説明

車両の制御装置

【課題】エンジンの始動状態が自立始動か負荷始動かに拘わらず、エンジン始動時にエンジンの運転状態に関わる車両状態をより正確に判定する。
【解決手段】エンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに基づいて、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の運転状態に関わる車両状態(例えばエンジン18に供給される燃料Fの性状)を判定するときの判定方法が切り替えられるので、例えば自立始動か負荷始動かによってエンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なることに対して、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジン18の運転状態に関わる車両状態をより正確に判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動時にエンジンの運転に関わる車両状態を判定する車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン始動時にエンジンの運転に関わる車両状態を判定する車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された内燃機関の燃焼状態推定装置がそれである。この特許文献1には、筒内空気量に基づいて筒内で発生する理論上の基準トルクを算出し、また筒内での実際の燃焼により発生した図示トルクを算出し、それら基準トルクと図示トルクとを比較した比較結果に基づいて、筒内の燃焼状態又は燃料の性状を判定することが記載されている。
【0003】
ここで、一般的に、燃料が重質燃料である場合は、軽質燃料である場合に比べて燃料が気化(霧化)し難く、混合気が形成され難い為、エンジンの安定した運転が得られない恐れがある。その為、エンジン始動時に燃料の性状を重質と判定した場合には、軽質燃料のときよりも燃料噴射量を増量して、エンジンの良好な始動性を確保することが提案されている。また、筒内の燃焼状態がエンジントルク低下などのエンジン異常を示すものである場合は、例えば点火遅角を伴う触媒暖機を不許可にして、エンジントルクを出易くすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−105822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば軽質燃料であるのに重質燃料であると誤判定してしまうと、燃料噴射量が過剰になる恐れがある。また、反対に、重質燃料であるのに軽質燃料であると誤判定してしまうと、必要な分の燃料増量ができない為に、失火やエンジン始動不良やドライバビリティの悪化が起こる恐れがある。また触媒暖機を不許可にすることは、エンジントルクが出易くなる替わりに排ガスを悪化させる恐れがある為、エンジン異常時なので止むを得ず行うものであり、できるだけ触媒暖機を不許可にしたくない。その為、エンジンの運転状態に関わる車両状態の判定は、できるだけ正確に判定したい。しかしながら、例えば上記車両状態の判定にエンジン始動時のエンジントルクを用いるような場合、エンジン自立運転の為の比較的小さなスロットル弁開度でのエンジン始動である自立始動と、エンジン負荷運転の為の比較的大きなスロットル弁開度でのエンジン始動である負荷始動とでは、エンジン始動時のエンジントルクの出方が異なる為、どちらのエンジン始動にも共通した一律の判定方法を用いると、エンジンの運転状態に関わる車両状態を正確に判定できない可能性がある。尚、上述したような、課題は未公知である。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの始動状態が自立始動か負荷始動かに拘わらず、エンジン始動時にエンジンの運転状態に関わる車両状態をより正確に判定することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) エンジン始動時にエンジンの運転に関わる車両状態を判定する車両の制御装置であって、(b) 前記エンジン始動時のエンジントルクを用いて前記車両状態を判定するものであり、(c) 前記エンジンの始動状態が自立始動か負荷始動かに基づいて、前記車両状態を判定する判定方法を切り替えることにある。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記エンジン始動時のエンジントルクを用いて前記車両状態を判定するときの判定方法が、前記エンジンの始動状態が自立始動か負荷始動かに基づいて切り替えられるので、例えば自立始動か負荷始動かによってエンジン始動時のエンジントルクの出方が異なることに対して、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジンの運転状態に関わる車両状態をより正確に判定することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記車両状態を判定する判定方法を切り替えることとは、その車両状態の判定に用いる前記エンジントルクの閾値を前記自立始動と前記負荷始動とで切り替えることである。このようにすれば、例えば自立始動か負荷始動かに合わせてエンジンの運転状態に関わる車両状態を一層適切に判定することができる。
【0010】
また、好適には、前記車両状態を判定する判定方法を切り替えることとは、その車両状態の判定時機を定める為のカウンタの閾値を前記自立始動と前記負荷始動とで切り替えることである。このようにすれば、例えば自立始動か負荷始動かに合わせてエンジンの運転状態に関わる車両状態を一層適切な時機(タイミング)にて判定することができる。
【0011】
また、好適には、前記車両状態とは、前記エンジンに供給される燃料の性状である。このようにすれば、例えば自立始動か負荷始動かに合わせて燃料の性状をより正確に判定することができる。つまり、軽質燃料か重質燃料かをより正確に判定することができる。
【0012】
また、好適には、前記燃料の性状が重質燃料であると判定したときには、前記エンジンに供給する燃料を増加するものであり、前記燃料の性状が重質燃料であると判定したときに増加するその燃料の増量分を前記自立始動と前記負荷始動とで切り替えるものである。このようにすれば、例えば軽質燃料を重質燃料と誤判定することによる燃料噴射量の過剰供給を抑制することができる。また、重質燃料を軽質燃料と誤判定することによる失火、エンジン始動不良、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。また、例えば重質燃料であると判定したときに、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジンに供給する燃料を適切に増量することができて、失火、エンジン始動不良、ドライバビリティの悪化を一層適切に抑制することができる。
【0013】
また、好適には、前記車両状態とは、前記エンジントルクが低下する前記エンジンの異常状態である。このようにすれば、例えば自立始動か負荷始動かに合わせてエンジンの異常状態をより正確に判定することができる。
【0014】
また、好適には、前記エンジンが異常状態であると判定したときには、そのエンジンの排気管に備えられた触媒の暖機を許可しないものである。このようにすれば、例えばエンジンの異常状態の誤判定による触媒暖機の不許可(キャンセル)を適切に抑制することができる。また、例えばエンジンの異常状態がより正確に判定されることで、例えば点火遅角を伴う触媒暖機が適切にキャンセルされてエンジントルクを適切に出易くすることができる。
【0015】
また、好適には、前記エンジン始動時は、エンジン冷間時の初回始動時である。このようにすれば、例えばエンジン始動性が低下するエンジン冷間時の初回始動時において、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジンの運転状態に関わる車両状態をより正確に判定することができる。よって、例えば重質燃料である場合に、エンジン冷間時の初回始動時において、失火、エンジン始動不良、ドライバビリティの悪化を適切に抑制することができる。また、エンジン冷間時の初回始動時において、誤判定による触媒暖機のキャンセルを適切に抑制することができる。
【0016】
また、好適には、前記自立始動は、前記エンジンの自立運転の為の比較的小さなスロットル弁開度でのエンジン始動であり、前記負荷始動は、前記エンジンの負荷運転の為の比較的大きなスロットル弁開度でのエンジン始動である。このようにすれば、例えば自立始動か負荷始動かによってエンジン始動時のエンジントルクの出方が異なることに対して、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジンの運転状態に関わる車両状態をより正確に判定することができる。
【0017】
また、好適には、前記車両は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有しその差動用電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式無段変速機を備えており、前記エンジン始動時には、前記差動用電動機により前記エンジンが回転駆動されることにある。このようにすれば、例えばエンジン始動時には差動用電動機によりエンジンが回転駆動されるような電気式無段変速機を備える車両において、自立始動か負荷始動かによってエンジン始動時のエンジントルクの出方が異なることに対して、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジンの運転状態に関わる車両状態をより正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用される車両に設けられた変速機構の一例を説明する骨子図である。
【図2】図1の変速機構において各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図である。
【図3】図1のエンジンの概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図4】図3の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1のエンジンの最適燃費線の一例を示す図である。
【図6】エンジン始動時のエンジントルク特性の一例を示す図である。
【図7】電子制御装置の制御作動の要部すなわちエンジンの始動状態が自立始動か負荷始動かに拘わらずエンジン始動時に燃料の性状をより正確に判定する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートに対応するタイムチャートである。
【図9】電子制御装置の制御作動の要部すなわちエンジンの始動状態が自立始動か負荷始動かに拘わらずエンジン始動時にエンジンの異常状態をより正確に判定する為の制御作動を説明するフローチャートであって、図7のフローチャートに相当する別の実施例である。
【図10】図9のフローチャートに対応するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
また、好適には、前記電気式無段変速機は、エンジンからの動力を差動用電動機及び出力回転部材へ分配する例えば遊星歯車装置で構成される差動機構とその差動機構の出力回転部材に設けられた走行用電動機とを備えてその差動機構の差動作用によりエンジンからの動力の主部を駆動輪へ機械的に伝達しエンジンからの動力の残部を差動用電動機から走行用電動機や蓄電装置への電気パスを用いて電気的に伝達することにより電気的に変速比が変更される。
【0020】
このような前記電気式無段変速機において、例えば前記エンジンの効率が比較的悪い低速低負荷の走行時には、前記エンジンを停止した状態で、前記走行用電動機のみで走行用の駆動力を得る所謂モータ走行が行われる。前記モータ走行中やこのモータ走行を実行する為の制御様式であるモータ走行モードにおける車両停止中に、例えばより駆動力を得たいという加速要求(例えばアクセルペダルの急踏込みや踏増し)が為されると、前記エンジンにより走行用の駆動力を得ることを目的として、エンジンの負荷運転の為の比較的大きなスロットル弁開度でのエンジン始動である前記負荷始動が行われる。このように、前記負荷始動は、始動直後から車両を駆動する駆動負荷がかかるエンジン始動すなわち始動後に負荷運転とする為のエンジン始動である。一方、前記モータ走行中や車両停止中に、例えば前記蓄電装置の充電容量の低下や車両補機の駆動要求や暖機前などが判断されると、蓄電装置の充電や車両補機の駆動や暖機などを目的として、エンジンの自立運転の為の比較的小さなスロットル弁開度でのエンジン始動である前記自立始動が行われる。このように、前記自立始動は、前記エンジンにより走行用の駆動力を得ることを目的としないエンジン始動であり、駆動負荷がかからないという意味では無負荷でのエンジン始動すなわち始動後に無負荷運転とする為のエンジン始動とも言える。
【0021】
また、好適には、前記エンジンとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジンが広く用いられる。更に、補助的な走行用動力源として、電動機等がこのエンジンに加えて用いられても良い。
【0022】
また、好適には、前記差動機構は、前記エンジンに連結された第1回転要素と前記差動用電動機に連結された第2回転要素と駆動輪(出力回転部材)に動力伝達可能に連結された第3回転要素との3つの回転要素を有する装置である。このようにすれば、前記差動機構が簡単に構成される。
【0023】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明が適用される車両10(図3,4参照)に設けられた車両用動力伝達装置(以下、動力伝達装置)12の一部を構成する変速機構14を説明する骨子図である。図1において、変速機構14は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスル(T/A)ケース16内において、走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン18側から順番に、そのエンジン18の出力軸であるクランク軸20に作動的に連結されてエンジン18からのトルク変動等による脈動を吸収するダンパー22、そのダンパー22を介してエンジン18によって回転駆動させられる入力軸24、第1電動機M1、動力分配機構として機能する遊星歯車装置26、及び第2電動機M2を備えている。
【0025】
動力伝達装置12は、例えば車両10において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、変速機構14、この変速機構14の出力回転部材としての出力歯車28が一方を構成するカウンタギヤ対30、ファイナルギヤ対32、差動歯車装置(終減速機)34、及び一対の車軸36等を含んで構成される。そして、エンジン18の動力は、変速機構14、カウンタギヤ対30、ファイナルギヤ対32、差動歯車装置34、及び一対の車軸36等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達される(図4参照)。
【0026】
入力軸24は、両端がボールベアリング40,42によって回転可能に支持されており、一端がダンパー22を介してエンジン18に連結されることでエンジン18により回転駆動させられる。また、他端には潤滑油供給装置としてのオイルポンプ46が連結されており、入力軸24が回転駆動されることによりこのオイルポンプ46が回転駆動させられて、動力伝達装置12の各部例えば遊星歯車装置26やカウンタギヤ対30やファイナルギヤ対32やボールベアリング40,42等に潤滑油が供給される。
【0027】
遊星歯車装置26は、所定のギヤ比ρを有するシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、サンギヤS、ピニオンギヤP、そのピニオンギヤPを自転及び公転可能に支持するキャリヤCA、ピニオンギヤPを介してサンギヤSと噛み合うリングギヤRを回転要素として備えている。尚、サンギヤSの歯数をZS、リングギヤRの歯数をZRとすると、上記ギヤ比ρはZS/ZRである。そして、遊星歯車装置26は、入力軸24に伝達されたエンジン18の出力を機械的に分配する機械的機構であって、エンジン18の出力を第1電動機M1及び出力歯車28に分配する。つまり、この遊星歯車装置26においては、キャリヤCAは入力軸24すなわちエンジン18に動力伝達可能に連結され、サンギヤSは第1電動機M1に動力伝達可能に連結され、リングギヤRは出力歯車28に連結されている。これより、遊星歯車装置26の3つの回転要素であるサンギヤS、キャリヤCA、リングギヤRは、それぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン18の出力が第1電動機M1及び出力歯車28に分配されると共に、第1電動機M1に分配されたエンジン18の出力で第1電動機M1が発電され、その発電された電気エネルギが蓄電されたりその電気エネルギで第2電動機M2が回転駆動されるので、変速機構14は例えば無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン18の所定回転に拘わらず出力歯車28の回転が連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。
【0028】
このように、変速機構14は、エンジン18に動力伝達可能に連結された差動機構としての遊星歯車装置26と遊星歯車装置26に動力伝達可能に連結された差動用電動機としての第1電動機M1とを有し第1電動機M1の運転状態が制御されることにより遊星歯車装置26の差動状態が制御される電気式差動部すなわち電気式無段変速機である。また、変速機構14には、出力歯車28と一体的に回転するように作動的に連結されて走行用の駆動力源として機能する第2電動機M2が備えられている。つまり、この第2電動機M2は、駆動輪38に動力伝達可能に連結された走行用電動機である。本実施例の第1電動機M1及び第2電動機M2は、発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させる為のジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力する為のモータ(電動機)機能を少なくとも備える。そして、このように構成された変速機構14では、遊星歯車装置26が変速機として機能させられると共にモータ走行が可能な動力伝達装置が構成される。
【0029】
図2は、変速機構14において各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図2の共線図は、遊星歯車装置26のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸24に作動的に連結されたエンジン18の回転速度Nを示している。
【0030】
また、変速機構14を構成する遊星歯車装置26の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS、第1回転要素RE1に対応するキャリヤCA、第3回転要素RE3に対応するリングギヤRの相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は遊星歯車装置26のギヤ比ρに応じて定められている。詳細には、共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、変速機構14では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρに対応する間隔に設定される。
【0031】
図2の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構14は、遊星歯車装置26の第1回転要素RE1(キャリヤCA)が入力軸24すなわちエンジン18に動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2(サンギヤS)が第1電動機M1に動力伝達可能に連結され、第3回転要素(リングギヤR)RE3が出力歯車28及び第2電動機M2に連結され且つ駆動輪38に動力伝達可能に連結されて、入力軸24の回転を出力歯車28を介して駆動輪38へ伝達するように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0によりサンギヤSの回転速度とリングギヤRの回転速度との関係が示される。例えば、変速機構14(遊星歯車装置26)においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示されるリングギヤRの回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、第1電動機M1の回転速度NM1を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示されるサンギヤSの回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y2との交点で示されるキャリヤCAの回転速度すなわちエンジン回転速度Nが上昇或いは下降させられる。
【0032】
図3は、エンジン18の概略構成を説明する図であると共に、エンジン18の出力制御等を実行する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図3において、エンジン18は、例えば公知の自動車用ガソリンエンジンであり、シリンダヘッドとピストン46との間に設けられた燃焼室48と、燃焼室48の吸気ポートに接続された吸気管50と、燃焼室48の排気ポートに接続された排気管52と、シリンダヘッドに設けられ燃焼室48に吸入される吸気(吸入空気)に燃料Fを噴射供給する燃料噴射装置54と、燃料噴射装置54により噴射供給された燃料Fと吸入された空気とから構成される燃焼室48内の混合気に点火する点火装置56とを備えている。
【0033】
エンジン18の吸気管50内には、電子スロットル弁58が設けられており、その電子スロットル弁58はスロットルアクチュエータ60により開閉作動させられる。また、エンジン18の排気管52には、触媒62が備えられており、エンジン18の燃焼により生じた排気ガスEXは、排気管52を通って触媒62に流入しその触媒62によって浄化されて大気中に排出される。この触媒62は、例えば排気ガスEX中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)等を浄化する良く知られた三元触媒から構成されている。
【0034】
また、車両10には、排気ガスEXの一部をエンジン18の排気管52から取り出して、再びエンジン18の吸気管50に再循環させて戻す排気再循環装置64が備えられている。排気再循環装置64は、例えば吸気管50と排気管52とを連通するEGR管66と、そのEGR管66の間部分に設けられ排気管52から吸気管50へ再循環する排気ガスEXの流通と遮断とを制御するEGR制御弁68とを備えている。EGR制御弁68は、例えばアクチュエータ等により電気的に開閉制御される電子制御バルブである。
【0035】
このエンジン18では、吸気管50から燃焼室48に吸入される吸入空気に燃料噴射装置54から燃料Fが噴射供給されて混合気が形成され、燃焼室48内でその混合気が点火装置56により点火されて燃焼する。これにより、エンジン18は駆動され、燃焼後の混合気は排気ガスEXとして排気管52内へと送り出される。そして、排気ガスEXのうちEGR制御弁68の開弁により吸気管50へ再循環させられた排気ガスEXが、次のサイクルで用いられる吸気管50内の吸入空気に加えられる。上記燃焼室48に吸入される混合気の空燃比A/Fは、例えば一定の範囲内で車両10の運転状態等に応じて制御される。
【0036】
更に、車両10には、例えばエンジン始動時にエンジン18の運転に関わる車両状態を判定する車両10の制御装置を含む電子制御装置100が備えられている。この電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置100は、エンジン18、第1電動機M1、第2電動機M2などに関するハイブリッド駆動制御等の車両制御を実行するようになっており、必要に応じてエンジン18の出力制御用や変速機構14の変速制御用等に分けて構成される。
【0037】
電子制御装置100には、例えば吸気管50の電子スロットル弁58よりも上流側に設けられたエアフローメータ70により検出された吸入空気量Qを表す信号、スロットル弁開度センサ72により検出された電子スロットル弁58の開き角度であるスロットル弁開度θTHを表す信号、吸気管50に設けられた吸気圧センサ74により検出された吸気管50内の圧力である負圧Pnegaを表す信号、排気管52の触媒62よりも上流側に設けられた空燃比センサ76により検出された排気ガスEX中の空燃比A/Fの状態を表す信号、水温センサ78により検出されたエンジン18の冷却水温TEMPwを表す信号、エンジン回転速度センサ80により検出されたエンジン18の回転速度であるエンジン回転速度Nを表す信号、アクセル開度センサ82により検出された車両10に対する運転者(ユーザ)の加速要求量としてのアクセルペダル84の操作量であるアクセル操作量としてのアクセル開度Accを表す信号、車速センサ86により検出された出力歯車28の回転速度である出力回転速度NOUTに対応する車速Vを表す信号などが、それぞれ供給される。また、不図示の各センサやスイッチなどから、モータ走行(EV走行)モードを設定する為のスイッチ操作の有無を表す信号、第1電動機M1の回転速度である第1電動機回転速度NM1を表す信号、第2電動機M2の回転速度である第2電動機回転速度NM2を表す信号、蓄電装置88(図4参照)の温度である蓄電装置温度THBATを表す信号、蓄電装置88の充電電流又は放電電流である充放電電流(或いは入出力電流)IBATを表す信号、蓄電装置88の電圧VBATを表す信号、上記蓄電装置温度THBAT、充放電電流ICD、及び電圧VBATに基づいて算出された蓄電装置88の充電状態(充電容量)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0038】
尚、図4に示す蓄電装置88は、充放電可能な直流電源であり、例えばニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池から成る。例えば、車両加速走行時には、エンジン18の出力に対する反力をとるときに第1電動機M1により発電された電気エネルギ(電力)がインバータ90を通して蓄電装置88に蓄電される。また、車両減速走行時の回生制動の際には、第2電動機M2により発電された電力がインバータ90を通して蓄電装置88に蓄電される。また、第2電動機M2によるモータ走行時には、蓄電された電力がインバータ90を通して第2電動機M2へ供給される。
【0039】
また、電子制御装置100からは、例えばエンジン出力を制御するエンジン出力制御装置92(図4参照)への制御信号として、基本的にはアクセル開度Accが増加する程増加するようにスロットル弁開度θTHを制御する為のスロットルアクチュエータ60への駆動信号、燃料噴射装置54による吸気管50或いはエンジン18の各気筒内への燃料供給量FUELを制御する燃料供給量信号、点火装置56によるエンジン18の点火時期を指令する点火信号などが、それぞれ出力される。また、例えば第1電動機M1及び第2電動機M2の作動を制御するインバータ90(図4参照)への指令信号、EGR制御弁68を開閉制御してEGRオン状態とEGRオフ状態とを切り替える為のEGR制御弁68への駆動信号などが、それぞれ出力される。
【0040】
図4は、電子制御装置100による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、ハイブリッド制御部すなわちハイブリッド制御手段102は、例えばエンジン出力制御装置92を介してエンジン18の駆動を制御するエンジン駆動制御手段としての機能と、インバータ90を介して第1電動機M1及び第2電動機M2による駆動力源又は発電機としての作動を制御する電動機作動制御手段としての機能とを含んでおり、それら制御機能によりエンジン18、第1電動機M1、及び第2電動機M2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0041】
具体的には、ハイブリッド制御手段102は、エンジン18を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン18と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて変速機構14の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両10の目標(要求)出力(ユーザ要求パワー)を算出し、その目標出力と充電要求値(充電要求パワー)とから必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力(要求エンジン出力、エンジン要求パワー)Pを算出し、その目標エンジン出力Pが得られるエンジン回転速度Nとエンジン18の出力トルク(エンジントルク)Tとなるようにエンジン18を制御すると共に第1電動機M1及び第2電動機M2の出力乃至発電を制御する。
【0042】
つまり、ハイブリッド制御手段102は、動力性能や燃費向上などの為にエンジン18、第1電動機M1、及び第2電動機M2の制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン18を効率のよい作動域で作動させる為に定まるエンジン回転速度Nと車速V等で定まる出力回転速度NOUTとを整合させる為に、変速機構14が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段102は、例えばエンジン回転速度NとエンジントルクTとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性(動力性能)と燃費性(燃費性能)とを両立するように予め実験的に求められた例えば図5の破線に示すような良く知られたエンジン18の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、最適燃費線)Lを予め記憶している。そして、ハイブリッド制御手段102は、その最適燃費率曲線Lにエンジン18の動作点であるエンジン動作点PEGが沿わされつつエンジン18が作動させられるように、例えば上記トータル目標出力を充足する為に必要な目標エンジン出力Pを発生する為のエンジントルクTとエンジン回転速度Nとの各目標値を定め、その目標値が得られるようにエンジン18の出力制御を実行すると共に変速機構14の変速比γ0をその変速可能な変化範囲内で無段階に制御する。例えば、ハイブリッド制御手段102は、スロットル制御の為にスロットルアクチュエータ60により電子スロットル弁58を開閉制御させる他、燃料噴射制御の為に燃料噴射装置54による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御の為に点火装置56による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置92に出力して、必要な目標エンジン出力Pを発生する為のエンジントルクTの目標値が得られるようにエンジン18の出力制御を実行する。ここで、上記エンジン動作点PEGとは、エンジン回転速度N及びエンジントルクTなどで例示されるエンジン18の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン18の動作状態を示す動作点である。尚、本実施例では、燃費とは例えば単位燃料消費量当たりの走行距離であったり、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)等である。
【0043】
このとき、ハイブリッド制御手段102は、例えば第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ90を通して蓄電装置88や第2電動機M2へ供給するので、エンジン18の動力の主要部は機械的に出力歯車28へ伝達されるが、エンジン18の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ90を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、電気エネルギにより第2電動機M2が駆動されてその第2電動機M2から出力される駆動力が出力歯車28へ伝達される。この発電に係る第1電動機M1による電気エネルギの発生から駆動に係る第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン18の動力の一部が電気エネルギに変換され、その電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスが構成される。
【0044】
また、ハイブリッド制御手段102は、エンジン18を駆動力源とするエンジン走行中には、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギ及び/又は蓄電装置88からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪38にトルクを付与することにより、エンジン18の動力を補助する為の所謂トルクアシストが可能である。
【0045】
また、ハイブリッド制御手段102は、エンジン18の運転を停止した状態で蓄電装置88からの電力により第2電動機M2を駆動してその第2電動機M2のみを駆動力源として走行するモータ走行(EV走行)を実行することができる。例えば、このハイブリッド制御手段102によるEV走行は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクT域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。ハイブリッド制御手段102は、このEV走行時には、運転を停止しているエンジン18の引き摺りを抑制して燃費を向上させる為に、例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、変速機構14の差動作用により必要に応じてエンジン回転速度Nを零乃至略零に維持する。つまり、ハイブリッド制御手段102は、EV走行時には、エンジン18の運転を単に停止させるのではなく、エンジン18の回転(回転駆動)も停止させる。
【0046】
また、ハイブリッド制御手段102は、車両停止中やEV走行中にエンジン18の始動(起動)を行うエンジン始動制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段102は、エンジン18の運転が停止された車両停止中やEV走行中に、第1電動機M1に通電することで第1電動機回転速度NM1を引き上げてエンジン回転速度Nを完爆可能な所定回転速度N’以上に回転駆動する為の所定のエンジン始動用トルクすなわちクランキングトルクTM1crを発生させると共に、その所定回転速度N’以上にて例えばアイドル回転速度以上の自立回転可能なエンジン回転速度Nにて、スロットルアクチュエータ60により電子スロットル弁58を開き、燃料噴射装置54により燃料Fを供給(噴射)し、点火装置56により点火してエンジン18を始動するエンジン始動制御を実行する。このように、第1電動機M1は、エンジン始動に際してエンジン18を回転駆動する始動用モータ(スタータ)として機能させられる。
【0047】
ここで、ハイブリッド制御手段102によるエンジン始動の際には、例えばエンジン18が完爆してエンジントルクTが立ち上がるまでは、エンジン18が第1電動機M1のクランキングトルクTM1crに対する反力をとることになる為、エンジントルクTは一時的に落ち込みが生じる。一方、エンジン18に供給される燃料Fが重質燃料である場合は、軽質燃料である場合に比べて燃料Fが気化(霧化)し難く、混合気が形成され難い為、エンジン18の良好な始動性が得られない可能性がある。つまり、エンジン始動の際、エンジントルクTが一時的に落ち込んだまま立ち上がらないか、或いは立ち上がり難くなる可能性がある。そこで、本実施例では、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の運転に関わる車両状態としての燃料Fの性状を判定し、燃料Fの性状を重質と判定した場合には、軽質燃料のときよりも燃料供給量FUELを増量して、エンジン18の良好な始動性を確保する。尚、例えば燃料Fの性状は燃料Fの給油が行われない限り変化しないこと、またエンジン18の始動性はエンジン冷間時の方が低下し易いことなどを考慮して、本実施例では、例えば車両10の電源が投入された以降の初回始動時であって、エンジン18の冷却水温TEMPwが極低温でないエンジン冷間時に燃料Fの性状を判定する。
【0048】
具体的には、エンジン始動時判定部すなわちエンジン始動時判定手段104は、例えばエンジン18の運転が停止している車両停止時或いはモータ走行時に、ハイブリッド制御手段102によりエンジン始動制御が実行されているエンジン始動時であるか否かを判定する。
【0049】
前提条件成立判定部すなわち前提条件成立判定手段106は、例えばエンジン始動時のエンジントルクTを用いてすなわちエンジン始動時のエンジントルクTの一時的な低下に基づいて燃料Fの性状を判定する為の前提条件が成立したか否かを判定する。この前提条件としては、例えばエンジン18の冷却水温TEMPwが極低温でない暖機前のエンジン冷間時を定める温度範囲として予め設定された所定の冷却水温範囲(TEMPw1乃至TEMPw2)にあること、車速Vが予め設定された所定車速V’以下であること、及び触媒暖機中であることである。
【0050】
決定条件成立判定部すなわち決定条件成立判定手段108は、例えば遊星歯車装置26における第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3の相対関係から、第1電動機M1のクランキングトルクTM1crに基づいて、エンジン始動時のエンジントルクT(特に、完爆前のエンジントルクの落ち込みトルク)を算出する。そして、決定条件成立判定手段108は、例えばエンジン始動時のエンジントルクTが所定トルクT’を下回っているか否かを判定する。この所定トルクT’は、例えば燃料Fが重質燃料であることを判定する為の予め実験的に求められて設定された閾値であり、エンジン始動が開始されてからのエンジントルクTの変動に対応して時間と共に変化する値としてマップ化されている。更に、決定条件成立判定手段108は、例えばエンジン始動時のエンジントルクTが所定トルクT’を下回っていると判定している間は、燃料Fの性状(例えば重質燃料)を定める為のトルク低下カウンタCを計時(カウントアップ)し、トルク低下カウンタCが所定トルク低下カウンタC’を超えたか否かを判定する。この所定トルク低下カウンタC’は、例えば燃料Fが重質燃料であることを判定する為の予め実験的に求められて設定された閾値である。尚、トルク低下カウンタCは、エンジン始動時のエンジントルクTが所定トルクT’以上となれば、初期値に戻される(すなわちリセットされる)。
【0051】
車両状態決定部すなわち車両状態決定手段110は、例えば決定条件成立判定手段108によりトルク低下カウンタCが所定トルク低下カウンタC’を超えたと判定された場合には、燃料Fの性状を重質と決定するすなわち燃料Fが重質燃料であると決定する。つまり、車両状態決定手段110は、トルク低下カウンタCが所定トルク低下カウンタC’を超えた場合には、重質判定フラグをオン(ON)とする。
【0052】
ハイブリッド制御手段102は、例えば車両状態決定手段110により重質判定フラグがオンとされた場合には、予め定められた軽質燃料であるときの燃料供給量FUELに対して、重質燃料であるときに良好な始動性が得られる為の予め求められて設定された燃料Fの増量分ΔFだけ燃料噴射装置54による燃料供給量FUELを増加させる燃料供給量信号をエンジン出力制御装置に出力する。
【0053】
ところで、エンジン始動状態としては、例えば蓄電装置88の充電容量SOCが低下したときやエアコンのコンプレッサなどの車両補機類の駆動要求が為されたときや暖機完了前であるときなどに、蓄電装置88の充電や車両補機類の駆動や暖機などを目的とする見方を換えればエンジン18により走行用の駆動力を得ることを目的としないエンジン18の自立運転の為の比較的小さなスロットル弁開度θTHでのエンジン始動である自立始動と、例えばより駆動力を得たいという加速要求(例えばアクセルペダル84の急踏込みやモータ走行中のアクセルペダル84の踏増し)が為されたときなどに、エンジン18により走行用の駆動力を得ることを目的とするエンジン18の負荷運転の為の比較的大きなスロットル弁開度θTHでのエンジン始動である負荷始動とが考えられる。
【0054】
そして、エンジン始動状態が自立始動であるときと負荷始動であるときとでは、例えば図6のエンジン始動時のエンジントルク特性図に示すように、エンジン始動時のスロットル弁開度θTHの大きさが異なる為に、エンジン始動時のエンジントルクTの出方(トルクの落ち込み)が異なる場合がある。具体的には、図6において、実線は負荷始動であるときのエンジントルク特性であり、二点鎖線は自立始動であるときのエンジントルク特性であり、どちらのエンジン始動も太線は軽質燃料のときであり、細線は重質燃料のときにエンジントルクが立ち上がらず燃料増量も為されなかった場合の一例である。尚、図6では、負荷始動であるときのエンジントルク特性は、自立始動であるときのエンジントルク特性に比べて一時的なエンジントルクTの落ち込みが小さくなっているが、これは飽くまで2つのエンジン始動を比較する為の一例であり、例えば車両の違いやエンジンの違いなどによっては、自立始動の方が負荷始動に比べて一時的なエンジントルクTの落ち込みが小さくなる場合もある。
【0055】
上述したようにエンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なる場合に、エンジン始動が自立始動であるが負荷始動であるかに拘わらず、上記重質判定に一律の所定トルクT’を用いると、燃料Fの性状を誤判定する可能性がある。具体的には、図6において、所定トルクT’として一律の所定トルクT'1を用いると、自立始動であるときに軽質燃料を重質燃料と誤判定し、燃料供給量FUELが過剰になる可能性がある。また、所定トルクT’として一律の所定トルクT'2を用いると、負荷始動であるときに重質燃料を軽質燃料と誤判定し、必要な分の燃料Fの増量分ΔFが供給されない為に、失火やエンジン始動不良やドライバビリティの悪化を起こす可能性がある。
【0056】
そこで、本実施例の電子制御装置100は、例えばエンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに拘わらずエンジン始動時に燃料Fの性状をより正確に判定する為に、エンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに基づいて、エンジン始動時のエンジントルクTを用いて燃料Fの性状を判定するときの判定方法を切り替える。例えば、重質判定に用いる所定トルクT’を自立始動と負荷始動とで切り替えることで、エンジン始動時のエンジントルクTを用いて燃料Fの性状を判定するときの判定方法を切り替える。また、例えば重質判定に用いる所定トルク低下カウンタC’を自立始動と負荷始動とで切り替えることで、エンジン始動時のエンジントルクTを用いて燃料Fの性状を判定するときの判定方法を切り替える。また、判定方法を切り替えることとは別に、燃料Fの性状が重質燃料であると判定したときに増加する燃料Fの増量分ΔFを自立始動と負荷始動とで切り替えても良い。
【0057】
より具体的には、図4に戻り、エンジン始動時判定手段104は、更に、ハイブリッド制御手段102により実行されているエンジン始動が自立始動と負荷始動との何れであるかを判定する。例えば、エンジン始動時判定手段104は、エンジン始動時のスロットル弁開度θTHが負荷始動であると判定する為の予め実験的に求められて設定された比較的大きな所定のスロットル弁開度θTH’以上である場合には、エンジン始動が負荷始動であると判定する。反対に、エンジン始動時判定手段104は、エンジン始動時のスロットル弁開度θTHが上記所定のスロットル弁開度θTH’を超えていない場合には、エンジン始動が自立始動であると判定する。
【0058】
決定条件成立判定手段108は、例えばエンジン始動時判定手段104によりエンジン始動が自立始動であると判定された場合には、所定トルクT’として所定トルクT'Aを用いると共に所定トルク低下カウンタC’として所定トルク低下カウンタC'Aを用いる一方、エンジン始動時判定手段104によりエンジン始動が負荷始動であると判定された場合には、所定トルクT’として所定トルクT'Bを用いると共に所定トルク低下カウンタC’として所定トルク低下カウンタC'Bを用いる。
【0059】
上記所定トルクT'Aや上記所定トルク低下カウンタC'Aは、例えばエンジン始動が自立始動であるときのエンジン始動時のトルク特性に合わせて予め実験的に求められて設定される車両毎に適合された閾値である。また、上記所定トルクT'Bや上記所定トルク低下カウンタC'Bは、例えばエンジン始動が負荷始動であるときのエンジン始動時のトルク特性に合わせて予め実験的に求められて設定される車両毎に適合された閾値である。具体的には、自立始動であるときのエンジン始動時のトルク特性と負荷始動であるときのエンジン始動時のトルク特性とが、例えば図6に示すような傾向である場合には、所定トルクT'1が負荷始動時の所定トルクT'Bに相当し、所定トルクT'2が自立始動時の所定トルクT'Aに相当し、自立始動時の所定トルクT'Aの方が負荷始動時の所定トルクT'Bに比べて、全体的に小さくされる。また、例えばエンジン始動時のトルク低下量が大きい程エンジントルクTが立ち上がり難いと考えられるので、トルク低下量が大きい程早めに重質判定をオンとして早めに燃料Fを増量できるように、例えば図6に示すような傾向である場合には、自立始動時の所定トルク低下カウンタC'Aの方が負荷始動時の所定トルク低下カウンタC'Bに比べて小さくされる。
【0060】
ハイブリッド制御手段102は、例えばエンジン始動時判定手段104によりエンジン始動が自立始動であると判定された場合には、燃料Fの増量分ΔFとして増量分ΔFAを用いる一方、エンジン始動時判定手段104によりエンジン始動が負荷始動であると判定された場合には、燃料Fの増量分ΔFとして増量分ΔFBを用いる。上記増量分ΔFAは、例えばエンジン始動が自立始動であるときのエンジン始動時のトルク特性に合わせて予め実験的に求められて設定される車両毎に適合された値である。また、上記増量分ΔFBは、例えばエンジン始動が負荷始動であるときのエンジン始動時のトルク特性に合わせて予め実験的に求められて設定される車両毎に適合された値である。具体的には、エンジン始動時のトルク低下量が大きい程エンジントルクTが立ち上がり難いと考えられるので、トルク低下量が大きい程エンジントルクTが立ち上がり易いように、例えば図6に示すような傾向である場合には、自立始動時の増量分ΔFAの方が負荷始動時の増量分ΔFBに比べて大きくされる。
【0061】
図7は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちエンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに拘わらずエンジン始動時に燃料Fの性状をより正確に判定する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図8は、図7のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
【0062】
図7において、先ず、エンジン始動時判定手段104に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SA10において、例えばエンジン18の運転が停止している車両停止時或いはモータ走行時にエンジン始動制御が実行されているエンジン始動時であるか否かが判定される。このSA10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じくエンジン始動時判定手段104に対応するSA20において、例えば上記SA10にて実行中であると判断されたエンジン始動が自立始動と負荷始動との何れであるかが判定される(図8のt0時点)。このSA20にてエンジン始動が自立始動であると判定された場合は前提条件成立判定手段106に対応するSA30において、例えばエンジン始動時のエンジントルクTを用いて燃料Fの性状を判定する為の前提条件が成立したか否かが判定される。このSA30の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は決定条件成立判定手段108に対応するSA40において、例えば所定トルクT’として自立始動時の所定トルクT'Aが用いられ、エンジン始動時のエンジントルクTがその所定トルクT'Aを下回っているか否かが判定される(図8のt0時点以降)。このSA40の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく決定条件成立判定手段108に対応するSA50において、例えば所定トルク低下カウンタC’として自立始動時の所定トルク低下カウンタC'Aが用いられ、トルク低下カウンタCがその所定トルク低下カウンタC'Aを超えたか否かが判定される(図8のt1時点以降)。このSA50の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は車両状態決定手段110に対応するSA60において、例えば重質判定フラグがオン(ON)とされる(図8のt2時点)。次いで、ハイブリッド制御手段102に対応するSA70において、例えば燃料噴射装置54による燃料供給量FUELが自立始動時の増量分ΔFAだけ増加させられる(図8のt2時点以降)。
【0063】
一方で、上記SA20にてエンジン始動が負荷始動であると判定された場合は前提条件成立判定手段106に対応するSA80において、例えばエンジン始動時のエンジントルクTを用いて燃料Fの性状を判定する為の前提条件が成立したか否かが判定される。このSA80の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は決定条件成立判定手段108に対応するSA90において、例えば所定トルクT’として負荷始動時の所定トルクT'Bが用いられ、エンジン始動時のエンジントルクTがその所定トルクT'Bを下回っているか否かが判定される(図8のt0時点以降)。このSA90の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく決定条件成立判定手段108に対応するSA100において、例えば所定トルク低下カウンタC’として負荷始動時の所定トルク低下カウンタC'Bが用いられ、トルク低下カウンタCがその所定トルク低下カウンタC'Bを超えたか否かが判定される(図8のt1’時点以降)。このSA100の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は車両状態決定手段110に対応するSA110において、例えば重質判定フラグがオン(ON)とされる(図8のt2’時点)。次いで、ハイブリッド制御手段102に対応するSA120において、例えば燃料噴射装置54による燃料供給量FUELが負荷始動時の増量分ΔFBだけ増加させられる(図8のt2’時点以降)。
【0064】
図8において、エンジン始動が負荷始動(実線)である場合と、エンジン始動が自立始動(二点鎖線)である場合との何れにおいても、燃料Fが軽質燃料である場合には燃料Fが増加されることなく適切にエンジン18が始動させられ、また燃料Fが重質燃料である場合にはそれぞれ適切なタイミングにて重質判定されて燃料Fが適量に増加され、適切にエンジン18が始動させられる。
【0065】
上述のように、本実施例によれば、エンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに基づいて、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の運転状態に関わる車両状態としての燃料Fの性状を判定するときの判定方法が切り替えられるので、例えば自立始動か負荷始動かによってエンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なることに対して、自立始動か負荷始動かに合わせて燃料Fの性状をより正確に判定することができる。
【0066】
また、本実施例によれば、燃料Fの性状を判定する判定方法を切り替えることとは、その燃料Fの性状の判定に用いるエンジントルクTの閾値である所定トルクT’を自立始動と負荷始動とで切り替えることであるので、例えば自立始動か負荷始動かに合わせて燃料Fの性状を一層適切に判定することができる。
【0067】
また、本実施例によれば、燃料Fの性状を判定する判定方法を切り替えることとは、その燃料Fの性状の判定時機を定める為のトルク低下カウンタCの閾値である所定トルク低下カウンタC’を自立始動と負荷始動とで切り替えることであるので、例えば自立始動か負荷始動かに合わせて燃料Fの性状を一層適切な時機(タイミング)にて判定することができる。
【0068】
また、本実施例によれば、燃料Fの性状が重質燃料であると判定したときには、エンジン18に供給する燃料Fを増加するので、例えば軽質燃料を重質燃料と誤判定することによる燃料噴射量(燃料供給量)FUELの過剰供給を抑制することができる。また、重質燃料を軽質燃料と誤判定することによる失火、エンジン始動不良、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。また、燃料Fの性状が重質燃料であると判定したときに増加する燃料Fの増量分ΔFを自立始動と負荷始動とで切り替えるので、例えば重質燃料であると判定したときに、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジン18に供給する燃料Fを適切に増量することができて、失火、エンジン始動不良、ドライバビリティの悪化を一層適切に抑制することができる。
【0069】
また、本実施例によれば、前記エンジン始動時は、エンジン冷間時の初回始動時であるので、例えばエンジン始動性が低下するエンジン冷間時の初回始動時において、自立始動か負荷始動かに合わせて燃料Fの性状をより正確に判定することができる。よって、例えば重質燃料である場合に、エンジン冷間時の初回始動時において、失火、エンジン始動不良、ドライバビリティの悪化を適切に抑制することができる。
【0070】
また、本実施例によれば、エンジン始動時には第1電動機M1によりエンジン18が回転駆動されるような変速機構14を備える車両10において、自立始動か負荷始動かによってエンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なることに対して、自立始動か負荷始動かに合わせて燃料Fの性状をより正確に判定することができる。
【0071】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0072】
前述の実施例では、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の運転に関わる車両状態を判定する一例として燃料Fの性状を判定する実施例であった。本実施例では、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の運転に関わる車両状態を判定する一例として、エンジントルクTが低下するエンジン18の異常状態を判定する実施例を説明する。つまり、エンジン異常によりエンジントルクTが立ち上がらないような車両状態を判定する場合の実施例である。本実施例では、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の運転に関わる車両状態としてのエンジン18の異常状態を判定し、エンジン18が異常状態であると判定した場合には、触媒62の暖機を許可しない。これにより、例えば点火遅角を伴う触媒暖機が適切にキャンセルされてエンジントルクTを適切に出易くして、エンジン異常にエンジントルクTを立ち上げ易くすることができる。
【0073】
具体的には、前提条件成立判定手段106は、前述の実施例に替えて、例えばエンジン始動時のエンジントルクTを用いてすなわちエンジン始動時のエンジントルクTの低下に基づいてエンジン18の異常状態を判定する為の前提条件が成立したか否かを判定する。この前提条件としては、例えばエンジン18の冷却水温TEMPwが極低温である温度範囲を除く為の予め設定された所定の水温TEMPw’を超えていることである。
【0074】
決定条件成立判定手段108は、前述の実施例に替えて、例えばエンジン始動時のエンジントルクTが所定トルクT”を下回っているか否かを判定する。この所定トルクT”は、例えばエンジン18が異常状態であることを判定する為の予め実験的に求められて設定された一定の閾値である。更に、決定条件成立判定手段108は、例えばエンジン始動時のエンジントルクTが所定トルクT”を下回っていると判定している間は、エンジン18の異常状態を定める為のトルク低下カウンタCEを計時(カウントアップ)し、トルク低下カウンタCEが所定トルク低下カウンタCE’を超えたか否かを判定する。この所定トルク低下カウンタCE’は、例えばエンジン18が異常状態であることを判定する為の予め実験的に求められて設定された閾値である。尚、トルク低下カウンタCEは、エンジン始動時のエンジントルクTが所定トルクT”以上となれば、初期値に戻される(すなわちリセットされる)。
【0075】
車両状態決定手段110は、前述の実施例に替えて、例えば決定条件成立判定手段108によりトルク低下カウンタCEが所定トルク低下カウンタCE’を超えたと判定された場合には、エンジン18が異常状態であると決定する。つまり、車両状態決定手段110は、トルク低下カウンタCEが所定トルク低下カウンタCE’を超えた場合には、エンジン異常判定フラグをオン(ON)とする。
【0076】
ハイブリッド制御手段102は、例えば車両状態決定手段110によりエンジン異常判定フラグがオンとされた場合には、触媒62の暖機を不許可とし、触媒62の暖機に伴って実行する点火遅角の為の点火装置56への点火信号の出力を禁止する。
【0077】
ところで、エンジン始動状態が自立始動であるときと負荷始動であるときとでは、エンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なる場合がある。エンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なる場合に、エンジン始動が自立始動であるが負荷始動であるかに拘わらず、上記エンジン異常判定に一律の所定トルクT”を用いると、エンジン18の異常状態を誤判定する可能性がある。そうすると、例えばエンジン18が正常状態であるのに触媒暖機が不許可とされて、排ガスを悪化させる恐れがある。
【0078】
そこで、本実施例の電子制御装置100は、例えばエンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに拘わらずエンジン始動時にエンジン18の異常状態をより正確に判定する為に、エンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに基づいて、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の異常状態を判定するときの判定方法を切り替える。例えば、エンジン異常判定に用いる所定トルクT”を自立始動と負荷始動とで切り替えることで、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の異常状態を判定するときの判定方法を切り替える。また、例えばエンジン異常判定に用いる所定トルク低下カウンタCE’を自立始動と負荷始動とで切り替えることで、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の異常状態を判定するときの判定方法を切り替える。
【0079】
より具体的には、決定条件成立判定手段108は、例えばエンジン始動時判定手段104によりエンジン始動が自立始動であると判定された場合には、所定トルクT”として所定トルクT"Aを用いると共に所定トルク低下カウンタCE’として所定トルク低下カウンタCE'Aを用いる一方、エンジン始動時判定手段104によりエンジン始動が負荷始動であると判定された場合には、所定トルクT”として所定トルクT"Bを用いると共に所定トルク低下カウンタCE’として所定トルク低下カウンタCE'Bを用いる。
【0080】
上記所定トルクT"Aや上記所定トルク低下カウンタCE'Aは、例えばエンジン始動が自立始動であるときのエンジン始動時のトルク特性に合わせて予め実験的に求められて設定される車両毎に適合された閾値である。また、上記所定トルクT"Bや上記所定トルク低下カウンタCE'Bは、例えばエンジン始動が負荷始動であるときのエンジン始動時のトルク特性に合わせて予め実験的に求められて設定される車両毎に適合された閾値である。尚、本実施例はエンジン18の異常状態を判定する場合であり、エンジントルクTがより低下した状態を判定する為に、上記所定トルクT"Aや上記所定トルクT"Bは、例えば燃料Fの性状を判定する場合に用いられる前記所定トルクT'Aや前記所定トルクT'Bと比べて、より小さな値に設定される。また、確実にエンジン18の異常状態であることを確定する為に、上記所定トルク低下カウンタCE'Aや上記所定トルク低下カウンタCE'Bは、例えば燃料Fの性状を判定する場合に用いられる前記所定トルク低下カウンタC'Aや前記所定トルク低下カウンタC'Bと比べて、より大きな値に設定される。
【0081】
図9は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわちエンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに拘わらずエンジン始動時にエンジン18の異常状態をより正確に判定する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図9は、図7のフローチャートに相当する別の実施例である。また、図10は、図9のフローチャートに示す制御作動に対応するタイムチャートである。
【0082】
図9において、先ず、エンジン始動時判定手段104に対応するSB10において、例えばエンジン18の運転が停止している車両停止時或いはモータ走行時にエンジン始動制御が実行されているエンジン始動時であるか否かが判定される。このSB10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じくエンジン始動時判定手段104に対応するSB20において、例えば上記SB10にて実行中であると判断されたエンジン始動が自立始動と負荷始動との何れであるかが判定される(図10のt0時点)。このSB20にてエンジン始動が自立始動であると判定された場合は前提条件成立判定手段106に対応するSB30において、例えばエンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の異常状態を判定する為の前提条件が成立したか否かが判定される。このSB30の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は決定条件成立判定手段108に対応するSB40において、例えば所定トルクT”として自立始動時の所定トルクT"Aが用いられ、エンジン始動時のエンジントルクTがその所定トルクT'Aを下回っているか否かが判定される(図10のt0時点以降)。このSB40の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく決定条件成立判定手段108に対応するSB50において、例えば所定トルク低下カウンタCE’として自立始動時の所定トルク低下カウンタCE'Aが用いられ、トルク低下カウンタCEがその所定トルク低下カウンタCE'Aを超えたか否かが判定される(図10のt1時点以降)。このSB50の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は車両状態決定手段110及びハイブリッド制御手段102に対応するSB60において、例えばエンジン異常判定フラグがオン(ON)とされる(図10のt2時点)。また、触媒62の暖機が不許可とされ、その触媒62の暖機に伴って実行する点火遅角が禁止される(図10のt2時点以降)。
【0083】
一方で、上記SB20にてエンジン始動が負荷始動であると判定された場合は前提条件成立判定手段106に対応するSB70において、例えばエンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の異常状態を判定する為の前提条件が成立したか否かが判定される。このSB70の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は決定条件成立判定手段108に対応するSB80において、例えば所定トルクT”として負荷始動時の所定トルクT"Bが用いられ、エンジン始動時のエンジントルクTがその所定トルクT"Bを下回っているか否かが判定される(図10のt0時点以降)。このSB80の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は同じく決定条件成立判定手段108に対応するSB90において、例えば所定トルク低下カウンタCE’として負荷始動時の所定トルク低下カウンタCE'Bが用いられ、トルク低下カウンタCEがその所定トルク低下カウンタCE'Bを超えたか否かが判定される(図10のt1’時点以降)。このSB90の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は車両状態決定手段110及びハイブリッド制御手段102に対応するSB100において、例えばエンジン異常判定フラグがオン(ON)とされる(図10のt2’時点)。また、触媒62の暖機が不許可とされ、その触媒62の暖機に伴って実行する点火遅角が禁止される(図10のt2’時点以降)。
【0084】
図10において、エンジン始動が負荷始動(実線)である場合と、エンジン始動が自立始動(二点鎖線)である場合との何れにおいても、エンジン18が正常状態である場合には触媒暖機が不許可とされることなく適切にエンジン18が始動させられ、またエンジン18が異常状態である場合にはそれぞれ適切なタイミングにてエンジン異常判定されて触媒暖機が不許可とされ、適切にエンジン18が始動させられる。
【0085】
上述のように、本実施例によれば、エンジン18の始動状態が自立始動か負荷始動かに基づいて、エンジン始動時のエンジントルクTを用いてエンジン18の運転状態に関わる車両状態としてのエンジン18の異常状態を判定するときの判定方法が切り替えられるので、例えば自立始動か負荷始動かによってエンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なることに対して、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジン18の異常状態をより正確に判定することができる。
【0086】
また、本実施例によれば、エンジン18の異常状態を判定する判定方法を切り替えることとは、そのエンジン18の異常状態の判定に用いるエンジントルクTの閾値である所定トルクT”を自立始動と負荷始動とで切り替えることであるので、例えば自立始動か負荷始動かに合わせてエンジン18の異常状態を一層適切に判定することができる。
【0087】
また、本実施例によれば、エンジン18の異常状態を判定する判定方法を切り替えることとは、エンジン18の異常状態の判定時機を定める為のトルク低下カウンタCEの閾値である所定トルク低下カウンタCE’を自立始動と負荷始動とで切り替えることであるので、例えば自立始動か負荷始動かに合わせてエンジン18の異常状態を一層適切な時機(タイミング)にて判定することができる。
【0088】
また、本実施例によれば、エンジン18が異常状態であると判定したときには、触媒62の暖機を許可しないので、例えばエンジン18の異常状態の誤判定による触媒暖機の不許可(キャンセル)を適切に抑制することができる。また、例えばエンジン18の異常状態がより正確に判定されることで、例えば点火遅角を伴う触媒暖機が適切にキャンセルされてエンジントルクTを適切に出易くすることができる。
【0089】
また、本実施例によれば、前記エンジン始動時は、エンジン18の初回始動時であるので、例えばエンジン始動性が低下する初回始動時において、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジン18の異常状態をより正確に判定することができる。よって、例えばエンジン18の初回始動時において、エンジン18の異常状態の誤判定による触媒暖機のキャンセルを適切に抑制することができる。
【0090】
また、本実施例によれば、エンジン始動時には第1電動機M1によりエンジン18が回転駆動されるような変速機構14を備える車両10において、自立始動か負荷始動かによってエンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なることに対して、自立始動か負荷始動かに合わせてエンジン18の異常状態をより正確に判定することができる。
【0091】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0092】
例えば、前述の実施例では、本発明が適用される車両10を構成する動力伝達装置として電気式無段変速機である変速機構14を例示したが、エンジン18の始動状態として自立始動と負荷始動とがあり、その自立始動と負荷始動とに因ってエンジン始動時のエンジントルクTの出方が異なるような車両であれば本発明は適用され得る。
【0093】
また、前述の実施例では、エンジン始動時として、エンジン冷間時の初回始動時や単なる初回始動時を例示したが、これに限らず、例えば車両電源投入後に繰り返し実行されるエンジン始動時であっても本発明は適用され得る。
【0094】
また、前述の実施例では、エンジン18の異常状態を判定したときには、触媒暖機を不許可にしたが、これに限らず、例えばエンジン18を停止させるような場合であっても本発明は適用され得る。
【0095】
また、前述の実施例では、図6に示すように、自立始動の方が負荷始動に比べて、エンジン始動時のエンジントルクTの落ち込みが大きくなるような態様を例示したが、必ずしもこのような態様となるわけではなく、車両10によっては、負荷始動の方が自立始動に比べて、エンジン始動時のエンジントルクTの落ち込みが大きくなる場合もある。その為、前述したように、各判定閾値(例えば所定トルクT’、所定トルク低下カウンタC’)や判定時に用いる値(例えば燃料Fの増量分ΔF)は、車両毎に適合された値が設定される。
【0096】
また、前述の実施例では、変速機構14は差動機構として遊星歯車装置26を備えていたが、その遊星歯車装置26に替えて、例えばエンジン18によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び出力歯車28に作動的に連結された差動歯車装置を差動機構として備えるものであっても良い。また、遊星歯車装置26はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであっても良い。
【0097】
また、前述の実施例においては、第2電動機M2は出力歯車28に直接的に連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていても良い。
【0098】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0099】
10:車両
14:変速機構(電気式無段変速機)
18:エンジン
26:遊星歯車装置(差動機構)
52:排気管
62:触媒
100:電子制御装置(制御装置)
F:燃料
M1:第1電動機(差動用電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン始動時にエンジンの運転に関わる車両状態を判定する車両の制御装置であって、
前記エンジン始動時のエンジントルクを用いて前記車両状態を判定するものであり、
前記エンジンの始動状態が自立始動か負荷始動かに基づいて、前記車両状態を判定する判定方法を切り替えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両状態を判定する判定方法を切り替えることとは、該車両状態の判定に用いる前記エンジントルクの閾値を前記自立始動と前記負荷始動とで切り替えることであることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両状態を判定する判定方法を切り替えることとは、該車両状態の判定時機を定める為のカウンタの閾値を前記自立始動と前記負荷始動とで切り替えることであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両状態とは、前記エンジンに供給される燃料の性状であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記燃料の性状が重質燃料であると判定したときには、前記エンジンに供給する燃料を増加するものであり、
前記燃料の性状が重質燃料であると判定したときに増加する該燃料の増量分を前記自立始動と前記負荷始動とで切り替えるものであることを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記車両状態とは、前記エンジントルクが低下する前記エンジンの異常状態であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記エンジンが異常状態であると判定したときには、該エンジンの排気管に備えられた触媒の暖機を許可しないものであることを特徴とする請求項6に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記エンジン始動時は、エンジン冷間時の初回始動時であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記自立始動は、前記エンジンの自立運転の為の比較的小さなスロットル弁開度でのエンジン始動であり、
前記負荷始動は、前記エンジンの負荷運転の為の比較的大きなスロットル弁開度でのエンジン始動であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記車両は、前記エンジンに動力伝達可能に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された差動用電動機とを有し該差動用電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式無段変速機を備えており、
前記エンジン始動時には、前記差動用電動機により前記エンジンが回転駆動されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−7521(P2012−7521A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143108(P2010−143108)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】