したブレーキ装置への作動液の封じ込めの手法に関する限定を加えた態様である。詳しく言えば、パイロット圧依存調圧機能診断部が、診断の際、自ら積極的に、ブレーキ装置に設定圧の作動液を封じ込めた状態を実現させる態様であり、車両始動時,車両の停止中等において上記機能の診断を実行する場合に、特に有効である。ちなみに、本項の態様によれば、運転者によって操作部材が操作されている場合でも、ブレーキ装置に設定圧の作動液を封じ込めることができるため、マスタシリンダ装置から供給される作動液の影響を受けずに、上記診断を実行することが可能である。
【0015】
(3)前記液圧調整装置が有する前記パイロット圧依存調圧機能が、前記高圧源装置からの作動液の圧力を、前記パイロット圧に対して設定比となる圧力に調圧する機能であり、
前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記液圧調整装置への電力の供給を禁止した際に前記液圧調整装置によって調圧される作動液の圧力が、前記第1設定圧に対する前記設定比となる圧力以下に設定された圧力に至らない場合に、前記パイロット圧依存調圧機能が異常であると診断するように構成された(1)項または(2)項に記載の液圧制動システム。
【0016】
本項の態様は、パイロット圧依存調圧機能診断部による異常の判断基準に対して限定を加えた態様である。本項に記載の液圧調整装置によれば、先に説明したように、パイロット圧依存調圧機能が正常である場合、調整力は、第1設定圧とされたパイロット圧に対して設定比となる圧力、つまり、正常時基準圧となる。それに対し、異常である場合には、調整圧はその正常時基準圧とはならない。本項のパイロット圧依存調圧機能診断部は、異常であるか否かを、正常時基準圧を基準に、若しくは、その基準圧にある程度のマージンを設けて設定された圧力を基準に判断する。
【0017】
(4)前記異常診断部が、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常について診断する第2調圧流路遮断異常診断部を有する(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の液圧制動システム。
【0018】
本項に記載の態様によれば、上述のパイロット圧依存調圧機能についての診断に加えて、第2調圧流路の遮断異常、具体的には、第2調圧流路遮断器の異常についての診断をも実行可能であるため、さらに実用性の高い液圧制動システムを構築することが可能である。また、後に説明するように、第2調圧流路が遮断異常である場合には、上述のパイロット圧依存調圧機能についての診断において、当該機能に異常があると判断されることがあるため、第2調圧流路の遮断異常についての診断結果を基にパイロット圧依存調圧機能についての診断を行うことで、当該機能についての診断の信頼性を向上させることも可能である。
【0019】
(5)前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路を遮断した状態において、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された(4)項に記載の液圧制動システム。
【0020】
本項の態様は、第2調圧流路の遮断異常についての具体的診断手法に関する限定を加えた態様である。本項の態様によれば、マスタ圧流路が遮断されているため、マスタシリンダ装置から供給される加圧された作動液の影響を受けない診断が可能となる。裏を返せば、運転者の操作部材の操作に頼らずに、第2調圧流路遮断器の不具合を検出することが可能である。
【0021】
(6)当該液圧制動システムが、前記ブレーキ装置の作動液を低圧源に導くための低圧源流路と、前記ブレーキ装置に作動液が供給される際に前記低圧源流路を遮断する低圧源流路遮断器とを備え、
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断した状態で前記液圧調整装置に電力を供給することで前記第2調圧流路に第2設定圧の作動液を供給し、その後に、前記低圧源流路遮断器による前記低圧源流路の遮断を解除し、その際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力に基づいて、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された(5)項に記載の液圧制動システム。
【0022】
本項の態様は、第2調圧流路の遮断異常についての診断手法にさらなる限定を加えた態様である。第2調圧流路が遮断された状態で、液圧調整装置によって作動液を第2設定圧とした場合、第2調圧流路遮断器が正常である場合、ブレーキ装置には、第2設定圧の作動液は供給されない。それに対し、第2調圧流路遮断器に液漏れ等が発生している場合は、ブレーキ装置に第2設定圧の作動液が供給されることになる。第2調圧流路遮断器によって第2調圧流路が遮断された状態で調整圧を第2設定圧とし、その後に、上記低圧源流路を開通させた場合、第2調圧流路遮断器が正常であるときには、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力は変化しない。それに対し、第2調圧流路遮断器に上記のような不具合があるときには、当該遮断器と液圧調整装置との間にある作動液は、その遮断器を通って、低圧源にまで流出されることになり、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力が低下することになる。本項の態様による第2調圧流路の遮断異常についての診断は、そのような現象を利用して行われるのである。なお、第2調圧流路の遮断異常についての診断は、車両始動時、停車中に行うことが望ましい。
【0023】
(7)前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記低圧源流路遮断器による前記低圧源流路の遮断を解除した際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力が、前記第2設定圧以下に設定された圧力を下回った場合に、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常であると診断するように構成された(6)項に記載の液圧制動システム。
【0024】
本項の態様は、第2調圧流路遮断異常診断部による遮断異常の判断基準に関する限定を加えた態様である。先に説明したように、第2調圧流路遮断器に液漏れ等の不具合が発生している場合、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力は第2設定圧から低下するように変化する。本項の態様では、その第2設定圧若しくはその設定圧に対してある程度のマージンを設けた圧力を基準圧として、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力がその基準圧を下回った場合に、遮断異常と判断されることになる。遮断異常である場合の液圧低下の様子は、漏れの程度、つまり、不具合の程度や、第2設定圧と低圧源の圧力との差等によって異なるので、その程度を考慮して、上記マージンを適切に設定すればよい。
【0025】
なお、液圧調整装置が、作動液が低圧源に逆流しない構造とされている場合には、第2設定圧とされた作動液が液圧調整装置から低圧源に流出しないため、正確な診断が行える。それに対し、液圧調整装置が、上記逆流を許容する構造とされている場合には、第2設定圧を維持するように液圧調整装置に電力を供給し続ければよく、その場合には、低圧源流路の遮断を解除した後極短時間しか経過していない時点における調整圧の低下をもって、遮断異常であるか否かを判断すればよい。
【0026】
(8)前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記液圧調整装置に電力を供給することで第2調圧流路を介して第2設定圧の作動液を前記ブレーキ装置に供給し、その後に、前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断するとともに作動液の圧力を前記第2設定圧より高い第3設定圧に増圧すべく前記液圧調整装置に供給する電力を増加させ、その際の前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力に基づいて、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された(5)項に記載の液圧制動システム。
【0027】
本項の態様は、第2調圧流路の遮断異常についての診断手法に、先に説明した限定とは異なる限定を加えた態様である。第2調圧流路遮断器によって第2設定圧の作動液をブレーキ装置に封じ込めた状態において、液圧調整装置によってより高い第3設定圧の作動液を供給した場合を考える。その場合、第2調圧流路遮断器が正常であるときには、ブレーキ装置には、その高い圧力の作動液は供給されず、液圧調整装置によって供給されている作動液の圧力は、その高い圧力に維持される。それに対し、第2調圧流路遮断器に液漏れ等が発生しているときには、ブレーキ装置に作動液が供給され、液圧調整装置によって供給されている作動液の圧力は低下することになる。本項の態様による第2調圧流路の遮断異常についての診断は、そのような現象を利用して行われるのである。なお、第2調圧流路の遮断異常についての診断は、車両始動時、停車中に行うことが望ましい。
【0028】
(9)前記第2調圧流路遮断異常部が、
前記液圧調整装置に供給する電力を増加させた際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力が、前記第3設定圧以下に設定された圧力に至らない場合に、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常であると診断するように構成された(8)項に記載の液圧制動システム。
【0029】
本項の態様は、第2調圧流路遮断異常診断部による遮断異常の判断基準に関する限定を加えた態様である。先に説明したように、第2調圧流路遮断器に液漏れ等の不具合が発生している場合、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力は第3設定圧から低下するように変化する。本項の態様では、その第3設定圧若しくはその設定圧に対してある程度のマージンを設けた圧力を基準圧として、第2調圧流路に供給されている作動液の圧力がその基準圧を下回った場合に、遮断異常と判断されることになる。遮断異常である場合の液圧低下の様子は、漏れの程度、つまり、不具合の程度や、第3設定圧と第2設定圧との差等によって異なるので、その程度を考慮して、上記マージンを適切に設定すればよい。
【0030】
なお、液圧調整装置が、作動液が低圧源に逆流しない構造とされている場合には、第3設定圧とされた作動液が液圧調整装置から低圧源に流出しないため、正確な診断が行える。それに対し、液圧調整装置が、電力の供給を停止したときに上記逆流を許容する構造とされている場合には、第3設定圧を維持するように液圧調整装置に電力を供給し続ければよく、その場合には、第3設定圧への昇圧を開始した後極短時間しか経過していない時点で、第2調圧流路に供給されている作動液の液圧と基準圧とを比較して、遮断異常であるか否かを判断すればよい。
【0031】
(10)前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記第2調圧流路遮断異常診断部によって、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常でないと診断されたことを条件として、前記パイロット圧依存調圧機能が異常であると診断するように構成された(4)ないし(9)項のいずれか1つに記載の液圧制動システム。
【0032】
前述のように、第2調圧流路遮断器に漏れ等の異常がある場合には、当該遮断器によって第2調圧流路を遮断したとしても、その遮断器を通ってブレーキ装置に作動液が流れ出る。そのため、第2調圧流路遮断器に異常がある状態で上記パイロット圧依存調圧機能についての診断を行った場合、その異常の影響で、パイロット圧が変化し、当該機能について正確な診断が行えなくなる。本項の態様は、そのことを考慮し、第2調圧流路の遮断異常がないことを条件に、パイロット圧依存調圧機能の異常を認定するようにした態様である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施例の液圧制動システムが装備されたハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを表す模式図である。
【図2】第1実施例の液圧制動システムを示す図である。
【図3】第1実施例の液圧制動システムの液圧調整装置と高圧源装置とを示す図である。
【図4】第1実施例の液圧制動システムの高圧源装置、液圧調整装置、第1調圧流路、第2調圧流路、第2調圧流路遮断器、パイロット圧流路を含んで構成されるブレーキアクチュエータの外観を示す図である。
【図5】第1実施例の液圧制動システムが実行する異常診断処理のフローチャートである。
【図6】第1実施例の液圧制動システムにおいて、異常診断の結果から異常の原因を特定するための表である。
【図7】第1実施例の液圧制動システムにおける異常の原因とその原因に応じて液圧制動システムを作動させるモードとの関係を示す表である。
【図8】第1実施例の液圧制動システムにおける作動液の漏れを診断する処理のフローチャートである。
【図9】第1実施例の液圧制動システムのパイロット圧依存調圧機能診断部が実行する処理のフローチャートである。
【図10】第1実施例の液圧制動システムの第2調圧流路遮断異常診断部が実行する処理のフローチャートである。
【図11】変形例の液圧制動システムの第2調圧流路遮断異常診断部が実行する処理のフローチャートである。
【図12】第2実施例の液圧制動システムの液圧調整装置と高圧源装置とを示す図である。
【図13】第3実施例の液圧制動システムの液圧調整装置と高圧源装置とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記の実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0035】
≪車両の構成≫
図1に、第1実施例の液圧制動システムを搭載したハイブリッド車両の駆動システムおよび制動システムを模式的に示す。車両には、動力源として、エンジン10と電気モータ12とが搭載されており、また、エンジン10の出力により発電を行う発電機14も搭載されている。これらエンジン10、電気モータ12、発電機14は、動力分割機構16によって互いに接続されている。この動力分割機構16を制御することで、エンジン10の出力を発電機14を作動させるための出力と、4つの車輪18のうちの駆動輪となるものを回転させるための出力とに振り分けたり、電気モータ12からの出力を駆動輪に伝達させることができる。つまり、動力分割機構16は、減速機20および駆動軸22を介して駆動輪に伝達される駆動力に関する変速機として、機能するのである。なお、「車輪18」等のいくつかの構成要素は、総称として使用するが、4つの車輪のいずれかに対応するものであることを示す場合には、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪にそれぞれ対応して、添え字「FL」,「FR」,「RL」,「RR」を付すこととする。この表記に従えば、本車両における駆動輪は、車輪18RL,および車輪18RRである。
【0036】
電気モータ12は、交流同期電動機であり、交流電力によって駆動される。車両にはインバータ24が備えられており、インバータ24は、電力を、直流から交流、あるいは、交流から直流に変換することができる。したがって、インバータ24を制御することで、発電機14によって出力される交流の電力を、バッテリー26に蓄えるための直流の電力に変換させたり、バッテリ26に蓄えられている直流の電力を、電気モータ12を駆動するための交流の電力に変換させることができる。発電機14は、電気モータ12と同様に、交流同期電動機としての構成を有している。つまり、本実施例の車両では、交流同期電動機が2つ搭載されていると考えることができ、一方が、電気モータ12として、主に駆動力を出力するために使用され、他方が、発電機14として、主にエンジン10の出力により発電するために使用されている。
【0037】
また、電気モータ12は、車両の走行に伴う車輪18RL、18RRの回転を利用して、発電(回生発電)を行うことも可能である。このとき、車輪18RL、18RRに連結される電気モータ12では、電力が発生するとともに、電気モータ12の回転を制止するための抵抗力が発生する。したがって、その抵抗力を、車両を制動する制動力として利用することができる。つまり、電気モータ12は、電力を発生させつつ車両を制動するための回生ブレーキの手段として利用される。したがって、本車両は、回生ブレーキがエンジンブレーキや後述する液圧ブレーキとともに制御されることで、制動されるのである。
【0038】
本車両において、上記のブレーキの制御や、その他の車両に関する各種の制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって行われる。複数のECUのうち、メインECU40は、それらの制御を統括する機能を有している。例えば、ハイブリッド車両は、エンジン10の駆動および電気モータ12の駆動によって走行することが可能とされているが、それらエンジン10の駆動と電気モータ12の駆動とは、メインECU40によって総合的に制御される。具体的に言えば、メインECU40によって、エンジン10の出力と電気モータ12による出力の配分が決定され、その配分に基づき、エンジン10を制御するエンジンECU42、電気モータ12及び発電機14を制御するモータECU44に各制御についての指令が出力される。また、メインECU40には、バッテリ26を制御するバッテリECU46も接続されている。
【0039】
さらに、メインECU40には、ブレーキを制御するブレーキECU48も接続されている。当該車両には、運転者によって操作されるブレーキ操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)が設けられており、ブレーキECU48は、その操作部材の操作量であるブレーキ操作量(以下、単に「操作量」という場合がある)と、その操作部材に加えられる運転者の力であるブレーキ操作力(以下、単に「操作力」という場合がある)との少なくとも一方に基づいて目標制動力を決定し、メインECU40に対してこの目標制動力を出力する。メインECU40は、モータECU44にこの目標制動力を出力し、モータECU44は、その目標制動力に基づいて回生ブレーキを制御するとともに、それの実行値、つまり、発生させている回生制動力をメインECU40に出力する。メインECU40では、目標制動力から回生制動力が減算され、その減算された値によって、車両に搭載される液圧制動システム100において発生すべき目標液圧制動力が決定される。メインECU40は、目標液圧制動力をブレーキECU48に出力し、ブレーキECU48は、通常時において、液圧制動システム100が発生させる液圧制動力が目標液圧制動力となるように制御するのである。
【0040】
≪液圧制動システムの構成≫
このように構成された本ハイブリッド車両に搭載される液圧制動システム100について、図2を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、「前方」は図2における左方、「後方」は図2における右方をそれぞれ表している。また、「前側」、「後側」、「前端」、「後端」、「前進」、「後進」等も同様に表すものとされている。以下の説明において[ ]の文字は、センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。
【0041】
図2に、車両が備える液圧制動システム100を、模式的に示す。液圧制動システム100は、作動液を加圧するためのマスタシリンダ装置110を有している。車両の運転者は、マスタシリンダ装置110に連結された操作装置112を操作することでマスタシリンダ装置110を作動させことができ、マスタシリンダ装置110は、自身の作動によって作動液を加圧する。その加圧された作動液は、マスタシリンダ装置110に接続されるアンチロック装置114を介して、各車輪に設けられたブレーキ装置116に供給される。ブレーキ装置116は、自身に供給される作動液の圧力(以下、「ブレーキ圧」と呼ぶ)に依拠して、車輪18の回転を制止するための力、すなわち、液圧制動力を発生させる。
【0042】
液圧制動システム100は、高圧の作動液を発生させる高圧源装置118を有している。その高圧源装置118は、液圧調整装置120を介して、マスタシリンダ装置110に接続されている。後で詳しく説明するが、液圧調整装置120は、ブレーキECU48によって制御され、高圧源装置118によって高圧とされた作動液の圧力(以下、「高圧源圧」という場合がある)を調整することが可能とされている。その調整された圧力(以下、「調整圧」という場合がある)の作動液は、マスタシリンダ装置110およびブレーキ装置116に供給される。また、液圧制動システム100は、作動液を大気圧下で貯留するリザーバ122を有している。リザーバ122は、マスタシリンダ装置110、液圧調整装置120、高圧源装置118の各々に接続されている。
【0043】
操作装置112は、操作部材としてのブレーキペダル140と、ブレーキペダル140に連結されるオペレーションロッド142とを含んで構成されている。ブレーキペダル140は、車体に回動可能に保持されている。オペレーションロッド142は、後端部においてブレーキペダル140に連結され、前端部においてマスタシリンダ装置110に連結されている。また、操作装置112は、ブレーキペダル140の操作量を検出するための操作量センサ[SP]144と、操作力を検出するための操作力センサ[FP]146とを有している。操作量センサ144および操作力センサ146は、ブレーキECU48に接続されており、ブレーキECU48は、それらのセンサの検出値を基にして、目標制動力を決定する。
【0044】
ブレーキ装置116は、詳しい説明は省略するが、ブレーキキャリパと、そのブレーキキャリパに取り付けられたホイールシリンダ(ブレーキシリンダ)およびブレーキパッドと、各車輪とともに回転するブレーキディスクとを含んで構成されている。ブレーキシリンダは、作動液の圧力に依拠して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける。その押し付けによって発生する摩擦によって、各ブレーキ装置116では、車輪の回転を制止する液圧制動力が発生し、車両は制動されるのである。
【0045】
アンチロック装置114は、一般的な装置であり、簡単に説明すれば、各車輪に対応する4対の開閉弁を有している。各対の開閉弁のうちの1つは増圧用開閉弁170であり、車輪がロックしていない状態では、開弁状態となっており、また、もう1つは減圧用開閉弁172であり、車輪がロックしていない状態では、閉弁状態とさせられている。車輪がロックした場合には、増圧用開閉弁170が閉弁させられるとともに、減圧用開閉弁172が開弁され、ブレーキ装置116から低圧源であるリザーバ122への作動液の流れを許容して、車輪のロックを解除するように構成されている。
【0046】
高圧源装置118は、液圧調整装置120からリザーバ122に至る液通路に設けられている。その高圧源装置118は、作動液の圧力を増加させる液圧ポンプ180と、増圧された作動液が溜められるアキュムレータ182とを含んで構成されている。ちなみに、液圧ポンプ180はモータ184によって駆動される。
【0047】
≪マスタシリンダ装置の構成≫
マスタシリンダ装置110は、それの筐体であるハウジング200と、ブレーキ装置116に供給する作動液を加圧する第1加圧ピストン202および第2加圧ピストン204と、運転者の操作力および液圧調整装置120から供給される調整圧とされた作動液によって前進する中間ピストン206と、運転者の操作が操作装置112を通じて入力される入力ピストン208とを含んで構成されている。なお、図2は、マスタシリンダ装置110が動作していない状態、つまり、ブレーキ操作がされていない状態を示している。ちなみに、一般的なシリンダ装置がそうであるように、本マスタシリンダ装置110も、内部に作動液が収容されるいくつかの液室、それらの液室間,それらの液室と外部とを連通させるいくつかの連通路が形成されており、それらの液密を担保するため、構成部材間には、いくつかのシールが配設されている。それらのシールは一般的なものであり、明細書の記載の簡略化に配慮し、特に説明すべきものでない限り、それの説明は省略するものとする。
【0048】
ハウジング200は、主に、2つの部材から、具体的には、第1ハウジング部材220、第2ハウジング部材222から構成されている。第1ハウジング部材220は、前端部が閉塞された概して円筒状を有し、後端部の外周にフランジ224が形成されており、そのフランジ224において車体に固定される。第1ハウジング部材220は、内径が互いに異なる3つの部分、具体的には、前方側に位置して内径の最も小さい前方小径部226、後方側に位置して内径の最も大きい後方大径部228、それら前方小径部226と後方大径部228との中間に位置しそれらの内径の中間の内径を有する中間部230に区分けされている。
【0049】
第2ハウジング部材222は、前方側に位置して外径の大きい前方大径部232、後方側に位置して外径の小さい後方小径部234とを有する円筒形状をなしている。第2ハウジング部材222は、前方大径部232の前端部が第1ハウジング部材220の中間部230と後方大径部228との段差面に接する状態で、その後方大径部228に嵌め込まれている。それら第1ハウジング部材220,第2ハウジング部材222は、第1ハウジング部材220の後端部の内周面に嵌め込まれたロック環236によって、互いに締結されている。
【0050】
第1加圧ピストン202および第2加圧ピストン204は、それぞれ、後端部が塞がれた有底円筒形状をなしており、第1ハウジング部材220の前方小径部226に摺動可能に嵌め合わされている。第1加圧ピストン202は、第2加圧ピストン204の後方に配設されている。第1加圧ピストン202と第2加圧ピストン204との間には、左前輪のブレーキ装置116FLに供給される作動液を加圧するための第1加圧室R1が区画形成されており、また、第2加圧ピストン204の前方には、右前輪に設けられたブレーキ装置116FRに供給される作動液を加圧するための第2加圧室R2が区画形成されている。なお、第1加圧ピストン202と第2加圧ピストン204とは、第1加圧ピストン202の後端部に立設された有頭ピン250と、第2加圧ピストン204の後端面に固設されたピン保持筒252とによって、離間距離が設定範囲内に制限されている。また、第1加圧室R1内,第2加圧室R2内には、それぞれ、圧縮コイルスプリング(以下、「リターンスプリング」という場合がある)254、256が配設されており、それらスプリング254、256によって、第1加圧ピストン202,第2加圧ピストン204はそれらが互いに離間する方向に付勢されるとともに、第1加圧ピストン202、第2加圧ピストン204は後方に向かって付勢されており、第1加圧ピストン202は、後述する中間ピストン206の前端面に当接されている。
【0051】
中間ピストン206は、両端部が開口された円筒形状の本体部270と、本体部270の前端部を塞ぐ蓋部272とから構成されている。中間ピストン206は、前端が第1加圧ピストン202の後端に当接した状態で、第1ハウジング部材220の中間部230の内周面に、摺動可能に嵌め合わされている。中間ピストン206の後方には、第2ハウジング部材222の前端部との間に、液圧調整装置120から調整圧とされた作動液が供給される液室(以下、「供給液室」という場合がある)R3が区画形成されている。ちなみに、図2では、ほとんど潰れた状態で示されている。また、ハウジング200の内部には、第1ハウジング部材220の内周面と第1加圧ピストン202の外周面との間に形成された空間が存在する。その空間が、中間ピストン206の前端面と、第1ハウジング部材220の前方小径部226と中間部230との段差面とによって区画されることで、常時大気圧とされる環状の液室(以下、「大気圧室」という場合がある)R4が形成されている。
【0052】
入力ピストン208は、前方が塞がれて後端部の開口する円筒形状をなす外筒部材280と、概して円柱形状のロッド部材282とを主体として構成されている。入力ピストン208は、ロッド部材282が、外筒部材280に、それの後端側から挿し込まれている。入力ピストン208は、第2ハウジング部材222に保持された状態で、中間ピストン206の本体部270の前端部から挿し込まれるとともに、中間ピストン206に対して進退可能とされている。このように構成された入力ピストン208および中間ピストン206の内部には、中間ピストン206と入力ピストン208との相対移動によって自身の容積が変化する液室(以下、「内部室」という場合がある)R5が区画形成されている。ちなみに、入力ピストン208の後退は、外筒部材280の前端部に形成される鍔部が、中間ピストン206の本体部270の後端部に当接することで制限されている。
【0053】
内部室R5には、中間ピストン206の内底面と入力ピストン208の前端面との間に、2つの圧縮コイルスプリングである第1反力スプリング290および第2反力スプリング292が配設されている。第1反力スプリング290は、第2反力スプリング292の後方に直列に配設されており、鍔付ロッド形状の浮動座294が、それらの反力スプリングに挟まれて浮動支持されている。第1反力スプリング290は、それの前端部が中間ピストン206の前端部に支持され、後端部が浮動座294の前方側のシート面に支持されている。一方、第2反力スプリング292は、それの前端部が浮動座294の後方側のシート面に支持され、後端部が入力ピストン208の前端部に支持されている。このように配設された第1反力スプリング290および第2反力スプリング292は、入力ピストン208と中間ピストン206とを、それらが互いに離間する方向に、つまり、内部室R5の容積が拡大する方向に付勢している。また、浮動座294の前端部には第1緩衝ゴム296、後端部には第2緩衝ゴム298がそれぞれ嵌め込まれており、その第1緩衝ゴム296が中間ピストン206の内底面に当接し、第2緩衝ゴム298が入力ピストン208の前端面に当接することで、浮動座294と中間ピストン206との接近、および、浮動座294と入力ピストン208との接近は、ある範囲に制限されている。
【0054】
入力ピストン208のロッド部材282の後端部には、ブレーキペダル140に加えられた操作力を入力ピストン208に伝達すべく、また、ブレーキペダル140の操作量に応じて入力ピストン208を進退させるべく、オペレーションロッド142の前端部が連結されている。ちなみに、入力ピストン208は、ロッド部材282の後端部が第2ハウジング部材222の後端部によって係止されることで、後退が制限されている。また、オペレーションロッド142には、円形の支持板300が付設されており、この支持板300とハウジング200との間にはブーツ302が渡されており、マスタシリンダ装置110の後部の防塵が図られている。
【0055】
第1加圧室R1は、開口が出力ポートとなる連通孔310を介して外部と連通しており、また、第1加圧ピストン202に設けられた連通孔312および開口がドレインポートとなる連通孔314を介して、リザーバ122に、非連通となることが許容された状態で連通している。一方、第2加圧室R2は、開口が出力ポートとなる連通孔316を介して外部と連通しており、第2加圧ピストン204に設けられた連通孔318および開口がドレインポートとなる連通孔320を介して、リザーバ122に、非連通となることが許容された状態で連通している。
【0056】
中間ピストン206は、第1ハウジング部材220の中間部230の内径よりある程度小さい外径とされており、それらの間にはある程度の流路面積を有する液通路322が形成されている。供給液室R3は、その液通路322および開口が連結ポートとなる連通孔324を介して、外部に連通可能となっている。
【0057】
中間ピストン206には、蓋部272において、大気圧室R4と内部室R5とを連通する連通孔330が設けられている。また、第1加圧ピストン202は、第1ハウジング部材220の中間部230の内径よりある程度小さい外径とされており、それらの間にはある程度の流路面積を有する液通路332が形成されている。大気圧室R4は、その液通路332および連通孔314を介して、リザーバ122に連通されている。したがって、環状室R4および内部室R5は、常時、大気圧とされており、それらの作動液は、リザーバ122に対して流出入可能とされている
【0058】
≪液圧調整装置の構成≫
図3は、液圧調整装置120と高圧源装置118とを示す模式図である。液圧調整装置120は、調整圧を増加させる電磁式の増圧リニア弁370と、調整圧を低減させる電磁式の減圧リニア弁372と、自身にパイロット圧として導入される作動液の圧力に応じて作動液を調整圧に調圧する調圧弁装置374とを含んで構成されている。
【0059】
増圧リニア弁370は、電力が供給されていない状態、つまり、非励磁状態では、閉弁状態とされており、電力を供給することによって、つまり、励磁状態とすることで、その供給された電力に応じた開弁圧において開弁する。ちなみに、供給される電力が大きいほど開弁圧が小さくなるように構成されている。一方、減圧リニア弁372は、電力が供給されていない状態では開弁状態とされており、自身に設定された範囲における最大電流が供給されると閉弁状態とされる。ちなみに、供給される電力が小さいほど開弁圧が高くなるように構成されている。
【0060】
調圧弁装置374は、それの筐体であるハウジング380と、調整圧を低減する場合に作動する減圧弁部材382と、調整圧を増加する場合に作動させられる増圧弁部材384と、その増圧弁部材384を押圧して作動させる押圧部材386とを含んで構成されている。なお、図3は、調圧弁装置374が作動していない状態を示している。なお、マスタシリンダ装置110と同様に、調圧弁装置374も、内部に作動液が収容されるいくつかの液室、それらの液室間,それらの液室と外部とを連通させるいくつかの連通路が形成されており、それらの液密を担保するため、構成部材間には、いくつかのシールが配設されている。それらのシールは一般的なものであり、明細書の記載の簡略化に配慮し、特に説明すべきものでない限り、それの説明は省略するものとする。
【0061】
ハウジング380は、主に、3つの部材から、具体的には、図3における上端部が開口する円筒形状とされた第1ハウジング部材390と、その第1ハウジング部材390の開口に嵌め込まれる円筒形状の第2ハウジング部材392と、第2ハウジング部材の上端部を塞ぐ第3ハウジング部材394とから構成されている。第1ハウジング部材390は、内径が互いに異なる3つの部分、具体的には、下方に位置して内径の最も小さい下方小径部396、上方に位置して内径の最も大きい上方大径部398、それら下方小径部396と上方大径部398との中間に位置し、それらの内径の中間の内径を有する中間部400に区分けされている。
【0062】
下方小径部396には、減圧弁部材382がシールを介して摺動可能に嵌め合わされている。減圧弁部材382は、概して円柱形状とされており、それの上端部は半球形に形成された弁体部402と、下端面は凹みが設けられて後述するパイロット圧の作用するパイロット圧作用部404となっている。また、弁体部402の外径はパイロット圧作用部404の外径よりも小さくされており、減圧弁部材382のほぼ中間には、それらの外径が互いに異なることによって形成される段差面が形成されている。
【0063】
中間部400には、押圧部材386がシールを介して摺動可能に嵌め合わされている。押圧部材386は、円筒形状とされており、外径が互いに異なる3つの部分、具体的には、図3における下方に位置して外径の最も大きい下方大径部406、上方に位置して外径の最も小さい上方小径部408、それら下方大径部406と上方小径部408との中間に位置し、それらの外径の中間の外径を有する中間部410に区分けされている。また、押圧部材386の内部には、一端が中間部410に開口し、他端が押圧部材386の下端面中心部に開口する連通路412が形成されている。
【0064】
第1ハウジング部材390の上方大径部398には、自身の下端面の中心部に連通孔414が設けられた円筒形状の第2ハウジング部材392が嵌め込まれている。連通孔414は、第2ハウジング部材392の内部と第1ハウジング部材390の中間部400に形成される液室とを連通するようにして設けられている。また、第2ハウジング部材392の側面にも、内部と外部とを連通する連通孔416が設けられている。第2ハウジング部材392は、それの上端部に第3ハウジング部材394が嵌め込まれることで閉塞されており、その閉塞された第2ハウジング部材392の内部には、球形とされている増圧弁部材384が収容されている。なお、増圧弁部材384の直径は、連通孔414の直径よりも大きくされている。
【0065】
減圧弁部材382、増圧弁部材384、押圧部材386は、それぞれ、圧縮コイルスプリング418、420、422によって下方に付勢されている。具体的には、圧縮コイルスプリング418は、一端が減圧弁部材382の中間に設けられた段差面に当接し、他端が押圧部材386の下端面に当接した状態で減圧弁部材382を下方に付勢している。圧縮コイルスプリング422は、一端が押圧部材386の下方大径部406と中間部410との境界に形成される段差面に当接し、他端が第4ハウジング部材392の下端面に当接した状態で押圧部材386を下方に付勢している。また、圧縮コイルスプリング420は、一端が増圧弁部材384の球形とされている表面に当接し、他端が第3ハウジング部材394の下面に当接した状態で増圧弁部材384を下方に付勢している。
【0066】
このように構成される調圧弁装置374には、第1ハウジング部材390の下方小径部396、上方大径部398、中間部400の内部にそれぞれ液室が形成されている。詳しく説明すると、下方小径部396には、それの内周面と、減圧弁部材382の外周面と、押圧部材386の下端面とによって囲まれる第1液室424が形成されている。上方大径部398には、第2ハウジング部材392の内周面と第3ハウジング部材394の下面とによって囲まれる第2液室426が形成されている。また、中間部400には、それの内周面と、押圧部材386の外周面と、第2ハウジング部材392の下面とによって囲まれる第3液室428が形成されている。
【0067】
また、第1ハウジング部材390の下方小径部396には、一端が第1液室424に開口し、他端が第1ハウジング部材390の外周面に開口する連通孔430が設けられている。また、上方大径部398には、一端が第2ハウジング部材392の連通孔416に連通し、他端が第1ハウジング部材390の外周面に開口する連通孔432が設けられている。したがって、連通孔416と連通孔432とによって、第2液室は外部に連通されている。中間部400には、一端が第3液室に連通し、第1ハウジング部材390の外周面に開口する2つの連通孔434、436が設けられている。また、第1ハウジング部材390の下端面の中心部には、外部と減圧弁部材382のパイロット圧作用部404とを連通する連通孔438が設けられている。
【0068】
≪連通路の構成≫
ブレーキ装置116は、液通路442、444を介してマスタシリンダ装置110に接続されている。液通路442は第1加圧室R1に連通する連通孔310に繋がれており、液通路444は、第2加圧室R2に連通する連通孔316に連通されている。つまり、それら液通路442、444は、マスタ圧流路として、マスタシリンダ装置110によって加圧された作動液をブレーキ装置116に供給するための液通路となっている。ちなみに、液通路442が、左前輪側のブレーキ装置116FLに繋がれており、液通路444が、右前輪側のブレーキ装置116RRに繋がれている。また、液通路442および液通路444には、それぞれ、非励磁状態で開弁し、励磁状態で閉弁する電磁式の開閉弁(以下、「マスタ用開閉弁」という場合がある)446、448が設けられている。それらのマスタ用開閉弁446、448は、マスタ圧流路遮断器として機能し、励磁状態で閉弁させられることによって、マスタ圧流路である液通路442,444をそれぞれ遮断することができる。
【0069】
調圧弁装置372の各連通孔には、以下のように各連通路が繋げられている。連通孔430には、リザーバ122に至る減圧連通路450が繋げられており、その途中に、上記減圧リニア弁372が設けられている。連通孔432には、高圧源装置118に至る高圧連通路452が繋げられている。また、連通孔434には、高圧源装置118に至る液通路454が繋げられており、その途中に上記増圧リニア弁370が設けられている。その連通孔434と第2液室428とを介して連通する連通孔436には、マスタシリンダ装置110の連通孔324に繋がれる連通路456が接続されている。連通孔438には、液通路442に設けられたマスタ用開閉弁446とブレーキ装置116FLとの間から分岐する連通路458が接続されている。
【0070】
また、連通路456は途中で分岐しており、その分岐した連通路である連通路460は、アンチロック装置114を介してブレーキ装置116に繋げられている。アンチロック装置114の内部では、連通路460は4つに分岐しており、それら分岐した部分の各々に、4つのブレーキ装置116にそれぞれ対応する増圧用開閉弁170が設けられている。また、アンチロック装置114には、リザーバ122に連通する減圧連通路462も繋げられている。アンチロック装置114の内部において、その減圧連通路462も4つに分岐しており、それら分岐した部分の各々に、4つのブレーキ装置116にそれぞれ対応する減圧用開閉弁172が設けられている。つまり、減圧連通路462は、ブレーキ装置116を低圧源であるリザーバ122に導くための低圧源流路として機能し、減圧用開閉弁172は、閉弁することでその低圧源流路を遮断する低圧源流路遮断器として機能する。なお、4つの増圧用開閉弁170および4つの減圧用開閉弁172は、車輪18RL、RRに対応する増圧用開閉弁170RL、RRを除いて、非励磁状態において閉弁し、励磁状態において開弁する電磁弁である。増圧用開閉弁170RL、RRは、非励磁状態において開弁し、励磁状態において閉弁する電磁弁である。
【0071】
このように構成された連通路には、作動液の圧力を検知する圧力センサが設けられている。液通路442には、それのマスタ用開閉弁446とマスタシリンダ装置110との間に、マスタシリンダ装置110によって加圧された作動液の圧力を検出するマスタ圧センサ[PO]470が設けられている。液通路444のマスタ用開閉弁448とブレーキ装置116との間には、ブレーキ装置116に作用する作動液の圧力を検出するブレーキ圧センサ[PB]472が設けられている。連通路452には、高圧源圧を検出するための高圧源圧センサ[PH]474を有している。ブレーキECU48は、高圧源圧センサ474の検出値を監視しており、その検出値に基づいて、液圧ポンプ180は制御駆動される。この制御駆動によって、高圧源装置118は、常時、設定された圧力以上の作動液を液圧調整装置120に供給する。また、連通路456には、調整圧を検出するための調整圧センサ[PC]476が設けられている。増圧リニア弁370および減圧リニア弁372は、調整圧センサ476の検出値に基づき、ブレーキECU48によって制御される。
【0072】
このように構成された本液圧制動システム100において、アンチロック装置114、高圧源装置118、液圧調整装置120、マスタ用開閉弁446、448、各センサ、および、連通路456、450等(図2の二点鎖線で囲まれた部分)は、一体とされた筐体内に収容されており、図4に外観を示すブレーキアクチュエータ478を構成している。詳しい説明は省略するが、ブレーキアクチュエータ478には複数のポートが設けられており、それらのポートを含んで各連通路が構成されることで、ブレーキアクチュエータ478は、ブレーキ装置116、リザーバ122、マスターシリンダ装置110の各液室R1、R2、R3に連通されている。このように、ブレーキアクチュエータ478は比較的コンパクトに構成されているため、液圧制動システム100の作動により作動液の圧力が相当に高くなる場合でも、ブレーキアクチュエータ478内の液通路の膨張等が抑えられている。そのため、その膨張等による作動液の圧力の変化が防止されている。
【0073】
≪マスタシリンダ装置および液圧調整装置の作動≫
以下に、ブレーキ操作における液圧制動システム100の作動について説明する。マスタシリンダ装置110では、ブレーキペダル140に加えられた操作力により、入力ピストン208が前進し、2つの反力スプリング290,292を圧縮する。これらの反力スプリング290,292の弾性反力は、中間ピストン206にそれを前進させるように作用し、その中間ピストン206は、第1加圧ピストン202を前進させるように押圧する。第1加圧ピストン202が前進すれば、それに伴って第2加圧ピストン204も前進し、第1加圧室R1,第2加圧室R2の作動液が加圧される。しかしながら、液圧制動システム100が正常に作動する場合、マスタ用開閉弁446、448は励磁状態とされて閉弁させられており、第1加圧室R1,第2加圧室R2は封止されているため、第1加圧室R1,第2加圧室R2の作動液をブレーキ装置116に供給することはできない。つまり、第1加圧ピストン202および第2加圧ピストン204は前進することができず、そのため、中間ピストン206も前進することはできない。したがって、マスタシリンダ装置110は、ブレーキペダル140の操作に対して、操作力によって加圧された作動液をブレーキ装置116に供給することなく、2つの反力スプリング290,292の弾性反力によって、運転者のブレーキペダル140に加えた操作力に対する操作反力を発生させるように作動する。つまり、2つの反力スプリング290,292は、運転者に操作反力を認識させるためのストロークシミュレータとして機能する。
【0074】
一方、液圧調整装置120では、ブレーキペダル140の操作量と操作力とに応じて、マスタシリンダ装置110およびブレーキ装置116に供給される作動液が調圧される。具体的には、作動液の調圧は、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372に供給される電力がブレーキECU48によって制御されることで行われる。減圧リニア弁372が閉弁させられた状態で、増圧リニア弁370が開弁されると、高圧とされた作動液が、調圧弁装置374の第3液室428、連通孔436を介して、連通路456に供給される。また、増圧リニア弁370が閉弁させられた状態で減圧リニア弁372が開弁されると、連通路456の作動液が、連通孔436、第3液室428、押圧部材386内部の連通路412を介して第1液室424に流れ込み、連通孔430から減圧リニア弁372を介してリザーバ122に流出する。このように、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372の開閉を制御することで、連通路456の作動液の圧力を調整圧に調整することができる。したがって、連通路456は、液圧調整装置120からマスタシリンダ装置110に調圧された作動液を供給するための第1調圧流路として機能する。また、連通路456から分岐する連通路460内の作動液も調整圧とされるため、連通路460は、液圧調整装置120からブレーキ装置116に調圧された作動液を供給するための第2調圧流路として機能し、増圧用開閉弁170は、閉弁することでその第2調圧流路を遮断することができる第2調圧流路遮断器として機能する。
【0075】
詳しい説明は省略するが、ブレーキECU48は、液圧制動力に応じた調整圧のマップデータを有しており、目標液圧制動力に応じた目標調整圧を決定することができる。したがって、ブレーキECU48は、調整圧センサ476によって検出される調整圧の値から、ブレーキ装置116において発生する液圧制動力が目標液圧制動力となっているかどうかを判定することができ、調整圧が目標調整圧となるように、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372を制御する。このように、液圧制動システム100では、液圧調整装置120に供給される電力を制御することで、ブレーキ装置116がその電力に応じて調圧された作動液の圧力に依存した制動力を発生させる状態である調圧依存制動力発生状態が実現される。
【0076】
次に、何らかの原因で液圧調整装置120への電力の供給ができなくなった場合の液圧制動システム100の作動について説明する。液圧調整装置120に電力が供給されていないと、増圧リニア弁370は非励磁状態で閉弁状態とされ、減圧リニア弁372も非励磁状態で開弁状態とされる。また、ブレーキECU48は、液圧調整装置120に電力が供給されていない場合、マスタシリンダ装置110によって加圧された作動液がブレーキ装置116に供給されるように、マスタ用開閉弁446、448を非励磁状態として開弁状態とする。したがって、ブレーキペダル140が操作されると、中間ピストン206を前進させ、第1加圧ピストン202および第2加圧ピストン204を前進させて、第1加圧室R1,第2加圧室R2の作動液を加圧し、加圧された作動液は、それぞれ、ブレーキ装置116FL、116FRに供給される。
【0077】
液圧調整装置120の調圧弁装置374には、連通路458を介してブレーキ装置116FLに供給される作動液の圧力が導入される。調圧弁装置374は、その圧力をパイロット圧として利用して作動することが可能とされている。つまり、連通路458は、調圧弁装置374のパイロット圧作用部404にパイロット圧を導入するためのパイロット圧流路として機能する。パイロット圧を利用した調圧弁装置374の作動について詳しく説明すると、パイロット圧がある大きさになると、圧縮コイルスプリング418の弾性力に抗して、減圧弁部材382が上方に移動させられ、押圧部材386の下端面中心部の開口を塞ぐようにして押圧部材386に当接し、連通路412を遮断する。さらにパイロット圧が大きくなると、圧縮コイルスプリング422の弾性力に抗して、押圧部材386が上方に移動させられ、押圧部材386の上端部が第2ハウジング部材392の下端面の連通孔414を介して増圧弁部材384を押し上げる。したがって、第1ハウジング部材390の連通孔432が、第2ハウジング部材392の連通孔416、第2液室426、連通孔414、第3液室428を介して、連通孔436と連通する。つまり、高圧源装置118と連通路456とが連通され、高圧源装置118によって高圧とされた作動液が、マスタシリンダ装置110の供給液室R3に供給される。一方、パイロット圧が低下すると、調圧弁装置374は、図3に示すように、連通孔430が、第1液室424、連通路412、第3液室428を介して、連通孔436と連通する。つまり、リザーバ122と連通路456とが連通され、供給液室R3の作動液がリザーバ122へと流出される。
【0078】
このように作動する調圧弁装置374が、減圧弁部材382が押圧部材386に当接しつつ、押圧部材386の上端部が増圧弁部材384を押し上げていない状態になると、調整圧はその状態における大きさで維持されることになる。この状態における減圧弁部材382に作用する力と、押圧部材386に作用する力について詳しく説明すると、パイロット圧により減圧弁部材382を上方に押す力と、調整圧により押圧部材386を下方に押す力とは、平衡した状態において維持されることとなる。つまり、パイロット圧PPの減圧弁部材382に作用する受圧面積をA1とすれば、減圧弁部材382を上方に押す力は、A1×PPとなる。一方、調整圧PCの押圧部材386に作用する受圧面積をA2とすれば、押圧部材386を下方に押す力は、A2×PCとなる。なお、受圧面積A1は、減圧弁部材382の下端における断面積であり、受圧面積A2は、押圧部材386の下方大径部406の断面積である。圧縮コイルスプリング418、422の発生する力がこれらの力に比べて無視できるほど小さいと考えれば、A1×PP=A2×PCとなった状態で、調整圧PCは維持されることになる。したがって、調整圧PCは、A1/A2×PPにより算出されることになる。つまり、減圧弁部材382の受圧面積A1と押圧部材386の受圧面積A2との面積比は、調整圧PCのパイロット圧PPに対する設定比とされており、調整圧PCは、パイロット圧PPに対してその設定比となる圧力に調整されるのである。
【0079】
このように、供給液室R3に供給される作動液の圧力である調整圧は、パイロット圧に応じて、調圧弁装置374によって調圧される。そのため、中間ピストン206は、操作力とともに、その調整圧に依存して前進させられる。したがって、マスタシリンダ装置110は、操作力と調整圧とに依存して第1加圧室R1および第2加圧室R2の作動液を加圧し、前輪側のブレーキ装置116FL,FRに加圧された作動液を供給する。このように、本液圧制動システムでは、液圧調整装置120への電力の供給がされていない場合に、ブレーキ装置116FL,FRが、操作力と調整圧との両方に依存した制動力を発生させる状態である操作力・調圧依存制動力発生状態が実現させられる。その際、ブレーキ装置116FL,FRに供給される作動液が液圧調整装置120へと逆流しないように、それらのブレーキ装置116FL,FRにそれぞれ対応する増圧用開閉弁170FL、FRは非励磁状態で閉弁状態とさせられ、連通路460は遮断されている。また、後輪側のブレーキ装置116RL,RRに対応する増圧用開閉弁170RL,RRは開弁状態とさせられており、ブレーキ装置116RL,RRは、調整圧に応じた制動力を発生させる。
【0080】
マスタシリンダ装置110からブレーキ装置116FL,FRに供給される作動液の圧力であるブレーキ圧PBは、操作力Fと、調整圧PCと、中間ピストン206の入力室R3に対する受圧面積A3(概して後端面の面積に等しい)と、第1加圧ピストン202,第2加圧ピストン204の第1加圧室R1,第2加圧室R2に対する受圧面積A4(概してそれぞれのピストン202,204の断面積は等しい)とから、下記式で表すことができる。
PB=(F+A3×PC)/A4=F/A4+(A3/A4)×PC
したがって、操作力・調圧依存制動力発生状態におけるブレーキ圧PBは、操作力Fに依拠して決定される圧力F/A4に、マスタシリンダ装置110において設定される面積に基づいて決定される係数(A3/A4)だけ倍増された調整圧PCが加えられた圧力となる。つまり、ブレーキ圧PBは、操作力Fのみならず、調整圧PCにも依存した圧力となり、ブレーキ装置116FL,FRはそのブレーキ圧PBに依存して制動力を発生させるのである。
【0081】
≪液圧制動システム診断≫
前述のように作動する液圧制動システム100において、ブレーキECU48は、液圧制動システム診断を行う。この診断は、大まかに言えば、図5のフローチャートに示すように、液圧制動システム100を診断する7つの異常診断処理から構成されている。以下に、図5のフローチャートに示す順番に従って、各異常診断処理について説明する。なお、本車両は、ブレーキペダル140が踏み込まれた状態でなければ車両の始動を行うことができないようになっており、各異常診断処理は、その始動時のブレーキ操作を利用して実行される診断処理と、ブレーキ操作が解除されてから実行される診断処理とがある。以下の各異常診断処理の説明では、ブレーキ操作と各診断処理の実行との関係についても説明する。
【0082】
液圧制動システム診断では、まず、電力供給異常診断処理が実行される。電力供給異常診断処理は、高圧源装置118、液圧調整装置120、各開閉弁、各センサなど、電力によって作動する部分に、正常に電力が供給されているかどうかを診断する。また、ブレーキECU48自身への電力の供給についても診断する。本電力供給異常診断処理はブレーキ操作時に実行される。
【0083】
次に、運転者により入力される操作力による第1加圧室R1および第2加圧室R2の作動液の加圧に異常がないかを診断する入力系異常診断処理が実行される。入力系異常診断処理は、マスタ用開閉弁446、448を閉弁した状態で、ブレーキペダル140の操作に対する操作力センサ146の検出値とマスタ圧センサ470の検出値とに基づいて実行される。そのため、ブレーキECU48は、操作量とマスタ圧との関係を示すマップデータを保存しており、入力系異常診断処理では、操作力センサ146の検出値とマスタ圧センサ470の検出値とがそのマップデータと比較されることで、運転者の入力する操作力による作動液の加圧において異常がないかが診断される。
【0084】
次に、液圧調整装置120により調圧された作動液の供給液室R3および増圧用開閉弁170への供給に異常がないかを診断する調圧系異常診断処理が実行される。調圧系異常診断処理では、増圧用開閉弁170およびマスタ用開閉弁446、448が閉弁されて、増圧用リニア弁170および減圧リニア弁172により調圧された作動液が連通路456、460に供給される。したがって、増圧用開閉弁170やマスタシリンダ装置110の供給液室R3には、調圧された作動液が供給される。その際、調圧系異常診断処理では、調整圧センサ476の検出値があらかじめ設定された値と比較されることで、調圧された作動液の供給液室R3および増圧用開閉弁170への供給に異常がないかが診断される。
【0085】
次に、液圧調整装置120によって調圧された作動液のブレーキ装置116への供給に異常がないかを診断するブレーキ系異常診断処理が実行される。ブレーキ系異常診断処理では、増圧用開閉弁170が開弁され、減圧用開閉弁172およびマスタ用開閉弁446,448が閉弁されて、調整圧PCがあらかじめ設定されたブレーキ圧診断目標圧PT1となるように液圧調整装置120に供給される電力が制御された後、増圧リニア弁370と減圧リニア弁372とが閉弁される。したがって、ブレーキ装置116はブレーキ圧診断目標圧PT1の作動液によって作動させられている状態となり、この状態であらかじめ設定された時間TB経過後の調整圧PCが、あらかじめ設定されたブレーキ圧異常診断圧PC1より低下した場合に、調圧された作動液のブレーキ装置116への供給に異常があると診断される。
【0086】
次に、液圧調整装置120がパイロット圧依存調圧機能で作動する場合に異常がないかを診断するパイロット圧依存調圧機能異常診断処理が実行される。パイロット圧依存調圧機能異常診断処理では、増圧用開閉弁170が開弁され、減圧用開閉弁172およびマスタ用開閉弁446,448が閉弁され、調整圧PCがあらかじめ設定されたパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2となるように液圧調整装置120に供給される電力が制御されて、増圧用開閉弁170が閉弁される。つまり、ブレーキ装置116には、第1設定圧であるパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2とされた作動液が封じ込められる。さらに、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372への電力の供給が停止され、増圧リニア弁370は閉弁され、減圧リニア弁372は開弁される。したがって、液圧調整装置120は、パイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2をパイロット圧とするパイロット圧依存調圧機能で作動する。パイロット圧依存調圧機能が正常である場合、調整圧PCは、パイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2に対して設定比となる圧力、つまり、正常時基準圧であるパイロット圧依存調整圧PCPとなる。パイロット圧依存調圧機能異常診断処理では、調整圧PCが、パイロット圧依存調整圧PCPにマージンを設けて設定された圧力、つまり、パイロット圧依存調整圧PCP以下に設定された圧力であるパイロット圧依存異常診断圧PC2を下回る場合に、液圧調整装置120のパイロット圧依存調圧機能に異常があると診断される。本パイロット圧依存調圧機能異常診断処理は、ブレーキ操作時に、増圧用開閉弁170が閉弁され、そのときのパイロット圧をパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2とすることによって実行される。
【0087】
なお、本液圧制動システム100では、車両の走行時であっても、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理を実行することが可能である。具体的には、車両の走行時の制動中に、ブレーキペダル140の操作量が一定となっているようなときに、極短時間だけ増圧用開閉弁170を閉弁してブレーキ装置116に作動液を封じ込め、その封じ込められた作動液の圧力をパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2とし、極短時間だけ液圧調整装置への電力の供給を停止することによって、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理を実行することができる。
【0088】
次に、連通路460に設けられた増圧用開閉弁170によって、連通路460、つまり、液圧調整装置120からブレーキ装置116に調圧された作動液を供給する第2調圧流路が正常に遮断されるかを診断する第2調圧流路遮断異常診断処理が実行される。第2調圧流路遮断異常診断処理では、増圧用開閉弁170が閉弁され、調整圧PCが第2設定圧としてあらかじめ設定された第1遮断診断目標圧PT3となるように液圧調整装置120に供給される電力が制御され、次いで、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372が閉弁される。このとき、増圧用開閉弁170に液漏れ等の異常が発生している場合には、連通路460の作動液の圧力は第1遮断診断目標圧PT3となる。ここで、減圧用開閉弁172を開弁すると、連通路460の増圧用開閉弁170とブレーキ装置118との間にある作動液の圧力は大気圧となる。したがって、連通路460の増圧用開閉弁170と液圧調整装置120との間にある作動液は、増圧用開閉弁170の異常によって、ブレーキ装置118側へと流出し、調整圧PCは第1遮断診断目標圧PT3から低下してしまう。そのことを利用して、第2調圧流路遮断異常診断処理は、調整圧PCが、第1遮断診断目標圧PT3にマージンを設けて設定された基準圧、つまり、第1遮断診断目標圧PT3以下に設定された第2調圧流路遮断異常診断圧PC3を下回った場合に、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常があると診断する。
【0089】
また、詳細な説明は省略するが、4つの減圧用開閉弁172の各々を、同時に開弁するのではなく、順番に開弁することで、第2調圧流路の遮断の異常がどの増圧用開閉弁170で発生しているのかを特定することもできる。つまり、遮断が正常に行われている増圧用開閉弁170に対応する減圧用開閉弁172が開弁されたとしても、調整圧PCが第2調圧流路遮断異常診断圧PC3を下回ることはないが、遮断に異常がある増圧用開閉弁170に対応する減圧用開閉弁172が開弁されれば、調整圧PCは第2調圧流路遮断異常診断圧PC3を下回ってしまう。そのことを利用すれば、どの増圧用開閉弁170に異常があるかを特定することができる。
【0090】
次に、高圧源装置118からの作動液の供給において異常がないかを診断する高圧供給異常診断処理が実行される。高圧供給異常診断処理では、増圧用開閉弁170およびマスタ用開閉弁446、448が閉弁され、増圧リニア弁370が開弁されて高圧源装置118より高圧とされた作動液が供給された際、高圧源圧センサ474の検出値である高圧源圧PHに基づいて異常がないかが診断される。つまり、高圧供給異常診断処理では、高圧源圧PHがあらかじめ設定された値を下回る場合に、高圧源圧PHの低下の度合いが大きすぎるとして、高圧とされた作動液の供給に異常があると診断する。
【0091】
なお、これらの各異常診断処理のうち、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理および第2調圧流路遮断異常診断処理が、本液圧制動システム100の請求可能発明である。
【0092】
このように、各異常診断処理は、電力供給異常診断処理を除いて、作動液の圧力が用いられている。したがって、各診断処理が適切に行われるためには、正常の場合と異常の場合とにおける作動液の圧力の差異を正確に検出する必要がある。本液圧制動システム100では、前述のように、一体とされた筐体を有するブレーキアクチュエータ478が採用されているため、ブレーキアクチュエータ478内の液通路の膨張等が抑えられている。したがって、ブレーキアクチュエータ478内で異常が発生した場合、その異常による液漏れ等が微小であっても、その異常が作動液の圧力の変化となって現れ易くなっている。そのため、本液圧制動システム100は、正常の場合と異常の場合とにおける作動液の圧力の差異を正確に検出し、各診断処理を適切に実行することが可能とされている。
【0093】
このように各異常診断処理がおこなわれると、それらの診断結果に基づいて、液圧制動システム100が異常である場合には、その異常の原因が特定される。図6は、各異常診断処理の診断結果に基づいて、液圧制動システム100の異常の原因を特定するための表である。表中におけるNは診断結果が正常であったことを示し、ANは診断結果が異常であったことを示している。これらの正常または異常の診断結果の組合せによって、液圧制動システム100は、正常、あるいは、異常の原因が[異常原因1]〜[異常原因12]のいずれかに特定される異常と診断される。
【0094】
図7の表は、[異常原因1]〜[異常原因12]の各々の場合における異常の内容を示している。以下に、異常診断結果の組合せによって特定される異常原因、および、その特定される異常原因の異常の内容について説明する。電力供給異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因1]と特定される。[異常原因1]は、高圧源装置118、液圧調整装置120、各開閉弁、各センサなどへの電力の供給に異常が発生していることを表している。入力系異常診断処理のみで異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因2]と特定される。[異常原因2]は、マスタシリンダ装置110内部に固着や液漏れ等の異常が発生していることを表している。
【0095】
調圧系異常診断処理のみで異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因3]と特定される。[異常原因3]は、増圧用リニア弁170または減圧リニア弁172に固着や液漏れ等の異常が発生していることを表している。[異常原因3]の場合に加えて、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因4]と特定される。[異常原因4]は、液圧調整装置120がパイロット圧依存調圧機能で正常に調圧することもできなくなっているため、増圧用リニア弁170および減圧リニア弁172も含んだ液圧調整装置120に液漏れ等の異常が発生していることを表している。[異常原因4]の場合に加えて、高圧供給異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因5]と特定される。[異常原因5]は、高圧とされた作動液の供給もできなくなっているため、高圧減圧装置118または液圧調整装置120の高圧源圧PHの作用する箇所に異常が発生していることを表している。
【0096】
ブレーキ系異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因6]と特定される。[異常原因6]は、液圧調整装置120によって調圧された作動液の圧力が作用する箇所に液漏れ等の異常が発生していることを表している。ただし、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理が正常であるため、液圧調整装置120がパイロット圧依存調圧機能で作動する場合に、パイロット圧の作用する箇所以外で異常が発生していることになる。[異常原因6]の場合に加えて、高圧供給異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因7]と特定される。[異常原因7]は、[異常原因6]の場合と同様に、パイロット圧が作用する箇所以外で液漏れ等の異常が発生しているとともに、高圧源圧PHの低下の度合いが大きいため、液漏れの程度が大きな異常が発生していることを表している。
【0097】
ブレーキ系異常診断処理およびパイロット圧依存調圧機能異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因8]と特定される。[異常原因8]は、[異常原因6]に相反して、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理が異常であるため、パイロット圧が作用する箇所で液漏れ等の異常が発生していることを表している。[異常原因8]の場合に加えて、高圧供給異常診断処理が異常であると診断された場合には、異常の原因は[異常原因9]と特定される。[異常原因9]は、[異常原因7]に相反して、パイロット圧が作用する箇所で液漏れ等の異常が発生しており、その液漏れ等の程度が大きな異常が発生していることを表している。
【0098】
パイロット圧依存調圧機能異常診断処理で異常があり、かつ、第2調圧流路遮断異常診断処理が正常であると診断された場合には、異常の原因は[異常原因10]と特定される。パイロット圧依存調圧機能異常診断処理で異常がある場合は、液圧調整装置120のパイロット圧依存調圧機能において作動する場合に異常が発生していることを表しており、加えて、第2調圧流路遮断異常診断処理が正常である場合には、調整圧装置374における弁体等の固着による異常が発生していることを表している。つまり、調整圧装置374に液漏れが発生している場合には、第2調圧流路遮断異常診断処理において、第1遮断診断目標圧PT3とされた調整圧PCが、大気圧とされているパイロット圧流路、つまり、連通路458に流出してしまうため、調整圧PCが調圧流路遮断異常診断圧PC3を下回ってしまう。したがって、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理が異常で、かつ、第2調圧流路遮断異常診断処理が正常である場合である[異常原因10]は、調整圧装置374において弁体等が固着していることを表している。また、[異常原因10]の場合に加えて、第2調圧流路遮断異常診断処理で異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因11]と特定される。[異常原因11]は、前述のことから、調整圧装置374に液漏れが発生していることを表している。第2調圧流路遮断異常診断処理のみで異常があると診断された場合には、異常の原因は[異常原因12]と特定される。[異常原因12]は、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常が発生していることを表している。
【0099】
このように、本液圧制動システム異常診断のパイロット圧依存調圧機能異常診断処理は、自身の診断結果が異常であるだけでは、調整圧装置374における弁部材等の固着なのか液漏れなのかを特定することができない。つまり、どちらかの異常があれば、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理の実行において、調整圧PCはパイロット圧依存異常診断圧PC2を下回る可能性がある。しかしながら、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理は、第2調圧流路遮断異常診断処理の診断結果により、その診断結果が正常である場合には、調整圧装置374における弁体等の固着による異常であり、異常である場合には、調整圧装置374の液漏れによる異常と診断することができる。このように、本液圧制動システムは、第2調圧流路の遮断異常についての診断結果に基づいてパイロット圧依存調圧機能についての診断を行うことで、さらに詳細に異常の原因を特定することが可能とされている。
【0100】
≪液圧制動システムの作動モード≫
ブレーキECU48は、前述の正常であるか、あるいは、異常の原因が[異常原因1]〜[異常原因12]のどれであるかに基づいて、液圧制動システム100の作動を切り換える作動モード切換処理を実行する。作動モード切換処理によって、液圧制動システム100は、作動モード1から3のいずれかの作動モードで作動させられる。具体的には、液圧制動システム100は、正常である場合には作動モード1、[異常原因1]〜[異常原因7]の異常である場合には作動モード2、[異常原因8]〜[異常原因12]の異常である場合には作動モード3で作動させられる。それら3つの作動モードについて説明すると、液圧制動システム100は、作動モード1では調圧依存制動力発生状態で作動させられ、作動モード2では操作力・調圧依存制動力発生状態で作動させられ、作動モード3では、パイロット圧依存調圧機能が正常に作動しないため、パイロット圧流路である連通路458と連通するブレーキ装置116FLを除いた他の3つのブレーキ装置116によって、調圧依存制動力発生状態で作動させられる。つまり、作動モード3では、ブレーキ装置116FLの作動が禁止される。
【0101】
≪各異常診断処理のフロー≫
ブレーキECU48は、液圧制動システム診断の各診断処理を、図5に示すフローチャートに従って実行する。各診断処理は、ブレーキECU48に保存される各々のプログラムが実行されることによって行われる。つまり、各診断処理のプログラムが実行されることによって、液圧制動システム診断は実行される。各プログラムのうち、請求可能発明に関係の深いブレーキ系異常診断処理、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理、第2調圧流路遮断異常診断処理のプログラムのフローチャートを、図8から図10にそれぞれ示す。
【0102】
ブレーキ系異常診断処理は、図8にフローチャートを示すプログラムに従って実行される。このプログラムに従う処理では、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様とする)において、各開閉弁が制御され、液圧調整装置120の作動により、S3において、調整圧PCがブレーキ圧診断目標圧PT1とさせられる。次に、各リニア弁が閉弁させられてから時間TB経過後、S6において、時間TB経過後の調整圧PCがブレーキ圧異常診断圧PC1より低下しているかどうかが診断される。低下している場合には、S7において、ブレーキ圧が異常である、つまり、液圧調整装置120によって調圧された作動液のブレーキ装置116への供給において異常があると診断される。
【0103】
パイロット圧依存調圧機能異常診断処理は、図9にフローチャートを示すプログラムに従って実行される。このプログラムに従う処理では、S11において、各開閉弁が制御され、液圧調整装置120の作動により、S13において、調整圧PCがパイロット圧依存調圧機能診断目標圧PT2とさせられる。次に、増圧用開閉弁170および増圧リニア弁370が閉弁され、減圧リニア弁372が開弁されて、S15において、調整圧PCがパイロット圧依存異常診断圧PC2を下回っているかどうかが診断される。下回っている場合には、S16において、液圧調整装置120のパイロット圧依存調圧機能が異常であると診断される。
【0104】
また、第2調圧流路遮断異常診断処理は、図10にフローチャートを示すプログラムに従って実行される。このプログラムに従う処理では、S21において、増圧用開閉弁170が閉弁させられて、液圧調整装置120の作動により、S23において、調整圧PCが第1遮断診断目標圧PT3とさせられる。次に、各リニア弁が閉弁され、減圧用開閉弁172が開弁されて、S26において、調整圧PCが第2調圧流路遮断異常診断圧PC3に至らないかどうかが診断される。低下している場合には、S27において、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常があると診断される。
【0105】
≪ブレーキECUの機能構成≫
このような液圧制動システム100において、ブレーキECU48は、液圧調整装置120に供給される電力および各開閉弁の作動の制御を実行し、液圧制動システム診断と作動モードの切換とを実行する制御装置と考えることができる。また、ブレーキECU48は、これらの実行を行ういくつかの機能部を有すると考えることができる。具体的には、図2に示すように、ブレーキECU48は、作動制御部として液圧制動システム100を作動モード1から3において作動させる作動モード切換処理部480と、液圧制動システム診断を実行する異常診断部482とを有していると考えることができる。また、異常診断部482は、各異常診断を実行する機能部、例えば、ブレーキ系異常診断処理を実行するブレーキ圧異常診断部484や、パイロット圧依存調圧機能異常診断処理を実行するパイロット圧依存調圧機能異常診断部486や、第2調圧流路遮断異常診断処理を実行する第2調圧流路遮断異常診断部488などを有していると考えることができる。
【0106】
≪変形例≫
本液圧制動システム100の第2調圧流路の遮断についての診断処理には、前述の第2調圧流路遮断異常診断処理に代えて、他の診断処理を用いることができる。以下にその診断処理について説明する。
【0107】
本変形例の第2調圧流路遮断異常診断処理では、増圧用開閉弁170が開弁され、調整圧PCが第2設定圧としてあらかじめ設定された第1遮断診断目標圧PT3となるように、液圧調整装置120に供給される電力が制御される。次いで、増圧用開閉弁170が閉弁され、調整圧PCが第3設定圧としてあらかじめ設定された第2遮断診断目標圧PT4となるように、液圧調整装置120に供給される電力が制御される。次に、増圧リニア弁370および減圧リニア弁372が閉弁されることで、連通路460は、増圧用開閉弁170から液圧調整装置120側の作動液の圧力が第2遮断診断目標圧PT4となり、ブレーキ装置116側の作動液の圧力が第1遮断診断目標圧PT3となる。そのため、増圧用開閉弁170の前後において圧力差が発生することとなり、増圧用開閉弁170に漏れなどの異常が発生している場合には、液圧調整装置120側の作動液がブレーキ装置116側へと流れ出し、調整圧PCは、第2遮断診断目標圧PT4から低下してしまう。したがって、調整圧PCが、第2遮断診断目標圧PT4にマージンを設けて設定された基準圧、つまり、第2遮断診断目標圧PT4以下に設定された第2調圧流路遮断異常診断圧PC4に至らない場合に、第2調圧流路遮断異常診断処理は、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常があると診断する。
【0108】
本変形例の第2調圧流路遮断異常診断処理は、図11にフローチャートを示すプログラムに従って実行される。このプログラムに従う処理では、S31において、増圧用開閉弁170が開弁されて、液圧調整装置120の作動により、S33において、調整圧PCが第1遮断診断目標圧PT3とされる。次に、S34において、各リニア弁が閉弁され、減圧用開閉弁172が開弁されて、S35において、調整圧PCが第2遮断診断目標圧PT4とされる。次に、各リニア弁が閉弁されて、S37において、調整圧PCが第2調圧流路遮断異常診断圧PC4に至らないかどうかが診断される。至らない場合には、S38において、増圧用開閉弁170による第2調圧流路の遮断に異常があると診断される。
【実施例2】
【0109】
本実施例の液圧制動システム500のハード構成は、液圧調整装置を除いて、先の液圧制動システム100とほぼ同様の構成とされているため、ハード構成に関して液圧調整装置501とそれに接続される液通路等を図12に示し、システム全体の図面とそれの説明を省略することとする。
【0110】
≪液圧調整装置の構成≫
液圧調整装置501は、電磁式のリニア弁とされており、図12に示すように、中空形状のハウジング502と、そのハウジング502内にそれの軸線方向に移動可能に設けられたプランジャ504と、ハウジング502の外周に設けられた円筒状のコイル506とを備えている。ハウジング502は、下方に設けられた有底円筒状の下部外殻部材508と、上方に設けられた有蓋円筒状の上部外殻部材510と、それら下部外殻部材508と上部外殻部材510とを連結する概して円柱状のコア512と、上部外殻部材510の内部に設けられた有蓋円筒状の区画部材514とによって構成されている。
【0111】
コア512は、最も外径の大きいフランジ部516と、そのフランジ部516の下方に位置しフランジ部516の外径より小さな外径の下方部518と、フランジ部516の上方に位置しフランジ部516の外径より小さな外径の上方第1外径部520と、その上方第1外径部520の上方に位置し上方第1外径部520の外径より小さな外径の上方第2外径部522とを有している。コア512の下方部518は下部外殻部材508に固定的に嵌合されており、コイル506は、下部外殻部材508に外嵌するようにしてフランジ部の516下面側に配設されている。
【0112】
コア512には、ハウジング502の軸線方向に貫通する貫通穴524が形成されており、プランジャ504は、その貫通穴524に挿入されるロッド部526と、コア512の下端面と下部外殻部材508の内底面との間に配設される本体部528とを有している。ロッド部526は、下方に位置し外径の大きい大径部530と、上方に位置し外径の大きい小径部532とを有しており、貫通穴524の内周面は、上方に位置し内径の大きい大内径部534と、下方に位置し内径の小さい小内径部536とに区分けされている。ロッド部526の大径部530は貫通穴524の小内径部536に摺動可能に嵌合されており、ロッド部526の小径部532は貫通穴524の大内径部534にクリアランスを設けた状態で挿入されている。
【0113】
上部外殻部材510は、下端部に位置し内径の最も大きい第1内径部540と、その第1内径部540の上方に位置し第1内径部540の内径より小さな内径の第2内径部542と、上端部に位置し内径の最も小さい第3内径部544と、その第3内径部544と第2内径部542との間に位置し第2内径部542の内径より小さく、かつ第3内径部544の内径より大きい内径の第4内径部546とを有する。コア512の上方第2外径部522は上部外殻部材510の第2内径部542に固定的に嵌合されており、コア512の上方第1外径部520は、上部外殻部材510の第1内径部540に固定的に嵌合されている。上方第1外径部520と上方第2外径部522との間の段差面と、第1内径部540と第2内径部542との間の段差面とは離隔しており、それら2つの段差面と上方第2外径部522と第1内径部540とによって第1液室548が区画されている。なお、上部外殻部材510と下部外殻部材508とコア512とは、ハウジング502を構成する本体部材として機能している。
【0114】
区画部材514は、下端部に位置し外径の大きい大径部550と、上端部に位置し外径の小さい小径部552とを有しており、小径部552は上部外殻部材510の第3内径部544に、大径部550は上部外殻部材510の第4内径部546に、それぞれ摺動可能に嵌合されている。区画部材514の下端面とコア512の上端面との間には、コイルスプリング554が圧縮された状態で配設されている。そのコイルスプリング554の弾性力によって区画部材514は上方に付勢されており、区画部材514の蓋部の上端面と上部外殻部材510の蓋内面とが当接している。区画部材514の上端面は僅かに凹んでおり、その凹んだ部分と上部外殻部材510の蓋内面とによって第2液室556が区画されている。また、大径部550と小径部552との間の段差面と、第3内径部544と第4内径部546との間の段差面とは離隔しており、それら2つの段差面と小径部552と第4内径部546とによって第3液室558が区画されている。
【0115】
さらに、区画部材514の蓋内側には、円板状のリアクションディスク560が設けられている。そのリアクションディスク560は、それの上面において、区画部材514の蓋部によって支持されている。区画部材514の内周部562には、概して中空円筒形状の第1移動部材566が摺動可能に嵌合されており、その第1移動部材566の上端面がリアクションディスク560の下面に接触している。第1移動部材566は、それのほぼ中間における外周面において径方向に突出する突出部568と、その突出部568の上方に位置する上方円筒部569と、突出部568の下方に位置する下方円筒部570とを有している。また、区画部材514の内周部562の下方への開口は、テーパ状とされており、その開口に第1移動部材566の突出部568が着座可能とされている。つまり、突出部568は、区画部材514の開口を塞ぐことができる弁体として機能することができる。また、突出部568の下方円筒部570は、貫通穴524の大内径部534に摺動可能に嵌合されている。このような構造によって、上部外殻部材510の第4内径部546と、区画部材514の下端面と、コア512の上端面と、第1移動部材566の下方円筒部570とによって第4液室572が区画されている。
【0116】
第1移動部材566の下端面とコア512の上端面との間には、コイルスプリング573が圧縮された状態で配設されている。そのコイルスプリング573の弾性力によって第1移動部材566はその第1移動部材566の突出部568が内周部562の開口に着座する方向に付勢されており、突出部568は内周部562の開口に着座している。また、第1移動部材566の外周面は僅かに凹んでおり、その第1移動部材566の外周面の凹んだ部分と区画部材514の内周部562とによって第5液室576が区画されている。
【0117】
その第1移動部材566の内部には、概して円柱状の第2移動部材578が貫通した状体で設けられている。その第2移動部材578は、上端をリアクションディスク560に接触させた状態で第1移動部材566内に軸線方向に摺動可能に設けられている。その第2移動部材578の外周面は僅かに凹んでおり、その凹んだ部分と第1移動部材566の内周面との間にクリアランス580が存在している。また、第2移動部材578の下端部は、第1移動部材566から下方に延び出すとともに、コア512の貫通穴524に摺動可能に嵌合されている。
【0118】
クリアランス580と第4液室572とを連通する連通穴582が第1移動部材566の壁面に形成されており、第4液室572内の作動液がその連通穴582を介してクリアランス580にも流入するようになっている。つまり、連通穴582およびクリアランス580も、第5液室576の一部として機能している。また、第2移動部材578の内部には、下端面と外周面とに開口し、クリアランス580と貫通穴524内とを連通する内部連通路584が形成されている。その内部連通路584の貫通穴524内部への開口は、テーパ状とされており、上記プランジャ504のロッド部526の先端と向かい合っている。また、第2移動部材578のそのテーパ状とされた開口を有する面と、ロッド部526の大径部530と小径部532との間の段差面との間には、コイルスプリング586が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング586の弾性力によってプランジャ504は下方に付勢されている。したがって、そのプランジャ504の先端は、上記コイルスプリング586の弾性力によってプランジャ504の先端が内部連通路584の開口から離隔する方向に付勢されており、そのコイルスプリング586の弾性力に抗してプランジャ504が上方に移動することで、プランジャ504の先端が、内部連通路584の開口に着座するようにされている。
【0119】
区画部材514の大径部550の僅かに凹んだ部分と上部外殻部材510の第4内径部546との間には、クリアランス590が存在しており、そのクリアランス590に開口する高圧ポート592が、その第4内径部546に形成されている。また、そのクリアランス590と第5液室576とを連通する第1連通路594が、区画部材514の径方向に延びるように形成されており、高圧ポート592には、高圧源圧装置118に至る液通路が接続されている。つまり、高圧ポート592とクリアランス590と第1連通路594とを介して、第5液室576に高圧源圧とされた作動液を供給することが可能とされている。
【0120】
上部外殻部材510の第1内径部540には、第1液室548に開口する低圧ポート600が形成されており、その低圧ポート600を介して、第1液室548にはリザーバ122に至る液通路が接続されている。その第1液室548と貫通穴524の大内径部534とを連通する第2連通路602が、コア512内に径方向に延びるように形成されており、その第2連通路602および貫通穴524も第1液室548の一部として機能している。以下、第1液室548と第2連通路602と貫通穴524とをまとめて第1液室548等という場合がある。また、上部外殻部材510の第4内径部546には、第3液室558に開口するドレインポート604が形成されており、リザーバ122に連通する液通路が、ドレインポート604を介して第3液室558に接続されており、第3液室558の容積変化が許容されている。
【0121】
上部外殻部材510の第4内径部546には、第4液室572に開口するポート608が形成されており、そのポート608を介して、第1連通路である連通路456が第4液室572に接続されている。また、上部外殻部材510の蓋部には、第2液室556に開口するポート610が形成されており、そのポート610を介して、連通路458が第2液室556に接続されている。このような構造によって、本液圧調整装置501においても、先の液圧制動システム100の液圧調整装置120と同様に、コイル506への電力を制御することで、調整圧を制御することが可能となっている。
【0122】
≪液圧調整装置の作動≫
上述した構造によって、液圧調整装置501は、コイル506に電流が供給されていないときには、第5液室576から第4液室572への作動液の流れを遮断するとともに、第4液室572から第1液室548等への作動液の流れを許容する。つまり、コイル506に電流が供給されていないときには、第4液室572はリザーバ122と連通しており、第4液室572内の作動液の圧力である調整圧は大気圧となっている。また、コイル506に電流を供給することによって、第4液室572から第1液室548等への作動液の流れを遮断するとともに、第5液室576から第4液室572への作動液の流れを許容することで、調整圧を増加させることができる。さらに、調整圧を増加した後にコイル506への電力の供給量を減らすことによって、第5液室576から第4液室572への作動液の流れを遮断するとともに、第4液室572から第1液室548等への作動液の流れを許容することで、増加した調整圧を減少させることができる。
【0123】
詳しく説明すれば、コイル506に電流が供給されていないときには、コイルスプリング574の弾性力によって、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口に着座しており、第5液室576と第4液室572との間の作動液の流れが遮断されている。さらに、コイルスプリング586の弾性力によってプランジャ504の先端は第2移動部材578の内部連通路584の下方への開口から離隔しており、第4液室572と第1液室548等との間の作動液の流れが許容されている。このため、調整圧は大気圧となっている。
【0124】
コイル506に電流が供給されると、プランジャ504の先端が内部連通路584の開口に接近する方向にプランジャ504を移動させようとする電磁力が生じる。この電磁力によって、まず、プランジャ504がコイルスプリング586の弾性力に抗して上方に移動して、プランジャ504の先端が内部連通路584の開口へ着座する。この状態において、第4液室572と第1液室548等との間の作動液の流れは遮断されており、第5液室576と第4液室572との間の作動液の流れも遮断されている。そして、プランジャ504の先端が開口へ着座した状態、つまり、プランジャ504が第2移動部材578に当接した状態で、プランジャ504が上方へ移動すると、第2移動部材578も上方に移動する。その第2移動部材578の上方への移動に伴って、ゴム製のリアクションディスク560の第2移動部材578に接触している部分が上方へ変形して、その変形に連動して、リアクションディスク560の第1移動部材566に接触している部分が下方へ変形する。そして、第1移動部材566の下方への移動に伴って、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口から離隔することで、第5液室576と第4液室572との間の作動液の流れが許容されるのである。このように、コイル506への電力を制御することで、調整圧を制御可能に増加させることが可能となっている。
【0125】
また、調整圧が増加させられた後に、コイル506への電力の供給量を減らせば、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口に着座する状態で、プランジャ504の先端が内部連通路584の開口に着座する。したがって、調整圧は、その状態における圧力に維持されることになる。そして、その状態からコイル506への電力の供給量をさらに減らせば、プランジャ504の先端が内部連通路584の開口から離隔して、第1液室548等と第4液室572との間の作動液の流れが許容される。つまり、コイル506への電力を制御することで、調整圧を制御可能に減少させることが可能となっている。
【0126】
液圧調整装置501への電力の供給がされていない場合には、マスタシリンダ装置110の作動によって加圧された作動液が、パイロット圧流路である連通路458を介して、第2液室556に流入する。そのため、第2液室556内の作動液の圧力による区画部材514を下方に押す力が、調整圧による区画部材514を上方に押す力より大きくなったときに、区画部材514が下方に移動する。区画部材514の下方への移動に伴って、第1移動部材566と第2移動部材578とリアクションディスク560とが下方に移動し、まず、第2移動部材578の内部連通路584の下方の開口に、プランジャ504の先端が着座する。この状態において、第1液室548等と第4液室572との間の作動液の流れが遮断される。そして、区画部材514がさらに下方に移動すると、第1移動部材566とリアクションディスク560とは下方に移動させられるが、第2移動部材578は、プランジャ504と当接しているために下方に移動できず、リアクションディスク560の第2移動部材578が接触している部分を変形させる。そのリアクションディスク560の変形に伴って、第1移動部材566がさらに下方に移動させられ、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口から離隔することで、第5液室576と第4液室572との間の作動液の流れが許容される。このように、液圧調整装置501は、自身への電力の供給がされていない場合であっても、パイロット圧として自身に導入された作動液の圧力に応じて、第4液室572の作動液を調圧するパイロット圧依存調圧機能を有しているのである。
【0127】
このように作動する液圧調整装置501が、プランジャ504の先端が第2移動部材578の内部連通路584の下方の開口に着座しつつ、第1移動部材566の突出部568が区画部材514の下方への開口に着座している状態になると、調整圧はその状態における大きさで維持されることになる。また、この状態において、区画部材514は停止されていることになる。この状態における区画部材514に作用する力について詳しく説明すると、パイロット圧により区画部材514を下方に押す力と、調整圧により区画部材514を上方に押す力とは、平衡した状態において維持されることとなる。つまり、パイロット圧PPの区画部材514に作用する受圧面積をA5とすれば、区画部材514を下方に押す力は、A5×PPとなる。一方、調整圧PCの区画部材514に作用する受圧面積をA6とすれば、区画部材514を上方に押す力は、A6×PCとなる。なお、受圧面積A5、A6は、それぞれ、区画部材514の小径部552の断面積、大径部550の断面積となる。圧縮コイルスプリング554、574の発生する力がこれらの力に比べて無視できるほど小さいと考えれば、A5×PP=A6×PCとなった状態で、調整圧PCは維持されることになる。したがって、調整圧PCは、A5/A6×PPにより算出されることになる。つまり、パイロット圧PPの区画部材514に作用する受圧面積A5と調整圧PCの押圧部材386に作用する受圧面積A6との面積比は、調整圧PCのパイロット圧PPに対する設定比とされており、調整圧PCは、パイロット圧PPに対してその設定比となる圧力に調整されるのである。なお、この設定比は、第1実施例のの液圧制動システム100における調圧弁装置374の設定比と同じとされている。
【0128】
≪液圧制動システム診断≫
前述のように作動する液圧制動システム500において、ブレーキECU48は、第1実施例の液圧制動システム100と同様に、液圧制動システム500の作動を制御する。また、本実施例の液圧制動システム診断も、第1実施例の液圧制動システム100と同様に行われる。しかしながら、本液圧制動システム500の液圧調整装置501は、自身への電力の供給がされないと、リザーバ122への逆流を許容する構造とされている。つまり、第1実施例の液圧制動システム100の液圧調整装置120では、増圧リニア弁370と減圧リニア弁372とを閉弁することで、第2調圧流路に作動液を封じ込めることができる構造とされていたが、本液圧調整装置501は、そのような構造とされていない。そのため、第2調圧流路遮断異常診断処理の実行中、調整圧PCが第1遮断診断目標圧PT3となるように、液圧調整装置501への電力の供給は続けられている。つまり、液圧調整装置501は、調整圧PCが第1遮断診断目標圧PT3に維持されるように作動し続けることとなる。
【0129】
このように作動する液圧調整装置501では、第2調圧流路の遮断の異常による漏れが小さい場合には、減圧用開閉弁172が開弁されたとき、調整圧PCは、第1遮断診断目標圧PT3から一旦低下してもすぐに第1遮断診断目標圧PT3に復帰してしまう。本液圧制動システム500の第2調圧流路遮断異常診断処理は、そのような漏れが小さい場合であっても、減圧用開閉弁172を開弁した後の調整圧の僅かな低下によって遮断異常を診断する。そのため、本液圧制動システム500の第2調圧流路遮断異常診断処理では、第1遮断診断目標圧PT3以下に設定される基準圧である第2調圧流路遮断異常診断圧PC3が、そのことも考慮したマージンを設けて設定されている。
【実施例3】
【0130】
本実施例の液圧制動システム700のハード構成は、液圧調整装置を除いて、先の液圧制動システム100とほぼ同様の構成とされているため、ハード構成に関して液圧調整装置701とそれに接続される液通路等を図14に示し、システム全体の図面とそれの説明を省略することとする。
【0131】
≪液圧調整装置の構成≫
液圧調整装置702は、自身に導入される作動液の圧力に応じて作動液を調整圧に調圧する調圧弁装置704と、高圧源装置118に繋がれる増圧用リニア弁704と、リザーバ122に繋がれる減圧用リニア弁706とを有している。調圧弁装置704は、それら増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706に繋がれており、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706の作動によって、調整圧とされた作動液を、マスタシリンダ装置110の供給液室R3、および、ブレーキ装置116に供給することができる。
【0132】
調圧弁装置704は、図2に示すように、中空形状のハウジング710と、そのハウジング710内にそれの軸線方向に移動可能に設けられたプランジャ712と、そのプランジャ712の下方において軸線方向に移動可能に設けられた円柱状の棒状ピストン714と、プランジャ712の上方において軸線方向に移動可能に設けられた移動部材716とを備えている。ハウジング710は、概して円筒状の外殻部材718と、その外殻部材718の下端部が固定的に嵌合される有底円筒部材720と、外殻部材718の上端を塞ぐ蓋部材722とを有しており、内部に作動液が充填されている。
【0133】
外殻部材718の内周面は、5つの異なる内径の内径部によって構成されており、上方へ向かうほど内径は大きくなっている。つまり、下端部から順番に、内径の最も小さい第1内径部724,その第1内径部724の内径より大きい内径の第2内径部726,その第2内径部726の内径より大きい内径の第3内径部728,その第3内径部728の内径より大きい内径の第4内径部730,内径の最も大きい第5内径部732が位置しており、外殻部材718の内周面は段付形状とされている。
【0134】
棒状ピストン714の外周面も段付形状とされており、上端部に位置し外径の大きい大径部734と、下端部に位置し外径の小さい小径部736とに区分けされている。その棒状ピストン714の小径部736は外殻部材718の第1内径部724に摺動可能に嵌合されており、大径部734は第2内径部726に摺動可能に嵌合されている。大径部734と小径部736との間の段差面と、第1内径部724と第2内径部726との間の段差面とは当接しており、棒状ピストン714の下方への移動範囲が制限されている。なお、外殻部材718に棒状ピストン714が嵌合された状態で、外殻部材718と棒状ピストン714と有底円筒部材720とによって第1液室738が区画されている。
【0135】
プランジャ712は、円柱状の本体部740と、その本体部740の上方に位置しその本体部740の外径より小さな外径の中間部742と、中間部742の上方に位置しその中間部742の外径より小さな外径のロッド部744とによって構成されている。プランジャ712の本体部740は、外殻部材718の第2内径部726に摺動可能に嵌合されており、本体部740の下端面が棒状ピストン714の上端面に形成された凸部746と当接している。凸部746と本体部740の下端面とが当接した状態でも、本体部740の下端面と棒状ピストン714の上端面との間にはクリアランスが存在し、そのクリアランスが第2液室748として機能している。
【0136】
移動部材716の外周面も段付形状とされており、最も外径の大きいフランジ部750と、フランジ部750の上方に位置しフランジ部750の外径より小さな外径の上方第1外径部752と、その上方第1外径部752の上方に位置し上方第1外径部752の外径より小さな外径の上方第2外径部754と、フランジ部750の下方に位置しフランジ部750の外径より小さな外径の下方第1外径部756と、その下方第1外径部756の下方に位置し下方第1外径部756の外径より小さな外径の下方第2外径部758とによって構成されている。下方第2外径部758は、外殻部材718の第3内径部728に摺動可能に嵌合されており、第2室間部としての第3内径部728の上方への開口に移動部材716の外周面が着座可能とされている。詳しく言えば、第3内径部728と第4内径部730との間の段差面760がテーパ状とされており、下方第1外径部756と下方第2外径部758との間の段差面が、弁体として機能し、テーパ状とされた上記段差面760に着座可能とされている。
【0137】
ハウジング710の上端に固定的に嵌合された蓋部材722の下面には、凹部770が形成されており、凹部770の下方への開口に移動部材716の上方第2外径部754が摺動可能に嵌合されている。蓋部材722の下面と移動部材716のフランジ部750との間にはコイルスプリング772が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング772の弾性力によって移動部材716が下方に付勢されている。つまり、コイルスプリング772の弾性力によって、移動部材716の外周面の弁体として機能する部分が外殻部材718の内周面に形成された段差面760に接近する方向に、移動部材716が付勢されている。ちなみに、移動部材716の外周面が段差面760に着座した状態において、外殻部材718の第4内径部730と移動部材716とによって第3液室774が区画されている。また、移動部材716の下方第2外径部758の外周面は僅かに凹んでおり、着座状態において、下方第2外径部758の外周面の凹んだ部分と外殻部材718の第3内径部728とによって第4液室776が区画されている。
【0138】
移動部材716の内部には、それの軸線方向に貫通する貫通穴780が形成されており、その貫通穴780は、移動部材716の上端面および下端面に開口している。移動部材716の内部には、さらに、下方第1外径部756の外周面と貫通穴780とに開口する接続穴782が径方向に延びるように形成されている。貫通穴780には、それの上端の開口から、概して円柱状のピン262が摺動可能に挿入されており、そのピン784の上端面は蓋部材722の凹部770の内面において支持されている。蓋部材722の凹部770の内部には、ピン784を貫通させた状態で環状のゴム部材786が設けられており、そのゴム部材786の下面に移動部材716の上端面が密着している。ゴム部材786はシールとして機能しており、そのゴム部材786によって移動部材716と蓋部材722との間の液漏れが禁止されている。
【0139】
貫通穴780には、それの下端の開口から、プランジャ712のロッド部744および中間部742が挿入されており、貫通穴780の下端の開口に、プランジャ712の外周面が着座可能とされている。詳しく言えば、貫通穴780の下端の開口がテーパ状とされており、プランジャ712の中間部742と本体部740との間の段差面が、弁体として機能し、テーパ状とされた開口に着座可能とされている。また、プランジャ712のロッド部744と中間部742との間の段差面と、貫通穴780の内部に形成された段差面との間にはコイルスプリング790が圧縮された状態で配設されており、そのコイルスプリング790の弾性力によってプランジャ712が下方に付勢されている。つまり、コイルスプリング790の弾性力によって、プランジャ712の外周面の弁体として機能する部分が貫通穴780の下端の開口から離隔する方向に、プランジャ712が付勢されている。ちなみに、プランジャ712がコイルスプリング790の弾性力に抗して貫通穴780の下端の開口に着座した状態において、外殻部材718の第3内径部728とプランジャ712の本体部740と移動部材716の下端面とによって第5液室792が区画されている。
【0140】
外殻部材718の第3内径部728には、第4液室776と外殻部材718の外周面とに開口する第1連通路794が径方向に延びるように形成されており、その第1連通路794の外周面への開口には、高圧源装置118に連通する液通路が接続されている。つまり、第4液室776は、その液通路を介して、高圧源装置118によって高圧とされた作動液が流入するものとされている。また、外殻部材718の第3内径部728には、第5液室792と外殻部材718の外周面とに開口する第2連通路796が径方向に延びるように形成されており、その第2連通路796の外周面への開口には、リザーバ122に連通する連通路が接続されている。つまり、第5液室792は、その連通路を介して、リザーバ122に作動液を流出させるものとされている。ちなみに、第3内径部728に移動部材716の下方第2外径部758が嵌合されることで、第5液室792と第4液室776との間の作動液の流通は遮断されている。なお、第2連通路796には、外殻部材718の第1内径部724に開口するドレイン路798が繋がっている。
【0141】
外殻部材718の第2内径部726には、第2液室748と外殻部材718の外周面とに開口する第3連通路800が径方向に延びるように形成されており、その第3連通路800の外周面への開口には、常閉弁とされた電磁式の増圧用リニア弁704に接続される液通路が繋げられている。また、その液通路は分岐しており、その分岐した液通路は、常開弁とされた電磁式の減圧用リニア弁706に接続されている。
【0142】
外殻部材718の第4内径部730には、第3液室774と外殻部材718の外周面とに開口する第4連通路802が径方向に延びるように形成されており、その第4連通路802の外周面への開口に、第1調圧流路である連通路456が接続されている。また、有底円筒部材720には、第1液室738に開口するポート804が形成されており、そのポート804を介して、パイロット圧流路である連通路458が接続されている。
【0143】
≪液圧調整装置の作動≫
上述した構造によって、調圧弁装置704は、第2液室748に供給される作動液の圧力(以下、「制御用液圧」という場合がある)に応じて各液室間の作動液の流通状態を切り換えることで、第3液室774内の作動液の圧力を調整し、連通路456に調整圧とされた作動液を供給することが可能とされている。制御用液圧は、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706への電力が制御されることで増減されるようになっている。詳しく言えば、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706への電力の供給がされていない状態において、増圧用リニア弁704は閉弁されるとともに減圧用リニア弁706は開弁されており、制御用液圧は大気圧となる。そして、減圧用リニア弁706に設定された範囲における最大電流が供給され、増圧用リニア弁704への電力を制御することで、減圧用リニア弁706が閉弁された状態で増圧用リニア弁704の開弁量が制御される。この際、制御用液圧は、増圧用リニア弁704への電力に応じて増加される。制御用液圧が増加させられた後に、増圧用リニア弁704への電力の供給をせず、減圧用リニア弁706への電力を制御すれば、増圧用リニア弁704が閉弁された状態で減圧用リニア弁706の開弁量が制御される。この際、制御用液圧は、減圧用リニア弁706への電力に応じて減少させられるのである。
【0144】
上述したように、制御用液圧が増加されると、プランジャ712が上方へ付勢される。つまり、制御用液圧の増加によって、プランジャ712には、プランジャ712を貫通穴780の下端の開口(以下、「第5液室側開口」という場合がある)に接近させる方向の力が作用するのである。この力によって、まず、プランジャ712がコイルスプリング790の弾性力に抗して上方に移動し、プランジャ712の外周面が第5液室側開口に着座する。この状態において、第3液室774と第5液室792との間の作動液の流れは遮断されており、第4液室776と第3液室774との間の作動液の流れも遮断されている。そして、プランジャ712の外周面が第5液室側開口へ着座した状態でプランジャ712が上方へ移動すると、移動部材716も上方に移動する。移動部材716が上方へ移動すると、移動部材716の外周面が外殻部材718に形成された段差面760から離隔し、第4液室776から第3液室774への作動液の流れが許容され、調整圧が増加される。このように、制御用液圧を制御することで調整圧を制御可能に増加させることが可能となっている。つまり、増圧用リニア弁704への電力に応じて調整圧を増加させることが可能となっている。
【0145】
また、調整圧が増加させられた後に、増圧用リニア弁704が閉弁されるとともに減圧用リニア弁706の開弁量が制御されると、制御用液圧が減少され、プランジャ712が第5液室側開口に着座する状態で、移動部材716の外周面が段差面760に着座する。したがって、調整圧は、その状態における圧力に維持されることになる。そして、さらに制御用液圧を減少させると、プランジャ712が第5液室側開口から離隔して、第3液室774から第5液室792への作動液の流れが許容され、調整圧が減少される。つまり、減圧用リニア弁706への電力に応じて調整圧を減少させることが可能となっている。
【0146】
また、本液圧調整装置702では、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706への電力の供給がされていない場合には、電力に依拠することなく、マスタシリンダ装置110の作動によって加圧された作動液に依拠して調整圧を増減させるようになっている。詳しく言えば、液圧制動システム700への電力供給がされていない場合には、マスタシリンダ装置110の作動によって加圧された作動液が、パイロット圧流路である連通路458を介して第1液室738に供給される。このため、第1液室738内の作動液の圧力、つまり、パイロット圧の増加に伴って、棒状ピストン714が上方に移動し、その棒状ピストン714によってプランジャ712も上方へ移動する。したがって、前述のように、プランジャ712の上方への移動に伴って、第4液室776から第3液室774への作動液の流れが許容され、調整圧が増加される。また、パイロット圧が減少すれば、それに伴って、棒状ピストン714が下方に移動し、プランジャ712も下方へ移動する。したがって、前述のように、第3液室774から第5液室792への作動液の流れが許容され、調整圧が減少される。このように、本調圧弁装置704は、増圧用リニア弁704および減圧用リニア弁706への電力の供給がされていない場合であっても、パイロット圧として自身に導入された作動液の圧力に応じて、第3液室774の作動液を調圧するパイロット圧依存調圧機能を有しているのである。
【0147】
このように作動する液圧調整装置501が、プランジャ712の外周面が第5液室側開口に着座しつつ、移動部材716の外周面が外殻部材718に形成された段差面760に着座している状態になると、調整圧はその状態における大きさで維持されることになる。また、この状態において、移動部材716は停止されていることになる。この状態における移動部材716に作用する力について詳しく説明すると、パイロット圧により移動部材716を上方に押す力と、調整圧により移動部材716を下方に押す力とは、平衡した状態において維持されることとなる。移動部材716を上方に押す力は、棒状ピストン714がプランジャ712を介して移動部材716に伝達する力である。つまり、パイロット圧PPの棒状ピストン714に作用する受圧面積をA7とすれば、棒状ピストン714を上方に押す力は、A7×PPとなる。一方、調整圧PCの移動部材716に作用する受圧面積をA8とすれば、移動部材716を下方に押す力は、A8×PCとなる。なお、受圧面積A7は、棒状ピストン714の小径部736の断面積であり、受圧面積A8は、第3液室774と第5液室792との差圧を受ける箇所の面積である。圧縮コイルスプリング772、790の発生する力がこれらの力に比べて無視できるほど小さいと考えれば、A7×PP=A8×PCとなった状態で、調整圧PCは維持されることになる。したがって、調整圧PCは、A7/A8×PPにより算出されることになる。つまり、パイロット圧PPの棒状ピストン714に作用する受圧面積A7と調整圧PCの移動部材716に作用する受圧面積A8との面積比は、調整圧PCのパイロット圧PPに対する設定比とされており、調整圧PCは、パイロット圧PPに対してその設定比となる圧力に調整されるのである。なお、この設定比は、第1実施例の液圧制動システム100における調圧弁装置374の設定比と同じとされている。
【0148】
≪液圧制動システム診断≫
前述のように作動する液圧制動システム700において、ブレーキECU48は、第2実施例の液圧制動システム500と同様に、液圧制動システム700の作動を制御する。また、本液圧制動システム700は、第2実施例の液圧制動システム診断と同一の液圧制動システム診断を実行することができる。
【符号の説明】
【0149】
48:ブレーキECU(制御装置) 100:液圧制動システム 110:マスタシリンダ装置 116:ブレーキ装置 118:高圧源装置 120:液圧調整装置 122:リザーバ(低圧源) 140:ブレーキペダル(操作部材) 170:増圧用開閉弁(第2調圧流路遮断器) 172:減圧用開閉弁(低圧源流路遮断器) 442:液通路(マスタ圧流路) 444:液通路(マスタ圧流路) 446:マスタ用開閉弁(マスタ圧流路遮断器) 448:マスタ用開閉弁(マスタ圧流路遮断器) 456:連通路(第1調圧流路) 458:連通路(パイロット圧流路) 460:連通路(第2調圧流路) 462:減圧連通路(低圧源流路) 480:作動モード切換処理部(作動制御部) 482:異常診断部 500:液圧制動システム 501:液圧調整装置 700:液圧制動システム 702:液圧調整装置 PT2:パイロット圧依存調圧機能診断目標圧(第1設定圧) PT3:第1遮断診断目標圧(第2設定圧) PT4:第2遮断診断目標圧(第3設定圧)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液の圧力によって制動力を発生させる液圧制動システムであって、
運転者によって操作される操作部材と、
その操作部材に加えられた操作力と、自身に供給される作動液の圧力とによって作動液を加圧するマスタシリンダ装置と、
車輪に設けられて自身に供給された圧力に応じた制動力を発生させるブレーキ装置と、 高圧の作動液を発生させる高圧源装置と、
その高圧源装置からの圧力を、自身に供給された電力に応じて調圧するとともに、自身に電力が供給されていない状態においても、パイロット圧として自身に導入された作動液の圧力に応じて調圧するパイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置と、
その液圧調整装置から前記マスタシリンダ装置に調圧された作動液を供給するための第1調圧流路と、
その第1調圧流路と連通し、前記液圧調整装置から前記ブレーキ装置に調圧された作動液を供給するための第2調圧流路と、
前記マスタシリンダ装置によって加圧された作動液をそのマスタシリンダ装置から前記ブレーキ装置に供給するためのマスタ圧流路と、
前記第2調圧流路に設けられ、当該第2調圧流路を遮断するための第2調圧流路遮断器と、
前記マスタ圧流路に設けられ、当該マスタ圧流路を遮断するためのマスタ圧流路遮断器と、
前記ブレーキ装置に供給されている作動液の圧力を、前記液圧調整装置に前記パイロット圧として導入するためのパイロット圧流路と、
前記液圧調整装置に供給される電力と、前記第2調圧流路遮断器および前記マスタ圧流路遮断器の作動とを制御する制御装置と
を備え、
その制御装置が、
(a)前記マスタ圧流路遮断器により前記マスタ圧流路を遮断しつつ、前記液圧調整装置に供給される電力を制御することで、前記ブレーキ装置がその電力に応じて調圧された作動液の圧力に依存した制動力を発生させる状態である調圧依存制動力発生状態を実現し、(b)前記第2調圧流路遮断器により前記第2調圧流路を遮断することで、前記液圧調整装置への電力の供給が断たれた場合においても、前記マスタシリンダ装置からの作動液の圧力によって、前記ブレーキ装置が前記操作力と前記パイロット圧に応じて調圧された作動液の圧力との両方に依存した制動力を発生させる状態である操作力・調圧依存制動力発生状態を実現する作動制御部と、
当該液圧制動システムの異常についての診断を実行する異常診断部と
を有し、
その異常診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器および前記第2調圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路および前記第2調圧流路がそれぞれ遮断されて前記ブレーキ装置に第1設定圧の作動液が封じ込められた状態において、前記液圧調整装置への電力の供給を停止した際の、前記液圧調整装置によって調圧される作動液の圧力に基づいて、前記液圧調整装置の前記パイロット圧依存調圧機能についての異常を診断するパイロット圧依存調圧機能診断部を有する液圧制動システム。
【請求項2】
前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路を遮断した状態で前記液圧調整装置に電力を供給することで前記第2調圧流路を介して前記第1設定圧の作動液を前記ブレーキ装置に供給し、その後に、前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断して、前記ブレーキ装置に前記第1設定圧の作動液を封じ込めるように構成された請求項1に記載の液圧制動システム。
【請求項3】
前記液圧調整装置が有する前記パイロット圧依存調圧機能が、前記高圧源装置からの作動液の圧力を、前記パイロット圧に対して設定比となる圧力に調圧する機能であり、
前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記液圧調整装置への電力の供給を禁止した際に前記液圧調整装置によって調圧される作動液の圧力が、前記第1設定圧に対する前記設定比となる圧力以下に設定された圧力に至らない場合に、前記パイロット圧依存調圧機能が異常であると診断するように構成された請求項1または請求項2に記載の液圧制動システム。
【請求項4】
前記異常診断部が、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常について診断する第2調圧流路遮断異常診断部を有する請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の液圧制動システム。
【請求項5】
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路を遮断した状態において、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された請求項4に記載の液圧制動システム。
【請求項6】
当該液圧制動システムが、前記ブレーキ装置の作動液を低圧源に導くための低圧源流路と、前記ブレーキ装置に作動液が供給される際に前記低圧源流路を遮断する低圧源流路遮断器とを備え、
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断した状態で前記液圧調整装置に電力を供給することで前記第2調圧流路に第2設定圧の作動液を供給し、その後に、前記低圧源流路遮断器による前記低圧源流路の遮断を解除し、その際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力に基づいて、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された請求項5に記載の液圧制動システム。
【請求項7】
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記低圧源流路遮断器による前記低圧源流路の遮断を解除した際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力が、前記第2設定圧以下に設定された圧力を下回った場合に、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常であると診断するように構成された請求項6に記載の液圧制動システム。
【請求項8】
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記液圧調整装置に電力を供給することで第2調圧流路を介して第2設定圧の作動液を前記ブレーキ装置に供給し、その後に、前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断するとともに作動液の圧力を前記第2設定圧より高い第3設定圧に増圧すべく前記液圧調整装置に供給する電力を増加させ、その際の前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力に基づいて、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された請求項5に記載の液圧制動システム。
【請求項9】
前記第2調圧流路遮断異常部が、
前記液圧調整装置に供給する電力を増加させた際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力が、前記第3設定圧以下に設定された圧力に至らない場合に、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常であると診断するように構成された請求項8に記載の液圧制動システム。
【請求項10】
前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記第2調圧流路遮断異常診断部によって、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常でないと診断されたことを条件として、前記パイロット圧依存調圧機能が異常であると診断するように構成された請求項4ないし請求項9のいずれか1つに記載の液圧制動システム。
【請求項1】
作動液の圧力によって制動力を発生させる液圧制動システムであって、
運転者によって操作される操作部材と、
その操作部材に加えられた操作力と、自身に供給される作動液の圧力とによって作動液を加圧するマスタシリンダ装置と、
車輪に設けられて自身に供給された圧力に応じた制動力を発生させるブレーキ装置と、 高圧の作動液を発生させる高圧源装置と、
その高圧源装置からの圧力を、自身に供給された電力に応じて調圧するとともに、自身に電力が供給されていない状態においても、パイロット圧として自身に導入された作動液の圧力に応じて調圧するパイロット圧依存調圧機能を有する液圧調整装置と、
その液圧調整装置から前記マスタシリンダ装置に調圧された作動液を供給するための第1調圧流路と、
その第1調圧流路と連通し、前記液圧調整装置から前記ブレーキ装置に調圧された作動液を供給するための第2調圧流路と、
前記マスタシリンダ装置によって加圧された作動液をそのマスタシリンダ装置から前記ブレーキ装置に供給するためのマスタ圧流路と、
前記第2調圧流路に設けられ、当該第2調圧流路を遮断するための第2調圧流路遮断器と、
前記マスタ圧流路に設けられ、当該マスタ圧流路を遮断するためのマスタ圧流路遮断器と、
前記ブレーキ装置に供給されている作動液の圧力を、前記液圧調整装置に前記パイロット圧として導入するためのパイロット圧流路と、
前記液圧調整装置に供給される電力と、前記第2調圧流路遮断器および前記マスタ圧流路遮断器の作動とを制御する制御装置と
を備え、
その制御装置が、
(a)前記マスタ圧流路遮断器により前記マスタ圧流路を遮断しつつ、前記液圧調整装置に供給される電力を制御することで、前記ブレーキ装置がその電力に応じて調圧された作動液の圧力に依存した制動力を発生させる状態である調圧依存制動力発生状態を実現し、(b)前記第2調圧流路遮断器により前記第2調圧流路を遮断することで、前記液圧調整装置への電力の供給が断たれた場合においても、前記マスタシリンダ装置からの作動液の圧力によって、前記ブレーキ装置が前記操作力と前記パイロット圧に応じて調圧された作動液の圧力との両方に依存した制動力を発生させる状態である操作力・調圧依存制動力発生状態を実現する作動制御部と、
当該液圧制動システムの異常についての診断を実行する異常診断部と
を有し、
その異常診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器および前記第2調圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路および前記第2調圧流路がそれぞれ遮断されて前記ブレーキ装置に第1設定圧の作動液が封じ込められた状態において、前記液圧調整装置への電力の供給を停止した際の、前記液圧調整装置によって調圧される作動液の圧力に基づいて、前記液圧調整装置の前記パイロット圧依存調圧機能についての異常を診断するパイロット圧依存調圧機能診断部を有する液圧制動システム。
【請求項2】
前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路を遮断した状態で前記液圧調整装置に電力を供給することで前記第2調圧流路を介して前記第1設定圧の作動液を前記ブレーキ装置に供給し、その後に、前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断して、前記ブレーキ装置に前記第1設定圧の作動液を封じ込めるように構成された請求項1に記載の液圧制動システム。
【請求項3】
前記液圧調整装置が有する前記パイロット圧依存調圧機能が、前記高圧源装置からの作動液の圧力を、前記パイロット圧に対して設定比となる圧力に調圧する機能であり、
前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記液圧調整装置への電力の供給を禁止した際に前記液圧調整装置によって調圧される作動液の圧力が、前記第1設定圧に対する前記設定比となる圧力以下に設定された圧力に至らない場合に、前記パイロット圧依存調圧機能が異常であると診断するように構成された請求項1または請求項2に記載の液圧制動システム。
【請求項4】
前記異常診断部が、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常について診断する第2調圧流路遮断異常診断部を有する請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の液圧制動システム。
【請求項5】
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記マスタ圧流路遮断器によって前記マスタ圧流路を遮断した状態において、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された請求項4に記載の液圧制動システム。
【請求項6】
当該液圧制動システムが、前記ブレーキ装置の作動液を低圧源に導くための低圧源流路と、前記ブレーキ装置に作動液が供給される際に前記低圧源流路を遮断する低圧源流路遮断器とを備え、
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断した状態で前記液圧調整装置に電力を供給することで前記第2調圧流路に第2設定圧の作動液を供給し、その後に、前記低圧源流路遮断器による前記低圧源流路の遮断を解除し、その際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力に基づいて、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された請求項5に記載の液圧制動システム。
【請求項7】
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記低圧源流路遮断器による前記低圧源流路の遮断を解除した際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力が、前記第2設定圧以下に設定された圧力を下回った場合に、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常であると診断するように構成された請求項6に記載の液圧制動システム。
【請求項8】
前記第2調圧流路遮断異常診断部が、
前記液圧調整装置に電力を供給することで第2調圧流路を介して第2設定圧の作動液を前記ブレーキ装置に供給し、その後に、前記第2調圧流路遮断器によって前記第2調圧流路を遮断するとともに作動液の圧力を前記第2設定圧より高い第3設定圧に増圧すべく前記液圧調整装置に供給する電力を増加させ、その際の前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力に基づいて、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断異常を診断するように構成された請求項5に記載の液圧制動システム。
【請求項9】
前記第2調圧流路遮断異常部が、
前記液圧調整装置に供給する電力を増加させた際に前記第2調圧流路に供給されている作動液の実際の圧力が、前記第3設定圧以下に設定された圧力に至らない場合に、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常であると診断するように構成された請求項8に記載の液圧制動システム。
【請求項10】
前記パイロット圧依存調圧機能診断部が、
前記第2調圧流路遮断異常診断部によって、前記第2調圧流路遮断器による前記第2調圧流路の遮断が異常でないと診断されたことを条件として、前記パイロット圧依存調圧機能が異常であると診断するように構成された請求項4ないし請求項9のいずれか1つに記載の液圧制動システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−235721(P2011−235721A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107983(P2010−107983)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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