説明

積層型電子部品の製造方法

【課題】用いられるセラミックグリーンシートの面内での厚みばらつきが生じても、内蔵されるコンデンサの容量ばらつきを抑制できる、多層セラミック基板の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックグリーンシート2の複数個所での厚みを厚み測定部48において測定し、演算処理装置54において、厚みばらつきを求め、この厚みばらつきをパラメータの1つとして、導体膜の必要なサイズを算出し、この算出された必要なサイズに対応する印刷パターンデータ56に基づいて印刷部51において導体膜を印刷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層型電子部品の製造方法に関するもので、特に、コンデンサやインダクタを構成する導体膜を内蔵する積層型電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味ある積層型電子部品として、たとえば多層セラミック基板がある。多層セラミック基板の一般的な製造方法は次のとおりである(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
1.ガラス粉末およびセラミック粉末を、バインダおよび溶剤とともに混合して、セラミックスラリーを調製する。
【0004】
2.ドクターブレード法等によって、キャリアフィルム上にセラミックスラリーを塗工し、シート状に成形することによって、セラミックグリーンシートを作製する。
【0005】
3.セラミックグリーンシートに、厚み方向に貫通する貫通孔を開け、ここに銀や銅を主成分とする導電性ペーストを充填して、ビアホール導体を形成する。
【0006】
4.同じく銀や銅を主成分とする導電性ペーストをスクリーン印刷等によって印刷し、導体膜を形成する。
【0007】
5.所定の導体膜を有したセラミックグリーンシートを所定の枚数積層し、圧着して、生の積層体を作製する。
【0008】
6.生の積層体をたとえば1050℃以下の温度で焼成することにより、セラミックグリーンシート、導体膜およびビアホール導体を焼結させて、多層セラミック基板を得る。
【0009】
なお、一般に、上記セラミックグリーンシートは、上記積層体とされたとき、複数の積層型電子部品が行および列をなすように配列された状態にある集合電子部品を得ることができる面積を有していて、上述の焼成工程を経て得られた焼結後の積層体は上記集合電子部品を構成している。したがって、この集合電子部品を分割することにより、複数の多層セラミック基板が取り出される。
【0010】
ところで、上述したように、セラミックグリーンシートは、ドクターブレード法などの手法によりシート化されて得られるものであるが、この過程で多少なりとも、セラミックグリーンシートの面内で厚みばらつきが生じることがある。すなわち、1枚のセラミックグリーンシートにおいて、厚みの大きな部分と小さな部分ができてしまうことがある。
【0011】
図8および図9は、キャリアフィルム1上で成形されたセラミックグリーンシート2を示す断面図であって、厚みばらつきが生じた状態を誇張して示している。なお、図8および図9には、キャリアフィルム1の送り方向に対して直交する方向の断面が示されている。
【0012】
図8に示した厚みばらつきは、ドクターブレードの不所望な傾きが主たる原因となって生じるもので、キャリアフィルム1の送り方向に対して直交する方向に相当するセラミックグリーンシート2の幅方向での一方端が他方端より厚くかつセラミックグリーンシート2の上面がほぼ一様な斜面を形成している。
【0013】
図9に示した厚みばらつきは、成形されたセラミックグリーンシート2を乾燥させるときに生じ得る溶剤等の不均一な蒸発が主な原因となってもたらされるものであり、セラミックグリーンシート2の面方向の全域にわたって不規則に厚みばらつきが生じている。
【0014】
近年、電子機器の高機能化に伴い多層セラミック基板には、コンデンサやインダクタ等の素子が数多く内蔵されるようになってきた。さらに、生産効率の向上を目的として、セラミックグリーンシートの大面積化が進められており、また、小型化や低背化を目的として、セラミックグリーンシートの薄層化が進められている。セラミックグリーンシートの大面積化や薄層化に伴い、セラミックグリーンシートの面内での厚みばらつきの影響も大きくなっている。その結果、たとえばコンデンサにあっては、容量ばらつきが大きくなることがあり、また、インダクタとコンデンサとで構成されるLC共振器にあっては、所望の共振周波数が得られない、といった問題が生じる。
【0015】
なお、上述のような問題は、多層セラミック基板を製造する場合に限らず、多層セラミック基板を一例として含む積層型セラミック電子部品を製造する場合、さらには、絶縁シートとして、セラミックグリーンシート以外の樹脂シート等が用いられることもある積層型電子部品を製造する場合にも遭遇し得る。
【特許文献1】特開2002−185136号公報
【特許文献2】特開2001−308526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、積層型電子部品の製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した技術的課題を解決するため、この発明は、簡単に言えば、セラミックグリーンシートのような絶縁シートの厚みを測定し、その測定結果に基づき、絶縁シートに形成されるべき導体膜のサイズを算出し、その算出結果に従って、絶縁シートに導体膜を形成しようとするものである。
【0018】
より詳細には、この発明は、複数の絶縁シートを用意する工程と、複数の絶縁シートの特定のものに、コンデンサおよびインダクタの少なくとも一方を構成する導体膜を形成する工程と、複数の絶縁シートを積層し、それによって積層体を得る工程とを備える、積層型電子部品の製造方法に向けられるものであって、前述した技術的課題を解決するため、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0019】
すなわち、この発明は、絶縁シートの複数個所での厚みを測定し、それによって絶縁シートの面内での厚みばらつきを求める工程と、厚みばらつきをパラメータの1つとして、導体膜の必要なサイズを算出する工程とをさらに備え、導体膜を形成する工程では、算出された必要なサイズに従って導体膜が形成されることを特徴としている。
【0020】
この発明において、上述した導体膜を形成する工程では、インクジェット法や電子写真法などのマスクレス印刷法によって導体膜が形成されることが好ましい。
【0021】
絶縁シートは、積層体とされたとき、複数の積層型電子部品が行および列をなすように配列された状態にある集合電子部品を得ることができる面積を少なくとも有していて、厚みを測定する工程は、絶縁シートが集合電子部品を得ることができる面積を少なくとも有する状態で実施されることが好ましい。
【0022】
上述の好ましい実施態様において、厚みを測定する工程では、集合電子部品を得ることができる面積を少なくとも有する状態にある絶縁シートにおける、積層型電子部品となるべき各領域のすべてについて厚みが測定されてもよく、あるいは、積層型電子部品となるべき各領域の一部について厚みが測定され、厚みが測定されなかった積層型電子部品となるべき領域の厚みについては、厚みが測定された領域の厚みから推定されてもよい。
【0023】
複数の絶縁シートを積層する工程では、積層体の全体についての厚みがより均一になるように、積層される絶縁シートの面内での向きが変更されることが好ましい。
【0024】
複数の絶縁シートの特定のものに、絶縁シートの厚み方向に貫通するビアホール導体を形成する工程をさらに備える場合、ビアホール導体を形成する工程は、厚みを測定する工程の後に実施されても、厚みを測定する工程の前に実施されてもよい。
【0025】
この発明において、絶縁シートはセラミックグリーンシートであることが好ましい。この場合、積層体を焼成する工程をさらに備える。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、たとえばセラミックグリーンシートのような絶縁シートの大面積化や薄層化が進められ、絶縁シートの面内での厚みばらつきの影響が大きくなっても、厚みばらつきをパラメータの1つとして、導体膜の必要なサイズを算出し、算出された必要なサイズに従って導体膜が形成されるので、たとえばコンデンサにあっては、容量ばらつきを抑えることができ、また、インダクタとコンデンサとで構成されるLC共振器にあっては、所望の共振周波数を容易に得ることができる。
【0027】
また、この発明によれば、絶縁シートの面内での厚みばらつきをある程度許容し得るので、絶縁シートの製造段階において、それほど厳密な厚み制御が要求されない。そのため、絶縁シートの製造を能率的に進めることができるとともに、製造設備の低コスト化を図ることができる。
【0028】
この発明において、導体膜を形成するため、インクジェット法や電子写真法などのマスクレス印刷法が適用されると、たとえばスクリーン印刷のように印刷版を用いることなく、データ処理を行なうだけで印刷パターンを変更することができるので、形成される導体膜のサイズの変更に容易かつ迅速に対応することができる。
【0029】
複数の絶縁シートを積層するにあたって、積層体の全体についての厚みがより均一になるように、積層される絶縁シートの面内での向きが変更されると、厚みの均一な積層体を得ることができ、得られた積層型電子部品の厚みが均一化され、あるいは得られた複数の積層型電子部品間での厚みのばらつきを抑制することができる。特に、このような実施態様において、導体膜を形成するため、前述したように、マスクレス印刷法が適用されると、積層される絶縁シートの面内での向きの変更に応じて、印刷される導体膜の向きを変更することを容易かつ迅速に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、この発明による製造方法を実施して製造される積層型電子部品の一例としての多層セラミック基板11を示す断面図である。
【0031】
多層セラミック基板11は、複数の積層されたセラミック層12を備えている。また、多層セラミック基板11には、種々の形態の配線導体が設けられている。配線導体としては、たとえば、多層セラミック基板11の内部において、セラミック層12間の特定の界面に沿って延びるいくつかの内部導体膜13〜17と、特定のセラミック層12を厚み方向に貫通するように延びるいくつかのビアホール導体18とがあり、また、多層セラミック基板11の外表面上では、多層セラミック基板11の上面および下面にそれぞれ形成されるいくつかの外部導体膜19および20がある。
【0032】
多層セラミック基板11の上面には、いくつかのチップ部品21〜23が搭載される。これらチップ部品21〜23の電気的接続および機械的固定のために、上述した外部導体膜19が用いられる。
【0033】
多層セラミック基板11の内部には、たとえば、コンデンサ24が導体膜13をもって構成され、コンデンサ25が導体膜14をもって構成され、インダクタ26が導体膜15をもって構成されている。また、導体膜16は、グラウンド電極として機能する。
【0034】
図2ないし図6は、この発明の一実施形態による積層型電子部品の製造方法を説明するためのものである。図1に示した多層セラミック基板11の製造方法について、図2ないし図6を参照して説明する。
【0035】
図2は、多層セラミック基板11の製造工程を示すフロー図である。図3は、多層セラミック基板11の製造装置41の概略構成を示す正面図である。図3に示した製造装置41は、図2に示したシート成形工程31から導体膜形成工程34までを実施するためのものである。
【0036】
まず、図3に示すように、製造装置41は、キャリアフィルム1をロール・ツー・ロール(roll-to-roll)方式で矢印42方向へ搬送するためのローラ43および44を備えている。
【0037】
ローラ43および44間のキャリアフィルム1の搬送経路の比較的上流側には、スラリータンク45が配置される。セラミックスラリー46が、スラリータンク45に一時的に貯留され、かつスラリータンク45からキャリアフィルム1上に供給される。
【0038】
スラリータンク45の下流側には、ドクターブレード47が配置される。スラリータンク45からキャリアフィルム1上に供給されたセラミックスラリー46は、ドクターブレード47によってシート状に成形され、それによって、セラミックグリーンシート2がキャリアフィルム1によって裏打ちされた状態で得られる。
【0039】
セラミックグリーンシート2は、次いで、厚み測定部48において、その厚みが測定される。厚み測定部48、たとえば、放射線シート厚み測定装置から構成され、発光部49からセラミックグリーンシート2に向かって放射線が照射され、セラミックグリーンシート2を透過した放射線が受光部50によって受光される。セラミックグリーンシート2の厚みは、発光部49からの放射線照射量と受光部50に受光される放射線透過量との比から求められる。好ましくは、セラミックグリーンシート2は間欠送りされ、停止のタイミングで厚みが測定される。なお、厚み測定部48は、上述したような放射線シート厚み測定装置に代えて、測定子をセラミックグリーンシート2に接触させて厚みを測定するマイクロメータによって構成されてもよい。
【0040】
厚み測定部48の下流側には、印刷部51が配置される。印刷部51は、たとえばインクジェット法や電子写真法などのマスクレス印刷法を適用して、セラミックグリーンシート2上に導体膜を印刷するものである。図3では、印刷部51に備えるインクジェットヘッド52が概略的に図示されている。
【0041】
なお、図3では図示されないが、たとえば、厚み測定部48と印刷部51との間に、ビアホール導体を形成するための工程を実施するビアホール形成部が配置される。
【0042】
前述した厚み測定部48によってセラミックグリーンシート2の複数個所で測定された厚みデータ53は、演算処理装置54に入力され、演算処理装置54にてセラミックグリーンシート2の面内での厚みばらつきが求められる。
【0043】
この厚みばらつきデータに基づいて、演算処理装置54では、厚み補正データ55が求められ、この厚み補正データ55は、ドクターブレード47の姿勢等を制御する機構に出力され、厚みばらつきを低減すべく、ドクターブレード47の姿勢等が補正される。
【0044】
さらに、演算処理装置54では、厚みばらつきデータに基づいて、印刷パターンデータ56が求められ、印刷パターンデータ56は印刷部51に入力され、印刷部51によって印刷されるべき導体膜のサイズ等が制御される。
【0045】
次に、主として図2を参照して、多層セラミック基板11の製造方法について説明する。前述したように、図2に示した工程の一部は、図3に示した製造装置41によって実施される。
【0046】
図2に示したシート成形工程31は、図3に示すように、スラリータンク45からキャリアフィルム1上に供給されたセラミックスラリー46をドクターブレード47によってシート状に成形するものであり、それによって、セラミックグリーンシート2が得られる。
【0047】
次に、厚み測定工程32が実施される。厚み測定工程32は、厚み測定部48において実施され、セラミックグリーンシート2の複数個所での厚みを測定するものである。
【0048】
次に、ビアホール形成工程33が実施される。
【0049】
次に、導体膜形成工程34が実施される。前述したように、厚み測定部48から出力される厚みデータ53に基づいて、演算処理工程38において、印刷パターンデータ56が求められ、これによって、印刷部51において印刷されるべき導体膜のサイズ等が制御される。導体膜形成工程34のより具体的な実施例については、図4および図5を参照して後述する。
【0050】
次に、積層・圧着工程35が実施される。積層・圧着工程35では、必要な導体膜およびビアホール導体が形成されかつ所定の寸法を有するセラミックグリーンシート2がキャリアフィルム1から剥離されながら、順次積層され、次いで積層方向にプレスされることによって、圧着され、それによって、生の積層体が得られる。
【0051】
次に、焼成工程36が実施され、生の積層体が焼成される。これによって、焼結した積層体が得られる。この積層体は、複数の多層セラミック基板が行および列をなすように配列された集合基板すなわち集合電子部品の状態にある。
【0052】
次に、分割工程37が実施される。これによって、集合基板が分割され、それによって、複数の多層セラミック基板11が取り出される。なお、多層セラミック基板11上にチップ部品21〜23が搭載される場合、搭載工程は分割前の段階で実施されることが好ましい。
【0053】
図4には、導体膜形成工程を終えた段階にあるセラミックグリーンシート2が斜視図で示されている。図4に示したセラミックグリーンシート2は、図3に示した長尺の状態から積層・圧着工程35を実施するために所定の寸法に切り出された状態となっていて、上述した集合基板を得ることができる面積を有している。前述した厚み測定工程32は、図4に示したセラミックグリーンシート2が切り出される前の段階であって、集合基板を得ることができる面積を少なくとも有する状態で実施される。
【0054】
図4において、矢印42は、図3に示した矢印42に相当し、キャリアフィルム1の送り方向を示している。図4に示したセラミックグリーンシート2の厚みに注目すると、図8を参照して説明したような状態となっている。すなわち、送り方向42に対して直交する方向に相当するセラミックグリーンシート2の幅方向での一方端での厚みT1は、他方端での厚みT2より厚く、セラミックグリーンシート2の上面はほぼ一様な斜面を形成している。これは、前述したように、ドクターブレード47の不所望な傾きが主な原因である。
【0055】
このような場合、多層セラミック基板11となるべき各領域3のすべてについて厚みが測定されるのではなく、各領域3の一部について厚みが測定され、厚みが測定されなかった領域3の厚みについては、厚みが測定された領域3の厚みから推定されることが好ましい。図8を参照して説明すれば、たとえば、セラミックグリーンシート2における3つの位置PA、PBおよびPCで厚みが測定され、残りの位置については、加重平均に基づいて推定される。
【0056】
図4において、多層セラミック基板11となるべき各領域3を区画する分割線4が1点鎖線で示されている。前述した分割工程37では、これら分割線4に沿う分割が実施される。また、図4には、導体膜の一例として、図1に示した導体膜14に相当するものが図示されている。導体膜14は、コンデンサ25を構成するためのものである。
【0057】
図4に示すように、導体膜14は、セラミックグリーンシート2の厚みの比較的大きい部分では、比較的大きな面積とされ、他方、厚みの比較的小さな部分では、比較的小さな面積とされる。図5には、このことを明瞭に図示するため、比較的大きい面積の導体膜14が点線で示され、比較的面積の小さい導体膜14が実線で示され、互いに重ね合わせた状態で図示されている。
【0058】
上述のようにして、1つの集合基板から取り出される複数の多層セラミック基板11間での容量ばらつきが低減される。このような導体膜14のサイズの制御は、前述したように、演算処理装置54によって求められた印刷パターンデータ56を用いて印刷部51において導体膜14が印刷されることにより達成される。
【0059】
なお、セラミックグリーンシート2の厚みばらつきが図9に示すように生じている場合には、多層セラミック基板11となるべき各領域3のすべてについて厚みが測定され、それに従って、印刷パターンデータ56を得るようにすることが好ましい。
【0060】
図4または図8に示すような厚みばらつきが生じている場合、積層・圧着工程35において、図6に示すように、積層体の全体についての厚みがより均一になるように、積層される複数のセラミックグリーンシート2の各々の面内での向きが変更されることが好ましい。
【0061】
図6を参照してより具体的に説明すると、セラミックグリーンシート2におけるもっとも厚みのある辺をSTで表すと、辺STが90度ずつ角度を変えるように、セラミックグリーンシート2が順次積層される。
【0062】
このような積層方法が採用されても、導体膜を形成するため、マスクレス印刷法が適用されると、積層されるセラミックグリーンシート2の面内での向きの変更に応じて、印刷される導体膜の向きを変更することを容易かつ迅速に行なうことができる。
【0063】
なお、図4、図5および図6において、セラミックグリーンシート2における厚みばらつきや導体膜14の面積差については、より理解しやすいようにするため、誇張されて図示されていることを指摘しておく。
【0064】
前述の図2に示したように、厚み測定工程32をビアホール形成工程33の前に実施すると、ビアホール導体の形成によるセラミックグリーンシート2の厚み変動を避けることができ、厚み測定を容易に行なうことができる。このような利点を望まない場合、図7に示すように、厚み測定工程32をビアホール形成工程33の後に実施してもよい。図7において、図2に示した要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0065】
図7に示す工程順が採用されると、セラミックグリーンシート2の実際の厚みをより正確に測定することが可能である。また、この実施形態の場合、厚み測定装置としては、接触型のものを用いるのが適している。
【0066】
以上、セラミックグリーンシート2の厚みばらつきをパラメータの1つとして必要なサイズを算出し、この算出された必要なサイズに従って形成される導体膜が、コンデンサ25を構成する導体膜14の場合について説明したが、他のコンデンサ24を構成する導体膜13、あるいはインダクタ26を構成する導体膜15についても、同様に、必要なサイズが算出され、算出された必要なサイズに従って導体膜が形成される。
【0067】
また、図示した実施形態は、多層セラミック基板11を製造する場合についてのものであったが、多層セラミック基板以外の積層型セラミック電子部品を製造する場合にも、さらには、セラミックグリーンシート以外の樹脂シート等が絶縁シートとして用いられる積層型電子部品を製造する場合にも、この発明を適用することができる。また、セラミックグリーンシートが絶縁シートとして用いられる場合、セラミックグリーンシートに含まれるセラミック材料は、絶縁体セラミックであっても、誘電体セラミックであっても、磁性体セラミックであってもよい。
【0068】
次に、この発明による効果を調査した結果を示す。
【0069】
ここでは、導体膜サイズの算出基準となるセラミックグリーンシートの厚みとして、次の3通りを採用する。
【0070】
A:セラミックグリーンシートの厚み分布の平均値
B:セラミックグリーンシートの厚み分布から求めた導体膜形成位置の厚み値
C:電極形成位置でのセラミックグリーンシートの厚み計測値。
【0071】
上記の算出基準A〜Cのうち、BおよびCがこの発明の範囲内の実施例となり、Aはこの発明の範囲外の比較例となるものである。
【0072】
以下の表1には、シート厚みを種々に変え、導体膜によってコンデンサを構成した場合の容量ばらつきが示されている。
【0073】
【表1】

【0074】
表1において、実施例は、比較例に比べて、容量ばらつきが小さくなっている。また、実施例1‐1と実施例1‐2との比較からわかるように、導体膜サイズの算出基準として、Cを採用した方が、Bより容量ばらつきがさらに低減している。
【0075】
また、比較例の場合、シート厚みが薄くなるほど、容量ばらつきが顕著に増加するのに対し、実施例の場合には、容量ばらつきはほとんど増加しない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】この発明による製造方法を適用して製造される積層型電子部品の一例としての多層セラミック基板11を示す断面図である。
【図2】この発明の一実施形態を説明するためのもので、図1に示した多層セラミック基板11の製造工程を示すフロー図である。
【図3】図1に示した多層セラミック基板11の製造装置41の概略構成を示す正面図である。
【図4】図2に示した導体膜形成工程34を終えた段階にあるセラミックグリーンシート2を示す斜視図である。
【図5】図4を補助する図面であって、サイズの比較的大きい導体膜14とサイズの比較的小さい導体膜14とを重ねて示す図である。
【図6】セラミックグリーンシート2の好ましい積層工程を説明するための図である。
【図7】この発明の他の実施形態を説明するためのもので、図1に示した多層セラミック基板11の製造工程を示すフロー図である。
【図8】キャリアフィルム1上で成形されたセラミックグリーンシート2を示す断面図であって、厚みばらつきが生じた状態を誇張して示している。
【図9】キャリアフィルム1上で成形されたセラミックグリーンシート2を示す断面図であって、別の態様の厚みばらつきが生じた状態を誇張して示している。
【符号の説明】
【0077】
2 セラミックグリーンシート
3 多層セラミック基板となるべき領域
4 分割線
11 多層セラミック基板
12 セラミック層
13〜17 内部導体膜
18 ビアホール導体
19,20 外部導体膜
24,25 コンデンサ
26 インダクタ
31 シート成形工程
32 厚み測定工程
33 ビアホール形成工程
34 導体膜形成工程
35 積層・圧着工程
36 焼成工程
37 分割工程
38 演算処理工程
41 製造装置
46 スラリー
47 ドクターブレード
48 厚み測定部
51 印刷部
53 厚みデータ
54 演算処理装置
56 印刷パターンデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁シートを用意する工程と、
前記複数の絶縁シートの特定のものに、コンデンサおよびインダクタの少なくとも一方を構成する導体膜を形成する工程と、
前記複数の絶縁シートを積層し、それによって積層体を得る工程と
を備える、積層型電子部品の製造方法であって、
前記絶縁シートの複数個所での厚みを測定し、それによって前記絶縁シートの面内での厚みばらつきを求める工程と、
前記厚みばらつきをパラメータの1つとして、前記導体膜の必要なサイズを算出する工程と
をさらに備え、
前記導体膜を形成する工程では、前記算出された必要なサイズに従って前記導体膜が形成される、
積層型電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記導体膜を形成する工程は、マスクレス印刷法によって前記導体膜を形成する工程を含む、請求項1に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁シートは、前記積層体とされたとき、複数の積層型電子部品が行および列をなすように配列された状態にある集合電子部品を得ることができる面積を少なくとも有していて、前記厚みを測定する工程は、前記絶縁シートが前記集合電子部品を得ることができる面積を少なくとも有する状態で実施される、請求項1または2に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記厚みを測定する工程では、前記集合電子部品を得ることができる面積を少なくとも有する状態にある前記絶縁シートにおける、前記積層型電子部品となるべき各領域のすべてについて厚みが測定される、請求項3に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記厚みを測定する工程では、前記集合電子部品を得ることができる面積を少なくとも有する状態にある前記絶縁シートにおける、前記積層型電子部品となるべき各領域の一部について厚みが測定され、厚みが測定されなかった前記積層型電子部品となるべき領域の厚みについては、厚みが測定された領域の厚みから推定される、請求項3に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記複数の絶縁シートを積層する工程では、前記積層体の全体についての厚みがより均一になるように、積層される絶縁シートの面内での向きが変更される、請求項1ないし5のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記複数の絶縁シートの特定のものに、前記絶縁シートの厚み方向に貫通するビアホール導体を形成する工程をさらに備え、前記ビアホール導体を形成する工程は、前記厚みを測定する工程の後に実施される、請求項1ないし6のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記複数の絶縁シートの特定のものに、前記絶縁シートの厚み方向に貫通するビアホール導体を形成する工程をさらに備え、前記ビアホール導体を形成する工程は、前記厚みを測定する工程の前に実施される、請求項1ないし6のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁シートはセラミックグリーンシートであり、前記積層体を焼成する工程をさらに備える、請求項1ないし8のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−123834(P2010−123834A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297581(P2008−297581)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】