説明

車両制御装置

【課題】運転者に対する違和感や、装置消耗の少ない車両制御装置を提供することである。
【解決手段】トルク差生成機構9は、トルク発生源12によるトルクを左右車輪間のトルク差として左右輪に伝達する。車両状態検出手段19は、車両の運動状態や運転者の操作状況を検出する。外界情報検出手段18は、外界の情報を検出する。上位の制御手段10は、運転者の操作意図を推定し、その推定された運転者に意図に応じて車両運動を管理し、制御する。そして、制御手段10は、推定された運転者の意図に合わせて、トルク差生成機構制御手段11に制御指令を出力し、ルク差生成機構9により、レーン制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に係り、特に、車両が現在走行中の車線から逸脱することの防止や、隣の車線へ移動するレーンチェンジなどのレーン制御に好適な車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両運動を制御し、車線からの逸脱防止やレーンチェンジなどのレーン制御を行う車両制御装置としては、車両が走行車線から逸脱を事前に判断し、その逸脱を修正する方向に転舵制御トルクを操舵アクチュエータにより発生させることにより、転舵量を制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。これによって車両にヨーモーメントを発生させ、車線からの逸脱を防止する。
【0003】
また、車両が車線から逸脱しそうになった場合に、車両の制動力発生手段を制御し、車両左右輪の制動力を独立に制御することで、左右輪に制動力差を発生させ、車線からの逸脱を回避する方向にヨーモーメントを発生させるものが知られている(例えば、特許文献2参照)。この方法によると、高応答かつハンドルに対する違和感の少ない車両運動制御を行うことができる。
【特許文献1】特開平11−96497号広報
【特許文献2】特開2001−310719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている車線逸脱防止制御を行う車両制御装置にあっては、車両制御を行う際の転舵アクチュエータによって操舵角を調整するとその動きがハンドルに直接伝わってしまい、運転者はそれを違和感として感じる。
【0005】
また、特許文献2に開示されている車線からの逸脱防止制御を行う車両制御装置の場合には、制動力発生手段を用いるため、車両が減速することにより運転者は減速感を違和感として感じる。また、減速するため、制御完了後には再加速が必要になる場合もある。さらに、大きな制御を必要としない場合の進行方向修正を行う場合にも制動力発生手段を動作させるため、制動力発生手段が一般的な摩擦式ブレーキ装置であった場合、ブレーキパッドの摩耗が生じ、ブレーキパッドの寿命が低下することになる。
【0006】
本発明の目的は、運転者に対する違和感や、装置消耗の少ない車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、1つのトルク発生源によるトルクを左右車輪間のトルク差として左右輪に伝達するための伝達機構を有するトルク差生成機構と、車両の運動状態や運転者の操作状況を検出するための車両状態検出手段と、外界の情報を検出するための外界情報検出手段と、運転者の操作意図を推定し、その推定された運転者に意図に応じて車両運動を管理し、制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記推定された運転者の意図に合わせて、前記トルク差生成機構により、レーン制御を行うようにしたものである。
かかる構成により、レーン制御時の運転者に対する違和感や、装置消耗の少なくし得るものとなる。
【0008】
(2)上記(1)において、好ましくは、車両制御装置による制御の要否を切り替えるスイッチ手段と、前記トルク発生源と前記トルク差生成機構との接続と切断を切り替えるためのトルク遮断手段とを備え、前記トルク遮断手段は、前記スイッチ手段と連動して、前記前記トルク発生源と前記トルク差生成機構との接続と切断を切り替えるようにしたものである。
【0009】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記制御手段は、前記車両状態検出手段や前記外界情報検出手段により検出された車両状態と外界情報とから算出される車両制御に必要なヨーモーメントが、前記トルク差生成機構により生成できるヨーモーメントより大きいと判断した場合、車両に備えられている駆動力生成手段や制動力発生手段、操舵手段を前記トルク差生成機構と連携して操作することによって、必要ヨーモーメントを発生させることにより、レーン制御するようにしたものである。
【0010】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記トルク差生成機構は後左右輪に接続され、後左右輪にトルク差を発生させるようにしたものである。
【0011】
(5)上記(1)において、好ましくは、前記制御手段は、車両運動を管理し、コントロールする上位の制御手段と、前記トルク差生成機構を制御するトルク差生成機構制御手段とからなり、前記トルク差生成機構制御手段は、前記上位制御手段から送信される駆動指令値を受信し、受信した駆動指令値とトルク差生成機構の動作状況に基づいて、前記トルク差生成機構を駆動制御するようにしたものである。
【0012】
(6)上記(5)において、好ましくは、前記トルク差生成機構制御手段はトルク差生成機構に内蔵されるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、運転者に対する違和感や、装置消耗を少なくしてレーン制御を行いえるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の一実施形態による車両制御装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による車両制御装置を搭載する車両の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による車両制御装置を搭載する車両の構成を示すシステムブロック図である。
【0015】
車両1は、動力源として、例えばエンジン2を備えている。エンジン2が発生した動力は変速機3に伝達され、車軸4を介して、左右前輪5FL,5FRに伝達され、車両1を駆動する。また、エンジン2による動力は、駆動力制御手段6によってエンジン2や変速機3をコントロールすることにより、前輪5FL,5FRに伝達される駆動力を調整することができる。
【0016】
エンジン2は発電機7にも接続されており、電力線8を介してトルク差生成機構9に電力を供給する。ここで、発電機7とトルク差生成機構9との間にバッテリやキャパシタなどのエネルギを貯蔵する手段と、スイッチと、このスイッチを制御するコントローラとを備えたエネルギストレージを配置して、ここから電力を供給するものとしてもよい。トルク差生成機構9は、上位の制御手段の10からの駆動指令値を元に、トルク差生成機構制御手段11によって動作をコントロールされる。トルク発生源12で発生するトルクは、トルク差生成機構9により反動トルクとされ、後輪5RL,5RR間にトルク差を発生させ、車両1にヨーモーメントを与え、車両1の進行方向を制御する。
【0017】
トルク差生成機構9は、トルク差生成機構制御手段11と、モータなどのトルク発生源12の他に、反動トルク機構200と、差動装置201を備えているが、こられの詳細な構造については、図2を用いて後述する。また、トルク差生成機構制御手段11は、トルク差生成機構9に内蔵されている。
【0018】
また、車両1は、運転者が操作し車両の進行方向を決めるためのハンドル13とハンドル操作量に合わせて転舵をアシストするパワーステアリングシステム等の転舵アクチュエータ14と、それをコントロールする操舵制御手段15と、移動している車両を停止させるための制動力発生手段16を備える。制動力発生手段16は、各車輪毎に設けられ、制動力制御手段17によって各輪の制動力発生手段16の動作をコントロールし、各輪に発生する制動力を独立に制御できる。制動力発生手段16としては、例えば、バルブとポンプで構成されたブレーキ液圧制御ユニットを有するブレーキ装置や、モータと直動機構により構成されたブレーキ装置を用いる。
さらに、車両1は、車両の回りの情報を検出するためのカメラ,センサ,レーダなどの外界情報検出手段18と、速度センサ,加速度センサ,ヨーレイトセンサ,操舵角計など運転者の操作や車両の状態を検出するための車両状態検出手段19を備える。ここで、外界情報とは、道路に関する情報,他車両に関する情報,障害物に関する情報などである。また、車両の状態とは、操舵角や、アクセル開度,ブレーキ操作量など運転者の操作状態や、車速,ヨーレイト,加速度など車両の運動状態のことを示す。また、ウインカーなどのスイッチ類の状態も車両状態として得る。
【0019】
ここで、車両運動をコントロールする上位の制御手段10と、駆動力制御手段6と、トルク差生成機構制御手段11と、操舵制御手段15と、制動力制御手段17は、通信手段20により接続されている。上位の制御手段10は、運転者操作意図推定手段を備え、外界情報検出手段18によって検出された外界情報と、車両状態検出手段19により検出された運転者の操作や、現在の車両運動状態から、運転者が車両1を移動させたい方向を推定し、これに基づき車両1の操作に必要なヨーモーメントを算出する。この必要ヨーモーメントから、各部アクチュエータの制御指令値を計算し、通信手段20を介して、各制御手段に伝達する。
【0020】
また、レーン制御スイッチ21は、運転者の意図によりオンオフされる。レーン制御スイッチ21の状態は、上位の制御手段10に取りこまれ、上位の制御手段10は、オン状態と判定すると、自動レーン制御を行う。
【0021】
次に、図2を用いて、本実施形態による車両制御装置であるトルク差生成機構9の構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による車両制御装置であるトルク差生成機構の構成を示すスケルトン図である。
【0022】
トルク差生成機構9は、トルク差生成機構制御手段11と、モータなどのトルク発生源12と、反動トルク機構200と、差動装置201を備えている。
【0023】
作動装置201は、差動入力要素202と、左右一対の傘歯車式サイドギア203RL,203RRと、両サイドギアに噛合するピニオンギア204とを備え、これらは差動入力要素202によって回転支持されている。サイドギア203RL,203RRとピニオンギア204の回転軸は、直角に配置される。左側のサイドギア203RLは左後輪5RLと接続され、右側のサイドギア203RRは右後輪5RRを接続される。この構成により、サイドギア203RL,203RRの平均回転速度が、差動入力要素202の回転速度となり、サイドギア203RL,203RRに回転速度差がないときには、サイドギア203RL,203RRと差動入力要素202の回転速度は一致する。
【0024】
反動トルク機構200は、車体に固定されたハウジング206と、同一の減速比の回転要素を有する一対の遊星歯車機構207a,207bと、反動トルクの入力軸208と、一対の出力軸209a,209bとを備える。第一遊星歯車機構207aは、第1サンギア210a、第1リングギア211a、第1プラネタリギア212a、第1プラネタリキャリア213aから構成されている。第1プラネタリキャリア213aは、第1サンギア210aおよび第1リングギア211aに噛合する第1プラネタリギア212aを支持する。第2遊星歯車機構207bは、第2サンギア210b、第2リングギア211b、第2プラネタリギア212b、第2プラネタリキャリア213bから構成されている。第2プラネタリキャリア213bは、第2サンギア210bおよび第2リングギア211bに噛合する第2プラネタリギアを支持する。サンギア210a,210bの歯数はともにZsであり、リングギア211a,211bの歯数はともにZrである。
【0025】
第1サンギア210aは、減速機構216を介してトルク発生源12であるモータに連結され、第2サンギア210bは、ハウジング206に回転不能なように固定される。第1リングギア211aと第2リングギア211bは、ハウジング206に対して回転可能なように支持されているが、互いのリングギア同士が相対回転不能なように連結される。第1プラネタリキャリア213aは第1出力軸209aおよび第1減速機構214aを介して差動入力要素202に連結される。第1出力軸209aの回転は、減速比1/Nを有する第1減速機構214aによって1/N倍に減速されて差動入力要素202に伝達される。第2プラネタリキャリア213bは、第2出力軸209bおよび第2減速機構214bを介して、左車輪サイドギア203RLに連結される。第2出力軸209bの回転は、第1減速機構214aと同じ減速比1/Nを有する、第2減速機構214bによって1/N倍に減速されて左車輪サイドギア203RLに伝達される。
【0026】
第2出力軸209bと第2プラネタリキャリア213bが速度ωbで回転するとき、第2サンギア210bがハウジング206に固定されているので、リングギア211a,211bの回転速度は(Zr+Zs)/Zr×ωbとなる。第1出力軸209aと第1プラネタリキャリア213aが速度ωa、第1リングギア211aが速度(Zr+Zs)/Zr×ωbで回転するとき、第1サンギア210aと入力軸208の回転速度ωiは(Zr+Zs)/Zs×(ωa−ωb)となる。したがって、第1出力軸と第2出力軸の回転速度差をΔω(=ωa−ωb)とすれば、入力軸208の回転速度ωiは(Zr+Zs)/Zs×Δωとなる。
【0027】
このように、入力軸回転速度ωiは、第1出力軸回転速度ωaの大きさや、第2出力軸回転速度ωbの大きさには依存せず、第1出力軸と第2出力軸の回転速度差Δωに依存する。言い換えれば、トルク発生源12のモータによって入力軸208の回転を速度ωiに速度制御する場合、第1出力軸回転速度ωaと第2出力軸回転速度ωbの大きさ、すなわち車両の速度は規定されず、回転速度差Δωのみが規定される。また、トルク発生源12のモータによって入力軸208に入力トルクTiを与えるとき、第1出力軸209aには第1出力トルクTaとして、トルク{(Zr+Zs)/Zs×Ti}が出力される。他方、第2出力軸209bには第2出力トルクTbとして、第1出力軸209aとは大きさが同じで反対方向のトルク{−(Zr+Zs)/Zs×Ti}が出力される。以上のように、第1出力軸209aと第2出力軸209bに反動トルクを生成することができ、後輪5RL,5RRの間にトルク差を発生させることができる。換言すると、図2に示すトルク差生成機構は、トルクモータの出力軸に遊星歯車機構を適用して反動トルクを生成し、左右車輪間にトルク差を発生させるものである。そして、トルク発生源12のモータの正逆転によって、後輪5RL,5RRに発生する反動トルクの正負を逆転できる。
【0028】
次に、図3及び図4を用いて、本実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御の制御内容について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御である車線逸脱防止制御の内容を示すフローチャートである。図4は、本発明の一実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御であるレーンチェンジ制御の内容を示すフローチャートである。
【0029】
最初に、図3を用いて、レーン制御である車線逸脱防止制御の内容について説明する。
【0030】
まず、図3のステップs100において、上位の制御手段10は、外界情報検出手段18や車両状態検出手段19により、外界情報や車両状態を検出する。
【0031】
次に、ステップs101において、上位の制御手段10は、検出された情報から、運転者の意図を推定する。例えば、ウインカーが操作されておらず、現在の走行車線と車両の角度が閾値以下であり、かつ、操舵角速度が閾値以下である場合には運転者は車線維持を意図した操作をしていると判断する。
【0032】
次に、ステップs102において、上位の制御手段10は、現在の車速,車両のヨー角,ヨーレイトや走行車線の状況などから、Δt後の車両の位置を推定する。Δt(>0)後の車両位置を推定することによって車線からの逸脱量が大きくなる前に制御を介入させることができるので、より安定性の高い制御を実現することが可能となる。
【0033】
そして、ステップs103において、上位の制御手段10は、ステップs102で推定されたΔt後の車両の位置と現在走行中の車線との位置関係から、車両の走行車線からの逸脱可能性を判断する。例えば、車線端とΔt後の車両位置との距離が、予め設定した距離Dよりも小さくなる場合には、車線を逸脱しそうであると判定する。
【0034】
次に、ステップs104において、上位の制御手段10は、ステップs103の結果を元に、車線からの逸脱を回避するために必要なヨーモーメントを算出する。ここで、ヨーモーメントは、車線端とΔt後の車両位置との距離に応じて、逸脱の可能性が高い場合に大きくなるものとする。また、車両の状態,障害物の位置等にあわせて、必要とするヨーモーメントの大きさを変化させるようにしてもよいものである。
【0035】
次に、s105において、上位の制御手段10は、ステップs104で計算された必要ヨーモーメントを生成するために必要なトルク差生成機構9の駆動指令値を算出する。
【0036】
そして、ステップs106において、上位の制御手段10は、ステップs105で計算された指令値を元に、トルク発生源12の駆動指令値を算出する。
【0037】
次に、s107において、トルク差生成機構制御手段11は、上位の制御手段10によってステップs106で計算された指令値により、トルク発生源12を駆動制御し、後輪5RL,5FL間に反動トルクを発生させる。ステップs108では、この発生した反動トルクによって車両にヨーモーメントが生じ、車両を逸脱回避方向に移動させることができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、トルク差生成機構9を用いることにより、広い車速領域で車線からの逸脱防止制御を実現できる。また、トルク差生成機構9を用いるため、運転者に対して与える違和感が少なく、装置の消耗も少ないため、車両運動が不安定になる前の状態から車両運動介入が容易となる。そのため、車両の進行方向の変更に大きな力が必要となる前に制御により補正できるので、車線からのより逸脱を少ない制御量で防ぐことができるので車両の安定性が向上する。
【0039】
トルク差を与える構成としてトルク差生成機構9を左右後輪に取り付けることで、前輪に付ける場合と比べて、トルク差生成機構9が作動した際にハンドル13に伝達されるトルクが少なく、運転者の違和感を少なくできる。しかし、前輪の左右にトルク差を発生させる方式や、前後輪の左右でトルク差を発生させる方式としてもよいものである。
【0040】
また、上位の制御手段10とは別にトルク差生成機構制御手段11を備える構成であるので、必要ヨーモーメントの算出は上位の制御手段10で行い、実際のトルク差生成機構9の制御はトルク差生成機構制御手段11で行うということで、上位の制御手段10の計算負荷を軽減することができ、互いの制御装置がお互いの故障をチェックしあうことにより、安全性を向上させることもできる。
【0041】
さらに、上位の制御手段10からの指令値をトルク差生成機構制御手段11に送信することで制御できる。そのため、基本構成として制動力制御装置など車両運動制御装置を備えた車両に付加的に備え付けることも容易となるのでユーザーの要望に柔軟に対応することができる。
【0042】
またさらに、トルク差生成機構制御手段11をトルク差生成機構9に内蔵する構成とすることによって、取り付けがより容易となり、本車両制御装置を安価に提供することが可能となる。
【0043】
次に、図4を用いて、レーン制御であるレーンチェンジ制御の内容について説明する。
【0044】
図4のステップs100において、上位の制御手段10は、外界情報検出手段18や車両状態検出手段19により、外界情報や車両状態を検出する。ここで、取得する情報は、図3の例と同様である。
【0045】
次に、ステップs201において、上位の制御手段10は、得られた情報に基づき、運転者操作意図推定手段により運転者の操作意図を推定する。ここでは運転者がレーンチェンジを意図しているものとして説明する。この判断には、例えば走行車線の状況、周りの環境、操舵角情報を用いる。例えば、隣の車線に障害物がなく、操舵角速度が閾値をこえている場合に運転者はレーンチェンジを意図しているものとして判断する。また、ウインカーが操作されていることを判断の基準としてもよい。なお、操舵角速度の閾値として、第1の閾値,第2の閾値(>第1の閾値)として、操舵角速度が第1の閾値と第2の閾値の間の時は、レーンチェンジと判断し、操舵角速度が第2の閾値より大きいときは、右左折と判断するようにしてもよいものである。
【0046】
次に、ステップs202において、上位の制御手段10は、目標となる軌道を生成する。この目標軌道は車速や操舵角、外界情報などから判断し、レーンチェンジ後の車両の安定性を損なわず、他車両との衝突を避けることのできる速度で、レーンチェンジをするための軌道とする。
【0047】
次に、ステップs203において、上位の制御手段10は、目標軌道を達成するために必要なヨーモーメントを算出する。
【0048】
次に、ステップs204において、上位の制御手段10は、ステップs203で算出されたヨーモーメントを発生させるためのトルク差生成機構9の駆動指令値を算出する。また、ステップs205において、上位の制御手段10は、トルク発生源12の駆動指令値を算出する。それに基づいてトルク発生源12を駆動し、ステップs206でトルク差生成機構9を駆動する。ステップs207では、これによって、左右後輪5RL,5RR間にトルク差が発生し、車両にヨーモーメントを付与する。これによって、車両を制御し、目標軌道を達成することで、運転者のレーンチェンジを補助する。
【0049】
本実施形態によりレーンチェンジ補助を行うことで、運転者に違和感を与えることがない。また、装置の消耗を低減できる。そのため通常運転時から制御の介入が可能となるので、車両の安全性を向上させることができる。
【0050】
次に、図5を用いて、本実施形態による車両制御装置であるトルク差生成機構の他の構成について説明する。
図5は、本発明の一実施形態による車両制御装置であるトルク差生成機構の他の構成を示すスケルトン図である。なお、図5において、図2と同一符号は、同一部分を示している。
【0051】
本例のトルク差生成機構9Aでは、トルク発生源12の出力軸と反動トルク機構200Aの入力軸208との間に、クラッチ機構500を設けている。クラッチ機構500は、車両制御の要否が設定されるスイッチ21(図1)のオンオフによって、開放締結が制御される。すなわち、スイッチ21がオンされ、レーン制御が必要とされると、クラッチ機構500が締結される。
【0052】
クラッチ機構500は、減速機構216と入力軸208との間のトルクを伝達するクラッチ板502と、クラッチ板502の接続状態を制御するコイル503で構成されている。トルク差生成機構制御手段11とコイル503とは、電気的に接続されている。クラッチ板502が接続される場合、トルク発生源12の駆動トルクは反動トルクとして後輪5RL,5RRに伝達される。
【0053】
この構成を用いて、スイッチ21とクラッチ機構500とを連動させ、スイッチ21がONになっている場合には、コイル503に通電し、クラッチ板502を接続し、トルク発生源12から反動トルク機構200へトルクを伝達し、図3や図4にて説明したと同様の制御を行う。また、スイッチ21がOFFになっている状態ではコイル503には通電せず、クラッチ板502を接続しないことで、トルク発生源12から反動トルク機構200へのトルクが伝達されないようにする。
【0054】
この方式を用いることで、車両制御を必要としない場合にはトルク発生源12がモータである場合、モータの連れ回りによる不要な回生やロスを排除することができる。また、スイッチ21はウインカー等と連動し、操舵するときのみ使用するものとしてもよい。
【0055】
また、トルク差生成機構9による車線からの逸脱防止制御が必要な状態で、スイッチ21がOFFの状態からONにされた場合、クラッチ板502をすぐに接続せずに、トルク発生源12と反動トルク機構200と回転数を合わせた上で接続する。ここで、回転数が合うまでに時間を要する場合には制動力発生手段16などの他のヨーモーメント生成手段を用いてその時間を補完するように車線からの逸脱防止制御を行うものとする。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、広い車速範囲でトルク差生成可能なトルク差生成機構を用いることによって、運転者の意図に合わせた、車線からの逸脱防止やレーンチェンジなどのレーン制御を行うことができる。
【0057】
また、トルク差生成機構を用いるため運転者に対してハンドルトルク増加や、減速感などの違和感を与えることがないものである。
【0058】
さらに、ブレーキを用いないため装置消耗が少なくできる。このため、緊急時のみならず、通常の運転状態においても車両運動の制御が可能となり、車両の安全性を向上させることができる。
【0059】
さらに、車両への取り付けが容易となる構成とすることによって、安価でユーザー要求に柔軟に対応できる車両制御装置とすることができる。
【0060】
次に、図6及び図7を用いて、本発明の他の実施形態による車両制御装置の制御動作について説明する。なお、本実施形態による車両制御装置を搭載する車両の構成は、図1と同様である。また、本実施形態による車両制御装置であるトルク差生成機構9の構成は、図2若しくは図5と同様である。
図6は、本発明の他の実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御である車線逸脱防止制御の内容を示すフローチャートである。図7は、本発明の他の実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御である車線逸脱防止制御の説明図である。
【0061】
本実施形態では、前述の実施形態とは異なり、トルク差生成機構9に加え、駆動力制御手段6や制動力制御手段17、操舵制御手段15を連携させて車線逸脱防止等レーン制御を行う。
【0062】
ここでは、車線逸脱防止制御を例にして説明する。
【0063】
ステップs300からs304までの制御の流れは、図3の実施形態における制御の流れステップs100からs104までと同じである。
【0064】
ステップs304において、上位の制御装置10は、算出されたヨーモーメントを基に、ステップs305において、上位の制御装置10は、現在の車両状態において適切な制御手段を決定する。例えば、図7(B)に示すように、車線端への入射角(φ2)が大きく、車線からの逸脱回避に必要となるヨーモーメントが大きい場合には、トルク差生成手段9によって発生させられるヨーモーメントの上限を上回ることがあると想定される。この場合には、例えば、応答性が高く、大きなヨーモーメントを生成可能な制動力発生手段17を使う。このときに、例えば制動力発生手段16において一対の左右輪間の制動力に差を作ることによって、車両にヨーモーメントを付与する。なお、操舵角制御手段15を用いてもよいものである。また、車速が高い場合には、駆動力制御手段6や制動力制御手段17により、車速を低下させる。ステップs305では、これらの制御手段の内、最適な制御手段を選択する。ここで、選択する制御手段は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0065】
続いてステップs306において、上位の制御装置10は、ステップs305において選択された制御手段へ制御指令値を送信する。ここで、2つ以上の制御手段を選択している場合には、同時に、適切に車線からの逸脱防止を実現することができるように、それぞれの制御手段で発生させるヨーモーメントの配分を行い、それにあわせた指令値を送信する。
【0066】
そして、ステップs307において、各制御装置は、上位の制御装置10からの指令値を受信し、各アクチュエータを制御・駆動する。これによって、車両にヨーモーメントが付与され(s308)、車線からの逸脱防止制御が実現される。
【0067】
ここであげたのは、車線からの逸脱防止の場合だが、同様にレーンチェンジ補助の場合にも必要となるヨーモーメントに応じて各制御手段の制御量をコントロールすることによって、様々な場面に対応した車両制御を実現することができる。また、通常の制御時にはトルク差生成機構9を用いるので、普段は運転者に違和感を与えることがない。本実施形態で示したのは、緊急時に発生する状態なので、装置の摩耗も最小限とすることができる。
【0068】
本実施形態によっても、広い車速範囲でトルク差生成可能なトルク差生成機構を用いることによって、運転者の意図に合わせた、車線からの逸脱防止やレーンチェンジなどのレーン制御を行うことができる。
【0069】
また、トルク差生成機構を用いるため運転者に対してハンドルトルク増加や、減速感などの違和感を与えることがないものである。
【0070】
さらに、ブレーキを用いないため装置消耗が少なくできる。このため、緊急時のみならず、通常の運転状態においても車両運動の制御が可能となり、車両の安全性を向上させることができる。
【0071】
さらに、車両への取り付けが容易となる構成とすることによって、安価でユーザー要求に柔軟に対応できる車両制御装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施形態による車両制御装置を搭載する車両の構成を示すシステムブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による車両制御装置であるトルク差生成機構の構成を示すスケルトン図である。
【図3】本発明の一実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御である車線逸脱防止制御の内容を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御であるレーンチェンジ制御の内容を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態による車両制御装置であるトルク差生成機構の他の構成を示すスケルトン図である。
【図6】本発明の他の実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御である車線逸脱防止制御の内容を示すフローチャートである。
【図7】本発明の他の実施形態による車両制御装置を用いたレーン制御である車線逸脱防止制御の説明図である。
【符号の説明】
【0073】
2…エンジン
3…変速機
4…車軸
5…車輪
6…駆動力制御手段
7…発電機
9…トルク差生成機構
10…制御手段
11…トルク差生成機構制御手段
12…トルク発生源(モータ)
14…操舵アクチュエータ
15…操舵制御手段
16…制動力発生手段(ブレーキ)
17…制動力制御手段
18…外界情報検出手段
19…車両状態検出手段
21…スイッチ
201…差動装置
200…反動トルク機構
207…遊星歯車機構
500…クラッチ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのトルク発生源によるトルクを左右車輪間のトルク差として左右輪に伝達するための伝達機構を有するトルク差生成機構と、
車両の運動状態や運転者の操作状況を検出するための車両状態検出手段と、
外界の情報を検出するための外界情報検出手段と、
運転者の操作意図を推定し、その推定された運転者に意図に応じて車両運動を管理し、制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記推定された運転者の意図に合わせて、前記トルク差生成機構により、レーン制御を行うことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両制御装置において、
車両制御装置による制御の要否を切り替えるスイッチ手段と、
前記トルク発生源と前記トルク差生成機構との接続と切断を切り替えるためのトルク遮断手段とを備え、
前記トルク遮断手段は、前記スイッチ手段と連動して、前記前記トルク発生源と前記トルク差生成機構との接続と切断を切り替えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両制御装置において、
前記制御手段は、前記車両状態検出手段や前記外界情報検出手段により検出された車両状態と外界情報とから算出される車両制御に必要なヨーモーメントが、前記トルク差生成機構により生成できるヨーモーメントより大きいと判断した場合、車両に備えられている駆動力生成手段や制動力発生手段、操舵手段を前記トルク差生成機構と連携して操作することによって、必要ヨーモーメントを発生させることにより、レーン制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項1記載の車両制御装置において、
前記トルク差生成機構は後左右輪に接続され、後左右輪にトルク差を発生させることを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
請求項1記載の車両制御装置において、
前記制御手段は、車両運動を管理し、コントロールする上位の制御手段と、前記トルク差生成機構を制御するトルク差生成機構制御手段とからなり、
前記トルク差生成機構制御手段は、前記上位制御手段から送信される駆動指令値を受信し、受信した駆動指令値とトルク差生成機構の動作状況に基づいて、前記トルク差生成機構を駆動制御することを特徴とする車両制御装置。
【請求項6】
請求項5記載の車両制御装置において、
前記トルク差生成機構制御手段はトルク差生成機構に内蔵されることを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−298240(P2008−298240A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147167(P2007−147167)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】