説明

表示装置および表示装置の製造方法

【課題】Cu合金をソース・ドレイン電極に用いたTFTにおいて、コンタクト膜に対して酸化処理を施す場合であっても、良好なオン特性を維持する表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】半導体層4と、銅と1種類の添加元素とを含む銅合金層を有するソース電極10およびドレイン電極9と、ソース電極10及びドレイン電極9のそれぞれの電極と半導体層4との間に形成されるコンタクト膜5と、それぞれの電極とコンタクト膜5との間に形成される酸化物膜8と、を含む薄膜トランジスタ基板を有する表示装置であって、コンタクト膜5は、不純物とシリコンとを含み、酸化物膜8は、シリコン、不純物および酸素を含むとともに、酸化物膜8における不純物濃度がコンタクト膜5における不純物濃度よりも低い、ことを特徴とする表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタを有するTFT基板を用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜トランジスタ(TFT)を画素回路に用いたアクティブマトリクス型表示装置の大型化と、動画性能などの画質向上が要求されている。一方、表示装置の価格は予想を上回るペースで下落を続けており、エネルギー資源やレアメタルの高騰など製造コストを押し上げる要因も増大しつつある。従って、更なる製造コスト低減技術を開発することが急務となっている。
【0003】
液晶表示装置の大型化と画質向上、そして製造コスト低減の1つの策として、TFTに適用される配線材料を従来のAl(アルミニウム)またはAl合金からCu(銅)に替える試みがある。Cu配線は従来のAl配線よりも低抵抗である。そのため、配線を伝わる電気信号が遅れる伝播遅延現象を低減でき、さらなる大型化が可能になる。また、フレーム周波数を上げ、動画質の向上も可能になる。さらに、Al配線は、ヒロックの発生抑制と透明導電膜との電気的接続を確保するために、Al膜の上下を高価なモリブデン(Mo)で挟んだMo/Al/Moの積層構造としているが、Cuは透明導電膜との直接接続が可能であるために省モリブデン化を図ることが可能である。従って、製造コストを低減できる。
【0004】
有機EL表示装置の大型化と画質向上には、従来のAl配線よりも低抵抗な配線材料が求められる。有機EL表示装置の画素回路に設けられる駆動トランジスタは、飽和領域を用いて有機EL層に流れる電流を制御し、その輝度を調整する。有機EL表示装置の大型化に伴い配線抵抗による電圧降下が無視できなくなると、想定された電圧が駆動トランジスタに供給されず飽和領域での駆動が不可能になり、結果、輝度むらの原因となる。そこで、表示品位向上のためCu配線の適用が検討されている。
【0005】
しかしながら、上記の液晶表示装置や有機EL表示装置をはじめとする表示装置にCu配線をTFTに適用する際には以下の問題が存在する。Cuは下地のガラス基板及びシリコン(Si)膜との密着性が悪い。また、下地がSi膜の場合、配線形成後の工程で加わる熱により、Si膜内部にCuが拡散しTFT特性を劣化させ、表示品位を下げる。このような密着性および拡散バリア性問題の対処として、下地膜とCu膜との間にMoやMo合金を形成する方法がある。しかし、前述のようにMoは高価で、また、電気化学的性質の異なる金属の積層構造はエッチングを困難にするため、製造コストが増大する。
【0006】
そこで、配線材料の少なくとも一部にCu合金を採用し、さらに熱工程を利用することにより、Cu合金の添加元素を下地との界面に析出させて、密着性および拡散バリア性に優れた添加元素酸化物を形成する方法がある。ここで熱工程とは、配線形成後のCVD(Chemical Vapor DepoSition)工程や配向膜焼成工程などのことであり、これらのCVD工程等でTFT基板が経験するような温度がかけられることを想定している。
【0007】
このCu合金をゲート電極に用いた場合、下地ガラス基板は必要十分な酸素原子を含有するため酸化物形成は容易である。しかし、ソース・ドレイン(SD)電極にCu合金を用いる場合、下地のコンタクト膜には酸化物の形成のために必要な酸素原子数が備わっていない。
【0008】
そこで、特許文献1では、Cu合金をSD電極に適用する手段として、Cu合金成膜前に酸素プラズマ処理を行い、コンタクト膜上層を改質させ、酸化シリコン層SiOxを形成する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−4518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のように、Cu合金をTFTのソース・ドレイン電極に用いる場合にコンタクト膜に酸化処理を施すと、Siのみならず、コンタクト膜中にドープされた不純物、例えばリン(P)やボロン(B)も酸化される。これにより、オーミックコンタクトを実現するために混入された不純物はその効果を失い、ソース・ドレイン電極と半導体層の電流経路に存在する寄生抵抗が上昇し、TFTのオン特性低下が起こり、表示品位を劣化させる。
【0011】
そこで本発明は、上記の課題に鑑みて、Cu合金をソース・ドレイン電極に用いたTFTにおいて、コンタクト膜に対して酸化処理を施す場合であっても、良好なオン特性を維持するTFT表示装置及び表示装置の製造方法を提供することを目的とする。本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る表示装置は、上記目的に鑑みて、半導体層と、銅と1種類の添加元素とを含む銅合金層を有するソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれの電極と前記半導体層との間に形成されるコンタクト膜と、前記それぞれの電極と前記コンタクト膜との間に形成される酸化物膜と、を含む薄膜トランジスタ基板を有する表示装置であって、前記コンタクト膜は、不純物とシリコンとを含み、前記酸化物膜は、シリコン、不純物および酸素を含むとともに、前記酸化物膜における不純物濃度が前記コンタクト膜における不純物濃度よりも低い、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る表示装置の一態様では、前記酸化物膜は、酸素原子が所定濃度以上で分布する、ことを特徴としてもよい。
【0014】
また、本発明に係る表示装置の一態様では、前記酸化物膜は、1.0×1022個/cm以上の酸素原子濃度が分布する、ことを特徴としてもよい。
【0015】
また、本発明に係る表示装置の一態様では、前記酸化物膜は、前記コンタクト膜の側で1.0×1022個/cmの酸素原子濃度が検出される位置において、不純物濃度が1.0×1020個/cm以上となり、前記それぞれの電極の側で、1.0×1022個/cmの酸素原子濃度が検出される位置において、不純物濃度が1.0×1019個/cm以下となる、ことを特徴としてもよい。
【0016】
また、本発明に係る表示装置の一態様では、前記酸化物膜では、前記それぞれの電極の側で1.0×1022個/cmの酸素原子濃度が検出される位置での不純物濃度が、前記コンタクト膜の側で1.0×1022個/cmの酸素原子濃度が検出される位置での不純物濃度の1/100以下となる、ことを特徴としてもよい。
【0017】
また、本発明に係る表示装置の一態様では、前記酸化物膜では、酸素原子濃度が最大値をとる位置において、不純物濃度が1.0×1020個/cm未満となる、ことを特徴としてもよい。
【0018】
また、本発明に係る表示装置の一態様では、前記酸化物膜では、不純物濃度が前記コンタクト膜から離れるにつれて減少し、前記酸化物膜では、酸素原子濃度が最大値となる位置よりも前記コンタクト膜の側で不純物濃度の減少が開始する、ことを特徴としてもよい。
【0019】
また、本発明に係る表示装置の一態様では、前記酸化物膜では、酸素原子濃度が最大値となる位置において、前記コンタクト膜における不純物濃度の1/10以下となる、ことを特徴としてもよい。
【0020】
また、本発明に係る表示装置の一態様では、前記酸化物膜は、銅および前記添加元素をさらに含む、ことを特徴としてもよい。
【0021】
また、上記目的に鑑みて、本発明に係る表示装置の製造方法は、薄膜トランジスタを有する表示装置の製造方法であって、半導体層を形成する工程と、銅と少なくとも1種類の添加元素及を含む銅合金層を有するソース電極及びドレイン電極を形成する電極形成工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれと、前記半導体層とを電気的に接続するためのコンタクト膜を形成する工程と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれと、前記コンタクト膜との間にシリコンと酸素とを含有するシリコン酸化膜を形成する工程と、を含み、前記コンタクト膜を形成する工程では、不純物が添加されたシリコン膜が形成され、前記シリコン酸化膜を形成する工程は、前記シリコン膜よりも不純物濃度が低いシリコン膜をバッファ膜として形成する工程と、前記バッファ膜に、酸化処理を施す工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る表示装置は、上記目的に鑑みて、半導体層と、銅と少なくとも1種類の添加元素とを含む銅合金層を有するソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれの電極と前記半導体層との間に形成されるコンタクト膜と、前記それぞれの電極と前記コンタクト膜との間に形成される酸化物膜と、を含む薄膜トランジスタを有する表示装置であって、前記コンタクト膜は、不純物とシリコンとを含み、前記酸化物膜は、前記コンタクト膜よりも不純物濃度が低いシリコン膜をバッファ膜として形成する工程と、前記バッファ膜に酸化処理を施す工程とを含む工程により形成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、Cu合金をソース・ドレイン電極や配線に用いたTFTにおいて、コンタクト膜に対して酸化処理を施す場合であっても、TFTのオン特性の低下が防止される表示装置、および表示装置の製造方法を提供できる。本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面によって明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態1に係る表示装置の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタ基板の画素領域の様子を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図4A】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタの製造工程の様子を示す模式断面図である。
【図4B】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタの製造工程の様子を示す模式断面図である。
【図4C】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタの製造工程の様子を示す模式断面図である。
【図4D】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタの製造工程の様子を示す模式断面図である。
【図4E】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタの製造工程の様子を示す模式断面図である。
【図4F】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタの製造工程の様子を示す模式断面図である。
【図5】本発明の実施形態1における薄膜トランジスタの製造工程を示すフロー図である。
【図6】本発明の実施形態1における酸化物膜の不純物元素濃度と酸素原子濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明にかかる表示装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0026】
[実施形態1]
図1は、実施形態1にかかる表示装置の構成を示す模式断面図である。本実施形態における表示装置は、アクティブマトリクス型の液晶表示装置である。図1に示すように液晶表示装置は、TFT基板101と、カラーフィルタ基板120と、偏光板112と、偏光フィルム121と光源111を有しており、TFT基板101とカラーフィルタ基板120との間にはスペーサ116が介在して、液晶層115が挟持される。また、TFT基板101は、基板100と、TFT104と、絶縁膜113と、画素電極105と、配向膜114とを含んで構成され、カラーフィルタ基板120は、基板100と、ブラックマトリクス119と、カラーフィルタ118と、絶縁膜113と、共通電極117と、配向膜114とを含んで構成される。
【0027】
図2は、実施形態1の表示装置におけるTFT基板101に形成された複数の画素領域のうちの1つの様子を図示したものである。TFT基板101には、複数の走査線102と、これとは垂直に交差する方向に複数の信号線103が構成され、これらによって各画素領域が区画される。図2で示すように、走査線102と信号線103の交差するポイントにはTFT104が配置され、TFT104のソース電極及びドレイン電極のうちの一方の電極が画素電極105へ接続される。また、画素電極105及び走査線102の一部を用いてストレージキャパシタ106が設けられている。
【0028】
ここで、本実施形態における液晶表示装置の表示制御方法について簡単に述べる。光源111から放たれた光は偏光板112により特定の偏光成分のみが通過し、液晶層115へ向かう。液晶層115が、画素電極105と共通電極117に供給される電圧に応じて、偏光フィルム121を通過する光透過率を調整することで、画素の階調が制御される。
【0029】
次に、液晶層115の制御方法について、図2を用いて簡単に述べる。まず、走査線102からTFT104にゲート信号が印加されるとTFT104はオン状態になり、信号線103に加えられている信号電圧がTFT104を経由し画素電極105とストレージキャパシタ106に印加される。これにより、液晶層115に所望の電圧が印加され、液晶分子が動作し光透過率を制御する。すなわち、TFT104がオフになっても次の信号が印加されるまで、液晶層115に供給されている電圧レベルを一定に調整する。
【0030】
ここで図3は、本発明の実施形態1におけるTFTの構成を示す模式断面図である。このような図は、TFTの主要構成部位を見やすくするために、一般的に用いられている断面図である。なお、この断面は、ゲート電圧が印加されることにより形成されるチャネルのキャリアが走行する方向に対して平行である。
【0031】
図3に示すように、実施形態1におけるTFT104の構成は、ガラスなど絶縁性の基板100上に、ゲート電極2、ゲート絶縁膜3、半導体層4、コンタクト膜5、酸化物膜8、ドレイン電極9、ソース電極10、TFTを保護するための保護膜11、液晶層に電圧を加えるための画素電極105より成る。ドレイン電極9及びソース電極10は、銅合金層を有しており、この銅合金層は、銅と、少なくとも1種類の添加元素を含有する。また、当該銅合金層では、銅が主成分となっている。本実施形態では、ドレイン電極9とソース電極10は、銅合金層と、純銅層とを含んでおり、銅合金層の上側に純銅層が積層されるが、例えば、銅合金層のみによって構成されるのであってもよい。また、半導体層4は、ゲート電極2に電圧が印加されることにより、ドレイン電極9及びソース電極10間の電流を制御する活性半導体層である。コンタクト膜5は、ドレイン電極9およびソース電極10と、半導体層4との間に形成されて、これらを電気的に接続させるための膜であって、不純物元素が添加されたシリコン膜で構成される。そして、密着性および拡散バリア性に優れ低抵抗な酸化物膜8を形成する際には、まず、コンタクト膜5上に、コンタクト膜5よりも不純物濃度が低濃度となるシリコン膜(以下、バッファ膜)が一時的に設けられる。このバッファ膜は、本実施形態では、不純物を添加せずに形成された非晶質シリコン膜である。バッファ膜が形成された後には、その一部または全てが酸化処理により改質されて一時的にシリコン酸化膜が形成され、さらに、ドレイン電極9及びソース電極10に含まれる銅合金が熱を伴う処理により化合されることにより酸化物膜8が形成される。なお、製造方法の詳細については後述する。
【0032】
酸化物膜8を形成するためのバッファ膜は、酸化処理でコンタクト膜5中にドープされた不純物元素が酸化されるのを防ぐ役割を担うものである。酸化物膜8を形成する際の熱処理では、コンタクト膜5から不純物元素の拡散が起こるため、最終的に酸化物膜8は不純物元素を含有することになる。しかし、後に示すように、コンタクト膜5よりも不純物濃度が低いバッファ膜に酸化処理が施されるため、酸化物膜8における不純物元素の濃度は、コンタクト膜5における不純物元素の濃度よりも低くなる。これにより、酸化物膜8における不純物の酸化物を減少させることができて、寄生抵抗の上昇が抑制され、良好なTFTのオン特性が維持される。
【0033】
以下では、実施例1のTFTの製造法について説明する。図4A〜Fは、本実施形態におけるTFT104が製造される様子を示す断面図であり、図5は、本実施形態におけるTFT104の製造工程を示すフロー図である。図5で示すように、S501〜S510の各工程を経て、薄膜トランジスタを有するTFT基板101が製造される。
【0034】
まず、図4Aで示すように、ガラスなどの絶縁性材料からなる基板100上に、ゲート電極2が形成される(S501)。本実施形態では、S501では、まず、Cu合金膜をスパッタリング法により50nm程度成膜する。Cu合金膜は、ガラス基板100との密着性発現の役割を担う。Cu合金膜中の添加元素としては、例えば、Mn、Mg、Ni、Zn、Si、Al、Fe、Ti、Co、Zr、Hfなどから1種類以上、添加量は0.5〜10原子%が好ましい。また、後の工程でCu合金中の添加元素が酸化物を形成するために、基板100は必要十分な酸素原子数を含有していることが望ましい。例えば、無アルカリガラス基板はこの条件を満たしている。次に、純Cu膜を同様にスパッタリング法にて300nm程度成膜する。そしてさらに、これにフォトリソグラフィ工程を行った後、ウェットエッチング法を用いてパターニングし、図4Aに示すように、ゲート電極2が形成される(S501)。
【0035】
次に、図4Bで示すように、ゲート絶縁膜3と、半導体層4と、コンタクト膜5と、バッファ膜6が形成される(S502〜S505)。
【0036】
S502におけるゲート絶縁膜3は、例えば、プラズマCVD法により、窒化シリコン膜(SiNx)が350 nm程度成膜されることで形成される。このとき、成膜時の温度は300℃以上になり、ゲート電極2下層のCu合金膜中の添加元素が界面に析出し、基板100との界面で密着性に優れた酸化物膜を自己形成する。
【0037】
S503における半導体層4は、プラズマCVD法により、水素化アモルファスシリコン膜(a−Si H)を180nm程度成膜することにより形成する。そしてS504におけるコンタクト膜5は、不純物であるリン(P)をドープしつつ水素化アモルファスシリコン膜(n+a−Si:H)を25nm程度成膜することにより形成する。さらにS506におけるバッファ膜6は、不純物を添加せずに水素化アモルファスシリコン膜を5nm程度、順次成膜する。このとき、図4Bに示すように、バッファ膜6は、コンタクト膜5を覆うように成膜され、後の酸化処理工程(S506)でコンタクト膜5中の不純物元素が酸化されるのを防ぐ役割を担う。また、コンタクト膜5に含まれる不純物元素の濃度は、1.0×1020個/cm以上が好ましい。1.0×1020個/cm未満である場合、オン電流の低下やオフ電流の増大が起こるためである。S504では、上記不純物元素の濃度を満足するように、シラン(SiH)ガス、フォスフィン(PH)ガス、水素(H)ガスの流量を調節した。また、半導体層4、コンタクト膜5、バッファ膜6を形成する各工程を、同一成膜室で連続して行った。
【0038】
そして、図4Cで示すように、酸化物膜8形成の前処理として、バッファ膜6に酸化処理を施し、シリコン酸化膜7を一時的に形成する(S506)。本実施形態では、図4Cに示すように、酸素ガスを用いた酸素プラズマ処理を適用し、バッファ膜6の上層を改質させ、シリコン酸化膜7を2nm程度形成した。このときバッファ膜6は、コンタクト膜5を酸化処理から保護するので、コンタクト膜5中の不純物元素の酸化による寄生抵抗の上昇が抑制されることとなる。本実施形態では酸素プラズマ処理を適用したが、他の酸化処理方法として、酸素ガスを流しながら熱処理を行う方法やオゾンを用いる方法などを用いてもよい。
【0039】
なお、本実施形態では、S505において、不純物を添加せずにバッファ膜6を形成しているが、例えば、コンタクト膜5における不純物濃度の1/10の濃度と成るように不純物を添加しつつアモルファスシリコン膜を形成するようにしてもよい。このようなバッファ膜6であっても、コンタクト膜5に直接酸化処理が施される場合と比べて、ドレイン電極9等と半導体層4の電流経路の寄生抵抗が上昇しにくく、TFT104のオン特性低下が抑制される。
【0040】
その後、図4Dで示すように、半導体層4とコンタクト膜5とシリコン酸化膜7とを一括して形状を加工し(S507)、さらに、ドレイン電極9とソース電極10とを形成する(S508)。
【0041】
S507では、フォトリソグラフィ工程を施し、ドライエッチング法を用いて半導体層4、コンタクト膜5、バッファ膜6、シリコン酸化膜7を島パターニングすることにより、これらの形状が一括して加工される。
【0042】
S508の電極形成工程では、スパッタ法により、銅合金層、純銅層からなる積層を、この順に、それぞれ50nm、300nm程度成膜する。その後、フォトリソグラフィ工程を経て、ウェットエッチング法によりパターニングし、ドレイン電極9、ソース電極10を形成する。そしてさらに、ドレイン電極9とソース電極10形成に使用したフォトレジストをそのまま利用し、ドライエッチング法により、半導体層4のチャネル上のコンタクト膜5とバッファ膜6とシリコン酸化膜7を除去し、さらにフォトレジストを除去する。銅合金に添加される元素としては、例えば、Mn、Mg、Ni、Zn、Si、Al、Fe、Ti、Co、Zr、Hfなどから1種類以上、添加量は0.5〜10原子%が好ましい。また、本実施形態ではドレイン電極9及びソース電極10は銅合金層と純銅層の積層から構成されるが、銅合金の単層でも良い。その場合の添加元素としては、例えば、Mg、Znが好ましい。
【0043】
そして、図4Eで示すように、保護膜11を形成する(S509)。この保護膜11は、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を500nm程度成膜することによって形成する。S509の保護膜形成工程は、保護膜11の成膜温度が200℃以上となることから、TFT基板101に熱処理が施される工程でもある。このような熱処理工程により、ドレイン電極9及びソース電極10下層にあるCu合金膜中のCu原子と添加元素が、シリコン酸化膜7の側へ析出される。シリコン酸化膜7に析出したCu原子と添加元素は、事前に形成したコンタクト膜5上のバッファ膜6及びシリコン酸化膜7と反応を起こし、密着性及び拡散バリア性に優れ低抵抗な酸化物膜8を自己形成する。
【0044】
その後、図4Fで示すように、画素電極を形成する(S510)。S510では、まず、保護膜11にフォトリソグラフィ工程を施してコンタクトホールを開口し、次に、ITO(Indium Tin Oxide)膜などの透明導電膜をスパッタリング法により150nmほど成膜して、さらに、フォトリソグラフィ工程を施してパターニングすることにより画素電極105を形成する。このようにして、実施形態1における液晶表示装置向けの薄膜トランジスタを作製することができる。
【0045】
以下においては、自己形成された酸化物膜8について説明をする。図6は、本実施形態における酸化物膜8における不純物元素濃度及び酸素原子濃度の分布を示すグラフである。図6の横軸は、酸化物膜8等の深さ方向の位置を示しており、縦軸は、濃度を示している。また、同図においては、酸化物膜8とコンタクト膜5との境界付近、酸化物膜8とドレイン電極9等の境界付近における濃度の様子も示されている。図6では、本実施形態の場合の酸素原子濃度を二点鎖線で、不純物濃度を実線で示しており、従来技術の場合(バッファ膜6を形成しない他は本実施形態と同プロセスで作製した場合)の不純物濃度を点線で示した。図6で示すように、本実施形態では、ドレイン電極9等とコンタクト膜5との間において、酸素原子は正規分布状にピークを有して分布している。また、酸化物膜8における不純物元素の濃度は、コンタクト膜5における不純物元素の濃度よりも少なくなっており、不純物元素の濃度は、コンタクト膜5から離れるに従って少なくなるように分布している。コンタクト膜5、酸化物膜8、ドレイン電極9等における元素の濃度は、SIMS(Secondary Ionization Mass Spectrometer)分析を用いて計測でき、いわゆるBackSide−SIMS分析で計測できる。
【0046】
酸化物膜8は、具体的には、所定濃度以上の酸素原子が分布する膜であって、本実施形態では、1.0×1022個/cm以上の酸素原子濃度となる領域が酸化物膜8であり、5nm程度の厚みを有する膜である。バッファ膜6を形成しない場合と比較すると、バッファ膜6を設けた本実施形態のTFT104では、酸化物膜8における不純物元素の濃度が低くなる。そして、酸化物膜8とコンタクト膜5との境界(所定濃度の酸素原子濃度が検出される位置)における不純物元素の濃度は、図6で示すように、1.0×1020個/cm以上となっており、酸化物膜8とドレイン電極9との境界における不純物元素の濃度は、図6で示すように1.0×1019個/cm以下となっている。
【0047】
酸化物膜8は、バッファ膜6が酸素処理される工程を経て形成されるため、少なくともシリコンと酸素とを含有しており、不純物濃度がコンタクト膜5よりも低濃度となる。これにより、ドレイン電極9等と半導体層4の電流経路の寄生抵抗が上昇しにくく、TFT104のオン特性低下が抑制される。また、酸化物膜8は、上述のような熱処理工程を経て形成されることで、シリコン酸化物に加えて、さらにCu合金の添加元素とCu原子とを含有するようになり、密着性及び拡散バリア性に優れて低抵抗な膜となる。
【0048】
また、酸化物膜8では、図6に示すように酸素原子濃度のピークが存在している。酸化物膜8において酸素原子濃度の最大値が検出される位置では、不純物の濃度が1.0×1020個/cm未満となるようにすることで寄生抵抗の上昇を生じにくくでき、さらに、1.0×1019個/cm未満となるようにするのが好適であり、1.0×1018個/cm未満となるようにするのがより好ましい。また、図6で示すように、酸素原子濃度の最大値が検出される位置よりもコンタクト膜5の側で、不純物元素の濃度が減少し、具体的には、酸素原子濃度の最大値が検出される位置では、コンタクト膜5における不純物濃度(コンタクト膜5における不純物濃度の平均)の1/10以下の不純物濃度となる。また、ドレイン電極9等の側で酸素原子濃度が1.0×1022個/cmとなる位置における不純物濃度が、コンタクト膜5の側で酸素原子濃度が1.0×1022個/cm以下となる位置の不純物濃度の100分の1以下となるようにしてもよく、このようにすることでも、寄生抵抗の上昇を生じにくく出来る。
【0049】
なお、S505において設けるバッファ膜6は、1nm以上10nm以下の厚みで設けるのが望ましい。これにより、ドレイン電極9又はソース電極10と、酸化物膜8との境界(本実施形態では、酸素原子濃度が1.0×1022個/cmとなる位置)における不純物の濃度が、1.0×1019個/cm以下となる。また、バッファ膜6の膜厚が1nm未満の場合、基板面内で膜厚ばらつきが大きくなり、均一なトランジスタ特性を得ることが困難になる可能性があり、それに加えて、コンタクト膜5が酸化されて寄生抵抗が上昇しやすくなるため望ましくない。バッファ膜6の膜厚が10nm以上の場合、低抵抗な酸化物膜8に改質せずに残存したバッファ膜6が高抵抗膜としてはたらき、TFTのオン特性低下が起こり、表示品位を劣化させるため望ましくない。
【0050】
なお、バッファ膜6の膜厚が1nmの場合、酸化物膜8中に含まれる不純物元素の濃度はドレイン電極9又はソース電極10との境界(酸素原子濃度が1.0×1022個/cmとなる位置)で、およそ1.0×1019個/cmとなる。したがって、バッファ膜6の膜厚が1nm以上10nm以下の場合であれば、酸化物膜8中に含まれる不純物元素の濃度はドレイン電極9又はソース電極10との境界で1.0×1019個/cm以下となる。一方、コンタクト膜5に含まれる不純物元素の濃度は酸化物膜8との境界で1.0×1020個/cm以上必要である。不純物元素濃度が1.0×1020個/cm以下である場合、TFT104のオン特性やオフ特性を低下させるためである。
【0051】
なお、酸化物膜8は、本実施形態のように1.0×1022個/cm以上で酸素原子が分布する膜であるのが、ドレイン電極9等との密着性の観点で望ましい。
【0052】
本実施形態のTFT104では、不純物濃度がコンタクト膜5よりも低いバッファ膜6を一時的に形成することにより、酸化処理からコンタクト膜5中の不純物元素の酸化を防ぐことが可能になる。これにより、オン特性の低下を抑制してドレイン電極9等にCu配線を適用することが可能になる。また、このTFTを液晶表示装置に用いることにより、さらなる大型化や画質向上、そして製造コストの低減を図ることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、ゲート絶縁膜3に窒化シリコン膜(SiNx)を採用したが、酸化シリコン膜(SiOx)を採用してもよいし、これらの積層膜を採用してもよい。また、半導体層4に水素化アモルファスシリコン膜を採用したが、微結晶シリコンや多結晶シリコンを用いてもよいし、これらの積層膜を採用してもよい。さらに、コンタクト膜5としては、微結晶シリコンに不純物を添加することにより形成した膜も適用可能である。
【0054】
なお、上記では液晶表示装置を採用した実施形態を説明したが、本発明に係る表示装置は、IPS型をはじめとする横電界方式の液晶表示装置であってもよいし、縦電界方式の液晶表示装置であってもよいし、有機EL表示装置でもよく、これら以外の他の表示装置であってもよい。なお、本発明の実施形態は、上記の実施形態に限られないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0055】
2 ゲート電極、3 ゲート絶縁膜、4 半導体層、5 コンタクト膜、6 バッファ膜、7 シリコン酸化膜、8 酸化物膜、9 ドレイン電極、10 ソース電極、11 保護膜、100 基板、101 TFT基板、102 走査線、103 信号線、104 TFT、105 画素電極、106 ストレージキャパシタ、111 光源、112 偏光板、113 絶縁膜、114 配向膜、115 液晶層、116 スペーサ、117 共通電極、118 カラーフィルタ、119 ブラックマトリクス、120 カラーフィルタ基板、121 偏光フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層と、銅と1種類の添加元素とを含む銅合金層を有するソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれの電極と前記半導体層との間に形成されるコンタクト膜と、前記それぞれの電極と前記コンタクト膜との間に形成される酸化物膜と、を含む薄膜トランジスタ基板を有する表示装置であって、
前記コンタクト膜は、不純物とシリコンとを含み、
前記酸化物膜は、シリコン、不純物および酸素を含むとともに、
前記酸化物膜における不純物濃度が前記コンタクト膜における不純物濃度よりも低い、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載された表示装置であって、
前記酸化物膜は、酸素原子が所定濃度以上で分布する、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載された表示装置であって、
前記酸化物膜は、1.0×1022個/cm以上の酸素原子濃度が分布する、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載された表示装置であって、
前記酸化物膜は、前記コンタクト膜の側で1.0×1022個/cmの酸素原子濃度が検出される位置において、不純物濃度が1.0×1020個/cm以上となり、前記それぞれの電極の側で、1.0×1022個/cmの酸素原子濃度が検出される位置において、不純物濃度が1.0×1019個/cm以下となる、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項5】
請求項3に記載された表示装置であって、
前記酸化物膜では、
前記それぞれの電極の側で1.0×1022個/cmの酸素原子濃度が検出される位置での不純物濃度が、前記コンタクト膜の側で1.0×1022個/cmの酸素原子濃度が検出される位置での不純物濃度の1/100以下となる、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項6】
請求項1に記載された表示装置であって、
前記酸化物膜では、酸素原子濃度が最大値をとる位置において、不純物濃度が1.0×1020個/cm未満となる、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項7】
請求項1に記載された表示装置であって、
前記酸化物膜では、不純物濃度が前記コンタクト膜から離れるにつれて減少し、
前記酸化物膜では、酸素原子濃度が最大値となる位置よりも前記コンタクト膜の側で不純物濃度の減少が開始する、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項8】
請求項1に記載された表示装置であって、
前記酸化物膜では、酸素原子濃度が最大値となる位置において、前記コンタクト膜における不純物濃度の1/10以下となる、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項9】
請求項1に記載された表示装置であって、
前記酸化物膜は、銅および前記添加元素をさらに含む、
ことを特徴とする表示装置。
【請求項10】
薄膜トランジスタを有する表示装置の製造方法であって、
半導体層を形成する工程と、
銅と少なくとも1種類の添加元素及を含む銅合金層を有するソース電極及びドレイン電極を形成する電極形成工程と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれと、前記半導体層とを電気的に接続するためのコンタクト膜を形成する工程と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれと、前記コンタクト膜との間にシリコンと酸素とを含有するシリコン酸化膜を形成する工程と、を含み、
前記コンタクト膜を形成する工程では、
不純物が添加されたシリコン膜が形成され、
前記シリコン酸化膜を形成する工程は、
前記シリコン膜よりも不純物濃度が低いシリコン膜をバッファ膜として形成する工程と、
前記バッファ膜に、酸化処理を施す工程と、を含む、
ことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項11】
半導体層と、銅と少なくとも1種類の添加元素とを含む銅合金層を有するソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極及び前記ドレイン電極のそれぞれの電極と前記半導体層との間に形成されるコンタクト膜と、前記それぞれの電極と前記コンタクト膜との間に形成される酸化物膜と、を含む薄膜トランジスタを有する表示装置であって、
前記コンタクト膜は、不純物とシリコンとを含み、
前記酸化物膜は、前記コンタクト膜よりも不純物濃度が低いシリコン膜をバッファ膜として形成する工程と、前記バッファ膜に酸化処理を施す工程とを含む工程により形成される、
ことを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−181607(P2011−181607A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42751(P2010−42751)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【出願人】(506087819)パナソニック液晶ディスプレイ株式会社 (443)
【Fターム(参考)】