説明

蒸気乾燥装置

【課題】
IPA等の有機溶剤を使用して乾燥する場合において、残留異物を低減し、ウオータマーク(水しみ)等の染みの発生を抑制することができる蒸気乾燥装置を提供することにある。
【解決手段】
この発明は、凝縮されたディスクを下側チャンファ部からのみ滴下するような速度で冷却エリアに引き上げることで、ウオータマークや異物の残留を下側チャンファ部に移動させて冷却乾燥に入る。さらに、下側チャンファ部を蒸気エリアに再浸漬することで下側チャンファ部に移動したウオータマークや異物の残留部部に対してドレーンにより下側チャンファ部の残留異物を流し落としかつ下側チャンファ部にできるであろうウオータマークの痕跡を除去して、再引き上げをしてディスクを乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蒸気乾燥方法および蒸気乾燥装置に関し、詳しくは、磁気ディスク、その基板(サブストレート)、半導体ウエハなどの円板状の非乾燥物を有機溶剤、例えば、IPA(イソプロビルアルコール)蒸気を凝縮することでこれと置換させて洗浄し、乾燥する蒸気乾燥装置において、残留異物を低減し、ウオータマーク(水しみ)等の染みの発生を抑制することができるような蒸気乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク、その基板(サブストレート)、半導体ウエハなどは、洗浄工程においてフッ化水素や純水リンス液などの処理液(洗浄液)で洗浄された後に乾燥工程に入る。その乾燥工程には多くの場合、IPA蒸気乾燥装置が用いられている。
IPA蒸気乾燥装置は、約82゜C程の温度のIPA蒸気で乾燥槽を満たし、IPA蒸気を凝縮させてディスクに付着した洗浄液と置換して置換されたIPA液(ドレーン)でディスク表面を濯ぎ、立位のディスクから滴下させることで異物とともに処理液(洗浄液)を排出する。
IPA蒸気は、乾燥槽に設けられた加熱装置で加熱されて蒸気となり、約82゜C程度にコントロールされているが、ハンドリングロボット等により搬送した立位ディスクを乾燥槽に搬入すると、洗浄後のディスク自体の温度が低いので、急激にディスク表面にIPA蒸気が凝縮され、それとともに乾燥槽のIPA蒸気の温度が80゜C以下に低下してIPA蒸気の発生が少なくなる。その結果、低下したIPA蒸気面が元の蒸気面の位置に戻るまでに少し時間がかかる。その間にIPA蒸気のディスク表裏面での凝縮がつづく。
この間にはディスクの洗浄が行われ、約82゜C程度でかつ元のIPA蒸気面が元の位置まで戻ったのちに、ディスクの温度がIPA蒸気の温度(約82゜C程度)に等しくなった時点で凝縮が停止して洗浄が終了する。そこで、IPA蒸気雰囲気からディスクが引き抜かれて、IPA蒸気雰囲気の上部で冷却乾燥される。
この種のIPA蒸気乾燥装置は、すでに公知となっている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−268331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ハードディスクは、現在では自動車製品や家電製品、音響製品の分野にまで浸透し、2.5インチから1.8インチに、さらには0.85インチと、1.0インチ以下のハードディスク駆動装置(HDD)が使用されてきており、HDD自体が小さくなってきている。しかも、高記録密度の要求から、現在ではトラック数が数千本/インチ以上にもなり、薄膜磁気ヘッドとディスクの間隔は、十数nmから数十nmの距離までに接近し、ディスクの外周ぎりぎりまでトラックが形成される。そのため、乾燥装置ではディスクの外周まで十分に洗浄乾燥することが要求されている。
しかし、外周にはチャック跡の染みや立位で洗浄したときのウオータマークが残り易く、また、立位の外周には異物が残留し易い。それらは、ディスク上に染みとなって残り、メッキ剥がれや腐食の原因となる。それにより、誤書込や誤読出が発生したり、果てはヘッドクラッシュの原因となる。
この発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決するものであって、IPA等の有機溶剤を使用して乾燥する場合において、残留異物を低減し、ウオータマーク(水しみ)等の染みの発生を抑制することができる蒸気乾燥装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような目的を達成するために、この発明の蒸気乾燥装置は、乾燥槽において有機溶剤の蒸気エリアの上部に冷却エリアを設けて、ディスクを立位で蒸気エリアに搬入してドレーンにより洗浄し、ドレーンがディスクの下側チャンファ部からのみ滴下するような速度でディスクを冷却エリアに引き上げて冷却エリアで冷却した後に蒸気エリアにディスクの下側チャンファ部を浸漬してドレーンを下側チャンファ部から滴下させた後に冷却エリアに再引き上げをしてディスクを乾燥し、排出するものである。
【発明の効果】
【0005】
このように、この発明にあっては、凝縮されたディスクを下側チャンファ部からのみ滴下するような速度で冷却エリアに引き上げることで、ウオータマークや異物の残留を下側チャンファ部に移動させて冷却乾燥に入る。さらに、下側チャンファ部を蒸気エリアに再浸漬することで下側チャンファ部に移動したウオータマークや異物の残留部部に対してドレーンにより下側チャンファ部の残留異物を流し落としかつ下側チャンファ部にできるであろうウオータマークの痕跡を除去して、再引き上げをしてディスクを乾燥する。
その結果、蒸気乾燥装置において、IPA等の有機溶剤を使用して乾燥する場合において、残留異物を低減し、ウオータマーク(水しみ)等の染みの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は、この発明を適用したIPA蒸気乾燥装置の一実施例の説明図であり、図2は、そのディスク乾燥処理手順の説明図である。
図1において、1は、IPA蒸気乾燥装置であって、SUS(ステンレス)製の装置本体2の内部には、乾燥槽となる底部にIPA液が満たされたIPA蒸気発生部3が設けられ、IPA蒸気発生部3の少し上には廃液槽4が設けられている。
また、装置本体2の上部は、冷却部6とされ、冷却部6との間にIPA蒸気エリア5が設けられている。
廃液槽4には、中央底部に廃液菅4aが連通していて、この廃液菅4aを通してドレーンが廃液槽4から排出される。装置本体2の底部の裏面側にはヒータブロック(加熱部)7が設けられていて、IPA蒸気発生部3に貯められたIPA液が加熱されて蒸気としてIPA蒸気エリア5に供給される。
【0007】
冷却部6には冷却コイル6aが設けられていて、冷却水が流れる冷却コイル6aが囲む空間は空気6bが満たされている。冷却部6の下側のIPA蒸気エリア5の位置に対応して上限温度センサ8a,下限温度センサ8bが装置本体2の側壁面に所定間隔で設けられ、IPA蒸気の温度がコントローラ10により検出され、制御される。
9は、洗浄乾燥されるディスクである。ディスク9は、ハンドリングロボット11により、IPA蒸気乾燥装置1のIPA蒸気エリア5に搬入され、乾燥後にIPA蒸気乾燥装置1から搬出される。
ハンドリングロボット11は、ハンド11aとアーム11bとを有し、昇降機構12によりアーム11bが支持され、上下に移動する。昇降機構12は、レール13上を一軸方向に前後 移動する。
コントローラ10は、ハンドリングロボット11のアーム11bの昇降移動とハンド11aのディスクチャックとその開放、そしてヒータブロック7によるIPA蒸気発生部3の加熱制御をする。
【0008】
ヒータブロック7によるIPA蒸気発生部3の加熱制御は、上限温度センサ8aが82.4゜C以上になったときに加熱を停止し、上限温度センサ8aが82.4゜C以下になったときにヒータブロック7によりIPA蒸気発生部3を微加熱してIPA蒸気雰囲気の上面5aを上限温度センサ8aの位置に保持する。
また、ディスク9をIPA蒸気エリア5に搬入した時点では、温度が急激に低下してIPA蒸気雰囲気は、下限温度センサ8bの位置まで下がる。下限温度センサ8bは、その位置に対応して設けられている。そこで、下限温度センサ8bが82.4゜C以下になったときにはコントローラ10は、ヒータブロック7によりIPA蒸気発生部3を強加熱をしてIPA蒸気雰囲気の上面を下限温度センサ8bの位置から上へと押し上げる。
上限温度センサ8aが82.4゜C以下で下限温度センサ8bが82.4゜Cか、それ以上になっているときにはヒータブロック7によりIPA蒸気発生部3を中加熱してIPA蒸気雰囲気の上面5aを上限温度センサ8aの位置まで押し上げて上限温度センサ8aと下限温度センサ8bとが82.4゜C程度に維持されるようにヒータブロック7による加熱制御をする。
【0009】
図2は、コントローラ10によるディスク乾燥処理手順の説明図である。なお、図1では、ハンドリングロボット11により複数枚のディスク9がIPA蒸気乾燥装置1に搬入されるが、図2では、そのうちのディスク1枚を代表として乾燥処理の手順を説明する。
ハンドリングロボット11は、廃液槽4の上部の位置までディスク9を降下させてその位置に保持する(図2(a)参照)。ディスク搬入時には、IPA蒸気エリア5のIPA蒸気雰囲気の上面5aは、IPA蒸気がディスク9の表裏面に凝縮して下限温度センサ8bの位置程度のところまで低下するが、ヒータブロック7の加熱によりやがて図2(b)のように上限温度センサ8aの位置まで上昇するが、この間、ディスク9の表裏面から滴下したドレーンが廃液槽4から廃液管4aを通して排出され、上限温度センサ8aは、82.4゜Cより低い、80゜C程度の温度にある。
そして、図2(b)のように上限温度センサ8aの位置まで上昇してかつ上限温度センサ8aが82.4゜Cに達し、これを越えたときには、ディスク9の温度が82.4゜C程度になり、IPA蒸気が飽和状態となったときに凝縮は終了する。
しかし、その手前の上限温度センサ8aが81.5゜C〜82.0゜Cの時点では、ディスク9の温度がIPA蒸気の温度より低いのでディスク9の表裏面では凝縮されたドレーン(IPA液)がいまだディスク9の表面から流れて立位のディスク9から滴下する状態にある。
なお、上限温度センサ8aが82.4゜Cになった時点でもディスク9の温度は、82.4゜Cになっていないので、多少の凝縮があるが、ドレーンの量は少ないので、81.5゜C〜82.0゜Cの時点でディスク9を引き上げた方がよい。
【0010】
そこで、コントローラ10は、上限温度センサ8aによるIPA蒸気雰囲気の検出温度が81、5゜C〜82.0゜Cの時点でゆっくりディスクを引き上げるとドレイン5aは、最下端となる下側チャンファ部9aから滴下する状態になる(図2(c)参照)。ハンドリングロボット11によりディスク9が引き上げる速度は、0.5mm/sec程度であり、ディスク9の表裏にあるドレーン5bは、引き上げに応じてディスク9の下側チャンファ部9aから滴下する。これにより異物が下側チャンファ部から滴下する。
ハンドリングロボット11は、ディスク9をさらに引き上げて冷却部6まで持ち上げる(図2(d)参照)。ここで、少しディスク9の温度を70゜C〜80゜C程度まで下げてからディスク9を上限温度センサ8aの位置より少し下まで降下させて、蒸気エリア5にディスク9の下側チャンファ部9aを、例えば、ドレインが数滴滴下する程度で浸漬した線等の浸漬痕が残らない短時間だけ浸漬する(図2(e)参照)。この短時間浸漬は、浸漬前のディスク9の低下した温度により異なるが数秒から十数秒程度でよい。多少薄く染み等が多少残っても薄い染み等はチャンファ部では実際上は問題にならないからである。この場合、浸漬痕が残らないようにチャンファ部の上部まで浸漬してゆっくり引き上げながらの浸漬であってもよい。
なお、ディスク9の温度を70゜C〜80゜C程度まで下げるのは、冷却部6に所定時間の滞留させておけばよい。所定時間は、処理するディスクの外形(直径)と枚数、そして配列間隔とにより決定される。
IPA蒸気の温度が82.0゜C前後になっているので、ディスク9の表裏で凝縮されたドレーン5aを滴下して下側チャンファ部9aに残留する異物と冷却によるウオータマークの跡の発生を抑える(図2(e)参照)。このとき、上限温度センサ8aが82.4゜Cより低くなるので、上限温度センサ8aが82.4゜Cになった時点でディスク9をさらに引き上げて冷却部6まで持ち上げる(図2(f)参照)。所定時間冷却後にディスク9を排出する。
【産業上の利用可能性】
【0011】
前記した実施例では、ハンドリングロボット11によりディスク9を冷却部6へ引き上げ(図2(d)参照)を1回行った後に、蒸気エリア5にディスク9の下側チャンファ部9aを浸漬して凝縮されたドレーンを滴下する(図2(e)参照)ようにしている。しかし、冷却部6へ引き上げ(図2(d)参照)とIPA蒸気エリア5へのディスク9の浸漬(図2(a)参照)とを複数回繰り返した後に蒸気エリア5にディスク9の下側チャンファ部9aを浸漬して凝縮されたドレーンを滴下する(図2(e)参照)ようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明を適用したIPA蒸気乾燥装置の一実施例の説明図である。
【図2】図2は、そのディスク乾燥処理手順の説明図である。
【符号の説明】
【0013】
1…IPA蒸気乾燥装置、2…装置本体、
3…IPA蒸気発生部、4…廃液槽、
5…IPA蒸気エリア、6…冷却部、
6a…冷却コイル、7…ヒータブロック、
8a…上限温度センサ、8b…下限温度センサ、
9…ディスク、10…コントローラ、
11…ハンドリングロボット、
11a…ハンド、11b…アーム、
12…昇降機構、13…レール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク、その基板、半導体ウエハなどの円板状の非乾燥物に付着した処理液を有機溶剤の蒸気を凝縮してドレーンとして置換して排出することで前記ディスクを洗浄乾燥する蒸気乾燥方法において、
乾燥槽において有機溶剤の蒸気エリアの上部に冷却エリアを設けて、前記ディスクを立位で前記蒸気エリアに搬入して前記ドレーンにより洗浄し、前記ドレーンが前記ディスクの下側チャンファ部からのみ滴下するような速度で前記ディスクを冷却エリアに引き上げて前記冷却エリアで冷却した後に前記蒸気エリアに前記ディスクの下側チャンファ部を浸漬して前記ドレーンを前記下側チャンファ部から滴下させた後に前記冷却エリアに再引き上げをして前記ディスクを乾燥し、排出する蒸気乾燥方法。
【請求項2】
前記ディスクの下側チャンファ部の浸漬は、浸漬痕が残らない短時間の浸漬であり、有機溶剤はIPAであり、前記乾燥槽の底部に前記IPA液が満たされたIPA蒸気発生部が設けられ、前記底部の裏面側に加熱部が設けられ、前記IPA蒸気発生部の上部に廃液部が設けられ、前記冷却エリアに冷却コイルが設けられ、前記ディスクが前記乾燥槽の上部から前記廃液部の上部の前記蒸気エリアに搬入され、前記冷却エリアを経て上部から搬出される請求項1記載の蒸気乾燥方法。
【請求項3】
磁気ディスク、その基板、半導体ウエハなどの円板状の非乾燥物に付着した処理液を有機溶剤の蒸気を凝縮してドレーンとして置換して排出することで前記ディスクを洗浄乾燥する蒸気乾燥装置において、
有機溶剤の蒸気エリアの上部に冷却エリアを有する乾燥槽と、
前記ディスクを保持して前記蒸気エリアと前記冷却エリアとの間で立位で前記ディスクを移動させるハンドリングアームと、
前記ハンドリングアームの前記移動を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記ディスクを前記ドレーンにより洗浄するために前記ハンドリングアームを移動して前記ディスクを前記蒸気エリアに搬入し、その後、前記ドレーンが前記ディスクの下側チャンファ部からのみ滴下するような速度で前記ディスクを冷却エリアに引き上げて前記冷却エリアで冷却した後に前記蒸気エリアに前記ディスクの下側チャンファ部を浸漬して前記ドレーンを前記下側チャンファ部から滴下させて前記冷却エリアに再引き上げをする制御を行う蒸気乾燥装置。
【請求項4】
有機溶剤はIPAであり、前記乾燥槽の底部に設けられた前記IPA液が満たされたIPA蒸気発生部と、前記底部の裏面側に設けられた加熱部と、前記IPA蒸気発生部の上部に設けられた廃液部とを有し、前記冷却エリアには冷却コイルが設けられ、前記ディスクが前記乾燥槽の上部から前記廃液部の上部の前記蒸気エリアに搬入され、前記冷却エリアを経て上部から搬出される請求項3記載の蒸気乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−264690(P2008−264690A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111545(P2007−111545)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】