説明

磁気抵抗素子ならびにこれを用いた磁気ランダムアクセスメモリおよび空間光変調器

【課題】RE−TM合金を含むことで優れた磁気特性を有する垂直磁気異方性の磁気抵抗素子において、この磁気特性が維持できる磁気抵抗素子を提供する。
【解決手段】磁化固定層11と中間層12と磁化反転層13とを積層して備え、磁化固定層11および磁化反転層13の少なくとも一方がRE−TM合金を含む磁気抵抗素子1であって、上下に接続された一対の電極2,3間を絶縁するための絶縁層6が、磁気抵抗素子1に接触して配され、シリコン窒化物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体膜の性質を利用する磁気抵抗素子および磁気ランダムアクセスメモリあるいは空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
膜面垂直通電型の磁気抵抗素子(磁気抵抗効果素子)は、2層以上の磁性体膜を備え、上下に接続された電極(配線)から膜面に垂直に電流を供給されることでスピン注入磁化反転して、一部の磁性体膜の磁化方向が180°回転し、磁化方向が変化しない別の磁性体膜と同じ方向になったり、あるいは反対方向になったりする。この磁気抵抗素子は、スピン注入磁化反転(以下、磁化反転)することで、上下の電極間での抵抗が変化するため、これを利用して1ビットのデータの書き込み/読み出しを行うことができる。すなわち、磁気抵抗素子は、これを備えたメモリセルをマトリクス状に配列して磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)を構成する。磁気抵抗素子は、その大きさが極めて小さい上、磁化反転の動作が高速であるため、大容量磁気メモリとしてMRAMおよび磁気抵抗素子の研究・開発が進められている。
【0003】
磁気抵抗素子の磁性体材料として、従来は膜面方向の磁化を示すCo−Fe合金等について研究されていたが、最近では、MRAMの、よりいっそうの大容量化および省電力化のために、磁気抵抗素子のさらなる微細化が可能で、かつ磁化反転に要する電流を低減できる、膜面に垂直方向の磁化を示す(垂直磁気異方性を有する)磁性体材料が注目されている。このような垂直磁気異方性材料の中でも、希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)はフェリ磁性の垂直磁気異方性材料として注目されており、垂直磁気異方性の磁気抵抗素子の材料として有望である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、磁気抵抗素子の別の用途として、空間光変調器の画素に搭載される光変調素子が挙げられる。光変調素子としての磁気抵抗素子は、磁化が回転する磁性体膜で反射または透過した光の偏光の向きを磁気光学効果により変化させるものであり、空間光変調器の高精細化および高速化のために、従来の液晶に代わる材料として研究・開発が進められている(例えば、特許文献2参照)。光変調素子として使用する磁気抵抗素子については、偏光の向きの変化を大きくする(光変調度を大きくする)ことが望ましい。そのため、光変調素子は、垂直磁気異方性の磁気抵抗素子を用いて、膜面にほぼ垂直に光を入射することにより、極カー効果で光変調度を大きくすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−283207号公報(請求項6、請求項11、段落0027)
【特許文献2】特開2008−145748号公報(請求項6、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MRAMにおいても空間光変調器においても、磁気抵抗素子は膜面方向に2次元配列されて、上下から電極を接続される。そして、磁気抵抗素子同士の離間領域で上下の電極が互いに短絡しないように、この領域には絶縁材料が埋め込まれる。絶縁材料は前記の短絡防止の他に、磁気抵抗素子の側面(端面)を封止するものであり、一般にシリコン酸化物(SiO2)が適用される。ここで、前記したように、RE−TM合金は垂直磁気異方性材料として特に好ましい材料であるが、酸化し易い性質がある。そのため、MRAMや空間光変調器を製造する際の磁気抵抗素子同士の離間領域にSiO2を成膜する工程で、酸素を供給されることで、露出した磁気抵抗素子の端面で、磁気抵抗素子に含まれるRE−TM合金が酸化して、RE−TM合金の、さらには磁気抵抗素子の磁気特性が劣化する虞がある。また、製造後に、SiO2との界面(磁気抵抗素子の端面)でRE−TM合金がSiO2に接触していることで、SiO2の酸素(O)により端面から酸化が進行して、RE−TM合金の磁気特性が劣化する虞がある。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、垂直磁気異方性材料として好ましいRE−TM合金を備えて磁気特性の劣化を抑制できる磁気抵抗素子、ならびにこの磁気抵抗素子を備えた磁気ランダムアクセスメモリおよび空間光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは、SiO2に代わる絶縁材料として、酸化物等の酸素(O)を含む材料を適用しないことが、RE−TM合金を酸化させず、劣化を抑制できると考え、シリコン窒化物を適用することに知見した。
【0009】
すなわち、本発明に係る磁気抵抗素子は、磁化固定層と中間層と磁化反転層とを積層して備えるスピン注入磁化反転素子と、このスピン注入磁化反転素子の上下に接続された一対の電極と、この一対の電極間を絶縁する絶縁層と、を備え、前記スピン注入磁化反転素子は、磁化固定層および磁化反転層の少なくとも一方が希土類金属と遷移金属との合金を含み、前記絶縁層は、前記スピン注入磁化反転素子に接触して配され、シリコン窒化物からなることを特徴とする。
【0010】
かかる構成により、スピン注入磁化反転素子がRE−TM合金を含んで垂直磁気異方性を有するので、微細化および磁化反転電流の低減が可能となり、また磁化反転動作が安定する。さらにこれらの磁気特性は、接触する絶縁層をシリコン窒化物とすることで、RE−TM合金が酸化して劣化する虞がない。
【0011】
また、本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリは、前記のRE−TM合金を含むスピン注入磁化反転素子とその上下に接続された一対の電極とをメモリセルに備えて構成される。すなわち2次元配列された複数のメモリセルを備える磁気ランダムアクセスメモリであって、前記スピン注入磁化反転素子に接触して、隣り合うスピン注入磁化反転素子間および前記一対の電極間をそれぞれ絶縁するシリコン窒化物からなる絶縁層を備えることを特徴とする。
【0012】
かかる構成により、磁気ランダムアクセスメモリは、その1ビットを記録するスピン注入磁化反転素子を垂直磁気異方性として微細化することができ、また駆動電流を低減でき、データの書き込み/読み出し動作が安定する。さらにこれらの特性は、スピン注入磁化反転素子に接触する領域にシリコン窒化物を絶縁層として備えることで、劣化を抑制できる。
【0013】
また、本発明に係る空間光変調器は、前記のRE−TM合金を含むスピン注入磁化反転素子を光変調素子とするものであり、スピン注入磁化反転素子とその上下に接続された一対の電極とを画素に備えて構成される。すなわち2次元配列された複数の画素と、前記複数の画素から1つ以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備えて、前記画素選択手段が選択した画素に入射した光の偏光方向を特定の方向に変化させて出射する空間光変調器であって、前記スピン注入磁化反転素子に接触して、隣り合うスピン注入磁化反転素子間および前記一対の電極間をそれぞれ絶縁するシリコン窒化物からなる絶縁層を備えることを特徴とする。
【0014】
かかる構成により、空間光変調器は、画素に備えた光変調素子を構成する磁気抵抗素子を垂直磁気異方性として、極カー効果で光変調度を大きくすることができる。また画素選択動作のための電流を低減でき、その動作が安定する。さらにこれらの特性は、磁気抵抗素子の側面にシリコン窒化物を絶縁材料に備えることで劣化を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る磁気抵抗素子によれば、磁化反転電流を低減でき、かつ磁化反転動作が安定し、これらの磁気特性の劣化し難い垂直磁気異方性の磁気抵抗素子とすることができる。そして、本発明に係る磁気ランダムアクセスメモリによれば、大容量で、データの書き込み/読み出し動作が高速で安定したものとすることができ、さらにこれらの特性の劣化し難いものとすることができる。また、本発明に係る空間光変調器によれば、高精細かつ高速応答で画素選択性に優れたものとすることができ、さらにこれらの特性の劣化し難いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子の動作を模式的に説明する斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る空間光変調器の構成を模式的に示す平面図である。
【図4】図3に示す空間光変調器の画素選択の動作を説明する模式図で、図3のA−A断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリを備えた記録装置の構成を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子およびこれを備えたメモリセルの断面図で、図5のB−B断面図である。
【図7】実施例の磁気抵抗素子の磁気特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る磁気抵抗素子、磁気ランダムアクセスメモリ、および空間光変調器を実現するための形態について、図を参照して説明する。
【0018】
[磁気抵抗素子]
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子(スピン注入磁化反転素子)1は、図1に示すように、磁化固定層11、中間層12、磁化反転層13、保護層14の順に積層された構成であり、一対の電極である上部電極2と下部電極3に上下で接続されて、膜面に垂直に電流を供給される。また、上部電極2と下部電極3(以下、適宜電極2,3)の隙間、すなわち磁気抵抗素子1の側面に隣接する領域には絶縁層6が埋め込まれている。磁気抵抗素子1は、磁化が一方向に固定された磁化固定層11および磁化の方向が回転可能な磁化反転層13を、非磁性または絶縁体である中間層12を挟んで備えたCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗)素子やTMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗)素子等のスピン注入磁化反転素子であり、製造工程におけるダメージからこれらの層を保護するために、最上層に保護層14が設けられている。磁気抵抗素子1を構成する各層は、下部電極3を形成された上に、例えばスパッタリング法や分子線エピタキシー(MBE)法等の公知の方法で連続的に成膜されて積層され、電子線リソグラフィおよびイオンビームミリング法等で所望の平面視形状に加工される。以下、磁気抵抗素子1を構成する各層の詳細を説明する。
【0019】
磁化固定層11および磁化反転層13は、それぞれ垂直磁気異方性を有するCPP−GMR素子やTMR素子等の磁化固定層および磁化反転層として公知の磁性材料にて構成することができるが、本実施形態においては、少なくとも一方が希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)を含むものとする。遷移金属としてはFe,Co,Ni、希土類金属としてはSm,Eu,Gd,Tbが挙げられる。RE−TM合金は、フェリ磁性材料であり、見かけ上の飽和磁化Msが低いため、外部へ漏れる磁界を低減することができる。なお、RE−TM合金を含むというのは、磁化固定層11または磁化反転層13の全体を構成してもよいし、他の材料と積層した多層構造等のような一部に含む構成としてもよい。
【0020】
磁化固定層11は、その厚さを1〜50nmとすることが好ましい。磁化固定層11がRE−TM合金を含む構成とした場合は、その飽和磁化Msが低いため、磁気抵抗素子1は、磁化固定層11から磁化反転層13へ漏れる磁界が減少して、スピン注入磁化反転特性が電流軸方向の一方にシフトする現象を抑制することができ、正の磁化反転電流と負の磁化反転電流をほぼ同じ大きさとして安定したスピン注入磁化反転動作を得ることができる。その他の材料としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜が挙げられる。
【0021】
磁化反転層13は、その厚さを1〜20nmとすることが好ましい。磁化反転層13がRE−TM合金を含む構成とした場合は、その飽和磁化Msが低いため、磁気抵抗素子1は、磁化反転電流密度Jcを低減して磁化反転電流を低減することができる。その他の材料としては、Fe,Co,Ni等の遷移金属およびそれらを含む合金、CoPt,CoCr基合金(CoCr,CoCrPt,CoCrTa等)、[Fe/Pt]×n、[Co/Pt]×nの多層膜、MnBiのような強磁性金属が挙げられる。
【0022】
また、RE−TM合金あるいはその他の材料においても、磁化固定層11および磁化反転層13の少なくとも一方は、中間層12との界面にCoFe等の遷移金属または遷移金属合金のようなスピン偏極率の高い材料を厚さ1nm程度で積層することが好ましい。これにより、当該界面でのスピン偏極率を高くして、中間層12を介して注入される磁化反転層13に注入されるスピンによるスピントルクが増大するため、磁気抵抗素子1の磁化反転に要する電流を低減することができる。
【0023】
中間層12は、磁化固定層11と磁化反転層13との間に設けられる。磁気抵抗素子1がTMR素子であれば、中間層12は、MgO,Al23,HfO2のような絶縁体や、Mg/MgO/Mgのような絶縁体を含む積層膜からなり、その厚さは0.1〜2nmとすることが好ましい。また、磁気抵抗素子1がCPP−GMR素子であれば、中間層12は、Cu,Au,Agのような非磁性金属からなり、その厚さは1〜10nmとすることが好ましい。
【0024】
保護層14は、Ta,Ru,Cuの単層、または、Cu/Ta,Cu/Ruの2層等から構成される。なお、前記の2層構造とする場合は、いずれもCuを内側(下層)とする。保護層14の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えて厚くしても、製造工程において磁化反転層13等を保護する効果がそれ以上には向上しない。したがって、保護層14の厚さは1〜10nmとすることが好ましい。
【0025】
以上のように、本実施形態に係る磁気抵抗素子によれば、垂直磁気異方性を示して微細化が容易であり、磁化反転電流を低減でき、かつ磁化反転動作が安定した磁気抵抗素子とすることができる。ここで、磁気抵抗素子1の磁化反転の動作を、図2を参照して説明する。なお、図2において保護層14は図示を省略する。スピン注入磁化反転素子である磁気抵抗素子1は、逆方向のスピンを持つ電子を注入することにより、すなわち電流を反対向きに供給することにより、磁化反転層13の磁化方向を反転(スピン注入磁化反転、以下、適宜磁化反転という)させて、磁化固定層11の磁化方向と同じ方向または180°異なる方向にする。そして、前記した通り、磁化固定層11および磁化反転層13は、垂直磁気異方性を有するのでその磁化は上または下方向を示し、本明細書では、図2(a)、(b)に矢印で示すように、磁化固定層11の磁化は常に上方向に固定されている。
【0026】
図2(a)に示すように、上部電極2を「+」、下部電極3を「−」にして、磁化反転層13側から磁化固定層11へ下向きに電流を供給すると、磁化反転層13の磁化は磁化固定層11の磁化方向と同じ上方向になる。以下、この状態を磁気抵抗素子1の磁化が平行である(P:Parallel)という。反対に、上部電極2を「−」、下部電極3を「+」にして、磁化固定層11側から磁化反転層13へ上向きに電流を供給すると、磁化反転層13の磁化は磁化固定層11の磁化方向と逆の下方向になる。以下、この状態を磁気抵抗素子1の磁化が反平行である(AP:Anti-Parallel)という。
【0027】
磁気抵抗素子1の磁化が平行、反平行いずれかの磁化を示していれば、その磁化を反転させる電流が供給されるまでは、磁化反転層13の保磁力により磁化が保持される。このように、磁気抵抗素子1において磁化は保持されるため、磁気抵抗素子1に供給する電流としては、パルス電流のように、磁化方向を反転させる電流値に一時的に到達する電流を用いることができる。そして、後記するように、磁気抵抗素子1は、一般的に、膜面方向に複数個を2次元配列して磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)や空間光変調器の画素アレイを構成するが、電極2,3から所定の電流を供給することにより、任意の1つ以上の磁気抵抗素子1を選択的に磁化反転させることができる。
【0028】
なお、本実施形態に係る磁気抵抗素子は、磁化固定層、中間層、および磁化反転層を1ずつ備えた構成であるが、これに限らず、例えばデュアルピン構造のように、磁化反転層の上下にそれぞれ中間層を挟んで、2つの磁化固定層を備える磁気抵抗素子であってもよい。
【0029】
ここで、磁気抵抗素子1は、前記した通り、複数個を2次元配列してMRAMや空間光変調器の画素アレイを構成するに際し、磁気抵抗素子1の上下の電極2,3間すなわち隣り合う磁気抵抗素子1,1間の隙間に短絡防止のために絶縁材料(図1の絶縁層6)を埋め込む必要がある。以下に、絶縁材料について、磁気抵抗素子を配列して構成した空間光変調器およびMRAMと共に説明する。
【0030】
[空間光変調器]
以下に、前記の本発明に係る磁気抵抗素子を光変調素子として画素に備える空間光変調器について、その実施形態を説明する。なお、本明細書における画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段を指す。
【0031】
本発明の一実施形態に係る空間光変調器10は、図3に示すように2次元アレイ状に配列された画素4からなる画素アレイ40と、画素アレイ40から1つ以上の画素4を選択して駆動する電流制御部80を備える。なお、本明細書における平面(上面)は空間光変調器の光の入射面であり、空間光変調器10は画素4(画素アレイ40)に上方から入射した光を反射してその光を変調して上方へ出射する反射型の空間光変調器である。
【0032】
図3に示すように、画素アレイ40は、平面視でストライプ状の複数の上部電極2,2,…と、同じくストライプ状で、平面視で上部電極2と直交する複数の下部電極3,3,…と、を備え、上部電極2と下部電極3との交点毎に1つの画素4を設ける。したがって、画素4は、空間光変調器10の光の入射面に、2次元アレイ状に配列されて画素アレイ40を構成する。本実施形態では、画素アレイ40は、4行×4列の16個の画素4からなる構成で例示される。なお、上部電極2と下部電極3は、適宜、両者をまとめて電極2,3と称する。そして、図3および図4に示すように、画素4は、当該画素4における一対の電極としての上部電極2および下部電極3と、これらの電極2,3に上下から挟まれた磁気抵抗素子1を備える。また、隣り合う上部電極2,2間、磁気抵抗素子1,1間、および下部電極3,3間は、絶縁層6で埋められている。
【0033】
図3に示すように、電流制御部80は、上部電極2を選択する上部電極選択部82と、下部電極3を選択する下部電極選択部83と、これらの電極選択部82,83を制御する画素選択部(画素選択手段)84と、電極2,3に電流を供給する電源(電流供給手段)81と、を備える。これらはそれぞれ公知のものでよく、磁気抵抗素子1を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給するものとする。
【0034】
上部電極選択部82は、上部電極2の1つ以上を選択し、下部電極選択部83は、下部電極3の1つ以上を選択し、それぞれに電源81から所定の電流を供給させる。画素選択部84は、例えば図示しない外部からの信号に基づいて画素アレイ40の特定の1つ以上の画素4を選択し、選択した画素4に接続する電極2,3を電極選択部82,83に選択させる。電源81は、選択した画素4に備えられる磁気抵抗素子1を磁化反転させるために適正な電圧・電流を供給する。このような構成により、特定の画素4が選択され、この画素4の磁気抵抗素子1に、所定の電流が供給されて磁化反転させる。なお、図3において、電源81は、電極2,3のそれぞれ一端に電極選択部82,83を介して接続されているが、両端に接続されていてもよい。両端に接続されることにより、応答速度を上げ、画素間の動作ばらつきも低減できる。
【0035】
空間光変調器10の画素4の構成の詳細を図3および図4を参照して説明する。上部電極2は、図4に示すように磁気抵抗素子1の上に配され、図3に示すように横方向に帯状に延設される。1つの上部電極2は、横1行に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの磁気抵抗素子1に電流を供給する。一方、下部電極3は、磁気抵抗素子1の下に配され、縦方向に帯状に延設される。1つの下部電極3は、縦1列に配置された複数の画素4,4,…のそれぞれの磁気抵抗素子1に電流を供給する。上部電極2は、磁気抵抗素子1の入射光および出射光を遮らないように透明電極材料で構成される。一方、下部電極3は導電性の優れた電極用金属材料で構成される。なお、このような画素4は、例えば表面を熱酸化したSi基板等の公知の基板上に配列されて、画素アレイ40に形成される。
【0036】
磁気抵抗素子1は、図3に示すように、平面視で上部電極2と下部電極3の重なる部分に配され、この電極2,3に上下から挟まれて接続されている。磁気抵抗素子1は、空間光変調器10においては光変調素子としての機能を有するが、その構成は、図1に示す前記の本発明に係る磁気抵抗素子1と同様であるため、説明は省略する。磁気抵抗素子1の平面視形状は、本実施形態においては正方形であるが、これに限定されるものではない。また、1個の画素4につき1個の磁気抵抗素子1が配されているが、例えば1つの画素4に面方向で(1×3)個、(2×2)個等の複数の磁気抵抗素子1を備えてもよい。
【0037】
上部電極2は、光が透過するように透明電極材料で構成される。透明電極材料は、例えば、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン−酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In23)等の公知の透明電極材料からなる。特に、比抵抗と成膜の容易さとの点からIZOが最も好ましい。これらの透明電極材料は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等の公知の方法により成膜される。
【0038】
電極(配線)を透明電極材料で構成する場合、電極とこの電極に接続する磁気抵抗素子1との間に金属膜を設けることが好ましい。すなわち透明電極材料で構成された上部電極2においては、磁気抵抗素子1との間の下地層として金属膜を積層することが好ましい(図示せず)。磁気抵抗素子1との間に金属膜を介在させることで、電極用金属材料より抵抗が大きい透明電極材料からなる上部電極2においても、上部電極2−磁気抵抗素子1間の接触抵抗を低減させて応答速度を上げることができる。
【0039】
下地層を構成する金属としては、例えば、Au,Ru,Ta、またはそれらの金属の2種以上からなる合金等を用いることができ、これらの金属はスパッタリング法等の公知の方法により成膜される。そして、下地層とその上の層すなわち透明電極との密着性をよくして接触抵抗をさらに低減するため、下地層となる金属膜は、透明電極材料と連続的に真空処理室にて成膜されることが好ましい。下地層の厚さは、1nm未満であると連続した膜を形成し難く、一方、10nmを超えると光の透過量を低下させる。したがって、下地層の好ましい厚さは1〜10nmである。
【0040】
下部電極3は、例えば、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなる。そして、スパッタリング法等の公知の方法により成膜、フォトリソグラフィ、およびエッチングまたはリフトオフ法等によりストライプ状に加工される。
【0041】
絶縁層6は、隣り合う上部電極2,2間(図4不図示)および下部電極3,3間に配されてこれらを互いに絶縁するものであり、また平面視で磁気抵抗素子1のない領域において電極2,3間を絶縁し、また磁気抵抗素子1の側面を封止するため、磁気抵抗素子1,1間に配される。ここで、磁気抵抗素子1,1間に絶縁層6としてSiO2等の酸化物を配する場合、酸化物等の酸素(O)を含有する膜は、通常、酸素を含有する雰囲気ガスを供給しながら成膜される。このとき、露出した磁気抵抗素子1の端面(側面)で、磁化固定層11または磁化反転層13に含まれるRE−TM合金が酸化してその磁気特性が変化し、磁気抵抗素子1の磁化反転動作等に影響を及ぼす虞がある。具体的には、RE−TM合金の希土類金属が酸化されて遷移金属の割合が多い組成に変化することで、保磁力が低下し、また見かけ上の飽和磁化Msが増加し、さらに酸化が進行すると、フェリ磁性体としての性質を保持できなくなって、垂直磁気異方性の消失に至ることになる。また、SiO2の成膜後の工程での熱処理や動作時の発熱で、RE−TM合金が、磁気抵抗素子1のSiO2と接触した界面すなわち側面からSiO2の酸素(O)により酸化が進行する虞がある。
【0042】
したがって、本発明に係る空間光変調器10においては、絶縁層6として、特に磁気抵抗素子1と接触する部位である磁気抵抗素子1,1間にはシリコン窒化物を適用する。シリコン窒化物は、主にSi34の組成を有し、本明細書ではSi−Nで表す。このように、磁気抵抗素子1,1間にSi−Nを配することで、磁気抵抗素子1に含まれるRE−TM合金が酸化することなくその特性が維持できる。なお、上部電極2,2間および下部電極3,3間等の磁気抵抗素子1に接触しない領域に配する絶縁材料には、SiO2やAl23等の従来公知の絶縁材料を適用してもよい。
【0043】
絶縁層6は、磁気抵抗素子1を所望の平面視形状に加工した後、上部電極2を形成する(電極材料を成膜する)前に、Si−Nをスパッタリング法や化学気相成長(CVD)法等の公知の方法により成膜して磁気抵抗素子1,1間に堆積させた後、エッチングやCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)等により磁気抵抗素子1上のSi−Nを除去することにより形成できる。あるいは、磁気抵抗素子1の加工においてマスクとしたレジストを残した状態でSi−Nを成膜し、レジストをその上のSi−Nごと除去して(リフトオフ)もよい。
【0044】
(空間光変調器の画素選択の動作)
次に、空間光変調器10の画素選択の動作を、図4を参照して説明する。電極2,3は、前記の通り、電流制御部80に接続される。また、図4に示すように、本実施形態に係る空間光変調器10の画素4(画素アレイ40)の上方には、画素アレイ40に向けて光を照射する光源93と、光源93から照射された光を画素アレイ40に入射する前に偏光とする入射偏光フィルタ91と、画素アレイ40で反射して出射した光から特定の向きの偏光のみを透過する出射偏光フィルタ92と、出射偏光フィルタ92を透過した光を検出する検出器94とが配置される。
【0045】
光源93から照射された光(レーザー光等)は様々な偏光成分を含んでいるので、これを画素アレイ40の手前の入射偏光フィルタ91を透過させて、1つの偏光成分の光とする。以下、1つの偏光成分の光を偏光と称する。この偏光(入射偏光)は、画素アレイ40のすべての画素4に所定の入射角で入射する。それぞれの画素4において、入射偏光は、上部電極2を透過して磁気抵抗素子1に入射し、磁気抵抗素子1の磁化反転層13で反射して出射偏光として出射し、再び上部電極2を透過して画素4から出射する。それぞれの画素4から出射したすべての出射偏光は、出射偏光フィルタ92に到達する。出射偏光フィルタ92は、特定の偏光、ここでは入射偏光に対して角度θap旋光した偏光のみを透過させ、この透過した出射偏光が検出器94に入射される。偏光フィルタ91,92はそれぞれ偏光板等であり、検出器94はスクリーン等の画像表示手段やカメラ等である。
【0046】
磁気抵抗素子1に入射した光が磁性体である磁化反転層13で反射して出射すると、カー効果(磁気カー効果)により、入射光はその偏光の向きが変化(旋光)する。そして、前記したように、磁気抵抗素子1は電極2,3から供給される電流の向きに応じて磁化反転して、画素4毎に磁化が平行/反平行、すなわち磁化反転層13の磁化が上方向/下方向を示す(図2(a)、(b)参照)。このように、磁化反転層13の磁化方向が180°異なると、入射光は同じ大きさの旋光角すなわち磁化反転層13のカー回転角θkで互いに逆方向に回転して出射する。磁化が平行、反平行である磁気抵抗素子1における旋光角をそれぞれθp,θapと表すと、θp=+θk、θap=−θkとなり、電極2,3からの電流の向きにより磁気抵抗素子1からの出射光の偏光の向きの差すなわち旋光角の差|θp−θap|は2θkとなる。
【0047】
あるいは、磁気抵抗素子1に入射した偏光が、磁化反転層13、中間層12、磁化固定層11を透過し、下部電極3の上面で反射して、再び磁化固定層11、中間層12、磁化反転層13を透過して出射する構成であってもよい。この場合は、磁性体である磁化反転層13および磁化固定層11を透過することで、ファラデー効果により、偏光はその向きが、磁化反転層13および磁化固定層11のそれぞれの所定の角度(旋光角)に回転(旋光)する。ただし、磁化固定層11の磁化方向は一定であるので、磁気抵抗素子1からの出射光の偏光の変化は磁化反転層13のファラデー回転角θFによって決定される。出射光は磁化反転層13を2回透過しているので、旋光角の差|θp−θap|は4θFとなる。
【0048】
入射偏光に対して角度θap旋光した図4の左右両端の画素4,4からのそれぞれの出射偏光は、出射偏光フィルタ92を透過して検出器94に到達するので、この画素4は明るく(白く)検出器94に表示される。一方、中央の画素4からの出射偏光は、出射偏光フィルタ92で遮られるので、この画素4は暗く(黒く)、検出器94に表示される。このように、画素毎に明/暗(白/黒)を切り分けられ、電流の向きを切り換えれば明/暗が切り換わる。なお、空間光変調器10の初期状態としては、例えば全体が白く表示されるように、すべての画素4の磁気抵抗素子1の磁化を反平行にするべく、上部電極2のすべてを「−」、下部電極3のすべてを「+」にして、上向きの電流を供給すればよい。
【0049】
ここで、磁化反転層13のカー回転角θkおよびファラデー回転角θFは、前記したように光の入射角が磁化反転層13の磁化方向である膜面に対する垂直に近いほど大きい。したがって、入射角は90°とすることが旋光角の差|θp−θap|を最大にする上で望ましいが、このようにすると、出射偏光の光路が入射偏光の光路と一致する。そこで、入射角90°から5°〜30°程度傾けて、出射偏光フィルタ92および検出部94、光源93および入射偏光フィルタ91が、それぞれ入射偏光および出射偏光の光路を遮らない配置となるようにする。すなわち、偏光の入射角は、画素アレイ40に対して60°〜85°とすることが好ましい。または、入射角90°として、入射偏光フィルタ91と画素アレイ40との間にハーフミラーを配置して、出射偏光のみを側方へ反射させてもよい。この場合、出射偏光フィルタ92および検出器94は画素アレイ40の側方に配置する。なお、RE−TM合金はカー回転角およびファラデー回転角が大きいため、磁気抵抗素子1は、磁化反転層13にRE−TM合金を含んで構成されることで、旋光角の差|θp−θap|をいっそう大きなものとすることができる。
【0050】
本発明に係る空間光変調器においては、別の実施形態として、上下を入れ替えた構成として下方から入射する反射型の空間光変調器としてもよい。すなわち、下部電極を透明電極材料で、上部電極を電極用金属材料でそれぞれ構成して、下方から入射した光が下部電極を透過して磁気抵抗素子1または上部電極で反射して再び下部電極を透過して出射する。したがって、偏光フィルタ91,92、光源93および検出器94は画素アレイ40の下方に配置する。この場合、下部電極は上部電極を透明電極材料で構成した場合と同様に、磁気抵抗素子1との間に金属膜である下地層を設けて接触抵抗を低減させることが好ましい。また、磁気抵抗素子1は磁化固定層11と磁化反転層13の位置を入れ替えて積層する。さらに、基板は、下方から画素4に光を入射させて、再び画素4から出射した光がさらに下方へ照射されるように、透明な基板材料、例えば、SiO2,Al23,MgO等を適用する。
【0051】
さらに別の実施形態として、上部電極および下部電極を共に透明電極材料で構成して、透過型の空間光変調器としてもよい。このとき、基板は、上方から画素を透過した光がさらに下方へ照射されるように、前記の透明な基板材料からなる。また、磁気抵抗素子1は磁化固定層11と磁化反転層13の位置を入れ替えて積層してもよい。このような空間光変調器においては、光源93および入射偏光フィルタ91は画素アレイ40の直上に、出射偏光フィルタ92および検出器94は、画素アレイ40の直下にそれぞれ配置し、入射角90°とすることができる。また、下方から光を入射して上方へ出射する透過型の空間光変調器としてもよい。
【0052】
さらにこれらの実施形態のそれぞれの変形例として、透明電極材料で構成して光を透過させる上部電極および下部電極について、配線部分は電極用金属材料として磁気抵抗素子1と平面視で重なる領域に孔を形成し、この孔の内部のみに透明電極材料を設けてもよい(図示せず)。このような電極とすることで、低抵抗の金属材料を用いて磁気抵抗素子1に光を入射させることができるので、配線抵抗による電圧降下を抑えて省電力化および画素間の動作ばらつきを低減できる。
【0053】
以上のように、本発明の各実施形態およびその変形例に係る空間光変調器によれば、RE−TM合金を備えた磁気抵抗素子を光変調素子として、高精細かつ高速応答、さらに画素選択性の優れた空間光変調器となる。そして、磁気抵抗素子間に埋め込む絶縁材料をSi−Nとすることで、磁気抵抗素子に含まれるRE−TM合金が酸化することなくその特性が維持できる。
【0054】
[磁気ランダムアクセスメモリ]
本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)70は、図5に示すように、電流制御部80Aと共に記録装置9を構成する部品である。MRAM70は、平面視でストライプ状の複数のビット線2A,2A,…と、同じくストライプ状で、平面視でビット線2Aと直交する複数のワード線5,5,…と、を備え、ビット線2Aとワード線5との交点毎に1つのメモリセル7を設ける。本実施形態では、MRAM70は、4行×4列の16個のメモリセル7からなる構成で例示される。
【0055】
図5に示すように、電流制御部80Aは、ビット線2Aを選択するビット線選択部82Aと、ワード線5を選択するワード線選択部85と、これらの選択部82A,85を制御するセル選択部84Aと、ビット線2Aおよびワード線5に電流を供給する電源81Aと、を備える。セル選択部84Aは、例えば図示しない外部からの信号に基づいてMRAM70の特定の1つ以上のメモリセル7を選択し、選択したメモリセル7に接続するビット線2A、ワード線5をビット線選択部82A、ワード線選択部85に選択させる。電源81Aは、選択したメモリセル7に備えられる磁気抵抗素子1およびMOSFETを動作させるために適正な電圧・電流を供給する。
【0056】
1つのメモリセル7は、図6に示すように、MOSFET上に1つの磁気抵抗素子1を備える。詳しくは、MOSFETのドレインに配線層を介して磁気抵抗素子1の下部電極3Aが接続されている。また、メモリセル7において、磁気抵抗素子1の上部電極は、MRAM70のビット線2Aを構成する。なお、磁気抵抗素子1の構成は、図1に示す前記の本発明に係る磁気抵抗素子1と同様であるため、説明は省略する。したがって、MRAM70において、磁気抵抗素子1とその上下に接続されたビット線2Aおよび下部電極3Aの形成された積層方向の領域は、下部電極3Aが平面視で縦方向に延設されていないことを除けば、図4に示す空間光変調器10の画素アレイ40と同じ構成となる。
【0057】
MOSFETは、例えば、シリコン(Si)からなるp型基板上にソースおよびドレインが形成されている。ソースとドレインとの間のp型基板上には、絶縁層6を介して、ゲート電極が形成されている。また、ドレイン−配線層間、配線層−下部電極3A間は、それぞれコンタクトが形成されて接続されている。一方、ソースにはコンタクトを介してワード線5が接続され、ワード線5は接地されている。
【0058】
これらの配線、すなわちビット線(上部電極)2A、下部電極3A、配線層、ゲート電極、およびワード線5は、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなる。したがって、MRAM70においては、空間光変調器10の画素アレイ40と異なり、磁気抵抗素子1の上下に接続する電極が両方とも金属材料からなる。
【0059】
絶縁層6は、図6における空白部および隣り合うビット線2A,2A間(図6不図示)に配されて前記の配線を互いに絶縁するものであり、また磁気抵抗素子1の側面を封止する。ここで、少なくとも磁気抵抗素子1,1間すなわちビット線2Aと下部電極3Aとの間に配する絶縁層6は、空間光変調器10の画素アレイ40と同様に、Si−Nを適用する。これにより、磁気抵抗素子1の磁化固定層11または磁化反転層13に含まれるRE−TM合金が、絶縁層6の形成(成膜)時や形成後に、磁気抵抗素子1の側面において酸化することがなく、磁気抵抗素子1の磁化反転動作等の特性が維持できる。なお、ビット線2A,2A間および下部電極3A,3A間、ならびにその他の配線間やMOSFET領域に配する絶縁材料には、SiO2やAl23等の従来公知の絶縁材料を適用してもよい。
【0060】
(メモリセルの動作)
次に、メモリセル7における磁気抵抗素子1の動作について図6および図2を参照して説明する。メモリセル7(MRAM70)においては、ビット線2Aおよびワード線5からの電流供給により、磁気抵抗素子1の磁化が平行/反平行に反転する。図2(a)に示すように磁化が平行な磁気抵抗素子1は、膜面垂直方向の抵抗が低く、このとき「0」の値が記録されている。一方、図2(b)に示すように磁化が反平行な磁気抵抗素子1は、抵抗が高く、「1」の値が記録されている。メモリセル7の初期状態においては、磁気抵抗素子1は、この磁化が反平行の状態である。
【0061】
この初期状態において、ゲート電極に所定の電圧を印加してMOSFETをオン状態にして、電流制御部80Aにより、ビット線2AからMOSFETへ下向きに磁気抵抗素子1に電流が流れるようにすると、磁気抵抗素子1が磁化反転して磁化が平行となり、「0」の値が書き込まれる。反対に、ワード線5からMOSFETを介してビット線2Aへ上向きに磁気抵抗素子1に電流を供給すると、再び磁気抵抗素子1の磁化が反平行となって「1」の値が書き込まれる。なお、読み出しにおいては、ビット線2Aとワード線5との間に所定の電圧を印加して、磁気抵抗素子1を流れる電流の大きさを検出すればよい。
【0062】
以上のように、本発明の実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリによれば、RE−TM合金を備えた磁気抵抗素子を用いて、大容量かつ高速応答の優れた記録装置が得られる。そして、磁気抵抗素子間に埋め込む絶縁材料をSi−Nとすることで、磁気抵抗素子に含まれるRE−TM合金が酸化することなくその特性が維持できる。
【0063】
以上、本発明の磁気抵抗素子、空間光変調器、および磁気ランダムアクセスメモリを実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0064】
本発明の効果を確認するために、本発明の実施形態に係る磁気抵抗素子(図1参照)ののサンプルを作製した。磁気抵抗素子は、下部電極側から、磁化固定層:Tb−Fe−Co(20nm)/Co−Fe(1nm)、中間層:Cu(6nm)、磁化反転層:Gd−Fe(10nm)、保護層:Ru(3nm)を積層したCPP−GMR素子とした。サンプルにおいて、磁気抵抗素子は1個のみを備えて、平面視形状を120nm×120nmの矩形とし、また、上部電極および下部電極はCuを適用した。詳しくは、まず、表面を熱酸化したSi基板上に、下部電極としてCu、および前記磁気抵抗素子の各層を順に成膜して積層した。次に、前記磁気抵抗素子の平面視形状より大きい下部電極用のレジストマスクを形成して、イオンビームミリング法で磁気抵抗素子の各層およびCu(下部電極)を加工した後、レジストの上からSiO2を成膜して、レジストをその上のSiO2ごと除去して(リフトオフ)下部電極の周囲の絶縁層を形成した。次に、前記磁気抵抗素子の平面視形状のレジストマスクを用いて、磁気抵抗素子の各層を前記と同様に加工して(下部電極表面まで削って)磁気抵抗素子を形成した後、Si−Nを成膜して、リフトオフにて磁気抵抗素子の周囲(側面)の絶縁層を形成した。そして、磁気抵抗素子上に上部電極を形成して、実施例のサンプルとした。また、比較例として、同じ磁気抵抗素子を備え、Si−Nに代えてSiO2を磁気抵抗素子の周囲の絶縁層として成膜したサンプルを作製した。
【0065】
作製したサンプルに、外部から一様な磁界を印加して、初期状態として磁気抵抗素子の磁化が平行となるようにした。このサンプルに上下電極間で磁気抵抗素子の抵抗を測定しながら外部から磁界を漸増させて印加して、磁化反転層および磁化固定層のそれぞれの磁化が反転する磁界を測定した。図7に外部磁界による磁気抵抗素子の抵抗の変化のグラフを示す。
【0066】
図7に示すように、実施例、比較例のサンプルは共に、磁界が±1kOe近傍に到達した時点で磁気抵抗素子が高抵抗に変化した。これは、磁化反転層が反転して磁気抵抗素子の磁化が反平行となったことを示す。さらに磁界を増加させると、比較例では磁界が±3kOe近傍に到達した時点で磁気抵抗素子が初期状態と同程度の低抵抗に変化した(戻った)。これは、磁化固定層の磁化が反転して、先に磁化反転した磁化反転層の磁化方向に平行になった、すなわち磁気抵抗素子の磁化が再び平行となったことを示す。一方、実施例では、±5kOe近傍まで磁界を増加させると磁化固定層の磁化が反転した。これらの結果から、磁気抵抗素子が含むRE−TM合金、特に磁化固定層のTb−Fe−Co合金が、比較例では、側面で接触するSiO2の成膜時等に酸化して保磁力が低下したと推測できる。これに対して、実施例では絶縁層にSi−Nを適用したことで、RE−TM合金が有する本来の磁気特性が維持されたといえる。
【符号の説明】
【0067】
10 空間光変調器
1 磁気抵抗素子(スピン注入磁化反転素子)
11 磁化固定層
12 中間層
13 磁化反転層
14 保護層
2 上部電極
2A ビット線(上部電極)
3,3A 下部電極
40 画素アレイ
4 画素
5 ワード線
6 絶縁層
70 MRAM(磁気ランダムアクセスメモリ)
7 メモリセル
80 電流制御部
81 電源(電流供給手段)
84 画素選択部(画素選択手段)
9 記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化固定層と中間層と磁化反転層とを積層して備えるスピン注入磁化反転素子と、このスピン注入磁化反転素子の上下に接続された一対の電極と、この一対の電極間を絶縁する絶縁層と、を備えた磁気抵抗素子であって、
前記スピン注入磁化反転素子は、前記磁化固定層および前記磁化反転層の少なくとも一方が希土類金属と遷移金属との合金を含み、
前記絶縁層は、前記スピン注入磁化反転素子に接触して配され、シリコン窒化物からなることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
2次元配列された複数のメモリセルを備える磁気ランダムアクセスメモリであって、
前記メモリセルは、磁化固定層と中間層と磁化反転層とを積層して備えるスピン注入磁化反転素子と、このスピン注入磁化反転素子の上下に接続された一対の電極と、を備え、
前記スピン注入磁化反転素子は、前記磁化固定層および前記磁化反転層の少なくとも一方が希土類金属と遷移金属との合金を含み、
前記スピン注入磁化反転素子に接触して、隣り合う前記スピン注入磁化反転素子間および前記一対の電極間をそれぞれ絶縁するシリコン窒化物からなる絶縁層を備えることを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。
【請求項3】
2次元配列された複数の画素と、前記複数の画素から1つ以上の画素を選択する画素選択手段と、この画素選択手段が選択した画素に所定の電流を供給する電流供給手段と、を備えて、前記画素選択手段が選択した画素に入射した光の偏光方向を特定の方向に変化させて出射する空間光変調器であって、
前記画素は、磁化固定層と中間層と磁化反転層とを積層して備えるスピン注入磁化反転素子と、このスピン注入磁化反転素子の上下に接続された一対の電極と、を備え、
前記スピン注入磁化反転素子は、前記磁化固定層および前記磁化反転層の少なくとも一方が希土類金属と遷移金属との合金を含み、
前記スピン注入磁化反転素子に接触して、隣り合う前記スピン注入磁化反転素子間および前記一対の電極間をそれぞれ絶縁するシリコン窒化物からなる絶縁層を備えることを特徴とする空間光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−232374(P2010−232374A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77501(P2009−77501)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】