説明

薄膜トランジスター

【課題】薄膜トランジスターを提供する。
【解決手段】ガラス基板1の上に形成されたゲート電極膜2と、前記ガラス基板1およびゲート電極膜2の上に形成された窒化珪素膜3と、前記窒化珪素膜3の上に形成されたアモルファスSi膜4と、前記アモルファスSi膜4の上に形成されたCu、SiおよびOからなる銅含有珪素酸化膜またはCu、Si、MおよびOからなる銅M含有珪素酸化膜19と、前記銅含有珪素酸化膜または銅M含有珪素酸化膜19の上に形成された純銅または銅合金からなるドレイン電極膜5およびソース電極膜6と、前記ドレイン電極膜5およびソース電極膜6の上に形成された酸化ケイ素または酸化アルミニウム膜16と、前記酸化ケイ素または酸化アルミニウム膜16の上に形成された窒化珪素膜13とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種ディスプレイに使用される薄膜トランジスターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリックス方式で駆動する薄膜トランジスターを用いたフラットパネルディスプレイとして、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイなどが知られている。これら薄膜トランジスターを用いたフラットパネルディスプレイにはガラス基板表面に格子状に金属膜からなる配線が密着形成されており、この金属膜からなる格子状配線の交差点に薄膜トランジスターが設けられている。
この薄膜トランジスターは、図5の断面概略説明図に示されるように、ガラス基板1の表面に金属膜からなるゲート電極膜2が形成されており、このゲート電極膜2およびガラス基板1の上に窒化珪素(SiNx)膜3が形成されており、さらに窒化珪素(SiNx)膜3の上にアモルファスSi膜4が形成されており、このアモルファスSi膜4の上にいずれもバリア膜7を介して純銅または銅合金からなるドレイン電極膜5およびソース電極膜6が形成されており、さらに前記アモルファスSi膜4、ドレイン電極膜5およびソース電極膜6の全面を覆うように窒化珪素(SiNx)膜13が形成された積層膜構造を有している。
かかる積層膜構造を有する薄膜トランジスターを作製するには、まず、図6の断面図に示されるような、ガラス基板1の表面に純銅からなるゲート電極膜2を形成し、このゲート電極膜2およびガラス基板1の上に窒化珪素(SiNx)膜3を形成し、さらに窒化珪素(SiNx)膜3の上にアモルファスSi膜4を形成し、このアモルファスSi膜4の上にバリア膜7を形成し、前記窒化珪素(SiNx)膜3およびバリア膜7の全面を被覆するように純銅膜または銅合金膜8を形成して積層体9を作製する。
次いで前記積層体9のバリア膜7および純銅膜または銅合金膜8を写真製版(フォトリソ)により湿式エッチングすることによってバリア膜7および純銅膜または銅合金膜8に覆われていたアモルファスSi膜4の一部を露出させ、バリア膜7、ドレイン電極膜5およびソース電極膜6を形成することにより図7の断面図に示される従来の薄膜トランジスター中間体10を作製し、その後、従来の薄膜トランジスター中間体10の全面に窒化珪素(SiNx)膜13を300℃前後で化学蒸着することにより図5の断面図に示される従来の薄膜トランジスターを作製する。図5〜7に図示されてはいないが、ドレイン電極膜5およびソース電極膜6の密着性を高めるためにドレイン電極膜5およびソース電極膜6の下地層として酸素を含む銅膜(酸素含有銅膜)を形成することも知られている。
【0003】
前記窒化珪素(SiNx)膜13は一般に300℃前後で化学蒸着することにより成膜されるので、窒化珪素(SiNx)膜13の成膜時に前記アモルファスSi膜4のSiが純銅または銅合金からなるドレイン電極膜5およびソース電極膜6に拡散し、そのためにドレイン電極膜5およびソース電極膜6の比抵抗が大きく上昇する。
前述のように、この窒化珪素(SiNx)膜13の化学蒸着時にアモルファスSi膜4のSiがドレイン電極膜5およびソース電極膜6に拡散してドレイン電極膜5およびソース電極膜6の比抵抗が上昇するのを阻止するために、アモルファスSi膜4とドレイン電極膜5の間およびアモルファスSi膜4とソース電極膜6の間にそれぞれバリア膜7を形成するが、このバリア膜7として通常MoもしくはMo合金膜またはTiもしくはTi合金膜が使用されており、このバリア膜7はその後薄膜トランジスターが加熱されるようなことがあってもアモルファスSi膜4のSiがドレイン電極膜5およびソース電極膜6に拡散してドレイン電極膜5およびソース電極膜6の比抵抗が上昇するのを阻止する作用も果たしている(特許文献1参照)。
前記ドレイン電極膜5およびソース電極膜6には純銅膜が多く使用されていたが、近年、銅に微量のその他の元素を添加した銅合金膜が使用されるようになり、この銅合金膜としてAl、Mg、Ca、Znなどの元素を0.1〜1原子%含有し、残部がCuからなる銅合金が使用されることも知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−163901号公報
【特許文献2】WO2006/025347A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、バリア膜7としてMo膜もしくはMo合金膜またはTiもしくはTi合金膜を使用すると、Mo、Tiまたはこれらの合金膜からなるバリア膜7と純銅膜または銅合金膜8とは異なる金属で構成されており、かかる異なる金属が接触している図6の積層体9を湿式エッチングすると、湿式エッチングする際に局部電池が形成され、バリア膜7とドレイン電極膜5の接触端部およびバリア膜7とソース電極膜6の接触端部が優先的にエッチングされ、図7の一部拡大図である図8に示されるように、バリア膜7とドレイン電極膜5の接触端部およびバリア膜7とソース電極膜6の接触端部に深い凹部11が生成し、この凹部11はバリア膜7とドレイン電極膜5の境界およびバリア膜7とソース電極膜6の境界に沿って奥深く形成されるので、湿式エッチング中に凹部11に湿式エッチング液が浸透し、湿式エッチング中に凹部11に浸透した湿式エッチング液は洗浄し乾燥しても排出されず、湿式エッチング液が凹部11から排出されない状態で窒化珪素(SiNx)膜13を300℃前後で化学蒸着すると、化学蒸着中に湿式エッチング液が蒸発し、窒化珪素(SiNx)膜13に膨らみが生じて窒化珪素(SiNx)膜13の一部の密着性が低下したりするために薄膜トランジスター不良の原因となる。
また、通常の薄膜トランジスターは、図5に示されるように、銅または銅合金膜からなるドレイン電極膜5およびソース電極膜6の上に窒化珪素(SiNx)膜13が形成されているが、ドレイン電極膜5およびソース電極膜6は金属からなり、一方、窒化珪素(SiNx)膜13は無機化合物から成ることから、密着性が十分でなく、剥離して薄膜トランジスター不良の原因となることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者等は、前記湿式エッチング中の凹部の生成を防止し、さらにドレイン電極膜5およびソース電極膜6と窒化珪素(SiNx)膜13との密着性を向上させた薄膜トランジスターを作製すべく研究を行った。その結果、
(イ)アモルファスSi膜の表面を酸化して作製した酸化ケイ素(SiOx)膜および酸素を含有する銅膜(以下、酸素含有銅膜という)からなる二層複合膜は、バリア膜として従来から知られているMo膜もしくはMo合金膜またはTiもしくはTi合金膜と同等のバリア効果を有し、この二層複合膜における酸素含有銅膜の上に純銅膜を被覆した積層体を作製し、この積層体を湿式エッチングして得られた薄膜トランジスター中間体には図8に示されるような凹部11が生成することがない、
(ロ)前記純銅からなるドレイン電極膜およびソース電極膜の上に酸化ケイ素(SiOx)または酸化アルミニウム(AlOx)膜を形成し、この酸化ケイ素または酸化アルミニウム膜の上に窒化珪素(SiNx)膜13を300℃前後で化学蒸着して得られた薄膜トランジスターは、ドレイン電極膜およびソース電極膜に直接窒化珪素(SiNx)膜13を成膜した従来の薄膜トランジスターに比べて窒化珪素(SiNx)膜13の密着性が一層向上する、
(ハ)アモルファスSi膜の表面を酸化して作製した酸化ケイ素(SiOx)膜およびM(但し、Mは、Al、Mg、Ca、Znの内のいずれか1種を示す。以下同じ):0.1〜1原子%を含有し、さらに酸素を含有し、残部がCuからなる成分組成を有する銅合金膜(以下、酸素含有銅合金膜という)からなる二層複合膜は、バリア膜として従来から知られているMo膜もしくはMo合金膜またはTiもしくはTi合金膜と同等のバリア効果を有し、この酸化ケイ素(SiOx)膜および酸素含有銅合金膜からなる二層複合膜の前記酸素含有銅合金膜の上にMを0.1〜1原子%含有し、残部がCuからなる銅合金膜を被覆した積層体を作製し、この積層体を湿式エッチングして得られたドレイン電極膜およびソース電極膜を有する薄膜トランジスター中間体には図8に示されるような凹部11が生成することがない、
(ニ)前記M:0.1〜1原子%含有し、残部がCuからなる銅合金膜からなるドレイン電極膜およびソース電極膜の上にさらに酸化ケイ素(SiOx)または酸化アルミニウム(AlOx)膜を形成し、この酸化ケイ素(SiOx)または酸化アルミニウム(AlOx)膜の上に窒化珪素(SiNx)膜13を300℃前後で化学蒸着して得られた薄膜トランジスターは、レイン電極膜およびソース電極膜に対する窒化珪素(SiNx)膜13の密着性が一層向上する、などの研究結果が得られたのである。
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)ガラス基板の上に形成されたゲート電極膜と、
前記ガラス基板およびゲート電極膜の上に形成された窒化珪素膜と、
前記窒化珪素膜の上に形成されたアモルファスSi膜と、
前記アモルファスSi膜の上に形成されたCu、SiおよびOからなる銅含有珪素酸化膜またはCu、Si、M(但し、Mは、Al、Mg、Ca、Znの内のいずれか1種を示す。以下同じ)およびOからなる銅M含有珪素酸化膜と、
前記銅含有珪素酸化膜または銅M含有珪素酸化膜の上に形成されたOを含有する酸素含有銅膜またはMおよびOを含有する酸素含有銅合金膜と、
前記Oを含有する酸素含有銅膜またはMおよびOを含有する酸素含有銅合金膜の上に形成された純銅またはM:0.1〜1原子%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有する銅合金からなるドレイン電極膜およびソース電極膜と、
前記ドレイン電極膜およびソース電極膜の上に形成された酸化ケイ素または酸化アルミニウム膜と、
前記酸化ケイ素または酸化アルミニウム膜の上に形成された窒化珪素膜とからなる薄膜トランジスター、
(2)ガラス基板の上に形成されたゲート電極膜と、
前記ガラス基板およびゲート電極膜の上に形成された窒化珪素膜と、
前記窒化珪素膜の上に形成されたアモルファスSi膜と、
前記アモルファスSi膜の上に形成された酸化ケイ素膜と、
前記酸化ケイ素膜の上に形成されたOを含有する酸素含有銅膜またはCu、MおよびOからなる酸素含有銅合金膜と、
前記酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜の上に形成された純銅またはM:0.1〜1原子%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有する銅合金からなるドレイン電極膜およびソース電極膜とからなる薄膜トランジスター中間体、に特徴を有するものである。
【0006】
この発明の薄膜トランジスターの製造方法を図面に基づいて説明する。
まず、図1の断面図に示されるように、ガラス基板1の表面に純銅または銅合金からなるゲート電極膜2を形成し、このゲート電極膜2およびガラス基板1の上に窒化珪素(SiNx)膜3を形成し、さらに窒化珪素(SiNx)膜3の上にアモルファスSi膜4を形成し、このアモルファスSi膜4の上に酸化ケイ素(SiOx)膜12を形成する。この酸化ケイ素(SiOx)膜12は、スパッタ装置内の雰囲気を酸素または酸素を含む不活性ガス雰囲気となるように保持しながら空スパッタすることによりアモルファスSi膜4の表面を酸化させて形成することができる。
次に、酸化ケイ素(SiOx)膜12の上に、酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜15を成膜する。この酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜15は純銅製のターゲットまたはM:0.1〜1原子%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有する銅合金製のターゲットを用い、雰囲気を酸素または酸素を含む不活性ガス雰囲気となるように保持しながらスパッタすることにより形成することができる。
さらに、前記酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜15の上に純銅膜または銅合金膜8を形成して図1に示される積層体17を作製する。この純銅膜または銅合金膜8は純銅製またはM:0.1〜1原子%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有する銅合金製のターゲットを用い、不活性ガス雰囲気中においてスパッタすることにより形成することができる。
このようにして得られた積層体17の酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜15および純銅膜または銅合金膜8の一部を写真製版(フォトリソ)により湿式エッチングすることによってアモルファスSi膜4の上の酸化ケイ素(SiOx)膜12の一部を露出させ、ドレイン電極膜5およびソース電極膜6を形成することにより図2の断面図に示される薄膜トランジスター中間体18を作製する。
次に、図2に示される薄型トランジスター中間体18におけるドレイン電極膜5およびソース電極膜6の表面に窒化珪素(SiNx)膜13を成膜してこの発明の薄膜トランジスターを作製するものであるが、銅または銅合金膜からなるドレイン電極膜5およびソース電極膜6の上に窒化珪素(SiNx)膜13を直接成膜すると、ドレイン電極膜5およびソース電極膜6は金属からなり、一方、窒化珪素(SiNx)膜13は無機化合物から成ることから、密着性が十分ではなく剥離して薄膜トランジスター不良の原因となることがある。このため、図2の薄膜トランジスター中間体18におけるドレイン電極膜5およびソース電極膜6の表面に、図3に示されるように、酸化ケイ素(SiOx)または酸化アルミニウム(AlOx)膜16を形成し、この酸化ケイ素(SiOx)または酸化アルミニウム(AlOx)膜16の上に窒化珪素(SiNx)膜13を成膜して得られた図4に示されるこの発明の薄膜トランジスター14はドレイン電極膜5およびソース電極膜6と窒化珪素(SiNx)膜13との密着性を一層強固なものとすることができる。
前記酸化ケイ素(SiOx)膜または酸化アルミニウム(AlOx)膜16および窒化珪素(SiNx)膜13は、従来と同様にして300℃前後で化学蒸着することにより成膜される。前記酸化ケイ素(SiOx)膜または酸化アルミニウム(AlOx)膜16および窒化珪素(SiNx)膜13の化学蒸着中に、図2の薄膜トランジスター中間体におけるアモルファスSi膜4と酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜15とに挟まれた酸化ケイ素(SiOx)膜12の部分が、図4に示される、Cu、SiおよびOからなる銅含有珪素酸化膜またはCu、M、SiおよびOからなる銅M含有珪素酸化膜19に変化し、このCu、SiおよびOからなる銅含有珪素酸化膜またはCu、M、SiおよびOからなる銅M含有珪素酸化膜19が生成することによりこれがバリア膜となって窒化珪素(SiNx)膜13の化学蒸着中にアモルファスSi膜のSiがドレイン電極膜5およびソース電極膜6にまで拡散してドレイン電極膜5およびソース電極膜6の比抵抗を増大させることはない。
また、前記酸化ケイ素(SiOx)膜または酸化アルミニウム(AlOx)膜16および窒化珪素(SiNx)膜13の化学蒸着中に生成したCu、SiおよびOからなる銅含有珪素酸化膜またはCu、M、SiおよびOからなる銅M含有珪素酸化膜19は、その後、薄膜トランジスターが加熱されるようなことがあっても優れたバリア性を発揮してアモルファスSi膜4のSiがドレイン電極膜5およびソース電極膜6に拡散するのを阻止し、ドレイン電極膜5およびソース電極膜6の比抵抗を増大させることはない。
【0007】
この発明の薄膜トランジスターのバリア膜であるCu、SiおよびOからなる銅含有珪素酸化膜またはCu、M、SiおよびOからなる銅M含有珪素酸化膜19に含まれる酸素はいずれも20原子%以上であることが好ましい。そして、その厚さは1nm未満では薄過ぎて窒化珪素(SiNx)膜13を成膜中またはその後の加熱中にアモルファスSi膜のSiがドレイン電極膜およびソース電極膜に拡散することを十分に阻止することができず、したがって、バリア膜として十分に機能しなくなる好ましくなく、一方、15nmを越えて厚くしても格別の効果が得られない。したがって、前記銅含有珪素酸化膜または銅M含有珪素酸化膜19の厚さを1〜15nmに定めた。
【発明の効果】
【0008】
この発明の薄膜トランジスター中間体はバリア膜が酸化ケイ素膜であり金属膜でないために湿式エッチング時にバリア膜とドレイン電極膜およびバリア膜とソース電極膜のそれぞれの接合端部に図8に示されるような凹部11が形成されることがないことなどから、作製した薄膜トランジスターに不良品発生が極めて少なくなり、さらにアモルファスSi膜の表面を空スパッタするだけでバリア膜の一部である酸化ケイ素膜を形成することができるので、低コストで優れた性能を有するフラットパネルディスプレイを提供することができ、さらにこの発明の薄膜トランジスター中間体の最表面に窒化珪素(SiNx)膜13を300℃前後で成膜して得られたこの発明の薄膜トランジスターはその後加熱されるようなことがあっても、Siがドレイン電極膜およびソース電極膜に拡散して比抵抗を増加させることがないなど優れた効果を奏するものである。
さらに、この発明の薄膜トランジスターは、ドレイン電極膜およびソース電極膜と窒化珪素(SiNx)膜との密着性が優れているので、窒化珪素(SiNx)膜の剥離による不良品発生が無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
表1に示される成分組成を有し、直径:6インチの寸法を有するターゲットA〜Eを作製した。
【0010】
【表1】

実施例1
ガラス板(縦:50mm、横:50mm、厚さ:0.7mmの寸法を有するコーニング社製1737のガラス板)の上全面にアモルファスSi膜を200nmの厚さに成膜して基板を作製した。このアモルファスSi膜を200nmの厚さに成膜した基板をスパッタ装置に設置し、さらにターゲットA〜Eをスパッタ装置に設置し、スパッタ装置の電源として直流方式を採用し、スパッタ装置の真空容器を到達真空度4×10−5Paになるまで真空引きした。次に酸素を10体積%含んだArガスを真空容器内に流し、スパッタ雰囲気圧力を0.67Paとした後、ターゲットと基板の間に設置したシャッターを閉じたまま出力:600Wで3分間放電することによりバリア膜として厚さ:10nmを有する酸化ケイ素膜を成膜した。次に、雰囲気をそのまま維持した状態でシャッターを開け、スパッタを続けて前記酸化ケイ素膜の上に幅:20mm、長さ:40mm、厚さ:50nmの寸法を有する酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜を成膜して酸化ケイ素膜+酸素含有銅膜または酸化ケイ素膜+酸素含有銅合金膜からなるバリア相当膜を有する積層体を形成した。
次に酸素の供給を停止し、Arガスのみで0.67Paの圧力でスパッタすることにより厚さ:250nmを有し、ターゲットA〜Eと同じ成分組成を有するドレイン電極膜およびソース電極膜に相当する幅:20mm、長さ:40mmの寸法の銅膜または銅合金膜を成膜した。
その後、さらに、湿式エッチングして、銅膜または酸素含有銅膜および銅合金膜および酸素含有銅合金膜にそれぞれ縦:10mm、横:10mmの寸法の窓を開けることにより本発明薄型トランジスター中間体試験片1〜5を作製した。
この湿式エッチングした本発明薄型トランジスター中間体試験片1〜5における銅膜と酸素含有銅膜の界面の断面並びに銅合金膜と酸素含有銅合金膜の界面の断面をTEMで5百万倍に拡大し観察して、接触端部に生成する凹部の有無を調べ、その結果を表2に示した。
次に、この湿式エッチングして得られた本発明薄型トランジスター中間体試験片1〜3の銅膜および銅合金膜の上にプラズマCVDにより厚さ:50nmを有する酸化ケイ素(SiOx)膜を下記の条件で成膜し、さらに本発明薄型トランジスター中間体試験片4〜5の銅合金膜の上に酸化アルミニウム(AlOx)膜を下記の条件で成膜し、これらの膜の上にさらにプラズマCVDにより厚さ:250nmを有する窒化珪素(SiNx)膜を下記の条件で成膜することにより本発明薄型トランジスター試験片1〜5を作製した。
A.酸化ケイ素(SiOx)膜の成膜条件:
本発明薄型トランジスター中間体試験片1〜3を温度:300℃に保持しながら、
パワー:100W、
雰囲気圧力:137Pa、
雰囲気ガス:SiH:100sccm、O:500nm、
の条件でプラズマCVDを行うことにより厚さ:50nmを有する酸化ケイ素(SiOx)膜を成膜した。
B.酸化アルミニウム(AlOx)膜の成膜条件:
本発明薄型トランジスター中間体試験片4〜5を真空容器内にセットし、室温で到達真空度:4×10−5Paになるまで真空引きしたのち、Arガスを真空容器内に流し、スパッタ雰囲気圧力を0.67Paとしたのち、純度:5NのAlターゲットを用い、出力:600Wで35秒間スパッタすることにより金属Al膜を成膜し、その後、これをホットプレートを用いて大気雰囲気中に温度:300℃、30分間保持することにより厚さ:50nmを有するアルミニウム(AlOx)膜を成膜した。
C.窒化ケイ素(SiNx)膜の成膜条件:
酸化ケイ素(SiOx)膜または酸化アルミニウム(AlOx)膜を成膜した薄膜トランジスター中間体試験片1〜5を温度:300℃に保持しながら、
パワー:100W、
雰囲気圧力:137Pa、
雰囲気ガス:SiH:100sccm、NH:6sccm、N:200nm、
の条件でプラズマCVDを行い、厚さ:250nmを有するSiNx膜を成膜した。
このようにして作製した本発明薄型トランジスター試験片1〜5におけるSiNx膜をドライエッチングで剥離し、この剥離部分をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察した結果、本発明薄膜トランジスター試験片1〜5のバリア膜である酸化ケイ素膜の酸素含有銅膜に接している部分はCuが酸化ケイ素膜に拡散してCu、SiおよびOからなる銅含有珪素酸化膜に変化してバリア膜となり、また酸化ケイ素膜の酸素含有銅合金膜に接している部分はCuおよびMが酸化ケイ素膜に拡散してCu、Si、Mおよび酸素からなる銅M含有珪素酸化膜に変化してバリア膜となっていることがわかり、その結果を表3に示した。
さらにSiNx膜を成膜した本発明薄膜トランジスター試験片1〜5におけるドレイン電極膜およびソース電極膜に相当する銅膜および銅合金膜の比抵抗を4探針法で測定し、その結果を表3に示すことにより酸化ケイ素および酸素含有銅膜並びに酸化ケイ素および酸素含有銅合金膜からなる複合膜のバリア性を評価し、さらに最後に本発明薄膜トランジスター試験片1〜5のSiNx膜について碁盤目試験を行い、100個の升目の内で剥離した升目の数を測定し、その結果を表3に示した。
従来例1
実施例1で作製したガラス板(縦:50mm、横:50mm、厚さ:0.7mmの寸法を有するコーニング社製1737のガラス板)の上のSi薄膜の上にスパッタによりバリア膜としての厚さ:50nmを有するMo薄膜を成膜し、次いでこのMo薄膜の上に表1に示されるターゲットA〜Eを用い、実施例1と同じ条件で厚さ:250nmの銅膜および銅合金膜を成膜することによりターゲットA〜Eと同じ成分組成を有する銅膜および銅合金膜を成膜することにより幅:20mm、長さ:40mmの寸法を有する銅膜および銅合金膜を形成し、その後、湿式エッチングして銅膜および酸素含有銅膜に縦:10mm、横:10mmの寸法の窓を開けることにより従来薄膜トランジスター中間体試験片1〜5を作製した。この窓を開けて得られた従来薄膜トランジスター中間体試験片1〜5の銅膜および銅合金膜とMo膜の界面の断面をTEMで5百万倍に拡大して観察し、銅膜および銅合金膜とMo膜の接触端部に凹部が生成しているか否かを観察し、その結果を表2に示した。さらに従来薄膜トランジスター中間体試験片1〜5の湿式エッチングした銅膜および酸素含有銅膜の比抵抗を測定し、その結果を表2に示した。
次に、この湿式エッチングした従来薄膜トランジスター中間体試験片1〜5を基板とし、基板を温度:300℃に保持しながらプラズマCVDを行い、厚さ:250nmを有するSiNx膜を成膜することにより従来薄膜トランジスター試験片1〜5を作製し、銅膜および酸素含有銅膜の比抵抗を実施例1と同様にして測定し、その結果を表3に示すことによりバリア性を評価し、さらに最後に従来薄膜トランジスター試験片1〜5のSiNx膜について碁盤目試験を行い、100個の升目の内で剥離した升目の数を測定し、その結果を表3に示した。
【0011】
【表2】

【0012】
【表3】

前記実施例1、従来例1および表1〜3に示される結果から、本発明薄膜トランジスター中間体試験片1〜5の銅膜および銅合金膜の比抵抗とSiNx膜成膜後の本発明薄膜トランジスター試験片1〜5の銅膜および銅合金膜の比抵抗を比較すると、ほとんど差がないことから、酸化ケイ素膜+酸素含有銅膜および酸化ケイ素膜+酸素含有銅合金膜がMoと同等のバリア性を有することがわかり、さらに従来薄膜トランジスター中間体試験片1〜5には湿式エッチングに際して凹部が生成するが本発明薄膜トランジスター中間体試験片1〜5には凹部が生成しないこと、SiOx膜またはAlOx膜を成膜したのち厚さ:250nmを有するSiNx膜を成膜することによりSiNx膜の密着性が向上していることなどがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】積層体の断面概略説明図である。
【図2】この発明の薄膜トランジスター中間体の断面概略説明図である。
【図3】この発明の薄膜トランジスター中間体に酸化ケイ素または酸化アルミニウム膜を形成した状態を示す断面概略説明図である。
【図4】この発明の薄膜トランジスターの断面概略説明図である。
【図5】従来の薄膜トランジスターの断面概略説明図である。
【図6】積層体の要部を説明するための断面概略説明図である。
【図7】従来の薄膜トランジスター中間体の断面概略説明図である。
【図8】図7の一部拡大断面概略説明図である。
【符号の説明】
【0014】
1:ガラス基板、2:ゲート電極、3:SiNx膜、4:アモルファスSi膜、5:ドレイン電極、6:ソース電極、7:バリア膜、8:銅膜または銅合金膜、9:積層体、10:従来の薄膜トランジスター中間体、11:凹部、12:酸化ケイ素膜、13:SiNx膜、14:この発明の薄膜トランジスター、15:酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜、16:酸化ケイ素(SiOx)膜または酸化アルミニウム(AlOx)膜、17:積層体、18:本発明薄膜トランジスター中間体、19:銅含有珪素酸化膜または銅M含有珪素酸化膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の上に形成されたゲート電極膜と、
前記ガラス基板およびゲート電極膜の上に形成された窒化珪素膜と、
前記窒化珪素膜の上に形成されたアモルファスSi膜と、
前記アモルファスSi膜の上に形成されたCu、SiおよびOからなる銅含有珪素酸化膜またはCu、Si、M(但し、Mは、Al、Mg、Ca、Znの内のいずれか1種を示す。以下同じ)およびOからなる銅M含有珪素酸化膜と、
前記銅含有珪素酸化膜または銅M含有珪素酸化膜の上に形成されたOを含有する酸素含有銅膜またはMおよびOを含有する酸素含有銅合金膜と、
前記Oを含有する酸素含有銅膜またはMおよびOを含有する酸素含有銅合金膜の上に形成された純銅またはM:0.1〜1原子%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有する銅合金からなるドレイン電極膜およびソース電極膜と、
前記ドレイン電極膜およびソース電極膜の上に形成された酸化ケイ素または酸化アルミニウム膜と、
前記酸化ケイ素または酸化アルミニウム膜の上に形成された窒化珪素膜と、からなることを特徴とする薄膜トランジスター。
【請求項2】
ガラス基板の上に形成されたゲート電極膜と、
前記ガラス基板およびゲート電極膜の上に形成された窒化珪素膜と、
前記窒化珪素膜の上に形成されたアモルファスSi膜と、
前記アモルファスSi膜の上に形成された酸化ケイ素膜と、
前記酸化ケイ素膜の上に形成されたOを含有する酸素含有銅膜またはM(但し、Mは、Al、Mg、Ca、Znの内のいずれか1種を示す。以下同じ)およびOを含有する酸素含有銅合金膜と、
前記酸素含有銅膜または酸素含有銅合金膜の上に形成された純銅またはM:0.1〜1原子%を含有し、残部がCuからなる成分組成を有する銅合金からなるドレイン電極膜およびソース電極膜と、からなることを特徴とする薄膜トランジスター中間体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−170769(P2009−170769A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9129(P2008−9129)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】