説明

車両の定速走行制御システム

【課題】 定速走行制御状態で走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、一定速走行機能を損なうことなく、エネルギー消費率の向上と、トルク変動ショックの抑制と、を達成することができる車両の定速走行制御システムを提供すること。
【解決手段】定速走行制御手段を備えた車両の定速走行制御システムにおいて、自車の走行ルート上での走行抵抗の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域を予め設定するトルク制御中断領域設定手段を設け、前記定速走行制御手段は、定速走行制御中、自車が設定されたトルク制御中断領域内に入ると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を中断し、自車が設定されたトルク制御中断領域を抜けると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を再開する手段とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定速走行制御中、走行抵抗の変動に対し、動力源の出力トルクを増減補正する出力トルク補正制御により設定車速を維持する車両の定速走行制御システムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、一定速制御状態で道路勾配や強風等の走行抵抗に変動が生じた際は、走行抵抗に応じ出力トルクを略一定に保つように設定車速を可変制御することで、自然の交通の流れにのった走行ができ、バッテリ等を経済的かつ長持ちさせることのできる電気自動車の速度制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−47104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の電気自動車の速度制御装置にあっては、出力トルクの変動量に上下限を設定し、この範囲内で設定車速に補正を加えるようにしているため、ドライバーが希望する設定速度にセットすると、その設定速度を記憶し、アクセルペダル等の操作を要さず、車両を自動的に一定速度で走行させるという定速走行制御システムの基本機能である一定速走行機能が大幅に損なわれる、という問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、定速走行制御状態で走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、一定速走行機能を損なうことなく、エネルギー消費率の向上と、トルク変動ショックの抑制と、を達成することができる車両の定速走行制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、定速走行制御中、走行抵抗の変動に対し、動力源の出力トルクを増減補正する出力トルク補正制御により設定車速を維持する定速走行制御手段を備えた車両の定速走行制御システムにおいて、
自車の走行ルート上での走行抵抗の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域を予め設定するトルク制御中断領域設定手段を設け、
前記定速走行制御手段は、定速走行制御中、自車が設定されたトルク制御中断領域内に入ると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を中断し、自車が設定されたトルク制御中断領域を抜けると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を再開することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明の車両の定速走行制御システムにあっては、トルク制御中断領域設定手段において、自車の走行ルート上での走行抵抗の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域が予め設定される。そして、定速走行制御中、定速走行制御手段において、自車が設定されたトルク制御中断領域内に入ると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御が中断され、自車が設定されたトルク制御中断領域を抜けると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御が再開される。
すなわち、定速走行制御状態で走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、トルク制御中断領域内において定速走行制御が一時的に中断されるが、トルク制御中断領域は、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定される特定領域に設定されることで、一定速走行機能を損なうことがない。
そして、動力源にて出力トルクを増減させるタイミングに対し、トルクが駆動輪に伝達されて車速上昇や車速低下としてあらわれるタイミングには応答遅れがあるため、走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、走行抵抗の変動に対し動力源の出力トルク補正制御を行う場合に比べ、制御中断により出力トルク補正制御を行わない場合の方が無駄な出力トルクの増大補正分を削減できることで、エネルギー消費率の向上が図られる。
さらに、例えば、走行抵抗の変動に対し動力源の出力トルク補正制御を行うと、走行中における出力トルクの増大補正や減少補正により、乗員に違和感を与えるようなトルク変動ショックが発生する。これに対し、本来、出力トルク補正制御が行われるべきトルク制御中断領域でありながら出力トルク補正制御を行わないため、乗員に違和感を与えるようなトルク変動ショックを抑制することができる。
この結果、定速走行制御状態で走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、一定速走行機能を損なうことなく、エネルギー消費率の向上と、トルク変動ショックの抑制と、を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の車両の定速走行制御システムを実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の定速走行制御システムが適用されたハイブリッド車両(車両の一例)を示す全体システム図である。なお、図1において、強電系は細破線、弱電系は細実線、動力系は太実線、油圧回路は太破線にて示す。
【0009】
実施例1のハイブリッド車両は、図1に示すように、CPU101と、補助バッテリ102と、ブレーキアクチュエータ201と、機械ブレーキ202と、車重センサ203と、強電バッテリ301と、インバータ302と、モータ303と、発電機304と、エンジン305と、動力分割機構306と、アクセルセンサ401と、ブレーキセンサ402と、車間センサ404と、GPS405と、舵角センサ406と、を備えている。
【0010】
前記CPU101は、強電バッテリ301の状態をモニタし、バッテリSOCや温度や劣化状態に応じて入出力可能電力量を算出し、これを基にインバータ302を制御することにより、モータ303(フロント駆動用)と発電機304を動作させると共に、エンジン305を制御する(モータ−エンジン間の駆動力配分含む)。
また、CPU101は、モータ303による回生制動力を考慮し、機械ブレーキ202により発生する制動力演算指令値(前後制動力配分を含む)をブレーキアクチュエータ201へと送信する。
CPU101は、車間センサ404からの信号により、自車と前方車両(障害物)との車間距離と大きさを収集し、追突可能性程度を把握し、回避時の制御へと適用する。
なお、自車速度は、モータ303の回転数により把握することを基本とする。
最後に、路面μ推定方法は、モータ303とエンジン305へと指示する駆動トルクにより推定される車体速度と、モータ303の回転数検出値(車輪速度)との差異より求めることとする(一般的な手段であり、特に条件を規定する必要は無い。特殊な路面μ推定ロジックは不要である。)。
【0011】
前記補助バッテリ102は、CPU101の動作電源を提供する役目を有する。本システムでは、強電バッテリ301を電源としたDC/DCコンバータ403により電力を供給することとする。
【0012】
前記ブレーキアクチュエータ201は、ブレーキセンサ402により検出されるドライバーの踏み込み(ストローク)量をベースに、CPU101により演算された機械ブレーキ202で発生させるべき摩擦制動力演算指令値を受信し、それに応じ、機械ブレーキ202に対し必要な油圧をかける。
【0013】
前記機械ブレーキ202は、ブレーキアクチュエータ201により発生された油圧に応じ、制動力を発生させる。
【0014】
前記車重センサ203は、本制御における必要トルク設定値を自車重量に応じて補正する際に活用する。
【0015】
前記強電バッテリ301は、モータ303に対し、インバータ302を経由して電力を供給することで車両走行をアシストすると共に、モータ303及び発電機304が発電した電力をインバータ302を経由して回収する役目を有する。
【0016】
前記インバータ302は、CPU101により直接制御されている。エンジン305の発生トルク及び回転数に応じて強電バッテリ301の電気エネルギーをモータ303へ供給すること、及び発電機304を動作させて発生した電気エネルギーを強電バッテリ301へと戻す役目を有する。なお、モータ303と発電機304とエンジン305は、遊星歯車機構(動力分割機構306に内蔵)に直結しているため、トルク及び回転数のバランスを保つように制御しないと車両を正常に作動させることができない。
【0017】
前記モータ303は、車速が低い場合は単独で駆動トルクを発生させる。また、車速が高い場合は、エンジン305の駆動トルクをアシストしている。さらに、減速時は発電作用(回生制動)することにより電気エネルギーを発生させ、これをインバータ302を経由して強電バッテリ301へ戻す役目を有する。
【0018】
前記発電機304は、ハイブリッド電気自動車は基本的にスタータを持たない。本システムを適用した車両始動時は、強電バッテリ301から電力を供給し、モータとして動作することでエンジン305の始動をサポートする。通常走行時は、モータ303とエンジン305とをバランスさせることで電気エネルギーを発生(発電)し、これを強電バッテリ301へ戻す。時には直接、モータ303へ供給することにより、急激な加速に対応することも可能である。
【0019】
前記エンジン305は、CPU101により直接制御されている。具体的には、車速が高い場合、車両駆動のためにトルクを発生させている(車速が低い場合はモータ走行となるため、制御不要:強いて挙げれば起動させない制御を適用している)。
【0020】
前記動力分割機構306は、遊星歯車機構を有し、キャリアにはエンジン305、リングギヤにはモータ303、サンギヤには発電機304が直接接続している。従来システムのトランスミッション相当も内部に構成されている。
【0021】
前記アクセルセンサ401は、ドライバーが加速時に踏み込んだアクセルペダルストローク量をCPU101へ送信する。
【0022】
前記ブレーキセンサ402は、ドライバーが減速時に踏み込んだブレーキペダルストローク量をCPU101へ送信する。
【0023】
前記DC/DCコンバータ403は、強電バッテリ301からのエネルギーを12V程度へと変換し、補助バッテリ102へと供給する。すなわち、従来のエンジン車両におけるオルタネータと同様の機能を有する。
【0024】
前記車間センサ404は、自車前方車両(または障害物)との距離を、レーダーなどを活用して収集し、それにより得た情報をCPU101へと入力する。
【0025】
前記GPS405(Global Positioning System)は、自車走行ルート上の信号、勾配変化ポイント、勾配継続距離、勾配程度などの情報を検出し、それにより得た情報をCPU101へと送信する。
【0026】
前記舵角センサ406は、ドライバーのステアリング操作により設定された舵角を検出し、旋回中であるか否かを判断する際に活用する。検出値はCPU101へと送信される。
【0027】
図2は実施例1のCPU101にて実行される定速走行制御処理の流れを示すフローチャートであり、以下、各ステップについて説明する(定速走行制御手段)。
【0028】
ステップS11では、ドライバーが希望する設定速度にセットし、その設定速度を記憶させ、アクセルペダル等の操作を要さず、車両を自動的に一定速度で走行させる定速走行制御中であるか否かを判断し、YESの場合はステップS12へ移行し、NOの場合はステップS11での判断を繰り返す。
ここで、定速走行制御中は、基本的に、路面勾配や路面凹凸や風等の走行抵抗の変動に対し、エンジン305とモータ303の少なくとも一方の出力トルクを増減補正する出力トルク補正制御により設定車速が維持される。
【0029】
ステップS12では、ステップS11での定速走行制御中であるとの判断に続き、GPS405を活用し、設定した走行ルート上にある勾配ポイントと、各勾配ポイントの勾配程度、勾配継続距離を把握し、勾配程度と勾配継続距離とから設定する勾配レベルの一例(図3)に基づき勾配レベルを特定し、ステップS13へ移行する(勾配レベル特定手段)。
ここで、勾配レベルは、図3に示すように、勾配程度(%)が大きいほど、また、勾配継続距離[km]が長いほど勾配レベルが高いと特定される。
【0030】
ステップS13では、ステップS12での勾配レベルの特定に続き、自車の走行ルート上での路面勾配の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域を予め設定し、ステップS14へ移行する(トルク制御中断領域設定手段)。
ここで、自車の走行ルート上で走行抵抗が変動するトルク制御中断領域として、上り勾配あるいは下り勾配の途中から、勾配変化点を経過し、下り勾配あるいは上り勾配へと移行する勾配パターンの領域が設定される。
そして、トルク制御中断領域は、基本的に、トルク制御中断を開始する開始地点PSから勾配変化点PPまでのトルク制御中断領域の前半部分を、勾配変化点PPにて車速が許容車速の下限値(上り勾配)あるいは上限値(下り勾配)となる距離に設定する。また、勾配変化点PPからトルク制御中断を終了する終了地点PEまでのトルク制御中断領域の後半部分を、トルク制御中断の終了地点PEにて車速が許容車速の上限値(下り勾配)あるいは下限値(上り勾配)となる距離に設定する。
具体的には、図4の設定車速と勾配レベルとの関係に応じたトルク制御中断領域設定の一例に示すように、勾配レベルが高いほど設定されるトルク制御中断領域を短い距離に設定し、定速走行制御での設定車速[km/h]あるいは要求トルク[kW]が高いほど設定されるトルク制御中断領域を長い距離に設定する。
これは、勾配レベルが高いほど、出力トルク補正の中断による車速変化速度が速まり、許容車速の上限値や下限値に到達する距離が短くなることによる。一方、設定車速または要求トルクが高いほど、慣性エネルギーが高いことで車速変化速度が遅くなり、許容車速の上限値や下限値に到達する距離が長くなることによる。
【0031】
ステップS14では、ステップS13でのトルク制御中断領域の設定に続き、推定された路面μと、車重センサ203からの自車重量とに基づき、設定されたトルク制御中断領域を補正し、ステップS15へ移行する。
ここで、設定されたトルク制御中断領域の補正は、図5のトルク制御中断領域設定に対する路面μによる補正の一例に示すように、路面μが低いほど車速変化速度が遅くなり、許容車速の上限値や下限値に到達する距離は加速的に長くなるため、路面μが低μであるほど長い距離に補正する。
また、図6のトルク制御中断領域設定に対する自車重量による補正の一例に示すように、自車重量[kg]が高いほど車速変化速度が遅くなり、許容車速の上限値や下限値に到達する距離は長くなるため、空車時を補正ゲイン100%とし、自車重量[kg]が高くなるほど長い距離に補正する。
【0032】
ステップS15では、ステップS14でのトルク制御中断領域補正に続き、上り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク増大分に相当するトルク低減代Aと、下り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク減少分に相当するトルク増大代Bと、のトルク差分(A−B)を演算し、ステップS16へ移行する(トルク差分演算手段)。
ここで、トルク差分(A−B)は、設定したトルク制御中断領域にて定速走行制御を中断した場合のエネルギー消費率の向上代をあらわす。
【0033】
ステップS16では、ステップS15でのトルク差分の演算に続き、トルク差分(A−B)が規定値以上であるか否かを判断し、(A−B)≧規定値でYESの場合には、ステップS17以降のステップに進んで、定速走行制御を中断する本制御則を適用し、(A−B)<規定値でNOの場合には、ステップS11へ戻り、定速走行制御を中断する本制御を非適用とし、通常のトルク補正制御による定速走行制御を継続する。
【0034】
ステップS17では、ステップS16でのトルク差分(A−B)が規定値以上であるとの判断に続き、GPS405からの情報を活用し、自車がトルク制御中断領域の開始点PSに到達したか否かを判断し、YESの場合はステップS18へ移行し、NOの場合はステップS17での判断を繰り返す。
ここで、設定されたトルク制御中断領域の開始点PSは、勾配変化点PPからトルク制御中断領域の前半部分による設定距離だけ手前側に離れた走行ルート上の地点をいい、設定されたトルク制御中断領域の終了点PEは、勾配変化点PPからトルク制御中断領域の後半部分による設定距離だけ先側に離れた走行ルート上の地点をいう。
【0035】
ステップS18では、ステップS17での自車がトルク制御中断領域の開始点PSに到達したとの判断に続き、出力トルク補正制御による定速走行制御を中断し、ステップS19へ移行する。
【0036】
ステップS19では、ステップS18での定速走行制御中断に続き、自車がトルク制御中断領域の終了点PEに到達したか否かを判断し、YESの場合はステップS20へ移行し、NOの場合はステップS18での定速走行制御中断を継続する。
【0037】
ステップS20では、ステップS19での自車がトルク制御中断領域の終了点PEに到達したとの判断に続き、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲内であるか否かを判断し、YESの場合はステップS23へ移行し、NOの場合はステップS21へ移行する。
【0038】
ステップS21では、ステップS20での終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲を逸脱しているとの判断に続き、設定された逸脱許容時間を経過しているか否かを判断し、YESの場合はステップS22へ移行し、NOの場合はステップS21の逸脱許容時間の経過判断を繰り返す。
ここで、逸脱許容時間は、図7の設定車速に応じた許容時間との関係の一例に示すように、設定車速が高いほど長い時間に設定される。これは、許容車速からの逸脱している車速幅が同じである場合、設定車速が高いほど許容車速に収束するのに長時間を要するためである。
【0039】
ステップS22では、ステップS21での逸脱許容時間を経過しているとの判断に続き、その時の車速が設定車速の許容範囲内であるか否かを判断し、YESの場合はステップS23へ移行し、NOの場合はステップS24へ移行する。
【0040】
ステップS23では、ステップS20またはステップS22での車速が設定車速の許容範囲内であるとの判断に続き、定速走行制御を再開し、ステップS11へ戻る。
【0041】
ステップS24では、ステップS22での逸脱許容時間を待った後の車速が設定車速の許容範囲から逸脱しているとの判断に続き、定速走行制御をキャンセルし、ステップS11へ戻る。
【0042】
次に、作用を説明する。
従来、一定速制御状態で道路勾配や強風等の走行抵抗に変動が生じた際は、走行抵抗に応じ出力トルクを略一定に保つように設定車速を可変制御する電気自動車の速度制御装置が知られている。
しかし、走行抵抗に変動が生じるあらゆる走行状況での制御適用を意図し、出力トルクの変動量に上下限を設定し、この範囲内で設定車速に補正を加えるようにしているため、定速走行中であって、走行抵抗に変動が生じる際、出力トルクの変動は抑えられるものの、出力トルクの変動を制限するほど設定車速の変動幅が拡大することになり、定速走行制御システムの基本機能である一定速走行機能が大幅に損なわれる。
【0043】
これに対し、例えば、上り勾配から下り勾配へと変化する道路で定速走行制御を実行すると、走行抵抗が大となる上り勾配では車速が低下することから、動力源の出力トルクを増大補正する。また、走行抵抗が小となる下り勾配では車速が上昇することから、動力源の出力トルクを減少補正する。この出力トルクの増減補正により設定車速が維持される。
しかし、定速走行制御を実行することなく、上り勾配から下り勾配へと変化する道路でアクセル操作量を一定に保ったままにすると、上り勾配では走行抵抗が大きくなることで車速が低下し、下り勾配では走行抵抗が小さくなることで低下した車速が再び元の車速域まで回復するという現象がみられる。なお、下り勾配から上り勾配へと変化する道路においても同様の現象がみられる。
【0044】
本発明者は、出力トルク補正制御を行う定速走行制御システムにおいて、出力トルク補正制御を中断しても車速が許容車速内に収まるような特定の勾配パターン領域では、勾配をうまく使って出力トルク補正制御を一時的に中断することにより、燃費向上等のエネルギー消費率の向上を狙えるという点に着目した。
【0045】
上記着目点にしたがって、本発明では、車両の定速走行制御システムにおいて、自車の走行ルート上での走行抵抗の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域を予め設定し、定速走行制御中、自車が設定されたトルク制御中断領域内に入ると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を中断し、自車が設定されたトルク制御中断領域を抜けると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を再開する手段を採用した。
【0046】
この結果、本発明では、定速走行制御状態で走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、一定速走行機能を損なうことなく、エネルギー消費率の向上と、トルク変動ショックの抑制と、を達成することができる。
【0047】
すなわち、定速走行制御状態で走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、トルク制御中断領域内において定速走行制御が一時的に中断されるが、トルク制御中断領域は、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定される特定領域に設定されることで、一定速走行機能を損なうことがない。
【0048】
そして、動力源にて出力トルクを増減させるタイミングに対し、トルクが駆動輪に伝達されて車速上昇や車速低下としてあらわれるタイミングには応答遅れがあるため、走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、走行抵抗の変動に対し動力源の出力トルク補正制御を行う場合に比べ、制御中断により出力トルク補正制御を行わない場合の方が無駄な出力トルクの増大補正分を削減できることで、エネルギー消費率の向上が図られる。
【0049】
さらに、例えば、走行抵抗の変動に対し動力源の出力トルク補正制御を行うと、走行中における出力トルクの増大補正や減少補正により、乗員に違和感を与えるようなトルク変動ショックが発生する。これに対し、本来、出力トルク補正制御が行われるべきトルク制御中断領域でありながら出力トルク補正制御を行わないため、乗員に違和感を与えるようなトルク変動ショックを抑制することができる。
【0050】
以下、図2〜図8に基づいて、実施例1のハイブリッド車両の定速走行制御システムにおける、[トルク制御中断領域の設定作用]、[トルク制御中断制御適用・非適用の判断作用]、[トルク制御中断からの定速走行制御の再開作用]、[トルク制御中断制御の適用時と非適用時の比較作用]、の各作用について、以下説明する。
【0051】
[トルク制御中断領域の設定作用]
ドライバーが希望する設定速度にセットし、その設定速度を記憶させ、アクセルペダル等の操作を要さず、車両を自動的に一定速度で走行させる定速走行制御中、トルク制御中断領域を設定する処理は、図2のフローチャートにおいて、ステップS11→ステップS12→ステップS13→ステップS14へと進む流れにより行われる。
【0052】
すなわち、ステップS12では、ステップS11での定速走行制御中であるとの判断に続き、GPS405を活用し、設定した走行ルート上にある勾配ポイントと、各勾配ポイントの勾配程度、勾配継続距離を把握し、勾配程度と勾配継続距離とから設定する勾配レベルの一例(図3)に基づき勾配レベルが特定される。次のステップS13では、自車の走行ルート上での路面勾配の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域が予め設定される。次のステップS14では、推定された路面μと、車重センサ203からの自車重量とに基づき、設定されたトルク制御中断領域が補正される。
このトルク制御中断領域の設定では、
・トルク制御中断領域は、上→下または下→上の勾配パターン領域とする。
・トルク制御中断領域の設定距離は、原則的に許容車速の上下限値により決める。
・トルク制御中断領域の距離は、基本的に勾配レベルと設定車速等により設定する。
・トルク制御中断領域の設定距離は、路面μと自車重量により補正する。
を特徴とする。以下、各特徴点について説明する。
【0053】
実施例1の定速走行制御システムにおいて、トルク制御中断領域設定手段(ステップS13)は、自車の走行ルート上で走行抵抗が変動するトルク制御中断領域として、上り勾配あるいは下り勾配の途中から、勾配変化点を経過し、下り勾配あるいは上り勾配へと移行する勾配パターンの領域を設定する。
例えば、自車の走行ルート上で走行抵抗が変動するトルク制御中断領域として、現時点位置での強さや方向の風情報に基づきトルク制御中断領域を設定しても、トルク制御中断領域に到達した時点では風情報が変化してしまう可能性が高く、領域設定が曖昧となる。また、上り勾配が続く領域を設定すると、車速の変化が車速低下のみの一方向変化となるため、短いトルク制御中断領域の設定となってしまう。
これに対し、実施例1では、上記のように、トルク制御中断領域は、上→下または下→上の勾配パターン領域とするため、判断時期と実行時期とに時間的なズレがあつても変動しない的確な勾配情報に基づき、上りと下りの勾配を合わせた距離の長い領域をトルク制御中断領域として設定することができる。
【0054】
実施例1の定速走行制御システムにおいて、トルク制御中断領域設定手段(ステップS13)は、トルク制御中断を開始する開始地点PSから勾配変化点PPまでのトルク制御中断領域の前半部分を、勾配変化点PPにて車速が許容車速の下限値(上り勾配)あるいは上限値(下り勾配)となる距離に設定すると共に、勾配変化点PPからトルク制御中断を終了する終了地点PEまでのトルク制御中断領域の後半部分を、トルク制御中断の終了地点PEにて車速が許容車速の上限値(下り勾配)あるいは下限値(上り勾配)となる距離に設定する。
例えば、トルク制御中断領域の設定距離を、許容車速の上下限値までに余裕のある狭い車速域に収まるように設定した場合には、車速変化は小さく抑えられるが、トルク制御中断領域の設定距離が短くなる。一方、トルク制御中断領域の設定距離を、許容車速の上下限値を超える広い車速域を容認するように設定した場合には、トルク制御中断領域の設定距離が長くなるが、車速変化が大きくなる。
これに対し、実施例1では、上記のように、トルク制御中断領域の設定距離は、原則的に許容車速の上下限値により決めるため、車速変化を許容車速内程度に抑えつつ、トルク制御中断領域の設定距離を最大限に確保することができる。
【0055】
実施例1の定速走行制御システムにおいて、設定した走行ルート上にある勾配ポイントと、各勾配ポイントの勾配程度、勾配継続距離を把握し、勾配程度(%)が大きいほど、また、勾配継続距離[km]が長いほど勾配レベルが高いと特定する勾配レベル特定手段(ステップS12)を設け、前記トルク制御中断領域設定手段(ステップS13)は、勾配レベルが高いほど設定されるトルク制御中断領域を短い距離に設定し、定速走行制御での設定車速[km/h]あるいは要求トルク[kW]が高いほど設定されるトルク制御中断領域を長い距離に設定する。
例えば、勾配レベルを、勾配程度のみにより、あるいは、勾配継続距離のみにより定義した場合、トルク制御中断による車速の変化速度を正確に把握できない。また、同じ勾配レベルであっても自車の慣性エネルギーが高いほど車速の変化が小さいままでの走行距離が伸びる。
これに対し、実施例1では、上記のように、トルク制御中断領域の距離は、基本的に勾配レベルと設定車速等により設定するため、トルク制御中断による車速の変化速度を、勾配程度と勾配継続距離による勾配レベルと、自車の慣性エネルギーをあらわす設定車速あるいは要求トルクと、により正確に把握し、高い車速変化推定精度によりトルク制御中断領域の距離を設定することができる。
【0056】
実施例1の定速走行制御システムにおいて、前記トルク制御中断領域設定手段(ステップS14)は、設定されたトルク制御中断領域を、推定した走行ルートの路面μが低いほど長い距離に補正する。
例えば、勾配レベルで設定車速も同じ状況を想定した場合、走行ルートの路面μが低いほど慣性走行により車速変化速度が遅くなり、許容車速の上限値や下限値に到達する距離は加速的に長くなる。
これに対し、実施例1では、上記のように、設定されたトルク制御中断領域を、推定した走行ルートの路面μが低いほど長い距離に補正するため、走行ルートの路面μの変化にかかわらず、適正な設定距離によるトルク制御中断領域とすることができる。
【0057】
実施例1の定速走行制御システムにおいて、前記トルク制御中断領域設定手段(ステップS14)は、設定されたトルク制御中断領域を、検出した自車重量が高いほど長い距離に補正する。
例えば、勾配レベルで設定車速も同じ状況を想定した場合、自車重量が高いほど車速変化速度が遅くなり、許容車速の上限値や下限値に到達する距離は長くなる。
これに対し、実施例1では、上記のように、設定されたトルク制御中断領域を、検出した自車重量が高いほど長い距離に補正するため、自車重量の高低にかかわらず、適正な設定距離によるトルク制御中断領域とすることができる。
【0058】
[トルク制御中断制御適用・非適用の判断作用]
トルク制御中断領域が設定されると、図2のフローチャートにおいて、ステップS14から、ステップS15へと進み、ステップS15では、上り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク増大分に相当するトルク低減代Aと、下り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク減少分に相当するトルク増大代Bと、のトルク差分(A−B)を演算する。
そして、次のステップS16では、トルク差分(A−B)が規定値以上であるか否かを判断し、(A−B)≧規定値でYESの場合には、ステップS17以降のステップに進んで、定速走行制御を中断する本制御則を適用し、(A−B)<規定値でNOの場合には、ステップS11へ戻り、定速走行制御を中断する本制御則を非適用とし、通常のトルク補正制御による定速走行制御を継続する。
【0059】
定速走行制御を中断する本制御則適用と判断されると、ステップS17へ進み、ステップS17では、GPS405からの情報を活用し、自車がトルク制御中断領域の開始点PSに到達したか否かを判断を繰り返し、自車がトルク制御中断領域の開始点PSに到達するとステップS18へ進んで、出力トルク補正制御による定速走行制御を中断する。
一方、定速走行制御を中断する本制御則非適用と判断されると、ステップS16からステップS11へ戻り、路面勾配や路面凹凸や風等の走行抵抗の変動に対し、エンジン305とモータ303の少なくとも一方の出力トルクを増減補正する出力トルク補正制御により設定車速が維持される。
【0060】
このように、実施例1では、定速走行制御システムにおいて、トルク差分(A−B)を演算するトルク差分演算手段(ステップS15)を設け、前記定速走行制御手段(図2)は、トルク差分(A−B)が規定値以上である場合(ステップS16→ステップS17)、定速走行制御を中断するし、トルク差分(A−B)が規定値未満である場合(ステップS16→ステップS11)、定速走行制御を継続する。
例えば、トルク制御中断領域を設定しても、この領域は車速が許容車速範囲内に収まるこという観点から設定された領域であり、設定された領域の全ての領域でトルク制御中断制御を適用してもエネルギー消費率が必ずしも向上するとは限らない。つまり、トルク制御中断制御を適用した場合、エネルギー消費率が低下する領域や、仮に向上してもバラツキ範囲程度の僅かな向上代である領域では、逆に、トルク制御中断制御を維持する方が好ましい。
これに対し、実施例1では、上記のように、トルク差分(A−B)が規定値以上である場合にのみ、定速走行制御を中断する本制御則を適用するため、設定したトルク制御中断領域にて定速走行制御を中断した場合にエネルギー消費率が向上することを予め確認した上での本制御則適用となり、定速走行制御の中断により確実にエネルギー消費率の向上を達成することができる。
【0061】
[トルク制御中断からの定速走行制御の再開作用]
定速走行制御の中断が開始されると、図2のフローチャートにおいて、ステップS18のノからステップS19へと進み、ステップS19では、自車がトルク制御中断領域の終了点PEに到達したか否かが判断される。そして、ステップS19にて自車がトルク制御中断領域の終了点PEに到達したと判断されると、ステップS20へ進み、ステップS20では、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲内であるか否かが判断され、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲内である場合には、ステップS23へ進み、定速走行制御がそのまま再開される。
【0062】
一方、ステップS20において、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲を逸脱していると判断されると、ステップS21へ進み、ステップS21では、設定された逸脱許容時間を経過しているか否かが判断される。そして、設定された逸脱許容時間が経過するとステップS22へ進み、ステップS22では、改めてその時の車速が設定車速の許容範囲内であるか否かが判断され、車速が設定車速の許容範囲内である場合には、ステップS23へ進み、ステップS23では、定速走行制御が再開される。ただし、ステップS22にて、逸脱許容時間を待っても車速が設定車速の許容範囲から逸脱したままであると判断された場合には、ステップS24へ進み、ステップS24では、定速走行制御がキャンセルされる。
【0063】
このように、実施例1では、定速走行制御システムにおいて、前記定速走行制御手段(図2)は、自車が走行ルート上でトルク制御中断領域の終了点PEに到達すると(ステップS19)、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲内である場合(ステップS20)、あるいは、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲を逸脱しているが逸脱許容時間の経過を待つことにより(ステップS21)、車速が設定車速の許容範囲内となった場合(ステップS22)、定速走行制御を再開する(ステップS23)。
例えば、トルク制御中断領域の終了点で、車速が設定車速の許容範囲内であるときにのみ定速走行制御を再開し、車速が設定車速の許容範囲を逸脱すると定速走行制御をキャンセルするようにした場合、車速の許容範囲を広い幅に設定しない限り、定速走行制御のキャンセルが頻発してしまう。具体的に、設定車速40km/hとし、車速の許容範囲を設定車速の上下に±2km/hと設定した場合、トルク制御中断領域の終了点で、車速が設定車速の許容範囲を逸脱する確率が高くなる。
これに対し、実施例1では、上記のように、定速走行制御を再開する際、逸脱許容時間の経過を待ち、車速が設定車速の許容範囲内となったか否かの判断を行うようにしたため、車速の許容範囲を狭い幅に設定しつつ、定速走行制御のキャンセルが頻発するのを防止することができる。
【0064】
実施例1では、定速走行制御システムにおいて、前記定速走行制御手段(図2のステップS21)は、前記逸脱許容時間を、定速走行制御での目標車速である設定車速が高いほど長い時間に設定する(図7)。
例えば、許容車速からの逸脱している車速幅が同じである場合、設定車速が高いほど許容車速に収束するのに長時間を要する。このため逸脱許容時間を、平均的な設定車速により固定時間により与えた場合、設定車速が低車速のときには長過ぎて、定速走行制御の再開が遅れるし、設定車速が低車速のときには短すぎて、必要以上に定速走行制御がキャンセルされることになる。
これに対し、実施例1では、上記のように、逸脱許容時間を設定車速が高いほど長い時間に設定するため、適正なタイミングでの定速走行制御の再開と、必要以上の定速走行制御のキャンセル防止と、の両立を達成することができる。
【0065】
[トルク制御中断制御の適用時と非適用時の比較作用]
図8は第1上り勾配路→第1下り勾配路→第2下り勾配路→第2上り勾配路へと変化する走行ルートでのトルク制御中断制御適用例(例1:本提案例)とトルク制御中断制御非適用例(例2:本提案非適用例)での勾配程度・車速・要求トルク・印加トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【0066】
トルク制御中断制御適用例の場合、図8の上部に示すように、第1上り勾配路の途中のトルク制御中断の開始点PSに到達すると(時刻t1)、定速走行制御の中断が開始され、第1上り勾配路から第1下り勾配路へ移行する勾配変化点PPを通過し(時刻t2)、第1下り勾配のトルク制御中断の終了点PEに到達すると(時刻t3)、定速走行制御が再開される。この間の車速をみると、時刻t1から時刻t2までの第1上り勾配路により低下していた車速が、第1下り勾配路に変化することで時刻t2から上昇を開始し、さらに、第1下り勾配路を車両が移動して途中地点に到達すると(時刻t4)、低下していた車速が設定車速まで回復する。
そして、第1下り勾配路から第2下り勾配路への変化点に到達し(時刻t5)、第2下り勾配路の途中のトルク制御中断の開始点PSに到達すると(時刻t6)、定速走行制御の中断が開始され、第2下り勾配路から第2上り勾配路へ移行する勾配変化点PPを通過し(時刻t7)、第2上り勾配路のトルク制御中断の終了点PEに到達すると(時刻t9)、定速走行制御が再開される。この間の車速をみると、時刻t6から時刻t7までの第2下り勾配路により上昇していた車速が、第2上り勾配路に変化することで時刻t7から低下を開始し、さらに、終了点PEより前の途中地点に到達すると(時刻t8)、上昇していた車速が設定車速まで回復する。
【0067】
トルク制御中断制御非適用例の場合、図8の下部に示すように、第1上り勾配路→第1下り勾配路→第2下り勾配路→第2上り勾配路へと変化する走行ルートのうち、第1上り勾配路→第1下り勾配路では、勾配変化点PPを挟み、時刻t1から時刻t2までの間、要求トルク(印加トルク)を増大し、時刻t2から時刻t3'までの間、要求トルク(印加トルク)を減少する。また、第2下り勾配路→第2上り勾配路では、勾配変化点PPを挟み、時刻t5'から時刻t7までの間、要求トルク(印加トルク)を減少し、時刻t7から時刻t9'までの間、要求トルク(印加トルク)を増大する。この出力トルク増減補正制御により、車速を設定車速に維持する。
【0068】
すなわち、トルク制御中断制御非適用例の場合、第1上り勾配路から第1下り勾配路へと移行する勾配路において、走行抵抗に対し動力源の出力トルク補正制御により設定車速を維持するには、車速低下に応じて出力トルクの増大補正をし、設定車速まで車速が上昇した時点で出力トルクの減少補正に移行する。しかし、動力源にて出力トルクを増大させるタイミングに対し、トルクが駆動輪に伝達されて車速上昇としてあらわれるタイミングには応答遅れがあるため、設定車速を上回るような必要以上に長い出力トルクの増大補正となってしまう。したがって、トルク増大分をαとし、トルク減少分をβとすると、トルク差分(α−β)は、(α−β)>0となり、第1上り勾配路から第1下り勾配路へと移行する領域でのエネルギー消費率は、出力トルク増減補正制御を行わない場合よりも悪化する。
【0069】
また、トルク制御中断制御非適用例の場合、第2下り勾配路で走行抵抗に対し動力源の出力トルク補正制御により設定車速を維持するには、車速上昇に応じて出力トルクの減少補正をし、設定車速まで車速が低下した時点で出力トルクの増大補正に移行する。しかし、動力源にて出力トルクを減少させるタイミングに対し、トルクが駆動輪に伝達されて車速低下としてあらわれるタイミングには応答遅れがあるため、設定車速を下回るような必要以上に長い出力トルクの減少補正となり、その後の第2上り勾配路での出力トルクの増大補正では、設定車速まで戻す分と、上り勾配による走行抵抗分とを加えた補正を行う必要がある。したがって、トルク増大分をα'とし、トルク減少分をβ'とすると、トルク差分(α'−β')は、(α'−β')>0となり、第2下り勾配路から第2上り勾配路へと移行する領域でのエネルギー消費率は、出力トルク増減補正制御を行わない場合よりも悪化する。
【0070】
これに対し、トルク制御中断制御適用例の場合、上り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク増大分に相当するトルク低減代Aと、下り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク減少分に相当するトルク増大代Bと、のトルク差分(A−B)が規定値以上のときのみ、定速走行制御を中断するため、第1上り勾配路から第1下り勾配路へと移行する領域でのエネルギー消費率と、第2下り勾配路から第2上り勾配路へと移行する領域でのエネルギー消費率を、出力トルク増減補正制御を行わない場合よりも向上させることができた。
【0071】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の定速走行制御システムにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0072】
(1) 定速走行制御中、走行抵抗の変動に対し、動力源の出力トルクを増減補正する出力トルク補正制御により設定車速を維持する定速走行制御手段を備えた車両の定速走行制御システムにおいて、自車の走行ルート上での走行抵抗の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域を予め設定するトルク制御中断領域設定手段(ステップS12〜ステップS14)を設け、前記定速走行制御手段(図2)は、定速走行制御中、自車が設定されたトルク制御中断領域内に入ると(ステップS17)、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を中断し(ステップS18)、自車が設定されたトルク制御中断領域を抜けると(ステップS19)、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を再開するため(ステップS23)、定速走行制御状態で走行抵抗の変動が生じるルートを走行する際、一定速走行機能を損なうことなく、エネルギー消費率の向上と、トルク変動ショックの抑制と、を達成することができる。
【0073】
(2) 前記トルク制御中断領域設定手段(ステップS13)は、自車の走行ルート上で走行抵抗が変動するトルク制御中断領域として、上り勾配あるいは下り勾配の途中から、勾配変化点を経過し、下り勾配あるいは上り勾配へと移行する勾配パターンの領域を設定するため、判断時期と実行時期とに時間的なズレがあつても変動しない的確な勾配情報に基づき、上りと下りの勾配を合わせた距離の長い領域をトルク制御中断領域として設定することができる。
【0074】
(3) 前記トルク制御中断領域設定手段(ステップS13)は、トルク制御中断を開始する開始地点PSから勾配変化点PPまでのトルク制御中断領域の前半部分を、勾配変化点PPにて車速が許容車速の下限値あるいは上限値となる距離に設定すると共に、勾配変化点PPからトルク制御中断を終了する終了地点PEまでのトルク制御中断領域の後半部分を、トルク制御中断の終了地点PEにて車速が許容車速の上限値あるいは下限値となる距離に設定するため、車速変化を許容車速内程度に抑えつつ、トルク制御中断領域の設定距離を最大限に確保することができる。
【0075】
(4) 設定した走行ルート上にある勾配ポイントと、各勾配ポイントの勾配程度、勾配継続距離を把握し、勾配程度が大きいほど、また、勾配継続距離が長いほど勾配レベルが高いと特定する勾配レベル特定手段(ステップS12)を設け、前記トルク制御中断領域設定手段(ステップS13)は、勾配レベルが高いほど設定されるトルク制御中断領域を短い距離に設定し、定速走行制御での設定車速あるいは要求トルクが高いほど設定されるトルク制御中断領域を長い距離に設定するため、トルク制御中断による車速の変化速度を、勾配程度と勾配継続距離による勾配レベルと、自車の慣性エネルギーをあらわす設定車速あるいは要求トルクと、により正確に把握し、高い車速変化推定精度によりトルク制御中断領域の距離を設定することができる。
【0076】
(5) 前記トルク制御中断領域設定手段(ステップS14)は、設定されたトルク制御中断領域を、推定した走行ルートの路面μが低いほど長い距離に補正するため、走行ルートの路面μの変化にかかわらず、適正な設定距離によるトルク制御中断領域とすることができる。
【0077】
(6) 前記トルク制御中断領域設定手段(ステップS14)は、設定されたトルク制御中断領域を、検出した自車重量が高いほど長い距離に補正するため、自車重量の高低にかかわらず、適正な設定距離によるトルク制御中断領域とすることができる。
【0078】
(7) 前記上り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク増大分に相当するトルク低減代Aと、前記下り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク減少分に相当するトルク増大代Bと、のトルク差分(A−B)を演算するトルク差分演算手段(ステップS15)を設け、前記定速走行制御手段(図2)は、トルク差分(A−B)が規定値以上である場合(ステップS16→ステップS17)、定速走行制御を中断するし、トルク差分(A−B)が規定値未満である場合(ステップS16→ステップS11)、定速走行制御を継続するため、設定したトルク制御中断領域にて定速走行制御を中断した場合にエネルギー消費率が向上することを予め確認した上での本制御則適用となり、定速走行制御の中断により確実にエネルギー消費率の向上を達成することができる。
【0079】
(8) 前記定速走行制御手段(図2)は、自車が走行ルート上でトルク制御中断領域の終了点PEに到達すると(ステップS19)、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲内である場合(ステップS20)、あるいは、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲を逸脱しているが逸脱許容時間の経過を待つことにより(ステップS21)、車速が設定車速の許容範囲内となった場合(ステップS22)、定速走行制御を再開するため(ステップS23)、車速の許容範囲を狭い幅に設定しつつ、定速走行制御のキャンセルが頻発するのを防止することができる。
【0080】
(9) 前記定速走行制御手段(図2のステップS21)は、前記逸脱許容時間を、定速走行制御での目標車速である設定車速が高いほど長い時間に設定するため(図7)、適正なタイミングでの定速走行制御の再開と、必要以上の定速走行制御のキャンセル防止と、の両立を達成することができる。
【0081】
(10) 前記車両は、動力源にエンジン305とモータ303を有するハイブリッド車両であるため、定速走行制御の中断によりエンジン305の燃費向上を図ることができると共に、定速走行制御の中断の開始域や再開域において、モータ303の高い応答性を利用し、設定車速への収束性が高い定速走行制御を達成することができる。
【0082】
以上、本発明の車両の定速走行制御システムを実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0083】
実施例1では、トルク制御を中断する自車の走行ルート上での走行抵抗の変動領域として、上り勾配あるいは下り勾配の途中から、勾配変化点を経過し、下り勾配あるいは上り勾配へと移行する勾配パターンの領域を設定する領域の例を示したが、様々な情報を入手することにより、予め自車の走行ルート上で走行抵抗が変動する領域を特定することができる場合は、その特定した領域をトルク制御中断領域として設定しても良い。要するに、トルク制御中断領域設定手段は、自車の走行ルート上での走行抵抗の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定される領域であれば実施例1の勾配領域に限られるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
実施例1では、動力源にエンジンとモータを有する前輪駆動ベースによるハイブリッド車両の定速走行制御システムを示したが、後輪駆動ベースによるハイブリッド車両やハイブリッド四輪駆動車にも適用することができるし、また、動力源にエンジンのみを有するエンジン車や、動力源にモータのみを有する電気自動車や燃料電池車等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例1の定速走行制御システムが適用されたハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のCPUにて実行される定速走行制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】実施例1の定速走行制御にて用いられる勾配程度と勾配継続距離とから設定する勾配レベルの一例を示す関係特性図である。
【図4】実施例1の定速走行制御にて用いられる設定車速と勾配レベルとの関係に応じたトルク制御中断領域の設定の一例を示す関係特性図である。
【図5】実施例1の定速走行制御にて用いられるトルク制御中断領域の設定に対する路面μによる補正の一例を示す補正ゲイン特性図である。
【図6】実施例1の定速走行制御にて用いられるトルク制御中断領域の設定に対する自車重量による補正の一例を示す補正ゲイン特性図である。
【図7】実施例1の定速走行制御にて用いられる設定車速に応じた許容時間との関係の一例を示す逸脱許容時間特性図である。
【図8】第1上り勾配路→第1下り勾配路→第2下り勾配路→第2上り勾配路へと変化する走行ルートでのトルク制御中断制御適用例(例1:本提案例)とトルク制御中断制御非適用例(例2:本提案非適用例)での勾配程度・車速・要求トルク・印加トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0086】
101 CPU
102 補助バッテリ
201 ブレーキアクチュエータ
202 機械ブレーキ
203 車重センサ
301 強電バッテリ
302 インバータ
303 モータ
304 発電機
305 エンジン
306 動力分割機構
401 アクセルセンサ
402 ブレーキセンサ
403 DC/DCコンバータ
404 車間センサ
405 GPS
406 舵角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定速走行制御中、走行抵抗の変動に対し、動力源の出力トルクを増減補正する出力トルク補正制御により設定車速を維持する定速走行制御手段を備えた車両の定速走行制御システムにおいて、
自車の走行ルート上での走行抵抗の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域を予め設定するトルク制御中断領域設定手段を設け、
前記定速走行制御手段は、定速走行制御中、自車が設定されたトルク制御中断領域内に入ると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を中断し、自車が設定されたトルク制御中断領域を抜けると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を再開することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
前記トルク制御中断領域設定手段は、自車の走行ルート上で走行抵抗が変動するトルク制御中断領域として、上り勾配あるいは下り勾配の途中から、勾配変化点を経過し、下り勾配あるいは上り勾配へと移行する勾配パターンの領域を設定することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
前記トルク制御中断領域設定手段は、トルク制御中断を開始する開始地点から勾配変化点までのトルク制御中断領域の前半部分を、勾配変化点にて車速が許容車速の下限値あるいは上限値となる距離に設定すると共に、勾配変化点からトルク制御中断を終了する終了地点までのトルク制御中断領域の後半部分を、トルク制御中断の終了地点にて車速が許容車速の上限値あるいは下限値となる距離に設定することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
設定した走行ルート上にある勾配ポイントと、各勾配ポイントの勾配程度、勾配継続距離を把握し、勾配程度が大きいほど、また、勾配継続距離が長いほど勾配レベルが高いと特定する勾配レベル特定手段を設け、
前記トルク制御中断領域設定手段は、勾配レベルが高いほど設定されるトルク制御中断領域を短い距離に設定し、定速走行制御での設定車速あるいは要求トルクが高いほどトルク制御中断領域を長い距離に設定することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項5】
請求項2乃至4の何れか1項に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
前記トルク制御中断領域設定手段は、設定されたトルク制御中断領域を、推定した走行ルートの路面摩擦係数が低いほど長い距離に補正することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項6】
請求項2乃至5の何れか1項に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
前記トルク制御中断領域設定手段は、設定されたトルク制御中断領域を、検出した自車重量が高いほど長い距離に補正することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項7】
請求項2乃至6の何れか1項に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
前記上り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク増大分に相当するトルク低減代と、前記下り勾配ポイントのトルク制御中断領域で出力トルク補正制御を継続することにより設定車速を維持すると仮定したときの要求トルク減少分に相当するトルク増大代と、のトルク差分を演算するトルク差分演算手段を設け、
前記定速走行制御手段は、定速走行制御中、トルク低減代とトルク増大代とのトルク差分が規定値以上である場合、定速走行制御を中断する制御則を適用し、トルク低減代とトルク増大代とのトルク差分が規定値未満である場合、定速走行制御を継続することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
前記定速走行制御手段は、自車が走行ルート上でトルク制御中断領域の終了点に到達すると、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲内である場合、あるいは、終了点到達時の車速が設定車速の許容範囲を逸脱しているが逸脱許容時間の経過を待つことにより、車速が設定車速の許容範囲内となった場合、定速走行制御を再開することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項9】
請求項8に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
前記定速走行制御手段は、前記逸脱許容時間を、定速走行制御での目標車速である設定車速が高いほど長い時間に設定することを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載された車両の定速走行制御システムにおいて、
前記車両は、動力源にエンジンとモータを有するハイブリッド車両であることを特徴とする車両の定速走行制御システム。
【請求項11】
定速走行制御中、走行抵抗の変動に対し、動力源の出力トルクを増減補正する出力トルク補正制御により設定車速を維持する車両の定速走行制御システムにおいて、
自車の走行ルート上での走行抵抗の変動に対し、出力トルク補正制御を行わなくても車速が許容車速内に収まると推定されるトルク制御中断領域を予め設定し、
定速走行制御中、自車が設定されたトルク制御中断領域内に入ると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を中断し、自車が設定されたトルク制御中断領域を抜けると、動力源の出力トルク補正制御による定速走行制御を再開することを特徴とする車両の定速走行制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−203884(P2007−203884A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25247(P2006−25247)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】