説明

窒化物半導体製造装置、窒化物半導体の製造方法および窒化物半導体結晶

【課題】ハイドライド気相成長法による窒化物半導体の製造において、繰り返して使用しても白濁しにくくて、得られる窒化物半導体のSiキャリア濃度も安定している石英製の窒化物半導体製造装置を提供する。
【解決手段】窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料またはこれらの材料の混合物の少なくとも一方が接触する面の、一部または全部が合成石英ガラスで構成されていることを特徴とする窒化物半導体製造装置であって、たとえば、前記材料のうち、窒化物半導体の原料となる材料や、反応することによって窒化物半導体の原料を生成しうる反応性物質と接触する面の一部または全部に合成石英ガラスを使用することが好ましく、GaClなどのIII族ハロゲン化物やHClと接触する面に合成石英ガラスを使用することがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体を製造するための装置に関する。特に、窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料やこれらの材料の混合物が接触する面を構成する材料に特徴を有する窒化物半導体製造装置に関する。また本発明は、窒化物半導体の製造方法と該方法により製造される窒化物半導体結晶にも関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表される窒化物半導体は、大きなバンドギャップを有し、またバンド間遷移が直接遷移型であることから、紫外、青色または緑色などの発光ダイオード、半導体レーザーなどの比較的短波長側の発光素子や、電子デバイスなどの半導体デバイスの基板として有望な材料である。
【0003】
窒化物半導体は、融液からのバルク成長法や気相成長法などにより製造可能であることが知られている。窒化物半導体は、高融点であり、しかも融点付近の窒素の解離圧が高いことから、ハイドライド気相成長法(HVPE法)や有機金属化学気相成長法(MOCVD法)などの気相成長法を用いることによって効率よく製造できる。例えば、窒化ガリウム半導体結晶を製造する場合、サファイアなどの下地基板を気相成長装置の反応容器(リアクター)内にセットし、反応容器内に、ガリウム化合物を含有するガスと窒素化合物を含有するガスなどからなる窒化物半導体製造用の原料ガスを供給することにより、下地基板上に窒化ガリウム半導体を数μm〜数cmの厚さにまで成長させる。そして、その後、下地基板などの部分を研磨やレーザーを照射などの方法を用いて除去することにより、所望の窒化物半導体基板を得ることができる。前記の気相成長法のうち、特にHVPE法は他の成長方法に比べて高い成長速度が実現できるという特徴を有することから、窒化物半導体の厚膜成長が必要な場合や、十分な厚みを有する窒化物半導体基板を得るための方法として有効である。
【0004】
このような窒化物半導体の製造に用いる装置として、天然石英を高純度化した粉末原料から作製した溶融石英ガラス(本明細書の以下の記載ではこれを略して「天然石英ガラス」という)を用いた装置が知られている。天然石英ガラスは、一般に耐食性や耐熱性が高く、比較的安価で加工も容易であることから、窒化物半導体製造装置に用いやすい。このため、反応容器や導管などの内壁を天然石英ガラスでコーティングしたり、反応容器の一部に天然石英ガラス製の部材を用いたり、反応容器や原料ガス導管そのものを天然石英ガラス製にしたりすることなどが行われている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−177187号公報
【特許文献2】特開2008−60536号公報
【特許文献3】特開2005−223243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らはこれらの天然石英ガラスを用いた窒化物半導体製造装置には、繰り返し使用していると天然石英ガラスで構成される材料の表面が徐々に白濁するという課題があることを見出すに到った。また、得られる窒化物半導体のSiキャリア濃度が徐々に高くなり、不純物が混入して窒化物半導体の歩留まりが低下するという課題があることをも見出した。そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、繰り返して使用しても白濁しにくくて、得られる窒化物半導体のSiキャリア濃度も安定している窒化物半導体製造装置を提供することを本発明の目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、窒化物半導体製造装置を合成石英ガラスで構成することにより従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0008】
[1] 窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料および前記材料の混合物の少なくとも一方が接触する面の、一部または全部が合成石英ガラスで構成されていることを特徴とする窒化物半導体製造装置。
[2] 窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料が、窒化物半導体製造用の原料ガスであることを特徴とする[1]に記載の窒化物半導体製造装置。
[3] 前記合成石英ガラスが、前記原料ガスの導管の壁面に用いられていることを特徴とする[2]に記載の窒化物半導体製造装置。
[4] 前記窒化物半導体がIII族窒化物半導体であり、前記合成石英ガラスがIII族原料ガスの導管の壁面に用いられていることを特徴とする[3]に記載の窒化物半導体製造装置。
[5] 前記III族原料が窒化ガリウムであることを特徴とする[4]に記載の窒化物半導体製造装置。
[6] 窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料および前記材料の混合物の少なくとも一方が接触する面のうち、前記合成石英ガラスで構成されていない部分が主として天然石英ガラスで構成されていることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の窒化物半導体製造装置。
[7] 前記合成石英ガラスが天然石英ガラスの表面に形成されていることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の窒化物半導体製造装置。
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の窒化物半導体製造装置内に窒化物半導体製造用の原料を導入し、該装置内で窒化物半導体を成長させることを特徴とする窒化物半導体の製造方法。
[9] 前記窒化物半導体の成長中に前記合成石英ガラスで構成されている部分の温度が750℃以上に達することを特徴とする[8]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[10] 前記窒化物半導体をハイドライド気相成長法により成長させることを特徴とする[8]または[9]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[11] [8]〜[10]のいずれか一項に記載の製造方法により製造される窒化物半導体結晶。
[12] 結晶中のAl原子濃度が重量基準で0.5ppm以下であることを特徴とする[11]に記載の窒化物半導体結晶。
[13] 結晶中のFe原子濃度が重量基準で0.5ppm以下であることを特徴とする[11]または[12]に記載の窒化物半導体結晶。
[14] 結晶中のTi原子濃度が重量基準で0.5ppm以下であることを特徴とする[11]〜[13]のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶。
【発明の効果】
【0009】
本発明の窒化物半導体製造装置は、繰り返して使用しても装置表面が白濁しにくくて、装置の寿命が長いという特徴を有する。また、本発明の窒化物半導体の製造方法によれば、同一の装置を用いて繰り返して製造してもSiキャリア濃度が安定している高品質な窒化物半導体が得られ、歩留まりも高いという利点がある。さらに、本発明の窒化物半導体結晶は、不純物濃度が低くて高品質であるという特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の窒化物半導体製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】製造装置の使用回数と得られる窒化物半導体のSiキャリア濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の窒化物半導体製造装置について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[窒化物半導体製造装置]
(合成石英ガラスの使用箇所)
本発明の窒化物半導体製造装置は、窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料およびこれらの材料の混合物の少なくとも一方が接触する面の一部または全部が合成石英ガラスで構成されていることを特徴とする。ここでいう石英ガラスとは、石英の溶融物を結晶化させることなく冷却して、非晶質状態にある物質をいう。
【0013】
ここでいう窒化物半導体を製造する装置内に導入する材料とは、窒化物半導体の原料となる材料のみならず、反応することによって窒化物半導体の原料を生成しうる反応性物質や、キャリアガスなどの非反応性材料などを広く包含するものである。例えば、窒化ガリウムを製造しようとする場合には、窒化物半導体の原料となる材料としてGaClやNH3などを挙げることができる。また、反応することによって窒化物半導体の原料を生成しうる反応性物質として、Gaと反応するHClガスやドーパントとして用いられるシランガス、モノクロロシランガス、ジクロロシランガス、トリクロロシランガス、テトラクロロシランガス、硫化水素、水などを挙げることができる。非反応性材料としては、N2、H2、Ar、He、Neなどを挙げることができる。
【0014】
これらの材料の中では、窒化物半導体の原料となる材料や、反応することによって窒化物半導体の原料を生成しうる反応性物質と接触する面の一部または全部に合成石英ガラスを使用することが好ましく、GaClなどのIII族ハロゲン化物やHClと接触する面に合成石英ガラスを使用することがより好ましい。
【0015】
装置内に導入する材料が接触する面としては、具体的には、材料を導入するための導管の壁面(ここでいう導管にはノズルを含み、壁面には材料が接触する内壁および外壁を含む)、バルブの流路の内壁、窒化物半導体の原料を調製するための容器の内壁、窒化物半導体を成長させるための反応容器の内壁などが挙げられる。そのなかでも、材料を導入するための導管の壁面の一部または全部に合成石英ガラスを使用することが好ましい。
また、装置内に導入する材料が接触する面としては、分離した部材同士を石英ガラスにより溶接した溶接部が含まれる。通常、溶接部は石英ガラスからなる溶接棒を溶融させて形成するが、該溶接棒として、合成石英ガラスからなる溶接棒を用いることが好ましい。合成石英ガラスからなる溶接棒を用いると、特に腐食されやすい溶接部の不純物を低減することができ、結果として顕著に本発明の効果を発揮することが可能となる。
【0016】
また、本発明でいう材料の混合物とは、装置内に導入した上記の材料を混合することにより得られ、窒化物半導体を成長させることができる混合物をいう。材料の混合物が接触する面としては、具体的には、窒化物半導体を成長させるための反応容器の内壁などが挙げられる。
【0017】
本発明の技術的効果を最大限に享受するためには、装置内に導入する材料および前記材料の混合物の少なくとも一方が接触する面の全部を合成石英ガラスで構成することが好ましい。しかしながら、合成石英ガラスは高価であることから、コストを重視する場合などには接触面の一部にのみ合成石英ガラスを使用することも可能である。接触面の一部にのみ使用する場合は、GaClなどのIII族ハロゲン化物やHClと接触する面に合成石英ガラスを使用することが好ましく、特にこれらの物質が接触する導管の壁面やリザーバの内壁に合成石英ガラスを使用することが好ましい。また、合成石英ガラスで構成されていない接触面は、本発明の効果を損なわない範囲で主として天然石英ガラスで構成されていることが好ましく、具体的には合成石英ガラスで構成されていない接触面の50%以上、さらには80%以上、さらには100%が天然石英ガラスで構成されていることが好ましい。合成石英ガラスで構成されていない接触面を構成する材料のうち、天然石英ガラス以外の材料として、例えば焼結体窒化ホウ素(BN)、熱分解窒化ホウ素(PBN)、熱分解グラファイト(PG)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al23)等のセラミックス材料やステンレス、インコネル600、ハステロイ、イリジウム、ニッケル等の金属材料も必要に応じて適宜使用することができる。
【0018】
装置内に導入する材料やこれらの材料の混合物が接触する面の表面のみに合成石英ガラスを形成する場合、その厚みは好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは10μm以上であって、好ましくは1000μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。表面に形成された合成石英ガラスが十分な厚みを有していれば、合成石英ガラスが剥がれにくく、また表面のみに形成された合成石英ガラスが多少侵食された場合であっても、より腐食されやすい材料が露出してしまう心配がなく、好ましい。また、適度な厚みの範囲に抑えることによって、十分な効果を奏しながらコストメリットを得ることができ、さらに、合成石英ガラスとその他の材料との熱膨張係数差によって加熱または冷却時に生じる内部応力の変動、変形、剥がれやひびなどの破損が低減する傾向があり、好ましい。接触面の表面のみに合成石英ガラスを形成する方法として、合成石英粉末を天然石英ガラスの表面に粒子層として堆積させ、前記粒子層を融解して天然石英ガラスと強固に結合した透明な表面合成石英ガラス層を形成する方法;キシレンやジブチルエーテルなどの好適な有機溶媒に無機ポリマーであるパーヒドロポリシラザン(PHPS)を溶解させた溶液を天然石英ガラス上にコートした後に、有機溶媒を乾燥、気化させた後に触媒の存在下または加熱処理により雰囲気の水分を利用して加水分解させることで合成石英ガラスを形成する方法;テトラエトキシシラン(TEOS)やヘキサメチルジシラザン(HMDS)に代表されるモノマー材料を出発材料としてゾル−ゲル法により合成石英ガラスを形成する方法などを挙げることができる。これらの材料を天然石英ガラスなどの合成石英ガラスで構成されていない接触面上にコートする方法として、ディップコーティング法、グラビアコーティング法などのウェットコーティング法、あるいは気相化学堆積法などが知られているが、実施可能な範囲においてその手法を問わない。
【0019】
(合成石英ガラス)
本発明の窒化物半導体製造装置に用いる合成石英ガラスは、従来の窒化物半導体製造装置に用いられていた天然石英ガラスに比べて不純物濃度が極めて小さい。本発明に用いることができる合成石英ガラスは、通常Al原子濃度(重量基準)が10ppm以下であり、好ましくは1ppm以下であり、より好ましくは0.1ppm以下である。また、通常Fe原子濃度(重量基準)は0.15ppm以下であり、好ましくは0.1ppm以下であり、より好ましくは0.08ppm以下である。Al原子濃度が10ppm以下であり、Fe原子濃度が0.15ppm以下である合成石英ガラスを使用することにより、窒化物半導体製造装置の白濁を効果的に抑制することができる。また、本発明に用いることのできる合成石英ガラスのOH基濃度(重量基準)は、合成石英ガラスを使用する部分の温度によって使いわけることができる。概略950℃以上の高温部分での使用にはOH基濃度が低い方が好ましく、10ppm以下がより好ましく、5ppm以下がさらに好ましい。概略950℃未満の比較的低温部分の使用にはOH基濃度が低い物に加え、OH基濃度が比較的高い10ppm〜1000ppmのものも使用できる。
【0020】
本発明で用いる合成石英ガラスは、密度が2.203g/cm3未満である。また、紫外線を照射すると245nm波長の光を吸収して青紫色に発光する天然石英ガラスとは異なり、本発明で用いる合成石英ガラスは紫外線を照射しても青紫色の発光は生じない。また、紫外線やx線、γ線等の放射線を照射すると黒ずむ天然石英ガラスとは異なり、本発明で用いる合成石英ガラスに紫外線やx線、γ線等の放射線を照射しても変色はしないことが好ましい。更に本発明で用いる合成石英ガラスは縦弾性係数が7.2×104N/mm2以下であると好ましく、また800℃での体積抵抗率が1.0×106Ωm以下であると好ましい。
本発明で用いられる合成石英ガラスは、クリストバライト化すると安定な化学構造を形成することが可能であり、これにより表面の耐食性をさらに向上させたものを用いてもよい。合成石英ガラスのクリストバライト化は、通常1550℃付近の高温状態で実施されるが、合成石英ガラス中にナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;カルシウムイオン;あるいはOH基が多く含まれている場合には、1000℃前後の比較的低い温度でもクリストバライト化が進むことが知られている。
クリストバライト層は冷却時にβ型からα型に相転移し、この際に収縮が生じることで、ひびや剥がれが発生することが知られている。従って、一度クリストバライト化した合成石英ガラスの層を含む装置を使用する際には、低温まで冷却せずに連続使用することが望ましい。また、運用上、一度室温にまで冷却する必要がある場合には、あらかじめクリストバライト層を低温あるいは短時間処理で形成して薄くしておくことで、冷却時のひびや剥がれの程度を抑制することもより望ましい形態として考えられる。
【0021】
本発明で用いる合成石英ガラスの製造方法としては、種々の合成法を用いることが可能である。例えば、四塩化珪素ガスを酸水素火炎中に送り込み、四塩化珪素を加水分解して純粋な合成石英ガラスを得る方法を採用することができる。また、四塩化珪素ガスを酸素とともに加熱し、酸化させて合成石英ガラスを得る方法を採用することもできる。この他に種々の合成法が知られているが、上記の好ましい特徴を有する石英の合成法であれば、特に制限なく採用することができる。
【0022】
合成石英ガラスはHFに対して耐食性が十分ではないことが知られているため、合成石英ガラスはHClと接触する窒化物半導体製造装置の内壁に使用することは適切ではないと考えられていた。しかしながら、本発明によって、HClと接触する面に合成石英ガラスを使用することによって白濁を防ぎ、高品質な窒化物半導体を安定に製造できるという予想外の効果が得られることが明らかになった。
【0023】
(製造装置の構造)
本発明の窒化物半導体製造装置の構造の詳細は、特に制限されない。窒化物半導体製造用として従来用いられてきた製造装置の構造を、本発明においても採用することができる。特に、本発明は気相成長に用いられ得る構造を有していることが好ましく、HVPE法に用いられ得る構造を有していることがより好ましい。
【0024】
以下において、図1を参照しながらHVPE法に用いることができる窒化物半導体製造装置の一例を説明するが、本発明で採用することができる製造装置の構造はこの態様によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0025】
図1の窒化物半導体製造装置は、反応容器1と、反応容器1内に配置され種結晶8を支持する支持部7と、ヒータ11とを備えている。反応容器1には、導管2、3を通して、キャリアガス(例えばH2ガス、N2ガス、これらの混合ガス)G2と、V族原料ガス(例えばNH3ガス)G3がそれぞれ供給される。反応容器1内のリザーバ5には、導管4を通して反応ガス(例えばHClガス)が供給される。反応ガスは、リザーバ5内のIII族原料(例えばGa)と反応してIII族原料ガス(例えばGaClガス)G1を発生し、導管6を通して供給される。この構成により、支持部7で支持された種結晶8には、III族原料ガスG1と、キャリアガスG2と、V族原料ガスG3が供給され、種結晶8上に目的とする窒化物半導体9が成長する。反応容器1内のガスは、排気管10を通して排気される。各ガスの流量は、典型的には、マスフローコントローラー(MFC)で制御される。なお、ここでいう導管はノズルを包含する概念である。また、導管の中で複数の物質を混合して反応させてもよい。
【0026】
図1の窒化物半導体製造装置において、合成石英ガラスは、反応容器1の内壁、導管2、3、4の内壁、リザーバ5の内壁、リザーバから反応容器へIII族原料ガスG1を誘導する導管6の内壁、支持部7とそれを支える回転棒の表面、排気管10の内壁の一部または全部に使用することができる。このうち、少なくとも反応容器1の内壁、導管4、6の内壁、リザーバ5の内壁、支持部7とそれを支える回転棒の表面、排気管10の内壁の一部または全部に使用することが好ましく、少なくとも反応容器1の内壁、導管4、6の内壁、リザーバ5の内壁の一部または全部に使用することが好ましく、少なくとも導管4、6の内壁、リザーバ5の内壁の一部または全部に使用することがさらに好ましく、少なくとも導管6の内壁、リザーバ5の内壁の一部または全部に使用することが特に好ましい。合成石英ガラスが使用されていない部分については、天然石英ガラスを使用することが好ましい。
【0027】
[窒化物半導体の製造方法]
(特徴)
本発明の窒化物半導体の製造方法は、上記の本発明の製造装置を用いて窒化物半導体を製造することを特徴とする。本発明の製造方法によれば、繰り返して製造装置を使用しても、装置表面での白濁が発生しにくい。天然石英ガラスを用いた製造装置を使用する従来の製造方法では、繰り返して製造装置を使用しているうちに徐々に製造装置が白濁しやすかったが、本発明によれば、同じ回数を繰り返して使用しても白濁の程度をかなり抑えることができる。したがって、本発明の製造方法によれば、反応装置の交換頻度を抑え、交換に伴うコストを削減することができる。
【0028】
また、天然石英ガラスを用いた製造装置を使用する従来の製造方法では、繰り返して製造装置を使用しているうちに得られる窒化物半導体のSiキャリア濃度が徐々に高くなり、窒化物半導体の歩留まりが低下していたが、本発明によれば、同じ回数を繰り返して使用しても窒化物半導体のSiキャリア濃度の上昇を大幅に抑えることができ、窒化物半導体の歩留まりを高く維持することができる。さらにSiキャリア濃度を一定に保つことが可能であるため、得られた窒化物半導体を導電性の制御が必要とされる用途に用いる場合は、本発明の製造方法は極めて有用である。
【0029】
さらに、従来の製造方法では、繰り返して製造装置を使用すると、特に材料を導入するための導管の先端が腐食されやすく、このため異物が飛散して得られる窒化物半導体を汚染していたが、本発明によれば、このような腐食を抑えることができる。したがって、得られる窒化物半導体の純度を高く維持し、高品質な窒化物半導体を得ることができる。
【0030】
(製造工程)
本発明の製造装置は、種々の窒化物半導体の製造方法に用いることができる。本発明の製造方法では、気相成長法を採用することが好ましく、量産性の理由からHVPE法またはMOCVD法を採用することがより好ましく、HVPE法を採用することが特に好ましい。
【0031】
図1の製造装置を用いたHVPE法による窒化物半導体の製造工程を例示的に説明する。まず、製造装置の反応容器1をNH3の存在下で900〜1150℃に昇温し、リザーバ5の温度を750〜850℃に調整する。その後、リザーバ5中のGaに導管4を通してHClガスを導入し、発生したGaClガスG1を、H2とN2の混合キャリアガスG2、NH3ガスG3とともにGaN種結晶8に供給しながら、気相中でGaN種結晶8上にGaN結晶9を成長させる。この成長工程において、成長圧力は5×104〜5×105Paとし、GaClガスG1の分圧は3×101〜3×104Paとし、NH3ガスG3の分圧は1×103〜3×105Paとすることが好ましい。キャリアガスの分圧は4.9×104〜4.9×105Paとすることが好ましい。この成長工程の終了後に反応容器1を取り出し可能な温度まで降温する。
【0032】
(製造する窒化物半導体の種類)
本発明の製造方法により製造する窒化物半導体の種類は特に制限されない。具体的には、III族窒化物半導体を例示することができ、より具体的には、窒化ガリウム、窒化インジウム、またはこれらの混晶を挙げることができる。
【0033】
[窒化物半導体結晶]
(特徴)
本発明の窒化物半導体結晶は、本発明の製造方法により製造されるものである。本発明の窒化物半導体結晶は、不純物濃度が低いという特徴を有する。具体的には、Al原子濃度(重量基準)が0.5ppm以下であり、好ましくは0.1ppm以下であり、より好ましくは0.01ppm以下である。また、Fe原子濃度(重量基準)が0.5ppm以下であり、好ましくは0.1ppm以下であり、より好ましくは0.01ppm以下である。Ti原子濃度(重量基準)が0.5ppm以下であり、好ましくは0.1ppm以下であり、より好ましくは0.01ppm以下である。
【0034】
(用途)
このような特徴を有することから、本発明の窒化物半導体結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に、紫外、青色または緑色などの発光ダイオード、半導体レーザーなどの比較的短波長側の発光素子や、電子デバイスなどの半導体デバイスの基板として有用である。また、本発明の窒化物半導体結晶を下地基板として用いて、さらに大きな窒化物半導体結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0035】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0036】
(実施例1)
図1の製造装置を用いて、HVPE法により窒化物半導体結晶を製造する工程を実施した。図1に示す製造装置のうち、導管6には2mm厚の合成石英ガラスチューブが用いられている。それ以外の製造装置の内壁面は、すべて天然石英ガラスで構成されている。本実施例に使用した合成石英ガラスと天然石英ガラスの不純物濃度、OH基濃度を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
まず、製造装置の反応容器1をNH3の存在下で1020℃に昇温し、リザーバ5の温度を800℃に調整し、その後、リザーバ5中のGaに導管4を通してHClガスを導入し、発生したGaClガスG1を、H2とN2の混合キャリアガスG2、NH3ガスG3とともにGaN種結晶8に供給しながら、気相中でGaN種結晶8上にGaN結晶9を成長させた。この成長工程において、成長圧力は1.01×105Paとし、GaClガスG1の分圧は6.5×102Paとし、NH3ガスG3の分圧は7.5×103Paとした。キャリアガスの分圧は9.3×104Paとした。GaN結晶9の成長を29時間行った後、反応容器1を室温まで降温してGaN結晶9を取り出した。
【0039】
この工程を26回繰り返し、各工程において得られたGaN結晶のSiキャリア濃度をラマン分光測定法により測定した。その結果、図2に示すように各工程において得られたGaN結晶のSiキャリア濃度はほとんど差がなかった(図2の合成石英ガラス)。
【0040】
さらに工程を繰り返して合計40回実施した後、合成石英ガラスが施されている導管6の先端部分の状態を観察したところ、石英の白濁は観察されず、透明であった。
【0041】
(比較例1)
実施例1の製造装置の合成石英ガラスを使用した部分を、天然石英ガラスで構成した以外は実施例1と同じ構成を有する製造装置を2つ用意して、実施例1と同じ方法でGaN結晶を成長させて測定を行った。
【0042】
図2の結果から明らかなように、工程を繰り返すと、得られるGaN結晶のSiキャリア濃度が上昇することが確認された(図2の天然石英ガラス−1および天然石英ガラス−2)。
さらに工程を繰り返して合計10回実施した後、天然石英ガラスからなる導管6の先端部分の状態を観察したところ、先端から幅10mmの範囲が白濁していた。
【0043】
(実施例2)
天然石英ガラス上にコートされた合成石英ガラスが実施例1と同様に白濁を抑制出来るかを確認するために、天然石英ガラスからなる試験片の一部を合成石英ガラスでコートした。キシレン溶媒に溶解したパーヒドロポリシラザン(PHPS)(商標名アクアミカ、AZエレクトロニックマテリアルズ社製)をディップコート法により天然石英ガラスからなる試験片の片側半分にコートした。この天然石英ガラスを大気中で500℃で1時間焼成後、自然冷却し、表面に合成石英ガラス層を形成した。
図1の製造装置に前記試験片を配置して、GaClガスによる腐食に対する合成石英ガラス層有無の効果を調べた。まず、製造装置の反応容器1を1080℃に昇温し、リザーバ5の温度を800℃に調整し、その後、リザーバ5中のGaに導管4を通してHClガスを導入し、発生したGaClガスG1を、HとNの混合キャリアガスG2とともに支持部7に配置した試験片に供給した。60時間後の表面の状態を目視にて観察したところ、合成石英ガラスをコートした部分は、合成石英ガラスでコートしなかった部分に比べて白濁していなかった。
【符号の説明】
【0044】
1 反応容器
2、3、4 導管
5 リザーバ
6 導管
7 支持部
8 種結晶
9 窒化物半導体結晶
10 排気管
11 ヒータ
G1 III族原料ガス
G2 キャリアガス
G3 V族原料ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料および前記材料の混合物の少なくとも一方が接触する面の、一部または全部が合成石英ガラスで構成されていることを特徴とする窒化物半導体製造装置。
【請求項2】
窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料が、窒化物半導体製造用の原料ガスであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体製造装置。
【請求項3】
前記合成石英ガラスが、前記原料ガスの導管の壁面に用いられていることを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体製造装置。
【請求項4】
前記窒化物半導体がIII族窒化物半導体であり、前記合成石英ガラスがIII族原料ガスの導管の壁面に用いられていることを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体製造装置。
【請求項5】
前記III族原料が窒化ガリウムであることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体製造装置。
【請求項6】
窒化物半導体を製造する際に装置内に導入する材料および前記材料の混合物の少なくとも一方が接触する面のうち、前記合成石英ガラスで構成されていない部分が主として天然石英ガラスで構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体製造装置。
【請求項7】
前記合成石英ガラスが天然石英ガラスの表面に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物半導体製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物半導体製造装置内に窒化物半導体製造用の原料を導入し、該装置内で窒化物半導体を成長させることを特徴とする窒化物半導体の製造方法。
【請求項9】
前記窒化物半導体の成長中に前記合成石英ガラスで構成されている部分の温度が750℃以上に達することを特徴とする請求項8に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項10】
前記窒化物半導体をハイドライド気相成長法により成長させることを特徴とする請求項8または9に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法により製造される窒化物半導体結晶。
【請求項12】
結晶中のAl原子濃度が重量基準で0.5ppm以下であることを特徴とする請求項11に記載の窒化物半導体結晶。
【請求項13】
結晶中のFe原子濃度が重量基準で0.5ppm以下であることを特徴とする請求項11または12に記載の窒化物半導体結晶。
【請求項14】
結晶中のTi原子濃度が重量基準で0.5ppm以下であることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−201766(P2011−201766A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45056(P2011−45056)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】