選択的プラズマ窒化処理方法及びプラズマ窒化処理装置
【課題】 シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体に対して、選択的にシリコンを高い窒化レートと高い窒素ドーズ量でプラズマ窒化処理する方法を提供する。
【解決手段】 選択的プラズマ窒化処理は、処理圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、載置台2の電極42に高周波電源44から被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の高周波電力を供給して行う。この高周波電力によってウエハWへバイアス電圧が印加され、高いSi/SiO2選択比が得られる。
【解決手段】 選択的プラズマ窒化処理は、処理圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、載置台2の電極42に高周波電源44から被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の高周波電力を供給して行う。この高周波電力によってウエハWへバイアス電圧が印加され、高いSi/SiO2選択比が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的プラズマ窒化処理方法及びプラズマ窒化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程では、プラズマによってシリコンを窒化処理してシリコン窒化膜を形成することが行われている。基板上には、プラズマ窒化処理の対象となるシリコン表面以外に、それ以前の工程で形成されたシリコン化合物層が混在していることが通常である。このように複数種類の膜が混在した状況下で、プラズマ窒化処理を行う場合、全露出表面がプラズマに曝されることから、窒化が不必要な部位にも窒素含有層が形成されてしまう。例えば、シリコンを窒化処理する際に、シリコンとともに基板上に形成されているシリコン酸化膜(SiO2膜)も窒化されてシリコン酸窒化膜(SiON膜)に改質されてしまうことがある。
【0003】
しかし、半導体装置の製造プロセス上、目的とするシリコン以外の材料膜が窒化されると、例えば後工程のエッチングによって材料膜を除去する場合に、他の膜とのエッチング選択比が異なってしまい、工程数が増加したり、歩留りが低下したりするなど、好ましくない影響が生じる場合がある。
【0004】
また、フラッシュメモリにおいて、フローティングゲート電極の表面を覆うONO(Oxide−Nitride−Oxide)構造を挟み込むように上部と下部と窒化して絶縁膜を形成する場合では、シリコン基板上にポリシリコンのフローティングゲート電極を形成した後、プラズマ窒化処理を行うと、同時に、隣接するセルを分離する素子分離膜の表面も窒化され、シリコン酸窒化膜が形成されてしまう。このため、最終的に製造されるフラッシュメモリの素子分離膜には、本来不必要な窒素含有層(SiON層)が残存した状態となる。このように残存した不必要な窒素含有層は、隣接するセル間で電気的な干渉を生じさせる原因となり、フラッシュメモリのデータ保持性能を低下させてしまう場合がある。
【0005】
特許文献1では、表面にシリコンと、酸化シリコン層とが露出した被処理体に対し、プラズマを利用し、酸化シリコン層に対する高い選択性をもってシリコンを窒化処理する選択的プラズマ処理方法が提案されている。この方法では、材料膜を構成する物質の結合エネルギーの違いを利用することにより選択的な窒化処理を実現している。すなわち、結合エネルギーが高い酸化シリコン層の窒化を抑制して相対的に結合エネルギーが低いシリコンのみを窒化処理するために、二つの物質の結合エネルギーの中間のエネルギーを持つ窒素イオンを生成させて、プラズマ窒化処理を行う方法である。特許文献1では、処理圧力を400Pa〜1000Paに設定することによってプラズマ中の窒素イオンのイオンエネルギーをコントロールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2007/034871号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で提案されているように、比較的高く設定された処理圧力によってプラズマのイオンエネルギーをコントロールする方法では、高い選択性が得られる反面、目的とするシリコンへの窒化力も弱められてしまう。その結果、高い窒化レートや高い窒素濃度(窒素ドーズ量)の窒化が望めなくなるという問題があった。また、プラズマ処理の圧力を高めていくに伴い、プラズマの分布が偏り、基板面内での窒化処理の均一性が得られにくくなるという問題もあった。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体に対して、選択的にシリコンを高い窒化レートと高い窒素ドーズ量でプラズマ窒化処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体をプラズマ処理装置の処理容器内で載置台に載置し、
前記処理容器内の圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、
前記載置台に前記被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の出力で高周波電力を供給して被処理体にバイアス電圧を印加しながら窒素含有プラズマを生成させ、
前記窒素含有プラズマによって前記シリコン表面を選択的に窒化処理し、シリコン窒化膜を形成する。
【0010】
本発明の選択的プラズマ窒化処理方法において、前記シリコン化合物層がシリコン酸化膜であることが好ましい。ここで、前記シリコン表面と前記シリコン酸化膜の窒化の選択比(シリコン表面/シリコン酸化膜表面)が2以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、前記処理容器内の圧力を133Pa以上400Pa以下の範囲内に設定して行うことが好ましい。
【0012】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、前記高周波電力の周波数が、400kHz以上60MHz以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、処理時間が10秒以上180秒以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、処理時間が10秒以上90秒以下であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法において、前記窒素含有プラズマは、前記処理ガスと、複数のスロットを有する平面アンテナにより前記処理容器内に導入されるマイクロ波と、によって形成されるマイクロ波励起プラズマであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法において、前記マイクロ波のパワー密度が、被処理体の面積あたり0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、処理温度が、室温以上600℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0018】
本発明のプラズマ窒化処理装置は、プラズマを用いて、シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体を処理する処理容器と、
前記処理容器内を減圧排気する排気装置と、
前記処理容器内にプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台と、
前記載置台に接続された高周波電源と、
前記処理容器内の圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、前記載置台に前記被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の出力で高周波電力を供給して被処理体にバイアス電圧を印加しながら窒素含有プラズマを生成させ、前記窒素含有プラズマによって前記シリコン表面を選択的に窒化処理し、シリコン窒化膜を形成する選択的プラズマ窒化処理方法が行われるように制御する制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の選択的プラズマ窒化処理方法によれば、被処理体にバイアス電圧を印加しながらプラズマ窒化処理を行うことにより、シリコン表面とシリコン化合物層(例えばSiO2膜)とを有する被処理体に対し、高い選択性をもってシリコンを窒化処理することができる。すなわち、被処理体上に、窒化処理の対象であるシリコン以外のシリコン化合物層が存在する場合でも、シリコンを優勢的に窒化処理できる。従って、本発明方法を半導体装置の製造工程に適用することによって、不必要な領域に窒素含有層が形成されることがなく、窒素含有層による悪影響例えば隣接するセル間での電気的な干渉の問題等を防止し、信頼性に優れた半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の選択的プラズマ窒化処理方法の処理対象を説明する図面である。
【図2】選択的プラズマ窒化処理の工程図である。
【図3】選択的プラズマ窒化処理後の被処理体を説明する図面である。
【図4】本発明の選択的プラズマ窒化処理方法の実施に適したプラズマ窒化処理装置の構成例を示す概略断面図である。
【図5】平面アンテナの構造を示す図面である。
【図6】制御部の構成を示す説明図である。
【図7】Si/SiO2選択比とシリコンへの窒素ドーズ量との関係を示すグラフである。
【図8】Si/SiO2選択比の圧力依存性を示すグラフである。
【図9】シリコンへの窒素ドーズ量の圧力依存性を示すグラフである。
【図10】Si/SiO2選択比のバイアスパワー依存性を示すグラフである。
【図11】シリコンへの窒素ドーズ量のバイアスパワー依存性を示すグラフである。
【図12】Si/SiO2選択比の処理時間依存性を示すグラフである。
【図13】シリコンへの窒素ドーズ量の処理時間依存性を示すグラフである。
【図14】シリコン窒化膜に後から酸化処理を行った場合の増膜量と窒素ドーズ量との関係を示すグラフである。
【図15】バイアスを印加した場合としない場合のシリコン窒化膜の厚みの面内均一性の測定結果を示すグラフである。
【図16】Si表面およびSiO2表面をプラズマ窒化処理したときの窒素ドーズ量とVdcとの相関関係を示すグラフである。
【図17】本発明の選択的プラズマ窒化処理方法を適用して製造可能なフラッシュメモリの構造を示す断面図である。
【図18】フラッシュメモリの製造において、選択的プラズマ窒化処理前の状態を説明する図面である。
【図19】フラッシュメモリの製造において、選択的プラズマ窒化処理後の状態を説明する図面である。
【図20】従来のフラッシュメモリにおける電子の漏洩の機構を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。まず、本実施の形態に係る選択的プラズマ窒化処理方法の概要について、図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、本発明の選択的プラズマ窒化処理の被処理体としての半導体ウエハ(以下、「ウエハ」と記す)Wの断面を示している。ウエハWには、シリコン層60とシリコン化合物層としてのSiO2層61が露出している。なお、シリコン層60としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン等を挙げることができる。
【0022】
ウエハWを窒素含有プラズマに曝すことにより、窒素含有プラズマ中の活性種(主にNイオン)によってシリコン層60のSi表面60aに対し、プラズマ窒化処理を行う。このとき、ウエハWには、シリコン層60のSi表面60aとともにSiO2層61のSiO2表面61aも露出しているため、SiO2層61のSiO2表面61aもプラズマ中のNイオンに曝される。SiO2表面61aを出来るだけ窒化させずに、Si表面60aを優勢的に窒化するためには、Si表面60aとSiO2表面61aとの窒化の選択比(単に、「Si/SiO2選択比」と記すことがある)を高めることが必要である。
【0023】
本発明の選択的プラズマ窒化処理では、シリコン層60のSi−Si結合と、SiO2層61のSi−O結合の結合エネルギーの違いを利用して、SiO2層61のSiO2表面61aの窒化を抑制しながら、シリコン層60のSi表面60aを選択的に窒化処理する。Si−Si結合の結合エネルギーは約2.3[eV]であり、Si−O結合の結合エネルギーは約4.6[eV]である。従って、NイオンのイオンエネルギーEが、2.3[eV]<E<4.6[eV]となるように処理圧力を調節することにより、Si表面60aを優勢的に窒化し、SiO2表面61aの表面はほとんど窒化しないプラズマ窒化処理が可能になる。
【0024】
プラズマ中のNイオンのイオンエネルギーEは、処理圧力によって変化する。プラズマ窒化処理で設定可能な処理圧力の範囲(およそ1〜1333Pa程度)では、圧力が高くなるに従い、イオンエネルギーEが抑制される傾向がある。なお、上記1〜1333Pa程度の圧力範囲をプラズマ窒化処理での「設定可能圧力範囲」とし、以下「高圧」、「低圧」の語は、上記設定圧力範囲内での圧力の相対的な高低を意味するものとして使用する。
【0025】
上記処理圧力の制御によって選択性は改善されるものの、高圧側になるに従い、プラズマ中の活性種としてNラジカルが支配的になるため、窒化力は低下する傾向を示す。従って、処理圧力を高圧に設定するだけでは、シリコン層60のSi表面60aに対する窒化レート及び窒素ドーズ量を大きくすることは困難であり、実用的には不十分である。そこで、本発明の選択的プラズマ窒化処理では、図2に示すように、ウエハWに高周波バイアス電圧(以下、単に「バイアス」を記すことがある)を印加する。このことによって、高圧条件での窒化力の低下を補完し、バイアスを印加しない場合に比べてより多くのNイオンがウエハWに引き込まれるようにする。このように、処理圧力の制御と、バイアスの印加とを組み合わせることによって、高い選択性を得ながら、高窒化レート、かつ十分な窒素ドーズ量で、プラズマ窒化処理を行うことが可能になる。
【0026】
以上のようにして、図3に示したように、ウエハWのシリコン層60が選択的に窒化され、シリコン窒化膜70が形成される。なお、SiO2層61のSiO2表面61aもわずかに窒化され窒素含有層(SiON層)71が生じる。しかし、形成された窒素含有層71は、Si表面60aに形成されたシリコン窒化膜70に比べて薄いため、その膜厚差を利用してエッチングなどの処理で容易に除去することが可能であり、半導体装置への影響を回避できる。このような観点から、本発明の選択的プラズマ窒化処理では、Si/SiO2選択比を2以上にすることが好ましく、4以上であることがより好ましい。
【0027】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理では、シリコン中に導入する窒素ドーズ量の基準として、好ましくは10×1015atoms/cm2以上とし、より好ましくは17×1015atoms/cm2以上とする。窒素ドーズ量を10×1015atoms/cm2以上とすることで、半導体装置の製造過程で、例えば選択的プラズマ窒化処理の後に酸化処理の工程を行う場合に、バリア機能を持たせてシリコン酸窒化膜の増膜を抑制することができるからである。
【0028】
次に、図4〜6を参照しながら、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法に利用可能なプラズマ窒化処理装置の構成と、そこで行われる選択的プラズマ窒化処理の手順について説明する。図4はプラズマ窒化処理装置100の概略構成を模式的に示す断面図である。また、図5は、図4のプラズマ窒化処理装置100の平面アンテナを示す平面図であり、図6はプラズマ窒化処理装置100の制御系統の構成を説明する図面である。
【0029】
プラズマ窒化処理装置100は、複数のスロット状の孔を有する平面アンテナ、特にRLSA(Radial Line Slot Antenna;ラジアルラインスロットアンテナ)にて直接処理容器内にマイクロ波を導入して処理容器内でプラズマを発生させることにより、高密度かつ低電子温度のマイクロ波励起プラズマを発生させ得るRLSAマイクロ波プラズマ処理装置として構成されている。プラズマ窒化処理装置100では、1×1010〜5×1012/cm3のプラズマ密度で、かつ0.7〜2eVの低電子温度を有するプラズマによる処理が可能である。従って、プラズマ窒化処理装置100は、各種半導体装置の製造過程において、シリコン窒化膜(SiN膜)を形成する目的で好適に利用できる。
【0030】
プラズマ窒化処理装置100は、主要な構成として、被処理体であるウエハWを収容する処理容器1と、処理容器1内でウエハWを載置する載置台2と、処理容器1内にガスを供給するガス供給装置18と、このガス供給装置18に接続するガス導入部15と、処理容器1内を減圧排気するための排気装置24と、処理容器1の上部に設けられ、処理容器1内にマイクロ波を導入してプラズマを生成するプラズマ生成手段としてのマイクロ波導入装置27と、これらプラズマ窒化処理装置100の各構成部を制御する制御部50と、を備えている。なお、ガス供給装置18は、プラズマ窒化処理装置100の構成部分には含めずに、外部のガス供給装置をガス導入部15に接続して使用する構成としてもよい。
【0031】
処理容器1は、接地された略円筒状の容器により形成されている。なお、処理容器1は角筒形状の容器により形成してもよい。処理容器1は、上部が開口しており、アルミニウム等の材質からなる底壁1aと側壁1bとを有している。
【0032】
処理容器1の内部には、被処理体であるウエハWを水平に載置するための載置台2が設けられている。載置台2は、例えばAlN、Al2O3等のセラミックスにより構成されている。その中でも特に熱伝導性の高い材質例えばAlNが好ましく用いられる。この載置台2は、排気室11の底部中央から上方に延びる円筒状の支持部材3により支持されている。支持部材3は、例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。
【0033】
また、載置台2には、その外縁部または全面をカバーし、かつウエハWをガイドするためのカバー部材4が設けられている。このカバー部材4は、環状に形成され、載置台2の載置面及び/または側面をカバーしている。カバー部材4によって、載置台2とプラズマの接触を遮断し、載置台2がスパッタリングされることを防止して、ウエハWへの不純物の混入防止を図ることができる。カバー部材4は、例えば石英、単結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン、SiN等の材質で構成され、これらの中でもプラズマとの相性がよい石英がもっとも好ましい。また、カバー部材4を構成する前記材質は、アルカリ金属、金属などの不純物の含有量が少ない高純度のものが好ましい。
【0034】
また、載置台2には、抵抗加熱型のヒータ5が埋め込まれている。このヒータ5は、ヒータ電源5aから給電されることにより載置台2を加熱して、その熱で被処理基板であるウエハWを均一に加熱する。
【0035】
また、載置台2には、熱電対(TC)6が配備されている。この熱電対6によって温度計測を行うことにより、ウエハWの加熱温度を例えば室温から900℃までの範囲で制御可能になっている。
【0036】
また、載置台2には、ウエハWを処理容器1内に搬入する際にウエハWの受け渡しに用いるウエハ支持ピン(図示せず)が設けられている。各ウエハ支持ピンは、載置台2の表面に対して突没可能に設けられている。
【0037】
さらに、載置台2には、ウエハWに対してバイアスを印加するためのバイアス印加手段が設けられている。このバイアス印加手段については後述する。
【0038】
処理容器1の内周には、石英からなる円筒状のライナー7が設けられている。また、載置台2の外周側には、処理容器1内で均一な排気を実現するため、多数の排気孔8aを有する石英製のバッフルプレート8が環状に設けられている。このバッフルプレート8は、複数の支柱9により支持されている。
【0039】
処理容器1の底壁1aの略中央部には、円形の開口部10が形成されている。底壁1aにはこの開口部10と連通し、下方に向けて突出する排気室11が設けられている。この排気室11には、排気管12が接続されており、この排気管12は排気装置24に接続されている。このようにして、処理容器1内を真空排気できるように構成されている。
【0040】
処理容器1の上部には、開口部を有するプレート13が配置されている。プレート13の内周は、内側(処理容器内空間)へ向けて突出し、環状の支持部13aを形成している。このプレート13と処理容器1との間は、シール部材14を介して気密にシールされている。
【0041】
処理容器1の側壁1bには、プラズマ窒化処理装置100と、これに隣接する搬送室(図示せず)との間で、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口16と、この搬入出口16を開閉するゲートバルブ17とが設けられている。
【0042】
また、処理容器1の側壁1bには、環状をなすガス導入部15が設けられている。このガス導入部15は、窒素含有ガスやプラズマ励起用ガスを供給するガス供給装置18に接続されている。なお、ガス導入部15はノズル状またはシャワー状に設けてもよい。
【0043】
ガス供給装置18は、ガス供給源(例えば不活性ガス供給源19aおよび窒素含有ガス供給源19bと、配管(例えば、ガスライン20a、20b、20c)と、流量制御装置(例えば、マスフローコントローラ21a、21b)と、バルブ(例えば、開閉バルブ22a,22b)とを有している。なお、ガス供給装置18は、上記以外の図示しないガス供給源として、例えば処理容器1内雰囲気を置換する際に用いるパージガス供給源等を有していてもよい。
【0044】
不活性ガスとしては、例えば希ガスなどを用いることができる。希ガスとしては、例えばArガス、Krガス、Xeガス、Heガスなどを用いることができる。これらの中でも、経済性に優れている点でArガスを用いることが特に好ましい。また、窒素含有ガスは、窒素原子を含有するガスであり、例えば窒素ガス(N2)、アンモニアガス(NH3)、NO、N2Oなどを用いることができる。
【0045】
不活性ガス、窒素含有ガスは、ガス供給装置18の不活性ガス供給源19aおよび窒素含有ガス供給源19bから、それぞれガスライン(配管)20a,20bを介してガスライン20cに合流し、このガスライン20cに接続されたガス導入部15に至り、ガス導入部15から処理容器1内に導入される。各ガス供給源に接続する各々のガスライン20a,20bには、それぞれマスフローコントローラ21a,21bおよびその前後に配備された一組の開閉バルブ22a,22bが設けられている。このようなガス供給装置18の構成により、供給されるガスの切替えや流量等の制御が出来るようになっている。
【0046】
排気装置24は、例えばターボ分子ポンプなどの高速真空ポンプを備えている。前記のように、排気装置24は、排気管12を介して処理容器1の排気室11に接続されている。処理容器1内のガスは、排気室11の空間11a内へ均一に流れ、さらに空間11aから排気装置24を作動させることにより、排気管12を介して外部へ排気される。これにより、処理容器1内を所定の真空度、例えば0.133Paまで高速に減圧することが可能となっている。
【0047】
次に、マイクロ波導入装置27の構成について説明する。マイクロ波導入装置27は、主要な構成として、透過板28、平面アンテナ31、遅波材33、カバー部材34、導波管37、マッチング回路38およびマイクロ波発生装置39を備えている。マイクロ波導入装置27は、処理容器1内に電磁波(マイクロ波)を導入してプラズマを生成させるプラズマ生成手段である。
【0048】
透過板28は、プレート13において内周側に突出した支持部13a上に配備されている。マイクロ波を透過させる透過板28は、誘電体、例えば石英やAl2O3、AlN等のセラミックス等の部材で構成されている。この透過板28と支持部13aとの間は、Oリング等のシール部材29を介して気密にシールされている。したがって、処理容器1内は気密に保持される。
【0049】
平面アンテナ31は、透過板28の上方(処理容器1の外側)において、載置台2と対向するように設けられている。平面アンテナ31は、円板状をなしている。なお、平面アンテナ31の形状は、円板状に限らず、例えば四角板状でもよい。この平面アンテナ31は、プレート13の上端に係止されている。
【0050】
平面アンテナ31は、例えば表面が金または銀メッキされた銅板、アルミニウム板、ニッケル板およびそれらの合金などの導電性部材で構成されている。平面アンテナ31は、マイクロ波を放射する多数のスロット状のマイクロ波放射孔32を有している。マイクロ波放射孔32は、所定のパターンで平面アンテナ31を貫通して形成されている。
【0051】
個々のマイクロ波放射孔32は、例えば図5に示すように、細長い長方形状(スロット状)をなしている。そして、典型的には隣接するマイクロ波放射孔32が「L」字状に配置されている。また、このように所定の形状(例えばL字状)に組み合わせて配置されたマイクロ波放射孔32は、さらに全体として同心円状に配置されている。
【0052】
マイクロ波放射孔32の長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λg)に応じて決定される。例えば、マイクロ波放射孔32の間隔は、λg/4〜λgとなるように配置される。図5においては、同心円状に形成された隣接するマイクロ波放射孔32どうしの間隔をΔrで示している。なお、マイクロ波放射孔32の形状は、円形状、円弧状等の他の形状であってもよい。さらに、マイクロ波放射孔32の配置形態は特に限定されず、同心円状のほか、例えば、螺旋状、放射状等に配置することもできる。
【0053】
平面アンテナ31の上面(平面アンテナ31とカバー部材34との間で形成される偏平導波管)には、真空よりも大きい誘電率を有する遅波材33が設けられている。この遅波材33は、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。遅波材33の材質としては、例えば石英、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。
【0054】
なお、平面アンテナ31と透過板28との間、また、遅波材33と平面アンテナ31との間は、それぞれ接触させても離間させてもよいが、接触させることが好ましい。
【0055】
処理容器1の上部には、これら平面アンテナ31および遅波材33を覆うように、カバー部材34が設けられている。カバー部材34は、例えばアルミニウムやステンレス鋼等の金属材料によって構成されている。カバー部材34と平面アンテナ31によって、偏平導波路が形成され、マイクロ波を処理容器1内に均一に供給できるようになっている。プレート13の上端とカバー部材34とは、シール部材35によりシールされている。また、カバー部材34の壁体の内部には、冷却水流路34aが形成されている。この冷却水流路34aに冷却水を通流させることにより、カバー部材34、遅波材33、平面アンテナ31および透過板28を冷却できるようになっている。なお、カバー部材34は接地されている。
【0056】
カバー部材34の上壁(天井部)の中央には、開口部36が形成されており、この開口部36には導波管37が接続されている。導波管37の他端側には、マッチング回路38を介してマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置39が接続されている。
【0057】
導波管37は、上記カバー部材34の開口部36から上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、この同軸導波管37aの上端部にモード変換器40を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管37bとを有している。モード変換器40は、矩形導波管37b内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。
【0058】
同軸導波管37aの中心には内導体41が延在している。この内導体41は、その下端部において平面アンテナ31の中心に接続固定されている。このような構造により、マイクロ波は、同軸導波管37aの内導体41を介して平面アンテナ31により形成される偏平導波路へ放射状に効率よく均一に伝播される。
【0059】
以上のような構成のマイクロ波導入装置27により、マイクロ波発生装置39で発生したマイクロ波が導波管37を介して平面アンテナ31へ伝搬され、さらにマイクロ波放射孔32(スロット)から透過板28を介して処理容器1内に導入されるようになっている。なお、マイクロ波の周波数としては、例えば2.45GHzが好ましく用いられ、他に8.35GHz、1.98GHz等を用いることもできる。
【0060】
次に、載置台2にバイアスを印加するバイアス印加手段について説明する。載置台2の表面側には電極42が埋設されている。この電極42には、給電線42aによって、マッチングボックス(M.B.)43を介してバイアス印加用の高周波電源44が接続されている。つまり、電極42に高周波電力を供給することによって、基板であるウエハWにバイアスを印加できる構成となっている。電極42、給電線42a、マッチングボックス(M.B.)43及び高周波電源44は、プラズマ窒化処理装置100においてバイアス印加手段を構成している。電極42の材質としては、例えばモリブデン、タングステンなどの導電性材料を用いることができる。電極42は、例えば網目状、格子状、渦巻き状等の形状に形成されている。
【0061】
プラズマ窒化処理装置100の各構成部は、制御部50に接続されて制御される構成となっている。制御部50は、典型的にはコンピュータであり、例えば図6に示したように、CPUを備えたプロセスコントローラ51と、このプロセスコントローラ51に接続されたユーザーインターフェース52および記憶部53を備えている。プロセスコントローラ51は、プラズマ窒化処理装置100において、例えば温度、圧力、ガス流量、マイクロ波出力、バイアス印加用の高周波電力などのプロセス条件に関係する各構成部(例えば、ヒータ電源5a、ガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、高周波電源44など)を統括して制御する制御手段である。
【0062】
ユーザーインターフェース52は、工程管理者がプラズマ窒化処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ窒化処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有している。また、記憶部53には、プラズマ窒化処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピなどが保存されている。
【0063】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて任意のレシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51による制御のもとでプラズマ窒化処理装置100の処理容器1内で所望の処理が行われる。また、前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ、DVD、ブルーレイディスクなどに格納された状態のものを利用できる。さらに、前記レシピを他の装置から例えば専用回線を介して伝送させて利用することも可能である。
【0064】
このように構成されたプラズマ窒化処理装置100では、600℃以下例えば室温(25℃程度)以上600℃以下の低温で下地膜や基板(ウエハW)等へのダメージフリーなプラズマ処理を行うことができる。また、プラズマ窒化処理装置100は、プラズマの均一性に優れていることから、大口径のウエハW(被処理体)に対してもプロセスの均一性を実現できる。
【0065】
次に、RLSA方式のプラズマ窒化処理装置100を用いた選択的プラズマ窒化処理の手順について説明する。まず、ゲートバルブ17を開にして搬入出口16からウエハWを処理容器1内に搬入し、載置台2上に載置する。このウエハWは、シリコン層とシリコン化合物層(例えばSiO2層)を有し、それぞれの表面が露出している(図1参照)。次に、処理容器1内を減圧排気しながら、ガス供給装置18の不活性ガス供給源19aおよび窒素含有ガス供給源19bから、不活性ガスおよび窒素含有ガスを所定の流量でそれぞれガス導入部15を介して処理容器1内に導入する。このようにして、処理容器1内を所定の圧力に調節する。
【0066】
次に、マイクロ波発生装置39で発生させた所定周波数例えば2.45GHzのマイクロ波を、マッチング回路38を介して導波管37に導く。導波管37に導かれたマイクロ波は、矩形導波管37bおよび同軸導波管37aを順次通過し、内導体41を介して平面アンテナ31に供給される。つまり、マイクロ波は、矩形導波管37b内ではTEモードで伝搬し、このTEモードのマイクロ波はモード変換器40でTEMモードに変換されて、同軸導波管37a内を平面アンテナ31に向けて伝搬されていく。そして、マイクロ波は、平面アンテナ31に貫通形成されたスロット状のマイクロ波放射孔32から透過板28を介して処理容器1内においてウエハWの上方空間に放射される。この際のマイクロ波出力は、例えばパワー密度として0.255〜2.55W/cm2の範囲内から選択することができる。
【0067】
平面アンテナ31から透過板28を経て処理容器1内に放射されたマイクロ波により、処理容器1内で電磁界が形成され、不活性ガスおよび窒素含有ガス等の処理ガスをプラズマ化する。プラズマ窒化処理を行なっている間、載置台2の電極42に高周波電源44から所定の周波数およびパワーの高周波電力を供給する。この高周波電源44から供給される高周波電力によってウエハWへバイアスが印加され、プラズマの低い電子温度(0.7〜2eV)を維持しつつ、プラズマ窒化処理が促進される。すなわち、バイアスは、プラズマ中の窒素イオンをウエハWへ引き込むように作用するため、シリコンの窒化レートを増大させるように作用する。
【0068】
また、本発明で用いるマイクロ波励起プラズマは、マイクロ波が平面アンテナ31の多数のマイクロ波放射孔32から放射されることにより、略1×1010〜5×1012/cm3の高密度で、かつウエハW近傍では、略1.2eV以下の低電子温度プラズマとなる。なお、低圧条件(例えば20Pa以下)では、イオン成分主体のプラズマが生成され、かつ、粒子衝突も少ないので、基板(ウエハW)に例えば100〜200Vの電圧でバイアスを印加すると、イオンが加速されてイオンエネルギーが高くなり、基板(ウエハW)へのダメージが発生する場合がある。しかし、高圧条件(例えば66.7Pa以上)では、ラジカル成分主体のプラズマが生成され、かつ、粒子間衝突が多くなるので、イオンエネルギーが衝突により減衰してバイアスを印加しても基板(ウエハW)へのダメージはほとんど生じない。
【0069】
<プラズマ窒化処理条件>
ここで、プラズマ窒化処理装置100において行なわれる選択的プラズマ窒化処理の好ましい条件について説明を行う。本発明の選択的プラズマ処理では、(1)処理圧力、(2)ウエハWに印加するバイアスの大きさ、及び、(3)処理時間が重要であり、これらのバランスを考慮することによって、高いSi/SiO2選択比と、高窒化レートと、高ドーズ量を実現できる。
【0070】
[処理圧力]
処理圧力は、Si/SiO2選択比を高める観点から、66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定することが好ましく、66.7Pa以上133Pa以下の範囲内がより好ましい。処理圧力が66.7Pa未満では、Si/SiO2選択比が十分に得られない。一方、処理圧力が667Paを超えると、窒化力が弱まり、バイアスを印加しても十分な窒化レートと窒素ドーズ量が得られ難くなる。
【0071】
[高周波バイアス電圧]
高周波電源44から供給する高周波電力の周波数は、例えば400kHz以上60MHz以下の範囲内が好ましく、400kHz以上13.5MHz以下の範囲内がより好ましい。高周波電力は、ウエハWの面積当たりのパワー密度として例えば0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の範囲内で供給することが好ましく、0.4W/cm2以上1.2W/cm2以下の範囲内で供給することがより好ましい。パワー密度が0.1W/cm2未満では、イオンの引き込み力が弱く、高窒化レート及び高ドーズ量が得られない。一方、パワー密度が1.2W/cm2超では、Si/SiO2選択比が低下してしまう。また、高周波電力は100W以上が好ましく、例えば100W以上1000W以下の範囲内がより好ましく、300W以上1000W以下の範囲内が望ましい。このような高周波電力の範囲から、上記パワー密度になるように設定すればよい。
【0072】
このように、載置台2の電極42に供給された高周波電力は、プラズマの低い電子温度を維持しつつ、プラズマ中のイオン種をウエハWへ引き込む作用を有している。従って、載置台2の電極42に高周波電力を供給してウエハWにバイアスを印加することにより、プラズマ窒化レートと窒素ドーズ量を向上させることができる。また、本実施の形態で用いるプラズマ窒化処理装置100では、低電子温度のプラズマを生成できる上、高圧(例えば66.7Pa以上)ではウエハWへバイアスを印加してもイオン等によるダメージがほとんど生じず、低温かつ短時間、高い窒素ドーズ量かつ高いSi/SiO2選択比で、良質なシリコン窒化膜を形成することが出来る。
【0073】
[処理時間]
処理時間は、成膜するシリコン窒化膜70の厚み、処理圧力やバイアスの大きさ等の他のプラズマ処理条件に応じて設定できるが、180秒以下、例えば10秒以上180秒以下に設定することが好ましく、10秒以上90秒以下に設定することがより好ましい。処理時間が長くなると、窒素ドーズ量は処理時間に比例して大きくなるが、Si/SiO2選択比は低下していく。従って、Si/SiO2選択比を高く維持するためには、所望の膜厚が得られる範囲で、出来るだけ処理時間を短く設定することが好ましい。
【0074】
プラズマ処理条件としては、上記以外に、例えば、処理ガスの種類と流量比率、マイクロ波パワー、処理温度等も重要であるが、本発明方法において、これらの条件は副次的に関与するに過ぎないため、一般的な条件を採用することができる。
【0075】
[処理ガス]
処理ガスとしては、希ガスとしてArガスを、窒素含有ガスとしてN2ガスをそれぞれ使用することが好ましい。このとき、全処理ガス中に含まれるN2ガスの流量比率(体積比率)は、特に限定する意味ではないが、窒化レートを高め、窒素ドーズ量を十分に大きくする観点から、10%以上70%以下の範囲内が好ましく、17%以上60%以下の範囲内がより好ましい。例えば300mm径のウエハWを処理する場合には、Arガスの流量は10mL/min(sccm)以上2000mL/min(sccm)以下の範囲内、N2ガスの流量は1mL/min(sccm)以上1400mL/min(sccm)以下の範囲内から、上記流量比になるように設定することができる。
【0076】
[マイクロ波パワー]
プラズマ窒化処理におけるマイクロ波のパワー密度は、安定かつ均一にプラズマを生成させるとともに、窒素ドーズ量とSi/SiO2選択比をより向上させる観点から、0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。なお、本発明においてマイクロ波のパワー密度は、透過板28の面積1cm2あたりのマイクロ波パワーを意味する。また、例えば300mm径以上のウエハWを処理する場合には、マイクロ波パワーを500W以上5000W未満の範囲内とすることが好ましく、1000W以上4000W以下とすることがより好ましい。
【0077】
[処理温度]
処理温度(ウエハWの加熱温度)は、窒素ドーズ量をより向上させる観点から、載置台2の温度として、例えば室温(25℃程度)以上600℃以下の範囲内とすることが好ましく、200℃以上500℃以下の範囲内に設定することがより好ましく、400℃以上500℃以下の範囲内に設定することが望ましい。
【0078】
以上の処理条件は、制御部50の記憶部53にレシピとして保存しておくことができる。そして、プロセスコントローラ51がそのレシピを読み出してプラズマ窒化処理装置100の各構成部例えばガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、ヒータ電源5a、高周波電源44などへ制御信号を送出することにより、所望の条件でのプラズマ窒化処理が実現する。
【0079】
以上のように、本実施の形態の選択的プラズマ窒化処理方法では、載置台2の電極42に高周波電力を供給してプラズマ中のNイオンをウエハWに引き込むことによって窒化速度を高めるとともに窒素ドーズ量を増加させることができる。また、処理圧力を66.7Pa以上に設定することによって、窒化処理の選択性を高め、シリコン表面を優勢的に窒化し、所望の膜厚で選択的にシリコン窒化膜を形成することができる。このように形成されたシリコン窒化膜は、例えば、半導体メモリ装置などの絶縁膜として適用可能である。
【0080】
次に、本発明の基礎となった実験結果について説明する。プラズマ窒化処理装置100を用い、下記の条件でシリコン基板上のSi表面及びSiO2表面に対してプラズマ窒化処理を行った。
【0081】
<条件>
処理圧力;20Pa、133Pa、400Pa
Arガス流量;1800mL/min(sccm)
N2ガス流量;560mL/min(sccm)
高周波電力の周波数:13.56MHz
高周波電力のパワー:0W(バイアス印加せず)、450W(パワー密度0.5W/cm2)、900W(パワー密度1.1W/cm2)、
マイクロ波の周波数:2.45GHz
マイクロ波パワー:1500W(パワー密度2.1W/cm2)
処理温度:500℃
処理時間:30秒、90秒、180秒
ウエハ径:300mm
【0082】
図7は、20Paと133Paの処理圧力でのSi/SiO2選択比とシリコンへの窒素ドーズ量との関係をプロットしたグラフである。図7のグラフの縦軸はSi/SiO2選択比を示しており、横軸は、シリコンへのドーズ量を示している。なお、「Si/SiO2選択比」は窒素ドーズ量を基準に算出しており、また、連結されたプロットは、図7において向かって左側から30秒、90秒、180秒の処理時間であることを示している。
【0083】
この図7に示されるように、20Paの低圧条件では、バイアスを印加しない場合のSi/SiO2選択比は1程度であり、バイアスを印加しても最大2程度のSi/SiO2選択比しか得られない。一方、処理圧力を133Paに設定すると、Si/SiO2選択比が大幅に改善されている。これは、圧力の上昇によって、イオンエネルギーが低下し、ラジカルが主体になるためである。しかし、圧力133Paでは、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)が20Paに比べて低く、バイアスを印加しない場合は、180秒の処理でも10×1015atoms/cm2を下回る値となっている。一方、圧力133Paでバイアスを印加することにより、バイアスの大きさに応じてプロットはグラフの右上方向にシフトしている。このことから、圧力制御に加えて、バイアスを印加することによってウエハWにイオンが引き込まれるので、Si/SiO2選択比を向上させながら、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)を大幅に改善できることが確認できた。
【0084】
図8〜13に、処理圧力、ウエハWに印加するバイアスの大きさ、及び、処理時間に関するさらに詳細なデータを示す。図8は、バイアスパワーが0W(印加せず)、450W、900Wのそれぞれにおける、Si/SiO2選択比の圧力依存性を示している。処理時間はいずれも30秒である。図8から、バイアスを印加しない場合、印加した場合のいずれにおいても、処理圧力が20Paでは十分なSi/SiO2選択比が得られなかった。しかし、処理圧力を高圧側(133Pa、400Pa)に設定することにより、Si/SiO2選択比が大幅に向上している。一方、図9は、図8と同様の条件における、シリコンへの窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)の圧力依存性を示している。図8とは逆に、バイアスを印加しない場合、印加した場合のいずれにおいても、処理圧力が高圧側になるほど、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)が低下している。しかし、バイアスを印加することによって、ウエハWにイオンが引き込まれ、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)が増加する方向へシフトしており、バイアスを印加しない場合に比べて高ドーズ量(あるいは高窒化レート)になっている。
【0085】
図10は、処理圧力が133Pa又は400Paにおける、Si/SiO2選択比のバイアスパワー依存性を示している。処理時間は30秒、90秒、180秒である。図10から、圧力133Paでは、バイアスパワーを0(印加しない場合)から450W、さらに900Wへ大きくしていくことにより、Si/SiO2選択比の改善が確認された。一方、圧力400Paでは、バイアスパワーが0(印加しない場合)のときがSi/SiO2選択比が最も高く、450WではSi/SiO2選択比が大きく低下しているが、900Wでは改善している。この結果から、バイアスパワーを大きくすることによってSi/SiO2選択比は改善する方向に向かうが、400Paを超えて処理圧力を高圧側に設定した場合では、バイアスの印加自体によってSi/SiO2選択比が大幅に低下することが予測された。従って、処理圧力は、Si/SiO2選択比を大きく低下させない範囲内で設定する必要があることが理解される。図11は、図10と同様の条件における、シリコンへの窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)のバイアスパワー依存性を示している。圧力133Pa、400Paの両方で、バイアスパワーを0(印加しない場合)から450W、さらに900Wへ大きくしていくことにより、シリコンへの窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)の向上が確認された。
【0086】
図12は、処理圧力133Pa又は400Paにおける、Si/SiO2選択比の処理時間依存性を示している。バイアスパワーは、450W、900Wである。図12から、処理圧力133Pa、400Paのいずれにおいても、処理時間が長くなるに従い、Si/SiO2選択比が低下していくことがわかる。一方、図13は、図12と同様の条件における、シリコンへの窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)の処理時間依存性を示している。図12とは逆に、処理圧力133Pa、400Paのいずれにおいても、処理時間が長くなるほど、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)が大きくなっている。
【0087】
本発明の選択的プラズマ窒化処理における処理圧力は、Si/SiO2選択比を高める観点から、66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定することが好ましく、66.7Pa以上133Pa以下の範囲内がより好ましい。また、高周波電力は100W以上が好ましく、例えば100W以上1500W以下の範囲内がより好ましく、300W以上1000W以下の範囲内が望ましい。処理時間は、成膜するシリコン窒化膜の厚み、処理圧力や高周波電力等の他のプラズマ処理条件に応じて設定できるが、例えば10秒以上180秒以下に設定することが好ましく、10秒以上90秒以下に設定することがより好ましい。
【0088】
次に、シリコンへの窒素ドーズ量の範囲について説明する。図14は、シリコンを窒化してシリコン窒化膜を形成した後に、酸化処理を行った場合の増膜量と、SiO2膜中の窒素ドーズ量との関係を示している。図14の縦軸は、光学膜厚の増膜量を示し、横軸は、厚さ6nmのSiO2膜における窒素ドーズ量を示している。シリコンを窒化処理することによって、その後、酸化処理を行う場合の増膜を抑制できるが、図14から窒素ドーズ量が10×1015atoms/cm2未満では、増膜の抑制効果が十分に得られていないことがわかる。従って、増膜のバリア性を持たせるためには、10×1015atoms/cm2以上の窒素ドーズ量が必要であることが理解される。
【0089】
上記窒素ドーズ量の範囲を踏まえ、再び図7を参照すると、バイアスを印加せずに圧力133Paでプラズマ窒化処理を行った場合、10×1015atoms/cm2以上の窒素ドーズ量は、図7中に破線で示すように、Si/SiO2選択比が2未満の範囲でしか得られていない。このことから、仮に、Si/SiO2選択比が2以上の範囲で、10×1015atoms/cm2以上の窒素ドーズ量が得られれば、バイアスを印加する効果(Si/SiO2選択比の向上と窒素ドーズ量の増加)が発揮されていることになる。従って、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法におけるSi/SiO2選択比の基準は2以上であり、4以上であることがより好ましい。
【0090】
本発明の選択的プラズマ窒化処理では、ウエハWにバイアスを印加することによって、ウエハWの面内における窒化処理の均一性を向上させる効果も有している。図15は、上記条件の処理圧力133Paにおいて、バイアスを印加した場合としない場合のシリコン窒化膜の厚みの面内均一性の測定結果を示している。図15の縦軸の「Range/2ave[%] on Si」は、シリコン上のシリコン窒化膜の[(膜厚の最大値−膜厚の最小値)/膜厚の平均値×2]の百分率を示し、横軸の「AVE Tnit[nm] on Si@RI=2]は、シリコン窒化膜の平均膜厚を示している。測定ポイントはウエハW上の49箇所である。
【0091】
図15から、バイアスを印加することによって、バイアスを印加しない場合に比べて、プラズマ窒化処理の面内均一性(つまり、ウエハW面内におけるシリコン窒化膜の膜厚の均一性)が大幅に改善していることが確認できた。これは、バイアスを印加することによって載置台2(ウエハW)の全域においてイオンの引き込みが強くなり、不均一なプラズマからでもウエハWの全面に十分なイオンを供給できるようになるためである。また、バイアスを印加することで、窒化レートが高くなり、シリコン窒化膜の膜厚も増加することも、均一性が改善した一つの要因であると考えられる。
【0092】
次に、図16を参照しながら、本発明の選択的プラズマ窒化処理のメカニズムについて説明する。図16は、Si表面およびSiO2表面をプラズマ窒化処理しているときの窒素ドーズ量とVdcとの相関関係を示している。ここで、横軸のVdcは、バイアス印加時の載置台2に載置されたウエハWの平均電位を意味する。図16において、破線で連結したSiO2表面の窒化のデータで処理圧力20Paと133Paとを比較すると、圧力差に起因して窒素ドーズ量に大きな差が見られるが、Vdcの絶対値が増加しても、SiO2への窒素ドーズ量はいずれの圧力でもそれほど増加していない。この原因として、圧力133Paでは、ラジカルが支配的なプラズマが生成し、かつイオンの他粒子との衝突の影響が大きいために、バイアスによってイオンエネルギーは増えないためであると考えられる。圧力20Paでは、粒子衝突が少ないため、バイアス印加によるエネルギー上昇があるが、あまりSiO2への窒素ドーズ量が増えていないのは、イオンが支配的なプラズマによってバイアスを印加しない(0W)の段階で既に高い窒素ドーズ量になっているためであり、高いエネルギーでも窒素ドーズ量の増加は緩やかになっている。
【0093】
一方、図16において、実線で連結したSiの窒化のデータでは、処理圧力20Paと133Paとを比較すると、圧力差による窒素ドーズ量の差よりも、Vdcの変化による窒素ドーズ量の変化量の方が大きく、Vdcの影響が支配的であることがわかる。これは、Si−Si結合の結合エネルギーが低いので、イオンエネルギーよりもバイアスの引き込み効果によるイオン密度の増大が窒素ドーズ量に影響するためであると考えられる。しかし、イオンが支配的なプラズマが生成する圧力20Paでは、元々Si表面およびSiO2表面への窒化レートが高いため、Si/SiO2選択比は小さくなっている。これに対して、ラジカルが支配的なプラズマを生成できる圧力133Paでは、Si/SiO2選択比を大きくとりながら、バイアスによって窒素ドーズ量も向上させることができている。以上の結果から、圧力133Paでバイアスを印加することによって、イオンエネルギーではなくイオン密度を高め、SiO2への窒素ドーズ量を増加させることなく、Siへの窒素ドーズ量及び窒化レートを向上させ得ることが理解される。
【0094】
次に、本発明の効果をさらに明確にするため、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法を不揮発性メモリの製造工程に適用する場合を例に挙げて説明する。図17は、本発明方法を適用して製造可能なフラッシュメモリの概略構成を示す断面図である。このフラッシュメモリ200は、フローティングゲート電極とコントロールゲート電極の間に介在する層間容量膜として、ONO(酸化珪素膜−窒化珪素膜−酸化珪素膜)を挟み込むように、上部と下部を窒化した積層構造を有するものである。
【0095】
図17に示したように、シリコン基板201に例えばSTI(Shallow Trench Isolation)により凹部(トレンチ)が形成されており、その内部には、ライナー酸化珪素膜203を介して素子分離膜205が埋め込まれている。シリコン基板201の凸部の上(凹部と凹部の間)には、トンネル絶縁膜207を介して例えばポリシリコンからなるフローティングゲート電極209が形成されている。電荷を蓄積する部分であるフローティングゲート電極209は、内側から順に、第1の窒化珪素膜211、第1の酸化珪素膜213、第2の窒化珪素膜215、第2の酸化珪素膜217および第3の窒化珪素膜219の5層の絶縁膜からなる層間容量膜221によって覆われている。そして、層間容量膜221の上には例えばポリシリコンからなるコントロールゲート電極223が形成され、フラッシュメモリ200が構成されている。
【0096】
本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、例えば第1の窒化珪素膜211の形成工程に適用できる。図17から明らかなように、第1の窒化珪素膜211は、フローティングゲート電極209の表面を覆うように形成されているが、素子分離膜205上には形成されていない。かかる構造により、フラッシュメモリ200では、隣接するセル間での干渉、具体的には電子の移動を抑制することができ、優れたデータ保持特性を奏することができる。
【0097】
図18は、本発明の選択的プラズマ窒化処理の対象となる、フラッシュメモリ200の製造途中におけるウエハWの要部の断面構造を示している。シリコン基板201には、トンネル絶縁膜207を介してポリシリコンを主成分とするフローティングゲート電極209が形成されている。トンネル絶縁膜207およびフローティングゲート電極209は、既知の成膜処理、フォトリソグラフィー技術およびエッチング処理によって形成できる。シリコン基板201の凹部の内面には、ライナー酸化珪素膜203が形成されているとともに、このライナー酸化珪素膜203を介して素子分離膜205が埋め込まれている。素子分離膜205は、フラッシュメモリメモリ200においてアクティブ領域とフィールド領域とを画定している。素子分離膜205は、例えばHDP−CVD(High Density Plasma Chemical Vapor Deposition)法や、SOG(Spin−On−Glass)法により二酸化珪素(SiO2)膜を形成した後、希フッ酸などを用いてウエットエッチングし、エッチバックすることにより形成されている。
【0098】
図18の状態のウエハW(シリコン基板201)のフローティングゲート電極209のポリシリコンに対して選択プラズマ窒化処理を行う。選択的プラズマ窒化処理は、上述の条件で行うことができる。図19は、選択的プラズマ窒化処理によって、窒素含有層212a,212bが形成された状態を示している。ポリシリコンを主成分とするフローティングゲート電極209の表面には、窒化珪素(SiN)からなる窒素含有層212aが形成される。一方、二酸化珪素(SiO2)からなる素子分離膜205の表面には、Si/SiO2選択比が同じであるならば、破線で示すように、窒素含有層212aと同じ厚みで窒化酸化珪素(SiON)からなる窒素含有層212bが形成されるはずである。しかし、選択的プラズマ窒化処理によって、窒素含有層212bは殆んど形成されない。また、このように素子分離膜205表面に形成された窒化酸化珪素(SiON)からなる窒素含有層212bは、例えば希フッ酸を用いてウエットエッチングを行うことによって容易に除去できる。残存した窒素含有層212aは、フラッシュメモリ200において層間容量膜221の一部分を構成する第1の窒化珪素膜211となる(図17参照)。
【0099】
以降の工程は、常法に従い行うことができる。すなわち、第1の窒化珪素膜211の上に、第1の酸化珪素膜213、第2の窒化珪素膜215、第2の酸化珪素膜217および第3の窒化珪素膜219を順次積層し、層間容量膜221を形成する。そして、第3の窒化珪素膜219の上に、CVD法などによりコントロールゲート電極223を形成することにより、図17に示した構造のフラッシュメモリ200を製造できる。
【0100】
次に、本発明方法を一部の工程に適用して製造したフラッシュメモリ200の長所について、従来の方法により製造されたフラッシュメモリとの対比により説明する。図20は、従来の方法により製造されたフラッシュメモリ300の構造を模式的に示している。フラッシュメモリ300では、(選択的でない)プラズマ窒化処理によって、フローティングゲート電極209表面の窒素含有層212a(図17の第1の窒化珪素膜211に相当する)に連続して、素子分離膜205の表面に、窒化酸化珪素(SiON)からなる窒素含有層212bが形成されている。つまり、層間容量膜221aは窒素含有層212bを有している点で、図17に示したフラッシュメモリ200と相違している。なお、図20に示したフラッシュメモリ300において、図17示したフラッシュメモリ200と同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0101】
不必要な窒素含有層212b(窒化酸化珪素膜)は、電子の移動経路となって隣接するセル間で干渉を生じさせ、フラッシュメモリ300のデータ保持特性を低下させる。すなわち、フラッシュメモリ300の隣接するセルで書込み状態が異なる場合(つまり、write0または1)に、フローティングゲート電極209に電荷が注入されたセルから、フローティングゲート電極209に電荷が注入されていない隣接するセルへ向け、素子分離膜205に接する窒素含有層212bを介して電子が移動し、データ保持特性が低下してしまう。例えば、図20では、素子分離膜205により隔てられた二つのセルのうち、片方(紙面に向かって左側)のセルのフローティングゲート電極209に電子が注入された書き込み状態(write;1)とし、他方(紙面に向かって右側)のセルのフローティングゲート電極209は、電子が注入されていない消去状態(write;0)である。この状態で長時間放置すると、図20に矢印で示したように、素子分離膜205と第1の酸化珪素膜213との間に形成されている窒素含有層212bを介して電子が書き込み状態のセルから消去状態のセルへ向けて流れ、書き込み状態(write;1)のセルのしきい値電圧を変化させるとともに、データ保持特性を低下させてしまう。フローティングゲート電極209とコントロールゲート電極223との間には、バリアハイトが大きな層間容量膜221aが介在するため、層間容量膜221aを突き抜ける方向への電子の漏洩は生じ難い。それに対して、選択的でないプラズマ窒化処理により形成された、フローティングゲート電極209に接する窒素含有層212bは、比較的エネルギーバンドギャップが小さくバリアハイトが低いため、フローティングゲート電極209から窒素含有層212b中に僅かではあるが電子が漏洩する。そして、窒素含有層212b中の欠陥を伝わって隣接するセルへ電子が移動していくものと考えられる。
【0102】
一方、本発明方法を適用して製造されたフラッシュメモリ200(図17)では、選択的なプラズマ窒化処理によって、素子分離膜205上の窒素含有層(図19の符号212b)がほとんど形成されないか、形成されてもエッチングによって容易に除去できるため、第1の窒化珪素膜211をフローティングゲート電極209の周囲で終端させている。それ故、素子分離膜205上の窒素含有層に沿った電子の移動が遮断され、隣接するセル間での干渉が防止される。
【0103】
以上のように、本発明方法をフラッシュメモリ200の製造過程に適用することによって、隣接セル間での干渉を防止してフラッシュメモリ200に優れたデータ保持特性を与え、その信頼性を向上させる効果が得られる。
【0104】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。例えば、上記実施の形態では、RLSA方式のプラズマ窒化処理装置100を使用したが、他の方式のプラズマ処理装置を用いてもよく、例えば電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ、マグネトロンプラズマ、表面波プラズマ(SWP)等の方式のプラズマ処理装置を利用してもよい。
【0105】
また、本発明方法の適用例では、層間容量膜221としてONOの上部と下部を窒化した積層構造を有するフラッシュメモリ素子200を例示したが、あくまでも例示であり、他の構成、例えば内側(フローティングゲート電極側)からNONOとなる構造のフラッシュメモリの製造や、Si及びSiO2の露出面を有して選択的な窒化処理が必要な半導体製造装置の製造過程でも、同様に本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0106】
1…処理容器、2…載置台、3…支持部材、5…ヒータ、12…排気管、15…ガス導入部、16…搬入出口、17…ゲートバルブ、18…ガス供給装置、19a…不活性ガス供給源、19b…窒素含有ガス供給源、24…排気装置、28…透過板、29…シール部材、31…平面アンテナ、32…マイクロ波放射孔、37…導波管、37a…同軸導波管、37b…矩形導波管、39…マイクロ波発生装置、44…高周波電源、50…制御部、51…プロセスコントローラ、52…ユーザーインターフェース、53…記憶部、60…シリコン層、61…SiO2層、70…シリコン窒化膜、100…プラズマ窒化処理装置、W…ウエハ(半導体基板)
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的プラズマ窒化処理方法及びプラズマ窒化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程では、プラズマによってシリコンを窒化処理してシリコン窒化膜を形成することが行われている。基板上には、プラズマ窒化処理の対象となるシリコン表面以外に、それ以前の工程で形成されたシリコン化合物層が混在していることが通常である。このように複数種類の膜が混在した状況下で、プラズマ窒化処理を行う場合、全露出表面がプラズマに曝されることから、窒化が不必要な部位にも窒素含有層が形成されてしまう。例えば、シリコンを窒化処理する際に、シリコンとともに基板上に形成されているシリコン酸化膜(SiO2膜)も窒化されてシリコン酸窒化膜(SiON膜)に改質されてしまうことがある。
【0003】
しかし、半導体装置の製造プロセス上、目的とするシリコン以外の材料膜が窒化されると、例えば後工程のエッチングによって材料膜を除去する場合に、他の膜とのエッチング選択比が異なってしまい、工程数が増加したり、歩留りが低下したりするなど、好ましくない影響が生じる場合がある。
【0004】
また、フラッシュメモリにおいて、フローティングゲート電極の表面を覆うONO(Oxide−Nitride−Oxide)構造を挟み込むように上部と下部と窒化して絶縁膜を形成する場合では、シリコン基板上にポリシリコンのフローティングゲート電極を形成した後、プラズマ窒化処理を行うと、同時に、隣接するセルを分離する素子分離膜の表面も窒化され、シリコン酸窒化膜が形成されてしまう。このため、最終的に製造されるフラッシュメモリの素子分離膜には、本来不必要な窒素含有層(SiON層)が残存した状態となる。このように残存した不必要な窒素含有層は、隣接するセル間で電気的な干渉を生じさせる原因となり、フラッシュメモリのデータ保持性能を低下させてしまう場合がある。
【0005】
特許文献1では、表面にシリコンと、酸化シリコン層とが露出した被処理体に対し、プラズマを利用し、酸化シリコン層に対する高い選択性をもってシリコンを窒化処理する選択的プラズマ処理方法が提案されている。この方法では、材料膜を構成する物質の結合エネルギーの違いを利用することにより選択的な窒化処理を実現している。すなわち、結合エネルギーが高い酸化シリコン層の窒化を抑制して相対的に結合エネルギーが低いシリコンのみを窒化処理するために、二つの物質の結合エネルギーの中間のエネルギーを持つ窒素イオンを生成させて、プラズマ窒化処理を行う方法である。特許文献1では、処理圧力を400Pa〜1000Paに設定することによってプラズマ中の窒素イオンのイオンエネルギーをコントロールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2007/034871号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で提案されているように、比較的高く設定された処理圧力によってプラズマのイオンエネルギーをコントロールする方法では、高い選択性が得られる反面、目的とするシリコンへの窒化力も弱められてしまう。その結果、高い窒化レートや高い窒素濃度(窒素ドーズ量)の窒化が望めなくなるという問題があった。また、プラズマ処理の圧力を高めていくに伴い、プラズマの分布が偏り、基板面内での窒化処理の均一性が得られにくくなるという問題もあった。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体に対して、選択的にシリコンを高い窒化レートと高い窒素ドーズ量でプラズマ窒化処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体をプラズマ処理装置の処理容器内で載置台に載置し、
前記処理容器内の圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、
前記載置台に前記被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の出力で高周波電力を供給して被処理体にバイアス電圧を印加しながら窒素含有プラズマを生成させ、
前記窒素含有プラズマによって前記シリコン表面を選択的に窒化処理し、シリコン窒化膜を形成する。
【0010】
本発明の選択的プラズマ窒化処理方法において、前記シリコン化合物層がシリコン酸化膜であることが好ましい。ここで、前記シリコン表面と前記シリコン酸化膜の窒化の選択比(シリコン表面/シリコン酸化膜表面)が2以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、前記処理容器内の圧力を133Pa以上400Pa以下の範囲内に設定して行うことが好ましい。
【0012】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、前記高周波電力の周波数が、400kHz以上60MHz以下の範囲内であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、処理時間が10秒以上180秒以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、処理時間が10秒以上90秒以下であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法において、前記窒素含有プラズマは、前記処理ガスと、複数のスロットを有する平面アンテナにより前記処理容器内に導入されるマイクロ波と、によって形成されるマイクロ波励起プラズマであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法において、前記マイクロ波のパワー密度が、被処理体の面積あたり0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、処理温度が、室温以上600℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0018】
本発明のプラズマ窒化処理装置は、プラズマを用いて、シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体を処理する処理容器と、
前記処理容器内を減圧排気する排気装置と、
前記処理容器内にプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台と、
前記載置台に接続された高周波電源と、
前記処理容器内の圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、前記載置台に前記被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の出力で高周波電力を供給して被処理体にバイアス電圧を印加しながら窒素含有プラズマを生成させ、前記窒素含有プラズマによって前記シリコン表面を選択的に窒化処理し、シリコン窒化膜を形成する選択的プラズマ窒化処理方法が行われるように制御する制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の選択的プラズマ窒化処理方法によれば、被処理体にバイアス電圧を印加しながらプラズマ窒化処理を行うことにより、シリコン表面とシリコン化合物層(例えばSiO2膜)とを有する被処理体に対し、高い選択性をもってシリコンを窒化処理することができる。すなわち、被処理体上に、窒化処理の対象であるシリコン以外のシリコン化合物層が存在する場合でも、シリコンを優勢的に窒化処理できる。従って、本発明方法を半導体装置の製造工程に適用することによって、不必要な領域に窒素含有層が形成されることがなく、窒素含有層による悪影響例えば隣接するセル間での電気的な干渉の問題等を防止し、信頼性に優れた半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の選択的プラズマ窒化処理方法の処理対象を説明する図面である。
【図2】選択的プラズマ窒化処理の工程図である。
【図3】選択的プラズマ窒化処理後の被処理体を説明する図面である。
【図4】本発明の選択的プラズマ窒化処理方法の実施に適したプラズマ窒化処理装置の構成例を示す概略断面図である。
【図5】平面アンテナの構造を示す図面である。
【図6】制御部の構成を示す説明図である。
【図7】Si/SiO2選択比とシリコンへの窒素ドーズ量との関係を示すグラフである。
【図8】Si/SiO2選択比の圧力依存性を示すグラフである。
【図9】シリコンへの窒素ドーズ量の圧力依存性を示すグラフである。
【図10】Si/SiO2選択比のバイアスパワー依存性を示すグラフである。
【図11】シリコンへの窒素ドーズ量のバイアスパワー依存性を示すグラフである。
【図12】Si/SiO2選択比の処理時間依存性を示すグラフである。
【図13】シリコンへの窒素ドーズ量の処理時間依存性を示すグラフである。
【図14】シリコン窒化膜に後から酸化処理を行った場合の増膜量と窒素ドーズ量との関係を示すグラフである。
【図15】バイアスを印加した場合としない場合のシリコン窒化膜の厚みの面内均一性の測定結果を示すグラフである。
【図16】Si表面およびSiO2表面をプラズマ窒化処理したときの窒素ドーズ量とVdcとの相関関係を示すグラフである。
【図17】本発明の選択的プラズマ窒化処理方法を適用して製造可能なフラッシュメモリの構造を示す断面図である。
【図18】フラッシュメモリの製造において、選択的プラズマ窒化処理前の状態を説明する図面である。
【図19】フラッシュメモリの製造において、選択的プラズマ窒化処理後の状態を説明する図面である。
【図20】従来のフラッシュメモリにおける電子の漏洩の機構を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。まず、本実施の形態に係る選択的プラズマ窒化処理方法の概要について、図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、本発明の選択的プラズマ窒化処理の被処理体としての半導体ウエハ(以下、「ウエハ」と記す)Wの断面を示している。ウエハWには、シリコン層60とシリコン化合物層としてのSiO2層61が露出している。なお、シリコン層60としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン等を挙げることができる。
【0022】
ウエハWを窒素含有プラズマに曝すことにより、窒素含有プラズマ中の活性種(主にNイオン)によってシリコン層60のSi表面60aに対し、プラズマ窒化処理を行う。このとき、ウエハWには、シリコン層60のSi表面60aとともにSiO2層61のSiO2表面61aも露出しているため、SiO2層61のSiO2表面61aもプラズマ中のNイオンに曝される。SiO2表面61aを出来るだけ窒化させずに、Si表面60aを優勢的に窒化するためには、Si表面60aとSiO2表面61aとの窒化の選択比(単に、「Si/SiO2選択比」と記すことがある)を高めることが必要である。
【0023】
本発明の選択的プラズマ窒化処理では、シリコン層60のSi−Si結合と、SiO2層61のSi−O結合の結合エネルギーの違いを利用して、SiO2層61のSiO2表面61aの窒化を抑制しながら、シリコン層60のSi表面60aを選択的に窒化処理する。Si−Si結合の結合エネルギーは約2.3[eV]であり、Si−O結合の結合エネルギーは約4.6[eV]である。従って、NイオンのイオンエネルギーEが、2.3[eV]<E<4.6[eV]となるように処理圧力を調節することにより、Si表面60aを優勢的に窒化し、SiO2表面61aの表面はほとんど窒化しないプラズマ窒化処理が可能になる。
【0024】
プラズマ中のNイオンのイオンエネルギーEは、処理圧力によって変化する。プラズマ窒化処理で設定可能な処理圧力の範囲(およそ1〜1333Pa程度)では、圧力が高くなるに従い、イオンエネルギーEが抑制される傾向がある。なお、上記1〜1333Pa程度の圧力範囲をプラズマ窒化処理での「設定可能圧力範囲」とし、以下「高圧」、「低圧」の語は、上記設定圧力範囲内での圧力の相対的な高低を意味するものとして使用する。
【0025】
上記処理圧力の制御によって選択性は改善されるものの、高圧側になるに従い、プラズマ中の活性種としてNラジカルが支配的になるため、窒化力は低下する傾向を示す。従って、処理圧力を高圧に設定するだけでは、シリコン層60のSi表面60aに対する窒化レート及び窒素ドーズ量を大きくすることは困難であり、実用的には不十分である。そこで、本発明の選択的プラズマ窒化処理では、図2に示すように、ウエハWに高周波バイアス電圧(以下、単に「バイアス」を記すことがある)を印加する。このことによって、高圧条件での窒化力の低下を補完し、バイアスを印加しない場合に比べてより多くのNイオンがウエハWに引き込まれるようにする。このように、処理圧力の制御と、バイアスの印加とを組み合わせることによって、高い選択性を得ながら、高窒化レート、かつ十分な窒素ドーズ量で、プラズマ窒化処理を行うことが可能になる。
【0026】
以上のようにして、図3に示したように、ウエハWのシリコン層60が選択的に窒化され、シリコン窒化膜70が形成される。なお、SiO2層61のSiO2表面61aもわずかに窒化され窒素含有層(SiON層)71が生じる。しかし、形成された窒素含有層71は、Si表面60aに形成されたシリコン窒化膜70に比べて薄いため、その膜厚差を利用してエッチングなどの処理で容易に除去することが可能であり、半導体装置への影響を回避できる。このような観点から、本発明の選択的プラズマ窒化処理では、Si/SiO2選択比を2以上にすることが好ましく、4以上であることがより好ましい。
【0027】
また、本発明の選択的プラズマ窒化処理では、シリコン中に導入する窒素ドーズ量の基準として、好ましくは10×1015atoms/cm2以上とし、より好ましくは17×1015atoms/cm2以上とする。窒素ドーズ量を10×1015atoms/cm2以上とすることで、半導体装置の製造過程で、例えば選択的プラズマ窒化処理の後に酸化処理の工程を行う場合に、バリア機能を持たせてシリコン酸窒化膜の増膜を抑制することができるからである。
【0028】
次に、図4〜6を参照しながら、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法に利用可能なプラズマ窒化処理装置の構成と、そこで行われる選択的プラズマ窒化処理の手順について説明する。図4はプラズマ窒化処理装置100の概略構成を模式的に示す断面図である。また、図5は、図4のプラズマ窒化処理装置100の平面アンテナを示す平面図であり、図6はプラズマ窒化処理装置100の制御系統の構成を説明する図面である。
【0029】
プラズマ窒化処理装置100は、複数のスロット状の孔を有する平面アンテナ、特にRLSA(Radial Line Slot Antenna;ラジアルラインスロットアンテナ)にて直接処理容器内にマイクロ波を導入して処理容器内でプラズマを発生させることにより、高密度かつ低電子温度のマイクロ波励起プラズマを発生させ得るRLSAマイクロ波プラズマ処理装置として構成されている。プラズマ窒化処理装置100では、1×1010〜5×1012/cm3のプラズマ密度で、かつ0.7〜2eVの低電子温度を有するプラズマによる処理が可能である。従って、プラズマ窒化処理装置100は、各種半導体装置の製造過程において、シリコン窒化膜(SiN膜)を形成する目的で好適に利用できる。
【0030】
プラズマ窒化処理装置100は、主要な構成として、被処理体であるウエハWを収容する処理容器1と、処理容器1内でウエハWを載置する載置台2と、処理容器1内にガスを供給するガス供給装置18と、このガス供給装置18に接続するガス導入部15と、処理容器1内を減圧排気するための排気装置24と、処理容器1の上部に設けられ、処理容器1内にマイクロ波を導入してプラズマを生成するプラズマ生成手段としてのマイクロ波導入装置27と、これらプラズマ窒化処理装置100の各構成部を制御する制御部50と、を備えている。なお、ガス供給装置18は、プラズマ窒化処理装置100の構成部分には含めずに、外部のガス供給装置をガス導入部15に接続して使用する構成としてもよい。
【0031】
処理容器1は、接地された略円筒状の容器により形成されている。なお、処理容器1は角筒形状の容器により形成してもよい。処理容器1は、上部が開口しており、アルミニウム等の材質からなる底壁1aと側壁1bとを有している。
【0032】
処理容器1の内部には、被処理体であるウエハWを水平に載置するための載置台2が設けられている。載置台2は、例えばAlN、Al2O3等のセラミックスにより構成されている。その中でも特に熱伝導性の高い材質例えばAlNが好ましく用いられる。この載置台2は、排気室11の底部中央から上方に延びる円筒状の支持部材3により支持されている。支持部材3は、例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。
【0033】
また、載置台2には、その外縁部または全面をカバーし、かつウエハWをガイドするためのカバー部材4が設けられている。このカバー部材4は、環状に形成され、載置台2の載置面及び/または側面をカバーしている。カバー部材4によって、載置台2とプラズマの接触を遮断し、載置台2がスパッタリングされることを防止して、ウエハWへの不純物の混入防止を図ることができる。カバー部材4は、例えば石英、単結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン、SiN等の材質で構成され、これらの中でもプラズマとの相性がよい石英がもっとも好ましい。また、カバー部材4を構成する前記材質は、アルカリ金属、金属などの不純物の含有量が少ない高純度のものが好ましい。
【0034】
また、載置台2には、抵抗加熱型のヒータ5が埋め込まれている。このヒータ5は、ヒータ電源5aから給電されることにより載置台2を加熱して、その熱で被処理基板であるウエハWを均一に加熱する。
【0035】
また、載置台2には、熱電対(TC)6が配備されている。この熱電対6によって温度計測を行うことにより、ウエハWの加熱温度を例えば室温から900℃までの範囲で制御可能になっている。
【0036】
また、載置台2には、ウエハWを処理容器1内に搬入する際にウエハWの受け渡しに用いるウエハ支持ピン(図示せず)が設けられている。各ウエハ支持ピンは、載置台2の表面に対して突没可能に設けられている。
【0037】
さらに、載置台2には、ウエハWに対してバイアスを印加するためのバイアス印加手段が設けられている。このバイアス印加手段については後述する。
【0038】
処理容器1の内周には、石英からなる円筒状のライナー7が設けられている。また、載置台2の外周側には、処理容器1内で均一な排気を実現するため、多数の排気孔8aを有する石英製のバッフルプレート8が環状に設けられている。このバッフルプレート8は、複数の支柱9により支持されている。
【0039】
処理容器1の底壁1aの略中央部には、円形の開口部10が形成されている。底壁1aにはこの開口部10と連通し、下方に向けて突出する排気室11が設けられている。この排気室11には、排気管12が接続されており、この排気管12は排気装置24に接続されている。このようにして、処理容器1内を真空排気できるように構成されている。
【0040】
処理容器1の上部には、開口部を有するプレート13が配置されている。プレート13の内周は、内側(処理容器内空間)へ向けて突出し、環状の支持部13aを形成している。このプレート13と処理容器1との間は、シール部材14を介して気密にシールされている。
【0041】
処理容器1の側壁1bには、プラズマ窒化処理装置100と、これに隣接する搬送室(図示せず)との間で、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口16と、この搬入出口16を開閉するゲートバルブ17とが設けられている。
【0042】
また、処理容器1の側壁1bには、環状をなすガス導入部15が設けられている。このガス導入部15は、窒素含有ガスやプラズマ励起用ガスを供給するガス供給装置18に接続されている。なお、ガス導入部15はノズル状またはシャワー状に設けてもよい。
【0043】
ガス供給装置18は、ガス供給源(例えば不活性ガス供給源19aおよび窒素含有ガス供給源19bと、配管(例えば、ガスライン20a、20b、20c)と、流量制御装置(例えば、マスフローコントローラ21a、21b)と、バルブ(例えば、開閉バルブ22a,22b)とを有している。なお、ガス供給装置18は、上記以外の図示しないガス供給源として、例えば処理容器1内雰囲気を置換する際に用いるパージガス供給源等を有していてもよい。
【0044】
不活性ガスとしては、例えば希ガスなどを用いることができる。希ガスとしては、例えばArガス、Krガス、Xeガス、Heガスなどを用いることができる。これらの中でも、経済性に優れている点でArガスを用いることが特に好ましい。また、窒素含有ガスは、窒素原子を含有するガスであり、例えば窒素ガス(N2)、アンモニアガス(NH3)、NO、N2Oなどを用いることができる。
【0045】
不活性ガス、窒素含有ガスは、ガス供給装置18の不活性ガス供給源19aおよび窒素含有ガス供給源19bから、それぞれガスライン(配管)20a,20bを介してガスライン20cに合流し、このガスライン20cに接続されたガス導入部15に至り、ガス導入部15から処理容器1内に導入される。各ガス供給源に接続する各々のガスライン20a,20bには、それぞれマスフローコントローラ21a,21bおよびその前後に配備された一組の開閉バルブ22a,22bが設けられている。このようなガス供給装置18の構成により、供給されるガスの切替えや流量等の制御が出来るようになっている。
【0046】
排気装置24は、例えばターボ分子ポンプなどの高速真空ポンプを備えている。前記のように、排気装置24は、排気管12を介して処理容器1の排気室11に接続されている。処理容器1内のガスは、排気室11の空間11a内へ均一に流れ、さらに空間11aから排気装置24を作動させることにより、排気管12を介して外部へ排気される。これにより、処理容器1内を所定の真空度、例えば0.133Paまで高速に減圧することが可能となっている。
【0047】
次に、マイクロ波導入装置27の構成について説明する。マイクロ波導入装置27は、主要な構成として、透過板28、平面アンテナ31、遅波材33、カバー部材34、導波管37、マッチング回路38およびマイクロ波発生装置39を備えている。マイクロ波導入装置27は、処理容器1内に電磁波(マイクロ波)を導入してプラズマを生成させるプラズマ生成手段である。
【0048】
透過板28は、プレート13において内周側に突出した支持部13a上に配備されている。マイクロ波を透過させる透過板28は、誘電体、例えば石英やAl2O3、AlN等のセラミックス等の部材で構成されている。この透過板28と支持部13aとの間は、Oリング等のシール部材29を介して気密にシールされている。したがって、処理容器1内は気密に保持される。
【0049】
平面アンテナ31は、透過板28の上方(処理容器1の外側)において、載置台2と対向するように設けられている。平面アンテナ31は、円板状をなしている。なお、平面アンテナ31の形状は、円板状に限らず、例えば四角板状でもよい。この平面アンテナ31は、プレート13の上端に係止されている。
【0050】
平面アンテナ31は、例えば表面が金または銀メッキされた銅板、アルミニウム板、ニッケル板およびそれらの合金などの導電性部材で構成されている。平面アンテナ31は、マイクロ波を放射する多数のスロット状のマイクロ波放射孔32を有している。マイクロ波放射孔32は、所定のパターンで平面アンテナ31を貫通して形成されている。
【0051】
個々のマイクロ波放射孔32は、例えば図5に示すように、細長い長方形状(スロット状)をなしている。そして、典型的には隣接するマイクロ波放射孔32が「L」字状に配置されている。また、このように所定の形状(例えばL字状)に組み合わせて配置されたマイクロ波放射孔32は、さらに全体として同心円状に配置されている。
【0052】
マイクロ波放射孔32の長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λg)に応じて決定される。例えば、マイクロ波放射孔32の間隔は、λg/4〜λgとなるように配置される。図5においては、同心円状に形成された隣接するマイクロ波放射孔32どうしの間隔をΔrで示している。なお、マイクロ波放射孔32の形状は、円形状、円弧状等の他の形状であってもよい。さらに、マイクロ波放射孔32の配置形態は特に限定されず、同心円状のほか、例えば、螺旋状、放射状等に配置することもできる。
【0053】
平面アンテナ31の上面(平面アンテナ31とカバー部材34との間で形成される偏平導波管)には、真空よりも大きい誘電率を有する遅波材33が設けられている。この遅波材33は、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。遅波材33の材質としては、例えば石英、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。
【0054】
なお、平面アンテナ31と透過板28との間、また、遅波材33と平面アンテナ31との間は、それぞれ接触させても離間させてもよいが、接触させることが好ましい。
【0055】
処理容器1の上部には、これら平面アンテナ31および遅波材33を覆うように、カバー部材34が設けられている。カバー部材34は、例えばアルミニウムやステンレス鋼等の金属材料によって構成されている。カバー部材34と平面アンテナ31によって、偏平導波路が形成され、マイクロ波を処理容器1内に均一に供給できるようになっている。プレート13の上端とカバー部材34とは、シール部材35によりシールされている。また、カバー部材34の壁体の内部には、冷却水流路34aが形成されている。この冷却水流路34aに冷却水を通流させることにより、カバー部材34、遅波材33、平面アンテナ31および透過板28を冷却できるようになっている。なお、カバー部材34は接地されている。
【0056】
カバー部材34の上壁(天井部)の中央には、開口部36が形成されており、この開口部36には導波管37が接続されている。導波管37の他端側には、マッチング回路38を介してマイクロ波を発生するマイクロ波発生装置39が接続されている。
【0057】
導波管37は、上記カバー部材34の開口部36から上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、この同軸導波管37aの上端部にモード変換器40を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管37bとを有している。モード変換器40は、矩形導波管37b内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。
【0058】
同軸導波管37aの中心には内導体41が延在している。この内導体41は、その下端部において平面アンテナ31の中心に接続固定されている。このような構造により、マイクロ波は、同軸導波管37aの内導体41を介して平面アンテナ31により形成される偏平導波路へ放射状に効率よく均一に伝播される。
【0059】
以上のような構成のマイクロ波導入装置27により、マイクロ波発生装置39で発生したマイクロ波が導波管37を介して平面アンテナ31へ伝搬され、さらにマイクロ波放射孔32(スロット)から透過板28を介して処理容器1内に導入されるようになっている。なお、マイクロ波の周波数としては、例えば2.45GHzが好ましく用いられ、他に8.35GHz、1.98GHz等を用いることもできる。
【0060】
次に、載置台2にバイアスを印加するバイアス印加手段について説明する。載置台2の表面側には電極42が埋設されている。この電極42には、給電線42aによって、マッチングボックス(M.B.)43を介してバイアス印加用の高周波電源44が接続されている。つまり、電極42に高周波電力を供給することによって、基板であるウエハWにバイアスを印加できる構成となっている。電極42、給電線42a、マッチングボックス(M.B.)43及び高周波電源44は、プラズマ窒化処理装置100においてバイアス印加手段を構成している。電極42の材質としては、例えばモリブデン、タングステンなどの導電性材料を用いることができる。電極42は、例えば網目状、格子状、渦巻き状等の形状に形成されている。
【0061】
プラズマ窒化処理装置100の各構成部は、制御部50に接続されて制御される構成となっている。制御部50は、典型的にはコンピュータであり、例えば図6に示したように、CPUを備えたプロセスコントローラ51と、このプロセスコントローラ51に接続されたユーザーインターフェース52および記憶部53を備えている。プロセスコントローラ51は、プラズマ窒化処理装置100において、例えば温度、圧力、ガス流量、マイクロ波出力、バイアス印加用の高周波電力などのプロセス条件に関係する各構成部(例えば、ヒータ電源5a、ガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、高周波電源44など)を統括して制御する制御手段である。
【0062】
ユーザーインターフェース52は、工程管理者がプラズマ窒化処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ窒化処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有している。また、記憶部53には、プラズマ窒化処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピなどが保存されている。
【0063】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて任意のレシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51による制御のもとでプラズマ窒化処理装置100の処理容器1内で所望の処理が行われる。また、前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ、DVD、ブルーレイディスクなどに格納された状態のものを利用できる。さらに、前記レシピを他の装置から例えば専用回線を介して伝送させて利用することも可能である。
【0064】
このように構成されたプラズマ窒化処理装置100では、600℃以下例えば室温(25℃程度)以上600℃以下の低温で下地膜や基板(ウエハW)等へのダメージフリーなプラズマ処理を行うことができる。また、プラズマ窒化処理装置100は、プラズマの均一性に優れていることから、大口径のウエハW(被処理体)に対してもプロセスの均一性を実現できる。
【0065】
次に、RLSA方式のプラズマ窒化処理装置100を用いた選択的プラズマ窒化処理の手順について説明する。まず、ゲートバルブ17を開にして搬入出口16からウエハWを処理容器1内に搬入し、載置台2上に載置する。このウエハWは、シリコン層とシリコン化合物層(例えばSiO2層)を有し、それぞれの表面が露出している(図1参照)。次に、処理容器1内を減圧排気しながら、ガス供給装置18の不活性ガス供給源19aおよび窒素含有ガス供給源19bから、不活性ガスおよび窒素含有ガスを所定の流量でそれぞれガス導入部15を介して処理容器1内に導入する。このようにして、処理容器1内を所定の圧力に調節する。
【0066】
次に、マイクロ波発生装置39で発生させた所定周波数例えば2.45GHzのマイクロ波を、マッチング回路38を介して導波管37に導く。導波管37に導かれたマイクロ波は、矩形導波管37bおよび同軸導波管37aを順次通過し、内導体41を介して平面アンテナ31に供給される。つまり、マイクロ波は、矩形導波管37b内ではTEモードで伝搬し、このTEモードのマイクロ波はモード変換器40でTEMモードに変換されて、同軸導波管37a内を平面アンテナ31に向けて伝搬されていく。そして、マイクロ波は、平面アンテナ31に貫通形成されたスロット状のマイクロ波放射孔32から透過板28を介して処理容器1内においてウエハWの上方空間に放射される。この際のマイクロ波出力は、例えばパワー密度として0.255〜2.55W/cm2の範囲内から選択することができる。
【0067】
平面アンテナ31から透過板28を経て処理容器1内に放射されたマイクロ波により、処理容器1内で電磁界が形成され、不活性ガスおよび窒素含有ガス等の処理ガスをプラズマ化する。プラズマ窒化処理を行なっている間、載置台2の電極42に高周波電源44から所定の周波数およびパワーの高周波電力を供給する。この高周波電源44から供給される高周波電力によってウエハWへバイアスが印加され、プラズマの低い電子温度(0.7〜2eV)を維持しつつ、プラズマ窒化処理が促進される。すなわち、バイアスは、プラズマ中の窒素イオンをウエハWへ引き込むように作用するため、シリコンの窒化レートを増大させるように作用する。
【0068】
また、本発明で用いるマイクロ波励起プラズマは、マイクロ波が平面アンテナ31の多数のマイクロ波放射孔32から放射されることにより、略1×1010〜5×1012/cm3の高密度で、かつウエハW近傍では、略1.2eV以下の低電子温度プラズマとなる。なお、低圧条件(例えば20Pa以下)では、イオン成分主体のプラズマが生成され、かつ、粒子衝突も少ないので、基板(ウエハW)に例えば100〜200Vの電圧でバイアスを印加すると、イオンが加速されてイオンエネルギーが高くなり、基板(ウエハW)へのダメージが発生する場合がある。しかし、高圧条件(例えば66.7Pa以上)では、ラジカル成分主体のプラズマが生成され、かつ、粒子間衝突が多くなるので、イオンエネルギーが衝突により減衰してバイアスを印加しても基板(ウエハW)へのダメージはほとんど生じない。
【0069】
<プラズマ窒化処理条件>
ここで、プラズマ窒化処理装置100において行なわれる選択的プラズマ窒化処理の好ましい条件について説明を行う。本発明の選択的プラズマ処理では、(1)処理圧力、(2)ウエハWに印加するバイアスの大きさ、及び、(3)処理時間が重要であり、これらのバランスを考慮することによって、高いSi/SiO2選択比と、高窒化レートと、高ドーズ量を実現できる。
【0070】
[処理圧力]
処理圧力は、Si/SiO2選択比を高める観点から、66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定することが好ましく、66.7Pa以上133Pa以下の範囲内がより好ましい。処理圧力が66.7Pa未満では、Si/SiO2選択比が十分に得られない。一方、処理圧力が667Paを超えると、窒化力が弱まり、バイアスを印加しても十分な窒化レートと窒素ドーズ量が得られ難くなる。
【0071】
[高周波バイアス電圧]
高周波電源44から供給する高周波電力の周波数は、例えば400kHz以上60MHz以下の範囲内が好ましく、400kHz以上13.5MHz以下の範囲内がより好ましい。高周波電力は、ウエハWの面積当たりのパワー密度として例えば0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の範囲内で供給することが好ましく、0.4W/cm2以上1.2W/cm2以下の範囲内で供給することがより好ましい。パワー密度が0.1W/cm2未満では、イオンの引き込み力が弱く、高窒化レート及び高ドーズ量が得られない。一方、パワー密度が1.2W/cm2超では、Si/SiO2選択比が低下してしまう。また、高周波電力は100W以上が好ましく、例えば100W以上1000W以下の範囲内がより好ましく、300W以上1000W以下の範囲内が望ましい。このような高周波電力の範囲から、上記パワー密度になるように設定すればよい。
【0072】
このように、載置台2の電極42に供給された高周波電力は、プラズマの低い電子温度を維持しつつ、プラズマ中のイオン種をウエハWへ引き込む作用を有している。従って、載置台2の電極42に高周波電力を供給してウエハWにバイアスを印加することにより、プラズマ窒化レートと窒素ドーズ量を向上させることができる。また、本実施の形態で用いるプラズマ窒化処理装置100では、低電子温度のプラズマを生成できる上、高圧(例えば66.7Pa以上)ではウエハWへバイアスを印加してもイオン等によるダメージがほとんど生じず、低温かつ短時間、高い窒素ドーズ量かつ高いSi/SiO2選択比で、良質なシリコン窒化膜を形成することが出来る。
【0073】
[処理時間]
処理時間は、成膜するシリコン窒化膜70の厚み、処理圧力やバイアスの大きさ等の他のプラズマ処理条件に応じて設定できるが、180秒以下、例えば10秒以上180秒以下に設定することが好ましく、10秒以上90秒以下に設定することがより好ましい。処理時間が長くなると、窒素ドーズ量は処理時間に比例して大きくなるが、Si/SiO2選択比は低下していく。従って、Si/SiO2選択比を高く維持するためには、所望の膜厚が得られる範囲で、出来るだけ処理時間を短く設定することが好ましい。
【0074】
プラズマ処理条件としては、上記以外に、例えば、処理ガスの種類と流量比率、マイクロ波パワー、処理温度等も重要であるが、本発明方法において、これらの条件は副次的に関与するに過ぎないため、一般的な条件を採用することができる。
【0075】
[処理ガス]
処理ガスとしては、希ガスとしてArガスを、窒素含有ガスとしてN2ガスをそれぞれ使用することが好ましい。このとき、全処理ガス中に含まれるN2ガスの流量比率(体積比率)は、特に限定する意味ではないが、窒化レートを高め、窒素ドーズ量を十分に大きくする観点から、10%以上70%以下の範囲内が好ましく、17%以上60%以下の範囲内がより好ましい。例えば300mm径のウエハWを処理する場合には、Arガスの流量は10mL/min(sccm)以上2000mL/min(sccm)以下の範囲内、N2ガスの流量は1mL/min(sccm)以上1400mL/min(sccm)以下の範囲内から、上記流量比になるように設定することができる。
【0076】
[マイクロ波パワー]
プラズマ窒化処理におけるマイクロ波のパワー密度は、安定かつ均一にプラズマを生成させるとともに、窒素ドーズ量とSi/SiO2選択比をより向上させる観点から、0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。なお、本発明においてマイクロ波のパワー密度は、透過板28の面積1cm2あたりのマイクロ波パワーを意味する。また、例えば300mm径以上のウエハWを処理する場合には、マイクロ波パワーを500W以上5000W未満の範囲内とすることが好ましく、1000W以上4000W以下とすることがより好ましい。
【0077】
[処理温度]
処理温度(ウエハWの加熱温度)は、窒素ドーズ量をより向上させる観点から、載置台2の温度として、例えば室温(25℃程度)以上600℃以下の範囲内とすることが好ましく、200℃以上500℃以下の範囲内に設定することがより好ましく、400℃以上500℃以下の範囲内に設定することが望ましい。
【0078】
以上の処理条件は、制御部50の記憶部53にレシピとして保存しておくことができる。そして、プロセスコントローラ51がそのレシピを読み出してプラズマ窒化処理装置100の各構成部例えばガス供給装置18、排気装置24、マイクロ波発生装置39、ヒータ電源5a、高周波電源44などへ制御信号を送出することにより、所望の条件でのプラズマ窒化処理が実現する。
【0079】
以上のように、本実施の形態の選択的プラズマ窒化処理方法では、載置台2の電極42に高周波電力を供給してプラズマ中のNイオンをウエハWに引き込むことによって窒化速度を高めるとともに窒素ドーズ量を増加させることができる。また、処理圧力を66.7Pa以上に設定することによって、窒化処理の選択性を高め、シリコン表面を優勢的に窒化し、所望の膜厚で選択的にシリコン窒化膜を形成することができる。このように形成されたシリコン窒化膜は、例えば、半導体メモリ装置などの絶縁膜として適用可能である。
【0080】
次に、本発明の基礎となった実験結果について説明する。プラズマ窒化処理装置100を用い、下記の条件でシリコン基板上のSi表面及びSiO2表面に対してプラズマ窒化処理を行った。
【0081】
<条件>
処理圧力;20Pa、133Pa、400Pa
Arガス流量;1800mL/min(sccm)
N2ガス流量;560mL/min(sccm)
高周波電力の周波数:13.56MHz
高周波電力のパワー:0W(バイアス印加せず)、450W(パワー密度0.5W/cm2)、900W(パワー密度1.1W/cm2)、
マイクロ波の周波数:2.45GHz
マイクロ波パワー:1500W(パワー密度2.1W/cm2)
処理温度:500℃
処理時間:30秒、90秒、180秒
ウエハ径:300mm
【0082】
図7は、20Paと133Paの処理圧力でのSi/SiO2選択比とシリコンへの窒素ドーズ量との関係をプロットしたグラフである。図7のグラフの縦軸はSi/SiO2選択比を示しており、横軸は、シリコンへのドーズ量を示している。なお、「Si/SiO2選択比」は窒素ドーズ量を基準に算出しており、また、連結されたプロットは、図7において向かって左側から30秒、90秒、180秒の処理時間であることを示している。
【0083】
この図7に示されるように、20Paの低圧条件では、バイアスを印加しない場合のSi/SiO2選択比は1程度であり、バイアスを印加しても最大2程度のSi/SiO2選択比しか得られない。一方、処理圧力を133Paに設定すると、Si/SiO2選択比が大幅に改善されている。これは、圧力の上昇によって、イオンエネルギーが低下し、ラジカルが主体になるためである。しかし、圧力133Paでは、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)が20Paに比べて低く、バイアスを印加しない場合は、180秒の処理でも10×1015atoms/cm2を下回る値となっている。一方、圧力133Paでバイアスを印加することにより、バイアスの大きさに応じてプロットはグラフの右上方向にシフトしている。このことから、圧力制御に加えて、バイアスを印加することによってウエハWにイオンが引き込まれるので、Si/SiO2選択比を向上させながら、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)を大幅に改善できることが確認できた。
【0084】
図8〜13に、処理圧力、ウエハWに印加するバイアスの大きさ、及び、処理時間に関するさらに詳細なデータを示す。図8は、バイアスパワーが0W(印加せず)、450W、900Wのそれぞれにおける、Si/SiO2選択比の圧力依存性を示している。処理時間はいずれも30秒である。図8から、バイアスを印加しない場合、印加した場合のいずれにおいても、処理圧力が20Paでは十分なSi/SiO2選択比が得られなかった。しかし、処理圧力を高圧側(133Pa、400Pa)に設定することにより、Si/SiO2選択比が大幅に向上している。一方、図9は、図8と同様の条件における、シリコンへの窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)の圧力依存性を示している。図8とは逆に、バイアスを印加しない場合、印加した場合のいずれにおいても、処理圧力が高圧側になるほど、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)が低下している。しかし、バイアスを印加することによって、ウエハWにイオンが引き込まれ、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)が増加する方向へシフトしており、バイアスを印加しない場合に比べて高ドーズ量(あるいは高窒化レート)になっている。
【0085】
図10は、処理圧力が133Pa又は400Paにおける、Si/SiO2選択比のバイアスパワー依存性を示している。処理時間は30秒、90秒、180秒である。図10から、圧力133Paでは、バイアスパワーを0(印加しない場合)から450W、さらに900Wへ大きくしていくことにより、Si/SiO2選択比の改善が確認された。一方、圧力400Paでは、バイアスパワーが0(印加しない場合)のときがSi/SiO2選択比が最も高く、450WではSi/SiO2選択比が大きく低下しているが、900Wでは改善している。この結果から、バイアスパワーを大きくすることによってSi/SiO2選択比は改善する方向に向かうが、400Paを超えて処理圧力を高圧側に設定した場合では、バイアスの印加自体によってSi/SiO2選択比が大幅に低下することが予測された。従って、処理圧力は、Si/SiO2選択比を大きく低下させない範囲内で設定する必要があることが理解される。図11は、図10と同様の条件における、シリコンへの窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)のバイアスパワー依存性を示している。圧力133Pa、400Paの両方で、バイアスパワーを0(印加しない場合)から450W、さらに900Wへ大きくしていくことにより、シリコンへの窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)の向上が確認された。
【0086】
図12は、処理圧力133Pa又は400Paにおける、Si/SiO2選択比の処理時間依存性を示している。バイアスパワーは、450W、900Wである。図12から、処理圧力133Pa、400Paのいずれにおいても、処理時間が長くなるに従い、Si/SiO2選択比が低下していくことがわかる。一方、図13は、図12と同様の条件における、シリコンへの窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)の処理時間依存性を示している。図12とは逆に、処理圧力133Pa、400Paのいずれにおいても、処理時間が長くなるほど、窒素ドーズ量(あるいは窒化レート)が大きくなっている。
【0087】
本発明の選択的プラズマ窒化処理における処理圧力は、Si/SiO2選択比を高める観点から、66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定することが好ましく、66.7Pa以上133Pa以下の範囲内がより好ましい。また、高周波電力は100W以上が好ましく、例えば100W以上1500W以下の範囲内がより好ましく、300W以上1000W以下の範囲内が望ましい。処理時間は、成膜するシリコン窒化膜の厚み、処理圧力や高周波電力等の他のプラズマ処理条件に応じて設定できるが、例えば10秒以上180秒以下に設定することが好ましく、10秒以上90秒以下に設定することがより好ましい。
【0088】
次に、シリコンへの窒素ドーズ量の範囲について説明する。図14は、シリコンを窒化してシリコン窒化膜を形成した後に、酸化処理を行った場合の増膜量と、SiO2膜中の窒素ドーズ量との関係を示している。図14の縦軸は、光学膜厚の増膜量を示し、横軸は、厚さ6nmのSiO2膜における窒素ドーズ量を示している。シリコンを窒化処理することによって、その後、酸化処理を行う場合の増膜を抑制できるが、図14から窒素ドーズ量が10×1015atoms/cm2未満では、増膜の抑制効果が十分に得られていないことがわかる。従って、増膜のバリア性を持たせるためには、10×1015atoms/cm2以上の窒素ドーズ量が必要であることが理解される。
【0089】
上記窒素ドーズ量の範囲を踏まえ、再び図7を参照すると、バイアスを印加せずに圧力133Paでプラズマ窒化処理を行った場合、10×1015atoms/cm2以上の窒素ドーズ量は、図7中に破線で示すように、Si/SiO2選択比が2未満の範囲でしか得られていない。このことから、仮に、Si/SiO2選択比が2以上の範囲で、10×1015atoms/cm2以上の窒素ドーズ量が得られれば、バイアスを印加する効果(Si/SiO2選択比の向上と窒素ドーズ量の増加)が発揮されていることになる。従って、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法におけるSi/SiO2選択比の基準は2以上であり、4以上であることがより好ましい。
【0090】
本発明の選択的プラズマ窒化処理では、ウエハWにバイアスを印加することによって、ウエハWの面内における窒化処理の均一性を向上させる効果も有している。図15は、上記条件の処理圧力133Paにおいて、バイアスを印加した場合としない場合のシリコン窒化膜の厚みの面内均一性の測定結果を示している。図15の縦軸の「Range/2ave[%] on Si」は、シリコン上のシリコン窒化膜の[(膜厚の最大値−膜厚の最小値)/膜厚の平均値×2]の百分率を示し、横軸の「AVE Tnit[nm] on Si@RI=2]は、シリコン窒化膜の平均膜厚を示している。測定ポイントはウエハW上の49箇所である。
【0091】
図15から、バイアスを印加することによって、バイアスを印加しない場合に比べて、プラズマ窒化処理の面内均一性(つまり、ウエハW面内におけるシリコン窒化膜の膜厚の均一性)が大幅に改善していることが確認できた。これは、バイアスを印加することによって載置台2(ウエハW)の全域においてイオンの引き込みが強くなり、不均一なプラズマからでもウエハWの全面に十分なイオンを供給できるようになるためである。また、バイアスを印加することで、窒化レートが高くなり、シリコン窒化膜の膜厚も増加することも、均一性が改善した一つの要因であると考えられる。
【0092】
次に、図16を参照しながら、本発明の選択的プラズマ窒化処理のメカニズムについて説明する。図16は、Si表面およびSiO2表面をプラズマ窒化処理しているときの窒素ドーズ量とVdcとの相関関係を示している。ここで、横軸のVdcは、バイアス印加時の載置台2に載置されたウエハWの平均電位を意味する。図16において、破線で連結したSiO2表面の窒化のデータで処理圧力20Paと133Paとを比較すると、圧力差に起因して窒素ドーズ量に大きな差が見られるが、Vdcの絶対値が増加しても、SiO2への窒素ドーズ量はいずれの圧力でもそれほど増加していない。この原因として、圧力133Paでは、ラジカルが支配的なプラズマが生成し、かつイオンの他粒子との衝突の影響が大きいために、バイアスによってイオンエネルギーは増えないためであると考えられる。圧力20Paでは、粒子衝突が少ないため、バイアス印加によるエネルギー上昇があるが、あまりSiO2への窒素ドーズ量が増えていないのは、イオンが支配的なプラズマによってバイアスを印加しない(0W)の段階で既に高い窒素ドーズ量になっているためであり、高いエネルギーでも窒素ドーズ量の増加は緩やかになっている。
【0093】
一方、図16において、実線で連結したSiの窒化のデータでは、処理圧力20Paと133Paとを比較すると、圧力差による窒素ドーズ量の差よりも、Vdcの変化による窒素ドーズ量の変化量の方が大きく、Vdcの影響が支配的であることがわかる。これは、Si−Si結合の結合エネルギーが低いので、イオンエネルギーよりもバイアスの引き込み効果によるイオン密度の増大が窒素ドーズ量に影響するためであると考えられる。しかし、イオンが支配的なプラズマが生成する圧力20Paでは、元々Si表面およびSiO2表面への窒化レートが高いため、Si/SiO2選択比は小さくなっている。これに対して、ラジカルが支配的なプラズマを生成できる圧力133Paでは、Si/SiO2選択比を大きくとりながら、バイアスによって窒素ドーズ量も向上させることができている。以上の結果から、圧力133Paでバイアスを印加することによって、イオンエネルギーではなくイオン密度を高め、SiO2への窒素ドーズ量を増加させることなく、Siへの窒素ドーズ量及び窒化レートを向上させ得ることが理解される。
【0094】
次に、本発明の効果をさらに明確にするため、本発明の選択的プラズマ窒化処理方法を不揮発性メモリの製造工程に適用する場合を例に挙げて説明する。図17は、本発明方法を適用して製造可能なフラッシュメモリの概略構成を示す断面図である。このフラッシュメモリ200は、フローティングゲート電極とコントロールゲート電極の間に介在する層間容量膜として、ONO(酸化珪素膜−窒化珪素膜−酸化珪素膜)を挟み込むように、上部と下部を窒化した積層構造を有するものである。
【0095】
図17に示したように、シリコン基板201に例えばSTI(Shallow Trench Isolation)により凹部(トレンチ)が形成されており、その内部には、ライナー酸化珪素膜203を介して素子分離膜205が埋め込まれている。シリコン基板201の凸部の上(凹部と凹部の間)には、トンネル絶縁膜207を介して例えばポリシリコンからなるフローティングゲート電極209が形成されている。電荷を蓄積する部分であるフローティングゲート電極209は、内側から順に、第1の窒化珪素膜211、第1の酸化珪素膜213、第2の窒化珪素膜215、第2の酸化珪素膜217および第3の窒化珪素膜219の5層の絶縁膜からなる層間容量膜221によって覆われている。そして、層間容量膜221の上には例えばポリシリコンからなるコントロールゲート電極223が形成され、フラッシュメモリ200が構成されている。
【0096】
本発明の選択的プラズマ窒化処理方法は、例えば第1の窒化珪素膜211の形成工程に適用できる。図17から明らかなように、第1の窒化珪素膜211は、フローティングゲート電極209の表面を覆うように形成されているが、素子分離膜205上には形成されていない。かかる構造により、フラッシュメモリ200では、隣接するセル間での干渉、具体的には電子の移動を抑制することができ、優れたデータ保持特性を奏することができる。
【0097】
図18は、本発明の選択的プラズマ窒化処理の対象となる、フラッシュメモリ200の製造途中におけるウエハWの要部の断面構造を示している。シリコン基板201には、トンネル絶縁膜207を介してポリシリコンを主成分とするフローティングゲート電極209が形成されている。トンネル絶縁膜207およびフローティングゲート電極209は、既知の成膜処理、フォトリソグラフィー技術およびエッチング処理によって形成できる。シリコン基板201の凹部の内面には、ライナー酸化珪素膜203が形成されているとともに、このライナー酸化珪素膜203を介して素子分離膜205が埋め込まれている。素子分離膜205は、フラッシュメモリメモリ200においてアクティブ領域とフィールド領域とを画定している。素子分離膜205は、例えばHDP−CVD(High Density Plasma Chemical Vapor Deposition)法や、SOG(Spin−On−Glass)法により二酸化珪素(SiO2)膜を形成した後、希フッ酸などを用いてウエットエッチングし、エッチバックすることにより形成されている。
【0098】
図18の状態のウエハW(シリコン基板201)のフローティングゲート電極209のポリシリコンに対して選択プラズマ窒化処理を行う。選択的プラズマ窒化処理は、上述の条件で行うことができる。図19は、選択的プラズマ窒化処理によって、窒素含有層212a,212bが形成された状態を示している。ポリシリコンを主成分とするフローティングゲート電極209の表面には、窒化珪素(SiN)からなる窒素含有層212aが形成される。一方、二酸化珪素(SiO2)からなる素子分離膜205の表面には、Si/SiO2選択比が同じであるならば、破線で示すように、窒素含有層212aと同じ厚みで窒化酸化珪素(SiON)からなる窒素含有層212bが形成されるはずである。しかし、選択的プラズマ窒化処理によって、窒素含有層212bは殆んど形成されない。また、このように素子分離膜205表面に形成された窒化酸化珪素(SiON)からなる窒素含有層212bは、例えば希フッ酸を用いてウエットエッチングを行うことによって容易に除去できる。残存した窒素含有層212aは、フラッシュメモリ200において層間容量膜221の一部分を構成する第1の窒化珪素膜211となる(図17参照)。
【0099】
以降の工程は、常法に従い行うことができる。すなわち、第1の窒化珪素膜211の上に、第1の酸化珪素膜213、第2の窒化珪素膜215、第2の酸化珪素膜217および第3の窒化珪素膜219を順次積層し、層間容量膜221を形成する。そして、第3の窒化珪素膜219の上に、CVD法などによりコントロールゲート電極223を形成することにより、図17に示した構造のフラッシュメモリ200を製造できる。
【0100】
次に、本発明方法を一部の工程に適用して製造したフラッシュメモリ200の長所について、従来の方法により製造されたフラッシュメモリとの対比により説明する。図20は、従来の方法により製造されたフラッシュメモリ300の構造を模式的に示している。フラッシュメモリ300では、(選択的でない)プラズマ窒化処理によって、フローティングゲート電極209表面の窒素含有層212a(図17の第1の窒化珪素膜211に相当する)に連続して、素子分離膜205の表面に、窒化酸化珪素(SiON)からなる窒素含有層212bが形成されている。つまり、層間容量膜221aは窒素含有層212bを有している点で、図17に示したフラッシュメモリ200と相違している。なお、図20に示したフラッシュメモリ300において、図17示したフラッシュメモリ200と同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0101】
不必要な窒素含有層212b(窒化酸化珪素膜)は、電子の移動経路となって隣接するセル間で干渉を生じさせ、フラッシュメモリ300のデータ保持特性を低下させる。すなわち、フラッシュメモリ300の隣接するセルで書込み状態が異なる場合(つまり、write0または1)に、フローティングゲート電極209に電荷が注入されたセルから、フローティングゲート電極209に電荷が注入されていない隣接するセルへ向け、素子分離膜205に接する窒素含有層212bを介して電子が移動し、データ保持特性が低下してしまう。例えば、図20では、素子分離膜205により隔てられた二つのセルのうち、片方(紙面に向かって左側)のセルのフローティングゲート電極209に電子が注入された書き込み状態(write;1)とし、他方(紙面に向かって右側)のセルのフローティングゲート電極209は、電子が注入されていない消去状態(write;0)である。この状態で長時間放置すると、図20に矢印で示したように、素子分離膜205と第1の酸化珪素膜213との間に形成されている窒素含有層212bを介して電子が書き込み状態のセルから消去状態のセルへ向けて流れ、書き込み状態(write;1)のセルのしきい値電圧を変化させるとともに、データ保持特性を低下させてしまう。フローティングゲート電極209とコントロールゲート電極223との間には、バリアハイトが大きな層間容量膜221aが介在するため、層間容量膜221aを突き抜ける方向への電子の漏洩は生じ難い。それに対して、選択的でないプラズマ窒化処理により形成された、フローティングゲート電極209に接する窒素含有層212bは、比較的エネルギーバンドギャップが小さくバリアハイトが低いため、フローティングゲート電極209から窒素含有層212b中に僅かではあるが電子が漏洩する。そして、窒素含有層212b中の欠陥を伝わって隣接するセルへ電子が移動していくものと考えられる。
【0102】
一方、本発明方法を適用して製造されたフラッシュメモリ200(図17)では、選択的なプラズマ窒化処理によって、素子分離膜205上の窒素含有層(図19の符号212b)がほとんど形成されないか、形成されてもエッチングによって容易に除去できるため、第1の窒化珪素膜211をフローティングゲート電極209の周囲で終端させている。それ故、素子分離膜205上の窒素含有層に沿った電子の移動が遮断され、隣接するセル間での干渉が防止される。
【0103】
以上のように、本発明方法をフラッシュメモリ200の製造過程に適用することによって、隣接セル間での干渉を防止してフラッシュメモリ200に優れたデータ保持特性を与え、その信頼性を向上させる効果が得られる。
【0104】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。例えば、上記実施の形態では、RLSA方式のプラズマ窒化処理装置100を使用したが、他の方式のプラズマ処理装置を用いてもよく、例えば電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ、マグネトロンプラズマ、表面波プラズマ(SWP)等の方式のプラズマ処理装置を利用してもよい。
【0105】
また、本発明方法の適用例では、層間容量膜221としてONOの上部と下部を窒化した積層構造を有するフラッシュメモリ素子200を例示したが、あくまでも例示であり、他の構成、例えば内側(フローティングゲート電極側)からNONOとなる構造のフラッシュメモリの製造や、Si及びSiO2の露出面を有して選択的な窒化処理が必要な半導体製造装置の製造過程でも、同様に本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0106】
1…処理容器、2…載置台、3…支持部材、5…ヒータ、12…排気管、15…ガス導入部、16…搬入出口、17…ゲートバルブ、18…ガス供給装置、19a…不活性ガス供給源、19b…窒素含有ガス供給源、24…排気装置、28…透過板、29…シール部材、31…平面アンテナ、32…マイクロ波放射孔、37…導波管、37a…同軸導波管、37b…矩形導波管、39…マイクロ波発生装置、44…高周波電源、50…制御部、51…プロセスコントローラ、52…ユーザーインターフェース、53…記憶部、60…シリコン層、61…SiO2層、70…シリコン窒化膜、100…プラズマ窒化処理装置、W…ウエハ(半導体基板)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体をプラズマ処理装置の処理容器内で載置台に載置し、
前記処理容器内の圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、
前記載置台に前記被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の出力で高周波電力を供給して被処理体にバイアス電圧を印加しながら窒素含有プラズマを生成させ、
前記窒素含有プラズマによって前記シリコン表面を選択的に窒化処理し、シリコン窒化膜を形成する、
選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項2】
前記シリコン化合物層がシリコン酸化膜である請求項1に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項3】
前記シリコン表面と前記シリコン酸化膜の窒化の選択比(シリコン表面/シリコン酸化膜表面)が2以上である請求項2に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項4】
前記処理容器内の圧力を133Pa以上400Pa以下の範囲内に設定して行う請求項1から3のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項5】
前記高周波電力の周波数が、400kHz以上60MHz以下の範囲内である請求項1から4のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項6】
処理時間が10秒以上180秒以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項7】
処理時間が10秒以上90秒以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項8】
前記窒素含有プラズマは、前記処理ガスと、複数のスロットを有する平面アンテナにより前記処理容器内に導入されるマイクロ波と、によって形成されるマイクロ波励起プラズマである請求項1から7のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項9】
前記マイクロ波のパワー密度が、被処理体の面積あたり0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内である請求項1から8のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項10】
処理温度が、室温以上600℃以下の範囲内である請求項1から9のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項11】
プラズマを用いて、シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体を処理する処理容器と、
前記処理容器内を減圧排気する排気装置と、
前記処理容器内にプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台と、
前記載置台に接続された高周波電源と、
前記処理容器内の圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、前記載置台に前記被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の出力で高周波電力を供給して被処理体にバイアス電圧を印加しながら窒素含有プラズマを生成させ、前記窒素含有プラズマによって前記シリコン表面を選択的に窒化処理し、シリコン窒化膜を形成する選択的プラズマ窒化処理方法が行われるように制御する制御部と、
を備えたプラズマ窒化処理装置。
【請求項1】
シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体をプラズマ処理装置の処理容器内で載置台に載置し、
前記処理容器内の圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、
前記載置台に前記被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の出力で高周波電力を供給して被処理体にバイアス電圧を印加しながら窒素含有プラズマを生成させ、
前記窒素含有プラズマによって前記シリコン表面を選択的に窒化処理し、シリコン窒化膜を形成する、
選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項2】
前記シリコン化合物層がシリコン酸化膜である請求項1に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項3】
前記シリコン表面と前記シリコン酸化膜の窒化の選択比(シリコン表面/シリコン酸化膜表面)が2以上である請求項2に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項4】
前記処理容器内の圧力を133Pa以上400Pa以下の範囲内に設定して行う請求項1から3のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項5】
前記高周波電力の周波数が、400kHz以上60MHz以下の範囲内である請求項1から4のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項6】
処理時間が10秒以上180秒以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項7】
処理時間が10秒以上90秒以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項8】
前記窒素含有プラズマは、前記処理ガスと、複数のスロットを有する平面アンテナにより前記処理容器内に導入されるマイクロ波と、によって形成されるマイクロ波励起プラズマである請求項1から7のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項9】
前記マイクロ波のパワー密度が、被処理体の面積あたり0.255W/cm2以上2.55W/cm2以下の範囲内である請求項1から8のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項10】
処理温度が、室温以上600℃以下の範囲内である請求項1から9のいずれか1項に記載の選択的プラズマ窒化処理方法。
【請求項11】
プラズマを用いて、シリコン表面とシリコン化合物層とが露出した被処理体を処理する処理容器と、
前記処理容器内を減圧排気する排気装置と、
前記処理容器内にプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、
前記処理容器内で被処理体を載置する載置台と、
前記載置台に接続された高周波電源と、
前記処理容器内の圧力を66.7Pa以上667Pa以下の範囲内に設定し、前記載置台に前記被処理体の面積当り0.1W/cm2以上1.2W/cm2以下の出力で高周波電力を供給して被処理体にバイアス電圧を印加しながら窒素含有プラズマを生成させ、前記窒素含有プラズマによって前記シリコン表面を選択的に窒化処理し、シリコン窒化膜を形成する選択的プラズマ窒化処理方法が行われるように制御する制御部と、
を備えたプラズマ窒化処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−77321(P2011−77321A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227637(P2009−227637)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】
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